説明

高レベルのタンパク質を産生する発現ベクター及び方法

発現ベクターを使用した対象のタンパク質の高発現のための方法。前記方法は、少なくとも以下の調節エレメント、すなわち、a)CMVプロモーターまたはその機能的変異体、b)イントロン、c)TPLまたはその機能的変異体、d)VA遺伝子または機能的変異体、及びe)ウシ成長ホルモンポリアデニル化配列または機能的変異体を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物細胞において高レベルの組換えタンパク質の産生のための新規発現ベクター、及び同ベクターを使うことにより対象のタンパク質を産生する方法に関する。これらの発現ベクターは、文献に報告されている最良のベクターの一部よりも80〜100%高い発現の組換えタンパク質EPOを与える。
【背景技術】
【0002】
IMS healthによれば、全製薬市場のうちのバイオ医薬品の占有率は、1999年の6%から2009年の14%(900億ドル)に増加すると予想されている。このように生物製剤の需要が増加したのは、主として、小分子をベースとする薬剤と比べて、毒性の危険がかなり減少され詳細に明らかにされる、その一般に高度に特異的な作用標的のためである。さらに、組織抽出物や体液から生物製剤を精製する以前の技術とは対照的に、これらの生物製剤を作製するために組換え技術を用いることにより、非常に高純度で、詳細に明らかにされた安全性のある、且つ物理化学的特徴のある製品を容易に作製することができる。患者に優しいこれらの性質は備わってはいるが、大半の組換え生物薬剤は依然として極めて高価であり続けるために、世界のほとんどの人には依然として手が届かない。従って、エリスロポエチンのような救命薬、生活の質を大いに高めるエタネルセプトのような薬剤、並びにリツキシマブ、トラスツズマブ、及び他のあらゆるモノクロナール抗体などのような多くの抗癌剤は、ごくわずかな割合の人だけが購入することができ、世界中の大多数の病人はそれらを十分に使うことができない。従って、これらの薬剤の価格を引き下げる緊急の必要性がある。この高価格の大きな要素は、薬剤の製造に付随するものである。本発明は、トランスフェクションした哺乳動物宿主細胞において、高発現のタンパク質を与え得る発現ベクターを提供することによって、この問題の解決策を提供する。
【0003】
近年、組換えDNA技術は、一般に、後に治療薬として使用された場合に生物製剤とも呼ばれる所望のタンパク質産物をコードする所望の遺伝子を得ることが容易に可能である段階にまで進歩している。前記遺伝子が得られると、まず前記遺伝子を多くの入手可能な宿主特異的発現ベクターのいずれか1つにクローニングし、続いて前記遺伝子保持ベクターを種々の形質転換またはトランスフェクション法を使うことにより特定の宿主に導入することによって、前記遺伝子の発現のために種々の宿主を用いることができる。これらの遺伝子を形質転換された宿主細胞からタンパク質産生を得るために、種々の発酵条件も利用可能である。前記宿主の選択、並びにそれに続く発現ベクター、形質転換とトランスフェクション技術、及び発酵方法の選択などの相互依存する選択は、産生されるタンパク質の特徴、前記タンパク質の最終用途、必要なタンパク質の量、利用できる精製方法、全費用、及び利用可能な技術など多くの要因に依存している。例えば、産生される組換えタンパク質が治療的応用を目的とする本発明の対象に関連して、前記タンパク質の一次、二次、及び三次構造、そのグリコシル化の程度及び質、最終産物の純度、産生されるタンパク質の量、前記薬剤を販売できる価格、すべてが発現宿主を選択し、他の相互依存する選択を行う前記方法に寄与する。
【0004】
生物製剤の高い製造費用という前記の問題に取り組むための1つの考えられる解決策は、大腸菌などの細菌宿主細胞内で生物製剤を発現させることである[Marino,M.H.、BioPharm、2:18〜33頁(1989年);Georgiou G.、Protein engineering:Principles and practice、Wiley Liss、New York、101〜127頁(1996年);Gold, L. Methods Enzymol、185:11〜14頁(1990年);Hodgson, J.、Bio/Technology、11:887〜893頁(1993年);Nicaudら、J.Biotechnol. 3:255〜270頁(1986年);Olins, P. O.、及びS. C. Lee.、Curr. Opin.Biotechnol. 4:520〜525頁(1993年);Shatzman, A. R.、Curr. Opin. Biotechnol、6:491〜493頁(1995年)]。一般的に使用されている細菌宿主の大腸菌は、組換えタンパク質の産生のための重要な宿主生物であり、工業的生産に広く使用されている。その多くの利点には、容易な培養、低価格、及び高い産生能がある[Shuhua Tanら、Protein Expression and Purification、25:430〜436頁(2002年);Cornelia Rossmannら、Protein expression and Purification、7:335〜342頁(1996年)]。しかし、細菌宿主は、タンパク質をグリコシル化するのに必要な機構がないために、生物製剤の作製には一般には理想的ではなく[Old R W、及びPrimrose S.B.、Principles of Gene Manipulations, An introduction to genetic Engineering、Blackwell science、United Kingdom.(1994年)]、大半の哺乳動物治療用タンパク質は、適切にグリコシル化されなければ十分に機能的ではない。さらに、培養培地へのタンパク質の効率的な放出のための分泌機構の欠如、広範囲なジスルフィド結合形成を促進する能力の制限、不適切な折りたたみ、宿主細胞プロテアーゼによるタンパク質の分解、コドン使用頻度の重要な相違、糖化などの他の修飾などが相まって、細菌系は哺乳動物系に比べてそれほど魅力的ではないものとなっている[Fuh, G.ら、J.Biol. Chem、265:3111〜3115頁(1990年);Liangら、Biochem.J.,229:429〜439頁(1985年);Sarmientosら、Bio/Technology、7:495〜501頁(1989年);Savvas C. Makrides、Microbiological Reviews、1996年9月、512〜538頁;N.Jenkins及びE.M. Curling、Enzyme Microb. Technol.、16:354〜364頁(1994年)]。従って、治療用タンパク質を細菌内で発現させるのは通常は可能ではなく、たとえ、組換えタンパク質の発現レベルが低くなるせいで製造費用が高くなり、培養するための必要条件が厳密になり、増殖速度が遅くなるなどしても、大半の生物製剤は発現のために真核生物宿主細胞を利用する[Cornelia Rossmann、Protein Expression及びPurification、7:335〜342頁(1996年);Geoff T. Yarranton、Current Opinion in Biotechnology、1:133〜140頁(1990年)]。
【0005】
哺乳動物宿主系は治療用タンパク質の産生に非常に有利なので、それらに伴う高い製造費用というこの問題に取り組むことは極めて重要である。製造費用は生産性を高めることにより引き下げることができるので、これらの宿主細胞により産生することができる産物の量を増やすことにかなりの労力が費やされてきた。宿主細胞により産生される産物の量を通常制御している要因には、培養条件などの細胞の外部にある要因、及び細胞の内部にある要因があり、その大多数が転写[Foecking及びHofstetter、Gene、45:101〜105頁(1986年);Kaufmanら、Journal of molecular Biology、159:601〜621頁(1985年);Wurmら、PNAS、1983:5414〜5418頁(1986年);Reiser及びHauser、Drug Research、37:482〜485頁(1987年);Zettlmeisslら、Biotechnology、5:720〜725頁(1987年)]及び翻訳[R. Grabherr及びK. Bayer、Food Technol. Biotechnol. 39(4) 265〜269頁(2001年);Randal J. Kaufmanら、Molecular Biotechnology、16(2)、151〜160頁(2000年); Juraj Hlavatyら、Virology 341、1〜11頁(2005年);C. M. Stenstromら、Gene. 273(2)、259〜65頁(2001年);M. Ibba及びD. Soll、Science、186、1893頁(1999年)]の効率と質を調節し、発現ベクター自体の設計に圧倒的に依存している要因である。文献では培養条件を改良することにより宿主細胞の生産性を高める数多くの努力が報告されているが[Palermo D. P.ら、Journal of Biotechnology、19:35〜48頁(1991年);Birch及びFroud、Biologicals、22:127〜133頁(1994年);Osmanら、Biotechnology及びBioengineering、77:398〜407頁(2003年);Dezengotitaら、Biotechnology and Bioengineering、77:369〜380頁(2002年);Schmelzer及びMiller、Biotechnology Prog.、18:346〜353頁(2002年);Dezengotitaら、Biotechnology及びBioengineering、78:741〜752頁(2002年);並びにSunら、Biotechnology Prog.、20:576〜589頁(2004年)]、これらの外部要因の改良は、発現を限られた範囲でしか増やすことはできず、理想的な基礎レベルの発現を得るようにまず発現ベクターを最適化していなければ、商業的には効果がない。
【0006】
先行技術には、遺伝子発現を改良するために内部要因に取り組む膨大な数の研究が報告されている。下記の内部要因は、遺伝子発現を多くの形で調節する調節エレメントとしても知られている。対象の遺伝子が発現ベクターから発現されるためには、前記遺伝子をmRNAに転写させ、次いでタンパク質に正確に翻訳させる適切な5'及び3'隣接配列の制御の下に遺伝子を置かなければならないことは先行技術において公知である。TATAボックス[Boshart, M.ら、Cell、41:521〜530頁(1985年);Browning, K.S.ら、J. Biol. Chem.、263:9630〜9634頁(1998年);Dorsch-Hasler, K.ら、PNAS、82:8325〜8329頁(1985年)]、CMV最初期プロモーター、SV40初期または後期プロモーター、アデノウイルスメジャー後期プロモーターのようなウイルスプロモーター[Luigi R.、Gene、168:195〜198頁(1996年);Pizzorno, M.C.ら、J. Virol.、62:1167〜1179頁(1988年);Okayama及びBerg、Mol. Cell. Biol.、2:161〜171頁(1982年);Wongら、Science、228:810〜815頁(1985年);Foecking及びHofsteffer、Gene、45:101〜105頁(1986年)]、及びマウスメタロチオニンプロモーター、ニワトリβアクチンプロモーターなどの哺乳動物プロモーター[Nicole Israelら、Gene、51:197〜204頁(1987年);Karin, M.及びRichards、Nature、299:797〜802頁(1982年);Miyazakiら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、83:9537〜9541頁(1986年)]などのプロモーター、CMV最初期エンハンサーなどのエンハンサー[Cockett, M.I.ら、Nucleic Acids Research、19:319〜325頁(1996年)]、翻訳開始及び停止コドン[Lehningerら、Principles of Biochemistry 第3版、Worth Publishiers、第27章、1025頁]、並びにウシ成長ホルモン(BGH)及びSV40のポリアデニル化部位などのポリアデニル化部位[Carswell, S.及びAlwine, J.C、Mol. Cell. Biol. 9:4248〜4258頁(1989年)]などの多くの重要な5'及び3'隣接配列が報告されている。イントロンは、通常はエキソン間の介在配列として真核生物遺伝子の不可欠な一部を形成しており、RNAスプライシングとして知られるプロセスにより一次転写物から正確に取り除かれて成熟mRNAが形成されるもう1つの内部要因である。RNAスプライシングは、mRNAの安定性[Buchmanら、Mol. Cell Biol. 8:4395〜404頁(1988年);Petersonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、83:8883〜87頁(1986年)]、及び遺伝子発現の調節[Brinsterら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、85:836〜40頁(1988年);Dynan, W.S.及びTjian, R.、Nature、316:774〜778頁(1985年)]を担うことが広く実証されている。Huangらにより報告され、アデノウイルス主要後期転写物の5'ドーナー部位及びマウス免疫グロブリンの3'スプライス部位からなるイントロンなどの合成キメライントロンも開発されている[Huangら、Nucleic Acids Res.、18:937〜47頁(1990年)]。そのようなキメライントロンは、他のよく使われているイントロンよりも異種遺伝子発現をよく支持する[Huangら、Nucleic Acids Res、18:937〜47頁(1990年);Ted Choiら、Molecular及びCellular Biology、11(6):3070〜3074頁(1991年)]。
【0007】
高度に効率的な内部要因のよく利用される供給源はウイルスである。ウイルスは、それ自体の内部要因を使用して、それ自体の増殖及び生存に有利に宿主及びウイルス遺伝子発現を操作する自然界で最も効率的な寄生生物であることは公知である。これらは、最終的にタンパク質産生を改良する発現ベクターの設計におけるその役割も集中的に研究されてきた。分子生物学の分野で知られている最も効率的なプロモーターの一部はウイルス由来である[Luigi R.、Gene、168:195〜198頁(1996年);Pizzorno, M. C.ら、J. Virol.、62:1167〜1179頁(1988年);Okayama及びBerg、Mol. Cell. Biol.、2:161〜171頁(1982年);Wongら、Science、228:810〜815頁(1985年);Foecking及びHofsteffer、Gene、45:01〜105頁(1986年)]。多くのウイルスが遺伝子レベルで集中的に研究されてきており、宿主細胞内でmRNAの核内及び細胞質内での代謝を変化させることができる個々の配列が同定されている。アデノウイルス三成分リーダーエレメント(TPL)(GI:209811)[Akusjarvi G.ら、J Mol Biol.、134(1):143〜58頁(1979年)]は、直接付加されるとウイルス感染細胞内で非ウイルスRNAの翻訳までも増強することが知られているエレメントの1つである[Berkner K.L.ら、Nucleic Acids Res.、13(3):841〜57頁(1985年)]。アデノウイルス主要後期転写単位にコードされているmRNAはすべて、この共通の5'非コード領域を共有している。このエレメントは転写物の核内半減期を減少させることができる[Huangら、J Virol.、2(1):225〜35頁(1998年)]。このエレメントは前記mRNAの翻訳も増強することが知られている[Kaufman R. J.ら、Proc Natl Acad Sci U S A.、82(3):689〜93頁(1985年)]。別のエレメントは、アデノウイルスウイルス関連RNA遺伝子I及びII(GI:209811)またはその機能的変異体である。前記VA RNA遺伝子I及びII(VA遺伝子)は、TPL配列を含有する遺伝子の翻訳効率を高めることが証明されている[Kaufman R. J.ら、Proc Natl Acad Sci USA.、82(3):689〜93頁(1985年)]。前記VA RNA I遺伝子はEIF2aの脱リン酸化に関与しており、従ってタンパク質合成速度を高める[O'Malleyら、Cell、44:391〜400頁(1986年);Thimmapayya B.,ら、Cell、31:543〜551頁(1982年)]。
【0008】
もう1つのよく使われている内部要因は、遺伝子発現を高めるために好まれる手法である遺伝子コピー数である[Kaufman及びSharp、Journal of molecular Biology、159:601〜602頁(1982年);Pendse G.J.ら、Biotechnology及びBioengineering、40:119〜129頁(1992年);Schimke, R.T. 編、Gene Amplification. Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、NY、1982年]。遺伝子コピー数を増やすために使われる最も一般的な方法は、遺伝子増幅のために細胞を選別することである。例えば、EP0045809または米国特許第4634665号に記載されているように、この手法では、宿主細胞は一対の遺伝子で形質転換される。前記対中の第1の遺伝子は所望のタンパク質をコードしており、第2の遺伝子は選択可能なマーカー、例えば、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)をコードしている[Alt, F.W.ら、J. Biol. Chem.、253:1337〜1370頁(1978年)]。これら2つの遺伝子は、単一発現ベクター上または2つの別々の発現ベクター上に存在している。細胞をこの対の遺伝子でトランスフェクションした後、選択マーカーとしてDHFR遺伝子を利用する方法の場合にはメトトレキサートなどの毒物の濃度を増やしながら細胞を培養し、毒物の効果は選択可能なマーカー遺伝子の産物により無効にされる。比較的高濃度の前記毒物中で生存する細胞系は、前記選択可能なマーカー遺伝子と所望の産物遺伝子両方の増加したコピー数を有することがわかっている。関連遺伝子の増幅したコピー数を有する選別された宿主細胞は、この時点で元の細胞系よりも多量の所望のタンパク質を産生することができる。アデノシンデアミナーゼ(ADA)、オルニチンデカルボキシラーゼ(ODC)、アスパラギン合成酵素(AS)[Chiang, T.及びMcConlogue、Mol. Cell. Biol. 764〜769頁(1988年);Cartier, M.ら、Mol. Cell. Biol.、7:1623〜1628頁(1987年);Germann, U.A.ら、J. Biol. Chem. 264:7418〜7424頁(1989年);Mkeille Cartier及びClifford P. Stanners、Gene、95:223〜230頁(1990年);Wood C.R.ら、J Immunol、145:3011〜3016頁(1990年);Kellems R. E.ら、Genetics and Molecular Biology of Industrial Microorganisms、American Society for Microbiology、Washington、215〜225頁(1989年)]、及びグルタミン合成酵素(GS)[Catherine W-H.ら、J. Biol. Chem.、276:43、39577〜39585頁(2001年);Bebbingtonら、Biotechnology、10:169〜175頁(1992年);Bebbington, C.R.、Monoclonal antibodies:the next generation、Zola,H.編、Bios Scientific、Oxford、65〜181頁(1995年);Wilson, R.H.、「Gene Amplification in Mammalian Cells」 Kellens, R.E.編、Marcel Dekker Inc.、New York、301〜311頁(1993年)]などの他の選択マーカーを使う遺伝子増幅のための類似の手法も利用されている。
【0009】
これら前記の調節エレメントまたは内部要因は、単独では一般に遺伝子発現を与えることはできず、組み合わせて使わなければならない。しかし、前記エレメント自体はよく理解されているが、それらの組合せの効率は高発現を絶対的に予測し得るものではない。一部の組合せは他の組合せと比べて非常に発現に乏しい。例えば、SRαプロモーター、AMV RNAリーダー配列、及びDHFRの組合せからなる発現ベクターを使用したJangらは、わずか45 IU/mL(0.346μg/mLに相当)のエリスロポエチン(EPO)発現しか得られなかったが[Jang H Pら、Biotechnol. Appl. Biochem、32:167〜172頁(2000年)]、米国特許第5955422号では、エレメントの別の組合せ、すなわち、SV40プロモーターとポリA配列、及びDHFRからなる発現ベクターを使用して、750〜1470 U/106細胞/48時間(または、375〜735 U/106細胞/24時間)のEPOレベルが報告されている。米国特許第5888774号で報告され、EF1プロモーター及びapoB SARエレメントの組合せからなるもう1つの発現ベクターでは、1500〜1700 IUのEPO/106万細胞/24時間の発現が報告されている。TNFR-IgGFc(Enbrel)などの別の組換えタンパク質では、CMVプロモーター、TPL、VA I及びII、並びにDHFRの組合せを含有する発現ベクターが報告されている[米国特許第5605690号、Cindy A Jacobs及びCraig A Smith]。
【0010】
前記の前進は見られたが、組換え生物製剤、特に哺乳動物発現系を利用する生物製剤の高い製造費用は、まだ大きな懸案事項のままである。従って、先行技術が、発現ベクターを調節することによりタンパク質発現を増やす多数の方法を報告しているが、それでも真核生物宿主細胞の生産性をさらに高めるために新規発現ベクターを開発することが望ましい。驚くべきことに、この分野ではこの20年間でおびただしい量の知識が生み出されたにもかかわらず、今日でも当業者は、保証された高発現を与えると考えられる発現ベクターを設計するための内部要因または調節エレメントの組合せを単に選別することもできないでいる。特定のエレメントは、組合せに加えても、ベクターの発現力になんら有意の付加的効果または相乗効果を与えないことがある。従って、高レベルのタンパク質発現を与えると考えられる新規の発現ベクターの開発過程には、実験的に多くの可能性を検証する必要が依然としてある。我々は、CHO-DHFR-細胞に安定的にトランスフェクションすると168時間培養で11,830 IU/mL(91μg/mL)、これは2366〜3549 IU/106細胞/24時間または18.2〜27.3μg/106細胞/24時間に相当する発現を与える新規の発現ベクターを発明した。驚くべきことに、EPOのこのレベルの発現は、文献に報告されているなかの最良のベクターの一部よりも80〜100%高い。この新規の発現ベクターは、EPO及び他の組換え生物製剤の製造費用を大幅に引き下げるであろう。
【特許文献1】EP0045809
【特許文献2】米国特許第4634665号
【特許文献3】米国特許第5955422号
【特許文献4】米国特許第5888774号
【特許文献5】米国特許第5605690号、Cindy A Jacobs及びCraig A Smith
【非特許文献1】Marino,M.H.、BioPharm、2:18〜33頁(1989年)
【非特許文献2】Georgiou G.、Protein engineering: Principles及びpractice、Wiley Liss、New York、101〜127頁(1996年)
【非特許文献3】Gold, L. Methods Enzymol、185:11〜14頁(1990年)
【非特許文献4】Hodgson, J.、Bio/Technology、11:887〜893頁(1993年)
【非特許文献5】Nicaudら、J.Biotechnol. 3:255〜270頁(1986年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、哺乳動物細胞における組換えタンパク質の高度に改良された産生のための新規の発現ベクターを提供することにより、前記の技術背景中で記載した問題を解決する。本発明はまた、そのようなベクターを作製する方法、及びタンパク質の高レベルの発現を得るためのそのようなベクターの使用方法も提供する。
【0012】
従って、本発明の主目的の1つは、本明細書に記載の新規のベクターの使用により、高い発現レベルの対象タンパク質を得るための改良された方法を提供することである。
【0013】
本発明において、以下の配列を用いた。
配列:
配列番号1
種類:DNA
長さ:288
配列名:ハイブリッドイントロン
供給源生物:アデノウイルス遺伝子成分とマウス遺伝子成分のハイブリッド
配列:
【化1】

配列番号2
種類:DNA
長さ:1470
配列名:TNFR-IgGFc
供給源:ヒト胎盤RNA
【化2】

配列番号3
種類:DNA
長さ:583
配列名:ヒトエリスロポエチンcDNA
供給源:ヒト腎臓RNA
【化3】

配列番号4
種類:DNA
長さ:373
配列名:TPL
供給源:アデノウイルスGI:209811
【化4】

配列番号5
種類:DNA
長さ:417
配列名:VA I及びVA II遺伝子
供給源:アデノウイルスGI:209811
【化5】

【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、ウイルス及び他の種々のベクター供給源から得られる5個のエレメントの新規組合せを利用して、哺乳動物宿主細胞において高発現の所望のタンパク質という形でこれらのエレメントの相乗効果を与える新規のベクターを開発する。さらに具体的には、これらの発現ベクターは、以下の5個のエレメント、すなわちCMV最初期プロモーター、アデノウイルス三成分リーダーエレメント(TPL)(GI:209811)、ハイブリッド(キメラ)イントロン(配列番号1)、アデノウイルスウイルス関連RNA遺伝子I及びII(GI:209811)、並びにウシ成長ホルモンポリアデニル化配列の新規組合せからなる。
【0015】
5個のエレメントのこの新規組合せを、基本ベクター中のベクターとしてのその機能に不可欠な追加のエレメントと併せて使うと、このようにして作製した前記新規ベクターは、これら5個のエレメントのうちの一部だけを前記基本ベクターと併せて含む他のベクターよりも相乗的に高い発現を示す。安定的にトランスフェクションすると、DHFR増幅マーカーも含有している我々の新規発現ベクターは、文献に報告されているなかで最良のベクターの一部よりも80〜100%高い発現のEPOを与えた。
【0016】
さらに好ましくは、前記新規発現ベクターは、CMV最初期プロモーター、アデノウイルス三成分リーダーエレメント(TPL)(配列番号4)、ハイブリッド(キメラ)イントロン(配列番号1)、アデノウイルスウイルス関連RNA遺伝子I及びII(配列番号5)、クローニング部位、哺乳動物細胞選択マーカー、原核細胞選択マーカー、増幅/選択マーカー、並びにウシ成長ホルモンポリアデニル化部位を含んでおり、すべてが前記ベクターの中で適切な位置に存在している。
【0017】
これらのベクターを使用して産生することができるタンパク質には、FSHのようなホルモン、抗体、エタネルセプトのようなキメラタンパク質、第VII因子のような血液成分、エリスロポエチンのような成長因子、インターフェロン、TNFなどのようなサイトカインがあるが、これらに限定されるものではない。
【0018】
<新規発現ベクターの構築のためのエレメントの供給源>
基本発現ベクター骨格・・・・・・・ pcDNA3.1(Invitrogen1
5個の調節エレメント:
CMVプロモーター・・・・・・ pcDNA3.1(Invitrogen)
キメライントロン・・・・・・・ pIREShyg3(Clontech2
TPL・・・・・・・・・・・・・ pCAV-NOT-TNFR(ATCC 68088)
VA I及びII遺伝子・・・・・・・ pCAV-NOT-TNFR(ATCC 68088)
BGHポリアデニル化配列・・・ pcDNA3.1(Invitrogen)
DHFRミニ遺伝子・・・・・・・ pDHFR2.9(ATCC 37165)
1 Invitrogen Life Technologies社製(米国)
2 Clontech Labpratories Inc.社製(米国)
【0019】
<使用される略語>
CMV・・・・・・・・・・・・・・・ サイトメガロウイルス
TPL・・・・・・・・・・・・・・・・ 三成分リーダー
VA遺伝子またはVA I及びII遺伝子・・・ウイルス関連RNA遺伝子I及びII
BGH・・・・・・・・・・・・・・・ ウシ成長ホルモン
EPO・・・・・・・・・・・・・・・・ エリスロポエチン
TNFR-IgGFc・・・・・・・・・・・・ 腫瘍壊死因子受容体と免疫グロブリンGのFc部分との融合タンパク質
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、哺乳動物細胞における組換えタンパク質のより高い産生のための新規の発現ベクターを提供することにより、前記の技術背景中で記載した高い製造費用の問題を解決する。これらの新規ベクターは、先行技術に報告されているこれまで公知の調節エレメントを使用するが、相乗的により高い発現を驚くほど生じるこれらエレメントの独特の組合せを含む。本発明は、さらにこれら新規のベクターを使用して高レベルのタンパク質を産生する方法を提供する。
【0021】
本発明で使用されるエレメントの新規の組合せは、:
a)CMV最初期プロモーター;
b)アデノウイルス三成分リーダーエレメント(TPL)(配列番号4及びGI:209811);
c)ハイブリッド(キメラ)イントロン(配列番号1);
d)アデノウイルスウイルス関連RNA遺伝子I及びII(配列番号5及びGI:209811);並びに
e)ウシ成長ホルモンポリアデニル化部位;
からなる。
【0022】
これらの新規ベクターを開発するために、エレメントの前記の新規組合せに付け加えるために使うことができる基本発現ベクターは、:
a)クローニング部位;
b)ネオマイシン、ハイグロマイシン、ピューロマイシンなどのような薬剤耐性マーカーからなる(がこれらに限定されるものではない)群から選択される適切な哺乳動物細胞選択マーカー;
c)アンピシリン、カナマイシンなどのような抗生物質耐性マーカーからなる(がこれらに限定されるものではない)群から選択される適切な原核細胞選択マーカー;
d)ジヒドロ葉酸レダクターゼ、アデノシンデアミナーゼ、オルニチンデカルボキシラーゼ、アスパラギン合成酵素、グルタミン合成酵素などからなる(がこれらに限定されるものではない)群から選択される増幅/選択マーカー;
からなる。
【0023】
所望のベクターを調製する方法は、ベクターの種々のエレメントを、他のベクター供給源からまたはその生物学的供給源から単離する工程、そのエレメントをプラスミドに骨格を提供する別のベクターに挿入する工程を含む。これらの構築物に使用する技術は、ベクター構築のために先行技術に報告されている技術から導かれ[Sambrook Jら、Molecular Cloning - A laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、New York (1989年)]、必要に応じて適切な修正を加えられる。
【0024】
所望のタンパク質の産生のために、まず前記タンパク質をコードする対応する遺伝子を入手する。所望の遺伝子を得るためには、一般に以下の技術:
(1)所望の遺伝子のメッセンジャーRNA(mRNA)を単離し、これを逆転写による相補的DNA(cDNA)の作製用の鋳型として使用する技術;
(2)適切な遺伝子特異的ハイブリダイゼーションプローブと制限酵素の組合せを使用して、ゲノムDNAライブラリーから天然の遺伝子を単離する技術
(3)遺伝子特異的プライマーの1つまたは複数の対を使用して、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により特定の遺伝子断片を特異的に増幅することによって前記遺伝子を単離する技術、及び
(4)前記遺伝子をその成分ヌクレオチドから化学的に合成する技術;
を単独でまたは組み合わせて用いる。
【0025】
前記獲得した遺伝子を、当技術分野で公知の方法により新規ベクターのクローニング部位にクローニングする。こうして得られた構築物を適切な哺乳動物宿主細胞に形質転換する。前記方法に使うことができる哺乳動物宿主細胞は、CHO及びCHO DHFR-細胞系、BHK1、NS0、COS細胞系などからなる(がこれらに限定されるものではない)群から選択される。形質転換された細胞は、適切な抗生物質含有培地での増殖能力に基づいて、その後所望のタンパク質の発現能力に基づいて選別される。次に、選択されたクローンは、増殖及びタンパク質産生に適した培養条件下で増殖させ、高レベルの所望のタンパク質を得る。遺伝子コピー数及びそれに続く遺伝子発現は、その効果を選択マーカーのコピー数を増やすことによってのみ無効にすることができる特定の細胞毒性薬剤の増加する淘汰圧の下で、高い遺伝子コピー数の細胞を選別することにより増加させることができる。細胞毒性淘汰圧による遺伝子増幅は、クローンを対象の遺伝子のコピーが異なる異種細胞集団に変えることが多いために、最終的な高産生クローンは限界希釈により異種集団から選択される。
【実施例】
【0026】
<実施例1:TNFR-IgGFc発現ベクターの構築>
哺乳動物発現ベクターのpcDNA 3.1(Invitrogen Life Technologies)を、我々の全ベクターを構築するための基本骨格ベクターとして利用した。このベクターは、遺伝子の転写制御のためのCMV最初期プロモーター及びBGHポリアデニル化シグナル配列からなる。これら2個のエレメントは、我々の新規組合せの5個のエレメントのうちの2個をなす。このベクターはさらに、マルチクローニング部位(MCS)、細菌のpUC複製起点、大腸菌における選別のためのアンピシリン耐性遺伝子、及び哺乳動物細胞における選別のためのネオマイシン耐性遺伝子からなる。新規組合せの5個のエレメントのうち残りの3個のエレメント、すなわちアデノウイルス三成分リーダー配列、アデノウイルスメジャー後期転写物の5'ドーナー部位及びマウス免疫グロブリンの3'スプライス部位からなるハイブリッド(キメラ)イントロン、並びにアデノウイルスVA RNA I及びII遺伝子を、相乗的に一緒に働いて非常に高い発現を与えるエレメントの組合せを見つけるために、さまざまに組み合わせてこのpcDNA 3.1骨格に挿入した。
【0027】
ヒトTNFR-IgGFc融合遺伝子(配列番号2)及びヒトエリスロポエチン遺伝子(配列番号3)をコードするcDNAをレポーターとして使用して、これらのエレメントの組合せのタンパク質発現に対する効果を調べた。図1はTNFR-IgGFc用に開発した発現ベクターを、図3はEPO用に開発した発現ベクターを表す。
【0028】
TNFR-IgGFcは、75kDa TNFR(1〜235 a.a.)並びにIgG1のFc断片(CH2、CH3、及びヒンジ領域を含有する)を含有する融合タンパク質である[米国特許第5605690号]。この融合タンパク質は、リウマチ性関節炎のためのエンブレル(Amgen)という名の薬剤として販売されている。このタンパク質は、炎症性サイトカインのTNF-αを循環から除去することにより機能する。TNFR I cDNAをクローニングするために、ヒト胎盤全RNA(Clontech)を、所望の配列の逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)ベースのクローニング用の鋳型として使用した。二本鎖cDNAは、遺伝子特異的プライミングによってMMLV逆転写酵素(MBI Fermentas、米国)を使用してヒト胎盤全RNAから合成した[Maniatisら、Molecular cloning;A Laboratory Manual (Cold Spring harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.)、(1990年)]。次いで、このcDNAを、50mM Tris-Cl(pH8.3)、2.5mM MgCl2、それぞれ200μMの4種類のdNTP、及び2.5ユニットのPfuポリメラーゼを含有する100μLの容積で、100ピコモルの遺伝子特異的縮重オリゴヌクレオチドプライマーを使用して40サイクルのPCR増幅にかけた。PCR増幅サイクルは、それぞれ、94℃で30秒間(変性)、58℃で30秒間(アニーリング)、及び72℃で1分間(伸長)でのインキュベーションからなっていた。PCR反応の増幅産物を1%アガロースゲルに溶解した。サイズがおよそ705塩基対の所望の断片を前記ゲルから切り出し、Qiagenゲル抽出キットを使用して精製した。この精製したDNA断片を、EcoRI及びPvuII(MBI Fermentas、米国)でベクターと精製PCR産物との両方を制限消化した後に、pcDNA3.1のMCSに連結した。前記連結産物を大腸菌DH5αに形質転換し、形質転換体をアンピシリン耐性に基づいて点数化した。約20個のそのようなコロニーから単離したプラスミドDNAを、種々の制限酵素を使用した制限消化によりTNFR I cDNAの存在について分析した。1個のそのようなプラスミドは、自動DNA配列決定装置(ABI)を使用して配列決定され、pcDNA3.1ベクター中でTNFR I cDNAの正しい組込み及び配列を有することがわかった。このプラスミドDNAを、pcDNA-TNFRと名付けた。
【0029】
同様に、ヒト胎盤全RNA(Clonetech)をRT-PCRベースのクローニング用の鋳型として使用して、IgG1Fc配列の単離も行った。PCRは、IgG1Fc配列のコード領域(699bp)に対応する一対の遺伝子特異的オリゴヌクレオチドプライマーを使用して実施した。PCR増幅サイクルは、それぞれ、94℃で30秒間(変性)、56℃で30秒間(アニーリング)及び72℃で1分間(伸長)でのインキュベーションからなっていた。PCR反応の増幅産物を1%アガロースゲルに溶解した。サイズがおよそ725塩基対の所望の断片を前記ゲルから切り出し、Qiagenゲル抽出キットを使用して精製した。この精製したDNA断片を、ベクターの直線化、並びにEcoRI及びNot I(MBI Fermentas、米国)を使用した精製PCR産物の消化の後に、pTZ57R(MBI Fermentas)ベクターに連結した。前記連結産物を大腸菌DH5αに形質転換し、形質転換体をアンピシリン耐性に基づいて点数化した。約10個のそのようなコロニーから単離したプラスミドDNAを、種々の制限酵素を使用した制限消化によりIgG1Fc cDNAの存在について分析した。1個のそのようなプラスミドは、自動DNA配列決定装置(ABI)を使用して配列決定され、pTZ57Rベクター中でIgG1Fc cDNAの正しい組込み及び配列を有することがわかった。このプラスミドDNAを、pTZ57R-IgG1Fcと名付けた。
【0030】
[pcDNA-TNFR-IgGFc]
TNFR IとIgG1FC遺伝子断片の融合は、以下の方法により実施された。前記クローニングしたTNFR I断片を、EcoRI及びPvuIIでの完全消化によりpcDNA-TNFRから単離した。IgG1Fc断片を、Pvu II及びNot Iで消化することにより前記pTZ57R-IgG1Fc構築物から単離した。これらの断片を、Qiagenゲル抽出キットを使用してアガロースゲルから単離した。これらのDNA断片を両方とも、3断片連結反応において、EcoRI及びNot Iで前消化された直線化ベクターpcDNA3.1と混合した。前記連結産物を大腸菌DH5αに形質転換し、形質転換体をアンピシリン耐性に基づいて点数化した。約10個のそのようなコロニーから単離したプラスミドDNAを、種々の制限酵素を使用した制限消化によりTNFR-IgGFc融合産物の存在について分析した。1個のそのようなプラスミドは、自動DNA配列決定装置(ABI)を使用して配列決定され、TNFR-IgGFc融合産物の正しい組込み及び配列を有することがわかった。5'末端でCMVプロモーターと、及び3'末端でBGHポリアデニル化配列と隣接する前記融合遺伝子を含有するこのベクター構築物を、pcDNA-TNFR-IgGFc(図1)と名付けた。
【0031】
[pcDNA-TPL-TNFR-IgGFc-VA-DHFR]
このベクターを開発するために、まずアデノウイルスTPLエレメントをpcDNA-TNFR-IgGFc中のCMVプロモーターの下流でTNFR-IgG1Fc遺伝子の上流に挿入した。これは、pCAV/NOT-TNFR(ATCC 68088)をKpnI及びNdeIで完全消化により消化し、TPLを含有する700bp断片を取り出すことによって実施され、前記断片をQiagenゲル抽出キットを使用してさらに精製した。この700bp断片を、KpnI及びNdeIで消化したpcDNA-TNFR-IgGFcベクターに連結した。前記連結産物を大腸菌DH5αに形質転換し、形質転換体をアンピシリン耐性に基づいて点数化した。プラスミドDNAを、種々の制限酵素を使用した制限消化により、こうして得られたプラスミド中のTPLの存在及び方向について分析した。次いで、pInt-TNFR-IgG-1と名付けられた1個のそのような陽性プラスミドDNAを、2個のエレメント、すなわち1つはEcoRI及びNot Iでの二重消化によりpCAV/NOT-TNFRから単離された1000bp VA RNA遺伝子、並びに、もう1つは、BamHI及びSspIで完全消化によりプラスミドのpDHFR2.9(ATCC 37165)[Crouse GFら、Mol. Cell. Biol.、3:257〜266頁(1983年)]から単離されたDHFRミニ遺伝子を挿入するために使用した。これら2個の断片、すなわちDHFRミニ遺伝子断片及びVA RNA遺伝子断片うを、3断片連結反応において、MunI及びBg1IIで前消化されたpInt-TNFR-IgG-1と混合した。前記連結産物を大腸菌DH5αに形質転換し、形質転換体をアンピシリン耐性に基づいて点数化した。プラスミドDNAを、種々の制限酵素を使用した制限消化により、こうして得られたプラスミド中のVA RNA遺伝子及びDHFRミニ遺伝子の存在及び方向について分析した。このベクター構築物を、pcDNA-TPL-TNFR-IgG1Fc-VA-DHFR(図1)と名付けた。
【0032】
[pcDNA-TPL-イントロン-TNFR-IgGFc]
発現ベクターのpcDNA-TPL-イントロン-TNFR-IgGFcを、pInt-TNFR-IgG-1ベクター中のアデノウイルスTPLエレメントの下流でTNFR-IgGFc遺伝子の上流に前記キメライントロンを挿入することにより作製した。これは、pIREShyg3(Clontech)をBstXI及びEcoRIで完全消化により消化し、350bpキメライントロン断片を取り出すことによって実施され、前記断片をQiagenゲル抽出キットを使用してさらに精製した。この350bp断片を、BstXI及びEcoRIで前消化したpInt-TNFR-IgG-1ベクター構築物に連結した。前記連結産物を大腸菌DH5αに形質転換し、形質転換体をアンピシリン耐性に基づいて点数化した。プラスミドDNAを、種々の制限酵素を使用した制限消化により、こうして得られたプラスミド中のTPL、イントロン及びTNFRI-IgG1Fc遺伝子の存在及び方向について分析した。1個のそのようなプラスミドは、自動DNA配列決定装置(ABI)を使用して配列決定され、ベクター中のTPL、キメライントロン、及びTNFRI-IgG1Fc遺伝子の正しい組込みを有することがわかった。このベクター構築物を、pcDNA-TPL-イントロン-TNFR-IgGFc(図1)と名付けた。
【0033】
[pcDNA-TPL-イントロン-TNFR-IgGFc-VA-DHFR(pZRC-TNFR-IgGFc)]
前記のプラスミドDNA、すなわちpcDNA-TPL-イントロン-TNFR-IgGFcを、2個のエレメント、すなわちEcoRI及びNot Iでの二重消化によりpCAV/NOT-TNFRから単離した1000bp VA RNA遺伝子、並びにBamHI及びSspIでの完全消化によりプラスミドpDHFR2.9から単離したDHFRミニ遺伝子を挿入するために使用した。DHFRミニ遺伝子の断片及びVA RNA遺伝子を、3断片連結反応において、MunI及びBg1IIで前消化したpcDNA-TPL-イントロン-TNFR-IgGFcに連結した。前記連結産物を大腸菌DH5αに形質転換し、形質転換体をアンピシリン耐性に基づいて点数化した。プラスミドDNAを、種々の制限酵素を使用した制限消化によりこうして得られたプラスミド中のVA RNA遺伝子及びDHFRミニ遺伝子の存在及び方向について分析した。さらに、組込みをDNA配列決定により調べ確認した。このベクター構築物を、pcDNA-TPL-イントロン-TNFR-IgGFc-VA-DHFRと名付け、pZRC-TNFR-IgGFcとも呼んだ(図1)。
【0034】
<実施例2:一過性トランスフェクションによる種々のTNFR-IgGFc発現ベクターの発現効率の比較>
一過性トランスフェクション実験では、Cos1細胞(ATCC登録番号CRL-1650)、すなわちアフリカミドリザル腎臓線維芽様細胞を使用した。これらの細胞を、37℃の温度、5%二酸化炭素(CO2)の大気中、完全成長培地(4mMのL-グルタミンを含み、1.5g/Lの炭酸水素ナトリウム、4.5g/Lのブドウ糖、10%のウシ胎仔血清(FBS)、及び抗生物質を含有するように調整されたダルベッコ変法イーグル培地)中で規則的に維持した。トランスフェクションの1日前に、中間対数期に増殖している細胞をトリプシン処理し、6ウェルプレートの3mL完全成長培地に2連で蒔いて0.2×106細胞/ウェルの密度にし、37℃及び5%CO2でインキュベーションした。トランスフェクションは、今まで知られているプロトコールを利用してQiagen Polyfect試薬を用いて行われた。トランスフェクション当日、トランスフェクション混合物を、以下のように調製した。エンドトキシンを含まない水に溶解したDNAを全量1.5μgにし、0.2μMのシリンジフィルターを使用してろ過した。最大の構築物、pZRC-TNFR-IgGFcでは、1.5μgのベクターをそのまま使用し、他のもっと小さな構築物では等モル量(TNFR-IgGFc遺伝子に関して)の構築物を空のベクターと混合して全量1.5μgのDNAとした。このDNAを、まず細胞成長培養液、すなわち4mMのL-グルタミンを含み、1.5g/Lの炭酸水素ナトリウム、及び4.5g/Lのブドウ糖を含有し、血清または抗生物質を含有せず、全容量が100μLになるように調整されたダルベッコ変法イーグル培養液に溶解した。ボルテックスによりよく混合し、次いでこの溶液に数秒間短く回転を加えて、管の側壁や頂上からの液滴を除いた。次いで、10μLのPolyFectトランスフェクション試薬をこのDNA溶液に添加した。トランスフェクション混合液を、5〜7回上下にピペッティングすることによりよく混合した。次いで、試料を室温(20〜25℃)で10分間インキュベーションして、複合体を形成させた。複合体形成が行われている間、完全成長培地を6ウェルプレートから穏やかに吸引した。前記播種した細胞を3mL の1×無菌リン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄した。これに続いて、1.5mLの新しい完全成長培養液を添加した。10分間の複合体形成後、0.6mLの完全成長培養液を、前記トランスフェクション複合体を含有する反応管に添加した。次いで、前記プレートを穏やかに回転させて、確実によく混合し、37℃、5%CO2でインキュベーションした。前記使用した培地はトランスフェクションの40時間及び64時間後にウェルから除き、下記のようにELISAによりTNFR-IgGFc発現の分析にかけた。
【0035】
96ウェルマイクロタイタープレート(Nunc Maxisorp)中の必要な数のウェルに、濃度がPBS(pH7.3)中2μg/mLのヤギ抗ヒトIgGFc断片抗体(Calbiochem、カタログ番号401439)を100μL/ウェルの容量でコーティングした。前記プレートは、効率的なコーティングのために4℃の高湿度条件で一晩インキュベーションした。12〜18時間後、結合していないコーティング抗体を除去し、前記ウェルをブロッキング緩衝液(1×PBS中pH7.2で1%BSA、0.05%Tween20、5%スキムミルクに調製した)でブロッキングし、37℃で1時間インキュベーションした。ブロッキングの1時間後、前記プレートをPBST緩衝液(1×PBS、0.1%BSA、0.05%Tween20)で3回洗浄した(各回250μL)。次いで、100μLの試料(未知物質及び標準物質を、1%BSAを含有する1×PBSに適切に希釈)をウェルに2連で添加した。TNFR-IgGFc標準には、25mg/mLのEnbrelタンパク質(Immunex Corporation米国製造、Amgen and Wyeth Pharmaceuticals販売)を含有するEnbrel(エタネルセプト)多重使用バイアルを使用した。標準曲線を作成するために使用した標準物質の濃度は、1ng/mL、2ng/mL、5ng/mL、10ng/mL、20ng/mL、40ng/mL、及び80ng/mLであった。90分のインキュベーション後、抗原−抗体結合を行わせるために、前記プレートをPBST緩衝液で3回洗浄し(各回250μL)、1%BSAを含有する1×PBSに1:20,000で希釈したヤギ抗ヒトIgGFc-HRP(Pierce、カタログ番号31416)である検出用抗体100μLを前記ウェルに添加し、37℃で1時間インキュベーションした。前記プレートを3回洗浄して、結合していない抗体-HRP複合体を除去した。8mgのOPD[o-フェニレンジアミン(1,2-ベンゼンジアミン)二塩酸塩]粉末(Sigma、カタログ番号P-1526)、及びクエン酸リン酸緩衝液(20mL蒸留水中に122.8mgのクエン酸無水及び188mgのNa2HPO4を含み、pH4.8〜5.00に調整)で調製した10μLの過酸化水素を含有する基質溶液を100μL、ウェルごとに添加し、暗所で37℃、30分間インキュベーションした。反応を、1Nの硫酸50μLをウェルごとに添加することにより停止させた。吸光度をELISA読取り装置において490nmで測定した。未知試料の数値は、レーベンバーグ−マルクワルト法の方程式に基づく4パラメーターフィット標準曲線を使用して、SoftMax Pro(Molecular Devices)ソフトウェアにより導き出した。
【0036】
(結果)
図2は、1つのそのような実験から代表的なデータを表す。最高の発現はpZRC-TNFR-IgGFc(72.5±4.3ng/mL)で得られ、この数値は、pcDNA-TPL-TNFR-IgGFc-VA-DHFR(59.44±1.8ng/mL)より21.97%、pcDNA-TPL-イントロン-TNFR-IgGFc(53.05±2.2ng/mL)より36.66%、及びpcDNA-TNFR-IgGFc(14.63±I.4 ng/mL)より395.55%高かった。5個のエレメントの相乗効果は、最大のプラスミドのpZRC-TNFR-IgGFcが最低のトランスフェクション効率を示すはずであるが、依然として最高の発現を与えていたという事実によってさらに支持されている。pZRC-TNFR-IgGFcのエレメントの新規組合せの高発現を与える能力は、以下の他の実施例によりさらに支持されている。
【0037】
<実施例3:EPO発現ベクターの構築>
2個のEPO発現ベクターを開発した。新規の発現ベクターであるpZRC-EPOは、一過性トランスフェクション実験による高発現に対してこれまで選択された新規発現ベクターであるpZRC-TNFR-IgGFcに類似しており、TNFR-IgGFcに代わってEPO遺伝子をコードしている。第2のベクターは、市販の発現ベクターであるpcDNA3.1をコードするEPOであり、DHFRの遺伝子も保持している。
【0038】
[pcDNA-EPO-DHFR]
ヒトエリスロポエチンcDNAを得るために、ヒト腎臓由来の全RNA(Clontech)をRT-PCR用の鋳型として使用した。二本鎖cDNAを、遺伝子特異的プライミングにより、MMLV逆転写酵素(MBI Fermentas、米国)を使用して全RNAから合成した[Maniatisら、Molecular cloning;A Laboratory Manual(Cold Spring harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.)、1990年]。次いで、前記腎臓cDNAを、50mM Tris-Cl (pH8.3)、2.5mM MgCl2、各dNTPを200μM、及び2.5ユニットのPfuポリメラーゼを含有する100μLの容量中100ピコモルの遺伝子特異的縮重オリゴヌクレオチドプライマーを使用して、35サイクルのPCR増幅にかけた。PCR増幅サイクルは、それぞれ、94℃で30秒間(変性)、61℃で1分間(アニーリング)、及び72℃で1分間(伸長)でのインキュベーションからなっていた。前記PCR反応の増幅産物を1%アガロースゲルに溶解した。およそ590塩基対の所望の断片をゲルから切り出し、Qiagenゲル抽出キットを使用して精製した。ベクターと精製したPCR産物との両方をEcoRI及びXbaI(MBI Fermentas、米国)で制限消化し、それにより方向性クローニングのための付着末端を作製した後、この精製したDNA断片をpcDNA3.1のMCSに連結した。前記連結産物を大腸菌DH5αに形質転換し、形質転換体をアンピシリン耐性に基づいて点数化した。約20のそのようなコロニーから単離したプラスミドDNAを、種々の制限酵素を使用した制限消化によりEPO cDNAの存在について分析した。1個のそのようなプラスミドは、自動DNA配列決定装置(ABI)を使用して配列決定され、前記pcDNA3.1ベクター中に前記EPO cDNAの正しい組込み及び配列を有することがわかった。このプラスミドpcDNA-EPOを、Hind IIIでの完全消化によりpDHFR2.9から単離されたDHFRミニ遺伝子を挿入するために使用した。pcDNA-EPOをMluI(MBI Fermentas、米国)で直線化し、クレノウポリメラーゼ(MBI Fermentas、米国)を使用して平滑末端化した後に、2.9Kb DHFRミニ遺伝子をクレノウポリメラーゼ(MBI Fermentas、米国)を使用して平滑末端化し、前記pcDNA-EPOに連結した。前記連結産物を大腸菌DH5αに形質転換し、形質転換体をアンピシリン耐性に基づいて点数化した。プラスミドDNAであるpcDNA-EPO-DHFR(図3)を、種々の制限酵素を使用した制限消化により、こうして得られたプラスミド中のDHFRミニ遺伝子の存在及び方向について分析した。
【0039】
[pcDNA-TPL-イントロン-EPO-VA-DHFR(pZRC-EPO)]
この発現ベクターを、アデノウイルスTPLをCMVプロモーターの下流でキメライントロンの上流に挿入し、それをさらにpcDNA-EPO構築物中のEPO cDNAの上流に挿入することにより作製した。VA RNA遺伝子及びDHFRミニ遺伝子も、このベクターのアンピシリン耐性遺伝子とCMVプロモーターの間に挿入した。これは、まずpcDNA-TPL-イントロン-TNFR-IgGFcベクターをEcoRIとXbaIで消化し、前記TNFR-IgGFc断片を除去することにより実施された。このようにして作製した6Kbベクター断片をQiagenゲル抽出キットを使用して精製し、EcoRIとXbaI末端を有するEPO遺伝子と連結した。前記連結産物を大腸菌DH5αに形質転換し、形質転換体をアンピシリン耐性に基づいて点数化した。プラスミドDNAを、種々の制限酵素を使用した制限消化により、こうして得られたプラスミド中の前記TPL、キメライントロン及びEPO cDNAの存在及び方向について分析した。1個のそのようなプラスミドは、自動DNA配列決定装置(ABI)を使用して配列決定され、前記ベクター中に前記TPL、キメライントロン、及びEPO遺伝子の正しい組込みを有することがわかった。pInt-EPO-1と名付けられたこのプラスミドDNAは、EcoRI及びNot Iでの二重消化によりpCAV/NOT-TNFRから単離された1000bp VA RNA遺伝子、並びにBamHI及びSspIでの完全消化によりプラスミドpDHFR2.9から単離されたDHFRミニ遺伝子を挿入するために使用した。これら2つの断片を、MunI及びBg1 IIであらかじめ消化したpInt-EPO-1と3断片連結で連結した。前記連結産物を大腸菌DH5αに形質転換し、形質転換体をアンピシリン耐性に基づいて点数化した。プラスミドDNAを、種々の制限酵素を使用した制限消化により、こうして得られたプラスミド中の前記VA RNA遺伝子及びDHFRミニ遺伝子の存在及び方向について分析した。さらに、組込みをDNA配列決定により調べて確認した。このベクター構築物を、pcDNA-TPL-イントロン-EPO-VA-DHFRと名付け、pZRC-EPOとも呼んだ(図3)。
【0040】
<実施例4:一過性トランスフェクションによる種々のEPO発現ベクターの発現効率の比較>
一過性トランスフェクションでは、Cos1細胞を前記のように増殖させ、処理した。トランスフェクション混合物も、すべて前記の実施例で説明したように作製した。トランスフェクションの手順も、前記の実施例で説明したとおりに従い、使用した培地をトランスフェクションの40時間及び64時間後に細胞から除き、下記のようにEPO発現の分析のためにELISAにかけた。
【0041】
まず、96ウェルマイクロタイタープレート(Nunc Maxisorp)を、濃度が炭酸緩衝液(pH9.6)中2μg/mLの組換えヒトEPOに対するマウスモノクロナール抗体(R&D Systems 抗hEPO精製マウスMab、クローン9C21D11、カタログ番号MAB287)を50μL/ウェルの容量でコーティングした。これらのプレートを、効率的なコーティングのために、4℃の高湿度条件で一晩インキュベーションした。12〜18時間後、前記コーティング抗体を除去し、ウェルを前記のようにブロッキング緩衝液でブロッキングした。ブロッキングの1時間後、プレートをPBST緩衝液で3回洗浄した(各回250μL)。次いで、1%BSAを含有している1×PBSに適切に希釈した試料50μLをウェルに2連で添加した。EPO標準物質用に、Cilag AG(シャフハウゼン、スイス)製造のEprex4000(組換えヒトEPO 4000IU/0.4mL)を使用した。標準曲線を作成するために使用した標準物質の濃度は、4 IU/mL、2 IU/mL、1 IU/mL、0.4 IU/mL、0.2 IU/mL、及び0.1 IU/mLであった。90分間のインキュベーションを行い抗原−抗体結合をさせた後に、プレートをPBST緩衝液で3回洗浄した(各回250μL)。これに続いて、1%BSAを含有している1×PBSに、2μg/mLの濃度の一次抗体(ウサギ抗ヒトEPO、精製IgG、R&D Systems、カタログ番号AB-286-NA)を容積50μL添加し、さらに続いて37℃で1時間インキュベーションした。1時間のインキュベーション後、プレートをPBST緩衝液で3回洗浄し(各回250μL)、1%BSAを含有しているpH7.2の1×PBSに1:8000で希釈した検出抗体/二次抗体(ヤギ抗ウサギIgG-HRP、Bangalore Genei、カタログ番号HPO020)50μLを添加し、続いて37℃で1時間インキュベーションした。プレートをPBST緩衝液で3回洗浄し(各回250μL)、結合していない複合体を除去した。これに続いて基質を添加した。この基質添加のために、100μLの基質溶液(前記のとおり調製)をウェルごとに添加し、暗所において37℃で30分間インキュベーションした。反応を、1Nの硫酸50μLをウェルごとに添加するこ
とにより停止させた。吸光度をELISA読取り装置においてλ490nmで測定した。未知試料の数値は、レーベンバーグ−マルクワルト法の方程式に基づく4パラメーターフィット標準曲線を使用して、SoftMax Pro(Molecular Devices)により導き出した。
【0042】
(結果)
図4は、1つのそのような実験の代表的なデータを表す。最高の発現はpZRC-EPO(276.53±3.09ng/mL)で得られ、この数値は、pcDNA-EPO-DHFR(25.49±2.38ng/mL)より984.85%高かった。このデータは、5個のエレメントの新規組合せを含有する新規の発現ベクターが異なるレポーター遺伝子に対し非常に高い発現を与えるという実施例3の知見を支持している。
【0043】
pZRC-EPO中のエレメントの新規組合せの優れた能力は、以下の実施例7で観察される安定的にトランスフェクションした細胞でも確認された。
【0044】
<実施例5:pZRC-EPOを使用したCHO DHFR-細胞の安定的トランスフェクション>
CHO DHFR-細胞(ジヒドロ葉酸レダクターゼをコードする遺伝子のチャイニーズハムスター卵巣細胞変異体)を、完全培地(10%FBS(Hyclone)及びヒポキサンチンとチミジンとの混合物を補充したMEMα培地(Sigma))中で規則的に維持した。トランスフェクション時に、中間対数期に増殖している細胞をT25cm2フラスコからトリプシン処理し、5mL完全培養液中で1度洗浄し、PBSに再懸濁した。SspI制限酵素で直線化した15μgのpZRC-EPOを1×106細胞に添加し、Stratagene Eectroporator 1000を使用してエレクトロポレーションした(350V)。完全培養液中での48時間の短い回復期の後、細胞を選択培地(ヒポキサンチンとチミジンとの混合物を添加せず、500μg/mLのG418(Sigma)を加えた10%透析FBS補充MEMα培地)で維持することにより二重選択にかけた。細胞を5%CO2で37℃のインキュベーターに戻し、2週間増殖させた。3日ごとに培地を交換した。安定なトランスフェクタントのパッチは、12日間の選択プロセス後に成長し始めた。選択の15日目、細胞をトリプシン処理した。単一細胞クローンを、この安定なトランスフェクタントの混合集団から単離するために、細胞を96ウェルプレートで限界希釈法を使用して希釈した。顕微鏡下で単一細胞を含有することがわかったウェルをマークし、これらの単一細胞クローンに対し定期的に培地を交換した。約12〜14日後、これらのウェルは70〜80%コンフルエントであることがわかった。前記細胞を24ウェルプレートに移し、6ウェルプレートに移す前に48〜72時間培養した。これらの単一細胞クローンを、選択培地においてウェル当たり0.1×106細胞の密度で6ウェルプレートに蒔いた。48時間後にこれらのウェルから使用した培地を除き、細胞を数えた。この使用した培地を、前記のようにELISAによりEPO発現について分析した。結果を、分泌されたEPOタンパク質の総量/106細胞/48時間として表した。
【0045】
10個の高発現クローンを選択し、選択培地に25nMのMTXを添加することから始めてメトトレキサート(MTX)ベースの遺伝子増幅プロセスにかけた。3日後ごとに新しい培地を補充した。前記細胞を、順応するまで約20〜25日間、単一濃度のMTXで培養した。MTXの濃度を増やす段階ごとに、細胞を前記のように6ウェルプレートレベルで発現レベルについて分析した。これら選択した10個のクローンのうちの1つは、25nM MTXで生存しなかった。他の9個のクローンはすべて、100nM、400nM、及び最終的に2μMのMTXまでMTX濃度を連続的に増やす試験にかけた。図5は、MTX増幅の種々の段階の終了時における、MTX増幅クローン集団由来のこれらの異種集団の発現を表している。
【0046】
MTXで選択すると、細胞のクローン集団は異種集団に変わる。従って、高発現単一細胞クローンをこれらMTX増幅異種集団から単離するために、まず400nMのMTX段階で一異種集団の41H9を選択した。これらの細胞を、前記のように限界希釈によりクローン選択のために調整した。約14〜16日後、96ウェルプレートのウェルは70〜80%コンフルエントであることがわかった。前記細胞を24ウェルプレートに移し、6ウェルプレートに移す前に48〜72時間培養した。これらの単一細胞クローンを、400nM MTXを含有する選択培地においてウェル当たり0.1×106細胞の密度で6ウェルプレートに蒔いた。48時間後にこれらのウェルから使用した培地を除き、細胞を数えた。前記使用した培地を、前記のようにELISAによる発現分析のために採取した。結果を、分泌されたEPOタンパク質の総量/106細胞/48時間として表した。表1は、前記41H9異種集団に本来由来するこれら単一細胞クローンの発現を示す。高発現クローンを増殖させ、EPOの商業生産のためにマスター細胞バンクとして凍結した。
【0047】
【表1】

【0048】
<実施例6:フラスコ内の安定した発現クローンからのEPOの産生>
図5に表す細胞の異種集団由来のうち、それぞれ100nM MTX及び400nM MTXで選択された2つの異種集団、すなわち56D12及び41H9を、T75フラスコレベルでのタンパク質産生について調べた。T75cm2フラスコに、10%透析FBS(JRH Biosciences)及び600μg/mL G418をそれぞれの異種集団に適した濃度のMTXと共に補充した、ヒポキサンチン及びチミジンなしのMEMα培地中に、2.1×106細胞を播種した。フラスコを、37℃、5%CO2で72時間CO2インキュベーターに戻した。細胞単層は、72時間のインキュベーション後、約80〜85%コンフルエントであることがわかった。この時点で、前記古い使用した培地を除き、細胞単層をダルベッコPBSで洗浄した。洗浄した単層に、15mLの生産培地[IMDM:10mg/L rh-インスリン、2mMグルタミン、アミノ酸混合物、0.2mM N-アセチルシスチン、0.25%ラクトアルブミン、2mg/L FeSO4、25mg/Lデキストラン硫酸、0.05%プルオロニック酸、5mg/Lヒドロコルチゾン、及び1mM Na酪酸を補充したHam's F12(1:1)]を添加した。前記細胞を、33℃で4日間、CO2インキュベーターでインキュベーションした。4日後、前記使用した培地を無菌的に取り除き、ELISAにより分析した。表2は、T75フラスコレベルにおける生産培地中の、これら2つのクローンの発現を示す。
【0049】
【表2】

【0050】
<実施例7:ローラーボトル内でのEPOの高レベル産生>
すでに2μM MTXに順応している前記の代表的な異種集団の1つの41H9を、比較的大きな規模でのタンパク質産生を分析するためのローラーボトル研究に使用した。前記41H9細胞を、ローラーボトルに播種するに足るだけの細胞数を得られるようにT75及びT175培養フラスコを使用して増殖させた。
【0051】
5個のローラーボトルに、10%透析FBS(JRH Biosciences)及び600μg/mL G418を含有する2μMのMTX補充した、ヒポキサンチン及びチミジンなしのMEMα培地(Sigma)中に、それぞれ30×106細胞を播種した。培地中で前記細胞を混合した後、ローラーボトルを、増殖のために37℃でおよそ0.35rpmローラー速度のローラーボトルインキュベーターに戻した。前記細胞を24時間後に観察し、十分に増殖していることがわかった。前記ボトルを増殖のために再度インキュベーターに戻し、24時間ごとに顕微鏡下で観察した。播種の96時間後、細胞単層は約80〜85%コンフルエントであった。この時点で、前記古い使用した培地を除き、210mL/ボトルの生産培地[IMDM:10mg/L rh-インスリン、2mMグルタミン、アミノ酸混合物、0.2mM N-アセチルシスチン、0.25%ラクトアルブミン、2mg/L FeSO4、25mg/Lデキストラン硫酸、0.05%プルオロニック酸、5mg/Lヒドロコルチゾン、及び1mM Na酪酸を補充したHam's F12(1:1)]をそれぞれのボトルに添加した。前記細胞を、ローラーボトルインキュベーターで7日間インキュベーションした。この期間の後、前記使用の培地をローラーボトルから無菌的に除き、前記のようにELISAにより分析し、表3に表した。
【0052】
【表3】

【0053】
個々のクローンがまだ選択されていない、異種の、安定的にトランスフェクションされ、MTX増幅した集団からのこの産生レベルは、個々の安定的なクローンに対して文献に報告されている発現レベルよりもはるかに優れた発現レベルを示している。例えば、SRαプロモーター、AMV RNA 4リーダー配列、DHFR、及びゼオシン耐性を含有するベクターを使用してトランスフェクション及び最大20nM MTXまでの遺伝子増幅により作製した安定なクローンは、45 IU/mL(0.346μg/mLに相当)のクローンを与えることができた[Jang H Pら、Biotechnol. Appl. Biochem、32:167〜172頁、(2000年)]。
【0054】
米国特許第5,955,422号は、SV40プロモーター及びpoly A配列の制御下で、EPO遺伝子のゲノムコピーを含有するベクター及びDHFRを含有するベクターで共トランスフェクションしたCHO DHFR-細胞から作製したクローンは、MTX遺伝子増幅すると、ローラーボトル内の無血清生産培地中で750〜1470 U/106細胞/48時間(または、375〜735 U/106細胞/24時間)の産生量を与えたことを報告している。別の米国特許第5888774号は、EF1プロモーターによって促進されるEPO cDNAを含有し、apoB SARエレメント及びネオマイシン耐性を有するベクターでトランスフェクションしたCHO-K1細胞から作製し、1500〜1700 IUのEPO/106細胞/24時間(培養の日3と日4の間で分析した)を産生し得るEPOクローンを報告している。これとは対照的に、あらかじめ2μM MTXに順応した我々の異種集団である41H9の7日を表す培地試料は、ELISAにより判断すると1個のローラーボトル中11830 IU/mLを含有することがわかった。ローラーボトル当たり108〜1.5×108細胞という推定細胞密度に基づいて、7日、210mL培養でのEPOの産生速度は2366〜3549 IU/106細胞/24時間であり、調節エレメントの種々の他の組合せを利用した他の報告されたベクターの前記のレベルよりもかなり高かった。
【0055】
同様に、Sung Kwan Yoonら[Biotechnology and Bioengineering、82(3):289〜298頁、(2003年)]は、最大5μM MTX淘汰圧までの遺伝子増幅方法によりCHO DHFR-細胞で開発した細胞系を使用したEPO産生のための十分に最適化された方法が、33℃で約200時間の培養期間後におよそ50μg/mLの産生量を与えることを報告した。比較的低いレベルのMTX(2μM)に順応した我々のpZRC-EPOの安定的にトランスフェクションした異種集団41H9は、ELISAで判断すると168時間培養で11,830 IU/mL(91μg/mL)を産生することができた。
【0056】
新規の発現ベクターpZRC-EPOを用いたEPOのこれらの発現レベルは、文献中の最良のベクターで報告されている発現レベルよりも81〜100%高い。異種集団41H9に対する前記のEPO産生方法は、実施例5の表1に報告されている安定なクローンにも適用することができる。
【0057】
本発明の新規ベクターは、ブタペスト条約の下で、公認の寄託機関であるIMTECH(チャンディーガル、インド)に寄託している。登録番号を待っている状態にある。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】新規の発現ベクターpZRC-TNFR-IgGFcを含む種々のTNFR-IgGFc発現ベクターの略図である。
【図2】新規の発現ベクターpZRC-TNFR-IgGFcを含む種々のTNFR-IgGFc発現ベクターで一過性にトランスフェクションしたCos-1細胞からのTNFR-IgGFcタンパク質の発現を示す図である。
【図3】新規の発現ベクターpZRC-EPOを含む種々のEPO発現ベクターの略図である。
【図4】新規の発現ベクターpZRC-EPOで一過性にトランスフェクションしたCos-1細胞におけるEPOと、市販の発現ベクターpcDNA3.1をコードする他のEPOの発現の比較を示す図である。
【図5】pZRC-EPOを安定的にトランスフェクションしたCHO-DHFR-細胞の選択された高産生クローンからの、EPO発現に対するMTXの増加してゆく圧力の効果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも以下の調節エレメント:
a)CMVプロモーターまたはその機能的変異体;
b)イントロン;
c)TPLまたはその機能的変異体;
d)VA遺伝子または機能的変異体;及び
e)ウシ成長ホルモンポリアデニル化配列または機能的変異体;
を含む発現ベクターを使用することによる、対象のタンパク質の高発現のための方法。
【請求項2】
対象のタンパク質が組換えエリスロポエチンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
融合タンパク質TNFR-IgGFcの高発現のための、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法による、リツキシマブ、トラスツズマブ、ベバシズマブ、または他のモノクロナール抗体の高発現のための方法。
【請求項5】
哺乳動物細胞における発現に適した遺伝子の高発現のための、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも以下の5個の調節エレメント:
a)CMVプロモーターまたはその機能的変異体;
b)イントロン;
c)TPLまたはその機能的変異体;
d)VA遺伝子または機能的変異体;及び
e)ウシ成長ホルモンポリアデニル化配列または機能的変異体;
を含む、請求項1に規定される哺乳動物発現ベクター。
【請求項7】
前記イントロンが配列番号1のキメライントロンである、請求項1から6のいずれか一項に規定されるベクター。
【請求項8】
前記TPLが配列番号4の調節エレメントである、請求項1から6のいずれか一項に規定されるベクター。
【請求項9】
前記VA遺伝子が配列番号5の配列を有している、請求項1から6のいずれか一項に規定されるベクター。
【請求項10】
以下の5個の調節エレメント:
a)CMVプロモーターまたはその機能的変異体;
b)配列番号1を有するキメライントロンまたはその機能的変異体;
c)配列番号4を有するTPLまたはその機能的変異体;
d)配列番号5を有するVA遺伝子またはその機能的変異体;及び
e)ウシ成長ホルモンポリアデニル化配列またはその機能的変異体;
を含む、請求項1から9のいずれか一項に規定される新規哺乳動物発現ベクター。
【請求項11】
ジヒドロ葉酸レダクターゼ、アデノシンデアミナーゼ、オルニチンデカルボキシラーゼ、アスパラギン合成酵素、グルタミン合成酵素、またはそれらの機能的変異体から選択される選択及び増幅マーカーをさらに含む、請求項1から10のいずれか一項に規定されるベクター。
【請求項12】
エリスロポエチンの遺伝子をさらにコードする、請求項1から11のいずれか一項に規定されるベクター。
【請求項13】
融合タンパク質TNFR-IgGFcの遺伝子をさらにコードする、請求項1から11のいずれか一項に規定されるベクター。
【請求項14】
リツキシマブ、トラスツズマブ、ベバシズマブ、または他のモノクロナール抗体の遺伝子をさらにコードする、請求項1から11のいずれか一項に規定されるベクター。
【請求項15】
哺乳動物細胞において発現し得る適切な遺伝子をさらにコードする、請求項1から11のいずれか一項に規定されるベクター。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか一項に規定される発現ベクターで形質転換された哺乳動物細胞。
【請求項17】
トランスフェクション用の前記哺乳動物細胞がCos、CHO、CHO DHFR-、BHK1、及びNS0から選択される、請求項1から16のいずれか一項に規定されるベクター。
【請求項18】
対象のタンパク質の高発現を得るための、請求項1から17のいずれか一項に規定されるベクターの使用。
【請求項19】
対象のタンパク質が、組換えエリスロポエチン、組換え融合タンパク質TNFR-IgGFc、及びリツキシマブ、トラスツズマブ、ベバシズマブからから選択されるモノクロナール抗体から選択される、請求項18に記載のベクターの使用。
【請求項20】
請求項1から11のいずれか一項に規定されるベクター内に対応する遺伝子をコード化することによって、対象のタンパク質の高発現を得る方法。
【請求項21】
請求項1から20のいずれか一項に規定される方法に従って調製される、組換えエリスロポエチン。
【請求項22】
請求項1から21のいずれか一項に規定される方法に従って調製される、組換え融合タンパク質TNFR-IgGFc。
【請求項23】
請求項1から22のいずれか一項に規定される方法に従って調製される、リツキシマブ、トラスツズマブ、ベバシズマブから選択されるモノクロナール抗体。
【請求項24】
請求項1から23のいずれか一項に規定される方法に従って調製される、適切な遺伝子によってコードされるタンパク質。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−543325(P2008−543325A)
【公表日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−517699(P2008−517699)
【出願日】平成18年6月19日(2006.6.19)
【国際出願番号】PCT/IN2006/000207
【国際公開番号】WO2007/017903
【国際公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(507365927)カディラ・ヘルスケア・リミテッド (26)
【Fターム(参考)】