説明

高い耐摩耗性を有する高表面積埋め込みコーティングの製造プロセス

本発明のプロセスは、超疎水性の表面の耐久性を著しく増加させると共に、元の表面の光学的性質と同様の光学的性質を保持する。前記プロセスは、形成されたばかりのナノ粒子および超微粒子を、速度および熱によって基板に部分的に埋め込んで化学結合させることで、強く結合されたナノ〜サブミクロンの表面組織を生じる。このナノ表面構造は、所望の表面特性(例えば疎水性、疎油性、親水性など)を有するように改良できる。このプロセスによって製造されるコーティングのうち高い位置にあるものは、残りの表面を摩滅から保護するので、多くの用途で製品寿命を非常に増加させる。好ましい実施形態において、前記プロセスは、車両のフロントガラスをコーティングするために用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い耐摩耗性を有する高表面積埋め込みコーティングの製造プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス、セラミック、プラスチックおよび金属の表面の自己洗浄性の特性は、エネルギー使用量の大規模な節約につながり得るので、このような表面上の自己洗浄性コーティングに関する研究開発が近年増加してきている。UV照明によって生成されるTiO薄膜によって、超親水性、防曇性かつ自己洗浄性のコーティングが首尾よく実証されたが、さまざまな工業製品には、超親水性よりもむしろ超疎水性が要求される(Nakajimaら,Chem.Monthly 132,31(2001),Nakajimaら,Adv.Mater.11,1365(1999))。超疎水性の表面上では、固体と水との間の接触面積が制限され、それによって表面への化学的結合または機械的結合が制限される。したがって、このような表面上において、雪の付着、酸化および電流伝導などのさまざまな現象の抑制が期待される(Nakajimaら,Chem.Monthly 132,31(2001),Nakajimaら,Adv.Mater.11,1365(1999),Yoshimitsuら,Langmuir 18,5818(2002))。
【0003】
超疎水性の表面上では、水滴は、散開せずにビーズ状になり、非常に低い湿潤性を示す。接触角によって特徴づけられる固体面の湿潤性は、物質の特性であり、表面エネルギーおよび表面形状に強く依存する。Nishinoの研究によると、これまでに記録された最も低い表面エネルギーは、約6.7mJ/mであり、規則正しく配置されて六方最密充填されたCF基を有する表面から得られたものである(Langmuir 15,4321−4323(1999))。これに対応する水接触角は約120度であったが、この接触角は、超疎水性の表面を形成するには不十分である。
【0004】
多数の理論的研究および実験的研究から、疎水性の表面上の表面粗さを増加させると、疎水性が増加する、すなわち固体表面上の水接触角が増加するということが示されている。表面ミクロ構造、表面粗さ、および撥水性(水接触角および転がり角)の関係は、多くの研究者によって研究されている(例えば、Nakajimaら,Chem.Monthly 132,31(2001),Nakajimaら,Adv.Mater.11,1365(1999),Yoshimitsuら,Langmuir 18,5818(2002),Patankar,Langmuir 20,8209(2004),Marmur,Langmuir 20,3517(2004),Patankar,Langmuir 20,7097(2004),Duparreら,Appl.Optics 41,3294(2002),Bicoら,Europhys.Lett.47,220(1999),Chenら,Langmuir, 15,3395(1999),Miwaら,Langmuir 16,5754(2000),Oner&McCarthy,Langmuir 16,7777(2000),Patankar,Langmuir 19,1249(2003),Heら,Langmuir 19,4999(2003),Lafuma&Quere,Nat.Mater.2,457(2003),Quereら,Nanotechnology 14,1109(2003),Nashinoら,Langmuir 15,4321(1999),Wenzel,J.Phys.Chem.53,1466(1949),Cassie,Discuss.Faraday Soc.3,11(1948),Heら,Colloids and Surfaces A:Physicochem.Eng.Aspects 248,101(2004),Roura&Fort,Langmuir 18,566(2002),Furmidge,J.Colloid Sci.17,309(1962),Johnson Jr.&Dettre,Adv.Chem.Ser.43,112(1963),Barthlott&Neinhuis,Planta 202,1(1997),Fengら,Adv.Mater.14,1857(2002),Otten&Herminghaus,Langmuir 20,2405(2004))。粗い表面上の湿潤挙動を説明するために、Wenzel(Nakajimaら、Chem.Monthly 132,31(2001),Wenzel,J.Phys.Chem.53,1466(1949))が提案したモデルは、このような表面上における見かけの水接触角θを算出するものであり、表面上で水滴が溝を湿潤させるものである。
【数1】

ここで、rは、幾何学的な投影面積に対する粗い表面の実面積の比率として定義される、粗さ係数である。rは、均一性よりも常に大きいので、Wenzel方式において、表面の粗さは、親水性表面の親水性および疎水性表面の疎水性をいずれも高める。この場合、粗い表面の疎水性は、固体と液体との接触面積の増加によって増幅される(Yoshimitsuら,Langmuir 18,5818(2002))。
【0005】
水滴と粗い表面との間に固体と空気とからなる複合材界面が形成される、粗い表面のピーク上に水滴がある場合について、Cassie(Nakajimaら,Chem.Monthly 132,31(2001),Cassie,Discuss.Faraday Soc.3,11(1948))は、空気について水接触角を180度とみなして、見かけの接触角θ)を説明する方程式を提案した。
【数2】

ここで、fは、固体液体界面の面積部分として定義される。Cassie方式において、粗い表面の疎水性は、固体と液体との接触面積の減少によって増幅される(Yoshimitsuら,Langmuir 18,5818(2002))。
【0006】
超疎水性の表面を得るためには、特に無機物質について、低表面エネルギー物質によるコーティングが必要とされることが多い。表面エネルギーを下げる化学的方法に関しては、フッ素が最も有効な元素である。なぜなら、フッ素は、原子半径が小さく、すべての原子のなかでも最も高い電気陰性度を有するので、炭素と安定共有結合を形成し、低表面エネルギーを有する表面をもたらすからである。フッ素を他の元素(例えばHおよびC)に置換すると、−CF<−CFH<−CF−<−CH<−CH−の順序で、表面エネルギーが増加することが報告されている。表面上の−CF基の六方最密充填により、物質の最低表面エネルギーが得られる(Shangら、Thin Solid Film 472,37(2005))。無機/有機粒子で満たされたコーティングは、それぞれ140度の水前進接触角および130度の水後退接触角を生じた。
【0007】
Gouldが言及するように、ハスの葉の形態を模倣した薄膜を生産するために、いわゆる「ハスのスプレー」プロセスがBASFによって開発され、自己洗浄性の薄膜を直接蒸着させるために、シリカまたはアルミナのナノ粒子と、疎水性ポリマーと、推進剤ガスとの混合物が用いられた。この技術を用いて、試作製品が実証された。水をはじくポリマーベースの超疎水性表面を製造する他の技術としては、ニッケル主構造体に対するUV硬化物質のマイクロ複製(Lafuma&Quere,Nat.Mater.2,457(2003),Quereら,Nanotechnology 14,1109(2003))、二量体の固体化(Ondaら,Langmuir12,2125(1996))、およびオリゴマーを用いた複合材被覆基板(Kunugiら,Electroanal.Chem.353,209(1993))が挙げられる。
【0008】
引用された結果に基づくと、さまざまな技術によって超疎水性表面が首尾よく作られているが、これらのポリマーコーティングの多くは、ハスの葉表面の疎水性のわずか約50%である。また、これらのコーティングのほとんどは、光沢および透明度を失う。このような低い透明度は、大きな窓、自動車および太陽電池の市場を含む多くの用途に適していない。最も重要な点は、これらのポリマーコーティングは、基板に対する接着力が弱く、容易に摩滅し得ることである。
【0009】
化学的蒸着法(CVD)は、ナノ構造の超疎水性の自己洗浄性のある表面を調製するために用いられる別の一般的な技術である(Hozumi&Takai,Thin Solid Films 303,222(1997),Wuら,Surface and Coatings Tech.174−175,867(2003),Shangら,Thin Solid Film 472,37(2005),Wuら,Chem.Vap.Deposition 8,47(2002))。Wuの研究の一つにおいて、原料としてトリメチルメトキシシラン(TMMOS)を用い、マイクロ波プラズマCVD(MWPECVD)によって、ガラスおよびポリメタクリル酸メチル(PMMA)の基板上に、水をはじくシリカベースの薄膜が蒸着された(Wuら,Chem.Vap.Deposition 8,47(2002))。約150度の水接触角が得られた。昇華物質のアルミニウムアセチルアセトネートを用いて、さまざまな表面粗さを有するアルミナベースの疎水性表面も調製された(AACA;Nakajimaら,Adv.Mater.11,1365(1999),Miwaら,Langmuir 16,5754(2000),Nakajimaら,Langmuir 16,7044(2000))。この方法においては、市販のベーマイト粒子(AlOOH)および試薬用AACAが、エタノールによって混合された。エタノールに対するAACAの重量比は、0.0366に固定され、エタノールに対するベーマイトの重量比は、粗さを制御するために0.0008から0.0096まで変化させた。AACAをエタノールに溶解した後、その懸濁液をスピンコーティングによってパイレックスガラスのプレート上に析出させた。次いで、コーティングされたガラス基板を、500℃で20分間焼成した。ベーマイト皮膜は、焼成の間のAACAの昇華によって、粗くなった。ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシランでコーティングし、250℃で蒸発させることによって、アルミナ薄膜の表面エネルギーは化学的に変更された。彼らの研究において達成された最高の水接触角は約161度であり、7ミリリットル水滴についての転がり角は約1度であり、これは、0.0016:0.0024のベーマイト:エタノール比率を有するフィルムにおいて得られたものである。これらのプロセスは、既存の基板上に埋め込まれていない層をもたらす。
【0010】
泡状のシリカ薄膜を調製するために、アクリルポリマーの添加によって誘導されるテトラエチルオルトシリケートの相分離法も報告されており、バブル構造のシリカ薄膜をフッ化シランでコーティングして、超疎水性の表面を形成した(Nakajimaら,Thin Solid Films 376,140(2000))。薄膜の硬度は、通常のシリカベースの硬い薄膜とほぼ同じレベルであったと主張された。しかしながら、達成された最高の水接触角は、わずか約150度であり、転がり角は10度を超えた。これらの条件下では、500ナノメートルの透過率は、90%よりも低かった。これに加えて、ホトレジストのパターンを複製することによって設計された、ベアーSi水とエラストマ型との間でテトラメチルのオルト珪酸塩(TMOS)のゾルゲル成形によって、シリカミクロ構造が作成された。この成形技術によって調製されるスパイク状の構造上で、170度の前進接触角および155度の後退接触角が得られ、約15度の接触角ヒステリシスが示された。
【0011】
フッ化シランで処理され、陽極酸化されたAl表面から製造された、水をはじく表面も、Shibuichiらによって報告されている(J.Colloid&Interface Sci.208,287(1998))。これらの表面上で、約160度の水接触角が達成された。シリカおよびアルミナの共通物質に加えて、ジルコニア(Duparreら,Appl.Optics 41,3294(2002))、酸化亜鉛(Liら,J.Phys.Chem.B107,9954(2003))、ポリマーナノ繊維(Fengら,Adv.Mater.14,1857(2002))、および配置された炭素ナノチューブ(Fengら,Adv.Mater.14,1857(2002))が、超疎水性の応用のために研究された。
【0012】
要約すると、疎水性の表面上の表面粗さを増加させることによって、疎水性が高められることは、周知である。従って、超疎水性表面は、表面を粗くすることと表面エネルギーを低下させることとを組合せて調製されるのが一般的である。表面粗さに関して、疎水性と透明度は、競合的な特性である。粗さを増加させると、疎水性は増加するが、透明度は減少する。したがって、両方の特性を満たすためには、粗さ(または構造体サイズ)を精密に制御することが要求される。
【0013】
可視光は約400〜約700ナノメートルの波長帯にあるので、透明な超疎水性表面上の構造体サイズは、好ましくはこれより小さくあるべきである。超疎水性表面の調製物が広範囲に研究されたにもかかわらず、透明フィルムについて今日まで報告されている方法および物質は、ほんのわずかしかない(例えば、ゾルゲルによるシリカ薄膜(Shangら,Thin Solid Film 472,37 (2005))およびMWPECVD(Wuら,Chem.Vap.Deposition 8,47(2002))の技術、およびゾルゲルによるアルミナ薄膜(Tadanagaら,Am.Ceram.Soc.80,1040(1997),Tadanagaら,J.Am.Ceram.Soc.80,3213(1997))および昇華(Miwaら,Langmuir 16,5754(2000))の技術)。しかしながら、これらの表面の欠点は、低い接触角または高い転がり角(Shangら,Thin Solid Film 472,37(2005),Wuら,Chem.Vap.Deposition 8,47(2002))、または薄膜と基板との間に屈折率の不適切な組合せによって生じる高反射率である(Miwaら,Langmuir 16,5754(2000),Tadanagaら,Am.Ceram.Soc.80,1040(1997),Tadanagaら,J.Am.Ceram.Soc.80,3213(1997))。したがって、改良されたフィルムを製造して強さを加える、という継続的な必要性がある
【0014】
前述のように、CVD技術は、超疎水性薄膜を製造するために一般的に用いられる技術の一つである。これらの技術およびシステムは、近年著しく改善されたとはいえ、バッチ処理や必要な真空室の高コストなど、従来のCVDに伴う一部の固有の欠点がいまだにある。
【0015】
妥当な移送および蒸着の速度を達成するために、CVD前駆物質は、高い蒸気圧をも有しなければならないが、これらの試薬は通常高価であり、一般的に不安定であり、しばしば有毒である。全ての場合において、基板を反応温度(一般的に約300〜約900℃)まで加熱しなければならず、このことが基板の選択を著しく制限する。多成分化合物のCVD蒸着は、複数の試薬について、蒸発、移送、反応、酸化および副産物展開という複雑な編成が要求される。
【0016】
したがって、複雑な薄膜のために従来のCVDを使用することは、困難かつ高価である。ゾルゲル法には、適度に大きな基板をコーティングする能力や、真空室を必要としない点など、他の従来技術を凌ぐ利点がある。しかしながら、高価な前駆物質、多段階製造方法、長い工程所要時間、埋め込みがないこと、および蒸着後の高温処理(収縮により薄膜に割れ目が生じることがある)の必要性など、不利な点もある。
【発明の概要】
【0017】
本発明の実施形態は、以下に詳細に説明するように、従来の蒸着技術の欠点を克服すると共に、はるかに低いコストで同等以上の品質の薄膜を生ずる。本発明の革新的な特質は、ハスの葉の形態および性能をより詳細に模倣すると共に、高い光学的性質および機械的性質をも呈する、超疎水性で自己洗浄性の表面の開発を可能にする。このような結果を可能にする理由は、本発明の実施形態が、連続的にかつ単一工程で二重ナノ構造表面を有する薄膜を蒸着させる能力を提供するからであり、ある程度埋め込むことにより、最適な強さおよび耐摩耗性を提供するからである。蒸着および/またはナノ粒子合成パラメータを制御することによって、薄膜の形態および組成を操作することができる。本発明の新規なプロセスは、液体供給溶液化学の改変によって、薄膜および粒子物質組成の選択の柔軟性をも提供する。
【0018】
Rajala(米国特許出願第2009/0095021A1号明細書)による特許出願公報では、ナノ粒子を製造した後に、ナノ粒子を軟化温度においてガラスの表面上に溶解させた。しかしながら、Rajalaは、速度に関するいかなる教示もなく、通常の大気圧を用いることが記載されている。本発明は、圧力を用いて速度を高めることにより、物質を基板の表面内に埋め込むことを可能にするものであり、このことは、最適な機械的性質および耐久性を提供するために重要である。
【0019】
従来の熱スプレープロセスは、粒状の粒子物質を、高い熱源内に供給し、溶解させて表面上にはねかけるようにしていた。このプロセスは、凝集サイズが約0.5マイクロメートルよりも大きい物質に限定され、高い温度(最高約10,000℃)および高い速度(音速よりさらに高速)を達成するために大量のエネルギーおよびガスを用いるものであった。高い速度は、基板への接着を補助する。これらのコーティングは、大きいサイズの物質またはその結果物の構造のために、常に非透明である。より小さいサイズの粒子(例えば約400ナノメートル未満)を熱スプレーデバイスに投入すると、強固な粒子結合のために分離が困難であるか、または熱スプレー設備の超高温環境において蒸発または溶融してしまう。これらの従来の熱スプレープロセスは、高い界面特性を有する望ましいナノサイズの構造を生産せず、光学的に透明なコーティングを生産することができない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】WRINの概略図。前駆物質またはナノ粒子は、デバイスの最上部からWRINに投入される。前駆物質が提供される場合には、前駆物質を超微細粒子またはナノ粒子に燃焼または変換することを確実にするための、点火装置が存在する。デバイスに沿って提供されるヒータは、ナノ粒子およびガスの温度プロフィールを制御し、望ましいレベルのエンタルピーを達成する。ナノ粒子またはその前駆物質を投入するためのガスに加えて、速度をより高いレベルへと制御するためのブーストガスが投入される。中央ヒータ部およびベースヒータ部において、ナノ粒子は、衝突してほぼ望ましいサイズに生成され得る。中央部の長さを増加または減少させることによって、粒子のサイズおよび粒度分布を変えることができる。これに加えて、ベンチュリ加速を補助する制御ガス流入口がある。これは、蒸着ゾーンにおいて減少空気が要求される場合には、制御されたガス環境を提供することもできる。制御ガスは、ベースヒータ部の中を流れるので、加熱された後に、粒子を含むガス流の一方側に放出されて、冷たい環境ガスの同伴を最小化する。これは、ノズル吹出スリットから放出される一次的なナノ粒子および超微粒子を含む流れを冷却し得る。ベースヒータ部は、好ましくは、少なくとも約20:1の比で吹出スリットに向かって狭くなることにより、ガス流に加速と方向性を与える。
【図2】耐久コーティングのための理想的な表面構造の概略図。強固な構造体の間は、約100〜約800ナノメートル離れており、微細な構造体のほとんどは、強固な構造体の高さよりも低いので、強固な構造体によって保護される。
【図3】本発明の実施形態(図1のWRINデバイス)を用いて製造した耐久超疎水コーティングの、SEM(図3A)と、断面STEM画像(図3B)と、EDXスペクトル(図3C、3D、3E)。このコーティングは、標準的なソーダ石灰ガラス上のホウ珪酸塩ナノ粒子からなる。二重サイズの半球形の構造体および他の不規則な構造体が、ガラス表面上に蒸着され、これらの蒸着された構造体によってガラス表面が変形することが、SEM平面画像(図3A)から分かる。断面STEM画像(図3B)において、元のガラスは、コーティング物質よりも淡い灰色であり、画像の下方部分にある。粒子によって、ガラス基板の表面がくぼんで(変形して)いることが分かる。STEM画像(図3B)およびそれに対応するEDXスペクトル(図3C、3D、3E)において、強固な結合を提供する明確な中間組成層が確認できる。
【図4】図1のWRINデバイスを用いて製造したポリマー基材上の超疎水コーティングのSEM平面画像。約100〜約300ナノメートルの強固な構造の間に、約100ナノメートル未満の微細な構造がある。
【図5】本発明の実施形態の組合せ(図1のWRINデバイスとCCVD)を用いて製造した、耐久超疎水コーティングのSEM平面画像。コーティングは、CCVDによって、微細な構造体を有する二重サイズのNVC構造を示し、WRINによって、より大きい構造体の上にカバーされる、ということがわかる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、耐摩耗コーティングを形成し、その上に高表面積ナノ構造を生成するための、表面処理プロセスを提供するものであり、化学的処理が可能であることにより、疎水性、疎油性、親水性、または他の望ましい表面特性を生じる。好ましくは、コーティング面が基板の光特性を変化させるのは名ばかりである。したがって、透明な基板は透明なままであり、色のついた基板は同系色を保持する。そのためには、表面構造体が、可視光の波長よりも小さい(すなわち約400ナノメートル未満である)ことが要求される。高密着性および耐摩耗性を確実にするためには、コーティング物質は、基板表面を変形させるべきであり、好ましくは基板表面に部分的に埋め込まれるべきである。
【0022】
表面効果を高めるナノ構造体の極小のサイズは、好ましくは約60ナノメートル未満、より好ましくは約30ナノメートル未満であり、分岐構造を有し得る。しかしながら、これらの小さい「ナノ」構造体は、さほど強固ではないので、容易に摩耗する。このようなことを防ぐためには、高密度で基板に良好に結合し、容易には摩耗しない、より大きなまたは「超微細」で強固な構造体を有することが好ましい。これらの「強固な」構造は、約100〜約400ナノメートルの粒径範囲にあるべきであり、液体によるナノ構造の表面相互作用を可能にするほど充分に離隔されるべきであるが、表面に接触する固体による摩滅からナノ構造を保護するのに充分なほど近接するべきである。
【0023】
本発明の実施形態は、ナノバレイコンセプト(NVC)を用いる。すなわち、記載されるように、より小さい構造体を保護する、より大きなまたは超微細でより強固な構造体を用いる。このことは、より大きい構造体(約100〜約400ナノメートル)を部分的に埋め込むことによって行うが、まず、高い噴射速度を用い、その構造体と基板との間の部分的に溶解された界面を用いて、基板表面を変形させ、より大きい突起および谷間を形成し、小さいナノ構造をその谷間に蒸着させることにより行う。これに加えて、別の実施形態においては、ナノ粒子と超微粒子との混合物を一緒に供給することによって、2つのサイズを有する構造を同時に生成することができる。
【0024】
本発明の「広範囲噴射ノズル」(WRIN)は、WRINのより小さい開口端部において、キャリアガス流の速度を増加させながら、温度を制御する広口の一方の端部において、ガスを同伴するナノ粒子または超微粒子を用いるデバイスである。WRINは、本体の温度および加速キャリアガスの温度を制御するヒータを有する。WRINのチャンバの内部において、環境に対して陽圧をかけることによって、WRINガスが供給される。さらなる加圧されたガスを用いることにより、WRINのより小さい開口端部を通る粒子含有キャリアガスが加速される、ベンチュリ効果が生じる。ガスを加熱すると、膨張するので、体積の増加によって、速度も増加する。一実施形態において、燃焼化学蒸気凝縮(CCVC)の全体、またはナノ粒子端部を作る他の方法は、好ましくはWRINの中に含まれ、その場合、高圧に置かれることにより、キャリアガスの速度をさらに高めることができる。
【0025】
CCVCプロセスまたは他の周知の方法は、広範囲にわたるナノ粒子および超微粒子を作るために用いることができる。CCVCは、本発明の粒子を作る好ましい方法である。CCVCプロセスは、フレーム溶射プロセスまたはフレーム熱分解プロセスとも呼ばれる既存の技術であり、当業者は、このプロセスを使用して、ナノ粒子または超微粒子を作ることができる。一例として、登録商標をもつCCVC方法は、nGimatCo.のNanomiser(登録商標)デバイスを使用する。一旦作られると、何らかの手段によって接着されない限り、これらの粒子は、表面に強く結合されない。WRINデバイスは、このような粒子を表面に結合させるために有効である。
【0026】
本発明の別の実施形態においては、2つの異なるサイズの粒子は、WRINチャンバにおいて形成され、一度に、または2つの別のWRINにおいて、表面上へと蒸着され、大径粒子が最初に蒸着される。WRINの主チャンバに供給するために、二つ以上のフレームを用いることができる。粒子のサイズが異なるように、前駆物質の濃度と微粒子化の程度とを制御することができる。次に、これらがWRINチャンバにおいて混合されることにより、蒸着される物質の2態様の粒度分布を可能にする。大きな物質は、好ましい速度において、より大きな運動量を有し、基板表面へのある程度の埋め込みが可能になる。
【0027】
WRINデバイスは、温度、圧力、キャリアガス流速、および時間などの加工条件を制御することによって、ナノメートルからサブミクロンまでのサイズの粒子を生成することもできる。ナノメートルのサイズの物質または超微細な物質は、融点を低減させることが知られている。物質の有効な融点、キャリアガス流速、および温度によって、粒径の成長をある程度制限し、WRINの内部における温度、圧力およびキャリアガス流を制御することにより、ナノ粒子が衝突し、より大きいサイズの粒子に成長することが可能になる。この成長は、ガス流における粒子の数密度および衝突の時間によっても制限される。物質サイズの範囲は、有効にもたらされる。なぜなら、多くのナノ粒子は衝突せずに通過し、他のナノ粒子はさまざまな程度の衝突をするが、サイズの上限は制御することができるので、望ましくない光効果が発生するほどNVC構造体が大きく成長することはないからである。WRINの形状は、そのギャップを狭めると、蒸気と粒子との相互作用を誘発し、成長を高め、強固な構造のために必要な150ナノメートル未満のサイズの物質を形成する。
【0028】
本発明の鍵となる点は、形成されたばかりのナノ粒子および超微粒子を、まだ元のガスフローにある間に直ちに取って使用することにより、制御されたミクロ構造を有して強く結合された耐摩耗コーティングを蒸着させることである。本発明は、形成されたばかりの望ましいサイズの超微細粒子およびナノ粒子を、まだ元のガスフローにあるうちに使用して、熱と速度とを用いて基板に結合する。調製されたばかりの粒子は、熱と速度とを制御されたWRINの中に直接入れられることにより、望ましいレベルの結合を提供する。速度が高いほど、基板の表面における結合と埋め込みとを達成するために必要な温度を低温化できる。ガラス、ポリマー、セラミック、金属および複合材を含む、広範囲にわたる基板物質をコーティングすることができる。
【0029】
ほぼすべての場合において、結合距離が長いほど、2つの物質間の全体的結合がより強固になる。埋め込みは、結合距離を増加させる。これに加えて、高密度で広い構造は、通常、多孔質または精密な構造よりも摩耗抵抗が高い。しかしながら、ナノ構造のための空間を提供するためには、強固な構造体をあまり平らにするべきではない。強固な構造体は、半円に似た形状を有することが好ましい。このような強固な構造体は、広範囲にわたり力の当たる方向または入射角において、容易な破壊に対して抵抗する。
【0030】
最善の結合を確実にするために、一部の基板を、コーティングの前に加熱することができる。このことは、丸い上部を有し、基板表面に少なくとも部分的に埋め込まれる、強固な構造に対して、広いベースを形成するのに役立ち得るので、摩耗抵抗を有する。本発明の実施形態において、基板は、コーティングの前に、別々に、またはCCVC/WRINプロセスによって直接的に加熱することができる。基板を軟化点の近くまで加熱すると、基板がある程度変形することにより、加熱されたCCVC粒子を基板に部分的に埋め込むことができる。形成されたばかりの粒子の軟化点の近くまで基板を加熱することもできるので、衝突する粒子が基板上でより変形しやすくなり、結合の広いベースを生ずる。多くの場合、WRINは、補足的な基板加熱を行わない、ふさわしい環境を提供することができる。ふさわしい温度制御および速度制御によって、基板と粉末組成物との間に混合された組成物を有する、界面を生成することができる。粒子と基板と間のこの組成物混合層は、部分的な埋め込みと組み合わせると、最も高い結合力の一つを生じる。
【0031】
燃焼プロセスは、処理にとって望ましい温度よりもより高い温度を生じさせることがある。そして、WRINデバイスは、噴射温度を適切に制御できるので、WRINデバイスの熱制御器によって、これらのガスの温度を低下させ、温度を再び上昇させることが好ましい場合がある。このように、ガスの温度を、加熱された壁の温度よりも低く冷却することができるので、出口におけるガスおよび物質の温度は、加熱された壁によって制御される。これを達成するために、フレームとWRINとの間の距離を短くすることができ、またはブーストガスをフレームの後に混合してガスを部分的に冷却することができるので、それらの温度はWRINの出口温度よりも低くなる。場合によっては、ブーストガスが、あまりに高い流速またはあまりに低い温度となり、チャンバ温度があまりに低い値まで低下する結果として、WRIN壁は、容易には望ましい加工条件へと加熱し戻すことができないことがある。このような場合には、WRINにおける容易な加工と制御のために、主チャンバに供給されるブーストガスを、望ましいレベルまで予熱することができる。WRINデバイス内のガスは、約100℃の低温、またはWRINの壁温度により近い温度に到達することが好ましい。
【0032】
基板と粒子との相互作用の温度をさらに制御するために、WRINデバイスの一方または両方の側面に、輻射熱ヒータを取り付けることができる。このような輻射熱ヒータは、長時間にわたり、出口におけるガスを基板表面に近い望ましい温度に保つ。コーティングされていない導入基板側に配置されるときに、このガス流およびヒータは、基板表面へのより良好な変形/埋め込みのために、一次ガスジェットに入る基板温度の制御を提供することもできる。コーティング側または出口側のヒータは、アニーリングおよびより強固な結合を提供することができる。
【0033】
CCVC微粒子は、強固な構造のために必要とされるサイズに生成される。このことは、溶液濃度および微粒子化を調整することによって行われるので、望ましいサイズが達成される。粒子は形成されたばかりであるので、粒子の大部分は凝集せず、個々にWRINを通過し、基板表面に衝突することができる。WRINによって放出される粒子数、WRINおよび/または基板の移動速度を決定することによって、強固な構造体の密度および間隔が制御される。例えば、WRINが1ミリメートルあたり毎分10億個の粒子を放出し、毎分1メートル/分で移動している場合、平方ミリメートルあたり約100万個の強固な構造体があることになる。すなわち、1平方マイクロメートルあたり約1個の強固な構造体がある。あるいは、放出口ギャップのミリメートル長さあたり毎分放出される粒子が約1億個〜約1千億個あり、コーティングされる表面上を走査する速度が毎分約1メートル〜約100メートルである場合には、異なる走査速度および幅について必要とされる粒子の量を算出することができる。強固な構造体が、結果として生じる300ナノメートルのベースを有する場合には、表面の90%以上は、まだナノ構造のために空いている。
【0034】
本発明の実施形態において、WRINへの投入口は、CCVCシステムまたは複合ユニットなどの、単一のナノ粒子生成システムであり得る。コーティングされる物質の幅が増加するにつれて、WRINは、一回の通過においてより広くコーティングする必要がある。WRINは、線形システムであるので、本発明の好ましい実施態様において、いかなる線幅にも容易に拡大縮小することができる。最も新鮮なナノ粒子をもたらすように、長さに沿ってさらに多くのCCVCユニットを配置することができる。CCVCのフレームを交差させることが有利である場合もある。CCVCフレームのこのカップリングは、すべての気相由来の物質が粒子に合体し、いかなるナノ粒子も望ましいサイズ範囲内に生成することを確実にするのに役立ち得る。より大きい粒子は、より高い慣性を有するので、表面結合を追加すると、速度による影響もより確実に受ける。運動エネルギーとは、質量と速度との積であり、高い運動エネルギーが、熱的条件と共に結合を追加し得るエネルギーを提供する。
【0035】
粒子は、基板内へと変形することができる。または、基板は、粒子を変形させることができる。または、粒子および基板は、部分的に変形することができる。このことは、各物質の相対強度に依存するものであり、一つの要因は、融点にどれほど近いかということである。特性が充分に似ている場合、または速度が充分に高い場合には、両者が変形し得る。粒子と基板との間に充分な界面がある限り、これらのいずれの場合にも、強固な結合を提供することができる。周知の物質を使用する際に、実験前にこれらの相互作用をモデル化することもできる。
【0036】
粒子物質が基板物質よりも高い硬度を有することは、有利であり得る。一つの例は、ポリカーボネート上のシリカであり、もう一つの例は、ソーダ石灰ガラス上のホウ珪酸塩である。これは、耐摩耗表面のみを生ずることはできないが、元の物質よりも強固なものとなる。第1の例において、シリカは、粒径と関連して、長い結合距離を有するポリカーボネートを最も変形させやすい。少なくとも、結合距離は、半径であるべきか、または元の粒子よりも長くあるべきであるが、より好ましくは、結合距離は、直径と同じである。多くの場合、金属は酸化物よりも柔らかく、基板は粒子よりも変形する。しかしながら、金属が相対的に冷たく、酸化物が非常に熱い場合には、酸化物は金属よりも変形することがある。
【0037】
CCVCおよびWRINに入る物質は、圧力がかけられており、より冷たく、その一部は、出口におけるものよりも大きい分子量を有する化合物である。反応する化学種は、通常、熱を生じ、より小さい分子を形成するので、反応物のモルが増える。V=nRT/Pであり、本発明において、nおよびTは増加し、Pは減少し、これらはいずれも体積を増加させ、それに応じて出口におけるガスの速度を増加させる。この速度を高めるものは、ブーストガスであり、好ましくは空気であり、CCVC形成されたガス中へ噴射される前に、WRIN構造内で加熱される。このブーストガスは、WRIN出口の方向に向けられることにより、流れに方向成分を追加し、ベンチュリ効果によりCCVCガスを同伴/加速する。CCVC/WRINシステムが含まれる場合には、デバイス内の圧力が増加するので、さらに一層高い速度を達成することができる。
【0038】
流れおよび温度の範囲は、WRINの一部とすることができ、チャンバサイズおよび圧縮要因も変化させることができるが、出口における物質のための最適条件というものがある。表面変形を生じさせるためには、より柔らかい物質は、低い速度を必要とする一方で、より硬い物質は、高い速度を必要とする。また、蒸着させられる物質の質量が、要求される速度を変える。より小さいサイズの粒子は、より高い速度が要求される。これは、質量が要因となって、低い運動エネルギーから急速に速度低下するからである。ソーダ石灰ガラスが約600℃であるときに、約150〜約300ナノメートルのより強固な構造は、約40メートル/秒〜約90メートル/秒の速度を必要とする。速度があまりに高い場合には、粒子があまりに深く埋め込まれ、摩耗保護のための望ましい高い構造が残らないことがある。より好ましい範囲は、約600℃のソーダ石灰ガラス上へのホウ珪酸塩ナノ粒子について、約50〜約70メートル/秒のWRIN出口速度である。WRIN物質出口の温度は、基板の温度以上であって、粉材の融点よりも低い温度であることが望ましい。熱スプレープロセスのように、溶解した粒子を表面に対してはね散らすことは、パンケーキ状の構造をもたらすので、望ましくない。イオン的または共有結合的に物質を基板表面に結合させることが好ましいので、粒子が表面を部分的に変形させた後は、強固な結合を可能にするほど充分に高い温度が必要である。
【0039】
WRINデバイスの別の要因は、出口幅と最大幅との比率(縮流比)であり、「圧縮ダイヤフラム比率」と称される。好ましくは、この比率は、約250:1から約20:1までであり、より好ましくは、約150:1から約50:1までの範囲である。
【0040】
表面を適切に保護するために、強固な構造の適切なサイズおよび密度がある。光学的性質への影響がより少ないように、強固な構造サイズの高さにおける機能的な範囲は、約80〜約400ナノメートルであり、より好ましくは、約100〜約300ナノメートルである。強固な構造の幅は、約100ナノメートルを超えるべきであり、より好ましくは、約150ナノメートルを超えるべきである。ナノ構造の高さは、強固な構造の高さよりも低くあるべきである。強固な構造は、固体をナノ構造に遭遇させないように、間隔を有するべきであり、約5マイクロメートル未満、好ましくは約2マイクロメートル未満、より好ましくは約1マイクロメートル未満の、強固な構造の平均的間隔によって達成することができる。
【0041】
本発明のプロセスは、セラミックおよびガラスに加えて、さまざまな基板に使用することができる。ポリマー表面は、高められた耐久性によって改良された表面特性を有し得る。温度感受性のある基板上へのコーティングを達成するために、デバイスの温度を低減させる。ガス流は、より高い温度の操作における流れと類似している。つまり、ガス速度がわずかに減少することを意味する。ポリマーは、均質であり得るか、またはハードコートまたはペイントなどのトップコーティングを有し得る。
【0042】
ポリカーボネートなどのベアーポリマーは、約80度の水接触角を典型的に有する。本発明のコーティングによって、表面は、20度未満の接触角で、より親水性になり、表面エネルギーを低くする化合物を用いた処理により、接触角は120度を超えることができ、最高170度にすることさえできる。当業者は、商業的に入手可能な多数の表面改良化学作用を知っており、また将来に導入されるものを容易に使用することができる。
【0043】
表面特性に変更を加えたポリマーについては、多くの用途がある。元の物質が透明である場合には、通常、透明なコーティングが要求される。表面に色がついている場合には、通常、色に変更を加えないことが望ましい。場合によっては、特に、透明な物質については、その物質を透過して視覚的に見ることが反射像によって妨げられないように、低い反射率が要求される。多くの塗装面について、光沢が要求されるが、より少ない光沢が要求されることもある。可能性のあるポリマーベースの製品は、視覚製品、窓、フロントガラス、車体、屋外用の家具、建物および構造、エネルギーデバイス(例えばタービン)、ボート、配管、台所の表面、および湿った調理場所を含む。
【0044】
WRINデバイスは、一次基板温度制御として使用することができる。ガスは、物質を蒸着させるのと同時に、基板を望ましいレベルまで加熱することができる。このことは、特にポリマーなどの、より低い温度の物質にあてはまる。この動作モードにおいては、基板ヒータは必要とされない。
【0045】
本発明は、表面のトライボロジを変えることによって摩擦を低減するように、物質の表面を改良するために用いることもできる。本発明によって提供されるナノ構造は、低摩擦物質を含む広範囲にわたる化学処理にとって扱いやすいものである。一つの例は、オイルウェッティングを高めて、経時的な摩耗を低減させるために、親油性の表面を生成することである。
【実施例】
【0046】
[実施例1]
フレーム生成されたナノ粒子によりWRINデバイスを用いた機能的表面の製造:ソーダ石灰ガラス基板一実施例として、ソーダ石灰ガラス基板上に耐久コーティングを蒸着させるために、長さ20センチメートルの出口スリットを有する図1のWRINデバイスを、以下の典型的な蒸着条件で用いた。10mol%トリエチル硼素および0.5mol%アルミニウムアセチルアセトンのTEOSアルコール溶液を、微細な霧状にし、14ミリリットル/分の速度で入れ、60リットル/分で、気体媒体および空気のブーストガス流において上部セクションにおいて燃焼させ、ナノ粒子を生成した。ヒータを制御することにより、粒子を含むWRINの出口温度は650℃であり、ヒータはガラス基板表面温度を600℃に制御し、WRINデバイスは50インチ/分の運動速度で基板上を相対的に移動し、ガラスヒータは、蒸着後の5分間のアニーリング時間の間、675℃のアニーリング温度に上昇させ、その後、ガラスにひびが入らないようにガラスを冷却した。次に、コーティングを、低表面エネルギー化学剤で処理することにより、超疎水性にした。
【0047】
[実施例2]
フレーム生成されたナノ粒子によりWRINデバイスを用いた機能的表面の製造:ソーダ石灰ガラス基板別の実施例として、ソーダ石灰ガラス基板上に耐久コーティングを蒸着させるために、長さ20センチメートルの出口スリットを有する図1のWRINデバイスを、以下の典型的な蒸着条件で用いた。5mol%トリエチル硼素および0.5mol%アルミニウムアセチルアセトンのTEOSアルコール溶液を、微細な霧状にし、14ミリリットル/分の速度で入れ、180リットル/分で、気体媒体および空気のブーストガス流において上部セクションにおいて燃焼させ、ナノ粒子を生成した。ヒータを制御することにより、粒子を含むWRINの出口温度は640℃であり、ヒータはガラス基板表面温度を650℃に制御し、WRINデバイスは7インチ/分の運動速度で基板上を相対的に移動し、次に、コーティングを、低表面エネルギー化学剤で処理することにより、超疎水性にした。
【0048】
[実施例3]
フレーム生成されたナノ粒子によりWRINデバイスを用いた機能的表面の製造:ポリカーボネート基板別の実施例として、ポリマー基材上の耐久コーティングを蒸着させるために(この場合はポリカーボネートを用い)、以下を除き、前記の実施例と同一の条件およびデバイスを用いた。すなわち、溶液の流速は6ミリリットル/分であり、ブーストガス流は75リットル/分であり、ヒータを調整してWRINの出口温度を210℃とし、基板ヒータを用いて表面温度を94℃とし、運動速度は20インチ/分であった。次に、コーティングを、低表面エネルギー化学剤で処理することにより、超疎水性にした。
【0049】
[実施例4]
フレーム生成されたナノ粒子およびCCVCによりWRINデバイスを用いた機能的表面の製造:ソーダ石灰ガラス基板別の実施例として、ソーダ石灰ガラス基板上に大きい構造体を有する耐久コーティングを蒸着させるために、長さ20センチメートルの出口スリットを有する図1のWRINデバイスを、以下の典型的な蒸着条件で用いた。5mol%トリエチル硼素および0.5mol%アルミニウムアセチルアセトンのTEOSアルコール溶液を、微細な霧状にし、14ミリリットル/分の速度で入れ、70リットル/分で、気体媒体および空気のブーストガス流において上部セクションにおいて燃焼させ、ナノ粒子を生成した。ヒータを制御することにより、粒子を含むWRINの出口温度は650℃であり、ヒータはガラス基板表面温度を約635℃に制御し、WRINデバイスは7インチ/分の運動速度で基板上を相対的に移動した。大きい構造体を有するコーティングを蒸着した後、CCVD技術を用いて、大きい構造体を有するコーティングの間と上のナノ構造体によってコーティングを蒸着し、二重サイズのNVC構造を形成した。以下の典型的なCCVDの条件を用いた。すなわち、5mol%トリエチル硼素および0.5mol%アルミニウムアセチルアセトンのTEOS溶液、4ミリリットル/分の速度、ガラス表面より高い1000℃のフレーム温度、および120インチ/分の運動速度である。次に、コーティング表面を剥離することにより、強固な構造の上部からナノ構造体を取り除き、強固な構造体によって保護される下部領域にナノ構造体を残した。次に、コーティング表面を、低表面エネルギー化学剤で処理することにより、超疎水性にして、15度未満の転がり角を達成した。
【0050】
本発明の実施形態は、以下も含む。基板上に機能的表面を製造するためのプロセスであって、気相形成された無機ナノ粒子および無機超微細粒子を、充分な速度および充分な温度で表面に直接コーティングすることにより、前記表面を変形させ、前記粒子を基板表面に接着させることを特徴とするプロセス。
【0051】
基板上に機能的表面を製造するためのプロセスであって、気相形成された無機ナノ粒子および無機超微細粒子を、充分な速度および充分な温度で表面に直接コーティングすることにより、前記表面を変形させ、前記粒子を基板表面に接着させ、前記粒子が、燃焼プロセスを用いて製造されることを特徴とするプロセス。
【0052】
基板上に機能的表面を製造するためのプロセスであって、気相形成された無機ナノ粒子および無機超微細粒子を、充分な速度および充分な温度で表面に直接コーティングし、前記基板またはポリマーあるいは両者を部分的に変形させ、前記粒子と前記基板との間の界面を部分的に溶解させることによって、基板表面に前記粒子を埋め込むことを特徴とするプロセス。
【0053】
基板上に機能的表面を製造するためのプロセスであって、気相形成された無機ナノ粒子および無機超微細粒子を、充分な速度および充分な温度で表面に直接コーティングすることにより、前記粒子を基板表面に接着させ、前記粒子が、燃焼プロセスを用いて製造されることを特徴とするプロセス。
【0054】
基板上に機能的表面を製造するためのプロセスであって、気相形成された無機ナノ粒子および無機超微細粒子を、充分な速度および充分な温度で表面に直接コーティングすることにより、前記粒子を基板表面に接着させ、前記速度および前記温度を制御するデバイスが、下に向かい狭くなる被加熱壁によって形成される線形の狭いギャップを有し、充分なガスの流れおよび圧力によって所望の速度が提供されることを特徴とするプロセス。
【0055】
基板上に機能的表面を製造するためのプロセスであって、気相形成された無機ナノ粒子および無機超微細粒子を、充分な速度および充分な温度で表面に直接コーティングすることにより、前記粒子を基板表面に接着させ、前記基板または前記粒子あるは両者を変形させることによって、前記粒子が、前記基板の元の表面に少なくとも部分的に埋め込まれることを特徴とするプロセス。
【0056】
基板上に機能的表面を製造するためのプロセスであって、気相形成された無機ナノ粒子および無機超微細粒子を、充分な速度および充分な温度で表面に直接コーティングすることにより、前記粒子を基板表面に接着させ、前記粒子の物質が、前記基板表面よりも硬いことを特徴とするプロセス。
【0057】
基板上に機能的表面を製造するためのプロセスであって、気相形成された無機ナノ粒子および無機超微細粒子を、充分な速度と充分な温度で表面に直接コーティングすることにより、前記粒子を基板表面に接着させ、前記粒子の物質が、前記基板表面よりも硬く、前記基板の物質が、ポリマーであることを特徴とするプロセス。
【0058】
基板上に機能的表面を製造するためのプロセスであって、気相形成された無機ナノ粒子および無機超微細粒子を、充分な速度および充分な温度で表面に直接コーティングすることにより、前記粒子を基板表面に接着させ、前記表面の構造が、300ナノメートル未満のサイズであり、ミクロンスケールにおいては事実上均一であることを特徴とするプロセス。
【0059】
基板上に機能的表面を製造するためのプロセスであって、気相形成された無機ナノ粒子および無機超微細粒子を、充分な速度および充分な温度で表面に直接コーティングすることにより、前記粒子を基板表面に接着させ、物質の混合組成物層が、元の基板物質と結合粒子物質との間にあることを特徴とするプロセス。
【0060】
基板上に機能的表面を製造するためのプロセスであって、気相形成された無機ナノ粒子および無機超微細粒子を、充分な速度および充分な温度で表面に直接コーティングすることにより、前記粒子を基板表面に接着させ、前記粒子の物質が、元の基板表面をくぼませることを特徴とするプロセス。
【0061】
基板上に機能的表面を製造するためのプロセスであって、気相形成された無機ナノ粒子および無機超微細粒子を、充分な速度および充分な温度で表面に直接コーティングすることにより、前記粒子を基板表面に接着させ、前記速度および前記温度を制御するデバイスが、下に向かい狭くなる被加熱壁によって形成される線形の狭いギャップを有し、充分なガスの流れおよび圧力によって所望の速度が提供され、放出口ギャップの長さ1ミリメートルあたり毎分約1千万〜約100億個の粉末粒子が放出され、コーティングする表面上を走査する速度が毎分約0.01〜約10メートルであることを特徴とするプロセス。これらの数字は、製造される構造の密度を予測する方法の一例として提供されるものであり、実際の走査速度は、大いに変化し得るものであり、要求される生産ラインの速度または特性に依存する。
【0062】
基板上に機能的表面を製造するためのプロセスであって、気相形成された無機ナノ粒子および無機超微細粒子を、充分な速度および充分な温度で表面に直接コーティングすることにより、前記粒子を基板表面に接着させ、約100ナノメートル〜約400ナノメートルの範囲のより大きくてより強固な構造体があり、それらの間に前記大きい構造体よりも高さの小さい100ナノメートル未満の小さい構造体もあることを特徴とするプロセス。
【0063】
基板上に機能的表面を製造するためのプロセスであって、気相形成された無機ナノ粒子および無機超微細粒子を、充分な速度および充分な温度で表面に直接コーティングすることにより、前記粒子を基板表面に接着させ、約100ナノメートル〜約400ナノメートルの範囲のより大きくてより強固な構造体があり、それらの間に前記大きい構造体よりも高さの小さい幅100ナノメートル未満の小さい構造体もあり、強固な粒子が、平方ミリメートルあたり約50万〜約500万個あることを特徴とするプロセス。
【0064】
基板上に機能的表面を製造するためのプロセスであって、気相形成された無機ナノ粒子および無機超微細粒子を、充分な速度および充分な温度で表面に直接コーティングすることにより、前記粒子を基板表面に接着させ、下に向かい狭くなる被加熱壁によって形成される線形の狭いデバイスによって前記速度および前記温度が制御され、充分なガスの流れおよび圧力によって所望の速度が提供され、約150:1から約20:1の範囲で下流に向かい狭くなり、より好ましくは約100:1から約50の範囲であることを特徴とするプロセス。
【0065】
基板上に機能的表面を製造するためのプロセスであって、気相形成された無機ナノ粒子および無機超微細粒子を、充分な速度および充分な温度で表面に直接コーティングすることにより、前記粒子を基板表面に接着させ、最終性質が、親水性、疎水性、または他の望ましい特性であることを特徴とするプロセス。
【0066】
本願明細書において引用されるすべての文献、書籍、マニュアル、書類、特許、公開特許出願、ガイド、要約、および他の参考文献は、引用によってその全体が援用されるものとする。本発明の他の実施形態は、当業者にとって、本願明細書および本願明細書に開示される実施方法の考察から明らかである。本願明細書および実施例は、例示的なものとしてのみ考慮され、本発明の真実の範囲および趣旨は、以下の請求項によって示されるということが意図される。
【図3C】

【図3D】

【図3E】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に機能的表面を製造するためのプロセスであって、
気相形成された無機ナノ粒子および無機超微細粒子を、充分な速度および充分な温度で表面に直接コーティングすることにより、前記基板の表面を変形させ、前記基板の表面に前記粒子を接着させることを特徴とするプロセス。
【請求項2】
前記粒子が、燃焼プロセスを用いて製造されることを特徴とする請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
下流に向かい狭くなる被加熱壁によって形成される線形の狭いギャップを有するデバイスが、前記速度および前記温度を制御し、充分なガスの流れおよび圧力によって所望の速度が提供されることを特徴とする請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
前記粒子が、前記基板の元の表面の中に少なくとも部分的に埋め込まれていることを特徴とする請求項1に記載の機能的表面。
【請求項5】
前記粒子物質が、前記基板の表面よりも硬いことを特徴とする請求項1に記載の機能的表面。
【請求項6】
前記基板物質が、ポリマーであることを特徴とする請求項5に記載の機能的表面。
【請求項7】
前記表面の構造が、300ナノメートル未満のサイズであり、ミクロンスケールにおいては事実上均一であることを特徴とする請求項1に記載の機能的表面。
【請求項8】
物質の混合組成物層が、元の基板物質と結合粒子物質との間にあることを特徴とする請求項1に記載の機能的表面。
【請求項9】
放出口ギャップのミリメートル長さあたり毎分放出される粒子が、約1億個〜約1千億個であり、コーティングされる表面上を走査する速度が、毎分約1メートル〜約100メートルであることを特徴とする請求項3に記載のプロセス。
【請求項10】
幅約100ナノメートル〜約400ナノメートルでかつ高さ約400ナノメートル未満のより大きくより強固な構造体があり、それらの間に幅100ナノメートル未満でかつ前記大きい構造体よりも高さの小さい構造体もあることを特徴とする請求項1に記載の機能的表面。
【請求項11】
強固な粒子が、平方ミリメートルあたり約50万〜約500万個あることを特徴とする請求項10に記載の機能的表面。
【請求項12】
約250:1から約20:1の比で下流に向かい狭くなることを特徴とする請求項3に記載のデバイス。
【請求項13】
約150:1から約50:1の比で下流に向かい狭くなることを特徴とする請求項3に記載のデバイス。
【請求項14】
最終の性質が、親水性または疎水性であることを特徴とする請求項1に記載の機能的表面。
【請求項15】
前記デバイスの出口速度が、20〜80メートル/秒の範囲内に制御され、前記出口温度が、前記基板の温度よりも高いが、前記粒子の融点よりも低いことを特徴とする請求項3に記載のプロセス。
【請求項16】
燃焼プロセスガスの温度を被加熱壁の温度よりも低くなるように冷却することにより、前記被加熱壁が、出口におけるガスおよび物質の温度を制御することを特徴とする請求項2または3に記載のプロセス。
【請求項17】
燃焼後にガスを加えることにより、前記ガスの温度を被加熱壁の温度に対して100℃の範囲内に調整することを特徴とする請求項16に記載のプロセス。
【請求項18】
蒸着された物質の少なくとも一部が、気相由来のものであることを特徴とする請求項1に記載のプロセス。
【請求項19】
輻射熱ヒータが、導入物質またはコーティングされた出口物質の少なくとも一方の上に配置されることを特徴とする請求項1に記載のプロセス。
【請求項20】
基板上の強く接着された機能的表面を製造するために所望の幅の基板をコーティングすることができるデバイスであって、
線形ギャップに向かって狭くなる被加熱壁によって形成される線形の狭いギャップを有し、気相形成された無機ナノ粒子および無機超微細粒子を、充分な速度および充分な温度で、充分なガスの流れおよび圧力によって直接表面にコーティングすることにより、耐摩耗のサブミクロンの構造体を生ずることを特徴とするデバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−513723(P2013−513723A)
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−527132(P2012−527132)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【国際出願番号】PCT/JP2010/007188
【国際公開番号】WO2011/070789
【国際公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.パイレックス
【出願人】(599060917)エヌジマット・カンパニー (2)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】