説明

高圧放電ランプ及び照明器具

【課題】色の見え方、演色性が良好であり、明るさの低下を抑制しつつ、色温度を例えば色温度3200〜3700K等に調整すること課題とする。
【解決手段】発光管2と;この発光管2を覆うように設けられた透光性の保護管3と;600nm以下の光を吸収しそれ以上を透過する金属酸化物からなる粒子を主体として、前記保護管3の外面に形成され,光学特性として波長450nmの光のカット率が20〜50%である光カット膜4と;を具備することを特徴とする高圧放電ランプ1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定波長域の光をカットする光カット膜または可視光選択吸収性被膜を備えた高圧放電ランプ及びこの放電灯を備えた照明器具に関する。
【背景技術】
【0002】
周知の如く、紫外線カット膜を設けた高圧放電ランプ及び該ランプを利用した照明器具は、紫外線及び一部青色光を必要としない被照射物等の損傷防止や紙・布等の劣化防止、低誘虫用など照明に主として利用されている。
【0003】
例えば、紫外線をカットするための膜材料には、酸化亜鉛(ZnO)系材料が主に使用されている。ここで、紫外線をカットするために使用されているZnO系被膜は、50%カット波長が約380nm以下であるが、紫外線による劣化防止の効果を向上させるためにはより長波長側の光をカットすることが望ましい。このため、例えばBiまたはInをドープしたZnO系材料を用いた紫外線カット膜が提案されている。
【0004】
従来、高演色性,低色温度性に優れたメタルハライドランプとして、可視光反射特性を調整した誘電体膜を発光管に施した色温度変換膜付メタルハライドランプが知られている(例えば、特許文献1)。
【0005】
また、従来、特に高い演色性を有し、容易に色温度を自由に設定可能なメタルハライドランプとして、発光管から放射される光のうち特定の波長の光出力を所定の割合で低減する被膜を形成したメタルハライドランプが知られている(例えば、特許文献2)。
更に、従来、光学特性としてのランプの光の色温度を改良したメタルハライドランプ(例えば、特許文献3)、あるいは色特性の優れた高効率、高演色型のメタルハライドランプ(例えば、特許文献4)が知られている。
【0006】
更には、下記の特許文献5,6が知られている。
特許文献5:この文献5には、透光性セラミックス容器からなる発光管内に、希土類金属ハロゲン化物とハロゲン化ナトリウムを含む金属ハロゲン化物を、ハロゲン化ナトリウムが希土類金属ハロゲン化物に対し重量比で10〜100%となる量添加して封入(DyI:55wt%,NaI:30wt%,TlI:15wt%)した高圧放電ランプで、発光効率96lm/W、色温度が4100K(3500〜5000K)、演色性も平均演色評価数(Ra)が95という高い発光特性を呈すると共に垂直点灯と水平点灯での立ち消え電圧の差が小さくなることが記載されている。
【0007】
特許文献6:この文献6には、透光性セラミックス容器からなる発光管内に、セリウム化物(20〜69%)、ナトリウムハロゲン化物(30〜79wt%)、タリウムハロゲン化物及びインジウムハロゲン化物(TlとInのハロゲン化物の合計量が1〜20wt%)を組合わせて封入(全体で100wt%)したメタルハライドランプで、高い発光効率(117lm/W以上)と光束維持率の低下抑制がはかれることが記載されている。
【特許文献1】特開平10−208703号公報
【特許文献2】特開平5−36380号公報
【特許文献3】特許第3312670号公報
【特許文献4】特許第3603475号公報
【特許文献5】特許第3293499号公報
【特許文献6】特開2003−16998号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、ZnO微粒子材料またはInドープZnO系の材料を用いて紫外線カット膜を形成すれば、変退色を抑制することが可能であるが、この紫外線カット膜のカット波長(透過率50%以下となる長波長側の上限波長)は約380nmであり、長波長側へシフトするように調整しても400〜425nmが限界である。しかしながら、昆虫の誘虫性や紙繊維などの変退色の波長依存性は可視域の500nm付近まであるため、紙繊維等の変退色、昆虫の誘引の低減、抑制の効果は十分とはいえない。一方、可視域の500nm付近以下を黄色顔料などでカットした電球または蛍光ランプからなる低誘虫ランプが実現されているが、演色性、見え方の点で不充分であり、また大光量が必要な照明用途では使用できない。
【0009】
また、特許文献5においては、同文献5に準拠してランプを試作しその特性を測定したところ、文献5に実施例として記載されている定格電力と相違する電力のランプによっては、所望の発光特性が得られないものがあった。さらに、文献5に記載の高圧放電ランプでは、ランプ構造に対する寸法や封入金属ハロゲン化物の蒸発を決定するための温度(最冷点)を決定するための寸法などの記載がないため、選択する希土類ハロゲン化物の種類によっては、記載の特性が得られない懸念がある。
【0010】
特許文献6においては、同文献6に準拠して試作したランプは、高い発光効率及び光束維持率を呈するが、ランプの発光色が著しく緑色となってしまうともに平均演色評価数が75以下となってしまい、店舗用や屋外照明用といった用途には不向きであった。
【0011】
本発明は、こうした問題点に鑑みなされたもので、色の見え方、演色性が良好であり、明るさの低下を抑制しつつ、色温度を例えば色温度3200〜3700K等に調整することが可能な高圧放電ランプ及び照明器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1記載の高圧放電ランプは、発光管と;この発光管を覆うように設けられた透光性の保護管と;600nm以下の光を吸収しそれ以上を透過する金属複合酸化物からなる粒子を主体として、前記保護管の外面または内面に形成され,光学特性として波長450nmの光のカット率が20〜50%である光カット膜と;を具備することを特徴とする。
【0013】
ここで、前記金属酸化物からなる粒子としては、Fe,Fe系複合酸化物のいずれか、あるいはその組成の一部を他の元素に置換したものが挙げられる。また、前記金属酸化物からなる粒子としては、ZnOおよびFeを含むものが挙げられる。また、光カット膜の前記金属酸化物からなる粒子としては、平均粒子径30〜100nmの球状六方晶α−Fe粒子および平均粒子径30〜100nmの多面体六方晶ZnO粒子を含んでなる場合が挙げられる。更に、金属酸化物からなる粒子としては、Ti−Sb−Cr−O,Zr−V−O,Sn−V−O,Ti−Sb−Cr−Oのいずれか、あるいはその組成の一部を他の元素に置換した金属複合酸化物粒子が挙げられる。
【0014】
本発明において、高圧放電ランプにおいて使用される光カット膜としては、インジウムがドープされた酸化亜鉛(ZnO)粒子とを混合したものを主体とした光カット膜である場合が挙げられる。ここで、ZnO粒子の粒径は50〜500nmが好ましく、100〜200nmが更に好ましい。また、光カット膜の膜厚は0.3μm〜2μmが好ましい。
【0015】
本発明において、光カット膜の450nm/550nmの透過率比は、0.7〜0.9の範囲であることが好ましい。透過率比をこうした範囲に設定することにより、色温度を3200〜3700の範囲で制御し、色温度3200〜3700Kで平均演色評価数Raが93以上、特殊演色係数R9が70以上で光束を大きく落とすことなく、色温度を変化させ、高演色で色温度3200〜3700Kの放電ランプが得られる。
【0016】
また、光カット膜にはSi化合物を用いるのが好ましい。このSi化合物は、シリコーン樹脂またはその変性物からなることが好ましい。これにより、膜耐熱性400〜600℃以上で膜強度の強固な被膜が得られる。
【0017】
更に、前記高圧放電ランプにおいて、定格電力が10〜1000Wで動作し、垂直点灯時と水平点灯時の色温度変動値が500K以下であると、点灯方向による色温度の変化が少なくなるので好ましい。
【0018】
本発明において、発光管には、ナトリウム(Na)およびタリウム(Tl)のハロゲン化物とジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、ツリウム(Tm)及びリチウム(Li)のうち少なくとも一種のハロゲン化物とが金属ハロゲン化物の総封入量比で90質量%以上封入されている場合が挙げられる。
【0019】
請求項10記載の照明器具は、器具本体と、この器具本体に配設された請求項1乃至4いずれか一記載の高圧放電ランプとを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
請求項1記載の高圧放電ランプによれば、波長600nm以下の光を吸収する金属酸化物粒子を主体とした光カット膜が保護管の内表面または外表面に形成されているので、高温で点灯される発光管の周囲に設けられた熱的劣化に強い光カット膜の光学特性が波長450nmの光のカット率が20〜50%となり、発光管の放射光を所望の色調に変化させることができる。また、色温度を低減するが、青のカットを最適化することにより、見え方、演色性を低減せずに色温度を低くして、明るさをほとんど低下させず現行と同等の良好な高圧放電ランプが得られる。
【0021】
請求項2,3記載の高圧放電ランプによれば、金属酸化物からなる粒子を上述したものにすることにより、請求項1記載の高圧放電ランプと同様な効果が得られる。
【0022】
請求項4記載の高圧放電ランプによれば、光カット膜が、平均粒子径30〜100nmの球状六方晶α−Fe粒子と平均粒子径30〜100nmの多面体六方晶ZnO粒子からなることにより、光束を大きく落とすことなく、色温度を変化させ、高演色で色温度3200〜3700Kの放電ランプが得られる。
【0023】
請求項5記載の高圧放電ランプによれば、光カット膜の450nm/550nmの透過率比を0.7〜0.9の範囲内とすることにより、色温度を3200〜3700Kの範囲で制御できる。
【0024】
請求項6記載の高圧放電ランプによれば、金属酸化物からなる粒子を上述したものにすることにより、請求項1記載の高圧放電ランプと同様な効果が得られる。
【0025】
請求項7記載の照明器具によれば、インジウムがドープされた酸化亜鉛粒子が添加された光カット膜とすることにより、昆虫の誘引の低減の他、紙繊維などの変退色、皮膚、目の損傷などの原因となる紫外光をカットしそれらを抑制することができる。
【0026】
請求項8記載の高圧放電ランプによれば、光カット膜の膜厚が0.3μm〜2μmであり、インジウムがドープされた酸化亜鉛粒子の平均粒径が100nm〜200nmとすることによって、更に高い透過率と誘虫性を低減する効果が高いランプ又は照明器具を得ることができる。
【0027】
請求項9記載の高圧放電ランプによれば、発光管にはナトリウム(Na)およびタリウム(Tl)のハロゲン化物とジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、ツリウム(Tm)及びリチウム(Li)のうち少なくとも一種のハロゲン化物とが金属ハロゲン化物の総封入量比で90質量%以上封入されていることにより、光束を大きく落とすことなく、高演色性を維持しながら色温度を3200〜3700Kに調整した放電ランプが得られる。
【0028】
請求項10記載の照明器具によれば、請求項1乃至9記載の高圧放電ランプを備えているので、種々の発光特性や電気特性に優れた照明器具が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
本発明の高圧放電ランプにおいて、光カット膜は保護管の外面または内面に形成される。ここで、光カット膜は、波長500nm以下の光を吸収しそれ以上を透過する複合酸化物からなる粒子を主体とした膜で、光学特性として波長450nmの光のカット率が15〜40%のもの、あるいは600nm以下を吸収しそれ以上を透過する複合酸化物からなる粒子を主体とし、光学特性として波長450nmの光のカット率が30〜50%であるものを用いる。また、光カット膜としては、波長500nm以下の光を吸収しそれ以上を透過する複合酸化物粒子と波長600nm以下の光を吸収しそれ以上を透過する複合酸化物粒子とを混合したものを主体とし、光学特性として波長450nmの光のカット率が20〜50%で、黒体放射からの偏差duvが+0.001〜−0.001であるものを用いる。
【0030】
本発明において、前記光カット膜として、膜厚を0.3μm〜2μm、インジウムドープ酸化亜鉛(ZnO:In)粒子の平均粒径が100nm〜200nmである紫外線カット膜を用いることによって、さらに高い紫外線カット率と誘虫性を低減する効果が高いランプ又は照明器具を得ることができる。
【0031】
次に、本発明の具体的な実施形態について説明する。但し、本発明は下記に述べるものに限定されない。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る高圧放電ランプの一例を示す。
図中の符番1は高圧放電ランプとしてのメタルハライドランプであり、セラミック製の発光管2を備えている。この発光管2の周囲には、発光管2を保護する透明な保護管としての内管3が設けられている。内管3には、発光管2と導通する給電手段としてのE形口金9が取り付けられている。内管3の外表面には所定の波長の光をカットする光カット膜4が形成されている。光カット膜4は、例えばインジウムがドープされた酸化亜鉛粒子と波長600nm以下の光を吸収しそれ以上は透過する金属酸化物粒子を主体し、光学特性として波長450nmの光のカット率が20〜50%(好ましくは30〜50%)である。
【0032】
発光管2は、発光部5と、この発光部5の軸方向に互いに反対方向に延出する細管部6a,6bとを備えている。発光部5は、気密に封止されていて内部に放電空間(図示せず)が形成されており、この放電空間には細管部6a,6bから導入された一対の電極(図示せず)が対向して配置されている。細管部6a,6bには、夫々先端部に各電極が接合された給電体7a,7bが配設され、ガラスフリット等で封着されている。発光管2内には、所定のハロゲン金属や希ガス(必要に応じて水銀が追加される)等からなる放電媒体が封入されている。給電体7a,7bには、夫々電力給電線8a,8bが電気的に接続されている。内管4内の口金側には、電力給電線8a,8bを封着するピンチシール部10が形成されている。内管4は、下端部が開口した透明な筒状の外管11によって囲まれている。外管11の下端部は、外管かしめ用金属リング12によってセラミック製ホルダー13に固定されている。なお、図中の符番14は内管4のピンチシール部10を挟持して支持する保護管支持片であり、セラミック製ホルダー13と一体化している。
【0033】
第1の実施形態において、光カット膜は次のようにして形成する。
即ち、まず、光カット材料としてのInドープZnO(In:Zn=5:95、平均粒径150nm)粒子を、例えば水溶液中の酢酸亜鉛と塩化インジウムを加水分解後乾燥し、熱処理して製造する。この光カット材料のインジウムドープ量は、Znに対して2.5〜20質量%である。この光カット材料としてのInドープZnO粒子にFe(平均粒径約60nm)を重量比で97:3の割合で混合し、この混合粒子をジエチレングリコールモノエチルエーテルなどの有機溶媒に分散させ、有機シリコン化合物からなるバインダーを混合してInドープZnO粒子および複合酸化物粒子10〜20質量%の範囲となるように所望の濃度の分散液を調整する。次に、この分散液を内管3の外表面に塗布し、光カット材料膜を0.3〜2μmの範囲、例えば1μmで形成する。つづいて、この塗膜を180〜250℃で30分間熱処理して、光カット膜4形成する。
【0034】
第1の実施形態によれば、ZnO:In粉体では50%カット波長は約425nm前後、Feは約600nmから吸収が発生し同約550nmであり、この組成を最適化し長波長側まで紫外光をカットしより紙繊維等の色変色、昆虫の誘引、皮膚、目の損傷等を低減できる。また、色温度を低減するが青のカットを最適化することにより、見え方、演色性を低減させず、現行と同等の良好な高圧放電ランプが得られる。
【0035】
インジウムがドープされた酸化亜鉛粒子を用いずに波長600nm以下の光を吸収し、それ以上を略透過するFe・Fe系複合酸化物等からなる金属酸化物粒子を主体として光カット膜を形成した場合については、波長400nm以下のカット率は低くなるものの、400nm以上の光カット率等の光学特性については上記実施形態と略同等であった。
【0036】
一方、リフレクタタイプの現行の膜無しランプ(従来例)、第1の実施形態のような紫外光カット膜が形成されたセラミックメタルハライドランプ(本発明)について、夫々色温度(TCP)、色偏差(Duv.)、平均演色評価数(Ra)及び特殊演色性評価係数(R9〜R15)を調べたところ、下記表1に示す結果が得られた。表1より、本発明のランプの場合は、光カット膜無しランプに対して450nmの光のカット率が0.25あるとともに、色温度も低く、種々の光学特性に優れた数値を呈するランプであることが確認できた。なお、表1において、x,yは色温度等から求める色度座標を示す。また、光量比は全光量を1.000とし、0.850とは光量が85%まで低下していることを示す。
【表1】

【0037】
内管に光カット膜を形成していない以外は第1の実施形態と同等の比較例ランプ、及び第1の実施形態の光カット膜をコートしたランプについて、波長に対する相対放射エネルギー特性を調べたところ、図2に示す結果が得られた。なお、図2において、曲線aは比較例ランプ、曲線bは第1の実施形態の光カット膜付きランプの場合を示す。図2では、約650nmから長波長側ではカット作用に差がないため、光カットの有無ではほとんど同じ放射エネルギー特性を示している。図2より、曲線bの場合、曲線aと比べ、波長450nm付近で相対放射エネルギーが小さく抑えられていることが明らかである。図2の場合には、波長450nmにおける光のカット率は30%である。
【0038】
(第2の実施形態)
図3は、本発明の第2の実施形態に係る照明器具を示す概略断面図である。
図中の符番21は、第1の実施形態と同様な光学特性を有する前記光カット膜4を前面カバーガラス22に用いた照明器具を示す。高圧放電ランプ1は、外管バルブ23に光カット膜が設けられていないメタルハライドランプである。高圧放電ランプ1は、照明器具21に収容して使用される。照明器具21、下面が開放された反射体25を有し、この反射体25の天井面にはソケット26を備えている。高圧放電ランプ1は、その口金を上記ソケット26に螺合することにより照明器具21に取り付けられている。光カット膜4は、第1の実施形態と同様な方法によりカバーガラス22に形成される。
【0039】
第2の実施形態の照明器具によれば、光色変化などがなく紫外線及び一部青色光を必要としない被照射物等の損傷防止や紙、布等の劣化防止、低誘虫用として最適な照明器具が得られる。
【0040】
(第3の実施形態)
図4(A),(B)は、本発明の第3の実施形態に係る高圧放電ランプの一例を示す。但し、図4(A)は高圧放電ランプの全体図、図4(B)は図4(A)の高圧放電ランプの一構成である弾性保持部材の平面図を示す。
【0041】
図中の符番31は高圧放電ランプとしてのメタルハライドランプであり、セラミック製の発光管32を備えている。この発光管32の周囲には、発光管32を保護する透明な保護管としての内管33が設けられている。この内管33には、発光管32と導通する給電手段としてのE形口金34が取り付けられている。内管33の周囲には、透光性の外管35が設けられている。外管35の下端部は、金属製の帯状のリング36によりセラミック製ホルダー37に固定されている。
【0042】
内管33の頂部には、排気チップとしての突起33aが設けられている。この突起33には、弾性保持部材45が取付けられている。弾性保持部材45は、円環板状の本体部の周縁の4箇所から下方に支持片45aが延出されており、これらの支持片45aの先端部が外管35の内面に弾性的に当接している。そして、前記弾性保持部材45が内管33の外面と外管35の内面との間に弾性的に挟持されていることにより、外管35の脱落が防止される。
【0043】
外管35の外面には、光カット膜38が形成されている。ここで、光カット膜38は、平均粒子径30〜100nmの球状六方晶α−Fe粒子と平均粒子径30〜100nmの多面体六方晶ZnO粒子とバインダーとして添加されるSi化合物からなる。Si化合物は、シリコーン樹脂又はその変性物からなる。
【0044】
発光管32は、発光部39と、この発光部39の軸方向に互いに反対方向に延出する細管部40a,40bとを備えて、内部に放電空間を形成している。発光部39は、上下に2分割された半球状の発光体を中央のラインLで接合して構成されている。発光管32内には、水銀(Hg)の他,金属ハロゲン化物及び始動ガスを含む放電媒体が封入されている。金属ハロゲン化物には、ナトリウム(Na),タリウム(Tl)のハロゲン化物とジスプロシウム(Dy),ホルミウム(Ho),ツリウム(Tm)およびリチウム(Li)のうち少なくとも一種のハロゲン化物が総封入量90重量%以上封入されている。
【0045】
この金属ハロゲン化物としては、沃化物系,臭化物系のハロゲン化物が好ましいが、塩化物やふっ化物であってもよい。金属ハロゲン化物の封入量は、5〜20mg、好ましくは8〜15mgであるが、この封入量は発光管32の形態により調整される。金属ハロゲン化物の封入質量比率の一例を以下に示す(但し、括弧内は質量百分率)。即ち、一例は、Na(20〜60)−Tl(5〜30)−Tm(30〜60)−Ho(0〜20)−Li(0〜20),Na(30〜50)−Tl(5〜20)−Dy(20〜50)−Ho(0〜20)−Li(0〜20)である。
【0046】
放電空間には、細管部40a,40bから導入された一対の電極(図示せず)が対向して配置されている。細管部40a,40bには、夫々先端部に各電極が接合された給電体41a,41bが配設され、ガラスフリット等で封着されている。給電体41a,41bには、夫々電力給電線42a,42bが電気的に接続されている。内管33内の口金側には、電力給電線42a,42bを封着するピンチシール部43が形成されている。
【0047】
光カット膜38は、次のようにして外管35の外面に形成する。まず、IPAなどを主成分とする溶剤にα−Fe,ZnOの粒子を分散させ、それにSi系バインダーを混合する。α−Fe,ZnOの粒子は波長400〜500nmの光の吸収効率が高く、分散性も優れていることから所望の光カット特性を備えた光学薄膜を形成するのに有利である。α−Fe,ZnOの分散量は、光カット膜38の450nm/550nmの透過率比が0.7〜0.9の範囲内で3200〜3700Kの色温度になるように調整する。次に、この溶液に外管35となるバルブを浸漬し、一定速度で引き上げ溶液を外管35に塗布し、乾燥させた後、150〜300℃で所定の時間熱処理を行って前記光カット膜38を形成する。
【0048】
第3の実施形態に係る高圧放電ランプによれば、外管35の外面に光カット膜38を形成した構成にすることにより、450nm/550nmの透過率比(=0.84)の場合、図5及び下記表2のようになった。本実施形態の高圧放電ランプは、ナトリウム(Na),タリウム(Tl)のハロゲン化物とともに希土類金属のハロゲン化物を組合わせた高効率と高演色の発光特性を有しており、これに光カット効果に優れた光カット膜を形成することによって色温度を所望に変化させて、高演色で色温度3200〜3700Kの放電ランプが得ることができる。なお、図5において、曲線aは比較例ランプ、曲線bは第3の実施形態の光カット膜付きランプの場合を示す。
【表2】

【0049】
この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、その実施の段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0050】
具体的には、第3の実施形態においては、光カット被膜を外管の外面に形成した場合について述べたが、発光管の外面に形成してもよいし、あるいは両方の外面に形成してもよい。なお、外管の外面に形成する場合は、光カット膜を形成する作業性の点で優れる。また、図4の高圧放電ランプを用いて図3のような照明器具を構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】図1は、本発明の第1の実施形態に係る高圧放電ランプの説明図である。
【図2】図2は、従来及び本発明の第2の実施形態の高圧放電ランプによる相対エネルギー分布と波長との関係を示す特性図である。
【図3】図3は、本発明の第2の実施形態に係る照明器具の説明図である。
【図4】図4は、本発明の第3の実施形態に係る高圧放電ランプの説明図である。
【図5】図5は、従来及び本発明の第3の実施形態の高圧放電ランプによる相対エネルギー分布と波長との関係を示す特性図である。
【符号の説明】
【0052】
1,31…高圧放電ランプ、2,32…発光管、3,33…保護管としての内管、4,38…光カット膜、5,39…発光部、6a,6b,40a,40b…細管部、7a,7b,41a,41b…給電体、8a,8b,42a,42b…電力給電線、9,43…ピンチシール部、11a,11b…端子、21…照明器具、22…前面カバーガラス、25…反射体、26…ソケット、45…弾性保持部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光管と;
この発光管を覆うように設けられた透光性の保護管と;
600nm以下の光を吸収しそれ以上を透過する金属複合酸化物からなる粒子を主体として、前記保護管の外面または内面に形成され,光学特性として波長450nmの光のカット率が20〜50%である光カット膜と;
を具備することを特徴とする高圧放電ランプ。
【請求項2】
前記金属酸化物からなる粒子が、Fe,Fe系複合酸化物のいずれか、あるいはその組成の一部を他の元素に置換したものであることを特徴とする請求項1記載の高圧放電ランプ。
【請求項3】
前記金属酸化物からなる粒子が、ZnOおよびFeを含むことを特徴とする請求項2記載の高圧放電ランプ。
【請求項4】
光カット膜の前記金属酸化物からなる粒子が、平均粒子径30〜100nmの球状六方晶α−Fe粒子および平均粒子径30〜100nmの多面体六方晶ZnO粒子を含んでなることを特徴とする請求項1記載の高圧放電ランプ。
【請求項5】
前記光カット膜の450nm/550nmの透過率比が0.7〜0.9の範囲内であることを特徴とする請求項4記載の高圧放電ランプ。
【請求項6】
前記金属酸化物からなる粒子が、Ti−Sb−Cr−O,Zr−V−O,Sn−V−O,Ti−Sb−Cr−Oのいずれか、あるいはその組成の一部を他の元素に置換した金属複合酸化物粒子であることを特徴とする請求項1記載の高圧放電ランプ。
【請求項7】
前記光カット膜は、インジウムがドープされた酸化亜鉛粒子が添加されていることを特徴とする請求項1乃至6いずれか一記載の高圧放電ランプ。
【請求項8】
前記光カット膜の膜厚が0.3μm〜2μmであり、前記インジウムがドープされた酸化亜鉛粒子の平均粒径が50nm〜500nmであることを特徴とする請求項7記載の高圧放電ランプ。
【請求項9】
発光管にはナトリウム(Na)およびタリウム(Tl)のハロゲン化物とジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、ツリウム(Tm)及びリチウム(Li)のうち少なくとも一種のハロゲン化物とが金属ハロゲン化物の総封入量比で90質量%以上封入されていることを特徴とする請求項1乃至8いずれか一記載の高圧放電ランプ。
【請求項10】
器具本体と;
この器具本体に配設された請求項1乃至9いずれか一記載の高圧放電ランプと;
この高圧放電ランプを点灯させる点灯回路手段と;
を具備することを特徴とする照明器具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−152171(P2009−152171A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−165017(P2008−165017)
【出願日】平成20年6月24日(2008.6.24)
【出願人】(000003757)東芝ライテック株式会社 (2,710)
【Fターム(参考)】