説明

高分子材料の製造方法

【課題】 高分子材料をフッ素ガスと反応させて表面をフッ素化する反応において、親水化してしまうことを抑制しつつ表面がフッ素化された新規の高分子材料の製造方法および該高分子材料を提供する。
【解決手段】 天然または合成高分子材料にフッ素含有ガスを接触させて表面をフッ素化した後、それ自体ラジカル重合性を有さず、前記表面に形成したラジカルに対する反応性を有する化合物と接触反応させる表面改質された高分子材料の製造方法。およびこの製造方法により製造された高分子材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面がフッ素化された天然または合成高分子材料の製造方法、およびそれによって得られる機能性高分子材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高分子材料の表面が含フッ素高分子からなる材料は、その表面の性質として撥水性、撥油性、防汚性、低接着性、低摩擦性などが期待され、産業上の有用性が高い。
一方、高分子材料をフッ素ガスを用いて表面をフッ素化する技術も種々知られている。例えば、ポリカーボネートおよびABS樹脂(特許文献1)、ポリプロピレン樹脂(特許文献2および3)、ポリオレフィン系樹脂(特許文献4)、フッ素化ポリイミド(特許文献5)などをフッ素化することが知られているが、これらはいずれも表面を親水化させる方法である。その一方で、比重が1.6以下でエーテル結合、カーボネート結合、アミド結合、ウレタン結合のいずれも含まない合成若しくは天然高分子材料をフッ素化すると、水に対する接触角を10゜以上大きくする、すなわち撥水化することが知られている(特許文献6)。
また、フッ素化をおこなった後に表面処理する方法として、合成樹脂成形品の表面をフッ素化した後に、重合性モノマーを接触させて、表面に新たなポリマー層を形成させることが知られている(特許文献7)。
【0003】
フッ素化によって高分子材料表面が親水化または極性化する理由として、例えば、特許文献8には表面のごく薄い部分でこみ合って存在するC−F結合が表面エネルギーを上昇させて表面の親水化を発現していると考えられると記載されている。また、特許文献9にはC−Fの共有結合内で原子として最大の電気陰性度を示すフッ素により、電子の局在化が起こされた為にイオン性になったからであると記載されている。
【特許文献1】特開平11−124681号公報
【特許文献2】特開平10−204195号公報
【特許文献3】特開平8−72158号公報
【特許文献4】特開平11−3694号公報
【特許文献5】特開2000−95862号公報
【特許文献6】特開2002−194125号公報
【特許文献7】特開平6−329822号公報
【特許文献8】特開2000−95862号公報
【特許文献9】特開平8−302039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、高分子材料をフッ素ガスと反応させて表面をフッ素化する反応において、親水化してしまうことを抑制しつつ表面がフッ素化された新規の高分子材料の製造方法および該高分子材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者はフッ素ガスと高分子材料と反応条件を詳細に検討した結果、表面に生じたラジカルが酸素分子と反応することで表面に親水性基が生成して親水化する、そして該表面のラジカルに対してラジカル反応性を有する化合物と反応させることで、親水化を抑制してフッ素化した表面が得られる、という考えに至り、さらに検討を重ね、本発明を完成するに至った。
本発明の目的は、下記の手段によって達成された。
(1)天然または合成高分子材料にフッ素含有ガスを接触させて表面をフッ素化した後、それ自体ラジカル重合性を有さず、かつ前記表面に形成したラジカルに対する反応性を有する化合物を接触反応させることを特徴とする、表面改質された高分子材料の製造方法。
(2)前記ラジカルに対する反応性を有する化合物が、アリル化合物であることを特徴とする、(1)項記載の表面改質された高分子材料の製造方法。
(3)フッ素化後に前記ラジカルに対する反応性を有する化合物を接触させた天然または合成高分子材料の水の接触角が、フッ素化のみの場合と比較して10゜以上大きくなることを特徴とする、(1)または(2)項記載の表面改質された高分子材料の製造方法。
(4)(1)〜(3)のいずれか1項に記載の方法によって製造された、表面改質された高分子材料。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、高分子材料をフッ素含有ガスと反応させて表面をフッ素化する反応において、酸素分子の影響を厳密に排除しなくても、親水化することを抑制しつつ表面がフッ素化された高分子材料の製造方法および該高分子材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において用いる高分子材料としては、天然高分子および合成高分子のいずれからなるものであってもよい。天然高分子および合成高分子の定義は、大木道則、大沢利昭、田中元治、千原秀昭編「化学大辞典」(東京化学同人、1989年刊)1551および769ページのそれぞれの項に記載されているものである。
天然高分子としては、天然有機高分子が好ましく、綿、麻、セルロース、絹、羊毛などの天然繊維や、たんぱく質、天然ゴムなどが挙げられる。
合成高分子としては、ポリオレフィン、ポリアクリル、ポリビニル、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレン、ポリイミド、ポリアセタール、ポリスルホン、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、などが挙げられる。
【0008】
高分子材料として好ましくは合成高分子であり、さらに好ましくはポリオレフィン、ポリエーテル、ポリエステル、ポリフェニレン、ポリイミド、ポリスルホン、フッ素樹脂、エポキシ樹脂である。より好ましくは、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリイミド、ポリスルホンである。特に好ましくはポリスチレン、ポリプロピレン、ポリ(4−メチルペンテン)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンである。
高分子材料の形状としては、平膜状、粉状、球状粒子、破砕粒子、塊状連続体、繊維状、管状、中空糸状、粒状、板状、多孔質状などのいずれの形状であってもよい。本発明の方法は、平膜状、繊維状、管状、中空糸状、粒状、板状、多孔質状の形状の高分子材料を好適に用いることができる。
【0009】
続いて本発明におけるフッ素化反応について説明する。
ポリマーをフッ素ガスと反応させてフッ素化をおこなうことは、Prog.Inorg. Chem.1979,26,162に初期の報告がまとめられており、J.Fluorine Chem.2005,126,251には最近の報告を含めた総説が書かれている。この反応を用いた表面修飾方法は、プラズマを用いてフッ素原子を含む表面を形成させる方法や、含フッ素化合物を表面にコーティングする方法とは異なり、フッ素化する材料のC−H結合をC−F結合に変換する方法であるため、材料表面の微細な構造を損なうことなく表面のみを修飾することができる点に特徴がある。このC−H結合をC−F結合に変換すること、および不飽和結合にフッ素が付加すること(例えばC=C結合をCF2−CF結合に変換すること)を含めて、本発明においては「フッ素化反応」という。
【0010】
本発明において用いられるフッ素含有ガスは、フッ素ガスボンベから供給しても良いし、KF・nHF共融混合物を電解したりフッ素を吸蔵している固体(例えばKNiF)を加熱したりするフッ素ガス発生装置を使用して発生させたフッ素ガスを用いても良い。
本発明に用いられるフッ素含有ガスとしては、フッ素ガスを不活性ガスによって任意の濃度に希釈したものを用いることが好ましい。不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素、パーフルオロ化合物などが挙げられる。なお、この不活性ガスによって希釈されたフッ素ガスのことを本発明においてはフッ素混合ガスと呼ぶこととする。
フッ素混合ガス中のフッ素ガス濃度としては、0.01〜50%が好ましく、0.1〜20%がより好ましく、1〜15%がさらに好ましく、5〜10%が特に好ましい。フッ素化反応中にフッ素混合ガスの濃度を変化させておこなっても良い。なお、本発明におけるフッ素混合ガスの濃度は、体積%で表わされたものである。
【0011】
フッ素化反応の反応温度に特に制限はないが、−78〜200℃が好ましく、−30〜100℃がより好ましく、0〜50℃がさらに好ましく、15〜30℃が特に好ましい。フッ素化反応中に反応温度を変化させておこなっても良い。フッ素化反応をおこなう高分子材料の大きさやフッ素混合ガスの濃度などの条件によっては、特に温度制御をおこなわないで室温で反応をおこなってもよい。
【0012】
フッ素化反応の反応時間は任意に設定できるが、1秒〜1日が好ましく、10秒〜1時間がより好ましく、1分〜30分がさらに好ましく、5分〜15分が特に好ましい。なお、本発明におけるフッ素化反応の反応時間は、反応容器にフッ素混合ガス導入を開始した時からフッ素混合ガスを取り除く操作を開始した時までの時間とする。これは、フッ素混合ガスの導入中や除去中にもフッ素ガスと材料の反応が起こり得るので、厳密に反応時間を決めることが難しいために便宜上定義するものである。
【0013】
フッ素混合ガス中のフッ素ガス濃度およびフッ素化反応の反応時間の組み合わせとしては、0.1〜20%で1秒〜1時間が好ましく、1〜20%で1〜30分がより好ましく、1〜10%で5〜30分がさらに好ましく、5〜10%で5〜15分が特に好ましい。
【0014】
フッ素化反応をおこなう反応装置としてはどのようなものを用いてもよい。例えば、Prog.Inorg.Chem.1979,26,172や、アール・イー・バンクス(R.E.Banks)、ビー・イー・スマート(B.E.Smart)編「オーガノフルオリン・ケミストリー:プリンシプルズ・アンド・コマーシャル・アプリケーションズ(Organofluorine Chemistry:Principles and Commercial Applications)」(プレナム・プレス(Plenum Press)、1994年刊)475〜478ページに記載されているような反応装置の概略図を参考にできる。粉末状の高分子材料をフッ素化する場合には、工業化学雑誌1970,73,1211記載の反応容器も参考にできる。
【0015】
反応容器の材質としては、モネル、インコネルやステンレスなどの金属や合金、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素不活性素材などを用いることができる。これらを組み合わせて成るものでもよい。
【0016】
フッ素混合ガスとの反応は、上述の反応装置を参考にして、容器中に高分子材料を入れてフッ素混合ガスを流通させながら反応させる流通式でおこなってもよいし、密閉容器中に高分子材料を入れてフッ素混合ガスを充填して反応させるバッチ式でおこなってもよいし、高分子材料を連続的に反応容器に搬入・搬出しながら反応させる連続式でおこなってもよい。
【0017】
流通式でおこなう場合、フッ素混合ガスの流速は任意に設定できるが、反応容器の内容量が数秒〜数分で置き換わる程度の流速で流通させるのが好ましい。例えば、内容量100mlの反応容器を用いる場合には、1〜1000ml/minが好ましく、10〜500ml/minがより好ましく、50〜300ml/minが特に好ましい。フッ素化反応中にフッ素混合ガスの流速を変化させておこなうこともできる。反応容器から出てきたフッ素混合ガスを再度反応容器に還流させながらおこなうこともできる。
【0018】
バッチ式でおこなう場合、フッ素混合ガスの圧力は任意に設定できるが、10kPa〜10MPaが好ましく、50kPa〜1MPaがより好ましく、80〜500kPaがさらに好ましい。フッ素化反応中にフッ素混合ガスを追加あるいは放出することで圧力を変化させておこなうこともできる。
【0019】
連続式でおこなう場合、高分子材料の搬入・搬出速度は、材料の性質として許容できる範囲内であれば任意に設定できる。フッ素混合ガスを流通させている反応容器の中に高分子材料を搬入する形式の場合、フッ素混合ガスの流速は流通式でおこなう場合に準じる。フッ素混合ガスが充填された反応容器の中に高分子材料を搬入する形式の場合、フッ素混合ガスの圧力はバッチ式でおこなう場合に準じる。
【0020】
フッ素ガスとの反応中に別の反応性ガスが共存するとフッ素化反応と合わせて別の反応が起こる。これを活用してもよいが、フッ素ガスとの反応をおこなう前に反応容器中を不活性雰囲気にしてからフッ素ガスとの反応をおこなうことが好ましい。不活性雰囲気にする方法としては、反応容器を減圧にした後に不活性ガスで置換する方法や、不活性ガスを流通させて置換する方法などが挙げられる。
【0021】
フッ素ガスとの反応終了後は、容器中に残存しているフッ素ガスが処理されないまま大気中に放出されるのを防止し、また高分子材料がフッ素ガスと空気に同時に触れることになり、不活性雰囲気での反応ではなくなることを防ぐため、反応容器中からフッ素混合ガスを取り除いてから開封することが好ましい。フッ素混合ガスを取り除く方法としては、反応容器を減圧脱気して不活性ガスで置換する方法や、不活性ガスを流通させて置換する方法などが挙げられる。
【0022】
有機化合物の直接フッ素化反応においては、副生成物としてフッ化水素(HF)が生成する。フッ化水素が共存したままでフッ素化反応をおこなってもよいし、取り除く操作をして反応をおこなってもよい。フッ化水素を反応系から取り除く方法としては、フッ化カリウム(KF)やフッ化ナトリウム(NaF)などのアルカリ金属フッ化物やトリアルキルアミンなどの有機塩基をフッ化水素捕捉剤として反応系中に共存させておく方法や、フッ素混合ガスと共にフッ化水素を流し去る方法などが挙げられる。フッ化水素を流し去る方法においては反応容器ガス出口でフッ化水素捕捉剤と出口ガスを接触させることが好ましい。流通式で反応をおこなう場合にはフッ化水素を流し去る方法が適しており、バッチ式でおこなう場合にはフッ化水素捕捉剤を共存させる方法が適している。
【0023】
フッ素化反応をおこなった後に、そのまま次のラジカル反応性化合物との接触反応をおこなってもよいし、水や任意の溶剤を用いて洗浄をおこなってもよい。十分に取り除けなかったフッ素ガスおよびフッ化水素などの副生成物の影響を排除するためには、水洗などによる洗浄操作をおこなうことが好ましい。
【0024】
続いてラジカルに対する反応性を有する化合物との接触反応について説明する。
高分子材料の直接フッ素化によってラジカルが生成していることはESRスペクトルによって確認されており、J.Chem.Phys.1972,57,1791、J.Fluorine Chem.1977,10,1、J.App.Poly.Sci.2004,922,6などに報告されている。本発明者は、フッ素化で生じた炭素ラジカルが酸素分子と反応する酸素酸化反応によって酸素官能基が表面に生成したことが親水化の原因であると考えている。酸素分子の由来は定かではないが、フッ素化反応系中に微量に存在している酸素と反応してオキシフッ素化反応が起こったか、あるいはフッ素化反応後の操作中に酸素と触れて酸素酸化が起こったものと考えられる。
【0025】
本発明におけるラジカルに対する反応性を有する化合物とは、化合物のラジカル部と反応することができる分子のことである。ラジカルに対する反応性については、東郷秀雄著「有機フリーラジカルの化学」(講談社、2001年刊)第1章や、マイケル・ビー・スミス(Michael B.Smith)、ジェリー・マーチ(Jerry March)著「マーチズ・アドバンスド・オーガニック・ケミストリー(March’s Advanced Organic Chemistry)」(ジョン・ワイリー・アンド・サンズ(John Wiley & Sons)社、ニューヨーク、2001年刊)Chapter 14などに記載されている。
【0026】
但し、ラジカル重合性モノマーを用いた場合には、特開平6−329822号公報に記載されているように、表面に新たなポリマー層を形成させることになり、その表面の性質は元の材料をフッ素化したものの性質ではなく、新たなポリマー層の性質を示すことになる。ラジカル重合性モノマーとしては、モノマーの反応重合性を示すアルフレイ−プライスのe値が1.7>e>−1.0であるものがラジカル重合しやすいとされている。このようなラジカル重合しやすい化合物を用いた場合には、表面に新たなポリマー膜を形成してしまうので好ましくない。よって本発明に用いられるラジカルに対する反応性を有する化合物は、それ自体ラジカル重合性を有しないものである。
本発明に用いられるフッ素化により高分子材料表面に形成したラジカルに対する反応性を有する化合物(以後、単に「ラジカル反応性化合物」ともいう)としては、上述のラジカル重合性の条件を満たさない化合物であれば特に限定されるものではないが、例えば、アリル化合物、ハロゲン化アルキル化合物、スルフィド化合物、アルキルスズ化合物などが挙げられ、アリル化合物が好ましい。
【0027】
本発明に用いることができるアリル化合物の例としては、アリルハライド、アリルアシレート、アリルスルホン、アリルシラン、アリルスズ、アリルホウ素、アリルリン、アリルエーテル、アリルアルコール、アリルスルフィド、アリルシアニドなどが挙げられる。好ましくはアリルハライド、アリルアシレート、アリルスルホン、アリルシラン、アリルスズである。より好ましくはアリルブロミド、酢酸アリル、アリルフェニルスルホン、アリルトリメチルシラン、アリルトリブチルスズである。特に好ましくはアリルフェニルスルホン、アリルトリメチルシラン、アリルトリブチルスズである。
【0028】
フッ素化反応によって生じた炭素ラジカルは、水素引き抜き反応による炭素−水素結合の形成やポリマー鎖の切断および新たな炭素−炭素結合の形成を起こすだけでなく、酸素分子と反応する酸素酸化反応によって炭素−酸素結合を形成し酸素ラジカルを生じる。ラジカル反応性化合物が実際にどのような働きをしているのかはまだ明らかではないが、ラジカル反応性化合物はこの酸素ラジカルと反応して酸素−炭素結合を形成することで酸素官能基の親水性を低減するために機能していることが考えられる。また、炭素ラジカルはラジカル反応性化合物と反応しても水素引き抜き反応をしても親水性にあまり影響しないが、酸素分子と反応する前にラジカル反応性化合物と反応することで酸素酸化反応を抑制する機能を有することも考えられる。
【0029】
フッ素化した高分子材料とラジカル重合性を有しないラジカル反応性化合物を接触反応させる方法はどのような方法であってもよい。例えば、フッ素化された材料をラジカル反応性化合物気体が入った容器の中に入れることで気−固反応としておこなうこともできるし、ラジカル反応性化合物の液体の中に浸すことで液−固反応としておこなうこともできる。窒素やヘリウムなどの不活性ガスなどと混合しておこなうこともできるし、ラジカル不活性化合物を溶媒として溶解しておこなうこともできる。高分子材料とラジカル反応性化合物および溶媒の組み合わせによっては、高分子材料が膨潤したり溶解したりする場合もあるので、気−固反応でおこなうことが好ましい。
【0030】
フッ素化した高分子材料とラジカル反応性化合物との反応温度に特に制限はないが、−78〜200℃が好ましく、0〜100℃がより好ましく、10〜60℃がさらに好ましく、15〜40℃が特に好ましい。反応中に反応温度を変化させておこなっても良い。
【0031】
フッ素化した高分子材料とラジカル反応性化合物との反応時間は任意に設定できるが、1秒〜10日が好ましく、1分〜3日がより好ましく、1時間〜2日がさらに好ましく、3時間〜1日が特に好ましい。
【0032】
ラジカル反応性化合物との接触反応は、容器中にフッ素化した高分子材料を入れてラジカル反応性化合物気体を流通させながら反応させる流通式でおこなってもよいし、密閉容器中にフッ素化した高分子材料を入れてラジカル反応性化合物気体を充填して反応させるバッチ式でおこなってもよいし、フッ素化した高分子材料を連続的に反応容器に搬入・搬出しながら反応させる連続式でおこなってもよい。
【0033】
流通式でおこなう場合、ラジカル反応性化合物気体の流速は任意に設定できるが、反応容器の内容量が数秒〜数時間で置き換わる程度の流速で流通させるのが好ましい。例えば、内容量100mlの反応容器を用いる場合には、0.1〜1000ml/minが好ましく、1〜500ml/minがより好ましく、10〜100ml/minが特に好ましい。反応中に流速を変化させておこなうこともできる。反応容器から出てきた気体を再度反応容器に還流させながらおこなうこともできる。
【0034】
バッチ式でおこなう場合、ラジカル反応性化合物の気体の圧力に特に制限はないが、10kPa〜10MPaが好ましく、50kPa〜1MPaがより好ましく、80〜500kPaがさらに好ましい。反応中にラジカル反応性化合物を追加あるいは放出することで圧力を変化させておこなうこともできる。
【0035】
連続式でおこなう場合、フッ素化した高分子材料の搬入・搬出速度は、材料の性質として許容できる範囲内であれば任意に設定できる。ラジカル反応性化合物気体を流通させている反応容器の中に高分子材料を搬入する形式の場合、ラジカル反応性化合物気体の流速は流通式でおこなう場合に準じる。ラジカル反応性化合物気体が充填された反応容器の中に高分子材料を搬入する形式の場合、ラジカル反応性化合物気体の圧力はバッチ式でおこなう場合に準じる。
【0036】
フッ素化反応終了後からラジカル反応性化合物との接触反応を開始するまでの時間は、できるだけ短い時間であることが好ましい。0秒〜5時間がより好ましく、0秒〜3時間がさらに好ましく、0秒〜1時間が特に好ましい。なお、ここで表わす時間とはフッ素化反応終了後にフッ素混合ガスおよび副生成物を取り除く操作をおこなう時間を含んでおり、0秒とはフッ素化反応終了後から連続してラジカル反応性化合物との反応を開始させる場合を示す。
【0037】
ラジカル反応性化合物との接触反応が終了したとき、未反応のラジカル反応性化合物および副生成物を取り除くことを目的として、高分子材料を洗浄してもよいし、減圧下で揮発成分を除去してもよいし、別の気体で流し去ってもよい。洗浄溶剤は高分子材料を傷めないものであれば任意の溶剤が選択できる。例えばラジカル反応性化合物が油溶性化合物である場合には、ヘキサンなどの溶剤を使用できる。
【0038】
本発明の高分子材料は、上記の反応によって表面改質されたものである。なお、本発明において「表面改質」とは、材料技術研究協会編「実用表面改質技術総覧」(技術サービスセンター、1993年刊)第1章に記載されている、材料のバルクの性質を生かした上で表面機能を付与することであり、機械的特性、電気的特性、光学的特性、熱的特性、物理的特性、化学的特性、装飾特性などを付与することである。
【0039】
続いて本発明における撥水性について説明する。
撥水性とは、大木道則、大沢利昭、田中元治、千原秀昭編「化学大辞典」(東京化学同人、1989年刊)1787ページの撥水性の項に、固体表面が水をはじく性質と記載されている。また、水滴が接したときの接触角によって評価し、接触角が大きい場合には撥水性は大きいと記載されている。この記述に従い、水をはじく性質を有する高分子材料のことを、本発明においては撥水性高分子材料とする。
【0040】
接触角の定義と測定法については、日本化学会編「新実験化学講座 18−界面とコロイド」(丸善、1977年刊)93〜106ページに記載されている。接触角の測定法のうち、本発明においては、この資料の97ページ記載の液滴法に準じて測定した値を用いている。本発明において、接触角は30〜150゜が好ましく、40〜120゜がより好ましい。
【0041】
フッ素化によって水の接触角が小さくなる、すなわち親水化するのに対して、本発明のラジカル反応性化合物と接触させることで、水の接触角を大きくすることができる。この理由は、上述したように酸素酸化に由来する酸素官能基の親水性を低減したためか、あるいは酸素酸化反応が抑制され表面の酸素官能基の量が減少したためと考えられる。
表面をフッ素化した後ラジカル反応性化合物と接触させた高分子材料の水の接触角は、フッ素化しただけの場合と比較して大きくなる。大きくなる度合いは、5゜以上が好ましく、10゜以上がより好ましく、15゜以上が特に好ましい。
【実施例】
【0042】
本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0043】
<実施例1>
高分子材料としてポリスチレン膜(約5cm×5cm×100μm)を、フッ素およびヘリウムガス供給口と排気口を備えたポリテトラフルオロエチレン製500ml容器に入れ、ヘリウムガスを流速100ml/minで吹き込んで1時間パージした後、20%フッ素/80%窒素混合ガスを流速50ml/minで、ヘリウムガスを流速50ml/minでそれぞれ吹き込み(10%フッ素混合ガスに相当)30分間反応させた。引き続きヘリウムガスを流速100ml/minで吹き込んで1時間パージしてから容器を開封し、ポリスチレン膜を水洗・乾燥することで、フッ素化されたポリスチレン膜を得た。
このポリスチレン膜を分割し、一片(約5cm×1cm)をラジカル反応性化合物としてアリルトリメチルシラン(A)1mlと共に50ml密閉容器に入れ、室温で一晩放置した。容器からポリスチレン膜を取り出し、それぞれヘキサン洗浄・乾燥させて、ラジカル反応性化合物と接触させたポリスチレン膜(サンプル1−A)を得た。
【0044】
接触角の測定は、協和界面科学(株)DropMaster500を用いておこなった。1μlの水滴を針先に作り、これを高分子材料の表面に触れさせて液滴を作った。1分後に接触角を測定し、本発明における接触角の値とした。結果を表1に示す。
【0045】
処理後の表面の組成は、島津製作所(株)ESCA−3400を用いて測定した。積分強度比と感度係数から、表面における炭素とフッ素の相対存在比(F/C)および炭素と酸素の相対存在比(O/C)を求めた。また、ラジカル反応性化合物中に含まれる炭素、水素、酸素およびフッ素以外のヘテロ元素の有無について調べた。結果を表1に示す。
【0046】
<比較例1>
実施例1で分割したフッ素化されたポリスチレン膜の一片(約5cm×1cm)を、実施例1の場合とは異なり何も入っていない密閉容器中に入れ、実施例1と同様の操作をおこなってフッ素化サンプル1を得た。また、実施例1で用いたものと同じポリスチレン膜を、フッ素混合ガスと反応させることを除いて実施例1と同様の操作をおこなって比較サンプル1−Aを得た。何も操作していないポリスチレン膜を未処理サンプル1とした。これらは実施例1と同様に物性測定をおこなった。結果を表1に示す。
【0047】
<実施例2>
実施例1で分割したフッ素化されたポリスチレン膜の一片を、ラジカル重合性を有しないラジカル反応性化合物としてアリルトリブチルスズ(B)を用いたこと以外は実施例1と同様の操作をおこなってサンプル1−Bを得た。実施例1と同様に物性測定をおこなった。結果を表1に示す。
【0048】
<比較例2>
実施例1で用いたものと同じポリスチレン膜を、フッ素混合ガスと反応させることを除いて実施例2と同様の操作をおこなって比較サンプル1−Bを得た。実施例1と同様に物性測定をおこなった。結果を表1に示す。
【0049】
<実施例3>
実施例1で分割したフッ素化されたポリスチレン膜の一片を、ラジカル重合性を有しないラジカル反応性化合物としてアリルフェニルスルホン(C)を用いたこと以外は実施例1と同様の操作をおこなってサンプル1−Cを得た。実施例1と同様に物性測定をおこなった。結果を表1に示す。
【0050】
<比較例3>
実施例1で用いたものと同じポリスチレン膜を、フッ素混合ガスと反応させることを除いて実施例3と同様の操作をおこなって比較サンプル1−Cを得た。実施例1と同様に物性測定をおこなった。結果を表1に示す。
【0051】
<実施例4>
高分子材料としてポリ(4−メチルペンテン)膜(約5cm×5cm×100μm)を用い、ラジカル反応性化合物としてアリルフェニルスルホン(C)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、ラジカル反応性化合物と反応させたポリ(4−メチルペンテン)膜(サンプル4−C)を得た。同様に物性測定をおこなった。結果を表1に示す。
【0052】
<比較例4>
実施例4で分割したフッ素化されたポリ(4−メチルペンテン)膜の一片を、実施例4の場合とは異なる何も入っていない密閉容器中に入れ、実施例1と同様の操作をおこなってフッ素化サンプル4を得た。また、実施例4で用いたものと同じポリ(4−メチルペンテン)膜を、フッ素混合ガスと反応させることを除いて実施例1と同様の操作をおこなって比較サンプル4−Cを得た。何も操作していないポリ(4−メチルペンテン)膜を未処理サンプル4とした。これらは実施例1と同様に物性測定をおこなった。結果を表1に示す。
【0053】
<実施例5>
高分子材料としてポリスルホン多孔質膜(ポリスルホンミクロフィルター(富士写真フイルム(株)、約5cm×5cm×100μm、孔径0.45μm))を用い、フッ素およびヘリウムガス供給口と排気口を備えたポリテトラフルオロエチレン製500ml容器に入れ、ヘリウムガスを流速100ml/minで吹き込んで1時間パージした後、20%フッ素/80%窒素混合ガスを流速10ml/minで、ヘリウムガスを流速190ml/minでそれぞれ吹き込み(1%フッ素混合ガスに相当)10分間反応させた。引き続きヘリウムガスを流速100ml/minで吹き込んで1時間パージしてから容器を開封し、フッ素化されたポリスルホン多孔質材料を取り出した。
このポリスルホン多孔質膜を分割し、一片(約5cm×1cm)をラジカル反応性化合物としてアリルトリメチルシラン(A)1mlと共に50ml密閉容器に入れ、室温で一晩放置した。容器からポリスルホン多孔質膜を取り出し、それぞれヘキサン洗浄・乾燥させて、ラジカル反応性化合物と接触させたポリスルホン多孔質膜(サンプル5−A)を得た。同様に物性測定をおこなった。結果を表1に示す。
【0054】
<比較例5>
実施例5で分割したフッ素化されたポリスルホン多孔質膜の一片を、実施例5の場合とは異なる何も入っていない密閉容器中に入れ、実施例5と同様の操作をおこなってフッ素化サンプル5を得た。何も操作していないポリスルホン多孔質膜を未処理サンプル5とした。これらは実施例1と同様に物性測定をおこなった。結果を表1に示す。このとき、水の接触角は、水滴が多孔質膜にしみ込んでしまうために測定できなかった。
【0055】
<実施例6>
高分子材料としてポリプロピレン多孔質膜を用いたこと以外は実施例5と同様にして、ラジカル反応性化合物と反応させたポリプロピレン多孔質膜(サンプル6−A)を得た。これを実施例1と同様に物性測定をおこなった。結果を表1に示す。
【0056】
<比較例6>
実施例6で分割したフッ素化されたポリプロピレン多孔質膜の一片を、実施例6の場合とは異なる何も入っていない密閉容器中に入れ、実施例6と同様の操作をおこなってフッ素化サンプル6を得た。何も操作していないポリプロピレン多孔質膜を未処理サンプル6とした。これらは実施例1と同様に物性測定をおこなった。結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1において、未処理サンプル1とフッ素化サンプル1を比較すると、フッ素化によって接触角の低下が見られ、フッ素と共に酸素も表面に存在していることがわかる。ラジカル反応性化合物と反応させたサンプル1−Aは、フッ素の相対存在比をあまり変えずに、未処理サンプル1同等とはいかないまでも接触角は回復していることがわかる。この時、ラジカル反応性化合物(アリルトリメチルシラン)由来のケイ素元素の存在は確認されなかった。また、フッ素化処理せずにラジカル反応性化合物と反応させた比較サンプル1−Aは、未処理サンプルと同様の物性値でケイ素元素の存在も確認されなかった。以上の結果を合わせると、ラジカル反応性化合物が高分子材料表面に吸着しているためではなく、フッ素化によってラジカル反応性化合物が反応したために表面物性が変化したことがわかる。加えて、ラジカル反応性化合物中のケイ素元素の存在が確認されなかったことから、トリメチルシリル基は脱離基として脱離したために残存してない、すなわちラジカル反応はSH2あるいはSH2’型で起こったと考えられ、アリル基上の二重結合による重合反応が起こっていないことがわかる。
同様の物性の変化は実施例2〜6においても見られ、本発明の製造方法は高分子材料の種類や形状、ラジカル反応性化合物の種類に依らずに適用できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然または合成高分子材料にフッ素含有ガスを接触させて表面をフッ素化した後、それ自体ラジカル重合性を有さず、かつ前記表面に形成したラジカルに対する反応性を有する化合物を接触反応させることを特徴とする、表面改質された高分子材料の製造方法。
【請求項2】
前記ラジカルに対する反応性を有する化合物がアリル化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の表面改質された高分子材料の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2の方法によって製造された、表面改質された高分子材料。

【公開番号】特開2007−169389(P2007−169389A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−366852(P2005−366852)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】