説明

高張力繊維複合緊張材の定着方法及びその定着構造

【課題】高張力繊維複合緊張材の中間及び端末部等任意の部分を圧着加工等の作業を要することなく、プレテンション及びポストテンション作業の現場において容易に定着する。
【解決手段】高張力繊維複合緊張材1の中間及び端末部等任意の部分1aの外周面1bに前記高張力繊維複合緊張材1の外径1cの少なくとも10倍の長さL4のくさび体4を、内面に増摩擦材2を接着したくさび体4より少なくとも10mm以上長くかつスリット3aを有する抱持体3を介して挟持し、さらに、このくさび体4を、前記抱持体3を挟持したまま、前記抱持体3の先端部3cを前記くさび体4の口元部4cから少なくとも10mm突設させて、前記くさび体4と同一長さの定着スリーブ5内に挿入し、前記高張力繊維複合緊張材1の任意の部分1aをくさび作用により被定着部に定着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレテンション及びポストテンション式プレストレスコンクリートで用いられる高張力繊維複合緊張材の定着方法及びその定着構造に関する。
【背景技術】
【0002】
この種従来技術においては、プレテンション及びポストテンション式プレストレスコンクリート用緊張材としてPC鋼材が用いられているが、最近では高張力かつ耐食性に優れた炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維などからなる高張力繊維複合緊張材も汎用されつつある。
その一つとして、下記特許文献1には、高張力繊維複合緊張材の端末部の回りに低融点合金を射出成形し、低融点合金付き端末部を金属パイプに挿入して圧着させ、同金属パイプ付き定着部をくさび体を用いて定着するものが案出されている。
【特許文献1】特開平4−2893号公報(第3頁、第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記従来技術による高張力繊維複合緊張材は、軸引張りに対してはPC鋼材以上の高強度を有するものの、軸と垂直方向つまり直径方向の剪断力や局所的な表面傷に対しては弱い。このため、一般的なPC鋼材の定着方法として採用されているくさび体を用いて高張力繊維複合緊張材をくさび作用により被定着部に定着して緊張力を導入するに当たっては、高張力繊維複合緊張材の表面を傷つけて剪断破壊を生じたり、くさび体口元部で応力集中を起こして破断したりすること等から、十分な定着性能、すなわち90%以上の定着効率、を発揮できない心配がある。
【0004】
前記特許文献1に記載の先行技術は、定着部の形成に低融点金属とはいえ400℃以上の金属を使用することが高張力繊維複合緊張材の繊維の軸引張り強度を低下させる等の高張力繊維複合緊張材に好ましくない影響を及ぼす上、射出成形機やプレス機といった大型で高価な機械を必要とすることから、高張力繊維複合緊張材の使用現場で定着部を形成する際には、相応の作業スペースを確保しなければならないばかりか、これら大型機械の搬入搬出にも手間がかかる。
本発明は、このような高張力繊維複合緊張材の繊維に熱を加えて繊維の強度の低下、すなわち定着効率を低下させ、さらに大型で高価な機械のための作業スペースが必要という従来技術の問題点を解決できるようにした高張力繊維複合緊張材の定着方法及びその定着構造を提供することを目的とする。
【0005】
本発明は、高張力繊維複合緊張材の定着したい任意の部分で、十分な定着効率を有する高張力繊維複合緊張材の定着方法及びその定着構造を容易に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明における課題解決のための具体的手段は、次の通りである。
即ち、本発明方法の特徴とするところは、高張力繊維複合緊張材の中間及び端末部等任意の部分の外周面に前記高張力繊維複合緊張材の外径の少なくとも10倍の長さのくさび体を、内面に増摩擦材を接着したくさび体より少なくとも10mm以上長くかつスリットを有する抱持体を介して挟持し、さらに、このくさび体を、前記抱持体を挟持したまま、前記抱持体の先端部を前記くさび体の口元部から少なくとも10mm突設させて、前記くさび体と同一長さの定着スリーブ内に挿入し、前記高張力繊維複合緊張材の任意の部分をくさび作用により被定着部に定着する点にある。
【0007】
これによれば、プレテンション及びポストテンション作業の現場において高張力繊維複合緊張材の中間及び端末部等任意の部分に射出成形や圧着加工などの特別な作業を要さずとも、任意の部分を抱持体で抱持し、その抱持体をくさび体で挟持し、それを定着スリーブ内に挿入することにより、任意の部分を定着部として定着することが可能となる。
また、前記抱持体の有する左右一対のスリットに設けられた当該緊張材の外径の1/3から1/5の各スリット幅と同一若しくは広い各割部幅が設けられた前記くさび体の有する左右一対の割部を前記一対のスリットに沿わせ、前記左右一対のスリットを、前記左右一対の割部で分割された上下一対のくさび体片で覆うことなく、前記くさび体で前記抱持体を挟持して、前記高張力繊維複合緊張材の任意の部分をくさび作用により被定着部に定着することが好ましい。
【0008】
本発明構造の特徴とするところは、高張力繊維複合緊張材の任意の部分の外周面に増摩擦材を介して抱持するスリットを有する抱持体と、前記抱持体を挟持する前記スリットのスリット幅と同一若しくは広い割部幅が設けられた割部を有するくさび体と、このくさび体を、前記抱持体を挟持したまま、挿入する定着スリーブとを具備し、前記くさび体、定着スリーブの各長さが同一で、前記くさび体の長さが高張力繊維複合緊張材の外径の少なくとも10倍の長さで、前記抱持体の長さが前記くさび体の長さより長く、かつ前記抱持体の口元突設長が前記くさび体の口元部から少なくとも10mmである口元突設部を有して、前記高張力繊維複合緊張材の任意の部分を被定着部に定着した点にある。
【0009】
これにより、抱持体と、くさび体と、定着スリーブとにより、高張力繊維複合緊張材を容易に定着する構造となる。
くさび体の左右一対の割部が抱持体の左右一対のスリットに各々沿い、前記一対のスリットが、前記左右一対の割部で分割された上下一対のくさび体片で覆われることなく、かつ前記左右一対の割部に設けられた各割部幅が、前記一対のスリットに設けられた各スリット幅と各々同一若しくは広く、各スリット幅が各々当該緊張材の外径の1/3から1/5である点も好ましい。
【0010】
また、前記増摩擦材が金属粉、又は珪砂であることを特徴とする。さらに、前記増摩擦材の金属粉がアランダムであることも好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、内面に増摩擦材を接着した抱持体を準備しておけば、プレテンション及びポストテンション作業の現場において高張力繊維複合緊張材の任意に選択可能な部分に射出成形や圧着加工などの特別な作業を要さずとも容易に、任意の部分を定着部とし高い定着効率にて定着することが可能で、大幅な作業性の向上につながる。
本発明の構造によれば、高張力繊維複合緊張材の任意の部分をくさび作用により高い定着効率で被定着物に定着して緊張力を導入できる。くさび体による高張力繊維複合緊張材への圧縮力が作用しても抱持体が緩衝材として働くため、高張力繊維複合緊張材の早期剪断破壊が避けられ、高い定着効率を有する高張力繊維複合緊張材の定着構造となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面並びに表に基づいて説明する。
図1〜4は、表1の実施例2に相当するもので、図中1は高張力繊維複合緊張材、2は増摩擦材、3は抱持体、4はくさび体、5は定着スリーブであり、図示により高張力繊維複合緊張材1の任意に選択可能である任意の部分1a(高張力繊維複合緊張材1のプレテンション及びポストテンション作業における定着部となる部分。)を処理して定着する工程について説明する。
高張力繊維複合緊張材1の中間及び端末部等任意の部分1aの外周面1bを増摩擦材2を介して抱持体3で抱持する。(図1〜2)
抱持体3の長さL3は、任意の部分1aの長さL1より長い。この抱持体3は左右一対のスリット3a(左スリット3a1、右スリット3a2)を有し、一対のスリット3aには、各スリット幅3b(左スリット幅3b1、右スリット幅3b2)が設けられている。
【0013】
すなわち、抱持体3は、高張力繊維複合緊張材1の長手方向に2箇所の一対のスリット3aで分離され、2個の上下一対の抱持体片3e(上抱持体片3e1、下抱持体片3e2)からなる。なお、この一対のスリット3aは左右に限定するものではなく上下でも構わない。また、スリット3aも一対あるいは2箇所に限定するものではない。したがって、抱持体3の上下一対の抱持体片3eも上下に限定するものではなく左右でも構わないし、かつ一対あるいは2個に限定するものではない。
また、スリット3aも少なくとも高張力繊維複合緊張材1の任意の部分1aを抱持する部分にあればよく、その他の部分にスリット3aを設けない場合もある。
【0014】
高張力繊維複合緊張材1とは、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、などの強力高張力繊維を束ねたり、よりあわせたりしたものにエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、ポリウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂を含浸させて硬化させた線材(ロッド)である。
増摩擦材2は、金属粉、又は珪砂である。金属粉がアルミナを溶融して製造された人造コランダムであるアランダムが適用される。アランダムでは、粒度番号が60番程度の粗粒が好ましい。なお、アランダム以外でも使用できるし、アランダムの粒度番号を特に限定するものではない。
【0015】
増摩擦材2は、抱持体3の内面3dに均一に接着したもので、例えば市販の接着剤等を用いればよいのであるが、その接着の均一さ、並びにその接着の程度等も特に限定するものではない。高張力繊維複合緊張材1の中間及び端末部等任意の部分1aの外周面1bを抱持体3で増摩擦材2を介して抱持するのであり、増摩擦材2は、その抱持するのに適しておればよい。
抱持体3としては、高張力繊維複合緊張材1の外周面1bを傷つけることのない、また局所的な応力集中を高張力繊維複合緊張材1に発生させないような、ある程度柔らかいものが望ましい。材質的には例えば配管用炭素鋼鋼管(SGP)、圧力配管用炭素鋼鋼管(STGP)、一般構造用炭素鋼鋼管(STK)、機械構造用炭素鋼鋼管(STKM)などの鉄鋼材料、あるいはアルミニウムなどの非鉄材料などでも構わない。また、一般構造用圧延鋼材(SS)、機械構造用炭素鋼鋼材などの鉄鋼材料或いはアルミニウムなどの非鉄材の平板を半筒状に成形加工したものなどでもよく、特に限定するものではない。
【0016】
次に、高張力繊維複合緊張材1の中間及び端末部等任意の部分1aの外周面1bを抱持した抱持体3をくさび体4で挟持する。
くさび体4は、左右一対の割部4a(左割部4a1、右割部4a2)を有し、この一対の割部4aには、各割部幅4b(左割部幅4b1、右割部幅4b2)が設けられている。
このくさび体4は高張力繊維複合緊張材1の長手方向の一対の割部4aによって分割され、2個の上下一対のくさび体片4e(上くさび体片4e1、下くさび体片4e2)となっている。くさび体4で抱持体3を挟持するに際して、くさび体4の左右一対の割部4aを抱持体3の左右一対のスリット3aに各々沿わせる。
【0017】
そして、左右一対のスリット3aは、左右一対の割部4aで分割された上下一対のくさび体片4eで覆われることなく、くさび体片4cの割部4aの間から露呈している(図3)。
くさび体4の左右一対の割部4aに設けられた各割部幅4bは、抱持体3の左右一対のスリット3aに設けられた各スリット幅3bと比較して各々広く、かつ各スリット幅3bが共に各々当該緊張材の外径の1/3から1/5である。なお、各割部幅4bと各スリット幅3bとが同一であることを妨げるものではない。
【0018】
一対のスリット幅3b(左スリット幅3b1、右スリット幅3b2)の一方が当該緊張材の外径の1/5未満で、他方が1/3から1/5では、緊張力をかけていった際に、一対の抱持体片3eの間の一対のスリット幅3bの少なくとも一方がゼロになって、一対のスリット3aの少なくとも一方がなくなり、くさび体4の食い込みにより発生する内圧によって高張力繊維複合緊張材1を締め付けることができず、高張力繊維複合緊張材1が早期に抱持体3などから抜け出してしまう。このことは、スリット幅3bの両方が当該緊張材の外径の1/5未満でも同様のことが生じる。
【0019】
一対のスリット幅3bの一方が当該緊張材の外径の1/3を越し、他方が1/3から1/5では、くさび体4の食い込みが不十分で、発生する内圧が不足し、したがって高張力繊維複合緊張材1を十分に締め付けることができず、高張力繊維複合緊張材1の外周面1bと抱持体3の内面3dとの間に、増摩擦材2を介していても、「すべり」が発生する。このことは、スリット幅3bの両方が当該緊張材の外径の1/3を越しているときにも同様のことが生じる。
なお、一対のスリット幅3bの一方が当該緊張材の外径の1/5未満で、他方が当該緊張材の外径の1/3を越しているときには、高張力繊維複合緊張材1が抜け出てしまうか、あるいは高張力繊維複合緊張材1の外周面1bと抱持体3の内面3dとの間で「すべり」が発生するような不安定な定着となる。
【0020】
なお、スリット3aを有する抱持体3と割部4aを有するくさび体4であれば、上記記載のようにスリット3aと割部4aとを沿わせることに限定するものではない。左右一対のスリット3aが左右一対の割部4aで分割された上下一対のくさび体片4eで覆われることに限定するものではない。また、くさび体4も分割された一対のくさび体片4eに限定するものではなく、3分割などでもかまわない。
このくさび体4の長さL4は、高張力繊維複合緊張材1の外径1cの少なくとも10倍の長さで、定着スリーブ5と同一長さである。
【0021】
すなわち、例えば外径13mmの高張力繊維複合緊張材1に対してはくさび体4及び定着スリーブ5の各長さL4、L5として130mm以上、外径15mmの高張力繊維複合緊張材1に対しては150mm以上が必要である。
次に、このくさび体4で抱持体3を挟持したまま、抱持体3の先端部3cをくさび体4の口元部4cから高張力繊維複合緊張材1の長手方向に沿って突設させて定着スリーブ5内に挿入し、高張力繊維複合緊張材1の中間及び端末部等任意の部分1aをくさび作用により被定着部に定着する(図3)。
【0022】
すなわち、抱持体3の長さL3としては、くさび体4の口元部4cでの応力集中による高張力繊維複合緊張材1(任意の部分1a)の剪断破壊を防止するためにくさび体4の長さL4よりも長くしておく必要がある(図4)。具体的には、抱持体3の先端部3cをくさび体4の口元部4cから少なくとも10mm突設して長く出しておく。抱持体3の口元突設長L3fがくさび体4の口元部4cから少なくとも10mmである口元突設部3fを有している。
すなわち、抱持体3の長さL3は、くさび体4の長さL4よりも少なくとも10mm長くしておく必要がある。この抱持体3の長さL3、くさび体4の長さL4(任意の部分1aの長さL1)並びに抱持体3の口元突設長L3fの間には、以下の(1)式の関係となる。
【0023】
L3≧L4(L1)+L3f・・・・・・・・(1)
くさび体4の口元部4cとは、定着後の高張力繊維複合緊張材1に導入されている緊張力が働いている方向と同じ方向のくさび体4の方向(図3〜4)であって、高張力繊維複合緊張材1に沿って抱持体3の端部3cがくさび体4の口元部4cから少なくとも10mm突設して出ており、抱持体3が口元突設長L3fが少なくとも10mmの口元突設部3fを有していることになる。
このことは、例えば外径13mmの高張力繊維複合緊張材1においては、抱持体3の長さL3として140mm以上、外径15mmの高張力繊維複合緊張材1に対しては160mm以上である。
【0024】
なお、抱持体3の先端部3cがくさび体4の口元部4cから高張力繊維複合緊張材1に沿って少なくとも10mm突設して出しており、口元突設部3fに少なくとも10mm、実用上の好ましい最大は20mm、の口元突設長L3fがあればそれ以上の長さの突設長L3fについては制限しない。口元部4cの反対側である尾部4d側からの抱持体3の他端部3c1(前記端部3cの反対側)を先頭として突設した抱持体3の尾部突設部3gの尾部突設長L3g(図5)についても同様に制限しない。なお、上記の抱持体3の長さL3、くさび体4の長さL4(任意の部分1aの長さL1)、抱持体3の口元突設長L3f並びに尾部突設長L3gの間には、以下の(2)式の関係となる。
【0025】
L3=L4(L1)+L3f+L3g・・・・・・(2)
なお、くさび体4の口元部4c並びに尾部4c1からの抱持体3の突設長L3f、L3gは制限しないといっても、抱持体3の長さL3は、くさび体4の長さL4の倍程度が実用上の最大の長さである。
なお、定着スリーブ5の長さL5がくさび体4の長さL4より長い場合も排除するものではなく、たとえば、くさび体4の長さL4が150mmであって、170mmの定着スリーブ5を切断して150mm用の定着スリーブ5として使用可能な状況下での定着スリーブ5の長さL5が170mmのような場合である。
【0026】
次に、具体例につき説明するために、本発明の実施例1〜2を比較例A1〜A2、B1〜B4と共に表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
ここで、高張力繊維複合緊張材1として外径1cが15mmのアラミド繊維にエポキシ樹脂を含浸させ熱硬化させたものを用いた。この高張力繊維複合緊張材1の保証破断荷重は235KNで、定着効率[〔破断荷重(KN)/保証破断荷重(KN)〕×100%]の目標値は90%以上である。
増摩擦材2は粒度番号60番のアランダムであり、それを市販の接着剤を用いて抱持体3の内面3dに均一に接着した。
【0029】
抱持体3は、外径21.7mmで厚さ2.8mmの配管用炭素鋼鋼管(SGP)を用い、高張力繊維複合緊張材1の長手方向に左右一対のスリット3a(左スリット3a1、右スリット3a2)を有し、それらは左右一対のスリット幅3b(左スリット幅3b1、右スリット幅3b2;共に4mm)を設けている。
くさび体4は、上下一対のくさび体片4eからなる分割された21.8mmPC用である。また、定着スリーブ5の外径は65mmである。
くさび体4の長さ4Lと定着スリーブ5の長さL5とは同一で、100mm、125mm、150mm、及び170mmの4種類である。
【0030】
上記4種類の長さL4のくさび体4を作成するには、くさび体4の口元部4cは同一とし、高張力繊維複合緊張材1の直角方向に、すなわちくさび体4の長手方向に直角方向に、口元部4cの反対側から所定の長さ(切除長)を切断し尾部4dとしたものである。
また、上記4種類の長さL5の定着スリーブ5を作成するには、高張力繊維複合緊張材1の直角方向に、すなわち定着スリーブ5の長手方向に直角方向に、定着スリーブ5の所定の長さ(切除長)を切断したものである。くさび体4(の外面)と定着スリーブ5(の内面)との各角度は、各々の長さ4L,5Lによっては変化せず、一定である。
【0031】
なお、上記のように、所定の長さ(切除長)を切断する替わりに、それぞれ上記4種類長さのくさび体4及び定着スリーブ5を新たに作成しても良いのは当然である。
また、くさび体4の左右一対の割部4aを抱持体3の左右一対のスリット3aに各々沿わせてくさび体4で抱持体3を挟持した。すなわち、左右前記一対のスリット3aは、左右一対の割部4aで分割された上下一対のくさび体片4eで覆われることなく、くさび体片4cの割部4aの間から露呈している。
くさび体4の左右一対の割部4aにおける各割部幅4b(左割部幅4b1、右割部幅4b2)(図6)は、抱持体3の左右一対のスリット3aにおける各スリット幅3b(左スリット幅3b1、右スリット幅3b2;共に4mm)(図6)より広い。
【0032】
抱持体3の長さL3は、実施例1〜2、比較例A1〜A2ではくさび体4(定着スリーブ5)の長さ4L(5L)より10mm長く、すなわちくさび体4の口元部4cより10mm突設して出るように取り付けており、抱持体3は口元突設長L3fが10mmである口元突設部3fを有している。ただし、図5〜6は、いずれも模式図である。また、図5では、くさび体4の尾部4dの方にも抱持体3の他端部3c1を突設させて、尾部突設部3gを有する抱持体3の状況を別途示している。
表1の比較例A1〜A2は、くさび体4(定着スリーブ5)の長さL4(L5)を100mm、125mmとした。抱持体3の長さL3はくさび体4の長さL4より10mm長くし、抱持体3の端部3cはくさび体4の口元部4Bより10mm突設して出るように取り付けている。すなわち、口元突設長L3fが10mmである口元突設部3fを有している。定着効率は各々74.9%、87.2%で目標定着効率の90%を満たしていない。
【0033】
くさび体4(定着スリーブ5)の長さL4(L5)は、高張力繊維複合緊張材1の外径1cの少なくとも10倍の長さ、すなわち150mm必要で、比較例A1〜A2のように
100mm、125mmでは、長さL4(L5)が不足している。
すなわち、比較例A1〜A2では、くさび体4(定着スリーブ5)の長さL4(L5)が不足しており、定着スリーブ5内の高張力繊維複合緊張材1に対する内圧が高くなり、高張力繊維複合緊張材1が過度に締め付けられた結果、高張力繊維複合緊張材1の繊維が剪断破壊されている。
【0034】
比較例B1〜B4は、抱持体3の長さL3とくさび体4(定着スリーブ5)の長さL4(L5)とは同じで、 比較例B1は100mm、 比較例B2は125mm、 比較例B3は150mm、 比較例B4は170mmである。定着効率は、比較例B1は53.6%、比較例B2は59.1%、比較例B3は68.0%、比較例B4は67.2%であり、目標定着効率(90%)をクリアするような定着力を得られていない。
比較例B1〜B2では、くさび体4(定着スリーブ5)の長さL4(L5)が不足(150mm未満)で、かつ抱持体3の長さL3もくさび体4(定着スリーブ5)の長さL4(L5)より少なくとも10mm長く必要なところ、口元突設部3fの口元突設長L3fをとることができず、結局抱持体3の長さL3が不足している。
【0035】
比較例B3〜B4では、くさび体4(定着スリーブ5)の長さL4(L5)は、高張力繊維複合緊張材1の外径1cの10倍である150mmを満足しているが、抱持体3の長さL3が本来くさび体4(定着スリーブ5)の長さL4(L5)より少なくとも10mm長く必要なところ、各々抱持体3の長さL3が不足している。
実施例1〜2は、いずれも定着効率が90%以上である。
実施例1の抱持体3の長さL3は160mm、くさび体4の長さL4並びに定着スリーブ5の長さL5は150mmで、抱持体3の端部3cをくさび体4の口元部4cより10mm突設して出ており、抱持体3は、口元突設長L3fが10mmである口元突設部3fを有している。そして、くさび体4の長さL4並びに定着スリーブ5の長さL5は、高張力繊維複合緊張材1の外径1c(15mm)の10倍(15mm×10=150mm)である。この結果、定着効率が93.6%を記録している。
【0036】
実施例2の抱持体3の長さL3は180mm、くさび体4の長さL4並びに定着スリーブ5の長さL5は170mmで、抱持体3の先端部3cをくさび体4の口元部4cより10mm突設して出ている。抱持体3は、口元突設長L3fが10mmである口元突設部3fを有しており、かつくさび体4の長さL4並びに定着スリーブ5の長さL5は、高張力繊維複合緊張材1の外径1cの10倍以上(15mm×10=150mm<170mm)である。この結果、定着効率が94.4%を記録し、実施例1同様に、目標定着効率(90%)以上の良好な定着力を得ている。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の高張力繊維複合緊張材の定着方法及びその定着構造は、プレテンション及びポストテンション式プレストレスコンクリート用緊張材以外にも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の高張力繊維複合緊張材の定着したい任意の部分である。
【図2】図1の任意の部分の外周面を抱持体で抱持する図である。
【図3】くさび体で抱持体を挟持し、定着スリーブ内に挿入した断面図である。
【図4】図3の分解状態を示す図である。
【図5】くさび体で抱持体を挟持し定着スリーブ内に挿入した斜視模式図である
【図6】図5のA−A断面模式図である。
【符号の説明】
【0039】
1 高張力繊維複合緊張材
1a (高張力繊維複合緊張材の中間及び端末部等)任意の部分
1b 外周面
1c 外径
2 増摩擦材
3 抱持体
3a スリット
3a1、3a2 左右スリット
3b スリット幅
3b1、3b2 左右スリット幅
3c 先端部
3f 口元突設部
4 くさび体
4a 割部
4a1、4a2 左右割部
4b 割部幅
4b1、4b2 左右割部幅
4c 口元部
4e くさび体片
4e1、4e1 上下くさび体片
5 定着スリーブ
L1 任意の部分長さ
L3 抱持体長さ
L3f 口元突設長
L4 くさび体長さ
L5 定着スリーブ長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高張力繊維複合緊張材の中間及び端末部等任意の部分の外周面に前記高張力繊維複合緊張材の外径の少なくとも10倍の長さのくさび体を、内面に増摩擦材を接着したくさび体より少なくとも10mm以上長くかつスリットを有する抱持体を介して挟持し、さらに、このくさび体を、前記抱持体を挟持したまま、前記抱持体の先端部を前記くさび体の口元部から少なくとも10mm突設させて、前記くさび体と同一長さの定着スリーブ内に挿入し、前記高張力繊維複合緊張材の任意の部分をくさび作用により被定着部に定着することを特徴とする高張力繊維複合緊張材の定着方法。
【請求項2】
前記抱持体の有する左右一対のスリットに設けられた当該緊張材の外径の1/3から1/5の各スリット幅と同一若しくは広い各割部幅が設けられた前記くさび体の有する左右一対の割部を前記一対のスリットに沿わせ、前記左右一対のスリットを、前記左右一対の割部で分割された上下一対のくさび体片で覆うことなく、前記くさび体で前記抱持体を挟持して、前記高張力繊維複合緊張材の任意の部分をくさび作用により被定着部に定着することを特徴とする請求項1記載の高張力繊維複合緊張材の定着方法。
【請求項3】
高張力繊維複合緊張材の任意の部分の外周面に増摩擦材を介して抱持するスリットを有する抱持体と、前記抱持体を挟持する前記スリットのスリット幅と同一若しくは広い割部幅が設けられた割部を有するくさび体と、このくさび体を、前記抱持体を挟持したまま、挿入する定着スリーブとを具備し、前記くさび体、定着スリーブの各長さが同一で、前記くさび体の長さが高張力繊維複合緊張材の外径の少なくとも10倍の長さで、前記抱持体の長さが前記くさび体の長さより長く、かつ前記抱持体の口元突設長が前記くさび体の口元部から少なくとも10mmである口元突設部を有して、
前記高張力繊維複合緊張材の任意の部分を被定着部に定着したことを特徴とする高張力繊維複合緊張材の定着構造。
【請求項4】
くさび体の左右一対の割部が抱持体の左右一対のスリットに各々沿い、前記一対のスリットが、前記左右一対の割部で分割された上下一対のくさび体片で覆われることなく、かつ前記左右一対の割部に設けられた各割部幅が、前記一対のスリットに設けられた各スリット幅と各々同一若しくは広く、各スリット幅が各々当該緊張材の外径の1/3から1/5であることを特徴とする請求項3記載の高張力繊維複合緊張材の定着構造。
【請求項5】
前記増摩擦材が金属粉、又は珪砂であることを特徴とする請求項3記載の高張力繊維複合緊張材の定着構造。
【請求項6】
前記増摩擦材の金属粉がアランダムであることを特徴とする請求項5記載の高張力繊維複合緊張材の定着構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−176957(P2006−176957A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−368312(P2004−368312)
【出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【出願人】(000192626)神鋼鋼線工業株式会社 (44)
【Fターム(参考)】