説明

高度の生物活性を持つ固定化された生物活性物質

本発明は、ヘパリンコファクターII結合活性を有する固定化された生物活性物質に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
医療機器分野では、ガラス、ポリマー、及び/又は金属の材料が一般的な基板材料である。これらの材料は、診断機器又は体外機器で使用できる。ガラス以外では、多くの材料は埋め込み型機器で使用できる。
【0002】
基板材料に生物活性物質を生物活性のある形態での固定化する際には、その物質と基板材料それぞれの化学的性質の評価が伴う。基板材料の表面に生物活性物質を固定化するには、その基板材料の化学組成の修飾が必要とされる場合がある。これは通常は、基板材料の表面を処理することによって、化学的反応性を有する元素又は基の一群を生成させた後、適切な手順で生物活性物質を固定化することによって実現される。他の基板材料では、反応性化学基が内部に取り込まれた材料で、基板材料の表面を被覆又はコーティングする。そうして、その被覆材料の反応性化学基を通じて、生物活性物質を基板材料上に固定化する。基板材料を被覆又はコーティングするためのさまざまな方法が報告されている。被覆材料又はコーティング材料を有する基板材料に固定化される生物活性物質の代表的な例は、米国特許第4,810,784号、第5,213,898号、第5,897,955号、第5,914,182号、第5,916,585号、第6,461,665号に記載されている。
【背景技術】
【0003】
生物活性を有する、化合物、組成物、物質が固定化されるとき、その「生物製剤」の生物活性は、その固定化プロセスによってマイナスの影響を受け得る。多くの生物製剤の生物活性は、その固定化された状態での生物製剤のコンホメーション(すなわち、一次構造、二次構造、三次構造等)に依存する。所期の機能を発揮するために、十分な活性を生物製剤に与えるコンホメーションでその生物製剤を被覆材料の中に組み込むには、固定化プロセスを注意深く選択することに加え、生物製剤の化学的変化が必要となる場合がある。
【0004】
被覆と固定化のスキームを最適化しているにもかかわらず、特に追加のプロセス(例えば殺菌)が含まれると、固定化された生物製剤の生物活性は期待より低くなり得る。埋め込み型医療機器に関しては、使用する前に殺菌する必要がある。殺菌は、汚染物に対して敏感な体外用診断機器でも必要とされるであろう。そのような機器の殺菌には、通常は、しばしば数サイクル、その機器を高温、高圧、高湿度に暴露する必要がある。いくつかの例では、抗生剤(例えば酸化エチレン(EtO)又は過酸化水素の蒸気)が殺菌プロセスに含まれる。殺菌に加え、固定化された生物製剤の、機械的な圧縮及び延伸、又は長期にわたる保管によってその生物製剤の活性が低下しうる。
【0005】
特に、固定化された生物活性物質が殺菌、機械的な圧縮及び延伸、並びに/又は保管にさらされる場合に、生物活性の著しい低下を発生させない状態で、生物活性物質が表面に固定化された医療機器が必要とされている。このような医療機器は、殺菌、機械的な圧縮及び延伸、及び/又は保管の間での、固定化された生物活性物質の生物活性の低下を少なくするのに役立つ、生体適合性組成物又は生体適合性化合物を、その生物活性物質とともに含むことになろう。いくつかの例では、その追加の生体適合性組成物又は生体適合性化合物は、殺菌後の生物活性物質の生物活性を増大させるであろう。固定化について強い関心のある生物活性物質には、抗血栓症特性を有する物質が挙げられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ヘパリンコファクターII結合活性を有する生物活性物質がその表面に固定化されている基板材料を備える、医療機器に関するものである。いくつかの実施態様において、その生物活性物質は、追加の生体適合性有機組成物と組み合わせて固定化される。その生体適合性有機組成物は、特に、他の場合には生物活性物質の生物活性が低下するであろう処理条件及び保管条件に固定化された生物活性物質を暴露した後でも、生物活性物質が大きなヘパリンコファクターII結合活性を保持することを可能とする。いくつかの実施態様においては、追加の生体適合性有機組成物は、生物活性物質が固定化される基板又はコーティングに対して、補助的な機能を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
適当な基板材料としては、生物活性物質を生物活性のある形態で基板材料の一つ以上の面に付着、拘束、又は固定化することのできる、反応性化学基を有する表面を持つ任意の材料が可能である。基板材料は、1種類以上の被覆組成物又は被覆材料をその表面に付着させることを通じ、その材料の表面に付加された複数の反応性化学基を備えることもできる。被覆材料の少なくとも一部には、生物活性物質と反応してその生物活性物質を生物活性のある形態で被覆材料に付着、拘束、又は固定化するのに役立つ化学元素、化学基、化合物、成分を有する。いくつかの実施態様では、生物活性物質を取り外し可能に固定化することができる。
【0008】
少なくとも1種類の生物活性物質を、基板材料及び/又は被覆材料上にある適当な反応性化学基に化学的に付着、拘束、又は固定化する。複数の生物活性物質を、基板材料及び/又は被覆材料の表面に存在する複数の反応性化学基の少なくとも一部に固定化した後、生体適合性のある追加の有機組成物を、その生物活性物質、基板、及び/又はポリマー被覆材料に共有結合又は非共有結合させる。生体適合性有機組成物は、生物活性物質若しくは基板材料及び/又は被覆材料の反応性化学基と相互作用して、他の場合にはその生物活性物質の生物活性を著しく低下させるであろう条件下で、その生物活性物質が生物活性を失うことを防ぐ。このような条件として、殺菌と保管が挙げられる。膨張可能な管腔内医療機器では、例えばそのような機器の機械的な圧縮及び膨張によっても生物活性物質の生物活性が著しく低下し得る。
【0009】
いくつかの場合には、追加の生体適合性有機組成物は、固定化、殺菌、保管、及び/又は機械的操作によって生物活性物質にしばしば誘導される望ましくない変化を制限することによって、特に固定化、殺菌、保管、及び/又は機械的操作の間を通じて、その生物活性物質の生物活性を維持するようである。活性を低下させる変化としては、生物活性物質のコンホメーションが変化してその物質の活性部位が不明確になることが挙げられる。活性を低下させる変化としては、互いに近くにある固定化された生物活性物質間の相互作用も挙げられる。ポリマー被覆材料に対する固定化された生物活性物質の再配置は、その生物活性物質の活性を低下させる可能性のある別の変化である。固定化された生物活性物質の単なる変性や分解は、生物活性物質が生物活性を失う別の手段となり得る。この明細書により詳しく説明するように、生物活性物質を、追加の生体適合性有機組成物の存在下で固定化、殺菌、保管、及び/又は機械的操作をすると、その追加の生体適合性有機組成物なしで同じ条件下で処理した同様の固定化された生物活性物質よりも、生物活性をはるかによく保持することができる。
【0010】
追加の生体適合性有機組成物は、殺菌された医療機器から殺菌後処理の間に除去すること、又はその組成物は、その殺菌された医療機器を埋め込み部位に配置した後にインプラントのレシピエントの生理学的プロセスによって除去することができる。
【0011】
好ましい生物活性物質は、基板及び/又は被覆材料の表面で、血栓の形成を低減又は抑制する。グリコサミノグリカンが本発明で用いるための好ましい抗血栓剤であり、デルマタン二硫酸、デルマタン二硫酸・アナログ、デルマタン二硫酸誘導体が特に好ましい。好ましい他の生物活性物質は、本発明の医療機器を埋め込んだ組織からの望ましくない細胞増殖を減らす。本発明で用いるための好ましい抗増殖剤として、限定するものではないが、デキサメタゾン、ラパマイシン、パクリタキセルなどがある。
【0012】
したがって本発明の一実施態様は、基板材料と、その基板の表面の少なくとも一部に付着したポリマー被覆材料と、そのポリマー被覆材料の少なくとも一部に共有結合した、ヘパリンコファクターII結合活性を有する複数の生物活性物質とを含んでいて、ここで、その生物活性物質のヘパリンコファクターII結合活性が、少なくとも1平方センチメートル当たり5ピコモル(pmol/cm)のヘパリンコファクターIIである医療機器に関する。別の実施態様では、アンチトロンビン結合活性は、基板材料1平方センチメートル当たり少なくとも12ピコモル(pmol/cm)のヘパリンコファクターII、又は基板材料1平方センチメートル当たり少なくとも20ピコモル(pmol/cm)のヘパリンコファクターIIである。いくつかの態様では、ヘパリンコファクターII結合活性は、基板材料1平方センチメートル当たり少なくとも50ピコモル(pmol/cm)のヘパリンコファクターIIである。
【0013】
本発明の別の一実施態様は、基板材料と、その基板材料の表面の少なくとも一部に付着したポリマー被覆材料と、1平方センチメートル当たり少なくとも5ピコモル(pmol/cm)のヘパリンコファクターIIのヘパリンコファクターII結合活性を有する、そのポリマー被覆材料の少なくとも一部に共有結合した複数の生物活性物質と、そのポリマー被覆材料に結合される、アンチトロンビンIII 結合活性を有する生体適合性組成物とを備えることを特徴とする医療機器に関する。
【0014】
本発明の別の一実施態様は、基板材料と、その基板材料の表面の少なくとも一部に付着したポリマー被覆材料と、そのポリマー被覆材料の少なくとも一部に共有結合した、ヘパリンコファクターII結合活性を有する第1の複数の生物活性物質及びアンチトロンビンIII 結合活性を有する第2の複数の生物活性物質と、そのポリマー被覆材料と結合される生体適合性組成物とを備え、上記生物活性物質が少なくとも基板材料1平方cm当たり5ピコモル(pmol/cm)のヘパリンコファクターIIで、且つ、少なくとも基板材料1平方cm当たり5ピコモルのアンチトロンビンIII を持つ、ヘパリンコファクターII結合活性を有することを特徴とする医療機器に関する。
【0015】
本発明のさらに別の一実施態様は、基板材料と、その基板材料の少なくとも一部に存在していてヘパリンコファクターII結合活性を有する複数の化学物質と、その基板材料と結合される第1の生体適合性組成物と、その化学物質及び組成物と混合される第2の生体適合性組成物とを含む医療機器に関する。
【0016】
本発明のさらに別の一実施態様は、基板材料と、その基板材料の表面の少なくとも一部に付着したポリマー被覆材料と、そのポリマー被覆材料の少なくとも一部に存在していてヘパリンコファクターII結合活性を有する複数の化学物質と、そのポリマー被覆材料と結合される第1の生体適合性組成物と、その化学物質及び組成物と混合される第2の生体適合性組成物とを含む医療機器に関する。
【0017】
非共有結合した生体適合性有機組成物に関する実施態様では、温度が約37℃で実質的に中性pHの0.15Mのリン酸塩緩衝溶液の中に入れると、その有機組成物の少なくとも一部が、殺菌又は機械的操作をされた医療機器から数時間以内に放出されることがしばしばある。放出された化合物の存在は、定型的な分析技術を利用して緩衝溶液中で検出することができる。
【0018】
共有結合した生体適合性有機組成物に関する実施態様では、その有機組成物は、殺菌又は機械的操作の後に、その殺菌又は機械的操作をされた医療機器の表面に実質的に保持される。
【0019】
さらに別の実施態様では、共有結合した生体適合性有機組成物は、共有結合を解消することによってポリマー被覆材料から放出させることができる。共有結合を解消することによって放出された化合物の存在は、定型的な分析技術を利用して緩衝溶液中で検出することができる。
【0020】
いくつかの実施態様では、生体適合性有機組成物は、機械的操作及び/又は殺菌の前に混合される場合がある。別の実施態様では、生体適合性有機組成物は、機械的操作及び/又は殺菌の後に(すなわち操作室の中で)混合される場合がある。これは、有機組成物が、その組成物を用いた基板又は機器の機械的操作又は殺菌の間に分解する可能性があるときは特に有用である。このようになっていると、有機組成物を、基板上又は機器上の個々の位置に用量を変えて配置することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】複数の反応性化学基を表面に有するポリマー基板材料の概略図である。
【図1A】金属基板材料の概略図である。
【図2】複数の生物活性物質が固定化されたポリマー基板材料の概略図である。
【図3】複数の反応性化学基を表面に有するポリマー被覆材料を備えるポリマー基板材料の概略図である。
【図3A】複数の反応性化学基を表面に有するポリマー被覆材料を備える金属基板材料の概略図である。
【図4】複数の生物活性物質が固定化されたポリマー被覆材料を備えるポリマー基板材料の概略図である。
【図4A】複数の生物活性物質が固定化されたポリマー被覆材料を備える金属基板材料の概略図である。
【図5】複数の生物活性物質が固定化されるとともに、追加の生体適合性組成物が結合したポリマー基板材料の概略図である。
【図6】複数の生物活性物質が固定化されるとともに、追加の生体適合性組成物が結合したポリマー被覆材料を備えるポリマー基板材料の概略図である。
【図6A】複数の生物活性物質が固定化されるとともに、追加の生体適合性組成物が結合したポリマー被覆材料を備える金属基板材料の概略図である。
【図6B】複数の生物活性物質が固定化されたポリマー被覆材料を有するポリマー基板材料の概略図であり、図6に示した生体適合性組成物の一部が基板材料とポリマー被覆材料から放出された様子を示している。
【図6C】複数の生物活性物質が固定化されたポリマー被覆材料を有する金属基板材料の概略図であり、図6Aに示した生体適合性組成物の一部が基板材料とポリマー被覆材料から放出された様子を示している。
【図7】複数の生物活性物質が固定化されるとともに、追加の生体適合性組成物が結合した3層のポリマー被覆材料を有するポリマー基板材料の概略図である。
【図7A】複数の生物活性物質が固定化されるとともに、追加の生体適合性組成物が結合した3層のポリマー被覆材料を有する金属基板材料の概略図である。
【図7B】複数の生物活性物質が固定化された3層のポリマー被覆材料を有するポリマー基板材料の概略図であり、図7に示した生体適合性組成物の一部が基板材料とポリマー被覆材料から放出された様子を示している。
【図7C】複数の生物活性物質が固定化された3層のポリマー被覆材料を有する金属基板材料の概略図であり、図7Aに示した生体適合性組成物の一部が基板材料とポリマー被覆材料から放出された様子を示している。
【図8】結合していないヘパリンの殺菌によってそのヘパリンの生物活性が著しく低下しないことを示す棒グラフである。
【図9】ポリマー被覆材料上の反応性化学基に末端が固定化されたヘパリンを酸化エチレンで殺菌している間及び殺菌した後に、さまざまな生体適合性組成物がその固定化されたヘパリンの生物活性に及ぼす効果を示す棒グラフである。
【図10】基板上のポリマー被覆材料に固定化されたヘパリンを酸化エチレンで殺菌している間及び殺菌した後に、生体適合性有機組成物である付加されたヘパリン又は硫酸デキストランがその固定化されたヘパリンのATIII 結合活性のレベルを大きくする能力を示す棒グラフである。
【図11】ポリビニルアルコールでコーティングされた基板に末端が固定化されたヘパリンを酸化エチレンで殺菌している間及び殺菌した後に、付加された硫酸デキストランがその固定化されたヘパリンの生物活性を維持する能力を示す棒グラフである。
【図12】基板材料の圧縮及び延伸の後に、付加されたグリセロールが、その基板のポリマー被覆材料に末端が固定化されたヘパリンの生物活性を維持する能力を示す棒グラフである。
【図13】基板材料の機械的圧縮、酸化エチレンを用いた殺菌、そして基板材料の機械的延伸の後に、付加されたグリセロール及びヘパリンが、基板のポリマー被覆材料に末端が固定化されたヘパリンの生物活性を維持する能力を示す棒グラフである。
【図14】複数の生物活性物質が固定化されるとともに、反応性化学基が表面に存在しているポリマー被覆材料を備えるポリマー基板材料の概略図である。
【図15】複数の生物活性物質が固定化されるとともに、反応性化学基が表面に存在しているポリマー被覆材料を備える金属基板材料の概略図である。
【図16】複数の生物活性物質と追加の生体適合性組成物が共有結合したポリマー被覆材料を備えるポリマー基板材料の概略図である。
【図17】複数の生物活性物質と追加の生体適合性組成物が共有結合したポリマー被覆材料を備える金属基板材料の概略図である。
【図18】第2の生体適合性組成物が結合した本発明の実施態様の概略図である。
【図19】第2の生体適合性組成物が結合した本発明の実施態様の概略図である。
【図20】複数の生物活性物質が固定化されるとともに、第1の生体適合性組成物及び第2の生体適合性組成物が結合したポリマー被覆材料を備えるポリマー基板材料の概略図である。
【図21】複数の生物活性物質が固定化されるとともに、第1の生体適合性組成物及び第2の生体適合性組成物が結合したポリマー被覆材料を備える金属基板材料の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、ヘパリンコファクターII結合活性を有する生物活性物質がその表面に固定化された材料及び機器に関するものである。その生物活性物質は、固定化された物質のヘパリンコファクターII結合活性を他の場合には著しく低下させるであろう固定化、殺菌、機械的な圧縮及び延伸、並びに/又は保管の後でも、大きな生物活性を維持する。固定化された生物活性物質の生物活性は、そのような条件に曝露された後、生物活性物質に共有結合又は非共有結合した、少なくとも1つの追加の生体適合性組成物の存在によってプラスの影響を受ける場合がある。たいていの実施態様で、その追加の組成物は有機化合物である。しかしいくつかの実施態様では、その生体適合性組成物は無機化合物である。好ましい実施態様では、追加の組成物は、多糖の形態になった炭水化物である。好ましい多糖はグリコサミノグリカンである。好ましいグリコサミノグリカンは、ヘパリン組成物、ヘパリン・アナログ、ヘパリン誘導体、デルマタン二硫酸、デルマタン二硫酸・アナログ、及びデルマタン二硫酸誘導体である。
【0023】
図1と図2を参照すると、いくつかのポリマー基板材料(12)は、その基板材料の表面の少なくとも一部に分布した複数の反応性化学基(16)を備えていて、そこに複数の生物活性物質(17)が付着、拘束、又は固定化されることがわかる。生物活性物質(17)の大半は、反応性化学基(16)を通じて基板材料(12)に共有結合している。ポリマー基板材料(12)の表面は、滑らかな状態、粗い状態、多孔性状態、湾曲した状態、平坦な状態、角ばった状態、不規則な状態のいずれでも、これらの組み合わせでもよい。いくつかの実施態様では、多孔性表面を有する基板材料が、その材料の多孔性表面からその材料本体の内部へと延びる内部空隙スペースを有する。このような多孔性基板材料は孔同士を結合する内部基板材料を備えていて、その内部基板材料が、生物活性物質を固定化することのできる表面を提供することがしばしばある。多孔性であるかないかに関係なく、基板材料は、フィラメント、膜、シート、チューブ、メッシュ、織布、不織布の形態、又はこれらを組み合わせた形態にすることができる。
【0024】
生物活性物質(17)の固定化に適した基板材料(12)としては、生体適合性ポリマー材料(例えば、ポリエチレン、ポリウレタン、シリコーン、ポリアミド含有ポリマー、及びポリプロピレン)があげられる。反応性化学基(16)がポリマー材料の成分に導入されるのであれば、完全に密な、又は多孔性のポリテトラフルオロエチレンが、適当な1つのポリマー基板材料(12)である。基板材料の一部として複数の反応性化学基を有する基板材料を、この明細書では“機能化可能な材料”と呼ぶ。生物活性物質が機能化可能な基板材料と反応すると、その基板材料は機能化されたとみなされ、そして生物活性物質が固定化される。その後の処理条件(例えば、殺菌、機械的圧縮及び延伸、又は保管)の間を通じて、固定化された物質の生物活性を維持するため、追加の生体適合性有機組成物を、機能化された材料及び固定化された物質と、非共有結合で結合させる。
【0025】
基板材料は、1種類以上の被覆組成物又は被覆材料を表面に付着させることによって材料の表面に付加した複数の化学反応基も備えることができる。被覆材料の少なくとも一部には、生物活性物質と反応する化学元素、基、化合物、又は成分を有する。そしてこれらは生物活性の形態で、生物活性物質を被覆材料に付着、拘束、又は固定化するのに役立つ。被覆材料は、溶質、粒子、分散液、コーティング、オーバーレイのいずれかの形態で適用させることができ、限定するものではないが、共有結合、吸着(例えば、物理吸着又は化学吸着)、及び非共有結合(例えば、水素結合又はイオン結合)等の、さまざまな方法で基板材料に付着させることができる。好ましい実施態様では、被覆材料は溶液の形態で適用され、溶媒を除去したところの基板材料の1つ以上の面に、連続膜層又は不連続膜層を形成する。被覆材料は1つ以上の層にして適用させることができる。各層の被覆材料の化学成分は、同じでも異なっていてもよい。いくつかの実施態様では、被覆材料は自ら架橋するか、他の層の他の被覆材料と架橋する。架橋結合は、共有結合又はイオン結合が可能である。
【0026】
表面に反応性化学基(又は適切な反応性化学基)のない基板材料(12、14)(図1A)は、少なくとも一部が、表面に複数の反応性化学基(16)を有するポリマー被覆材料(18)で覆われる(図3と図3A)。そのポリマー被覆材料(18)には、生物活性物質(17)を付着、拘束、又は固定化することができる(図4と図4A)。生物活性物質(17)の大半は、ポリマー被覆材料(18)の反応性化学基(16)を通じてその被覆材料(18)に共有結合する。ポリマー被覆材料(18)は、基板材料(12、14)上の少なくとも一部に少なくとも1つの層を形成する。いくつかの実施態様では、ポリマー被覆材料(18)は自ら架橋する(19)か、他の層(18A、18B)の他の被覆材料と架橋する(図7と図7A)。架橋は、共有結合、イオン結合、又はその両方が可能である。被覆しやすい基板材料は、ガラス、金属(14)、セラミック、ポリマー材料(12)であり、その中でも特に化学的に不活性なポリマー材料(例えばポリテトラフルオロエチレン)である。
【0027】
ヘパリンコファクターII結合能力又はアンチトロンビンIII 結合能力を持つ少なくとも1つのタイプの生物活性物質(17)を、基板材料(12、14)及び/又は被覆材料(18)の表面にある適当な反応性化学基(16)に化学的に付着、拘束、又は固定化する。
【0028】
生体適合性組成物(11、15、100)としては、限定するものではないが、抗血栓剤、抗凝固剤、フィブリン溶解剤、血栓溶解剤、抗生剤、抗微生物/消毒化合物、抗ウイルス化合物、抗増殖剤、細胞接着化合物、細胞抗接着化合物、抗炎症剤などがある。特に興味のある抗血栓剤はグリコサミノグリカンであり、その中でも特にデルマタン二硫酸、デルマタン二硫酸誘導体、及びデルマタン二硫酸・アナログ並びにヘパリン、ヘパリン誘導体、及びヘパリン・アナログである。他の抗凝固剤として、限定するものではないが、ヒルジン、活性化されたプロテインC、プロスタグランジンなどがある。フィブリン溶解剤又は血栓溶解剤としては、限定するものではないが、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、及び組織プラスミノーゲン・アクチベータ(tPA)がある。抗生剤の例としては、限定するものではないが、ペニシリン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、ミノサイクリン、ドキシサイクリン、バンコマイシン、バシトラシン、カナマイシン、ネオマイシン、ゲンタマイシン、エリスロマイシン、及びセファロスポリンがある。セファロスポリンの例としては、セファロチン、セファピリン、セファゾリン、セファレキシン、セファラジン、セファドロキシル、セファマンドール、セフォキシチン、セファクロル、セフロキシム、セフォニシド、セフォラニド、セフォタキシム、モキサラクタム、セフトリゾキシム、セフトリアキソン、及びセフォペラゾンがある。抗微生物/消毒化合物の例としては、限定するものではないが、銀スルファジアジン、クロルヘキシジン、過酢酸、次亜塩素酸ナトリウム、トリクロサン、フェノール、フェノール化合物、ヨードフォア化合物、第四級アンモニウム化合物、塩素化合物、ヘパリンなどと、これらの組み合わせがある。抗ウイルス剤の例としては、限定するものではないが、α−メチル−1−アダマンタンメチルアミン、ヒドロキシ−エトキシメチルグアニン、アダマンタンアミン、5−ヨード−2’−デオキシウリジン、トリフルオロチミジン、インターフェロン、及びアデニンアラビノシドがある。細胞接着化合物としては、限定するものではないが、フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲン、ビトロネクチン、オステオポンチン、RGDペプチド、RGDSペプチド、YIGSRペプチド、及び抗体標的細胞表面抗原がある。細胞の付着に抵抗することのできる細胞としては、ポリHEMA、ポリエチレングリコール、多糖、ポリビニルピロリドン、リン脂質などがある。他の生物活性物質としては、限定するものではないが、酵素、有機触媒、リボザイム、有機金属、タンパク質、糖タンパク質、ペプチド、ポリアミノ酸、抗体、ヌクレオシド、ヌクレオチド、核酸、ステロイド分子、抗生剤、抗微生物化合物、抗真菌剤、サイトカイン、炭水化物、疎油性物質、脂質、調合薬、治療薬などがある。
【0029】
すでに説明したように、多彩な生物活性物質(17)を本発明で使用できるが、哺乳動物の血液の成分と相互作用することができて、基板材料(12、14)又は被覆材料(18)の表面に凝固物又は血栓が形成されるのを阻止する物質が最も好ましい。そのような生物活性物質の多くはオリゴ糖又は多糖である。多糖のいくつかはグリコサミノグリカンであり、グルコサミン組成物やガラクトサミン組成物を含む。好ましいグリコサミノグリカンは、ヘパリン組成物、ヘパリン・アナログ、ヘパリン誘導体、デルマタン二硫酸、デルマタン二硫酸・アナログ、及びデルマタン二硫酸誘導体である。ヘパリンは、成長因子、酵素、モルフォゲン、細胞接着分子、サイトカインと結合することによって媒介される多くの生物学的機能を持つ複合グリコサミノグリカンである。抗凝固剤として機能するヘパリンの生物活性は、ヘパリンが、トロンビンとアンチトロンビンIII (ATIII )を結合するための触媒として作用する能力に基づいている。ヘパリンの抗凝固活性の大半は、この結合を容易にする五糖配列と関係している。他の一つの複合グリコサミノグリカンはデルマタン二硫酸であり、これも多くの生物学的機能を持ち、そしてヘパリンコファクターII(HCII)によるトロンビンの阻害に対して触媒として作用する能力に基づく抗凝固剤の生物活性を有する。デルマタン二硫酸は、米国特許第5,922,690号(参考としてその内容はこの明細書に組み込まれているものとする)に公開されている合成反応によってデルマタン硫酸から得てもよい。デルマタン二硫酸合成法の他の開示は、米国特許第5,705,493号(参考としてその内容はこの明細書に組み込まれているものとする)でみられる。デルマタン二硫酸の合成法の記載と実質的に同様に、ヘパリンを化学プロセスによって修飾し、過硫酸ヘパリン誘導体及び活性化HCIIを得てもよい。
【0030】
本発明における固定化にとって最も好ましい多糖組成物は、Larmに付与された米国特許第4,613,665号(参考としてその内容はこの明細書に組み込まれているものとする)の教示内容に従って作られる自由なアルデヒド末端基を有する多糖組成物である。最も使用に好ましい多糖はデルマタン二硫酸で、米国特許第5,922,690号(参考としてその内容はこの明細書に組み込まれているものとする)に従って作られる。自由なアルデヒド末端基を有するデルマタン二硫酸を作るとき、デルマタン二硫酸はジアゾ化によって分解にさらされて、自由なアルデヒド末端基を有する断片を形成する。自由なアルデヒド末端基により、基板又はポリマー被覆材料の第一級アミノ基にデルマタン二硫酸組成物の「端部を結合させて」イミンを形成することができる。そのイミンは、還元によって第二級アミンに変換される。そのデルマタン二硫酸組成物の端部を結合させることにより、デルマタン二硫酸組成物の生物活性のある部分を、凝固及び血栓の形成に関与する血液成分に、最もうまく曝露するコンホメーションでデルマタン二硫酸を固定化することができる。最適な状態で固定化されたデルマタン二硫酸は、血栓の形成及び凝固に関与する血液成分に曝露されると、その血液成分と相互作用し、基板及び/又は被覆材料の表面における血栓の形成若しくは他の凝固イベントを減らしたり、又は阻止したりする。
【0031】
本発明で使用することが望ましい他の生物活性物質(17)として、アンチトロンビンIII を媒介としてXa因子を抑制する「フォンダパリナックス(登録商標)」と呼ばれるヘパリン及び合成ヘパリン組成物、HCIIとトロンビンとの結合の触媒作用をする物質、抗増殖剤、並びに抗炎症剤がある。
【0032】
固定化スキームが最適化されているにもかかわらず、デルマタン二硫酸をベースとした生物物質の生物活性は、その物質を殺菌、機械的圧縮及び延伸、並びに/又は保管している間に著しく低下する(図9、図11、図12、図13)。すでに説明したように、固定化された生物活性物質の生物活性の低下は、さまざまな因子によって引き起こされる可能性がある。固定化された物質の生物活性の低下が起こるメカニズムが何であれ、固定化された生物活性物質に生体適合性有機組成物を共有結合及び/又は非共有結合させると、その物質を殺菌、機械的操作(例えば機械的圧縮及び延伸)、及び/又は保管している間とその後も、その物質の生物活性が維持される場合がある。
【0033】
追加の生体適合性有機組成物は、生物活性を持っていても持っていなくてもよい。追加の生体適合性有機組成物としては、ポリヒドロキシアルデヒド又はポリヒドロキシケトン並びにその誘導体の形態になった炭水化物が可能である。そのような炭水化物として、単糖、二糖、オリゴ糖、及び多糖(例えばグリコサミノグリカン、グリコサミノマンナン、及び保管用多糖(デキストランとその誘導体など))などがある。本発明で用いるのに適当な他の生体適合性有機組成物として、酸性ムコ多糖、アミノ酸、ポリペプチド、タンパク質、糖タンパク質、ヌクレオシド、ヌクレオチド、ポリヌクレオチドや、分子量が約100,000MW未満で、帯電した、又は帯電していない他の生体適合性脂肪族化合物や芳香族化合物などがある。
【0034】
図5〜図6Aを参照すると、その表面に固定化された生物活性物質(17)を有する、被覆された又は被覆されていない基板材料(それぞれ、14、12)は、その生物活性物質(17)、基板材料(14、12)、及び/又は被覆材料(18)に結合した追加の生体適合性組成物(100)を有している。生体適合性組成物は有機物であることが好ましい。その生体適合性有機組成物は、固定化された生物活性物質、基板、及び/又は被覆材料にさまざまな方法で適用させることができる。好ましい一実施態様としては、炭水化物をベースとした適当な生体適合性組成物を水性溶媒に溶かし、そしてその溶液を、スプレー、浸漬コーティング、浸漬、ローリング、塗布、又は他の堆積手段により、固定化された生物活性物質、基板、及び/又はポリマー被覆材料に付着させる。適切な系においては、生体適合性組成物は有機溶媒に溶解されて同様に適用される。
【0035】
本発明の好ましい一実施態様は、解剖の部位での移植、又はその他の留置のための、殺菌された医療機器に関する。空隙スペース又は管腔を区切る解剖構造の内部に留置して、その解剖構造を補強したり、又はその解剖構造によって区切られる空隙スペースを維持したりするための殺菌された医療機器が最も好ましい。殺菌されたこのような医療機器を血管構造の内部で使用する場合、末端が結合したヘパリンの形態で固定化された生物活性物質は、その機器の中又は周囲を通過する血液と相互作用して、その機器の血液と接触する表面で血栓又はそれ以外の凝固生成物が形成されるのを最少にしたり阻止したりする。好ましい一実施態様は、追加の生体適合性有機組成物は、基板材料及び/又は被覆材料と共有結合したポリエチレングリコール化合物である。共有結合したヘパリンは、殺菌された医療機器に留まることが可能である。好ましい殺菌法には、酸化エチレンガスがある。
【0036】
医療機器の製造には機械的操作を必要とする場合があり、それは固定化された生物活性物質の生物活性を低下させることがしばしばある。上記の固定化された生物活性物質、基板材料、及び/又は被覆材料と結合した追加の生体適合性組成物は、医療機器の機械的圧縮及び延伸の後に、その固定化された生物活性物質の生物活性を維持する場合もある(図12及び図13)。膨張可能なステントとステント-グラフトは、固定化された生物活性物質の生物活性の改善が特に重要な医療機器である。
【0037】
そのため、本発明は、生物活性物質が固定化されていて、殺菌中及び殺菌後にその固定化された物質の生物活性が大きく保持される殺菌された医療機器を提供する(図9〜図11、図13)。その医療機器は、殺菌前に、例えば圧縮及び延伸のような機械的操作を施すことができ、且つ大きな生物活性を維持することができる(図12及び図13)。
【0038】
図14は、架橋した(19)ポリマー製の被覆材料又はコーティング材料(18)を表面に有する、本発明のポリマー基板(12)の実施態様(50)を概略的に示している。被覆材料(18)には、固定化された複数の生物活性物質“B”(17)が結合している。被覆材料(18)は、複数の化学反応基“R”(13)も表面に備えており、そこに生体適合性組成物“S”(15)を共有結合させることができる(図16及び図17)。いくつかの実施態様では、共有結合は解消することもできるため、適切な条件下で生体適合性組成物“S”(15)を被覆材料から放出させることができる。図15及び図17は、金属基板(14)を用いた同様の構造体(50)について概略的に示している。
【0039】
図18及び図19は、架橋した(19)ポリマー製の被覆材料又はコーティング材料(18)を表面に有する、本発明のポリマー基板(12)又は金属基板(14)の実施態様(70)を概略的に示している。被覆材料(18)は、固定化された複数の生物活性物質“B”(17)と、被覆材料に共有結合した第1の生体適合性組成物“S”(15)を備えている。いくつかの実施態様では、共有結合は解消することもできるため、適切な条件下で生体適合性組成物“S”(15)を被覆材料から放出させることができる。さらに、この実施態様は、生物活性物質“B”や生体適合性組成物“S”と混合される第2の生体適合性組成物“A”(11)を有する。
【0040】
図20及び図21は、架橋した(19)ポリマー被覆材料又はコーティング材料(18)を表面に有する、本発明のポリマー基板(12)又は金属基板(14)の実施態様(80)を概略的に示している。被覆材料(18)には、複数の生物活性物質“B”(17)が固定化されている。第1の生体適合性組成物(100)が生物活性物質(17)と結合している。さらに、この実施態様は、生物活性物質“B”や生体適合性組成物“S”と混合される第2の生体適合性組成物“A”(11)を有する。
【実施例】
【0041】
本発明における表面のヘパリン活性の計算は、サンプル全体(隙間も含む)がその表面に固定化されたヘパリンを有している場合もあるが、サンプル材料の一面だけの表面積を用いて行なった。ヘパリン活性は、末端が結合したヘパリンが既知量のアンチトロンビンIII (ATIII )と結合する能力又は容量を測定することによって分析した。結果は、基板材料1平方センチメートルに結合したアンチトロンビンIII (ATIII )のピコモル数として表わした(pmol ATIII /cm基板材料)。この分析法は、Larsen M.L.他、「Assay of plasma heparin using thrombin and the chromogenic substrate H−D−PHe−PIPArg−pNA(S−2238)」(Thromb. Res.、1978年、第13巻、285〜288ページ)、及びPasche他、「A binding of antithrombin to immobilized heparin under varying flow conditions」(Artif. Organs、1991年、第15巻、281〜491ページ)に記載されている。
【0042】
基板材料の表面積当たりのATIII 結合活性は、被覆された又は被覆されていない基板材料の見かけの表面積当たりのATIII に結合したピコモル数として定義される。基板の見かけの表面積には、被覆された複数の表面は考慮されず、多孔性基板材料の多孔度も考慮されない。基板材料が多孔性である場合には、多孔性が表面積に及ぼす効果はこれらの計算では考慮されない。例えば(多孔性材料でできた)円筒形チューブの形態のePTFE移植血管において、そのチューブ状移植血管の内面にある基板材料にヘパリンの末端が固定化されている場合の見かけの表面積は、あらゆる円筒形状と同様に2πrLとして計算される(ただしrはグラフトの内径であり、Lは軸方向の長さであり、πは円周率である)。ePTFEの多孔性と、表面積に及ぼすその効果は、この明細書では考慮しないことに注意することが重要である。したがって、分析のために切断されて正方形になる非多孔性基板材料は、長さ×幅という表面積を持つとされる。
【0043】
本発明における表面のデルマタン二硫酸活性の計算は、サンプル全体(隙間も含む)がその表面に固定化されたデルマタン二硫酸を有している場合もあるが、サンプル材料の一方の側だけの表面積を用いて行なった。デルマタン二硫酸活性は、末端が結合したデルマタン二硫酸が既知量のヘパリンコファクターII(HCII)と結合する能力又は容量を測定することによって分析した。結果は、基板材料1平方センチメートルにヘパリンコファクターII(HCII)結合のピコモル数として表わした(pmol HCII/cm基板材料)。おおよそ1cmのサイズのサンプルが構造体からに切断され、そして末端が結合したデルマタン硫酸がヘパリンコファクターII(HCII)と結合する容量をデルマタン二硫酸活性について、測定することによって分析した。このデルマタン二硫酸活性の測定は、ヘパリン活性についての、Larsen M.L.他、「Assay of plasma heparin using thrombin and the chromogenic substrate H−D−PHe−PIPArg−pNA(S−2238)」(Thromb. Res.、1978年、第13巻、285〜288ページ)、及びPasche他、「A binding of antithrombin to immobilized heparin under varying flow conditions」(Artif. Organs、1991年、第15巻、281〜491ページ)に以前に記載されているものと同様である。デルマタン二硫酸活性の分析については、HCIIは、デルマタン二硫酸表面に結合することができ、可溶性デルマタン二硫酸の過剰によりその表面から溶出され、そしてトロンビン活性についての比色分析においてトロンビンと結合される。この分析は、HCIIの媒介によるヒトトロンビンの阻害を測定することにより、存在しているHCIIの量を間接的に決定する。HCIIの量は、既知量の、デルマタン二硫酸、HCII、トロンビン、及び合成トロンビン基板を混合することによって導かれる標準曲線から決定する(アミド分解アッセイとして知られる)。可溶性デルマタン硫酸活性の測定についての、同様のアプローチが、以前に「A simple method to measure dermatan sulfate at sub−microgram concentrations in plasma」(Thromb.Heamost.1988年、第60巻、236〜239ページ)に報告されている。その結果を、基板材料単位表面積当たりのHCII結合の量(pmol/cm)で表す。全てのサンプルをその分析中を通じて、湿潤条件に保持する。おおよそ1cmのサンプルは、もし材料の両面を考慮するならば、どれも全面積で2cmを有するが、サンプルの一面(すなわち、1cm)のみがHCII−デルマタン二硫酸結合活性の計算(pmol/cm単位)に使われている、という事に注意することが重要である。
【0044】
また他の一つの方法では、構造体に固定化されているデルマタン二硫酸への放射性標識HCIIの結合の量を測定することによって、デルマタン二硫酸は直接的に定量化される。この手法は、Du Y.J.他、「Protein absorption on polyurethane catheters modified with a novel antithrombin heparin covalent complex」(J. Biomed.Master.、2007年、第80A巻、216〜225ページ)に記載された、ヘパリンが固定化された構造体へのアンチトロンビンIII 結合を測定するための方法と同様である。デルマタン二硫酸の構造体を、放射性同位体ヨウ素125(125I)によって共有結合標識されたHCII溶液でインキュベートする。インキュベート後、その表面を繰り返し洗浄し、そして構造体から放射される放射線の量をガンマカウンタにより測定する。放射とHCII質量の比が既知なので、HCIIの量を決定することができる。この結果を、基板材料単位表面積当たりのHCII結合の量(pmol/cm)で表す。
【0045】
基板材料の表面積当たりのHCII結合活性は、被覆された又は被覆されていない基板材料の見かけの表面積当たりのHCIIに結合したピコモル数として定義される。基板の見かけの表面積には、被覆された複数の表面は考慮されず、多孔性基板材料の多孔度も考慮されない。基板材料が多孔性である場合には、多孔性が表面積に及ぼす効果はこれらの計算では考慮されない。例えば(多孔性材料でできた)円筒形チューブの形態のePTFE移植血管において、そのチューブ状移植血管の内面にある基板材料にデルマタン二硫酸の末端が固定化されている場合の見かけの表面積は、あらゆる円筒形状と同様に2πrLとして計算される(ただしrはグラフトの内径であり、Lは軸方向の長さであり、πはパイという数である)。ePTFEの多孔性と、表面積に及ぼすその効果は、この明細書では考慮しないことに注意することが重要である。したがって、分析のために切断されて正方形になる非多孔性基板材料は、長さ×幅という表面積を持つとされる。
【0046】
実施例1
本実施例では、ヘパリンを酸化エチレン(EtO)殺菌プロセスに暴露した後に、結合していない「純粋な」ヘパリンが生物活性を保持していることを示す。
【0047】
本実施例では、凍結乾燥粉末形態の殺菌されていないUSPグレードのヘパリン−ナトリウムをセルサス・ラボラトリーズ社(シンシナチ、オハイオ州)から取得した。試験するため、測定した量のヘパリンをCHEX―ALL(登録商標)殺菌パウチ(ロング・アイランド・シティ、ニューヨーク州)に入れた。ヘパリンを入れた1つのグループのパウチに対してEtO殺菌を行なった。酸化エチレンを用いた殺菌は、コンディショニングが1時間、EtOガスの滞在時間が1時間、設定温度が55℃、通気時間が12時間という条件下で実施した。別のグループに対しては、EtOなしの殺菌手続きを実施した。第3のグループには殺菌手続きを行なわなかった。
【0048】
殺菌手続きの後、既知量のヘパリンを各パウチから取り出し、アメリカン・ディアグノスティカ社(スタンフォード、コネティカット州)から入手できるACTICHROMEヘパリン(抗FXa)分析キットを用いて生物活性を調べた。各ヘパリン・サンプルの生物活性の値は、ヘパリンの国際単位をヘパリンの重量で割った値(IU/mg)として表わした。ヘパリンの国際単位は、ヘパリンを触媒とするATIII によるXa因子の不活化に基づいて計算される。したがって国際単位は、ヘパリンのATIII 結合活性の1つの指標である。ヘパリン活性が少しでも低下すると、ACTICHROME試験から、同等な対照ヘパリンと比較したIU/mgの低下となってストレートに表われる。活性が低下したヘパリンは、殺菌プロセスによってある程度不活化されたと見なされる。
【0049】
図8は、EtOによる殺菌が、結合していない状態の乾燥粉末ヘパリンのアンチトロンビンIII (ATIII )結合活性に及ぼす効果を示す棒グラフである。図8は、各グループのヘパリン・サンプル(n=3)に関する活性レベルの平均を、IU/mgを単位として示している。殺菌を経ていない対照ヘパリン・サンプルは、平均値が138IU/mgであった。EtOなしの殺菌処理(すなわち高湿度、高温など)を行なった対照ヘパリン・サンプルは、平均値が119IU/mgであった。EtOの存在下で殺菌処理を行なったヘパリン・サンプルは、平均値が123IU/mgであった。EtOなしの殺菌処理を行なったヘパリン・サンプルは、殺菌していない対照サンプルと比べて活性が14%低下したのに対し、EtOの存在下で殺菌処理を行なったヘパリン・サンプルは、活性の低下がわずかに11%であった。図8からわかるように、結合していない純粋なヘパリン粉末をEtOの存在下又は不在下で殺菌したとき、殺菌していない対照サンプルと比べてヘパリンに対するATIII の結合が著しく少なくなることはない。結合していない非殺菌ヘパリンのアンチトロンビンIII 結合活性は、EtOなしの殺菌又はEtO殺菌によって著しく低下することはない。したがって、同様のEtO殺菌条件にさらした固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII 結合活性の低下は、EtO殺菌又はEtOなしの殺菌を単に行なうこと以外のメカニズムによって起こっているに違いない。
【0050】
実施例2
本実施例では、ヘパリン-アンチトロンビンIII (ATIII )の結合がEtO殺菌の暴露によっては著しく損なわれない、本発明の一実施態様による構造体について説明する。
【0051】
米国特許第4,613,665号(参考としてその内容はこの明細書に組み込まれているものとする)に従って製造されたアルデヒドで修飾されたヘパリン組成物の末端を、米国特許第6,653,457号(参考としてその内容はこの明細書に組み込まれているものとする)に従って、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の表面に配置した被覆材料又はコーティング層に結合させた。追加の生体適合性有機組成物を被覆材料及び結合したヘパリンの中に組み込み、固定化されたそのヘパリンに対してEtO殺菌を行なっても生物活性が著しく低下しないようにした。
【0052】
シート形態のePTFE材料をW.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からGORE(登録商標)マイクロ濾過媒体(GMM−406)という商品名で入手した。ベースコーティングの形態の被覆材料をそのePTFE材料に適用させるため、その被覆材料を直径10cmのプラスチック製刺繍用環状部材に取り付け、その支持されたePTFE材料をまず最初に100%イソプロピルアルコール(IPA)に約5分間浸し、次いでLUPASOL(登録商標)ポリエチレンイミン(PEI)とIPAが1:1の溶液に浸した。無水LUPASOL(登録商標)PEIはBASF社から取得し、希釈して約4%の濃度にし、pHを9.6に調節した。ePTFE材料を上記溶液の中に約15分間浸した後、材料をその溶液から取り出し、pH9.6の脱イオン(DI)水の中で15分間リンスした。ePTFE材料の表面に残ったPEIを(アムレスコ社から取得した)グルタルアルデヒドの0.05%水溶液(pH9.6)と15分間架橋させた。追加のPEIをこの構造体に付加するため、その構造体をPEIの0.5%水溶液(pH9.6)の中に15分間入れ、DI水(pH9.6)の中で15分間再びリンスした。グルタルアルデヒドとPEI層が反応した結果として形成されるイミンを、シアンホウ水素化ナトリウム(NaCNBH)溶液(5gを1リットルのDI水に溶かした、pH9.6)を用いて15分間還元し、DI水の中で30分間リンスした。
【0053】
追加のPEI層を構造体に付加するため、その構造体を0.05%グルタルアルデヒド水溶液(pH9.6)の中に15分間浸した後、0.5%PEI水溶液(pH9.6)の中に15分間浸した。次に構造体をDI水(pH9.6)の中で15分間リンスした。得られたイミンを還元するため、NaCNBH溶液(5gを1リットルのDI水に溶かした、pH9.6)の中に構造体を浸した後、DI水の中で30分間リンスした。第3層目を構造体に適用させるため、これらのステップを繰り返した。その結果、親水性の架橋したポリマー・ベースコーティングを、ベース材料の露出した面と隙間の面の実質的に全体に有する、多孔性疎水性フルオロポリマー・ベース材料が得られた。
【0054】
構造体の表面に別のPEI層を配置するための準備として、中間化学層をポリマー・ベースコーティングに付着させた。この中間イオン電荷層は、硫酸デキストラン(アマーシャム・ファルマシア・バイオテック社)と塩化ナトリウムの溶液(0.15gの硫酸デキストランと100gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH3)の中で構造体を60℃にて90分間インキュベートした後、DI水で15分間リンスすることによって作った。
【0055】
PEI層(この明細書では“キャップ層”と呼ぶ)を中間層に付着させるため、構造体を0.3%PEI水溶液(pH9)の中に約45分間入れた後、塩化ナトリウム溶液(50gのNaClを1リットルのDI水に溶かした)の中で20分間リンスした。DI水を用いた最後のリンスを20分間実施した。
【0056】
アルデヒドで修飾されたヘパリンの末端をPEI層に結合又は共役させるため、60℃のヘパリン含有塩化ナトリウム溶液(1.5gのヘパリンと29.3gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH3.9)の中に構造体を120分間入れた。体積2.86mlの2.5%(w/v)NaCNBH水溶液を1リットルのヘパリン溶液に添加した後、サンプルを添加した。次にサンプルをDI水の中で15分間リンスし、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間リンスし、最後にDI水の中で15分間リンスした後、構造体全体を凍結乾燥させることにより、乾燥ヘパリンをePTFE材料に結合させた。ヘパリンの存在と一様性は、構造体のサンプルの両側をトルイジン・ブルーで染色することによって調べた。染色によって均等に紫色になった表面が生じるというのは、ヘパリンが存在していてePTFE材料に一様に結合していることを示す。
【0057】
ヘパリンが結合した構造体に特別な化合物又は組成物を付加することにより、他の場合にはヘパリンの生物活性を低下させるであろう条件に曝露した後にヘパリンの生物活性を維持することができる。そのような条件として、限定するものではないが、EtO殺菌、機械的圧縮及び延伸、並びに保管がある。
【0058】
被覆材料でコーティングされた上記の構造体を以下の化合物の溶液に曝露し、コーティングの各部分に結合したヘパリンの生物活性を安定化させる効果を評価した。その化合物とは、USPグレードの塩化カルシウム(フィッシャー・サイエンティフィック社)、USPグレードのヘパリン・ナトリウム(セルサス社)、ポリエチレングリコール(分子量20,000、シグマ社)、DEAEデキストラン(分子量500,000、PKケミカル社)、硫酸デキストランのナトリウム塩(分子量8,000、シグマ社)、及びデキストラン(分子量9,500、シグマ社)のそれぞれをDI水100ml当たり0.5gの濃度にしてpHを9.6に調節したものである。エタノール100ml当たり0.5gのデキサメタゾンの濃度にしてpHを調節しないものも利用した。この明細書では、これら溶液のそれぞれを“処理溶液”と呼ぶ。EtO殺菌後に、アンチトロンビンに対するヘパリンの結合活性にこれらのさまざまな化合物が及ぼす効果は、基板材料1平方センチメートル(cm)に結合したアンチトロンビンIII (ATIII )のピコモル数として表わした。得られたデータを図9にまとめてある。
【0059】
特定のヘパリン含有構造体を特定の処理溶液に曝露するため、その構造体を2リットルのビーカーに入れ、そして100mlの処理溶液を添加し、その構造体を処理溶液の中に完全に浸した。各構造体を60℃の処理溶液に1時間曝露した。殺菌手続きをする前に、構造体は溶液から取り出し、凍結乾燥させた。
【0060】
EtO殺菌のための準備として、凍結乾燥させた各構造体をTower DUALPEEL(登録商標)自己気密パウチ(アリージャンス・ヘルスケア社、マクゴー・パーク、イリノイ州)の中に入れて密封した。酸化エチレンを用いた殺菌は、コンディショニングが1時間、EtOガスの滞在時間が1時間、設定温度が55℃、通気時間が12時間という条件下で実施した。
【0061】
EtO殺菌の後、各構造体(対照を含む)をパウチから取り出し、DI水の中で15分間洗浄し、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間洗浄し、最後にDI水の中で15分間リンスした。
【0062】
サイズが約1平方センチメートル(1cm)のサンプルを構造体から切り出した後、末端が結合したヘパリンがATIII に結合する能力を測定することにより、ヘパリンの活性を調べた。この分析法は、Larsen M.L.他、「Assay of plasma heparin using thrombin and the chromogenic substrate H−D−PHe−PIPArg−pNA(S−2238)」(Thromb. Res.、1978年、第13巻、285〜288ページ)、及びPasche他、「A binding of antithrombin to immobilized heparin under varying flow conditions」(Artif. Organs、1991年、第15巻、281〜491ページ)に記載されている。結果は、単位表面積当たりに結合するATIII の量として、pmol/cmの単で表わした。分析中を通じてすべてのサンプルを湿潤条件に保持した。約1平方センチメートル(1cm)の各サンプルは、もし材料の両側を考慮すると合計で2平方センチメートル(2cm)の表面積を持つが、ATIII −ヘパリン結合活性(単位はpmol/cm)の計算にはサンプルの1つの面しか利用しなかったことに注意することが重要である。
【0063】
図9は、被覆された基板材料に固定化されたヘパリンと非共有結合するさまざまな生体適合性有機組成物が、その固定化されたヘパリンのEtO殺菌への暴露後に、その固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII 結合活性に及ぼす効果を示す棒グラフである。
【0064】
固定化されたヘパリンに対するアンチトロンビンIII 結合活性は、基板材料1平方センチメートル当たりの結合したATIII のピコモル数(pmol/cm)として表示した。対照サンプルの1つの集合は殺菌しなかった。対照サンプルの別の集合は、固定化されたヘパリン及び被覆材料に非共有結合した生体適合性有機組成物がない状態でEtOを用いて殺菌した。残りの各棒は、固定化されたヘパリンと被覆材料に非共有結合した生体適合性有機組成物が存在しているときの固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII 結合活性を示している。どの棒も、n=3個のサンプルの平均値を示しているが、硫酸デキストランだけはn=6個のサンプルである。
【0065】
この棒グラフからわかるように、殺菌した対照サンプルでは、殺菌していない対照サンプルと比べてアンチトロンビンIII 結合活性が劇的に低下した。殺菌していない対照サンプルのアンチトロンビンIII 結合活性は、基板材料1cmにつき103ピコモルであった。殺菌した対照サンプルのアンチトロンビンIII 結合活性は、基板材料1cmにつき66ピコモルであった。EtOを用いて殺菌すると、殺菌していないサンプルと比べてアンチトロンビンIII 結合活性が36%低下した。
【0066】
固定化されたヘパリン及び被覆材料に非共有結合した、上記の生体適合性有機組成物が、殺菌後にアンチトロンビンIII 結合活性に及ぼす影響は、次の段落にまとめてある。各構造体からのそれぞれの生体適合性有機組成物をすでに説明したようにしてリンスした後、アンチトロンビンIII 結合活性を測定した。
【0067】
ヘパリンを構造体に付加したとき、平均アンチトロンビンIII 結合活性は108pmol/cmであった。構造体にデキストランを付加すると、平均アンチトロンビンIII 結合活性は基板材料1cmにつき98ピコモルになった。構造体に硫酸デキストランを付加したとき、平均アンチトロンビンIII 結合活性は基板材料1cmにつき134ピコモルであった。さらに、ポリエチレングリコールにより、平均アンチトロンビンIII 結合活性は基板材料1cmにつき129ピコモルになった。興味深いことに、これらの値は、殺菌していない対照サンプルの平均値である基板材料1cmにつき103ピコモルよりも大きい。
【0068】
無機物である塩化カルシウム(CaCl)を構造体に付加したとき、固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII 結合活性は基板材料1cmにつき75ピコモルであった。構造体にデキサメタゾンを付加すると、平均アンチトロンビンIII 結合活性は基板材料1cmにつき42ピコモルになった。DEAEデキストランは固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII 結合活性を低下させるらしく、基板材料1cmにつき平均活性が5ピコモルであった。
【0069】
これらの結果から、固定化されたヘパリンと被覆材料に非共有結合した適切な生体適合性組成物があると、EtO殺菌の後に、末端が結合したヘパリンがアンチトロンビンIII 結合活性を維持又は増大させる能力を持つことがわかる。
【0070】
実施例3
本実施例では、埋め込み型医療機器の1つの要素である基板材料上の、ポリマー被覆材料に末端が結合したヘパリンが有する大きいアンチトロンビンIII (ATIII )結合活性を生み出す、追加の生体適合性組成物の能力について説明する。
【0071】
この実施例で用いる埋め込み型医療機器は、多孔性の延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料からなるチューブをニチノール・ワイヤで補強した形態のものであり、W.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からVIABAHN(登録商標)内部人工器官という商品名で入手した。このチューブ状機器は、長さが15cm、直径が6mmであった。
【0072】
VIABAHN(登録商標)内部人工器官は送達用カテーテルの内部に拘束されていたため、ヘパリンをその表面に固定化する前にカテーテルから取り出す必要があった。カテーテルに拘束された各機器は、処理のため、拘束用のシースに取り付けた紐を引っ張り、そのシースを機器の周囲から解放することによって取り出した。各機器は、非拘束状態になると膨張し、独立した基板材料として使用した。それぞれの基板材料(内部人工器官機器)を、体積比が30:70のPEI溶液(DI水の中に5%)とIPA(USPグレード)に約12時間浸し、ポリマー被覆材料(18)を基板材料(12)の表面に付着させた。ポリマー被覆材料(18)は複数の反応性化学基(16)を備えており、アルデヒドで修飾された複数のヘパリン分子(17)の末端を最終的にその反応性化学基に結合させた。
【0073】
少なくとも1つの追加の被覆材料(18A、18B)層を第1のPEI層(18)の上に配置した。これは、各内部人工器官機器を別のシリコーン製チューブの中に配置し、そして、そのチューブを蠕動ポンプと溶液リザーバに接続することによって実施した。こうすることにより、被覆材料を含む追加の溶液を繰り返してチューブ状医療機器の中心を通過させることができたため、その機器の内面が主にコーティングされた。
【0074】
上記の動的流れシステムのうちの1つの中に各内部人工器官が収容された状態で、体積%比が45:55の0.10%(pH9.0)PEIとIPA水溶液の形態になった被覆材料(18)を約20分間その内部人工器官の中を通過させた。次に各内部人工器官をDI水(pH9.0)の中で5分間リンスし、0.05%グルタルアルデヒド水溶液(pH9.0)に20分間曝露することによってPEI層を架橋させた。次にこれらの内部人工器官を再びPEI水溶液(0.10%、pH9.0)で5分間リンスした。得られたイミンをシアンホウ水素化ナトリウム溶液(1リットルのDI水の中に5g、pH9.0)で15分間還元し、DI水の中で30分間リンスした。
【0075】
中間イオン電荷層を各内部人工器官の架橋したPEI層の上に配置するため、硫酸デキストランと塩化ナトリウムの溶液(0.15gの硫酸デキストランと100gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH3)を動的流れシステムの中とPEI層の上を60℃にて約90分間流した。その後、このシステムをDI水で15分間リンスした。
【0076】
PEIの“キャップ”層(18B)をイオンで帯電した硫酸デキストラン層(18A)に付加するため、PEI水溶液(0.075%、pH9.0)を動的流れシステムの中を約45分間流した後、塩化ナトリウム溶液(50gのNaClを1リットルのDI水に溶かした)の中で15分間リンスした。リンスの後、DI水を2.5分間という短時間吹きかけた。
【0077】
アルデヒドで修飾されたヘパリンの末端をPEI層に結合又は共役させるため、60℃のヘパリン含有塩化ナトリウム溶液(15gのヘパリンと29.3gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH3.9)の中に構造体を120分間入れた。体積2.86mlの2.5%(w/v)NaCNBH水溶液を1リットルのヘパリン溶液に添加してから10分後、そのステップを開始した。DI水の中で15分間1回目のリンスを行なった後、ホウ酸塩緩衝溶液(0.7gのNaClと、10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で約20分間リンスし、最後にDI水の中で15分間リンスした。次に、構造体を凍結乾燥させた。選択したサンプルをトルイジン・ブルーで染色すると、表面が一様に紫色になった。これは、ヘパリンが一様に結合していることを示す。
【0078】
上記の実施例2で説明した研究で得られた結果に基づき、USPグレードのヘパリン(ナトリウム塩)と、DI水100mlにつき0.5gの濃度にした8,000MWの硫酸デキストラン(ナトリウム塩)を好ましい生体適合性有機組成物として選択し、EtO殺菌中と殺菌後の固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII 結合活性を維持又は安定化させた。
【0079】
それぞれの好ましい生体適合性有機組成物に関し、ポリマー被覆材料に末端が結合したヘパリンを有する内部人工器官の断片を、その生体適合性有機組成物の溶液(それぞれ100mlのDI水に0.5gの濃度、pH9.6)を収容したプラスチック製チューブの中に配置し、60℃にて1時間インキュベートした。処理した各サンプルをプラスチック製チューブから取り出し、凍結乾燥させた。
【0080】
凍結乾燥させた各サンプルを個別のTower DUALPEEL(登録商標)自己気密パウチ(アリージャンス・ヘルスケア社、マクゴー・パーク、イリノイ州)の中に入れて密封し、EtOで殺菌した。酸化エチレンを用いた殺菌は、コンディショニングが1時間、EtOガスの滞在時間が1時間、設定温度が55℃、通気時間が12時間という条件下で実施した。
【0081】
酸化エチレンを用いた殺菌の後、各構造体をパウチから取り出し、DI水の中で15分間洗浄し、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間に洗浄し、最後にDI水の中で15分間リンスした。
【0082】
EtO殺菌した各機器から基板材料のサンプル(長さ約0.5cm)を切り出し、そして上記のATIII 結合分析法(実施例2)を利用し、固定化されたヘパリンの生物活性を測定した。サンプルは、分析プロセスを通じて湿潤な状態に維持した。結果は、機器の全表面積(すなわち反管腔側の面と管腔面の両方)ではなく、各機器の管腔面で測定した基板材料の単位面積当たりのアンチトロンビンIII に結合したピコモル数(pmol/cm)として表わした。
【0083】
図10は、ヘパリンと硫酸デキストランの形態である別々の生体適合性有機組成物が、EtOによる殺菌中及び殺菌後に、被覆された基板材料に固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII 結合活性に及ぼす効果を示す棒グラフである。アンチトロンビンIII 結合活性は、基板材料1平方センチメートル当たりの結合したアンチトロンビンIII のピコモル数として表わす。結果からわかるように、生体適合性有機組成物としてヘパリンと硫酸デキストランを用いると、EtO殺菌後に、固定化されたヘパリンに対するアンチトロンビンIII 結合活性は大きく、それぞれ基板材料1cmにつき97ピコモルと91ピコモルである。どの棒も、n=6個のサンプルの平均値を表わしている。
【0084】
実施例4
本実施例では、本発明の一実施態様の構造体として、アルデヒドで修飾されたヘパリンの末端を、イオン的に中性の第1の被覆層を含むポリマー被覆材料に結合させた構造体について説明する。この構造体のヘパリン−ATIII 結合は、EtO殺菌によって著しくは減少しなかった。
【0085】
この構造体でベースコーティングとして用いる被覆材料は、ヘパリン含有の被覆材料又はコーティングが、イオン電荷を本質的に持たないように選択した。ポリビニルアルコールとPEIを被覆材料として使用した。
【0086】
米国特許第6,653,457号(参考としてその内容はこの明細書に組み込まれているものとする)に従い、アルデヒドで修飾されたヘパリン組成物の末端を、被覆された基板材料に結合させた。基板材料(12)は、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料であった。追加の生体適合性有機組成物(100)を構造体のヘパリン含有被覆材料(18)に組み込み、EtO殺菌によってヘパリンの生物活性が著しく低下しないようにした。
【0087】
シート形態のePTFE材料をW.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からGORE(登録商標)マイクロ濾過媒体(GMM−406)という商品名で入手した。被覆材料層又はベースコーティングをePTFE基板材料に適用させるため、その被覆材料を直径10cmのプラスチック製刺繍用環状部材に取り付け、その支持されたePTFE材料をまず最初に100%イソプロピルアルコール(IPA)に約5分間浸した。その後、そのePTFE材料をUSPグレードのポリビニルアルコール(PVA)(スペクトラム社)の2%水溶液に15分間浸した。DI水の中で15分間リンスした後、PVA層を2%のグルタルアルデヒドと1%の塩酸(HCl)を含む水溶液に15分間曝露し、その場でPVA(18)を架橋させた(19)。この構造体をDI水の中で15分間リンスした後、DI水による2回目の15分間のリンスを行なった。得られた架橋したPVAベースコーティングは、正味のイオン電荷を持っていなかった。
【0088】
ポリマー被覆材料(18A)からなる別の層を構造体に付加するため、その構造体を0.15%PEI水溶液(pH10.5)に30分間浸した。得られたイミンを還元するため、構造体をシアンホウ水素化ナトリウム水溶液(1リットルのDI水の中に5g、pH10.5)に15分間浸した。構造体をDI水の中で15分間リンスした後、DI水による2回目の15分間のリンスを行なった。
【0089】
表面に複数の反応性化学基を有する被覆されたePTFE基板材料を、60℃にしたヘパリン溶液(1.0gのヘパリンと29.3gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH3.9)に90分間浸した。体積2.86mlの2.5%(w/v)NaCNBH水溶液を1リットルのヘパリン溶液に添加した後、このステップを開始した。DI水の中で15分間1回目のリンスを行なった後、ホウ酸塩緩衝溶液(0.7gのNaClと、10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で約20分間リンスし、最後にDI水の中で15分間リンスした。次に、構造体を凍結乾燥させた。次に、構造体のサンプルをトルイジン・ブルーで染色した。この染色により、表面が一様に紫色になった。これは、ヘパリンが、被覆されたePTFE材料の表面に一様に結合していることを示す。
【0090】
USPグレードの8,000MWの硫酸デキストラン(ナトリウム塩)(シグマ社)の形態になった生体適合性有機組成物を含む水溶液で構造体を処理するため、その構造体を60℃にした100mlの処理溶液(0.5gの硫酸デキストラン/100mlのDI水、pH9.6)に1時間浸した。構造体を処理溶液から取り出し、凍結乾燥させた。
【0091】
凍結乾燥させた各サンプルをTower DUALPEEL(登録商標)自己気密パウチ(アリージャンス・ヘルスケア社、マクゴー・パーク、イリノイ州)の中に入れ、EtOで殺菌した。酸化エチレンを用いた殺菌は、コンディショニングが1時間、EtOガスの滞在時間が1時間、設定温度が55℃、通気時間が12時間という条件下で実施した。
【0092】
EtO殺菌の後、各構造体(対照を含む)をパウチから取り出し、DI水の中で15分間洗浄し、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間洗浄し、最後にDI水の中で15分間リンスした。
【0093】
ヘパリンの末端が結合した膜のサンプル(約1cm)を切り出した後、上記のATIII 結合分析法(実施例2)を利用し、その固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII 結合活性を測定した。サンプルは、分析プロセスを通じて湿潤な状態に維持した。結果は、基板材料の単位面積当たりアンチトロンビンIII に結合したピコモル数(pmol/cm)として表わした。
【0094】
図11は、EtOによる殺菌後に、硫酸デキストランの形態である生体適合性有機組成物が、延伸多孔性ポリテトラフルオロエチレン基板材料、並びにポリビニルアルコール及びPEIの被覆材料に、末端が固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII 結合活性に及ぼす影響を示す棒グラフである。固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII 結合活性は、基板材料1平方センチメートル当たりのアンチトロンビンIII に結合したピコモル数として表わす。
【0095】
殺菌していない対照サンプルのアンチトロンビンIII 結合活性は、基板材料1平方センチメートル当たり150ピコモルであった。殺菌した対照サンプルのアンチトロンビンIII 結合活性は、基板材料1平方センチメートル当たり93ピコモルであった。酸化エチレンで殺菌したサンプルを硫酸デキストランで処理したものは、アンチトロンビンIII 結合活性が基板材料1平方センチメートル当たり115ピコモルであった。この値は、酸化エチレンで殺菌した機器を硫酸デキストラン処理溶液に曝露しなかった場合の対照値(すなわち基板材料1平方センチメートル当たり93ピコモル)よりも大きかった。これは、付加された硫酸デキストランにより、EtO殺菌の後に、固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII 結合活性が増大したことを示している。これら構造体のどちらも、非処理でEtOを用いずに殺菌した対照(基板材料1平方センチメートル当たり150ピコモル)よりもアンチトロンビンIII 結合活性が著しく低かった。
【0096】
結果からわかるように、硫酸デキストランは、EtO後、イオン的に中性の第1の被覆層を含むポリマー被覆材料を有する構造体に固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII 結合活性に大きな影響を与えた。どの棒も、n=3個のサンプルの平均値を表わしている。
【0097】
実施例5
本実施例では、追加の生体適合性有機組成物が、ヘパリンの生物活性を大きく低下させるのに十分な大きさの機械的応力を印加している間及び印加後に、被覆された基板材料に固定化された生物活性を有するヘパリンの生物活性を維持又は増大させる能力について説明する。
【0098】
この実施例では、上記の実施例3に記載したようにして、管腔内人工器官の形態の埋め込み型医療機器にヘパリン含有コーティングを設けた。各人工器官は、多孔性の延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料からなるチューブをニチノール・ワイヤで補強した形態のものであり、W.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からVIABAHN(登録商標)内部人工器官という商品名で入手した。このチューブ状機器は、長さが15cm、直径が6mmであった。機器の表面にヘパリン含有コーティングを形成するのに実施例3に詳述したのと同じ方法を利用した。
【0099】
生体適合性有機組成物(100)で処理するため、アルデヒドで修飾されたヘパリン(17)が少なくとも一部に結合したポリマー被覆材料(18)を用い、管腔内機器の基板材料(12)を製造した。製造した機器の断片をプラスチック製チューブの中に配置し、60℃のグリセロール溶液(100mlのDI水の中に5mlのシグマ−オールドリッチ社のシグマウルトラ・グリセロール、pH9.6)とともに1時間インキュベートした。処理した各機器をプラスチック製チューブから取り出して凍結乾燥させた。
【0100】
円筒形の各内部人工器官を血管内送達システムの上に配置し、拘束用のシースを用いて送達システムに拘束するのに十分な小ささになるまで機械的に圧縮した。実施例3に従って作った機器は、コーティング中に組み込まれたヘパリンの活性を著しく低下させることなく、送達システム上の内部人工器官の圧縮に伴う機械的応力に耐えることができる。
【0101】
試験する各内部人工器官に対して正反対の操作である圧縮及び延伸をさせている間、末端が結合されたヘパリンの生物活性が維持されるよう、非共有結合する生体適合性有機組成物(100)としてグリセロールを選択した。対照となる各内部人工器官の断片は、末端が結合した(すなわち共有結合した)ヘパリン(17)とポリマー被覆材料(18)に加えて非共有結合した生体適合性グリセロール組成物(100)を含むことはなかった。各内部人工器官を凍結乾燥させた。
【0102】
送達システムの上で管腔内機器を圧縮してコンパクトにするため、各内部人工器官を引っ張り、直径が固定されたテーパー状漏斗の中を通過させた。各内部人工器官には、引っ張って漏斗の中を通過させるため、一端に6本の縫合糸(Gore−Tex(登録商標)CV−0、0N05)が縫い付けられていた。各内部人工器官を引っ張ることにより直径が約3mmである25mlのピペットの先端(Falcon(登録商標)、製品番号357525)の開口部を通過させ、そして直径が約3.1mmのガラス製チューブの中に入れることで、各内部人工器官をコンパクトな状態に保持した。
【0103】
圧縮の後、各内部人工器官を37℃の0.9%生理食塩水の中で広げ、リンスし、この明細書に記載したようにしてアンチトロンビンIII 結合活性を調べた。結果を図12に示してある。試験用の各内部人工器官を作るため、DI水の中で15分間洗浄した後、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸、2.7gのNaOH、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間リンスし、最後にDI水の中で15分間リンスした。
【0104】
各内部人工器官からヘパリン含有材料のサンプル(長さ約0.5cm)を切り出し、そして上記のATIII 結合分析法(実施例2)を利用して、その固定化されたヘパリンの生物活性を測定した。サンプルは、分析プロセスを通じて湿潤な状態に維持した。結果は、基板材料の単位面積当たりのアンチトロンビンIII 結合のピコモル数(pmol/cm)として表わした。
【0105】
図12は、ヘパリンが固定化されたグリセロール組成物が、圧縮及び延伸の後に、被覆された基板材料に及ぼす効果を示す棒グラフである。結果から、固定化されたヘパリンにグリセロールを付加すると、その固定化されたヘパリンの圧縮及び延伸の後に、結合したヘパリンのアンチトロンビンIII 結合活性は、グリセロールが付加されていない同様の処理をされた対照サンプルと比較して著しく大きくなることがわかる。鉛直方向のどの棒も、n=3個のサンプルの平均値を表わしている。
【0106】
生体適合性有機グリセロール組成物が付加されていないポリマー被覆材料に固定化されたヘパリンに対して正反対の操作である圧縮及び延伸を行なうと、同様の構成になっていて同様の処理をした対照材料にその正反対の操作である圧縮及び延伸を行なわなかった場合(137pmol/cm)と比較し、アンチトロンビンIII 結合活性が著しく低下した(85pmol/cm)。ヘパリンが固定化された被覆された基板材料を生体適合性有機グリセロール組成物で処理し、処理しない構造体と同じ機械的操作を施すと、固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII 結合活性は、対照材料と似た値に留まった(129pmol/cm)。
【0107】
実施例6
本実施例では、生体適合性有機組成物の付加が、圧縮、延伸、EtO殺菌という操作を施した後に、実施例3と5に記載したコーティングされた医療機器のアンチトロンビンIII 結合活性に及ぼす効果について説明する。
【0108】
本実施例で用いる埋め込み型医療機器は、実施例3に記載したのと同様にして構成した。この医療機器は、多孔性の延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料からなるチューブをニチノール・ワイヤで補強した形態のものであり、W.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からVIABAHN(登録商標)内部人工器官という商品名で入手した。このチューブ状機器は、長さが15cm、直径が6mmであった。この機器の表面にヘパリン含有コーティングを形成するのに実施例3に詳述したのと同じ方法を利用した。
【0109】
生体適合性有機組成物(100)で処理するため、アルデヒドで修飾されたヘパリン(17)が少なくとも一部に結合したポリマー被覆材料(18)を用い、管腔内機器の基板材料(12)を作成した。製造した機器をプラスチック製チューブの中に配置し、ヘパリンとグリセロールとの溶液(100mlのDI水の中に0.5gのUSPヘパリンと5mlのグリセロールを溶かした、pH9.6)とともに60℃にて1時間インキュベートした。実施例2、3、及び5の結果に基づいてこれらの化合物を選択した。処理した各機器をヘパリンとグリセロールとの溶液から取り出して凍結乾燥させた。機器に対する以後の処理及び分析は、上記の実施例5と同じであった。
【0110】
図13は、グリセロール及びヘパリンの形態である生体適合性物質が持つ、基板材料上のポリマー被覆材料に固定化されたヘパリンの、生物活性を維持するための能力を示す棒グラフである。これは、基板、及びヘパリンが固定化されたポリマー被覆材料への、EtO殺菌操作、並びに圧縮及び延伸という機械的操作の暴露の、操作中と操作後の両方で、生物活性を維持する能力である。鉛直方向のどの棒も、n=3個のサンプルの平均値を表わしている。
【0111】
生体適合性有機組成物であるグリセロール及びヘパリンが付加されておらず、且つEtO殺菌操作、並びに正反対の操作である圧縮及び延伸という操作に暴露された、ヘパリン固定の被覆された基板材料では、アンチトロンビンIII 結合活性が、EtO殺菌操作、並びに正反対の操作である圧縮及び延伸という操作を施していない、同様の構成で同様の処理をした対照材料(158pmol/cm)と比較し、著しく低下した(63pmol/cm)。ヘパリン固定の被覆された基板材料を生体適合性有機組成物であるグリセロール及びヘパリンで処理し、その処理をしていない構造体と同じEtO殺菌条件及び機械的操作にさらすと、固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII 結合活性はその対照材料と似た値に留まった(147pmol/cm)。
【0112】
実施例7
本実施例では、ヘパリンでコーティングされた市販の医療機器のアンチトロンビンIII 結合活性が比較的小さいことを示す。この機器は、長さが50cm、直径が6mmで、殺菌されて包装されたヘパリンがコーティングされた移植血管であり、ジョテック社(ヘヒンゲン、ドイツ)からFLOWLINE BIPORE(登録商標)ヘパリンコーティング移植血管(カタログ番号15TW5006N)という商品名で入手できた。製造者によると、このチューブ状移植血管は、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料でできており、ヘパリンがこのグラフトの管腔面に共有結合とイオン結合によって結合している。ヘパリンは安定でePTFEに永久的に結合していると製造者は述べている。ヘパリン含有グラフトの表面は抗血栓であるとのことである。
【0113】
このヘパリン含有移植血管のサンプル(長さ0.5cm)を入手し、上記の実施例2に記載したようにして試験した。本発明の材料と同様、移植血管のアンチトロンビンIII 結合活数(pmol/cm)として表わした。前の実施例と同様、機器の全表面積ではなく、各機器の管腔の表面積だけを測定した。ATIII 結合分析の結果から、生物活性を有するヘパリンが移植血管の管腔面に存在しているという製造者の主張にもかかわらず、アンチトロンビンIII 結合活性は見られなかった。アンチトロンビンIII 結合活性分析では、基板材料1平方センチメートル当たり約5ピコモル(5pmol/cm)以上のレベルのアンチトロンビンIII 結合活性を検出できることに注意されたい。
【0114】
実施例8
本実施例では、生体適合性有機組成物としてのペプチド抗生剤を、被覆又はコーティングされた基板材料に固定化された生物活性を有するヘパリンと組み合わせて利用することについて説明する。この構造体は、EtO殺菌の後に顕著なATIII 結合を示した。
【0115】
本実施例では、シート形態のePTFE材料をW.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からGORE(登録商標)マイクロ濾過媒体(GMM―406)という商品名で入手し、実施例2と実質的に同じ方法を用いてヘパリン含有コーティングを施した。
【0116】
上記の構造体をバシトラシン(72,000単位/グラム)の溶液(100mlの脱イオン水(DI水)に0.5gの濃度)に曝露するため、その構造体を100mlのバシトラシン溶液に室温にて3時間浸した。構造体を溶液から取り出し、凍結乾燥させた後、殺菌手続きを実施した。
【0117】
EtO殺菌のための準備として、凍結乾燥させた各構造体をTower DUALPEEL(登録商標)自己気密パウチ(アリージャンス・ヘルスケア社、マクゴー・パーク、イリノイ州)の中に入れて密封した。酸化エチレンを用いた殺菌は、コンディショニングが1時間、EtOガスの滞在時間が1時間、設定温度が55℃、通気時間が12時間という条件下で実施した。
【0118】
EtO殺菌の後、構造体をパウチから取り出し、DI水の中で15分間洗浄し、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1000mlのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間洗浄し、最後にDI水の中で15分間リンスした。
【0119】
ヘパリンの末端が結合した膜のサンプル(約1cm2)を切り出した後、上記のATIII 結合分析法(実施例2)を利用し、その固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII 結合活性を測定した。サンプルは、分析プロセスを通じて湿潤な状態に維持した。結果は、基板材料の単位面積当たりの結合したアンチトロンビンIII のピコモル数(pmol/cm)として表わした。
【0120】
バシトラシンで処理した後に酸化エチレンで殺菌したサンプルは、アンチトロンビンIII 結合活性が9pmol/cmであった(n=3)。
【0121】
実施例9
本実施例では、被覆又はコーティングされた基板材料に固定化された生物活性のあるヘパリンをEtO殺菌した後、生体適合性有機組成物を付加することについて説明する。本実施例では、生体適合性有機組成物としてペプチド抗生剤を選択した。このようにして処理した構造体は、EtO殺菌の後、顕著なヘパリン−ATIII 結合を有していた。
【0122】
本実施例では、シート形態のePTFE材料をW.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からGORE(登録商標)マイクロ濾過媒体(GMM−406)という商品名で入手し、実施例2と実質的に同じ方法を用いてヘパリン含有コーティングを施した。
【0123】
EtO殺菌のため、凍結乾燥させた各構造体をTower DUALPEEL(登録商標)自己気密パウチ(アリージャンス・ヘルスケア社、マクゴー・パーク、イリノイ州)の中に入れて密封した。酸化エチレンを用いた殺菌は、コンディショニングが1時間、EtOガスの滞在時間が1時間、設定温度が55℃、通気時間が12時間という条件下で実施した。
【0124】
EtO殺菌の後、構造体をNUAIREバイオハザード対策用安全キャビネット、クラスII、タイプA/B3、モデルNU−425−600(プリマス、ミネソタ州)の中で無菌状態で処理した。
【0125】
サイズが約1平方センチメートル(1cm)の殺菌したサンプルを構造体から切り出し、そして濾過殺菌したバシトラシン溶液(ホスピラ社から購入した0.9%塩化ナトリウム洗浄溶液10mlに77000単位/gのものを649.4mg溶かした)に浸したところ、USPグレードの0.9%塩化ナトリウム洗浄溶液1mlにつき約5000単位の濃度になった。サンプルを室温にて2分間このバシトラシン溶液に曝露した。
【0126】
サンプルを溶液から取り出し、DI水の中で15分間洗浄し、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸、2.7gのNaOH、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間洗浄し、最後にDI水の中で15分間リンスした。
【0127】
ヘパリンの末端が結合したシート材料のサンプル(約1cm)を切り出した後、上記のATIII 結合分析法(実施例2)を利用し、その固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII 結合活性を測定した。サンプルは、分析プロセスを通じて湿潤な状態に維持した。結果は、基板材料の単位面積当たりの結合したアンチトロンビンIII のピコモル数(pmol/cm)として表わした。
【0128】
最初に酸化エチレンで殺菌し、次いでバシトラシンを用いて処理したサンプルは、アンチトロンビンIII 結合活性が185pmol/cmであった(n=3)。この結果からわかるように、被覆された基板材料に固定化された生物活性のあるヘパリンを殺菌した後に、そのヘパリンの生物活性を著しく低下させることなく治療剤をそのヘパリンと混合することができる。
【0129】
実施例10
本実施例では、被覆された基板材料に固定化された生物活性のあるヘパリンを生体適合性有機組成物と混合し、EtO殺菌し、そして最後にペプチド抗生剤で処理することについて説明する。このようにして処理した構造体は、顕著なヘパリン−ATIII 結合を有する。
【0130】
本実施例では、シート形態のePTFE材料をW.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からGORE(登録商標)マイクロ濾過媒体(GMM−406)という商品名で入手し、実施例2と実質的に同じ方法を用いてヘパリン含有コーティングを施した。
【0131】
上記の構造体を、100mlのDI水につき0.5gの濃度にしてpHを9.6に調節したポリエチレングリコール(分子量20,000、シグマ社)の溶液に曝露した。構造体をビーカーの中に入れ、100mlのポリエチレングリコール溶液を添加して構造体をその溶液の中に完全に浸した。構造体を60℃にて1時間そのポリエチレングリコール溶液に曝露した。構造体を溶液から取り出し、凍結乾燥させた後、殺菌手続きを行なった。
【0132】
EtO殺菌のため、凍結乾燥させた構造体をConvertors(登録商標)自己気密パウチ(カーディナル・ヘルス社、マクゴー・パーク、イリノイ州)の中に入れて密封した。酸化エチレンを用いた殺菌は、コンディショニングが1時間、EtOガスの滞在時間が1時間、設定温度が55℃、通気時間が12時間という条件下で実施した。
【0133】
EtO殺菌の後、構造体をNUAIREバイオハザード対策用安全キャビネット、クラスII、タイプA/B3、モデルNU−425-600(プリマス、ミネソタ州)の中で無菌状態で処理した。
【0134】
サイズが約1平方センチメートル(1cm2)の殺菌したサンプルを構造体から切り出した後、濾過殺菌したバシトラシン溶液(0.9%塩化ナトリウム洗浄溶液10mlに77000単位/gのものを649.4mg溶かした)に浸したところ、USPグレードの0.9%塩化ナトリウム洗浄溶液1mlにつき約5000単位の濃度になった。サンプルを室温にて2分間このバシトラシン溶液に曝露した。
【0135】
サンプルを溶液から取り出し、DI水の中で15分間洗浄し、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸、2.7gのNaOH、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間洗浄し、最後にDI水の中で15分間リンスした。
【0136】
ヘパリンの末端が結合した膜のサンプル(約1cm)を切り出した後、上記のATIII 結合分析法(実施例2)を利用し、その固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII 結合活性を測定した。サンプルは、分析プロセスを通じて湿潤な状態に維持した。結果は、基板材料の単位面積当たりのアンチトロンビンIII に結合したピコモル数(pmol/cm)として表わした。
【0137】
最初にポリエチレングリコールで処理し、酸化エチレンで殺菌し、次いでバシトラシンで処理したサンプルは、アンチトロンビンIII 結合活性が195pmol/cmであった(n=3)。したがって、生物活性のあるヘパリンが固定化されていて、そのヘパリンに第1の生体適合性有機組成物(PEG)が混合された、殺菌済みの被覆された基板材料は、EtO殺菌の後に第2の生体適合性有機組成物(バシトラシン)でさらに処理するとき、顕著なATIII 結合活性を維持することができる。
【0138】
実施例11
本実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料又はコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、生体適合性有機組成物(アルデヒドで活性化させたデキストラン)を被覆材料に共有結合させることについて説明する。この組成物をEtOで殺菌した後、ヘパリンは大きな生物活性を示した。
【0139】
本実施例では、シート形態のePTFE材料をW.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からGORE(登録商標)マイクロ濾過媒体(GMM−406)という商品名で入手した。このePTFE材料には実施例2と実質的に同じ方法を用いてヘパリン含有コーティングを施したが、構造体をコーティングした後、凍結乾燥させるのではなく、DI水の中に保管した。
【0140】
被覆材料でコーティングされた上記の構造体を、アルデヒドで活性化させたデキストラン(分子量40,000、ピアス社)溶液(アルデヒドで活性化させたデキストラン0.050gとNaCl2.93gを100mlのDI水に溶かした、pH5.5)に60℃にて120分間曝露した。体積0.286mlの2.5%(w/v)NaCNBH水溶液をアルデヒドで活性化させたデキストラン溶液100mlに添加した後、サンプルを添加した。
【0141】
アルデヒドで活性化させたデキストラン溶液から構造体を取り出し、DI水の中で15分間洗浄し、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1,000mlのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間洗浄し、最後にDI水の中で15分間リンスした後、構造体全体を凍結乾燥させることにより、ePTFE材料に結合した乾燥ヘパリンを生成させた。
【0142】
EtO殺菌のための準備として、凍結乾燥させた構造体をConvertors(登録商標)自己気密パウチ(カーディナル・ヘルス社、マクゴー・パーク、イリノイ州)の中に入れて密封した。酸化エチレンを用いた殺菌は、コンディショニングが1時間、EtOガスの滞在時間が1時間、設定温度が55℃、通気時間が12時間という条件下で実施した。
【0143】
ヘパリンの末端が結合した殺菌済みの膜のサンプル(約1cm)を切り出した後、上記のATIII 結合分析法(実施例2)を利用し、その固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII 結合活性を測定した。結果は、基板材料の単位面積当たりの結合したアンチトロンビンIII のピコモル数(pmol/cm)として表わした。
【0144】
本実施例で記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII 結合活性の平均値が65pmol/cmであった(n=3)。本実施例から、末端が共有結合したヘパリンに加え、生体適合性有機組成物をコーティング層に共有結合させたとき、EtO殺菌の後にヘパリンの大きな活性を維持できることがわかる。
【0145】
実施例12
本実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料又はコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、生体適合性有機組成物(アルデヒドで活性化させたポリエチレングリコール、分子量1,000)を被覆材料に共有結合させることについて説明する。この組成物をEtO殺菌した後、ヘパリンは大きな生物活性を示した。
【0146】
本実施例では、シート形態のePTFE材料をW.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からGORE(登録商標)マイクロ濾過媒体(GMM−406)という商品名で入手した。このePTFE材料には実施例2と実質的に同じ方法を用いてヘパリン含有コーティングを施したが、構造体をコーティングした後、凍結乾燥させるのではなく、DI水の中に保管した。
【0147】
被覆材料でコーティングされた上記の構造体を、アルデヒドで活性化させたPEG(分子量1,000、ナノックス社)溶液(0.20gのPEGと3.90gのNaClを133mlのDI水に溶かした、pH5.5)に60℃にて120分間曝露した。体積0.380mlの2.5%(w/v)NaCNBH水溶液を100mlのPEG溶液に添加した後、サンプルを添加した。
【0148】
構造体をPEG溶液から取り出し、DI水の中で15分間洗浄し、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1,000mlのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間洗浄し、最後にDI水の中で15分間リンスした後、構造体全体を凍結乾燥させることにより、ePTFE材料に結合した乾燥ヘパリンを生成させた。
【0149】
EtO殺菌のための準備として、凍結乾燥させた構造体をConvertors(登録商標)自己気密パウチ(カーディナル・ヘルス社、マクゴー・パーク、イリノイ州)の中に入れて密封した。酸化エチレンを用いた殺菌は、コンディショニングが1時間、EtOガスの滞在時間が1時間、設定温度が55℃、通気時間が12時間という条件下で実施した。
【0150】
ヘパリンの末端が結合した殺菌済みの膜のサンプル(約1cm)を切り出した後、上記のATIII 結合分析法(実施例2)を利用し、その固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII 結合活性を測定した。結果は、基板材料の単位面積当たりの結合したアンチトロンビンIII のピコモル数(pmol/cm)として表わした。
【0151】
本実施例で記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII 結合活性の平均値が96pmol/cmであった(n=3)。本実施例から、末端が共有結合したヘパリンに加え、生体適合性有機組成物をコーティング層に共有結合させたとき、ヘパリンは大きな活性を維持できることがわかる。
【0152】
実施例13
本実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料又はコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、生体適合性有機組成物(アルデヒドで活性化させたポリエチレングリコール、分子量5,000)を被覆材料又はコーティング材料に共有結合させることについて説明する。この組成物をEtO殺菌した後、ヘパリンは大きな生物活性を示した。
【0153】
本実施例では、シート形態のePTFE材料をW.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からGORE(登録商標)マイクロ濾過媒体(GMM−406)という商品名で入手した。このePTFE材料には実施例2と実質的に同じ方法を用いてヘパリン含有コーティングを施したが、構造体をコーティングした後、凍結乾燥させるのではなく、DI水の中に保管した。
【0154】
被覆材料でコーティングされた上記の構造体を、アルデヒドで活性化させたPEG(分子量5,000、ナノックス社)溶液(0.20gのPEGと3.90gのNaClを133mlのDI水に溶かした、pH5.5)に60℃にて120分間曝露した。体積0.380mlの2.5%(w/v)NaCNBH水溶液を100mlのPEG溶液に添加した後、サンプルを添加した。
【0155】
構造体をPEG溶液から取り出し、DI水の中で15分間洗浄し、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1,000mlのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間洗浄し、最後にDI水の中で15分間リンスした後、構造体全体を凍結乾燥させることにより、ePTFE材料に結合した乾燥ヘパリンを生成させた。
【0156】
EtO殺菌のための準備として、凍結乾燥させた構造体をConvertors(登録商標)自己気密パウチ(カーディナル・ヘルス社、マクゴー・パーク、イリノイ州)の中に入れて密封した。酸化エチレンを用いた殺菌は、コンディショニングが1時間、EtOガスの滞在時間が1時間、設定温度が55℃、通気時間が12時間という条件下で実施した。
【0157】
ヘパリンの末端が結合した殺菌済みの膜のサンプル(約1cm)を切り出した後、上記のATIII 結合分析法(実施例2)を利用し、その固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII 結合活性を測定した。結果は、基板材料の単位面積当たりの結合したアンチトロンビンIII のピコモル数(pmol/cm)として表わした。
【0158】
本実施例で記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII 結合活性の平均値が64pmol/cmであった(n=3)。本実施例から、末端が共有結合したヘパリンに加え、生体適合性有機組成物をコーティング層に共有結合させたとき、ヘパリンは大きな活性を維持できることがわかる。
【0159】
実施例14
本実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料又はコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、生体適合性有機組成物(EDCで活性化させたUSPヘパリン)を被覆材料に共有結合させることについて説明する。この組成物をEtO殺菌した後、ヘパリンは大きな生物活性を示した。
【0160】
本実施例では、シート形態のePTFE材料をW.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からGORE(登録商標)マイクロ濾過媒体(GMM−406)という商品名で入手した。このePTFE材料には実施例2と実質的に同じ方法を用いてヘパリン含有コーティングを施したが、構造体をコーティングした後、凍結乾燥させるのではなく、DI水の中に保管した。
【0161】
末端が結合したヘパリンをすでに含むPEI層にUSPグレードのヘパリンを結合又は共役させるため、USPグレードのヘパリンを含む60℃の塩化ナトリウム溶液(15gのUSPヘパリンと29.3gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH3.9)の中に120分間構造体を入れた。0.1MのMES(2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸)BupH(登録商標)MES緩衝化生理食塩水(ピアス社)と、15gのUSPヘパリンと、29.3gのNaClと、0.20gのN−(3−ジメチルアミノプロピル)−N−エチルカルボジイミドヒドロクロリド(EDC)と、0.13gのN−ヒドロキシスルホスクシンイミド(NHS)とを1リットルのDI水に溶かした溶液(pH5.5)に構造体を移し、4時間室温にした。
【0162】
構造体を上記溶液から取り出し、DI水の中で15分間洗浄し、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1,000mlのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間洗浄し、最後にDI水の中で15分間リンスした後、構造体全体を凍結乾燥させることにより、ePTFE材料に結合した乾燥ヘパリンを生成させた。
【0163】
EtO殺菌のための準備として、凍結乾燥させた構造体をConvertors(登録商標)自己気密パウチ(カーディナル・ヘルス社、マクゴー・パーク、イリノイ州)の中に入れて密封した。酸化エチレンを用いた殺菌は、コンディショニングが1時間、EtOガスの滞在時間が1時間、設定温度が55℃、通気時間が12時間という条件下で実施した。
【0164】
ヘパリンの末端が結合した殺菌済みの膜のサンプル(約1cm)を切り出した後、上記のATIII 結合分析法(実施例2)を利用し、その固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII 結合活性を測定した。結果は、基板材料の単位面積当たりの結合したアンチトロンビンIII のピコモル数(pmol/cm)として表わした。
【0165】
本実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII 結合活性の平均値が31pmol/cm(n=3)であった。本実施例から、末端が共有結合したヘパリンに加え、生体適合性有機組成物をコーティング層に共有結合させたとき、ヘパリンは大きな活性を維持できることがわかる。
【0166】
実施例15
本実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料又はコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、そのヘパリンをそのコーティング層に2回目の共有結合をさせることについて説明する。末端が共有結合したヘパリンの2回目の共有結合を実現するため、カルボン酸基をEDCで活性化させ、そしてコーティング層に存在する残った第一級アミノ基と反応させた。この組成物をEtOで殺菌した後、ヘパリンは大きな生物活性を示した。
【0167】
本実施例では、シート形態のePTFE材料をW.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からGORE(登録商標)マイクロ濾過媒体(GMM−406)という商品名で入手した。このePTFE材料には実施例2と実質的に同じ方法を用いてヘパリン含有コーティングを施したが、構造体をコーティングした後、凍結乾燥させるのではなく、DI水の中に保管した。
【0168】
0.1MのMES(2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸)BupH(登録商標)MES緩衝化生理食塩水(ピアス社)と、15gのUSPヘパリンと、29.3gのNaClと、0.20gのN−(3−ジメチルアミノプロピル)−N−エチルカルボジイミドヒドロクロリド(EDC)と、0.13gのN−ヒドロキシスルホスクシンイミド(NHS)とを1リットルのDI水に溶かした溶液(pH5.5)に膜を移し、4時間室温にした。
【0169】
構造体を上記溶液から取り出し、DI水の中で15分間洗浄し、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1,000mlのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間洗浄し、最後にDI水の中で15分間リンスした後、構造体全体を凍結乾燥させることにより、ePTFE材料に結合した乾燥ヘパリンを生成させた。
【0170】
EtO殺菌のための準備として、凍結乾燥させた構造体をConvertors(登録商標)自己気密パウチ(カーディナル・ヘルス社、マクゴー・パーク、イリノイ州)の中に入れて密封した。酸化エチレンを用いた殺菌は、コンディショニングが1時間、EtOガスの滞在時間が1時間、設定温度が55℃、通気時間が12時間という条件下で実施した。
【0171】
ヘパリンの末端が結合した殺菌済みの膜のサンプル(約1cm)を切り出した後、上記のATIII 結合分析法(実施例2)を利用し、その固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII 結合活性を測定した。結果は、基板材料の単位面積当たりの結合したアンチトロンビンIII のピコモル数(pmol/cm)として表わした。
【0172】
本実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII 結合活性の平均値が20pmol/cm(n=3)であった。本実施例から、ヘパリンは、末端を共有結合させることに加えてさらにコーティング層に共有結合させたとき、EtO殺菌の後にヘパリンが大きな活性を維持できることがわかる。
【0173】
実施例16
本実施例では、生体適合性有機組成物としてのペプチド抗生剤を、被覆された基板材料に固定化された生物活性のあるヘパリンと組み合わせて用いることについて説明する。この構造体は、機械的圧縮及び延伸の後のアンチトロンビンIII 結合活性が非常に大きかった。
【0174】
本実施例では、管腔内人工器官の形態になった埋め込み型医療機器を実施例3と実質的に同等なプロセスを用いてヘパリン化した。次に、実施例8に記載したのと実質的に同等な条件を利用してバシトラシンを適用した。次に、ヘパリン化したこの管腔内人工器官を実施例5に記載したのと実質的に同等な方法で機械的に圧縮し、機械的に延伸させ、リンスし、試験用に切断し、ATIII 結合を分析した。
【0175】
バシトラシンで処理した後、圧縮し、延伸させたサンプルは、アンチトロンビンIII 結合活性の平均値が234pmol/cm(n=3)であった。
【0176】
実施例17
本実施例では、事前に圧縮及び延伸をさせた、被覆された基板材料に固定化された生物活性のあるヘパリン対して、生体適合性有機組成物を付加することについて説明する。ペプチド抗生剤を生体適合性有機組成物として選択した。このようにして処理した構造体は、圧縮及び延伸の後でも、顕著なヘパリン−ATIII 結合を有していた。
【0177】
本実施例では、管腔内人工器官の形態になった埋め込み型医療機器を実施例3と実質的に同等なプロセスを用いてヘパリン化した後、実施例5に記載したのと実質的に同等な方法で機械的に圧縮し、延伸させた。次に、実施例9に記載したのと実質的に同等な方法で管腔内人工器官をバシトラシンで処理し、リンスした。次に、このヘパリン化管腔内人工器官を実施例5に記載したようにして試験用に切断し、ATIII 結合を分析した。
【0178】
圧縮し、延伸させた後、バシトラシンを付加したヘパリン化したサンプルは、アンチトロンビンIII 結合活性の平均値が207pmol/cm(n=3)であった。
【0179】
実施例18
本実施例では、被覆された基板材料に固定化された生物活性のあるヘパリンについて説明する。固定化された生物活性のあるヘパリンを生体適合性有機組成物と混合し、機械的に圧縮し、機械的に延伸させた後、ペプチド抗生剤で処理した。このようにして処理した構造体は、機械的操作の後でも、顕著なヘパリン−ATIII 結合を有していた。
【0180】
実施例17に記載したようにして管腔内人工器官を処理し、試験したが、1点だけ異なっている。それは、実施例5に記載したのと実質的に同等な方法で圧縮及び延伸を行なう前に、実施例10に記載したようにしてポリエチレングリコールをヘパリン化管腔内人工器官と混合した点である。
【0181】
生体適合性有機組成物と混合したヘパリン化サンプルを圧縮し、延伸させた後にバシトラシンを付加したものは、アンチトロンビンIII 結合活性の平均値が215pmol/cm(n=3)であった。
【0182】
実施例19
本実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料又はコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、生体適合性有機組成物(アルデヒドで活性化させたデキストラン)をその被覆材料に共有結合させることについて説明する。この組成物を機械的に圧縮し、延伸させた後、ヘパリンは大きな生物活性を示した。
【0183】
本実施例では、管腔内人工器官の形態になった埋め込み型医療機器を実施例3と実質的に同等なプロセスを用いてヘパリン化した。アルデヒドで活性化させたデキストランを実施例11に記載したのと実質的に同等な方法でコーティング層に固定化した。次に、このヘパリン化管腔内人工器官を実施例5に記載したのと実質的に同等な方法で機械的に圧縮し、機械的に延伸させ、試験用に切断し、ATIII 結合を分析した。
【0184】
本実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII 結合活性の平均値が155pmol/cm(n=3)であった。
【0185】
実施例20
本実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料又はコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、生体適合性有機組成物(アルデヒドで活性化させたポリエチレングリコール、分子量1,000)をその被覆材料に共有結合させることについて説明する。この組成物を機械的に圧縮し、延伸させた後、ヘパリンは大きな生物活性を示した。
【0186】
本実施例では、管腔内人工器官の形態になった埋め込み型医療機器を実施例3と実質的に同等なプロセスを用いてヘパリン化した。アルデヒドで活性化させたポリエチレングリコールを実施例12に記載したのと実質的に同等な方法でコーティング層に固定化した。次に、このヘパリン化管腔内人工器官を実施例5に記載したのと実質的に同等な方法で機械的に圧縮し、機械的に延伸させ、試験用に切断し、ATIII 結合を分析した。
【0187】
本実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII 結合活性の平均値が221pmol/cm(n=3)であった。
【0188】
実施例21
本実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料又はコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、生体適合性有機組成物(アルデヒドで活性化させたポリエチレングリコール、分子量5,000)をその被覆材料に共有結合させることについて説明する。この組成物を機械的に圧縮し、延伸させた後、ヘパリンは大きな生物活性を示した。
【0189】
本実施例では、管腔内人工器官の形態になった埋め込み型医療機器を実施例3と実質的に同等なプロセスを用いてヘパリン化した。アルデヒドで活性化させたポリエチレングリコールを実施例13に記載したのと実質的に同等な方法でコーティング層に固定化した。次に、このヘパリン化管腔内人工器官を実施例5に記載したのと実質的に同等な方法で機械的に圧縮し、機械的に延伸させ、試験用に切断し、ATIII 結合を分析した。
【0190】
本実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII 結合活性の平均値が210pmol/cm(n=3)であった。
【0191】
実施例22
本実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料又はコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、生体適合性有機組成物(EDCで活性化させたUSPヘパリン)をその被覆材料に共有結合させることについて説明する。この組成物を機械的に圧縮し、延伸させた後、ヘパリンは大きな生物活性を示した。
【0192】
本実施例では、管腔内人工器官の形態になった埋め込み型医療機器を実施例3と実質的に同等なプロセスを用いてヘパリン化する。実施例14に記載したのと実質的に同等な方法でUSPヘパリンをコーティング層に固定化した。次に、このヘパリン化管腔内人工器官を実施例5に記載したのと実質的に同等な方法で機械的に圧縮し、機械的に延伸させ、試験用に切断し、ATIII 結合を分析した。
【0193】
本実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII 結合活性の平均値が155pmol/cm(n=3)であった。
【0194】
実施例23
本実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料又はコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、そのヘパリンをそのコーティング層の反応基に2回目の共有結合をさせる。末端が共有結合したヘパリンの2回目の共有結合を実現するため、カルボン酸基をEDCで活性化させ、コーティング層に存在する残った第一級アミノ基と反応させた。この組成物を機械的に圧縮し、延伸させた。その後、この構造体のヘパリンは大きな生物活性を示した。
【0195】
本実施例では、管腔内人工器官の形態になった埋め込み型医療機器を実施例3と実質的に同等なプロセスを用いてヘパリン化した。固定化されたヘパリンを、実施例15に記載したのと実質的に同等な方法でコーティング層にさらに共有結合させた。次に、このヘパリン化管腔内人工器官を実施例5に記載したのと実質的に同等な方法で機械的に圧縮し、機械的に延伸させ、試験用に切断し、ATIII 結合を分析した。
【0196】
本実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII 結合活性の平均値が140pmol/cm(n=3)であった。
【0197】
実施例24
本実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料又はコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、不安定な結合を通じてさらに生体適合性有機組成物をその被覆材料に結合させる。この不安定な結合により、治療化合物を局所的に送達できる一方で、安定に結合したヘパリンは、殺菌と、機械的な圧縮及び延伸の後に顕著なATIII 結合活性を保持した。
【0198】
本実施例では、管腔内人工器官の形態になった埋め込み型医療機器を実施例3と実質的に同等なプロセスを用いてヘパリン化した。アルデヒドで修飾された追加のヘパリンの末端を不安定な共有結合を通じてコーティング層に結合させるため、60℃のヘパリン含有塩化ナトリウム溶液(アルデヒドで修飾されたヘパリン15gとNaCl 29.3gを1リットルのDI水に溶かす、pH3.9)の中に構造体を120分間入れた。アルデヒドで修飾されたヘパリンを2回目に共役させる間に還元剤NaCNBHを添加しなかったことに注意することが重要である。第一級アミンとアルデヒドの間に形成される結合は、還元されない状態に放置される場合、不安定となる。次に、サンプルをDI水の中で15分間リンスし、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間リンスし、最後にDI水の中で15分間リンスした後、構造体全体を凍結乾燥させることにより、乾燥ヘパリンをePTFE材料に結合させた。
【0199】
次に、このヘパリン化管腔内人工器官を実施例5に記載したのと実質的に同等な方法で機械的に圧縮し、実施例3に記載したようにして殺菌した。次に、実施例5に記載したようにしてその管腔内人工器官を延伸させ、試験用に切断し、ATIII 結合を分析した。
【0200】
本実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII 結合活性の平均値が31pmol/cm(n=3)であった。
【0201】
実施例25
本実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料又はコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、不安定な結合を通じてさらに生体適合性有機組成物を被覆材料に結合させる。この不安定な結合により、治療化合物を局所的に送達できる一方で、安定に結合したヘパリンは、機械的な圧縮及び延伸の後に顕著なATIII 結合活性を保持した。
【0202】
本実施例では、管腔内人工器官の形態になった埋め込み型医療機器を実施例3と実質的に同等なプロセスを用いてヘパリン化した。アルデヒドで修飾された追加のヘパリンの末端を不安定な共有結合を通じてコーティング層に結合させるため、60℃のヘパリン含有塩化ナトリウム溶液(アルデヒドで修飾されたヘパリン15gとNaCl 29.3gを1リットルのDI水に溶かす、pH3.9)の中に構造体を120分間入れた。アルデヒドで修飾されたヘパリンを2回目に共役させる間に還元剤NaCNBHを添加しなかったことに注意することが重要である。第一級アミンとアルデヒドの間に形成される結合は、還元されない状態に放置される場合、不安定となる。次に、サンプルをDI水の中で15分間リンスし、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間リンスし、最後にDI水の中で15分間リンスした後、構造体全体を凍結乾燥させることにより、乾燥ヘパリンをePTFE材料に結合させた。
【0203】
次に、このヘパリン化管腔内人工器官を実施例5に記載したのと実質的に同等な方法で機械的に圧縮し、延伸させ、試験用に切断し、ATIII 結合を分析した。
【0204】
本実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII 結合活性が5pmol/cmの平均値が195pmol/cm(n=3)であった。
【0205】
実施例26
本実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料又はコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、不安定な結合を通じてさらに生体適合性有機組成物をその被覆材料に結合させる。この不安定な結合により、治療化合物を局所的に送達できる一方で、安定に結合したヘパリンは、EtO殺菌の後に顕著なATIII 結合活性を保持した。
【0206】
本実施例では、シート形態のePTFE材料をW.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からGORE(登録商標)マイクロ濾過媒体(GMM−406)という商品名で入手し、実施例2と実質的に同じ方法を用いてヘパリン含有コーティングを施した。アルデヒドで修飾された追加のヘパリンの末端を不安定な共有結合を通じてコーティング層に結合させるため、60℃のヘパリン含有塩化ナトリウム溶液(アルデヒドで修飾されたヘパリン15gとNaCl 29.3gを1リットルのDI水に溶かす、pH3.9)の中に構造体を120分間入れた。アルデヒドで修飾されたヘパリンを2回目に共役させる間に還元剤NaCNBHを添加しなかったことに注意することが重要である。第一級アミンとアルデヒドの間に形成される結合は、還元されない状態に放置される場合、不安定となる。次に、サンプルをDI水の中で15分間リンスし、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間リンスし、最後にDI水の中で15分間リンスした後、構造体全体を凍結乾燥させることにより、乾燥ヘパリンをePTFE材料に結合させた。
【0207】
次に、ヘパリン化した材料を実施例2に記載したようにして殺菌し、試験用に切断し、ATIII 結合を分析した。
【0208】
本実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII 結合活性の平均値が108pmol/cm(n=3)であった。
【0209】
実施例27
本実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、生体適合性有機組成物(アルデヒドで活性化させたポリエチレングリコール)を被覆材料に共有結合させ、最後に、混合した生体適合性有機組成物(バシトラシン)を非共有結合で付加する。この組成物は、EtO殺菌の後に顕著なATIII 結合活性を保持した。
【0210】
本実施例では、シート形態のePTFE材料をW.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からGORE(登録商標)マイクロ濾過媒体(GMM−406)という商品名で入手し、実施例2と実質的に同じ方法を用いてヘパリン含有コーティングを施した。アルデヒドで活性化させたポリエチレングリコール(分子量1,000)を実施例12に記載したのと実質的に同等な方法で被覆材料に共有結合させた後、バシトラシンを実施例8に記載したようにして混合してこの組成物に非共有結合させた。次にこの組成物を殺菌し、実施例8に記載したようにしてサンプリングし、固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII 結合活性を実施例2に記載したATIII 結合分析法を利用して測定した。
【0211】
本実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII 結合活性の平均値が127pmol/cm(n=3)であった。
【0212】
実施例28
本実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、生体適合性有機組成物(アルデヒドで活性化させたポリエチレングリコール)を被覆材料に共有結合させ、最後に、混合した生体適合性有機組成物(バシトラシン)を非共有結合で付加する。この組成物は、機械的に圧縮し、延伸させた後に顕著なATIII 結合活性を示した。
【0213】
本実施例では、管腔内人工器官の形態になった埋め込み型医療機器を実施例3と実質的に同等なプロセスを用いてヘパリン化した。アルデヒドで活性化させたポリエチレングリコール(分子量1,000)を実施例12に記載したのと実質的に同等な方法で被覆材料に共有結合させた後、バシトラシンを実施例8に記載したようにして混合してこの組成物に非共有結合させた。次に、このヘパリン化管腔内人工器官を実施例5に記載したのと実質的に同等な方法で機械的に圧縮し、機械的に延伸させ、試験用に切断し、リンスし、ATIII 結合を分析した。
【0214】
本実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII 結合活性の平均値が249pmol/cm(n=3)であった。
【0215】
実施例29
本実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、生体適合性有機組成物(アルデヒドで活性化させたデキストラン)を被覆材料に共有結合させ、最後に、混合した生体適合性有機組成物(デキサメタゾン)を非共有結合で付加する。この組成物は、EtO殺菌の後に顕著なATIII 結合活性を示した。
【0216】
本実施例では、シート形態のePTFE材料をW.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からGORE(登録商標)マイクロ濾過媒体(GMM−406)という商品名で入手し、実施例2と実質的に同じ方法を用いてヘパリン含有コーティングを施した。アルデヒドで活性化させたデキストランを実施例11に記載したのと実質的に同等な方法で被覆材料に共有結合させた後、デキサメタゾンを混合してこの組成物に非共有結合させ、次いでその組成物を実施例2に記載したようにして殺菌してサンプリングした。固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII 結合活性を実施例2に記載したATIII 結合分析法を利用して測定した。
【0217】
本実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII 結合活性の平均値が77pmol/cm(n=3)であった。
【0218】
実施例30
本実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、生体適合性有機組成物(アルデヒドで活性化させたデキストラン)を被覆材料に共有結合させ、最後に、混合した生体適合性有機組成物(デキサメタゾン)を非共有結合で付加する。この組成物は、機械的に圧縮し、そして延伸させた後に顕著なATIII 結合活性を示した。
【0219】
本実施例では、管腔内人工器官の形態になった埋め込み型医療機器を実施例3と実質的に同等なプロセスを用いてヘパリン化した。アルデヒドで活性化させたデキストランを実施例11に記載したのと実質的に同等な方法で被覆材料に共有結合させた後、デキサメタゾンを実施例2に記載したようにして混合してこの組成物に非共有結合させた。このヘパリン化管腔内人工器官を実施例5に記載したのと実質的に同等な方法で機械的に圧縮し、機械的に延伸させ、試験用に切断し、リンスし、ATIII 結合を分析した。
【0220】
本実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII 結合活性の平均値が197pmol/cm(n=3)であった。
【0221】
実施例31
本実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料又はコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、不安定な結合を通じてさらに生体適合性有機組成物(ポリエチレングリコール)をその被覆材料に結合させ、最後に、混合した生体適合性有機組成物(デキサメタゾン)を非共有結合で付加する。この組成物は、EtO殺菌の後に大きなATIII 結合活性を示した。
【0222】
本実施例では、シート形態のePTFE材料をW.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からGORE(登録商標)マイクロ濾過媒体(GMM−406)という商品名で入手し、実施例2と実質的に同じプロセスを用いてヘパリン含有コーティングを施した。実施例12と実質的に同等なプロセスを用いて、アルデヒドで修飾されたポリエチレングリコール(1,000MW)を、不安定な共有結合を通じてコーティング層に結合させたが、NaCNBHは付加しなかった。アルデヒドで修飾されたポリエチレングリコールを共役させる間に還元剤NaCNBHを添加しなかったことに注意することが重要である。第一級アミンとアルデヒドの間に形成される結合は、還元されない状態に放置される場合、不安定となる。次に、サンプルをDI水の中で15分間リンスし、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間リンスし、最後にDI水の中で15分間リンスした後、構造体全体を凍結乾燥させることにより、乾燥ヘパリンとポリエチレングリコールをePTFE材料に結合させた。次に、デキサメタゾンを実施例2に記載したようにして混合してこの組成物と非共有結合させた。次に、ヘパリン化したこの材料を実施例2に記載したようにして殺菌し、サンプリングし、アンチトロンビンIII 結合活性をATIII 結合分析法を利用して分析した。
【0223】
本実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII 結合活性の平均値が114pmol/cm(n=3)であった。
【0224】
実施例32
本実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料又はコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、不安定な結合を通じてさらに生体適合性有機組成物(ポリエチレングリコール)をその被覆材料に結合させ、最後に、混合した生体適合性有機組成物(デキサメタゾン)を非共有結合で付加する。この組成物は、機械的に圧縮し、延伸させた後に顕著なATIII 結合活性を示した。
【0225】
本実施例では、管腔内人工器官の形態になった埋め込み型医療機器を実施例3と実質的に同等なプロセスを用いてヘパリン化した。実施例12に記載したのと実質的に同等な方法で、アルデヒドで修飾されたポリエチレングリコール(1,000MW)を、不安定な共有結合を通じてコーティング層に結合させたが、NaCNBHは付加しなかった。アルデヒドで修飾されたポリエチレングリコールを共役させる間に還元剤NaCNBHを添加しなかったことに注意することが重要である。第一級アミンとアルデヒドの間に形成される結合は、還元されない状態に放置される場合、不安定となる。次に、サンプルをDI水の中で15分間リンスし、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間リンスし、最後にDI水の中で15分間リンスした後、構造体全体を凍結乾燥させることにより、乾燥ヘパリンとポリエチレングリコールをePTFE材料に結合させた。次に、デキサメタゾンを実施例2に記載したようにして混合してこの組成物と非共有結合させた。次に、このヘパリン化管腔内人工器官を実施例5に記載したのと実質的に同等な方法で機械的に圧縮し、機械的に延伸させ、試験用に切断し、リンスし、ATIII 結合を分析した。
【0226】
本実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII 結合活性の平均値が188pmol/cm(n=3)であった。
【0227】
実施例33
本実施例では、HCII結合活性を有する延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料又はコーティング層への、生物活性のあるデルマタン二硫酸の合成及び共有結合について説明する。
【0228】
米国特許第5,922,690号(参考としてその内容はこの明細書に組み込まれているものとする)に従い、デルマタン二硫酸を生成する。米国特許第6,653,457号(参考としてその内容はこの明細書に組み込まれているものとする)に従って、この物質をさらに処理して、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の表面に配置した被覆材料又はコーティング層への結合のために、米国特許第4,613,665号(参考としてその内容はこの明細書に組み込まれているものとする)に従って、アルデヒドで修飾されたデルマタン二硫酸組成物を生成する。
【0229】
シート形態のePTFE材料をW.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からGORE(登録商標)マイクロ濾過媒体(GMM−406)という商品名で入手する。ベースコーティングの形態の被覆材料をePTFE材料に適用するため、その被覆材料を直径10cmのプラスチック製刺繍用環状部材に取り付け、その支持されたePTFE材料をまず最初に100%イソプロピルアルコール(IPA)に約5分間浸し、次いでLUPASOL(登録商標)ポリエチレンイミン(PEI)とIPAが1:1の溶液に浸す。無水LUPASOL(登録商標)PEIはBASF社から取得し、希釈して約4%の濃度にし、pHを9.6に調節する。ePTFE材料を上記溶液の中に約15分間浸した後、材料をその溶液から取り出し、pH9.6の脱イオン(DI)水の中で15分間リンスする。ePTFE材料の表面に残ったPEIを15分間(アムレスコ社から取得した)グルタルアルデヒドの0.05%水溶液(pH9.6)と架橋させる。追加のPEIをこの構造体に付加するため、その構造体をPEIの0.5%水溶液(pH9.6)の中に15分間入れ、DI水(pH9.6)の中で15分間再びリンスする。グルタルアルデヒドとPEI層が反応した結果として形成されるイミンを、シアンホウ水素化ナトリウム(NaCNBH)溶液(5gを1リットルのDI水に溶かした、pH9.6)を用いて15分間還元し、DI水の中で30分間リンスする。
【0230】
追加のPEI層を構造体に付加するため、その構造体を0.05%グルタルアルデヒド水溶液(pH9.6)の中に15分間浸した後、0.5%PEI水溶液(pH9.6)の中に15分間浸す。次に構造体をDI水(pH9.6)の中で15分間リンスする。得られたイミンを還元するため、NaCNBH溶液(5gを1リットルのDI水に溶かした、pH9.6)の中に構造体を浸した後、DI水の中で30分間リンスする。第3の層を構造体に付着させるため、これらのステップを繰り返す。結果は、親水性の架橋したポリマー・ベースコーティングを、ベース材料の露出した面と隙間の面に実質的に全体に有する、多孔性疎水性フルオロポリマー・ベース材料である。
【0231】
構造体の表面に別のPEI層を配置するための準備として、中間化学層をポリマー・ベースコーティングに付着させる。この中間イオン電荷層は、硫酸デキストラン(アマーシャム・ファルマシア・バイオテック社)と塩化ナトリウムの溶液(0.15gの硫酸デキストランと100gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH3)の中で構造体を60℃にて90分間インキュベートした後、DI水で15分間リンスすることによって作る。
【0232】
PEI層(この明細書では“キャップ層”と呼ぶ)を中間層に付着させるため、構造体を0.3%PEI水溶液(pH9)の中に約45分間入れた後、塩化ナトリウム溶液(50gのNaClを1リットルのDI水に溶かした)の中で20分間リンスする。DI水を用いた最後のリンスを20分間実施する。
【0233】
アルデヒドで修飾されたデルマタン二硫酸の末端をPEI層に結合又は共役させるため、60℃のヘパリン含有塩化ナトリウム溶液(1.5gのデルマタン二硫酸と29.3gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH3.9)の中に構造体を120分間入れる。体積2.86mlの2.5%(w/v)NaCNBH水溶液を1リットルのデルマタン二硫酸溶液に添加した後、サンプルを添加する。次にサンプルをDI水の中で15分間リンスし、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間リンスし、最後にDI水の中で15分間リンスした後、構造体全体を凍結乾燥させることにより、乾燥デルマタン二硫酸をePTFE材料に結合させる。デルマタン二硫酸の存在と一様性は、構造体のサンプルの両側をトルイジン・ブルーで染色することによって調べる。染色によって均等に紫色になった表面が生じるというのは、デルマタン二硫酸が存在していてePTFE材料に一様に結合していることを示す。
【0234】
サイズが約1平方センチメートル(1cm)のサンプルを構造体から切り出した後、末端が結合したデルマタン二硫酸がHCIIに結合する能力を測定することにより、ヘパリンの活性を調べた。本発明における表面のデルマタン二硫酸活性の計算は、サンプル全体(隙間も含む)がその表面に固定化されたデルマタン二硫酸を有している場合もあるが、サンプル材料の一方の側だけの表面積を用いて行なった。デルマタン二硫酸活性は、末端が結合したデルマタン二硫酸が既知量のヘパリンコファクターII(HCII)と結合する能力又は容量を測定することによって分析する。結果は、基板材料1平方センチメートルに結合したヘパリンコファクターII(HCII)のピコモル数として表わした(pmol HCII/cm基板材料)。サンプルは、構造体からおおよそ1cmのサイズに切断され、そしてデルマタン二硫酸活性について、末端が結合したデルマタン二硫酸がヘパリンコファクターII(HCII)と結合する容量を測定することによって分析した。このデルマタン二硫酸活性の測定は、ヘパリン活性についての、Larsen M.L.他、「Assay of plasma heparin using thrombin and the chromogenic substrate H−D−PHe−PIPArg−pNA(S−2238)」(Thromb. Res.、1978年、第13巻、285〜288ページ)、及びPasche他、「A binding of antithrombin to immobilized heparin under varying flow conditions」(Artif. Organs、1991年、第15巻、281〜491ページ)に以前に記載されているものと同様である。デルマタン二硫酸活性の分析では、HCIIは、デルマタン二硫酸表面に結合することができ、可溶性デルマタン二硫酸の過剰によりその表面から溶出され、そしてトロンビン活性についての比色分析においてトロンビンと結合される。この分析は、HCIIの媒介によるヒトトロンビンの阻害を測定することにより、存在しているHCIIの量を間接的に決定する。HCIIの量は、既知量の、デルマタン二硫酸、HCII、トロンビン、及び合成トロンビン基板を混合することによって導かれる標準曲線から決定する(アミド分解アッセイとして知られる)。可溶性デルマタン硫酸活性の測定についての、同様のアプローチが、以前に「A simple method to measure dermatan sulfate at sub−microgram concentrations in plasma」(Thromb.Heamost.1988年、第60巻、236〜239ページ)に記載されている。その結果を、基板材料単位表面積当たりのHCII結合の量(pmol/cm)で表す。全てのサンプルをその分析中を通じて、湿潤条件に保持する。おおよそ1cmのサンプルはどれも全面積で2cmを有するが、もし材料の両面を考慮するならば、サンプルの一面(すなわち、1cm)のみがHCII−デルマタン二硫酸結合活性の計算(pmol/cm単位)に使われている、という事に注意することが重要である。
【0235】
また別の方法では、構造体に固定化されているデルマタン二硫酸への放射性標識HCIIの結合の量を測定することによって、デルマタン二硫酸は直接的に定量化される。この手法は、Du Y.J.他、「Protein absorption on polyurethane catheters modified with a novel antithrombin heparin covalent complex」(J. Biomed.Master.、2007年、第80A巻、216〜225ページ)、に記載された、ヘパリンが固定化された構造体への結合したアンチトロンビンIII を測定するための方法と同様である。デルマタン二硫酸の構造体を、放射性同位体ヨウ素125(125I)によって共有結合標識されたHCII溶液でインキュベートする。インキュベート後、その表面を繰り返し洗浄し、そして構造体から放射される放射線の量をガンマカウンタにより測定する。放射とHCII質量の比が既知なので、HCIIの量を決定することができる。この結果を、基板材料単位表面積当たりのHCII結合の量(pmol/cm)で表す。
【0236】
基板材料の表面積当たりのHCII結合活性は、被覆された又は被覆されていない基板材料の見かけの表面積当たりの結合したHCIIのピコモル数として定義される。基板の見かけの表面積には、被覆された複数の表面は考慮されず、多孔性基板材料の多孔度も考慮されない。基板材料が多孔性である場合には、多孔性が表面積に及ぼす効果はこれらの計算では考慮されない。例えば(多孔性材料でできた)円筒形チューブの形態のePTFE移植血管において、そのチューブ状移植血管の内面にある基板材料にヘパリンの末端が固定化されている場合の見かけの表面積は、あらゆる円筒形状と同様に2πrLとして計算される(ただしrはグラフトの内径であり、Lは軸方向の長さであり、πはパイという数である)。ePTFEの多孔性と、表面積に及ぼすその効果は、この明細書では考慮しないことに注意することが重要である。したがって、分析のために切断されて正方形になる非多孔性基板材料は、長さ×幅という表面積を持つとされる。その結果は、基板材料単位表面積当たりのHCII結合の量(pmol/cm)で表される。全てのサンプルはその分析中を通じて、湿潤な状態に保たれる。おおよそ1cmのサンプルはどれも全面積で2cmを有するが、もし材料の両面を考慮するならば、サンプルの一面(すなわち、1cm)のみがHCII結合活性の計算(pmol/cm単位)に使われている、という事に注意することが重要である。
【0237】
本実施例に記載したように作成したいくつかのサンプルでは5pmol/cm超のヘパリンコファクターII結合活性を有する。他のサンプルでは12pmol/cm超のヘパリンコファクターII結合活性を有する。また他のサンプルでは20pmol/cm超のヘパリンコファクターII結合活性を有する。これらの結果はHCII結合活性を有する表面を生成する能力を示す。
【0238】
実施例34
本実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料又はコーティング層に、生物活性のあるデルマタン二硫酸を共有結合させた後、追加の生体適合性有機組成物を混合することについて説明する。第一の生体適合性有機組成物には、USPヘパリン、多糖、調合薬、親水性分子、及び抗血栓化合物がある。第二の化合物は、ポリエチレングリコールであり、合成且つ親水性の化合物である。この構造体は5pmol/cm超のヘパリンコファクターII結合活性を示す。
【0239】
構造体を実施例33に記載したように作成する。デルマタン二硫酸の共有結合の後、これらの構造体を次の生体適合性有機組成物:USPグレードのヘパリン・ナトリウム(セルサス社)、及びポリエチレングリコール(分子量20,000、シグマ社)をDI水100ml当たり0.5gの濃度にしてpHを9.6に調節したもの、に暴露する。この明細書では、これら溶液のそれぞれを「処理溶液」と呼ぶ。特定のデルマタン二硫酸含有構造体を特定の処理溶液に曝露するため、その構造体を2リットルのビーカーに入れ、そして100mlの処理溶液を添加し、その構造体を処理溶液の中に完全に浸す。各構造体を60℃の処理溶液に1時間曝露する。構造体を溶液から取り出し、凍結乾燥させる。
【0240】
次に、各構造体(対照を含む)をDI水の中で15分間洗浄し、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間洗浄し、最後にDI水の中で15分間リンスする。
【0241】
本実施例に記載したように作成したサンプルは、実施例33に記載したように試験をすると、5pmol/cm超のヘパリンコファクターII結合活性を有する。これらの結果は、混合した追加の分子を備える、HCII結合活性を有する表面を生成する能力を示す。
【0242】
実施例35
本実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料又はコーティング層に生物活性のあるデルマタン二硫酸を共有結合させた後、追加の生体適合性有機組成物を混合させることについて説明する。この化合物、デキサメタゾン、は合成且つ親水性の物質である。
【0243】
被覆材料でコーティングされた上記の構造体を、100mlのエタノールに0.5gを含むpH調節してないデキサメタゾン溶液に暴露する。本明細書では、この溶液を「処理溶液」と呼ぶ。特定のヘパリン含有構造体をこの処理溶液に曝露するため、その構造体を2リットルのビーカーに入れて100mlの処理溶液を添加し、その構造体を処理溶液の中に完全に浸す。この構造体を60℃の処理溶液に1時間曝露する。その後、構造体を溶液から取り出し、凍結乾燥させる。
【0244】
次に、各構造体(対照を含む)をDI水の中で15分間洗浄し、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間洗浄し、最後にDI水の中で15分間リンスする。
【0245】
本実施例に記載したように作成したサンプルは、実施例33に記載したように試験をすると、5pmol/cm超のヘパリンコファクターII結合活性を有する。これらの結果は、混合した追加の分子を備える、HCII結合活性を有する表面を生成する能力を示す。
【0246】
実施例36
本実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料又はコーティング層に生物活性のあるデルマタン二硫酸を共有結合させた後、追加の生体適合性有機組成物を混合すことについて説明する。その構造体は、酸化エチレンによる殺菌後に、顕著なHCII結合を示す。
【0247】
生物活性のあるデルマタン二硫酸を持つサンプルを、実施例33に記載したように作成する。生体適合性有機組成物であるポリエチレングリコール、USPヘパリン、及びデキサメタゾンを実施例34及び35に記載したように、それぞれのサンプルと混合する。
【0248】
EtO殺菌のための準備として、凍結乾燥させた各構造体をTower DUALPEEL(登録商標)自己気密パウチ(アリージャンス・ヘルスケア社、マクゴー・パーク、イリノイ州)の中に入れて密封する。酸化エチレンを用いた殺菌は、コンディショニングが1時間、EtOガスの滞在時間が1時間、設定温度が55℃、通気時間が12時間という条件下で実施する。
【0249】
EtO殺菌の後、各構造体(対照を含む)をパウチから取り出し、DI水の中で15分間洗浄し、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間洗浄し、最後にDI水の中で15分間リンスする。
【0250】
本実施例に記載したように作成したサンプルは、実施例33に記載したように試験をすると、5pmol/cm超のヘパリンコファクターII結合活性を有する。これらの結果は、混合した追加の分子を備える、EtO殺菌後でもHCII結合活性を有する表面を生成する能力を示す。
【0251】
実施例37
本実施例では、機械的圧縮及び延伸の後で、医療機器基板上のデルマタン二硫酸(17)HCII結合が5pmol/cm超の、本発明の一実施態様である構造体について説明する。
【0252】
本実施例で用いる埋め込み型医療機器は、多孔性の延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料からなるチューブをニチノール・ワイヤで補強した形態のものであり、W.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からVIABAHN(登録商標)内部人工器官という商品名で入手する。このチューブ状機器は、長さが15cm、直径が6mmである。
【0253】
VIABAHN(登録商標)内部人工器官は送達用カテーテルの内部に拘束されているため、ヘパリンをその表面に固定化する前にカテーテルから取り出す必要がある。カテーテルに拘束された各機器は、処理のため、拘束用のシースに取り付けた紐を引っ張り、そのシースを機器の周囲から解放することによって取り出す。各機器は、非拘束状態になると延伸し、独立した基板材料として使用する。それぞれの基板材料(内部人工器官機器)を、体積比が30:70のPEI溶液(DI水の中に5%)とIPA(USPグレード)に約12時間浸し、ポリマー被覆材料(18)を基板材料(12)の表面に付着させる。ポリマー被覆材料(18)は複数の反応性化学基(16)を備えており、アルデヒドで修飾された複数のデルマタン二硫酸分子(17)の末端を最終的にその反応性化学基に結合させる。
【0254】
少なくとも1つの追加の被覆材料(18A、18B)層を第1のPEI層(18)の上に配置する。これは、各内部人工器官機器を別のシリコーン製チューブの中に配置し、そして、そのチューブを蠕動ポンプと溶液リザーバに接続することによって実施する。こうすることにより、被覆材料を含む追加の溶液を繰り返してチューブ状医療機器の中心を通過させることができるため、その機器の内面が主にコーティングされる。
【0255】
上記の動的流れシステムのうちの1つの中に各内部人工器官が収容された状態で、体積の%比が45:55の0.10%(pH9.0)PEIとIPA水溶液の形態になった被覆材料(18)を約20分間その内部人工器官の中を通過させる。次に各内部人工器官をDI水(pH9.0)の中で5分間リンスし、0.05%グルタルアルデヒド水溶液(pH9.0)に20分間曝露することによってPEI層を架橋させる。次にこれらの内部人工器官を再びPEI水溶液(0.10%、pH9.0)で5分間リンスする。得られたイミンをシアンホウ水素化ナトリウム溶液(1リットルのDI水の中に5g、pH9.0)で15分間還元し、DI水の中で30分間リンスする。
【0256】
中間イオン電荷層を各内部人工器官の架橋したPEI層の上に配置するため、硫酸デキストランと塩化ナトリウムの溶液(0.15gの硫酸デキストランと100gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH3)を動的流れシステムの中とPEI層の上を60℃にて約90分間流す。その後、このシステムをDI水で15分間リンスする。
【0257】
PEIの“キャップ”層(18B)をイオンで帯電した硫酸デキストラン層(18A)に付加するため、PEI水溶液(0.075%、pH9.0)を動的流れシステムの中を約45分間流した後、塩化ナトリウム溶液(50gのNaClを1リットルのDI水に溶かした)の中で15分間リンスする。リンスの後、DI水を2.5分間という短時間吹きかける。
【0258】
アルデヒドで修飾されたデルマタン二硫酸の末端をPEI層に結合又は共役させるため、60℃のデルマタン二硫酸含有塩化ナトリウム溶液(15gのデルマタン二硫酸と29.3gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH3.9)の中に構造体を120分間入れる。そのサンプルを入れる前に、体積2.86mlの2.5%(w/v)NaCNBH水溶液を、その1リットルのデルマタン二硫酸溶液に添加する。次にサンプルをDI水の中で15分間リンスし、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間リンスし、最後にDI水の中で15分間リンスした後、構造体全体を凍結乾燥させることにより、乾燥デルマタン二硫酸をePTFE材料に結合させる。デルマタン二硫酸の存在と一様性は、構造体のサンプルの両側をトルイジン・ブルーで染色することによって調べる。染色によって均等に紫色になった表面が生じるというのは、デルマタン二硫酸が存在していてePTFE材料に一様に結合していることを示す。
【0259】
送達システムの上で管腔内機器を圧縮してコンパクトにするため、各内部人工器官を引っ張り、直径が固定されたテーパー状漏斗の中を通過させる。各内部人工器官には、引っ張って漏斗の中を通過させるため、一端に6本の縫合糸(Gore−Tex(登録商標)CV−0、0N05)が縫い付けられている。各内部人工器官を引っ張ることにより直径が約3mmである25mlのピペットの先端(Falcon(登録商標)、製品番号357525)の開口部を通過させ、そして直径が約3.1mmのガラス製チューブの中に入れることで、各内部人工器官をコンパクトな状態に保持する。
【0260】
圧縮の後、各内部人工器官を37℃の0.9%生理食塩水の中で広げる。試験用の各内部人工器官を作るため、DI水の中で15分間洗浄した後、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸、2.7gのNaOH、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間リンスし、最後にDI水の中で15分間リンスする。
【0261】
各内部人工器官からデルマタン二硫酸含有材料のサンプル(長さ約0.5cm)を切り出し、そして上記のヘパリンコファクターII結合分析法(実施例33)を利用し、その固定化されたヘパリンの生物活性を測定する。サンプルは、分析プロセスを通じて湿潤な状態に維持する。結果は、基板材料の単位面積当たりの結合しヘパリンコファクターIIのピコモル数(pmol/cm)として表わしている。
【0262】
本実施例のサンプルは、5pmol/cm超のヘパリンコファクターII結合活性を有する。これらの結果は、機械的圧縮及び延伸の後でも、HCII結合活性を有する表面を生成する能力を示す。
【0263】
実施例38
本実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)の医療機器の上に配置した被覆材料又はコーティング層に生物活性のあるデルマタン二硫酸(17)を共有結合させた後、追加の生体適合性有機組成物を混合することについて説明する。その構造体は、機械的圧縮及び延伸の後に、大きなHCII結合を示す。
【0264】
生物活性のあるデルマタン二硫酸を持つサンプルを実施例37に記載したように作成する。生体適合性有機組成物であるポリエチレングリコール、USPヘパリン、及びデキサメタゾンを実施例34及び35に記載したように、それぞれのサンプルに混合する。
【0265】
この構造物を、実施例37に記載したように、さらに機械的に圧縮し、留置し、リンスし、サンプリングし、試験する。このように扱われたサンプルは、実施例33に記載したように試験をすると、5pmol/cm超のヘパリンコファクターII結合活性を有する。
【0266】
実施例39
本実施例では、5pmol/cm超のHCII結合、且つ5pmol/cm超のアンチトロンビンIII (ATIII )結合を有する、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料又はコーティング層への、生物活性のあるデルマタン二硫酸(17)及び生物活性のあるヘパリン(17)の共有結合について説明する。
【0267】
米国特許第6,653,457号(参考としてその内容はこの明細書に組み込まれているものとする)に従って、米国特許第4,613,665号(参考としてその内容はこの明細書に組み込まれているものとする)によって、アルデヒドで修飾されたヘパリン組成物を生成する。
【0268】
アルデヒドで修飾したデルマタン二硫酸の結合に関連する操作を除いて、実施例33に記載したように、ePTFE構造体を準備する。この処理手順中で、デルマタン二硫酸1.5gの代わりに、アルデヒドで修飾したヘパリン1.5g及びアルデヒドで修飾したデルマタン二硫酸1.5gをその溶液に加えただけである。
【0269】
HCII結合活性を実施例33に記載したように測定する。末端が結合したヘパリンがATIII に結合する能力を測定することにより、サンプルのATIIの活性も調べる。この分析法は、Larsen M.L.他、「Assay of plasma heparin using thrombin and the chromogenic substrate H−D−PHe−PIPArg−pNA(S−2238)」(Thromb. Res.、1978年、第13巻、285〜288ページ)、及びPasche他、「A binding of antithrombin to immobilized heparin under varying flow conditions」(Artif. Organs、1991年、第15巻、281〜491ページ)に記載されている。結果は、単位表面積当たりに結合するATIII の量として、pmol/cmの単で表わす。分析中を通じてすべてのサンプルを湿潤条件に保持する。約1平方センチメートル(1cm)の各サンプルは、もし材料の両側を考慮すると合計で2平方センチメートル(2cm)の表面積を持つが、ATIII −ヘパリン結合活性(単位はpmol/cm)の計算にはサンプルの1つの面しか利用しないことに注意することが重要である。
【0270】
本実施例に記載したように準備し、そして試験した構造体は、5pmol/cm超のヘパリンコファクターII結合活性を有し、且つ5pmol/cm超のATIII 結合を示す。
【0271】
実施例40
本実施例では、混合した生体適合性有機組成物を内包した延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料上に配置した、被覆材料又はコーティング層への、生物活性のあるデルマタン二硫酸(17)及び生物活性のあるヘパリン(17)の共有結合について、及び、EtO殺菌後で、結果として得られるHCII結合が5pmol/cm超で、且つATIII 結合が5pmol/cm超のことについて説明する。
【0272】
サンプルを実施例39に記載したように作成する。生体適合性有機組成物であるポリエチレングリコール、USPヘパリン、及びデキサメタゾンを実施例34及び35に記載したように、それぞれのサンプルに混合する。さらに実施例36に記載したように、これらのサンプルを殺菌する。
【0273】
本実施例に記載したように準備し、且つ測定した構造体は、5pmol/cm超のヘパリンコファクターII結合活性を有し、且つ5pmol/cm超のアンチトロンビンIII (ATIII )結合を示す。
【0274】
実施例41
本実施例では、混合した生体適合性有機組成物(11)を内包した延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)の上に配置した被覆材料又はコーティング層への、生物活性のあるデルマタン二硫酸(17)及び生物活性のあるヘパリン(17)の共有結合について、及び、機械的圧縮及び延伸の後で、得られるHCII結合が5pmol/cm超で、且つATIII 結合が5pmol/cm超のことについて説明する。
【0275】
アルデヒドで修飾したデルマタン二硫酸の付着に関連する操作を除いて、VIABAHN(登録商標)内部人工器官を実施例37に記載したように準備する。この処理手順中で、デルマタン二硫酸1.5gの代わりに、アルデヒドで修飾したヘパリン1.5g及びアルデヒドで修飾したデルマタン二硫酸1.5gをその溶液に加えただけである。次に、生体適合性有機組成物であるポリエチレングリコール、USPヘパリン、及びデキサメタゾンを実施例34及び35に記載したように、それぞれのサンプルに混合する。試験の前に、実施例34に記載したようにサンプルをリンスする。
【0276】
本実施例に記載したように準備し、そして試験した構造体は、機械的圧縮及び延伸の後で、5pmol/cm超のヘパリンコファクターII結合活性を示し、且つ5pmol/cm超のアンチトロンビンIII (ATIII )結合を示す。
【0277】
実施例42
本実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)上に配置した被覆材料又はコーティング層への、生物活性のあるデルマタン二硫酸(17)の共有結合とそれに続く殺菌ついて説明する。その構造体は、酸化エチレン(EtO)殺菌への暴露後で、大きなHCII結合を示す。
【0278】
生物活性のあるデルマタン二硫酸のサンプルを実施例33に記載したように作成し、そして実施例36に記載したように殺菌する。本実施例に記載したように作成し、且つ試験した構造体は5pmol/cm超のヘパリンコファクターII結合活性を示す。
【0279】
実施例43
本実施例では、EtO殺菌後に5pmol/cm超のHCII結合及び5pmol/cm超のアンチトロンビンIII (ATIII )結合とを有する、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料又はコーティング層への生物活性のあるデルマタン二硫酸(17)及び生物活性のあるヘパリン(17)の共有結合について説明する。
【0280】
サンプルを実施例39に記載したように作成し、実施例36に記載したように殺菌にさらし、そして実施例39に記載したように試験をする。本実施例に記載したように作成し、そして試験した構造体は5pmol/cm超のヘパリンコファクターII結合活性を示し、且つ5pmol/cm超のATIII 結合を示す。
【0281】
実施例44
本実施例では、殺菌の後で、医療機器基板上のデルマタン二硫酸(17)HCII結合が5pmol/cm超の、本発明の一実施態様である構造体について説明する。
【0282】
生物活性のあるデルマタン二硫酸のサンプルを実施例37に記載したように作成し、実施例36に記載したように殺菌にさらし、そして実施例33に記載したように試験をする。本実施例に記載したように作成し、そして試験した構造体は5pmol/cm超のHCII結合活性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板材料と;
該基板材料の表面の少なくとも一部に結合したポリマー被覆材料であって、ヘパリンコファクターII結合活性を有する複数の生物活性物質が少なくとも一部に共有結合した該ポリマー被覆材料と;
を含んでいて、
該生物活性物質のヘパリンコファクターII結合活性が、1平方センチメートル当たり少なくとも5ピコモル(pmol/cm)のヘパリンコファクターIIである医療機器。
【請求項2】
殺菌後に、上記生物活性物質のヘパリンコファクターII結合活性が1平方センチメートル当たり少なくとも5ピコモル(pmol/cm)のヘパリンコファクターIIを有する、請求項1に記載の医療機器。
【請求項3】
圧縮及び延伸の後に、上記生物活性物質のヘパリンコファクターII結合活性が1平方センチメートル当たり少なくとも5ピコモル(pmol/cm)のヘパリンコファクターIIを有する、請求項1に記載の医療機器。
【請求項4】
上記複数の生物活性物質が、多糖を含む、請求項1に記載の医療機器。
【請求項5】
上記複数の生物活性物質が、グリコサミノグリカンを含む、請求項1に記載の医療機器。
【請求項6】
上記複数の生物活性物質が、デルマタン二硫酸を含む、請求項1に記載の医療機器。
【請求項7】
上記複数の生物活性物質が、末端が結合したデルマタン二硫酸を含む、請求項1に記載の医療機器。
【請求項8】
上記複数の生物活性物質のヘパリンコファクターII結合活性が、1平方センチメートル当たり少なくとも12ピコモル(pmol/cm)のヘパリンコファクターIIである、請求項1に記載の医療機器。
【請求項9】
上記複数の生物活性物質のヘパリンコファクターII結合活性が、1平方センチメートル当たり少なくとも20ピコモル(pmol/cm)のヘパリンコファクターIIである、請求項1に記載の医療機器。
【請求項10】
基板材料と;
該基板材料の表面の少なくとも一部に結合したポリマー被覆材料であって、1平方センチメートル当たり少なくとも5ピコモル(pmol/cm)のヘパリンコファクターIIのヘパリンコファクターII結合活性を有する複数の生物活性物質が少なくとも一部に共有結合した該ポリマー被覆材料と;
該ポリマー被覆材料に結合した生体適合性組成物と;
を含んでいて、
該生体適合性組成物がアンチトロンビンIII 結合活性を有する医療機器。
【請求項11】
上記生体適合性組成物が、上記ポリマー被覆材料と共有結合している、請求項10に記載の医療機器。
【請求項12】
上記生体適合性組成物が、上記ポリマー被覆材料と非共有結合している、請求項10に記載の医療機器。
【請求項13】
上記複数の生物活性物質が、グリコサミノグリカンを含む、請求項10に記載の医療機器。
【請求項14】
上記複数の生物活性物質が、デルマタン二硫酸を含む、請求項10に記載の医療機器。
【請求項15】
上記複数の生物活性物質が、末端が結合したデルマタン二硫酸を含む、請求項10に記載の医療機器。
【請求項16】
約37℃且つ実質的に中性pHの0.15Mリン酸塩緩衝溶液の中で、上記生体適合性組成物の少なくとも一部が上記医療機器から放出される、請求項10に記載の医療機器。
【請求項17】
上記生体適合性組成物が、有機化合物を含む、請求項10に記載の医療機器。
【請求項18】
上記有機化合物が多糖である、請求項17に記載の医療機器。
【請求項19】
上記多糖がグリコサミノグリカンである、請求項18に記載の医療機器。
【請求項20】
上記多糖がデキストランである、請求項17に記載の医療機器。
【請求項21】
上記多糖が硫酸デキストランである、請求項18に記載の医療機器。
【請求項22】
上記生体適合性組成物がポリエチレングリコールである、請求項10に記載の医療機器。
【請求項23】
上記生体適合性組成物が抗増殖剤である、請求項10に記載の医療機器。
【請求項24】
上記抗増殖剤がデキサメタゾンである、請求項23に記載の医療機器。
【請求項25】
上記生体適合性組成物が、合成した非極性分子を含む、請求項10に記載の医療機器。
【請求項26】
上記生体適合性組成物が無機化合物を含む、請求項10に記載の医療機器。
【請求項27】
上記無機化合物がリン酸塩を含む、請求項26に記載の医療機器。
【請求項28】
上記複数の生物活性物質のヘパリンコファクターII結合活性が、上記基板材料の殺菌の後、基板材料1平方センチメートル当たり少なくとも5ピコモル(pmol/cm)のヘパリンコファクターIIである、請求項10に記載の医療機器。
【請求項29】
上記複数の生物活性物質のヘパリンコファクターII結合活性が、上記基板材料の圧縮及び延伸の後に、基板材料1平方センチメートル当たり少なくとも5ピコモル(pmol/cm)のヘパリンコファクターIIである、請求項10に記載の医療機器。
【請求項30】
基板材料と;
該基板材料の表面の少なくとも一部に結合したポリマー被覆材料であって、ヘパリンコファクターII結合活性を有する第一の複数の生物活性物質及びアンチトロンビンIII 結合活性を有する第二の複数の生物活性物質が少なくとも一部に共有結合した該ポリマー被覆材料と;
該ポリマー被覆材料に結合した生体適合性組成物と;
を含んでいて、
該生物活性物質のヘパリンコファクターII結合活性が、1平方センチメートル当たり少なくとも5ピコモル(pmol/cm)のヘパリンコファクターIIであり、且つ1平方センチメートル当たり少なくとも5ピコモル(pmol/cm)のアンチトロンビンIII である医療機器。
【請求項31】
上記生体適合性組成物が、上記ポリマー被覆材料と共有結合している、請求項30に記載の医療機器。
【請求項32】
上記生体適合性組成物が、上記ポリマー被覆材料と非共有結合している、請求項30に記載の医療機器。
【請求項33】
上記第一の複数の生物活性物質が、グリコサミノグリカンを含む、請求項30に記載の医療機器。
【請求項34】
上記第一の複数の生物活性物質が、デルマタン二硫酸を含む、請求項30に記載の医療機器。
【請求項35】
上記第一の複数の生物活性物質が、末端が結合したデルマタン二硫酸を含む、請求項30に記載の医療機器。
【請求項36】
約37℃且つ実質的に中性pHの0.15Mリン酸塩緩衝溶液の中で、上記生体適合性組成物の少なくとも一部が上記医療機器から放出される、請求項30に記載の医療機器。
【請求項37】
上記生体適合性組成物が、有機化合物を含む、請求項30に記載の医療機器。
【請求項38】
上記有機化合物が多糖である、請求項37に記載の医療機器。
【請求項39】
上記多糖がグリコサミノグリカンである、請求項38に記載の医療機器。
【請求項40】
上記多糖がデキストランである、請求項39に記載の医療機器。
【請求項41】
上記多糖が硫酸デキストランである、請求項39に記載の医療機器。
【請求項42】
上記生体適合性組成物がポリエチレングリコールである、請求項30に記載の医療機器。
【請求項43】
上記生体適合性組成物が抗増殖剤である、請求項30に記載の医療機器。
【請求項44】
上記抗増殖剤がデキサメタゾンである、請求項43に記載の医療機器。
【請求項45】
上記生体適合性組成物が、合成した非極性分子を含む、請求項30に記載の医療機器。
【請求項46】
上記生体適合性組成物が無機化合物を含む、請求項30に記載の医療機器。
【請求項47】
上記無機化合物がリン酸塩を含む、請求項46に記載の医療機器。
【請求項48】
上記第一の複数の生物活性物質のヘパリンコファクターII結合活性が、上記基板材料の殺菌の後、基板材料1平方センチメートル当たり少なくとも5ピコモル(pmol/cm)のヘパリンコファクターIIである、請求項30に記載の医療機器。
【請求項49】
上記第一の複数の生物活性物質のヘパリンコファクターII結合活性が、上記基板材料の圧縮及び延伸の後に、基板材料1平方センチメートル当たり少なくとも5ピコモル(pmol/cm)のヘパリンコファクターIIである、請求項30に記載の医療機器。
【請求項50】
上記生体適合性組成物が、共に固定化したヘパリンとデルマタン二硫酸とを含む、請求項30に記載の医療機器。

【図1】
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【図1A】
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【図2】
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【図3】
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【図3A】
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【図4】
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【図4A】
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【図5】
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【図6】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公表番号】特表2011−502631(P2011−502631A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−533109(P2010−533109)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際出願番号】PCT/US2008/012595
【国際公開番号】WO2009/064372
【国際公開日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(598123677)ゴア エンタープライズ ホールディングス,インコーポレイティド (279)
【Fターム(参考)】