説明

高外観磁性体組成物及びその成形体

【課題】外観が極めて良好であり、機械的強度、剛性、表面硬度、寸法安定性、耐加水分解性、耐薬品性、磁気特性に優れる成形体を成形することが可能な複合材料組成物を提供する。
【解決手段】(A)極限粘度[η]が、0.6dl/g以上2.0dl/g以下であるポリトリメチレンテレフタレート樹脂100重量部と、(B)磁性体100〜9900重量部と、(C)結晶核剤0〜50重量部とを含有する複合材料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外観に優れた磁性を有する成形体を成形することが可能な熱可塑性樹脂先端複合材料組成物、及び該複合材料組成物を成形してなる磁性を有する成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂成形体は、成形性、外観、軽量性、機械的特性、リサイクル性等に優れるために多くの工業部品、電気・電子部品、自動車部品、住設部品等に使用されている。しかしながら、金属材料やセラミックス材料に比べて剛性、表面硬度等が劣る場合があり、それらを補うために熱可塑性樹脂材料に無機材料を充填してそれらを強化した材料、成形体も多く提案され製造されてきた。また、一般に熱可塑性樹脂は非磁性体、絶縁体であるため、磁気特性、導電性を付与するために磁性体や導電材料を無機充填材として添加することによって、熱可塑性本来の成形性を生かしつつ、熱可塑性樹脂単体では得ることが困難であった機能を有する複合材料の提案も多くされてきた。
【0003】
特に近年、高耐熱性や高耐湿性の観点からさまざまな提案がなされている。高耐熱性を得るために、バインダーとしてポリフェニレンエーテル、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルイミド及びポリアリレートのような高耐熱エンジニアリングとシアン酸エステル化合物をバインダー樹脂に用い希土類合金粉末と配合した材料を用いたプラスチックマグネットが提案されている(特許文献1)。また、寸法精度、耐熱性、耐湿性をあげるためにポリフタルアミド樹脂を用いた磁石の提案(特許文献2)や、熱可塑性ノルボルネン系樹脂とそれ以外の熱可塑性樹脂と磁性体を用いた磁性体の提案(特許文献3)もなされている。更にナイロンと磁性体からなる磁性体粉末組成物の提案(特許文献4)や流動性良好なポリアミドと磁性粉末による樹脂組成物の提案(特許文献5)がなされている。
【0004】
しかしながら、無機材料を充填した場合に無機充填材の含有量が多くなると混練が困難となり、特に生産性の高い押出機を用いてコンパウンドしたのでは、上手くストランドがひけないといった問題もしばしば発生していた。
【0005】
しかも、複合材料組成物が出来ても、それを用いた射出成形品においては、充填材料が熱可塑性樹脂成形体の表面に暴露して、外観を損なうといった問題もしばしば発生している。また、暴露した無機材料が金属材料である場合、腐食によって、複合材料の特性や外観を損なうといった問題も抱えていた。更に、吸湿性の高い熱可塑性樹脂に金属材料を充填した場合に、金属材料が成形品表面に暴露しなくても腐食するといった問題も発生していた。
【0006】
従って、外観部品にこれらの複合材料を使用する場合、外観不良を補うために塗装を施したり、成形品の上に外皮をかぶせる等、手間のかかる課題が生じていた。
【0007】
【特許文献1】特開平8−138929号公報
【特許文献2】特開2003−297620号公報
【特許文献3】特開平10−77381号公報
【特許文献4】特開昭60−156751号公報
【特許文献5】特開2005−162802号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、外観が極めて良好であり、機械的強度、剛性、表面硬度、寸法安定性、耐加水分解性、耐薬品性、磁気特性に優れる成形体を成形することが可能な複合材料組成物、および該複合材料組成物を成形してなる複合材料成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前期課題を解決する成形体を見出し本発明に至った。
【0010】
すなわち本発明の複合材料組成物は、(A)極限粘度[η]が、0.6dl/g以上、2.0dl/g以下であるポリトリメチレンテレフタレート樹脂100重量部と、(B)磁性体100〜9900重量部と、(C)結晶核剤0〜15重量部とを含有することを特徴とする。
【0011】
本発明の複合材料組成物においては、前記(B)磁性体の少なくとも1種類がフェライト系磁性体または希土類系磁性体であることが好ましい。
【0012】
また、本発明の複合材料成形体は、上記記載の複合材料組成物を成形してなることを特徴とする。
【0013】
本発明の複合材料成形体においては、前記複合材料成形体が磁石であること、前記複合材料成形体表面の95%以上が樹脂で覆われていることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の複合材料組成物は、表面への磁性体材料の暴露が少なく良外観であり、機械的強度、剛性、表面硬度、寸法安定性、耐加水分解性、耐薬品性、耐腐食性に優れる、磁気特性良好な磁石等の磁性を有する成形体を成形することができる。
【0015】
従って、本発明の複合材料成形体は、TV部品、VTR・CD・DVD・HDD・ラジオ部品、オーディオ部品、スピーカー部品、冷蔵庫部品、洗濯機部品、ファクシミリ部品、電話機部品、携帯電話機部品、電卓部品、各種オーディオプレーヤー部品、モーター部品等の家電製品分野に使用される磁石や、パソコン部品、デジカメ部品、プリンター部品、ハードディスクドライブ部品、複写機部品等のOA・電子機器部品分野、電装部品、計測機器部品等の自動車部品分野、センサー部品、測定機器部品等の精密部品分野、ロボット部品、輸送装置部品等の工業部品分野、ゲーム機器部品、パチンコ台部品等の娯楽機器分野、その他、医療機器分野、OAタグ分野、住設部品分野、農業機器分野、漁業機器分野等幅広い用途に使用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明について、以下具体的に説明する。
【0017】
<(A)ポリトリメチレンテレフタレート樹脂>
本発明の(A)ポリトリメチレンテレフタレート樹脂(以下、「PTT樹脂」と略称することがある。)とは、酸成分としてテレフタル酸を用い、グリコール成分としてトリメチレングリコールを用いたポリエステルポリマーを示している。
【0018】
ここで、トリメチレングリコールとしては、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,1−プロパンジオール、2,2−プロパンジオール、あるいはこれらの混合物のなかから選ばれるが、安定性の観点から1,3−プロパンジオールが特に好ましい。
【0019】
このほかに、本発明の目的を損なわない範囲で、酸成分として、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸、例えばフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルメタンジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、ジフェニルスルフォンジカルボン酸等;コハク酸、アジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸;ε−オキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシエトキシ安息香酸等のオキシジカルボン酸を用い、グリコール成分として、エチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、キシリレングリコール、ジエチレングリコール、ポリオキシアルキレングリコール、ハイドロキノン等を一部用いて共重合することができる。
【0020】
共重合する場合の共重合成分の量は、本発明の目的を損なわない範囲であれば特に制限はないが、通常、全酸成分の20モル%以下、あるいは全グリコール成分の20モル%以下であることが望ましい。
【0021】
また、上述のポリエステル成分に分岐成分、例えばトリカルバリル酸、トリメシン酸、トリメリット酸等の三官能または四官能基のエステル形成能を持つ酸、またはグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリット等の三官能または四官能のエステル形成能を持つアルコールを共重合してもよく、その場合、これらの分岐成分の量は全酸成分、または全グリコール成分の1.0モル%以下、好ましくは、0.5モル%以下、更に好ましくは、0.3モル%以下である。
【0022】
更に、PTTはこれら共重合成分を2種類以上組み合わせて使用しても構わない。
【0023】
本発明に用いられるPTTの製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、特開昭51−140992号公報、特開平5−262862号公報、特開平8−311177号公報等に記載されている方法に従って得ることができる。
【0024】
例えば、テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体(例えばジメチルエステル、モノメチルエステル等の低級アルキルエステル)とトリメチレングリコールまたはそのエステル形成性誘導体とを、触媒の存在下、好適な温度・時間で加熱反応させ、更に得られるテレフタル酸のグリコールエステルを触媒の存在下、好適な温度・時間で所望の重合度まで重縮合反応させる方法が挙げられる。
【0025】
重合方法についても特に限定されず、溶融重合、界面重合、溶液重合、塊状重合、固相重合、及びこれらを組み合わせた方法を利用することができる。
【0026】
本発明のポリトリメチレンテレフタレート樹脂は、その極限粘度[η]が0.60dl/g以上であることが機械的特性、特に靭性面から好ましく、[η]が0.68dl/g以上であることがより好ましく、さらに成形性、特にバリ特性から[η]が0.75dl/g以上であることが最も好ましい。また流動性・成形性の面から外観に優れた成形体を得るには[η]が、2.0dl/g以下が好ましく、より好ましくは1.6dl/g以下である。
【0027】
上記記載のPTT樹脂の極限粘度[η]は、次の定義式に基づいて求められた。
[η]=lim(1/C)×(ηr−1) C→0
【0028】
定義式のηrは、純度98%以上のo−クロロフェノールで溶解したポリトリメチレンテレフタレートの希釈溶液の35℃での粘度を同一温度で測定した上記溶媒自体の粘度でわった値で相対粘度と定義されているものである。またCは、上記溶液100ml中のグラム単位による溶質重量値である。
【0029】
<(B)磁性体>
次に本発明の(B)磁性体について説明する。
【0030】
磁性体としては、プラスチック磁石に使用される磁性体であれば、いずれでも使用することができる。例えば、ストロンチウムフェライトやバリウムフェライトなどのフェライト系や、希土類−遷移金属系等の希土類系、アルミニウム−ニッケル−コバルト合金のようなアルニコ系、鉄−ネオジウム−ホウ素等やこれにDy(ディスプロシウム)やCoやMoを添加したものも用いることが出来る。これらのうちでも、フェライト系、希土類系が好ましい。
【0031】
フェライト系としては、一般にMO・6Fe23(MはCa、Ba、Sr、Mg、Zn、Pbのうちの1種類または、2種類以上)で表されるもので、Ni−Zn系フェライト、Mg−Zn系フェライト、Mn−Zn系フェライトのようなソフトフェライトでも良い。
【0032】
希土類−遷移金属系としては、SmCo系、SmFeN系、NbFeB系などが用いられる。具体例としては、希土類−鉄−窒素系が使用でき、希土類としては、前述のSm以外にもGd、TbまたはCe等が挙げられ、それらのうち、少なくとも一種類、更にPr、Nd、Dy、Ho、Er、Tm,またはYbのうち一種類以上を含むものが好ましい。遷移金属としては、Fe、Co、Ni、Mnが一般に用いられる。更にR−Fe−B系合金等も用いることが出来る。また、Sm−Nd系合金も使用することができる。
【0033】
磁性体の形状としては、粉体形状が好ましく、好ましい粒径は、0.1〜100μm、更に好ましくは、0.5〜20μm、最も好ましくは0.5〜3μmである。
【0034】
本発明における磁性体の添加量としては、PTT樹脂100重量部に対して、100〜9900重量部であり、この様な高濃度においてこれまでになかった複合材料組成物、複合材料成形体を提供することができる。特に磁性体1000重量部以上、更には2500部重量以上の高充填領域において本発明の特性をより効果的に生かすことが出来る。
【0035】
即ち、これまでの熱可塑性樹脂と磁性体との組み合わせでは容易に高品質の高濃度充填材料組成物を得る事が困難であった。例えば、熱可塑性樹脂にPTT樹脂と同様のポリエステル系樹脂であるPBT樹脂や、ポリアミド樹脂を用いて複合材料組成物を作成しようとしたときに高充填領域では、ペレット作成のための押出成形のときにストランドが上手く形成できないといった問題や押出機のトルクが上がって成形できない、スクリュ磨耗が激しいといった、分散性良好な複合材料組成物を量産性良く作成できないといった課題があった。
【0036】
しかしながら、驚くべきことにPTT樹脂を用いることにより、より高濃度充填領域まで磁性材料をコンパウンドしてペレット形状にすることが可能であると同時に分散性の良い複合材料組成物が作成できることを見出し本発明に至った。更に本発明の高濃度充填材入り複合材料組成物を用いた成形体は、外観良好で、品質、機械的特性に優れたものである事を見出し、本発明に至った次第である。高濃度の磁性体を充填できることにより、より磁気特性の高い複合材料成形体を作成することが出来る。
【0037】
<(C)結晶核剤>
本発明では、PTT樹脂の結晶化速度を制御するために(C)結晶核剤を入れても良い。
【0038】
即ち、本発明の複合材料組成物は、DSCを用いて溶融状態から降温させた時の結晶化温度が170〜190℃であることが、成形体の生産性及び熱収縮率を抑制する観点から好ましく、175〜185℃であることが更に好ましい。結晶化温度はDSCを用いて、室温から270℃まで20℃/分の設定昇温速度にて昇温し、270℃で3分保持した後、20℃/分で0℃まで降温させた際に現れる発熱ピーク温度を指標として求めることができる。
【0039】
このようなPTT樹脂の結晶化は、成形体を製造する際の条件を適切に調整することで達成できるが、組成物中に結晶核剤を含むことで更に容易に達成することができるようになる。結晶核剤の含有量は、PTT樹脂100重量部に対して0〜50重量部であり、結晶核剤の種類により好ましい量は決まる。
【0040】
本発明に用いられる(C)結晶核剤は、PTT樹脂の結晶化速度をコントロールできる化合物であれば特に制限ないが、具体例としてはタルクやアルカリ金属無機塩等が挙げられる。アルカリ金属無機塩の具体的な例としてはモンタン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸1水素2ナトリウム、リン酸3ナトリウム、リン酸2水素ナトリウムが挙げられる。これらの含有量としてはPTT樹脂100重量部に対して0.001〜1重量部であることが好ましく、0.1〜0.6重量部であることがより好ましい。
【0041】
この他の結晶核剤としてはアイオノマー樹脂も好ましい。アイオノマー樹脂とは、α−オレフィンと炭素原子数3〜8のα,β−不飽和カルボン酸とを主たる構成成分とするコポリマーを、1〜3価の金属イオンで中和したものである。α−オレフィンの具体例としては、エチレン、プロピレン、ブテン−1などが挙げられるが、この中でも、特にエチレンが好ましい。炭素原子数3〜8のα,β−不飽和カルボン酸の具体例としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸等が挙げられるが、この中でも、アクリル酸、メタクリル酸が用いられる。アイオノマー樹脂の含有量としては、PTT樹脂100重量部に対して0.1〜18重量部であることが好ましく、0.3〜6重量部であることがより好ましい。
【0042】
また、PTT以外のポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなども結晶核剤としての効果を発揮する。これらの含有量としては、PTT樹脂100重量部に対して1〜43重量部であることが好ましく、2〜34重量部であることがより好ましく、5〜25重量部であることが更に好ましい。
【0043】
さらに、エポキシ価が0.1〜10meq/gのエポキシ基を含有するスチレン共重合体も、結晶核剤として好ましい。ここでスチレン共重合体は、エポキシ基を有するビニル単量体とスチレンとを共重合させて得られる。エポキシ基を有するビニル単量体としては、(メタ)アクリル酸グリシジルやシクロヘキセンオキシド構造を有する(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アリルグリシジルエーテル等が挙げられ、好ましくは(メタ)アクリル酸グリシジルである。これらの含有量としては、PTT樹脂100重量部に対して0.01〜15重量部であることが好ましく、0.1〜5重量部であることがより好ましく、0.3〜3重量部であることが更に好ましい。
【0044】
また、本発明で使用する(B)磁性体を結晶核剤として用いることも可能であり、所望の効果が得ることができれば、磁性体以外に結晶核剤を用いる必要はない。この場合、(B)磁性体の含有量は、磁性体として必要とされる(A)PTT樹脂100重量部に対して、(C)磁性体100〜9900重量部の範囲内で選択され、(C)結晶核剤としての含有量0〜50重量部に制限されない。
【0045】
<その他の成分>
本発明では、(A)PTT樹脂以外の熱可塑性樹脂を混合して用いても良い。熱可塑性樹脂の具体例としては、例えばポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリオキシメチレン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、エチレン/プロピレン/非共役ジエン樹脂、エチレン/アクリル酸エチル樹脂、エチレン/メタクリル酸グリシジル樹脂、エチレン/酢酸ビニル/メタクリル酸グリシジル樹脂、エチレン/酢酸ビニル/メタクリル酸グリシジル樹脂、エチレン/プロピレン−g−無水マレイン酸樹脂、スチレン系樹脂あるいはこれら熱可塑性樹脂の2種類以上の混合物が挙げられる。
【0046】
中でも機械的特性の観点からポリカーボネート樹脂が最も好ましい。
【0047】
ポリカーボネート樹脂は二価フェノールとカーボネート前駆体から溶融法または溶液法によって製造される。即ち、塩化メチレン等の溶剤中で公知の酸受容体、分子量調整剤の存在下、二価フェノールとホスゲンのようなカーボネート前駆体との反応、または二価フェノールとジフェニルカーボネートのようなカルボネート前駆体とのエステル交換反応等によって製造することができる。
【0048】
ここで好ましい二価フェノールとしてはビスフェノール類が挙げられ、特に2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、即ちビスフェノールAが好ましい。また、フェノールAの一部または全部を二価フェノールで置換したものであっても良い。ビスフェノールA以外の二価フェノールとしては、例えばハイドロキノン、4,4−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテルのような化合物を挙げることができる。これらの二価フェノールは、二価フェノールのホモポリマーまたは二種類以上のコポリマーであっても良い。
【0049】
また、カーボネート前駆体としては、カルボニルハライド、カルボニルエステル等が挙げられるが、ホスゲン、ジフェニルカーボネート、及びこれらの混合物が好ましく用いられる。また、本発明に用いられるポリカーボネート樹脂の重量平均分子量(MW)は、5000から200000の範囲が好ましく、より好ましくは15000〜40000である。
【0050】
ポリアミド樹脂としては特に制限は無く公知のポリアミド樹脂あるいはそれらの2種類以上の混合物を用いることができる。特に好適なポリアミド樹脂としては、ポリカプロラクタム(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン6,6)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)あるいはこれらのうち少なくとも2種の異なったポリアミドを含むポリアミド共重合体である。
【0051】
スチレン系樹脂としては、ポリスチレン樹脂、ゴム変性ポリスチレン樹脂、AS樹脂、ABS樹脂あるいはそれらの混合物などが挙げられる。
【0052】
熱可塑性樹脂の配合量は、外観と表面硬度の観点から(A)ポリトリメチレンテレフタレート樹脂の配合量を超えないことが好ましい。より好ましくはPTT樹脂100重量部に対して0〜100重量部であり、0〜50重量部であることが更に好ましい。
【0053】
本発明では、更に必要に応じて熱硬化性樹脂を充填しても良い。具体的には、エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0054】
ここでエポキシ樹脂とは、分子中にエポキシ樹脂(オキシラン環)を2個以上持つ熱硬化性の化合物を示す。具体的には、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの縮重合反応により製造されるいわゆるビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、レゾルシン型エポキシ樹脂、フェノールノボラックや線状高分子量クレゾールノボラックをグリシジル化した多官能エポキシであるノボラック型エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂、ポリグリシジルアミン型エポキシ等が挙げられる。
【0055】
本発明で用いられるエポキシ樹脂としては、耐薬品と樹脂への分散の観点からエポキシ当量150〜280(/eq.)のノボラック型エポキシ樹脂、またはエポキシ当量600〜3000(/eq.)のビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましく用いられる。より好ましくはエポキシ当量180〜250(/eq.)で分子量1000〜6000のノボラック型エポキシ樹脂、またはエポキシ当量600〜3000(/eq.)で分子量1200〜6000のビスフェノールA型エポキシ樹脂である。エポキシ当量、分子量が小さすぎると充分な耐薬品性が得られず、大きすぎると充分な樹脂への分散性が得られず均一な組成物が得にくい。
【0056】
熱硬化性樹脂の配合量は、機械的特性、表面硬度、耐薬品性と流動性低下防止の観点から、好ましくはPTT樹脂100重量部に対して0.1〜25重量部であり、0.3〜10重量部であることがより好ましい。
【0057】
本発明では、必要に応じて、無機充填材を混合しても良い。
【0058】
繊維状無機充填材としては、カーボン繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、チッ化ホウ素繊維、チッ化珪素繊維、ホウ素繊維、チタン酸カリウムウイスカー、炭酸カルシウムウイスカー、ウォラストナイト、さらにステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の無機質繊維状物質が挙げられる。
【0059】
繊維状無機充填材の平均繊維長(L)、平均繊維径(D)、アスペクト比(L/D)については特に限定されないが、機械的特性の点から、平均繊維長が50μm以上、平均繊維径は5μm以上、アスペクト比は10以上であることが好ましい。また炭素繊維は、平均繊維長が100〜750μm数平均繊維径が3〜30μm、アスペクト比が10〜100であるものが好ましく用いられる。さらにウォラストナイトは、平均繊維径が3〜30μm、平均繊維長が10〜500μm、アスペクト比が3〜100のものが好ましく用いられる。
【0060】
粉粒状無機充填材としてはカーボンブラック、シリカ、石英粉末、ホウ酸カルシウム、珪酸アルミニウム、カリオン、クレー、珪藻土等の珪酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ等の金属の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の金属の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の金属の硫酸塩、その他、炭化珪素、チッ化珪素、チッ化ホウ素、各種金属粉末が挙げられる。
【0061】
又、板状無機充填材としてはマイカ、各種の金属箔等が挙げられる。なお、マイカ、カオリン、炭酸カルシウム、チタン酸カリウムは平均粒径が0.1〜100μmのものが好ましく用いられる。
【0062】
本発明の複合材料組成物には、各種用途及び目的に応じて、その他の成分を適宜配合することが出来る。成形性改良材としては、リン酸エステル類、亜リン酸エステル類、高級脂肪酸類、高級脂肪酸金属塩類、高級脂肪酸エステル類、高級脂肪酸アミド化合物類、ポリアルキレングリコールあるいはその末端変性物類、低分子量ポリエチレンあるいは酸化低分子量ポリエチレン類、置換ベンジリデンソウビート類、ポリシロキサン類、カプロラクトン類が挙げられる。
【0063】
また、本発明の複合材料組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、通常使用される難燃剤、紫外線吸収剤、耐熱安定剤、酸化防止剤、可塑剤、着色剤、整色材、帯電防止剤、蛍光増白材、艶消し材、衝撃強度改良剤等の添加剤を配合することもできる。
【0064】
<製法>
(A)ポリトリメチレンテレフタレート樹脂と(B)磁性体、必要に応じて添加する(C)結晶核剤とのコンパウンド方法は特に限定されないが、一般に用いられるロール、ニーダー、バンバリーミキサー、短軸押出機、二軸押出機等を用いて行うことができる。押出し機で混練する際には、予めヘンシェルミキサー等を用いて予備ブレンドしておいてもよい。その際、PTT樹脂は、ペレット状でも良いが粉体である方が均一なブレンドを達成するには好ましい。また、均一混練を生産性良く行うためには、二軸押出機が適している。二軸押出機を用いる場合には、各材料をヘンシェルミキサー等で予め混合しておいても良いが、押出機のサイドフィーダーから、磁性体を投入しても良い。この場合は、PTT樹脂は粉体でもペレット形状のいずれでも構わない。
【0065】
<複合材料成形体>
本発明における複合材料成形体は、上記本発明の複合材料組成物を成形してなり、好ましくは実質的に成形体表面が樹脂で覆われた外観良好な成形体であって、より好ましくは、成形体表面の95%以上が樹脂で覆われた成形体である。このように磁性体の成形体表面への暴露が少ないことによって、外観特性に優れると同時に磁性体の成形体表面への暴露による大気との接触による腐食、劣化の危険性も低減することが出来る。
【0066】
成形方法としては、通常の熱可塑性樹脂の成形法であれば特に制限はないが、外観良好な成形体を得るには、射出成形法が好ましい。更に樹脂温度、射出圧力、射出速度、金型温度等の射出成形条件は、成形体表面状態を決定するのに重要であり、その中でも金型温度を90℃〜110℃の範囲で制御することが最も重要である。
【0067】
本発明の複合材料成形体はプラスチック磁石として好適であるが、本発明におけるプラスチック磁石とは、磁性材料が一定の配向をもつ異方性マグネットや磁性材料がランダムに配列した等方性マグネット等が挙げられる。
【実施例】
【0068】
<実施例1>
(A)PTT樹脂(極限粘度[η]1.0dl/g)100重量部と(B)磁性体としてのストロンチウムフェライト系磁性粉末(平均粒径1.25μm、圧縮密度3.35g/cm3)1000重量部を予めヘンシェルミキサーを用いて予備ブレンドし、これを二軸押出機にて混練して、ペレットを作成した。コンパウンドは、連続的なストランドが形成でき、ペレタイズ可能であった。
【0069】
得られたペレットを用いて射出成形にて磁石を作成した。射出成形は、金型温度100℃、シリンダ温度275℃の成形条件にて行った。
【0070】
得られた成形体の磁気特性として、最大エネルギー積(BH)maxをJIS C2501に準じて測定したところ、17kJ/m3であった。また、得られた成形体は、磁気特性に優れた磁性粉体の表面への暴露の少ない外観に優れたものであった。
【0071】
<実施例2>
実施例1で用いたPTT樹脂100重量部、実施例1で用いたストロンチウムフェライト系磁性粉末1900重量部、ポリカーボネート(MFR10(300℃、1.2kg荷重))5重量部を用いた以外は実施例1と同様にしてペレットを作成した。コンパウンドは、連続的なストランドが形成でき、ペレタイズ可能であった。
【0072】
得られたペレットを用い、実施例1と同様にして磁石を作成し、最大エネルギー積(BH)maxを測定したところ、20kJ/m3であった。また、得られた成形体は、磁気特性に優れた磁性粉体の表面への暴露の少ない外観に優れたものであった。
【0073】
<比較例1>
(A)PTT樹脂に替えてポリブチレンテレフタレート(ポリプラスチックス(株)製、ジュラネックス2002)を用いた以外は実施例1と同様にしてペレット作成を試みたが、ストランドが上手く引けず複合材料組成物を作成できなかった。
【0074】
<比較例2>
(A)PTT樹脂に替えて比較例1で用いたポリブチレンテレフタレートを用いた以外は実施例2と同様にしてペレット作成を試みたが、押出機ダイの出口で磁性粉体と樹脂が分離して出てき、コンパウンド困難で、複合材料組成物を作成できなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)極限粘度[η]が、0.6dl/g以上2.0dl/g以下であるポリトリメチレンテレフタレート樹脂100重量部と、(B)磁性体100〜9900重量部と、(C)結晶核剤0〜50重量部とを含有することを特徴とする複合材料組成物。
【請求項2】
前記(B)磁性体の少なくとも1種類がフェライト系磁性体または希土類系磁性体であることを特徴とする請求項1に記載の複合材料組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の複合材料組成物を成形してなることを特徴とする複合材料成形体。
【請求項4】
前記複合材料成形体が磁石であることを特徴とする請求項3に記載の複合材料成形体。
【請求項5】
前記複合材料成形体表面の95%以上が樹脂で覆われていることを特徴とする請求項3または4に記載の複合材料成形体。

【公開番号】特開2007−217565(P2007−217565A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−40117(P2006−40117)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】