説明

高分子電解質およびアルブミンでコーティングされた金ナノ粒子

アミノ官能基を有する高分子電解質と、スルホン官能基を有する高分子電解質との組み合わせの2〜5層で、またはアミノ官能基を有する該高分子電解質、好ましくはポリアリルアミン、もしくはスルホン官能基を有する該高分子電解質、好ましくはポリスチレンスルホン酸塩の1層で、コーティングされた金ナノ粒子であって、該ナノ粒子がアルブミンの外層を含むことを特徴とする金ナノ粒子が記載される。その製造方法、血液脳関門を通過することを目的とする担体としてのその使用、ならびに医薬、特に神経変性疾患の治療用医薬、さらに詳しくは、プリオン病、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病および筋萎縮性側索硬化症などのタンパク質凝集体によって引き起こされる疾患の治療用医薬としてのその使用も記載される。また、該ナノ粒子を含む医薬組成物も記載される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療分野に関するものであり、特に、医薬、特に神経変性疾患の治療用医薬として使用するための高分子電解質でコーティングされた金ナノ粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)およびプリオン病などの神経変性疾患はすべて、高い確率でその病因に関与する中枢神経系におけるタンパク質凝集体の蓄積を特徴とする。全国患者発生数が800,000人以上であり、世界中で2千6百万人以上の患者が存在するアルツハイマー病の場合、アミロイドと呼ばれるプラーク中のAβの沈積および主としてタウリン酸化タンパク質からなる神経原線維変化の沈積を特徴とする。発生率の高さでは第2位の神経変性疾患であるパーキンソン病の場合、いわゆるレヴィー小体は、アルファ−シヌクレインタンパク質のアミロイド特性の凝集体によって構成される。プリオン病の場合、凝集体は、主にプリオンタンパク質からなる。感染性海綿状脳症といったような、これらの疾患として、ヒトのクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、動物におけるスクレイピーおよびウシ海綿状脳症(BSE)が挙げられる。これらの神経変性疾患は、治療不可能で致命的であり、神経細胞死、特徴的な脳組織の「海綿状」空胞形成および外因性経路で発現されるプリオンタンパク質疾患に関連するイソ体の蓄積をともなう(Prusiner SB. Shattuck;Lecture-Neurodegenerative Diseases and Prions. N. Engl. J. Med. 2001 May 17;344(20):1516-26. Review)。
【0003】
プリオン病の中心的な特徴は、脳および特定の他の組織における、宿主PrPCによってコードされる細胞タンパク質体に由来する疾患関連PrPScタンパク質の蓄積である。このタンパク質の機能は依然として不明であるが、PrPCは、たとえば、プリオン病の遺伝型をもたらす、ヒトプリオンタンパク質(PRNP)遺伝子のコーティング配列の突然変異のプリオン病の遺伝的症例における存在(Jackson JS, Collinge J, J. Clin. Pathol: Mol. Pathol.;2001;54:393-399)など、プリオンの病因に関与し、PrPCの存在はプリオン増殖およびプリオン病の発症にとって必要である(Buelerら, 1993)。PrPScは、翻訳後構造修飾によるPrPCに由来し(Borcheltら, 1990;Caughey and Raymond, 1991)、凝集物質として罹患した脳組織から抽出され、そのプロテアーゼ消化に対する部分耐性および界面活性剤不溶性により、PrPCとは区別される。PrPScが主要構成要素である、あるいは、唯一の伝染性物質またはプリオンであり(Boltonら, 1982)、外因性PrPCのPrPScへの変換を促進する構造的テンプレートとして働くと述べている(概観のために、Prusiner, 2001を参照)、多くの証拠が、現在、「単一タンパク質」の仮説(Griffith, 1967;Prusiner, 1982)を支持している。感染体の変換メカニズムおよび構造は、依然として不明である。
【0004】
分子レベルで、プリオン病の治療は、PrPC、PrPScまたはプリオンタンパク質の2つのイソ体間の変換プロセスに関する。疾患関連イソ体であるPrPScに対する療法は、より論理的なアプローチであるように見えるが、もしPrPScが病因性の変換プロセスの到達の非病理的論点であるならば、あるいは、もしPrPScの蓄積速度が疾患進行にとって重要であるならば、疾患の進行において無効であるか、またはその生命を延ばしさえする。
【0005】
プリオン病の治療法を見出そうとする最近の論評は、Trevitt and Collinge Brain, 2006, 129, 2241-2265に記載されており、これは、参照することにより本発明に援用される。
【0006】
特許出願DE 10 2004 040 119には、プリオン感染の治療におけるナノ粒子の使用が記載されている。特に、該文献には、金または銀に基づくコロイド系が記載されており、その粒子は、約5 nmの大きさであるのが好ましいが、最大20 nmとしても規定される。粒子は、たとえば、コロイド系などによって与えられる表面荷電を有する。実例を挙げるものではないが、全体的に一般的な方法において、該文献は、ホウ酸塩、ケイ酸塩、ポリオキソメタレート、遷移金属を含む有機錯体、たとえば、多環式芳香族炭化水素、フラーレン、大環状化合物、デンドリマーなどの有機化合物を含むナノ粒子などの、可能な金属製の「クラスター」、非金属製化合物にも言及している。この文献は、プリオン線維に対する効能のための重要な因子として、環境のイオン強度を示している。
【0007】
文献において、硫酸基はプリオン線維に選択的に結合するが、それらを溶解することはできない(Trevitt C. & Collinge J. (2006) Brain, 129, 2241-2265)が、一方、第1級アミノ基はプリオン線維を溶解し、それらを細胞から排除することができる(Supattapone S.ら (2001) J. Virology, 75, 3453-3461)ことが知られている。
【0008】
しかし、第1級アミンそれ自体は、本発明の場合、神経変性疾患の治療用薬物の投与のための絶対的に重要な要素である、特に血液脳関門の細胞に対するそれらの毒性により、プリオン病に罹患している患者に用いることはできない。血液脳関門の細胞に対する第1級アミンの毒性は、 ChananaらのNano Letters (2005) 5(12), 2605-2612(特に図2を参照)、および他の著者(Boussif, O.;Delair, T.;Brua, C.;Veron, L.;Pavirani, A.;Kolbe, H. V. J., Synthesis of ポリアリルアミン Derivatives and Their Use as Gene Transfer Vectors in Vitro. Bioconjugate Chem. 1999, 10, 877-883 e Clare R TrevittおよびJohn Collinge: A systematic review of prion therapeutics in experimental models. Brain (2006), 129, 2241-2265)によって記載されている。Chananaらの研究によれば、高分子電解質の多層でコーティングされたナノ粒子の場合、細胞毒性は、層の数および表面荷電に大きく依存している。ポリカチオンは、より毒性が強く、プリオン凝集体に対する活性において、まさに最も有望な分子である。毒性は、高分子電解質層の数に反比例している。
【0009】
これらの結果を考慮すると、神経変性疾患に特有のタンパク質蓄積との関連で、プリオン繊維を溶解し、より一般的に用いるための第1級アミンを有する分子の使用は、禁制であるように思われる。
【0010】
アミノ官能基および硫酸官能基の両方を有するGAGs(グリコサミノグリカン)のような分子は、疾患の進行を止めることができない(TrevittおよびCollinge Brain, 2006, 129, 2241-2265)。
【0011】
SchneiderおよびDecher (Nano Letters, 2004, Vol. 4, No. 10, 1833-1839)には、金ナノ粒子上の高分子電解質の多層蓄積方法が記載され、安定なナノ粒子が得られている。
【0012】
Dorrisら(Langmuir, 2008, 24(6), 2532-2538)は、静電自己集合を介して、4-(ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP)で安定化され、ナトリウムポリ(4-スチレンスルホネート)でコーティングされた金ナノ粒子の安定化を研究している。この研究は、ポリアリルアミン塩酸塩(PAH)によるナノ粒子の安定化における効果も探索している。
【0013】
SchneiderおよびDecher (Langmuir, 2008, 24, 1778-1789)は、先行研究における上記系の安定性に影響を及ぼすパラメーターを研究している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、特に、血液脳関門の細胞に対する第1級アミンの毒性の問題を解決し、プリオン病の治療のための有効な手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明の要旨
金ナノ粒子上のスルホン官能基を有する高分子電解質とアルブミン外層と共に吸着されているアミノ官能基を有する高分子電解質が、プリオン線維に対する所望の活性に恵まれているが、第1級アミンの毒性は実質的に減少しているか、または失われていることが現在見出されている。
【0016】
特に、マイナスにコーティングされた(PSS)金ナノ粒子系上にアルブミンと共に吸着されている第1級アミンが、プリオン線維に対するその所望の活性を維持しているが、その細胞毒性は実質的に失われているか、または減少していることが見出されている。驚くべきことに、最外層として第1級アミンを有する、したがって、プラスの正味荷電を有するナノ粒子が、プリオンタンパク質凝集、および一般に神経変性疾患を引き起こすタンパク質の凝集において、たとえば、ポリスルホン酸塩などでマイナスの正味荷電を有するナノ粒子のより大きな効果を報告している文献に記載されているよりも著しく高い阻害力を示すことも見出されている(J. Mol. Biol. 2007 Jun 15;369(4):1001-14. Thioaptamer interactions with prion proteins: sequence-specific and non-specific binding sites. King DJ, Safar JG, Legname G, Prusiner SB)。
【0017】
したがって、アミノ官能基を有する高分子電解質と、スルホン官能基を有する高分子電解質との組み合わせの2〜5層でコーティングされた金ナノ粒子であって、該ナノ粒子がアルブミンの外層を含むことを特徴とする金ナノ粒子が本発明の目的である。さらなる実施態様は、アミノ官能基またはスルホン官能基を有する該高分子電解質の1層でコーティングされた金ナノ粒子であって、該ナノ粒子がアルブミンの外層を含むことを特徴とする金ナノ粒子である。
【0018】
本発明のもう1つの目的は、医薬、特に神経変性疾患に対する医薬、とりわけプリオン病、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病および筋萎縮性側索硬化症などの中枢神経系におけるタンパク質の凝集体の蓄積によって引き起こされる神経変性疾患に対する医薬としての該ナノ粒子の使用である。
【0019】
最先端の技術による記載(前述のDE 10 2004 040 119を参照)とは対照的に、本発明者らは、本発明のナノ粒子が、生理環境に相当するイオン強度を有する細胞の成長培地に加えた場合に、培地のイオン強度に著しく影響されることなくその効果を発揮することを観察している。この態様は、重要なパラメーターを排除するので、技術的優位性を意味する。
【0020】
本発明のもう1つの目的は、治療有効量の上記粒子を含む医薬組成物である。これらの組成物は、一般に、ヒトおよび獣医用の使用を目的とする。
【0021】
本発明のもう1つの目的は、治療有効量の上記ナノ粒子を、好ましくは医薬組成物の形態で、神経変性疾患に罹患している患者に投与することを含む、該患者を治療する方法である。該方法の特定の態様において、該神経変性疾患は、タンパク質凝集体によって引き起こされる。さらに特定の態様において、該疾患は、プリオン病、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病および筋萎縮性側索硬化症から選択される。
【0022】
本発明のもう1つの目的は、特にヒトにおいて、血液脳関門を通過することを目的とする医薬のための担体として使用するための上記ナノ粒子である。
【0023】
また、本発明のこれらの目的およびその他の目的を、図面および実施例によって、詳細に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のナノ粒子の典型的な構造を図解で示す;
【化1】

は、ポリスチレンスルホン酸塩(PSS−4.3 kDa、短鎖、23量体、23マイナス荷電)を示し、
【化2】

は、ポリアリルアミン塩酸塩(PAH−15 kDa、長鎖、259量体、259プラス荷電)を示し、ハート型の記号は、ヒト血清アルブミン(HSA)を意味する;2Sは、PSS外層をもつ2層の高分子電解質を示す;1Aは、1層のPAH高分子電解質を示し、1Sは、1層のPSS高分子電解質を示し、例示として、アルブミンの最後の保護層をもつ2A粒子の最終製剤を示す。
【図2】血液脳関門の細胞に対する、本発明を典型的に示しているいくつかの粒子(前述の“Chananaら”を変更したもの)の細胞毒性を示す;2Aは、PAHが最終である2層の(PSS/PAH)をもつ粒子を意味し、4Aは、PAHが最終である4層の(PSS/PAH)2をもつ粒子を意味し、3Sは、PSSが最終である3層の(PSS/PAH/PSS)をもつ粒子を意味し、5Sは、PSSが最終である5層の(PSS/PAH)2/PSSをもつ粒子を意味する。
【図3】脳のトモグラフィー再構成である。19時間後に殺処分された動物の横断面(上のパネル)および矢状面(下のパネル)である。上のパネルの2つの横断面は、200μm離れた位置のものである。
【図4】脳のトモグラフィー再構成である。粒子注射の1週間後に殺処分された動物の横断面(左のパネル)および矢状面(右のパネル)である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
発明の詳細な記載
アミノ官能基を有する高分子電解質が、ポリアリルアミンであるのが好ましい。スルホン官能基を有する高分子電解質が、ポリスチレンスルホンであるのが好ましい。アミノ官能基を有する高分子電解質とスルホン官能基を有する高分子電解質が、医薬的に許容しうる塩の形態であるのが好ましい。アミノ官能基を有する高分子電解質の好ましい例は、塩酸塩などのポリアリルアミンの医薬的に許容しうる塩(PAH)である。スルホン官能基を有する高分子電解質の好ましい例は、ナトリウム塩などのポリスチレンスルホン酸塩の医薬的に許容しうる塩(PSS)である。
【0026】
医薬的に許容しうる塩は、当業者に公知であり、さらなる説明を必要としない。Wermuth, C. G. e Stahl, P. H. (eds.) Handbook of Pharmaceutical Salts, Properties;Selection and Use;Verlag Helvetica Chimica Acta, Zuerich, 2002を参照のこと。
アルブミンの好ましい例は、ヒト血清アルブミン(HSA)である。
【0027】
本発明に用いるナノ粒子は、前述のSchneiderおよびDecher (Nano Letters, 2004, Vol. 4, No. 10, 1833-1839)、Dorrisら(Langmuir, 2008, 24(6), 2532-2538)およびSchneiderおよびDecher (Langmuir, 2008, 24, 1778-1789)の研究に記載のものと類似している。第1層がポリスチレンスルホン酸ナトリウムからなる粒子は、前述の“Chananaら”に記載されている。
【0028】
本発明の好ましい実施態様において、アミノ官能基を有する高分子電解質は、ポリアリルアミン塩酸塩(PAH)であり、スルホン官能基を有する高分子電解質は、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(PSS)である。
【0029】
本発明の目的のために、アルブミン、好ましくはヒトアルブミンの外層を有するものを提供する以外は、これらの研究に記載されている粒子と同じ粒子を使用することもできる。
【0030】
粒子の製造方法は、静電引力を用いる層の蓄積のためのLBLと呼ばれる方法であり、上記文献を参照のこと。最初に高分子電解質が、金のコア上に自己配置する。
【0031】
LBL理論から分かるように(Decher, G.;Polyelectrolyte multilayers, an Overview.In Multilayer thin films;Decher, G., Schlenoff, J., Eds;Wiley-VCH, Weinheim, 2003;p.1-17を参照)、第2層の分子は、第1層の反対の荷電によって引きつけられるが、コアの荷電は同種の荷電ゆえにそれらを斥ける。さらに、いわゆる前駆体層におけるポリカチオンおよびポリアニオンは、相互浸透し、相互浸透のこの効果は、関心のある2つの官能基を含むブロック共重合体を使用せざるを得なくなることなく、最終粒子(もちろん、高分子電解質の2つ以上の層の場合である)の表面上にスルホン酸基とアミノ基のランダムな比をもつことを目的として、本発明の系に用いられる。
【0032】
アルブミンの外層は、ナノ粒子の通過および血液脳関門の保護に不可欠である。もし、ナノ粒子がヒトへの投与を目的とするならば、ヒトアルブミンを用いるのが好ましく、調製は、公知の方法にしたがって行われる。平面については、Glomm WR, Halskau Φ Jr, Hanneseth AM, Volden S. Adsorption behavior of acidic and basic proteins onto citrate-coated Au surfaces correlated to their native fold, stability, and pI. J. Phys. Chem. B. 2007 27;111(51):14329-45を参照。金粒子については、Teichroeb JH, Forrest JA, Jones LW. Size-dependent denaturing kinetics of bovine serum albumin adsorbed onto gold nanospheres. Eur. Phys. J. E. Soft Matter. 2008 Aug;26(4):411-5を参照。
【0033】
しかし、本発明のナノ粒子の調製において、困難は、アルブミンの外層の調製において出現する。公知の方法には、凝集現象が存在した。
【0034】
本発明者らは、最後の高分子電解質およびアルブミンの層の共吸着の新たなプロトコルを開発している。このようにして、凝集の問題は解決される。本発明方法は、アルブミンおよび予期される最後の高分子電解質の溶液において、高分子電解質の系がLBL技術を用いることによってすでに構築されている、金ナノ粒子の溶液のドリッピングを提供する。
【0035】
したがって、本発明のもう1つの目的は、以下のステップを含む、本明細書に記載のナノ粒子の製造方法である:
a.“多層(layer-by-layer)”技術(LBL)による、高分子電解質(1種または複数種)の蓄積;
b.最後の高分子電解質およびアルブミンの共吸着。
【0036】
概括的に述べると、Turkevich, J.;Stevenson, P. C.;Hillier, J.;A study of the nucleation and growth processes in the synthesis of colloidal gold. Disc. Farad. Soc. 1951, 11, 55-75に開示されているように、金粒子の製造は、クエン酸塩によるそれらの安定化を提供する。金ナノ粒子のサイズは、10 nmよりも大きく、100 nmよりも小さい。金粒子の直径が、10 nm〜50 nmであるのが好ましい。よく知られているように、金粒子は、NaAuCl4などの金誘導体とクエン酸ナトリウム(1%溶液など)から製造されうる。沸騰している金誘導体溶液に、クエン酸塩溶液を迅速に加え、混合物を適当な時間、沸騰状態に維持する。次いで、溶液を室温に冷却し、次に使用するまで暗色の瓶中で保管する。
【0037】
安定化されたナノ粒子を、アミン官能基を有する高分子電解質、好ましくはPAH、より好ましくは分子量15 kDaのPAHなどの第1の高分子電解質、あるいはスルホン官能基を有する高分子電解質、好ましくはPSS、より好ましくは分子量4.3 kDaのPSSなどの溶液中で、適当な時間インキュベートする。反応媒体として純水(たとえば、Milli-Q-グレード、18.2 MΩ/cm2など)を用いるのが好ましい。高分子電解質の溶液とインキュベーションした後、粒子懸濁液を、20.000 x gで20分間などの条件で遠心分離し、上清を除去し、粒子を純水に懸濁させる。適当な回数だけ洗浄を繰り返すが、2回で十分である。このように、高分子電解質でコーティングされた粒子を反対の荷電の高分子電解質とともにインキュベートする。このようにして、1〜5層の高分子電解質をもつナノ粒子であって、特に、その外層がプラス荷電またはマイナス荷電している粒子を製造する。
【0038】
アルブミンの外層は、好ましくはpH 7.4にて、最適な最後の分子電解質との共吸着によって適用される。高分子電解質およびアルブミンを、交互にマイナスまたはプラスに荷電した高分子電解質の1つ以上の層でコーティングされたナノ粒子の溶液に、継続的にボルテックスしながら少しずつ加える。すべての溶液は、水、好ましくはpH 7.4の水で調製する。洗浄相は、純水(MilliQ水など、好ましくはpH 7.4)で調製される。粒子を、最終的に、10,000 rpmなどにて、適当な時間、遠心分離によって濃縮する。
【0039】
もし、これらの粒子を、プリオンタンパク質を発現している神経細胞株の培養培地に加え、感染性病原体を複製するならば、プリオン複製は、濃度の関数として阻害される。概括的に言うと、粒子は、5〜1280 pMの間の濃度で用いることができる。コーティングされたナノ粒子の流体力学的サイズは、最後の層がPSSである粒子については、28〜68 nmの間であり、最後の層がPAHである粒子については、73〜79 nmの間である。表面荷電は、プラスのカプセルについては52〜65 mVの間であり、マイナスのカプセルについては-44〜-56 mVである。
【0040】
使用される粒子の高度な有効性は、プロテアーゼ消化に対して耐性のあるプリオンタンパク質の免疫活性アッセイにおける信号の不在によって実証されている。このアッセイは、プリオン感染の存在の診断的適応として、一般的に承認されている。
【0041】
同じニューロンに対する細胞毒性についても粒子を審査した。PSSが異なる型の細胞に対して比較的無害であるとみなされている一方、PAHの神経毒性が該細胞について知られている(上記Chananaらを参照)。
PSSは本発明において用いる濃度より高い濃度において約20%の細胞が死滅する弱い毒性を示しているが、PAHは本明細書で用いる濃度において細胞毒性がないことを、本明細書に用いる粒子は端的に示している。
本発明において記載するナノ粒子は、ヒトおよび動物投与用の適当な医薬組成物として製剤することができる。
【0042】
医薬組成物の製造は、当業界における当業者の標準的能力の範囲内にあり、特別な記載を必要としない。一般的な参考文献として、Remington's Pharmaceutical Sciences, latest edition, Mack Publishing and Co.を挙げることができる。さらなる例は、WO 2008/115854、WO 2008/124131、WO 2008/054544およびWO 2008/021368に見出すことができる。注射製剤が好ましい。
【0043】
以下の実施例は、本発明をさらに説明するものである。
【実施例1】
【0044】
ナノ粒子の製造
直径15±1 nmのクエン酸塩で安定化された金ナノ粒子(Turkevich, J.;Stevenson, P. C.;Hillier, J.;A study of the nucleation and growth processes in the synthesis of colloidal gold. Disc. Farad. Soc. 1951, 11, 55-75)を、還流沸騰下の25 mlの水中の5.3 mgのNaAuCl4から調製した。1%クエン酸塩溶液1 mlをすばやく加え、溶液をさらに20分間沸騰させた。次いで、溶液を室温に冷却し、次に使用するまで暗色の瓶中で保管した。
【0045】
次いで、安定化させたナノ粒を、純水(Milli-Q-グレード、18.2 MΩ/cm2)で調製した、3 mg/mlのPAH (MW 15 kDa)の溶液、または10 mg/mlのPSS (4.3 kDa)の溶液に滴下し、次いで、20分間インキュベートした。高分子電解質の溶液とのインキュベーション後、粒子懸濁液を20.000 x gにて20分間遠心分離し、懸濁液を除去し、赤いゲル状ペレットとして現れる粒子を純水に再懸濁させる。洗浄を2回繰り返す。このように、高分子電解質でコーティングされた粒子を反対の荷電の高分子電解質とインキュベートする。このような方法で、外層が選択によってプラスまたはマイナスに荷電している、1〜5層の高分子電解質を有するナノ粒子を製造する。
【実施例2】
【0046】
実施例1と同様に、25 mlの水中の10.6 mgのNaAuCl4、および750 μlの1%クエン酸塩溶液の迅速な添加から、直径46 nmの金ナノ粒子を製造した。
【実施例3】
【0047】
神経細胞株における神経毒性、および官能性試験
層の数ならびに表面荷電は、ScGT1の細胞生存(スクレイピーに感染したマウス視床下部)および感染プロセスの完全阻害が観察されうる濃度に影響を及ぼす。ScN2a細胞(スクレイピーに感染したマウスN2a神経芽細胞腫)で同じ実験を繰り返した。
【0048】
5日間インキュベートした後に、蛍光プレートリーダーで、カルセイン-AMで染色した生存するScGT1細胞を計数することによって細胞毒性を決定した。これらの実験のために、96ウエルプレートで、25,000細胞/ウエルの密度まで細胞を培養した。
【0049】
官能性試験のために、製剤を異なる濃度で細胞に加え、これらを5日間培養した。このように、PrPSc(スクレイピーからのプリオンタンパク質)を抽出し、定量し(100 μg)、2 μgのPK(プロテインキナーゼK)で消化を行ったが、これは、不正確な折り畳みをもつ(ミスフォールドした)形態が消化に対して耐性があるタンパク質凝集体の存在についての標準的試験である。ウエスタンブロット、SDS-PAGEゲル電気泳動によって得られる溶液を分析し、ELISAアッセイによって、PrPScを再び定量した。
例示した異なる製剤の要約データを下記第1表−第2表に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

(a)非処理細胞に対してPrPScレベルを50%低下させるのに必要な化合物濃度。
(b)カルセイン-AM細胞毒性アッセイによって、EC50値における細胞の生存を決定し、非処理コントロール細胞に対する生存細胞の平均パーセンテージとして表した。
3つの実験からの標準誤差を付与する。
【0052】
キナクリンおよびイミプラミンなどの既知の薬物の相対的効力を、細胞モデルにおける抗プリオン活性のためのコントロールとして用いた。第2表は、先行文献と類似しているキナクリンまたはイミプラミンのいずれかの効力を示し、すなわち、それぞれScGT1およびScN2aに対するキナクリンのEC50は、0.4±0.1および0.3±0.1 μMであり、それぞれScGT1およびScN2aに対するイミプラミンのEC50は、6.2±0.4および5.5±0.5 μMであった。コントロールとして、高分子電解質層のないクエン酸塩安定化金粒子は、検出可能なプリオン阻害活性は示さない。
【0053】
第2表に示すように、コーティングされたナノ粒子のための最外層の表面荷電に加えて、層の数は、ニューロンのScGT1およびScN2a細胞の生存に影響を及ぼした。薬物ドーピング培地中で5日間細インキュベートした後の細胞生存を測定し、カルセイン-AMアッセイによって検定することによって、細胞毒性を決定した。96ウエルプレートで行われるこれらの実験のために、ウエル当たり25,000 ScGT1細胞および30,000 ScN2a細胞という出発密度から、細胞を培養した。細胞生存性は、プラスに荷電した粒子(1-5A)については92-100%、マイナスに荷電した粒子(1-5 S)については74-100%の間であった(第2表)。
【0054】
ScGT1およびScN2a細胞におけるPrPSc形成の完全な阻害が行われる濃度をSDS-PAGEゲルから決定した。粒子製剤を、スクレイピーに感染した細胞に異なる濃度で加え、5日間にわたって阻害活性を測定した。ブロットまたはELISAのいずれかによって、PrPScレベルを定量した。プラスの最外層(mA)を有する粒子の得られるEC50は、ScGT1細胞において8.3±0.5−25.4±1.3 pM、ScN2細胞において8.4±0.6−30.0±1.4 pMの範囲であった(第2表)。両方の場合において、効能におけるサイズおよび層の数の影響は、制限される。しかし、マイナスの最外層(nS)を有する粒子によるプリオン阻害は、層の数が多くなるにつれて効能の増加を示した。特に、ScGT1細胞における1SのEC50は121.4±6.5 pMであり、5SのEC50は35.0±1.4 pMであるが、ScN2細胞における1SのEC50は48.7±12.9 pMであり、5SのEC50は129.9±7.1であった(第2表)。
【0055】
プリオン阻害の効能における粒子曲率の考えられる影響を調べるために、より大きいサイズの金粒子(46 nm)を用いた。本発明者らは、最も有効な2Aおよび5Sコーティングについてのみ試験を行った。両方の細胞株が、細胞生存において変化を示さず、90-100%の範囲であり、したがって、より小さいナノ金粒子(15 nm)と比べて差異はなかった。2A-46 nmのプリオン阻害は2Aと同じであり、5S-46 nmのプリオン阻害は、5Sの3分の1の有効性であった。2A-46および5S-46 nmの結果を第2表に示す。
【0056】
スクレイピー感染細胞において2Aおよび5Sの強力な抗プリオン活性が見出されたので、これらの2つの粒子を選択して、アミロイドシーディングアッセイ(ASA)において、組換えPrP小繊維形成を阻害するその能力を試験した(第3表)。
【0057】
【表3】

* コーティングされた金の存在下で、全長MoPrP(23-230)ならびにScN2a-およびScGT1-PTA沈澱タンパク質によるアミロイドシーディングを用いるアッセイにおいて、アミロイド形成反応速度のラグ相を、測定器であるSpectraMax M5とGemini EMと(Molecular Devices)の間で比較する。各ウエルに、50 pMの2Aコーティングナノ金または200 pMの5Sコーティングナノ金を加えた。
【0058】
スチューデントt-検定(両側)を用いて、測定間の有意差を決定した。M5については、p<0.05 (n=4);Gemini EMについては、p<0.01 (n=4)である。第3表において、それぞれ50 pMおよび200 pMの2Aおよび5Sは、アミロイド形成反応速度のラグ相によって表されるように、小繊維形成を有意に遅らせた。さらに、2Aおよび5Sは、ラグ相を5-15時間延長し、コントロールよりも非常に遅い反応速度が明らかにされた。PrP小繊維形成の遅延化における2Aおよび5Sの効力から、これらのナノ粒子が、PrPと直接相互作用して、病原性のPrPSc様形態へのPrPCの変換を防止しうることが示唆される。MoPrP(23-230)のみを用いる標準的組換えPrP小繊維形成アッセイにおいて、2Aおよび5Sの両方が、PrPアミロイド小繊維形成阻害活性を示した。さらに、ASAにおいて、PTA沈澱ScGT1またはScN2a細胞抽出物からのPrPScタンパク質は、アミロイドPrP形成の因子を供給することができ、より短いラグ相反応速度を提示する、小繊維形成を促進することができた。対照的に、ナノ粒子の存在下で、アミロイドPrP形成のラグ相は、ASAにおいて有意に延長された。
【実施例4】
【0059】
インビボにおける生体内分布
本発明のナノ粒子は、動物に投与されるアルブミンの外層を有さなければならず、、血液脳関門を通過しなければならない。本実施例において、ヒトアルブミンを用いた。アルブミンの層は、pH 7.4にて、PAHとの共吸着によって適用された。500 μlのPAH (1 mg/ml)および500 μlのヒト血清アルブミン(HSA)を、継続的ボルテックス撹拌下で、1層のポリスチレンスルホン酸ナトリウム(PSS)でコーティングされた金ナノ粒子の溶液に滴下し、1Sとした。pH 7.4にて、水溶液として、すべての溶液を調製した。pH 7.4にて、MilliQ水で洗浄した。この環境において、コーティングされた粒子は、動的光散乱法において90±2 nmの流体力学直径を有し、ゼータ電位測定法において36±1 mVの表面荷電を有する。10,000 rpmにて40分間遠心分離することによって粒子を15倍濃縮して、最終体積200 μlにし、100 μlのリンゲル液を加えた。約150-200 μlの溶液を、ガス麻酔下、健康なC57ブラックマウスの尾静脈に注射した。マウスに注射を行なうのと同日に、コーティングを調製した。リンゲル液で注射した粒子は、動的光散乱法において134±2 nmの流体力学直径を有し、ゼータ電位測定法において31±1 mVの表面荷電を示す。生体分散を明らかにする目的で、ポリアリルアミンおよびアルブミンの両方は、励起波長670 nmおよび発光波長700 nmで、前臨床イメージアナライザーeXplore Optixにおいて表示されうる色素であるcy5.5で共有的に標識されている。NIR(近赤外)線は、組織への深い侵入および低いバックグラウンド信号を可能にする。機器は、ファントム表面から5-9 mm下の蛍光信号を検出することができ、したがって、脳または他の臓器内において、色素で標識された分子の視覚化を可能にする。
【0060】
生体分散を注射から10日間追跡した。注射から15分後に粒子は脳内で蓄積を開始し、濃度は24時間まで増加する。本発明のナノ粒子を投与されたマウスは、血液脳関門の損傷を示す行動またはその他の徴候において変化を示さず、本発明ナノ粒子の細胞毒性が、減少するか、または完全になくなっていると結論することができる。細胞毒性研究から、PAH(ポリアリルアミン塩酸塩)が、細胞培養で用いた濃度において、PSS(ポリスチレンスルホン酸塩)と比べて、ニューロンに対する毒性が僅かに少ないことが明らかである。この挙動は、PSSと比べてPAHによって主に損傷を受ける血液脳関門内皮細胞に対する毒性とは正反対である。PAHは、多くの他の細胞型に対する細胞毒性で知られているので、この結果は全く予想外である(Boussif, O.;Delair, T.;Brua, C.;Veron, L.;Pavirani, A.;Kolbe, H.V.J., Synthesis of Polyallylamine Derivatives and Their Use as Gene Transfer Vectors in Vitro. Bioconjugate Chem. 1999, 10, 877-883)。
【0061】
試験した細胞型の両方(ScGT1およびScN2a)について、EC50(プリオン凝集の50%阻害)を決定した。カルセイン-AM(カルセインアセトキシメチルエステル;細胞に浸透し、細胞エステラーゼによってカルセインに変換される蛍光化合物、アニオン性蛍光色素)で染色することによって細胞毒性を決定する。試験した製剤は、EC50値より80%低い生存を示さない。粒子の曲率が細胞毒性またはプリオン阻害に影響を及ぼすかどうかを研究するために、より有効な製剤について、、サイズが15 nmである粒子とともに、より直径の大きい粒子(46 nm, 2A and 5S)もまた試験した。
【0062】
一般に、ScN2aは、コーティングされた粒子による影響が少なく、ScGT1と比べて1/3であるといわれている。プラスに荷電した外層をもつ製剤(記号mAで示される;ここで、mは層の総数であり、AはPAHを示す)に関し、EC50は、ScGT1について14±7 pMであり、ScN2aについて24±8 pMである。サイズおよび層の数の影響は、両方の場合において無視できる程度である。細胞の生存率は、92〜100%である。これは、スルホン酸塩の外層をもつ粒子(記号nSで示される;ここで、nは層の総数であり、SはPSSを示す)のデータとは対照的である。この場合、プリオン阻害の有効性は、層の数とともに増加する。ScGT1の場合、5Sは1Sと比べて50倍有効であるが、ScN2aの場合、有効性は2倍である。粒子の曲面および平均サイズと比べると、大きい粒子(46 nm)の有効性は、小さい粒子(15 nm)の1/3であることが見られた。先に述べたように、マイナスの外層では、EC50の濃度においてより高い。
【0063】
NIR-TD造影の欠点の1つは、分解能が0.5mmであるということである。したがって、脳の内部のナノ粒子の特異的局在化を明確に評価することができない。
【0064】
コーティングされた粒子を脳内でより正確に局在化させ、それらが血液脳関門(BBB)を通過するかどうかという問題を解決するために、X線マイクロトモグラフィー、共焦点レーザー走査顕微鏡法(CLSM)および2つの異なる染色技術を用いる蛍光画像が用いられてきた。我々がNIR-TDで観察した粒子が、我々がCLSMで視覚化するものと同じであるかどうかを解明するために、我々は、cy5.5でHSAを共有的に標識し、FITC(フルオレセインイソチオシアネート)でPAHを共有的に標識する、粒子の二重染色を用いた。
【0065】
2匹の処置マウスのX線マイクロトモグラフィーによる結果を、図3(19時間)および図4(7日間)に示す。データから、2つの興味深い発見が示される。1つめは、脳の白質および灰白質の間に良好なコントラストがあることである。このことは、ラットの小脳において顕著である。このような区別は、吸収ベースのX線CTスキャンにより、まれに可能ではあるが、位相コントラストラジオグラフィーは、これらの2つの脳組織間の小さい密度差を明確に分解する。
【0066】
2つめは、再構築された横断面および矢状面において矢印で示すように、より高いコントラスト、およびそれによるより高い粒子濃度が、視床および視床下部の領域に認められる。19時間後に殺処分された動物(図3)では、視床/視床下部の全領域を含む領域コントラストが明らかである。さらに、視床の境界において、より高吸収の細い線が見られ、金ナノ粒子の蓄積を示している。粒子注射の7日後に殺処分された動物では、視床/視床下部複合体における領域コントラストは消失したが、高吸収/コントラストの2つの細い線(図4において矢印で示す)が顕著であり、異なる視床サブパートを分離する層板の境界における金の蓄積を示している。
【0067】
コーティングされたナノ粒子を細胞レベルで局在化させるために、CLSMを用いてミクロトーム脳切片をより詳細に画像化した。その蛍光象から、ナノ粒子は、主として視床ゾーン、海馬および大脳皮質に蓄積されるというX線による観察が確認された。同じ範囲における、大きな影響を与える組織の自己蛍光により、FITC標識ナノ粒子の直接視覚化は困難であった。したがって、発光信号のスペクトル分析が行われた。スペクトル分析により、FITC信号から自己蛍光信号を区別することができるようになった。脳組織内のナノ粒子の存在を確認することができ、細胞レベルに至る高解像度の局在化が可能となった。CLSM画像で、脳組織内の蛍光スポットの均等に分布したパターンを検出することができ、ナノ粒子が血液脳関門を通過することが示された。
【0068】
3つの異なる染色技術(Nissl、DAPIおよびFITC染色)を組み合わせて、脳組織切片のナノ粒子の局在化および細胞分布パターンを視覚化した。DAPI蛍光は、青色で核を選択的にマークし、Nissl染色は、ニューロンと神経膠の両方の細胞体を視覚化することができる。ナノ粒子は、緑色の蛍光を放射している。染色された脳切片を、明視野発光および異なるエミッションフィルターを有する落射蛍光顕微鏡の組み合わせを用いて視覚化した。
【0069】
異なるフィルターで得られた画像を統合した。X線およびCLMSにより高濃度のナノ粒子が検出されている脳の領域を、細胞内のナノ粒子分布について、さらに詳細に分析した。FITCで標識されたコーティングナノ粒子に関連する、小さい明緑色の点が、細胞表面に観察されたが、Nisslで染色された特定の脳細胞の細胞内部でも観察された。DAPI染色では、共局在化を検出することができなかったので、細胞核に入ることを排除することができる。
【0070】
海馬領域において、歯状回の顆粒細胞層における歯状回顆粒細胞(CA1およびCA3領域の錐体細胞)の内部でも、粒子の蓄積が観察された。視床は、高濃度の粒子の蓄積が観察される脳領域であるが、大脳皮質でもまた、細胞内部に高濃度の粒子が見られた。小脳では、有意量のナノ粒子は検出されなかった。しかし、粒子の蓄積は、小脳皮質に位置するGABA性ニューロンのクラスである、プルキンエ細胞の内部で見出された。さらに、ナノ粒子は、脊髄に面する髄質にも局在化した。
【0071】
異なる染色技術では、ナノ粒子は、異なる脳領域の特定のニューロン細胞において蓄積するということ、およびナノ粒子は、細胞に取り込まれるが、細胞核へは入らないということが結論づけられる。細胞レベルで粒子が視覚化される領域は、CLSMおよびX線トモグラフィーで見出される領域と本質的に同じである。
【0072】
我々は、コーティングされたナノ金粒子が、血液脳関門を通過することによって脳に入ることのみならず、該粒子が、脳液中で均質に分布せず、脳の異なる領域で細胞によって選択的に取り込まれることも初めて明らかにすることができた。マウスにおいて、細胞を同定し、特定の細胞における全体分布から細胞下分布までの生体分布を追跡した。
【0073】
本発明のもう1つの重要な態様は、このナノ粒子系では、広範な薬物を輸送することができ、特定の細胞へのそれらの蓄積により、望ましくない副作用を減少させながら、特定の脳障害を標的化することができるという事実である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ官能基を有する高分子電解質と、スルホン官能基を有する高分子電解質との組み合わせの2〜5層で、またはアミノ官能基を有する該高分子電解質もしくはスルホン官能基を有する該高分子電解質の1層で、コーティングされた金ナノ粒子であって、該金ナノ粒子のサイズが、10 nmよりも大きく、100 nmよりも小さく、粒子該ナノ粒子がアルブミンの外層を含むことを特徴とする金ナノ粒子。
【請求項2】
高分子電解質が、医薬的に許容しうる塩の形態である請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項3】
アミノ官能基を有する高分子電解質が、ポリアリルアミンである請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項4】
スルホン官能基を有する高分子電解質が、ポリスチレンスルホンである請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項5】
該アルブミンが、ヒト血清アルブミンである前記請求項のいずれか1つに記載のナノ粒子。
【請求項6】
以下のステップ:
a.“多層(layer-by-layer)”技術(LBL)による、高分子電解質(1種または複数種)の蓄積;
b.最後の高分子電解質およびアルブミンの共吸着;
を含む、請求項1〜5に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項7】
医薬として使用するための請求項1〜5に記載のナノ粒子。
【請求項8】
該医薬が、神経変性疾患の治療用医薬である請求項7に記載のナノ粒子。
【請求項9】
該疾患が、タンパク質凝集体によって引き起こされる請求項8に記載のナノ粒子。
【請求項10】
該疾患が、プリオン病、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病および筋萎縮性側索硬化症から選択される請求項8または9に記載のナノ粒子。
【請求項11】
血液脳関門を通過することを目的とする医薬のための担体として使用するための請求項1〜5に記載のナノ粒子。
【請求項12】
有効量の請求項1〜5のいずれか1つに記載のナノ粒子を含む、ヒトまたは動物に使用するための医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−508226(P2012−508226A)
【公表日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−535197(P2011−535197)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際出願番号】PCT/IB2009/054922
【国際公開番号】WO2010/052665
【国際公開日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(511112205)コンソルツィオ・ペル・イル・ツェントロ・ディ・ビオメディシナ・モレコラーレ・ソシエタ・コーオペラティヴァ・ア・レスポンサビリタ・リミタータ (1)
【氏名又は名称原語表記】Consorzio per il Cenro di Biomedicina Molecolare Scrl
【出願人】(506217667)
【Fターム(参考)】