説明

高分子化合物の表面改質方法

【課題】単量体単位の一部に芳香族環及び/または脂環式炭化水素基を含む高分子化合物の表面を改質する方法であって、印刷性、接着性、塗装密着性を短時間でかつ効果的に改善する。
【解決手段】単量体単位の一部に芳香族環及び/または脂環式炭化水素基を含む高分子化合物の表面に、フッ素ガスまたはフッ素ガスを含む混合ガスを接触させて高分子化合物の表面を改質処理する方法であって、フッ素ガスの分圧(Pa)と処理時間(s)を積算した処理ファクター(Pa・s)が、8〜108000(Pa・s)の範囲内であり、かつ処理時間(s)が180秒以内であり、表面改質処理後の純水についての接触角が40°より大きくなるように処理することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単量体単位の一部に芳香族環及び/または脂環式炭化水素基を含む高分子化合物の表面改質方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
単量体単位の一部に芳香族環及び/または脂環式炭化水素基を含む高分子化合物は、光学特性、電気特性、耐熱性等において優れた特性を有しており、多くの特化した分野に使用されている。しかしながら、これらの高分子化合物の表面は、疎水性を有しており、印刷性、接着性、塗装密着性が悪く、これらの特性の改善が求められている。印刷性、接着性、塗装密着性等を改善する方法として、コロナ放電処理、プラズマ処理、発煙硫酸処理、紫外線照射処理などの表面改質処理が一般的に知られているが、これらの表面改質処理によって、実用に要する印刷性、接着性、塗装密着性を得ることは困難であった。
【0003】
また、処理直後に十分な効果が得られても、長期安定性が悪いため、時間の経過と共に、効果が低下していくという問題を有している。印刷性、接着性、塗装密着性を改善するためのその他の方法として、サンドブラスト処理が行われる場合があるが、このような処理によれば、ピンホールなどの欠陥が発生するおそれがあった。
【0004】
特許文献1及び特許文献2においては、高分子化合物の表面をフッ素ガスで処理することが開示されている。特許文献1においては、ポリイミドまたはポリアミドイミドフィルムの表面をフッ素化処理し、このフィルム表面をフッ素樹脂または金属と熱圧着する方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2においては、水の接触角が40°以下となるように表面処理し、親水化することが開示されている。
【0006】
しかしながら、これらの方法で表面改質処理をしても、印刷性、接着性、塗装密着性が、十分に向上しないという問題があった。
【特許文献1】特開昭58−91728号公報
【特許文献2】特開2001−294692号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、印刷性、接着性、塗装密着性を短時間で効果的に改善することができる高分子化合物の表面改質方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、単量体単位の一部に芳香族環及び/または脂環式炭化水素基を含む高分子化合物の表面に、フッ素ガスまたはフッ素ガスを含む混合ガスを接触させて高分子化合物の表面を改質処理する方法であって、フッ素ガスの分圧(Pa)と処理時間(s)を積算した処理ファクター(Pa・s)が、8〜108000(Pa・s)の範囲内であり、かつ処理時間(s)が180秒以内であり、表面改質処理後の純水についての接触角が40°より大きくなるように処理することを特徴としている。
【0009】
本発明によれば、印刷性、接着性、塗装密着性を短時間でかつ効果的に改善することができる。
【0010】
本発明において、フッ素ガスの分圧(Pa)と処理時間(s)を積算した処理ファクターは、8〜108000(Pa・s)の範囲内としている。処理ファクターがこの範囲よりも小さすぎると、高分子化合物の表面を十分に改質することができず、良好な印刷性、接着性、塗装密着性が得られない。また、処理ファクターが大きすぎると、高分子化合物の表面に、処理による多量の分解物が堆積し、この結果、良好な印刷性、接着性、塗装密着性が得られない。処理ファクターのさらに好ましい範囲は、8〜72000(Pa・s)であり、さらに好ましくは、15〜72000(Pa・s)の範囲であり、特に好ましくは、40〜36000(Pa・s)の範囲である。
【0011】
また、本発明において、処理時間(s)は、180秒以内である。処理時間(s)を180秒以内とし、かつ処理ファクターを上記のように設定することにより、短時間で、かつ効率良く高分子化合物の表面を改質することができ、良好な印刷性、接着性、塗装密着性を得ることができる。処理時間(s)のより好ましい範囲は、120秒以下であり、さらに好ましくは、60秒以下の範囲である。
【0012】
また、本発明においては、表面処理後の純水についての接触角が40°より大きくなるように処理する。すなわち、表面改質処理後の高分子化合物の表面に接触した純水の接触角が40°より大きくなるように処理する。純水の接触角が40°より大きくなるように処理することにより、長期間安定した、良好な印刷性、接着性、塗装密着性を得ることができる。接触角が40°以下になるまで処理を行うと、高分子化合物の表面に多量の分解物が堆積し、印刷性、接着性、塗装密着性の改善が不十分となる。すなわち、接触角が40°以下になるまで処理を行うと、表面に多量の分解物が堆積し、この多量の分解物により、接触角が40°以下となるので、良好な印刷性、接着性、塗装密着性を得ることができない。
【0013】
本発明においては、高分子化合物の表面に、フッ素ガス、またはフッ素ガスを含む混合ガスを接触させて高分子化合物の表面を改質する。混合ガスとしては、フッ素ガスと、不活性ガス及び/または酸素ガスとの混合ガスが挙げられる。不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスが挙げられる。混合ガス中におけるフッ素ガスの量は、上記処理ファクターの範囲内となる量であればよいが、例えば、混合ガス中の体積%として、1.0×10−6〜100体積%の範囲が挙げられるが、フッ素ガスの有毒性や反応性の高さを考慮した場合の実用上好ましい範囲としては1.0×10−5〜30体積%の範囲が挙げられる。
【0014】
本発明の高分子化合物は、上記本発明の表面改質方法により、表面改質されたことを特徴としている。
【0015】
本発明の高分子化合物は、上記本発明の表面改質方法により処理されたものであるので、純水についての接触角、すなわち高分子化合物表面における純水の接触角が40°より大きく、かつ長期間安定した、良好な印刷性、接着性、塗装密着性を示すことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、印刷性、接着性、塗装密着性を短時間でかつ効果的に改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明における高分子化合物は、単量体単位の一部に、芳香族環及び/または脂環式炭化水素基を含む高分子化合物である。このような高分子化合物に本発明を適用することにより、高分子化合物の表面に、OH基やCOOH基などの親水基を適度に導入することができ、これによって、印刷性、接着性、塗装密着性などを高めることができる。上述のように、純水についての接触角が40°以下となるまで処理すると、高分子化合物の主鎖を切断する分解反応が生じ、表面に高分子化合物の分解物が堆積する。本発明においては、このような分解物の発生を極力低減し、高分子化合物の表面にOH基やCOOH基などの親水基を導入することにより、高分子化合物表面を改質している。
【0018】
上記のようなOH基やCOOH基などの親水基の導入は、単量体単位の一部に芳香族環及び/または脂環式炭化水素基を含む高分子化合物において、特に効果的に導入することができる。
【0019】
単量体単位の一部に含まれる芳香族環としては、ベンゼン環や、ナフタレン環及びアントラセン環などの縮合環などが挙げられる。また、硫黄、窒素及び酸素などのヘテロ原子を含むヘテロ環であってもよい。このようなヘテロ環としては、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環などが挙げられる。
【0020】
単量体単位の一部に芳香族環を含む高分子化合物としては、アラミド樹脂、芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミドイミド、芳香族ポリエステル、液晶ポリマー(LCP)、ポリアリールスルホン(PAS)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルエーテルスルホン(PEES)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、芳香族ポリイミド、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンスルホン(PPSU)、ポリフェニレンスルホオキシド(PPSO)、ポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリベンゾチアゾール(PBT)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリスチレン(PS)、ポリスルホン(PSU)、ポリパラキシレン等が挙げられる。
【0021】
また、脂環式炭化水素基としては、シクロオレフィン基や、ノルボルネン骨格などが挙げられる。脂環式炭化水素基を含む高分子化合物の具体例としては、シクロオレフィンコポリマーやポリシクロオレフィンなどがあり、シクロヘキサジエン系ポリマーやノルボルネン骨格ポリマー等が挙げられる。
【0022】
高分子化合物の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、シート、フィルム、糸、織布、不織布、多孔体、微多孔フィルム、最外層が該高分子化合物となるように多層に貼り合わされたラミネートシート、該高分子化合物を金属や高分子基体の上に、塗布や焼成、CVDなどによって形成したものが挙げられる。
【0023】
また、高分子化合物は、共重合体や複合材料であってもよく、例えば、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS)などの共重合体が挙げられる。
【0024】
表面改質の際の温度は、特に限定されるものではないが、一般には、−20℃〜40℃の範囲内である。
【0025】
一般には、フッ素ガス分圧を高くするほど、処理温度を低くし、処理時間を短くすることが可能となるため、工業的な大量生産には好ましい。
【0026】
また、フッ素ガスと酸素ガスを混合して用いる場合、酸素ガス分圧を高めると、高分子化合物の表面に極性基を迅速に導入することができ、フッ素ガス分圧及び処理時間を低減させることができる。しかしながら、分解物も多量に発生しやすくなるので、精度良い管理が必要となる。分解物が発生しやすい高分子化合物に対しては、酸素ガス分圧を低減あるいは無くすることによって、分解反応を制限し、分解物を発生しにくくすることができる。
【0027】
本発明における高分子化合物は、単量体単位の一部に、芳香族環及び/または脂環式炭化水素基を含んでいる。本発明によって、高分子化合物の表面に導入された極性基は、芳香族環や脂環式炭化水素基の立体障害によって、高分子化合物の内部に潜り込みにくく、表面に局在化するものと思われる。このため、1ヶ月以上の長期において安定的な表面改質効果が得られるものと思われる。
【0028】
本発明に従い表面改質処理した後は、水や温水、アルカリ水溶液などにより、高分子化合物の表面に対して洗浄または中和反応を行ってもよい。本発明によれば、高分子化合物表面に極性基が導入されているので、このような洗浄においても、良好な表面改質の効果を維持することができる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を具体的な実施例により説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0030】
なお、以下の実施例及び比較例における、剥離強度、接触角、及びクロスカット試験は、以下のようにして評価した。
【0031】
(1)剥離試験
試験機として、定ひずみ型万能試験機(島津制作所製、AG−50KND)を用いて、90°ピール試験を2回行い、その平均値から剥離強度を求めた。
【0032】
(2)接触角測定
接触角測定機(エルマ販売株式会社製、G−1)を用いて、蒸留水0.9μl、室温、大気中において、測定を10点行い、その平均値から接触角を求めた。
【0033】
(3)クロスカット試験
試料表面上に、塗膜の厚みが50μmとなるように塗料を塗装した後、大気中にて24時間乾燥させた。その後、1mm幅で25マスのクロスカットを塗膜の表面に形成した。
【0034】
次に、粘着テープ(セキスイセロテープ(登録商標)No.252、積水化学工業社製)を塗膜表面に貼り付けた後、この粘着テープを引き剥がし、残っているマスの数を測定した。試験は2回行い、その平均値を用いた。
【0035】
また、以下の実施例及び比較例においては、以下に示す高分子化合物を試料として用いた。
【0036】
PI:ポリイミド、東レ・デュポン社製 カプトン100V
LCP:全芳香族ポリエステル、液晶ポリマー
PET:ポリエチレンテレフタレート、東レ社製 ルミラーTIO
AURUM:熱可塑性ポリイミド、三井化学社製 AURUM PL450C
PS:ポリエスチレン、出光ユニテック社製 ザレックC132
PC:ポリカーボネート、旭硝子社製 レキサン8A13
PEEK:ポリエーテルエーテルケトン、住友ベークライト社製 PEEK FS−1100C
PPS:ポリフェニレンスルフィド、東洋プラスチック精工社製 TPS−PPS−2000
PES:ポリエーテルスルホン、住友化学社製、スミカエクセルPES3600P/G
APL:シクロオレフィンコポリマー、三井化学社製 APL8008T
ZEONOR:シクロオレフィンコポリマー、日本ゼオン社製 ZEONOR 1060R
【0037】
<実験1>
(実施例1)
PI、LCP、及びPETを対象試料とし、フッ素ガス分圧1.33Pa、酸素ガス分圧93100Paのフッ素ガスと酸素ガスの混合ガスを用いて表面改質処理を行った。処理温度25℃、処理時間60秒の条件とした。
【0038】
(実施例2)
PI、LCP、及びPETを対象試料とし、フッ素ガス分圧13.3Pa、酸素ガス分圧93100Paのフッ素ガスと酸素ガスの混合ガスを用いて表面改質処理を行った。処理温度25℃、処理時間60秒の条件とした。
【0039】
(実施例3)
PI、LCP、及びPETを対象試料とし、フッ素ガス分圧133.3Pa、酸素ガス分圧93100Paのフッ素ガスと酸素ガスの混合ガスを用いて表面改質処理を行った。処理温度25℃、処理時間60秒の条件とした。
【0040】
(実施例4)
PI、LCP、及びPETを対象試料とし、フッ素ガス分圧1332Pa、酸素ガス分圧93100Paのフッ素ガスと酸素ガスの混合ガスを用いて表面改質処理を行った。処理温度25℃、処理時間60秒の条件とした。
【0041】
(比較例1)
各試料について、表面改質処理を行わなかった。
【0042】
(比較例2)
フッ素ガス分圧を0.06Paとする以外は、実施例1と同様にして、表面改質処理を行った。
【0043】
(比較例3)
フッ素ガス分圧を2666Paとする以外は、実施例1と同様にして、表面改質処理を行った。
【0044】
(比較例4)
フッ素ガス分圧を4000Paとし、処理時間を1800秒とする以外は、実施例1と同様にして、表面改質処理を行った。
【0045】
実施例1〜4及び比較例1〜4の表面処理条件であるフッ素ガス分圧(Pa)、処理時間(s)及び処理ファクター(Pa・s)を表1にまとめて示す。
【0046】
【表1】

【0047】
〔純水についての接触角の測定〕
上記の接触角測定方法により、表面処理した試料の表面の純水の接触角を測定した。測定結果を表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
表2に示すように、表面改質処理をしていない比較例1及び処理ファクター(Pa・s)が8未満である比較例2においては、表面改質処理後の純水についての接触角が40°より大きくなっている。また、処理ファクター(Pa・s)が、108000より大きい比較例3及び比較例4においては、表面改質処理後の純水についての接触角が40°以下になっている。
【0050】
処理ファクター(Pa・s)が、8〜108000(Pa・s)の範囲内である実施例1〜4は、表面改質処理後の純水についての接触角が40°よりも大きくなっている。
【0051】
〔剥離強度の測定〕
表面改質処理後の試料2枚を用い、表面改質した面同士を接着剤で貼り合わせ、上記剥離試験の条件で、一方の試料を他方の試料から剥離する際の強度を測定した。剥離速度は、50mm/分とし、接着剤としては合成ゴム接着剤(コニシ社製、ボンドG17)を用いた。
【0052】
測定結果を表3に示す。
【0053】
【表3】

【0054】
表3に示すように、本発明に従う実施例1〜4の条件で表面改質処理したPI、LCP、及びPETの各試料は、比較例1〜4の各試料に比べ高い剥離強度を示している。
【0055】
<実験2>
AURUM、PS、PET、PC、PEEK、及びPPSを対象試料とし、上記実施例1〜4及び比較例1〜4の条件で表面改質処理を行った。
【0056】
表面改質処理は、各試料当たり4個行い、その半数については、処理直後に剥離強度試験と接触角測定を行った。また、残りの半数については、処理後の試料を、大気中に約30日間保管した後、剥離試験を行った。
【0057】
〔純水についての接触角の測定〕
上記の各試料について、上記と同様にして、純水についての接触角を測定した。測定結果を表4に示す。
【0058】
【表4】

【0059】
表4に示すように、本発明に従う処理条件で表面改質処理した実施例1〜4の各試料は、いずれも純水についての接触角が40°より大きくなっている。また、表面改質処理を行っていない比較例1及び処理ファクターが8Pa・s未満である比較例2においても、純水についての接触角が40°より大きくなっている。
【0060】
これに対し、処理ファクターが108000Pa・sより大きい条件で表面改質処理した比較例3及び比較例4においては、純水についての接触角が40°以下になっている。
【0061】
〔剥離強度の測定〕
接着剤として、1液性湿気硬化型弾性接着剤(スリーボンド社製、1530)を用い、剥離速度を10m/分とする以外は、実験1と同様にして剥離試験を行い、剥離強度を測定した。剥離強度は、表面改質処理直後の試料と、30日間保管した後の試料についてそれぞれ行った。表面改質処理直後の初期の剥離強度を表5に示す。また、30日後の剥離強度を表6に示す。なお、比較例1の各試料については、30日後の剥離強度を測定していない。
【0062】
【表5】

【0063】
【表6】

【0064】
表5に示すように、本発明に従い表面改質処理を行った実施例1〜4においては、比較例1〜4に比べ、処理直後において高い剥離強度が得られている。また、30日後においても、この高い剥離強度が維持されている。
【0065】
従って、本発明に従えば、表面改質処理により、高分子化合物の表面に高い接着性を付与できることがわかる。
【0066】
<実験3>
PET、PEEK、PES、APL、及びZEONORを対象試料とし、表7に示す条件で、表面改質処理を行った。
【0067】
【表7】

【0068】
表面改質処理は、各試料当たり4個行い、その半数については、処理直後に接触角の測定とクロスカット試験とを行った。クロスカット試験は、上記の方法に従って行い、塗料としては、アクリルラッカー(ニッペホームプロダクツ社製、スプレー06つやなしブラック)を用いた。
【0069】
残りの半数については、処理後大気中に30日間保管した後、クロスカット試験を上記と同様にして行った。
【0070】
純水についての接触角の測定結果を表8に示す。また、初期のクロスカット試験の結果を表9に示す。30日後のクロスカット試験の結果を表10に示す。なお、比較例5については、30日後のクロスカット試験を行っていない。
【0071】
【表8】

【0072】
表8に示すように、本発明に従う処理ファクターで表面改質処理した実施例5〜8の各試料は、純水についての接触角が40°より大きくなっている。また、表面改質処理を行っていない比較例5、及び処理ファクターが8Pa・s未満である比較例6及び7の各試料は40°より大きくなっているが、処理ファクターが108000Pa・sより大きい比較例8の各試料は、純水についての接触角が40°以下となっている。
【0073】
【表9】

【0074】
【表10】

【0075】
表9に示すように、本発明に従い表面改質処理を行った実施例5〜8の各試料においては、良好な塗装密着性が得られている。また、表10に示すように、この良好な塗装密着性は30日後においても維持されている。
【0076】
これに対し、比較例6〜8の条件で表面改質処理を行った各試料は、試料直後及び30日後において、塗装密着性が低いことがわかる。
【0077】
以上のことから、本発明に従い表面改質処理することにより、接着性及び塗装密着性を、短時間でかつ効果的に改善できることがわかる。また、接着性及び塗装密着性と同様に、印刷性についても本発明の表面改質処理により改善できることを確認している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単量体単位の一部に芳香族環及び/または脂環式炭化水素基を含む高分子化合物の表面に、フッ素ガスまたはフッ素ガスを含む混合ガスを接触させて前記高分子化合物の表面を改質処理する方法であって、
前記フッ素ガスの分圧(Pa)と処理時間(s)を積算した処理ファクター(Pa・s)が、8〜108000(Pa・s)の範囲内であり、かつ処理時間(s)が180秒以内であり、表面改質処理後の純水についての接触角が40°より大きくなるように処理することを特徴とする高分子化合物の表面改質方法。
【請求項2】
前記混合ガスが、フッ素ガスと、不活性ガス及び/または酸素ガスとの混合ガスであることを特徴とする請求項1に記載の高分子化合物の表面改質方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法により、表面改質されたことを特徴とする高分子化合物。

【公開番号】特開2010−150460(P2010−150460A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332299(P2008−332299)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(502386835)高松帝酸株式会社 (4)
【出願人】(000222842)東洋炭素株式会社 (198)
【Fターム(参考)】