説明

高周波加熱装置の運転状態を検出する状態検出装置

【課題】高周波加熱装置の出力の強弱、被加熱物、設置条件、周囲温度といった運転状態の変化に対しても異常検出を正確に行うことを可能とする運転状態検出技術を提供する。
【解決手段】マグネトロンのアノード電流検出用抵抗40で検出されたアノード電流は、コントロールパネル回路基板側のマイクロコンピュータ27のA/Dコンバータ端子に入力される。当該電流がアナログ・デジタル変換された上、アノード電圧IaDC値が求められる。マイクロコンピュータ27は、読み込まれたアノード電圧IaDC値に基づき、運転状態を判定する。この際の高周波加熱装置の出力や被加熱物等の運転状態の変化に対して異常判定に使用する閾値や動作開始からの変化量(増加量)を、設定された出力に応じて可変とすることにより誤作動のない正確な異常検出を可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子レンジ等のようなマグネトロンを用いた装置の高周波加熱に関する技術であり、特に高周波加熱装置の運転状態を検出する状態検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図10は高周波加熱装置の一例である電子レンジ100の構成図である。図において、商用電源11からの交流電源は、整流回路13によって直流に整流され、整流回路13の出力側のチョークコイル14と平滑コンデンサ15で平滑され、インバータ16の入力側に与えられる。直流はインバータ16の中の半導体スイッチング素子のオン・オフにより所望の高周波(20〜40kHz)に変換される。インバータ16は、直流を高速でスイッチングする半導体スイッチング素子を駆動制御するインバータ制御回路161によって制御され、昇圧トランス18の1次側を流れる電流が高速でオン/オフにスイッチングされる。
【0003】
制御回路161の入力信号は整流回路13の1次側電流を変流器17で検出し、その検出電流はインバータ制御回路161に入力され、インバータ16の制御に用いられる。また、半導体スイッチング素子を冷やす放熱フィンに温度センサ(サーミスタ)9’が取り付けられ、この温度センサによる検出温度情報がインバータ制御回路161に入力され、インバータ16の制御に用いられる。
【0004】
昇圧トランス18では1次巻線181にインバータ16の出力である高周波電圧が加えられ、2次巻線182に巻線比に応じた高圧電圧が得られる。また、昇圧トランス18の2次側に巻回数の少ない巻線183が設けられ、マグネトロン12のフィラメント121の加熱用に用いられている。昇圧トランス18の2次巻線182はその出力を整流する倍電圧整流回路19を備えている。倍電圧整流回路19は高圧コンデンサ191及び2個の高圧ダイオード192,193により構成される。
【0005】
ところで、このような電子レンジは加熱物を加熱室内に入れない、又は軽負荷の状態で運転するとマイクロ波のはね返り(バックボンバードメント)によってマグネトロン温度が上昇してebmが低下、その結果アノード電流が増大し、いわゆる空焼きや、軽負荷による過加熱状態を引き起こし、マグネトロンや高圧ダイオードが通常より大きく温度上昇してしまうおそれがある。このような状態を放置することにより、高圧ダイオードやマグネトロンが温度破壊してしまう事がある。
【0006】
このようなトラブルを防ぐ方法として、温度を検知するサーミスタを、マグネトロン、半導体スイッチング素子、高圧ダイオード等の近傍に載置し、これらの部品の熱破壊前に装置を停止させて温度上昇を防ぐ方法がある。
【0007】
サーミスタを用いた温度上昇防止の技術として、例えば特許文献1に開示されているように、放熱フィンにサーミスタをビス締めし、放熱フィンより温度を検出する方法があった(特許文献1参照)。
【0008】
図11(a)は特許文献1記載の取り付け方法を示す図で、サーミスタを放熱フィンにビス締めした状態を示す図である。プリント基板6の上に放熱用の放熱フィン7が取り付けられ、放熱フィン7の近傍に取り付けられた半導体スイッチング素子8の直上にサーミスタ9’が取り付けられている。
【0009】
高熱を発する半導体スイッチング素子IGBT8の放熱部は放熱フィン7に固定され、その3本の脚がプリント基板6のスルーホールに挿入され、反対側において半田づけされている。サーミスタ9’は同じく放熱フィン7にビス締めされて、放熱フィン7の温度情報を取り出している。
【0010】
また、ラジアルサーミスタをプリント基板の半導体スイッチング素子の近傍に取り付ける方法があった(特許文献2参照)。図11(b)は特許文献2記載の取り付け方法を示す図である。
【0011】
図において、プリント基板6の上に放熱用の放熱フィン7が取り付けられ、放熱フィン7に隣接して半導体スイッチング素子8が取り付けられている。そして、サーミスタ9’が半導体スイッチング素子8の反対側に取り付けられている。
【特許文献1】特開平2−312182号公報
【特許文献2】特許第2892454号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1の方法では、放熱フィンへのビス締めが必要となるため、組立工数が増し、コスト高となる問題があった。さらに、検出温度が高圧ダイオードの直接の温度ではなく、半導体スイッチング素子を取り付けた放熱フィンの温度であるため、高圧ダイオードと半導体スイッチング素子の温度上昇はある程度互いに相関性があるものの、温度検出精度および感度が共に悪いという欠点があった。
【0013】
特許文献2の方法では、放熱フィンの近傍にサーミスタを後付けするため、組立工数が増し、また冷却風の影響を直に受けるのでサーミスタの熱時定数が悪くなるという欠点があった。また、検出温度が高圧ダイオードの直接の温度ではなく、高圧ダイオードと半導体スイッチング素子の温度上昇はある程度互いに相関性があるものの、温度検出精度および感度が共に悪いという欠点があった。
【0014】
さらに、サーミスタ9’を半導体スイッチング素子8の脚部近傍Aに取り付けることも行われていたが、この場合においても同じく放熱フィンの近傍に後付けとなり、手で取り付けていたので工数が増し、また冷却風の影響を直に受けるのでサーミスタの熱時定数が悪くなるという欠点があった。また、検出温度が高圧ダイオードの直接の温度ではなく、高圧ダイオードと半導体スイッチング素子の温度上昇はある程度互いに相関性があるものの、温度検出精度および感度が共に悪いという欠点があった。
【0015】
高圧ダイオード熱破壊保護という観点の改善ではないが、上述の技術では、いずれにせよ温度検出精度および感度が悪く、加熱物を加熱室内に入れない、又は軽負荷の状態で運転した時、マグネトロンや高圧ダイオードの温度上昇値が他の構成部品の温度上昇値より大きくなり、温度上昇検知が正確に行なわれず、部品破壊を招く可能性があるため流用はできない。
【0016】
本発明は、高周波加熱装置の運転状態を正確に判断・把握するために電波出力の強弱、被加熱物、設置条件、周囲温度といった異なる組み合わせに対してもマグネトロンのアノード電流対応値による運転状態の判定に使用する閾値を出力に応じて可変とする方式を提供し、空焼き状態、過加熱状態等の如き異常な運転状態を正確に検出し、各構成部品、高周波加熱装置の保護を行う。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、マイクロ波を発生するマグネトロンを備えた高周波加熱装置の運転状態を検出する状態検出装置を提供し、当該状態検出装置は、検出された前記マグネトロンのアノード電流を入力するアノード電流入力部と、前記アノード電流入力部により入力されるアノード電流を読み込み、当該アノード電流に基づき前記高周波加熱装置の運転状態を判定する判定部と、を備え、前記判定部は、前記マグネトロンの出力を制御する出力制御信号が入力され、前記出力制御信号の値に応じて、状態判定のための閾値を変化させる。
【0018】
本発明の状態検出装置によれば、マグネトロンの出力制御に応じて、高周波加熱装置の運転状態を判定する判断基準としての閾値を変化させることが可能となる。出力に応じて適切な閾値を設定することにより、高周波加熱装置のおかれる雰囲気温度、設置条件、被加熱物の種類などにより変化する異常運転と正常運転の境界を明確に線引きし、運転状態を誤って判断することを防止することが可能となる。
【0019】
前記閾値としては、前記出力制御信号の所定の対応値そのものに対する閾値が考えられる。ここで、前記運転状態を判定する判定部は、入力された出力制御信号の前記対応値が前記閾値を超えた場合、前記高周波加熱装置の運転状態が正常でないと判定し、当該高周波加熱装置の運転を停止、または出力を減少させるよう構成される。
【0020】
一方、前記閾値は、前記出力制御信号の所定の対応値の時間経過に伴う変化量に対する変化量閾値であってもよい。さらに前記判定部は、前記変化量の判定を行なう有効判定時間を有し、前記有効判定時間をも変化させてよい。ここで、前記運転状態を判定する判定部は、入力された出力制御信号の前記変化量が前記変化量閾値を超えた場合、前記高周波加熱装置の運転状態が正常でないと判定し、当該高周波加熱装置の運転を停止、または出力を減少させるよう構成される。
【0021】
前記対応値は前記アノード電流を変換して得られるアノード電圧が好ましく、この場合、前記アノード電流入力部を、前記アノード電圧にアナログ・デジタル変換を施すA/Dコンバータ端子より構成することが望ましい。
【0022】
上述の状態検出装置を高周波加熱装置に組み込むことで、高周波加熱装置の信頼性を向上させることができる。また、前記アノード電流検出部を、前記インバータ部をアース接続する経路に配置されたアノード電流検出用抵抗から簡易に構成することができる。
【0023】
更に本発明は、マイクロ波を発生するマグネトロンを備えた高周波加熱装置の運転状態を検出する状態検出方法をも提供し、当該状態検出方法は、検出された前記マグネトロンのアノード電流を入力するステップと、前記アノード電流入力部により入力されるアノード電流を読み込み、当該アノード電流に基づき前記高周波加熱装置の運転状態を判定するステップと、前記出力制御信号の値に応じて、状態判定のための閾値を変化させるステップとを備える。また、このような方法をコンピュータに実行させるプログラムも本発明に含まれる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、高周波加熱装置におけるマグネトロンのアノード電流を検出し、検出されたアノード電流に基づき高周波加熱装置の運転状態を判定している。この際、マグネトロンの出力の変化に対応して各種判定に用いる閾値を可変とすることで異なる設置条件と出力、被加熱物の組み合わせにおいても正確な運転状態の検出が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して詳細に説明する。
【0026】
図1は本発明の実施の形態に係る電子レンジ等の高周波発生装置100、特に運転状態の検知に関わる部分の回路構成図である。図1において、商用電源からの交流電源は、整流回路によって直流に整流され、出力側のチョークコイルと平滑コンデンサの平滑回路で平滑し、インバータの入力側に与えられる。直流はインバータの半導体スイッチング素子のオン・オフにより所望の高周波(20〜40KHz)に変換される。インバータは、直流を高速でスイッチングする半導体スイッチング素子を制御するインバータ制御回路によって駆動され、昇圧トランスの1次側を流れる電流を高速でオン・オフスイッチングして、昇圧トランスでは1次巻線にインバータの出力である高周波電圧が与えられ、2次巻線に巻線比に応じた高圧電圧が得られる。また、昇圧トランスの2次側には巻回数の少ない巻線が設けられマグネトロンのフィラメントの加熱用に用いられている。昇圧トランスの出力は、2次巻線に接続された両波倍電圧整流回路により整流されて直流高圧がマグネトロンに印加される。この両波倍電圧整流回路は、2個の高圧コンデンサと2個の高圧ダイオードにより構成されている。以上説明したインバータ回路基板上の基本的な構成は、本発明における高周波加熱装置の一部をなし、図10の全体構成と同じため(温度センサ9’を除く)、図示は省略している。すなわち、省略された部分には、少なくともマグネトロンを制御するインバータ部(図10のインバータ16、インバータ制御回路161等を含む)が含まれている。以上の部分は、基本的に、高周波加熱装置の筐体内部に収納されたインバータ回路基板上に配置されている。
【0027】
図1の構成において、マグネトロン、高圧ダイオードのカソード側とインバータ回路基板のアース間には、マグネトロンのアノード電流を検出するアノード電流検出部としてのアノード電流検出用抵抗40が挿入されている。ただし、アノードを流れる電流を検知可能ならば、アノード電流検出部として他の素子を用いることは構わない。
【0028】
高周波加熱装置の動作時、マグネトロンに高電圧が印加されると、マイクロ波が出力される。この時、マグネトロンのアノード電流は、高周波加熱装置の出力が大きいほど大きくなることがわかっている。また、装置の加熱室内の負荷が軽い場合、または被加熱物が存在しない空焼き状態の場合もマイクロ波の反射が大きくなり、確かな負荷が存在する時に比べてアノード電流が大きくなることがわかっている。即ち、アノード電流検出用抵抗40に流れるアノード電流を検出することにより、高周波加熱装置の運転状態、特に空焼きや過加熱等の異常運転状態を把握することができる。従って、この電流情報を後述するコントロールパネル基板のマイクロコンピュータ27に入力し、装置の運転制御を行うことができる。
【0029】
次に、インバータ回路基板と同様に高周波加熱装置の筐体内部に収納され、インバータ回路基板とは別基板として構成されたコントロールパネル回路基板上に配置された部分の説明をする。検出用抵抗40で検出された電流情報は、インバータ回路基板から、コネクタ、当該コネクタを介してインバータ回路基板に接続される通信線IaDCにより伝えられ、入力抵抗41と、コンデンサ29からなるとともに高周波ノイズを除去するローパスフィルタを介して平滑化され、マイクロコンピュータ27のA/Dコンバータ端子49に入力される。また、抵抗43はサージ保護用抵抗である。
【0030】
また、保護用素子23が、上述のローパスフィルタの前段において、検出用抵抗40のからの出力線(通信線IaDCの一部)とコントロールパネル回路基板のアースGND間に接続される。保護用素子23はインバータ回路基板側で異常状態が発生(検出用抵抗40のオープンやアース未接続時)した時にマイクロコンピュータ27に高圧が入力されるのを防止するために設けられる。
【0031】
さらに、マイクロコンピュータ27には、コントロールパネル回路基板上で構成されたメガネ端子リード線やねじ等の金属製固定部材50aを介して、アース線50が高周波加熱装置の本体(筐体)にアース接続されている。すなわち、コントロールパネル回路基板へのアーシングがアース線50の一箇所のみとなる構成が採られている。この構成により、後述する検出対象としてのマグネトロンのアノード電流経路が1つとなり、アース未接続が生じた場合のエラー検出を容易に行うことが可能となる。
【0032】
そして、本発明によれば、装置の動作前にインバータ回路基板と、コントロールパネル回路基板の両方のアース・フローティングのチェックを行うようにしているが、これはマイクロコンピュータ27に内蔵されるスリーステート出力回路46を用いて行われる。スリーステート出力回路46は、インバータ動作前にHi出力としてアノード電流検出用抵抗40、抵抗41,42からなるループでA/Dコンバータ端子49に得られる電圧値にてアーシングのチェックを行う。接続が確保できていることが確認できたならスリーステート出力回路46をOpenとして一連の回路から切り離し、正常な場合のみ、PMW出力指令を、通信線(PWM)を介してインバータ回路基板側のインバータ制御回路へ送り、インバータの動作を開始させる。一方、スリーステート出力によるアーシング・チェックで、少なくとも一つの基板のフローティング発生が検出されたら、エラー表示を行うとともに、装置の動作を禁止する。尚、他の通信線OSCは、インバータの動作状況を示す信号をインバータ制御回路から受け取るコネクタである。また、GNDで表わされた部分は、コントロールパネル回路基板のグランドパターンへの接続線を構成する。
【0033】
さらに、マイクロコンピュータ27には、所定時に作動するブザー48が接続され、マイクロコンピュータ27の指示に従って作動する。また、マイクロコンピュータ27には、後述するモータ70,71(図2)、ひいては回転アンテナ68,69(図2)の回転位置、回転量、回転速度を時間経過に応じて判定するタイマーとしての回転位置判定部(運動位置判定部)80が接続されているとともに、ユーザの操作入力を受け入れる操作入力部82が接続されている。尚、図示したインバータ回路基板及びコントロールパネル回路基板各々への部品の振り分けは任意であり、図示の例には限定されない。
【0034】
尚、図1、上述の説明におけるインバータ回路基板、コントロールパネル回路基板各々への各部品の振り分けはあくまで一例であり、部品の振り分け方法は本発明の本質とは関係ない。ただし、一般的にインバータ回路基板にはインバータ回路及びインバータ制御回路等の装置の駆動主回路が形成され、マグネトロンに接続される。そして、コントロールパネル回路基板にはマイクロコンピュータ等の制御回路が形成され、特に装置が電子レンジである場合は調理メニューの指令を担う。
【0035】
図2は同じく本発明の実施形態の高周波加熱装置100の全体構成図、特に正面から見た断面図を示す。高周波加熱装置100は、マグネトロン12と、当該マグネトロン12から放射されたマイクロ波を伝送する導波管63と、導波管63の上部に接続された加熱室64と、食品の如き被加熱物を載置するため加熱室64内に固定され、セラミックやガラスなどの低損失誘電材料からなるためにマイクロ波が容易に透過できる性質を持つ載置台65と、加熱室64内の載置台65より上方に形成されて実質的に食品を収納できるスペースとなる被加熱物収納空間66と、加熱室64内の載置台65より下方に形成されるアンテナ空間67と、導波管63内のマイクロ波を加熱室64内に放射するため、導波管63からアンテナ空間67にわたり、加熱室64の幅方向に対して対称位置に取り付けられた二つの回転アンテナ68、69と、回転アンテナ68、69を回転駆動できる代表的な駆動源としてのモータ70、71とを有する。
【0036】
図1に示したコントロールパネル回路基板、インバータ回路基板及びこれら基板上の部品は、図2には記載されていないが、もちろん高周波加熱装置100の筐体内に収納されている。
【0037】
本発明では上述したように、マグネトロンのアノード電流、及びその対応値(アノード電圧IaDC値など、ただしアノード電流そのものも含む)を検出することにより、高周波加熱装置の運転状態を把握するものであるが、当該電流の瞬間値を1回の検出により計測するのではなく、所定時間にわたって複数回検出を行なう。アノード電流値をIaDC値として読み込み、高周波加熱装置の運転状態を判定するための技術である(1)閾値制御、(2)変化量検出制御の形式に加え、IaDC値の読み込みに対してさらなる安定を図るべく電波攪拌体に追従した読み込み方式により、ノイズや給電分布の変化によるアノード電流変化の影響による誤検出のない、より精度の高い安定した検出を確保することを目指している。また、当該電波攪拌体に追従した読み込み方式により、(1)所定の閾値より大きい対応値が連続して読み込まれた回数に基づく閾値制御、または(2)複数回の読み込みにより算出された対応値の変化量に基づく変化量検出制御、のいずれかを実行することが可能となる。
【0038】
さらに本発明は、アノード電流、及びその対応値を(1)閾値制御、(2)変化量検出制御にて使用する際、高周波加熱装置の出力に応じて上記(1)、(2)記載の閾値を可変とすることで的確に運転状態を判定する以下の三つの方式を提供する。
【0039】
(A)閾値制御方式下における閾値をマイクロ波の出力指令を司るPWMに依存して可変とした閾値可変制御方式
(B)変化量検出制御方式下における判定用変化量閾値をマイクロ波の出力指令を司るPWMに依存して可変とした変化量閾値可変制御方式
(C)変化量検出制御方式下における変化量の判定が有効な時間を設定し、かつ当該時間をマイクロ波の出力指令を司るPWMに依存して可変とした変化量判定有効時間可変制御方式
【0040】
以下、(A)〜(C)の三つの方式について順次説明する。
【0041】
(A)閾値可変制御方式
一般的に、高周波加熱装置100の出力、すなわち、マグネトロン12の出力は動作周波数、印加電圧により可変にできるという特徴を有する。出力制御はユーザが操作入力部82を介して所望の出力に対応した出力制御信号を入力すると、マイクロコンピュータ27は、図1に示したPWM(Pulse Width Modulation)出力指令を、通信線(PWM)を介してインバータ回路基板側のインバータ制御回路161へ送り、インバータ制御回路161によるインバータ16に対する出力制御を行い、これによりマグネトロン12の出力が可変となる。一例として、インバータ制御回路161内に設けられたPWM制御回路のオンデューティ比を変化させることにより、インバータ16ひいてはマグネトロン12の出力を変化させることができる。
【0042】
例えば、1000W出力が要求される場合80%のオンデューティ比、800W出力が要求される場合75%のオンデューティ比、700W出力が要求される場合65%のオンデューティ比が必要とされる高周波加熱装置がある。このような相関関係が存在する場合、例えばy=Ax+Bの如き算出式に当てはめることにより、マイクロコンピュータ27は、出力、すなわちPWMオンデューティ比に応じて適切な閾値を設定する。ここでy:閾値、x:PWMオンデューティ比、A(特に正)及びBは定数である。算出式は上述のものには限定されないが、PWMオンデューティ比xが増加するにつれ、閾値yも増加するものが一般的に選択される(yがxの2次関数等)。
【0043】
上述の式の様に、各出力に応じた限界値としての閾値を個別に設けることにより、空焼き検知までの時間を早めることができる。すなわち、図3に示すように、時間経過と共に、低出力の場合アノード電流対応値(IaDC値)の電圧は直線aで示したように上昇しにくく、逆に高出力の場合IaDC値は直線bで示したように上昇しやすい。このような状況下で、閾値としての閾値電圧が一定のV1で固定して設定されると直線bの場合はt2という比較的短い時間で検出電圧が閾値電圧V1に達する。しかしながら出力をより落とした直線aの場合、検出電圧が閾値電圧V1に達する間での時間がt1という長い時間となり、検出までの時間が遅くなる。
【0044】
そこで本方式では、低出力の直線aの場合に、上述した算出式などを用いてより低い閾値であるV2を別途算出し、これを閾値として閾値制御を行なうこととしている。このような制御により、低出力の場合、検出までの時間が長くなることや、あるいは従来の固定値の閾値設定値V1に到達し得ずに、空焼きなどの不具合が継続して発生することをより確実に防止することが可能となる。
【0045】
また、(2)の変化量検出をも併用する場合であっても、低出力時には図3の直線aで示すように変化量が小さいため、変化量検出では検知が困難となる場合がある。従って低出力、かつ長時間の調理の場合、本方式を用いることにより、空焼きなどの不具合が継続して発生することをより確実に防止することが可能となる。
【0046】
また、出力が可変であると、固定された単一の閾値電圧は、1000Wの如き最高出力にあわせざるを得ない(図3のV1)。しかし600Wの如き低出力では、V1に達するまでに(t1に達するまでに)空焼きが継続して発生した場合、時間t1または調理終了時間まで運転が続行され、危険であるが、本方式の様に予め低出力に適した低閾値を設定することにより、空焼き運転続行を防止することが可能となる。
【0047】
(B)変化量可変制御方式
本方式では、マイクロコンピュータ27は、出力(PWMオンデューティ比)に応じて、判定用変化量閾値を変え、出力に応じて適切な判定用変化量閾値を設定する。算出式は上述した閾値可変制御方式と同様のものを用いる。
【0048】
本方式では、マグネトロンの環境変化、高周波加熱装置の設置条件、電波出力の組み合わせによるIaDC値の変化量の違いにも対応できる。例えば、以下の二つの状況を想定する。
【0049】
状況1:環境温度35℃,加熱装置筐体組み込み,水負荷(被加熱物が水)あり,出力1000W
状況2:環境温度0℃,オープンスペース,負荷なし(空焼き),出力600W
【0050】
状況1下においては、IaDC値の変化量(傾斜量)が状況2の変化量に比べ大きくなることがわかっている。したがって、状況1下の変化量以上の値を制御の判定用変化量閾値として設定していた場合、状況2の空焼きは検知できないこととなる。そこで、本方式においては、出力に応じた判定用変化量閾値(低出力に応じた低判定用変化量閾値の設定)を設定することにより、状況2下での空焼きをも検出して、運転続行を防止することが可能となる。
【0051】
(C)変化量判定有効時間可変制御方式
本方式では、マイクロコンピュータ27が、出力(PWMオンデューティ比)に応じて、変化量検出の判定を続行する有効判定時間を変えることにしている。式は例えばy=−Ax+Bの如きものを用いる。ここでy:有効判定時間、x:PWMオンデューティ比、A(特に正)及びBは定数である。算出式は上述のものには限定されないが、PWMオンデューティ比xが増加するにつれ、有効判定時間yが減少するものが一般的に選択される(yがxの反比例関数など)。
【0052】
すなわち、図4の直線aで示したように、たとえ(水)負荷ありでも長時間装置を駆動させればIaDC値の変化量(傾斜量)は大きくなることがわかっている(特に上述の状況1での動作時)。従って、単一の固定値である判定用変化量閾値としての変化量Δv1(動作開始からのIaDC値変化量)が予め定められていた場合、たとえ負荷が存在する場合であっても、時間t1に到達すると、マイクロコンピュータ27は変化量が所定の判定用変化量閾値Δv1に到達したものとして、運転を停止、もしくは出力を下げるといった運転状態を異常と判定した時の処理を行ってしまう。
【0053】
そこで、本方式においては、変化量制御方式における変化量(傾斜)判定の有効判定時間リミット(上限)t2を設定すると共に、変化量判定が有効な有効判定時間をマイクロ波の出力指令を司るPWMに依存した値で算出しておき、運転開始後当該t2時間までは変化量判定を有効として、それ以降は変化量判定を行わないこととした(有効判定時間t2以降に判定用変化量閾値Δv1に達しても運転状態を異常と判定した時の処理は行われない)。すなわち、出力ごとに上述の式に基づき、有効判定時間を変化させることにより、負荷あり、空焼き時とマイクロ波出力の組み合わせによる様々な運転状態に対する判定をより早く、より確実に行うことができる。具体的には出力が大きいほど判定時間を短縮させ、負荷ありにも拘わらず空焼き判定がなされるという誤検知を防止する。
【0054】
尚、さらに運転状態の把握に関する正確性を向上するため、特定の時間区間にわたってアノード電流の対応値を複数回検出し、当該区間の対応値の1周期総和値にて上述の制御を行なうことが可能である。以下、そのような制御を実施する実施形態を説明する。
【0055】
食品の如き被加熱物を均一に加熱するため、本実施形態の高周波加熱装置100においてはマグネトロンから放射されるマイクロ波は、回転アンテナ68、69により攪拌され、被加熱物に照射される。このような動作は、照射されるマイクロ波、ひいてはマグネトロンから見て、被加熱物の形状、材質等の特性が時間的に変化することを意味する。このような変化は、マグネトロンのアノード電流の不安定化、ふらつきを生じさせることとなるが、このようなふらつきが上述した(1)閾値制御、(2)変化量検出制御に反映されると、高周波加熱装置の運転状態の誤検出を生じさせるおそれがある。例えば、マイクロ波が攪拌されることにより、被加熱物の照射面が相対的に急激に変化し、急激にアノード電流が増加あるいは減少する場合がある。このような場合、本来正常な運転状態であるにも拘わらず、何らかの故障が生じたとマイクロコンピュータ27は勘違いし、高周波加熱装置の運転を停止させてしまうことが起こりうる。
【0056】
そこで本実施形態においては、上述した変動の影響を抑制するため、マイクロ波の攪拌に起因する被加熱物の相対的変化が生じる時間区間を一つの単位区間としてとりあげ、このような区間のアノード電流対応値の平均値を算出することとした。さらにその平均値を電波攪拌体の1周期分の総和を一塊として上述した(1)閾値制御、(2)変化量検出制御を行うことで、変動の影響を極力抑制する構成を実現している。
【0057】
このような時間区間として、本実施形態においてはマイクロ波を攪拌させる電波攪拌体としての回転アンテナ68、69の回転を検出し、回転アンテナの回転位置と連動して各区間の平均値を算出し、それらを1周期で総和している。すなわち、電波攪拌体の1回転周期にて給電分布の変動が繰り返されるため各区間での平均値を求め、それらを1周期に渡り総和した値を一塊として算出すれば瞬時の変化を吸収でき、レベリングされて、且つ絶対値としても大きく運用し易い。
【0058】
このような算出処理の概念の例を図5、6に示す。図5に示すように、回転アンテナの回転位置を示す回転軌道を、回転方向に10等分に分割する(等時間で分割)ことにより、区間1〜区間10の10個の区間が設けられる(1区間の角度=36度)。一般的に、60Hzの交流電源下における600サイクル、すなわち600/60=10秒で回転アンテナは1回転する構成を採っている。従って、1区間分の角度回転時間は1秒(60サイクル)となる。尚、50Hzの交流電源の場合は12秒(=600/50)で回転アンテナは1回転し、1区間分の角回転時間は1.2秒(50サイクル)となる。
【0059】
そして、区間1〜区間10の各々の区間で検出されたアノード電流の対応値、本実施形態ではアノード電圧IaDC値の平均値がマイクロコンピュータ27で、各区間毎に算出される(区間平均値の算出)。そして得られた10個の区間平均値を総和したデータを1単位(1塊)のデータとして保持する。この保持された1単位のデータが1周期分の対応値の総和による1周期総和値に該当する。そして、この1周期総和値を構成する1周期前に採集された区間平均値データを次の周期で得られた当該区間の区間平均値データで更新し、新しい1単位のデータが生成される。
【0060】
IaDC値を読み込むタイミングは、モータ70,71の回転開始後、経過時間をカウントするタイマーより構成された回転位置判定部80を用いた時間管理下で行うことができる。回転位置判定部80は、モータ70,71の回転開始後、任意の周方向の点の回転位置がどの位置にあるかを示す回転位置情報(運動位置情報)を、回転開始後の経過時間により取得することができる。勿論、回転アンテナの周方向縁部等に被検知体(磁石等)を設け、アンテナ空間67の壁面等に固定されたセンサ(磁気センサ等)で回転方向の位置を読み取る構成により回転位置判定部80を構成することもできる(座標管理)。
【0061】
図6は、上述したデータの保持、更新の概念を記憶装置としてのバッファメモリを用いて示したものである。このようなバッファメモリは、マイクロコンピュータ27の内部等に設けられている。バッファメモリには、区間平均値データを保持、更新するバッファZと、1周期総和値データを保持、更新するバッファXが設けられている。
【0062】
測定が始まる前、バッファZの総ての区間の対応値データ(区間平均値データ)は“0”に設定されている。最初、区間1の区間平均値データ“1”が検出、保持され、次に、区間2の区間平均値データ“2”が検出、保持される。以降、区間3〜区間10の区間平均値データ“3〜10”が検出、保持される。すなわち、ここで“1〜10”の参照番号で表わされたデータは、総て1区間において検知された総ての対応値(60Hでは60サイクルのデータ)の平均値に相当する区間平均値データである。
【0063】
全区間1〜10の区間平均値データが保持されると、これらのデータを総和することで、1周目の1周期総和値データ“55”が生成され、バッファXに保持される。更に2周目以降の各区間の区間平均値データが、バッファZで更新され、この更新により順次生成された最新の1周期総和値データが、バッファXに保持される。本実施形態では、最初に保持された区間1の区間平均値データが2周目の当該区間の平均値データ“11”で更新されることにより、新たな周期平均値データが生成される。すなわち、1周期総和値データは、要素となる区間平均値データが玉突き式に更新されることにより、言い換えると、FIFO(First-In-First-Out)形式のメモリに保持された区間平均値データに基づき生成される。マイクロコンピュータ27は、このような方式にて保持された1周期総和値データが“55,65,75,85・・・”と更新されていく。すなわち運転状態を判定する対応値としての1周期総和値は動作開始から60Hz時は10秒後、50Hz時は12秒後に初めて算出される。それ以降60Hz時は1秒、50Hz時は1.2秒間隔で1周期総和値データが更新されていき、(1)閾値制御、(2)変化量検出制御を行う。図6で示したバッファXの値は分かり易く表記したものであり、実際の給電分布の各区間でのIaDC値の変動はここまでの差異はない。また、1周期総和値とするメリットとしては扱う電圧値が微小なIaDC値を大きくして表現でき、ノイズの影響を受けにくくすることに拍車をかけている。
【0064】
このように、本実施形態では、回転体である電波攪拌体の1回転を対応値の1周期総和値として算出し、順次算出された1周期総和値を比較して運転制御を行なうため、ノイズの如き突出した対応値を抑制し、マイクロ波と被加熱物の相対関係(相対位置)に基づく影響を抑制した状態で、安定して対応値を取得することができる。
【0065】
以上のように構成された高周波加熱装置の運転状態の検出、特に装置が電子レンジである場合の運転状態における異常検知及び異常検知時の保護処理の動作を、図7のフローチャートを参照して説明する。
【0066】
高周波発生装置の初期設定として、m=0,Z(m)=Zmin=500をマイクロコンピュータ27は設定する(ステップS201)。各記号の意味は以下の通りである。
【0067】
m:アノード電圧IaDC値の1周期総和値が算出された順番
Z(m):m番目に算出されたアノード電圧IaDC値の1周期総和値
Zmin:変化量制御に使用する比較用初期値を格納
【0068】
尚、Z(m)は読み込まれたIaDC値から算出された1周期総和値であるが、動作当初の初期値として500に設定されている。すなわちZ(0)=500である。また、変化量制御に使用する変化量を計測する際の比較用初期値として使用するZminについても500を初期設定している。
【0069】
続いて、高周波加熱装置の筐体に設けられた操作入力部82において、ユーザが設定した操作出力(1000W、800W、700W等)に応じて生成された出力制御信号をマイクロコンピュータ27は読み込み(ステップS202)、上述の閾値制御、変化量検出制御にて示した関係式に当てはめて、実際に使用する閾値A、変化量閾値C、変化量判定有効時間Tを算出する(ステップS203)。
【0070】
そして、マイクロコンピュータ27はインバータ制御回路に、PWM通信線を通じてPWM指令を送出し、マグネトロンを駆動してマイクロ波を発振させるとアノード電流、アノード電圧チェックによる運転状態監視シーケンスを開始する(ステップS204)。
【0071】
次にアノード電流検出用抵抗40によって読み込まれたアノード電流は、アノード電流入力部を構成するマイクロコンピュータ27のA/Dコンバータ端子49へ入力され、アナログ・デジタル変換を施されると共に、対応するアノード電圧IaDC値が読み込まれ、図3、図4の処理に従って区間平均値、1周期総和値が算出され、バッファメモリに保持される(ステップS205)。ここでの電流から電圧への変換は、通常の方式に従い、アノード電流検出用抵抗40の抵抗値を考慮して求められる。
【0072】
次に、IaDC値の変化量を検出する変化量検出制御を行なう。まず、マイクロコンピュータ27は、変化量検出制御に用いられるアノード電圧IaDC値の1周期総和値を検出した回数、言い換えると、変化量検出制御に移行した後、何回目の1周期総和値の検出かを示す順番数mのカウンタに1を追加し(ステップS206)、その時に算出された1周期総和値Z(m)をバッファメモリに書き込む(ステップS207)。続いて比較用初期値として使用するZminを設定する。更新され続ける1周期総和値Z(m)のm番目とm−1番目を比較してm番目の方が小さくなっていればZminを再設定(ステップS209),同じか大きければ次ステップへ進む(ステップS208;NO)。そして、マイクロコンピュータ27は、測定開始後、ステップS203で算出された変化量判定有効時間Tが経過しているか否かを判定し、経過時間が、当該有効時間Tを超えていない場合(ステップS210;NO)、当該値Z(m)と、比較用初期値Zminとの差である変化量Z(m)−Zminが、変化量検出制御における変化量の閾値C(ステップS203で算出)を超えているか否かを判断する(ステップS211)。一方、経過時間が、変化量判定有効時間Tを超えている場合(ステップS210;YES)、ステップS213以降の処理(閾値制御)へジャンプする。ステップS211において変化量Z(m)−Zminが変化量閾値Cより大きい場合、すなわちZ(m)−Zmin≧Cの場合(ステップS211;NO)、何らかの異常が発生しているとマイクロコンピュータ27は判定し、装置を停止、又は出力を減少させるとともにエラー表示を、筐体の液晶パネル等を通じて行なう(ステップS212)。一方、変化量が変化量閾値Cを超えていない場合(ステップS211;YES)、ステップS213以降の処理(閾値制御)を開始する。
【0073】
続いて、現在の1周期総和値Z(m)と閾値A(ステップS203で算出)を比較して閾値Aより低いか否かを判定する(ステップS213)。ステップS213の判定の結果、算出されたZ(m)が閾値Aより大きいと判定された場合は(ステップS213;NO)、何らかの異常が発生しているとマイクロコンピュータ27は判定し、装置を停止または装置の出力を下げるとともに、装置筐体に設けられた液晶パネル等を通じてエラー表示を行なう(ステップS212)。
【0074】
ステップS213の判定で、1周期総和値Z(m)が閾値A以下であると判定されたならば(ステップS213;YES)、調理が終了したか否か(停止キーが押されたか否か)を判定する(ステップS214)。調理終了であると判断された場合(ステップS214;YES)、調理終了となる。調理終了であると判断されなかった場合(ステップS214;NO)、ステップS205に戻りアノード電圧IaDC値が再び読み込まれ、1周期総和値Z(m)が算出され、それ以降の処理が実行される。
【0075】
本発明では、ある瞬間(1回のチェックのみ)におけるアノード電圧IaDC値の読み込み値のみに依拠して、装置の停止又はその出力が制御されるわけではない。マイクロコンピュータ27はIaDC値の連続検出作業を実施し、IaDC値がある閾値Aを超えた検出回数が連続して所定回数以上になると、または、IaDC値の変化量が所定値をこえると高周波発生装置を停止またはその出力を減少させる。瞬間のみの検出に依拠するわけではないので、ノイズに伴う誤検出等の可能性が低くなり、より正確な検出動作を行うことができる。
【0076】
また、本発明においては、IaDC値の複数回検出という処理に加え、所定区間に渡ったIaDC値の平均値を算出している。さらには、給電分布の変化に対応すべくその平均値を電波攪拌体の1周期で総和した値を運転状態の判定に用いるため、誤検出のない正確な判定が可能となる。
【0077】
本実施形態では、運転状態を検出する方式として、上述したようにマグネトロンの出力を制御する出力制御信号の値に応じて、状態判定のための閾値を変化させる閾値可変制御が行なわれている。当該制御に加え、本実施形態では、電圧の絶対値的な閾値Aを用いる閾値制御と、電圧の所定時間の変化量を検出する変化量検出制御という二つの制御方式が併用されている。図7では、ステップS208以降の判定が変化量検出制御に該当し、ステップS213以降の判定が閾値制御に該当する。各制御方式はマイクロコンピュータ27に内蔵され、各種演算処理装置より構成される判定部により実行される。また、この判定部、アノード電流入力部を構成するA/Dコンバータ端子49を含むマイクロコンピュータ27が本発明の状態検出装置に該当するが、もちろん、判定部とアノード電流入力部が一体のチップとして構成されている必要はない。
【0078】
尚、本発明においては、閾値制御と、変化量検出制御という二つの制御方式を採用することは必須ではない。出力制御信号の値に応じて、状態判定のための閾値を変化させる閾値可変制御のみにおいても、本発明の効果は達せられる。この場合、ステップS205〜ステップS213は省略可能である。
【0079】
また、上述の実施の形態では、閾値制御と変化量検出制御の2つの方式が併用されているものの、二つの方式は別々に独立して実施することができる。例えば、図7のステップS208〜ステップS211の変化量検出制御の後、ステップS213を省略し、ステップS214の判断を行うことにより、変化量検出制御のみで高周波加熱装置を制御することができる。また、ステップS208〜ステップS211を省略し、ステップS213の判断を行うことにより、閾値制御のみで高周波加熱装置を制御することができる。
【0080】
また、閾値制御及び/又は連続検出制御により運転状態が異常と判定された場合に、図1に示したブザー48により、運転停止若しくは出力減少と共に、又は運転停止若しくは出力減少に代えて警告を発することもできる。また、空焼き運転の場合と軽負荷運転の場合とで、ブザー音を変えることもできる。
【0081】
高周波加熱装置の出力を減少させる場合、最大出力の50%以下まで減少させることが望ましい。両波倍電圧整流回路の高圧ダイオードの保護という観点のみから考えると、アノード電圧IaDC値、又は算出された1周期総和値が、例えば、再度閾値Aよりも小さい電流まで低下したら、正規の100%出力まで戻してもよい。
【0082】
図8は、本発明の他の実施形態の高周波加熱装置100を正面から見た断面図を示す。本実施形態の高周波加熱装置100では、図2に示したような二つの回転アンテナ68、69は使用されていない。本実施形態では、載置台65aがモータ70aによりシャフト73を介して回転駆動されるターンテーブルになっており、加熱室64には開口74が形成され、マグネトロン12から発生したマイクロ波が導波管63、開口74を介して被加熱物収納空間66に導かれる。そして、載置台(ターンテーブル)65a上に載せられた回転する被加熱物が、マイクロ波によって熱せられる。本実施形態では、モータ70aの回転位置を検出し、上述のようにターンテーブルの1周期総和値を算出して制御を行なうことにより、図2の実施形態と同様な効果が達成される。従って、本実施形態では、載置台(ターンテーブル)65aは、図2に示したような回転アンテナ68、69と異なりマイクロ波自体を攪拌しないものの、被加熱物から見て相対的にマイクロ波を攪拌させており、やはり電波攪拌体として機能している。
【0083】
図9は、本発明の更に他の実施形態の高周波加熱装置100の正面から見た断面図を示す。本実施形態の高周波加熱装置100においても、図2に示したようなアンテナ空間67に収納された二つの回転アンテナ68、69は使用されていない。本実施形態では、被加熱物収納空間66の上部に設けられた電波拡散羽75がモータ70bによりシャフト76を介して回転駆動される。加熱室64には開口74が形成され、マグネトロン12から発生したマイクロ波が導波管63を介して回転する電波拡散羽75に到達した後拡散され、開口74を介して被加熱物収納空間66に導かれる。そして、載置台65上に載せられた被加熱物が、マイクロ波によって熱せられる。本実施形態では、モータ70bの回転位置を検出し、上述のようにターンテーブルの1周期総和値を算出して制御を行なうことにより、図2の実施形態と同様な効果が達成される。
【0084】
上述した実施形態では、電波攪拌体自身が所定の点を中心として回転運動するものを示した。しかしながら、電波攪拌体はこのようなものに限られず、往復運動、周回運動など、所定の時間的、軌道的周期をもった運動をする電波攪拌体をもつ高周波加熱装置に適用可能である。周期とアノード電流の検出を関連付ければ、判定のための値のふらつきを抑制することが可能となるからである。
【0085】
また、上述の実施形態ではアノード電圧の如き電流の対応値の区間平均値と一周期総和値を、運転状態の判別値として用いたが、検出された対応値の総てを総和値に用いる必要性は厳密にはない。運転状態の判別に使用することが適当な、1周期分の複数の対応値を代表する値が求められればよい。
【0086】
以上、本発明の各種実施形態を説明したが、本発明は前記実施形態において示された事項に限定されず、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者がその変更・応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
以上のように、本発明によれば、異なる電波出力、設置条件、被加熱物、環境温度等の組み合わせによるマグネトロンのアノード電流対応値の変化にも柔軟に対応して高精度のアノード電流の異常検出が可能になり、高周波発生装置のより精度の高い制御、安全な運転、保護を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の実施形態に係る高周波加熱装置の回路構成図であり、特に高周波加熱装置の状態検出装置に係る部分を示した回路構成図
【図2】本発明の実施形態に係る高周波加熱装置の正面から見た断面図
【図3】アノード電圧の時間経過に伴う変化を示すグラフ
【図4】アノード電圧の変化量の時間経過に伴う変化を示すグラフ
【図5】回転アンテナの鑑定軌道に沿ったデータ検出区間を示す概念図
【図6】バッファメモリにて検出データが蓄積、更新される状態を示す概念図
【図7】状態検出装置の処理のフローチャート
【図8】本発明の他の実施形態に係る高周波加熱装置の正面から見た断面図
【図9】本発明の更に他の実施形態に係る高周波加熱装置の正面から見た断面図
【図10】サーミスタ付き高周波加熱装置の構成図
【図11】サーミスタをプリント基板、放熱フィンに取り付けた状態を示す図
【符号の説明】
【0089】
12 マグネトロン
23 保護用素子
27 マイクロコンピュータ
29 コンデンサ
40 アノード電流検出用抵抗
41,42,43 抵抗
46 スリーステート出力回路
47 スリーステート端子
48 ブザー
49 A/Dコンバータ端子
50 アース線
63 導波管
64 加熱室
65 載置台
66 被加熱物収納空間
67 アンテナ空間
68,69 回転アンテナ
70,71 モータ
80 回転位置判定部
82 操作入力部
100 高周波加熱装置(電子レンジ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波を発生するマグネトロンを備えた高周波加熱装置の運転状態を検出する状態検出装置であって、
検出された前記マグネトロンのアノード電流を入力するアノード電流入力部と、
前記アノード電流入力部により入力されるアノード電流を読み込み、当該アノード電流に基づき前記高周波加熱装置の運転状態を判定する判定部と、を備え、
前記判定部は、前記マグネトロンの出力を制御する出力制御信号が入力され、前記出力制御信号の値に応じて、状態判定のための閾値を変化させる状態検出装置。
【請求項2】
請求項1記載の状態検出装置であって、
前記閾値は、前記出力制御信号の所定の対応値に対する閾値である状態検出装置。
【請求項3】
請求項2記載の状態検出装置であって、
前記運転状態を判定する判定部は、入力された出力制御信号の前記対応値が前記閾値を超えた場合、前記高周波加熱装置の運転状態が正常でないと判定し、当該高周波加熱装置の運転を停止、または出力を減少させる状態検出装置。
【請求項4】
請求項1記載の状態検出装置であって、
前記閾値は、前記出力制御信号の所定の対応値の時間経過に伴う変化量に対する変化量閾値である状態検出装置。
【請求項5】
請求項4記載の状態検出装置であって、
前記判定部は、前記変化量の判定を行なう有効判定時間を設けることとした状態検出装置。
【請求項6】
請求項5記載の状態検出装置であって、
前記判定部は、前記変化量の判定を行なう前記有効判定時間をも前記出力制御信号に応じて変化させる状態検出装置。
【請求項7】
請求項4ないし6のいずれか1項記載の状態検出装置であって、
前記運転状態を判定する判定部は、入力された出力制御信号の前記変化量が前記変化量閾値を超えた場合、前記高周波加熱装置の運転状態が正常でないと判定し、当該高周波加熱装置の運転を停止、または出力を減少させる状態検出装置。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項記載の状態検出装置であって、
前記対応値は前記アノード電流を変換して得られるアノード電圧であり、
前記アノード電流入力部は、前記アノード電圧にアナログ・デジタル変換を施すA/Dコンバータ端子より構成される状態検出装置。
【請求項9】
前記マグネトロンと、前記アノード電流を検出するアノード電流検出部と、前記マグネトロンを制御するインバータ部と、請求項1ないし8のいずれか1項記載の状態検出装置と、を備える高周波加熱装置。
【請求項10】
請求項9記載の高周波加熱装置であって、
前記アノード電流検出部は、前記インバータ部をアース接続する経路に配置されたアノード電流検出用抵抗から構成される高周波加熱装置。
【請求項11】
マイクロ波を発生するマグネトロンを備えた高周波加熱装置の運転状態を検出する状態検出方法であって、
検出された前記マグネトロンのアノード電流を入力するステップと、
前記アノード電流入力部により入力されるアノード電流を読み込み、当該アノード電流に基づき前記高周波加熱装置の運転状態を判定するステップと、
前記出力制御信号の値に応じて、状態判定のための閾値を変化させるステップと、
を備える状態検出方法。
【請求項12】
請求項11記載の各ステップをコンピュータに実行させるプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−335376(P2007−335376A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−169053(P2006−169053)
【出願日】平成18年6月19日(2006.6.19)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】