説明

高密度リポ蛋白コレステロールの測定方法

【課題】血液などの体液試料中の高密度リポ蛋白コレステロール(HDL-C)を簡便かつ迅速に測定する方法を提供する。
【解決手段】 体液試料中の高密度リポ蛋白コレステロールの測定方法であって、多環ポリグリシドール化合物、例えば下記の一般式(I):


(式中、LはC1-C5アルキレン基を示し、Rはアリール基(該アリール基はC1-C18アルキル基、C1-C18アルコキシ基、又はハロゲン原子からなる群から選ばれる1又は2以上の置換基を有していてもよい)を示し、mは1〜5の整数を示し、nは3〜20の整数を示す)で表されるポリグリシドール化合物を高密度リポ蛋白選択的界面活性剤として用いる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体中の高密度リポ蛋白コレステロール(HDL-C)を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液中に存在する脂質は、遊離脂肪酸がアルブミンと結合している以外はリポ蛋白の構造の中に組み込まれており、カイロミクロン(CHM)、超低密度リポ蛋白(VLDL)、低密度リポ蛋白(LDL)、高密度リポ蛋白(HDL)等として存在している。コレステロールは特にVLDL、LDL、及びHDLに分布しているが、HDLは動脈硬化による心疾患の予防因子とされていることから、HDLの代わりに高密度リポ蛋白コレステロール(HDL-C)の血中レベルを測定することが動脈硬化疾患の発症予知に有用な指標となることが知られている。
【0003】
現在、HDLコレステロールの測定方法としては、超遠心法、電気泳動法、及び沈澱法が広く知られているが、超遠心法は分離操作に長時間が必要であり、また機器そのものが高価で安価な測定が望めない点など日常検査には不向きであり、電気泳動法は電気泳動支持媒体の違いにより分離能が異なり使用条件や使用される検出試薬によって差異が生じるなど、定量面で問題が残っている。
【0004】
沈澱法は沈澱試薬としてポリアニオンと2価金属イオンとの組合せ等を用いてCHM、LDL、及びVLDLを沈澱させ、上澄中に残るHDL中のコレステロール、すなわちHDL-コレステロールを化学試薬又は酵素を使用して測定する方法である。沈澱試薬としては、1960年代初めより周知の硫酸多糖類―アルカリ土類金属イオン又はアルカリ土類以外の2価金属イオンの組合せ系、無機ポリアニオン塩系、ポリエチレングリコール等が広く利用されている(中井継彦著、HDL−代謝・測定・臨床(HDL−Metabolism. Assay Methods and Clinical Application)、中外医学社、1986年)。沈澱試薬の具体例としては、例えば、ヘパリン−カルシウム系試薬、デキストラン硫酸−マグネシウム系試薬、燐タングステン酸−マグネシウム系試薬等がある。
【0005】
これらの沈澱法では、血清と沈澱試薬とを混合して一定時間放置し、約3000回転/分にて遠心分離させた後、上澄部分を一定量分別し、化学反応又は酵素反応を行いHDL−コレステロールを定量するが、この方法は沈澱試薬に起因する問題や遠心分離操作における問題などを有している。例えば、沈澱効率を高めるための沈澱剤の改良として、特開昭55-78254号公報、特開昭55-93065号公報、特開昭61-263467号公報、特開昭62-19768号公報、特公平1-39553号公報等に記載された方法が提案されている。
【0006】
従来の沈澱法では、トリグリセリドが多い試薬の場合に遠心分離後に沈殿物が一部浮遊することが知られており、この問題を回避するために遠心条件の調整などが必要になるという問題も有している。また、燐タングステン酸塩マグネシウムイオンを用いる方法では、溶液のpHにより沈澱生成にバラつきが生じることがあり、pHの厳密な調整などが必要になるという問題点もある。さらに、遠心分離液の上澄液を分別する際に、特に液量が少ない場合は、沈澱物の境界領域が目視で判断しにくいため再現性や精度上の問題が発生したり、個人差が発生して定量分析精度が低下する場合がある。従って、これらの遠心操作に伴う欠点を改善する手段の提供が求められている。
【0007】
近年、これらの煩雑な操作法が不要で、自動分析装置において使用可能なダイレクト法が急速に普及してきた。例えば、特開平8-131197号公報には、凝集剤として硫酸化シクロデキストリンを用いて、HDL以外のリポ蛋白と十分に反応させた後に、ポリオキシエチレングリコールで修飾した酵素を作用させて、HDL中のコレステロールを測定する方法が開示されている。国際公開WO98/26090には、第一工程でHDL以外のリポ蛋白をカタラーゼで消去し、第二工程でHDLに特異的に作用する活性剤を用いてHDL-Cを測定する方法が開示されている。特開平9-96637号公報には、初めにHDL以外のリポ蛋白に対する抗体を作用させ、ついでHDLを溶解してHDL中のコレステロールを測定する方法が記載されている。特開平11-56395号公報にはHDL溶解性界面活性剤とHDL以外のリポ蛋白溶解阻害剤とを組み合わせることで、HDL中のコレステロールを測定する方法が記載されている。国際公開WO04/48605には多環型ポリオキシアルキレン誘導体を用いて特定リポ蛋白中の脂質測定法が記載されている。しかしながら、これらの方法では、HDL以外のリポ蛋白からの反応を抑えるために、PEGで修飾した酵素や抗体など、高価な試薬類を用いる必要があった。
【0008】
ドライケミストリーの分野においても沈殿法が主として用いられているが、近年、ダイレクト法を利用したドライ式の新しい試験片が開発された(特許第3686326号)。特開2005-137360号公報には、カンジダ・ルゴサ由来のリパーゼを使用することで選択性が向上することが記載されている。しかしいずれの試験片においても、HDL以外のリポ蛋白中のコレステロールを完全に除去することはできていない。
【非特許文献1】中井継彦著、HDL−代謝・測定・臨床(HDL−Metabolism. Assay Methods and Clinical Application)、中外医学社、1986年発行
【特許文献1】特開昭55-78254号公報
【特許文献2】特開昭55-93065号公報
【特許文献3】特開昭61-263467号公報
【特許文献4】特開昭62-19768号公報
【特許文献5】特公平1-39553号公報
【特許文献6】特開平8-131197号公報
【特許文献7】国際公開WO98/26090
【特許文献8】特開平9-96637号公報
【特許文献9】特開平11-56395号公報
【特許文献10】特許第3686326号
【特許文献11】特開2005-137360号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、血液などの体液試料中の高密度リポ蛋白コレステロール(HDL-C)を簡便かつ迅速に測定する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するためには、HDLを選択的に可溶化する界面活性剤の提供が求められる。そこで本発明者らは界面活性剤について鋭意研究を行った結果、従来提供されているポリオキシエチレン系界面活性剤ではなく、多環ポリグリシドール化合物を界面活性剤として用いることにより、HDLを選択的に可溶化できることを見いだし、この界面活性剤を用いることによりHDL中のコレステロールを効率的かつ精度よく測定できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成されたものである。
【0011】
すなわち、本発明により、体液試料中の高密度リポ蛋白コレステロール(HDL-C)の測定方法であって、多環ポリグリシドール化合物を高密度リポ蛋白(HDL)選択的界面活性剤として用いる方法が提供される。多環ポリグリシドール化合物としては、下記の一般式(I):
【化1】

(式中、LはC1-C5アルキレン基を示し、Rはアリール基(該アリール基はC1-C18アルキル基、C1-C18アルコキシ基、又はハロゲン原子からなる群から選ばれる1又は2以上の置換基を有していてもよい)を示し、mは1〜5の整数を示し(mが2以上の整数を示す場合には、R-L-で表される基はそれぞれ同一でも異なっていてもよい)、nは3〜20の整数を示す)で表されるポリグリシドール化合物が好ましい。
【0012】
上記発明の好ましい態様として、上記多環ポリグリシドール化合物に加えて、HDL以外のリポ蛋白の溶解を阻害する界面活性剤、及び/又はHDL以外のリポ蛋白を凝集させる凝集剤を用いる上記の方法;HDL以外のリポ蛋白の溶解を阻害する界面活性剤が、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、又はポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン縮合体である上記の方法;HDL以外のリポ蛋白を凝集させる凝集剤が、リンタングステン酸又はその塩と2価の金属イオン、デキストラン硫酸と2価の金属イオン、ヘパリンと2価の金属イオン、又はポリオキシエチレンである上記の方法が提供される。
【0013】
また、上記発明の別の好ましい態様として、コレステロールエステラーゼ及びコレステロールオキシダーゼによりHDL-Cから生成した過酸化水素にペルオキシダーゼと色原体を作用させて発色反応を行うことによりHDL-Cを測定する上記の方法;色原体として、4-アミノアンチピリン又はその誘導体、並びに前記4-アミノアンチピリン又はその誘導体とカップリングするトリンダー試薬、又はロイコ色素を用いる上記の方法;水不透過性支持体の上に少なくとも接着層及び多孔性展開層を有する乾式分析素子を用いてHDL-Cを測定する上記の方法が提供される。
別の観点からは、高密度リポ蛋白コレステロール測定用キットであって、高密度リポ蛋白選択的界面活性剤である多環ポリグリシドール化合物と、コレステロールエステラーゼ、コレステロールオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、及び色原体からなる群から選ばれる少なくとも1種の試薬とを組み合わせて含むキットが本発明により提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法によれば、多環ポリグリシドール化合物を界面活性剤として用いることにより、リポタンパク中のHDLを選択的に可溶化することが可能になり、その結果、血液などの体液試料に含まれるHDL中のコレステロールを効率的かつ迅速に、しかも精度よく測定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の方法は、体液試料中の高密度リポ蛋白コレステロール(HDL-C)の測定方法であって、多環ポリグリシドール化合物をHDL選択的界面活性剤として用いることを特徴としている。
体液としては、血液又は尿などを用いることができる。体液試料としては、血液又は尿をそのまま使用してもよく、あるいは適宜の前処理を施したものを使用してもよい。
【0016】
本明細書において、「多環ポリグリシドール化合物」とは、ポリグリシドール鎖の一方の末端に2個以上の環を含む部分構造を有する化合物を意味する。好ましい化合物は、ポリグリシドール鎖の一方の末端にアリール基が結合しており、該アリール基は必要に応じてリンカーを介して結合するアリール基を1個又は2個以上有している。さらに好ましい化合物は、ポリグリシドール鎖の一方の末端にアリール環が結合しており、該アリール環はリンカーを介して結合するアリール基を1個又は2個以上有する構造を有する。上記の多環ポリグリシドール化合物において、アリール環としてはベンゼン環が好ましい。リンカーとしては直鎖状又は分枝鎖状のアルキレン基などを用いることができ、該アルキレン基は必要に応じて置換基を有していてもよく、主鎖中に窒素原子、酸素原子、又はイオウ原子などのヘテロ原子を含んでいてもよい。アリール環に必要に応じてリンカーを介して結合するアリール基としてはフェニル基が好ましく、リンカーを介して2個以上のフェニル基がアリール環に結合していることが好ましい。該フェニル基は1個又は2個以上の置換基を有していてもよい。
【0017】
本発明の方法において、上記一般式(I)で表されるポリグリシドール化合物を界面活性剤として好ましく用いることができる。LはC1-C5アルキレン基を示す(上記の炭素数C1-C5はRとベンゼン環とをつなぐアルキレン鎖の炭素数を示す)。該アルキレン基は直鎖状又は分枝鎖状のいずれであってもよい。Lを構成するメチレン単位としては、-C(R1)(R2)-(式中、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子又はC1-C4アルキル基を示す)で表されるメチレン単位が好ましく、上記のメチレン単位を1〜5個含むアルキレン基が好ましい。上記のメチレン単位において、R1が水素原子であり、R2が水素原子又はメチル基であることが好ましい。アルキレン基が上記のメチレン単位を2個以上含む場合には、それらのメチレン単位は同一でも異なっていてもよい。より具体的には、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、エチレン基、メチルエチレン基、プロピレン基、ブチレン基などが挙げられる。Lで表されるアルキレン基が1個のメチレン単位を含むことが好ましく、Lが-C(R1)(R2)-で表される基であることがより好ましい。この場合、R1が水素原子であり、R2が水素原子又はメチル基であることがより好ましい。
【0018】
Rはアリール基を示す。アリール基としては、単環式又は縮合多環式の芳香族炭化水素基を用いることができ、例えば、フェニル基、ナフチル基などが好ましく、最も好ましいのはフェニル基である。該アリール基はC1-C18アルキル基、C1-C18アルコキシ基、又はハロゲン原子からなる群から選ばれる1又は2以上の置換基を有していてもよいが、無置換であってもよい。本明細書においてアルキル基又はアルコキシ基のアルキル部分は直鎖状、分枝鎖状、環状、又はそれらの組合せのいずれであってもよい。ハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を用いることができる。該アリール基が有する置換基として、例えば、アルキル基としてメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、2-エチルヘキシル基、オクチル基、ノニル基、又はデシル基などを挙げることができ、ハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子、又は臭素原子などを用いることができる。該アリール基が置換基を有する場合、置換基の存在位置は特に限定されず、2個以上の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。
【0019】
R-L-で表される基はベンゼン環上の任意の位置に1〜5個存在することができ、2個以上のR-L-で表される基が存在する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。ベンゼン環上に存在するR-L-で表される基の個数は1〜3個であることが好ましく、より好ましくは2又は3個、特に好ましくは3個である。
nは3〜20の整数を示すが、5〜18であることが好ましく、8〜16であることがより好ましい。
【0020】
上記一般式(I)で表されるポリグリシドール化合物は1個又は2個以上の不斉炭素を有する場合があり、該不斉炭素に基づく立体異性体(光学異性体又はジアステレオ異性体)が存在する場合があるが、純粋な形態の任意の立体異性体、立体異性体の任意の混合物、ラセミ体などはいずれも本発明の方法に使用可能である。また、上記一般式(I)で表されるポリグリシドール化合物は任意の水和物又は溶媒和物として存在する場合があるが、これらの物質も本発明の方法に使用可能である。また、上記一般式(I)で表される化合物は、R-L-で表される基をベンゼン環上の任意の位置にm個有するが(mは1〜5の整数)、mが同一で、かつベンゼン環上のm個のR-Lの置換位置が異なる異性体の任意の混合物、又はmが異なる化合物の任意の混合物も本発明の方法に使用可能である。
【0021】
上記一般式(I)で表されるポリグリシドール化合物において、R-L-で表される基が無置換ベンジル基であり、ベンゼン環上の任意の位置に該ベンジル基が1〜3個存在していることが好ましい。また、該ベンジル基のうちの1個以上において、該ベンジル基のメチレン上にメチル基が存在している場合も好ましい。例えば、下記のポリグリシドール化合物が好ましい(いずれもベンゼン環の置換ベンジル基の結合位置は特に限定されない)。
【0022】
【化2】

【0023】
特に好適な化合物(5)ないし化合物(10)を下記に示す(いずれもベンゼン環の置換ベンジル基の結合位置は特に限定されない)。
【化3】

【0024】
一般式(I)で示されるポリグリシドール化合物は、例えば、下記の一般式(11):
【化4】

(式中、R、L、及びmは上記の定義と同義である)で表されるフェノール化合物に触媒の存在下でグリシドールを付加させることによって製造することができる。この反応において、原料化合物であるフェノール化合物とグリシドールとの比率を変えることで、グリシドール鎖長を変えることが可能である。
【0025】
触媒としてはアルカリ触媒が挙げられ、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどが挙げられるが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウムが好ましく、特に水酸化カリウムが好ましい。触媒の使用量としては、例えば原料化合物に対して0.0001〜1%であり、0.001〜0.8%が好ましく、特に0.005〜0.5%が好ましい。上記反応は通常は無溶媒にて行なうことができる。反応温度は室温〜200℃であり、好ましくは50〜200℃、より好ましくは100〜180℃である。反応時間は反応温度によって異なるが、1〜150時間であり、より好ましくは2〜24時間であり、特に2〜10時間が好ましい。
【0026】
反応後に反応液を室温に戻し、酸で中和した後に常法の処理を行なうことにより、目的物を単離することができる。酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、臭化水素酸、リン酸のような鉱酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、酢酸、p-トルエンスルホン酸のような有機酸が挙げられる。好ましくは塩酸、硫酸、リン酸、メタンスルホン酸、酢酸を用いることができ、塩酸、リン酸、メタンスルホン酸、酢酸を用いることが特に好ましい。中和後、目的物が水不溶性の場合には濾取により目的物を単離することができる。目的物の粘性が高い場合には、水を添加し、水溶液の状態で目的物を得ることもできる。上記一般式(I)で表されるポリグリシドール化合物は異なるnを有する化合物の混合物として製造される場合もあり、その混合物を本発明の方法において界面活性剤として用いることもできる。
【0027】
本発明の方法では、HDL以外のリポ蛋白の溶解を抑制する界面活性剤を用いることができる。HDL以外のリポ蛋白の溶解を抑制する界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、及びポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン縮合体から選ばれる界面活性剤が挙げられる。ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩としては、エマール20C(花王社製)等があげられ、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン縮合体としては、プルロニックシリーズ(旭電化社製)等が挙げられる。
【0028】
本発明の方法では、HDL以外のリポ蛋白を凝集させる凝集剤を用いることができる。リポ蛋白を凝集させる凝集剤としては、中井継彦著、HDL−代謝・測定・臨床−(HDL-Metabolism, Assay Methods and Clinical Application)、中外医学社、1986年などに記載された周知の硫酸多糖類−アルカリ土類金属イオン又はアルカリ土類以外の2価の金属イオンの組み合わせ系、無機ポリアニオン塩系、ポリエチレングリコール等を用いることができる。
【0029】
これらの沈澱試薬のうちで、硫酸多糖類−金属イオンの組み合わせ系としては、Journal of Laboratory and Clinical Medicine, 82, 473, 1973に記載のデキストラン硫酸−カルシウム(2+)イオン複合体、J. Lipid Res., 11, pp.583-595, 1970及びClin. Chem., 24, pp.931-933, 1978等に記載のデキストラン硫酸−マグネシウム(2+)イオン複合体、J. Lipid Res., 11, pp.583-595, 1970、Manual of Lipid Operations Lipid Research Clinics Program, Volume I, Pub. No.(NIH), pp.75-628, 1978年等に記載のヘパリン単独、ヘパリンナトリウムーマンガンイオンの組合せ、特開昭55-51359号公報に記載のヘパリン−カルシウムイオンーニッケル(2+)イオンの組合せ等の沈澱試薬が好ましい。無機ポリアニオン塩系沈澱試薬としては、J. Lipid Res., 11, pp.583-595, 1970、Clin, Chem., 23, pp.882-884, 1977、Clin, Chem., 25, pp.939-942, 1979, 米国特許第4,226,713号明細書、特公昭63-27659号公報、特開平01-39553号公報等に記載の燐タングステン酸(塩)−マグネシウム(2+)イオンの組合せが好ましい。より好ましくは、デキストラン硫酸とマグネシウムイオンが挙げられる。
【0030】
本発明の方法において用いられる酵素としては、例えば、コレステロールエステラーゼ、及びコレステロールオキシダーゼを挙げることができる。コレステロールエステラーゼとしてリパーゼを用いることもできる。酵素由来の微生物は特に限定されるものではないが、例えば、コレステロールエステラーゼに関しては、Schizophyllum commune由来又はPseudomonas sp.由来、その他の微生物由来のエステラーゼなどを用いることができる。コレステロールオキシダーゼに関しては、Pseudomonas sp由来、Streptmyces sp.由来、その他微生物由来のオキシダーゼを用いることができる。本発明で用いる酵素は微生物由来の酵素又は周知の方法で製造されたリコンビナント酵素のいずれであってもよい。
【0031】
Schizophyllum commune由来のコレステロールエステラーゼとしては、例えば、東洋紡社製のCOE-302、Pseudomonas sp由来の由来のコレステロールエステラーゼとしては東洋紡社製のCOE-311、LPL-312、LPL-314、旭化成社製のCEN等が挙げられる。Pseudomonas sp由来由来のコレステロールオキシダーゼとしては、キッコーマン社製のCHO-PELやCHO-PEWL等が挙げられる。
【0032】
本発明の方法では、これらの試薬のほかに、コレステロールを検出するための試薬として、周知の酵素試薬、色原体、及びpH緩衝剤を用いることができる。
より具体的には、酵素としてパーオキシダーゼを挙げることができ、色原体としては、4-アミノアンチピリン(4-AA)、水素供与性カップリングして発色するフェノール性又はアニリン性のトリンダー試薬、及びロイコ色素などを挙げることができる。トリンダー試薬としては、好ましくはアニリン性試薬を用いることがき、例えば、同仁化学研究所製のN-エチル- N-スルホプロピル-3-メトキシアニリン(ADPS)、N-エチル- N-スルホプロピルアニリン(ALPS )、N-エチル- N-スルホプロピル-3-メチルアニリン(TOPS)、N-エチル- N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン(ADOS )、N-エチル- N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン(DAOS)、N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン(HDAOS)、N-エチル- N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメチルアニリン(MAOS)、N-エチル- N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン(TOOS)等が挙げられる。
【0033】
pH緩衝剤の例としては、炭酸塩、硫酸塩、燐酸塩やBiochemistry, 5, pp.467-477, 1966に記載のGoodのpH緩衝剤などがある。これらのpH緩衝剤は、例えば、蛋白質・酵素の基礎実験法、堀尾武一ほか著、南江堂、1981年、Biochemistry, 5, pp.467-477, 1966等の文献の記載を参考にして選択することができる。
前記緩衝剤のpHは用いる酵素の至適pHに応じて決定することができるが、好ましくはpH5.0〜8.0の範囲に調整することができ、より好ましくはpH6.0〜7.0の範囲に調整することができる。
【0034】
測定系が溶液の場合における本発明の測定方法について説明するが、本発明の範囲は下記の特定の態様に限定されることはない。試薬液の組成としては、次の(1)〜(6)を含む組成の溶液が好ましい。
(1)コレステロールエステラーゼ
(2)コレステロールオキシダーゼ
(3)多環ポリグリシドール化合物からなる界面活性剤
(4)パーオキシダーゼ
(5)色原体(4-AA及びトリンダー試薬)
(6)pH緩衝剤
【0035】
これらの試薬を最適な濃度に調整した試薬液1〜1000μL、好ましくは100〜500μLを約20℃〜約45℃の範囲の一定温度で、好ましくは約30℃〜約40℃の範囲内の一定温度で1〜10分間、予めインキュベーションする。この試薬溶液に溶液試料0.5〜50μL、好ましくは1〜20μLを加え、一定温度でインキュベートしながら色原体の発色に応じた波長の時間経時変化を測定する。予め作成した検量線を用いて比色測定法の原理により検体中の被験物質の量を求めることができる。
【0036】
必要な酵素量は適宜決定することができるが、例えば、コレステロールエステラーゼ、コレステロールオキシダーゼ、及びパーオキシダーゼのいずれの酵素も0.2〜20U/mLの範囲で用いることが好ましく、より好ましくは1〜10U/mLで用いることができる。
【0037】
測定系が溶液の場合、界面活性剤として高密度リポ蛋白(HDL)を優先的に溶解する多環ポリグリシドール化合物からなる界面活性剤のみを使用してもよいが、必要に応じてその他の界面活性剤を1種又は2種以上組み合わせることもできる。界面活性剤の濃度は特に限定されないが、例えば0.01〜5%の濃度で用いることが好ましく、より好ましくは0.1〜1%の濃度で用いることができる。
【0038】
測定系がドライ試薬である乾式分析素子を用いた本発明の測定方法について説明するが、本発明の範囲は下記の特定の態様に限定されることはない。
乾式分析素子は、水不透過性支持体の上に、少なくとも1層の接着層及び多孔性の展開層を有するように構成することができる。
多孔性層は繊維質又は非繊維質のいずれであってもよく、液体試料の展開層として機能することから、液体計量作用を有する層であることが好ましい。液体計量作用とは、層の表面に点着供給された液体試料を、その中に含有する成分を実質的に偏在させることなく、層の面方向に単位面積当りほぼ一定量の割合で広げる作用である。展開層には、展開面積や展開速度等を調節するために、特開昭60-222770号公報、特開昭63-219397号公報、特開昭62-182652号公報に記載された親水性高分子又は界面活性剤を配合することができ、界面活性剤として多環ポリグリシドール化合物を配合することもできる。
【0039】
繊維性の多孔層は、特開昭55-164356号公報、特開昭57-66359号公報、特開昭60-222769号公報等に代表されるような、ポリエステル繊維のものが好ましい。非繊維性多孔層としては、ポリスルホン酸等の有機高分子であることが好ましい。
接着層は、前記水不透過性支持体、及び前記多孔層を接着する機能を有する層であり、ゼラチン及びこれらの誘導体(例、フタル化ゼラチン)、セルロース誘導体(例、ヒドロキシプロピルセルロース)、アガロース、アクリルアミド重合体、メタアクリルアミド重合体、アクリルアミド又はメタアクリルアミドと各種ビニル性モノマーとの共重合体等の親水性ポリマーが利用できる。
【0040】
親水性ポリマーを含む水溶液を周知の方法で均一に塗布するが、塗布の方法は公知の方法を利用できる。塗布には、例えば、ディップ塗布、押し出し塗布、ドクター塗布、ホッパー塗布、カーテン塗布等を適宜選択して用いることができる。
【0041】
接着層の上に多孔層を塗布することもできるが、好ましくは、予め編み物として供給されている布や多孔膜をラミネートするのが好ましい。ラミネートの方法は、特開昭55-164356号公報に記載のように、親水性ポリマーを含む接着層の表面を水で一様に湿潤させておき、その上に布や多孔性膜を重ねて軽くほぼ一様に圧力をかけて接着させる方法で接着させることができる。接着層の厚さは、0.5〜50μmが好ましく、より好ましくは、1〜20μmである。
【0042】
光透過性支持体の材料として好ましいものはポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、セルローストリアセテート等のセルロースエーテル類である。親水性層の吸水層、検出層、実質的に無孔性の試薬層等を支持体に強固に接着させるために、通常、支持体に下塗り層を設けるか、親水化処理を施すことができる。支持体の厚みは、特に制限されないが、10〜1000μmが好ましく、300〜800μmがより好ましい。光透過性のある支持体の場合、最終的な検出は、支持体側又は多孔層側のいずれでもよいが、光不透過性の場合、多孔層側から検出する。
必要に応じ、安定化剤、pH緩衝剤、架橋剤(硬膜剤又は硬化剤)、界面活性剤、ポリマー等を含有させることができ、これらは接着層又は多孔層に含有させることができる。
【0043】
乾式分析素子に用いられるコレステロール測定用試薬組成物及び光学的変化を生じる試薬組成物について説明する。
試薬組成物は、第1の多孔性層に含まれてもよいが、接着層及び多孔性層の両方の層に含まれてもよい。あるいは全部又は大部分の試薬組成物がいずれかの層に含まれていてもよく、あるいは接着層と多孔性層以外の層に試薬組成物を添加しておいてもよい。
【0044】
HDL-C検出用乾式分析素子において、コレステロールエステラーゼ及びコレステロールオキシダーゼのいずれの酵素も1 m2あたり0.1〜30 kU程度の量で用いることが好ましい。より好ましくは1 m2あたり0.5〜15 kU程度の量を用いることができる。
【0045】
2種類の界面活性剤、すなわちHDLを優先的に溶解する多環ポリグリシドール化合物などの界面活性剤、及びHDL以外のリポ蛋白の溶解を阻害する界面活性剤は、いずれも1 m2あたり0.2〜30 g程度の量を用いることができ、より好ましくは1 m2あたり1〜20 g程度の量を用いることができる。HDLを優先的に溶解する界面活性剤とHDL以外のリポ蛋白の溶解を阻害する界面活性剤の量比は9/1〜5/5程度であることが好ましく、より好ましくは、8/2〜6/4の割合で用いることができる。
【0046】
HDL以外のリポ蛋白を凝集させる凝集剤としては、好ましくは硫酸デキストランとマグネシウムイオンを用いることができ、硫酸デキストランとして1 m2あたり0.05〜10 g、塩化マグネシウム6水和物として1 m2あたり0.01〜20 g程度の量を用いることが好ましい。より好ましくは、硫酸デキストランを0.1〜5 g/m2及び塩化マグネシウム6水和物0.5〜10g/m2を用いることができる。
【0047】
パーオキシダーゼとしては、特に由来は限定されないが、西洋ワサビ由来のパーオキシダーゼが好ましい。使用量としては1〜200kU/m2程度が好ましく、より好ましくは10〜100kU/m2程度を用いることができる。
【0048】
前記色原体に関しては、4-アミノアンチピリン(4-AA)とカップリングして発色する前記試薬の組み合わせが好ましく、特に好ましくは、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン・ナトリウム塩(DAOS)を用いることができる。使用する色原体の量は特に限定されないが、例えば4-AA及び水素供与性カップリング剤をともに0.1〜10g/m2程度用いることが好ましく、より好ましくは、0.3〜5g/m2程度用いることができる。
【0049】
HDL-Cを検出するための乾式分析素子におけるその他試薬組成物には、必要に応じて安定化剤、pH緩衝剤、架橋剤(硬膜剤又は硬化剤)、界面活性剤、又はポリマー等など添加剤の1種又は2種以上を含有させることができる。これらの添加剤は、乾式分析素子の接着層及び/又は多孔層に含有させることができる。
緩衝剤のpHは用いる酵素の至適pHに応じて決定することができ、好ましくはpH5.0〜8.0の範囲に調整することができる。より好ましくは、pH6.0〜7.0の範囲に調整することができる。
【0050】
乾式分析素子は、例えば、一辺約5 mmから約30 mmの正方形またはほぼ同サイズの円形等の小片に裁断し、特公昭57-283331号公報、実開昭56-142454号公報、特開昭57-63452号公報、実開昭58-32350号公報、特表昭58-501144号公報等に記載のスライド枠に収めて化学分析スライドとして用いることができる。この態様は、製造、包装、輸送、保存、及び測定操作等の観点で好ましい。使用目的によっては、長いテープ状でカセットまたはマガジンに収めて用いることもでき、あるいは小片を開口のある容器内に収めて用い、又は小片を開口カードに貼付または収めて用いることもでき、さらには裁断した小片をそのまま用いることもできる。
【0051】
乾式分析素子を用いる場合、例えば約2μL〜約30μL、好ましくは4μL〜15μLの範囲の水性液体試料液(例えば血液や尿などの体液試料など)を多孔性液体試料展開層に点着することができ、点着した乾式分析素子を約20℃〜約45℃の範囲の一定温度で、好ましくは約30℃〜約40℃の範囲内の一定温度で1〜10分間インキュベーションすることができる。乾式分析素子内の発色又は変色を光透過性支持体側から反射測光し、予め作成した検量線を用いて比色測定法の原理により検体中の被験物質の量を求めることができる。
【0052】
測定操作は、例えば特開昭60-125543号公報、特開昭60-220862号公報、特開昭61-294367号公報、特開昭58-161867号公報などに記載の化学分析装置により極めて容易に行うことができ、これにより高精度の定量分析を行なうことができる。目的や必要精度によっては目視により発色の度合いを判定して半定量的な測定を行ってもよい。
【0053】
乾式分析素子は、分析を行うまでは乾燥状態で貯蔵・保管することができ、試薬を用時調製する必要がなく、また一般に乾燥状態の方が試薬の安定性が高いことから、試薬溶液を用時調製しなければならないいわゆる溶液法より簡便性及び迅速性に優れている。また、微量の液体試料で、精度の高い検査を迅速に行うことができる検査方法としても優れている。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例により限定されることはない。
例1:ポリグリシドールトリベンジルフェニルエーテル(TBG-12)の合成
反応は攪拌機と冷却管を取り付けたガラス製フラスコで行った。トリベンジルフェノール(TBP)(三光化学製、主成分としてトリ置換体のほかジベンジルフェノールなどを含む)86 gに0.9 gの水酸化カリウムを添加し、窒素雰囲気下にて混和しながら120℃まで加温した。120±5℃の温度を保ちながら、222 g(TBPに対して約12当量)のグリシドール(和光純薬製)をゆっくり滴下しながら添加した。さらに3.5時間攪拌しながら熟成させ、目的物(収量308g)を得た。この化合物(上記一般式(I)においてR-L-で表される基がベンジル基であり、mが3である化合物)は分子量586〜1104(n=3〜10)、水酸基価573.7 mgKOH/mg、HLBは12.7、曇点は>90℃、表面張力は44.2 mN/mであった。
例2
2-1) ポリグリシドールジスチリルフェニルエーテル(DSG-10)の合成
ジスチリルフェノール(DSP、三光化学製)76 gに0.8 gの水酸化カリウムを添加し、窒素雰囲気下にて混和しながら120℃まで加温した。120±5℃の温度を保ちながら、185 g(DSPに対して約10当量)のグリシドール(和光純薬製)をゆっくり滴下しながら添加した。さらに3.5時間攪拌しながら熟成させ、目的物DSG-12(298 g)を得た。この化合物は、分子量524〜1412(n=3〜15)、水酸基価583.1 mgKOH/mg、HLBは12.9、曇点は>90℃、表面張力は39.7 mN/mであった。
【0055】
例3:溶液系での測定
以下に示す組成の試薬液を調整した。
MES緩衝剤(pH7.0) 360 mmlo/L
コレステロールエステラーゼ(Schizophyllum commune由来) 2.4 U/mL
コレステロールオキシダーゼ(Pseudomonas sp.由来) 1.4 U/mL
パーオキシダーゼ(西洋ワサビ由来) 38 U/mL
4-アミノアンチピリン(和光純薬社製) 3.0 mmol/L
DAOS(同仁研究所社製) 4.0 mmol/L
ポリグリシドールジスチリルフェニルエーテル(n=10)
0.62 mg/mL
プルロニック F-88(界面活性剤、旭電化社製) 0.42 mg/mL
【0056】
HDL又はLDLの精製品をコレステロール濃度が100 mg/dLになるように調整した試料、及び7% ヒトアルブミン(HSA)水溶液を検体とした。前記試薬液245μLを予め37℃で3分間インキュベートしておき、そこに前記検体5μLを加え、600 nmの発色の様子を測定した。その結果、図1に示すように、HDLはおよそ5分で完全に発色し、LDLと比べて特異性が高いことが確認された。
【0057】
例4:比較例
例3と同様の処方で、ただしポリグリシドールジスチリルフェニルエーテル(n=10)の代わりに下記の界面活性剤を使用して例3と同様の検体を用いて測定を行った。
エマルゲンA90(ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテル) 0.62 mg/mL
その結果、図2に示すように、HDLに対してもLDLに対しても感度も低く、HDLに対する特異性も低かった。
【0058】
例5:乾式分析素子
ゼラチン下塗りされている180μmのポリエチレンテレフタレート無色透明平滑フィルムにゼラチン水溶液を乾燥後の厚さが14μmになるように塗布して乾燥した。上記フィルム上に約30 g/m2の量で水を全面に供給して湿潤させた後、50デニール相当のポリエステル紡績糸を36ゲージ編みしたトリコット編み物布地を軽く圧力をかけて積層し、乾燥させた。その後、上記の布地上に下記組成の水溶液を塗布乾燥した。
【0059】
MES緩衝剤(pH6.6) 84 mmol/m2
コレステロールエステラーゼ(Schizophyllum commune由来) 1.8 kU/ m2
コレステロールオキシダーゼ(Pseudomonas sp.由来) 4.0 kU/ m2
パーオキシダーゼ 30 kU/ m2
4-アミノアンチピリン(和光純薬社製) 0.4 g/m2
DAOS(同仁研究所社製) 0.4 g/m2
ポリグリシドールトリベンジルフェニルエーテル(n=12) 2.0 g/m2
プルロニック F-88(旭電化社製) 1.3 g/m2
デキストラン硫酸(5,000,000)(和光純薬社製) 0.7 g/m2
塩化マグネシウム6水和物(和光純薬社製) 4.6 g/m2
【0060】
HDL又はLDLの精製品をコレステロール濃度が100 mg/dLになるように調整した試料、及び7% ヒトアルブミン(HSA)水溶液を検体とした。前記乾式分析素子に、検体10μLを点着し、その後37℃で6分間インキュベートした。この時の600 nmの発色の様子を測定した。その結果、図3に示すように、HDLはおよそ6分で完全に発色するが、LDLのODrはほとんど上がらずHDLに対して特異性があることを確認できた。
例6:比較例
例5と同様の方法で乾式分析素子を製造し、ただしポリグリシドールトリベンジルフェニルエーテルの代わりにを下記の界面活性剤を使用した。
サルファクタント 10G (ポリグリシドールノニルフェニルエーテル, Olin Corp.製) 2.0 g/m2
例5と同様の検体を点着して同様の方法で測定した。その結果、図4に示すように、上記方法で製造した分析素子は、HDL及びLDLに対する反応性がともに低く、HDL特異性もないことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】溶液系の測定例(例3)の結果を示した図である。
【図2】溶液系の測定例(例4、比較例)の結果を示した図である。
【図3】乾式分析素子による測定例(例5)の結果を示した図である。
【図4】乾式分析素子による測定例(例6、比較例)の結果を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体液試料中の高密度リポ蛋白コレステロールの測定方法であって、多環ポリグリシドール化合物を高密度リポ蛋白選択的界面活性剤として用いる方法。
【請求項2】
多環ポリグリシドール化合物が下記の一般式(I):
【化1】

(式中、LはC1-C5アルキレン基を示し、Rはアリール基(該アリール基はC1-C18アルキル基、C1-C18アルコキシ基、又はハロゲン原子からなる群から選ばれる1又は2以上の置換基を有していてもよい)を示し、mは1〜5の整数を示し(mが2以上の整数を示す場合には、R-L-で表される基はそれぞれ同一でも異なっていてもよい)、nは3〜20の整数を示す)で表されるポリグリシドール化合物である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
高密度リポ蛋白以外のリポ蛋白の溶解を阻害する界面活性剤及び/又は高密度リポ蛋白以外のリポ蛋白を凝集させる凝集剤を用いる請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
高密度リポ蛋白以外のリポ蛋白の溶解を阻害する界面活性剤が、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、又はポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン縮合体である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
高密度リポ蛋白以外のリポ蛋白を凝集させる凝集剤が、リンタングステン酸又はその塩と2価の金属イオン、デキストラン硫酸と2価の金属イオン、ヘパリンと2価の金属イオン、又はポリオキシエチレンである請求項3に記載の方法。
【請求項6】
コレステロールエステラーゼ及びコレステロールオキシダーゼにより高密度リポ蛋白コレステロールから生成した過酸化水素にペルオキシダーゼと色原体とを作用させて発色反応を行うことにより高密度リポ蛋白コレステロールを測定する請求項1ないし5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
水不透過性支持体の上に少なくとも接着層及び多孔性展開層を有する乾式分析素子を用いて高密度リポ蛋白コレステロールを測定する請求項1ないし6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
高密度リポ蛋白選択的界面活性剤であって、請求項2に記載の一般式(I)で表される多環ポリグリシドール化合物を含む界面活性剤。
【請求項9】
高密度リポ蛋白コレステロール測定用キットであって、高密度リポ蛋白選択的界面活性剤である多環ポリグリシドール化合物と、コレステロールエステラーゼ、コレステロールオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、及び色原体からなる群から選ばれる少なくとも1種の試薬とを組み合わせて含むキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−125049(P2009−125049A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−306716(P2007−306716)
【出願日】平成19年11月28日(2007.11.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】