説明

高分解能装置

【課題】密集した目標や妨害等の不要波がある場合であっても、これらを角度軸で高分解能に分離できる高分解能装置を提供する。
【解決手段】 電波を送受信する主アンテナ1と、主アンテナからの信号をビーム合成することによりΣビームおよびΔビームを生成するビーム合成回路2と、主アンテナを共用して構成された補助アンテナからの信号に基づき差ビームを生成する補助ビーム形成回路3と、ビーム合成回路からのΣビームを主アンテナパターンとし、ビーム合成回路からのΔビームまたは補助ビーム形成回路からの差ビームの少なくとも1つを補助アンテナパターンとしてSLC(Sidelobe Canceller)処理するSLC処理部4、5とを備え、SLC処理部によるSLC処理を行いながら電子走査または機械走査によって所定の空間を捜索する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置または受信装置などに適用されて、目標や妨害等の不要波を角度軸で高分解能に分離する高分解能装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーダ装置または受信装置に適用される不要波抑圧装置において、アダプティブ処理を実施することにより、妨害波の到来方向のアンテナ利得を小さくしてヌル点を形成し、妨害波を抑圧するアダプティブヌルステアリングの技術が知られている。図7は、このような不要波抑圧装置の一例として、アダプティブヌルステアリングのシステムであるサイドローブキャンセラ(SLC;Sidelobe Canceller)を説明するための図である。なお、SLCについては、非特許文献1に説明されている。
【0003】
この不要波抑圧装置において、SLC処理回路は、図7(a)に示すように、主アンテナから得られる主アンテナパターンと補助アンテナから得られる補助アンテナパターンとを用いてSLC処理することにより妨害波の到来方向のアンテナ利得を小さくして妨害波を抑圧する。
【0004】
すなわち、SLC処理部は、そのフィードバックループにより、図7(b)に示すように、主アンテナパターンのサイドローブと補助アンテナパターンのレベルを一致させるようにウェイトを変化させる。そして、主アンテナパターンのサイドローブレベルと補助アンテナパターンのレベルを一致させた後に、主アンテナパターンから補助アンテナパターンを減算する。これにより、図7(c)に示すように、主アンテナパターンにヌル点が形成され、妨害波の到来方向に対する感度が低下して、妨害波が抑圧される。
【0005】
図8は、主ビーム方向に応答をもつ補助アンテナ(補助CH)を用いた従来のSLC処理の例を説明するための図である。メインローブから妨害等の不要波が入力すると、SLC処理により妨害等の不要波を抑圧するように動作するが、メインローブ方向の目標や妨害等の不要波まで抑圧するように動作する。その結果、メインローブの利得が低下して、目標や妨害等の不要波を受信できない場合がある。
【非特許文献1】吉田孝監修、“改訂 レーダ技術”、社団法人電子情報通信学会、pp295−296
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来の不要波抑圧装置では、密集した目標や妨害を角度分解する場合に、通常のアンテナで捜索すると、ビーム幅による分離となるため、低分解能である。このため、メインロ−ブから目標と妨害等の不要波が入力すると、上述したように、目標や妨害等の不要波を受信できない場合が発生して目標を検出できず、さらに複数の不要波を分離することができないという問題がある。
【0007】
また、サイドローブから妨害が入力した場合に、メインローブから目標や妨害等の不要波が入力すると、これら目標や妨害等の不要波の分離性能が、サイドローブから入力した妨害により劣化するという問題がある。
【0008】
図9は、メインローブから目標と2つの妨害が入力する場合の表示装置の表示例を示す。この表示例から、目標は妨害に埋もれて見えにくくなり、また、2つの妨害も分離できていないことがわかる。
【0009】
本発明は、上述した問題を解消するためになされたものであり、その課題は、密集した目標や妨害等の不要波がある場合であっても、これらを角度軸で高分解能に分離できる高分解能装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明は、電波を送受信する主アンテナと、主アンテナからの信号をビーム合成することによりΣビームおよびΔビームを生成するビーム合成回路と、主アンテナを共用して構成された補助アンテナからの信号に基づき差ビームを生成する補助ビーム形成回路と、ビーム合成回路からのΣビームを主アンテナパターンとし、ビーム合成回路からのΔビームまたは補助ビーム形成回路からの差ビームの少なくとも1つを補助アンテナパターンとしてSLC(Sidelobe Canceller)処理するSLC処理部とを備え、SLC処理部によるSLC処理を行いながら電子走査または機械走査によって所定の空間を捜索することを特徴とする。
【0011】
また、請求項2記載の発明は、電波を送受信する主アンテナと、主アンテナから得られる主アンテナパターンのピークレベルを拘束しながらアダプティブ処理によりウェイトを演算する拘束付アダプティブ処理部とを備え、拘束付アダプティブ処理部によるアダプティブ処理を行いながら電子走査または機械走査によって所定の空間を捜索することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の発明によれば、ΣビームのピークでヌルをもつΔビームまたは差ビームを用いてSLC処理するので、Σビームのピーク方向以外の入射波を抑圧するように動作する。その結果、密集した目標や妨害等の不要波を角度軸で高分解能に分離することができる。
【0013】
また、請求項2記載の発明によれば、Σビームのピークレベルを拘束してアダプティブ処理するので、Σビームのピーク方向以外の入射波を抑圧するように動作する。その結果、密集した目標や妨害等の不要波を角度軸で高分解能に分離することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0015】
本発明の実施例1に係る高分解能装置は、メインローブのピーク方向またはその付近を拘束した補助アンテナパターンを用いたSLC方式を採用している。図1は、本発明の実施例1に係る高分解能装置の構成を示すブロック図であり、図2は、この高分解能装置で使用される演算セルの構成を示す図である。
【0016】
この高分解能装置は、タップドディレイライン(TDL;Tapped Delay Line)型のアダプティブアレイとして構成されている。このTDL型アダプティブアレイについては、例えば、「菊間信良、“アレーアンテナによる適応信号処理”、科学技術出版(1999) pp.17−21」に説明されている。
【0017】
なお、SLC方式を用いた装置の構成および動作は周知であるので、以下では、本発明に直接関係する部分を中心に説明する。
【0018】
この高分解能装置においては、主アンテナ1を構成する複数のアンテナ素子で送受信された信号は、主チャンネル(以下、「主CH」と略する)信号としてビーム合成回路2に送られる。
【0019】
なお、複数のアンテナ素子の代わりに、複数のサブアレイを用いることもできる。ビーム合成回路2は、主アンテナ1から送られてくる主CH信号に基づくビーム合成を行う。このビーム合成により得られたΣビームは、主CH用信号Xmとして、ウェイト回路4の内部のキャンセル処理回路11に送られ、Δビーム(モノパルスΔビーム)はウェイト回路4の内部のTDLτM−2〜τMに送られる。
【0020】
主アンテナ1を構成する複数のアンテナ素子またはサブアレイの一部または全部は補助アンテナとして共用される。この補助アンテナによって得られる補助チャンネル(以下、「補助CH」と略する)信号は、補助ビーム形成回路3に送られる。
【0021】
補助ビーム形成回路3は、補助アンテナからの信号に基づき差ビームを生成し、補助CH用信号Xaとしてウェイト回路4の内部のTDLτ1〜τ3に送る。
【0022】
ウェイト回路4は、SLC処理回路5と相俟って、補助ビーム形成回路3から差ビームとして送られてくる補助CH用信号Xaまたはビーム合成回路2からのΔビームとして送られてくる補助CH用信号Xaの少なくとも1つを用いて、TDLによるアダプティブ処理により、不要波を抑圧する。
【0023】
ウェイト回路4およびSLC処理回路5は、本発明のSLC処理部に対応する。SLC処理回路5における最適ウェイトWoptの計算は、SMI(直接解法:Sampled Matrix Inversion)方式のアルゴリズム演算を用いると、次式になる。
【0024】
なお、SMI方式については、「菊間信良、“アレーアンテナによる適応信号処理”、科学技術出版(1999) pp.35−37,98−99」に説明されている。
【数1】

【0025】
ここで、
Wopt:アダプティブウェイト(列ベクトル)
Y :アダプティブ出力
Xm :主CH用信号(Σビーム)
Xa :補助CH用信号(モノパルスΔビ−ム、または差ビーム)
Rxx :入力信号Xaの相関行列
rxd :補助CH用信号XaとSLC出力Yの相関係数
S :主CH用ウェイト(ステアリングベクトル)
主CH用ウェイト(ステアリングベクトル)Sは、次式で表される。
【数2】

【0026】
θb :ビーム指向方向
dn :主CHの入力(素子またはサブアレイ)の位相中心の位置ベクトル(n=1〜N)
λ :波長
t :転置
j :虚数単位
主アンテナ1からの主ビーム方向は、ビーム合成回路2の制御下で行われる電子走査、または、図示しない制御回路の制御下で行われる機械回転による機械走査によって順次に変更され、SLC処理回路5は、各主ビーム方向に対してSLC処理を行う。
【0027】
補助CH(補助アンテナパターン)は、ビーム合成回路2から送られてくるΔビームまたは補助ビーム形成回路3から送られてくる差ビームであり、図3に示すように、主CH(主アンテナパターン)のメインローブのピーク方向に応答成分を持たない。図3(a)は、ΔビームによるSLC処理を示しており、図4(b)は、補助ビーム形成回路3により形成された差ビームによるSLC処理を示している。なお、Δビームと差ビームの両者を用いてSLC処理を行うように構成することもできる。
【0028】
このように、補助CHを用いることにより、SLC処理を行っても、主CHのメインローブのピーク方向のレベルは保持される。したがって、主CHのメインローブのピーク方向以外の成分は、不要波として抑圧されるため、角度軸で高分解能のビームを得ることができる。その結果、密集した目標や妨害等の不要波を角度軸で高分解能に分離することができる。
【0029】
図4は、メインローブから目標と2つの妨害が入力する場合に上述したSLC処理を実施することにより得られる表示装置の表示例を示す。この例から、メインローブから目標と2つの不要波が入力した場合であっても、表示装置には、目標と2つの妨害とは分離され、さらに、2つの妨害も分離して表示されることがわかる。
【実施例2】
【0030】
本発明の実施例2に係る高分解能装置は、メインローブのピークレベルを拘束してアダプティブ処理する方式を採用している。上述した実施例1に係る高分解能装置で行われるSLC処理が、主CHの不要波成分を、補助CH信号を用いて抑圧する処理であるのに対し、実施例1に係る高分解能装置で行われるアダプティブ処理は、主CHのメインローブを形成する際のウェイトをアダプティブに処理して、不要波方向にヌルを形成するものである。
【0031】
図5は、本発明の実施例2に係る高分解能装置の構成を示すブロック図である。この高分解能装置は、TDL型のアダプティブアレイとして構成されている。なお、アダプティブ処理を行う装置の構成は周知であるので、以下では、本発明に直接関係する部分を中心に説明する。
【0032】
この高分解能装置は、図示しないアンテナ素子または複数のアンテナ素子が配列されて成るサブアレイ6から送られてくる複数の入力X1〜XNをそれぞれ遅延させる複数のTDL、各TDLから出力される信号にアダプティブウェイトを乗算する乗算器および各乗算器の出力を加算してアダプティブ出力Yを生成する加算器とを含むウェイト回路7と、TDLの各タップから出力される信号に乗算するアダプティブウェイトを計算する拘束付アダプティブ処理回路8から構成されている。ウェイト回路7および拘束付アダプティブ処理回路8は、本発明の拘束付アダプティブ処理部に対応する。
【0033】
アダプティブウェイトを演算する際には、メインローブのピーク方向を拘束する条件がつけられる。これにより、図6に示すように、メインローブのピーク方向を保持したまま、不要波方向にヌルを形成することができる。アダプティブウェイトの演算および最適ウェイトを定式化すると、次の通りである。
【0034】
拘束条件付のアダプティブウェイトWoptは、SMI方式で演算すると、次式となる。
【数3】

【0035】
ここで、
Wopt:アダプティブウェイト(列ベクトル)
:アダプティブ出力
X :入力信号
Rxx :入力信号Xの相関行列
C :拘束ベクトル
拘束ベクトルCは、次式で表される。
【数4】

【0036】
θb :ビーム指向方向
dn :入力(素子またはサブアレイ)nの位相中心の位置ベクトル(n=1〜N)
H : 拘束応答
以上は、説明を簡単にするために、一方向の拘束条件としているが、複数の拘束条件をつけるように構成することもできる。
【0037】
図示しないアンテナ素子またはサブアレイ6からの主ビーム方向は、ビーム合成回路2の制御下で行われる電子走査、または、図示しない制御回路の制御下で行われる機械回転による機械走査によって順次に変更され、拘束付アダプティブ処理回路8は、各主ビーム方向に対してアダプティブ処理を行う。
【0038】
その結果、メインローブのピーク方向以外の成分は、不要波として抑圧されるため、角度軸で高分解能のビームを得ることができる。その結果、密集した目標や妨害等の不要波を角度軸で高分解能に分離することができる。
【0039】
このアダプティブ処理を実施した場合に、表示装置に表示される目標と妨害は、実施例1に係る高分解能装置と同様に、図6に示すようになり、メインローブから目標と妨害等の不要波が入力した場合であっても、表示装置には、目標と2つの妨害とは分離され、さらに、2つの妨害も分離して表示されることがわかる。
【0040】
なお、ウェイト演算方式としては、リカーシブ・アルゴリズムのMSN(MSN;Maximum Signal to Noise Ratio)方式といった他の方式を用いることもできる。なお、MSN方式については、「菊間信良、“アレーアンテナによる適応信号処理”、科学技術出版(1999) pp.67−86」に説明されている。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、目標と妨害とを角度軸上で明確に分離することが要求されるレーダ装置または受信装置などに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施例1に係る高分解能装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施例1に係る高分解能装置において使用される演算セルの構成を示す図である。
【図3】本発明の実施例1に係る高分解能装置の動作を説明するための図である。
【図4】本発明の実施例1に係る高分解能装置で表示される目標および妨害の例を示す図である。
【図5】本発明の実施例2に係る高分解能装置の構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の実施例2に係る高分解能装置の動作を説明するための図である。
【図7】従来の不要波抑圧装置の一例として、アダプティブヌルステアリングのシステムであるSLCを説明するための図である。
【図8】従来の不要波抑圧装置におけるSLC処理の例を説明するための図である。
【図9】従来の不要波抑圧装置で表示される目標および妨害の例を示す図である。
【符号の説明】
【0043】
1 主アンテナ
2 ビーム合成回路
3 補助ビーム形成回路
4 ウェイト回路
5 SLC処理回路
6 アンテナ素子またはサブアレイ
7 ウェイト回路
8 拘束付アダプティブ処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波を送受信する主アンテナと、
前記主アンテナからの信号をビーム合成することによりΣビームおよびΔビームを生成するビーム合成回路と、
前記主アンテナを共用して構成された補助アンテナからの信号に基づき差ビームを生成する補助ビーム形成回路と、
前記ビーム合成回路からのΣビームを主アンテナパターンとし、前記ビーム合成回路からのΔビームまたは前記補助ビーム形成回路からの差ビームの少なくとも1つを補助アンテナパターンとしてSLC(Sidelobe Canceller)処理するSLC処理部とを備え、
前記SLC処理部によるSLC処理を行いながら電子走査または機械走査によって所定の空間を捜索することを特徴とする高分解能装置。
【請求項2】
電波を送受信する主アンテナと、
前記主アンテナから得られる主アンテナパターンのピークレベルを拘束しながらアダプティブ処理によりウェイトを演算する拘束付アダプティブ処理部とを備え、
前記拘束付アダプティブ処理部によるアダプティブ処理を行いながら電子走査または機械走査によって所定の空間を捜索することを特徴とする高分解能装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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