説明

高分子電解質膜としてのスルホン化ポリ(アリーレン)フィルム

燃料電池において用いるのに適した高分子電解質膜が、特定のフッ素化重合体の固体状態のスルホン化生成物として、あるいは特定のスルホン化重合体のフッ素化生成物として提供される。構造(6):−(−Ar3(-CHFAr4)−)−によって表される繰返し単位を含むスルホン化重合体が提供され、ここで基Ar3とAr4は、アリール環、アリール環系、およびチオフェン環からなる群から独立して選択され、そしてAr3とAr4のうちの少なくとも一つはスルホネート基で置換される。高分子電解質膜として用いるのに適したフィルムは、このスルホン化重合体から調製される。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
序論
本発明は高分子電解質膜および燃料電池におけるプロトン交換膜としてのそれらの使用に関する。特に本発明は、燃料電池への適用のための高分子電解質を提供するための特定のポリ(アリーレン)フィルムの処理に関する。
【0002】
燃料電池は、電気自動車やその他の適用のための電力源としてますます使用されつつある。典型的な燃料電池は、触媒電極とこの電極の間に形成された膜を有する膜電極集成体を有している。水素燃料は集成体のアノード側に供給され、一方、酸素はカソードに供給される。膜はアノードとカソードの間の電気的な接続を与え、またこれを介して燃料の酸化生成物がアノードから運ばれてカソードにおいて還元された酸素と結合するための媒体を提供する。燃料電池における全体的な反応は、水素と酸素が結合して水と起電電位が生成することである。燃料の酸化生成物は本質的にH+ すなわちプロトンであるので、電解質膜はプロトン伝導膜またはプロトン交換膜(PEM)としても知られている。
【0003】
PEM燃料電池においては水の制御が重要である。プロトンがプロトン交換膜を通過してカソードにおいて酸素と結合するためには、プロトンは水和しなければならない。様々なモデルによると、膜を通して一つのプロトンの輸送が行われるためには7〜11の水分子が必要となる。燃料電池の中の相対湿度が低いとき、プロトンの輸送効率は低く、電池から利用できる電流は低下することが認められている。これを避けるために、燃料電池に湿り気を与えることによって膜が乾燥するのを防ぐことができる。しかし、燃料電池の動作温度が上昇するとき、加圧が必要となることがあり、これにより余分な費用がかかってしまう。
【0004】
プロトンの伝導性を維持するのに必要な高圧において外部からの加湿を行うとき、PEM燃料電池は約95℃以下の温度で動作する。低い湿度において膜が乾燥すると、プロトンの伝導性は急速に低下する。
【0005】
当工業分野においては、低い湿度レベルにおいてプロトンを効率よく伝導する新しい膜材料が常に探求されている。コストと耐久性が改善されたPEM燃料電池のための膜を提供することが、さらに望ましいであろう。
【0006】
概要
燃料電池において用いるのに適した高分子電解質膜が、特定のフッ素化重合体の固体状態のスルホン化生成物として、あるいは特定のスルホン化重合体のフッ素化生成物として提供される。例えば、高分子電解質膜を得るためにスルホン化されるフッ素化重合体は、次のように表される単量体からなる繰返し単位を含む:
【0007】
【化1】

【0008】
基Ar1とAr2は、アリール環、アリール環系、およびチオフェン環からなる群から独立して選択される。基Ar1とAr2は、C1 〜C4アルキル基で置換されうるか、あるいは高分子電解質膜としてのスルホン化生成物の使用を妨げない他の置換基で置換されうる。
【0009】
上で示される繰返し単位を含むフッ素化重合体は、対応する次の構造を有する重合体から様々な態様で調製される:
【0010】
【化2】

【0011】
ここでAr1とAr2は上で述べた通りである。最初の工程において、側鎖のカルボニルはアルコールに還元される。還元に続いて、アルコールは適当なフッ素化試剤を用いてフッ素化される。次いで、フッ素化重合体から製造された固体状態のフィルムは、このフィルムを公知のスルホン化剤に晒すことによってスルホン化される。
【0012】
本発明は、以下の詳細な説明と添付図面から、より完全に理解されるであろう。
好ましい態様の詳細な説明
好ましい態様についての以下の説明は本質的に単に例示のものであり、本発明とその適用あるいは用途を限定することは決して意図されていない。
【0013】
一つの態様において、燃料電池において用いるのに適した高分子電解質膜が提供される。この膜はフッ素化重合体の固体状態のスルホン化生成物を含む。スルホン化反応が行われるとき、フッ素化重合体は好ましくはフィルムの形状になっている。フッ素化重合体は次の構造によって表される繰返し単位を含む:
【0014】
【化3】

【0015】
ここでAr1とAr2は、アリール環、アリール環系、およびチオフェン環からなる群から独立して選択される。基Ar1とAr2は、場合によりC1 〜C4アルキル基および/またはハロゲンで置換される。様々な態様において、Ar1とAr2は、フェニル環およびチオフェン環からなる群から独立して選択される。様々な態様において、膜は、フッ素化重合体のフィルムをスルホン化剤と接触させることを含むプロセスによって製造される。別の態様において、上で述べたようにして高分子電解質膜とフィルムを製造するための方法が提供される。この方法は、アリーレン重合体(arylene polymer)を還元剤と反応させることによって還元された重合体を生成させることを含む。還元された重合体は次の構造の繰返し単位を含む:
【0016】
【化4】

【0017】
ここでAr1とAr2は上で述べた通りである。次いで、還元された重合体の溶液からフィルムが溶液流延される。次いで、フィルムをフッ素化剤と反応させて、フッ素化したフィルムを生成させる。最後に、フッ素化フィルムをスルホン化剤と接触させることによって高分子電解質フィルムを調製する。
【0018】
様々な態様において、本発明の高分子電解質フィルムは、アリーレン繰返し単位を含む主鎖上に置換されたアリーロイル-(ベンゾイル-またはアリールケト-)基を側基として含むポリ(アリーレン)重合体について還元、フッ素化、およびスルホン化の一連の工程を実施することによって製造される。ここで用いるとき、アリーロイル基は次のように表される構造を有する:
【0019】
【化5】

【0020】
ここでAr’ は一般に上記の構造で与えられる基Ar2に相当する。
さらなる態様において、次の構造によって表される繰返し単位を含むスルホン化重合体が提供される:
【0021】
【化6】

【0022】
ここで基Ar3とAr4は、アリール環、アリール環系、およびチオフェン環からなる群から独立して選択され、そしてAr3とAr4のうちの少なくとも一つはスルホネート基で置換される。高分子電解質膜として用いるのに適したフィルムは、このスルホン化重合体から調製される。
【0023】
別の態様において、上述の高分子電解質膜を含む燃料電池が提供される。一つの態様において、燃料電池は、アノード、カソード、および膜電極集成体(MEA)を形成するようにアノードとカソードの間に配置される高分子電解質膜を含む。燃料電池はさらに、アノードに隣接する水素燃料のための入口とカソードに隣接する酸素のための入口を有する。燃料電池は、アノード側に水素燃料を供給し、そしてカソード側に酸素を供給することによって動作する。
【0024】
様々な態様において、アリーレン重合体が還元されることによって、還元された重合体が形成される。次いで、還元された重合体はフッ素化され、それによりフッ素化した重合体が形成される。最後に、フッ素化重合体はスルホン化され、それにより高分子電解質膜として有用な本発明のスルホン化重合体が提供される。本発明の高分子電解質膜の合成に包含される変換に関連する様々な重合体と反応条件は以下で説明されるであろう。
【0025】
本発明のアリーレン重合体は、重合体の主鎖にアリール基またはチオフェン環を含む。それらの重合体は、ニッケルまたはその他の適当な触媒組成物(これについては後にさらに説明する)によって触媒されるアリール(またはチオフェン)のジハロゲン化物の単独重合または共重合によって調製される。主鎖中のアリール基またはチオフェン環のうちの少なくとも幾つかのものは、側鎖を付与するアリールアシル基で置換される。
【0026】
アリール基に加えて、アリーレン重合体は主鎖中にアリール環系を含んでいてもよい。ここで用いるとき、アリール基とはフェニル、ナフチルまたはその他の単環構造または多環縮合構造を指し、一方、アリール環系とはアリール環の一部を形成しない結合によって互いに付加した複数のアリール基を含む系を指す。アリール環系の例としてはジフェニルがあり、これについては後にさらに説明する。
【0027】
一つの見地において、アリーレン重合体はアリーレン繰返し単位を含み、これは次の構造によって表されるものを含む:
【0028】
【化7】

【0029】
ここでAr1とAr2は、アリール環、アリール環系、およびチオフェン環からなる群から独立して選択され、そしてこれらは、場合によりC1 〜C4アルキル基で置換されるか、あるいはこれらから製造される高分子電解質膜の機能を妨げない他の置換基で置換される。この見地において、アリーレン繰返し単位の少なくとも一部はアリールアシル基 -C(O)-Ar’ を含み、ここでAr’ はフェニルなどのアリール基である。
【0030】
アリーレン重合体は他のアリーレン基から誘導された繰返し単位を含んでいてもよい。アリーレン基とアリーレン環系の非限定的な例としては次のものがある:
【0031】
【化8】

【0032】
【化9】

【0033】
アリーレン単量体のさらなる非限定的な例としては、米国特許6,515,101号(Sheares)に記載されているようなフッ素化単量体があり、この特許の開示は本明細書中に参考文献として援用される。
【0034】
適当なアリーレン重合体としてはポリ(3-ベンズアシル-2,5-チオフェン) およびこれの置換された誘導体、さらにはポリ(2,5-ベンゾフェノン) およびその誘導体がある。前者は次の構造の単量体のニッケルで触媒される重合によって合成することができる:
【0035】
【化10】

【0036】
これはここでは、それの非置換形で示されている。フェニル環またはチオフェン環の上での様々な置換も同様に可能である。あるいは、アリーレン重合体は、ジクロロチオフェン単量体をアリールアシル基を含まない他のアリーレン単量体と重合させることによって合成することができる。
【0037】
ポリ(2,5-ベンゾフェノン) は次の構造を有する単量体を重合させることによって合成することができる:
【0038】
【化11】

【0039】
あるいは、上の構造におけるフェニル環は、C1 〜C4アルキル基、アリール基、または高分子電解質膜の動作を妨げないその他の基で置換されてもよい。これらの重合のために適した重合体および条件は、例えば「Polymer Preprints, 1997, Vol. 38」の263〜264ページ(Wang他)、および「Polymer Preprints, 1997, Vol. 38」の170〜171ページ(Pasquale他)に示されていて、これらの開示は本明細書中に参考文献として援用される。
【0040】
上記のアリーレン重合体は、それぞれの単量体を配合したものを適当な触媒系とともに加熱することによって合成することができる。アリーレン重合体を合成するための触媒系は周知であり、それらは例えば米国特許6,555,626号に記載されていて、この特許の開示は本明細書中に参考文献として援用される。触媒系は好ましくは、遷移金属塩と1以上の配位子との組合わせ、あるいは遷移金属の上に配位した1以上の配位子を有する遷移金属のいずれかを含む。触媒系はさらに還元剤を含む。重合の速度を増大させるために触媒系に塩を添加してもよい。
【0041】
遷移金属塩の例としては、塩化ニッケル、臭化ニッケル、ヨウ化ニッケル、およびニッケルアセチルアセトネートなどのニッケル化合物がある。パラジウム化合物、鉄化合物、およびコバルト化合物を用いてもよい。配位子の例としては、トリフェニルホスフィン、2,2’-ビピリジン、1,5-シクロオクタジエン、その他同種類のものがある。還元剤の例としては、鉄、亜鉛、マンガン、アルミニウム、マグネシウム、ナトリウム、およびカルシウムがある。様々な態様において、亜鉛、マグネシウム、およびマンガンが好ましい。
【0042】
上で言及したように、アリーレン重合体はポリ(アリーレン) の主鎖からのアリールアシル基の側鎖を有する。本発明の高分子電解質膜を製造するための方法の次の工程において、側鎖のアリールアシル基のケト基を第二アルコールに変換するために、アリーレン重合体は還元される。アルコールへの還元は、好ましくは溶液中で行われる。多くの適当な還元剤が当分野でよく知られている。非限定的な例はテトラヒドロフラン中のボラン(BH3)である。様々な態様において、用いられるべき特定の還元剤は特に重要ではないが、しかし、高い収率、比較的低い温度、あるいは後続の反応を妨げる不純物が比較的少ないことなど、好ましい特性を有するものが選ばれるべきである。このようにして、上記のアリーレン重合体上での還元剤の作用によって、還元された重合体が調製される。
【0043】
次の工程において、還元された重合体はフッ素化され、これによりフッ素化した重合体が得られる。次の構造からなる繰返し単位を有する重合体を還元するために、還元された重合体上でのフッ素化剤の反応によってフッ素化反応が生じる:
【0044】
【化12】

【0045】
適当なフッ素化剤は当分野で知られているものの中から選択することができる。好ましいフッ素化剤は三フッ化ジエチルアミノ硫黄(DAST)である。その他のフッ素化剤としては、限定するものではないが、三フッ化ビス(2-メトキシエチル) アミノ硫黄、四フッ化硫黄、四フッ化セレン、三フッ化コバルト、および三フッ化フェニル硫黄がある。
【0046】
好ましい態様において、還元された重合体のフッ素化は、この還元された重合体からなる溶液流延されたフィルムについて行われる。還元された重合体は公知の手順に従って溶液流延される。フッ素化の工程は、流延されたフィルムをフッ素化剤の溶液と接触させることによって行われる。
【0047】
次の工程において、(好ましくは上述したフィルムの形態の)フッ素化重合体はスルホン化され、それにより高分子電解質膜が得られる。スルホン化の工程により、フッ素化重合体上にスルホン酸基が導入される。重合体上のスルホン酸基の正確な位置は明確には知られていないが、しかしスルホン酸基は重合体のアリール環とチオフェン環に付加すると予想される。スルホン酸基は、無水硫酸、発煙硫酸、クロロスルホン酸、硫酸、および亜硫酸水素ナトリウムなどの公知のスルホン化剤を用いて公知の条件の下でフッ素化重合体フィルムをスルホン化することによって、組み込むことができる。様々な態様において、スルホン化は、(好ましくはフィルムの形態の)フッ素化重合体をスルホン化剤の溶液と接触させることによって行われる。接触の時間と温度は、所望に応じてより多くのスルホン酸基あるいはより少ないスルホン酸基が組み込まれるように、変化させることができる。
【0048】
上述の方法は次のように図解することができて、ここでAr1とAr2はフェニル基として表されている:
【0049】
【化13】

【0050】
あるいは、上述したようにしてまずアリールケトン重合体をスルホン化して、次いで還元しそしてフッ素化し、次に加水分解工程を行うことによって、スルホン化したフィルムを調製することができる。このような代替の手順は、Ar1とAr2がフェニルである場合について次のように図解される:
【0051】
【化14】

【0052】
スルホン酸基が組み込まれたことは、公知の方法によって膜のイオン交換容量(IEC)を測定することによって確定することができる。例えば、膜を水中に浮遊させ、そして水酸化ナトリウムを用いてpHが7になるまで滴定する。膜のIECは重合体のmeq SO3H/gで便宜的に表され、ここでmeqはミリ当量を表す。高分子電解質膜として用いるためには、十分なプロトン伝導性を付与するために、十分なスルホン酸基が組み込まれるべきである。他方では、高いレベルのスルホン酸基の組み込みは避けるべきである。というのは、それによってスルホン化フィルムは水中で可溶性になりやすいからである。重合体中に含まれるスルホン酸基の量は一般に、重合体の1グラム当り0.5〜約5meq 、好ましくは重合体の1グラム当り約1〜約4meqである。好ましい態様において、IECは3.2meq/g以下であって約0.5meq/gよりも大きい。
【0053】
フィルムをクロロスルホン酸溶液に浸した後、それは、クロロスルホン酸基をスルホン酸基へと加水分解させるために水に晒される。一つの態様において、フィルムは沸騰水に適当な時間、例えば約1時間晒される。
【0054】
上述の方法によって製造された高分子電解質フィルムを膜電極集成体(MEA)のプロトン交換膜として用いることによって、本発明に従う燃料電池が提供される。好ましい態様において、プロトン交換膜のスルホネートの含有量は1.7meq/g以上であり、100℃における液体の水の導電率は0.2S/cmよりも大きい。他の好ましい態様において、スルホネートの含有量は1.9meq/g以上である。
【0055】
図1を全体的に参照すると、本発明の一つの好ましい態様に従う三つの個々のプロトン交換膜(PEM)燃料電池が接続されて積層体が形成されている。各々のPEM燃料電池はそれぞれ膜-電極集成体(MEA) 13、15、14を有していて、これらは導電性で不透過性のセパレータープレート16、18によって互いに分離されていて、さらに積層体の各々の端部で末端のセパレータープレート20、22の間に挟まれていて、各々の末端セパレータープレート20、22は電気的に活性な面24、26を一つだけ有している。積層体の中で直列には接続されていない個々の燃料電池はセパレータープレートを有していて、また電気的に活性な面を一つだけ有している。ここで示されているような複数の燃料電池積層体において、好ましいバイポーラセパレータープレート16は典型的に二つの電気的に活性な面28、30を有していて、それら活性な面の各々は分離された反対の電荷を有する別個のMEA 13、15に面している(従って、いわゆる「バイポーラ」プレートである)。ここで説明するように、燃料電池積層体は複数の燃料電池を有する積層体において伝導性のバイポーラセパレータープレートを有するが、しかし本発明は単一の燃料電池だけを有する積層体の中の伝導性のセパレータープレートにも同様に適用できる。
【0056】
MEA 13、15、14およびバイポーラプレート16、18は、積層体の各々の端部においてアルミニウムの締付け板32の間で一緒に積層されていて、端部は末端のプレート要素20、22と接触している。端部の接点である末端のプレート要素20、22および二つのバイポーラセパレータープレート16、18の作用面28、30および31、33は、MEA 13、15、14に燃料と酸化体ガス(すなわちH2とO2)を分配するための多数の気体流通路(図示せず)を有する。非伝導性のガスケットまたはシール(図示せず)が、燃料電池積層体の幾つかの構成要素の間の密封と電気的な絶縁を与える。気体透過性の伝導性拡散媒体34がMEA 13、15、14の電極面に対して圧設されている。燃料電池積層体が組み立てられたとき、伝導性気体拡散層34はMEA 13、15、14の電極を通しての気体の均一な分配を促進し、また積層体の全体に電流を伝えるのを促進する。
【0057】
カソードに隣接する酸素のための入口とアノードに隣接する水素のための入口も設けられている。積層体における各々の燃料電池のカソード側36へ酸素が貯蔵タンク40からカソードに隣接する酸素のための入口を与える適当な供給配管42を通して供給され、一方、燃料電池のアノード側38へ水素が貯蔵タンク44からアノードに隣接する水素のための入口を与える適当な供給配管46を通して供給される。あるいは、周囲からカソード側36へ空気が供給されてもよく、そしてメタノールまたはガソリン改質油(gasoline reformer)あるいはその種の他のものからアノード38へ水素が供給されてもよい。MEA 13、15、14のアノード側のための排気用配管48とカソード側のための排気用配管50が設けられる。カソード側について、配管は出口側を示す。積層体への気体の流入と流出は典型的には、図1において代表的な形状として示されているような送風機60によって促進される。積層体の中へ、および積層体の外へ流体を送るためのいかなる手段も実行可能であり、また示されている送風機の形状と数は単なる例示であり、これに限定されるものではない。
【0058】
図1において示されるように、カソードの流出液50が積層体から凝縮器54へ送られ、この凝縮器はカソードの流出液の流れ50における蒸気を液化して回収するために用いられる。液体(例えば水)は貯蔵のために貯水器56へ送られる。カソードからの流出液の流れ50は、MEAの内部で生じた電気化学反応によって発生した水および冷却のために導入された全ての追加の水のために高濃度の蒸気(例えば水蒸気)を含んでいる。水は燃料電池の内部の圧力と温度の条件のために蒸発する。好ましくは、流出液の流れは蒸気で飽和されている(例えば、およそ100%の相対湿度での水の場合)。示されているように、貯水器56を積層体における燃料電池へ相互に連結することによって、供給管61が各々のMEA 13、15、14のカソード側へ水を供給する。場合によって、装置内にポンプ(図示せず)を設けて、貯水器56から積層体への液体の輸送、あるいは装置の他の領域への輸送を促進してもよい。
【0059】
本発明を様々な好ましい態様に関して上で説明した。さらなる非限定的な例を以下の実施例で提示する。
実施例
実施例1
塩化メチレン中にポリ(2,5-ベンゾフェノン) が溶解される(15mLの塩化メチレン中に1gmの重合体)。10mLの1M BH3-テトラヒドロフランの錯体(Aldrich)がシリンジによって添加され、そして混合物は還流において1時間加熱される。ゲル化した反応混合物に25℃においてメタノールが添加される。沈静したものをガス抜き(gassing subsides)した後、ろ過することによって重合体が収集され、水で洗浄され、次いでメタノール乾燥され、そして減圧乾燥される。重合体はテトラヒドロフラン(固体分15%)中で溶解され、そして30ミル(0.030インチ、すなわち約0.075cm)の間隙を有するBirdアプリケーター(塗布装置)を用いてガラス板の上にフィルムとして流延される。乾燥したフィルムはフェニル-CH(OH)-フェニル基に一致するIRスペクトルを有していて、これにおいては全てのカルボニル基または前にあったアリーロイル基がヒドロキシルに変換されている。フィルムは、密封されたZiploc(登録商標)プラスチック袋の中に封入されたガラスの焼付け皿の中で10mLのDAST(三フッ化ジエチルアミノ硫黄)を含む塩化メチレン(100mL)に浸される。フィルムは16時間の浸漬を行った後に反応溶液から取り出され、そして乾燥される。ヒドロキシ基はフッ素によって完全に置き換えられ、このことは赤外分光分析によって示される。得られたフィルムはクロロスルホン酸(塩化メチレン100mL中に1mL)の中に16時間浸される。赤黒いフィルムが取り出され、水中で16時間洗浄され、そして乾燥される。フィルムの酸価は、標定された水酸化ナトリウムを用いる滴定によって測定したところ、2.5meq SO3H/gである。
【0060】
実施例2
実施例1と同様にして膜が製造されるが、ただしスルホン化は30%発煙硫酸を用いる30時間の反応によって行われる。酸価/イオン交換容量は2.5である。湿潤導電率は100℃において0.187S/cmであり、100℃における1時間の水吸収量は35%である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】図1は典型的な燃料電池装置における積層体における三つの電池の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池において用いるのに適した高分子電解質膜であって、フィルムの形状になっているフッ素化重合体の固体状態のスルホン化生成物を含み、フッ素化重合体は次の構造によって表される繰返し単位を含んでいて:
【化1】

ここでAr1とAr2は、アリール環、アリール環系、およびチオフェンからなる群から独立して選択され、そしてC1 〜C4アルキル基で置換されてもよい、前記高分子電解質膜。
【請求項2】
Ar1とAr2はフェニル環を含む、請求項1に記載の膜。
【請求項3】
Ar1はチオフェン環を含む、請求項1に記載の膜。
【請求項4】
Ar1はチオフェン環を含み、そしてAr2はフェニル環を含む、請求項1に記載の膜。
【請求項5】
フッ素化重合体のフィルムをスルホン化剤と反応させることを含むプロセスによって製造された、請求項1に記載の膜。
【請求項6】
スルホン化剤はクロロスルホン酸を含む、請求項5に記載の膜。
【請求項7】
膜のイオン交換容量は約0.5〜約3.2meq SO3H/gである、請求項1に記載の膜。
【請求項8】
請求項1に記載の高分子電解質膜を含む燃料電池。
【請求項9】
高分子電解質フィルムを製造するための方法であって:
アリーレン重合体を還元剤と反応させることによって、次の構造の繰返し単位を含む還元された重合体を生成させること;
【化2】

還元された重合体からフィルムを溶液流延すること;
流延させたフィルムをフッ素化剤と反応させることによって、フッ素化したフィルムを生成させること;および
フッ素化フィルムをスルホン化剤と接触させることによって、高分子電解質フィルムを調製すること;
を含み、ここでAr1とAr2は、アリール環、アリール環系、およびチオフェン環からなる群から独立して選択され、そしてC1 〜C4アルキル基で置換されてもよい、前記方法。
【請求項10】
スルホン化剤はクロロスルホン酸を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
フッ素化剤はDASTを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
Ar1とAr2はフェニル環を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
還元剤はBH3を含み、フッ素化剤はDASTを含み、そしてスルホン化剤はクロロスルホン酸を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
アリーレン重合体は次の繰返し単位:
【化3】

を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
アリーレン重合体は次の繰返し単位:
【化4】

を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
燃料電池であって、
アノード、
カソード、
アノードとカソードの間に配置された高分子電解質膜、
アノードに隣接する水素燃料のための入口、および
カソードに隣接する酸素のための入口、
を有していて、高分子電解質膜は次の繰返し単位を有するスルホン化重合体を含み:
【化5】

ここでAr3とAr4は、アリール環、アリール環系、およびチオフェン環からなる群から独立して選択され、そしてAr3とAr4のうちの少なくとも一つはSO3Hで置換される、前記燃料電池。
【請求項17】
高分子電解質膜は100℃において0.2S/cm以上の導電率Sを有する、請求項16に記載の燃料電池。
【請求項18】
Ar3とAr4はフェニル環を含む、請求項16に記載の燃料電池。
【請求項19】
Ar3はチオフェン環を含む、請求項16に記載の燃料電池。
【請求項20】
イオン交換容量が0.5〜5.0meq/gである、請求項16に記載の燃料電池。
【請求項21】
スルホン化重合体を含む高分子電解質膜として用いるのに適したフィルムであって、スルホン化重合体は次の構造の繰返し単位を含み:
【化6】

ここでAr3とAr4は、アリール環、アリール環系、およびチオフェン環からなる群から独立して選択され、そしてAr3とAr4のうちの少なくとも一つはSO3Hで置換される、前記フィルム。
【請求項22】
Ar3とAr4はフェニル環を含む、請求項21に記載のフィルム。
【請求項23】
Ar3はチオフェン環を含む、請求項21に記載のフィルム。

【図1】
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【公表番号】特表2008−515162(P2008−515162A)
【公表日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−534584(P2007−534584)
【出願日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【国際出願番号】PCT/US2005/028466
【国際公開番号】WO2006/038983
【国際公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(590001407)ゼネラル・モーターズ・コーポレーション (118)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL MOTORS CORPORATION
【Fターム(参考)】