説明

高分子発光素子

【課題】輝度半減寿命が長い高分子発光素子の提供。
【解決手段】陰極9が発光層側から順に第1陰極層6及び第2陰極層7を有し、該第1陰極層がフッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化ルビジウム及びフッ化セシウムからなる群から選ばれる1種以上の金属化合物を含み、該第2陰極層がアルカリ土類金属及びアルミニウムからなる群から選ばれる1種以上の金属を含み、陽極2と発光層5との間の機能層3,4が、下記繰り返し単位を有する高分子化合物を含む高分子発光素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子発光素子に関し、特に発光寿命が長い高分子発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子は、陰極と、陽極と、該陰極及び該陽極の間に配置される有機発光化合物の層とを、有して構成される素子である。この素子では、有機発光化合物が、陰極から供給される電子と陽極から供給される正孔を再結合させる。そして、そのことにより発生するエネルギーは、光として素子の外部へ取り出される。
【0003】
有機発光素子の例として、上記有機発光化合物が高分子化合物である素子(以下、「高分子発光素子」と呼ぶ。)が知られている。高分子発光素子は、湿式塗布により簡便に発光層を形成することが出来るので、大面積化や低コスト化を図るために有利である。
【0004】
有機発光素子の分野では、駆動電圧を下げ、また発光輝度を向上させることが課題とされており、その課題を解決するためには、電子の注入効率を向上させることが有効である。そのため、電子を発光層中に注入し易くすることを目的とする様々な陰極の構造が検討されている。例えば、特許文献1には、有機発光素子に用いる陰極を、金属化合物層及び金属層を有する2層構造にすることが記載されている。金属化合物としてはフッ化リチウムが用いられ、金属としてはアルミニウムが用いられている。
【0005】
また、特許文献2には、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の金属化合物と還元剤とが還元反応して形成された還元反応部と、該還元反応部上に設けられた透明導電膜とを、有する陰極が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−74586号公報
【特許文献2】特開2004−311403
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、これら従来の陰極の構造を高分子発光素子に用いた場合に輝度半減寿命が十分でないという課題があった。
【0008】
本発明の目的は、輝度半減寿命が長い高分子発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明は、陰極と、陽極と、該陰極と該陽極との間に、高分子化合物を含む機能層及び有機高分子発光化合物を含む発光層を有する高分子発光素子であって、
該陰極が該発光層側から順に第1陰極層及び第2陰極層を有し、該第1陰極層がフッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化ルビジウム及びフッ化セシウムからなる群から選ばれる1種以上の金属化合物を含み、第2陰極層がアルカリ土類金属及びアルミニウムからなる群から選ばれる1種以上の金属を含み、
該機能層に含まれる高分子化合物が、式(1)で示される繰り返し単位を有する高分子化合物である高分子発光素子を提供する。
【0010】
【化1】

(1)
【0011】
(式中、Ar1、Ar2、Ar3及びAr4は、互いに同一又は相異なり、置換基を有していてもよいアリーレン基又は置換基を有していてもよい2価の複素環基を表し、Ar5、Ar6及びAr7は、互いに同一又は相異なり、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよい1価の複素環基を表し、n及びmは、互いに同一又は相異なり、0又は1を表す。nが0の場合、Ar1に含まれる炭素原子とAr3に含まれる炭素原子とが、直接結合していても、又は、酸素原子若しくは硫黄原子を介して結合していてもよい。)
【0012】
ある一形態においては、前記機能層に含まれる前記高分子化合物が、さらに、式
【0013】
【化2】

(2)
【0014】
(式中、Ar10及びAr11は、互いに同一又は相異なり、アルキル基、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよい1価の複素環基を表す。)
で示される構造の繰り返し単位を有する有機高分子化合物である。
【0015】
ある一形態においては、上記アルカリ土類金属がマグネシウム又はカルシウムである。
【0016】
ある一形態においては、上記陰極が該発光層側から順に第1陰極層、第2陰極層及び第3陰極層を有し、該第2陰極層がマグネシウム及びカルシウムからなる群から選ばれる1種以上のアルカリ土類金属を含み、該第3陰極層が導電性物質から成る。
【0017】
ある一形態においては、上記第1陰極層の膜厚が、0.5nm以上6nm未満である。
【0018】
ある一形態においては、上記機能層が陽極と発光層との間に設けられた正孔輸送層であり、前記高分子化合物が正孔輸送化合物である。
【0019】
ある一形態においては、上記m及びnが0を表し、Ar、Ar及びArが、互いに同一又は相異なり、置換基を有していてもよいフェニル基を表す。
【0020】
ある一形態においては、上記Ar10及びAr11が、互いに同一又は相異なり、炭素数5〜8のアルキル基を表す。
【0021】
また、本発明は、上記いずれかに記載の高分子発光素子を画素単位として有する高分子発光ディスプレイ装置を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の高分子発光素子は、発光を開始する駆動電圧が低く、且つ、輝度半減寿命が長いため、工業的に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態である有機EL素子の構造を示す模式断面図である。
【図2】本発明の他の実施形態である有機EL素子の構造を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
1.素子の構造
本発明の高分子発光素子は、陰極と、陽極と、該陰極と該陽極との間に有機高分子発光化合物を含む発光層を有する。そして、該陰極と該陽極との間には高分子化合物を含む少なくとも一つの機能層を更に有する。
【0025】
機能層としては、正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層、インターレイヤー等があげられる。例えば、1000cd/mの輝度で発光する際の駆動電圧を低くする観点、及び輝度半減寿命を長くする観点からは、高分子発光素子が、陽極と発光層との間に機能層を有することが好ましく、その機能層は正孔輸送層であることがより好ましい。その場合は、正孔輸送層に含まれる正孔輸送化合物は式(1)で示される繰り返し単位を有する有機高分子化合物であることが好ましい。
【0026】
本発明の高分子発光素子は、上記の通り、陰極および陽極を有し、それらの間に少なくとも機能層及び発光層を有するが、これらに加えて、さらに任意の構成要素を備える事が出来る。
【0027】
例えば、機能層が正孔輸送層で有る場合、陽極と正孔輸送層との間には正孔注入層を有する事ができ、さらに、発光層と正孔注入層(正孔注入層が存在する場合)又は陽極(正孔注入層が存在しない場合)との間にインターレイヤーを有する事ができる。
【0028】
一方、陰極と発光層との間には電子注入層を有する事ができ、さらに、発光層と電子注入層(電子注入層が存在する場合)又は陰極(電子注入層が存在しない場合)との間に電子輸送層、正孔ブロック層のうちの1層以上を有する事ができる。
【0029】
ここで、陽極は、正孔注入層、正孔輸送層、インターレイヤー、発光層等に正孔を供給するものであり、陰極は、電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層、発光層等に電子を供給するものである。
【0030】
発光層とは、電界を印加した際に、陽極側に隣接する層より正孔を注入する事ができ、陰極側に隣接する層より電子を注入する事ができる機能、注入した電荷(電子と正孔)を電界の力で移動させる機能、電子と正孔の結合の場を提供し、これを発光につなげる機能を有する層をいう。
【0031】
電子注入層及び電子輸送層とは、陰極から電子を注入する機能、電子を輸送する機能、陽極から注入された正孔を障壁する機能のいずれかを有する層をいう。また、正孔ブロック層とは、主に陽極から注入された正孔を障壁する機能を有し、さらに必要に応じて陰極から電子を注入する機能、電子を輸送する機能のいずれかを有する層をいう。
【0032】
正孔注入層及び正孔輸送層とは、陽極から正孔を注入する機能、正孔を輸送する機能、発光層へ正孔を供給する機能、陰極から注入された電子を堰き止める機能のいずれかを有する層をいう。また、インターレイヤーとは、陽極から正孔を注入する機能、正孔を輸送する機能、発光層へ正孔を供給する機能、陰極から注入された電子を障壁する機能の少なくとも1つ以上を有し、通常、発光層に隣接して配置され、発光層と陽極、又は発光層と正孔注入層若しくは正孔輸送層とを隔離する役割をもつ。
【0033】
なお、電子輸送層と正孔輸送層を総称して電荷輸送層と呼ぶ。また、電子注入層と正孔注入層を総称して電荷注入層と呼ぶ。
【0034】
本発明の高分子発光素子は、通常任意の構成要素として基板をさらに有し、かかる基板の面上に前記陰極、陽極、機能層及び発光層、並びに必要に応じてその他の任意の構成要素を設けた構成とすることができる。
【0035】
本発明の高分子発光素子の一様態としては、通常、基板上に陽極が設けられ、その上層として機能層及び発光層が積層され、さらにその上層として陰極が積層される。変形例としては、陰極を基板上に設け、その上層として機能層及び発光層を積層し、更に陽極を機能層及び発光層の上層として設けてもよい。
【0036】
また、他の変形例としては、基板側から発光する所謂ボトムエミッションタイプ、基板と反対側から発光する所謂トップエミッションタイプ、または両面発光型のいずれのタイプの高分子発光素子であってもよい。
さらに他の変形例としては、任意の保護膜、バッファー膜、反射層などの他の機能を有する層を設けてもよい。高分子発光素子はさらに封止膜、或いは、封止基板が覆い被せられ、高分子発光素子が外気と遮断された高分子発光装置が形成される。
【0037】
例えば、本発明の高分子発光素子は下記の層構成(a)を有する事ができ、または、層構成(a)から、正孔注入層、正孔輸送層、インターレイヤー、正孔ブロック層、電子輸送層、電子注入層の1層以上を省略した層構成を有する事もできる。また、本発明の高分子発光素子において、機能層は、正孔注入層、正孔輸送層、インターレイヤー、正孔ブロック層、電子輸送層又は電子注入層のうちのいずれか1層として機能する。
【0038】
(a)陽極−正孔注入層−(正孔輸送層及び/又はインターレイヤー)−発光層−(正孔ブロック層及び/又は電子輸送層)−電子注入層−陰極
【0039】
ここで、ここで符号「−」については、例えば「A層−B層」は、A層とB層とが隣接して積層されていることを示す。
【0040】
「(正孔輸送層及び/又はインターレイヤー)」は、正孔輸送層のみからなる層、インターレイヤーのみからなる層、正孔輸送層−インターレイヤーの層構成、インターレイヤー−正孔輸送層の層構成、又はその他の、正孔輸送層及びインターレイヤーをそれぞれ1層以上含む任意の層構成を示す。
【0041】
「(正孔ブロック層及び/又は電子輸送層)」は、正孔ブロック層のみからなる層、電子輸送層のみからなる層、正孔ブロック層−電子輸送層の層構成、電子輸送層−正孔ブロック層の層構成、又はその他の、正孔ブロック層及び電子輸送層をそれぞれ1層以上含む任意の層構成を示す。以下の層構成の説明においても同様である。
【0042】
さらに、本発明の高分子発光素子は、1つの積層構造中に2層の発光層を有することができる。この場合、高分子発光素子は下記の層構成(b)を有する事ができ、または、層構成(b)から、正孔注入層、正孔輸送層、インターレイヤー、正孔ブロック層、電子輸送層、電子注入層、電極の1層以上を省略した層構成を有する事もできる。
【0043】
(b)陽極−正孔注入層−(正孔輸送層及び/又はインターレイヤー)−発光層−(正孔ブロック層及び/又は電子輸送層)−電子注入層−電極−正孔注入層−(正孔輸送層及び/又はインターレイヤー)−発光層−(正孔ブロック層及び/又は電子輸送層)−電子注入層−陰極
【0044】
さらに、本発明の高分子発光素子は、1つの積層構造中に3層以上の発光層を有することができる。この場合、高分子発光素子は下記の層構成(c)を有する事ができ、または、層構成(c)から、正孔注入層、正孔輸送層、インターレイヤー、正孔ブロック層、電子輸送層、電子注入層、電極の1層以上を省略した層構成を有する事もできる。
【0045】
(c)陽極−正孔注入層−(正孔輸送層及び/又はインターレイヤー)−発光層−(正孔ブロック層及び/又は電子輸送層)−電子注入層−繰返し単位A−繰返し単位A・・・−陰極
【0046】
ここで、「繰返し単位A」は、電極−正孔注入層−(正孔輸送層及び/又はインターレイヤー)−発光層−(正孔ブロック層及び/又は電子輸送層)−電子注入層の層構成の単位を示す。
【0047】
本発明の高分子発光素子の層構成の好ましい具体例としては、下記のものが挙げられる。
(e)陽極−正孔輸送層−発光層−陰極
(f)陽極−発光層−電子輸送層−陰極
(g)陽極−正孔輸送層−発光層−電子輸送層−陰極
【0048】
またこれら構造の各一について、発光層と陽極との間に、発光層に隣接してインターレイヤーを設ける構造も例示される。すなわち、以下の(d’)〜(g’)の構造が例示される。
(d’)陽極−インターレイヤー−発光層−陰極
(e’)陽極−正孔輸送層−インターレイヤー−発光層−陰極
(f’)陽極−インターレイヤー−発光層−電子輸送層−陰極
(g’)陽極−正孔輸送層−インターレイヤー−発光層−電子輸送層−陰極
【0049】
本発明において、電荷注入層(電子注入層、正孔注入層)を設けた高分子発光素子としては、陰極に隣接して電荷注入層を設けた高分子発光素子、陽極に隣接して電荷注入層を設けた高分子発光素子が挙げられる。具体的には、例えば、以下の(h)〜(s)の構造が挙げられる。
(h)陽極−電荷注入層−発光層−陰極
(i)陽極−発光層−電荷注入層−陰極
(j)陽極−電荷注入層−発光層−電荷注入層−陰極
(k)陽極−電荷注入層−正孔輸送層−発光層−陰極
(l)陽極−正孔輸送層−発光層−電荷注入層−陰極
(m)陽極−電荷注入層−正孔輸送層−発光層−電荷注入層−陰極
(n)陽極−電荷注入層−発光層−電子輸送層−陰極
(o)陽極−発光層−電子輸送層−電荷注入層−陰極
(p)陽極−電荷注入層−発光層−電子輸送層−電荷注入層−陰極
(q)陽極−電荷注入層−正孔輸送層−発光層−電子輸送層−陰極
(r)陽極−正孔輸送層−発光層−電子輸送層−電荷注入層−陰極
(s)陽極−電荷注入層−正孔輸送層−発光層−電子輸送層−電荷注入層−陰極
【0050】
また(d’)〜(g’)に類似して、これら構造の各一について、発光層と陽極との間に、発光層に隣接してインターレイヤーを設ける構造も例示される。なおこの場合、インターレイヤーが正孔注入層及び/又は正孔輸送層を兼ねてもよい。
【0051】
本発明の高分子発光素子は、さらに電極との密着性向上や電極からの電荷(即ち正孔又は電子)の注入性能の改善のために、電極に隣接して絶縁層を設けてもよく、また、界面の密着性向上や有機層間の材料の混合の防止等のために電荷輸送層(即ち正孔輸送層又は電子輸送層)又は発光層の界面に薄いバッファー層を挿入してもよい。
【0052】
積層する層の順番や数、及び各層の厚さについては、発光効率や素子寿命を勘案して適宜決定する事ができる。
【0053】
2.素子の各層を構成する材料
次に、本発明の高分子発光素子を構成する各層の材料及び形成方法について、より具体的に説明する。
【0054】
<陰極>
本発明において陰極は、前記発光層の上に直接、あるいは、任意の層を介して設けられる。前記陰極は2層以上で構成され、ここでは、発光層に近い側から順に、第1陰極層、第2陰極層、・・・・・とも呼ぶ。第1陰極層は、金属化合物を含む金属化合物層であり、第2陰極層は金属を含む金属層である。
【0055】
本発明において、前記第1陰極層は、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化ルビジウム及びフッ化セシウムからなる群から選ばれる1種以上の材料を含み、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化ルビジウム及びフッ化セシウムからなる群から選ばれる1種以上の材料からなることが好ましく、フッ化ナトリウム又はフッ化カリウムからなることがより好ましい。
【0056】
本発明において、前記第2陰極層に含まれる材料は、前記第1陰極層を構成するアルカリ金属フッ化物に対して還元作用を有する事が好ましい。材料間の還元能の有無・程度は、例えば、化合物間の結合解離エネルギー(ΔrH°)から見積もることができる。即ち、第2層に含まれる材料による、第1層を構成する材料に対する還元反応において、ΔrH°が正であるような組み合わせである場合、第2層に含まれる材料が第1層の材料に対して還元能を有するといえる。ΔrH°が負である場合でも、その絶対値が小さい場合には、真空蒸着法などの陰極成膜プロセス中に熱活性となった第2層に含まれる材料が第1層の材料に対して還元能を有し得る。結合解離エネルギーは、例えば電気化学便覧第5版(丸善、2000)、熱力学データベースMALT(科学技術社、1992)などで参照できる。
【0057】
前記第1陰極層を構成するアルカリ金属フッ化物の化学結合の強さ、および/または、第1陰極層の層厚、が大きい場合は、第2陰極層に含まれる材料として還元能の強い材料を用いる、および/または、前記第2陰極層膜中での還元能を有する材料の濃度を高くする、ことが好ましい。
【0058】
前記第2陰極層は、アルカリ土類金属及びアルミニウムからなる群から選ばれる1種以上の材料を含み、アルカリ土類金属及びアルミニウムからなる群から選ばれる1種以上の材料からなることが好ましい。なかでもマグネシウム、カルシウム、アルミニウムが好ましく、マグネシウム、アルミニウムがより好ましい。前記アルカリ土類金属は、マグネシウム又はカルシウムであることは好ましい。
【0059】
第2陰極層がマグネシウム又はカルシウムのように酸化されやすい物質を含む場合、或いは、第2陰極層の厚みが薄く電極として十分な導電性を確保できない場合は、前記第2陰極層の上に、さらに任意に、第3陰極層として、導電性物質を積層させることができる。そうすることで、第2陰極層を酸化から保護する効果が得られ、或いは、電極として十分な導電性を確保することが可能となる。
【0060】
導電性物質の具体例としては、金、銀、銅、アルミニウム、クロム、スズ、鉛、ニッケル、チタン、等の低抵抗金属及びこれらを含む合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化モリブデン等の導電性金属酸化物、さらにこれらの導電性金属酸化物と金属との混合物、などが挙げられる。
【0061】
陰極層の材料の好ましい組合せとしては、第1陰極層がフッ化ナトリウムであり、第2陰極層がアルミニウムである組合せ、第1陰極層がフッ化カリウムであり、第2陰極層がアルミニウムである組合せ、第1陰極層がフッ化ルビジウムであり、第2陰極層がアルミニウムである組合せ、第1陰極層がフッ化セシウムであり、第2陰極層がアルミニウムである組合せ、第1陰極層がフッ化ナトリウムであり、第2陰極層がマグネシウムと銀の合金である組合せ、第1陰極層がフッ化カリウムであり、第2陰極層がマグネシウムと銀の合金である組合せ、第1陰極層がフッ化ルビジウムであり、第2陰極層がマグネシウムと銀の合金である組合せ、第1陰極層がフッ化セシウムであり、第2陰極層がマグネシウムと銀の合金である組合せ、第1陰極層がフッ化ナトリウムであり、第2陰極層がカルシウムであり、第3陰極層がアルミニウムである組合せ、第1陰極層がフッ化ナトリウムであり、第2陰極層がマグネシウムであり、第3陰極層がアルミニウムである組合せ、第1陰極層がフッ化ナトリウムであり、第2陰極層がアルミニウムであり、第3陰極層が銀である組合せ、第1陰極層がフッ化カリウムであり、第2陰極層がアルミニウムであり、第3陰極層が銀である組合せ、などが挙げられる。
【0062】
前記第1陰極層の層厚(D1)は、0.5nm≦D1<6nm、を満たすことが好ましい。この範囲を下回ると、アルカリ金属フッ化物の量が不十分な場合があるために第1陰極層が電子注入能を発揮する事ができない場合があり、この範囲を上回ると、第2陰極層に含まれる材料による第1陰極層材料の還元が不十分な場合がある為に第1陰極層が電子注入能を発揮する事ができない場合がある。より好ましくは、1.0nm<D1<5.0nmであり、例えば、第1陰極層がフッ化ナトリウムであり、第2陰極層がアルミニウムである組合せ、の場合には、2.0nm≦D1≦4.0nmとすることで良好な電子注入性と輝度半減寿命が得られる。
【0063】
前記第1陰極層の膜厚(D1)と前記第2陰極層の膜厚(D2)は、第2陰極層によって第1陰極層を十分に被覆する観点から、D1≦D2、を満たすことが好ましい。D2がD1より小さい場合は、第2陰極層に含まれる材料による第1陰極層材料の還元が不十分な為に第1陰極層が電子注入能を発揮する事ができない場合がある。
【0064】
陰極の作製方法は特に限定されず公知の方法が利用でき、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等が例示される。金属、金属の酸化物、フッ化物、炭酸化物を用いる場合は真空蒸着法が多用され、高沸点の金属酸化物、金属複合酸化物や酸化インジウムスズ(ITO)等の導電性金属酸化物を用いる場合は、スパッタリング法、イオンプレーティング法が多用される。異種材料との混合組成物を成膜する場合には、共蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などが用いられる。特に、低分子有機物と金属または金属の酸化物、フッ化物、炭酸化物との混合組成物を成膜する場合には共蒸着法が適する。
【0065】
本発明の高分子発光素子において陰極を光透過性電極として用いる場合には、第3層以降の陰極層の可視光透過率が40%以上、好ましくは50%以上であることが好ましい。このような可視光透過率は、陰極層材料として酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化モリブデン等の透明導電性金属酸化物を用いるか、或いは、金、銀、銅、アルミニウム、クロム、スズ、鉛、等の低抵抗金属及びこれらを含む合金を用いたカバー陰極層の膜厚を30nm以下にすることで達成される。
【0066】
また、発光層側から陰極を透過して光出射される場合の透過率を向上させる事を目的として、陰極の最外層上に反射防止層を設ける事もできる。反射防止層に用いられる材料としては屈折率が1.8〜3.0程度の物が好ましく、例えば、硫化亜鉛、セレン化亜鉛、酸化タングステン(WO)などが挙げられる。反射防止層の膜厚は材料の組み合せによって異なるが、通常10nm〜150nmの範囲である。
【0067】
<基板>
本発明の高分子発光素子を構成する基板は、電極を形成し、有機物の層を形成する際に変化しないものであればよく、例えばガラス、プラスチック、高分子フィルム、金属フィルム、シリコン基板、これらを積層したものなどが用いられる。前記基板としては、市販のものが入手可能であり、又は公知の方法により製造することができる。
【0068】
本発明の高分子発光素子がディスプレイ装置の画素を構成する際には、当該基板上に画素駆動用の回路が設けられていてもよいし、当該駆動回路上に平坦化膜が設けられていてもよい。平坦化膜が設けられる場合には、該平坦化膜の中心線平均粗さ(Ra)がRa<10nmを満たす事が好ましい。
【0069】
Raは、日本工業規格JISのJIS−B0601−2001に基いて、JIS−B0651からJIS−B0656およびJIS−B0671−1等を参考に計測できる。
【0070】
<陽極>
本発明の高分子発光素子を構成する陽極においては、正孔注入層、正孔輸送層、インターレイヤー、発光層等で用いられる有機半導体材料への正孔供給性の観点から、かかる陽極の発光層側表面の仕事関数が4.0eV以上であることが好ましい。
陽極の材料には、金属、合金、金属酸化物、金属硫化物などの電気伝導性化合物、又はこれらの混合物等を用いる事が出来る。具体的には、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化モリブデン等の導電性金属酸化物、又は、金、銀、クロム、ニッケル等の金属、さらにこれらの導電性金属酸化物と金属との混合物等が挙げられる。
【0071】
前記陽極は、これら材料の1種又は2種以上からなる単層構造であってもよいし、同一組成又は異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。多層構造である場合は、仕事関数が4.0eV以上である材料を発光層側の最表面層に用いることがより好ましい。
【0072】
陽極の作製方法としては、特に限定されず公知の方法が利用でき、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法等が挙げられる。
【0073】
陽極の膜厚は、通常10nm〜10μmであり、好ましくは50nm〜500nmである。また、短絡等の電気的接続の不良を防止する観点から、陽極の発光層側表面の中心線平均粗さ(Ra)はRa<10nmを満たす事が望ましく、より好ましくはRa<5nmである。
【0074】
さらに、該陽極は上記方法にて作製された後に、UVオゾン、シランカップリング剤、2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタンなどの電子受容性化合物を含む溶液、などで表面処理を施される場合がある。表面処理によって該陽極に接する有機層との電気的接続が改善される。
【0075】
本発明の高分子発光素子において陽極を光反射電極として用いる場合には、かかる陽極が、高光反射性金属からなる光反射層と4.0eV以上の仕事関数を有する材料を含む高仕事関数材料層を組み合わせた多層構造が好ましい。
このような陽極の具体的な構成例としては、
(i) Ag−MoO
(ii) (Ag-Pd-Cu合金)−(ITO及び/又はIZO)
(iii)(Al-Nd合金)−(ITO及び/又はIZO)
(iv)(Mo-Cr合金)−(ITO及び/又はIZO)
(v) (Ag-Pd-Cu合金)−(ITO及び/又はIZO)−MoO
などが例示される。十分な光反射率を得る為に、Al、Ag、Al合金、Ag合金、Cr合金などの高光反射性金属層の膜厚は50nm以上である事が好ましく、より好ましくは80nm以上である。ITO、IZO、MoOなどの高仕事関数材料層の膜厚は通常、5nm〜500nmの範囲である。
【0076】
<正孔注入層>
本発明の高分子発光素子において、正孔注入層を形成する材料としては、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、スターバースト型アミン、フタロシアニン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、芳香族第三級アミン化合物、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリディン系化合物、ポルフィリン系化合物、ポリシラン系化合物、ポリ(N−ビニルカルバゾール) 誘導体、有機シラン誘導体、およびこれらを含む重合体が挙げられる。また、酸化バナジウム、酸化タンタル、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム等の導電性金属酸化物、ポリアニリン、アニリン系共重合体、チオフェンオリゴマー、ポリチオフェン等の導電性高分子およびオリゴマー、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)・ポリスチレンスルフォン酸、ポリピロール等の有機導電性材料およびこれらを含む重合体、上記式(1)で示される繰り返し単位を有する高分子化合物、アモルファスカーボン等を挙げることができる。さらに、テトラシアノキノジメタン誘導体(例えば2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン)、1,4-ナフトキノン誘導体、ジフェノキノン誘導体、ポリニトロ化合物、などのアクセプター性有機化合物、オクタデシルトリメトキシシランなどのシランカップリング剤も好適に使用できる。
【0077】
前記材料は単成分であってもあるいは複数の成分からなる組成物であってもよい。また、前記正孔注入層は、前記材料の1種又は2種以上からなる単層構造であってもよいし、同一組成又は異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。また、正孔輸送層あるいはインターレイヤーで用いることができる材料として列記する材料も正孔注入層で用いることができる。
【0078】
正孔注入層の作製方法としては、特に限定されず公知の方法が利用できる。無機化合物材料の場合は、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等が挙げられ、低分子有機材料の場合は、真空蒸着法、レーザー転写や熱転写などの転写法、溶液からの成膜による方法(高分子バインダーとの混合溶液を用いてもよい)等が挙げられる。また、高分子有機材料では、溶液からの成膜による方法が例示される。
【0079】
正孔注入材料が、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、等の低分子化合物の場合には、真空蒸着法を用いて正孔注入層を形成する事ができる。
【0080】
また、高分子化合物バインダーとこれら低分子正孔注入材料を分散させた混合溶液を用いて正孔注入層を成膜する事もできる。混合する高分子化合物バインダーとしては、電荷輸送を極度に阻害しないものが好ましく、また可視光に対する吸収が強くないものが好適に用いられる。具体的には、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、ポリ(2,5−チエニレンビニレン)若しくはその誘導体、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリシロキサン、等が例示される。
【0081】
溶液からの成膜に用いる溶媒としては、正孔注入材料を溶解させるものであれば特に制限はない。該溶媒として、水、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン等の塩素系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテート等のエステル系溶媒が例示される。
【0082】
溶液からの成膜方法としては、溶液からのスピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の印刷法等の塗布法を用いることができる。パターン形成が容易であるという点で、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の印刷法やノズルコート法が好ましい。
【0083】
正孔注入層に続いて、正孔輸送層、インターレイヤー、発光層などの有機化合物層を形成する場合、特に、正孔注入層とその上に積層される層の両方を塗布法によって形成する場合には、先に塗布した層が後から塗布する層の溶液に含まれる溶媒に溶解して積層構造を作成できなくなる事がある。この場合には、下層を該溶媒に対して不溶にする方法を用いることができる。下層を溶媒に対して不溶にする方法としては、高分子化合物自体に架橋基を付けて架橋させる方法、芳香族ビスアジドに代表される芳香環を有する架橋基を持った低分子化合物を架橋剤として混合して架橋させる方法、アクリレート基に代表される芳香環を有しない架橋基を持った低分子化合物を架橋剤として混合して架橋させる方法、下層を紫外光に感光させて上層作成に用いる有機溶媒に対して不溶化する方法、下層を加熱して上層作成に用いる有機溶媒に対して不溶化する方法、などが挙げられる。下層を加熱する場合の加熱の温度は通常100℃〜300℃程度であり、時間は通常1分〜1時間程度である。
また、架橋以外の方法で下層を溶解させずに積層するその他の方法として、隣り合った層に異なる極性の溶液を用いる方法があり、たとえば、下層に水溶性の高分子化合物を用い、上層に油溶性の高分子化合物を用いて、上層用材料を塗布しても下層が溶解しないようにする方法などがある。
【0084】
正孔注入層の膜厚としては、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように選択すればよいが、少なくともピンホールが発生しないような厚さが必要であり、あまり厚いと、素子の駆動電圧が高くなり好ましくない。従って、該正孔注入層の膜厚としては、例えば1nmから1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは10nm〜100nmである。
【0085】
<正孔輸送層又はインターレイヤー>
本発明の高分子発光素子において、正孔輸送層又はインターレイヤーを構成する材料としては、例えば、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、芳香族第三級アミン化合物、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリディン系化合物、ポルフィリン系化合物、ポリシラン系化合物、ポリ(N−ビニルカルバゾール)誘導体、有機シラン誘導体、およびこれらの構造を含む高分子化合物が挙げられる。また、アニリン系共重合体、チオフェンオリゴマー、ポリチオフェン等の導電性高分子およびオリゴマー、ポリピロール等の有機導電性材料も挙げることができる。
【0086】
前記材料は単成分であってもあるいは複数の成分からなる組成物であってもよい。また、前記正孔輸送層又はインターレイヤーは、前記材料の1種又は2種以上からなる単層構造であってもよいし、同一組成又は異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。また、正孔注入層で用いることができる材料として列記する材料も正孔輸送層として用いることができる。
【0087】
具体的には、特開昭63-70257、特開昭63-175860、特開平2-135359、特開平2-135361、特開平2-209988、特開平3-37992、特開平3-152184、特開平5-263073、特開平6-1972、WO2005/52027、特開2006-295203、等に開示される化合物が正孔輸送層又はインターレイヤーの材料として使用できる。中でも、芳香族第三級アミン化合物の構造を含む繰り返し単位を含む高分子化合物が、好適に用いられる。
【0088】
本発明の構造を有する陰極と、芳香族第三級アミン化合物の構造を含む繰り返し単位を含む高分子化合物を含む正孔輸送層とを組み合わせることにより、高分子発光素子にの輝度半減寿命が特に延長されるからである。
【0089】
芳香族第三級アミン化合物の構造を含む繰り返し単位としては、上記式(1)で示される繰り返し単位があげられる。
【0090】
式(1)中、芳香環上の水素原子はハロゲン原子、アルキル基、アルキルオキシ基、アルキルチオ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールアルキル基、アリールアルキルオキシ基、アリールアルキルチオ基、アルケニル基、アルキニル基、アリールアルケニル基、アリールアルキニル基、アシル基、アシルオキシ基、アミド基、酸イミド基、イミン残基、置換アミノ基、置換シリル基、置換シリルオキシ基、置換シリルチオ基、置換シリルアミノ基、シアノ基、ニトロ基、1価の複素環基、ヘテロアリールオキシ基、ヘテロアリールチオ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アリールアルキルオキシカルボニル基、ヘテロアリールオキシカルボニル基及びカルボキシル基などから選ばれる置換基で置換されていてもよい。
【0091】
また、置換基は、ビニル基、アセチレン基、ブテニル基、アクリル基、アクリレート基、アクリルアミド基、メタクリル基、メタクリレート基、メタクリルアミド基、ビニルエーテル基、ビニルアミノ基、シラノール基、小員環(たとえばシクロプロピル基、シクロブチル基、エポキシ基、オキセタン基、ジケテン基、エピスルフィド基等)を有する基、ラクトン基、ラクタム基、又はシロキサン誘導体の構造を含有する基等の架橋基であってもよい。また、上記の基の他に、エステル結合やアミド結合を形成可能な基の組み合わせ(例えばエステル基とアミノ基、エステル基とヒドロキシル基など)なども架橋基として利用できる。
【0092】
さらにAr中の炭素原子とAr中の炭素原子とが直接結合し、または、−O−、−S−等の2価の基を介して結合していてもよい。
【0093】
Ar、Ar、Ar及びArとしてのアリーレン基としては、フェニレン基等があげられ、Ar、Ar、Ar及びArとしての2価の複素環基としては、ピリジンジイル基、等があげられ、これらの基は置換基を有していてもよい。
【0094】
Ar5、Ar6及びAr7としてのアリール基としては、フェニル基、ナフチル基等があげられ、Ar5、Ar6及びAr7としての1価の複素環基としては、ピリジル基等があげられ、これらの基は置換基を有していてもよい。
【0095】
アリーレン基、アリール基、2価の複素環基、1価の複素環基が有していてもよい置換基としては、高分子化合物の溶解性の観点からは、アルキル基、アルキルオキシ基、アリール基が好ましく、アルキル基がより好ましい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、s−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等が挙げられる。アルキルオキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、i−プロピルオキシ基、ブチルオキシ基、i−ブチルオキシ基、t−ブチルオキシ基、s−ブチルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等が挙げられる。
【0096】
Ar〜Arは、高分子発光素子の輝度半減寿命の観点からは、アリーレン基であることが好ましく、フェニレン基であることがより好ましい。Ar〜Arは、高分子発光素子の輝度半減寿命の観点からは、アリール基であることが好ましく、フェニル基であることがより好ましい。
【0097】
モノマーの合成の行いやすさの観点からは、m及びnが0であることが好ましい。
【0098】
式(1)で表される繰り返し単位の具体例としては、下記繰り返し単位等が挙げられる。
【0099】
【化3】

【0100】
式(1)で示される繰り返し単位を含む高分子化合物は、さらに他の繰り返し単位を有していてもよい。他の繰り返し単位としては、フェニレン基、フルオレンジイル基等のアリーレン基等があげられ、高分子発光素子の輝度半減寿命の観点からは、上記式(2)で示される繰り返し単位が好ましい。
【0101】
なお、式(1)で示される繰り返し単位を有する高分子化合物の中では、架橋基を含んでいる高分子化合物がさらに好ましい。
【0102】
式(2)中、Ar10及びAr11で表されるアリール基および1価の複素環基が有していてもよい置換基としては、高分子化合物の溶解性の観点からは、アルキル基、アルキルオキシ基、アリール基が好ましく、アルキル基がより好ましい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、s−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等が挙げられる。アルキルオキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、i−プロピルオキシ基、ブチルオキシ基、i−ブチルオキシ基、t−ブチルオキシ基、s−ブチルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等が挙げられる。Ar10及びAr11で表されるアリール基としては、フェニル基、ナフチル基等があげられ、Ar10及びAr11で表される1価の複素環基としては、ピリジル基等があげられ、これらの基は置換基を有していてもよい。
【0103】
式(2)で表される繰り返し単位の具体例としては、下記繰り返し単位等が挙げられる。
【0104】
【化4】

【0105】
正孔輸送層又はインターレイヤーの成膜方法に制限はなく、正孔注入層の成膜と同様の方法が挙げられる。溶液からの成膜方法としては、前記したスピンコート法、キャスティング法、バーコート法、スリットコート法、スプレーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、インクジェットプリント法等の塗布法および印刷法が挙げられ、昇華性化合物材料を用いる場合には、真空蒸着法、転写法などが挙げられる。
【0106】
溶液からの成膜に用いる溶媒の例としては、正孔注入層の成膜方法で列記した溶媒が挙げられる。
【0107】
正孔輸送層又はインターレイヤーに続いて、発光層などの有機化合物層を塗布法にて形成する際に、下層が後から塗布する層の溶液に含まれる溶媒に溶解する場合は、正孔注入層の成膜方法での例示と同様の方法で下層を該溶媒に対して不溶にすることができる。
【0108】
正孔輸送層又はインターレイヤーの膜厚は、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように選択すればよいが、少なくともピンホールが発生しないような厚さが必要であり、あまり厚いと、素子の駆動電圧が高くなり好ましくない。従って、該正孔輸送層又はインターレイヤーの膜厚としては、例えば1nmから1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜100nmである。
【0109】
<発光層>
本発明の高分子発光素子において、発光層は有機高分子発光化合物を含む。有機高分子発光化合物としては、ポリフルオレン誘導体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフェニレン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリジアルキルフルオレン、ポリフルオレンベンゾチアジアゾール、ポリアルキルチオフェン等の共役系高分子化合物を好適に用いることができる。
【0110】
また、これら有機高分子発光化合物を含む発光層は、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素などの高分子系色素化合物や、ルブレン、ペリレン、9,10−ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクリドン等の低分子色素化合物を含有してもよい。また、ナフタレン誘導体、アントラセン若しくはその誘導体、ペリレン若しくはその誘導体、ポリメチン系、キサンテン系、クマリン系、シアニン系などの色素類、8−ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の金属錯体、芳香族アミン、テトラフェニルシクロペンタジエン若しくはその誘導体、又はテトラフェニルブタジエン若しくはその誘導体、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウムなどの燐光を発光する金属錯体を含有してもよい。
【0111】
また、本発明の高分子発光素子が有する発光層は、非共役系高分子化合物[例えば、ポリビニルカルバゾール、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリブタジエン、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、炭化水素樹脂、ケトン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリアミド、エチルセルロース、ABS樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂や、ポリアリールアルカン誘導体、ポリシラン系化合物、ポリ(N−ビニルカルバゾール)誘導体、酢酸ビニル、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、スチリルアントラセン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、芳香族第三級アミン化合物、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリディン系化合物、ポルフィリン系化合物、又は有機シラン誘導体を含む重合体]と前記有機色素や金属錯体などの発光性有機化合物との混合組成物から構成されてもよい。
【0112】
このような高分子化合物の具体例としては、WO97/09394、WO98/27136、WO99/54385、WO00/22027、WO01/19834、GB2340304A、GB2348316、US573636、US5741921、US5777070、EP0707020、特開平9-111233、特開平10-324870、特開平2000-80167、特開2001-123156、特開2004-168999、特開2007-162009、有機EL素子の開発と構成材料(シーエムシー出版、2006)等に開示されているポリフルオレン、その誘導体及び共重合体、ポリアリーレン、その誘導体及び共重合体、ポリアリーレンビニレン、その誘導体及び共重合体、芳香族アミン及びその誘導体の(共)重合体が例示される。
【0113】
また、低分子色素化合物の具体例としては、例えば、特開昭57−51781号、有機薄膜仕事関数データ集[第2版](シーエムシー出版、2006)、有機EL素子の開発と構成材料(シーエムシー出版、2006)、等に記載されている化合物が例示される。
前記材料は単成分であってもあるいは複数の成分からなる組成物であってもよい。また、前記発光層は、前記材料の1種又は2種以上からなる単層構造であってもよいし、同一組成又は異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。
【0114】
発光層の成膜方法に制限はなく、正孔注入層の成膜と同様の方法が挙げられる。溶液からの成膜方法としては、スピンコート法、キャスティング法、バーコート法、スリットコート法、スプレーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、インクジェットプリント法等の前記塗布法および印刷法が挙げられ、昇華性化合物材料を用いる場合には、真空蒸着法、転写法などが挙げられる。
【0115】
溶液からの成膜に用いる溶媒の例としては、正孔注入層の成膜方法で列記した溶媒が挙げられる。
【0116】
発光層に続いて、電子輸送層などの有機化合物層を塗布法にて形成する際に、下層が後から塗布する層の溶液に含まれる溶媒に溶解する場合は、正孔注入層の成膜方法での例示と同様の方法で下層を該溶媒に対して不溶にすることができる。
【0117】
発光層の膜厚としては、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように選択すればよいが、少なくともピンホールが発生しないような厚さが必要であり、あまり厚いと、素子の駆動電圧が高くなり好ましくない。従って、発光層の膜厚としては、例えば5nmから1μmであり、好ましくは10nm〜500nmであり、さらに好ましくは30nm〜200nmである。
【0118】
<電子輸送層又は正孔ブロック層>
本発明の高分子発光素子において、電子輸送層又は正孔ブロック層を構成する材料としては、公知のものが使用でき、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、フルオレノン誘導体、ベンゾキノン若しくはその誘導体、ナフトキノン若しくはその誘導体、アントラキノン若しくはその誘導体、テトラシアノアントラキノジメタン若しくはその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレン若しくはその誘導体、ジフェノキノン誘導体、アントラキノジメタン誘導体、アントロン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド誘導体、フルオレニリデンメタン誘導体、ジスチリルピラジン誘導体、ナフタレン、ペリレン等の芳香環テトラカルボン酸無水物、フタロシアニン誘導体、8−キノリノール誘導体の金属錯体やメタルフタロシアニン、ベンゾオキサゾールやベンゾチアゾールを配位子とする金属錯体に代表される各種金属錯体、有機シラン誘導体、式(1)で示される繰り返し単位を有する高分子化合物などが挙げられる。
【0119】
これらのうち、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、ベンゾキノン若しくはその誘導体、アントラキノン若しくはその誘導体、又は8−ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリン若しくはその誘導体、ポリキノキサリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体が好ましい。
【0120】
前記材料は単成分であってもあるいは複数の成分からなる組成物であってもよい。また、前記電子輸送層又は正孔ブロック層は、前記材料の1種又は2種以上からなる単層構造であってもよいし、同一組成又は異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。また、電子注入層で用いることができる材料として列記する材料も電子輸送層又は正孔ブロック層で用いることができる。
【0121】
電子輸送層又は正孔ブロック層の成膜方法に制限はなく、正孔注入層の成膜と同様の方法が挙げられる。溶液からの成膜方法としては、スピンコート法、キャスティング法、バーコート法、スリットコート法、スプレーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、インクジェットプリント法等の前記塗布法および印刷法が挙げられ、昇華性化合物材料を用いる場合には、真空蒸着法、転写法などが挙げられる。
【0122】
溶液からの成膜に用いる溶媒の例としては、正孔注入層の成膜方法で列記した溶媒が挙げられる。
【0123】
電子輸送層又は正孔ブロック層に続いて、電子注入層などの有機化合物層を塗布法にて形成する際に、下層が後から塗布する層の溶液に含まれる溶媒に溶解する場合は、正孔注入層の成膜方法での例示と同様の方法で下層を該溶媒に対して不溶にすることができる。
【0124】
電子輸送層又は正孔ブロック層の膜厚としては、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように選択すればよいが、少なくともピンホールが発しないような厚さが必要であり、あまり厚いと、素子の駆動電圧が高くなり好ましくない。従って、該電子輸送層又は正孔ブロック層の膜厚としては、例えば1nmから1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜100nmである。
【0125】
<電子注入層>
本発明の高分子発光素子において、電子注入層を構成する材料としては、公知のものが使用でき、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、フルオレノン誘導体、ベンゾキノン若しくはその誘導体、ナフトキノン若しくはその誘導体、アントラキノン若しくはその誘導体、テトラシアノアントラキノジメタン若しくはその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレン若しくはその誘導体、ジフェノキノン誘導体、アントラキノジメタン誘導体、アントロン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド誘導体、フルオレニリデンメタン誘導体、ジスチリルピラジン誘導体、ナフタレン、ペリレン等の芳香環テトラカルボン酸無水物、フタロシアニン誘導体、8−キノリノール誘導体の金属錯体やメタルフタロシアニン、ベンゾオキサゾールやベンゾチアゾールを配位子とする金属錯体に代表される各種金属錯体、有機シラン誘導体などが挙げられる。
【0126】
前記材料は単成分であってもあるいは複数の成分からなる組成物であってもよい。また、前記電子注入層は、前記材料の1種又は2種以上からなる単層構造であってもよいし、同一組成又は異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。また、電子輸送層又は正孔ブロック層で用いることができる材料として列記する材料も電子注入層で用いることができる。
【0127】
電子注入層の成膜方法に制限はなく、正孔注入層の成膜と同様の方法が挙げられる。溶液からの成膜方法としては、スピンコート法、キャスティング法、バーコート法、スリットコート法、スプレーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、インクジェットプリント法等の前記塗布法および印刷法が挙げられ、昇華性化合物材料を用いる場合には、真空蒸着法、転写法などが挙げられる。
溶液からの成膜に用いる溶媒の例としては、正孔注入層の成膜方法で列記した溶媒が挙げられる。
【0128】
電子注入層の膜厚としては、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように選択すればよいが、少なくともピンホールが発しないような厚さが必要であり、あまり厚いと、素子の駆動電圧が高くなり好ましくない。従って、該電子注入層の膜厚としては、例えば1nmから1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜100nmである。
【0129】
<絶縁層>
本発明の高分子発光素子が任意に有しうる膜厚5nm以下の絶縁層は、電極との密着性向上、電極からの電荷(即ち正孔又は電子)注入改善、隣接層との混合防止などの機能を有するものである。上記絶縁層の材料としては、金属フッ化物、金属酸化物、有機絶縁材料(ポリメチルメタクリレートなど)、等が挙げられる。膜厚5nm以下の絶縁層を設けた高分子発光素子としては、陰極に隣接して膜厚5nm以下の絶縁層を設けたもの、陽極に隣接して膜厚5nm以下の絶縁層を設けたものが挙げられる。
【0130】
3.素子の製造方法
本発明の高分子発光素子の製造方法は、特に限定されず、基板上に各層を順次積層することにより製造することができる。具体的には、基板上に陽極を設け、その上に正孔注入層、正孔輸送層、インターレイヤー等の層を必要に応じて設け、その上に発光層を設け、その上に電子輸送層、電子注入層等の層を必要に応じて設け、さらにその上に、陰極を積層することにより製造することができる。
【0131】
4.ディスプレイ装置
本発明の高分子発光ディスプレイ装置は、前記本発明の高分子発光素子を1画素単位として備える。画素単位の配列の態様は、特に限定されず、テレビ等のディスプレイ装置で通常採られる配列とすることができ、多数の画素が共通の基板上に配列された態様とすることができる。本発明の装置において、基板上に配列される画素は、必要に応じて、バンクで規定される画素領域内に形成することができる。
【0132】
本発明の装置は、さらに必要に応じて、発光層等を挟んで基板と反対側に、封止部材を有することができる。また、さらに必要に応じて、カラーフィルター又は蛍光変換フィルター等のフィルター、画素の駆動に必要な回路及び配線等の、ディスプレイ装置を構成するための任意の構成要素を有することができる。
【実施例】
【0133】
以下において、本発明を実施例及び比較例を参照してより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0134】
調製例1
(高分子正孔輸送化合物1の合成)
不活性雰囲気下、2,7−ビス(1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)−9,9−ジオクチルフルオレン(7.54g)、3,7−ジブロモ−N−(4−n−ブチルフェニル)−フェノキサジン(6.54g)、酢酸パラジウム(3.4mg)、トリ(2−メチルフェニル)ホスフィン(46.7mg)、第四級アンモニウムクロライド触媒の0.74Mトルエン溶液(アルドリッチ社製「Aliquat336」(登録商標))(2.2g)、トルエン(106ml)を混合し、105℃に加熱した。この反応溶液に2M NaCO水溶液(33ml)を滴下し、3時間還流させた。反応後、フェニルホウ酸(202mg)を加え、さらに3時間還流させた。次いでジエチルジチアカルバミン酸ナトリウム水溶液を加え80℃で4時間撹拌した。冷却後、水(200ml)で3回、3%酢酸水溶液(200ml)で3回、水(200ml)で3回洗浄し、アルミナカラム、シリカゲルカラムを通すことにより精製した。得られたトルエン溶液をメタノール(3L)に滴下し、3時間撹拌した後、得られた固体をろ取し乾燥させ、高分子正孔輸送化合物1を得た。得られた高分子正孔輸送化合物1の収量は8.3gであり、ポリスチレン換算数平均分子量(Mn)は2.7×10であり、ポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)は5.5×10であった。
【0135】
高分子正孔輸送化合物1は、下記繰り返し単位を有している。下記式中のnは重合度を表す。
【0136】
【化5】

【0137】
調製例2
(高分子正孔輸送化合物2の合成)
窒素雰囲気下にて2,7−ビス(1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)−9,9−ジオクチルフルオレン(0.64g、1.2mmol)及びN,N’−ビス(4−ブロモフェニル)−N,N’−ビス(4−n−ブチルフェニル)−1,4−フェニレンジアミン(0.75g、1.1mmol)をトルエン(8.5g)に溶解させ、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(4mg、0.0036mmol)を加え、10分間室温で攪拌した。その後、20%テトラエチルアンモニウムヒドライド水溶液を4mL加え、110℃に昇温して攪拌しながら18時間反応した。その後、ブロモベンゼン(0.28g、1.78mmol)をトルエン1mLに溶解させて反応液中に加え、110℃で2時間攪拌した。その後、フェニルボロン酸(0.22g、1.49mmol)を反応液中に加え、110℃で2時間攪拌した。50℃に冷却後有機層をメタノール/水(1/1)混合液200mLに滴下して1時間攪拌した。沈殿をろ過してメタノール及び水を用いて洗浄し、減圧乾燥した。その後、得られた乾燥物をトルエン50mLに溶解し、シリカカラム(シリカ量15mL)を通して精製した。精製後の溶液をメタノール150mLに滴下して1時間攪拌し、沈殿をろ過して減圧乾燥し、高分子正孔輸送化合物2を得た。得られた高分子正孔輸送化合物2の収量は795mgであり、ポリスチレン換算数平均分子量(Mn)は2.7×10であり、重量平均分子量(Mw)は5.7×10であった。
【0138】
高分子正孔輸送化合物2は、下記繰り返し単位を有している。下記式中のnは重合度を表す。
【0139】
【化6】

【0140】
調製例3
(高分子正孔輸送化合物3の合成)
不活性雰囲気下、2,7−ビス(1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)−9,9−ジオクチルフルオレン(5.28g)、ビス(4−ブロモフェニル)−(4−sec−ブチルフェニル)−アミン(4.55g)、酢酸パラジウム(2mg)、トリ(2−メチルフェニル)ホスフィン(15mg)、第四級アンモニウムクロライド触媒の0.74Mトルエン溶液(アルドリッチ社製「Aliquat336」(登録商標))(0.91g)、トルエン(70ml)を混合し、105℃に加熱した。この反応溶液に17.5重量%NaCO水溶液(19ml)を滴下し、19時間還流させた。反応後、フェニルホウ酸(0.12g)を加え、さらに7時間還流させた。次いでN,N−ジエチルジチオカルバミド酸ナトリウム水溶液(0.44g/12ml)を加え80℃で4時間撹拌した。冷却後、有機層を水40ml、3重量%酢酸水溶液40ml、水40mlの順番に洗浄し、アルミナ/シリカゲルカラムを通すことにより精製した。得られたトルエン溶液をメタノール(1.4L)に滴下した後、得られた固体を濾過後乾燥し、高分子正孔輸送化合物3を得た。得られた高分子正孔輸送化合物3の収量は6.33gであり、ポリスチレン換算数平均分子量(Mn)は8.8×10であり、ポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)は3.2×10であった。
【0141】
高分子正孔輸送化合物3は、下記繰り返し単位を有している。下記式中のnは重合度を表す。
【0142】
【化7】

【0143】
実施例1
図1は本発明の一実施形態である有機EL素子の構造を示す模式断面図である。
(1−1:正孔注入層の形成)
ITO陽極2が成膜されたガラス基板1上に、正孔注入層形成用組成物をスピンコート法により塗布し、膜厚60nmの塗膜を得た。
【0144】
この塗膜を設けた基板を200℃で10分間加熱し、塗膜を不溶化させた後、室温まで自然冷却させ、正孔注入層3を得た。ここで正孔注入層形成用組成物にはスタルクヴイテック(株)より入手可能なPEDOT:PSS水溶液(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)・ポリスチレンスルフォン酸、商品名「Baytron」)を用いた。
【0145】
(1−2:正孔輸送層の形成)
高分子正孔輸送化合物1及びキシレンを、該高分子正孔輸送化合物1が0.7重量%の割合となるように混合し、正孔輸送層形成用組成物を得た。
【0146】
上記(1−1)で得た正孔注入層の上に、正孔輸送層形成用組成物をスピンコート法により塗布し、膜厚20nmの塗膜を得た。この塗膜を設けた基板を190℃で20分間加熱し、塗膜を不溶化させた後、室温まで自然冷却させ、正孔輸送層4を得た。
【0147】
(1−3:発光層の形成)
発光高分子材料及びキシレンを、該発光高分子材料が1.3重量%の割合となるように混合し、発光層形成用組成物を得た。ここで発光高分子材料は、サメイション(株)製「Lumation BP361」(商品名)を用いた。
【0148】
上記(1−2)で得た、陽極、正孔注入層、及び正孔輸送層を有する基板の正孔輸送層の上に、発光層形成用組成物をスピンコート法により塗布し、膜厚65nmの塗膜を得た。この塗膜を設けた基板を130℃で20分間加熱し、溶媒を蒸発させた後、室温まで自然冷却させ、発光層5を得た。
【0149】
(1−4:陰極の形成)
上記(1−3)で得た、陽極、正孔注入層、正孔輸送層及び発光層を有する基板の発光層の上に、真空蒸着装置を用いる真空蒸着法によって、第1陰極層6として金属化合物層である膜厚4nmのフッ化ナトリウム層、第2陰極層7として金属層である膜厚80nmのアルミニウム層を、連続的に成膜し、陰極9を形成した。
【0150】
(1−5:封止)
上記(1−4)で得た、積層を有する基板を真空蒸着装置より取り出し、窒素雰囲気下で、封止ガラス及び2液混合エポキシ樹脂にて封止し(非表示)、高分子発光素子1を得た。
【0151】
(1−6:評価)
上記(1−5)で得られた高分子発光素子1に、0V〜12Vまでの電圧を印加し、輝度1000cd/m時の駆動電圧を測定した。さらに、初期輝度2000cd/mとなる電流で一定電流を通電の下、輝度半減寿命を測定した。結果を表1に示す。
【0152】
実施例2
第1陰極層として膜厚2nmのフッ化カリウム層を成膜した他は、実施例1と同様に操作し、高分子発光素子2を作製した。輝度1000cd/m時の駆動電圧及び初期輝度2000cd/mとなる電流で一定電流を通電の下、測定した輝度半減寿命を表1に示す。
【0153】
比較例1
第1陰極層として膜厚5nmのバリウム層を成膜した他は、実施例1と同様に操作し、高分子発光素子3を作製した。輝度1000cd/m時の駆動電圧及び初期輝度2000cd/mとなる電流で一定電流を通電の下、測定した輝度半減寿命を表1に示す。
【0154】
実施例3
高分子正孔輸送化合物1に代えて、高分子正孔輸送化合物2を用いた以外は、実施例1と同様に操作し、高分子発光素子4を作製した。輝度1000cd/m時の駆動電圧及び初期輝度2000cd/mとなる電流で一定電流を通電の下、測定した輝度半減寿命を表1に示す。
【0155】
実施例4
第1陰極層として膜厚2nmのフッ化カリウム層を成膜した他は、実施例3と同様に操作し、高分子発光素子5を作製した。輝度1000cd/m時の駆動電圧及び初期輝度2000cd/mとなる電流で一定電流を通電の下、測定した輝度半減寿命を表1に示す。
【0156】
比較例2
第1陰極層として膜厚5nmのバリウム層を成膜した他は、実施例3と同様に操作し、高分子発光素子6を作製した。輝度1000cd/m時の駆動電圧及び初期輝度2000cd/mとなる電流で一定電流を通電の下、測定した輝度半減寿命を表1に示す。
【0157】
実施例5
高分子正孔輸送化合物1に代えて、高分子正孔輸送化合物3を用いた以外は、実施例1と同様に操作し、高分子発光素子7を作製した。輝度1000cd/m時の駆動電圧及び初期輝度2000cd/mとなる電流で一定電流を通電の下、測定した輝度半減寿命を表1に示す。
【0158】
実施例6
第1陰極層として膜厚2nmのフッ化カリウム層を成膜した他は、実施例5と同様に操作し、高分子発光素子8を作製した。輝度1000cd/m時の駆動電圧及び初期輝度2000cd/mとなる電流で一定電流を通電の下、測定した輝度半減寿命を表1に示す。
【0159】
比較例3
第1陰極層として膜厚5nmのバリウム層を成膜した他は、実施例5と同様に操作し、高分子発光素子9を作製した。輝度1000cd/m時の駆動電圧及び初期輝度2000cd/mとなる電流で一定電流を通電の下、測定した輝度半減寿命を表1に示す。
【0160】
比較例4
正孔輸送層を成膜せずに、正孔注入層上に直接、発光層を成膜した以外は、実施例1と同様に操作し、高分子発光素子10を作製した。輝度1000cd/m時の駆動電圧及び初期輝度2000cd/mとなる電流で一定電流を通電の下、測定した輝度半減寿命を表1に示す。
【0161】
比較例5
第1陰極層として膜厚2nmのフッ化カリウム層を成膜した他は、比較例4と同様に操作し、高分子発光素子11を作製した。輝度1000cd/m時の駆動電圧及び初期輝度2000cd/mとなる電流で一定電流を通電の下、測定した輝度半減寿命を表1に示す。
【0162】
比較例6
第1陰極層として膜厚5nmのバリウム層を成膜した他は、比較例4と同様に操作し、高分子発光素子12を作製した。輝度1000cd/m時の駆動電圧及び初期輝度2000cd/mとなる電流で一定電流を通電の下、測定した輝度半減寿命を表1に示す。
【0163】
【表1】

【0164】
表中、実施例1の寿命倍増率とは、実施例1の高分子発光素子の輝度半減寿命を比較例1の高分子発光素子の輝度半減寿命で割った値を表し、実施例2の寿命倍増率とは、実施例2の高分子発光素子の輝度半減寿命を比較例1の高分子発光素子の輝度半減寿命で割った値を表す。実施例3の寿命倍増率とは、実施例3の高分子発光素子の輝度半減寿命を比較例2の高分子発光素子の輝度半減寿命で割った値を表し、実施例4の寿命倍増率とは、実施例4の高分子発光素子の輝度半減寿命を比較例2の高分子発光素子の輝度半減寿命で割った値を表す。実施例5の寿命倍増率とは、実施例5の高分子発光素子の輝度半減寿命を比較例3の高分子発光素子の輝度半減寿命で割った値を表し、実施例6の寿命倍増率とは、実施例6の高分子発光素子の輝度半減寿命を比較例3の高分子発光素子の輝度半減寿命で割った値を表す。比較例4の寿命倍増率とは、比較例4の高分子発光素子の輝度半減寿命を比較例6の高分子発光素子の輝度半減寿命で割った値を表し、比較例5の寿命倍増率とは、比較例5の高分子発光素子の輝度半減寿命を比較例6の高分子発光素子の輝度半減寿命で割った値を表す。
【0165】
(駆動電圧)
比較例1に対して実施例1〜2を、比較例2に対して実施例3〜4を、比較例3に対して実施例5〜6を、参照すれば明らかな通り、バリウムを第1陰極材料として用いた高分子発光素子に対して、フッ化ナトリウム又はフッ化カリウムを第1陰極材料に用いた本発明の高分子発光素子は、1000cd/mの輝度で発光する駆動電圧が低い。
【0166】
(輝度半減寿命)
比較例4〜6に対して、実施例1〜6を参照すれば明らかな通り、式(1)で示される繰り返し単位を有する高分子化合物を正孔輸送層として用いた本発明の高分子発光素子は、正孔輸送層を有しない比較例4〜6に対して、輝度半減寿命が著しく長い。
【0167】
また、式(1)で示される繰り返し単位を有する高分子化合物を正孔輸送層として用いた本発明の高分子発光素子の場合、フッ化ナトリウム又はフッ化カリウムを第1陰極材料として用いた高分子発光素子のバリウムを第1陰極材料として用いた高分子発光素子に対する寿命倍増率は、正孔輸送層を有さず、フッ化ナトリウム又はフッ化カリウムを第1陰極材料として用いた高分子発光素子のバリウムを第1陰極材料として用いた高分子発光素子に対する寿命倍増率と比較して、著しく大きい。例えば、第1陰極材料としてフッ化カリウムを用いた場合、正孔輸送層を有しない比較例5の高分子発光素子の、比較例6の高分子発光素子に対する寿命増倍効果は1.9であるが、式(1)で示される繰り返し単位を有する高分子化合物を正孔輸送層として用いた本発明の実施例1、3、5の高分子発光素子の寿命増倍効果は、それぞれ、4.9、3.5、7.7である。
【0168】
調製例4
(高分子正孔輸送化合物4の合成)
下記の反応工程1は、架橋性ベンゾシクロブタン官能基を含むトリアリールアミン化合物の調製、並びに5モルパーセントの架橋性共役ジアリールアミン官能基と95モルパーセントの非架橋性ジアリールアミン官能単位とを含む高分子正孔輸送化合物4を作製するための重合反応である。
【0169】
【化8】

【0170】
上記工程中、F8BEは、2,7−ビス(1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)−9,9−ジオクチルフルオレンであり、TFBは、ビス(4−ブロモフェニル)−(4−sec−ブチルフェニル)−アミンである。
【0171】
(4−A:ジフェニルベンゾシクロブタンアミンの合成)
メカニカルスターラ、窒素インレット、及び(窒素アウトレットを有する)還流冷却器を装備した500mLの三つ口丸底フラスコ中で、酢酸パラジウム(II)(196mg、1.20mmol)及びトリ(o−トリル)ホスフィン(731mg、2.40mmol)をトルエン100mLに添加した。パラジウム触媒が溶解し溶液が黄色になるまで、混合物を窒素中、室温で撹拌した。ジフェニルアミン(20.0g、118mmol)、ブロモベンゾシクロブタン(23.8g、130mmol)及びトルエン400mL、続いてt−ブトキシドナトリウム(22.8g、237mmol)を添加した。t−ブトキシドナトリウムを添加すると、反応物が黒色になった。反応物を窒素下で22時間加熱還流した。1M HCl水溶液30mLを添加することによって、反応を止めた。トルエン層を2M NaCO(100mL)で洗浄し、次いでトルエン溶液を塩基性アルミナに通した。トルエンを蒸発させると、黄色オイルが得られた。オイルをイソプロパノールとともに撹拌することによって、生成物を沈殿させた。固体を収集し、熱イソプロパノールで再結晶化した。H NMR(CDCl−d)δ:7.3−6.8(m,13H,Ar),3.12(d,4H,−CHCH−)。
【0172】
(4−B:ジ(4−ブロモフェニル)ベンゾシクロブタンアミンの合成)
250mLの丸底フラスコ中で、ジフェニルベンゾシクロブタンアミン(8.00g、29.5mmol)を氷酢酸5 滴を含有するジメチルホルムアミド(DMF)100mLに添加した。撹拌中の溶液に、N−ブロモスクシンイミド(NBS、10.5g、60.7mmol、1.97eq.)を添加した。5時間撹拌した後、反応混合物をメタノール/水(体積比1:1)600mLに注ぎ入れることによって、反応を止めた。灰色固体をろ過によって回収し、イソプロパノールで再結晶化した。H NMR(CDCl−d)δ:7.3(d,4H,Ar),7.0(d,4H,Ar),6.95(t,Ar),6.8(s,Ar),3.12(d,4H,−CHCH−)。
【0173】
(4−C:高分子正孔輸送化合物4の合成)
還流冷却器及びオーバーヘッドスターラを装備した1リットルの三つ口丸底フラスコに、次のモノマー:F8BE(3.863g、7.283mmol)、TFB(3.177g、6.919mmol)、及び、上記調製例(4−B)で得られたジ(4−ブロモフェニル)ベンゾシクロブタンアミン(156.3mg、0.364mmol)を添加した。第四級アンモニウムクロライド触媒の0.74Mトルエン溶液(商品名「アリクアト(Aliquat)336」、Sigma−Aldrich Corporationから入手、3.1mL)、続いてトルエン50mLを添加した。PdCl(PPh触媒(4.9mg)を添加した後、混合物を、モノマーのすべてが溶解する(約15分間)まで油浴(105℃)中で撹拌した。炭酸ナトリウム水溶液(2.0M、14mL)を添加し、反応物を油浴(105℃)中、16.5時間撹拌した。次いで、フェニルボロン酸(0.5g)を添加し、反応物を7時間撹拌した。水層を除去し、有機層を水50mLで洗浄した。有機層を反応フラスコに戻し、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム0.75g及び水50mLを添加した。反応物を油浴(85℃)中、16時間撹拌した。水層を除去し、有機層を水(3×100mL)で洗浄し、次いでシリカゲル及び塩基性アルミナのカラムに通した。次いで、トルエン/ポリマー溶液をメタノールに沈殿させ(2回)、得られた高分子化合物を60℃で真空乾燥し、高分子正孔輸送化合物4を得た。得られた高分子正孔輸送化合物4の収量は4.2g(82パーセント)であり、ポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)は124,000であり、分散度(Mw/Mn)は2.8であった。
【0174】
高分子正孔輸送化合物4は、下記繰り返し単位を有している。下記式中、括弧の添え字は繰り返し単位のモル%を表す。
【0175】
【化9】

【0176】
実施例7
図1は本発明の一実施形態である有機EL素子の構造を示す模式断面図である。
(2−1:正孔注入層の形成)
ITO陽極2が成膜されたガラス基板1上に、正孔注入層形成用組成物をスピンコート法により塗布し、膜厚60nmの塗膜を得た。
【0177】
この塗膜を設けた基板を200℃で10分間加熱し、塗膜を不溶化させた後、室温まで自然冷却させ、正孔注入層3を得た。ここで正孔注入層形成用組成物にはスタルクヴイテック(株)より入手可能なPEDOT:PSS水溶液(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)・ポリスチレンスルフォン酸、商品名「Baytron」)を用いた。
【0178】
(2−2:正孔輸送層の形成)
高分子正孔輸送化合物4及びキシレンを、該高分子正孔輸送化合物4が0.7重量%の割合となるように混合し、正孔輸送層形成用組成物を得た。
【0179】
上記(2−1)で得た正孔注入層の上に、正孔輸送層形成用組成物をスピンコート法により塗布し、膜厚20nmの塗膜を得た。この塗膜を設けた基板を190℃で20分間加熱し、塗膜を不溶化させた後、室温まで自然冷却させ、正孔輸送層4を得た。
【0180】
(2−3:発光層の形成)
発光高分子材料及びキシレンを、該発光高分子材料が1.3重量%の割合となるように混合し、発光層形成用組成物を得た。ここで発光高分子材料は、サメイション(株)製「Lumation BP361」(商品名)を用いた。
【0181】
上記(2−2)で得た、陽極、正孔注入層、及び正孔輸送層を有する基板の正孔輸送層の上に、発光層形成用組成物をスピンコート法により塗布し、膜厚70nmの塗膜を得た。この塗膜を設けた基板を130℃で20分間加熱し、溶媒を蒸発させた後、室温まで自然冷却させ、発光層5を得た。
【0182】
(2−4:陰極の形成)
上記(2−3)で得た、陽極、正孔注入層、正孔輸送層及び発光層を有する基板の発光層の上に、真空蒸着装置を用いる真空蒸着法によって、第1陰極層6として金属化合物層である膜厚2nmのフッ化ナトリウム層、第2陰極層7として金属層である膜厚80nmのアルミニウム層を、連続的に成膜し、陰極9を形成した。
【0183】
(2−5:封止)
上記(2−4)で得た、積層を有する基板を真空蒸着装置より取り出し、窒素雰囲気下で、封止ガラス及び2液混合エポキシ樹脂にて封止し(非表示)、高分子発光素子13を得た。
【0184】
(2−6:評価)
上記(2−5)で得られた高分子発光素子13に、0V〜12Vまでの電圧を印加し、輝度1000cd/m時の駆動電圧を測定した。さらに、初期輝度2000cd/mとなる電流で一定電流を通電の下、輝度半減寿命を測定した。結果を表2に示す。
【0185】
実施例8
第1陰極層として膜厚3nmのフッ化ナトリウム層を成膜した他は、実施例7と同様に操作し、高分子発光素子14を作製した。輝度1000cd/m時の駆動電圧及び初期輝度2000cd/mとなる電流で一定電流を通電の下、測定した輝度半減寿命を表2に示す。
【0186】
実施例9
第1陰極層として膜厚4nmのフッ化ナトリウム層を成膜した他は、実施例7と同様に操作し、高分子発光素子15を作製した。輝度1000cd/m時の駆動電圧及び初期輝度2000cd/mとなる電流で一定電流を通電の下、測定した輝度半減寿命を表2に示す。
【0187】
実施例10
第1陰極層として膜厚6nmのフッ化ナトリウム層を成膜した他は、実施例7と同様に操作し、高分子発光素子16を作製した。輝度1000cd/m時の駆動電圧及び初期輝度2000cd/mとなる電流で一定電流を通電の下、測定した輝度半減寿命を表2に示す。
【0188】
実施例11
第1陰極層として膜厚4nmのフッ化カリウム層を成膜した他は、実施例7と同様に操作し、高分子発光素子17を作製した。輝度1000cd/m時の駆動電圧及び初期輝度2000cd/mとなる電流で一定電流を通電の下、測定した輝度半減寿命を表2に示す。
【0189】
実施例12
第1陰極層として膜厚4nmのフッ化ルビジウム層を成膜した他は、実施例7と同様に操作し、高分子発光素子18を作製した。輝度1000cd/m時の駆動電圧及び初期輝度2000cd/mとなる電流で一定電流を通電の下、測定した輝度半減寿命を表2に示す。
【0190】
実施例13
第1陰極層として膜厚4nmのフッ化セシウム層を成膜した他は、実施例7と同様に操作し、高分子発光素子19を作製した。輝度1000cd/m時の駆動電圧及び初期輝度2000cd/mとなる電流で一定電流を通電の下、測定した輝度半減寿命を表2に示す。
【0191】
比較例7
第1陰極層として膜厚4nmのフッ化リチウム層を成膜した他は、実施例7と同様に操作し、高分子発光素子20を作製した。輝度1000cd/m時の駆動電圧及び初期輝度2000cd/mとなる電流で一定電流を通電の下、測定した輝度半減寿命を表2に示す。
【0192】
比較例8
第1陰極層として膜厚3nmのフッ化ナトリウム層を成膜し、第2陰極層として膜厚80nmの銀層を成膜した他は、実施例7と同様に操作し、高分子発光素子21を作製した。輝度1000cd/m時の駆動電圧及び初期輝度2000cd/mとなる電流で一定電流を通電の下、測定した輝度半減寿命を表2に示す。
【0193】
【表2】

【0194】
調製例5
(高分子正孔輸送化合物5の合成)
2,7−ジブロモ−9,9−ジオクチルフルオレン(17.8g、33.6mmol)、5,5’−ジブロモ−2,2’−ビチオフェン(11.7g、36.2mmol)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)(0.02g、0.03mmol)、及びトリカプリリルメチルアンモニウム クロリド(商品名:Aliquat336、4.01g、20.0mmol)を予め窒素バブリングしたトルエン300mlに溶解させ、55℃に加温して2mol/Lの炭酸ナトリウム水溶液60mlを滴下し、105℃で24時間加熱還流した。次いで、この反応物が存在する系中に、フェニルホウ酸(2.00g、16.4mmol)とTHF60mlを加えて、さらに24時間加熱還流した。トルエンを加えて希釈後、60℃のイオン交換水で3回水洗し、N,N−ジエチルジチオカルバミド酸ナトリウム三水和物とイオン交換水を加え、80℃で16時間撹拌した。水層を除去後、60℃の2重量%酢酸で3回洗浄し、さらに60℃のイオン交換水で3回水洗した。有機層をメタノールに滴下し、析出した沈殿をろ過し、メタノールで洗浄後、真空乾燥した。得られた固体を80℃のメシチレンに溶解させ、セライト、シリカゲル、中性アルミナを充填したカラムに通液した。溶液を濃縮した後、メタノールに滴下し、析出した沈殿をろ過、メタノールで2回、アセトンで2回、さらにメタノールで2回洗浄し、真空乾燥して、高分子正孔輸送化合物5を得た。得られた高分子正孔輸送化合物5の収量は13.8gであり、ポリスチレン換算の数平均分子量Mnは1.8×104であり、ポリスチレン換算の重量平均分子量Mwは3.4×104であった。
【0195】
高分子正孔輸送化合物5は、下記繰り返し単位を有する。下記式中のnは重合度を表す。
【0196】
【化10】

【0197】
比較例9
高分子正孔輸送化合物4の代わりに高分子正孔輸送化合物5を用い、高分子正孔輸送化合物5及びクロロホルムを、該高分子正孔輸送化合物5が0.6重量%の割合となるように混合して正孔輸送層形成用組成物を得た他は、実施例7と同様に操作し、高分子発光素子22を作製した。
【0198】
輝度1000cd/m時の駆動電圧及び初期輝度2000cd/mとなる電流で一定電流を通電の下、測定した輝度半減寿命を表3に示す。
【0199】
実施例14
図2は本発明の他の実施形態である有機EL素子の構造を示す模式断面図である。
【0200】
図2を参照して、真空蒸着法によって、第1陰極層6として金属化合物層である膜厚4nmのフッ化ナトリウム層を、第2陰極層7としてアルカリ土類金属層である膜厚5nmのマグネシウム層を、第3陰極層8として導電性物質層である膜厚80nmのアルミニウム層を、連続的に成膜して陰極9を形成した他は、実施例7と同様に操作し、高分子発光素子23を作製した。
【0201】
輝度1000cd/m時の駆動電圧及び初期輝度2000cd/mとなる電流で一定電流を通電の下、測定した輝度半減寿命を表3に示す。
【0202】
【表3】

【符号の説明】
【0203】
1…ガラス基板、
2…ITO陽極、
3…正孔注入層、
4…正孔輸送層、
5…発光層、
6…第1陰極層、
7…第2陰極層、
8…第3陰極層、
9…陰極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極と、陽極と、該陰極と該陽極との間に、高分子化合物を含む機能層及び有機高分子発光化合物を含む発光層を有する高分子発光素子であって、
該陰極が該発光層側から順に第1陰極層及び第2陰極層を有し、該第1陰極層がフッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化ルビジウム及びフッ化セシウムからなる群から選ばれる1種以上の金属化合物を含み、該第2陰極層がアルカリ土類金属及びアルミニウムからなる群から選ばれる1種以上の金属を含み、
該機能層に含まれる高分子化合物が、式(1)で示される繰り返し単位を有する高分子化合物である高分子発光素子。
【化1】

(1)
(式中、Ar、Ar、Ar及びArは、互いに同一又は相異なり、置換基を有していてもよいアリーレン基又は置換基を有していてもよい2価の複素環基を表し、Ar、Ar及びArは、互いに同一又は相異なり、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよい1価の複素環基を表し、n及びmは、互いに同一又は相異なり、0又は1を表す。nが0の場合、Arに含まれる炭素原子とArに含まれる炭素原子とが、直接結合していても、又は、酸素原子若しくは硫黄原子を介して結合していてもよい。)
【請求項2】
前記機能層に含まれる前記高分子化合物が、さらに、式
【化2】

(2)
(式中、Ar10及びAr11は、互いに同一又は相異なり、アルキル基、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよい1価の複素環基を表す。)
で示される繰り返し単位を有する有機高分子化合物である請求項1に記載の高分子発光素子。
【請求項3】
前記アルカリ土類金属がマグネシウム又はカルシウムである請求項1又は2に記載の高分子発光素子。
【請求項4】
前記陰極が該発光層側から順に第1陰極層、第2陰極層及び第3陰極層を有し、該第2陰極層がマグネシウム及びカルシウムからなる群から選ばれる1種以上のアルカリ土類金属を含み、該第3陰極層が導電性物質から成る請求項1〜3のいずれか一項に記載の高分子発光素子。
【請求項5】
前記第1陰極層の膜厚が、0.5nm以上6nm未満である請求項1〜4のいずれか一項に記載の高分子発光素子。
【請求項6】
前記機能層が陽極と発光層との間に設けられた正孔輸送層であり、前記高分子化合物が正孔輸送化合物である請求項1〜5のいずれか一項に記載の高分子発光素子。
【請求項7】
前記m及びnが0を表し、Ar、Ar及びArが、互いに同一又は相異なり、置換基を有していてもよいフェニル基を表す請求項1〜6のいずれか一項に記載の高分子発光素子。
【請求項8】
前記Ar10及びAr11が、互いに同一又は相異なり、炭素数5〜8のアルキル基を表す請求項2〜7のいずれか一項に記載の高分子発光素子。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の高分子発光素子を画素単位として有する高分子発光ディスプレイ装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−49546(P2011−49546A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−168966(P2010−168966)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】