説明

高圧放電ランプ、およびその製造方法

【課題】チタン半田等の接続部材を用いずに電極部と給電部とを接続する場合であっても、電極棒を極めて折損しにくくする。
【解決手段】発光管5は、外囲器11と、この外囲器11に封着された電極構造体13とを備えている。電極構造体13は、外囲器11内に位置し、かつ電極棒17とこの電極棒17に取り付けられた電極コイル18とから構成されたタングステン製の電極部15と、端部にこの電極部15が接続されているニオブ製の給電部16とを有している。電極部15と給電部16との接続部分において、給電部16の一部が溶融し固化したものが、少なくとも電極棒17と電極コイル18との間の隙間に存在して電極棒17と電極コイル18とにそれぞれ固着し、電極棒17、電極コイル18および給電部16がそれぞれ一体化されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧放電ランプおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高圧放電ランプ、例えば高圧ナトリウムランプは、円筒状のセラミック製の外囲器と、この外囲器の両端部にシール材によって封着された電極構造体とを有する発光管を備えている。電極構造体は、電極棒とこの電極棒に取り付けられた電極コイルとから構成されたタングステン製の電極部と、端部にこの電極部が接続されているニオブ製の給電部とを有している。
【0003】
従来の高圧ナトリウムランプにおける電極部と給電部との接続方法の一例としては、有底筒状の形状を有する給電部の底部の外面に、内側に窪んだ凹部を形成し、この凹部に電極棒の端部をはめ込んでチタン半田によってそれぞれを固着し、接続する方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
また、現在市販されている高圧ナトリウムランプ(以下、「従来の別の高圧ナトリウムランプ」という)には、図7に示すように、主たる部分が有底筒状の形状を有するニオブ製の給電部24の底部の外面にこの給電部24の外径よりも小径の有底筒部25が形成され、この有底筒部25に、電極コイル26が取り付けられたタングステン製の電極棒27が挿入され、この状態で有底筒部25の開口側の端部と電極棒27とが例えばレーザ溶接によって固着されている電極構造体28が用いられているものがある。
【0005】
なお、従来の高圧ナトリウムランプ、および従来の別の高圧ナトリウムランプのいずれも、電極棒と電極コイルとは別工程の溶接によって一体化されており、特に電極コイルと給電部とは溶接等によって直接接続されていない。
【特許文献1】実開昭59−121153号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような従来の高圧ナトリウムランプでは、電極棒と半田との接合部分において、これらの構成材料であるタングステンとチタンとが合金化し、これに起因してタングステンが再結晶化して脆化し、電極棒がその接合部分においてランプの製造工程中やランプの輸送中等の衝撃によって折損するという問題があった。また、この従来の高圧ナトリウムランプでは、ランプの寿命中、給電部と半田との接合部分において、これらの構成材料であるニオブとチタンとが合金化し、これに起因して給電部が変形して電極棒の軸ずれを引き起こしたり、リークが発生したりするという問題もあった。
【0007】
一方、従来の別の高圧ナトリウムランプでは、給電部24と電極棒27との接続にチタン半田を用いていないために、上記したような従来の高圧ナトリウムランプにおける問題は起きないと期待された。
【0008】
ところが、この従来の別の高圧ナトリウムランプでも、依然としてランプの製造工程中やランプの輸送中等の衝撃によって電極棒27が折損するという問題が起こった。
【0009】
本発明者らは、その原因について種々検討した結果、次のように考えた。すなわち、従来の別の高圧ナトリウムランプに用いられている電極構造体28では、給電部24と電極棒27とが溶接されているが、その溶接時、給電部24の構成材料であるニオブと電極棒27の構成材料であるタングステンとが合金化し、これに起因してそのタングステンが再結晶化して脆化したためであると考えた。この脆化を防止するに当たっては、例えばその固着方法としてレーザ溶接を用いる場合、レーザの出力を下げることが考えられる。しかし、この場合、脆化を防止することができるほどレーザの出力を下げると、給電部24と電極棒27との固着が不十分になるおそれがあるために適切ではない。
【0010】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、チタン半田等の接続部材を用いずに電極部と給電部とを接続する場合であっても、電極棒を極めて折損しにくくすることができる高圧放電ランプ、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の高圧放電ランプは、外囲器と、この外囲器に封着された電極構造体とを有する発光管を備え、前記電極構造体は、前記外囲器内に位置し、かつ電極棒とこの電極棒に取り付けられた電極コイルとから構成された電極部と、端部にこの電極部が接続されている給電部とを有しており、前記電極部と前記給電部との接続部分において、前記給電部の一部が溶融し固化したものが、少なくとも前記電極棒と前記電極コイルとの間の隙間に存在して前記電極棒と前記電極コイルとにそれぞれ固着しており、前記電極棒、前記電極コイルおよび前記給電部がそれぞれ一体化されているという構成を有している。
【0012】
本発明の高圧放電ランプの製造方法は、外囲器と、この外囲器に封着された電極構造体とを有する発光管を備え、前記電極構造体は、電極棒とこの電極棒に取り付けられた電極コイルとから構成された電極部と、この電極部が端部に接続されている給電部とを有している高圧放電ランプの製造方法であって、前記電極構造体の製造工程において、前記電極棒に前記電極コイルを挿入し、前記電極部を組み立てる電極部組立工程と、前記給電部のうち、前記電極部との接続予定部分に前記電極部を近接または当接させた後、前記接続予定部分を溶融させ、その溶融した前記接続予定部分を少なくとも前記電極棒と前記電極コイルとの間の隙間に入り込ませて固化させ、前記電極棒、前記電極コイルおよび前記給電部をそれぞれ一体化させる一体化工程とを含む方法を用いている。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、チタン半田等の接続部材を用いずに電極部と給電部とを接続する場合であっても、電極棒を極めて折損しにくくすることができる高圧放電ランプ、およびその製造方法を提供することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の最良な実施の形態について、図面を用いて説明する。
【0015】
図1に示すように、本発明の実施の形態である定格電力180[W]の始動器内蔵形の高圧ナトリウムランプ1は、一端部が略半球状に閉塞され、他端部にステム2が封着された直管状の外管3と、この外管3のステム2側の端部に取り付けられたねじ込み式の口金4と、この外管3内に収納された発光管5と、同じく外管3内におけるステム2と発光管5と間の空間に配置され、かつ発光管5を始動させるための公知の始動器6とを備えている。
【0016】
外管3の長手方向の中心軸Xと発光管5の長手方向の中心軸Yとは、略同一軸上に位置している。
【0017】
外管3は、例えば硬質ガラスや石英ガラスからなる。また、この外管3の内部は、真空状態になっている。
【0018】
ステム2には、2本のリード線7,8の一部が封止されている。各リード線7,8の一端部は、外管3内に引き込まれ、後述する発光管5の給電部16に機械的に、かつ電気的に接続されている。リード線7,8の他端部は外管3の外部に導出しており、一方のリード線7の他端部は口金4のシェル部4aに、他方のリード線8の他端部は口金4のアイレット部4bにそれぞれ電気的に接続されている。
【0019】
なお、リード線7,8は通常、複数の金属線を接続し一体化したものからなる。
【0020】
発光管5は、図2に示すように、略円筒状の円筒部9とこの円筒部9の両端部に焼きばめによって一体化されたリング状の閉塞部10とを有する透光性セラミック、例えば多結晶アルミナからなる外囲器11と、この外囲器11の両端部にシール材12によって封着された電極構造体13とを有している。また、この発光管5内には、発光物質としてのナトリウム、緩衝ガスとしての水銀、および始動補助としての希ガス、例えばキセノンガスがそれぞれ所定量封入されている。さらに、この発光管5の外面には、図1に示すように、始動補助導体14が発光管5の長手方向に沿って付設されている。
【0021】
なお、ナトリウムと水銀とは、ナトリウムアマルガム(ナトリウム:20重量%、水銀80重量%)の形態で封入されている。
【0022】
電極構造体13は、図2に示すように、外囲器11内に位置するタングステン製の電極部15と、閉塞部10を貫通し、一端部にこの電極部15が接続され、かつ他端部が外囲器11の外部に導出しているニオブ製の給電部16とを有している。電極部15間の距離は85[mm]である。電極部15の構成材料そのものは、もちろんタングステン(W)を主成分とするものであって、公知のものである。給電部16の構成材料そのものもニオブ(Nb)を主成分とするものであって、公知のものである。
【0023】
なお、図2では一方の端部の構造のみを図示しているが、他方の端部の構造も同じ構成を有している。
【0024】
電極部15は、図3に示すように、長さが6.3[mm]、直径が0.7[mm]の電極棒17と、この電極棒17に取り付けられた例えば線径0.4[mm]の電極コイル18とを有している。電極棒17の一端部側は、電極コイル18に対して放電空間側に0.5[mm]突出し、電極棒17の他端部側は、電極コイル18に対して放電空間とは反対側に0.9[mm]突出している。電極コイル18は、例えば12ターンの一重の密巻きコイルからなり、コイル内径が0.7[mm]の第一のコイル部分19(3ターン)とコイル内径が1.8[mm]の第二のコイル部分20(9ターン)とを有している。また、電極棒17と第二のコイル部分20と間の隙間には、表面に電子放射性物質を付着させた内部コイル(図示せず)が電極棒17に挿入されて配置されている。この内部コイルは、第二のコイル部分20の一部をかしめることによって前記隙間内に保持されている。
【0025】
給電部16は、その主たる部分において一端部が略テーパ状に閉塞され、かつ他端部が開口している外径が3.0[mm]、内径が2.5[mm]の有底筒状の形状を有しており、その底部21の外面に略円筒状の有底筒部22が形成されている。この有底筒部22は、後述する溶融固化前において、外径が1.46[mm]、内径が0.96[mm]、深さが0.9[mm]である。また、有底筒部22の底部は、略平坦になっている。この給電部16の全長は、有底筒部22を含めて13.0[mm]である。
【0026】
なお、給電部16のうち、有底筒部22を除く部分の形状としては、有底筒状のもの以外に、例えば両端部が閉塞された中空状のものや、棒状のものも用いることができる。もちろん、このような中空状のものや棒状のものにおいてもその端面に有底筒部22が形成される。
【0027】
電極棒17の他端部側のうち、電極コイル18から突出している0.9[mm]の部分のほぼ全体が、有底筒部22内に挿入されている。したがって、前記溶融固化前において、電極コイル18の第一のコイル部分19のうち、最も給電部16側に近いターンの先端部は、この有底筒部22の開口側の端面に当接していたことになる。
【0028】
そして、このような状態で、図4に示すように、給電部16の一部である有底筒部21の開口側の端部が溶融され、その溶融物が電極棒17と、電極コイル18、特に第一のコイル部分19のうちの最も給電部16に近いターンとの間の隙間に入り込んで、その隙間において電極棒17の表面や電極コイル18の表面に固着し固化している。また、この溶融物は、電極棒17の他端部の表面のうち、前記隙間を形成している所以外の部分や、さらには電極コイル18の第一のコイル部分19のうち、前記隙間を形成している所以外の部分にも固着し固化している。このように給電部16の一部である有底筒部22の開口側の端部が溶融し固化したものが、電極棒17と電極コイル18との間の隙間に存在して、その隙間において電極棒17と電極コイル18とのそれぞれに固着し、また溶融し固化したものが、電極棒17と電極コイル18とにそれぞれ直接的に固着することにより、給電部16、電極棒17および電極コイル18はそれぞれ一体化され、互いに電気的に、かつ機械的に接続される。
【0029】
もっとも、溶融し固化したものは、単に電極棒17や電極コイル18に接触して固着しているだけの場合もあれば、それらの接続部分において、その構成材料であるニオブとタングステンとが合金化している場合もある。例えば、図4に示した例では、領域Aにおいて、有底筒部22の溶融時に、電極コイル18の一部も溶融し、それらの構成材料であるニオブとタングステンとの合金が形成されている。また、領域Bにおいては、溶融した有底筒部22の構成材料であるニオブと電極棒17の構成材料であるタングステンとが合金化している。
【0030】
ここで、電極棒17のうち、有底筒部22内に位置している部分において、その少なくとも一部が有底筒部22の内面に当接していることが好ましい。これにより、電極棒17または電極コイル18に何らかの応力、特に電極棒17の長手方向に対して垂直な方向から応力が加わった場合、その応力を当接した部分へ分散させることができ、前記溶融し固化したものと電極棒17との固着部分、および前記溶融し固化したものと電極コイル18との固着部分に加わる応力を低減させることができ、それらの固着した部分同士が外れるのを防止することができる。また、外部からそのような応力が加わった際、電極棒17の構成材料であるタングステンが部分的に脆化していたとしても、電極棒17がその脆化した部分において折損するのを防止することができる。
【0031】
次に、本発明の実施の形態である定格電力180[W]の始動器内蔵形の高圧ナトリウムランプ1の製造方法について説明する。ただし、電極構造体13の製造工程以外の工程、例えばランプ組立工程等については公知の方法を用いているため、ここではその詳細な説明を省略し、電極構造体13の製造工程のみについて説明する。
【0032】
まず、予め、一端部が略テーパ状に閉塞され、その底部の外面に有底筒部22が形成された主たる部分(有底筒部22を除く部分)の形状が有底筒状である給電部16と、電極棒17と、予め所望の形状に巻かれた電極コイル18とを準備する。
【0033】
第一の工程(電極部組立工程)では、電極棒17の所定の位置に電極コイル18を挿入して電極部15を組み立てる。この状態では、電極コイル18は電極棒17に単に挿入されているだけであり、電極棒17には固定されていない。ここで、電極コイル18を電極棒17に挿入した後、電極コイル18のうち、第一のコイル部分19と電極棒17とを例えば抵抗溶接等によって固定し、一体化させておくことが好ましい。これにより、電極構造体13の製造工程において、部品として電極部15を取り扱う際、電極棒17に対する電極コイル18の位置がずれたりすること等がなくなってその取り扱いが容易になり、また電極棒17と電極コイル18との固着強度を増大させることができるので、完成した電極構造体13において、電極棒17に対して電極コイル18を確実に固定させることができる。
【0034】
その後、第二の工程(一体化工程)では、給電部16のうち、電極部15との接続予定部分に電極部15を近接または当接させる。つまり、図5に示すように、給電部16をその長手方向が水平になるように保持するとともに、電極部15を、電極棒17の他端部と有底筒部22の開口端とが互いに対向するように給電部16の長手方向の中心軸と電極棒17の長手方向の中心軸とを同一軸上に略一致させて配置する。次に、電極部15を給電部16側へ移動させ、電極部15における電極棒17の他端部のほぼ全体を有底筒部22内に挿入し、この状態で保持する。このとき、電極コイル18の第一のコイル部分19のうち、最も給電部16に近いターンの先端部は、有底筒部22の開口側の端面に当接している。
【0035】
ここで、電極部15における電極棒17の他端部を有底筒部22内に挿入するに当たり、各部材の寸法ばらつき等を考慮して、有底筒部22の内径(例えば0.96[mm])を電極棒17の直径(例えば0.7[mm])に対して裕度を持たせた大きさにすることが好ましい。そして、このように有底筒部22の内径を電極棒17の直径に対して十分に裕度を持たせた大きさにする場合、電極棒17を有底筒部22内に挿入した後、有底筒部22の一部、例えば開口側の端部(接続予定部分)をかしめて、電極棒17に前記接続予定部分をなるべく当接または近接させておくことが好ましい。これにより、後述するように前記接続予定部分を溶融させた際、その溶融物を電極棒17と電極コイル18との間の隙間に確実に入り込ませ、溶融し固化したものと電極棒17および電極コイル18との固着強度をそれぞれ強くすることができる。
【0036】
なお、ここで言う「接続予定部分」とは、主として有底筒部22の開口側の端部である。もっとも、後述するようにこの「有底筒部22」に代えて「凹部」が形成されている場合、その凹部の開口側の端部が「接続予定部分」となる。また、給電部に「有底筒部22」も「凹部」も形成されていない場合、例えば単なる有底筒状の形状を有する給電部の場合、その底部が「接続予定部分」となる。
【0037】
また、給電部16のうち、電極部15との接続予定部分に電極部15を必ずしも「当接」させる必要はなく、「近接」させていればよい。つまり、後述するように接続予定部分を溶融させ、その溶融物を電極棒17と電極コイル18との間の隙間に入り込ませることができる程度に「近接」していればよい。
【0038】
そして、この状態のままで、図6に示すように、有底筒部22の開口側の端部の任意の部分にレーザ光23を電極棒17の長手方向に対して略垂直な方向から照射し、その部分を溶融させる。溶融物は、図4に示すように、その近傍に位置する電極棒17の表面や電極コイル18の表面に付着するとともに、毛細管現象によって電極棒17と電極コイル18との間の隙間に入り込む。その後、溶融物を例えば自然冷却または強制冷却して固化させる。こうして溶融し固化したものと電極棒17および電極コイル18とが、また溶融し固化したものを介して電極棒17と電極コイル18とがそれぞれ固着され、給電部16、電極棒17および電極コイル18がそれぞれ一体化される。
【0039】
ここで、レーザ光23の照射方向は、特に限定されるものではないが、レーザ光23の照射位置の位置決めがしやすいという観点からは、レーザ光23を電極棒17の長手方向に対して略垂直な方向から照射することが好ましい。一方、図6の破線で示すように、レーザ光23を給電部16寄りから所定の照射位置に照射することにより、溶融物が電極コイル18側へ流れやすくなるので、溶融物を電極棒17や電極コイル18の外面のより広範囲に付着させることができるとともに、溶融物が電極棒17と電極コイル18との間の隙間に一層入り込みやすくなり、しかも入り込む量を一層増加させることができる。
【0040】
また、一例として、レーザ光23を有底筒部22の開口側の端部の任意の1点に照射した場合について説明したが、その場合のレーザ光23の照射位置としては、有底筒部22の開口側の端部のうち、第一のコイル部分19が当接している部分を含むその近傍であることが好ましい。これにより、溶融物はそのまま直接、電極棒17とその当接している第一のコイル部分19との間の隙間に入り込むことができる。その結果、電極棒17と電極コイル18との間の隙間に入り込む溶融物の量を増加させることができるので、給電部16、電極棒17および電極コイル18の3つの部材を互いに強固に固着させることができる。また、レーザ光23の照射は1点でも十分であるが、例えば溶融物を電極棒17と電極コイル18との間の隙間により確実に入り込ませるために、必要に応じて2点、3点またはそれ以上行ってもよい。このようにレーザ光23を複数点照射する場合は、溶融物を電極棒17と電極コイル18との間の隙間にバランスよく入り込ませるために、その照射位置が等間隔になっていることが好ましい。
【0041】
また、上記した例では、レーザ光23を照射する際、電極部15および給電部16をそれらの長手方向が水平になるような姿勢で保持してレーザ光23を照射したが、電極部15が下方に、給電部16が上方に位置するようにこれらを垂直に立てた状態で保持してレーザ光23を照射し、有底筒部22の開口側の端部を溶融させることが好ましい。この場合、溶融物が自重で下方に流れやすくなるので、溶融物を電極棒17や電極コイル18の外面のより一層広範囲に付着させることができるとともに、溶融物が電極棒17と電極コイル18との間の隙間により一層入り込みやすくなり、しかも入り込む量をより一層増加させることができる。
【0042】
なお、レーザ光23は、有底筒部22の開口側の端部、つまり前記接続予定部分に直接照射させる必要はなく、前記接続予定部分の近傍に照射させてもよい。レーザ光23を前記接続予定部分の近傍に照射させた場合であっても、その熱によって結果的に前記接続予定部分が溶融さえすればよいからである。
【0043】
特に、溶融物(前記接続予定部が溶融したもの)を電極棒17と電極コイル18との間の隙間に入り込ませる際、電極コイル18のうち、少なくともその隙間を形成している部分を加熱しておくことが好ましい。これにより、溶融物が加熱された電極コイル18の構成材料であるタングステンになじみやすくなり、溶融物が電極棒17と電極コイル18との間の隙間の奥深くまで入り込むことができるので、その溶融物が固化したものと電極棒17との固着面積、およびその溶融物が固化したものと電極コイル18との固着面積とを増大させることができ、各々の固着強度を強くさせることができる。このとき、図6に示すように、レーザ光23を有底筒部22の開口側の端部(前記接続予定部)に照射させると同時に、そのレーザ光23の一部を前記接続予定部分に近接または当接する電極コイル18、例えば第一のコイル部分19のうち、最も給電部16に近いターンに照射させることが好ましい。これにより、電極コイル18のうち、少なくともその隙間を形成している部分を加熱するに当たり、レーザ光23をそのまま利用することができるので、特別な加熱手段を設ける必要がなくなり、そのための設備や工程数が増大するのを抑え、それに伴う製造コストの増大を抑制することができる。
【0044】
なお、レーザ光23には、YAGレーザを用いた。その際、出力エネルギーのピーク値を1.0[kW]〜2.5[kW]の範囲内とし、パルス幅(照射時間)を5[msec]〜20[msec]の範囲内とすることにより、溶融に必要なエネルギーを最小限にし、かつ必要な溶融量を得ることができた。その結果、電極棒17の構成材料であるタングステンの脆化を一層抑制することができ、電極棒17を一層折損しにくくすることができる。もちろん、レーザ光23としては、このYAGレーザ以外に例えば半導体レーザ等、給電部16を溶融することができるものであれば公知の種々のレーザを使用することができる。また、そのレーザ光の特性に応じて出力エネルギー等を適宜設定すればよい。
【0045】
以上のような本発明の実施の形態である定格電力180[W]の始動器内蔵形の高圧ナトリウムランプ1にかかる構成によれば、溶融した給電部16の一部が少なくとも電極棒17と電極コイル18との間の隙間に入り込んで固化しているために、その溶融し固化したものが電極棒17と電極コイル18とにそれぞれ絡みつくように固着し、給電部16を電極棒17および電極コイル18に対してそれぞれ非常に強固に固着させることができる。したがって、給電部16の一部を溶融させるに当たり、従来の別の高圧ナトリウムランプに用いられている単に電極部と給電部とが溶接によって接続された電極構造体に比して給電部16のわずかな溶融で同等以上の固着強度を得ることができ、その結果、給電部16に与える熱量を著しく低減させることができるので、電極棒17に加わる熱量も著しく低減させることができる。よって、電極棒17の構成材料であるタングステンが再結晶化し脆化するのを抑制することができ、これに起因して電極棒17が折損するのを防止することができる。しかも、電極部15と給電部16とがチタン半田等の接続部材を用いて接続されていた従来の高圧ナトリウムランプとは異なり、電極部15と給電部16との接続にチタン半田を用いていないので、給電部16の構成材料であるニオブとチタンとが合金化し、ニオブが変形して電極棒17が軸ずれを起こしたり、リークが発生したりするのを防止することもできる。
【0046】
次に、本発明の実施の形態である定格電力180[W]の始動器内蔵形の高圧ナトリウムランプ1(以下、「本発明品」という)の作用効果を確認するための実験を行った。
【0047】
まず、上記した製造方法で製造した電極構造体13を25本用意した。そして、その25本のサンプルの抗接強度[kg]について調べた。ただし、抗接強度は、次のようにして調べた。すなわち、電極構造体13を、給電部16が上方に、電極部15が下方に位置するように垂直に立てた状態で給電部16の開口側の端部をチャックによって把持した。そして、この状態で電極棒17の先端を、電極棒17の長手方向に対して垂直に押し、電極棒17が折損するまで徐々に押す力を強めた。ここでは、電極棒17が折損したときに加えていた力を抗接強度[kg]とした。
【0048】
なお、本発明者らによると、抗接強度が0.2[kg]以上あれば、実使用において、例えばランプの製造工程中やランプの輸送中等において、電極部15が外部から加わる衝撃によって折損するといった不具合を著しく低減できることを確認している。
【0049】
その結果、25本のサンプルにおける抗接強度は、0.71[kg]〜1.67[kg]の範囲内にあり、平均で0.95[kg]であった。
【0050】
したがって、本発明品では、その電極構造体13において、実使用に十分に耐え得る抗折強度を有することが確認され、またその抗接強度のばらつきも小さいことから、強度面において安定した品質を得ることができると確認された。
【0051】
なお、本実施の形態では、給電部16の端部に有底筒部22が形成されているものを用いた場合について説明したが、この有底筒部22に代えて、給電部の端部が内側に窪んだ凹部が形成されているものを用いた場合であっても、上記と同様の作用効果を得ることができる。もっとも、必ずしも有底筒部22や前記凹部を形成する必要はなく、単なる有底筒状の給電部の底部の外面に電極部15を固着し、接続してもよい。しかし、電極構造体13の製造工程において、給電部16のうち、電極部15との接続予定部分に電極部15を近接または当接させるに当たり、給電部16に対する電極部15の位置規制を容易に行うことができるという観点からは、有底筒部22や凹部を形成することが好ましい。
【0052】
また、本実施の形態では、給電部16の主たる部分(有底筒部22を除く部分)の形状として有底筒状の形状を有する場合について説明したが、その部分の形状が有底筒状に限らず、両端が閉塞された中空状のものや、単なる棒状のものであっても上記と同様の作用効果を得ることができる。もちろん、このような中空状のものや棒状のものにおいて前記凹部を形成してもよい。
【0053】
さらに、本実施の形態では、片口金形で、定格電力180[W]の始動器内蔵形の高圧ナトリウムランプを例示して説明した。しかし、本発明は、片口金形に限らず両口金形の高圧ナトリウムにも適用することができ、また始動器内蔵形に限らず始動器外付け形の高圧ナトリウムランプにも適用することができ、さらには高演色形の高圧ナトリウムランプにも適用することができる。また、本発明は、定格電力が180[W]のものに限られるものではなく、始動器内蔵形の高圧ナトリウムランプの場合、例えば定格電力が70[W]〜940[W]の始動器内蔵形の高圧ナトリウムランプに適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、チタン半田等の接続部材を用いずに電極部と給電部とを接続する場合であっても、電極棒を極めて折損しにくくすることが必要な高圧放電ランプ、およびその製造方法にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施の形態である始動器内蔵形の高圧ナトリウムランプの一部切欠正面図
【図2】同じく高圧ナトリウムランプに用いられている発光管の一部切欠正面図
【図3】同じく高圧ナトリウムランプに用いられている電極構造体の一部切欠正面図
【図4】同じく高圧ナトリウムランプに用いられている電極構造体の要部拡大断面図
【図5】同じく高圧ナトリウムランプに用いられている電極構造体の製造工程を示す図
【図6】同じく高圧ナトリウムランプに用いられている電極構造体の製造工程を示す別の図
【図7】従来の別の高圧ナトリウムランプに用いられている電極構造体の一部切欠正面図
【符号の説明】
【0056】
1 高圧ナトリウムランプ
2 ステム
3 外管
4 口金
4a シェル部
4b アイレット部
5 発光管
6 始動器
7,8 リード線
9 円筒部
10 閉塞部
11 外囲器
12 シール材
13 電極構造体
14 始動補助導体
15 電極部
16 給電部
17 電極棒
18 電極コイル
19 第一のコイル部分
20 第二のコイル部分
21 底部
22 有底筒部
23 レーザ光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外囲器と、この外囲器に封着された電極構造体とを有する発光管を備え、
前記電極構造体は、前記外囲器内に位置し、かつ電極棒とこの電極棒に取り付けられた電極コイルとから構成された電極部と、端部にこの電極部が接続されている給電部とを有しており、
前記電極部と前記給電部との接続部分において、前記給電部の一部が溶融し固化したものが、少なくとも前記電極棒と前記電極コイルとの間の隙間に存在して前記電極棒と前記電極コイルとにそれぞれ固着しており、
前記電極棒、前記電極コイルおよび前記給電部がそれぞれ一体化されていることを特徴とする高圧放電ランプ。
【請求項2】
前記電極棒の一部が前記給電部の端部に形成された凹部または有底筒部に挿入されることによって前記電極部と前記給電部とが接続されており、
前記電極部と前記給電体との接続部分において、前記凹部または前記有底筒部の開口側の端部が溶融し固化したものが、少なくとも前記電極棒と前記電極コイルとの間の隙間に存在して前記電極棒と前記電極コイルとにそれぞれ固着しており、
前記電極棒、前記電極コイルおよび前記給電部がそれぞれ一体化されていることを特徴とする請求項1記載の高圧放電ランプ。
【請求項3】
前記電極棒の一部が、前記凹部または前記有底筒部の内面に当接していることを特徴とする請求項2記載の高圧放電ランプ。
【請求項4】
外囲器と、この外囲器に封着された電極構造体とを有する発光管を備え、前記電極構造体は、電極棒とこの電極棒に取り付けられた電極コイルとから構成された電極部と、この電極部が端部に接続されている給電部とを有している高圧放電ランプの製造方法であって、
前記電極構造体の製造工程において、前記電極棒に前記電極コイルを挿入し、前記電極部を組み立てる電極部組立工程と、
前記給電部のうち、前記電極部との接続予定部分に前記電極部を近接または当接させた後、前記接続予定部分を溶融させ、その溶融した前記接続予定部分を少なくとも前記電極棒と前記電極コイルとの間の隙間に入り込ませて固化させ、前記電極棒、前記電極コイルおよび前記給電部をそれぞれ一体化させる一体化工程とを含むことを特徴とする高圧放電ランプの製造方法。
【請求項5】
前記電極部組立工程において、前記電極棒に前記電極コイルを挿入した後、前記電極棒と前記電極コイルとを溶接して一体化させることを特徴とする請求項4記載の高圧放電ランプの製造方法。
【請求項6】
前記一体化工程において、前記給電部のうち、前記電極部との接続予定部分に前記電極部を近接または当接させるに当たり、前記接続予定部分に前記電極コイルを近接または接触させることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の高圧放電ランプの製造方法。
【請求項7】
前記一体化工程において、前記接続予定部分をレーザ光の照射によって溶融させる場合であって、前記レーザ光を前記接続予定部分に照射させると同時に、前記レーザ光の一部を前記接続予定部分に近接または当接する前記電極コイルに照射させることを特徴とする請求項6記載の高圧放電ランプの製造方法。
【請求項8】
前記一体化工程において、前記接続予定部分が溶融したものを前記電極棒と前記電極コイルとの間の隙間に入り込ませる際、前記電極コイルのうち、少なくともその隙間を形成している部分を加熱しておくことを特徴とする請求項4〜請求項7のいずれか1項に記載の高圧放電ランプの製造方法。
【請求項9】
前記一体化工程において、前記給電部のうち、前記電極部との接続予定部分に前記電極部を近接または当接させた後、前記電極部が下方に、前記給電部が上方に位置するようにこれらを垂直に立てた状態で、前記接続予定部を溶融させることを特徴とする請求項4〜請求項8のいずれか1項に記載の高圧放電ランプの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−236654(P2006−236654A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−46788(P2005−46788)
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】