説明

高分子電解質エマルションの製造方法

【課題】高分子電解質分散液に含まれるN−メチルピロリドンなどの良溶媒を短時間で除去でき、また廃液量が少ない高分子電解質エマルションの製造方法を提供する。
【解決手段】高分子電解質の良溶媒と貧溶媒とを含む分散媒中に高分子電解質粒子が分散してなる分散液を、クロスフロー濾過器5を用いて濾過して前記分散媒の一部を除去し、前記分散液を濃縮する。ここで、前記濃縮した分散液と前記貧溶媒とを混合する工程をさらに設けるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質粒子が分散してなる高分子電解質エマルションの製造方法に関し、より詳細には、固体高分子形燃料電池用部材の製造に好適に使用される高分子電解質エマルションの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池(以下、「燃料電池」という。)におけるイオン伝導膜や電極用バインダーとして用いた場合に高い発電特性が得られる高分子電解質エマルションの製造方法として、例えば、特許文献1には次のような製造方法が提案されている。まず、スルホン酸基、カルボキシル基、ホスホン酸基などの親水性基を有する高分子電解質を、N−メチルピロリドン(良溶媒)に溶解して高分子電解質溶液を作製する。そして、作製した高分子電解質溶液を蒸留水(貧溶媒)に滴下して、高分子電解質を粒子状に析出させる。次いで、この粒子状の高分子電解質が分散した分散液を、透析用セルロースチューブに封入し、これを流水で暴露して膜分離処理することにより、高分子電解質エマルションを得る。
【0003】
すなわち、この提案された製造方法では、透析用セルロースチューブに封入された分散液と、流水とにおけるN−メチルピロリドンの濃度差によって、分散液に含まれるN−メチルピロリドンを膜透過させて分散液から除去し、N−メチルピロリドンの含有量の少ない高分子電解質エマルションを製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-31466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に提案される製造方法では、分散液に含まれるN−メチルピロリドンの除去に長時間を要し、またN−メチルピロリドンの除去における廃水量が多くなるなどの点において必ずしも満足できる方法ではなかった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、高分子電解質粒子が分散してなる分散液に含まれるN−メチルピロリドンなどの良溶媒を短時間で除去でき、また良溶媒の除去における廃水等の廃液の量が少ない高分子電解質エマルションの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、高分子電解質の良溶媒と貧溶媒とを含む分散媒中に高分子電解質粒子が分散してなる分散液を、クロスフロー濾過器を用いて濾過し前記分散媒の一部を除去して、前記分散液を濃縮する工程を有する高分子電解質エマルションの製造方法が提供される。
【0008】
なお、本明細書において「高分子電解質粒子」とは、高分子電解質を含有してなる粒子を意味し、高分子電解質からなる粒子、後述するように添加剤を使用する場合は、高分子電解質と添加剤とを含有する粒子を包含するものである。また、「良溶媒」及び「貧溶媒」とは、温度25℃における溶媒100gに溶解し得る高分子電解質の重量で規定されるものであり、良溶媒とは、0.1g以上の高分子電解質を可溶な溶媒をいい、貧溶媒とは、高分子電解質を0.05g以下しか溶解し得ない溶媒をいう。
【0009】
ここで、前記濃縮した分散液と前記貧溶媒とを混合する工程をさらに設けるのが好ましい。
【0010】
前記クロスフロー濾過器における濾過膜の膜間差圧は、0.1〜1.0MPaの範囲が好ましい。
【0011】
前記クロスフロー濾過器に設ける濾過膜の分画分子量は100〜100,000の範囲が好ましい。
【0012】
前記高分子電解質の良溶媒は、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミドおよびジメチルスルホキシドの少なくとも1つであるのが好ましい。
【0013】
前記高分子電解質の貧溶媒は水であるのが好ましい。
【0014】
また、本発明によれば、前記のいずれか記載の製造方法を用いて得られることを特徴とする高分子電解質エマルションが提供される。
【0015】
高分子電解質エマルション中の前記良溶媒の含有量としては200ppm以下が好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法では、高分子電解質粒子が分散してなる分散液に含まれる良溶媒を従来よりも短時間で除去でき、また良溶媒の除去における廃液量を従来よりも少なくできる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る製造方法を実施可能な製造装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】本発明に係る固体高分子型燃料の一例を示す概略断面構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1に、本発明の製造方法を実施可能なる製造装置例を示す概説図を示す。図1の製造装置は、循環槽3と、循環ポンプ4と、クロスフロー濾過器5と、透過液受け容器6とを備える。循環槽3には、高分子電解質粒子が分散してなる分散液(以下、「高分子電解質分散液」又は単に「分散液」と略記することがある。)が貯留される。また、循環槽3には、後述するように、クロスフロー濾過器5で濃縮された分散液、即ち濃縮液が戻されると共に、クロスフロー濾過器5で除去された分散媒、即ち透過液と同量の貧溶媒が、供給される。
【0019】
分散液は循環槽3から循環ポンプ4に送られ、循環ポンプ4から所定の圧力でクロスフロー濾過器5へ送られる。循環ポンプ4の吐出側管路には圧力センサ71と減圧弁72とが設けられ、クロスフロー濾過器5へ供給される分散液の圧力が一定となるように調整される。循環ポンプ4としては、例えば、カム式定量高圧ポンプが好適に使用できる。
【0020】
クロスフロー濾過器5では、濾過膜51に膜間差圧が与えられつつ、濾過膜51表面に対して平行に分散液が流される。これによって、分散液は、濾過膜51を透過した透過液と、濃縮液とに分離される。また同時に、分散液が濾過膜51表面に対して平行な方向に流れることによって、連続的に濾過膜51表面が清浄され、濾過できない微粒子等による濾過膜51の目詰まりが抑制される。
【0021】
この図のクロスフロー濾過器5では、管状に成形された濾過膜51の内方に分散液が供給され、分散媒の一部が濾過膜51を透過して管内から管外へ流出し、三方弁75を介して透過液受け容器6に回収される。一方、分散媒の一部が除去された濃縮液は管内を通過して、三方弁76を介して循環槽3に戻る。なお、管状の濾過膜51の管外に分散液を供給し、管外から管内に分散媒が透過するようにしても構わない。
【0022】
濾過膜51を透過し、分散液から除去された分散媒(透過液)には、良溶媒及び貧溶媒の他、高分子電解質製造時の未反応モノマー成分、その他の不純物などが含まれていることもある。
【0023】
クロスフロー濾過器5に設ける濾過膜51の細孔径は、高分子電解質粒子を通過させない範囲において適宜決定すればよく、分画分子量として100〜100,000の範囲が好ましく、入手容易性の点で500〜100,000の範囲がより好ましい。濾過膜51の成形形状としては、管状型の他、平膜型、中空糸型、スパイラル型などいずれであっても構わない。また、濾過膜51の材質としては、例えば、ポリプロピレンやポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデン、セラミックなどが挙げられる。
【0024】
クロスフロー濾過器5の濃縮液の排出管路には、圧力センサ73と背圧弁74とが設けられ、クロスフロー濾過器5から排出される濃縮液の圧力が一定となるように調整される。濾過膜51にかかる膜間差圧は、減圧弁72と背圧弁74とによって調整される。膜間差圧は、0.1〜1.0MPaの範囲が好ましい。
【0025】
クロスフロー濾過器5に単時間当たりに供給される分散液量V(m/秒)と、濾過膜51の膜面積M(m)との関係は、下記関係式を満たすことが好ましい。
1×10−5(m/秒)<V(m/秒)/M(m)<1×10−3(m/秒)
【0026】
さて、前述のように、クロスフロー濾過器5で、分散媒の一部が除去され、濃縮された分散液(濃縮液)は、三方弁76を介して循環槽3に戻される。循環槽3では、クロスフロー濾過器5で除去された分散媒(透過液)量と略同量の貧溶媒が注入され、濃縮液と貧溶媒とが混合される。すなわち、クロスフロー濾過器5で除去される分散媒(透過液)量と循環槽3に注入される貧溶媒量を略同量とすることにより、循環槽3とクロスフロー濾過器5との間を循環する分散液量は一定に維持され、且つ分散液中の、良溶媒を始め貧溶媒以外の成分は徐々に除去される。最終的に分散媒中の貧溶媒の占める割合は90重量%以上であるのが好ましく、実質的に100重量%であるのがより好ましい。換言すると、クロスフロー濾過器5を用いて得られる高分子電解質エマルション中に残存する良溶媒の含有量は、高分子電解質エマルションの分散媒の総重量に対して200ppm以下であるのが好ましく、100ppm以下であるのがより好ましく、良溶媒が実質的に含まれない、すなわちガスクロマトグラフィー等の公知の分析手段で検出されない程度まで除去することがさらに好ましい。
【0027】
本発明において、濾過対象である高分子電解質分散液の作製方法については特に限定はないが、例えば、下記の工程(イ)及び工程(ロ)を経て得られるものが好ましい。
工程(イ):高分子電解質を、該高分子電解質の良溶媒を含む溶媒に溶解して、高分子電 解質溶液を調製する工程
工程(ロ):上記工程で得られた高分子電解質溶液と、該高分子電解質の貧溶媒とを混合 する工程
【0028】
工程(ロ)の混合工程では、高分子電解質溶液を貧溶媒に投入・撹拌することにより、貧溶媒中に高分子電解質を粒子状に析出させて分散液とするのが好ましい。
【0029】
使用する良溶媒及び貧溶媒の種類は、高分子電解質の溶解度等を勘案して適宜選択・決定すればよい。また、良溶媒及び貧溶媒の使用量も、高分子電解質を粒子状に析出できる範囲で適宜決定すればよい。工程(イ)における高分子電解質溶液の高分子電解質の濃度は、0.1〜10重量%の範囲が好ましく、より好ましくは0.5〜5重量%の範囲である。また、工程(ロ)における貧溶媒の使用量は、高分子電解質溶液に対して4〜99重量倍の範囲が好ましく、より好ましくは6〜99重量倍の範囲であり、さらに好ましくは9〜99重量倍の範囲である。高分子電解質溶液の高分子電解質の濃度および貧溶媒の使用量が、上記の範囲であると、より高分子電解質分散液を得やすいという利点がある。
【0030】
本発明で使用する良溶媒としては、使用する高分子電解質に対する溶解度を勘案して選択すればよい。好適な良溶媒としては、N,Nジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド及びN−メチル―2―ピロリドンが挙げられ、これらを2種以上混合して用いてもよい。これらは、後述する燃料電池用に好適な高分子電解質である炭化水素系高分子電解質に対して溶解度が比較的高いからである。
【0031】
また、本発明で使用する貧溶媒も同様に溶解度を勘案して選択すればよい。好適な貧溶媒としては、水、メタノールやエタノールなどのアルコール系溶媒、ヘキサンやトルエンなどの非極性有機溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、塩化メチレン、酢酸エチルなどの極性有機溶媒、及びこれらの混合物が挙げられる。これらの中でも、使用した良溶媒と互いに混和する貧溶媒が好ましく、工業的に使用した場合の環境負荷低減の観点からは、水もしくは水を主成分とした溶媒がより好ましい。
【0032】
本発明で使用する高分子電解質としては、例えば、スルホン酸基(−SOH)、カルボキシル基(−COOH)、ホスホン酸基(−PO(OH))、ホスフィン酸基(−POH(OH))、スルホンイミド基(−SONHSO−)、フェノール性水酸基(−Ph(OH)(Phはフェニル基を表す))などの陽イオン交換基を有するものが挙げられる。また、第1級や第3級アミン基などの陰イオン交換基を有するものも使用できる。これらの中でも、スルホン酸基またはホスホン酸基を有する高分子電解質がより好ましく、スルホン酸基を有する高分子電解質がさらに好ましい。また、高分子電解質の重量平均分子量としては5,000〜1,000,000であることが好ましく、15,000〜500,000であることがより好ましい。
【0033】
かかる高分子電解質の具体例としては、例えば、(A)主鎖が脂肪族炭化水素からなる高分子にスルホン酸基および/またはホスホン酸基を導入した高分子電解質;(B)主鎖が芳香環を有する高分子にスルホン酸基および/またはホスホン酸基を導入した高分子電解質;(C)主鎖に実質的に炭素原子を含まないポリシロキサン、ポリフォスファゼンなどの高分子にスルホン酸基および/またはホスホン酸基を導入した高分子電解質;(D)(A)〜(C)のスルホン酸基および/またはホスホン酸基導入前の高分子を構成する繰り返し単位から選ばれるいずれか2種以上の繰り返し単位からなる共重合体にスルホン酸基および/またはホスホン酸基を導入した高分子電解質;(E)主鎖あるいは側鎖に塩基性を有する窒素原子を含み、硫酸やリン酸等の酸性化合物をイオン結合により導入した高分子電解質などが挙げられる。
【0034】
前記(A)の高分子電解質としては、例えば、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリ(α−メチルスチレン)スルホン酸、などが挙げられる。
【0035】
前記(B)の高分子電解質としては、芳香環が直接あるいは2価の基によって連結されて主鎖を形成する高分子で、かつイオン交換基を有するものが挙げられる。ここで、2価の基としては、オキシ基、チオキシ基、カルボニル基、スルホニル基等が例示される。かかる高分子電解質としては、例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリ(アリーレン・エーテル)、ポリイミド、ポリ((4-フェノキシベンゾイル)-1,4-フェニレン)、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニルキノキサレン等の単独重合体のそれぞれにスルホン酸基が導入されたもの、スルホアリール化ポリベンズイミダゾール、スルホアルキル化ポリベンズイミダゾール、ホスホアルキル化ポリベンズイミダゾール(特開平9-110982号公報)、ホスホン化ポリ(フェニレンエーテル)(J.Appl.Polym.Sci.,18,1969(1974))などが挙げられる。
【0036】
また、前記(C)の高分子電解質としては、例えば、ポリフォスファゼンにスルホン酸基が導入されたもの、ホスホン酸基を有するポリシロキサン(Polymer Prep.,41,No.1,70(2000))などが挙げられる。
【0037】
前記(D)の高分子電解質としては、ランダム共重合体にスルホン酸基および/またはホスホン酸基が導入されたものでも、交互共重合体にスルホン酸基および/またはホスホン酸基が導入されたものでも、ブロック共重合体にスルホン酸基および/またはホスホン酸基が導入されたものでもよい。ランダム共重合体にスルホン酸基が導入されたものとしては、例えば、特開平11-116679号公報に記載の、スルホン化ポリエーテルスルホン-ジヒドロキシビフェニル共重合体が挙げられる。
【0038】
前記(D)の高分子電解質において、ブロック共重合体としては、特開2001-250567号公報に記載のスルホン化された芳香族ポリマーブロックを有するブロック共重合体、特開2003-31232号公報、特開2004-359925号公報、特開2005-232439号公報、特開2003-113136号公報等に記載のポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホンを主鎖構造とするブロック共重合体を挙げられる。また、これらのブロック共重合体の、スルホン酸基の一部または全部をホスホン酸基に置き換えたブロック共重合体が挙げられる。
【0039】
なお、上記ブロック共重合体は、イオン交換基を有するセグメントと、イオン交換基を実質的に有しないセグメントとを有することが好ましいが、これらのセグメントを一つずつ有するブロック共重合体であってもよく、いずれか一方のセグメントを2つ以上有するブロック共重合体であってもよく、両方のセグメントを2つ以上有するマルチブロック共重合体のいずれであってもよい。
【0040】
また、上記(E)の高分子電解質としては例えば、特表平11-503262号公報に記載の、リン酸を含有せしめたポリベンズイミダゾールなどが挙げられる。
【0041】
前記に例示した中でも、本発明の製造方法が好適に適用される高分子電解質は、その元素組成におけるフッ素原子の含有量が15重量%以下である高分子電解質(以下、「炭化水素系高分子電解質」と呼ぶ。なお、元素組成におけるフッ素原子の含有量が15重量%を超えるものを「フッ素系高分子電解質」と呼ぶ)である。かかる炭化水素系高分子電解質は、フッ素系高分子電解質に比べてスルホン酸基の解離度が小さいためか水媒体中での分散性が悪く、従来の製造方法ではエマルションを安定化するための乳化剤を必要とすることもあった。これに対し、前述の工程(イ)および工程(ロ)を有する製造方法によれば、乳化剤を使用することなく、炭化水素系高分子電解質からなる高分子電解質粒子を分散媒中に安定して分散させることができる。これにより、燃料電池用触媒層などに使用した場合に、発電性能を向上させることできるようになる。
【0042】
さらに、本発明の製造方法は、フッ素系高分子電解質に対しても、発電性能向上に寄与することが期待される。かかるフッ素系高分子電解質としては、Dupont社製の「Nafion(登録商標)」、旭化成社製の「Aciplex(登録商標)」、旭硝子社製の「Flemion(登録商標)」などの市販のフッ素系高分子電解質に加え、特開平9-102322号公報に記載された炭化フッ素系ビニルモノマと炭化水素系ビニルモノマとの共重合によって作られた主鎖と、スルホン酸基を有する炭化水素系側鎖とから構成されるスルホン酸型ポリスチレン−グラフト−エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)や、米国特許第4,012,303号公報または米国特許第4,605,685号公報に準拠して得られる、炭化フッ素系ビニルモノマと炭化水素系ビニルモノマとの共重合体に、α,β,β-トリフルオロスチレンをグラフト重合させ、これにクロロスルホン酸、フルオロスルホン酸等のスルホン化剤にてスルホン酸基を導入して得られる樹脂などが例示される。
【0043】
<高分子電解質エマルション>
本発明の製造方法を経て得られる高分子電解質エマルションは、含有する高分子電解質粒子を含めた粒子の平均粒径が、動的光散乱法により求められた体積平均粒子径で表して、100nm〜200μmの範囲である。かかる平均粒径としては、好ましくは、150nm〜10μmの範囲であり、さらに好ましくは、200nm〜1μmの範囲である。高分子電解質粒子の平均粒径が上記範囲であると、得られる高分子電解質エマルションがより高度の貯蔵安定性を有するものとなり、被膜を形成させたとき、該被膜の均一性が比較的良好となる利点がある。
【0044】
さらに、上記の高分子電解質に加え、所望の特性に応じ、燃料電池用電極に適用したとき、触媒の被毒が生じない範囲で他の成分を含んでいてもよい。このような他の成分としては、高分子に使用される可塑剤、安定剤、密着助剤、離型剤、保水剤、無機あるいは有機の粒子、増感剤、レベリング剤、着色剤等の添加剤が挙げられる。これらの成分の触媒被毒能の有無は、サイクリックボルタンメトリー法による公知の方法により判定することができる。
【0045】
本発明により得られる高分子電解質エマルションを、燃料電池用電極の構成成分として使用する場合には、燃料電池の動作中に、該電極において過酸化物が生成し、この過酸化物が拡散しながらラジカル種に変化し、これが該電極と接合しているイオン伝導膜に移動して、該イオン伝導膜を構成しているイオン伝導材料(高分子電解質)を劣化させることがある。この場合、かかる不都合を回避するために、高分子電解質エマルションには、ラジカル耐性を付与し得る安定剤を添加することが好ましい。
【0046】
これらの他の成分は、高分子電解質分散液の作製工程において高分子電解質とともに溶媒に溶解して、高分子電解質溶液を調製することにより、本発明の製造方法に適用することができる。また、このような他の成分は、高分子電解質エマルションを構成する高分子電解質粒子中に含まれていてもよいし、分散媒中に溶解していてもよいし、高分子電解質粒子とは別に、他の成分からなる微粒子として存在していてもよい。
【0047】
<用途>
本発明の製造方法から得られる高分子電解質エマルションは、プライマーやバインダー樹脂、高分子固体電解質膜など種々の用途に応用可能であり、特に、乳化剤などの添加剤に起因する特性低下が懸念される用途に好適に使用できる。例えば、高分子電解質エマルションを製膜して乾燥させることによって燃料電池用イオン伝導膜として使用できる。このとき膜厚としては、0.01〜1000μmの範囲が好ましく、0.05〜500μmの範囲がより好ましい。また、製膜方法としては従来公知の方法を用いることができ、例えば、キャストフィルム成形やスプレー塗布、刷毛塗り、ロールコーター、フローコーター、バーコーター、ディップコーターなどが挙げられる。
【0048】
また、本発明で得られた高分子電解質エマルションと白金担持カーボンとを配合した触媒インクを、イオン伝導膜の両面に塗布することにより、膜電極接合体(以下、「MEA」と記すことがある)を得ることができる。あるいは、本発明で得られた高分子電解質エマルションをイオン伝導膜の両面に塗布し、塗膜が乾燥する前に、白金担持カーボンと電解質とが複合された粒子を載せることによってもMEAを得ることができる。
【0049】
さらに、本発明で得られた高分子電解質エマルションをMEAの両面に塗布し、触媒層にガスを供給するためのガス拡散層を接着することにより、膜電極ガス拡散層接合体(以下、「MEGA」と記すことがある)を得ることができる。
【0050】
次に、本発明の高分子電解質エマルションにより得られたMEAを備える固体高分子型燃料電池(以下、単に「燃料電池」と記すことがある)について説明する。
【0051】
図2は、本発明に係る燃料電池の一例を示す概略断面構成図である。図2に示すように、燃料電池10は、イオン伝導膜12の両側に、これを挟むように触媒層14a,14bが形成されており、これが本発明の製造方法で得られるMEA20である。さらに、両面の触媒層には、それぞれ、ガス拡散層16a,16bを備え、該ガス拡散層にセパレータ18a,18bが形成されている。ここで、MEA20とガス拡散層16a,16bを備えたものが、上述のMEGAである。
【0052】
ここで、触媒層14a,14bは、燃料電池における電極層として機能する層であり、これらのいずれか一方がアノード触媒層となり、他方がカソード触媒層となる。
【0053】
ガス拡散層16a,16bは、MEA20の両側を挟むように設けられており、触媒層14a,14bへの原料ガスの拡散を促進するものである。このガス拡散層16a,16bは、電子伝導性を有する多孔質材料により構成されるものが好ましい。例えば、多孔質性のカーボン不織布やカーボンペーパーが、原料ガスを触媒層14a,14bへ効率的に輸送することができるため、好ましい。
【0054】
セパレータ18a,18bは、電子伝導性を有する材料で形成されており、かかる材料としては、例えば、カーボン、樹脂モールドカーボン、チタン、ステンレス等が挙げられる。かかるセパレータ18a,18bは、図示しないが、触媒層14a,14b側に、燃料ガス等の流路となる溝が形成されていると好ましい。
【0055】
そして、燃料電池10は、上述したようなMEGAを、一対のセパレータ18a,18bで挟み込み、これらを接合することで得ることができる。
【0056】
なお、本発明の燃料電池は、必ずしも上述した構成を有するものに限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜異なる構成を有していてもよい。
【0057】
また、燃料電池10は、上述した構造を有するものを、ガスシール体等で封止したものであってもよい。さらに、上記構造の燃料電池10は、直列に複数個接続して、燃料電池スタックとして実用に供することもできる。そして、このような構成を有する燃料電池は、燃料が水素である場合は固体高分子形燃料電池として、また燃料がメタノール水溶液である場合は直接メタノール型燃料電池として動作することができる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明する。
【0059】
(合成例1)
アルゴン雰囲気下、共沸蒸留装置を備えたフラスコに、ジメチルスルホキシド(以下、「DMSO」と呼ぶ)600mL、トルエン200mL、2,5−ジクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム26.5g(106.3mmol)、末端にクロロ基を有する、下記ポリエーテルスルホン(住友化学製スミカエクセルPES5200P)10.0g、2,2’−ビピリジル43.8g(280.2mmol)を入れて攪拌した。その後バス温を150℃まで昇温し、トルエンを加熱留去することで系内の水分を共沸脱水した後、60℃に冷却した。次いで、これにビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)73.4g(266.9mmol)を加え、80℃に昇温し、同温度で5時間攪拌した。放冷後、反応液を大量の6mol/Lの塩酸に注ぐことによりポリマーを析出させ濾別した。その後6mol/L塩酸による洗浄・濾過操作を数回繰り返した後、濾液が中性になるまで水洗を行い、減圧乾燥することにより目的とするポリアリーレン系ブロック共重合体16.3gを得た。得られた高分子電解質のイオン交換容量は2.72meq/gであり、重量平均分子量は、3.48×10であった。この高分子電解質の化学構造を下記に示す。なお、m,l,n,kはそれぞれ、ブロック共重合体を構成する各セグメントを構成する重合度を表し、「block」の記載は、括弧内の繰返し単位からなるセグメントを有するブロック共重合体であることを示すものである。
【0060】
【化1】

【0061】
(分散液の作製)
合成例1で得られた高分子電解質0.9gをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に1.0重量%になるように溶解させて、高分子電解質溶液100gを作製した。一方、蒸留水900gを3L三角フラスコに仕込み、攪拌速度500rpm(攪拌羽根子:テフロン(登録商標)製、長さ4cm)で攪拌した。ここに、上記のようにして得た高分子電解質溶液100gをビュレットを用いて、滴下速度3〜5g/minで滴下して希釈し、高分子電解質を粒子として析出させた分散液を得た。
【0062】
実施例1
図1に示す装置を用いて、約10.5kgの分散液を循環させながらクロスフロー濾過器で分散媒の一部を除去するとともに、クロスフロー濾過器で除去された分散媒と同量のイオン交換水と分散液とを混合し、分散液からNMPを除去した。クロスフロー濾過器の濾過膜としては、UF膜(Synder社製「UFエレメントSPE1」,分画分子量:1,000)を用いた。濾過膜の膜面積は1.86mであり、膜間差圧は0.4MPaであった。クロスフロー濾過器に供給した分散液の単位時間当たりの量は、2.25×10−4/秒であった。
濾過開始から1時間後、得られた高分子電解質エマルションに含まれる分散媒をガスクロマトグラフィー(検出器:水素炎イオン化検出器)で分析したところ、分散媒の総重量に対して、NMP濃度は検出下限界の1ppm未満となった(化学工学計算上は0.09ppm)。また、クロスフロー濾過器で除去された分散媒量、すなわち分散液と混合したイオン交換水量は220kgであった。
【0063】
比較例1
作製した分散液1000gを、透析膜用セルロースチューブ(三光純薬(株)製UC36−32−100:分画分子量14,000:透析膜面積0.132m)に封入して、温度25℃、圧力1気圧で24時間流水(300mL/min,432L/24h)に曝露し、分散液からNMPを除去した。分散液中の分散媒の総重量に対するNMP濃度の経時変化を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
表1から理解されるように、比較例1の透析膜を用いたNMPの除去では、透析開始24時間後でも、分散液中のNMP濃度は0.5重量%、すなわち5000ppmと、実施例1と比べて格段に高い濃度であった。また、比較例1の透析処理に要した総流水量は24時間で432L(432kg)と、実施例1に比べて多量であった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の製造方法では、高分子電解質分散液に含まれる良溶媒を従来よりも短時間で除去でき、また良溶媒の除去における廃液量を従来よりも少なくでき有用である。
【符号の説明】
【0067】
3 循環槽
4 循環ポンプ
5 クロスフロー濾過器
6 透過液受け容器
10 固体高分子型燃料電池
12 イオン伝導膜
14a,14b 触媒層
16a,16b ガス拡散層
18a,18b セパレータ
20 膜電極接合体(MEA)
51 濾過膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質の良溶媒と貧溶媒とを含む分散媒中に高分子電解質粒子が分散してなる分散液を、クロスフロー濾過器を用いて濾過し前記分散媒の一部を除去して、前記分散液を濃縮する工程を有することを特徴とする高分子電解質エマルションの製造方法。
【請求項2】
前記濃縮した分散液と前記貧溶媒とを混合する工程をさらに有する請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記クロスフロー濾過器における濾過膜の膜間差圧が、0.1〜1.0MPaの範囲である請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
前記クロスフロー濾過器に設ける濾過膜の分画分子量が100〜100,000の範囲である請求項1〜3のいずれか記載の製造方法。
【請求項5】
前記高分子電解質の良溶媒が、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミドおよびジメチルスルホキシドの少なくとも1つである請求項1〜4のいずれか記載の製造方法。
【請求項6】
前記高分子電解質の貧溶媒が水である請求項1〜5のいずれか記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか記載の製造方法を用いて得られることを特徴とする高分子電解質エマルション。
【請求項8】
高分子電解質エマルション中の前記良溶媒の含有量が200ppm以下である請求項7に記載の高分子電解質エマルション。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−79993(P2011−79993A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−234451(P2009−234451)
【出願日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】