説明

高分子合成酵素をコードする遺伝子および高分子を産生するための方法

高分子合成酵素活性を有するSEQ ID NO:1に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする単離されたポリヌクレオチド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高分子合成酵素および本酵素をコードする遺伝子に関する。より詳細には、本発明は高分子合成酵素の酵素をコードする機能遺伝子、遺伝子を含む組換えベクター、ベクターによって形質転換される形質転換体、および形質転換体を用いたプラスチック状高分子の合成に関する高分子合成酵素を産生するための方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
ポリヒドロキシアルカノエート(PHAs)は、主力汎用プラスチックの特性とよく似た特性を有する微生物貯蔵高分子である。最も多いPHAsは熱可塑性プラスチックであり、生分解性の利点が付加されて、石油化学由来の合成プラスチックのように熱処理可能である。また、PHAsは、それらが糖類、植物油、および二酸化炭素などの再生可能な資源から産生し得るため、自然の力によって再生可能である。ポリ(3−ヒドロキシブチレート)[P(3HB)]は認定された最初のPHAの種類であり、自然界において発見された最も一般的なPHAである。
【0003】
PHAの特性は、副単量体(secondary monomers)の取り込みおよび/または組成を制御することで、様々な応用に適合するように調製可能である。高分子を合成する微生物は、C3からC5の単量体単位を用いて高分子を合成するものと、C6からC14の単量体単位を用いて高分子を合成するものの2つの群に分けることが可能である。これらのそれぞれの微生物は基質特異性高分子合成酵素を所有している。少なくともC6の単量体単位から成る高分子は、弾性特性を有する軟質高分子材料である。
【0004】
これまでのPHAへの高まる関心によって、改良されかつ新規の高分子生産のために新たな細菌株を単離することがもたらされてきた。グラム陰性およびグラム陽性の両方の微生物によるPHAの産生は、調査されてかつ十分に立証されてきた。これらの微生物からのその鍵となる酵素、PHA合成酵素を含めたPHA生合成において含まれる遺伝子は、認定されてかつ特徴付けられてきた。
【0005】
高分子合成酵素およびそれをコードする遺伝子に関する先行技術に関するいくつかの特許技術がある。米国特許第6812013号明細書は、PHAを調製するための方法において有用なPHA合成酵素、本酵素をコードする遺伝子、遺伝子を含む組換えベクター、ベクターによって形質転換される形質転換体、形質転換体を利用したPHA合成酵素を産生するための方法、および形質転換体を利用したPHAを調製するための方法に関する。本発明は、Pseudomonas putidaからのPHA合成酵素遺伝子をPHA合成酵素またはPHAを産生するために培養された宿主微生物中に導入することで得られる形質転換体を特徴とする。
【0006】
また、他の米国特許出願公開第2004146998号明細書も、同様のものを使用した高分子を産生するための形質転換体および方法に関する。本発明は、共重合体−合成酵素をコードする遺伝子、遺伝子を高分子の発酵合成のために利用する微生物、および微生物の補助を受けて高分子を産生する方法を開示する。本発明はポリエステル合成−関連酵素遺伝子、プロモータ、およびターミネータを含み、かつ酵母内に導入される形質転換体のコンストラクションに焦点を当てている。
【0007】
同様のものを使用した高分子を産生するための改良された形質転換体および方法は、欧州特許第1626087号明細書に開示されている。本発明は、Aeromonas caviae由来のPHA合成酵素をコードする遺伝子を含む遺伝子発現カセットを提供する。また、酵母が宿主として使用され、変異体をプロモータおよびターミネータにおいて導入することで、遺伝子カセットが酵母内で機能することを可能とする。
【0008】
いくつかの特許技術は、高分子合成酵素をコードする遺伝子とその他の遺伝子との間の組み合わせを開示している。米国特許出願公開第2008233620号明細書は、酵母内での遺伝子発現産物を産生するための形質転換体および方法に関する。形質転換体は、PHA合成酵素とアセトアセチルCoA還元酵素遺伝子との組み合わせなど、PHA合成に含まれる複数の酵素遺伝子を導入することで得られる。他の米国特許出願公開第2003146703号明細書では、PHA合成酵素および細胞内PHAデポリメラーゼの両方を発現する組換え微生物を開示している。本発明はPHAの同時の合成および分解を可能とする。
【0009】
特許技術の多くは、開示された形質転換体を用いた高分子またはPHAを産生するための形質転換体および方法に関する。しかしながら、これらの特許技術は、異なる種類の有機体の異なる領域のゲノムに由来するPHA合成酵素遺伝子を含んでいる。また、これまでのところ、高分子合成酵素の合成においてC3からC7の単量体単位を組み込むことを開示した特許技術もない。したがって、本発明において、活性レベルが増加した高分子合成酵素の提供において有用な組換えベクターおよび形質転換体を産生するため、高分子合成酵素遺伝子の改良されたDNA断片を提供することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6812013号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2004146998号明細書
【特許文献3】欧州特許第1626087号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2008233620号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2003146703号明細書
【発明の概要】
【0011】
本発明の主要目的は、細菌種由来の高分子合成酵素遺伝子、および有用な単量体単位を組み込むことを含む遺伝子によってコードされた高分子合成酵素の合成を提供することである。
【0012】
本発明の他の目的は、組換えベクターを産生するために適したベクターと結合するよう高分子合成酵素の新たなDNA断片を提供すること、したがって高分子合成酵素を含む形質転換体を提供することである。
【0013】
また、本発明の他の目的は、活性レベルが増加した高分子合成酵素を提供することである。
【0014】
さらに、本発明の他の目的は、高分子合成酵素を含む形質転換体を用いて高分子を産生するためのより効率的な方法を開発することである。
【0015】
前述の目的の少なくとも1つは、本発明において全体または部分的に対応している。本発明の実施形態の1つは、高分子合成酵素活性を有するSEQ ID NO:1に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする単離されたポリヌクレオチドを示す。
【0016】
本発明の他の実施形態は、SEQ ID NO:1に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする単離されたポリヌクレオチドであり、1以上のアミノ酸は置換、欠失、置換または追加され、ポリペプチドは高分子合成酵素活性を有する。
【0017】
本発明の好ましい実施形態によると、単離されたポリヌクレオチドは、SEQ ID NO:2に記載のヌクレオチド配列、またはそれの相補配列を含む。
【0018】
また、本発明の他の実施形態は、TがUによって置換されるSEQ ID NO:2に記載のヌクレオチド配列、またはそれの相補配列を含む単離されたポリヌクレオチドである。
【0019】
さらに、本発明の他の実施形態は、単離されたポリヌクレオチドを含む組換えベクターであり、単離されたポリヌクレオチドは高分子合成酵素活性を有するSEQ ID NO:1に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチド、またはSEQ ID NO:1に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードし、1以上のアミノ酸は置換、欠失、置換または追加され、ポリペプチドは高分子合成酵素活性を有する。好ましくは、組換えベクターはプラスミドである。
【0020】
本発明のさらなる実施形態では、前述の実施形態に記載のベクターによって形質転換された形質転換体を開示する。
【0021】
本発明の他のさらなる実施形態は、重合性材料を含む培地においてあらゆる前述の実施形態に記載の単離されたポリヌクレオチドを含む形質転換体の培養を含む高分子の産生、および培養培地から高分子を回収するための方法である。好ましくは、高分子はPHAである。
【0022】
本発明は目的を実行し、言及した目標および利点、またそこに内在するものも同様に得るために十分適応していることを、当業者は容易に理解するであろう。本明細書に記載の実施形態は、本発明の範囲において制限を意図するものではない。
【0023】
本発明の理解を促すため、以下の説明、本発明、その構成、および操作に関して考慮するときの検証のために好ましい実施形態を添付の図面において例示しており、それの多数の利点が容易に理解および認識されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は本発明の好ましい実施形態の1つにおいて記載されている、高分子合成酵素のポリペプチドのアミノ酸配列である。
【図2】図2は本発明の好ましい実施形態の1つにおいて記載されている、高分子合成酵素をコードするポリヌクレオチドのヌクレオチド配列である。
【図3】図3は本発明の好ましい実施形態の1つにおいて記載されている、高分子合成酵素のPCR増幅のために使用される増幅ヌクレオチドのヌクレオチド配列である。
【図4】図4は本発明の好ましい実施形態の1つにおいて記載されている、形質転換体によって合成された共重合体の例の1つである、P(3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシバレレート−co−3−ヒドロキシヘキサノエート)のH−NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は高分子合成酵素および本酵素をコードする遺伝子に関する。より詳細には、本発明は高分子合成酵素の酵素をコードする機能遺伝子、遺伝子を含む組換えベクター、ベクターによって形質転換される形質転換体、および形質転換体を用いたプラスチック状高分子の合成に関する高分子合成酵素を産生するための方法を提供する。
【0026】
以下、本発明は、本発明の好ましい実施形態に基づき、かつ付随する説明および図面を参照することによって説明されるものとする。しかしながら、説明を本発明の好ましい実施形態および図面に限定するのは、単に本発明における考察を促すためであることを理解すべきであり、当業者は添付の特許請求の範囲から逸脱することなく様々な変更を発案可能であることが想定される。
【0027】
本発明は、高分子合成酵素活性を有するSEQ ID NO:1に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする単離されたポリヌクレオチドを開示する。SEQ ID NO:1を図1に示す。
【0028】
本発明の好ましい実施形態によると、単離されたポリヌクレオチドは高分子合成酵素遺伝子である。さらに、本高分子合成酵素遺伝子はSEQ ID NO:1のアミノ酸配列、または1以上のアミノ酸がSEQ ID NO:1のアミノ酸配列から、欠失、置換もしくは追加された配列を含むポリペプチドをコードすることが可能である。SEQ ID NO:1の配列における1以上のアミノ酸が、欠失、置換、または追加のような変異を経たとしても、アミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、ポリペプチドが高分子合成酵素活性を有する限り、本発明の遺伝子に含まれる。例えば、先頭位置にあるメチオニンが欠失しているSEQ ID NO:1のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドも、本発明の遺伝子において含まれる。言い換えると、本発明の遺伝子はSEQ ID NO:2のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列だけでなく、縮重コドン、同一ポリペプチドをコードすることを除いて、それの変性も包含する。欠失、置換、または追加などの上述した変異は、周知の部位特異的突然変異によって誘発され得る。
【0029】
本発明の好ましい実施形態では、SEQ ID NO:2に記載のヌクレオチド配列、またはそれの相補配列を含む単離されたポリヌクレオチドを開示する。SEQ ID NO:2を図2において示す。また、本発明の他の実施形態は、TがUによって置換されるSEQ ID NO:2に記載のヌクレオチド配列、またはそれの相補配列を含む単離されたポリヌクレオチドである。これらのポリヌクレオチドは、高分子合成酵素活性を有するポリペプチドをコードする。
【0030】
この高分子合成酵素遺伝子は、適した微生物からクローン化されることが好ましい。本発明の好ましい実施形態によると、高分子合成酵素遺伝子は淡水から単離されたChromobacterium属に属する微生物から分離される。本発明の遺伝子は、化学合成、またはテンプレートとしてゲノムDNAを用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術、またはプローブとしてヌクレオチド配列を有するDNA断片を用いたハイブリダイゼーションによって得ることが可能である。
【0031】
本発明の好ましい実施形態によると、PCR検出法を適用することで、テンプレートとしてChromobacterium spからのゲノムDNAを用いた高分子合成酵素遺伝子のDNA断片を得ることが可能である。初めに、ゲノムDNAはChromobacterium sp株から単離する。あらゆる適した培地、例えば富栄養培地がゲノムDNAを調製するために使用可能であることは、当技術分野において周知である。Chromobacterium sp由来の高分子合成酵素遺伝子を含むDNA断片を得るために、プローブを調製することが好ましい。高分子合成酵素遺伝子のよく保存された領域は、周知のアミノ酸配列から選択され、それらをコードするヌクレオチド配列はオリゴヌクレオチドを設計するために推定可能である。本目的を達成するために増幅ヌクレオチドのプライマー対を設計する。増幅ヌクレオチドの例を図3に示しており、SEQ ID NO:3をフォワードプライマーとして使用し、SEQ ID NO:4をリバースプライマーとして使用する。
【0032】
増幅DNA断片は、例えばApaIおよびSalIなどの適した制限酵素を用いて消化され得る。その後、DNA断片はアルカリホスファターゼを用いた処理によって脱リン酸化される。それはApaIおよびSalIなどの制限酵素を用いて前もって切断されたベクターに結合される。
【0033】
さらに、本発明の他の実施形態は、単離されたポリヌクレオチドを含む組換えベクターである。単離されたポリヌクレオチドは、高分子合成酵素活性を有するSEQ ID NO:1に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチド、またはSEQ ID NO:1に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードし、1以上のアミノ酸は置換、欠失、置換または追加され、ポリペプチドは高分子合成酵素活性を有する。
【0034】
本発明の好ましい実施形態によると、宿主微生物において自律複製可能なプラスミドまたはファージがベクターとして使用される。適用され得るプラスミドベクターは、pBR322、pUC18、およびpBluescript IIを含み、その一方、適用され得るファージベクターは、EMBL3、M13、lambda gtllを含む。これらのベクターは市販されている。Escherichia coliまたはBacillus brevis、および様々なシャトルベクターなどの2以上の宿主細胞において自律複製可能なベクターも使用可能である。また、このようなベクターは制限酵素を用いて切断されるため、それらの断片を得ることが可能である。
【0035】
したがって、従来のDNAリガーゼを得られたDNA断片をベクター断片に結合させるために使用する。DNA断片およびベクター断片をアニールし、その後結合させることで組換えベクターを生成する。
【0036】
本発明のさらなる実施形態では、形質転換体は本発明の組換えベクターを該組換えベクターの構成において使用される発現ベクターと相性の良い宿主に導入することによって得られる。本発明は、標的遺伝子を発現可能である限り、特定宿主の使用に制限されることを意図しない。使用可能な適した例としては、Cupriavidus、Pseudomonas、もしくはBacillus属に属する微生物、またはSaccharomycesもしくはCandida属からの酵母、またはCOSもしくはCHO細胞株などの動物細胞が挙げられる。
【0037】
CupriavidusまたはPseudomonas属に属する微生物などの細菌が宿主として使用される場合、本発明の組換えDNAは、プロモータ、本発明のDNA断片、および転写終結配列を含むように構成されることが好ましい。これは宿主における自律複製の発生を確保するためである。好ましくは、発現ベクターは、限定されるものではないが、pGEM−TおよびpBBR1MCS−2誘導体を含む。同様に、プロモータは宿主においてそれが発現可能な提供されるいかなる種類であってもよい。E.coliまたはファージ由来のプロモータの例としては、trpプロモータ、lacプロモータ、pLプロモータ、pRプロモータおよびT7プロモータが挙げられる。
【0038】
組換えベクターを宿主微生物に導入するために、あらゆる周知の方法を使用可能である。例えば、宿主微生物がE.coliである場合、カルシウム法およびエレクトロポレーション法が使用可能である。ファージDNAを使用する場合、インビトロパッケージング法を採用可能である。
【0039】
酵母を宿主として使用する場合、Yep13またはYCp50などの発現ベクターを使用する。したがって、プロモータはgal 1プロモータまたはgal 10プロモータであり、組換えDNAを酵母に導入するための方法としては、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、および酢酸リチウム法が挙げられる。動物細胞を宿主として使用する場合、pcDNAIまたはpcDNA/Ampなどの発現ベクターを使用する。したがって、組換えDNAを動物細胞に導入するための方法は、エレクトロポレーション法またはリン酸カリウム法であろう。
【0040】
また、本発明は、重合性材料を含む培地においてあらゆる前述の実施形態に記載の単離されたポリヌクレオチドを含む形質転換体を培養する段階を含む高分子の産生、および培養培地から高分子を回収する方法を開示する。高分子は形質転換体において形成および蓄積可能である。
【0041】
また、宿主を培養するために使用される従来の方法も、本発明の形質転換体を培養するために使用される。宿主としてCupriavidusまたはPseudomonas属に属する微生物から調製された形質転換体の培地は、微生物によって吸収可能な炭素源を含有する培地を含む。窒素源、無機塩類または他の有機栄養源は制限され、例えば、培地において栄養源は培地の0.01重量%〜0.1重量%の範囲にある。
【0042】
炭素源は微生物の成長のために必要であり、それは同時に高分子の出発物質である。使用される炭素源は、グルコース、フルクトース、スクロース、またはマルトースなどの炭化水素由来である。さらに、2以上の炭素原子を有する油脂、および油関連の物質も炭素源として使用可能である。これらの油脂、および油関連の物質は、トウモロコシ油、大豆油、サフラワー油、ひまわり油、オリーブ油、ヤシ油、パーム油、菜種油、魚油、鯨油、豚油、牛油などの天然油脂および油、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、リノレン酸、リノール酸、ミリスチン酸、およびそれらのエステルなどの脂肪酸、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ラウリルアルコール、オレイルアルコール、パルミチルアルコール、およびそれらのエステルなどのアルコールを含む。その一方で、窒素源は、アンモニア、アンモニウム塩、ペプトン、肉エキス、酵母エキスまたはコーンスティープリカーに由来し得る。無機物質としては、リン酸一カリウム、リン酸二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、および塩化ナトリウムが挙げられる。
【0043】
培養は、発現が誘導された後、好気条件下で24時間以上、好ましくは1〜3日間、30℃〜34℃にて振盪させながら実施することが好ましい。培養の間、アンピシリン、カナマイシン、ゲンタマイシン、アンチピリン、またはテトラサイクリンなどの抗生物質を培養物に添加可能である。その結果、高分子は微生物中に蓄積し、その後高分子は回収可能となる。
【0044】
誘導プロモータを使用して発現ベクターを用いて形質転換された微生物を培養するために、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)またはインドールアクリル酸(IAA)などのそれの誘導物質も培地に添加可能である。宿主としての動物細胞からの形質転換体を培養するために、ウシ胎仔血清が添加されたRPMI−1640またはDMEMなどの培地が使用可能である。本発明の好ましい実施形態によると、培養は通常、5%CO存在下で30℃〜37℃において14〜28日間実施される。培養の間、カナマイシンまたはペニシリンなどの抗生物質が培地に追加されてもよい。
【0045】
本発明の好ましい実施形態によると、高分子精製段階も実施可能である。好ましくは、形質転換体を遠心分離によって培養物から回収し、その後、蒸留水およびヘキサンで洗浄して乾燥させる。その後、乾燥形質転換体をクロロホルム中で懸濁させて加熱し、そこから高分子を抽出する。残留物はろ過によって除去可能である。好ましくは、メタノールを本クロロホルム溶液に添加することで高分子を沈殿させる。上澄みをろ過または遠心分離で除去した後、沈殿物を乾燥させて生成高分子を得る。得られた高分子は、例えば、ガスクロマトグラフィー、核磁気共鳴またはその他の手法などの通常の方法において、所望のものであることを確認する。
【0046】
本高分子合成酵素は、式Iで表される単量体単位、3−ヒドロキシアルカノエートから成る共重合体(高分子)を合成可能である。式中、Rは水素原子またはC1〜C4アルキル基を表す。
【0047】
【化1】

【0048】
好ましくは、高分子はポリヒドロキシアルカノエートである。高分子は、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシバレレート)ランダム共重合体(P(3HB−co−3HV))、またはポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシヘキサノエート)ランダム共重合体[P(3HB−co−3HHx)]を含む共重合体である。高分子合成酵素遺伝子を保有する形質転換体は、非常に高い効率でP(3HB−co−3HHx)を産生する能力を有する。
【0049】
ポリ(3−ヒドロキシブチレート)[P(3HB)]を産生するための従来の方法は、本高分子が高結晶性の高分子であるため、耐衝撃性が低いという物理的性質に関連する問題の原因となる。結晶化度は、5つの炭素原子を有する3−ヒドロキシバレレート、または6つの炭素原子を有する3−ヒドロキシヘキサノエートを高分子鎖に導入することで低下する。高分子は柔軟性のある高分子材料として機能し、耐熱性および成形性にも優れている。
【0050】
本発明において、P(3HB−co−3HHx)共重合体は、使用されるChromobacterium spの高分子合成酵素を使用することによって高収率で産生可能である。所望の高分子を上述の手段を用いて大量に得ることが可能であるため、糸、膜、または様々な管などの生分解性材料として使用可能である。さらに、本発明の遺伝子はP(3HB−co−3HHx)共重合体を高産生する株を増殖させるために使用可能である。
【0051】
本開示は、添付の特許請求の範囲および前述の説明において含まれるものを含有する。本発明がその好ましい形態においてある程度詳細に記載されているが、好ましい形態における本開示は単に例示のために作成されており、構成の詳細ならびに部分の組み合わせおよび配置における多数の変更は、本発明の範囲から逸脱することなく行い得ることを理解すべきである。
【0052】
実施例
本発明の種々の側面および実施形態を例示するために、以下に実施例を提供する。これらの実施例は、開示された発明を限定することを意図するものでは全くなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例1】
【0053】
Chromobacterium sp.USM2からの高分子合成酵素遺伝子のクローニング
初めに、ゲノムDNAライブラリーをChromobacterium sp.USM2から単離した。Chromobacterium sp.USM2を50mlの富栄養培地(1%ペプトン、1%肉エキス、0.5%酵母エキス、pH7.0)において30℃で一晩培養し、その後、ゲノムDNAを標準法を用いて微生物から得た。
【0054】
Chromobacterium sp.USM2からの高分子合成酵素遺伝子を含むDNA断片を得るために、プローブを調製した。参照としてNCBIデータベースを使用して設計された2つの領域固有オリゴヌクレオチド、SEQ ID NO:3、およびSEQ ID NO:4を合成した。
【0055】
これらのオリゴヌクレオチドをプライマーとして、およびChromobacterium sp.USM2からのゲノムDNAをテンプレートとして使用して、高分子合成酵素遺伝子をPCRによって増幅させた。PCRは30サイクルを用いて実施し、それぞれ95℃を20秒、60℃を180秒、および60℃を180秒の反応から成る。
【0056】
本断片からの1.7kbpのApaI−SalIのヌクレオチド配列を、サンガー法によって決定した。ヌクレオチド配列(1704)SEQ ID NO:1を含む高分子合成酵素遺伝子を得た。
【実施例2】
【0057】
Cuprividus necator形質転換体の調製
初めに、ApaI−SalI高分子合成酵素遺伝子を、あらかじめ同じ制限酵素を用いて切断したクローニングベクターpGEM−(Promega)に挿入した。その後、断片をApaIおよびSalI制限酵素を用いて再度消化し、得られたApaI−SalI高分子合成酵素遺伝子断片を、Cupriavidus属に属する微生物において発現可能な組換えベクターpBBR1MCS−2内に挿入した。得られた組換えプラスミドを接合伝達法によって、Cupriavidus necator PHB−4(DSM 541)(高分子を合成する能力を欠いた株)に形質転換した。
【0058】
初めに、組換えプラスミドを使用して塩化カルシウム法により、E.coli S17−1に形質転換した。その結果、組換えE.coliが得られ、C.necator PHB−4をトランス抱合(transconjugated)した。組換えE.coliおよびC.necator PHB−4を、1.5mlのLB培地および富栄養培地において30℃で一晩培養し、それぞれの培養物、各0.1mlを合わせて、振盪機において室温で1時間培養した。その後、混合物を振盪せずに30分間インキュベートし、続いて再度30分間振盪した。本微生物混合物を50mg/Lのカナマイシンを含むシモンズのクエン酸塩培地に蒔いて、30℃で2日間培養した。
【0059】
C.necator PHB−4は、組換えE.coliにおけるプラスミドをそれに転移させることによってカナマイシンへの抵抗が与えられるため、シモンズのクエン酸塩培地において成長したコロニーはC.necatorの形質転換体である。
【実施例3】
【0060】
C.necator形質転換体による高分子の合成
それぞれのC.necatorH16、C.necator形質転換体、およびPHB−4を、1ml/Lの微量元素を含む50mlの無機培地(3.32g/Lのリン酸水素二ナトリウム、2.8g/Lのリン酸二水素カリウム、0.54g/Lの尿素)に植え付け、フラスコ内において30℃でインキュベートした。50mg/LのカナマイシンをC.necator形質転換体の培地に添加し、微生物を48および72時間培養した。
【0061】
それぞれのH16株、C.necator形質転換体、およびPHB−4を、5g/Lのフルクトースおよび粗パーム核油(CPKO)を加えた上述の無機培地に植え付け、それぞれの株を250mlフラスコ内において30℃で72時間培養した。吉草酸ナトリウム(2.5g/L)を3−ヒドロキシバレレート(3HV)生成のために添加した。50mg/LのカナマイシンをC.necator形質転換体の培地に添加した。ポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシバレレート−co−3−ヒドロキシヘキサノエート)[P(3HB−co−3HV−co−3HHx)]ターポリマー合成のために、様々な濃度の吉草酸ナトリウムおよびプロピオン酸ナトリウムを12g/LのCPKOと共に添加した。
【0062】
微生物を遠心分離によって回収し、(CPKO存在下で)蒸留水およびヘキサンで洗浄して凍結乾燥し、乾燥微生物の重量を決定した。2mlの硫酸/メタノールの混合物(15:85)および2mlのクロロホルムを10−30mgの乾燥微生物に添加し、試料を密閉し、100℃で140分間加熱した。それにより、微生物中の高分子はメチルエステルに分解された。1mlの蒸留水をそれに加え、激しく撹拌した。それを放置して2つの層に分離し、下部の有機層を取り出し、Shimadzu GC−2010のキャピラリーカラムNeutra BOND−1(長さ25m、内径0.25mm、および液膜厚さ0.4μm、GL Science製のカラム)を介して、キャピラリーガスクロマトグラフィーによってそれの成分を分析した。温度は初期温度の100℃から8℃/分の速度で上昇させた。結果を表1、2および3に示す。
【0063】
表1に、フルクトース、フルクトースおよび吉草酸ナトリウムの混合物、ならびにCPKOからの、C.necator形質転換体によるPHAの生合成を示す。
【0064】
【表1】

無機培地において48時間30℃、初期pH7.0、200rpmでインキュベート。
吉草酸ナトリウムを培養24時間の時点で添加した。
凍結乾燥細胞におけるPHA含有量
3HB、3−ヒドロキシブチレート;3HV、3−ヒドロキシバレレート;3HHx、3−ヒドロキシヘキサノエート
ND−不検出
【0065】
表1の結果に基づいて、形質転換体はP(3HB)ホモポリマーを生産するためにフルクトースを利用可能である。3.1±0.2g/Lの細胞乾燥重量および微生物の64±2重量%の高分子含有量は、H16のそれ(3.3±0.1g/Lおよび微生物の56±1重量%)とほぼ同じであった。予測通り、PHB−4において蓄積は全く観察されなかった。CPKOを唯一の炭素源として使用したとき、より高い細胞乾燥重量が得られた。形質転換体の細胞バイオマスは、4.0±0.2g/Lおよび高分子含有量は微生物の63±2重量%であった。
【0066】
興味深いことに、CPKOの存在下では、4モル%の3HHxを伴うP(3HB−co−3HHx)共重合体の蓄積が形質転換体において観察された。これは野生型Chromobacterium sp.USM2またはH16においては表れなかった。
【0067】
P(3HB−co−3HV)共重合体の産生を調査するために、吉草酸ナトリウムをフルクトースを添加した培養物に加えた。形質転換体によって生成された3HV組成は、H16と比較してほぼ2倍高い。また、本組換え体によって産生された高分子含有量は、野生型の微生物の38±2重量%と比較して、微生物の57±2重量%と高かった。低濃度の前駆体から大量の3HVを蓄積するためのクローン化高分子合成酵素は、3HVの取り込みに対するそれの高い親和能力を示している。
【0068】
表2に、CPKOからのC.necatorの形質転換体によるP(3HB−co−3HHx)蓄積の時間特性分析を示す。
【0069】
【表2】

PHA、ポリヒドロキシアルカノエート;P(3HB)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート);P(3HHx)、ポリ(3−ヒドロキシヘキサノエート)
PHA生合成培地において72時間30℃、初期pH7.0、200rpmでインキュベート。
CPKOを植付け中に添加した(0時間)
凍結乾燥細胞におけるPHA含有量はガスクロマトグラフィー(GC)で決定した
【0070】
表2の結果から、3HHxモル%の割合は培養の継続時間に基づいて制御可能であり、3〜11モル%の範囲で産生される。72時間培養すると、高い細胞バイオマスおよび高分子含有量が得られた。8.8±0.5g/Lの全細胞乾燥重量および微生物の83±4重量%の高分子含有量を得た。細胞は供給された炭素源を効率的に利用することが予測され、それは72時間の培養の終了時において何も検出されなくなるまで残油の濃度が実質的に減少することで示されている。
【0071】
表3に、CPKOおよび様々な濃度の前駆体の混合物からのC.necatorの形質転換体による、P(3HB−co−3HV−co−3HHx)ターポリマーの生合成を示す。
【0072】
【表3】

PHA生合成培地において72時間30℃、初期pH7.0、200rpmでインキュベート。前駆体を培養6時間の時点で添加した。
CPKOを植付け中に添加した(0時間)
凍結乾燥細胞におけるPHA含有量はガスクロマトグラフィー(GC)で決定した
【0073】
表3に示されるように、3HVモル%の割合は様々な異なる前駆体濃度を加えることによって制御可能である。一般的に、3HVモル%は前駆体の濃度の増加に関連して増加することが分かった。吉草酸ナトリウムを有する場合、3HVモル%は24〜91モル%の範囲であった。続いて、プロピオン酸ナトリウムを有する場合、それは1〜51モル%の範囲であった。
【0074】
低濃度の前駆体を使用するとき、3HHxモル%の割合はより高かった。それは1g/Lの吉草酸ナトリウムおよびプロピオン酸ナトリウムそれぞれにおいて、7モル%および8モル%であった。9g/Lの吉草酸ナトリウムを使用したとき、微生物の69±1重量%の最も高い高分子含有量が産生された。一般的に、これらの前駆体が低濃度で与えられるとき、細胞バイオマスはより高くなった。
【0075】
その後、乾燥したC.necator形質転換細胞をクロロホルム中に懸濁させ、60℃で4時間加熱することでそれから高分子を抽出した。残留物をろ過で除去した。メタノールを本クロロホルム溶液に添加して、高分子を沈殿させた。上澄みをろ過または遠心分離で除去した後、沈殿物を乾燥させて生成高分子を得た。
【0076】
得られた高分子を核磁気共鳴で確認した。全部で25mgの高分子試料を1mlの重水素クロロホルム(CDCl)に溶解する。HNMRスペクトルを、Bruker AVANCE 300;ノースカロライナ州、米国 分光計にて、400MHz、30℃で測定した。テトラメチルシラン(MeSi)を内部化学シフト基準として使用した。結果を図4に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子合成酵素活性を有するSEQ ID NO:1に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする単離されたポリヌクレオチド。
【請求項2】
SEQ ID NO:2に記載のヌクレオチド配列、またはそれの相補配列を含む請求項1に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項3】
TはUによって置換されるSEQ ID NO:2に記載のヌクレオチド配列、またはそれの相補配列を含む請求項1に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項4】
請求項1に記載の単離されたポリヌクレオチドを含む組換えベクター。
【請求項5】
請求項4に記載の組換えベクターであって、それはプラスミドまたはファージである組換えベクター。
【請求項6】
請求項5に記載のベクターによって形質転換される形質転換体。
【請求項7】
高分子を産生するために方法であって、
重合性材料を含む培地において請求項6に記載の形質転換体を培養する段階と、
培養培地から高分子を回収する段階とを含む方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、前記高分子はポリヒドロキシアルカノエートである方法。
【請求項9】
SEQ ID NO:1に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする単離されたポリヌクレオチドであって、1以上のアミノ酸は、置換、欠失、置換または追加され、前記ポリペプチドは高分子合成酵素活性を有する単離されたポリヌクレオチド。
【請求項10】
請求項9に記載の単離されたポリヌクレオチドを含む組換えベクター。
【請求項11】
請求項10に記載の組換えベクターであって、それはプラスミドまたはファージである組換えベクター。
【請求項12】
請求項11に記載のベクターによって形質転換される形質転換体。
【請求項13】
高分子を産生するための方法であって、
重合性材料を含む培地において請求項12に記載の形質転換体を培養する段階と、
培養培地から高分子を回収する段階とを含む方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法であって、前記高分子はポリヒドロキシアルカノエートである方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−529289(P2012−529289A)
【公表日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−514902(P2012−514902)
【出願日】平成22年5月5日(2010.5.5)
【国際出願番号】PCT/MY2010/000071
【国際公開番号】WO2010/143933
【国際公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(511207811)ユニヴァーシティ サインズ マレーシア (1)
【Fターム(参考)】