説明

高吸収性ハイドロコロイドの製造方法

【課題】皮膚、特に損傷部位に有効に適用できるハイドロコロイドの製造方法を提供する。
【解決手段】アクリル単量体と光重合開始剤を混合し、この混合物に紫外線を照射して200cps〜10,000cpsの粘度を有するプレポリマーを製造する第1工程;製造されたプレポリマーに少なくとも光重合開始剤及び高吸収性材料を混合して複合体を製造する第2工程;及び製造された複合体を被コーティング体上にコーティングした後、複合体に紫外線を照射して重合させる第3工程を含む。製造されるハイドロコロイドは、自己粘着性と共に優れた吸収性を有し、皮膚(損傷部位)から除去するときに残留物を残さず、低分子量の粘着付与剤などを使用しないので皮膚刺激が少ない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚、特に損傷部位に有効に適用できるハイドロコロイドの製造方法に関する。さらに詳しくは、アクリルプレポリマーと光重合開始剤及び高吸収性材料を混合した後、これに紫外線を照射して重合させることによって、自己粘着性と優れた吸収性を有し、皮膚(損傷部位)から剥離するときに残留物を残さず、皮膚刺激の少ない高吸収性ハイドロコロイドを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
皮膚は外部の刺激から人体を保護し、水分保持、体温調節、細菌の侵入防止などの機能を果たしている。しかし、皮膚に各種創傷、熱傷、褥瘡などの損傷が生じて、その機能を失うと、損傷が完全に治癒するまで患者は苦痛を与えられ、広範囲に損傷を受けた場合には、生命までもが危険に晒されることがある。損傷の治療を速かに行い、二次的な各種副作用を最小化するためには、適切な創傷被覆材(wound dressing)を用いた損傷治療が必須である。
【0003】
一般に、創傷被覆材は、自己粘着性がなく、別の粘着テープによって皮膚(損傷部位)に貼着、固定されるものが主流であった。しかし、これは使用が煩雑であることから、最近では自己粘着性を有する創傷被覆材が注目を浴びてきた。その代表的なものがハイドロコロイド(Hydrocolloid)である。ハイドロコロイドは自己粘着性を有し、創傷被覆材として有効に使用できるものであり、これに対する多くの先行特許文献が開示されている。
【0004】
ハイドロコロイドは、初期には低分子量のポリイソブチレンに吸収剤、低分子量の粘着付与剤及び可塑剤を混合した組成物を用いて製造された(例えば、特許文献1参照)。そのように製造されたハイドロコロイドは、損傷部位に適用するときに湿潤環境を保持しており、自己粘着性によって使用が便利になった。しかし、これらは不透明であったため、損傷の観察が容易ではなく、低分子量のポリイソブチレンがゲル(gel)の形態で損傷部位に残留するなどの問題があった。
【0005】
また、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体に低分子量の粘着付与剤及び可塑剤、抗酸化剤等の添加剤を混合して製造したハイドロコロイドが開示されている(例えば、特許文献2参照)。また、ポリイソブチレンとブチルゴム混合体にスチレン共重合体、鉱油、粘着付与剤及び吸収剤を混合して製造したハイドロコロイドが開示されている(例えば、特許文献3参照)。そして、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体に液状のスチレン−イソプレンゴム、水溶性のポリマーなどを混合して製造したハイドロコロイドが開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【0006】
損傷部位に適用するとき、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体は物理的に架橋構造を保持し、損傷部位に残留しない。しかし、上記特許文献に開示されたハイドロコロイドもまた不透明であったため、損傷の観察が容易ではなかった。また、上記特許文献に開示されたハイドロコロイドは、吸収性が低く、粘着付与剤として添加された低分子量のハイドロカーボンなどによって皮膚刺激が生じる問題があった。
【0007】
また、エチレン−ビニルアセテート(EVA)共重合体に低分子量のポリイソブチレンと吸収剤を入れた後、ガンマ線照射によってEVAを架橋させ、化学的に架橋構造を製造した(例えば、特許文献5、6参照)。しかし、これらはガンマ線照射線量の差によって架橋密度のバラツキが生じ、吸収能が異なる問題が発生した。
【0008】
一方、アクリレート重合体は自己粘着性が良く、多くの分野で粘着剤の用途に広く使用されている。アクリレート重合体は、適切なガラス転移温度(Tg;glass transition temperature)を有すると、優れた粘着性(tacky nature)を有し、これはまた透明であるという利点がある。アクリレート重合体は、主にn−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、イソオクチルアクリレートなどのアクリレート系単量体が重合に使用されている。しかし、このようにアクリレート単量体だけで重合される場合、吸収性がほとんどない。そこで一般に酸性基(acid group)を有する親水性の単量体を添加、重合して吸収性を付与している。しかし、酸性基を有する親水性のモノマーを添加する場合には、粘着特性が落ちる問題があった。
【0009】
また、濡れた皮膚に好適な粘着剤として、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、イソオクチルアクリレートなどのアクリレート系単量体にカルボン酸、スルホン酸、ホスホン酸などの酸性基を有する親水性のモノマー、そして、粘着特性のためのものとしてエチレンオキシド、酸化プロピレンなどのアルキレンオキシド重合体を添加して製造した粘着剤が開示されている(例えば、特許文献7参照)。しかし、これらは吸収性が低く、特に滲出物が多量発生する損傷部位に適用することが難しい。また、フィルムなどの被コーティング体上にコーティングしなければならないが、このとき、コーティング性のための多量の溶剤、そして粘着特性のためのアルキレンオキシド重合体などの添加剤により物性が低下し、製造が複雑である。しかも、アルキレンオキシド重合体などの添加剤が滲み出て、皮膚(損傷)に残留物を残し、皮膚刺激が生じる問題が指摘された。
【0010】
【特許文献1】米国特許第3,339,546号
【特許文献2】米国特許第4,231,369号
【特許文献3】米国特許第4,551,490号
【特許文献4】米国特許第6,583,220号
【特許文献5】米国特許第4,477,325号
【特許文献6】米国特許第4,738,257号
【特許文献7】米国特許第6,903,151号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、皮膚、特に損傷部位に有効に適用するためには、自己粘着性を有し、使用が便利で、損傷部位からの滲出物の吸収性に優れ、皮膚(損傷)から剥離するときに残留物を残さず、皮膚刺激が少なくなければならない。
【0012】
本発明は、上記のような従来技術の問題点及び技術的課題を解決するためのものであり、その目的は、アクリルプレポリマーに光重合開始剤及び高吸収性材料を混合した後、これに紫外線を照射して重合させることによって自己粘着性と優れた吸収性を有し、皮膚(損傷部位)から剥離するときに残留物を残さず、低分子量の粘着付与剤等の添加無しで、皮膚刺激が少なく、製造が改善された高吸収性ハイドロコロイドの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明は、アクリル単量体と光重合開始剤を混合した後、この混合物に紫外線を照射して200cps〜10,000cpsの粘度を有するプレポリマーを製造する工程1;
製造されたプレポリマーに少なくとも光重合開始剤及び高吸収性材料を混合して複合体を製造する工程2;及び
製造された複合体を被コーティング体上にコーティングした後、複合体に紫外線を照射して重合させる工程3;を含むハイドロコロイドの製造方法を提供する。
【0014】
さらに、好ましくは、工程1で、プレポリマーを製造するときに、紫外線照射後の温度が照射前の温度より5℃〜20℃上昇したら、酸素を用いて重合反応を抑制させる工程を含む。さらにこのとき、上記工程で用いられた酸素によって工程3での重合効率が落ちることがあるので、不活性気体を用いて複合体中の酸素を減少させる工程を含むことが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明は、少なくともアクリルプレポリマーを製造する工程1、プレポリマーが含まれた複合体を製造する工程2、及び複合体を被コーティング体上にコーティング1状態で重合させる工程3を含む。各工程を次の通り、詳細に説明する。
【0016】
(工程1)
工程1は、アクリル単量体と光重合開始剤とを混合した後、この混合物に紫外線を照射して適切な粘度を有するプレポリマーを製造する工程である。このとき、紫外線の照射強度及び時間を調節し、プレポリマーの粘度が200cps〜10,000cpsの範囲になるようにする。粘度が200cps未満で、低過ぎると、コーティング時の膜厚調節が難しく、所定膜厚を有するようにするためには数回にわたってコーティングしなければならない煩雑さがある。また、粘度が10,000cpsを超え、高すぎると、工程2での混合が難しくなる。
【0017】
アクリル単量体は、ガラス転移温度(Tg)の高い単量体とガラス転移温度の低い単量体との混合比を適宜に設定し、混合系のガラス転移温度が0℃〜−50℃の範囲になる単量体を使用することが好ましい。ここで、混合系のガラス転移温度とは、各単量体が重合され、共重合体となったときのガラス転移温度を意味する。
【0018】
ガラス転移温度の高い単量体としては、アクリル酸(acrylic acid)、メタクリル酸(methacrylic acid)、メチルメタクリレート(methyl methacrylate)などが挙げられ、ガラス転移温度の低い単量体としては、2−エチルヘキシルアクリレート(2-ethylhexyl acrylate)、ブチルアクリレート(butyl acrylate)、イソオクチルアクリレート(isooctyl acrylate)、ヒドロキシブチルアクリレート(hydroxybutyl acrylate)、ε−カプロラクトンアクリレート(ε-caprolactone acrylate)などが挙げられる。
【0019】
また、アクリル単量体は、ガラス転移温度が中間(60℃〜−30℃の範囲)である単量体を使用することができ、例えば、メチルアクリレート(methylacrylate)、ヒドロキシエチルメタクリレート(hydroxyethyl methacylate)、ヒドロキシプロピルアクリレート(hydroxypropyl acrylate)などが用いられる。
【0020】
光重合開始剤としては、例えば、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニル-アセトフェノン、キサントン、ベンズアルデヒド、アントラキノン、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4'−ジメトキシベンゾフェノン、4,4'−ジアミノベンゾフェノン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、1−(4−イソプロピル−フェノール)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、チオキサントンなどから選択される1種または2種以上を混合して使用することができる。商業用としては、スイスのチバカイギー(Ciba-Geigy)社の製品であるイルガキュアーシリーズ(Irga-cure series)、ドイツのメルク社製品であるダロキュアーシリーズ(Darocur series)、ドイツのバスプ社製品であるルシリンシリーズ(Lucirine series)などから選択される1種または2種以上を混合して使用することができる。このような光重合開始剤は、アクリル単量体100重量部(phr)に対して、0.002〜2重量部(phr)で混合して使用すればよいが、特に限定されない。
【0021】
紫外線照射は、メタルハライドランプ(metal halide lamp)、水銀ランプ(mercury lamp)、ブラックライトランプ(black light lamp)などのような、通常産業的に使用される紫外線ランプを使用することができる。このような紫外線照射は、真空下で行うか、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性気体又は空気中で実施すればよい。このとき、紫外線の照射強度及び時間は、用いられた単量体等の種類と量によって異なるが、0.01mW/cm〜5.0mW/cmの照射強度で1秒〜180秒間照射すると、200cps〜10,000cps、好ましくは1,000cps〜5,000cpsの粘度を有するプレポリマーを製造することができる。
【0022】
また、プレポリマーの製造において、紫外線照射前の反応物(アクリル単量体+光重合開始剤)の温度は、30℃以下に保持されることが好ましい。紫外線を照射すると、反応が開始され、反応物の反応熱によって温度が上昇するようになるが、このとき、紫外線照射後の反応物の到達温度が、紫外線照射前の温度より5℃〜20℃、好ましくは約10℃上昇したら、反応を終結すればよい。その理由は、照射後の温度が照射前の温度より高くなり過ぎると、即ち、照射前の温度は30℃であったが、照射後の温度が50℃を超えると、生成物(プレポリマー)は高分子量化され、高粘度を有することになり、工程2の混合及び工程3のコーティングが難しくなるからである。このような反応終結は酸素を用いてラジカル反応を抑制することによって図ることができる(これを‘工程1-1’という)。
【0023】
(工程2)
工程2は、工程1で製造されたプレポリマーに、少なくとも光重合開始剤及び高吸収性材料を混合して一つの複合体を製造する工程である。複合体は、好ましくは500cps〜50,000cpsの粘度を有すればよい。
【0024】
本工程2で用いられる光重合開始剤は、工程1で例示したものを使用することができ、特に限定されないが、プレポリマー100重量部に対して、0.002〜2重量部で混合されればよい。
【0025】
高吸収性材料は、液状及び粉末状を含み、好ましくは粘液状態の滲出物に対して優れた吸収能を有するものから選択される。例えば、ポリアクリル酸塩、ポリメタアクリル酸塩、ポリアクリルアミド、セルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ペクチン、グアーガム、アルギン酸ナトリウム、キチン、キトサン、ゼラチン、スターチ、キサンタンガム及びカラヤガムよりなる群から選択される1種又は2種以上の混合物を使用することが好ましい。このような高吸収性材料は、プレポリマー100重量部に対して、0.2〜100重量部で混合されればよい。高吸収性材料が0.2重量部未満と、少なすぎると、本発明において目的とする吸収性を発揮するのは難しく、100重量部を超過して多く含まれると、皮膚損傷に残留物として残ることがある。
【0026】
複合体は、上述したプレポリマー、光重合開始剤及び高吸収性材料を含み、さらに付加的に剪断応力と凝集力を向上させる架橋剤を含んでいてもよい。架橋剤はプレポリマー100重量部に対して、0.0001〜2重量部で混合されていてもよい。
【0027】
また、複合体は損傷治癒を促進させることができるものとして、さらに保湿剤、損傷治癒促進剤、抗菌剤、細胞増殖因子などの添加剤が含まれていてもよい。
【0028】
保湿剤及び損傷治癒促進剤には、ヒアルロン酸、ケラタン、コラーゲン、デルマタン硫酸、へパリーン、ヘパラン硫酸、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム、コンドロイチン硫酸、3−アミノプロピルジヒドロゲンホスフェート又はこれらのオリゴ多糖などを単独若しくは混合して使用してもよく、抗菌剤には、グルコネートクロルヘキシジン、アセテートクロルヘキシジン、ヒドロクロリドクロルヘキシジン、スルファジアジン銀、ポビドンヨード、ベンザルコニウムクロリド、フラジン(furagin)、アイドカイン(idocaine)、ヘキサクロロフェン、クロロテトラサイクリン、ネオマイシン、ペニシリン、ゲンタマイシン、アクリノール及び銀(Ag)化合物などが挙げられる。また、細胞増殖因子には、血小板由来増殖因子(PDGF)、形質転換増殖因子(TGF−β)、表皮細胞由来増殖因子(EGF)、線維芽細胞由来増殖因子(FGF)などを単独又は混合して使用してもよい。このような各添加剤は、プレポリマー100重量部に対して、0.001〜0.5重量部で混合できる。
【0029】
また、複合体は透明及び半透明であってもよいが、好ましくは損傷を容易に観察できる程度に透明であるように製造されればよい。さらに、複合体は顔料(好ましくは肌色顔料)が含まれていてもよいが、顔料はできる限り損傷の観察を妨害しない範囲で微量に混合されればよい。
【0030】
上述の組成で複合体を混合、製造した後、下記で説明される工程3で重合反応がさらに效率的に行われるように複合体中の溶存酸素を低減することが好ましい(これを‘工程2−1’という)。具体的に、複合体中には溶存酸素が存在することがあり、溶存酸素は下記の工程3で行われる重合反応を阻害することができる。特に、プレポリマーの反応終結のために酸素を用いた場合(工程1−1が実施された場合)、複合体には溶存酸素量が多く含まれることがあるため、工程3を行う前に溶存酸素を低減させる工程2−1を行うのが好ましい。溶存酸素は窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性気体を複合体に吸入させると、容易に低減することができる。
【0031】
(工程3)
工程3は、複合体を被コーティング体にコーティングした後、複合体に紫外線を照射してプレポリマーを重合させる工程である。具体的に、複合体内のプレポリマーは、被コーティング体にコーティングされた状態で重合され、ハイドロコロイド形態のアクリル重合体となる。このとき、複合体を被コーティング体にコーティングした後、非活性気体雰囲気を作るために、コーティングされた複合体上を透明なフィルムで覆い、紫外線を照射して重合させる。
【0032】
上記のような、工程3の紫外線照射による重合反応によって、プレポリマーは高吸収性材料と相互侵入高分子網目構造(interpenetrated polymer networks、IPNs)を形成しながら重合される。これに伴い、優れた吸収性を図るために使用される高吸収性材料は、滲出物を吸収しても崩壊されず、残留物が残らない。
【0033】
また、工程3での紫外線照射強度は0.01mW/cm〜5.0mW/cmの範囲と低いことが好ましい。このような工程3での紫外線照射強度によって粘着特性が向上され、これに加えて、分子量増加によって耐熱性等の物性が改善される。このとき、紫外線照射強度が0.01mW/cm未満で、低過ぎると、プレポリマーと高吸収性材料とが良好な網目構造を形成することが難しく、紫外線照射強度が5.0mW/cmを超え、高過ぎると、ベタベタとした物性が低下し、自己粘着特性が低くなることがある。工程3での紫外線照射時間は、上記照射強度で、1分〜30分間、実施することができるが、特に限定されない。
【0034】
製造された本発明のハイドロコロイドは、皮膚、特に損傷に有効に適用される。具体的に、医療分野における医療器具や包帯を皮膚に固定するための固定用粘着テープなどとして使用でき、好ましくは創傷被覆材として有効に使われる。
【0035】
図1は本発明によって製造されたハイドロコロイドの適用形態を示すもので、創傷被覆材として有効に使用できるシートを例示したものである。シートは、少なくとも自己粘着性の吸収層10を含み、自己粘着性の吸収層10は工程3で被コーティング体上にコーティングさせた後、重合体化されたアクリル複合体(ハイドロコロイド)で構成される。このとき、吸収層10は透明及び半透明であってもよいが、好ましくは透明である。
【0036】
シートは図1に示されるように、吸収層10のある一面に接合された基材20を有することが好ましい。基材20は好ましくは透明であり、柔軟性のあるものが好ましい。基材20は織布、不織布及び樹脂フィルムを含む。好ましくは気体透過性(透湿性)とともに、液体不透過性(防水性)を有する樹脂フィルムである。基材20として用いられる好ましい樹脂フィルムは、高透湿性を持たせる樹脂として、ポリウレタン、ポリエチレン、シリコン樹脂、天然及び合成ゴム、ポリグリコール酸、ポリ乳酸又はこれらの共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどの合成高分子、コラーゲン、ゼラチン、ヒアルロン酸、アルギン酸ナトリウム、キチン、キトサン、フィブリン、セルロースなどの天然高分子又はこれら由来の合成高分子を単独若しくは混合使用して製造したフィルムが挙げられる。より好ましくは、ポリウレタンフィルムである。ポリウレタンフィルムは気体透過性(透湿性)及び液体不透過性(防水性)とともに、引張強度、伸長力などの物性に優れているものが好ましい。ポリウレタンフィルムは押出法、溶媒揮発法または凝固法によって製造されたものを含む。
【0037】
上述のシートの大きさや形態は制限されない。例えば、シートは使用しやすいように、製造後、所定の大きさに切断して普及させるか、又は使用者が用途に合わせて直接切断して使用できるように、ロール(roll)形態で普及させてもよい。また、シートは離型紙がさらに接合された構造を有していてもよい。離型紙は基材20が接合された面の反対側の面に配置され、これはシートを皮膚(損傷)に貼着使用するときに除去される。
【0038】
一方、本発明における“被コーティング体”とは、複合体をコーティングすることができる表面を提供するものであれば何れも本発明に含まれる。被コーティング体は基材20や離型紙、ガラス基板、金属器版、プラスチック基板などから選択されてもよく、これは離型性を有するものであればよい。
【0039】
以下では、本発明の具体的な試験実施例及び比較例を説明する。しかし、これらは本発明を詳細に説明するために提供されるものであって、これらによって本発明の技術的範囲が制限されるものではない。
【0040】
(実施例)
<工程1:プレポリマー製造例>
窒素雰囲気下で、ガラス反応器にアクリル単量体として95gの2−エチルヘキシルアクリレート、5gのアクリル酸、及び光重合開始剤として0.2gのイルガキュアー−184(スイス、チバカイギー社製)を加え、十分に攪拌した。この反応物に紫外線ランプ(ブラックライトランプ)を使用して、1.0mW/cmの照射強度で30秒間、紫外線を照射して反応させ、反応物の温度が10℃上昇したとき、反応器内に酸素を吹き込み、反応を終結させてプレポリマーを得た。得られたプレポリマーの粘度は、25℃で2,000cpsであった。
【0041】
<工程2:複合体製造例>
窒素雰囲気下で、工程1の製造例で得られた100gのプレポリマーに光重合開始剤として0.4gのイルガキュアー−184(スイス、チバカイギー社製)と、高吸収性材料として7gのカルボキシメチルセルロース(韓国、ゴゼ社製、KDA6 M15)及び15gのポリカルボン酸塩(韓国、ソンウォン産業社製、HS−1500)を、それぞれ混合器に入れ、30分間攪拌し、分散させて粘性のある複合体を得た。得られた複合体の粘度は、25℃で20,000cpsであった。
【0042】
<工程3:実施例1〜12>
工程2の製造例で得られた複合体を、シリコンがコーティングされた離型紙上にナイフコーターで500μmの膜厚で塗布し、その上をPETフィルムで覆った。そして、紫外線ランプ(ブラックライトランプ)を使用して下記表1のように、各実施例別に異なる紫外線強度で、20分間照射して十分に反応させた。次に、PETフィルムを剥がし、25μmのポリウレタンフィルムをラミネートして自己粘着性のあるシート試験片を製造した。
【0043】
上記のように製造された試験片に対して、以下に例示する方法で物性を測定し、測定結果を表1に示した。
1.180゜剥離粘着力の測定
粘着力測定は引張り試験機(Universal Test Machine、Tinus Olsen Korea)を使用し、JIS Z 0237に従って試験した。具体的に、ステンレスの試験板に試験片の粘着面を下にして、試験板と試験片の長手方向の片端を一致させ、試験板が試験片の長さ中央に来るようにし、試験片の残る約125mmの部分を残し、残された部分の粘着面に紙を接着した。次に、試験片上で、ローラーを約300mm/分の速度で、1回往復させて圧着した。圧着が終わった試験片は、20分以上が経過した後、試験片を約25mm剥がし、300mm/分の引張り速度で試験片を剥離した。このとき、剥離し始めて、20mmを剥がした時点から80mmまでの間の平均荷重値を積分計で求め、これを粘着力の測定値とした。
【0044】
2.吸収度測定
製造された試験片を2cm×2cmのサイズで切断し、初期の重さ(W1)を測定した後、37℃の蒸留水に入れ、48時間後の重さ(W2)を測定した。下記の式によって吸収度(%)を計算した。
吸収度(%)=(W2−W1)/W1×100
【0045】
3.保存度測定
保存度とは、試験片が生理食塩水によって崩壊されない能力をいう。保存度(%)の測定は、下記の与えられた条件下で生理食塩水に浸漬させた後、保持される試験片の重さを測定するもので、保存度が100%であれば、試験片を損傷部位に貼着した後、剥離交換しても損傷部位に残留物が残らなくなることを意味する。
【0046】
まず、試験片を直径2.54cmで切断した後、初期重さ(Wi)を記録した。次に、試験片を生理食塩水に浸し、18時間振盪させる。その後、試験片を取り出して温度50℃、相対湿度50%の恒温恒湿器で、72時間乾燥させた後、重さ(Wf)を測定した。下記の式によって保存度(%)を計算した。
保存度(%)=(Wf/Wi)×100
【0047】
(比較例1)
コロプラスト(Coloplast)社のコムフィール(Comfeel)製品を本比較例の試験片として用いた。これは米国特許第4,231,369号明細書に開示された方法に従って製造されたものである。本試験片に対して上記実施例と同様の方法で物性を評価し、その結果を表1に示した。
【0048】
(比較例2)
コンバテック(Convatec)社のデュオダーム(Duoderm)製品を本比較例の試験片として用いた。これは米国特許第4,551,490号明細書に開示された方法に従って製造されたものである。本試験片に対して上記実施例と同様の方法によって物性を評価し、その結果を表1に示した。
【0049】
【表1】

【0050】
表1からわかるように、本発明に係るハイドロコロイドが適用されたシート(実施例1〜12)は、既存販売されている製品(比較例1、2)と比較して、吸収度が非常に優れており、粘着付与剤のような低分子量の物質を添加しなくても優れた粘着力を有していることが分かる。また、実施例の結果から、紫外線の照射強度によって粘着力の調節が容易であることが分かる。
【0051】
また、比較例1、2の保存度がそれぞれ、78%、91%であるのに対し、本発明の実施例はアクリル重合体と高吸収性材料が相互侵入高分子網目構造(interpenetrated polymer networks、IPNs)の形成によって保存度が100%と非常に優れていることが分かる。これは滲出物を吸収しても崩壊せず、残留物を残さないことを意味する。
【0052】
(発明の効果)
本発明は、コーティング性のための多量の溶剤や別途の添加剤を使用することなく、容易にハイドロコロイドを製造することができるという効果を有する。また、本発明によって製造されたハイドロコロイドは、自己粘着性と共に優れた吸収性を有し、皮膚(損傷)から剥離されるときに残留物を残さず、低分子量の粘着付与剤などを使用せず、皮膚刺激が少ないという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明によって製造されたハイドロコロイドの適用形態を示すシートの断面図である。
【符号の説明】
【0054】
10:自己粘着性の吸収層
20:基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル単量体と光重合開始剤とを混合した後、この混合物に紫外線を照射して200cps〜10,000cpsの粘度を有するプレポリマーを製造する工程1;
製造されたプレポリマーに少なくとも光重合開始剤及び高吸収性材料を混合して複合体を製造する工程2;及び
製造された複合体を被コーティング体上にコーティングした後、複合体に紫外線を照射して重合させる工程3;
を含むハイドロコロイドの製造方法。
【請求項2】
工程1のプレポリマーの製造時、紫外線照射後の温度が照射前の温度より5℃〜20℃上昇すれば、酸素を用いて重合反応を抑制させる工程1−1;を、さらに含む請求項1に記載のハイドロコロイドの製造方法。
【請求項3】
工程3を行う前に、不活性気体を用いて工程2で製造された複合体中の酸素を減少させる工程2−1;を、さらに含む請求項2に記載のハイドロコロイドの製造方法。
【請求項4】
工程3の紫外線照射強度が、0.01mW/cm〜5.0mW/cmの範囲である請求項1に記載のハイドロコロイドの製造方法。
【請求項5】
工程2の高吸収性材料は、ポリアクリル酸塩、ポリメタアクリル酸塩、ポリアクリルアミド、セルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ペクチン、グアーガム、アルギン酸ナトリウム、キチン、キトサン、ゼラチン、スターチ、キサンタンガム及びカラヤガムよりなる群から選択される1種又は2種以上の混合物で構成される請求項1に記載のハイドロコロイドの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−327053(P2007−327053A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−144712(P2007−144712)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(507178752)ドクソン カンパニー リミティッド (1)
【Fターム(参考)】