説明

高分散性無機ナノ粒子

【課題】 液晶性化合物やその他の液状媒体に対して高濃度に分散する有機物被覆無機ナノ粒子を提供する。
【解決手段】 無機ナノ粒子が芳香族基を含んでもよい炭化水素鎖を有する有機被覆分子によって被覆された有機被覆無機ナノ粒子であって、有機被覆分子が一分子中に2〜5個の無機ナノ粒子に吸着可能な官能基をもち、この官能基が無機ナノ粒子表面に吸着した際の有機被覆分子の占有面積が前記炭化水素鎖の最大断面積の1.5倍以上となる有機分子である、有機被覆無機ナノ粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機ナノ粒子の技術分野に属し,特に無機ナノ粒子表面と親和性を有する官能基を持つ有機化合物によって被覆された無機ナノ粒子、ならびに液晶性化合物あるいは重合性溶媒中などの液状媒体中への分散性が向上された無機ナノ粒子、また無機ナノ粒子の凝集制御ならびにその無機ナノ粒子複合組織体またはその無機ナノ粒子複合樹脂材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノメートル領域の直径を有する無機ナノ粒子は、バルク状態にある金属や半導体とは異なる性質を示す。このようなナノ粒子は、非線形光学特性などの特異な性質を示すことから、光素子や超微細配線の作成材料、電子電導材料、電導性塗料、磁性材料やセンサー材料として優れた機能を提供できる。また電子一個で動作する単一電子トランジスタの候補として、物理および材料分野において注目されている。また低温で融解挙動を示すなど力学的物性、熱的物性などにおいても注目を集めている。
【0003】
このようにナノサイズの無機塊は、極めて小さいそのサイズに起因した特異的な機能性を有するので、次世代の機能性素材として大きく期待されている。しかし、その高い表面エネルギーのため、凝集しやすい特徴を持つ。そのため粒子を安定化させるために何らかの有機物によって被覆される必要がある。
【0004】
有機被覆無機ナノ粒子は、主として高分子鎖やミセルなどの分子集合体、表面電荷の反発を利用したもの、あるいは有機低分子によるものがある。特に低分子系有機被覆剤は、機能性発現のための分子設計が容易なこと、無機ナノ粒子表面における被覆構造が明確であるため、次代の有力な候補として考えられている。しかし、これを実材料として用いるためには、その有機被覆無機ナノ粒子を他の物質と組み合わせて使う必要があるが、その等方的な形状・性質から、他の無機材料や高分子材料、その他高塩濃度溶液などの分散媒に対する混和性・分散性はきわめて低い。このことは無機ナノ粒子機能を実用化するうえでの大きな課題とされている。
【0005】
炭化水素鎖からなる低分子有機被覆剤によって周囲を被覆された無機ナノ粒子は、表面の官能基によってその分散性が支配されている事が多い。したがって混和させる媒体の性質を鑑みて、精密に被覆分子を設計する必要があった。また同時に安定化作用も考えて作成されなければならなかった。つまり材料に応じて、一つ一つ作り変えなければならなかった。例えば、硫黄化合物および窒素化合物などを無機ナノ粒子の被覆剤として用いる場合、モノアルキルチオールやモノアルキルアミンなど一つの吸着部位(硫黄原子や窒素原子)に対して炭化水素鎖が一つのものが用いられてきた(非特許文献1)。このような吸着部位は無機ナノ粒子表面に密に吸着する性質を持つため、被覆分子は、無機ナノ粒子表面において細密にパッキングされながら、無機ナノ粒子を覆っている。従って媒体の極性や粘性等を緻密に考えなければならなかった。媒体の極性を鑑みた例として、液状媒体を液晶分子とする場合に、被覆剤として液晶性を示す化合物も用いられてきた(非特許文献2)。しかし、これらの被覆剤で被覆した無機ナノ粒子においても、被覆分子が密集した状態で無機ナノ粒子表面を被覆した場合、分散媒に対する混和性・分散性は十分ではない事が多く、安定性の問題も多く抱えていた。さらに液晶分子をそのまま被覆剤かつ媒体として使うことも提唱されている。しかしながら金属種が限定され、また実際的に使用する際に不純物の混入を起こしやすくする恐れがある。(特許文献1,2,3)
【0006】
また、樹脂中に無機ナノ粒子を混合させる試みはこれまで多くなされてきたが、十分な分散量は、得られていなかった。さらに、液状の樹脂中で無機ナノ粒子の分散を制御しようとする試みはなされていない。
【非特許文献1】D. V. Leff, P. C. Ohara, J. R. Heath, and W. M. Gelbart, J. Pys. Chem., 1995, 99, 7036
【非特許文献2】Chem. Commun., 2001, 2640-2641
【特許文献1】特開2004−91328号
【特許文献2】特開2003−149683号
【特許文献3】特開2005−148705号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、無機材料、高分子材料、高塩濃度溶液などの分散媒に対する混和性・分散性に優れた無機ナノ粒子およびこれが各種媒体中に分散、凝集した分散体、凝集体等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するため、鋭意検討した結果、従来、無機ナノ粒子表面への吸着部位が一つに対して炭化水素鎖もしくは芳香族構造が一つである被覆剤による被覆がほとんどであったが、無機ナノ粒子表面吸着部位が二つ以上で炭化水素鎖もしくは芳香族構造が一つとした有機被覆剤を用いてナノ粒子を調製したところ、従来の有機被覆無機ナノ粒子に比べ、無機ナノ粒子表面の炭化水素鎖もしくは芳香族構造が少なくなった有機被覆無機ナノ粒子はきわめて高い分散性を多くの液状媒体に対して示すことを知見して本発明を達成した。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)無機ナノ粒子が芳香族基を含んでもよい炭化水素鎖を有する有機被覆分子によって被覆された有機被覆無機ナノ粒子であって、有機被覆分子が一分子中に2〜5個の無機ナノ粒子に吸着可能な官能基をもち、この官能基が無機ナノ粒子表面に吸着した際の有機被覆分子の占有面積が前記炭化水素鎖の最大断面積の1.5倍以上となる有機分子である、有機被覆無機ナノ粒子;
(2)有機被覆分子が1,2−ジチオラン誘導体又は1,2−ジチオレン誘導体である、上記(1)記載の有機被覆無機ナノ粒子;
(3)1,2−ジチオラン誘導体が一般式(I):
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、RはC以上の飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基、またはアミド結合若しくはエステル結合を含むアルキル基若しくは脂環炭化水素基を示す。これらの基は芳香族基を含んでもよい。)で表される化合物である、上記(1)又は(2)記載の有機被覆無機ナノ粒子;
(4)無機ナノ粒子が、Au、Ag、Pd、Pt、Cu、Ni、Co、Fe及びMnから選択した1以上の金属からなる金属ナノ粒子であるか、CdS、CdSe、HgS、PbS、CuS、Inなどの金属イオウ化物又は金属カルコゲナイドからなるナノ粒子であるか、Fe、AgO、TiO、SiOなどの金属酸化物よりなるナノ粒子である、上記(1)〜(3)のいずれか1項記載の有機被覆無機ナノ粒子;
(5)有機被覆無機ナノ粒子が液状媒体中に分散した有機被覆無機ナノ粒子分散体;
(6)液状媒体が液晶性化合物又は重合性液状媒体である、上記(5)記載の有機被覆無機ナノ粒子分散体;
(7)加熱により有機被覆無機ナノ粒子を液状媒体中に分散させた後、冷却して得られる有機被覆無機ナノ粒子配列体又は凝集体;
(8)液状媒体が液晶性化合物である、上記(7)記載の有機被覆無機ナノ粒子配列体又は凝集体;
(9)液状媒体が重合性液状媒体である、上記(7)記載の有機被覆無機ナノ粒子凝集体;
(10)上記(9)記載の有機被覆無機ナノ粒子凝集体における重合性液状媒体を硬化して得られる有機被覆無機ナノ粒子凝集体−樹脂複合体;
(11)上記(1)〜(4)のいずれか1項記載の有機被覆無機ナノ粒子の製造方法であって、金属塩と有機被覆分子を溶媒中に溶解させ、還元剤を添加して有機被覆無機ナノ粒子を形成する工程、及び必要により、得られた有機被覆無機ナノ粒子を再沈澱法により沈澱させ、これを濾取して、余剰の有機被覆分子を取り除き、粉末として採取する工程を含む方法;
(12)上記(5)記載の有機被覆無機ナノ粒子分散体の製造方法であって、有機被覆無機ナノ粒子を液状媒体に分散させる工程を含む方法;
(13)上記(6)記載の有機被覆無機ナノ粒子分散体の製造方法であって、有機被覆無機ナノ粒子を液晶性化合物又は重合性液状媒体に分散させる工程を含む方法;
(14)上記(7)記載の有機被覆無機ナノ粒子配列体又は凝集体の製造方法であって、有機被覆無機ナノ粒子を液状媒体に分散させた後、これを冷却する工程を含む方法;
(15)上記(8)記載の有機被覆無機ナノ粒子配列体又は凝集体の製造方法であって、有機被覆無機ナノ粒子をアイソトロピック状態の液晶性化合物中に分散させた後、これを液晶相を示す温度領域にする工程を含む方法;
(16)上記(9)記載の有機被覆無機ナノ粒子凝集体の製造方法であって、有機被覆無機ナノ粒子を重合性液状媒体に分散させた後、これを冷却する工程を含む方法;
(17)上記(10)記載の有機被覆無機ナノ粒子凝集体−樹脂複合体の製造方法であって、有機被覆無機ナノ粒子を重合性液状媒体に一旦加熱分散させる工程、その冷却過程において形成される有機被覆無機ナノ粒子の凝集体のサイズを冷却温度により制御しながら、分散媒である重合性液状媒体を硬化して有機被覆無機ナノ粒子凝集体−樹脂複合体を得る工程を含む方法;及び
(18)無機ナノ粒子が有機被覆分子によって被覆された有機被覆無機ナノ粒子の液状媒体中での分散・凝集を制御する方法であって、有機被覆無機ナノ粒子を液状媒体に加熱して分散させた後、冷却温度を調整することにより有機被覆無機ナノ粒子の分散・凝集状態を制御することを含む方法;
である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の有機被覆無機ナノ粒子は、無機材料、高分子材料、高塩濃度溶液などの分散媒に対する混和性・分散性に優れており、各種液状媒体中に極めて良好に混和、分散する。
【0013】
本発明の有機被覆無機ナノ粒子は、液晶性化合物中で効率的に無機ナノ粒子配列体又は凝集体を形成する。
【0014】
本発明の有機被覆無機ナノ粒子は、重合性液状媒体中に良好に分散する。
【0015】
本発明の有機被覆無機ナノ粒子は、重合性液状媒体を硬化した樹脂中で凝集状態で良好に存在する。
【0016】
本発明によれば、有機被覆無機ナノ粒子の液状媒体中での分散・凝集状態を任意にかつ連続的に制御できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明におけるナノ粒子は、0.5〜100nm、好ましくは1.0〜10nmの粒径を有する粒子を意味する。
【0018】
本発明における無機ナノ粒子は、当業者に公知の無機ナノ粒子であれば良く、例えば、金属ナノ粒子、金属イオウ化物または金属カルコゲナイドからなるナノ粒子(半導体ナノ粒子)、金属酸化物よりなるナノ粒子があげられる。金属ナノ粒子としては、例えば、Au、Ag、Pd、Pt、Cu、Ni、Co、Fe及びMnから選択した金属からなる金属ナノ粒子又は前記金属から選択した2以上の金属からなる金属ナノ粒子があげられる。金属イオウ化物又は金属カルコゲナイドからなるナノ粒子としては、例えば、CdS、CdS、HgS、PbS、CuS、Inなどの金属イオウ化物又は金属カルコゲナイドからなるナノ粒子(半導体ナノ粒子)があげられる。金属酸化物よりなるナノ粒子としては、例えば、Fe、AgO、TiO、SiOなどの金属酸化物よりなるナノ粒子があげられる。
【0019】
本発明における被覆とは、有機被覆分子の分子構造中に存在する無機ナノ粒子表面と高い親和性を持つ官能基をその表面に向け吸着し、無機ナノ粒子全体を覆うことを意味する。このことによって無機ナノ粒子間の凝集等を防ぐ役割を果す。また、液状媒体と直接接する部分となり分散性に大きく影響を与える。
【0020】
本発明における有機被覆分子は、芳香族基を含んでもよい炭化水素鎖を有し、一分子中に2〜5個の無機ナノ粒子に吸着可能な官能基をもち、この官能基が無機ナノ粒子表面に吸着した際の有機被覆分子の占有面積が前記炭化水素鎖の最大断面積の1.5倍以上となる有機分子である。
【0021】
無機ナノ粒子表面に親和性・配位性・結合性を有し、その表面に吸着可能な官能基としては、チオール・ジスルフィドなど硫黄を含むもの、アミンなど窒素原子を含むもの、水酸基、カルボキシル基、カチオン性基(例えば、アンモニウム基(ヒドロキシ基によって置換されていてもよい炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐鎖状アルキル基によって置換されていてもよい)、ピリジニウム基およびホスホニウム基)、アニオン性基(例えば、あるいはカルボキシル基、スルホン酸エステル基、スルホン酸基、燐酸基、およびホスホン酸基およびその塩化合物)なども該当する。
【0022】
例えば、硫黄原子又はアミン基を含む化合物が、それの硫黄又は窒素原子を介して、ナノメーターサイズの金や銀のような無機ナノ粒子表面と共有結合あるいは、配位結合しながら自己組織化して該無機ナノ粒子の周りに単分子膜を形成することはよく知られている。本発明で用いる有機被覆無機ナノ粒子もこのような現象を利用して形成されるものである。
【0023】
本発明における無機ナノ粒子表面に吸着した際の有機被覆分子の占有面積は、無機ナノ粒子表面積を吸着した有機被覆分子の数で除したものを意味し、加熱重量減少率測定や元素分析測定などから得られる一粒子中の無機部分と有機部分の重量割合と無機ナノ粒子の透過型電子顕微鏡観察による粒子径測定から計算できる。
【0024】
本発明における炭化水素鎖の最大断面積は、炭化水素鎖が結晶化もしくは規則配列した状態で得られる単位格子中における一分子あたりの占有する面積を意味し、密度測定やモデリングなどで測定又は計算できる。
【0025】
本発明において、高分散を得るためには、前記占有面積が前記最大断面積の1.5倍〜5倍であることを要するが、好ましくは2.0倍〜5倍、更に好ましくは2.0倍〜3倍である。
【0026】
本発明における有機被覆分子は、芳香族基を含み得る。芳香族基としては、フェニル、ナフチル等が例示できる。
【0027】
本発明における有機被覆分子は、被覆分子内にひとつの吸着官能基と一本の炭化水素鎖を有するのとは異なり、分子内に複数の吸着官能基があり、吸着部位に依存して無機ナノ粒子表面にて有機被覆分子一分子が占有する面積を大きくできる分子構造であることを特徴とする。
【0028】
本発明の有機被覆無機ナノ粒子は、これまで報告された低分子系有機被覆無機ナノ粒子の特徴である高い安定性を同様に有する。また、本発明の有機被覆分子の分子構造中に無機ナノ粒子表面への吸着サイトが複数存在するため、液状媒体の分子が無機ナノ粒子表面に吸着した有機被覆分子を取り囲めるようになる(図1)。したがって有機被覆分子が効果的に溶媒和され、液状媒体に対してより馴染み易い表面を形成し得る。すなわち被覆分子が効果的に溶媒和されることは、分子の運動性が確保され、被覆された無機ナノ粒子全体の分散性を向上させることに繋がり種々の媒体に対して有機被覆無機ナノ粒子が高い分散性を示すという特徴を有する。
【0029】
本発明における有機被覆分子として、1,2−ジチオラン誘導体又は1,2−ジチオレン誘導体が好ましく、これらは、分子末端に1,2−ジチオラン構造又は1,2−ジチオレン構造を有する化合物を意味する。有機被覆分子としては、特に1,2−ジチオラン誘導体が好ましい。
【0030】
本発明における1,2−ジチオラン誘導体は、好ましくは、一般式(I):
【0031】
【化3】

【0032】
(式中、RはC以上の飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基、またはアミド結合若しくはエステル結合、あるいはエーテル結合を含むアルキル基若しくは脂環炭化水素基を示す。これらの基は芳香族基を含んでもよい。)で表される合物である。Rが表す炭素原子数2以上の飽和炭化水素基としては、好ましくは炭素原子数2〜30、より好ましくは炭素原子数6〜18の直鎖状のアルキル基、具体的には、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、n−ノニル、n−ドデシル、n−テトラデシル、n−ペンタデシル、n−ヘキサデシル、n−オクタデシルなどの基を挙げることができる。Rが表す炭素原子数2以上の不飽和炭化水素基としては、好ましくは炭素原子数2〜30、より好ましくは炭素原子数6〜18の直鎖状のアルケニル基またはアルキニル基、具体的には、9−オクタデセニル基などを挙げることができる。Rが表すエーテル結合を含むアルキル基としては、好ましくは炭素数6〜18の、エーテル結合を含む直鎖状アルキル基を挙げることができ、具体的にはラウリルオキシプロピル基などの基を挙げることができる。Rが表すエーテル結合を含む脂環式炭化水素基としては、好ましくは炭素数4〜6の、エーテル結合を含むシクロアルキル基(例えば、シクロヘキシル基など)、炭素数4〜6の、エーテル結合を含むシクロアルケニル基など、具体的にはテトラヒドロフルフリル基などの基を挙げることができる。上記の基を置換または中断することができる芳香族基としては、具体的にはフェニル、ナフチルなどの基を挙げることができる。また上記の基を置換または中断することができる結合様式としては、アミド結合、エステル結合、エーテル結合が挙げられ、2級および3級アミンであってもよい。Rとしては、具体的には、n−ヘキサデシル、9−オクタデセニル基などの基を挙げることができるが、上記の組み合わせによって構成されるものであればよい。但し、分岐構造はあまり望ましくない。
【0033】
本発明における有機被覆分子としては、1,2−ジチオラン誘導体又は1,2−ジチオレン誘導体のほかに、例えば、以下の構造を有する有機化合物が挙げられる。
【0034】
【化4】

【0035】
(式中、各Rは、それぞれ独立して、上述に記載のRと同様の群から選択される基を示す。)
【0036】
本発明の有機被覆無機ナノ粒子は、金属塩と有機被覆分子を溶媒中に溶解させ、還元剤を添加して有機被覆無機ナノ粒子を形成する工程、及び必要により、得られた有機被覆無機ナノ粒子を再沈澱法により沈澱させ、これを濾取して、余剰の有機被覆分子を取り除き、粉末として採取する工程を含む方法によって製造できる。
【0037】
金属塩を例示する。金塩としては、塩化金酸四水和物(HAuCl4・(H2O)4)、塩化金酸三水和物(HAuCl4・(H2O)3)、銀の塩としては、酢酸銀(AgCOOCH)、硝酸銀(AgNO3)、パラジウム塩としては、塩化パラジウム酸ナトリウム(H2PdCl6、H2PdCl4およびそれらの塩化合物)、ロジウム塩としては塩化ロジウム(III)ナトリウム二水和物(Na〔RhCl〕・2HO)、白金塩としては、塩化白金酸誘導体(H2PtCl4、H2PtCl6およびそれらの塩化合物)が挙げられ、溶媒としては、低極性溶媒、例えばトルエン、メチルシクロヘキサンなどを用いることができる。溶媒中の該有機化合物の濃度は、溶媒に対する有機化合物の溶解性によって異なるが、例えば0.1〜50mMの濃度の溶液とすることができる。還元剤としては、水素化ホウ素ナトリウムなどのアルカリ金属水素化ホウ素酸塩類;アンモニウム水素化ホウ素酸塩類、ヒドラジン系化合物、ジメチルアミノエタノール、ジメチルエチルアミンなどの2級、3級アミン化合物などを用いることができる。また水素、またはジボランなどのガスを用いることもできる。還元剤の添加量は、特に規定されず、イオン性無機化合物の金属イオンを還元させる量が最低限あればよい。再沈殿は、有機被覆無機ナノ粒子に対して貧溶媒であり、有機被覆分子にとって良溶媒となる媒体を添加にする方法により行うことができる。余剰の有機被覆分子は、再沈殿精製により取り除くことができ、その結果として粉末の有機被覆無機ナノ粒子が得られる。
【0038】
本発明の有機被覆無機ナノ粒子は、液状媒体中に良好に高濃度で分散する。ここで、液状媒体とは、液体又は流動性を有する媒体を意味し、例えば、液晶性化合物、重合性液状媒体、有機溶媒等を含む。
【0039】
本発明の有機被覆無機ナノ粒子は、アイソトロピック状態の液晶性化合物は液状であるため、これに良く分散し、さらに、液晶相まで冷却した際には、液晶の配向に誘起され、液晶中において有機被覆無機ナノ粒子が配列体又凝集体を形成する。液晶性化合物とは、ある温度(この温度は限定されないが、有機被覆無機ナノ粒子をこわさない温度)で液晶性を示す化合物をいう。従来公知の有機被覆無機ナノ粒子も、分散量は少ないものの、同様に液晶性化合物中に分散し、配列体又は凝集体を形成し得る。ここで、配列体とは、有機被覆無機ナノ粒子が規則的に配列して集積している状態を意味し、凝集体とは、配列体に比べ、集合形態がランダムであり、数個から数百個の集まりからなるものを意味する。
【0040】
液晶性化合物として、代表的なものを示す。例えば、ネマチック液晶性化合物として4−シアノ−4’−n−ペンチルビフェニル、4−シアノ−4’−n−ペンチルオキシビフェニル、4−シアノ−4’−n−ヘプチルビフェニル、4−シアノ−4’−n−ヘプチルオキシビフェニルなどのシアノビフェニル型液晶性化合物、n−アミル 4−(4−エトキシフェノキシカルボニル)フェニルカーボネート、ブチル 4−カルボキシフェニルカーボネート、n−ブチル 4−(4’−メトキシフェノキシカルボニル)フェニルカーボネート、4−カルボキシフェニル n−アミルカーボネート、エチル 4−(4’−エトキシフェノキシカルボニル)フェニルカーボネート、n−ヘプチル 4−(4’−エトキシフェノキシカルボニル)フェニルカーボネート、メチル 4−(4’−エトキシフェノキシカルボニル)フェニルカーボネートなどのフェニル炭酸エステル型液晶性化合物、4,4’−アゾキシジアニソール4,4’−アゾキシフェネトール、4,4’−ジ−n−アミルオキシアゾキシベンゼン、4,4’−ジ−n−ブトキシアゾキシベンゼン、4,4’−ジ−n−ドデシルオキシアゾキシベンゼン、4,4’−ジ−n−ヘキシルオキシアゾキシベンゼン、4,4’−ジ−n−ノニルオキシアゾキシベンゼン、4,4’−ジ−n−オクチルオキシアゾキシベンゼン、4,4’−ジ−n−プロポキシアゾキシベンゼンなどのアゾキシベンゼン型液晶性化合物、その他、4’−n−アミロキシベンジリデン−4−シアノアニリン、ベンジリデン−2−ナフチルアミン、4’−n−ブトキシベンジリデン−4−アセチルアニリン、4’−n−ブトキシベンジリデン−4−シアノアニリン、4−n−ブトキシベンジリデン−4’−ペンチルアニリン、4’−n−ブトキシカルボニルオキシベンジリデン−4−メトキシアニリン、4’−シアノベンジリデン−4−n−ブトキシアニリン、4’−シアノベンジリデン−4−エトキシアニリン、4’−シアノベンジリデン−4−n−ヘキシルオキシアニリン、4’−エトキシベンジリデン−4−アセチルアニリン、4’−エトキシベンジリデン−4−n−ブチルアニリン、4’−エトキシベンジリデン−4−シアノアニリン、4’−n−ヘキシルオキシベンジリデン−4−シアノアニリン、N−(4−メトキシベンジリデン)−4−アセトキシアニリン、4−[(4−メトキシベンジリデン)アミノ]アゾベンゼン、4−[(4−メトキシベンジリデン)アミノ]ベンゾニトリル、4−[(4−メトキシベンジリデン)アミノ]ビフェニル、4−[(4−メトキシベンジリデン)アミノ]桂皮酸、4−[(4−メトキシベンジリデン)アミノ]桂皮酸n−ブチルエステル、4−[(4−メトキシベンジリデン)アミノ]桂皮酸エチルエステル、4−[(メトキシベンジリデン)アミノ]スチルベンN−(4−メトキシベンジリデンアニリン、N−(4−メトキシベンジリデン)−4−n−ブチルアニリン、4−(4−メトキシベンジリデン)−4−ヒドロキシアニリン、N−(4−メトキシ−2−ヒドロキシベンジリデン)−4−n−ブチルアニリン、4’−n−プロポキシベンジリデン−4−シアノアニリン、テレフタルビス(4−フルオロアニリン)、テトラフタルビス(p−フェネチジン)、N,N’−ビスベンジリデンベンジジン、N,N’−ビスベンジリデン−3,3’−ジクロロベンジジンp−ジアニサル−3,3’−ジクロロベンジジンアゾキシベンゼン−4,4’−ジカルボン酸ジエチルエステルなどの棒状液晶性化合物があげられる。
【0041】
またコレステリック液晶性化合物としてコレステロール n−アミルカーボネート、コレステロール n−ブチルカーボネート、コレステロール エチルカーボネート、コレステロール n−ヘプチルカーボネート、コレステロール n−ヘキシルカーボネート、コレステロール イソブチルカーボネート、コレステロール イソプロピルカーボネート、コレステロール メチルカーボネート、コレステロール n−ノニルカーボネート、コレステロール n−オクチルカーボネート、コレステロール オレイルカーボネート、コレステロールアセテート、コレステロールベンゾエート、コレステロールブチレート、コレステロール n−カプレート、コレステロール n−カプリレート、コレステロールクロロホルメート、コレステロールトランス桂皮酸、コレステロール 2,4−ジクロロベンゾエート、コレステロールエナンテート、コレステロールホルメート、コレステロール n−ヘキサノエート、コレステロールヒドロ桂皮酸、コレステロールフタル酸水素、コレステロール琥珀酸水素、コレステロールラウレート、コレステロールリノレエート、コレステロールミリステート、コレステロールオレエート、コレステロールパルミテート、コレステロールペラルゴネート、コレステロールフェニルアセテート、コレステロールプロピオネート、コレステロールステアレート、コレステロール n−吉草酸、コレステリルブロミド、コレステリルクロリドなどがあげられる。ディスコティック液晶性化合物として、ベンゼン、トリフェニレン、トルクセン、ポルフィリン、フタロシアニンなどの円盤状分子のアルキル誘導体があげられる。液晶性化合物は、これらの混合物であってもよい。特に好ましくは、4−シアノ−4’−n−ペンチルビフェニル、トリフェニレンのアルキル誘導体である。
【0042】
有機被覆無機ナノ粒子は、液晶性化合物中に0.001〜50重量%、好ましくは1〜20重量%の濃度で好ましくは粉末の形態で添加される。液晶性化合物中に添加した有機被覆無機ナノ粒子は、アイソトロピック状態の液晶性化合物中に均一に分散した後、液晶相を示す温度領域で比較的安定に存在しうる(従来公知の有機被覆無機ナノ粒子はあまり安定ではない)。ネマティック液晶性化合物のような構造秩序性の低い液晶性化合物の場合、有機被覆無機ナノ粒子は、例えば、一軸に配向した液晶中に独立に分散した形態をとることができる。この場合、有機被覆ナノ粒子の特別な集積体は形成されない。とりわけ相溶性が低い場合、球状のランダム集積体を形成する場合もあるが、この分散性は液晶性化合物の性質に大きく依存する。これに対してディスコティック液晶など長距離にわたり一次元的なカラム層を安定に形成するような液晶性化合物中においては、アイソトロピック相まで加熱させ、ゆっくりと液晶相温度領域まで温度を降下させることにより有機被覆無機ナノ粒子は液晶の配向にそってに配列するが、円盤状液晶分子のアルキル鎖の長さや液晶温度により高度な配向を促進できる。有機被覆無機ナノ粒子の配列体は、例えば、一次元的に配列した有機被覆無機ナノ粒子が同軸方向に並んだ形状をとることができる。これらの配列体又は凝集体は、表示素子としての液晶性化合物において、高視野角や電場に対する高速応答を付与する。またナノ粒子が高秩序に並んだカラーフィルターや二色性を示す。
【0043】
液晶性化合物中での有機被覆無機ナノ粒子配列体又は凝集体は、有機被覆無機ナノ粒子をアイソトロピック状態の液晶性化合物中に分散させた後、これを液晶相を示す温度領域にすることによって得ることができる。
【0044】
本発明の有機被覆無機ナノ粒子は、液晶性化合物以外の各種液状媒体中にも良好に分散し、分散体となる。従来公知の有機被覆無機ナノ粒子も、分散量は少ないものの、同様に分散する。ここで、分散体とは、有機被覆無機ナノ粒子が独立あるいは数百個の集合状態を形成しながら、分散し、沈殿を生じない分散液を意味する。液状媒体としては、液体又は液状であり、かつ有機被覆無機ナノ粒子を破壊しない媒体であれば限定されないが、例えば、有機溶媒、重合性液状媒体が挙げられる。有機溶媒として、エタノール、プロパノール、クロロホルム、トルエンなどが挙げられる。重合性液状媒体として、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソボルニルアクリレート(IB)、ベンジルアクリレート(Bz)、あるいはこれらのメタクリレート体などがあげられる。その他、重合性液状媒体としては、例えば、エポキシ化合物(エピクロロヒドリン:ECH)、オキセタン化合物などがあげられる。オキセタン化合物(OXT−221、OXT−211、OXT−212、OXT−101、CEL−2021P、CEL−2000、CEL−3000(東亞合成))は、たとえば以下の分子構造を有し得る。
【0045】
【化5】

【0046】
重合性液状媒体として、さらに、光架橋性樹脂を挙げることができる。光架橋性樹脂としては、紫外線及び可視光の照射で硬化(架橋)が可能で、(メタ)アクリレート系オリゴマー、(メタ)アクリレート系モノマーまたはそれらの混合物と、これらのオリゴマー、モノマー、またはそれらの混合物を重合硬化させるのに十分な量の光重合開始剤(a)とを主成分としているもの、及びエポキシ基含有化合物、ビニル化合物、オキセタン環を有する化合物、脂環式エポキシ化合物またはそれらの混合物と、これら化合物又はその混合物を重合硬化させるのに十分な量の光重合開始剤(b)とを主成分としているものが用いられる。
【0047】
上記(メタ)アクリレート系オリゴマーは、(メタ)アクリレート基を分子末端または側鎖に1つ以上有するオリゴマーであり、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、メラミン(メタ)アクリレート等がある。これらを単独または2種類以上併用して用いることができる。
【0048】
上記(メタ)アクリレート系モノマーは、(メタ)アクリレート基を分子末端または側鎖に1つ以上有するモノマーであり、例えば、ジシクロペンタジエンモノ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエンエトキシ(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドン、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等がある。これらを単独または2種類以上併用して用いることができる。
【0049】
上記光重合開始剤(a)は、波長200〜600nmの紫外線及び可視光領域の光を照射することで活性ラジカルを発生し重合反応を進行させるもので、ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテルなどのベンゾイン系光重合開始剤、ジエトキシアセトフェノンなどのアセトフェノン系光重合開始剤、チオキサントン、ジエチルチオキサントンなどのチオキサントン計光重合開始剤等がある。これらを単独または2種類以上併用して用いることができる。光重合開始剤の添加量は、(メタ)アクリレート系オリゴマー、(メタ)アクリレート系モノマー、またはそれらの混合物100重量%に対して、0.01〜20重量%で使用される。
【0050】
上記エポキシ基含有化合物は、1分子中に1個以上のエポキシ基を有するオリゴマーであり、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ポリグリシジルエーテル、脂環式エポキサイド、ヒトダイン系エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ダイマー酸変性エポキシ樹脂、NBR変性エポキシ樹脂、CTBN変性エポキシ樹脂等がある。これらを単独または2種類以上併用して用いることができる。
【0051】
上記ビニル化合物は、例えば、アルキルビニルエーテル類、スチレン、アルキニルビニルエーテル類、アリールビニルエーテル類、ルキルジビニルエーテール類等がある。これらを単独または2種類以上併用して用いることができる。
【0052】
オキセタン環を有する化合物は、例えば、オキセタンアルコール、キシリレンジオキセタン、アリルオキセタン、オキセタニルシルセスオキサン、トリエトキシシリルプロポキシオキセタン等がある。これらを単独または2種類以上併用して用いることができる。
【0053】
上記光重合開始剤(b)とは、波長200〜600nmの紫外線及び可視光領域の光を照射することで酸を発生し、発生した酸を触媒にすることで重合反応を進行させるもので、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、ジアゾニウム塩、アジド化合物、スルホン酸エステル化合物等がある。例えばトリアリルスルホニウムヘキサフルオロアンチモン類縁体、トリアリルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート類縁体、P,P−ジアルキルジアリルヨードニウム塩ヘキサフルオロアンチモン類縁体、P,P−ジアルキルジアリルヨードニウム塩ヘキサフルオロホスフェート類縁体等が挙げられる。これらを単独または2種類以上併用して用いることができる。光重合開始剤の添加量は、エポキシ基含有化合物、ビニル化合物オキセタン環を有する化合物またはそれらの混合物100重量%に対して、0.01〜20重量%使用される。
【0054】
有機被覆無機ナノ粒子は、液晶以外の液状媒体中に0.001〜50重量%、好ましくは1〜50重量%の濃度で添加する。有機被覆無機ナノ粒子は、加熱することでより多くの量を液状媒体中に分散できる。この分散は、液状媒体をより高温加熱することにより強化又は促進しうる。加熱温度は、液状媒体により変化するが、例えば、0〜150℃、好ましくは60℃〜各溶媒の沸点近くの温度である。この分散体は、冷却により凝集させて凝集体とすることができる。ここで、凝集体とは、数個から数百個の有機被覆無機ナノ粒子がランダム形状、主に球状に集積した塊を意味する。分散体又は凝集体は、加熱冷却の繰り返しによって、何度も分散と凝集を可逆的に繰り返し行うことができるという特性を有する。冷却温度又は加熱温度を変化することにより、有機被覆無機ナノ粒子の分散・凝集状態を任意かつ連続的に制御できる。従来公知の有機被覆無機ナノ粒子も、分散量は少ないものの、同様に分散・凝集させることができる。
【0055】
有機被覆無機ナノ粒子を重合性液状媒体に加熱して分散させることにより、重合性液状媒体中に分散した有機被覆無機ナノ粒子分散体を得ることができる。重合性液状媒体中に分散した有機被覆無機ナノ粒子分散体は、該重合性液状媒体を加熱、光の照射等により重合、硬化することにより、有機被覆無機ナノ粒子が重合性液状媒体の硬化物である樹脂中に分散した有機被覆無機ナノ粒子分散体−樹脂複合体とすることができる。重合、硬化は、各重合性液状媒体に応じて、当業者に公知の方法で行い得る。
【0056】
また、重合性液状媒体中に分散した有機被覆無機ナノ粒子分散体は、その冷却過程において形成される有機被覆無機ナノ粒子の凝集体のサイズを冷却温度により制御しながら、分散媒である重合性液状媒体を硬化して凝集状態の有機被覆無機ナノ粒子凝集体−樹脂複合体とすることができる。有機被覆無機ナノ粒子凝集体−樹脂複合体は、分散と凝集を制御しつつ硬化できるので、任意の分散・凝集状態の複合体が得られるという特性を有する。また、硬化により得られた複合体を硬化後により高温の加熱処理により無機ナノ粒子を融合させ、電気伝導性や熱伝導性を樹脂複合体に付与できる。
【0057】
本発明は、さらに、有機被覆分子によって被覆された有機被覆無機ナノ粒子(従来公知の有機被覆無機ナノ粒子を含む)の液状媒体中での分散・凝集を制御する方法も含み、この方法は、有機被覆無機ナノ粒子を液状媒体に加熱して分散させた後、冷却温度を調整することにより有機被覆無機ナノ粒子の分散・凝集を制御することを含む。得られた凝集体の加熱温度を調整することにより、有機被覆無機ナノ粒子の分散・凝集を制御することも可能である。本発明の液状媒体中の有機被覆無機ナノ粒子は、分散体と凝集体の間を温度調節により相互に変換可能である。
【実施例】
【0058】
以下の化合物を有機被覆剤として合成した。
【0059】
【化6】

【0060】
実施例1 有機被覆分子1,2−ジチオラン−3−ペンタン酸 9−オクタデセニルアミド(II)とその他の誘導体(III)および(IV)の合成
500ml三角フラスコにα−DL−リポ酸(Mw:206.33)10g(48.4mmol)、N,N−ビス(2−オキソ−3−オキサゾリジニル)ホスフィン酸クロリド[東京化成Mw:254.57]12.3g(48.4mmol)を入れ、ジクロロメタン75mlを加え、さらにトリエチルアミン[関東化学Mw:101.19]10.19g(100mmol)を加え氷冷下で1時間攪拌した。次に、ジクロロメタン100mlにトリエチルアミン50.1g(50.0mmol)、蒸留精製した9−オクタデセニルアミン[Mw:267]12.9g(48.4mmol)を加えたものを滴下ロートにより90分かけて滴下した。その後、5時間攪拌し、イオン交換水100mlを加え塩酸水溶液によりpH5程度にして過剰のトリエチルアミンを水相に移した。分液漏斗により有機相を分取し、無水硫酸ナトリウムを加え乾燥させた。溶媒のジクロロメタンを減圧留去し、メタノールにより再結晶を行い、淡黄色粉末を得た。得られた生成物を同定するためFT−IR測定ならびにH−NMR、元素分析測定を行い、化合物(II)であることを確かめた。
【0061】
同様の手順に従い、原料アミンをオクタデシルアミン、ドデシルアミンに代えて(III)および(IV)を合成した。
【0062】
実施例2 有機被覆分子1,2−ジチオラン−3−ペンタン酸 9−オクタデセニルエステル(V)とその他の誘導体(VI)および(VII)の合成
500ml三角フラスコにα−DL−リポ酸(Mw:206.33)10g(48.4mmol)、蒸留精製した9−オクタデセニルアルコール[Mw:268.48]13.0g(48.4mmol)、触媒量のp−トルエンスルホン酸・一水和物[Mw:190.22]を入れ、トルエン300mlを加え、この容器にディーンスタークトラップを付して6時間加熱還流攪拌した。溶媒を減圧留去した後、クロロホルムに溶解させ、5wt%炭酸水素ナトリウム水溶液200mlと3回振とうし、分液漏斗により有機相を分取した。クロロホルム相に無水硫酸ナトリウムを加え乾燥させた。これをろ過した後、溶媒のクロロホルムを減圧留去し、水−メタノール混合溶媒により再結晶を行い、淡黄色粉末を得た。得られた生成物を同定するためFT−IR測定ならびにH−NMR、元素分析測定を行い、化合物(V)であることを確かめた。
【0063】
同様の手順に従い、原料アミンをオクタデシルアルコール、ドデシルアルコールに代えて(VI)および(VII)を合成した。
【0064】
実施例3 有機被覆剤分子ビス[9−オクタデセノイルアミノエチル]ジスルフィド(VIII)の合成
500ml三角フラスコに蒸留精製した1−カルボキシ−9−オクタデセン[Mw:296]5.8g(19.7mmol)、N,N−ビス(2−オキソ−3−オキサゾリジニル)ホスフィン酸クロリド[東京化成Mw:254.57]5.0g(19.7mmol)を入れ、ジクロロメタン75mlを加え、さらにトリエチルアミン[関東化学Mw:101.19]4.0g(40mmol)を加え氷冷下で1時間攪拌した。次に、ジクロロメタン100mlにシスタミン(Mw:152.04)3g(19.7mmol)、トリエチルアミン4.0g(40.0mmol)を加えたものを滴下ロートにより90分かけて滴下した。その後、5時間攪拌し、イオン交換水100mlを加え塩酸水溶液によりpH5程度にして過剰のトリエチルアミンを水相に移した。分液漏斗により有機相を分取し、無水硫酸ナトリウムを加え乾燥させた。溶媒のジクロロメタンを減圧留去し、メタノールにより再結晶を行い、淡黄色粉末を得た。得られた生成物を同定するためFT−IR測定ならびにH−NMR、元素分析測定を行い、化合物(VIII)であることを確かめた。
【0065】
実施例4 有機被覆金ナノ粒子の調製
特に硫黄を吸着部位とする有機被覆剤に対して安定なナノ粒子を形成する金属種である金(塩化金酸)を用いて有機被覆無機ナノ粒子を作成した。
【0066】
500ml容三角フラスコにテトラ‐n‐オクチルアンモニウムブロミド(TOAB)のトルエン溶液(50mM、80ml)を取り、ホットスターラーを用いて20℃で撹拌しながらテトラクロロ金(III)酸四水和物水溶液(30mM、30ml)を加えた。有機層の液色が赤色を呈し、AuClが有機層に移行したことを確認した後、さらに激しく撹拌しながら水素化ホウ素ナトリウム水溶液(0.4M、25ml)を少量ずつ加えた。液色は赤色から黒赤色へと変化した。次に化合物(II)191mg(MW:455.81、(II):Au:=:0.42mmol eq.)を加え撹拌を続けた。3時間以上撹拌した後、分液漏斗により有機層を分取した。さらにロータリーエバポレーターにより約10mlまで減圧濃縮した。エタノールを加えて沈澱を生成させ、これをメンブレンフィルターで濾過し、さらに温エタノール(50℃)にて3回洗浄し、黒色粉末を得た。
【0067】
この手順と全く同様な方法にて化合物(II)に代えて化合物(III)、(IV)、(V)、(VI)(VII)を用いて下表の条件で金ナノ粒子を作成した。この際、それぞれの被覆分子について20℃での調製と60度での調製を行った。
【0068】
【表1】

【0069】
なお、金ナノ粒子表面に吸着した際の有機被覆分子の占有面積は、金ナノ粒子の粒子径や調製条件にもよるが、40〜70Å程度であり、各有機被覆分子の炭化水素鎖の最大断面積は、概ね19〜21Å程度であるため、該占有面積は、それぞれ、該最大断面積の約2倍以上であった。
【0070】
参考例1
500ml容三角フラスコにテトラ‐n‐オクチルアンモニウムブロミド(TOAB)のトルエン溶液(50mM、80ml)を取り、マグネチックスターラーを用いて20℃および60℃で撹拌しながらテトラクロロ金(III)酸四水和物水溶液(30mM、30ml)を加えた。有機層の液色が赤色を呈し、AuClが有機層に移行したことを確認した後、ドデカンチオール170mg(MW:202.46、0.84mmol)を加え撹拌を続けた。さらに激しく撹拌しながら水素化ホウ素ナトリウム水溶液(0.4M、25ml)を少量ずつ加えた。液色は赤色から黒赤色へと変化した。
【0071】
3時間以上撹拌した後、分液漏斗により有機層を分取した。さらにロータリーエバポレーターにより約10mlまで減圧濃縮した。エタノールを加えて、沈澱を生成させ、これをメンブレンフィルターで濾過して回収した。
【0072】
この手順と全く同様な方法にてドデカンチオール(DT)に代えてオクタデカンチオール(ODT)、(VIII)を用いて下表の条件で金ナノ粒子を作成した。この際、それぞれの被覆分子について20℃での調製と60℃での調製を行った。
【0073】
その結果は下表に示した。
【0074】
【表2】

【0075】
なお、金ナノ粒子表面に吸着した際の有機被覆分子の占有面積は、金ナノ粒子の粒子径や調製条件にもよるが、17〜20Å程度であり、各有機被覆分子の炭化水素鎖の最大断面積は、概ね19〜21Å程度であるため、該占有面積は、それぞれ、該最大断面積の約1.0倍程度であった。
【0076】
実施例5 液晶性化合物中の有機被覆金ナノ粒子配列体の製造
実施例2および参考例1にて作成した有機被覆金ナノ粒子の粉末をそれぞれ、所定量(液晶性化合物によるが概ね、1〜100mg)取り、液晶性化合物(50〜1000mg)中に添加し、一旦、各液晶性化合物がアイソトロピック状態を十分に示す温度まで加熱してよく撹拌し、一時間ほどその温度を保持した。さらに各液晶性化合物においてアイソトロピック温度と液晶状態の温度に一時間保持してで、上澄みを採取(場合によっては0.2ミクロンのミリポアフィルターによって濾液を採取)して、直接重量測定、またはTG測定により、金属含有量を算出した。
【0077】
用いた液晶性化合物は、次のとおりである。4−シアノ−4’−n−ペンチルビフェニル(5CB)、4−シアノ−4’−n−ペンチルオキシビフェニル(5OCB)、4−シアノ−4’−n−オクチルビフェニル(8CB)、4−シアノ−4’−n−ペンチルビフェニル、(8OCB)、コレステリルステアレート、コレステリルオレート、コレステリルペラルゴネート、2,3.6,7,10,11−ヘキサアルコキシトリフェニレン(アルコキシ基は、それぞれ−O(CH)nCHで表され、n=5,7,9,11,13,15,17である)
【0078】
【表3】

【0079】
【表4】

【0080】
いずれの液晶性化合物に対しても、有機被覆金ナノ粒子は、通常の有機溶媒のように室温で直接的に高分散することは難しく(但し分散しないわけではない)、一旦加熱によりアイソトロピック状態にすることが不可欠であった(図2)。
【0081】
それぞれ上記の表に示したとおり、本発明の有機被覆金ナノ粒子は、従来よく用いられていた有機被覆分子中にある吸着官能基が一個に対して一本のアルキル鎖があるようなタイプに比べ、高い分散性を示した。また有機被覆無機ナノ粒子の分散性は、無機ナノ粒子の無機核径に大きく依存することが明らかとなった。コレステリック液晶性化合物に対しても同様な結果を得た。
【0082】
液晶性化合物中で、本発明の有機被覆無機ナノ粒子が、どのような状態で分散しているかを確認するために、透過型電子顕微鏡による観察を行った。上記Au(II)60と数種の液晶性化合物との複合体の一例を示す。液晶性化合物として、4−シアノ−4’−n−ペンチルビフェニル(5CB)を用いた場合、この金ナノ粒子と混合させ(5wt%)、パスツールピペットでカーボン蒸着した電子顕微鏡測定用の銅グリッド(TEMグリッド)上に溶液を一滴滴下して、一旦アイソトロピック相まで加熱した。このときTEMグリッドおよびピペットは、あらかじめ乾燥器内で溶液と同じ温度に加熱しておいた。さらに、この溶液を室温まで冷却してTEM観察試料を作製した。これらを透過型電子顕微鏡で観察した。得られた観察結果を図3に示す。5CBはネマティック相を示す液晶性化合物で、マクロな配向を有するが、規則構造を特に持たない液晶性化合物である。従って、金ナノ粒子は、5CB中で特に配列することはなかったが、粒子一つ一つは独立に分散しており、集合体を形成しないことが分かった。特に今回用いたトリフェニレン誘導体液晶性化合物では、本発明の有機被覆無機ナノ粒子のみが分散した。
【0083】
図4、5,6には2,3.6,7,10,11−ヘキサアルコキシトリフェニレン(n=5,11)を液晶性化合物分子として用いた場合を示した。試料作成法は、一旦加熱して混合させ、それを滴下して、もう一度グリッド上で加熱することで調製した。2,3.6,7,10,11−ヘキサドデシルオキシトリフェニレンを媒体とした場合、観察時は、温度をかけることができないため、結晶状態を観察することになる。しかしながら、結晶状態で、ナノ粒子は拡散できないと考えられるため、液晶状態が、冷却によってそのまま結晶状態になっており、液晶状態のナノ粒子の分散状態が保持されているものと考えられる。
【0084】
図4に10wt%で金ナノ粒子が分散した状態のものを示した。重なり合って液晶性化合物のカラム相の一本は観察できないものの、一軸配向して金ナノ粒子が配列していることが分かる。これをより鮮明に見るために、2wt%の試料を調製して観察したところ、やはりナノ粒子が一次元的に配列しているのが分かる。また液晶性化合物のドメインサイズに従って一次元配向しているドメインがナノ粒子の配列によって見て取ることができる(図5)。図6に示されるように2,3.6,7,10,11−ヘキサヘキシルオキシトリフェニレン中に分散した金ナノ粒子も一次元状に配列し、その一次元配列構造が束なっている様子が観察された。図7に示されるように、配向性の強いディスコティック液晶性化合物中では、アイソトロピック状態ではランダムに分散し、冷却時にはカラムにそってナノ粒子が配列するものと思われる。液晶性化合物も通常の液状媒体と同様に有機被覆無機ナノ粒子を高濃度に分散させうることが分かった。これは、液晶性化合物媒体でも被覆分子の効果的な溶媒和が大きく働いているものと考えられる(図8)。また(V)〜(VII)のエステル結合型の化合物においてもアミド結合型化合物(II)〜(IV)とほぼ同様の結果を得た。
【0085】
実施例6 重合性液状媒体中の有機被覆金ナノ粒子分散体の製法
実施例2および参考例1と同様に調製した金ナノ粒子(4〜5nm平均粒子径)の粉末をそれぞれ、所定量(モノマーによるが概ね、1〜200mg)取り、各モノマー1ml中に添加し、ほぼ各モノマーの沸点達するまで加熱してよく撹拌し、加熱状態と20℃での状態にて保持して、それぞれの状態で上澄みを採取(場合によっては0.2ミクロンのミリポアフィルターによって濾液を採取)して、直接重量測定、またはTG測定により、金属含有量を算出した。
【0086】
モノマーとして、メチルアクリレート(MA)、エチルアクリレート(EA)、イソボルニルアクリレート(IB)、ベンジルアクリレート(Bz)、ヒドロキシエチルアクリレート(OH)、メチルメタクリレート(MM)及びエチルメタクリレート(EM)を用いた。
【0087】
【化7】

【0088】
【表5】

【0089】
上表にモノマーに関する分散量を示した。OHのように両末端に極性基を持つようなモノマーに関しては、従来型、本発明の有機被覆無機ナノ粒子ともに分散しなかったが、そのほかのモノマーに対しては、上述の液晶性化合物と同様に本発明の有機被覆無機ナノ粒子のほうが、高い分散性を示した。一例として、Au(ODT)室温とAu(II)室温のエチルメタクリレート分散液室温での状態概観写真を示した(図9)。室温においてAu(ODT)は全く分散性を示さなかったのに対して、Au(II)では5mg/ml以上の高い分散性を示した。エポキシ化合物においても同様の結果が得られた。また(V)〜(VII)のエステル結合型の化合物においてもアミド結合型化合物(II)〜(IV)とほぼ同様の結果を得た。
【0090】
実施例7 有機被覆無機ナノ粒子−樹脂複合体の製造及び有機被覆無機ナノ粒子の集合・凝集状態の制御
本発明の特徴の一つは、有機被覆無機ナノ粒子と樹脂との複合体の作成が可能なことである。これは本発明の有機被覆無機ナノ粒子はもとより、従来型の有機被覆無機ナノ粒子にも適用が可能である。また実施例6の知見から、室温で分散せずに、加熱時に分散し、加熱冷却の繰り返しにより何度も分散と凝集を繰り返すことができることがわかった。
【0091】
一例として、Au(ODT)の樹脂中における凝集状態の制御、固定化を示す。エチルメタクリレートを液状分散媒として、Au(ODT)2g/lの濃度に調節した分散液を作成した。まず、温度によってどのような集合状態を示すかを検討するために、UV−Visスペクトル測定を行った。これをあらかじめ100℃程度で加熱しておいた、紫外可視吸収(UV−Vis)スペクトル用のセル(光路長10mm)に移し、自然冷却させた。この試料の時間変化、各段階のUV−Visスペクトル測定を行い、金ナノ粒子のプラズモン吸収の変化を観測した(図10)。有機被覆金ナノ粒子の凝集状態は、おおよそこのプラズモン吸収の変化により議論することができる。分散媒の沸点近くまで加熱することにより、有機被覆金ナノ粒子は、独自に分散し、赤色を呈した。放冷により温度が下がってくるに従って、プラズモン吸収は、長波長側へシフトして、一旦吸収増大を起した。これらの現象は、有機被覆無機ナノ粒子が集合体を形成していることを意味する。また図11では、その概観図を示した。赤色だった分散液は、少しずつ懸濁して、青みを帯びた色へと変化して行き、最終的には沈殿を生じてきた。これは、時間が経過したことにより温度が変化し、集合状態が変化していることを表している。
【0092】
さらにその状態を透過型電子顕微鏡により観察した。図12に、加熱後、0分、10分、60分経過時の状態を示した。0分ではほとんど独立状態にあった有機被覆金ナノ粒子が、徐々に二次粒子を形成して行き(10分)、二次粒子が成長・凝集している(60分)ことが明らかである。
【0093】
この凝集の過渡的状態を固定化(固体化)するために、EM/光重合開始剤(1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン)/架橋剤(ヘキサメチレンジアクリレート)をそれぞれ100/3/3の重量比で加え、UV照射によって重合した。固定化した様子を図13に示した。無機ナノ粒子が全く入っていないもの、加熱後すぐに硬化したもの、10分経過したもの、2時間経過したものを示した。時間の経過とともに赤みを失い、紫・青色を呈し、さらには沈殿を生じて色味がなくなっていることが分かる。これは分光学測定や、透過型電子顕微鏡観察に対応したものである。
【0094】
このように分散液中での有機被覆無機ナノ粒子の様々な集合状態を加熱分散後の冷却条件により作り出すことが可能で、さらにそれらを光硬化によって樹脂中に固定化できた。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の有機被覆無機ナノ粒子は、種々の液状又は固体媒体に対して高い分散性や良好な凝集性を示すため、各媒体との複合体は、実材料として用いることができる。本発明の有機被覆無機ナノ粒子複合材料は、たとえば、光素子や超微細配線の作成材料、電子電導材料、電導性塗料、導電性接着材料、放熱材料、高熱伝導性材料、薄型液晶性化合物素子用の材料、ゲルアクチュエーター用材料、非線形光学材料、磁性材料、触媒材料、センサー材料や単一電子トランジスタ用材料として優れた特性を有する。特に、超微細配線の作成材料としては、薄型表示素子などの作製、電池分野への応用も期待できる。また、本発明の有機被覆無機ナノ粒子凝集体−樹脂複合体は、電極基材上にキャストフィルムを作製することができるため、金属電極の中間層用材料、薄型表示素子用の材料等への応用の可能性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】従来の有機被覆無機ナノ粒子(左側)及び本発明の有機被覆無機ナノ粒子(右側)の模式図である。
【図2】液晶性化合物中での本発明の有機被覆無機ナノ粒子の分散状態の変化を示す写真である。右側は、25℃の液晶性化合物中での有機被覆ナノ粒子の状態を示し、これをアイソトロピック相まで加熱すると左側のように分散し、液晶性化合物相に冷却すると配列する(真中)。右側の25℃の液晶性化合物中での有機被覆ナノ粒子から真中の状態にすることはできない。
【図3】液晶性化合物中での本発明の有機被覆無機ナノ粒子の分散を示す電子顕微鏡写真である。
【図4】液晶性化合物中での本発明の有機被覆無機ナノ粒子(10重量%)の配列体を示す電子顕微鏡写真である。
【図5】液晶性化合物中での本発明の有機被覆無機ナノ粒子(2重量%)の配列体を示す電子顕微鏡写真である。液晶性化合物の配向に応じた配列体となる。
【図6】液晶性化合物中での本発明の有機被覆無機ナノ粒子の配列体を示す電子顕微鏡写真である。
【図7】液晶状態(下側)及びアイソトロピック状態(上側)の液晶性化合物中での有機被覆無機ナノ粒子の分散又は配列状態を示す模式図である。
【図8】液状媒体中での有機被覆分子の溶媒和効果を示す模式図である。左側が従来の有機被覆無機ナノ粒子であり、右側が本発明の有機被覆無機ナノ粒子である。より多くの媒体分子によって当該被覆分子が取り囲まれている。
【図9】重合性液状媒体中での本発明の有機被覆無機ナノ粒子(右側)及び従来の有機被覆ナノ粒子(左側)の分散状態を示す写真である。
【図10】重合性液状媒体中の有機被覆無機ナノ粒子の冷却過程における紫外・可視可吸スペクトルの変化を示す図である。
【図11】重合性液状媒体中の有機被覆無機ナノ粒子の冷却過程における分散・凝集状態を示す写真である。左側から、加熱後、0分、10分、60分、120分及び240分経過時の状態であり、右側の加熱すると左側に向かって可逆的に変化する。
【図12】重合性液状媒体中の有機被覆無機ナノ粒子の冷却過程における分散・凝集状態を示す電子顕微鏡写真である。左上が加熱後0分経過時の一次粒子での分散を示し、中上下は、加熱後10分経過時の二次粒子での分散を示し、右上下は、加熱後60分経過時の二次粒子の成長・凝集を示す。凝集が進むと沈殿する。
【図13】重合性液状媒体中の有機被覆無機ナノ粒子の冷却過程における分散・凝集状態を重合性液状媒体の硬化により固定して得たフィルムの写真である。ナノ粒子の入っていないフィルム(左上)、加熱後すぐに硬化したもの(右上)、加熱後10分経過したもの(左下)及び加熱後2時間経過したもの(右下)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機ナノ粒子が芳香族基を含んでもよい炭化水素鎖を有する有機被覆分子によって被覆された有機被覆無機ナノ粒子であって、有機被覆分子が一分子中に2〜5個の無機ナノ粒子に吸着可能な官能基をもち、この官能基が無機ナノ粒子表面に吸着した際の有機被覆分子の占有面積が前記炭化水素鎖の最大断面積の1.5倍以上となる有機分子である、有機被覆無機ナノ粒子。
【請求項2】
有機被覆分子が1,2−ジチオラン誘導体又は1,2−ジチオレン誘導体である、請求項1記載の有機被覆無機ナノ粒子。
【請求項3】
1,2−ジチオラン誘導体が一般式(I):
【化1】


(式中,RはC以上の飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基、またはアミド結合若しくはエステル結合を含むアルキル基若しくは脂環炭化水素基を示す。これらの基は芳香族基を含んでもよい。)で表される化合物である、請求項1又は2記載の有機被覆無機ナノ粒子。
【請求項4】
無機ナノ粒子が、Au、Ag、Pd、Pt、Cu、Ni、Co、Fe及びMnから選択した1以上の金属からなる金属ナノ粒子であるか、CdS、CdSe、HgS、PbS、CuS、Inなどの金属イオウ化物又は金属カルコゲナイドからなるナノ粒子であるか、Fe、AgO、TiO、SiOなどの金属酸化物よりなるナノ粒子である、請求項1〜3のいずれか1項記載の有機被覆無機ナノ粒子。
【請求項5】
有機被覆無機ナノ粒子が液状媒体中に分散した有機被覆無機ナノ粒子分散体。
【請求項6】
液状媒体が液晶性化合物又は重合性液状媒体である、請求項5記載の有機被覆無機ナノ粒子分散体。
【請求項7】
加熱により有機被覆無機ナノ粒子を液状媒体中に分散させた後、冷却して得られる有機被覆無機ナノ粒子配列体又は凝集体。
【請求項8】
液状媒体が液晶性化合物である、請求項7記載の有機被覆無機ナノ粒子配列体又は凝集体。
【請求項9】
液状媒体が重合性液状媒体である、請求項7記載の有機被覆無機ナノ粒子凝集体。
【請求項10】
請求項9記載の有機被覆無機ナノ粒子凝集体における重合性液状媒体を硬化して得られる有機被覆無機ナノ粒子凝集体−樹脂複合体。
【請求項11】
請求項1〜4のいずれか1項記載の有機被覆無機ナノ粒子の製造方法であって、金属塩と有機被覆分子を溶媒中に溶解させ、還元剤を添加して有機被覆無機ナノ粒子を形成する工程、及び必要により、得られた有機被覆無機ナノ粒子を再沈澱法により沈澱させ、これを濾取して、余剰の有機被覆分子を取り除き、粉末として採取する工程を含む方法。
【請求項12】
請求項5記載の有機被覆無機ナノ粒子分散体の製造方法であって、有機被覆無機ナノ粒子を液状媒体に分散させる工程を含む方法。
【請求項13】
請求項6記載の有機被覆無機ナノ粒子分散体の製造方法であって、有機被覆無機ナノ粒子を液晶性化合物又は重合性液状媒体に分散させる工程を含む方法。
【請求項14】
請求項7記載の有機被覆無機ナノ粒子配列体又は凝集体の製造方法であって、有機被覆無機ナノ粒子を液状媒体に分散させた後、これを冷却する工程を含む方法。
【請求項15】
請求項8記載の有機被覆無機ナノ粒子配列体又は凝集体の製造方法であって、有機被覆無機ナノ粒子をアイソトロピック状態の液晶性化合物中に分散させた後、これを液晶相を示す温度領域にする工程を含む方法。
【請求項16】
請求項9記載の有機被覆無機ナノ粒子凝集体の製造方法であって、有機被覆無機ナノ粒子を重合性液状媒体に分散させた後、これを冷却する工程を含む方法。
【請求項17】
請求項10記載の有機被覆無機ナノ粒子凝集体−樹脂複合体の製造方法であって、有機被覆無機ナノ粒子を重合性液状媒体に一旦加熱分散させる工程、その冷却過程において形成される有機被覆無機ナノ粒子の凝集体のサイズを冷却温度により制御しながら、分散媒である重合性液状媒体を硬化して有機被覆無機ナノ粒子凝集体−樹脂複合体を得る工程を含む方法。
【請求項18】
無機ナノ粒子が有機被覆分子によって被覆された有機被覆無機ナノ粒子の液状媒体中での分散・凝集を制御する方法であって、有機被覆無機ナノ粒子を液状媒体に加熱して分散させた後、冷却温度を調整することにより有機被覆無機ナノ粒子の分散・凝集状態を制御することを含む方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2007−69270(P2007−69270A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−255383(P2005−255383)
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年3月11日 社団法人日本化学会発行の「日本化学会第85春季年会 講演予稿集 1」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年5月10日 社団法人高分子学会発行の「高分子学会予稿集 54巻1号」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年7月22日 インターネットアドレス(http://pacifichem.abstractcentral.com/planner?NEXT_PAGE=ITINERARY_ABS_DET_POP&ABSTRACT_ID=93477&SESSION_ID=10053&PROGRAM_ID=1412)にて発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年8月22日 社団法人日本化学会コロイドおよび界面化学部会発行の「第58回 コロイドおよび界面化学討論会 講演要旨集」に発表
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(000162434)協立化学産業株式会社 (73)
【Fターム(参考)】