説明

高圧タンク

【課題】 少なくとも一部を樹脂材料で構成した熱伝導率の低い高圧タンクにおいて、ガス放出時におけるタンクの過冷却を抑制する。
【解決手段】 ガスを貯蔵する容器本体10を備え、容器本体10の少なくとも一部が樹脂材料で構成されてなる高圧タンク1であって、容器本体10の最外層に撥水層13を形成する。高圧タンク1からのガス放出時に容器本体10表面が結露した場合に、撥水層13により容器本体10表面と水滴Wとの接触面積を小さくして、外気温によるタンクの温度上昇を阻害する水滴Wの影響を抑制し、タンクの過冷却を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧タンクに関し、特に、水素ガスや天然ガス等の燃料ガスを高圧で貯蔵する高圧タンクに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池自動車や天然ガス自動車には、燃料ガスとしての水素ガスや天然ガスを貯蔵する高圧タンクが搭載される。従来の高圧タンクは、燃料ガスに直接接触する金属製のライナ(内層)と、このライナの外周面に積層された繊維強化樹脂製の外層と、から構成されていたが、近年においては、軽量化を図るために樹脂製のライナを用いた高圧タンクが提供されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2004−176898号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、特許文献1に記載されているような樹脂製ライナを用いた高圧タンクは、金属製ライナを用いた高圧タンクと比較すると熱伝達率が低いという特性を有するため、以下のような問題を発生させていた。
【0004】
高圧タンクに貯蔵した高圧の燃料ガスを放出すると、燃料ガスの膨張に伴ってタンク内の温度が急速に低下するが、樹脂製ライナを用いた高圧タンクは熱伝達率が低いため、外気温によってタンクが加温されて常温に戻るまでの時間が長く、タンクの低温状態が長時間持続して過冷却状態となる。また、ガス放出時にはタンク内温度の低下に起因してタンク表面が結露するため、タンク表面の水滴により熱伝達が妨げられてタンクの加温が遅れ、タンクの過冷却に一層拍車をかけることとなる。従来は、このようなタンクの過冷却に備えて、耐寒性に優れた材料を採用する必要があるため、タンクの製造費用が増大してしまうという問題が発生していた。
【0005】
本発明は、少なくとも一部を樹脂材料で構成した熱伝達率の低い高圧タンクにおいて、ガス放出時におけるタンクの過冷却を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明に係る高圧タンクは、ガスを貯蔵する容器本体を備え、この容器本体の少なくとも一部が樹脂材料で構成されてなる高圧タンクであって、容器本体の最外層に撥水層が形成されてなるものである。
【0007】
かかる構成によれば、容器本体の最外層に撥水層が形成されているので、高圧タンクからのガス放出時に容器本体表面が結露した場合においても、容器本体表面と水滴との接触面積を小さくすることができる。従って、外気温によるタンクの温度上昇を阻害する水滴の影響を抑制することができるので、タンクの過冷却を抑制することができる。この結果、耐寒材料の採用を低減ないし回避することができるので、タンクの製造費用を低減することができる。
【0008】
前記高圧タンクにおいて、撥水層の表面における水滴の接触角が常温下で60°以上であることが好ましい。また、撥水層は、ポリテトラフルオロエチレンを主成分とすることが好ましい。また、前記高圧タンクにおいて、容器本体は、ガスに直接接触する内層と、繊維強化樹脂材料で構成され内層の外側に設けられる外層と、この外層の外側に設けられる撥水層と、を有するように構成することができる。また、前記高圧タンクは、高圧水素ガスを貯蔵するものとし、燃料電池車両に搭載することもできる。
【0009】
また、本発明に係る高圧タンクは、ガスを貯蔵する容器本体を備え、この容器本体は、樹脂材料で構成されガスに直接接触する内層と、繊維強化樹脂材料で構成され内層の外側に設けられる外層と、を有する高圧タンクであって、外層は、撥水性材料を含有するものである。
【0010】
かかる構成によれば、容器本体を構成する外層は撥水性材料を含有するので、高圧タンクからのガス放出時に容器本体表面が結露した場合においても、容器本体表面と水滴との接触面積を小さくすることができる。従って、外気温によるタンクの温度上昇を阻害する水滴の影響を抑制することができるので、タンクの過冷却を抑制することができる。この結果、耐寒材料の採用を低減ないし回避することができるので、タンクの製造費用を低減することができる。
【0011】
前記高圧タンクにおいて、外層の表面における水滴の接触角が常温下で60°以上であることが好ましい。また、外層は、ポリテトラフルオロエチレンを含有することが好ましい。また、前記高圧タンクにおいて、容器本体は、外層の外側に設けられる撥水層をさらに有することもできる。また、前記高圧タンクは、高圧水素ガスを貯蔵するものとし、燃料電池車両に搭載することもできる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、少なくとも一部を樹脂材料で構成した熱伝達率の低い高圧タンクにおいて、ガス放出時におけるタンクの過冷却を効果的に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る高圧タンクについて説明する。以下の各実施形態に係る高圧タンクは、燃料電池車両に搭載する燃料ガス(水素ガス)を貯蔵するためのものである。
【0014】
<第1実施形態>
まず、図1及び図2を用いて、本発明の第1実施形態に係る高圧タンク1について説明する。高圧タンク1は、図1に示すように、水素ガスを貯蔵する容器本体10と、容器本体10への水素ガスの充填及び容器本体10からの水素ガスの放出を実現させるガス充填・放出口20と、を備えている。
【0015】
容器本体10は、図1に示すように、円筒状の胴部10aと、この胴部10aの両端に設けられたドーム部10bと、を備えており、これら胴部10a及びドーム部10bは、ライナ(内層)11、繊維強化樹脂層(外層)12及び撥水層13からなる三層構造の壁体で構成されている。
【0016】
ライナ11は、水素ガスに直接接触する層であり、樹脂材料で構成されている。ライナ11を構成する樹脂材料としては、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂の双方を採用することができる。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ABS樹脂、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、フッ素樹脂等を採用することができ、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂やポリウレタン等を採用することができる。ライナ11の肉厚やライナ11を構成する樹脂材料の種類は、ライナ11に要求される気密性や成形性に応じて適宜決定するものとする。
【0017】
繊維強化樹脂層12は、ライナ11の外側を覆うように設けられてライナ11を補強する層であり、所定の強化繊維及びマトリックス樹脂から構成されている。繊維強化樹脂層12を構成する強化繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維等を採用することができる。また、繊維強化樹脂層12を構成するマトリックス樹脂としては、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂の双方を採用することができる。熱可塑性樹脂としては、ライナ11ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ABS樹脂、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、フッ素樹脂等を採用することができ、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂やポリウレタン等を採用することができる。
【0018】
撥水層13は、繊維強化樹脂層12を構成する繊維強化樹脂材料よりも高い撥水性を有する層であり、高圧タンク1からの水素ガス放出時に容器本体10表面が結露した場合に、容器本体10表面と水滴との接触面積を小さくするものである。撥水層13を構成する撥水性材料としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、テトラフルオロエチレンーペルフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレンーヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、テトラフルオロエチレンーエチレン共重合体等を採用することができる。
【0019】
本実施形態においては、図2に示すように、撥水層13の表面13aにおける水滴Wの接触角θが常温(約20℃)下で60°以上になるように撥水層13を構成している。ここで、接触角θとは、図2に示すように、水滴Wが撥水層13に接触している場合において水滴Wの自由表面Pが撥水層13の表面13aとなす角度を意味し、かかる接触角θが大きいほど、容器本体10表面と水滴Wとの接触面積が小さくなる。なお、接触角θが60°〜120°の範囲にあると、水滴Wの投影面積が小さくなり、熱伝達し易い水滴W以外の面積の割合が増大するので好ましく、特に、接触角θが90°の場合に水滴Wの投影面積が最小となるので好ましい。
【0020】
ガス充填・放出口20は、容器本体10の一方のドーム部10bに連設されており、水素ガスの充填・放出を実現させるための図示されていない弁を備えている。また、容器本体10のガス充填・放出口20が連設された部位には、筒状の口金21が設けられている。容器本体10にガス充填・放出口20から水素ガスを充填させると、水素ガスの圧縮により水素ガスの温度が上昇して容器本体10が加温される。一方、容器本体10内の水素ガスをガス充填・放出口20から放出させると、水素ガスの膨張により水素ガスの温度が低下して容器本体10が冷却される。
【0021】
以上説明した実施形態に係る高圧タンク1においては、容器本体10の最外層に撥水層13が形成されているので、高圧タンク1からの水素ガス放出時に容器本体10の表面(撥水層13の表面13a)が結露した場合においても、容器本体10の表面と水滴Wとの接触面積を小さくすることができる。従って、外気温による高圧タンク1の温度上昇を阻害する水滴Wの影響を抑制することができるので、高圧タンク1の過冷却を抑制することができる。この結果、耐寒材料の採用を低減ないし回避することができるので、高圧タンク1の製造費用を低減することができる。
【0022】
<第2実施形態>
次に、図3を参照して、本発明の第2実施形態に係る高圧タンク1Aについて説明する。本実施形態に係る燃料電池は、第1実施形態に係る高圧タンク1の容器本体の構成を変更したものであり、その他の構成については第1実施形態と実質的に同一である。このため、変更した構成を中心に説明することとし、第1実施形態と共通する部分については同一符号を付してその説明を省略する。
【0023】
本実施形態に係る高圧タンク1Aは、図3に示すように、水素ガスを貯蔵する容器本体10Aと、容器本体10Aへの水素ガスの充填及び容器本体10Aからの水素ガスの放出を実現させるガス充填・放出口20と、を備えている。容器本体10Aは、図3に示すように、円筒状の胴部10Aaと、この胴部10Aaの両端に設けられたドーム部10Abと、を備えており、これら胴部10Aa及びドーム部10Abは、ライナ(内層)11及び撥水性を有する繊維強化樹脂層(外層)12Aからなる二層構造の壁体で構成されている。ライナ11及びガス充填・放出口20は第1実施形態で説明したものと実質的に同一であるので、説明を省略する。
【0024】
繊維強化樹脂層12Aは、ライナ11の外側を覆うように設けられてライナ11を補強する層であり、所定の強化繊維及びマトリックス樹脂から構成されている。本実施形態においては、繊維強化樹脂層12Aのマトリックス樹脂が撥水性材料を含有しており、繊維強化樹脂層12A自体が撥水性を有するものとなっている。繊維強化樹脂層12Aを構成する強化繊維、マトリックス樹脂及び撥水性材料としては、第1実施形態で挙げたような各種材料を採用することができる。また、本実施形態においては、繊維強化樹脂層12Aの表面における水滴Wの接触角が常温(約20℃)下で60°以上になるように繊維強化樹脂層12Aを構成している。
【0025】
以上説明した実施形態に係る高圧タンク1Aにおいては、容器本体10Aの繊維強化樹脂層12Aに撥水性材料を含有させているので、高圧タンク1Aからの水素ガス放出時に容器本体10Aの表面(繊維強化樹脂層12Aの表面)が結露した場合においても、容器本体10Aの表面と水滴Wとの接触面積を小さくすることができる。従って、外気温による高圧タンク1Aの温度上昇を阻害する水滴Wの影響を抑制することができるので、高圧タンク1Aの過冷却を抑制することができる。この結果、耐寒材料の採用を低減ないし回避することができるので、高圧タンク1Aの製造費用を低減することができる。
【0026】
なお、以上の各実施形態においては、ライナを樹脂材料で構成した例を示したが、アルミ合金等の金属でライナを構成することもできる。
【0027】
また、以上の各実施形態においては、容器本体の最外層に撥水層を設けるか、容器本体の繊維強化樹脂層自体に撥水性材料を含有させるか、何れか一方の構成を採用した例を示したが、これら双方の構成を併せて採用してもよい。すなわち、容器本体の繊維強化樹脂層自体に撥水性材料を含有させるとともに、この撥水性を有する繊維強化樹脂層の外側に撥水層をさらに設けることができる。かかる構成を採用すると、撥水層が局所的に剥離してしまった場合においてもなお撥水効果を維持することができ、本発明の目的を効果的に達成することが可能となる。
【0028】
また、以上の各実施形態においては、本発明を、燃料電池車両用の燃料ガスを貯蔵する高圧タンクに適用した例を示したが、天然ガス等の他のガスを貯蔵する高圧タンクに本発明を適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1実施形態に係る高圧タンクの側面図である。
【図2】図1のII部分(高圧タンクの容器本体の一部断面)の拡大図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る高圧タンクの側面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 1A…高圧タンク、10 10A…容器本体、11…ライナ(内層)、12 12A…繊維強化樹脂層(外層)、13…撥水層、13a…撥水層の表面、W…水滴、θ…接触角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスを貯蔵する容器本体を備え、この容器本体の少なくとも一部が樹脂材料で構成されてなる高圧タンクであって、
前記容器本体の最外層に撥水層が形成されてなる高圧タンク。
【請求項2】
前記撥水層の表面における水滴の接触角が常温下で60°以上である請求項1に記載の高圧タンク。
【請求項3】
前記撥水層は、ポリテトラフルオロエチレンを主成分とする請求項1又は2に記載の高圧タンク。
【請求項4】
前記容器本体は、ガスに直接接触する内層と、繊維強化樹脂材料で構成され前記内層の外側に設けられる外層と、この外層の外側に設けられる前記撥水層と、を有する請求項1から3の何れか一項に記載の高圧タンク。
【請求項5】
ガスを貯蔵する容器本体を備え、この容器本体は、樹脂材料で構成されガスに直接接触する内層と、繊維強化樹脂材料で構成され前記内層の外側に設けられる外層と、を有する高圧タンクであって、
前記外層は、撥水性材料を含有する高圧タンク。
【請求項6】
前記外層の表面における水滴の接触角が常温下で60°以上である請求項5に記載の高圧タンク。
【請求項7】
前記外層は、ポリテトラフルオロエチレンを含有する請求項5又は6に記載の高圧タンク。
【請求項8】
前記容器本体は、前記外層の外側に設けられる撥水層をさらに有する請求項5から7の何れか一項に記載の高圧タンク。
【請求項9】
前記ガスは高圧水素ガスであり、燃料電池車両に搭載される請求項1から8の何れか一項に記載の高圧タンク。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−342895(P2006−342895A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−169404(P2005−169404)
【出願日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】