説明

高分子複合材料の製造方法

【課題】 本発明は、より汎用的な簡便な工程で、高分子ナノコンポジットを工業的に有利に製造する方法を提供することにある。
【解決手段】 本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、溶融混練により高分子ナノコンポジットを製造する場合、層状無機化合物の層間にある有機修飾剤が層間隔をより拡大するために分子サイズの大きなものを選択するよりも、層間にある有機修飾剤の蒸発温度(沸点、或いは昇華点)が混練温度近傍にあることが、層状珪酸塩の剥離分散性を著しく進行させることを見出し、本発明の高分子複合材料を完成するに至った。すなわち、熱可塑性樹脂と有機修飾剤を層状無機化合物にインターカレートした層間化合物とを、混練装置を用いて、前記層間化合物中の有機修飾剤の蒸発温度にて溶融混練することを特徴とする構成を採用した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層状無機化合物を含有する熱可塑性樹脂からなる高分子複合材料を製造する方法及び該方法により製造される高分子複合材料に関する。さらに詳しくは、本発明は、熱可塑性樹脂中に層状無機化合物がナノメートルオーダーで分散してなる高分子複合材料を製造する方法、及びその高分子複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
層状無機化合物を高分子とナノメートルレベルで複合化したナノコンポジットは、その優れた機械的性質やガスバリヤ性などから様々な高分子について開発が進められている。この場合、分散層のアスペクト比(縦横比)が大きいほど剛性、耐熱性そしてバリヤ性などの改善効果が大きくなると考えられているため、層状無機化合物が単層レベルまで剥離したナノコンポジットの開発が求められている。
【0003】
層状無機化合物の分散性を改良するために、これまでにも層間重合法や溶融混練法などの種々の技術が提案されている。例えば、層状無機化合物を4級アンモニウム塩などで代表される有機カチオンで有機化処理したのち、層間にモノマーを導入し層間で重合反応させる方法(特許文献1)、有機化処理した層状無機化合物を有機溶媒中に無限膨潤分散させ、これと熱可塑性樹脂とを溶融混練する方法(特許文献2)などが開示している。
【0004】
また、有機化処理した層状無機化合物と熱可塑性樹脂とを高せん断力の下で溶融混練する方法(特許文献3)、層状無機化合物を水及び/又は有機溶媒で膨潤させたもの若しくは有機化処理した層状無機化合物を有機溶媒で膨潤させたものを、特定の条件で溶融混練する方法(特許文献4)、熱可塑性樹脂、多量の水又はプロトン供与体を含む溶媒、層状無機化合物及びその分散剤とを、密閉状態下でその熱可塑性樹脂の融点温度以上の温度で接触させ混練する方法(特許文献5)、さらには熱可塑性樹脂と、水及び/又は有機溶媒からなる分散媒で膨潤させた層状無機化合物とを高せん断混練装置を用いて、前記熱可塑性樹脂の溶融温度未満であって、かつ分散媒の沸点を超えない温度範囲で混錬したのち、前記分散媒の沸点以上の温度まで昇温しながら混練する方法(特許文献6)など様々な分散技術が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開昭63−215775号公報
【特許文献2】特開平8−302062号公報
【特許文献3】特開平9−217012号公報
【特許文献4】特開平9−183910号公報
【特許文献5】特開2000−239397号公報
【特許文献6】WO2004/072158号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の製造方法はいずれもあらかじめ層状無機化合物の層間を可能な限り膨潤させた状態で高せん断力下において高分子材料と複合化しようとする考え方に基づくもので、特殊な製造条件・製造設備を要求されるものの、その分散均一性も必ずしも十分とは言えず、剛性やバリヤ性の向上効果は十分に改善できているとはいえない。
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、より汎用的な簡便な工程で、高分子ナノコンポジットを工業的に有利に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、溶融混練により高分子ナノコンポジットを製造する場合、層状無機化合物の層間にある有機修飾剤が層間隔をより拡大するために分子サイズの大きなものを選択するよりも、層間にある有機修飾剤の蒸発温度(沸点、或いは昇華点)が混練温度近傍にあることが、層状珪酸塩の剥離分散性を著しく進行させることを見出し、本発明の高分子複合材料を完成するに至った。
すなわち、発明1の高分子複合材料の製造方法は、熱可塑性樹脂と有機修飾剤を層状無機化合物にインターカレートした層間化合物とを、混練装置を用いて、前記層間化合物中の有機修飾剤の蒸発温度にて溶融混練することを特徴とする。
発明2の高分子複合材料の製造方法は、前記発明1において、前記層間化合物中の有機修飾剤の蒸発温度が、前記熱可塑性樹脂の融点以上であり、分解温度以下であることを特徴とする。
発明3の高分子複合材料の製造方法は、前記発明1又は2において、前記層状無機化合物が層間に陽イオンを有する層状珪酸塩であることを特徴とする。
発明4の高分子複合材料の製造方法は、前記発明1から3のいずれかにおいて、前記有機修飾剤が有機オニウム塩であることを特徴とする。
発明5の高分子複合材料は、上記各発明の方法により得られたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、熱可塑性樹脂と有機修飾剤を層状無機化合物にインターカレートした層間化合物とからなる高分子複合材料の溶融混練工程において、層間化合物中の有機修飾剤が蒸発することによって、即ち、層間化合物中の有機修飾剤の蒸発温度(沸点、或いは昇華点)が混練温度近傍にあるものを選択したときに、高分子と有機修飾された無機層表面との親和性が著しく高まることを見出した。層状無機化合物の高分子マトリックス中への高レベルの剥離分散によって、力学特性、耐熱性、並びにバリヤ性などを高水準な改善が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を具体的に説明する。本発明に用いられる熱可塑性樹脂は、常温で固体である熱可塑性の高分子化合物であれば特に限定はなく、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、熱可塑性ポリイミド等の熱可塑性樹脂が挙げられる。さらに、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、スチレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴムなどの各種ゴム類や、1,2−ポリブタジエン、1,4−ポリイソプレン、塩素化ポリエチレン、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体、ポリプロピレンとエチレン−プロピレンランダム共重合体とのブレンド、ポリアミドエラストマー等のハードセグメント及びソフトセグメントよりなる各種熱可塑性エラストマーを挙げることができる。これらは各種官能基が導入されたものであってもよく、単独で用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0011】
本発明で用いられる層状無機化合物は、単位結晶層が互いに積み重なって層状構造をなしているもので、その結晶層間同士の結合が比較的弱く、層状構造を破壊することなく層間に種々イオン、分子、化合物を置き換えられる層状無機化合物が好適である。結晶層間に交換可能なイオンを含む層状結晶の中で交換性イオンが陽イオンであるものとしては、粘土鉱物や雲母鉱物に代表される層状珪酸塩、一般式Ti(HPO・nHO,Zr(HPO・nHO,Na(UOPO)・nHO等に代表されるリン酸塩、一般式KV,KVO14,CaV16・nHO等に代表されるバナジン酸塩、一般式NaTi,HTi・nHO,HTi2−x/4・nHO,KTiNbO,RbMnTi2−x等に代表されるチタン酸塩、一般式MgMo,CsMo10,AgMo1033等に代表されるモリブデン酸塩、一般式KNb,KNb17等に代表されるニオブ酸塩、一般式Na13,Ag1033等に代表されるタングステン酸塩、一般式AMnO(但し、AはLi,Na,K,Rb,Csなどから選ばれる少なくとも1種)等に代表されるマンガン酸塩、一般式Na,Na等に代表されるウラン酸塩、TiS,MoS,NbSeの遷移金属二カルコゲン化物等が挙げられる。また、結晶層間に交換性の陰イオンを持つものとしては、ハイドロタルサイト、スティヒタイト、パイロオーライト等に代表されるハイドロタルサイト類化合物等が挙げられる。
【0012】
特に好適に用いることができるものとして層間に陽イオンを有する層状珪酸塩が挙げられる。粘土鉱物や雲母鉱物に代表される層状珪酸塩は、その構成元素や層電荷によって細かく分類されている。層状珪酸塩の層の基本構造は、主に珪素やアルミニウムの金属に4つのO2−が配位した四面体が六角網状につながってシートを作る四面体シートとアルミニウムやマグネシウムなどの金属に6つのOHまたはO2−が配位した八面体が稜を共有してつながった八面体シートからなる。この四面体シートと八面体シートが頂点酸素を共有してつながり、四面体シート1枚に八面体シート一枚が結合したものを1:1層といい、八面体シート一枚の両側に四面体シートが結合したものを2:1層と呼んでいる。本発明に特に好適に用いることのできる層状珪酸塩は層間に陽イオンを有し、かつ2:1層を有する層状珪酸塩であり、例えば、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スチブンサイトに代表されるスメクタイト、マスコバイト、フロゴパイト、テニオライト、バイオタイト、マーガライト、クリントナイト、四珪素雲母などの雲母(マイカ)とその変質鉱物である2−八面体型バーミキュライト、3−八面体型バーミキュライトなどのバーミキュライト類、イライト、セリサイト、グロコナイト、セラドナイトなどの雲母粘土鉱物等が例示される。
【0013】
これらの層状無機化合物は、天然鉱物であってもよく、水熱合成、溶融法、固相法等による合成物であってもよい。また、本発明では、上記の層状粘土鉱物のうちの1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
本発明の層間化合物は、層電荷が生じており、層間に陽イオンを有している層状化合物の場合には、カチオン性の有機化合物をインターカレートさせることにより得られる。本発明に用いる有機オニウム塩としては、特にその種類に限定されないが、有機アンモニウム塩、有機ホスホニウム塩、有機ピリジニウム塩、有機スルホニウム塩、ヨードニウム塩等のオニウム塩などが挙げられ、好ましい例として炭素数が8〜50の第一アミン,第二アミン,第三アミン及びそれらの塩化物、第四級アンモニウム塩、アミン化合物、アミノ酸誘導体、窒素含有複素環化合物等が挙げられる。
【0015】
具体的には、オクチルアミン、ラウリルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、アクリルアミン、ベンジルアミン、アニリン等に代表される第一アミン;ジラウリルアミン、ジテトラデシルアミン、ジヘキサデシルアミン、ジステアリルアミン、N−メチルアニリン等に代表される第二アミン:ジメチルオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルラウリルアミン、ジメチルミリスチルアミン、ジメチルパルミチルアミン、ジメチルステアリルアミン、ジラウリルモノメチルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、N,N−ジメチルアニリン等に代表される第三アミン;テトラブチルアンモニウムイオン、テトラヘキシルアンモニウムイオン、ジヘキシルジメチルアンモニウムイオン、ジオクチルジメチルアンモニウムイオン、ヘキサトリメチルアンモニウムイオン、オクタトリメチルアンモニウムイオン、ドデシルトリメチルアンモニウムイオン、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムイオン、ステアリルトリメチルアンモニウムイオン、ドコセニルトリメチルアンモニウムイオン、セチルトリメチルアンモニウムイオン、セチルトリエチルアンモニウムイオン、ヘキサデシルアンモニウムイオン、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウムイオン、ステアリルジメチルベンジルアンモニウムイオン、ジオレイルジメチルアンモニウムイオン、N−メチルジエタノールラウリルアンモニウムイオン、ジプロパノールモノメチルラウリルアンモニウムイオン、ジメチルモノエタノールラウリルアンモニウムイオン、ポリオキシエチレンドデシルモノメチルアンモニウムイオン、アルキルアミノプロピルアミン四級化物等の第四級アンモニウムが挙げられる。更に、ロイシン、システィン、フェニルアラニン、チロシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、6−アミノヘキシルカルボン酸、12−アミノラウリルカルボン酸、N,N−ジメチル−6−アミノヘキシルカルボン酸、N−n−ドデシル−N,N−ジメチル10−アミノデシルカルボン酸、ジメチル−N−12アミノラウリルカルボン酸等のアミノ酸誘導体;ピリジン、ピリミジン、ピロール、イミダゾール、プロリン、γ−ラクタム、ヒスチジン、トリプトファン、メラミン等の窒素含有複素環化合物などが挙げられる。
【0016】
さらには高分子との親和性を考慮した、例えば、アミノ基、エポキシ基、アクリル基、メタクリル基、水酸基、カルボキシル基、メルカプト基などの官能基を分子中に含有するものを選択するとより好適である。例えば、水酸基を有する有機オニウム塩として、下記一般式(1)又は(2)で表される有機アンモニウム塩は、ポリ乳酸などの高分子材料に良好な分散性をもたらす。これは層状珪酸塩を有機化してその層間距離を広げると共に、水酸基を介してポリ乳酸と層状珪酸塩との親和性を良好にする効果である。
【0017】
【化1】



[式中、R、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又はアルキル基を表し、lは2〜20の整数を表す。]
【0018】
【化2】


[式中、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又はアルキル基を表し、RとRとの合計の炭素数は6以上であり、m及びnは同一でも異なっていてもよく、1〜20の整数を表す。]
【0019】
上記一般式(1)中、R、R又はRは水素原子又はアルキル基を表す。かかるアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基)、直鎖又は分岐鎖状のペンチル基、直鎖又は分岐鎖状のヘキシル基、直鎖又は分岐鎖状のヘプチル基、直鎖又は分岐鎖状のオクチル基、直鎖又は分岐鎖状のノニル基、直鎖又は分岐鎖状のデシル基、直鎖又は分岐鎖状のウンデシル基、直鎖又は分岐鎖状のドデシル基、直鎖又は分岐鎖状のトリデシル基、直鎖又は分岐鎖状のテトラデシル基、直鎖又は分岐鎖状のペンタデシル基、直鎖又は分岐鎖状のオクタデシル基等が挙げられる。
【0020】
一方、ハイドロタルサイト類化合物等のように層間に陰イオンを有している層状化合物の場合には、アニオン性の有機化合物をインターカレートさせることにより層間化合物が得られる。有機アニオンとしては、特に制限はないが、アミノ酸、含硫黄化合物、含窒素複素環化合物及びそれらの塩化合物が好適である。C〜C18酸の直鎖カルボン酸塩、芳香族酸のカルボン酸塩、アクリル酸のカルボン酸塩、メタクリル酸の不飽和カルボン酸塩、ビニル酢酸の不飽和カルボン酸塩、および窒素、燐、硫黄、ハロゲンのようなヘテロ原子を含むC若しくはそれ以上の酸のカルボン酸塩から選択した有機アニオン源であり、例えば、ロイシン、システィン、フェニルアラニン、チロシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、6−アミノヘキシルカルボン酸、12−アミノラウリルカルボン酸、N,N−ジメチル−6−アミノヘキシルカルボン酸、N−n−ドデシル−N,N−ジメチル10−アミノデシルカルボン酸、ジメチル−N−12アミノラウリルカルボン酸等のアミノ酸誘導体、2−クロロベンズチアゾール、チオアセティック酸、メチルジチオカルバミン酸、ジメチルジチアノカルバミン酸等の含硫黄化合物及びその塩化合物、2−メルカプトチアゾリン、2,5−ジメルカプト−1,3,4チアジアゾール、1−カルボキシメチル−5−メルカプト1H−テトラゾール、2,4,6−トリメルカプト−s−トリアジン等の含窒素複素環化合物及びその塩化合物が挙げられる。
【0021】
有機修飾剤の含有量は、層状無機化合物100質量部に対して10〜100質量部であることが好ましく、20〜50質量部であることがより好ましい。有機修飾剤の含有量が前記下限値未満であると、層状珪酸塩の層間距離が十分に広げられず、層状無機化合物を熱可塑性樹脂中に均一に分散させることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限値を超える場合には物理吸着によって導入される有機修飾剤の量が増加して樹脂組成物の物性が損なわれる(例えば耐熱性の低下)傾向にある。
【0022】
次に、本発明にかかる高分子複合材料の製造方法 を説明する。本発明で用いられる混練 装置は、上記原材料をせん断混練できるものであって、かつ加熱及び冷却の温度調節手段を有するものであれば特に限定はなく、例えば、バンバリーミキサー、ブラベンダー、ニーダー、ロール、単軸もしくは多軸の押出機及びコニーダーなど挙げることができる。これらは1種類の装置を単独で使用してもよく、2種類以上の装置を組み合わせて使用することもできるが、どの混練装置を使用するかは、熱可塑性樹脂の種類・性質、組み合わせ、形状などによって適宜選択すればよく、なかでも、工業的に広く用いられている二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールを好適に使用することができる。さらに、混練中に排出される分散媒を排気及び/又は排液する目的で、ベント、スリットバレル、排液口、排液ポンプなどの排気・排液手段を有するものが好ましく使用できる。
【0023】
溶融混練の条件としては、使用する熱可塑性樹脂の種類によって適宜層間化合物の設計が必要とされるが、目安として、熱可塑性樹脂の融点以上で、かつ層間化合物内の有機修飾剤の蒸発温度近傍で溶融混練できることが好ましい。蒸発温度とは、層間の有機修飾剤の一部が蒸発、或いは昇華する温度であり、その蒸発過程にて溶融した熱可塑性樹脂とせん断混練すると良い。例えば、前記熱可塑性樹脂のなかでも、一般に混練温度が190〜230℃のポリプロピレン、ポリ乳酸などの熱可塑性樹脂に有機修飾剤をインターカレートした層間化合物を溶融混練する場合は、例えば、長鎖アルキル基の炭素数が10〜14のオニウム塩を膨潤性合成フッ素マイカにインターカレートした層間化合物を使用するとよい。該層間化合物の蒸発開始温度はおよそ190℃付近にある。また、混練温度が260〜290℃にあるエンジニアリングプラスチックのポリアミド−66の場合、例えば、長鎖アルキル基の炭素数が14〜20のオニウム塩、或いはメラミン塩酸塩などの窒素含有複素環化合物を膨潤性合成フッ素マイカにインターカレートした層間化合物を用いると、蒸発(昇華)温度が260℃〜300℃近傍になるのでもっとも好適に使用できる。
【0024】
ここで、層間化合物内の蒸発温度は、示差熱分析(DTA)、示差走査熱量測定(DSC)、熱重量測定(TG)或いは発生気体分析(EGA)などの測定方法で規定することができる。融解温度と蒸発温度の判別が難しい場合は、TG曲線を時間または温度で一次微分したもので微分熱重量測定(DTG)により重量変化を伴う変化(化学変化)と、伴わない変化(主に物理変化)の区別が明らかになり、有効である。また、蒸発温度の近傍に燃焼温度がある場合、予めTG−DTA測定により、燃焼温度を調べておいて、その後、燃焼温度以下にて他の測定方法により蒸発温度を調べるとよい。尚、転移・融解、蒸発・昇華、分解・脱水、還元は吸熱ピーク、結晶化、燃焼、酸化は発熱ピークとして観測される。ここでは、昇速温度10℃/min、空気雰囲気にて測定した吸熱の開始温度(蒸発開始温度)と吸熱ピーク温度(蒸発温度)間の温度領域にて溶融混練することが好ましい。
【実施例1】
【0025】
以下に、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0026】
(蒸発温度の評価)乾燥、粉砕した層間化合物の粉末試料についてTG−DTA測定((株)リガク社製、Thermoplus TG8120)により、空気雰囲気、昇速温度10℃/minにて蒸発・昇華温度の測定を行った。また、蒸発温度の近傍に燃焼温度ある試料に関しては、示差走査熱量分析(DSC)(EXSTAR6100,Seiko Instruments社製)により、昇速温度10℃/minで室温から燃焼温度より低い温度域まで加熱して、融解に続く蒸発過程を吸熱ピークの測定により求めた。DSC曲線の変曲開始点を蒸発開始温度とし、ピークを蒸発温度とした。
(分散性の評価)調製した試料をミクロトームで切り出して超薄切片を作製した。この切片について、透過型電子顕微鏡TEM(JEM1010、日本電子(株))にて100kVの加速電圧で珪酸塩層の分散状態を観察し、以下の基準で評価した。A、Bクラスの分散状態を合格とする。
A:分散状態が非常によい。珪酸塩層がほぼ単層ごとに微分散している。
B:分散状態は比較的よい。一部、珪酸塩層が5〜20層積層した凝集粒子が観測される程度で、単層レベルで分散している粒子が多い。
C:分散状態が悪い。珪酸塩層は20層以上積層した凝集粒子が多く残っている。
D:分散状態が非常に悪い。珪酸塩層は50層以上積層した凝集粒子が多く残っている。
【0027】
<製造例−1>
(層間化合物1)層状珪酸塩として、酢酸アンモニウム法で測定したイオン交換容量(CEC)が107meq/100gの合成Na型膨潤性フッ素マイカ(ソマシフME−100、コープケミカル(株)製)200gを蒸留水4000cc中に混合し、十分に膨潤させた。この層状珪酸塩水溶液に有機修飾剤としてドデシル(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムクロライド「ライオンアクゾ(株)製 エソガードC/12」をCECに対して1.5当量添加して、十分に攪拌し、イオン交換反応を行った。この懸濁液を濾過して、洗浄、濾過を繰り返し、フリーのアンモニウムイオンを除去して、乾燥、粉砕して層間化合物を得た。DSC測定により求めた蒸発開始温度180℃、蒸発ピーク温度は212℃であった。
【0028】
<製造例−2>(層間化合物2)有機修飾剤としてメラミンを用い、メラミン1当量に対してと1当量分の塩酸を加えた水溶液を調製し、ME−100のCECに対して1.5当量のメラミン塩酸塩とME−100を水溶液中でイオン交換処理をして層間化合物を調製した。TG−DTA測定により求めた蒸発開始温度270℃、蒸発ピーク温度339℃であった。
【0029】
<製造例−3>(層間化合物3)上記と同様の方法で有機修飾剤としてトリメチルオクタデアンモニウムクロライドを用い、ME−100のCECに対して1.5当量のトリメチルオクタデアンモニウムクロライドとME−100とイオン交換処理をして層間化合物を調製した。DSC測定により求めた蒸発開始温度245℃、蒸発ピーク温度は265℃であった。
【0030】
<製造例−4>
(層間化合物4)層状珪酸塩として、K型絹雲母(Z−20,斐川礦業(株)製)を使用した。有機修飾剤としてドデシルアミン塩酸塩(東京化成(株)製)を60℃の純水に溶解させて0.1M溶液を調製した。このドデシルアミン塩酸塩水溶液10Lをリアクター中で撹拌しながらセリサイト10gを投入し、90℃まで加熱して4日間、攪拌、加熱処理をした後、ろ過・洗浄を繰り返し、乾燥して層間化合物4を調製した。得られた試料のXRD測定の結果、セリサイトの底面間隔は、2.3nmに広がっており、層間化合物が得られた。DSC測定により求めた蒸発開始温度230℃、蒸発ピーク温度は267℃であった。
【実施例2】
【0031】
<製造例−1>で調整した(層間化合物1)をポリアミド6(アミランCM1021FS,東レ(株)製)と混合し、二軸混練装置(S1KRCニーダ、(株)栗本鐵工所)を用いて250℃で溶融混練して高分子複合材料を調製した。この高分子複合材料中の層状珪酸塩の含有量は5質量%である。更にこの試料を250℃で加圧プレスして厚さ200μmのフィルム成形体を調製した。
【0032】
このフィルム試料から超薄切片をウルトラミクロトーム(ULTRACUT UCT,ライカ(株))で調製し、透過型電子顕微鏡TEM(JEM1010、日本電子(株))にて100kVの加速電圧で層状珪酸塩の分散状態を観察した。その結果、層状珪酸塩(ME−100)の単層シートがポリアミド6マトリックス中に剥離して分散している状態が確認された(図1)。分散性の評価は、Aである。
【実施例3】
【0033】
<製造例−4>で調整した(層間化合物4)を用いた以外はすべて実施例1と同様に試料を作成し、層状珪酸塩の分散性の評価を行った。その結果、層状珪酸塩(Z−20)の単層シートがポリアミド6マトリックス中に剥離して分散している状態が確認された(図2)。分散性の評価は、Aである。
【実施例4】
【0034】
<製造例−2>で調整した(層間化合物2)を用いポリアミド66(レオナ1300S,旭化成(株)製)と混合し、二軸混練装置(S1KRCニーダ)を用いて280℃で溶融混練して高分子複合材料を調製した。280℃で加圧プレスして厚さ200μmのフィルム成形体を調製し、実施例1と同様に層状珪酸塩の分散性の評価を行った。その結果、層状珪酸塩(ME−100)の単層シートがポリアミド6マトリックス中に剥離して分散している状態が確認された(図3)。分散性の評価は、Aである。
【実施例5】
【0035】
<製造例−1>で調整した(層間化合物1)をポリ乳酸(テラマックTE−4000,ユニチカ(株)製)と混合し、二軸混練装置(S1KRCニーダ)を用いて200℃で溶融混練して高分子複合材料を調製した。この高分子複合材料中の層状珪酸塩の含有量は3質量%である。更にこの試料を200℃で加圧プレスして厚さ200μmのフィルム成形体を調製し、実施例1と同様に層状珪酸塩の分散性の評価を行った。その結果、層状珪酸塩(ME−100)はポリ乳酸マトリックス中に剥離して良好に分散している状態が確認された(図4)。分散性の評価は、Bである。
【0036】
(比較例1)市販の有機修飾膨潤性フッ素マイカ(ソマシフMAE、コープケミカル(株)製)を層間化合物として使用した以外はすべて実施例1と同様に試料を作成し、分散性の評価を行った。DSC測定により求めたMAEの蒸発開始温度265℃、蒸発ピーク温度は280℃であった。その結果、層状珪酸塩(ME−100)はポリアミド6マトリックス中に一部は剥離して分散している状態が確認されが、珪酸塩層が20層以上積層した凝集粒子もが残っていた(図5)。分散性の評価は、Cである。
【0037】
(比較例2)
<製造例−3>で調整した(層間化合物3)を用いた以外はすべて実施例4と同様に試料を作成し、分散性の評価を行った。その結果、層状珪酸塩(ME−100)はポリ乳酸マトリックス中に一部は剥離して分散している状態が確認されが、珪酸塩層は50層以上積層した凝集粒子が残っていた。分散性の評価は、Dである。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によれば、機械物性、耐熱性、ガスバリヤ性に優れるだけでなく、層状珪酸塩の分散性、外観に優れた樹脂組成物および樹脂成形体が提供される。また本発明の樹脂成形体が提供されることによって、生活雑貨、包装容器、産業資材、構造材料をはじめとして広範な用途において、軽量で環境負荷の低い製品を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施例1で得られた試料のTEM像を示す図面代用写真である。
【図2】実施例2で得られた試料のTEM像を示す図面代用写真である。
【図3】実施例3で得られた試料のTEM像を示す図面代用写真である。
【図4】実施例4で得られた試料のTEM像を示す図面代用写真である。
【図5】比較例1で得られた試料のTEM像を示す図面代用写真である。
【図6】比較例2で得られた試料のTEM像を示す図面代用写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂中に層状無機化合物がナノメートルオーダーで分散してなる高分子複合材料の製造方法であって、熱可塑性樹脂と有機修飾剤を層状無機化合物にインターカレートした層間化合物とを、混練装置を用いて、前記層間化合物中の有機修飾剤の蒸発温度にて溶融混練することを特徴とする高分子複合材料の製造方法。
【請求項2】
前記層間化合物中の有機修飾剤の蒸発温度が、前記熱可塑性樹脂の融点以上であり、分解温度以下であることを特徴とする請求項1に記載の高分子複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記層状無機化合物が層間に陽イオンを有する層状珪酸塩であることを特徴とする請求項1ないし2のいずれかに記載の高分子複合材料の製造方法
【請求項4】
前記有機修飾剤が有機オニウム塩であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高分子複合材料の製造方法
【請求項5】
請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の方法で製造された高分子複合材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−63408(P2008−63408A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−241457(P2006−241457)
【出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】