説明

高周波ノイズの反射抑制回路

【課題】
巻き線を有する電気機器内部におけるノイズの反射抑制回路を提供することを目的としたものである。
【解決手段】
電気機器の内部の巻き線に反射抑制回路Aの片端を接続し、他の片端は開放のままとし、上記反射抑制回路Aの構成は、機器内部の分布定数あるいは集中定数によって生じる共振と同じ共振周波数特性を持つ、コイルLから成る分布定数回路に、抵抗Rを並列に接続したものとした。これにより、電気機器内部の巻き線に共振が生じると同時に、反射抑制回路Aにも共振が生じ、反射抑制回路Aの両端に電位差が生じる。その電位差は反射抑制回路Aの抵抗に電流を流して抵抗で発熱して電気機器内部への反射を抑制させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、配電系や接地系の電線路に接続した、巻き線を持った電気機器の高周波ノイズの反射抑制回路に関するものである。さらに詳しく述べると、高周波領域において分布定数系を有するすべての電力線や接地系における電気機器等の電気設備の安全対策に特に有用な反射抑制回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、図11に示すように、配電系や接地系の電線路において周波数の高い領域では分布定数を形成し、対地に対し両端あるいは受電端開放状態の場合では、4分の1波長の周波で直列共振、2分の1波長の周波では並列共振現象を起こす。そのため雷サージなどの際に入射波と反射波が干渉して生じる定在波が生じ、これらの系に繋がる機器の故障や破損、あるいは誤動作などが生じるおそれがある。
【0003】
そこで、従来から、配電系のサージ対策としてRCアブソーバや酸化亜鉛を用いたアレスタなどが使われてきた。これらの素子は被保護ラインと対地間に挿入されるものである(以下、対地素子という)。
また、配電ラインや接地線の中間地点にローパスフィルタを直列に挿入し、サージ電圧の入射波や反射波の減衰化を図る方法もある。
【特許文献1】特許第3164992号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記対地素子を用いる場合、サージ電圧を対地に開放する際に対地素子が十分エネルギー吸収を行わず、接地に流れたエネルギーが周辺の計測機器等へ導電し悪影響を及ぼす。また、竣工検査や定期点検などの際に絶縁耐圧試験などで配電系と大地間に試験用高電圧を印加するが、その場合にこれら対地素子が不要動作してしまうおそれがあるため、いちいちこれらの対地素子を取り外さなければならない。従って、当該対地素子の取り外しや検査の実施と復旧の措置には保安上の手間や管理を常に配慮しなければならなかった。
また、上記ローパスフィルタを用いる方法は、配電系に適用する場合は、ローパスフィルタに商用周波電力による発熱対策を施さなければならず、また、形状への制約や高周波領域においてローパスフィルタに用いているリアクトルが持つ静電容量で、ローパスフィルタとして機能を果たさず、十分な成果が得られない場合も生じるなど課題が残っている。
【0005】
また、上記配電系や接地系に接続されたモータ等の巻き線を持った電気機器においても電源側から雷サージや高周波ノイズが侵入すると、機器内部の巻き線において進行波と反射波が干渉し合い、巻き線の分布定数による共振現象を生じる場合がある。特に、モータの場合この共振現象がおき易い。すなわち、モータの場合、入力端でインバータを用いて商用50Hzを高周波に変換してモータに入力する場合が多く、高周波成分によって共振が生じやすくなる。
この共振現象により異常な高電圧が発生するため、巻き線から機器フレームを通じて接地線へ高周波電流が流れ出す等の問題が起こっており、巻き線が過熱したり、放電する場合が生じること等も懸念される。このように接地線に高周波電流が流れ出た場合、漏電検出装置が動作して回路の電源を遮断したり、あるいは漏電検出装置が焼損することもあり得る。しかし、現場でこのような事故等が発生しても原因の解明は困難で対処に困っているケースが多く見られる。
【0006】
そこで、この発明は、これらの問題点を解決するため、電気機器内部におけるノイズの反射抑制回路を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、電気機器の内部の巻き線に反射抑制回路の片端を接続し、他の片端は開放のままとし、上記反射抑制回路の構成は、機器内部の分布定数あるいは集中定数によって生じる共振特性と同一周波数あるいは同じ帯域に共振周波数特性を持つ分布定数回路に、抵抗を並列に接続したものとした。また、請求項2の発明は、上記反射抑制回路の一端の巻き線への接続は、上記巻き線の端部、中間点、又は中性点のいずれかに接続した、上記請求項1の反射抑制回路とした。
これにより、電気機器内部の巻き線に共振が生じると同時に、分布定数回路に並列に抵抗を接続した回路(以下、反射抑制回路という)にも共振が生じ、反射抑制回路の両端に電位差が生じる。その電位差は反射抑制回路の抵抗に電流を流して抵抗で発熱して電気機器内部への反射を抑制させることができる。
【発明の効果】
【0008】
請求項1及び2の発明によれば、この発明の反射抑制回路を使用することにより、電源線から電気機器に侵入する高周波ノイズや雷サージが電気機器の巻き線の終端で反射することを抑制することができるため、電気機器を安定して使用することができる。また、電気機器内部の巻き線に片端開放の回路を取り付ける構成のため回路に負荷電流が流れず、回路の電線は細くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
電気機器の内部の巻き線に反射抑制回路の片端を接続し、他の片端は開放のままとし、上記反射抑制回路の構成は、機器内部の分布定数あるいは集中定数によって生じる共振特性と同じ共振周波数特性を持つコイルから成る分布定数回路に、抵抗を並列に接続したものとし、上記反射抑制回路の片端の巻き線への接続は、巻き線の端部、中間点又は中性点のいずれかに接続する。
【実施例1】
【0010】
<サージ流入のモデル>
図11に一例として、雷サージが流入する配電系のモデルを示す。特別高圧線に雷サージがのると変圧器の一次/二次間の浮遊容量を介して高周波のコモンモードノイズが高圧側へ伝わっていく。高圧線と2)の変圧器の接続点では特性インピーダンスの不平衡により反射を生じ、ある特定の周波数で共振を起こす。これにより、配電系の絶縁破壊等が起こる危険がある。コモンモードノイズは三相一括同相でのるため、一相のみ考え、6.6kV送電線の共振現象に着目し対策を考える。
【0011】
<ノイズ対策>
分布定数系における配電系の線路のインピーダンスを求める。
周波数fにおける波長をλとする。無損失線路の透磁率と誘電率をμ、εとし、終端負荷インピーダンスをZ、特性インピーダンスをZO、線路長をdとすれば位相定数β、及び線路のインピーダンスZは
【0012】
【数1】

【0013】
【数2】

【0014】
で与えられる。
今回、送電線の両端は変圧器に接続されているため両端開放として扱う。よって、 Z=∞となり式(2)から開放線路のインピーダンスは
【0015】
【数3】

【0016】
となる。従って、線路のインピーダンスは位相定数β、線路長d及び特性インピーダンスZOに依存する。
そのため、
【0017】
【数4】

【0018】
の時、直列共振現象が発生し、
【0019】
【数5】

【0020】
この時、並列共振現象が発生する。
そこで、コイルの分布定数を先の配電系分布定数で作られる共振周波数と同じ周波数で共振するようコイル長を調節したものを用い、このコイルと並列に抵抗を接続した回路(=LR並列回路)を先の配電系線路の終端に接続する。LR並列回路の他端は開放とした。これにより、LR並列回路の閉ループ内でエネルギーを消費し、反射波のエネルギーを小さくするようにした。
すなわち、回路に入射した電圧波は全反射し回路内で直列共振を引き起こす。よって、電流は回路内を循環し、抵抗によって熱としてエネルギーを消費させる。
【0021】
以上は、雷サージが流入する配電線路のモデルにおいて説明したが、これらのことは、このような配電系に接続した、巻き線を有する各電気機器においても同様である。
図1はこの発明の反射抑制回路Aを示し、電気機器内部の分布定数あるいは集中定数によって生じる共振と同じ共振周波数特性を持つ分布定数回路をコイルLによって設け、この分布定数回路と並列に抵抗Rを接続したものである。
図2では、この反射抑制回路Aの一端を、三相のスター結線を有する電気機器Bの各巻き線の中性点に接続したものである。また、図3は、上記反射抑制回路Aの一端を、三相のスター結線を有する電気機器Bの各巻き線の端部に接続したものである。また、図4は、上記反射抑制回路Aの一端を、三相のスター結線を有する電気機器Bの各巻き線の中性点及び各端部に接続したものである。
【0022】
また、この発明は三相のスター結線を有する電気機器Bに限らず、三相のデルタ結線を有する電気機器Cにも適用できる。この場合は、図5に示すように、デルタ結線の各巻き線の接続端に上記各反射抑制回路Aの一端を接続したものである。
【0023】
また、さらにこの発明は単相機器に対しても適用することができる。この場合、巻き線の端部、中間部のいずれかに上記反射抑制回路Aの一端を接続するのが効果的かは、機器を使用する現場の状況によっても異なる。一般的には、共振による高電圧が発生しているほうの部位に接続するのが効果的である。また、現場での測定が困難な場合は、巻き線の端部、中間点の両方に接続しておくのが良いと考えられる。図6は、単相の巻き線を有する電気機器Dの巻き線の片端に上記反射抑制回路Aの一端を接続したもの、図7は同電気機器Dの巻き線の両端に夫々上記反射抑制回路Aの一端を接続したもの、図8は同電気機器Dの巻き線の中間点に上記反射抑制回路Aの一端を接続したもの、図9は同電気機器Dの巻き線の片端と中間点に夫々上記反射抑制回路Aの一端を接続したもの、図10は同電気機器Dの巻き線の両端と中間点に夫々上記反射抑制回路Aの一端を接続したものである。
【0024】
このように、上記反射抑制回路Aの、電気機器内部の分布定数あるいは集中定数によって生じる共振と同じ共振周波数特性を持つ分布定数回路は、現場において、当該電気機器の共振周波数を測定し、これに相応する分布定数回路を作る。上記機器の巻き線の中間点や、スター結線の中性点に反射抑制回路の一端を接続する場合は、予めリード線をこれらの箇所に取り付けておくか、機器の設計の段階からこれらを考慮して予め設けておくこともできる。また、上記反射抑制回路Aは電気機器の内部に設けてもよく、また、外部に設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明の反射抑制回路の一例を示す概略構成図である。
【図2】この発明の反射抑制回路を三相スター結線の電気機器の巻き線の中性点に接続した構成図である。
【図3】この発明の反射抑制回路を三相スター結線の電気機器の巻き線の端末に接続した構成図である。
【図4】この発明の反射抑制回路を三相スター結線の電気機器の巻き線の中性点及び端末に接続した構成図である。
【図5】この発明の反射抑制回路を三相デルタ結線の電気機器の巻き線の各端部に接続した構成図である。
【図6】この発明の反射抑制回路を単相の電気機器の巻き線の片端に接続した構成図である。
【図7】この発明の反射抑制回路を単相の電気機器の巻き線の両端に接続した構成図である。
【図8】この発明の反射抑制回路を単相の電気機器の巻き線の中間点に接続した構成図である。
【図9】この発明の反射抑制回路を単相の電気機器の巻き線の片端及び中間点に接続した構成図である。
【図10】この発明の反射抑制回路を単相の電気機器の巻き線の両端及び中間点に接続した構成図である。
【図11】雷サージが流入する配電系送電線の模擬モデル及びその等価回路を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0026】
A 反射抑制回路
B 電気機器
C 電気機器
D 電気機器
L コイル
R 抵抗


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機器の内部の巻き線に反射抑制回路の片端を接続し、他の片端は開放のままとし、上記反射抑制回路の構成は、機器内部の分布定数あるいは集中定数によって生じる共振特性と同一周波数あるいは同じ帯域に共振周波数特性を持つ分布定数回路に、抵抗を並列に接続したことを特徴とする、反射抑制回路。
【請求項2】
上記反射抑制回路の片端の巻き線への接続は、巻き線の端部、中間点、又は中性点のいずれかに接続したことを特徴とする、請求項1に記載の反射抑制回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−197689(P2006−197689A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−5158(P2005−5158)
【出願日】平成17年1月12日(2005.1.12)
【出願人】(503018205)
【出願人】(000141060)株式会社関電工 (115)
【Fターム(参考)】