説明

高分子ゲル積層体およびその製造方法

【課題】 アミド基含有高分子と粘土鉱物とから構成される三次元網目構造を有する高分子ゲルの乾燥を長く防止することのできる高分子ゲル積層体及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 アミド基含有高分子と粘土鉱物とから構成される三次元網目構造を有する高分子ゲルからなる層と、水蒸気透過率が、100g/m/24hr・100μm以下の可撓性部材からなる層との積層構造を有する高分子ゲル積層体により、高分子ゲルの優れた物性を確保しつつ高分子ゲルを利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミド基含有高分子と粘土鉱物とから構成される三次元網目構造を有する高分子ゲルからなる層と、水透過率の低い可撓性部材からなる層との積層構造を有する高分子ゲル積層体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子ゲルは、素材が多量の溶媒(水、水溶性有機溶媒等)を含むことができるため、透明性、柔軟性、溶媒吸収性、特定溶質の吸着性や透過性などに優れており、分析、化学工業、農業、土木、建築、医療分野を始めとする多くの分野で、ソフトマテリアル、吸水材料、吸着剤、選択的分離材、振動吸収材などとして広く用いることが期待されている。しかし、これまでの高分子ゲルは、機能性と力学物性の全てを兼ね備えたものはほとんど無く、特に高分子ゲルの多くは力学的に弱いまたは脆いという欠点を有していた。最も一般的に用いられる高分子ゲルは、高分子鎖間を有機架橋剤を用いて、もしくはγ線や電子線を照射して、架橋したものであり、例えば、高吸水性樹脂として知られるポリアクリル酸ナトリウム架橋体や、N,N‘メチレンビスアクリルアミドにより架橋して得られたポリ(N、N−ジメチルアクリルアミド)のゲルなどが良く知られている。しかし、これらの高分子ゲル(以下、有機架橋高分子ゲルと略す)は極めて低い力学物性しか示さず、いずれも、10〜40%程度の延伸による弱い力で脆性破壊する課題を有していた。
【0003】
これに対して、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(以下、PNIPAと略す)やポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)(以下、PDMAAと略す)のようなアミド基含有高分子とヘクトライトなどの粘土鉱物をnmレベルで複合化して三次元網目を形成させて得られる高分子ゲルは、優れた透明性、高膨潤性と共に、極めて優れた力学物性や機能性(刺激応答性など)を示すことが報告されている(特許文献1,2)。例えば、PDMAAと粘土鉱物からなる高分子ゲルは優れた透明性、高膨潤性と共に、1500%を超える破断伸びや高い破断強度を有する優れた力学物性を示すことが報告されている(非特許文献1)。またPNIPAと粘土鉱物からなる高分子ゲルは1000%前後の破断伸びを含む優れた力学物性、優れた透明性、高い膨潤性に加えて、温度変化による迅速な膨潤/収縮などの優れた機能性を示すことが報告されている(非特許文献2、3)。以上のことから、アミド基含有高分子と粘土鉱物とが三次元網目を形成してなる高分子ゲルは、優れた透明性、膨潤性、力学物性、機能性により数多くの産業分野で有効に用いられることが期待されている。
【0004】
しかし、かかる高分子ゲルは、水や水溶性溶媒を主たる構成成分とするため、乾燥により大きく物性が変化することが難点であった。また、当該高分子ゲルの溶媒保持能力を利用して、高分子ゲルを適用する対象を湿潤状態に保持しておく場合や、対象物からの不必要な溶液を吸収する場合、更にはゲルシートから必要に応じて有効な溶質を放出させる場合などの用途においても、透明性や柔軟性等の高分子ゲルの優れた物性を維持したまま、長期間乾燥を防止することが強く求められていた。
【0005】
【特許文献1】特開2002−53629号公報
【特許文献2】特開2005−110604号公報
【非特許文献1】Kazutoshi Haraguchi, Robin Aarnworth, Akira Ohbayashi, Toru Takehisa, Macromolecules, vol.36, No.15, 5732-5741 (2003).
【非特許文献2】Kazutoshi Haraguchi, Toru Takehisa, Advanced Materials, vol.14, No.16, 1120-1124 (2002).
【非特許文献3】Kazutoshi Haraguchi, Toru Takehisa, Simon Fan, Macromolecules, vol.35, No.27, 10162-10171 (2002).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、アミド基含有高分子と粘土鉱物とから構成される三次元網目構造を有する高分子ゲルの乾燥を長く防止することのできる高分子ゲル積層体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究に取り組んだ結果、アミド基含有高分子と粘土鉱物とから構成される三次元網目構造を有する高分子ゲルからなる層と、不透湿性の可撓性部材からなる層とを積層した積層体により、高分子ゲルの優れた物性を確保しつつ高分子ゲルを利用できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、アミド基含有高分子と粘土鉱物とから構成される三次元網目構造を有する高分子ゲルからなる層と、水蒸気透過率が、100g/m/24hr・100μm以下の可撓性部材からなる層との積層構造を有する高分子ゲル積層体を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明により得られる高分子ゲル積層体は、アミド基含有高分子と粘土鉱物とから構成される三次元網目構造を有する高分子ゲルからなる層と、不透湿性の可撓性部材からなる層とが積層されたものであるため、高分子ゲルの本来の特性(透明性、柔軟性、高タフネス、湿潤性、膨潤性、吸収性、溶質放出性、耐衝撃性、温度応答性など)が対象物に対して発揮出来、且つ、その効果が長時間持続する効果を有する。
【0010】
さらに、使用する用途に応じて、透明性、可逆的伸縮性、あるいは柔軟性を有する可撓性部材を適用することにより、多様な物性の高分子ゲル積層体を適宜設計することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明で得られる高分子ゲル積層体は、アミド基含有高分子と粘土鉱物から構成される三次元網目構造を有する高分子ゲルからなる層と、可撓性部材からなる層とが積層されたものである。
【0012】
[高分子ゲル]
高分子ゲルを形成するアミド基含有高分子は、水に溶解する性質を有するアミド基含有ビニルモノマーを主成分として重合して得られるものであり、得られるアミド基含有高分子が水に溶解または膨潤するものが特に好ましい。
【0013】
アミド基含有高分子を得るためのアミド基含有ビニルモノマーの具体例としては、N−アルキルアクリルアミド、N,N−ジアルキルアクリルアミド、N−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジアルキルメタクリルアミド、アクリルアミドなどのアミド基含有ビニルモノマーの中から選択される1種又は2種以上のモノマーが挙げられる。例えば、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−シクロプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−シクロプロピルメタクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N−メチル−N−エチルアクリルアミド、N−メチル−N−イソプロピルアクリルアミド、N−メチル−N−n−プロピルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−アクリロイルピロリディン、N−アクリロイルモルフォリン、N−アクリロイルピペリディン、N−アクリロイルメチルホモピペラディン、N−アクリロイルメチルピペラディン、アクリルアミド等が例示される。
【0014】
また上記アミド基含有ビニルモノマーとその他の重合性モノマーの併用も本発明に言う高分子ゲルが形成される限りにおいて可能である。特に高分子ゲルの接着性を向上させるために、カルボン基、アミノ基、水酸基などを含む重合性モノマーを併用することは有効である。また、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)やポリ(N,N−ジエチルアクリルアミド)などのように相転移を示す臨界温度を有し、外部刺激でゲル体積を変化させるような刺激応答性水溶性ポリマーは特に好ましく用いられる。
【0015】
高分子ゲルを形成する粘土鉱物としては、表面に荷電を有し、且つ水中で膨潤または層状に解離する水膨潤性粘土鉱物であることが好ましく、より好ましくは単層または複数層の小さい単位に水中で微細に分散するものである。好ましい粘土鉱物の具体例としては、ナトリウムを層間イオンとして含む水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性モンモリロナイト、水膨潤性サポナイト、水膨潤性合成雲母などが挙げられる。
【0016】
本発明において使用する高分子ゲルを形成するアミド基含有高分子と粘土鉱物の量は、アミド基含有高分子と粘土鉱物が三次元網目を形成出来れば良く、特に限定されないが、粘土鉱物/アミド基含有高分子化合物の質量比が0.001〜10であることが好ましく、より好ましくは0.05〜5、特に好ましくは0.1〜1である。
【0017】
本発明において使用する高分子ゲルは、1kPa以上の引っ張り弾性率、20kPa以上の引っ張り強度、および50%以上の破断伸びといった優れた物性を実現できる柔軟且つ強靭な材料であり、好ましくは、引っ張り弾性率が5kPa以上、引っ張り強度が50kPa以上、破断伸びが50%以上、さらに好ましくは引っ張り弾性率が10kPa以上、引っ張り強度が80kPa以上、破断伸びが100%以上の物性を有する。特に好ましくは引っ張り弾性率が10kPa以上、引っ張り強度が80kPa以上、破断伸びが300%以上である。また、これら物性に特に上限は制限されないが、様々な変形が想定されるような用途においては、十分な柔らかさを有する、100kPa以下の引っ張り弾性率のものが特に好適である。
【0018】
本発明において使用する高分子ゲルは、他の力学的変形に対しても良好な機械特性を示し、例えば大きな圧縮、引っ張り又は曲げ変形に対しても優れた強靱性を有する。具体的には、元の高分子ゲルに比べて厚み方向で1/3以下の厚みに圧縮変形されても、その形状が破壊されない高分子ゲルや、又は長さ中心点で100度以上の角度に曲げ変形されても、その形状が破壊されない高分子ゲルとすることもできる。
【0019】
本発明において使用する高分子ゲルは、透明性の高いものとすることができる。透明性の程度はアミド基含有高分子化合物に対する粘土鉱物の量比や、水の含有率などにより異なる。その程度は、好ましくは、該高分子ゲルの厚さが2mmであるときに、厚さ方向への波長600nmの可視光に対する透過率が70%以上であるものが用いられ、より好ましくは80%以上のものが、特に好ましくは90%以上のものが用いられる。
【0020】
本発明において使用する高分子ゲルは、その三次元網目の中に溶媒を含有する。溶媒としては、水、水と混和する有機溶媒、またはこれらの混合溶媒などの溶媒が用いられる。好ましくは水または水を主成分とする溶媒である。
【0021】
本発明において高分子ゲルに含まれる水又は溶媒の量は、目的に応じて設定され一概には規定されないが、好ましくは高分子ゲル中のアミド基含有高分子化合物と水膨潤性粘土鉱物との合計質量に対する水又は溶媒の質量比が300程度のものも得ることができるが、上記のような好適な物性を得るためには、該質量比を50以下とすることが好ましく、0.1〜30のものがより好ましい。
【0022】
本発明において使用する高分子ゲルは、上記のとおり、優れた透明性、膨潤性、吸収性、力学物性(柔軟性、高タフネス、高伸張性、耐圧縮性)を示し、これら特性は、使用する用途によって必要とされる特性に適宜調整することができる。
【0023】
本発明における高分子ゲルを得るための製造方法としては、アミド基含有モノマーを粘土鉱物共存下での重合反応によって行われる。重合反応は、ラジカル重合開始剤の存在、加熱、または紫外線照射など慣用の方法を用いたラジカル重合により行わせることが出来る。
【0024】
具体的には、まず、アミド基含有モノマーと粘土鉱物と水を含む均一分散液を調製した後、粘土鉱物共存下でアミド基含有モノマーを重合させることにより、高分子ゲルを調製する。ここで層状に剥離した粘土鉱物が架橋剤の働きをすることによりアミド基含有モノマー重合体と粘土鉱物との三次元網目を形成した高分子ゲルが得られる。該高分子ゲルはこのように形成された三次元網目構造を有することにより、その内部に水又は水と水溶液を保持することができると共に、上記の優れた物性を有する。
【0025】
ラジカル重合開始剤及び重合促進剤としては、慣用のラジカル重合開始剤及び重合促進剤のうちから適宜選択して用いることが出来、好ましくは水に分散性を有し、系全体に均一に含まれるものを用いることができる。特に好ましくは層状に剥離した粘土鉱物と強い相互作用を有するラジカル重合開始剤である。具体的には、水溶性の過酸化物、例えばペルオキソ二硫酸カリウムやペルオキソ二硫酸アンモニウム、水溶性のアゾ化合物などを好ましく使用できる。水溶性アゾ化合物としては、和光純薬工業株式会社製のVA−044、V−50、V−501などが好ましく使用できる。その他、ポリエチレンオキシド鎖を有する水溶性ラジカル開始剤なども使用できる。また重合促進剤としては、3級アミン化合物であるN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンやβ−ジメチルアミノプロピオニトリルなどを好適に使用できる。
【0026】
上記重合反応時の温度は、用いるアミド基含有モノマー、重合促進剤及び開始剤の種類などに合わせて適宜選択すればよく、例えば0℃〜100℃の範囲に設定出来る。
【0027】
重合時間は重合促進剤、開始剤、重合温度、重合溶液量(厚み)などの重合条件によって異なり、一概に規定できないが、一般に数十秒〜十数時間の間で調整すればよい。
【0028】
本発明の高分子ゲルは、その特性を改良する目的で、該高分子ゲル中のアミド基含有高分子化合物の一部を共有結合により架橋させることが出来る。該高分子ゲル中のアミド基含有高分子化合物の一部を共有結合させることにより、形状の安定性が向上する。 アミド基含有高分子化合物の一部を共有結合によって架橋させる方法は、高分子ゲルに放射線を照射して、アミド基含有高分子化合物相互で共有結合させる方法が挙げられる。
【0029】
[可撓性部材]
本発明においては、水蒸気透過率が、100g/m/24hr・100μm以下である不透湿性の可撓性部材からなる層を、高分子ゲルからなる層と積層することで、高分子ゲルからなる層からの水や有機溶媒等の溶媒の揮発を防ぎ、高分子ゲルの優れた特徴を最大限に発揮することができる。
【0030】
また、使用する可撓性部材を適宜選択することで、各種用途に応じた特性の積層体に適宜設計することが可能である。本発明において使用する高分子ゲルは、タフネスや伸縮性、弾性等に優れるものであるが、更に形状安定性が必要な場合や、曲げ特性を保持する場合などにおいては、伸張性が好ましくは50%以上、更に好ましくは100%以上、特に好ましくは300%以上のものや、引っ張り弾性率が、好ましくは100kPa以下、更に好ましくは50kPa以下、特に好ましくは10kPa以下のものを好適に使用できる。
【0031】
さらに、本発明において使用する高分子ゲルは、透明性にも優れるものであるため、可撓性部材として、100μm厚さにおける厚さ方向への600nm波長の可視光の透過率が、好ましくは50%以上、特に好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上のものを使用することにより、高分子ゲルの透明性を生かすことができ、適用する対象物の経時変化観察等を好適に行うことができる。
【0032】
このような可撓性部材としては、高分子ゲルの物性を確保するための可撓性と、長期の溶媒の揮発を防ぐ不透湿性とを有するものであればよく、特に限定されないが、具体的には、ポリウレタン、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、及びそれらのエラストマー、シリコンゴム、天然ゴムなどが挙げられる。
【0033】
[高分子ゲル積層体]
本発明の高分子ゲル積層体は、上記高分子ゲルからなる層と、可撓性部材からなる層とが積層されたものであり、これら層の形状は、シート状、フィルム状、板状、円筒状等の各種形状を取り得る。可撓性部材からなる層の厚みとしては、フィルムの不透湿性や透明性、力学物性などによる他、高分子ゲルの使用期間(許容乾燥度)や柔軟性、透明性などにより変化するため一概に規定できないが、好ましくは1〜500μm、より好ましくは5〜300μm、特に好ましくは20〜100μmである。
【0034】
また、高分子ゲルからなる層の一つの表面のみが可撓性部材からなる層と積層されたものであっても、両方の面に可撓性部材からなる層が積層されたものであってもよい。さらに、これら層は、複数層が積層されていてもよい。
【0035】
本発明における高分子ゲル積層体は、高分子ゲルからなる層の一面のみが可撓性部材からなる層と積層されている場合には、取り扱い性や使用前の保存性などから、もう一方の面が防湿性のある離型フィルムと複合されていることが好ましい。該離型フィルムの透明性は特になくてもかまわず、柔軟性の大小は使用および保存性から任意に選択出来る。
【0036】
本発明における高分子ゲルからなる層と可撓性部材からなる層との積層方法は密着しておれば良く必ずしも限定されないが、具体的には、各々の材料により別途作成されたシート状やフィルム状の層を接着剤で接着する方法、両者を縫い合わせる方法、両者を機械的に圧着させる方法、あるいは、一方の層を作製した後、該層上で他方の層を直接重合して積層する方法、などが挙げられる。ここで、接着剤無しで高分子ゲルからなる層と可撓性部材からなる層を積層する方法は、積層体の物性に影響を与える接着剤を使用しないため好ましい。特に、一方の層上で他方の層を直接重合する方法は、両層を強固に一体化させることができるため、より好ましい。
【0037】
本発明において接着剤無しで高分子ゲルと可撓性部材を接着する方法としては、好ましくは、以下の方法が用いられる。まず、可撓性部材表面をプラズマ処理し、次いで、その表面上に高分子ゲルの反応溶液を導入して重合反応を進めることにより可撓性部材と高分子ゲルを接着させることにより、接着剤無しで、強固に高分子ゲルが可撓性部材に接着した高分子ゲル積層体が製造できる。ここで、高分子ゲルと可撓性部材との接着強度をあげるために、高分子ゲル及び/または可撓性部材の構成成分として、水酸基、カルボン酸基、アミン、アルコキシシリル基、エポキシ基などを導入しておくことは有効に用いられる。
【0038】
高分子ゲルと可撓性部材を接着するために用いられる、可撓性部材表面へのプラズマ処理方法は、通常フィルムの表面改質として行われる方法が用いられ、特に限定されるものではないが、プラズマ出力が1〜1000W、発振周波数1MHz〜10GHz、導入ガスは空気、酸素、アルゴン等の方法が好ましく用いられる。これらの条件で行うことにより、高分子ゲルに接着する可撓性部材の物性を保つことが可能となる。
【0039】
本発明の高分子ゲル積層体は、好ましくはシート状高分子ゲルを用いた積層体とすることにより、該積層体は柔軟性を持ち、対象物と高分子ゲルが容易に接触させられ、対象物の経時変化観察、外の衝撃からの対象物の保護、対象物の湿潤環境の保持、対象物からの余分な水分や溶液の吸収、対象物への溶質の放出などが効果的に行える。
【0040】
このような特性を有する高分子ゲル積層体は、高分子ゲル層に薬液を長期保持することができ、また、滲出液の吸収能力が高く、滲出液を吸収後も形状が安定に保持することができるために、長期間にわたって創傷面に継続して使用できる創傷被覆材として極めて有用である。また、透明性を有するものは、創傷面に貼り付けたままの状態で、治癒程度を観察することが可能である。また、柔軟性に優れ、凹凸のある創傷面への適用が可能であり、特に関節や、運動により振動・衝撃の負担がかかる位置への適用も可能である。
【実施例】
【0041】
次いで本発明を実施例により、より具体的に説明するが、もとより本発明は、以下に示す実施例にのみ限定されるものではない。
【0042】
(製造例1)
粘土鉱物には、[Mg5.34Li0.66Si20(OH)]Na0.66の組成を有する水膨潤性合成ヘクトライト(Rockwood Ltd.製「ラポナイトXLG」)を、有機モノマーはN,N−ジメチルアクリルアミド(興人株式会社製:以下、DMAAと略記。)を精製してから使用した。重合開始剤は、ペルオキソ二硫酸カリウム(関東化学株式会社製:以下、KPSと略記。)を、重合促進剤は、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(和光純薬工業株式会社製:以下、TEMEDと略記。)を使用した。超純水は、全て窒素バブリング等により、含有酸素を除去してから使用した。
【0043】
平底ガラス容器に、超純水57.06g、2.4gのラポナイトXLG、DMAA5.94gを加え、無色透明溶液を得た。さらにKPSとTEMEDを加えた。この溶液を厚み2mm、長さ100mm、幅100mmの圧入容器に酸素に触れないようにして移した後、密栓をし、20℃の恒温水槽中で20時間静置して重合を行った。なお、これらの操作は、酸素を遮断した状態で行った。重合開始から20時間後に、圧入容器内にほぼ無色透明で均一な厚さ2mmのシート状高分子ゲル(A)が得られた。
【0044】
得られたゲルおよびその乾燥物の熱重量分析(セイコー電子工業株式会社製TG−DTA220:室温〜600℃)、フーリエ変換赤外線吸収スペクトル測定(日本分光株式会社製フーリエ変換赤外分光光度計FT/IR−550)、乾燥重量測定により、モノマー(DMAA)の99.5%以上が重合し、初期反応溶液とほぼ同じ割合の粘土鉱物(ラポナイトXLG)を含む高分子ゲルであることが確認された。広角X線回折(理学機器製:X線回折装置RINTULTIMA)および透過型電子顕微鏡観察(日本電子株式会社製JEM−200CX:加速電圧100KV)により、ゲル内部で粘土鉱物が層状剥離して分子状に分散していることが確認された。また、高分子ゲルの乾燥物を20℃の水に浸漬することにより、水を吸収し乾燥前と同じ形状の弾性のあるゲルに戻ることが確認され、得られた高分子ゲルにおいてポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)とクレイを主成分とする三次元網目構造が形成されていることが確認された。
【0045】
このようにして得られたシート状高分子ゲル(A)を1cm×5cmの大きさに切断し、チャック部での滑りの無いようにして引っ張り試験装置(株式会社島津製作所製、卓上型万能試験機AGS−H)に装着し、評点間距離30mm、引っ張り速度100mm/分にて引っ張り試験を行った。その結果、引っ張り強度が85kPa、破断伸びが1520%、弾性率が5.2kPaであり、いずれも柔らかさと強靱さを有していることが確認された。
【0046】
また、シート状高分子ゲル(A)を、紫外可視分光光度計(日本分光株式会社製V−530)内に固定して、シート状高分子ゲル(A)の厚さ方向の光透過率測定を行った。その結果、600nm波長で92%の光透過率であることが確認された。
【0047】
このシート状高分子ゲル(A)を2cm×2cmの大きさに切断し、シート状高分子ゲル(B)とした。次に、100ml容器に20℃の蒸留水を入れ、ゆっくりと撹拌しながらその中にシート状高分子ゲル(B)を丁寧に入れた。その後、蒸留水の温度を20℃に保ちながら、シート状高分子ゲル(B)を時々取り出して、重量測定を行った。測定開始から10日後に、重量はほぼ一定になり、平衡膨潤に達した。この時の、該シート状ゲルに含まれるアミド基含有高分子と粘土鉱物との合計質量に対する水の質量比は、250であった。
【0048】
(実施例1)
大きさが5cm×10cmで厚みが30μmのポリウレタンフィルム(可視光透過率:70%、水蒸気透過率:56g/m/24hr・100μm)(T−6085、ディーアイシー・バイエル・ポリマー株式会社製)をプラズマ処理装置(PR31、ヤマト科学製)のチャンバー内に入れ、プラズマ処理を行った。処理条件は、出力60W、発振周波数18.53MHz、導入ガス:アルゴンとして、5分間プラズマ照射を行った。プラズマ処理後、ポリウレタンフィルムを製造例1で使用したものと同じ圧入容器の内部底面に隙間が出来ないように敷いた。このポリウレタンフィルムを底面に敷いた圧入容器を用いて、製造例1と同様の方法でポリウレタンフィルム上にシート状の高分子ゲルの作成を行い、ウレタンフィルム層と、高分子ゲル層とが積層した高分子ゲル積層体(1)を得た。得られた高分子ゲル積層体(1)における高分子ゲル層と、プラズマ処理されたポリウレタンフィルム層とは容易に剥離せず、強固に接着していた。得られた高分子ゲル積層体(1)は、300%以上の延伸が可能であり、また延伸後は直ちに元の形状に回復した。
【0049】
得られた高分子ゲル積層体(1)の光透過率を製造例1と同様の方法で測定したところ、600nm波長での光透過率は、80%であり、ポリウレタンフィルムと高分子ゲルが積層することにより、ポリウレタンフィルム単独での光透過率よりも高値が得られた。次に、高分子ゲル積層体(1)の水分乾燥時間の測定を行った。3cm×3cmに切断した高分子ゲル積層体(1)のポリウレタンフィルム層を上向きにして、ポリプロピレン製トレイにのせ、25℃雰囲気下で静置して、重量変化を観察したところ、測定前の高分子ゲル積層体(1)の高分子ゲル層の含水率が88%であったのに対して、測定開始から24時間後の含水率は80%、測定開始100時間後でも含水率50%であり、十分な柔軟性を保つ含水率を維持していた。
【0050】
さらに、高分子ゲル積層体(1)の溶媒吸収試験を行った。溶媒は超純水、生理食塩水、ウシ血漿を用いた。2cm×2cmのくり抜いた穴のあるアクリル板に5cm×5cmの大きさの高分子ゲル積層体(1)を、高分子ゲル層が接触するようにのせ、穴の下部から各溶媒と高分子ゲル積層体(1)を接触させた。各溶媒は適宜供給し、シート状ゲルの吸収により溶媒とゲルとの接触が連続的に行えるようにした。測定は25℃雰囲気下で行い、適宜高分子ゲル積層体(1)の重量を測定した。その結果、高分子ゲル積層体(1)の元の重量に対して、測定開始4時間後の各溶媒に対しての重量変化は水・生理食塩水・ウシ血漿がそれぞれ1.3、1.2、及び1.15倍であり、また測定開始12時間後ではそれぞれ1.8、1.5、及び1.3倍であり、高分子ゲル積層体(1)は、各溶媒を吸収し、経時的に増加していったことが確認された。
【0051】
(実施例2)
ポリウレタンフィルムの厚みが60μmのものを用いる以外は実施例1と同様にして、高分子ゲル積層体(2)の作製を行った。
【0052】
得られた高分子ゲル積層体(2)は、ポリウレタンフィルムと積層している側と反対側の面に、水蒸気透過率が6.9g/m/24hr・100μmであるポリエステルフィルム(商品名:ルミラーS10、東レ株式会社製)を積層させて、高分子ゲル積層体(2’)とした。この高分子ゲル積層体(2’)は該積層体の両面がポリウレタンフィルム及びポリエステルフィルムで積層されているために、非常に取り扱い性が良好であった。
【0053】
この高分子ゲル積層体(2’)に積層されているポリエステルフィルムを離型した高分子ゲル積層体(2’’)の光透過率を製造例1と同様の方法で測定したところ、600nm波長での光透過率は、66%であり、ポリウレタンフィルム単独での光透過率(60%)よりも高い値が得られた。次に、実施例1と同様の方法で高分子ゲル積層体(2’’)の水分乾燥時間の測定を行ったところ、測定前の高分子ゲル積層体(2’’)の高分子ゲル部分の含水率が88%であったのに対して、測定開始から24時間後にシート状ゲルの含水率は85%とわずかな低下しかなく、測定開始100時間後でも含水率70%となり、十分な柔軟性を保つ含水率を維持していた。
【0054】
さらに、実施例1と同様の方法で、高分子ゲル積層体(2’’)を用いて溶媒に対する吸収試験を行ったところ、高分子ゲル積層体(2’’)の元の重量に対して、測定開始4時間後の各溶媒に対しての重量変化は水・生理食塩水・ウシ血漿がそれぞれ1.3、1.2、及び1.15倍であり、また測定開始12時間後ではそれぞれ1.8、1.5、及び1.3倍であり、高分子ゲル積層体(2’’)の各溶媒吸収能力は、高分子ゲル積層体(1)と同様であった。
【0055】
(実施例3)
製造例1で得られたシート状ゲル(A)の表面に実施例1で用いたものと同様のポリウレタンフィルムをのせ、医療用絹製縫合糸を用いてゲルの端部全体と、ポリウレタンフィルムを縫合して高分子ゲル積層体(3)を得た。得られた高分子ゲル積層体(2)は、高分子ゲル層とポリウレタンフィルム層が接着はしてないが、高分子ゲル層の一方の面はポリウレタンフィルムで密着して被覆されており、容易には剥離しなかった。
【0056】
この得られた高分子ゲル積層体(3)の光透過率を製造例1と同様の方法で測定したところ、600nm波長での光透過率は、70%であり、ポリウレタンフィルム単独での光透過率とほぼ同等であった。次に、実施例1と同様の方法で高分子ゲル積層体(3)の水分乾燥時間の測定を行ったところ、測定前の高分子ゲル積層体(3)の高分子ゲル層部分の含水率が88%であったのに対して、測定開始から24時間後の含水率は77%と約1割程度の低下であり、測定開始100時間後でも含水率45%となり、十分な柔軟性を保つ含水率を維持していた。
【0057】
さらに、実施例1と同様の方法で、高分子ゲル積層体(3)を用いて溶媒の吸収試験を行ったところ、高分子ゲル積層体(3)の元の重量に対して、測定開始4時間後の各溶媒に対しての重量変化は水・生理食塩水・ウシ血漿がそれぞれ1.3、1.2、及び1.15倍であり、また測定開始12時間後ではそれぞれ1.8、1.5、及び1.3倍であり、高分子ゲル積層体(3)の各溶媒吸収能力は、シート状ゲル(B)同様であることが確認された。
【0058】
(実施例4)
製造例1で得られたシート状高分子ゲル(A)を透明なポリスチレン製容器にのせ、25℃雰囲気下で静置したところ、含水率が静置前の88%に対して、静置2時間後には70%となり、やや含水率が低下した。このやや低含水率シート状高分子ゲル(A’)の上面に接着剤付きの医療用ポリウレタンフィルム(商品名:バイオクルーシブ、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社製、可視光透過率70%、厚み45μm)を貼り付け、高分子ゲル積層体(4)を得た。得られた高分子ゲル積層体(4)は、ポリウレタンフィルムによって隙間無く固定され、ポリスチレン製容器とも密着した。
【0059】
このようにして得られた高分子ゲル積層体(4)の光透過率を製造例1と同様の方法で、ポリスチレン製容器にのせたまま測定したところ、600nm波長での光透過率は75%であり、ポリウレタンフィルム単独での光透過率よりも高い値が得られた。次に、実施例1と同様の方法によりポリウレタンフィルムで被覆された高分子ゲル積層体(4)の水分乾燥時間の測定を行ったところ、測定前の高分子ゲル積層体(4)の高分子ゲル部分の含水率が70%であったのに対して、測定開始から24時間後にシート状高分子ゲルの含水率は64%と1割未満の低下程度であり、測定開始100時間後でも含水率50%となり、十分な柔軟性を保つ含水率を維持していた。
【0060】
さらに、実施例1と同様の方法で、高分子ゲル積層体(4)を用いて溶媒に対する吸収試験を行ったところ、高分子ゲル積層体(4)の元の重量に対して、測定開始4時間後の各溶媒に対しての重量変化は水・生理食塩水・ウシ血漿がそれぞれ1.3、1.2、及び1.15倍であり、また測定開始12時間後ではそれぞれ1.8、1.5、及び1.3倍であり、高分子ゲル積層体(4)の各溶媒吸収能力は、シート状ゲル(B)と変わらないことが確認された。
【0061】
(比較例)
製造例1で得られた、ポリウレタンフィルムで被覆されていないシート状ゲル(A)を用いて、実施例1と同様の方法でシート状ゲル(A)の水分乾燥時間の測定を行ったところ、測定前のシート状ゲル(A)の含水率が88%であったのに対して、測定開始から24時間後にシート状ゲルの含水率は10%とほとんど水が蒸発してしまい、高分子ゲルとしての柔軟性・機能性は失われてしまった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミド基含有高分子と粘土鉱物とから構成される三次元網目構造を有する高分子ゲルからなる層と、水蒸気透過率が、100g/m/24hr・100μm以下の可撓性部材からなる層との積層構造を有することを特徴とする高分子ゲル積層体。
【請求項2】
前記可撓性部材の100μmの厚さにおける厚さ方向への600nm波長の可視光の透過率が、50%以上である請求項1に記載の高分子ゲル積層体。
【請求項3】
前記可撓性部材が、可逆的な伸縮性を有する請求項1又は2に記載の高分子ゲル積層体。
【請求項4】
前記可撓性部材の引張弾性率が、100kPa以下である請求項1〜3のいずれかに記載の高分子ゲル積層体。
【請求項5】
前記高分子ゲルが、溶媒の含有率90%の条件において、5kPa以上の引っ張り弾性率、50kPa以上の引っ張り強度、及び100%以上の破断伸びを有するものである請求項1〜4のいずれかに記載の高分子ゲル積層体。
【請求項6】
前記アミド基含有高分子が、N−置換アクリルアミド誘導体、N,N−ジ置換アクリルアミド誘導体、N−置換メタクリルアミド誘導体、又はN,N−ジ置換メタクリルアミド誘導体からなる群から選ばれる少なくとも一種のモノマーからなるものである請求項1〜5のいずれかに記載の高分子ゲル積層体。
【請求項7】
前記粘土鉱物が、水膨潤性のヘクトライト、水膨潤性のモンモリロナイト、水膨潤性のサポナイト、又は水膨潤性の合成雲母からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜6のいずれかに記載の高分子ゲル積層体。
【請求項8】
前記高分子ヒドロゲルが、水に均一に分散した粘土鉱物の存在下で、水溶性有機モノマーを重合させてなるものである請求項1〜7のいずれかに記載の高分子ゲル複合体。
【請求項9】
高分子ゲルからなる層の表面に、防湿性を有する離型フィルムを有する請求項1〜8に記載の高分子ゲル複合体。
【請求項10】
可撓性部材からなる層の表面をプラズマ処理し、次いで、その表面上にアミド基含有モノマーと粘土鉱物と水を含む分散液を塗布し、粘土鉱物共存下でアミド基含有モノマーを重合させて、可撓性部材からなる層の表面に高分子ゲルからなる層を積層する工程を有することを特徴とする高分子ゲル積層体の製造方法。
【請求項11】
前記可撓性部材からなる層が、その表面に水酸基、カルボン酸基、アミン、アルコキシシリル基、又はエポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも一種の基を有する請求項10に記載の高分子ゲル積層体の製造方法。

【公開番号】特開2007−125762(P2007−125762A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−319436(P2005−319436)
【出願日】平成17年11月2日(2005.11.2)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】