説明

高周波放電プラズマ生成型二段式ホール効果プラズマ加速器

【課題】 イオン加速とプラズマ生成とを独立して制御できるホール効果プラズマ加速器を提供する。
【解決手段】 ガス導入口205bを有する環状加速チャネル202と、高周波供給部213,214と、アノード206と、カソード207と、中和電子発生部207,210と、磁界発生手段201,203a,203b,204と、高周波発振器215を有し、導入されたガスは高周波によって電離・プラズマ化し、プラズマの陽イオンはアノード206とカソード207との間に印加される加速電圧によって加速されて外部に噴射され、プラズマの電子は磁界との相互作用により軸方向の移動が制限される二段式ホール効果プラズマ加速器200は、加速制御量たる加速電圧209でイオンの加速度が制御され、加速制御量と独立制御されるプラズマ化制御量たる高周波出力でプラズマの発生量が制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ加速器に関し、より詳しくは、二段式ホール効果プラズマ加速器、及びそれを使用した宇宙用推進機関、イオン加速装置、及びプラズマエッチング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
宇宙用推進機関に適した電気推進ロケットの一種類として、ソ連を中心として研究開発されたホール効果プラズマ加速器がある。ホール効果プラズマ加速器は、円環状加速チャネルを有し、それの半径方向に磁界をかけ、軸方向に電界をかける構造を有する。円環状加速チャネルの下流(開口部である出口側)に電子を放出するカソードを配置し、それの上流(出口の反対側)にアノードを配置する。カソードは加速・噴射されるイオン電流と等しい電子電流を外部空間に放出する。その放出された電子は、アノード方向に逆流して加速部の空間電荷制限効果を緩和してイオン加速を補助するとともに、さらに推進剤を電離する役割を担う。
【0003】
ホール効果プラズマ加速器の加速機構は、静電加速と電磁加速の2種類の動作機構によって説明することができる(例えば、非特許文献1参照。)。前者は粒子加速モデルによるものであり、後者はプラズマ流体の考え方に準拠するものである。ホール効果プラズマ加速器は、電磁加速モデルによると、円環状のプラズマ加速部に、半径方向の外部磁場と軸方向電界によって周方向のホール電流を誘起し、このホール電流と外部磁場との干渉による電磁加速を加速機構としている。またホール効果プラズマ加速器は、静電加速モデルによると、電子の軸方向の動きを半径方向磁場によって拘束することによって妨げ、軸方向に強い電界を維持することが可能になることにより、推進剤イオンを静電的に加速する静電加速を加速機構としている。ホール効果プラズマ加速器は、閉鎖電子ドリフトスラスターなどとも称される。
【0004】
図1は、従来のホール効果プラズマ加速器100の構成を表わす一部切り欠き斜視断面図である。ホール効果プラズマ加速器100は、磁極101、加速チャネル102、コイル103a、コイル103b、コイル104、推進剤投入口105a、推進剤放出口105b、アノード106、カソード107、配線108、加速電源109、及び中和器電源110から構成される。
【0005】
磁極101は、コイル103a、コイル103b、コイル104によって発生させられた磁力線を誘導することによって、加速チャネル102内にプラズマの生成・イオンの加速に適した形状の強さの磁界を分布させる。加速チャネル102の出口近傍(下流。図の上側)においてはイオン加速のために比較的強い磁界が分布させられ、出口と反対側(上流。図の下側)においてはプラズマ生成のために比較的弱い磁界が分布させられる。加速チャネル102は、上流にアノード106が設置され、下流の出口近傍に設置されたカソード107との間の電界によって、その内部のイオンを加速させる。コイル103a、コイル103b、コイル104は、図示していないが、適切な電源から電力の供給を受け、磁界を発生させる。推進剤投入口105aは、キセノンガスなどの推進剤をホール効果プラズマ加速器100の内部に導入するための導入口である。導入された推進剤は、推進剤放出口105bから加速チャネル102内に放出される。加速電源109が発生する電圧が、配線108を通じて、アノード106とカソード107との間に印加される。アノード106にはカソード107に対してプラスの電圧が印加される。後で詳述するように、この電圧はプラズマの生成と推進剤イオンの加速の両方の働きをすることになる。この電圧が発生する電界によって、加速チャネルの上流では主としてプラズマの生成が行われ、下流では主として推進剤イオンの加速が行われることになる。
【0006】
カソード107は、噴射された推進剤イオンの電荷を中和するための電子を放出する熱陰極としても機能する。中和器電源110は、熱陰極を加熱するための電力をカソード107に対して供給する。
【0007】
従来のホール効果プラズマ加速器100のプラズマの生成機構およびイオンの加速機構をこれから説明する。まず、静電加速機構のモデルにしたがって説明する。図2は、従来のホール効果プラズマ加速器100の静電加速モデルによる加速機構を説明する概念図である。図2では、加速チャネル102が一部切り欠き斜視断面図で表わされ、磁界B、電界E、推進剤中性粒子(nと表記)、電子(eと表記)、推進剤イオン(pと表記)がモデル的に表わされている。
【0008】
プラズマの静電加速モデルによる加速機構は以下のとおりである。加速チャネル102内には、上流から下流へと軸方向に印加された電圧による直流電界である電界Eが存在する。半径方向の磁界Bは、加速チャネル102の上流では弱く、下流では強くなるように設計されている。磁界Bのあるところに電子が置かれると、電子は磁界Bと電子自身の電荷と速度との相互作用により磁界Bと直交する方向のローレンツ力を受けて、磁界Bの磁力線に巻き付くような回転運動であるラーマー運動を行い、軸方向の動きが制限される。磁界Bのあるところに推進剤イオンが置かれても、それも同様に磁界Bと直交する方向のローレンツ力を受けるものの、推進剤イオンは、電荷に対する質量が電子よりはるかに大きいため、ラーマー半径は電子のそれよりはるかに大きくなる。従って、磁界Bの強さとそれが存する空間領域を適当に選択することにより、電子は磁力線の周りを旋回して磁界Bに拘束される一方、推進剤イオンは、ほぼ直進運動を行って磁界Bに拘束されないように設定することが可能である。
【0009】
ここで、プラズマの生成機構についても説明する。磁界Bが弱い上流では、下流と比較して、電子は磁界Bにあまり強く拘束されないため、電子はアノード106方向に加速されやすくなる。このようにして大きく加速された電子は、推進剤中性粒子と衝突して、それを電子と推進剤イオンとに電離させる。このようにして、プラズマが生成される。
【0010】
加速機構について具体的に説明する。加速チャネル102の下流に配置されたカソード107から放出された電子は、その一部がアノード106に引き寄せられて加速チャネル102内に入る。加速チャネル102に入った電子は、後述のように、加速部の空間電荷制限効果を緩和して推進剤イオンの加速を補助するとともに、さらにプラズマ発生部に移動して推進剤ガスを電離する働きを行う。加速チャネル102に入った電子は、加速チャネル102内の磁界Bに拘束されてラーマー運動を行い、すぐにはアノード106に吸収されない。電子E23は、ラーマー運動が誘起させられることによって、磁界Bに拘束されている電子である。電子E23は徐々にアノード106に引き寄せられて加速チャネル102の上流に移動するが、この間に電界Eに加速されて大きい運動エネルギーを獲得する。電子E21は、このように大きい速度に加速された電子である。加速チャネル102の上流では、磁界Bが弱く、かつ、そこでの電子の速度が大きいため、電子のラーマー半径は大きくなる。運動エネルギーの大きい電子E21は、推進剤中性粒子N22と衝突して、それを電子E22と推進剤イオンP22とに電離させる。このようにして、加速チャネル102の上流においては、高速の電子によって多くの推進剤中性粒子が電離させられてプラズマ化する。このように、加速チャネル102の上流は、プラズマ発生部として機能する。発生した推進剤イオンP22は、質量が十分に大きいため、磁界Bによってラーマー運動が誘起されて軸方向に拘束されることなく、電界Eによって下流に加速され、高速の推進剤イオンP24として加速チャネル102の開口部から噴射させられ、その反作用として推力を生じる。このように、加速チャネル102の下流は、加速部として機能する。推進剤イオンP22の上側の矢印は、磁界Bによって拘束されずに下流に加速されることを表わしている。ここで、加速チャネル102の下流付近は、強い磁界Bによって電子E23を強く拘束するため、加速チャネル102の加速部において、正電荷の推進剤イオンのみならず、電子も多量に存在させることができる。このため、加速チャネル102の加速部を電気的に準中性のプラズマ状態に維持できる。したがって、空間電荷制限電流則による制約を受けることなく、カソード107とアノード106との間に大きい電圧をかけて大きい電流を流すことができ、それによって多くの推進剤イオンを加速・噴射させて大きい推力を得ることができる。カソード107から放出された電子の一部は加速チャネル102から下流方向に移動し、この電子E24が推進剤イオンP24を中和する。推進剤イオンP24によるイオン電流と等しい強さの、電子E24による電子電流が流れることになる。一方、加速チャネル102内の電子は、最終的にはアノード106に吸収される。
【0011】
次に、電磁加速機構のモデルにしたがって説明する。図3は、従来のホール効果プラズマ加速器100の電磁加速モデルによる加速機構を説明する概念図である。図3では、加速チャネル102が一部切り欠き斜視断面図で表わされ、磁界B、電界E、電流J、ローレンツ力F、電子(eと表記)、推進剤イオン(pと表記)がモデル的に表わされている。
【0012】
プラズマの電磁加速モデルによる加速機構は以下のとおりである。加速チャネル102の半径方向に磁界Bが存在する。磁界Bのあるところに電子が置かれると、電子は磁界Bと電子自身の電荷と速度との相互作用によるローレンツ力を受けて、磁界Bの磁力線の周りを旋回するラーマー運動を行い、軸方向の動きが制限される。ここで、加速チャネル102内には、上流から下流へと軸方向に印加された電圧による直流電界である電界Eが存在する。電子は、磁力線の周りを回転するラーマー運動の際に電場によって加減速が生じることより、円軌道の中心座標が周方向に移動する、E×Bドリフトを生じる。これによって、周方向に電子が移動し、その移動方向と逆方向の電流が流れることになる。なお、推進剤イオンに対しても、電子と同じ方向のE×Bドリフトを生じさせて、その移動方向と同じ方向の電流が流れることになるような力が同様に働くが、ラーマー半径が大きいため、周方向の定常的な移動を起こさないまま下流に排出される。従って、周方向の電流は、電子によってのみ誘起され、結果として周方向に一方向の電流が流れることになる。この電流はホール電流と呼ばれている。この周方向電流は、磁界Bと直交しているため、その周方向電流が流れている電子と推進剤イオンとからなるプラズマ流体に対して、それを下流方向に移動させるローレンツ力が働く。これによりプラズマが下流方向に加速されて噴射させられ、その反作用として推力を生じる。
【0013】
加速機構について具体的に説明する。電子E33と推進剤イオンP33とはプラズマを構成している。ここで、電子E33は、磁界Bの磁力線の周りを回転するラーマー運動をしながら、E×Bドリフトにより、周方向に移動する。この移動方向と逆方向に電流Jが流れる。電流Jが流れているプラズマは、磁界Bとの相互作用によりローレンツ力を下流方向に受ける。これによって電子E33と推進剤イオンP33とからなるプラズマが加速チャネル102の下流に加速・噴射させられ、その反作用として推力を生じる。なお、この電磁加速モデルにおいても、前述の静電加速モデルと同様の機構により、プラズマは主として上流のプラズマ発生部において生成されている。すなわち、加速チャネル102の上流において加速された電子E31が推進剤中性粒子N32と衝突して、それを電子E32と推進剤イオンP32とに電離させて、プラズマを生成させる。
【0014】
以上、従来のホール効果プラズマ加速器について、静電加速モデルと電磁加速モデルとにより加速機構を説明してきた。しかし、そのいずれの場合においても、従来のホール効果プラズマ加速器では、軸方向に印加した直流電界によってプラズマの生成と推進剤イオンの加速の両方を行っている。そのようなホール効果プラズマ加速器は、一段式ホール効果プラズマ加速器と呼ばれている。上述のように、加速部では比較的強い磁界が適している一方、プラズマ生成部では弱い磁場が適している。このように、加速部とプラズマ生成部とでは、磁界の強さに関する好適な特性が異なっている。それに加えて、加速部とプラズマ生成部とは隣接していなければならない。さらには、加速噴射後の推進剤イオンの軌道を平衡に保つためには、加速チャネル102の出口部で磁界が急峻に消失することが好ましい。したがって、加速チャネル102の上流から下流に向かって、軸方向に沿って、磁界の強さはゼロから緩やかに上昇し、最大値の位置を越えたあとは、急峻に半径方向の磁界がなくなるような配位が好適とされている。一段式ホール効果プラズマ加速器の性能を向上させるためには、磁界の設計が重要な要素であり、種々の試みがなされてきた(例えば、非特許文献2から5参照。)。
【0015】
このような目的のために最適化された磁場(磁界)を作り出すためには、複雑な磁気回路、電磁コイル、磁石、磁気シールド(磁気スクリーン)、磁気分路器を用いなければならず、宇宙システムとしては非常に好ましくない重量増という結果を招くことになる。また、磁場システムは温度上昇により性能を損ないやすいため、高温になるホール効果プラズマ加速器では、このような望ましい特性を実現することは、そもそも難しい。これらの問題を解決するために、磁場設計に関する多くの提案、研究がなされ、特許出願も存在する(例えば、特許文献1から13を参照。)。
【0016】
従来の「ホール効果プラズマ推進器」という発明の名称の特許出願に係る技術は、一段式ホール型加速器に関するものである。これは、中空環状磁性体による磁場回路設計に関するものである(例えば、特許文献1参照。)。
【0017】
従来の「ホール効果プラズマスラスター」という発明の名称の特許出願に係る技術は、一段式ホール型加速器に関するものである。これは、周方向に分割したソレノイドコイルにより噴射イオンビーム方向を制御する技術に関するものである(例えば、特許文献2参照。)。
【0018】
従来の「ホール効果プラズマ加速器」という発明の名称の特許出願に係る技術は、特表2001−521597(特許文献3)は、一段式ホール型加速器に関する特許出願である。これは、周方向に分割したソレノイドコイルを用いる技術に関するものである(例えば、特許文献3参照。)。
【0019】
従来の「クローズド電子ドリフトを備えたプラズマ加速器」という発明の名称の特許出願に係る技術は、磁気パス、磁気スクリーンを用いて一段式ホール型加速器に最適な磁場形状を提供する技術に関するものである(例えば、特許文献4参照。)。
【0020】
従来の「閉じた電子ドリフトを使用するイオン加速器での磁束形成」という発明の名称の特許出願に係る技術は、一段式ホール型加速器に関するものであり、磁気分路器を用いて最適磁場を提供する技術に関するものである(例えば、特許文献5参照。)。
【0021】
従来の「閉電子ドリフト及び導電性挿入物を備えるプラズマ加速器」という発明の名称の特許出願に係る技術は、一段式ホール型加速器に関するものである(例えば、特許文献6参照。)。
【0022】
従来の「閉鎖電子ドリフトによるプラズマ加速器」という発明の名称の特許出願に係る技術は、一段式ホール型加速器に関するものである(例えば、特許文献7参照。)。
【0023】
従来の「閉鎖電子ドリフトを持つプラズマ加速器」という発明の名称の特許出願に係る技術は、一段式ホール型加速器に関するものである(例えば、特許文献8参照。)。
【0024】
従来の「閉鎖電子ドリフトを持つ長さの短いプラズマ加速器」という発明の名称の特許出願に係る技術は、一段式ホール型加速器に関するものである(例えば、特許文献9参照。)。
【0025】
従来の「閉鎖電子ドリフトを持つプラズマ加速器」という発明の名称の特許出願に係る技術は、一段式ホール型加速器に関するものである(例えば、特許文献10参照。)。
【0026】
従来の「閉電子ドリフトを持つプラズマ加速器」という発明の名称の特許出願に係る技術は、一段式ホール型加速器に関するものであり、加速部に電極を設けイオンを反射させ損失を低減化する技術に関するものである(例えば、特許文献11参照。)。
【0027】
従来の「閉電子ドリフト及び導電性挿入物を備えるプラズマ加速器」という発明の名称の特許出願に係る技術は、一段式ホール型加速器に関するものである。これは、出口部に電極を設け噴射イオンビームの軌道を補正する技術に関するものである(例えば、特許文献12参照。)。
【0028】
従来の「高熱負荷に適応する閉鎖型電子ドリフトプラズマスラスタ」という発明の名称の特許出願に係る技術は、一段式ホール型加速器に関するものである。これは、磁場設計に関するものである(例えば、特許文献13参照。)。
【0029】
上記のように磁場設計に関する技術について多くの特許出願がなされている。しかしこれらはいずれも磁場の設計に関するものであって、磁場の設計の困難さを根本的に解決するものではない。
【0030】
一段式ホール効果プラズマ加速器では、プラズマ生成とイオン加速とは、一つの直流電源により実行される。プラズマ生成とイオン加速のそれぞれいずれかに寄与させるための電力の配分は、磁場の形状により決定されるため、それを能動的に制御することは難しい。このため、ホール効果プラズマ加速器を、効率的な動作が達成されるような最適な運転状態に制御することは困難である。
【0031】
また、一段式ホール効果プラズマ加速器では、プラズマ生成とイオン加速とが連続的に行われるため、プラズマ生成とイオン加速の比率が一定に保てなくなる場合があり、それに伴う「放電振動現象」という好ましくない現象が知られている(例えば、非特許文献1参照。)。激しい放電振動が発生すれば、推進器としての安定動作を失い、さらには作動の続行が不可能になることもある。
【0032】
ここで、総合推進効率ηは、次式にて表される。

この式の各成分の意味は、以下のとおりである。








電源効率:ηel
ここでそれぞれの項の意味は、以下のとおりである。



v:電気推進システムから加速噴射される実速度
ex:推力に寄与する有効噴射速度
b:噴射速度vに対応する実効加速電圧
i:イオン生成コスト
n:中和コスト
b:噴射イオン電流に相当するビーム電流
e:放電電流中の逆流電子電流
d:全放電電流
噴射ビーム効率にはビーム発散による損失効果や2価電離イオンによる比電荷の低下による推力損失が含まれる。
【0033】
総合推進効率ηを高めるためには、上記の各成分を向上させることが必要である。電流効率ηIの分母に現れる電子電流Ieが増加すれば、電流効率の低下につながることが分かるが、従来の一段式ホール効果プラズマ加速器では、カソードからの放出電子がアノードに逆流するため、電流効率は低いものになっていた。
【0034】
上記のような問題を解決し、運転範囲(電力範囲、推力可変、比推力可変)を拡大するために、プラズマ生成部とイオン加速部とに対して、それぞれ独立した電源を配する二段式ホール効果プラズマ加速器が研究されてきた(例えば、非特許文献6及び7を参照。)。これらの二段式ホール効果プラズマ加速器は、プラズマ生成とイオン加速のそれぞれの目的に応じて設置された電極間に印加する電圧を独立して制御することによって、プラズマ生成とイオン加速とを独立して制御し、最適な運転状態を達成することを目的とするものである。
【0035】
【特許文献1】特表2002−516644号公報
【特許文献2】特表2002−504968号公報
【特許文献3】特表2001−521597号公報
【特許文献4】特開平05−240143号公報(特許第2651980号明細書)
【特許文献5】特表2002−517661号公報
【特許文献6】特開平11−297497号公報
【特許文献7】特表平11−505058号公報
【特許文献8】特表平08−500930号公報
【特許文献9】特表平08−500699号公報
【特許文献10】特表平08−500930号公報(特許第3083561号公報)
【特許文献11】特開平04−229996号公報(特許第2961113号明細書)
【特許文献12】特許第2895472号明細書
【特許文献13】特開2000−073937号公報
【非特許文献1】栗木、荒川、「電気推進ロケット入門」東京大学出版、第7章
【非特許文献2】A.I. Morozov, Yu.V. Esipchuk, A.M. Kapulkin, V.A. Nevrovskii, and V.A. Smirnov, “Effect of A.I. Bugrova, A.D. Desitskov, V.K. Kharchevnikov, M. Prioul and L. Jolivet, “Research of the Magnetic Field on a Closed-Electron-Drift Accelerator”, Soviet Physics Technical Physics, Vol.17, No.3, 1972, pp.482.
【非特許文献3】A.I. Morozov, Yu.V. Esipchuk, G.N. Tilinin, A.V. Trofimov, Yu.A. Sharov and G.Ya. Shchepkin, “Plasma Acceleration with Closed Electron Drift and Extended Acceleration Zone”, Soviet Physics Technical Physics, Vol.17, No.1, 1972, pp.38.
【非特許文献4】V.M. Gavryushin and V. Kim, “Effect of the Characteristics of a Magnetic Field on the Parameters of an Ion Current at the Output of an Acceleration with Closed Electron Drift”, Soviet Physics Technical Physics, Vol.26, No.4, 1981, pp.504.
【非特許文献5】A.M. Bishaev and V. Kim, “Local Plasma Properties in a Hall-Current Accelerator with an Extended Acceleration Zone”, Soviet Physics Technical Physics, Vol.23, No.9, 1978, pp.1055.
【非特許文献6】Y. Yamagiwa & K. Kuriki, “Performance of Double-Stage-Discharge Hall Ion Thruster”, Journal of Propulsion and Power, Vol.7, No.1, 1991, pp.65
【非特許文献7】A.I. Morozov, A.I. Bugrova, A.D. Desitskov, V.K. Kharchevnikov, M. Prioul and L. Jolivet, “Research on Two-Stage Engine SPT-MAG”, IEPC03-290, International Electric Propulsion Conference, 2003, France.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0036】
しかし、これらの方式では、プラズマ生成とイオン加速のそれぞれに対して直流電界を利用するため、たとえ、プラズマ生成とイオン加速のそれぞれの目的に対して独立した直流電源によって電圧を印加したとしても、実際には、そのそれぞれによって、プラズマ生成とイオン加速とを独立して制御することは非常に困難であった。すなわち、独立した2つの電圧を、例えば加速チャネルの上流と下流とに分けて印加したとしても、連続した加速チャネル内で、プラズマ生成とイオン加速とが渾然一体として行われるため、どうしても、プラズマ生成のために印加した電圧のある部分はイオン加速にも寄与することとなり、また、イオン加速のために印加した電圧のある部分はプラズマ生成にも寄与することとなる。そのため、二段式ホール効果プラズマ加速器であっても、実際には、性能的に一段式ホール効果プラズマ加速器と差別化することは困難であった。また、二段式ホール効果プラズマ加速器では、プラズマ生成に電子の逆流が不要のため、電流効率を向上させることができるものの、プラズマ生成のために別の電源や構成要素を導入するため、これに要する効率要素が電圧効率ηVの分母にイオン生成コストCiとして新たに現れることにもなり、また、推進効率は電流効率ηIの改善と電圧効率ηV低下の兼ね合いによっても決まるため、そのような二段式の構成が直ちに推進効率の向上に結びつくものでもない。このような事情から、これまでのところ、上述のような試みにもかかわらず、ホール効果プラズマ加速器の性能の向上にまでは至っていない。
【0037】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、イオン加速とプラズマ生成とを高度に独立して制御することが可能な、イオンを加速するイオン加速部とプラズマを生成する高周波供給部とからなる、高周波放電プラズマ生成型二段式ホール効果プラズマ加速器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0038】
上述の課題の解決は、以下の特徴を有する本発明によって達成される。すなわち第1の観点に係る本発明は、イオン加速部と、当該イオン加速部に高周波を供給する高周波供給部とからなり、
前記イオン加速部は、異なる半径を有する2つの同心円筒状構造体とそれに挟まれた空間とからなり、一方の底面側がイオン噴射のための開口部となっており、他方の底面端に前記高周波供給部が配された環状加速チャネルと、プラズマ化するためのガスを前記環状加速チャネルの外部から内部に導入するための、前記環状加速チャネルの前記高周波供給部側に近接して設けられたガス導入口と、前記環状加速チャネル内の前記高周波供給部側に近接して設けられたアノードと、前記環状加速チャネルの開口部の近傍に設けられ、前記アノードとの間に所定の強さの加速電圧が印加されたカソードと、前記環状加速チャネルから噴射されるイオンの電荷を中和するための電子を発生する中和電子発生部と、前記環状加速チャネルの中心軸から放射方向に所定の強さの分布の磁界を発生する磁界発生手段と、前記環状加速チャネルの内部に導入される高周波を発生する高周波発生手段と、を有し、
前記ガス導入口から前記環状加速チャネル内に導入されたガスは、前記高周波供給部から供給される高周波によって電離させられてプラズマ化し、発生した前記プラズマに含まれる陽イオンは、前記アノードと前記カソードとの間に印加される加速電圧によって前記環状加速チャネル内からそれの前記開口部方向へ加速されることによって外部に噴射され、発生した前記プラズマに含まれる電子は、前記放射方向の磁界との相互作用により前記円筒状構造体の軸方向の移動が制限されるものであり、
前記高周波供給部は、前記高周波発生手段によって発生させられた高周波を前記環状加速チャネルの内部に導入するための高周波導入手段と、を有する高周波放電プラズマ生成型二段式ホール効果プラズマ加速器であって、前記イオン加速部は、加速制御量としての加速電圧でイオンの加速度を制御し、前記高周波供給部は、前記加速制御量と独立して制御されるプラズマ化制御量としての高周波出力でプラズマの発生量を制御することを特徴とする高周波放電プラズマ生成型二段式ホール効果プラズマ加速器である。
【0039】
本発明は他の観点によれば、前記高周波供給部は、前記環状加速チャネルの前記同心円筒状構造体の前記他方の底面端の近傍に設けられた、高周波が内部に導入される空洞からなる空洞部、をさらに有し、前記高周波導入手段は、前記空洞部内に高周波を導入することによって前記環状加速チャネルの内部に当該高周波を導入することをさらに特徴とする。
【0040】
本発明はさらに他の観点によれば、前記空洞部は、内部に導入される高周波の共振を起こさせる空洞共振器であることをさらに特徴とする。
【0041】
本発明のさらに他の観点によれば、前記高周波供給部は、前記空洞部と前記環状加速チャネルの同心円筒状構造体の前記他方の底面端との間に、高周波を透過する材料から構成され、かつ、ガスを透過させない高周波透過窓部をさらに有することをさらに特徴とする。
【0042】
本発明はさらに他の観点によれば、前記高周波導入手段に関して前記環状加速チャネルの開口部と反対側に配置された、電子サイクロトロン共鳴周波数の高周波が導入されたときに電子サイクロトロン共鳴を誘導するための磁場を発生する磁場発生手段、をさらに有し、前記高周波導入手段によって前記環状加速チャネルの内部に導入された高周波は、前記磁場発生手段が発生した磁場に応じた位置で、電子サイクロトロン共鳴によって前記ガスを電離させてプラズマ化することをさらに特徴とする。
【0043】
本発明はさらに他の観点によれば、前記磁場発生手段は、プラズマを閉じ込めるためのミラー磁場を発生することをさらに特徴とする。
【0044】
本発明はさらに他の観点によれば、前記アノード近傍に不活性プラズマが導かれるように構成されていることをさらに特徴とする。
【0045】
本発明はさらに他の観点によれば、前記プラズマ化されるガスは推進剤であることをさらに特徴とする。
【0046】
本発明はさらに他の観点によれば、前記高周波放電プラズマ生成型二段式ホール効果プラズマ加速器を含み、前記プラズマ化されるガスはイオン源であることを特徴とするイオン加速装置である。
【0047】
本発明はさらに他の観点によれば、前記高周波放電プラズマ生成型二段式ホール効果プラズマ加速器を含み、前記プラズマ化されるガスはスパッタリング用イオン源であることを特徴とするプラズマエッチング装置である。
【0048】
本発明はさらに他の観点によれば、高周波放電プラズマ生成型二段式ホール効果プラズマ加速器とビームターゲットとを含む地上用イオン加速装置であって、
前記高周波放電プラズマ生成型二段式ホール効果プラズマ加速器はイオン加速部と、当該イオン加速部に高周波を供給する高周波供給部とからなり、
前記イオン加速部は、異なる半径を有する2つの同心円筒状構造体とそれに挟まれた空間とからなり、一方の底面側がイオン噴射のための開口部となっており、他方の底面端に前記高周波供給部が配された環状加速チャネルと、プラズマ化するためのイオン源であるガスを前記環状加速チャネルの外部から内部に導入するための、前記環状加速チャネルの前記高周波供給部側に近接して設けられたガス導入口と、前記環状加速チャネル内の前記高周波供給部側に近接して設けられたアノードと、前記環状加速チャネルの開口部側に設けられ、前記アノードとの間に所定の強さの加速電圧が印加された前記ビームターゲットと、前記環状加速チャネルの中心軸から放射方向に所定の強さの分布の磁界を発生する磁界発生手段と、前記環状加速チャネルの内部に導入される高周波を発生する高周波発生手段と、を有し、
前記ガス導入口から前記環状加速チャネル内に導入されたガスは、前記高周波供給部から供給される高周波によって電離させられてプラズマ化し、発生した前記プラズマに含まれる陽イオンは、前記アノードと前記ビームターゲットとの間に印加される加速電圧によって前記環状加速チャネル内からそれの前記開口部方向へ加速されることによって前記ビームターゲットに噴射され、発生した前記プラズマに含まれる電子は、前記放射方向の磁界との相互作用により前記円筒状構造体の軸方向の移動が制限されるものであり、
前記高周波供給部は、前記高周波発生手段によって発生させられた高周波を前記環状加速チャネルの内部に導入するための高周波導入手段と、を有する高周波放電プラズマ生成型二段式ホール効果プラズマ加速器であって、前記イオン加速部は、加速制御量としての加速電圧でイオンの加速度を制御し、前記高周波供給部は、前記加速制御量と独立して制御されるプラズマ化制御量としての高周波出力でプラズマの発生量を制御することを特徴とする地上用イオン加速装置である。
【0049】
本発明はさらに他の観点によれば、高周波放電プラズマ生成型二段式ホール効果プラズマ加速器とビームターゲットとを含むプラズマエッチング装置であって、
前記高周波放電プラズマ生成型二段式ホール効果プラズマ加速器はイオン加速部と、当該イオン加速部に高周波を供給する高周波供給部とからなり、
前記イオン加速部は、異なる半径を有する2つの同心円筒状構造体とそれに挟まれた空間とからなり、一方の底面側がイオン噴射のための開口部となっており、他方の底面端に前記高周波供給部が配された環状加速チャネルと、プラズマ化するためのスパッタリング用イオン源であるガスを前記環状加速チャネルの外部から内部に導入するための、前記環状加速チャネルの前記高周波供給部側に近接して設けられたガス導入口と、前記環状加速チャネル内の前記高周波供給部側に近接して設けられたアノードと、前記環状加速チャネルの開口部側に設けられ、前記アノードとの間に所定の強さの加速電圧が印加された前記ビームターゲットと、前記環状加速チャネルの中心軸から放射方向に所定の強さの分布の磁界を発生する磁界発生手段と、前記環状加速チャネルの内部に導入される高周波を発生する高周波発生手段と、を有し、
前記ガス導入口から前記環状加速チャネル内に導入されたガスは、前記高周波供給部から供給される高周波によって電離させられてプラズマ化し、発生した前記プラズマに含まれる陽イオンは、前記アノードと前記ビームターゲットとの間に印加される加速電圧によって前記環状加速チャネル内からそれの前記開口部方向へ加速されることによって前記ビームターゲットに噴射され、発生した前記プラズマに含まれる電子は、前記放射方向の磁界との相互作用により前記円筒状構造体の軸方向の移動が制限されるものであり、
前記高周波供給部は、前記高周波発生手段によって発生させられた高周波を前記環状加速チャネルの内部に導入するための高周波導入手段と、を有する高周波放電プラズマ生成型二段式ホール効果プラズマ加速器であって、
前記イオン加速部は、加速制御量としての加速電圧でイオンの加速度を制御し、前記高周波供給部は、前記加速制御量と独立して制御されるプラズマ化制御量としての高周波出力でプラズマの発生量を制御することを特徴とするプラズマエッチング装置である。
【0050】
上記において、アノード、カソード、環状加速チャネルなどの物理的構成を表わす用語は、装置の具体的形態や具体的呼称を限定するものではなく、その一般的な機能を備えた物理的構成を表わすためのものである。
【0051】
上記装置の発明は、それぞれの構成要素の有する機能が逐次的に実行される方法の発明として把握することもできる。その場合において、各構成要素は記載された順序に実行されるものに限定されるものではなく、全体としての機能が矛盾なく実行され得る限りにおいて、自由な順序でそれを実行することができる。1つの手段が有する機能が2つ以上の物理的構成によって実現されてもよく、2つ以上の手段が有する機能が1つの物理的構成によって実現されてもよい。1つのステップが有する機能が2つ以上のステップによって実現されてもよく、2つ以上のステップが有する機能が1つのステップによって実現されてもよい。
【発明の効果】
【0052】
本発明に係る二段式ホール効果プラズマ加速器200および300では、プラズマ生成とイオン加速のそれぞれへのエネルギーの配分を可変することができるため、それぞれを所望の作動領域で効率的に動作させることが可能となり、推進効率を改善できる。比推力、推力を広範囲に可変とすることが可能であり、電力の広範囲なスロットリングも可能となる。また、精密な磁場設計を行う必要がなく、精密な磁場構成に要する要素、重量、電力を削減できる。磁場設計の自由度が拡大するため、噴射イオンビームの平行度を改善することが可能である。また、時期材料の作動温度上限による制約が緩和される。また、プラズマ生成位置を磁場配置に依存させることなく、それをイオン加速領域に隣接した箇所に配置するように制御することが可能である。また、プラズマ生成には不可欠であった逆流電子を削減することができ、総合効率を向上させることが可能となる。また、プラズマ生成とイオン加速とが別の電源によって行われるため、プラズマ生成とイオン加速の比率が振動的に変動することはなく、原理的に、放電振動現象は発生しない。また、宇宙用に利用できる作動ガスの種類を拡張することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
これから図面に従って本発明の一実施形態に係る高周波放電プラズマ生成型二段式ホール効果プラズマ加速器200(以下、「二段式ホール効果プラズマ加速器200」と略す。)の説明をする。
【0054】
図4は、本発明に係る二段式ホール効果プラズマ加速器200の構成を表わす一部切り欠き斜視断面図である。図7は、本発明に係る二段式ホール効果プラズマ加速器200の回路構成を表わす回路図とそれの断面を示す概略断面図とを組み合わせた図である。二段式ホール効果プラズマ加速器200は、磁極201、加速チャネル202、コイル203a、コイル203b、コイル204、推進剤投入口205a、推進剤放出口205b、アノード206、カソード207、配線208、加速電源209、中和器電源210、空洞共振器211、高周波透過窓部212、導波管213,高周波導入プローブ214、および高周波発振器215(図4には図示せず)から構成される。図4に示す二段式ホール効果プラズマ加速器200においては、従来のホール効果プラズマ加速器100の有する構成要素に対応する構成要素には、従来のホール効果プラズマ加速器100の構成要素の符号に100を加えた符号を付している。
【0055】
磁極201は、コイル203a、コイル203b、コイル204によって発生させられた磁力線を誘導することによって、加速チャネル202内にプラズマの加速に適した形状の磁界を分布させる。磁極201は、外部磁極201aと内部磁極201bの部分をからなり、主としてそれらの間の空隙に所望の分布形状で磁力線を誘導する。ここで、従来のホール効果プラズマ加速器100との大きな違いは、加速チャネル202内の磁界の分布を、プラズマの生成のことは考慮せずに、イオンの加速に適した形状に設計することが可能である点である。従って、磁界分布に対する要求は、従来のホール効果プラズマ加速器100より緩やかである。これは後述するように、プラズマの生成に高周波を用いることによる利点の一つである。加速チャネル202は、出口と反対側である上流にアノード206が設置され、下流の出口近傍下流に設置されたカソード207との間の電界によって、その内部のイオンを加速させる。加速チャネル202は、好適には、異なる半径を有する2つの同心円筒状構造体とそれに挟まれた空間からなるチャネルである。異なる半径を有する2つの同心円筒状構造体とは、完全な円筒状構造体から構成されることを意味するものではなく、外筒と中筒とに挟まれ、幅がほぼ一定(あるいは規則的)であるチャネルを意味するものである。コイル203a、コイル203b、コイル204は、図示していないが、適切な電源から電力の供給を受け、磁界を発生させる。推進剤投入口205aは、キセノンガスなどの推進剤をホール効果プラズマ加速器200の内部に導入するための導入口である。導入された推進剤は、推進剤放出口205bから加速チャネル202内に放出される。加速電源209が発生する電圧が、配線208を通じて、アノード206とカソード207との間に印加される。アノード206にはカソード207に対してプラスの電圧が印加される。後で詳述するように、この電圧はプラズマ生成にはほとんど寄与することなく、イオンの加速のために働くことになる。従って、この印加電圧はイオンの加速電圧として機能するものであり、加速制御量として、イオンの加速をプラズマの生成とは独立して制御することを可能とするものである。アノード206は、プラズマ生成には寄与しないため、その面積を極小とすることができる。アノード206の面積が広ければ、発生した活性プラズマがアノード206に触れてそれの損耗を招くおそれがある。しかし、本発明においては、アノード206の面積を極小にすることができるため、その近傍の局所的プラズマには不活性な気体を用いることが可能となり、アノード206の損耗を効果的に防止することが可能である。
【0056】
加速チャネル202のアノード206側の底面端には、高周波透過窓部212を介して空洞共振器211が設けられている。高周波透過窓部212は、高周波を通過させるが推進剤ガスを通過させないガラス、セラミックなどで構成される。高周波透過窓部212を設けることによって、高周波導入プローブ214などのプラズマを生成させるためのエネルギー供給部に反応性気体である活性プラズマが接することによって、それの損耗を招いたり、プラズマを汚染したりすることを防止することができる。従来の一段式ホール効果プラズマ加速器では、アノード近傍でプラズマが発生するため、アノードの損耗やプラズマの汚染は避けられないが、本発明によると、アノード側に無電極放電を導入するため、そのような現象は原理的に発生しない。
【0057】
空洞共振器211は、導入される高周波を共振(共鳴)させるための種々の形態を取ることができる。加速電源209とは独立して電力が供給される高周波発振器(高周波発生手段)(図7に示す)が高周波を発生する。発生させられる高周波は、好適には、マイクロ波である。この高周波は、推進剤ガスをプラズマ化するためのものであり、イオンの加速には寄与しない。従って、この高周波の出力はプラズマ化のためのエネルギーとして機能するものであり、プラズマ化制御量として、プラズマの生成をイオンの加速とは独立して制御することを可能とするものである。発生させられた高周波は、まず導波管213に導入される。導波管213は、同軸ケーブルなどの他の電磁波伝達手段であってもよい。導入された高周波は、導波管213内を伝搬して高周波導入プローブ214から空洞共振器211内に放射され、その中で共振(共鳴)させられる。このマイクロ波の共振によって、空洞共振器211内部に導入された高周波の電圧振幅が整えられ(好適には増幅され)、プラズマへの安定したエネルギー供給が可能になる。ここで、空洞共振器211に代えて、単なる空洞部であってもよい。空洞共振器211内の高周波は、高周波透過窓部212を通じて加速チャネル202内に供給される。加速チャネル202内に供給されたマイクロ波は、その中にある推進剤(キセノンガスなど)に対して、電離作用を及ぼす。高周波の周波数が高いほど、局在的にプラズマを生成することが可能となり、プラズマ発生領域の制御という観点から、好適である。なお、この形態のマイクロ波放電は、空洞共鳴器211でマイクロ波の電界を強くした上で、その一部をマイクロ波透過窓部212から取り出し、電子を短時間の内に加速する。加速された電子は中性粒子と弾性衝突して運動方向が反転するが、その反転する周期とマイクロ波の周波数が一致すると電子加速の効率が上昇する。このためには、ガス密度を比較的高くする必要がある。この形態の高周波放電を、非共鳴型放電と呼ぶことにする。ここで、空洞共振器211と高周波透過窓部212などの形状を、マイクロ波ランチャーの形状として適切に設計することによって、所望のビーム形状で加速チャネル内に高周波ビームを供給することができ、所望の位置にプラズマを生成することが可能になる。ここで、プラズマの生成位置は、高周波の投入位置で定まるため、精密な磁場設計およびその関連技術は必要とされない。すなわち、磁場設計に際して、プラズマ生成を考慮する必要はなく、イオン加速にのみ最適化された磁場を設計すれば十分である。このため、設計自由度が高くなり、そこに必要な、重量、電力、開発工数などのリソースを削減することができる。高周波の供給方式は、高周波導入プローブ(アンテナ)214の形状を変化させたり、高周波の伝搬形式(表面波を利用するかどうかなど)を変化させたり、アプリケータを適宜使用したりすることによって、所望のプラズマ生成特性を実現するように調整することが可能である。高周波の投入は、イオン加速にのみ適するように配された磁場領域に隣接した局所に対して行う。このようにすることによって、高周波によって発生させられたプラズマに含まれるイオンを、効率的に加速領域に導くことが可能となる。
【0058】
高周波放電によるプラズマ生成は、加速チャネル202内の、開口部とは反対の、空洞共振器211と接しているアノード206側の底面近傍において主として行われる。なお、空洞共振器211と加速チャネル202のアノード206側の底面端との間に、高周波透過窓部212を設けない構成とすることも可能である。後述の本発明の他の実施形態では、そのような構成の一例を示す。発生させられたプラズマに含まれる推進剤イオンは、アノード206とカソード207との間に印加された加速電圧による電界によって、加速チャネル202の開口部に向かって加速され、そこから噴射される。
【0059】
カソード207は、噴射された推進剤イオンの電荷を中和するための電子を放出する熱陰極としても機能する。中和器電源210は、熱陰極を加熱するための電力をカソード207に対して供給する。
【0060】
請求項の構成要素と二段式ホール効果プラズマ加速器200の構成要素との対応では、環状加速チャネルは加速チャネル202に対応し、ガス導入口は推進剤放出口205bに対応し、アノードはアノード206に対応し、カソードはカソード207に対応し、中和電子発生部はカソード207と中和器電源210とに対応し、磁界発生手段は磁極201とコイル203aとコイル203bとコイル204とに対応し、高周波発生手段は高周波発振器215に対応し、高周波導入手段は導波管213と高周波導入プローブ214とに対応し、加速制御量としての加速電圧は加速電源209によって発生させられ、プラズマ化制御量としての高周波出力は高周波発振器215によって発生させられる。
【0061】
本発明に係る二段式ホール効果プラズマ加速器200のプラズマの生成機構およびイオンの加速機構をこれから説明する。まず、静電加速機構のモデルにしたがって説明する。図5は、二段式ホール効果プラズマ加速器200の静電加速モデルによる加速機構を説明する概念図である。図5では、加速チャネル202が一部切り欠き斜視断面図で表わされ、磁界B、電界E、推進剤中性粒子(nと表記)、電子(eと表記)、推進剤イオン(pと表記)がモデル的に表わされている。
【0062】
プラズマの静電加速モデルによる加速機構は以下のとおりである。加速チャネル202内には、上流から下流へと軸方向に印加された加速電圧による直流電界である電界Eが存在する。加速チャネル202における半径方向の磁界Bの強さは、イオンの加速に適したように分布させられており、従来のホール効果プラズマ加速器100とは違って、プラズマ生成を考慮して上流で磁界を弱く設計するような必要はない。磁界Bの強さとそれが存する空間領域は、電子が磁力線の周りを旋回して磁界Bに拘束される一方、推進剤イオンがほぼ直進運動を行って磁界Bに拘束されないように適当に設定されている。
【0063】
加速機構について具体的に説明する。加速チャネル202の下流に配置されたカソード207から放出された電子は、その一部がアノード206に引き寄せられて加速チャネル202内に入る。加速チャネル202に入った電子は、加速部の空間電荷制限効果を緩和して推進剤イオンの加速を補助する働きを行う。電子E53は、ラーマー運動が誘起させられることによって、磁界Bに拘束されている電子である。電子E53は徐々にアノード206に引き寄せられて加速チャネル202の上流に移動する。
【0064】
加速チャネル202の上流では、高周波透過窓部212を通じて空洞共振器211から供給されてきた高周波M51によって、推進剤中性粒子N52が電離させられ、プラズマ化する。プラズマは、電子E52と推進剤イオンP52を含む。
【0065】
発生した推進剤イオンP52は、質量が十分に大きいため、磁界Bによってラーマー運動が誘起されて軸方向に拘束されることなく、電界Eによって下流に加速され、高速の推進剤イオンP55として加速チャネル202の開口部から噴射させられ、その反作用として推力を生じる。推進剤イオンP52の上側の矢印は、下流への加速が開始されたことを表わしている。また、推進剤イオンP54の上側の矢印は、加速チャネル202の上流から中間部まで加速された推進剤イオンP54が、磁界Bによって拘束されずにさらに下流に加速されることを表わしている。ここで、加速チャネル202の下流付近は、磁界Bによって電子E53を拘束するため、加速チャネル202において、正電荷の推進剤イオンのみならず、電子も多量に存在させることができる。このため、加速チャネル202内を電気的に準中性のプラズマ状態に維持できる。したがって、空間電荷制限電流則による制約を受けることなく、カソード207とアノード206との間に大きい電圧をかけて大きい電流を流すことができ、それによって多くの推進剤イオンを加速・噴射させて大きい推力を得ることができる。カソード207から放出された電子の一部は加速チャネル202から下流方向に移動し、この電子E55が推進剤イオンP55を中和する。推進剤イオンP55によるイオン電流と等しい強さの、電子E55による電子電流が流れることになる。一方、加速チャネル202内の電子は、最終的にはアノード206に吸収される。
【0066】
次に、電磁加速機構のモデルにしたがって説明する。図6は、本発明に係る二段式ホール効果プラズマ加速器200の電磁加速モデルによる加速機構を説明する概念図である。図6では、加速チャネル202が一部切り欠き斜視断面図で表わされ、磁界B、電界E、電流J、ローレンツ力F、電子(eと表記)、推進剤イオン(pと表記)がモデル的に表わされている。
【0067】
図6においても、図2に関して上記で説明したプラズマの電磁加速モデルによる加速機構によって、プラズマが加速チャネル202内で上流から下流に向かって加速され、その開口部から外部に噴射させられ、その反作用として推力を生じる。
【0068】
加速機構について具体的に説明する。電子E63と推進剤イオンP63とはプラズマを構成している。ここで、電子E63は、磁界Bの磁力線の周りを回転するラーマー運動をしながら、E×Bドリフトにより、周方向に移動する。この移動方向と逆方向に電流Jが流れる。電流Jが流れているプラズマは、磁界Bとの相互作用によりローレンツ力を下流方向に受ける。これによって電子E63と推進剤イオンP63とからなるプラズマが加速チャネル202の下流に加速・噴射させられ、その反作用として推力を生じる。なお、この電磁加速モデルにおいても、前述の静電加速モデルと同様の機構により、プラズマは主として上流のプラズマ発生部において生成されている。すなわち、加速チャネル202の上流では、高周波透過窓部212を通じて空洞共振器211から供給されてきた高周波M61によって、推進剤中性粒子N62が電離させられ、プラズマ化する。プラズマは、電子E62と推進剤イオンP62を含む。
【0069】
以上、本発明に係る二段式ホール効果プラズマ加速器200について、静電加速モデルと電磁加速モデルとにより加速機構を説明してきた。そのいずれの場合においても、高周波によってプラズマの生成が行われ、加速電圧により軸方向に印加した直流電界によって推進剤イオンの加速が行われている。このため、加速電圧と高周波電力とは、それぞれ加速制御量、プラズマ化制御量として独立して制御することが可能である。
【0070】
次に、推進剤ガスのプラズマ化を電子サイクロトロン共鳴(ECR)によって実施する本発明の他の実施形態について説明する。この実施形態は、二段式ホール効果プラズマ加速器200が有する高周波透過窓部212に相当する構成を有しない。図8は、本発明の他の実施形態に係る高周波放電プラズマ生成型二段式ホール効果プラズマ加速器300(以下、「二段式ホール効果プラズマ加速器300」と略す。)の構成を表わす一部切り欠き斜視断面図である。二段式ホール効果プラズマ加速器300は、磁極301、加速チャネル302、コイル303a、コイル303b、コイル304、推進剤投入口305a、推進剤放出口305b、アノード306、カソード307、配線308、加速電源309、中和器電源310、導波管313,高周波導入プローブ314、高周波発振器315(図8には図示しないが、図7において示した高周波発振器215と同様のもの。)、および磁場発生手段316から構成される。図8に示す二段式ホール効果プラズマ加速器300においては、二段式ホール効果プラズマ加速器200の有する構成要素に対応する構成要素には、二段式ホール効果プラズマ加速器200の構成要素の符号に100を加えた符号を付している。
【0071】
磁極301、加速チャネル302、コイル303a、コイル303b、コイル304、推進剤投入口305a、推進剤放出口305b、アノード306、カソード307、配線308、加速電源309、中和器電源310、導波管313,高周波導入プローブ314、高周波発振器315の構成は、対応する二段式ホール効果プラズマ加速器200の構成要素と同様の構成である。
【0072】
ただし、加速チャネル302においては、出口と反対側である上流付近にアノード306が設置され、アノード306のさらに上流側に高周波導入プローブ314が配置され、高周波導入プローブ314のさらに上流側に磁場発生手段316が配置される。
【0073】
請求項の構成要素と二段式ホール効果プラズマ加速器300の構成要素との対応では、環状加速チャネルは加速チャネル302に対応し、ガス導入口は推進剤放出口305bに対応し、アノードはアノード306に対応し、カソードはカソード307に対応し、中和電子発生部はカソード307と中和器電源310とに対応し、磁界発生手段は磁極301とコイル303aとコイル303bとコイル304とに対応し、高周波発生手段は高周波発振器315に対応し、高周波導入手段は導波管313と高周波導入プローブ314とに対応し、加速制御量としての加速電圧は加速電源309によって発生させられ、プラズマ化制御量としての高周波出力は高周波発振器315によって発生させられる。
【0074】
磁場発生手段316は、異なる磁極が向かい合うように対向させられた2つの磁石群からなる。図8では、円柱形状の永久磁石を二重の環状に配置している。内環上の永久磁石の磁極と外環上の永久磁石の磁極とは異なるものが対向するように配置される。例えば、内環上の永久磁石は上側がS極で下側がN極とした場合、外環上の永久磁石は上側がN極で下側がS極となる。このように永久磁石を配置することによって、磁場発生手段316はプラズマを閉じ込めるミラー磁場を発生する。ミラー磁場は、両端の永久磁石付近では強く、中央面では弱い磁束密度分布を有する磁場であり、このような形態の磁場とすることによって、プラズマを両端近傍において中央へと反射させることができ、プラズマを磁場の中に拘束することができる。さらに、ミラー磁場中の特定の場所(電子サイクロトロン共鳴(ECR)領域)においては、導入される高周波の周波数において電子サイクロトロン共鳴を起こすような磁場の強さとされている。こうすることによって、ECR領域を通過するときに推進剤ガスの電子が電子サイクロトロン共鳴によって加速されて電離させられる。
【0075】
ここで、一般的な、ミラー磁場を用いた電子サイクロトロン共鳴の機構について説明する。図9は、電子サイクロトロン共鳴によるプラズマ生成機構モデル350を説明する概念図である。プラズマ生成機構モデル350においては、異なる磁極が向かい合うように対向させられた2つの永久磁石群からなる永久磁石351によって0.21Tの磁界352が発生させられ、両端の永久磁石付近では強く中央面では弱い磁束密度分布を有するミラー磁場353が形成されている。ミラー磁場353の磁力線に直交するように、電子サイクロトロン共鳴に適したECR領域354が広がる。図9に示したミラー磁場353とECR領域354は図示した断面におけるものであり、実際には、永久磁石351に沿って同じように広がっている。図9において、磁場は∇B(grad B)として矢印で示す方向にそれの強さの勾配があり、Bとして示した方向の磁場があるため、その中では電子は∇B×Bドリフトを生じて∇B×Bとして矢印で示す方向にドリフトする。電子355は、電子のラーマー運動356によって磁力線の周りを旋回するが、∇B×Bドリフトとミラー磁界353による閉じ込めによって、電子の飛行軌跡358に沿って移動することになる。この際に、電子はミラー磁界反射領域357で反射される。そして、移動する電子がECR領域354を通過するときに電子サイクロトロン共鳴によってさらに加速されて電離が促進されることになる。このようにして、推進剤ガスのプラズマ化が行なわれる。電子サイクロトロン共鳴においては、ミラー磁場内に電子が捕捉され、往復運動をする。そして電子がECR領域を通過するたびに加速される。このように電子が捕捉されて加速されるため、二段式ホール効果プラズマ加速器200における非共鳴型放電と比較すると、弱いマイクロ波電界でも時間をかけることによって十分に加速することができるという特徴がある。
【0076】
発生したプラズマに含まれるイオンは、二段式ホール効果プラズマ加速器200と同じ加速機構によって加速チャネル302の開口部に向かって加速され、そこから噴射されて推力を生じる。
【0077】
発明者は、本発明に係る高周波放電プラズマ生成型二段式ホール効果プラズマ加速器の性能を検証するために、一段式ホール加速と二段式ホール加速とをそれぞれ実施しうる装置を試作して、それぞれの特性を測定した。図10は、直流放電プラズマ生成およびマイクロ波放電プラズマ生成における、加速電圧-抽出イオン電流特性を表わすグラフである。抽出イオン電流は、噴射されるイオンの単位時間当たりの量に比例する。同図で、中空の四角形(□)は、高周波放電によるプラズマ生成における測定結果のプロット点であり、塗りつぶされた四角形(■)は、直流放電によるプラズマ生成(従来の一段式ホール効果プラズマ加速器の)における測定結果のプロット点である。同図より、加速電圧が60〜130Vの比較的低電圧の領域において、高周波放電は、直流放電の場合と比較して、より大きい抽出イオン電流が得られることがわかる。すなわち、低電圧(低比推力)領域において引き出し電流の増加が観測されている。このように、本発明に係る二段式ホール効果プラズマ加速器200および300では、低い加速電圧領域へも作動領域が拡張され、良好なイオン噴射特性が得られる。
【0078】
本発明に係る二段式ホール効果プラズマ加速器200および300では、従来とは異なる機構によるプラズマを発生させることができ、効率的な推進剤ガスのプラズマ化が可能である。図11は、直流放電プラズマ生成における、噴射されたイオンのイオンエネルギー分布の測定結果を表わすグラフである。図12は、マイクロ波放電プラズマ生成における、噴射されたイオンのイオンエネルギー分布の測定結果を表わすグラフである。図11および図12において、三角(△)で表わされたプロット点はL=24mmのグラフのものであり、丸(○)で表わされたプロット点はL=9mmのグラフのものである。図11より、従来の直流放電プラズマ生成では、イオンエネルギーが、L(加速チャネル長)にもよるが、100〜120eVにピークを有するようなプラズマが生成されることが分かる。しかし図12を参照すると、発明に係る高周波放電によるプラズマ生成では、イオンエネルギーが、110〜120eV以外にも160eV付近でもピークを有するようなプラズマが生成されることが分かる。このように、発明に係る二段式ホール効果プラズマ加速器200および300では、従来にはなかった高周波放電を発生機構とするプラズマが新たに生成されており、効率的にプラズマを生成することが可能となっている。
【0079】
本発明に係る二段式ホール効果プラズマ加速器200および300は、宇宙用推進機関としてのみならず、プラズマ化されるガスはイオン源であるイオン加速装置(地上用など)、プラズマ化されるガスはスパッタリング用イオン源であるプラズマエッチング装置などにも利用することが可能である。さらに中和器を有しない、すなわち中和器電源を有せず、イオンが噴射されるビームターゲットをアノードとの間に加速電圧を印加することによってカソードとして機能させるイオン加速装置やプラズマエッチング装置を構成することが可能である。
【0080】
上述の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施形態に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限りにおいて、種々の実施形態で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】従来のホール効果プラズマ加速器100の構成を表わす一部切り欠き斜視断面図である。
【図2】従来のホール効果プラズマ加速器100の静電加速モデルによる加速機構を説明する概念図である。
【図3】従来のホール効果プラズマ加速器100の電磁加速モデルによる加速機構を説明する概念図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る高周波放電プラズマ生成型二段式ホール効果プラズマ加速器200の構成を表わす一部切り欠き斜視断面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る高周波放電プラズマ生成型二段式ホール効果プラズマ加速器200の静電加速モデルによる加速機構を説明する概念図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る高周波放電プラズマ生成型二段式ホール効果プラズマ加速器200の電磁加速モデルによる加速機構を説明する概念図である。
【図7】本発明に係る高周波放電プラズマ生成型二段式ホール効果プラズマ加速器200の回路構成を表わす回路図とそれの断面を示す概略断面図とを組み合わせた図である。
【図8】本発明の他の実施形態に係る高周波放電プラズマ生成型二段式ホール効果プラズマ加速器300の構成を表わす一部切り欠き斜視断面図である。
【図9】電子サイクロトロン共鳴によるプラズマ生成機構モデル350を説明する概念図である。
【図10】直流放電プラズマ生成およびマイクロ波放電プラズマ生成における、加速電圧-抽出イオン電流特性を表わすグラフである。
【図11】直流放電プラズマ生成における、噴射されたイオンのイオンエネルギー分布の測定結果を表わすグラフである。
【図12】マイクロ波放電プラズマ生成における、噴射されたイオンのイオンエネルギー分布の測定結果を表わすグラフである。
【符号の説明】
【0082】
100 ホール効果プラズマ加速器
101 磁極
102 加速チャネル
103a コイル
103b コイル
104 コイル
105a 推進剤投入口
105b 推進剤放出口
106 アノード
107 カソード
108 配線
109 加速電源
110 中和器電源
200 高周波放電プラズマ生成型二段式ホール効果プラズマ加速器
201 磁極
202 加速チャネル
203a コイル
203b コイル
204 コイル
205a 推進剤投入口
205b 推進剤放出口
206 アノード
207 カソード
208 配線
209 加速電源
210 中和器電源
211 空洞共振器
212 高周波透過窓部
213 導波管
214 高周波導入プローブ
215 高周波発振器
300 二段式ホール効果プラズマ加速器
301 磁極
302 加速チャネル
303a コイル
303b コイル
304 コイル
305a 推進剤投入口
305b 推進剤放出口
306 アノード
307 カソード
308 配線
309 加速電源
310 中和器電源
313 導波管
314 高周波導入プローブ
315 高周波発振器
350 プラズマ生成機構モデル
351 永久磁石
352 0.21Tの磁界
353 ミラー磁場
354 ECR領域
355 電子
356 電子のラーマー運動
357 ミラー磁界反射領域
358 電子の飛行軌跡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン加速部と、当該イオン加速部に高周波を供給する高周波供給部とからなり、
前記イオン加速部は、
異なる半径を有する2つの同心円筒状構造体とそれに挟まれた空間とからなり、一方の底面側がイオン噴射のための開口部となっており、他方の底面端に前記高周波供給部が配された環状加速チャネルと、
プラズマ化するためのガスを前記環状加速チャネルの外部から内部に導入するための、前記環状加速チャネルの前記高周波供給部側に近接して設けられたガス導入口と、
前記環状加速チャネル内の前記高周波供給部側に近接して設けられたアノードと、
前記環状加速チャネルの開口部の近傍に設けられ、前記アノードとの間に所定の強さの加速電圧が印加されたカソードと、
前記環状加速チャネルから噴射されるイオンの電荷を中和するための電子を発生する中和電子発生部と、
前記環状加速チャネルの中心軸から放射方向に所定の強さの分布の磁界を発生する磁界発生手段と、
前記環状加速チャネルの内部に導入される高周波を発生する高周波発生手段と、を有し、
前記ガス導入口から前記環状加速チャネル内に導入されたガスは、前記高周波供給部から供給される高周波によって電離させられてプラズマ化し、
発生した前記プラズマに含まれる陽イオンは、前記アノードと前記カソードとの間に印加される加速電圧によって前記環状加速チャネル内からそれの前記開口部方向へ加速されることによって外部に噴射され、
発生した前記プラズマに含まれる電子は、前記放射方向の磁界との相互作用により前記円筒状構造体の軸方向の移動が制限されるものであり、
前記高周波供給部は、
前記高周波発生手段によって発生させられた高周波を前記環状加速チャネルの内部に導入するための高周波導入手段を有する、高周波放電プラズマ生成型二段式ホール効果プラズマ加速器であって、
前記イオン加速部は、加速制御量としての加速電圧でイオンの加速度を制御し、
前記高周波供給部は、前記加速制御量と独立して制御されるプラズマ化制御量としての高周波出力でプラズマの発生量を制御することを特徴とする高周波放電プラズマ生成型二段式ホール効果プラズマ加速器。
【請求項2】
請求項1に記載の高周波放電プラズマ生成型二段式ホール効果プラズマ加速器において、
前記高周波供給部は、
前記環状加速チャネルの前記同心円筒状構造体の前記他方の底面端の近傍に設けられた、高周波が内部に導入される空洞からなる空洞部、をさらに有し、
前記高周波導入手段は、前記空洞部内に高周波を導入することによって前記環状加速チャネルの内部に当該高周波を導入することを特徴とする高周波放電プラズマ生成型二段式ホール効果プラズマ加速器。
【請求項3】
請求項2に記載の高周波放電プラズマ生成型二段式ホール効果プラズマ加速器において、
前記空洞部は、内部に導入される高周波の共振を起こさせる空洞共振器であることを特徴とする高周波放電プラズマ生成型二段式ホール効果プラズマ加速器。
【請求項4】
請求項2または3に記載の高周波放電プラズマ生成型二段式ホール効果プラズマ加速器において、
前記高周波供給部は、前記空洞部と前記環状加速チャネルの同心円筒状構造体の前記他方の底面端との間に、高周波を透過する材料から構成され、かつ、ガスを透過させない高周波透過窓部をさらに有することを特徴とする高周波放電プラズマ生成型二段式ホール効果プラズマ加速器。
【請求項5】
請求項1に記載の高周波放電プラズマ生成型二段式ホール効果プラズマ加速器において、
前記高周波導入手段に関して前記環状加速チャネルの開口部と反対側に配置された、電子サイクロトロン共鳴周波数の高周波が導入されたときに電子サイクロトロン共鳴を誘導するための磁場を発生する磁場発生手段、をさらに有し、
前記高周波導入手段によって前記環状加速チャネルの内部に導入された高周波は、前記磁場発生手段が発生した磁場に応じた位置で、電子サイクロトロン共鳴によって前記ガスを電離させてプラズマ化することを特徴とする高周波放電プラズマ生成型二段式ホール効果プラズマ加速器。
【請求項6】
請求項5に記載の高周波放電プラズマ生成型二段式ホール効果プラズマ加速器において、
前記磁場発生手段は、プラズマを閉じ込めるためのミラー磁場を発生することを特徴とする高周波放電プラズマ生成型二段式ホール効果プラズマ加速器。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の高周波放電プラズマ生成型二段式ホール効果プラズマ加速器において、
前記アノード近傍に不活性プラズマが導かれるように構成されていることを特徴とする高周波放電プラズマ生成型二段式ホール効果プラズマ加速器。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の高周波放電プラズマ生成型二段式ホール効果プラズマ加速器を含み、
前記プラズマ化されるガスは推進剤であることを特徴とする宇宙用推進機関。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか1項に記載の高周波放電プラズマ生成型二段式ホール効果プラズマ加速器を含み、
前記プラズマ化されるガスはイオン源であることを特徴とするイオン加速装置。
【請求項10】
請求項1から7のいずれか1項に記載の高周波放電プラズマ生成型二段式ホール効果プラズマ加速器を含み、
前記プラズマ化されるガスはスパッタリング用イオン源であることを特徴とするプラズマエッチング装置。
【請求項11】
高周波放電プラズマ生成型二段式ホール効果プラズマ加速器とビームターゲットとを含む地上用イオン加速装置であって、
前記高周波放電プラズマ生成型二段式ホール効果プラズマ加速器は、イオン加速部と、当該イオン加速部に高周波を供給する高周波供給部とからなり、
前記イオン加速部は、
異なる半径を有する2つの同心円筒状構造体とそれに挟まれた空間とからなり、一方の底面側がイオン噴射のための開口部となっており、他方の底面端に前記高周波供給部が配された環状加速チャネルと、
プラズマ化するためのイオン源であるガスを前記環状加速チャネルの外部から内部に導入するための、前記環状加速チャネルの前記高周波供給部側に近接して設けられたガス導入口と、
前記環状加速チャネル内の前記高周波供給部側に近接して設けられたアノードと、
前記環状加速チャネルの開口部側に設けられ、前記アノードとの間に所定の強さの加速電圧が印加された前記ビームターゲットと、
前記環状加速チャネルの中心軸から放射方向に所定の強さの分布の磁界を発生する磁界発生手段と、
前記環状加速チャネルの内部に導入される高周波を発生する高周波発生手段と、を有し、
前記ガス導入口から前記環状加速チャネル内に導入されたガスは、前記高周波供給部から供給される高周波によって電離させられてプラズマ化し、
発生した前記プラズマに含まれる陽イオンは、前記アノードと前記ビームターゲットとの間に印加される加速電圧によって前記環状加速チャネル内からそれの前記開口部方向へ加速されることによって前記ビームターゲットに噴射され、
発生した前記プラズマに含まれる電子は、前記放射方向の磁界との相互作用により前記円筒状構造体の軸方向の移動が制限されるものであり、
前記高周波供給部は、
前記高周波発生手段によって発生させられた高周波を前記環状加速チャネルの内部に導入するための高周波導入手段を有する、高周波放電プラズマ生成型二段式ホール効果プラズマ加速器であって、
前記イオン加速部は、加速制御量としての加速電圧でイオンの加速度を制御し、
前記高周波供給部は、前記加速制御量と独立して制御されるプラズマ化制御量としての高周波出力でプラズマの発生量を制御することを特徴とする地上用イオン加速装置。
【請求項12】
高周波放電プラズマ生成型二段式ホール効果プラズマ加速器とビームターゲットとを含むプラズマエッチング装置であって、
前記高周波放電プラズマ生成型二段式ホール効果プラズマ加速器は、イオン加速部と、当該イオン加速部に高周波を供給する高周波供給部とからなり、
前記イオン加速部は、
異なる半径を有する2つの同心円筒状構造体とそれに挟まれた空間とからなり、一方の底面側がイオン噴射のための開口部となっており、他方の底面端に前記高周波供給部が配された環状加速チャネルと、
プラズマ化するためのスパッタリング用イオン源であるガスを前記環状加速チャネルの外部から内部に導入するための、前記環状加速チャネルの前記高周波供給部側に近接して設けられたガス導入口と、
前記環状加速チャネル内の前記高周波供給部側に近接して設けられたアノードと、
前記環状加速チャネルの開口部側に設けられ、前記アノードとの間に所定の強さの加速電圧が印加された前記ビームターゲットと、
前記環状加速チャネルの中心軸から放射方向に所定の強さの分布の磁界を発生する磁界発生手段と、
前記環状加速チャネルの内部に導入される高周波を発生する高周波発生手段と、を有し、
前記ガス導入口から前記環状加速チャネル内に導入されたガスは、前記高周波供給部から供給される高周波によって電離させられてプラズマ化し、
発生した前記プラズマに含まれる陽イオンは、前記アノードと前記ビームターゲットとの間に印加される加速電圧によって前記環状加速チャネル内からそれの前記開口部方向へ加速されることによって前記ビームターゲットに噴射され、
発生した前記プラズマに含まれる電子は、前記放射方向の磁界との相互作用により前記円筒状構造体の軸方向の移動が制限されるものであり、
前記高周波供給部は、
前記高周波発生手段によって発生させられた高周波を前記環状加速チャネルの内部に導入するための高周波導入手段を有する、高周波放電プラズマ生成型二段式ホール効果プラズマ加速器であって、
前記イオン加速部は、加速制御量としての加速電圧でイオンの加速度を制御し、
前記高周波供給部は、前記加速制御量と独立して制御されるプラズマ化制御量としての高周波出力でプラズマの発生量を制御することを特徴とするプラズマエッチング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−147449(P2006−147449A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−338676(P2004−338676)
【出願日】平成16年11月24日(2004.11.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名:第24回宇宙技術および科学の国際シンポジウム 主催者名 :社団法人 日本航空宇宙学会 開催期間 :平成16年6月2日 開催場所 :ワールドコンベンションセンターサミット
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)
【Fターム(参考)】