説明

高周波伝送線路

【課題】高周波が流れる導体間の絶縁体に非可撓性の材料を用いる高周波伝送線路の可撓性を向上させる。
【解決手段】給電導体51と接地導体53とに挟まれて絶縁体52は、それぞれが非可撓性の材料により構成されて、高周波の伝送方向に連なる複数の硬質体55により構成されている。高周波伝送線路50は、絶縁体52が隣り合う硬質体55の接続箇所で曲げ可能に、複数の硬質体55が保持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁体に非可撓性の材料を用いる高周波伝送線路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、高周波が流れる導体間の絶縁体にセラミックのような非可撓性の材料を用いた高周波伝送線路が知られている。例えば特許文献1には、この種の高周波伝送線路として、高温用同軸ケーブルが開示されている。この高温用同軸ケーブルは、白金線の中心導体と白金パイプの外部導体との間に耐熱セラミックの絶縁体を介在させて、リジッド同軸ケーブルを構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−139836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の高周波伝送線路は、絶縁体に樹脂を用いる高周波伝送線路に比べて、耐熱性は高いものの、可撓性に乏しい。例えば、高周波伝送線路を自動車に設けた場合に、振動により破損するおそれがあった。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、高周波が流れる導体間の絶縁体に非可撓性の材料を用いる高周波伝送線路の可撓性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、高周波電力を送るための給電導体と接地された接地導体とに絶縁体が挟まれた高周波伝送線路を対象とする。そして、この高周波伝送線路の前記絶縁体は、それぞれが非可撓性の材料により構成されて、高周波の伝送方向に連なる複数の硬質体により構成され、前記絶縁体が隣り合う硬質体の接続箇所で曲げ可能に、複数の硬質体が保持されている。
【0007】
第1の発明では、高周波伝送線路の絶縁体が、高周波の伝送方向に連なる複数の硬質体により構成されている。複数の硬質体は、隣り合う硬質体の接続箇所で曲げ可能に保持されている。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、前記硬質体の各々が、円筒状に形成され、前記給電導体が、線状に形成されて前記複数の硬質体の内側を貫通し、前記接地導体が、前記複数の硬質体の外側を被覆する。
【0009】
第3の発明は、第2の発明において、前記複数の硬質体では、各硬質体が高周波の伝送方向における下流側ほど窄まり、前記隣り合う硬質体において、上流側の硬質体が下流側の硬質体の内側に嵌め込まれている。
【0010】
第4の発明は、第2又は第3の発明において、前記複数の硬質体が、前記高周波の伝送方向に亘って延びる可撓性の絶縁体により保持されている。
【0011】
第5の発明は、第2乃至第4の何れか1つの発明において、前記硬質体は、伝送する高周波の電気長の4分の1の長さを有する導体が一体化されている。
【0012】
第6の発明は、第2乃至第5の何れか1つの発明において、前記複数の硬質体の一部に、他の硬質体とは誘電率が異なる硬質体、又はファラデー効果が得られる硬質体を使用している。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、高周波の伝送方向に連なる複数の硬質体が、絶縁体が隣り合う硬質体の接続箇所で曲げ可能となるように保持されている。従って、絶縁体に耐熱性の高いセラミックを用いる高周波伝送線路の可撓性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態に係るプラズマ生成装置のブロック図である。
【図2】実施形態に係る同軸ケーブルの縦断面図である。
【図3】実施形態に係る同軸ケーブルの硬質体の斜視図である。
【図4】実施形態の変形例1に係る同軸ケーブルの縦断面図である。
【図5】実施形態の変形例2に係る同軸ケーブルの縦断面図である。
【図6】実施形態の変形例3に係る同軸ケーブルの上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0016】
本実施形態は、本発明に係る高周波伝送線路50を備えたプラズマ生成装置20である。プラズマ生成装置20は、多気筒のエンジン5の各燃焼室10においてマイクロ波プラズマを生成する。プラズマ生成装置20は、エンジン5の点火装置を構成し、マイクロ波プラズマにより各燃焼室10の混合気に点火する。
【0017】
プラズマ生成装置20は、図1に示すように、放電装置12と電磁波放射装置13と制御装置14とを備えている。プラズマ生成装置20は、放電装置12により生成された放電プラズマに、電磁波放射装置13が放射するマイクロ波のエネルギーを供給することにより、放電プラズマを拡大させたマイクロ波プラズマを生成する。
【0018】
放電装置12は、燃焼室10毎に設けられている。各放電装置12は、高電圧パルスを出力する高電圧発生器23と、該高電圧発生器23からの高電圧パルスが印加されると放電ギャップにおいて放電が生じる放電器28とを備えている。
【0019】
高電圧発生器23は、自動車用の点火コイルである。高電圧発生器23は、制御装置14から点火信号を受けると、直流電源から印加された電圧を昇圧し、昇圧後の高電圧パルスを放電器28に出力する。一方、放電器28は、自動車用の点火プラグである。放電器28は、エンジン5のシリンダヘッドに取り付けられ、燃焼室10の天井面の中心部に配置されている。放電器28では、高電圧パルスが供給されると、中心電極と接地電極の間の放電ギャップにおいて、スパーク放電が生じる。
【0020】
電磁波放射装置13は、電磁波発生装置21と分配器22と複数のアンテナ27とを備えている。電磁波発生装置21と分配器22は1つずつ設けられ、アンテナ27は燃焼室10毎に設けられている。分配器22は、複数のアンテナ27の間で、電磁波発生装置21から出力されたマイクロ波の供給先を切り替える。
【0021】
電磁波発生装置21は、制御装置14から電磁波駆動信号を受けると、所定のデューティー比でマイクロ波パルスを繰り返し出力する。電磁波駆動信号はパルス信号であり、電磁波発生装置21は、電磁波駆動信号のパルス幅の時間に亘って、マイクロ波パルスを繰り返し出力する。電磁波発生装置21では、半導体発振器がマイクロ波を生成する。なお、半導体発振器の代わりに、マグネトロン等の他の発振器を使用してもよい。
【0022】
分配器22は、1つの入力端子と、アンテナ27毎に設けられた複数の出力端子とを備えている。入力端子は、電磁波発生装置21に接続されている。各出力端子は、アンテナ27に接続されている。また、各アンテナ27は、エンジン5のシリンダヘッドに取り付けられ、燃焼室10の天井面から燃焼室10に露出している。
【0023】
本実施形態では、電磁波放射装置13の高周波伝送線路50に、図2に示す同軸ケーブル50が用いられている。同軸ケーブル50は、電磁波発生装置21と分配器22との間と、分配器22と各アンテナ27との間とに用いられている。
【0024】
同軸ケーブル50は、中心導体51と絶縁体52と外側導体53と被覆カバー54を備えている。中心導体51(給電導体)は、導線であり、絶縁体52を貫通している。外側導体53は、メッシュ状のマイクロ波シールド用の導体であり、絶縁体52の外周面を覆っている。外側導体53は接地されている。外側導体53の外側は、絶縁体により構成されて可撓性を有する被覆カバー54により覆われている。
【0025】
絶縁体52は、高周波の伝送方向(つまり、同軸ケーブル50の長さ方向)に連なる複数の硬質体55により構成されている。各硬質体55は、非可撓性の材料により構成されている。各硬質体55は、絶縁性のセラミックにより構成されている。
【0026】
各硬質体55は、図3に示すように、一端から他端へ向かって窄まる円筒状に形成されている。各硬質体55は、内周面及び外周面ともに、一端から他端へ向かって窄まるテーパー状に形成されている。各硬質体55は、大径側(一端側)の端部の内径が、小径側(他端側)の端部の外径よりも大きい。複数の硬質体55は、大径側が上流側を向き、小径側が下流側を向いている。隣り合う硬質体55では、上流側の硬質体55の小径側が、下流側の硬質体55の大径側の内側に嵌め込まれて、上流側の硬質体55の外周面と下流側の硬質体55の内周面とが当接している。複数の硬質体55は、隣り合う硬質体55同士が嵌合された状態で、外側導体53により保持されている。絶縁体52は、隣り合う硬質体55の接続箇所で曲げ可能に複数の硬質体55が保持されている。
−プラズマ生成装置の動作−
【0027】
プラズマ生成装置20がマイクロ波プラズマを生成して各燃焼室10の混合気に点火する動作を説明する。複数の燃焼室10の間では点火タイミングがずれている。
【0028】
各燃焼室10では、ピストンが上死点を達する直前に、吸気行程が開始される。そして、ピストンが上死点を通過した直後に、排気行程が終了する。制御装置14は、吸気行程中の燃焼室10に対応するインジェクターに対して噴射信号を出力し、そのインジェクターに燃料を噴射させる。インジェクターは吸気ポートに燃焼を噴射する。
【0029】
吸気行程は、燃料噴射後においてピストンが下死点を通過した直後に終了する。吸気行程が終了すると、圧縮行程が開始される。制御装置14は、圧縮行程中の燃焼室10に対応する高電圧発生器23に対して、ピストンが上死点に達する直前に点火信号を出力する。これにより、高電圧発生器23から出力された高電圧パルスが放電器28へ供給され、放電器28の放電ギャップでスパーク放電が行われる。放電ギャップでは、スパーク放電に伴い放電プラズマが生成される。
【0030】
また、制御装置14は、各燃焼室10に対応する高電圧発生器23から高電圧パルスが出力される直前に、電磁波発生装置21に電磁波駆動信号を出力する。なお、電磁波駆動信号の出力に先立って、高電圧パルスを受ける放電器28と同じ燃焼室10のアンテナ27がマイクロ波の供給先になるように、分配器22が切り替えられている。これにより、電磁波発生装置21から出力されたマイクロ波パルスは、高電圧パルスを受ける放電器28と同じ燃焼室10へアンテナ27から放射される。マイクロ波パルスは、放電プラズマが生成される直前から直後に亘って繰り返し放射される。放電プラズマはマイクロ波のエネルギーを吸収して拡大し、比較的大きなマイクロ波プラズマになる。燃焼室10では、マイクロ波プラズマにより混合気が着火され、混合気の燃焼が開始される。
【0031】
各燃焼室10では、混合気が燃焼するときの膨張力により、ピストンが下死点側へ動かされる。そして、ピストンが下死点に達する直前に、排気行程が開始される。上述したように、排気行程は、吸気行程の開始直後に終了する。
−実施形態の効果−
【0032】
実施形態では、高周波の伝送方向に連なる複数の硬質体55が、絶縁体52が隣り合う硬質体55の接続箇所で曲げ可能となるように保持されている。従って、絶縁体52に耐熱性の高いセラミックを用いる高周波伝送線路50の可撓性を向上させることができる。
【0033】
また、実施形態では、絶縁体52に誘電率が高いセラミックを用いるので、高周波伝送線路50の特性インピーダンスを低くすることができる。従って、電磁波発生装置21とアンテナ27とが特性インピーダンスが低い場合において、マッチングが取りやすい高周波伝送線路50を提供することができる。また、絶縁体52において硬質体55同士が接触しているため、放電しにくく、耐電圧の高い高周波伝送線路50を提供することができる。また、絶縁体52に熱伝導率が高いセラミックを用いるので、プラズマ生成に用いる大電力のマイクロ波に対して、耐熱性の高い高周波伝送線路50を提供することができる。
−実施形態の変形例1−
【0034】
変形例1では、図4に示すように、複数の硬質体55が、中心導体51と外側導体53との間に設けられた柔軟な絶縁体56(例えば、ポリイミド等の樹脂)に埋設されている。隣り合う硬質体55では、上流側の硬質体55の小径側の外周面と、下流側の硬質体55の大径側の外周面とが、柔軟な絶縁体56を介して対向している。
【0035】
なお、複数の硬質体55の一部(例えば、端部)に、他の硬質体55とは誘電率が異なる硬質体55を使用したり、ファラデー効果が得られる材料(例えば、ガーネット)の硬質体55を使用したりして、マイクロ波の反射波が電磁波発生装置21に戻ることを抑制するアイソレータを構成してもよい。
−実施形態の変形例2−
【0036】
変形例2では、図5に示すように、各硬質体55の内面に亘って、筒状導体57が一体化されている。筒状導体57における硬質体55の内面に沿う方向の長さ(図5における硬質体55の長手方向の長さ)は、同軸ケーブル50を流れるマイクロ波の電気長(波長)の4分の1である。各硬質体55は周期構造を持つ。筒状導体57は、中心導体51と外側導体53とを電気的に接続しないように設けられている。なお、各硬質体55の内面ではなく、各硬質体55の外面に筒状導体57を一体化してもよい。変形例2によれば、高周波伝送線路50にスタブ等の整合器を設けなくてもインピーダンス整合を取りやすい同軸ケーブル50を提供することができる。
−実施形態の変形例3−
【0037】
変形例3では、図6に示すように、高周波伝送線路60が、マイクロストリップライン60により構成されている。高周波伝送線路60の絶縁体52は、高周波の伝送方向に連なる複数の硬質体基板60により構成されている。複数の硬質体基板60は、各硬質体基板60の表面に固定された給電導体61により保持されている。給電導体61は、高周波電力を送るための導体板である。各硬質体基板60の裏面には、接地導体が設けられている(図示省略)。隣り合う硬質体基板60では、接地導体同士が電気的に接続されている。
《その他の実施形態》
【0038】
上記実施形態は、以下のように構成してもよい。
【0039】
上記実施形態について、高周波伝送線路が、同軸ケーブルやマイクロストリップライン以外の伝送線路であってもよい。
【0040】
また、上記実施形態について、各硬質体がセラミック以外の材料であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
以上説明したように、本発明は、絶縁体に非可撓性の材料を用いる高周波伝送線路について有用である。
【符号の説明】
【0042】
50 高周波伝送線路
51 中心導体(給電導体)
52 絶縁体
53 外側導体(接地導体)
54 被覆カバー
55 硬質体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波電力を送るための給電導体と接地された接地導体とに絶縁体が挟まれた高周波伝送線路であって、
前記絶縁体は、それぞれが非可撓性の材料により構成されて、高周波の伝送方向に連なる複数の硬質体により構成され、
前記絶縁体が隣り合う硬質体の接続箇所で曲げ可能に、複数の硬質体が保持されている
ことを特徴とする高周波伝送線路。
【請求項2】
請求項1において、
前記硬質体の各々は、円筒状に形成され、
前記給電導体が、線状に形成されて前記複数の硬質体の内側を貫通し、前記接地導体が、前記複数の硬質体の外側を被覆する
ことを特徴とする高周波伝送線路。
【請求項3】
請求項2において、
前記複数の硬質体では、各硬質体が高周波の伝送方向における下流側ほど窄まり、前記隣り合う硬質体において、上流側の硬質体が下流側の硬質体の内側に嵌め込まれている
ことを特徴とする高周波伝送線路。
【請求項4】
請求項2又は3において、
前記複数の硬質体は、前記高周波の伝送方向に亘って延びる可撓性の絶縁体により保持されている
ことを特徴とする高周波伝送線路。
【請求項5】
請求項2乃至4の何れか1つにおいて、
前記硬質体は、伝送する高周波の電気長の4分の1の長さを有する導体が一体化されている
ことを特徴とする高周波伝送線路。
【請求項6】
請求項2乃至5の何れか1つにおいて、
前記複数の硬質体の一部に、他の硬質体とは誘電率が異なる硬質体、又はファラデー効果が得られる硬質体を使用している
ことを特徴とする高周波伝送線路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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