説明

高パワーパルス光発生装置

【課題】マスタクロックジェネレータと、光発振器と、光増幅器と、前記光増幅器に光学的に接続された励起半導体レーザと、前記半導体レーザの駆動部とを備えた高パワーパルス光発生装置において、出力パルス光が被照射体で反射し、戻り光として高パワーパルス光発生装置に入射して励起半導体レーザに到達した際の励起半導体レーザの破損を防ぐ。
【解決手段】マスタクロックジェネレータからのマスタクロックと、光発振器からの発振パルス光および駆動部からのパルス状駆動電流との同期をとるとともに、駆動電流パルスの立ち上がりのタイミングを制御するための制御部を設け、戻り光が励起半導体レーザに到達した際に、前記励起半導体レーザがレーザ発振状態にならないように制御する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体レーザ、ファイバレーザ、ファイバ増幅器などの半導体レーザを励起光源として用いることによりパルス光を増幅する機能を有するパルス光発生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、一部の固体レーザ、ファイバレーザ、ファイバ増幅器などのパルス光発生装置の増幅媒体のための励起光源には、ファイバ出力の半導体レーザ(Laser Diode:LD)が用いられている。励起光源用LD(以下、励起LD)には、例えば図6に示すようなシャント型定電流駆動回路が用いられることが多く、その場合は、励起LDの一定出力は連続的に維持される。
【0003】
すなわち図6に示す基本的なシャント型駆動回路は、シャント抵抗52と、オペアンプなどの比較器53と、トランジスタ54から構成されている。このシャント型駆動回路においては、電圧信号が比較器53に入力され、比較器53の出力はトランジスタ54(ベース側)に入力される。トランジスタ54のコレクタ側の出力はシャント抵抗で作られる電位のパターンで比較器53に帰還する。また、トランジスタ54のエミッタ側の出力を駆動電流として励起LD3に印加すれば、励起LD3から駆動電流に応じた光出力が得られる。このようなシャント型駆動回路は、電流を一定値に保つのには有利であるが、高速に励起LD3がレーザ発振になる状態(以降、ON状態)と励起LD3がレーザ発振にならない状態(OFF状態)を切り替えることはできない。
【0004】
一方、スイッチング電源に代表されるように、スイッチング素子を応用した定電圧回路も一般に使用されている。その理由は、前記スイッチング素子を応用した定電圧回路を用いた電源回路や、電力供給回路のデバイス損失の最小化を図ることが容易であるためである。前記電源回路や前記電力供給回路を、光増幅器の励起LDに応用した発明も公知となっており、特許文献1および特許文献2では、パルス幅変調(Pulse Width Modulation:PWM)を用いて励起LDをパルス駆動する技術が開示されている。
【0005】
さらに、スイッチング周波数の位相とパルス周波数の位相との相関を持たせ、LDを駆動することにより、出力パルスの立ち上がりを速くするLDの駆動方法がいくつかの先行技術文献に開示されている(例えば、特許文献3〜特許文献5参照)。これらの先行技術文献では、パルス増幅における利得やピークパワーを制限するノイズ(例えば、自然放出(Amplified Spontaneous Emission:ASE)光や、レイリー散乱光など)を除去するための手段として、励起LDを増幅媒体の励起寿命よりも短い時間で間欠的に駆動する技術について開示されている。
また、パルスレーザ(パルス光の増幅器)の励起光源の励起用パルス光の周波数を信号周波数と同期させて、利得を向上させる技術についても既に知られている。
【0006】
上述のようなLDを励起光源として用いるパルス光発生装置は、ピークパワーの高い出力光が得られるため、レーザ加工や、レーザ測定に多く用いられているが、レーザ加工装置やレーザ測定器では、このような高パワーパルス光発生装置から出射されるパルス光が、被照射体の表面または表面近傍で反射され、パルス光発生装置の出射部からその装置内に出力パルス光の出射方向と逆向きに入射されて装置内に戻り、光増幅器に伝搬する状況が頻繁に発生する。そして被照射体からの反射光の一部は、光増幅器の励起LDまで到達し、励起LDの駆動状態によっては、励起LDを破損させることがある。
前述の各先行技術文献で示されている従来技術では、このような反射光による励起LDの破損の問題は特に考慮されておらず、したがって従来は高パワーパルス光発生装置内への被照射体からの反射光の入射による励起LDの破損は避け得なかったのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5325383号明細書
【特許文献2】米国特許第5283794号明細書
【特許文献3】米国特許第5867305号明細書
【特許文献4】米国特許第5933271号明細書
【特許文献5】米国特許第6081369号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、LDを励起光源として用いる従来の高パワーパルス光発生装置においては、被照射体からの反射によって装置内に伝って光増幅器に入射する光(以下、被照射体からの戻り光と称する)がレーザ発振状態の励起LDまで到達し、励起LDを破損させるという問題があった。
【0009】
本発明は、上述の事情を背景としてなされたもので、被照射体からの戻り光により光増幅器の励起LDの破損が生じる問題を解決して、励起LDの破損を防止し得るようにした高パワーパルス光発生装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前述のような、戻り光によって励起LDが破損する問題を調査したところ、戻り光が励起LDに入射したときに、励起LDがレーザ発振をしていない状態にある場合、すなわち励起LDがOFF状態である場合には、励起LD破損の発生確率が著しく低下することを見出した。
【0011】
そして、このような知見に基づき、本発明者らは、本発明では増幅媒体を有する光増幅器に励起光を注入するタイミングと、被照射体からの戻り光が励起LDに到達するタイミングを好適な条件に設定することによって、被照射体からの戻り光によって、励起LDがダメージを受けることを避け、前記課題を解決することとした。
【0012】
したがって、本発明の第1の態様の高パワーパルス光発生装置は、マスタクロックを発生するマスタクロックジェネレータと、前記マスタクロックに同期して光パルスを発生する光発振器と、前記光発振器からの光パルスを増幅して高パワーパルス光を出力する光増幅器と、前記光増幅器を励起するための励起用パルス光を発生する励起半導体レーザ(励起LD)と、前記励起LDを前記マスタクロックに同期するパルス状の駆動電流により駆動するための駆動部と、前記駆動部を制御するための制御部とを有し、前記高パワーパルス光が照射される被照射体からの戻り光のパルスが前記光増幅器を経て励起LDに到達するタイミングが、被照射体と前記励起LDとの間の光路長に応じて定められて、そのタイミングにおいて、前記励起LDがレーザ発振状態にならないように、励起LDの駆動電流を設定値以下に制御する構成としたことを特徴とするものである。
【0013】
上述の第1の態様の高パワーパルス光発生装置によれば、励起LDの駆動電流をマスタクロックに同期したタイミングで制御できる。励起LDと被照射体との距離から、高パワーパルス光が出射され、被照射体からの戻り光が前記励起LDに到達する時間が算出できるので、前記戻り光が励起LDに到達する時点において、制御部により前記励起LDの駆動電流を前記励起LDがレーザ発振状態にならない設定値以下に制御することにより、前記励起LDが光学損傷を受けることを回避し得る。
なお、前記設定値は励起LDがレーザ発振状態にならない値(発振閾値付近以下)であればよいが、実際には、使用するLD素子により決定される値である。
【0014】
本発明の第2の態様による高パワーパルス光発生装置は、前記第1の態様の高パワーパルス光発生装置において、前記光発振器と前記光増幅器との間に、光発振器の発振パルス光と前記戻り光を検出するためのモニタ部が設けられ、かつそのモニタ部により検出された前記発振パルス光のパルス検出信号および戻り光のパルス検出信号がそれぞれ前記制御部に電気的に導かれて、これらのパルス検出信号に基づいて前記励起LDの駆動電流を前記設定値以下とする期間を制御するように構成したことを特徴とするものである。
【0015】
第2の態様の高パワーパルス光発生装置によれば、モニタ部で光発振器からの発振パルス光を受光してから、戻り光がモニタ部で受光されるまでの時間差を予め調べることができる。したがって、励起LDの駆動電流を、モニタ部の1回目の受光タイミングから前記時間差が経過するまでの間、制御部により前記励起LDの駆動電流を前記励起LDがレーザ発振状態にならない設定値以下に制御することにより、励起LDが光学損傷を受けることを確実に回避することができる。
ただし、この高パワーパルス光発生装置では前記発振パルス光と被照射体からの戻り光を同一のモニタ部で受光するため、受光した光が発振パルス光であるのか、戻り光であるかを直ちには区別することはできない。したがって、この場合には、高パワーパルス光発生装置で実際に出力パルス光を出射させる前に、試験的に出力パルス光を出射させて1回目の受光がフィードバックされるタイミングと2回目の受光がフィードバックされるタイミングとの時間差を確認して、前記期間を適切に設定することが望ましい。
【0016】
本発明の第3の態様による高パワーパルス光発生装置は、前記第1の態様の高パワーパルス光発生装置において、前記光発振器と前記光増幅器との間に、光発振器の発振パルス光を検出するための第1モニタ部と、前記戻り光を検出するための第2モニタ部が設けられ、かつ各モニタ部により検出された前記発振パルス光のパルス検出信号および戻り光のパルス検出信号が、それぞれ前記制御部に電気的に導かれて、これらのパルス検出信号に基づいて前記励起LDの駆動電流を前記設定値以下とする期間を制御するように構成したことを特徴とするものである。
【0017】
第3の態様の高パワーパルス光発生装置によれば、光発振器からの発振パルス光が第1モニタ部で受光されるタイミングと、被照射体からの戻り光が第2モニタ部で受光されるタイミングとの時間差を適宜かつ正確に調べることができる。したがって、出力パルス光が出射されている状態で、高パワーパルス光発生装置と被照射体との距離の変化が生じる場合においても、励起LDの駆動電流を第1モニタ部の受光タイミングから前記時間差が経過するまでの間、制御部により前記励起LDの駆動電流を前記励起LDがレーザ発振状態にならない設定値以下に制御することにより、確実に励起LDが光学損傷を受けるのを回避することができる。
【0018】
本発明の第4の態様による高パワーパルス光発生装置は、前記第1の態様〜第3の態様のいずれかの高パワーパルス光発生装置において、戻り光が励起LDに到達後、マスタクロックに同期したタイミングで、励起LDの駆動電流が、前記設定値を越えて励起LDがレーザ発振状態となる値に制御されることを特徴とするものである。
【0019】
第4の態様の高パワーパルス光発生装置によれば、励起LDがレーザ発振していない状態で、励起被照射体からの戻り光が励起LDに到達した後、次のマスタクロックに同期したタイミングで、直ちに励起LDがレーザ発振状態となって、光増幅器に励起光を注入することができる。したがって、戻り光による励起LDの光学損傷を回避した状態で、高パワーパルス光発生装置を用いた効率の良いレーザ加工やレーザ測定を行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の高パワーパルス光発生装置によれば、被照射体からの戻り光が励起LDに到達する際に、励起LDがレーザ発振しない状態となっているため、戻り光による励起LDの破損を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】従来の一般的な高パワーパルス光発生装置の基本構成を表すための図である。
【図2】本発明における出力パルス光の被照射体からの戻り光のタイミングと励起LDのパルス出力(励起用パルス光)のタイミングを模式的に示した図である。
【図3】本発明の概念を説明するための図である。
【図4】本発明の第1の実施形態による高パワーパルス光発生装置の全体構成を示す略解図である。
【図5】本発明の第1の実施形態による高パワーパルス光発生装置におけるタイムチャートを示すための図である。
【図6】従来のシャント型定電流回路の基本構成を示す略解図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
高パワーパルス光発生装置において、光発振器からのパルス光(発振パルス光)を増幅するタイミングと、光増幅器内の増幅媒体に励起光(励起用パルス光)を注入するタイミングには、被照射体からの戻り光による励起LDの破損を防止するための望ましいタイミングがある。前記の励起LDの破損を防止するための望ましいタイミングについて図1および図2を参照し、以下で説明する。
【0023】
図1に従来の一般的な高パワーパルス光発生装置の基本構成を示す。
光発振器1から出射された発振パルス光は2系統に分岐され、一方は光増幅器31に入射し、残りの発振パルス光は信号光・反射光モニタ部33に導かれ、検知される。前記パルス光の分岐比率は、光増幅器31に入射する光パワーが、信号光・反射光モニタ部33に導かれる光パワーより多くなるように設定する。光増幅器31へ分岐された光は内部に備えられている図示しない増幅媒体に入射され、その増幅媒体で増幅されて出力パルス光として出射される。光増幅器31内の増幅媒体には光学的に励起LD3が接続されているが、光増幅器31から出射された出力パルス光は被照射体20に照射され、その一部の光が反射し、図1の黒太矢印(左向き)で示した戻り光となって高パワーパルス光発生装置に入射され、その戻り光の一部が光増幅器31を介して励起LD3に到達する。このとき、前述のように励起LD3がON状態である場合には、励起LD3が破損するおそれがある。また、光増幅器31に入射した戻り光のうち、励起LD3に入射した光以外の光の一部は、信号光・反射光モニタ部33に入射される。信号光・反射光モニタ部33に入射される戻り光の一部は、励起LD3への戻り光入射の有無を判別する指標となる。
【0024】
以上のような高パワーパルス光発生装置において、光増幅器の増幅媒体に励起光を注入するタイミングと、被照射体からの戻り光が励起LDに到達するタイミングとの関係を図2に示す。
図2のC1の場合は、励起LDをON状態とする高い駆動電流パルス(すなわち前記設定値を越える高いレベルの駆動電流パルス)が励起LD3に印加されて、励起LD3のパルス出力(励起用パルス光)のパワーが高い状態である期間内に、被照射体からの戻り光が励起LD3に入射してしまっている状態を示す。この状態では、前記の被照射体からの戻り光が励起LD3に入射した際に、光学損傷などにより励起LD3が破損するおそれがある。
図2のC2の場合は、被照射体からの戻り光が励起LD3に到達したタイミングで、励起LD3の駆動電流が、その励起LD3をOFF状態とする低い値(すなわち前記設定値以下の低いレベル)に下がって、励起LDがレーザ発振しない状態、すなわち励起LD3の光出力が低い状態になっている場合を示している。この状態では、被照射体からの戻り光が励起LD3に入射した際に、励起LD3が光学損傷を受けることはなく、破損することはない。
図2のC3の場合も、C2の場合と同様に被照射体からの戻り光が励起LD3に到達したときに、励起LD3の駆動電流が励起LD3をOFF状態(レーザ発振しない発光)とする低い値(前記設定値以下の低いレベル)に下がっている状態を示しているが、励起LD3の駆動電流が設定値以下になってから戻り光が励起LD3に到達するまでの時間が長ければ、高パワー光パルス信号発生装置の加工効率が悪化する。
そこで本発明では、図2のC2の状態を生じさせるべく、被照射体からの戻り光が励起LD3に到達するタイミングに応じて、適切に励起LD3の駆動電流の制御を行う。
【0025】
図3は、本発明の高パワーパルス光発生装置における制御状況を示している。マスタクロックジェネレータ9は制御部40の図示しない信号入力部に接続されている。さらに光発振器1、および励起LD3に駆動電流を印加するためのドライバ(駆動部)4はそれぞれ制御部40の図示しない信号出力部と接続されている。
光発振器1からはマスタクロックに同期したパルス光(発振パルス光)が出射され、光増幅器31に入射される。ドライバ4から励起LD3に印加される駆動電流は、制御部40により前記マスタクロックに同期するように制御される。励起LD3からは駆動電流に応じた励起用パルス光が出力され、励起LD3と光学的に接続された光増幅器31に入射される。励起用パルス光が入射された光増幅器31では、図示しない増幅媒体の利得が増え、発振パルス光の入射時に前記増幅媒体内で誘導放出が発生し、増幅されたパルス光が生成され、高パワーパルス光発生装置から出力パルス光として出射される。
【0026】
さらに本発明を、より具体化した実施形態について、図4、図5を参照し、以下に説明する。
【0027】
図4には、本発明の第1の実施形態の高パワーパルス光発生装置を示す。この高パワーパルス光発生装置は、光ファイバ10と、マスタクロックジェネレータ(水晶発振子など)9と、光発振器1と、光増幅器31と、制御部40とを配置したものである。光発振器1から発生した発振パルス光を増幅させるための光増幅器31は、増幅媒体であるYb添加ダブルクラッドファイバ(DCF)2と、励起LD結合器8とを備え、Yb添加DCF2の励起LD3が励起LD結合器8により光学的にYb添加DCF2と接続され、かつ励起LD3にはドライバ4が接続されている。さらに方向性を有するファイバカプラ(以降、方向性ファイバカプラ)5により、発振パルス光は第1モニタ部としてのフォトディテクタ(PD)6のみに入射し、被照射体20からの戻り光は、第2モニタ部としてのPD7のみに入射するように構成されている。発振パルス光を検出するためのPD6と、被照射体20からの戻り光を検出するためのPD7とを有する信号光・反射光モニタ部33は、光ファイバ10に接続されている。
この高パワーパルス光発生装置全体を制御する制御部40は、光発振器1と、励起LD3の駆動部であるドライバ4に接続されている。実際には、この制御部40としては、制御用コンピュータの中央処理装置(Central Processing Unit:CPU)やElectrically Erasable Programmable Read Only Memory(EEPROM)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA)を適用することができる。
なお、ファイバカプラ5としては、ファイバ付きのタップカプラなどを用いると簡便である。この場合、タップ分岐比が20dB以上の適切な値に調整されていることが望ましい。
【0028】
次に、図4に示した高パワーパルス光発生装置の動作および機能を説明する。
マスタクロックジェネレータ9からマスタクロックが生成され、制御部40から発振パルス光の開始信号、およびマスタクロックに基づくクロック信号が光発振器1に入力されれば、光発振器1から前記クロック信号に同期した発振パルス光が生成されてYb添加DCF2に入射する。また、制御部40により、マスタクロックに同期するように制御されたパルス状駆動電流がドライバ4に印加され、駆動電流に応じた電流が励起LD3に流れ、励起光が出射される。Yb添加DCF2に、励起LD3からの励起光が入射すると、Yb添加DCF2のYb元素が励起され、Yb添加DCF2の利得が増加して反転分布率が高くなり、誘導放出の発生によりYb添加DCF2から、増幅された出力パルス光が出射される。
【0029】
Yb添加DCF2から出射した出力パルス光は、光ファイバ10を伝搬し、高パワーパルス光発生装置から出射して、被照射体20に照射される。そして被照射体20からの戻り光は、高パワーパルス光発生装置の出射面から装置内に入射され、光ファイバ10を伝搬した後、光増幅器31の励起LD3に到達する。このとき、励起LD3がレーザ発振状態、すなわちON状態である場合は、励起LD3が破損するおそれがある。
【0030】
さらに、図4に示す実施形態の高パワーパルス光発生装置におけるタイムチャートを図5に示し、以下に図4を参照しつつ、図5のタイムチャートを説明する。
【0031】
図4に示しているように、
L1:光発振器1からファイバカプラ5までの光の伝搬距離
L2:ファイバカプラ5からYb添加DCF2までの光の伝搬距離
L:Yb添加DCF2から被照射体20までの光の伝搬距離
L3:ファイバカプラ5からPD6までの光の伝搬距離
L4:ファイバカプラ5からPD7までの光の伝搬距離
とする。また、nを光ファイバ10のコアの屈折率、nを空気の屈折率、cを真空中の光速とする。
【0032】
ここで、励起LD3をOFF状態にする駆動電流状態(前記設定値以下の状態)を第1状態、励起LD3をON状態にする駆動電流状態(前記設定値を越える状態)を第2状態とする。なお、その駆動電流は、制御部40によって第1状態または第2状態に切り替えられる。
また、図5に示すように、
T1:励起LD3駆動電流[ILD]が第1状態になるタイミング
T2:被照射体20からの戻り光[IR]が光増幅器31の励起LD3に到達するタイミング
T3:[ILD]が第2状態になる直前のタイミング
T4:発振パルス光[Ss]が生成されるタイミング
とする。
【0033】
励起LD3の破損を防止するためには、被照射体からの戻り光が励起LD3に到達した際に、励起LD3の駆動電流は第1状態になっていなければならない。
ここで、Yb添加DCF2における光の伝搬距離および、励起LD結合器8と励起LD3との間の光の伝搬距離は無視し、図5に示すように、T1からT4までの時間をt4とすると、制御上t4>0は、戻り光が到達したときに励起LD3の駆動電流を第1状態にするための必要条件である。
T4からT2までの時間をt2とすると、
t2={(L1+L2)c/n}+(2Lc/n
である。
ここで、励起LD3の破損を防止する為には、T1から(t4+t2)経過後も、励起LD3の駆動電流は第1状態になっていなければならない。
さらに、T4から、[IR]が励起LD3に到達し、PD7でパルス光[I7]として受光されるまでの時間をt3とすると、
t3=t2+(L2+L4)c/n
である。
ただし、前記のYb添加DCF2における光の伝搬距離および、励起LD結合器8と励起LD3との間の光の伝搬距離が各伝搬距離L1、L2、Lに対して相対的に長い場合は、前記2つの伝搬距離を無視せずに考慮してt2、t3の時間を算出する必要がある。
【0034】
T1からT3までの時間をtとすると、励起LD3の破損を防止するためには、前述のt4>0に加え、t>(t4+t3)が成り立つことが必要である。すなわち、被照射体からの戻り光が励起LD3に到達した際も、励起LD3の駆動電流は第1状態になっていなければならない。そこで、前記のtに関する条件を“励起LD破損防止条件”とする。
【0035】
また、t2は、Yb添加DCF2と被照射体20との距離Lから算出される。(例えば、L=1mである場合には、t2=5nsである。)通常は、Lが20m以内であるため、t2は100ns以内となり、励起LD3の駆動電流の制御速度は1μs程度の時間分解能で動いていることから、本発明の高パワーパルス光発生装置の多くの用途においては、発振パルス光をYb添加DCF2に入力したタイミングから0.1ns以内に励起LD3の駆動電流を第1状態にしていれば、励起LD3の破損を防止できる。すなわち、図2のC2に示すようにYb添加DCF2に戻り光が入射した時点で励起LD3をOFF状態に制御することができ、励起LD3の破損を防止することができる。
【0036】
次に、信号光・反射光モニタ部33の機能と動作について説明する。図4に示すように、光ファイバ10にPD6、PD7を有する信号光・反射光モニタ部33を方向性ファイバカプラ5(溶融延伸型など)で接続することにより、PD6は発振パルス光を受光する第1モニタ部Aとして機能し、PD7は被照射体20からの戻り光を受光する第2モニタ部Bとして機能する。そして、これらのモニタ部による各光検出信号が制御部40に与えられて、それらの検出信号によりタイミング制御を行うようになっている。
【0037】
ここで、PD7で[I7]を受光してから、T3までの時間をt5とする。t5は、L、L1〜L4、tによって決まる。また、光発振器1からの発振パルス光がPD6で受光されるタイミングと、前記パルス光がYb添加DCF2に入射するタイミングが同じであるとみなす。このとき、励起LD3に被照射体からの戻り光が到達するタイミングは、PD6での受光タイミングとPD7での受光タイミングとの間である。
【0038】
本実施形態の高パワーパルス光発生装置において、t4は光発振器1のシステム条件から算出される値であり、t5はこの実施形態の高パワーパルス光発生装置のユーザが設定する値であるため、制御部にt4とt5の値を予め入力しておき、励起LD3の駆動電流および励起用パルス光の立ち下がりから立ち上がりまでの時間tを、“T1からPD6で発振パルス光を受光するまでの時間差と、PD6で前記パルス光を受光してからPD7で被照射体20からの戻り光を受光するまでの時間差と、t5との加算時間”に設定することにより、
t=t4+t3+t5
になり、t5≧0ならば励起LD破損防止条件が成り立つため、励起LD3が被照射体20からの戻り光により破損することを防ぐことができる。
【0039】
このように、PD6およびPD7を用いて、光発振器1からの発振パルス光および被照射体20からの戻り光のそれぞれの光検出信号を制御部40にフィードバックし、制御部40から上述の励起LD破損防止条件が成り立つように励起LD3のドライバ4に駆動電流の立ち上がりのタイミングを制御する信号を発信することにより、前記戻り光が励起LD3に到達した際には、励起LD3の駆動電流を第1状態として、励起LD3が被照射体20からの戻り光によって破損することを防ぐことが可能になる。
また、前記駆動電流の立ち上がりのタイミングを、戻り光が励起LDに到達した後、マスタクロックに同期した励起LD駆動電流制御のタイミングで励起LDの電流値を発振状態になるように設定することで、即座に光増幅器に励起光を注入でき、励起LDの光学損傷を回避しつつ、効率の良いレーザ加工やレーザ測定が可能となる。
【0040】
第1の実施形態の高パワーパルス光発生装置においては、PD6、PD7を用いて発振パルス光と戻り光の光強度を各々制御部40にフィードバックし、制御部40により前記の2つのタイミングの時間差に応じてパルス状駆動電流を制御する。このとき、前記時間差をフィードバックして前記駆動電流の制御を行う頻度は、被照射体20を設置する位置を決める際に一度だけ行っても、出力パルス光のピーク毎に行っても、いずれでもよい。
ただし、被照射体20が段差を有する物体である場合、および高パワーパルス光発生装置から出力パルス光が出射されている状態で、高パワーパルス光発生装置と被照射体20との距離が変化する場合のいずれかの場合には、前記時間差を励起LD3の駆動電流へ反映させる頻度は、出力パルス光のピーク毎であることが望ましい。
【0041】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されないことはもちろんである。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の追加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。
【0042】
なお、本発明の高パワーパルス光発生装置は、レーザ加工用あるいはレーザ測定用の光源に最適であるが、それらに限定されないことはもちろんであり、高パワーのパルス光が求められる用途には、すべて適用可能である。
【符号の説明】
【0043】
1…光発振器、2…Yb添加ダブルクラッドファイバ(DCF)、3…励起LD、4…ドライバ(駆動部)、5…方向性ファイバカプラ、6,7…フォトディテクタ、8…励起LD結合器、9…マスタクロックジェネレータ、10…光ファイバ、20…被照射体、31…光増幅器、33…信号光・反射光モニタ部、40…制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスタクロックを発生するマスタクロックジェネレータと、前記マスタクロックに同期して光パルスを発生する光発振器と、前記光発振器からの光パルスを増幅して高パワーパルス光を出力する光増幅器と、前記光増幅器を励起するための励起用パルス光を発生する励起半導体レーザと、前記励起半導体レーザと前記マスタクロックに同期するパルス状の駆動電流により駆動するための駆動部と、前記駆動部を制御するための制御部とを有し、
前記高パワーパルス光が照射される被照射体からの戻り光が前記光増幅器に接続された励起半導体レーザに到達する時点において、前記励起半導体レーザの駆動電流が前記励起半導体レーザがレーザ発振状態にならない設定値以下に制御され、前記制御のタイミングは被照射体と前記励起半導体レーザとの間の光路長に応じて定められていることを特徴とする高パワーパルス光発生装置。
【請求項2】
請求項1に記載の高パワーパルス光発生装置において、
前記光発振器と前記光増幅器との間に、光発振器の発振パルス光と前記戻り光を検出するためのモニタ部が設けられ、かつそのモニタ部により検出された前記発振パルス光のパルス検出信号および戻り光のパルス検出信号がそれぞれ前記制御部に電気的に導かれて、これらのパルス検出信号に基づいて前記励起半導体レーザの駆動電流を前記設定値以下とする期間を制御するように構成したことを特徴とする高パワーパルス光発生装置。
【請求項3】
請求項1に記載の高パワーパルス光発生装置において、
前記光発振器と前記光増幅器との間に、光発振器の発振パルス光を検出するための第1モニタ部と、前記戻り光を検出するための第2モニタ部が設けられ、かつ各モニタ部により検出された前記発振パルス光のパルス検出信号および戻り光のパルス検出信号が、それぞれ前記制御部に電気的に導かれて、これらのパルス検出信号に基づいて前記励起半導体レーザの駆動電流を前記設定値以下とする期間を制御するように構成したことを特徴とする高パワーパルス光発生装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかの請求項に記載の高パワーパルス光発生装置において、
前記戻り光が前記励起半導体レーザに到達後、マスタクロックに同期したタイミングで、前記励起半導体レーザの駆動電流が、前記設定値を越えて前記励起半導体レーザがレーザ発振状態となる値に制御されることを特徴とする高パワーパルス光発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−55283(P2013−55283A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193777(P2011−193777)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】