説明

高分子化合物、高分子化合物の製造方法、高分子化合物を用いた燃料電池用電解質膜

【課題】本発明は、高分子化合物、高分子化合物の製造方法、高分子化合物を用いた燃料電池用電解質膜に関し、ヘテロポリ酸の溶出を抑制可能な高分子化合物、高分子化合物の製造方法、高分子化合物を用いた燃料電池用電解質膜を提供することを目的とする。
【解決手段】側鎖にホスホン酸基を有する高分子と、前記ホスホン酸基のリン原子に配位し、一般式Xα1―αβ(式中、Xはタングステン、モリブデン又はバナジウム、Yはモリブデンをそれぞれ表し、αは0<α≦1であり、βは4〜6である。)で表される多面体と、を備え、前記ホスホン酸基のリン原子と前記多面体とが、リン原子をヘテロ原子とする擬似ヘテロポリ酸を構成する。これにより、ヘテロポリ酸同様の高プロトン伝導性を発揮できる。また、個々の多面体は、ホスホン酸基のリン原子に配位形成されているので構造的に安定である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高分子化合物、高分子化合物の製造方法、高分子化合物を用いた燃料電池用電解質膜に関し、より詳細には、側鎖にホスホン酸基を有する高分子化合物、その製造方法及びそれを用いた燃料電池用電解質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1には、側鎖にスルホン酸基を有する高分子材料に、タングストリン酸を含有させた高分子化合物が開示されている。タングストリン酸は、それ自体では高いプロトン伝導性を示さないものの、プロトンを引き付けて水素結合距離を変える働きがある。そのため、強い酸性と酸化力とを併せ持つので、導電性付与剤として機能できる。従って、タングストリン酸を含有させた上記特許文献1の高分子化合物は、プロトン導電性を示すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−073357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、タングストリン酸を始めとするヘテロポリ酸は、水を非常に吸着しやすい性質を有する。そのため、ヘテロポリ酸を用いた高分子化合物の製造に際しては、中間工程で水分を吸着するので、成膜化が難しいという問題がある。故に、上記特許文献1に見られるように、ヘテロポリ酸は、成膜化の直前で添加される。しかしながら、この様にして膜化できたとしても、ヘテロポリ酸の性質自体には変わりがない。そのため、膜化後の製造物を燃料電池に使用した場合、ヘテロポリ酸が電気化学反応による生成水等の水分を吸着した結果、燃料電池外に溶出するという問題がある。従って、経時的な運転に伴ってプロトン導電性が低下するおそれがあった。
【0005】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、ヘテロポリ酸の溶出を抑制可能な高分子化合物、高分子化合物の製造方法、高分子化合物を用いた燃料電池用電解質膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、高分子化合物であって、
側鎖にホスホン酸基を有する高分子と、
前記ホスホン酸基のリン原子に配位し、一般式Xα1―αβ(式中、Xはタングステン、モリブデン又はバナジウム、Yはモリブデンをそれぞれ表し、αは0<α≦1であり、βは4〜6である。)で表される多面体と、を備え、
前記ホスホン酸基と前記多面体とが、リン原子をヘテロ原子とするヘテロポリ酸構造を取ることを特徴とする。
【0007】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記ホスホン酸基と前記多面体とが、ケギン型のヘテロポリ酸構造を取ることを特徴とする。
【0008】
また、第3の発明は、第1の発明において、
前記ホスホン酸基と前記多面体とが、ドーソン型のヘテロポリ酸構造を取ることを特徴とする。
【0009】
また、第4の発明は、第1の発明において、
前記ホスホン酸基と前記多面体とが、アンダーソン型のヘテロポリ酸構造を取ることを特徴とする。
【0010】
また、第5の発明は、第1乃至第4何れか1つの発明において、
前記多面体が一般式WOで表される八面体であることを特徴とする。
【0011】
また、第6の発明は、第1乃至第5何れか1つの発明において、
前記高分子が、分子内に1個以上のホスホン酸基と1個以上のエチレン性不飽和結合とを有するホスホン酸基含有不飽和モノマーと、分子内に1個以上のアルコキシシリル基と1個以上のエチレン性不飽和結合とを有するアルコキシシリル基含有不飽和モノマーとを反応させることで得られる架橋型の共重合体であることを特徴とする。
【0012】
また、第7の発明は、第6の発明において、
前記ホスホン酸基含有不飽和モノマーが、一般式CH=CHRCOO(CHCHO)PO(OH)(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、nは1〜200である。)で表されることを特徴とする。
【0013】
また、第8の発明は、上記の目的を達成するため、燃料電池用電解質膜であって、
第1乃至7何れか1項に記載の高分子化合物を用いたことを特徴とする。
【0014】
また、第9の発明は、上記の目的を達成するため、高分子化合物の製造方法であって、 (A)分子内に1個以上のホスホン酸基と1個以上のエチレン性不飽和結合とを有するホスホン酸基含有不飽和モノマーと、(B)タングステン、モリブデン及びバナジウムからなる群から選ばれた少なくとも1種類の金属のイオンをアルコール系溶剤に溶解して得られるアルコキシド溶液と、を混合する第1工程と、
第1工程により得られた混合液に、(C)分子内に1個以上のアルコキシシリル基と1個以上のエチレン性不飽和結合とを有するアルコキシシリル基含有不飽和モノマーと、(D)光重合開始剤と、を加えて更に混合する第2工程と、
第2工程により得られた混合液に対して露光する第3工程と、
を備えることを特徴とする。
【0015】
また、第10の発明は、第9の発明において、
前記(A)ホスホン酸基含有不飽和モノマーと前記(C)アルコキシシリル基含有不飽和モノマーの物質量比が、(A)ホスホン酸基含有不飽和モノマー:(C)アルコキシシリル基含有不飽和モノマー=8:2〜5:5であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
第1乃至第10の発明によれば、ヘテロポリ酸の溶出を抑制可能な高分子化合物、その製造方法及びそれを用いた燃料電池用電解質膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の高分子化合物の一部の拡大模式図である。
【図2】本発明の高分子化合物の一部の拡大模式図である。
【図3】実施例1で作製した試料に対するX線構造解析の結果を示す図である。
【図4】実施例2、比較例1で作製した電解質膜に対するプロトン伝導率評価の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図1及び図2を参照して、本発明の高分子化合物の詳細を説明する。
[高分子化合物の構造]
図1は、本発明の高分子化合物の一部の拡大模式図である。図1に示すように、本発明の高分子化合物は、側鎖にホスホン酸基を有する直鎖状の高分子を含んでいる。ホスホン酸基の周囲には一般式Xα1―αβ(式中、Xはタングステン、モリブデン又はバナジウム、Yはモリブデンをそれぞれ表し、αは0<α≦1であり、βは4〜6である。以下同じ。)で表される酸化物が複数配位している。
【0019】
図1においては、一般式Xα1―αβで表される酸化物が、ホスホン酸基の周囲に12個配位した例を示している。これら12個の酸化物は、ホスホン酸基のリン原子の周囲に、一般式Xα1―αで表される遷移金属原子(或いは遷移金属イオン)に、酸素原子(或いは酸化物イオン)が4〜6個配位してできる多面体を基本単位とする。これら12個の酸化物は、多面体の稜や頂点を共有して積み木のように多数縮合した多核錯体を形成している。多核錯体は、ホスホン酸基のリン原子をそのヘテロ原子として、あたかもヘテロポリ酸同様の配位構造を取っている。従って本明細書においては、このような配位構造を擬似ヘテロポリ酸構造と称する。
【0020】
また、図1においては、擬似ヘテロポリ酸として、ホスホン酸基のリン原子の周囲に配位した12個の酸化物が、いわゆるケギン型の多核錯体を構成した例を示している。多核錯体としては、ケギン型以外にも、2個のリン原子の周囲に八面体構造の酸化物が18個配位したドーソン型や、1個のリン原子の周囲に八面体構造の酸化物が6個配位したアンダーソン型がある。このような構造は、X線構造解析によって特定することが可能である。この様に、ホスホン酸基のリン原子をそのヘテロ原子とした擬似ヘテロポリ酸構造を取ることで、強い酸性と酸化力と備えたヘテロポリ酸同様の高プロトン伝導性を発揮できる。また、個々の酸化物は、ホスホン酸基のリン原子に配位形成されているので構造的に安定である。
【0021】
ここで、上記一般式Xα1―αβで表される酸化物としては、WO(X=タングステン、α=1、β=6)、MoO(X=モリブデン、α=1、β=6)、Moα1−α(X=モリブデン、Y=タングステン、0<α<1、β=6)や、VαMo1−α(X=バナジウム、Y=モリブデン、0<α<1、β=6)等が挙げられる。上述したように、擬似ヘテロポリ酸は、これら酸化物が複数縮合してケギン型、ドーソン型等の構造を取ることで、ヘテロポリ酸同様の高プロトン伝導性を発揮可能となる。
【0022】
図2は、本発明の高分子化合物の一部の拡大模式図である。図1は側鎖のホスホン酸基付近の拡大模式図であるのに対して、図2は二本の主鎖に着眼した点で異なるが、図1、図2共に本発明の高分子化合物の一部拡大模式図である。図2に示すように、本発明の高分子化合物は、直鎖状の高分子鎖間で架橋された架橋高分子を含んでいる。架橋高分子は、分子内に1個以上のホスホン酸基と1個以上のエチレン性不飽和結合とを有するモノマー(以下、「ホスホン酸基含有不飽和モノマー」と称す。)と、分子内に1個以上のアルコキシシリル基と1個以上のエチレン性不飽和結合とを有するモノマー(以下、「アルコキシシリル基含有不飽和モノマー」と称す。)と、を放射線照射下で反応させることで得られる。反応に際しては、モノマー間の重合と同時に架橋が起こるので、架橋高分子は架橋型の共重合体となる。尚、この架橋型の共重合体は、ランダム共重合体でもよいし、交互共重合体、ブロック共重合体やグラフト共重合体でもよい。この様に、本発明の高分子化合物は、架橋型の共重合体から形成されているので粘性が高く容易に成膜化できる。
【0023】
ここで、上記ホスホン酸基含有不飽和モノマーとしては、アクリロキシ基又はメタクリロキシ基を有するリン酸エステル、ホスホン酸基を有するメタクリルアミド誘導体又はアクリルアミド誘導体が挙げられる。好ましいホスホン酸基含有不飽和モノマーとしては、例えばユニケミカル(株)社製のホスマーシリーズを挙げることができる。
【0024】
リン酸エステルとしては、一般式CH=CHCOOCHCHOPO(OH)で表されるアシッドホスホキシエチルメタクリレート(商品名:ホスマーM)、一般式CH=C(CH)COOCHCH(CHCl)OPO(OH)で表される3−クロロ−2−アシッドホスホキシプロピルメタクリレート(商品名:ホスマーCL)、一般式CH=CH(CH)COO(CHCHO)PO(OH)(n=4〜5)で表されるアシッドホスホキシポリオキシエチレングリコールモノメタクリレート(商品名:ホスマーPE)、一般式CH=C(CH)CO(OCHCH(CH))PO(OH)(n=5〜6)で表されるアシッドホスホキシポリオキシプロピレングリコールモノメタクリレート(商品名:ホスマーPP)、一般式CH=C(CH)COOCHCHOPO(OH)(ONHCHCHOH)で表されるメタクロイルオキシエチルアシッドホスヘートモノエタノールアミンハーフソルト(商品名:ホスマーMH)などが挙げられる。
【0025】
また、ホスホン酸基を有するメタクリルアミド誘導体又はアクリルアミド誘導体としては、メタクリルアミドホスホン酸、アクリルアミドホスホン酸、メタクリルアミドジホスホン酸等が挙げられる。これらは所望により2種類以上用いてもよい。
【0026】
これらリン酸エステルやアミド誘導体においては、ホスホン酸基の位置が不飽和基から一定以上離れているものが好ましい。不飽和基は重合後に主鎖を形成するため、擬似ヘテロポリ酸を形成するホスホン酸基と一定以上離れていれば、立体障害を回避できるので好ましい。従って、例えば、ポリオキシエチレン基の重合度nが200以下のアシッドホスホキシポリオキシエチレングリコールモノメタクリレートや、ポリオキシプロピレン基の重合度nが200以下のアシッドホスホキシポリオキシプロピレングリコールモノメタクリレートが好ましい。
【0027】
また、上記アルコキシシリル基含有不飽和モノマーは、架橋度合いを向上させるため、分子内にアルコキシシリル基を複数有することが好ましく、3個有することがより好ましい。この様なアルコキシシリル基含有不飽和モノマーとしては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニル系モノマー、p−スチリルトリメトキシシラン、p−スチリルトリエトキシシラン等のスチリル系モノマー、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のメタクリロキシ系モノマーや、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のメタクリロキシ系モノマー等が挙げられる。これらは所望により2種類以上用いてもよい。
【0028】
また、図2に示すように、本発明の高分子化合物の架橋部には、シラノール基が縮合したシロキサン結合が形成されている(Zは有機官能基を表す。)。これは、後述する製造方法において、アルコキシシリル基含有不飽和モノマーのアルコキシシリル基が加水分解された結果、シラノール基が生成し、このシラノール基が縮合反応することによって形成されたものである。また、図2に示すように、縮合反応に供されなかったシラノール基は、上記一般式Xα1―αβで表される酸化物由来の水酸基と水素結合を形成したり、共有結合を形成することが可能となる。従って、ホスホン酸基のリン原子の周囲に配位した酸化物を固定することが可能となる。このため、本発明の高分子化合物は構造的に安定であり、長期間に亘って擬似ヘテロポリ酸構造を維持できる。
【0029】
以上説明した通り、本発明の高分子化合物は、高分子側鎖のホスホン酸基のリン原子をヘテロ原子とした擬似ヘテロポリ酸構造を取るので構造的に安定である。また、高分子主鎖が架橋され、その架橋部が擬似ヘテロポリ酸を構成する酸化物を固定することが可能となるので長期間に亘って擬似ヘテロポリ酸構造を維持できる。従って、高プロトン伝導性を長期間に亘って発揮することが可能となる。加えて、本発明の高分子化合物が架橋されているので粘性が高く成膜化も可能である。従って、燃料電池の高分子電解質膜として好適に使用できる。
【0030】
[高分子電解質膜の製造方法]
次に、本発明の高分子化合物の製造方法について説明する。本発明の高分子化合物の製造方法は、(A)分子内に1個以上のホスホン酸基と1個以上のエチレン性不飽和結合とを有するホスホン酸基含有不飽和モノマーと、(B)タングステン、モリブデン及びバナジウムからなる群から選ばれた少なくとも1種類の金属のイオンをアルコール系溶剤に溶解して得られるアルコキシド溶液と、を混合する工程(第1混合工程)と、第1混合工程により得られた混合液に、(C)分子内に1個以上のアルコキシシリル基と1個以上のエチレン性不飽和結合とを有するアルコキシシリル基含有不飽和モノマーと、(D)光重合開始剤と、を加えて更に混合する工程(第2混合工程)と、第2混合工程により得られた混合液を成形して乾燥させる工程(成形・乾燥工程)と、乾燥後の成形物に対して露光する工程(露光工程)と、を備える。
【0031】
(第1混合工程)
本工程は、(A)上述したホスホン酸基含有不飽和モノマーと、(B)タングステン、モリブデン及びバナジウムからなる群から選ばれた少なくとも1種類の金属のイオンをアルコール系溶剤に溶解して得られるアルコキシド溶液と、を混合する工程である。
【0032】
本工程においては、先ず、タングステン、モリブデン及びバナジウムからなる群から選ばれた少なくとも1種類の金属を含む出発物質を、常温不活性化ガス中でアルコールに溶解させて、上記(B)アルコキシド溶液を調製する。上記出発物質としては、上記金属のアルコキシドを直接用いることもできるが、材料の安定性という観点で、塩化物を使用することが好ましい。
【0033】
また、上記出発物質を溶解させるためのアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の1価のアルコール化合物や多価アルコール化合物等の種々の化合物を用いることができる。また、これらのアルコールは、その1種を単独で使用してもよく、あるいはその2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0034】
本工程においては、次に、調製した(B)アルコキシド溶液に、(A)ホスホン酸基含有不飽和モノマーを加えて撹拌する。添加する(A)ホスホン酸基含有不飽和モノマーは、既述したモノマーの何れでもよいが、ポリオキシエチレン基の重合度nが200以下のアシッドホスホキシポリオキシエチレングリコールモノメタクリレートや、ポリオキシプロピレン基の重合度nが200以下のアシッドホスホキシポリオキシプロピレングリコールモノメタクリレートを用いることが好ましい。
【0035】
(第2混合工程)
本工程は、多面体配位工程より得られたモノマー化合物に、(C)アルコキシシリル基含有不飽和モノマーと、(D)光重合開始剤と、を加えて更に混合する工程である。添加する(C)アルコキシシリル基含有不飽和モノマーは、既述したモノマーの何れでもよいが、(A)ホスホン酸基含有不飽和モノマーとの反応性や架橋後の粘性の観点から、メタクリロキシ系モノマーやメタクリロキシ系モノマーを用いることが好ましい。
【0036】
ここで、(C)アルコキシシリル基含有不飽和モノマーの添加量は、上記ホスホン酸基含有不飽和モノマーと、上記アルコキシシリル基含有不飽和モノマーの物質量比が、ホスホン酸基含有不飽和モノマー:アルコキシシリル基含有不飽和モノマー=8:2〜5:5となるよう調製されることが好ましい。これらのモノマーの物質量比を上記範囲とすることで、ホスホン酸由来のイオン伝導性を損なうことなく共重合体の粘性を高くできるので好ましい。
【0037】
また、(D)光重合開始剤は、活性放射線(光)を吸収して重合開始種を生成し、(A)ホスホン酸基含有不飽和モノマーや、(C)アルコキシシリル基含有不飽和モノマーを光重合させることができる化合物であれば、特に限定されない。(D)光重合開始剤は、特性、開始効率、吸収波長、入手性、コスト等の観点で選択することが好ましい。活性放射線としては、γ線、β線、電子線、紫外線、可視光線、赤外線が例示できる。
【0038】
(D)光重合開始剤としては、例えば、ハロメチルオキサジアゾール化合物及びハロメチル−s−トリアジン化合物から選択される少なくとも1つの活性ハロゲン化合物、3−アリール置換クマリン化合物、ロフィン二量体、ベンゾフェノン化合物、アセトフェノン化合物及びその誘導体、シクロペンタジエン−ベンゼン−鉄錯体及びその塩、オキシム系化合物等が挙げられる。
【0039】
(成形・乾燥工程)
本工程は、第2混合工程により得られた混合液を膜状に成形し、乾燥させる工程である。本工程は、先ず、キャスト、コート等の公知の方法により成形し、得られた成形物の形を整えるために一定時間常温で乾燥させる。乾燥温度や乾燥時間は、成形体のサイズや厚みに応じて適宜変更が可能である。
【0040】
(露光工程)
本工程では、上記成形・乾燥工程を経た成形体に対して露光することで硬化させる工程である。本工程は、マスクを通して露光する工程であることが好ましく、フォトマスクを通して露光する工程であることがより好ましい。尚、マスクを介して露光する場合には、光照射された塗布膜部分だけを硬化させることが好ましい。露光は放射線の照射により行うことが好ましく、露光に際して用いることができる放射線としては、特に、g線(436nm)、i線(365nm)等の紫外線が好ましく、i線がより好ましい。光源としては高圧水銀灯がより好ましい。照射強度は5〜1,500mJが好ましく10〜1,000mJがより好ましく、10〜800mJが最も好ましい。
【0041】
次に、実施例を参照して本発明を更に詳細に説明する。
【0042】
[実施例1]
(結晶性評価)
塩化タングステン(WCl)を純度99.5%のエタノールに10wt%となるように加え、常温で液色が緑になるまで撹拌し、タングステンのアルコキシドとした。
次に、ユニケミカル(株)社製のアシッドホスホキシポリオキシエチレングリコールモノメタクリレート(商品名:ホスマーPE)と、上記で調製したタングステンのアルコキシドとを混合して3時間撹拌し、さらに約90℃で溶媒が無くなるまで加熱した(加熱中は撹拌なし)。その後、得られた試料について赤外線吸収スペクトル測定を行い、タングストリン酸に特徴的な4つのピークを確認した。図3に赤外線吸収スペクトルの結果を示す。
【0043】
[実施例2]
先ず、実施例1と同様の手法で、タングステンのアルコキシドと、商品名:ホスマーPEとを混合した。その後、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(MPTMS)と、加水分解反応のためのエタノール及び硝酸を加えて更に撹拌した。光重合開始剤(IRGACURE)を加え、得られた混合溶液をキャストして乾燥させた。その後に紫外線を照射して重合させ、更に乾燥させることで目的物を得た。
【0044】
(ゲル化評価)
ホスマーPEとMPTMSの混合に際しては、ホスマーPE:MPTMS=8:2、7:3、6:4(モル比)となる様に3種類調製した。得られた目的物は、8:2のものは粘性の高いゲル状であった。MPTMSのモル比が増加するに従い膜状に変化した。得られた目的物のうち、8:2のものをプロトン伝導率評価用の試料とした。
【0045】
[比較例1]
グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS)、エタノール、硝酸を常温で3時間撹拌し、ポリビニルリン酸(PVPA)とエタノールを加えて更に3時間撹拌した。そこにタングステンのアルコキシドを混合して3時間撹拌し、膜厚30μmの電解質膜を作製した。得られた電解質膜をプロトン伝導率評価用の試料とした。
【0046】
(プロトン伝導率評価)
実施例2、比較例1で作製した電解質膜に対して、インピーダンスアナライザーを用いて交流2端子法により評価した。測定は乾燥雰囲気(窒素ガス中)で行った。結果を図4に示す。図4に示すように、実施例2の電解質膜(PhosmerPE+MPTMS)は、比較例1の電解質膜(PVPA+GPTMS)に比べて高いプロトン伝導率を示した。これは、実施例2の電解質膜においては、擬似タングストリン酸が形成されているためと推定された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
側鎖にホスホン酸基を有する高分子と、
前記ホスホン酸基のリン原子に配位し、一般式Xα1―αβ(式中、Xはタングステン、モリブデン又はバナジウム、Yはモリブデンをそれぞれ表し、αは0<α≦1であり、βは4〜6である。)で表される多面体と、を備え、
前記ホスホン酸基と前記多面体とが、リン原子をヘテロ原子とするヘテロポリ酸構造を取ることを特徴とする高分子化合物。
【請求項2】
前記ホスホン酸基と前記多面体とが、ケギン型のヘテロポリ酸構造を取ることを特徴とする請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項3】
前記ホスホン酸基と前記多面体とが、ドーソン型のヘテロポリ酸構造を取ることを特徴とする請求項1に記載の高分子化合物。
【請求項4】
前記ホスホン酸基と前記多面体とが、アンダーソン型のヘテロポリ酸構造を取ることを特徴とする請求項1に記載の高分子化合物。
【請求項5】
前記多面体が一般式WOで表される八面体であることを特徴とする請求項1乃至4何れか1項に記載の高分子化合物。
【請求項6】
前記高分子が、分子内に1個以上のホスホン酸基と1個以上のエチレン性不飽和結合とを有するホスホン酸基含有不飽和モノマーと、分子内に1個以上のアルコキシシリル基と1個以上のエチレン性不飽和結合とを有するアルコキシシリル基含有不飽和モノマーとを反応させることで得られる架橋型の共重合体であることを特徴とする請求項1乃至5何れか1項に記載の高分子化合物。
【請求項7】
前記ホスホン酸基含有不飽和モノマーが、一般式CH=CHRCOO(CHCHO)PO(OH)(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、nは1〜200である。)で表されることを特徴とする請求項6に記載の高分子化合物。
【請求項8】
請求項1乃至7何れか1項に記載の高分子化合物を用いた燃料電池用電解質膜。
【請求項9】
(A)分子内に1個以上のホスホン酸基と1個以上のエチレン性不飽和結合とを有するホスホン酸基含有不飽和モノマーと、(B)タングステン、モリブデン及びバナジウムからなる群から選ばれた少なくとも1種類の金属のイオンをアルコール系溶剤に溶解して得られるアルコキシド溶液と、を混合する第1工程と、
第1工程により得られた混合液に、(C)分子内に1個以上のアルコキシシリル基と1個以上のエチレン性不飽和結合とを有するアルコキシシリル基含有不飽和モノマーと、(D)光重合開始剤と、を加えて更に混合する第2工程と、
第2工程により得られた混合液に対して露光する第3工程と、
を備えることを特徴とする高分子化合物の製造方法。
【請求項10】
前記(A)ホスホン酸基含有不飽和モノマーと前記(C)アルコキシシリル基含有不飽和モノマーの物質量比が、(A)ホスホン酸基含有不飽和モノマー:(C)アルコキシシリル基含有不飽和モノマー=8:2〜5:5であることを特徴とする請求項9に記載の高分子化合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−25882(P2012−25882A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−167344(P2010−167344)
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【Fターム(参考)】