説明

高伸度不織布及びそれを用いた表面材料

【課題】毛羽立ちが少なく、低モジュラスで高伸度を有する不織布及びそれを用いた表面材料を提供すること。
【解決手段】MFRが10g/10min以下であるポリスチレン系樹脂を0.1〜8.0wt%添加したポリエステルブレンド長繊維から構成され、3〜40%の熱圧着面積率で部分熱接合された不織布であって、且つ、該不織布のMD、CD方向のいずれの方向の破断伸度が30〜70%、毛羽等級が2.5級以上であることを特徴とする高伸度不織布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛羽立ちが少なく、低モジュラスで高伸度を有する不織布及びそれを用いた表面材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートをはじめとするポリエステル系樹脂は数々の特性に優れることから幅広い分野で用いられている。従来から既知の高分子材料を高性能・多様化するために熱可塑性樹脂のポリマーブレンドについて数々の研究が行われているが、一般的に非相溶系のポリマー同士をブレンドしただけでは均一に分散させることが困難であり、安定して生産することは難しいとされてきた。
特許文献1や2のようにポリエステル系樹脂にポリスチレン系樹脂のような非相溶系のポリマーをブレンドすることにより配向結晶化を抑制し、高伸度化がなされているが、これらは非相溶系のブレンドであるため、分散のばらつき、ポリエステル系樹脂とポリスチレン系樹脂の流動性の違いにより発生する単糸切れ、ポリスチレン系樹脂の繊維表面へのブリードアウト等により紡糸性が悪く、高伸度化と安定した生産性を兼ね備えた繊維は得られていない。
【0003】
そのため、特許文献3のようにその他の成分として相溶化剤等を添加することによりポリマー同士の相溶性を改善したり、2基の押出機を用いて2成分のポリマーを別々に融解後、海島型や鞘芯型等の繊維を作製することが行われている。これらの方法でポリマーを繊維化する場合、相溶化剤等のポリマー以外の成分を用いなければならないこと、設備的に大きくなること等、コスト面や製造面からも複雑な方法となるという問題点がある。
また、特許文献4のように高伸度の不織布を得るためにウェブをニードルパンチやウォータージェットパンチ等で交絡処理を施すことが行われている。機械的交絡を施した不織布を表面材料として用いた場合、不織布の繊維は交絡されているが、繊維表面は抑えられていないため、毛羽立ちやすい。また、交絡による厚みを有し、薄いシートとして用いた場合は、見た目も悪くなり、高目付化が必要となる。
【0004】
【特許文献1】特許第1447600号公報
【特許文献2】特開2001−089938号公報
【特許文献3】特許第3769379号公報
【特許文献4】特許第3674302号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記のような従来技術の問題を解決しようとするものであり、ポリエステル系樹脂のブレンド紡糸において特定の物性を有するポリスチレン系樹脂を選定することで相溶化剤を用いなくても熱安定性と分散性を向上することが可能であり、紡糸性が良好で、且つ、低モジュラスで高伸度を有する不織布を提供すること、また、表面材料として見た目も良く、毛羽立ちにくい不織布を提供することを目的とするものである。本発明においては、後加工の必要が無いため、コスト面で有利であり、且つ、安定的な生産が可能である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリエステル系樹脂に特定粘度のポリスチレン系樹脂を特定含有率でブレンドして溶融紡糸することにより飛躍的に伸度が向上したポリエステルブレンド長繊維を得ることができ、また、不織布の破断伸度、引裂強度、耐毛羽性の観点から詳細な検討を行い、不織布の部分熱圧着面積率および熱圧着部の形状およびピッチを特定することで破断伸度、引裂強度と耐毛羽性の最適な範囲があることを見出し、本発明に達した。
【0007】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)MFRが10g/10min以下であるポリスチレン系樹脂を0.1〜8.0wt%添加したポリエステルブレンド長繊維から構成され、3〜40%の熱圧着面積率で部分熱接合された不織布であって、且つ、該不織布のMD、CD方向のいずれの方向の破断伸度が30〜70%、毛羽等級が2.5級以上であることを特徴とする高伸度不織布。
(2)前記不織布においてポリスチレン系樹脂を添加しない場合の不織布に対するMD方向の引裂強度増加率が、30〜100%であることを特徴とする上記(1)に記載の高伸度不織布。
(3)前記不織布においてポリスチレン系樹脂を添加しない場合の不織布に対するMD方向の5%モジュラス低下率が、20〜50%であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の高伸度不織布。
(4)前記不織布が、スパンボンド不織布であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の高伸度不織布。
(5)前記不織布の目付が10〜160g/m2 であり、厚みが0.04〜0.8mmであることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の高伸度不織布。
(6)前記不織布が、紡糸速度3000〜8000m/minで牽引された繊維から構成され、且つ、繊度が1.0〜4.0dtexであることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の高伸度不織布。
(7)前記ポリエステルブレンド長繊維の複屈折率Δnが0.015〜0.07であることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれかに記載の高伸度不織布。
(8)前記不織布が、リン系の難燃剤を含有している繊維から構成されることを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれかに記載の高伸度不織布。
(9)上記(8)に記載の高伸度不織布を用いることを特徴とする耐火被覆材の表面材料。
【発明の効果】
【0008】
本発明の高伸度不織布は、低モジュラスで高伸度を有しているために成型加工時の追従性に特に優れ、且つ、毛羽立ちが少なく、表面材料として用いるのに適した不織布を提供することができる。また、難燃剤を添加することで優れた難燃性を有し、耐火被覆材の表面材料としても適した不織布を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明に使用するポリスチレン系樹脂は、ポリスチレン、スチレン・共役ジエンブロック共重合体、アクリロニトリル・スチレン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、スチレン・アクリル酸エステル共重合体、スチレンメタアクリル酸エステル共重合体等が挙げられる。
本発明においては、主体となるポリエステル系樹脂に対してポリスチレン系樹脂の添加量は、紡糸性や得られる不織布の破断伸度の面から0.1〜8.0wt%が好ましく、より好ましくは0.25〜5.0wt%である。ポリスチレン系樹脂の添加量が0.1wt%未満であると目的とする高伸度化された繊維が得られない。添加量が8.0wt%を超えると高伸度化された繊維は得られるものの、紡糸中に糸切れが多発し、安定して連続した繊維が得られず、生産性が低下する。
【0010】
本発明に使用するポリエステル系樹脂は、熱可塑性ポリエステルであって、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等が挙げられる。熱可塑性ポリエステルは、エステルを形成する酸成分としてイソフタル酸やフタル酸などが重合または共重合されたポリエステルであってもよい。更には、生分解を有する樹脂、例えば、ポリグリコール酸やポリ乳酸のようなポリ(α−ヒドロキシ酸)、または、これらを主たる繰り返しの単位要素とする共重合体であってもよい。
本発明のポリエステルブレンド長繊維は、ポリエステル系樹脂が海部を形成し、ポリスチレン系樹脂が島部を形成する海島構造を形成することが好ましい。これらブレンド樹脂の延伸時においてポリスチレン系樹脂がポリエステル系樹脂よりも先に溶融状態からガラス状態へと転移して延伸が終了し、海部を形成するポリエステル系樹脂の延伸、配向結晶化が阻害されるものと推定される。それゆえ、海部の配向結晶化は抑制され、低結晶性のまま延伸が終了し、高伸度の繊維が得られる。
【0011】
このような配向結晶化に対する抑制効果は、含有させるポリスチレン系樹脂のMFRが大きく影響し、MFRが10g/10min以下のポリスチレン系樹脂がポリエステル系樹脂中に適度に分散している状態が好ましく、より好ましくは、MFRが1〜5g/10minの範囲のポリスチレン系樹脂である。10g/10minを超えるMFRのポリスチレン系樹脂場合には、得られる繊維の配向結晶化を抑制する効果が不十分となり、不織布の破断伸度が向上しにくい。
本発明の高伸度不織布を構成するポリエステルブレンド繊維の繊度は、好ましくは1.0〜4.0dtexである。繊度が1.0dtex未満であると不織布の強度が低下し、紡糸時においてエジェクターの張力に繊維が十分に耐えることができず、繊維の一部が切れる場合がある。また、繊度が4.0dtexを超えると、繊維の剛性が大きくなり、且つ、紡糸時に冷却が不十分となるために得られる不織布が硬い風合いのものとなり、強度は大きくなるが、繊維の部分熱接合が難しくなる。
【0012】
本発明の繊維の熱接合は、160〜230℃の加熱下で圧着面積率が3〜40%である必要があり、より好ましくは5〜30%、特に好ましくは7〜20%であり、この範囲であると良好な繊維相互間の接合処理を行うことができる。加工の方法としては、一対のカレンダーロール間にウェブを通して熱接合させる方法が生産性に優れていて好ましい。熱接合処理の温度および圧力は、供給されるウェブの目付、速度等の条件によって適宜選択されるべきものであり、一概には定められない。
上記のカレンダーロールとしては、その表面が平滑なものや模様が彫刻されたもの、例えば、長方形型、ピンポイント型、織目柄、Y柄、あるいはこれらの同種ローラーの組み合わせ、または、異種ローラーの組み合わせからなる複数の回転ローラーの使用も可能である。
【0013】
熱接合部の面積率は、不織布の全面積に対して3〜40%であり、この範囲が、得られる長繊維不織布の適度な強度と伸度、良好な耐毛羽性を図る上で好ましい。熱圧着面積率が3%未満であると、毛羽立ちが多く、40%を超えると不織布がペーパーライクになり、破断伸度、引裂強力等の機械的物性が低下する傾向がある。
本発明の不織布は、破断伸度の向上と表面毛羽の改善の両方を改善したものである。一般に、破断伸度を大きくするためにポリスチレン系樹脂の添加量を多くしてもある割合で毛羽は一定となり、また、毛羽立ちを抑制するために熱圧着面積率を大きくすると、破断伸度が低下するものである。本発明では、ポリスチレン系樹脂の添加量と熱圧着面積率を相互に最適化することにより高伸度で毛羽特性の優れた不織布を得ることができた。
【0014】
この関係は、表2に示したとおりであり、ポリスチレン(PS)系樹脂の添加量が0.2〜5wt%であり、且つ、熱圧着面積率が5〜30%の範囲がより好ましく、特に好ましくは、ポリスチレン系樹脂の添加量が0.5〜2.5wt%であり、かつ、熱圧着面積率が7〜20%の範囲である。特に熱圧着面積率が10%前後で、ポリスチレン系樹脂の添加量が0.5〜2.5wt%の範囲が最も適している。
表2におけるポリスチレン系樹脂の添加量が0.5wt%における熱圧着面積率と破断伸度・毛羽等級の関係を図1に示した。熱圧着面積率が増加するにしたがって毛羽等級も向上し、熱圧着面積率11%以上で毛羽等級が4級になる。しかし、一方で、破断伸度は、熱圧着面積率11%をピークとして、それ以上の熱圧着面積率となると大幅に破断伸度が低下する。これらから、ポリスチレン系樹脂の添加量が0.5wt%において破断伸度と毛羽等級が最適になる熱圧着面積率の範囲は、7〜20%であった。
【0015】
また、表2において熱圧着面積率11%におけるポリスチレン系樹脂添加量の効果を図2に示した。ポリスチレン系樹脂の添加量が増加するにしたがい、配向結晶化の抑制により熱接合効果が向上し、添加量が0.5wt%以上では毛羽等級が4級になる。破断伸度は、ポリスチレン系樹脂の添加量が増加するにしたがって向上するが、2.5wt%以上ではほぼ一定となる。紡糸性の観点を含めると、熱圧着面積率11%におけるポリスチレン系樹脂の添加量の範囲は、0.5〜2.5%が最適であると考えられる。
本発明の不織布は、破断伸度がMD及びCD方向のいずれの方向においても、30〜70%であることが必要であり、より好ましくは、35〜70%である。破断伸度が70%を超えると、使用用途によってはたるみやしわが発生しやすく、特に、表面材料として使用する際には好ましくない。尚、MDとは不織布のマシン方向(タテ)、CDとは幅方向(ヨコ)を示す。
【0016】
本発明で得られる高伸度不織布は、ポリスチレン系樹脂を添加しない場合の不織布に対してMD方向の引裂強度増加率が30〜100%であることが好ましい。引裂強度増加率がこの範囲にあると、耐火被覆材として施工する際に不織布としての十分な強度を有している。引裂強度増加率が30%未満であると不織布を施工する際に穴が開いたり、引裂かれたりする。
本発明で得られる高伸度不織布は、ポリスチレン系樹脂を添加しない場合の不織布に対する5%伸長時のモジュラス低下率が20〜50%であることが好ましい。モジュラス低下率がこの範囲であると、小さな変形応力で不織布の加工が可能である。モジュラス低下率が20%未満であると、不織布を加工する際にズレ、破れ等が生じる。
本発明の高伸度不織布の目付は、10〜160g/m2 が好ましく、厚みは、0.04〜0.8mmが好ましい。目付と厚みがこの範囲にあると表面材料として使用する際に十分な強度が得られる。
【0017】
本発明の高伸度不織布を得るに際して紡糸速度は、3000〜8000m/minが好ましく、より好ましくは4000〜6000m/minである。高紡速の方がポリスチレン系樹脂添加による高伸度化効果が大きいため、3000m/min未満でも配向結晶化抑制効果は得られるが、不織布の破断伸度上昇効果が小さく、また、機械的物性が不十分である。8000m/minを超えると高伸度の繊維が得にくくなり、紡糸中に糸切れが発生する可能性があり、不織布の生産性が低下するので好ましくない。
本発明の高伸度ポリエステル長繊維の複屈折率Δnは、0.015〜0.07が好ましく、より好ましくは、0.015〜0.05の範囲である。複屈折率がこの範囲であると、繊維の配向が適度で、高伸度の繊維が得られる。
【0018】
本発明の繊維の形成は、常用の紡糸口金を用いて溶融紡糸で行う。ポリエステル系樹脂と少なくとも一種類以上のポリスチレン系樹脂をブレンドさせるには、ポリエステル系樹脂をマスターバッチ化する方法、ドライブレンドにより混合する方法等が考えられるが、コスト面からドライブレンド法を採用することが好ましい。
本発明で得られる高伸度不織布は、直接、長繊維をウェブ化することにより形成されるスパンボンド法が好適である。スパンボンド法で得られる不織布は、布強度が強く、且つ、ボンディング部の破損による短繊維の脱落がない等の物性上の特徴を有しており、また、低コストで生産性が高いため、衛生、土木、建築、農業・園芸を中心に広範な用途で使用されている。
【0019】
本発明の高伸度不織布に用いる難燃剤は、環境安全性に優れるノンハロゲンのリン系化合物の難燃剤が好ましい。また、UL−94燃焼試験によりVTM−1規格を満足することが望ましく、より好ましくはVTM−0規格を満足していることである。燃焼試験規格がVTM−1規格未満では発火による燃焼を想定した場合、延焼を引き起こし、難燃性として十分な性能を持つとは言い難い。
さらに、本発明の目的を損なわない範囲で他の常用の各種添加成分、例えば、各種エラストマー類などの衝撃性改良剤、結晶核剤、着色防止剤、酸化防止剤、耐熱剤、可塑剤、滑剤、耐候剤、着色剤等の添加剤を添加することができる。
さらに、本発明の高伸度不織布には、本発明の目的を損なわない範囲で、常用の後加工、例えば、消臭剤、抗菌剤、防ダニ剤等の付与をしてもよいし、染色、撥水加工、透湿防水加工等を施してもよい。
【0020】
本発明の高伸度不織布は、低モジュラスで高伸度を有している等の特性を活かして幅広い用途展開が可能であり、大きな伸長や複雑な形状変形を伴う高度な成形部材として適している。例えば、ドアトリム、天井成形材、シート内張布などの自動車内装材、緑茶、紅茶、コーヒーなどの食品用フィルターバッグ、防虫剤、芳香剤の揮発性薬品容器等が挙げられる。特に好ましい例として耐火被覆材の表面材料が挙げられる。耐火被覆材としての必要特性として難燃性の他に、成形加工時の追従性のために低モジュラス・高伸度、且つ、施工の際に引裂強度等が要求される。また、表面材料として使用するためには耐毛羽性が重要となる。したがって、本発明の高伸度不織布は、耐火被覆材の表面材料として非常に適した特性を有している。
【実施例】
【0021】
以下、実施例などにより本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これら実施例などにより何ら限定されるものではない。なお、測定方法、評価方法などは下記の通りである。
(1)不織布の破断伸度・5%モジュラス:
島津製作所社製;オートグラフAGS−5G型を用いて、3cm幅の試料を把握長100mm、引張速度300mm/minで伸長し、得られる破断時の荷重を強度、破断時の伸び率を伸度、5%伸長時のモジュラスを5%モジュラスとし、不織布のMD、CD方向についてそれぞれ5回ずつ測定を行い、その総平均値を求めた。また、ポリスチレンを添加しない場合の不織布の5%モジュラスに対する高伸度不織布の5%モジュラスの割合から5%モジュラスの低下率を求めた。
(2)MFR(g/10min):
メルトインデクサー(東洋精機社製:MELT INDEXER S−101)溶融流量装置を用い、オリフィス径1.0475mm、オリフィス長0.8mm、荷重5000g、測定温度200℃の条件で一定体積分を吐出するのに要する時間から10分間当たりの溶融ポリマーの吐出量(g)を算出し、求めた。
【0022】
(3)毛羽等級:
MD、CD方向に25mm×300mmの試験片を採取し、日本学術振興会型堅牢度試験機を用いて、摩擦子の荷重が200g、摩擦子側には同布を使用し、50回動作をさせて、以下の基準で、耐毛羽性を等級付けた。
1.0級:試験片が破損するほど繊維が剥ぎ取られる。
2.0級:試験片が薄くなるほど甚だしく繊維が剥ぎ取られる。
2.5級:毛玉が大きくはっきりと見られ、複数箇所で繊維が浮き上がり始める。
3.0級:はっきりとした毛玉ができ始め、または小さな毛玉が複数見られる。
3.5級:繊維が3〜5本程度、もしくは数ヶ所に小さな毛玉ができ始める程度に毛
羽立っている。
4.0級:繊維が1〜2本程度、もしくは一ヶ所に小さな毛玉ができはじめる程度に
毛羽立っている。
5.0級:毛羽立ちがない。
【0023】
(4)部分熱圧着面積率(%):
1cm角の試験片をサンプリングして電子顕微鏡で写真を撮影し、その各写真より熱圧着部の面積を測定し、その平均値を熱圧着部の面積とした。また、熱圧着部のパターンのピッチを縦方向及び横方向において測定した。それらの値により、不織布の単位面積当たりに占める熱圧着面積の比率を部分熱圧着面積率として算出した。
(5)引裂強力(N):
幅65mm×長さ100mmの試料片をJIS−L−1096に規定のペンジュラム法にて測定した。また、ポリスチレンを添加しない場合の不織布の引裂強度に対する高伸度不織布の引裂強度の割合から引裂強度の増加率を求めた。
【0024】
(6)複屈折率(Δn):
OLYMPUS社製のBH2型偏光顕微鏡コンペンセーターを用いて、通常の干渉縞法によってレターデーションと繊維径より牽引直後の繊維の複屈折率を求めた。
(7)目付(g/m2 ):
JIS−L−1906に規定の方法で測定した。
(8)厚み:
JIS−L−1906に規定の方法で荷重100g/cm2 の厚みを測定した。
【0025】
(9)繊度(dtex):
1m長の重量を測定してn=5の平均値を求め、10000m長に算出して求めた。
(10)難燃性評価:
UL−94:VTM試験(薄手材料の垂直法燃焼試験)に準じた評価方法で評価を行った。
(11)追従性試験:
幅250mm、長さ450mm、厚み40mmの耐火被覆材を直径90mmのロール状に巻き、ロックウールと表面材の不織布との間で生じるズレを測定した。
○(合格) ズレ:5mm未満
×(不合格)ズレ:5mm以上
【0026】
(12)ピン固定引張荷重試験:
万能試験機を用いて、幅50mm、長さ225mmの耐火被覆材用不織布を上端から30mmの位置にピンで固定し、把握長150mm、引張速度200mm/minで伸長し、得られる破断時の荷重を引張荷重とし、不織布のMD、CD方向についてそれぞれ5回ずつ測定を行い、その総平均値を求めた。
○:ピン固定引張荷重22N以上
△:ピン固定引張荷重18N以上22N未満
×:ピン固定引張荷重18N未満
(13)難燃性試験:
幅350mm、長さ230mm、厚み40mmの耐火被覆材の不織布面を燃焼面としてJIS L−1091 A−2法(45°メッケルバーナー法)に準じた試験方法で評価を行った。
○(合格) 炭化面積:300cm2 未満、残炎時間:30秒未満
×(不合格)炭化面積:300cm2 以上、残炎時間:30秒以上
以下、実施例及び比較例によって本発明を更に説明する。
【0027】
[実施例1]
リン系の難燃剤を添加したポリエチレンテレフタレート樹脂にMFR2.6g/10minのポリスチレン樹脂を添加量が0.5wt%となるようにドライブレンドにて混合し、常用の溶融紡糸装置に供給した。次に、280℃にて均一に溶融混合し、円形断面の紡糸孔を有する紡糸口金から紡糸速度4700m/minにて溶融紡出して繊度が2.0dtexのポリエステルブレンド長繊維を得た。この繊維を開繊分散してウェブを作成し、エンボスロールとフラットロール間において熱圧着面積率7%で部分熱接合することにより、長繊維スパンボンド不織布を得た。得られた不織布の物性を表1に示す。
【0028】
[実施例2]
実施例1においてポリスチレン樹脂の添加量が1.0wt%となるようにブレンドしたこと以外は、実施例1と同様にして長繊維スパンボンド不織布を得た。得られた不織布の物性を表1に示す。
[実施例3]
実施例2においてMFRが8g/10minのポリスチレン樹脂をブレンドしたこと以外は、実施例2と同様にして長繊維スパンボンド不織布を得た。得られた不織布の物性を表1に示す。
【0029】
[実施例4]
ポリエチレンテレフタレート樹脂にMFR2.6g/10minのポリスチレン樹脂を添加量が0.2wt%となるようにドライブレンドにて混合し、常用の溶融紡糸装置に供給した。次に、280℃にて均一に溶融混合し、円形断面の紡糸孔を有する紡糸口金から紡糸速度4700m/minにて溶融紡出して繊度が2.0dtexのポリエステルブレンド長繊維を得た。この繊維を開繊分散してウェブを作成し、エンボスロールとフラットロール間において熱圧着面積率11%で部分熱接合することにより、長繊維スパンボンド不織布を得た。得られた不織布の物性を表1に示す。
【0030】
[実施例5]
実施例4においてポリスチレン樹脂の添加量が0.5wt%となるようにブレンドしたこと以外は、実施例4と同様にして長繊維スパンボンド不織布を得た。得られた不織布の物性を表1に示す。
[実施例6]
実施例4においてポリスチレン樹脂の添加量が1.0wt%となるようにブレンドしたこと以外は、実施例4と同様にして長繊維スパンボンド不織布を得た。得られた不織布の物性を表1に示す。
【0031】
[実施例7]
実施例4においてポリスチレン樹脂の添加量が2.5wt%となるようにブレンドしたこと以外は、実施例4と同様にして長繊維スパンボンド不織布を得た。得られた不織布の物性を表1に示す。
[実施例8]
実施例4においてポリスチレン樹脂の添加量が5.0wt%となるようにブレンドしたこと以外は、実施例4と同様にして長繊維スパンボンド不織布を得た。得られた不織布の物性を表1に示す。
【0032】
[実施例9]
実施例5において熱圧着面積率30%で部分熱接合したこと以外は、実施例5と同様にして長繊維スパンボンド不織布を得た。得られた不織布の物性を表1に示す。
[実施例10]
実施例1において難燃剤を添加していないポリエチレンテレフタレート樹脂にポリスチレン樹脂の添加量が5.0wt%となるようにブレンドしたこと以外は、実施例1と同様にして長繊維スパンボンド不織布を得た。得られた不織布の物性を表1に示す。
【0033】
[実施例11]
実施例5の高伸度不織布を表面材料とし、ホットメルト剤を用いてロックウールとの貼り合わせを行い、耐火被覆材を作製した。この耐火被覆材の表面材として用いた場合、不織布の必要特性である追従性、ピンによる引張荷重、難燃性について評価し、それらの結果を表3に示した。これらから、耐火被覆材の表面材料として優れた特性を示している。
[比較例1]
実施例1においてポリスチレン樹脂を添加しないこと以外は、実施例1と同様にして長繊維スパンボンド不織布を得た。得られた不織布の物性を表1に示す。得られた不織布は、実施例1、2で得られた不織布に比べ、破断伸度が約半分程度しかなく、低伸度であった。
【0034】
[比較例2]
実施例4においてポリスチレン樹脂を添加しないこと以外は、実施例4と同様にして長繊維スパンボンド不織布を得た。得られた不織布の物性を表1に示す。得られた不織布は、実施例4〜8で得られた不織布に比べ、破断伸度が約半分程度しかなく、低伸度であった。
[比較例3]
実施例1において熱圧着面積率2%で部分熱接合したこと以外は、実施例1と同様にして長繊維スパンボンド不織布を得た。得られた不織布の物性を表1に示す。得られた不織布は、実施例1、2で得られた不織布に比べ、破断伸度が約1/3程度しかなく低伸度であった。
【0035】
[比較例4]
実施例1において熱圧着面積率50%で部分熱接合したこと以外は、実施例1と同様にして長繊維スパンボンド不織布を得た。得られた不織布の物性を表1に示す。得られた不織布は、実施例1、2で得られた不織布に比べ、破断伸度が約1/3程度しかなく低伸度であった。
[比較例5]
実施例2においてMFRが18g/10minのポリスチレン樹脂を1.0wt%添加したこと以外は、実施例2と同様にして長繊維スパンボンド不織布を得た。得られた不織布の物性を表1に示す。MFRの数値が大き過ぎたために、実施例2に比較して、伸度は約半分程度であり、高伸度化が出来なかったことがわかる。
【0036】
[比較例6]
実施例1においてポリスチレン樹脂を添加量が10wt%となるようにブレンドしたこと以外は、実施例1と同様にして長繊維スパンボンド不織布を得ようとしたが、糸切れの多発と紡口付近での糸曲がりが発生し、紡糸不可の状態であり、連続した糸が得ることは出来なかった。
[比較例7]
比較例2の不織布を表面材料とし、ホットメルト剤を用いてロックウールとの貼り合わせを行い、耐火被覆材を作製した。この耐火被覆材の表面材として用いた場合、不織布の必要特性である追従性、ピンによる引張荷重、難燃性について評価し、それらの結果を表3に示した。これらから、追従性、引張荷重が低く、耐火被覆材の表面材料としては満足のできるものが得られなかった。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、前記のような従来技術の問題を解決しようとするものであり、ポリエステル系樹脂のブレンド紡糸において特定の物性を有するポリスチレン系樹脂を選定することで相溶化剤を用いなくても熱安定性と分散性を向上することが可能であり、紡糸性が良好で、且つ、低モジュラスで高伸度を有する不織布を提供すること、また、表面材料として見た目も良く、毛羽立ちにくい不織布を提供することを目的とするものである。本発明においては、後加工の必要が無いため、コスト面で有利であり、且つ、安定的な生産が可能である。
本発明の高伸度不織布は、低モジュラスで高伸度を有しているために成型加工時の追従性に特に優れ、且つ、毛羽立ちが少なく、表面材料として表面材料として見た目も良く、毛羽立ちにくい不織布であり、また、難燃剤を添加することで優れた難燃性を有し、耐火被覆材の表面材料としても適した不織布である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】表2におけるポリスチレン系樹脂の添加量が0.5wt%における熱圧着面積率と破断伸度・毛羽等級の関係を示す図である。
【図2】表2において熱圧着面積率11%におけるポリスチレン系樹脂添加量の効果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MFRが10g/10min以下であるポリスチレン系樹脂を0.1〜8.0wt%添加したポリエステルブレンド長繊維から構成され、3〜40%の熱圧着面積率で部分熱接合された不織布であって、且つ、該不織布のMD、CD方向のいずれの方向の破断伸度が30〜70%、毛羽等級が2.5級以上であることを特徴とする高伸度不織布。
【請求項2】
前記不織布においてポリスチレン系樹脂を添加しない場合の不織布に対するMD方向の引裂強度増加率が、30〜100%であることを特徴とする請求項1に記載の高伸度不織布。
【請求項3】
前記不織布においてポリスチレン系樹脂を添加しない場合の不織布に対するMD方向の5%モジュラス低下率が、20〜50%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の高伸度不織布。
【請求項4】
前記不織布が、スパンボンド不織布であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高伸度不織布。
【請求項5】
前記不織布の目付が10〜160g/m2 であり、且つ、厚みが0.04〜0.8mmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の高伸度不織布。
【請求項6】
前記不織布が、紡糸速度3000〜8000m/minで牽引された繊維から構成され、且つ、繊度が1.0〜4.0dtexであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の高伸度不織布。
【請求項7】
前記ポリエステルブレンド長繊維の複屈折率Δnが0.015〜0.07であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の高伸度不織布。
【請求項8】
前記不織布が、リン系の難燃剤を含有している繊維から構成されることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の高伸度不織布。
【請求項9】
請求項8に記載の高伸度不織布を用いることを特徴とする耐火被覆材の表面材料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−214766(P2008−214766A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−40438(P2007−40438)
【出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】