説明

高延性を持つチタン、チタン合金及びNiTi発泡体

【課題】 10%を越える圧縮歪を意味する高延性Ti−,Ti合金−またはNiTi−発泡体を製造するための方法を提供する。
【解決手段】 圧縮において破断なしに10%を越えて変形されることができることを意味する、高延性Ti−,Ti合金−またはNiTi−発泡体を製造するための方法であって、この方法が次の段階:
・ Ti−,NiTi−またはTi合金−粉末の粉末懸濁液を調製する段階、
・ 前記粉末懸濁液をゲル鋳造により希望の形にもたらし、生加工品を得る段階、
・ 前記生加工品がか焼されるか焼段階、及び
・ 前記生加工品が焼結される焼結段階、
を含むものにおいて、前記か焼段階が、前記生加工品が20℃/hour以下の速度で400℃〜600℃の温度に加熱される低速加熱段階を含むこと、及びTi−,NiTi−またはTi合金−粉末が100μm未満の粒径を持つことを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に生物医学的または複合構造に使用するための高延性チタン、チタン合金またはNiTi発泡体に関する。本発明はまた、かかる発泡体の骨置換具または治療補助具としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン、チタン合金及びNiTiは、それらの高い強度/重量比、それらの高い耐食性及び比較的低い弾性率、及びそれらの生物適合性のために一般に使用されている。Ti−発泡体の機械的性質は骨の性質に非常に近く、従って骨置換具または治療補助具のための極上の材料と思われる。しかし、この用途は高延性発泡体を必要とする。延性は一般的には、引張力の付与で容易に変形する材料の能力として、または破断、破壊または割れなしに塑性変形に耐える材料の能力として規定される。延性はまた、曲げ能力及び粉砕性の用語で考えられることができる。延性材料は割れ前に大きな変形を示す。延性の不足は脆性と称されることが多い。
【0003】
チタンは、もし300℃以上に加熱されるなら、多くの化合物と非常に反応性である。Ti中のN,O,CまたはHのような元素の格子間侵入のため、高品質の骨置換具として役立つ強度及び延性を欠く(または不十分な耐疲労性の)脆い発泡体が得られる。
これらの金属発泡体の幾つかの製造手順は大きな相対量の有機材料を必要とする(それらは懸濁液調製の添加物として使用されるかまたは例えばポリウレタンレプリカ技術におけるような多孔構造のためのテンプレートとして作用する)。従って、N,O,CまたはHのような元素の残留汚染がかなり高くなるであろうし、金属発泡体の脆化をもたらす。ポリウレタンレプリカ技術により製造されたTi発泡体に対する典型的な延性値は引張りで約3%である。
他方、N,O,Cによる低い汚染、従って高い延性が形状付与法としてゲル鋳造法の使用の結果として見ることができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は高延性Ti,Ti合金及びNiTi発泡体の製造方法を提供することを目的とする。
【0005】
本発明はまた、高延性、高多孔性(>70%の総多孔度)Ti,Ti合金及びNiTi発泡体の提供を目的とする。好ましくは破断、破壊または割れなしで10%の最小塑性変形が達成されるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、圧縮において破断なしに10%を越えて変形されることができる金属構造であることを意味する、高延性Ti−,Ti合金−またはNiTi−発泡体を製造するための方法であって、この方法が段階:
・ Ti−,NiTi−またはTi合金−粉末の粉末懸濁液を調製する段階、
・ 前記粉末懸濁液をゲル鋳造により希望の形にもたらし、生加工品を形成する段階、
・ 前記生加工品がか焼されるか焼段階、及び
・ 前記生加工品を焼結する、
を含むものにおいて、前記か焼段階が前記生加工品が20℃/hour以下の速度で400℃〜600℃の温度に加熱される低速加熱段階を含むこと、及びTi−,NiTi−またはTi合金−粉末が100μm未満の粒径を持つことを特徴とする方法に関する。
【0007】
好ましくは、前記か焼段階は不活性雰囲気下または10−3mbar未満の圧力で実施される。
【0008】
本発明による方法は、900〜1000℃の温度が達成されるまで生加工品を加熱することを含む予備焼結段階を更に含むことができる。それはまた、1200℃〜1500℃の温度への生加工品の低速加熱、及び前記温度で前記生加工品を予め決められた時間の間保つことを含む焼結段階を含むことができる。
【0009】
好適実施態様では、粉末は0.03重量%未満のC、0.8重量%未満のO、0.5重量%未満のN、0.1重量%未満のFe及び0.1重量%未満のSiを含む。
【0010】
粉末懸濁液はゲル鋳造を用いて希望の形にもたらされることができる。
【0011】
本発明の別の態様は、30%未満の理論密度を持つ高延性の高多孔性Ti−,Ti合金−またはNiTi−発泡体に関する。高延性は、これらのTi−発泡体が圧縮において10%を越えて変形されることができることを意味する。ある程度の可塑性は負荷支持インプラントのための最小必要条件である。
【0012】
図面の簡略説明
図1は本発明による一般的方法のフローチャートを示す。
【0013】
図2は本発明により製造されたTi−発泡体の表面へのサンドブラスチングの影響を示す。加工品表面はサンドブラスチング操作の前(図2a)及び後(図2b)で示されている。
【0014】
図3は本発明によるゲル鋳造により得られたTi−発泡体構造の典型的な細孔径分布を示す。
【0015】
図4は本発明による発泡体のための幾つかの焼結温度に対する応力と変形の間の関係を示し、かつそれをPUレプリカ技術により製造されたTi−発泡体のこれらと比較する。
【0016】
図5は本発明により得られたNiTi−発泡体構造の形状記憶効果を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のより詳細な説明が実施例及び図面によって与えられる。本発明による一般的工程は図1に与えられる。
【0018】
粉末懸濁液は、20〜50容量%の粉末容量を持ち、分散剤及びゲル化助剤のような添加物を持つように水とTi−粉末(またはTi6Al4VのようなTi合金の粉末またはNiTi−粉末)を混合することにより調製される。当業者はこれらの添加物を熟知しており、ゲル鋳造成形法のために適したこの方法の第一段階による好適な粉末懸濁液を容易に調製することができる。また、懸濁液の粘度はゲル鋳造のために好適な希望の範囲に容易に適合されることができる。図1の成形段階で与えられる既知の方法による安定なTi−,Ti合金−またはNiTi−懸濁液を得るために使用されることができるゲル化助剤及び他の添加物の例は以下の通りである:
ゲル化助剤:
・ ゼラチン
・ アガロース
・ 他のハイドロコロイドまたは生物結合剤(ペクチン、でんぷん、キサンタン、カラゲーン、‐‐‐‐‐)
他の添加物:
・ セルロース誘導体(例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース)
・ アルギン酸塩及びその誘導体
・ 分散剤(例えばtargon(登録商標)1128、DarvanC(登録商標)、‐‐‐‐‐)
・ 発泡剤
【0019】
本発明による方法のための好適な懸濁液を得るために、金属粉末の粒径は100μm未満であるべきであり、粒子形状は球状または不規則(粉砕法に依存して)であるべきであり、かつ0.03重量%未満のC、0.8重量%未満のO、0.5重量%未満のN、0.1重量%未満のH、0.1重量%未満のFe及び0.1重量%未満のSiを持つ高純度のものであるべきである。Ti−粉末の粒径は次の理由のため10〜100μmでなければならない:
− 10μm未満の粒径を持つTi−粉末は高すぎる酸素量(それらの表面上のTiO)を持ち;他方でこの種のTi−粉末は容易な取扱いのためには発火性でありすぎる。100μmを越える粒径のTi−粉末は懸濁液の沈降が起こるのでスラリーの調製に問題を与える。
【0020】
ゲル化剤としてハイドロコロイドまたは生物結合剤を持つゲル鋳造は、高い多孔性構造(理論密度の70〜90%)、細孔径50〜1000μmの連続気泡網状構造(粉末懸濁液及び発泡剤のタイプ及び量、懸濁液の粘度、発泡工程、‐‐‐‐‐のような工程パラメーターに依存して)及び高い相互連結性を作る。
【0021】
か焼段階は好ましくは二段階で実行される。第一段階では、400から600℃の温度までの低速加熱(最大20℃/hour)が得られる(好ましくは500℃未満)。
高すぎるか焼速度は避けなければならない。
− それは生製品の割れを防ぐ
− Ti−骨格により吸収される炭素はその脆性に直接関係するので、炭素残留物は最少化されなければならない
有利には、これはアルゴンのような不活性雰囲気下または低圧力(最小10−3mbar)でなされる。この第一段階中に、存在する有機物質の殆どが燃え切るであろう。
【0022】
か焼段階の第二段階は、900から1000℃の温度が達成されるまでの予備焼結段階である。これは、構造体の取扱いを可能とするTi−粉末粒子が既に一緒に焼結するのを開始する構造をもたらす。好ましくは、この段階はMoプレート上またはY−(被覆)基板上で少なくとも10−4mbarの減圧下で実施される。
【0023】
次に、得られた構造体は、構造体の更なる収縮を可能とするために、それをMoまたはY−(被覆)ストリップまたはロール上に置くことにより焼結される。再度、10−4mbarを越える高い減圧が使用される。もし必要なら、Ti−発泡体は稠密なTi構造体に共焼結されることができる。
【0024】
所望により、例えばMo支持材料との接触点に位置された反応領域を除去する必要がある場合にまたは他の構造修正(例えばのこぎりを使う)が望まれるとき、加工段階が採用されることができる。
【0025】
また、サンドブラスチング操作が加工品の表面の半閉細孔窓を更に除去するために有用でありうる。かかるサンドブラスチング操作の結果は図2に見られる。
【実施例】
【0026】
1.ゲル鋳造により得られたTi−発泡体構造
懸濁液が300gのTi(Cerac;99.5%純度;−325メッシュ)、201gのHO、6.4gの寒天(水に3.18%)、6gのTergitol TMN10(Tiに2%)、3gのTriton(Tiに1%)及び0.36gのアルギン酸アンモニウム(HOに0.18%)を用いて調製される。それは6分間70℃で混合され、流体発泡体を得る。この発泡体は型中に鋳造され、構造体がゲル化されるまで冷却される。脱型後、構造体は大気圧かつ室温で乾燥される。
【0027】
構造体は次いでか焼され(10−3mbar、500℃まで20℃/h、2時間恒温、Zr金属の存在下)、そして焼結される(10−4mbar、1200〜1500℃まで5℃/分;2時間恒温)。50〜1000μmの細孔径を持つ連続気泡構造Ti−発泡体が得られる。典型的な細孔径分布が図3に示される。ゲル鋳造されたTi−発泡体の応力−歪曲線への焼結温度の影響が図4に与えられている。比較として、ポリウレタン技術により製造されたTi−発泡体に対する応力−歪曲線が与えられており、二つの技術間の延性の大きな差を示す。試験は、直径16mm及び高さ20mmの円筒に切断された、通常のInstron Machineで2mm/分の圧縮速度により圧縮された、Ti−発泡体上で実施された。
【0028】
得られる構造体の性質は(焼結温度に依存して)以下の通りである:
E−モジュラス(GPa)
1500℃ 2.5
1425℃ 2.1
1350℃ 1.8
1250℃ 1.5
比表面積(m/g)
1500℃ 0.7
1250℃ 1.3
多孔度(%TD)
1500℃ 70%
1250℃ 75%
応力−歪曲線から分かるように、10%を越える変形が得られる。
2.TiAl64V−発泡体
Ti−6Al−4V−懸濁液が同様な粒子径分布を持つTi−6Al−4V粉末を用いて、実施例1の組成と同様に調製された。ゲル鋳造及び焼結後、円筒状試料が切断され、圧縮された(実施例1と同様の条件:試料寸法:直径16mm及び高さ20mm;試験は2mm/分の圧縮速度を用いてInstron−器具上で実施された)。
理論密度の17%の発泡密度に対し、圧縮応力は34MPaであり、24%を越える歪が得られることができた。
【0029】
3.NiTi−発泡体
発泡体を製造するためにNiTiもまた使用されることができる。実施例はゲル鋳造技術で作られたNiTi−発泡体である。
【0030】
示差走査熱量測定法(DSC,TA Instruments 2920)がかかる発泡体の形状記憶効果を測定するために使用された。転移温度は図5から明らかである。これらの材料は転移が体温で起こるので生物医学的応用のためには非常に有望である。
この形状記憶効果(SME)及び証明されることができるDSC−図における鋭い転移ピークの存在はO,N,Cの低汚染の間接証明である。
ゲル鋳造法の特有の性質としてのかかる低い汚染は用いられた合金の疑似弾性により更に改善されて、高い延性をもたらすであろう。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明による一般的方法のフローチャートを示す。
【図2】本発明により製造されたTi−発泡体の表面へのサンドブラスチングの影響を示す。
【図3】本発明によるゲル鋳造により得られたTi−発泡体構造の典型的な細孔径分布を示す。
【図4】本発明による発泡体のための幾つかの焼結温度に対する応力と変形の間の関係を示す。
【図5】本発明により得られたNiTi−発泡体構造の形状記憶効果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮において破断なしに10%を越えて変形されることができることを意味する、高延性Ti−,Ti合金−またはNiTi−発泡体を製造するための方法であって、この方法が次の段階:
・ Ti−,NiTi−またはTi合金−粉末の粉末懸濁液を調製する段階、
・ 前記粉末懸濁液をゲル鋳造により希望の形にもたらし、生加工品を得る段階、
・ 前記生加工品がか焼されるか焼段階、及び
・ 前記生加工品が焼結される焼結段階、
を含むものにおいて、前記か焼段階が、前記生加工品が20℃/hour以下の速度で400℃〜600℃の温度に加熱される低速加熱段階を含むこと、及びTi−,NiTi−またはTi合金−粉末が100μm未満の粒径を持つことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記か焼段階が不活性雰囲気下で実施されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記か焼段階が10−3mbar未満の圧力で実施されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
か焼段階と焼結段階の間に、900〜1000℃の温度が達成されるまで生加工品を加熱することを含む予備焼結段階を更に含むことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
焼結段階が1200℃〜1500℃の温度への生加工品の低速加熱、及び前記温度で前記生加工品を予め決められた時間の間保つことを含むことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
粉末が0.03重量%未満のC、0.8重量%未満のO、0.5重量%未満のN、0.1重量%未満のFe及び0.1重量%未満のSiを含むことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
粉末懸濁液がゲル鋳造を用いて希望の形にもたらされ、60〜95%の多孔度と50〜1000μmの細孔径を持つTi−,Ti合金−またはNiTi−発泡体を生じることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
30%未満の理論密度、及び50〜1000μmの細孔径を持つ高延性Ti−,Ti合金−またはNiTi−発泡体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−542547(P2008−542547A)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−515004(P2008−515004)
【出願日】平成18年6月7日(2006.6.7)
【国際出願番号】PCT/BE2006/000066
【国際公開番号】WO2006/130935
【国際公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(502320688)ヴラームス インステリング ヴール テクノロギシュ オンデルゾーク (ヴイアイティーオー) (19)
【Fターム(参考)】