説明

高強度セラミックス

【課題】比較的入手しやすい原料を用いて、成形から焼成工程までタイルや衛生陶器の製造工程が利用でき、低コストで製造可能な高強度セラミックスを提供する。
【解決手段】本発明の高強度セラミックは、アルカリ金属とアルカリ土類金属のアルミノ珪酸塩を主体とした焼結生成物をマトリックスとし、コランダム結晶とジルコン結晶を含有し、曲げ強度が80(MPa)以上の値を有するものであり、酸化物組成で全体を表示すると、酸化珪素40〜60%、アルミナ20〜50%、ジルコニア5〜21%、アルカリ金属酸化物3〜6%、アルカリ土類金属酸化物1.5〜3.5%を必須成分とするセラミックスである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強度の大なるセラミックスに関するものであって、特に、比較的入手しやすい安価な原料が利用できるセラミックスの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、セラミックスの強度を向上させる研究は数多くなされており、近年でも、いくつかの特許出願が存在する。例えば、特開平09−301770「低熱伝導高強度セラミック材料及びその製造方法」(特許文献1)には、コーディエライトの熱分解物と窒化珪素とがイットリアとアルミナの存在下で反応して得られる生成物をマトリックス相とし、ジルコンを分散させて得られる曲げ強度が250MPa以上であるセラミック材料が開示されている。しかし、この技術では、少なくともコーディエライト、窒化珪素、イットリアなどの使用セラミックス原料は、高価かつ入手が容易でない材料であって、低コスト向きの技術ではなかった。
【0003】
また、特開平05−51251号公報「セラミック焼結体」(特許文献2)には、チタン酸アルミニウムに繊維状酸化アルミニウムを添加して得られる低熱伝導高強度のセラミック焼結体が開示されているが、この場合も、酸化チタンとアルミナから加熱合成されるかなり特殊な合成生成物であるチタン酸アルミニウムを主成分とし、さらに特殊な原料である繊維状酸化アルミニウムなど高価かつ入手が容易でない原料を利用するので、特許文献1の場合と同様に、低コストの製品は期待できなかった。
【0004】
また、特開平09−81259号公報「ムライト系セラミックス」(特許文献3)には、ムライト系セラミックス中に単斜晶ジルコニアとジルコンとを含む耐熱性に優れたセラミックスが開示されている。このセラミックスでは、配合ジルコンから単斜晶ジルコニアを析出させるため1550℃以上の高温度で焼成することが必要であるため、低コストの製造がかなり困難であった。
【0005】
【特許文献1】特開平09−301770号公報:特許請求の範囲の記載を参照
【特許文献2】特開平05−51251号公報:特許請求の範囲の記載を参照
【特許文献3】特開平09−81259号公報:特許請求の範囲の記載を参照
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、比較的入手しやすい原料を用いて、成形から焼成工程までタイルや衛生陶器の製造工程が利用でき、低コストで製造可能な高強度セラミックスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本件出願人は、先に特願2006−49829に提案したところの熱伝導率に優れたセラミック焼結体を開発したが、その研究過程において、従来の建築用タイルなど陶磁器製品が持っている曲げ強度60MPa程度より優れた強度を示すセラミックスを見出した。本発明は、セラミックマトリックス中にコランダム結晶とジルコン結晶を適度に含有せしめると、優れた曲げ強度が発現する知見を得て完成したものである。
上記の問題は、アルカリ金属とアルカリ土類金属のアルミノ珪酸塩を主体とした焼結生成物をマトリックスとし、コランダム結晶とジルコン結晶を含有し、曲げ強度が80MPa以上であることを特徴とする本発明の高強度セラミックスによって、解決することができる。
【0008】
そして、本発明の高強度セラミックスは、酸化物組成として、酸化珪素40〜60%(重量%、以下同様)、アルミナ20〜50%、ジルコニア5〜21%、アルカリ金属酸化物3〜6%、アルカリ土類金属酸化物1.5〜3.5%を必須成分とし、落球衝撃強度が1.7(m)以上である形態の高強度セラミックスとして具体化される。
また、本発明は、焼成温度が1150〜1280℃であって、吸水率が1.5%以下に焼結されたものである高強度セラミックスが好ましく、さらに、熱伝導率が2.00W/mK以上である形態の高強度セラミックスとして具体化される。
【発明の効果】
【0009】
先ず、本発明の高強度セラミックスは、アルカリ金属とアルカリ土類金属のアルミノ珪酸塩を主体とした焼結生成物をマトリックスとし、コランダム結晶とジルコン結晶を含有し、曲げ強度が80(MPa)以上の値を有するものであり、長石、陶石、珪石、粘土、石灰石、マグネサイトなど通常の陶磁器源料に、アルミナ、ジルコンなど天然鉱物資源を添加して得られるから、従来の陶磁器製品と同等の製造工程、製造コストにより製造可能であるうえ、従来の陶磁器製品より強度に優れる特徴があり、床タイルなど内外装タイルほか、強度が要求される用途に特に好ましいものとなる。
【0010】
そして、本発明では、焼結生成物全体として、酸化物組成で表示すると、酸化珪素40〜60%、アルミナ20〜50%、ジルコニア5〜21%、アルカリ金属酸化物3〜6%、アルカリ土類金属酸化物1.5〜3.5%を必須成分とするセラミックスであり、落球衝撃強度が1.7(m)以上と耐衝撃強度にも優れるので、静的および動的強度に優れたセラミックスが得られるのである。
【0011】
また、本発明は、焼成温度が1150〜1280℃であって、吸水率が1.5%以下に焼結されたものである高強度セラミックス、さらに、熱伝導率が2.00W/mK以上である高強度セラミックスとして提供されるので、床タイルの焼成工程とほぼ同等な焼成が可能であり低コストな焼成が可能である。そのうえ、十分に焼き締まったセラミックスが提供される。
【0012】
また、通常の陶磁器の1.3(W/mK)程度の熱伝導率に比較して高熱伝導率のセラミックスが提供される。かくして、道路や通路の路盤面、床下、屋根材の下側などに敷設して融雪用温水または電熱ヒータなどの熱エネルギを有効に利用できるエネルギ効率の高い融雪用または床暖房用の伝熱構造を実現できるという優れた効果がある。
よって本発明は、従来の問題点を解消したセラミック焼結体および伝熱構造として、工業的価値はきわめて大なるものがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明の高強度セラミックスの実施形態を詳細に説明する。
本発明の高強度セラミック焼結体は、分散結晶相とそれを取り巻くマトリックスとからなり、本発明のマトリックスとしては、アルカリ金属とアルカリ土類金属のアルミノ珪酸塩を主体とした焼結生成物から形成される。また、分散結晶相としては、コランダム結晶とジルコン結晶の分散粒子を含有し、曲げ強度が80(MPa)以上の値を有する高強度セラミックである点にその特徴がある。
【0014】
このセラミックスは、その分散結晶相とマトリックスとからなる全体の好ましい組成範囲を酸化物組成で全体を表示すると、必須成分として、酸化珪素40〜60%、アルミナ20〜50%、ジルコニア5〜21%、アルカリ金属酸化物3〜6%、アルカリ土類金属酸化物1.5〜3.5%をその範囲としているのである。
【0015】
そして、本発明は、このような組成範囲のセラミックスであって、前記のように曲げ強度が80(MPa)以上であり、これは通常の陶磁器製品比較して約1.3倍に相当する。セラミックスの弱点と見られている動的強度である耐衝撃強度においても優れている、例えば落球衝撃強度が1.7(m)以上であって、これは通常の陶磁器製品比較して約1.3倍に相当するのである。このように、本発明は静的強度および動的強度に優れたセラミックスである点に大きな特徴がある。
【0016】
なお、本発明では、曲げ強度は次の方法で測定される。
試験体(サイズ長さ×幅×厚さ=100×100×8mm)を支点間スパン100mmで2点支持し、中央に荷重を加えて折り曲げ破損したときの荷重から慣用の公式により曲げ強度を算出する。なお、この強度試験で用いた強度試験機は、東洋測定機器(株)製、型番TENSILON/UTM−1/500に準じて製作した自社製の万能強度試験機である。
【0017】
また、落球衝撃強度は次の方法で測定される。
試験体(サイズ長さ×幅×厚さ=100×100×8mm)を粒度5mmアンダーの珪砂堆積層の上に水平に静置し、その中央部分に径19.05mmの鋼球(質量約28.1g)を高さを変えて落下させ、ひび割れの有無を目視で調べる。3個の試験体につき、そしてひび割れの発生した高さ(m)の平均値を落球衝撃強度として表示する。
【0018】
本発明で、このような高強度性能が得られる理由は、必ずしも理論的に解明されてはいないが、前記マトリックス中に、コランダム結晶とジルコン結晶を含有している点に原因が求められる。この好ましい含有量は、コランダム結晶を9%〜30%、ジルコン結晶を5%〜31%の範囲で含み、かつ、その合計量で少なくとも20%含む点が重要な要件であり、さらに、コランダム結晶をとジルコン結晶との合計量は25%以上が好ましく、この場合には100(MPa)以上の曲げ強度が可能となる。
【0019】
ここで、各成分組成について若干、補足する。
酸化珪素を40〜60%とする理由は、限度未満の場合には床タイルなどの用途の材料として十分な強度が得られない、また限度超えの場合では焼結が不十分となって所定の強度が得られないからである。また、アルカリ金属酸化物を3.0〜6.0%、アルカリ土類金属酸化物を1.5〜3.5%とするのは、それら焼結促進成分を規定することで、セラミック素地が適度な焼結構造に焼成され、所定の強度、熱伝導率などの性能が発現されるようにするためである。
【0020】
また、アルミナを20〜50%、ジルコニアを5.0〜21%の範囲とするのは、過小の場合には所定の強度が得られず、また過大であれば焼結性が低下し、焼結後に気孔が多量に残存して、強度も熱伝導率が低下するからである。なお、これらの酸化物成分は相互に有機的に作用することによって、焼結性、熱伝導性などに影響する点を理解すべきである。
【0021】
そして、本発明において、最も重要な点は前記したように、結晶構成としてコランダム結晶とジルコン結晶とを前記のように所定量含み、かつその合計量も所定の値以上含むという点にある。本件発明者の知見によれば、コランダム結晶とジルコン結晶とはともに熱伝導率を向上させるに有効な結晶成分であるが、同時にセラミック素地内において反応しにくい物質として機能するので過大に用いると焼結性を大きく阻害するものの、前記したところの適量のコランダム結晶とジルコン結晶とを共存させることによって、好ましい曲げ強度や耐衝撃強度が得られるようになったと考えている。
【0022】
ここで、本発明の高強度セラミックの製造方法について説明する。
本発明のセラミックの出発原料としては、従来から知られている窯業原料が広く利用できる点にも有利な点がある。すなわち、珪石、各種長石、長珪石、蛙目粘土、木節粘土、ドロマイト、石灰石、珪灰石、ボーキサイトなどの粉砕物が適宜に用いられる。
【0023】
コランダム結晶とジルコン結晶としては、それぞれ結晶鉱物の微粉末を用いるのがよい。コランダムには、人工合成鉱物であるアランダムが比較的安価に利用可能である。また、ジルコン結晶には、天然鉱物である珪酸ジルコニウムが比較的安価に入手可能であるので、その粉末が好ましく利用できる。なお、これら結晶は、配合された他の原料と殆ど反応しないので、原料配合物に予め添加すれば所定量を焼結体中に結晶状態で存在させることができるから好都合である。
【0024】
かくして得られた調合生地は、プレス成形機などによってタイル形状、屋根材形状、衛生陶器、洗面ボールなど所定の形状に成形され、必要に応じて釉薬を施したうえ、焼成される。この焼成温度は、1150℃〜1280℃とするのがよい。この温度範囲は、従来の陶磁器タイルの大量生産用焼成炉に常用される温度範囲であるから、本発明のために特別な焼成炉を準備する必要がない利点ともなる。
【0025】
また、焼成後のセラミック素地の吸水率は、1.5%以下とするのが特に好ましい。先に説明したように、吸水率(素地内の気孔の占める割合に比例)は、緻密さの尺度であって、強度と熱伝導率とには密接な関係にあり、本件発明者の知見によれば、吸水率が1.5%超えの場合は、曲げ強度80(MPa)以上の強度が得られにくく、また熱伝導率2.00W/mK以上の値が得られにくいことが分かった。
【0026】
かくして得られた高強度セラミックスの用途を紹介すると、従来の陶磁器が用いられるタイル形状、屋根材形状、衛生陶器、洗面ボールなどの製品に好ましく応用される。例えば、陶磁器の洗面ボールが用いられる洗面化粧台では、正面の棚部分に化粧水などのビン類が置かれているのが通常である。このビン類が落下した場合、洗面ボールが破損する場合があったが、本発明の高強度セラミックスの場合は、曲げ強度、落球衝撃強度ともに優れるので、このような日常発生しやすいトラブルを防止できるという利点が得られる。
【実施例1】
【0027】
次に、本発明の高強度セラミックスに係る実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。表1は本発明の実施例を示す表であり、酸化物成分組成(重量%)、ジルコン・コランダム結晶組成(重量%)、吸水率(%)、熱伝導率(W/mK)、曲げ強度(MPa)、落球衝撃強度(m)、焼成温度(℃)などを示す。また、表2は同様に、本発明の範囲外の比較例を示す。
【0028】
この比較表に示される通り、比較例では、曲げ強度が80(MPa)未満であるのに対して、実施例では80(MPa)以上の値を持ち、約1.3倍に達する事例が示されている。また、比較例では落球衝撃強度が1.7(m)未満であるのに対して、実施例では1.7(m)以上の値を持ち、約2.3倍に達する事例が示されている。
また、比較例では熱伝導率が2.0(W/mK)未満であるのに対して、実施例では2.0(W/mK)以上の値を持ち、約2.5倍に達する事例もあることが実証された。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属とアルカリ土類金属のアルミノ珪酸塩を主体とした焼結生成物をマトリックスとし、コランダム結晶とジルコン結晶を含有し、曲げ強度が80(MPa)以上であることを特徴とする高強度セラミックス。
【請求項2】
酸化物組成として、酸化珪素40〜60%(重量%、以下同様)、アルミナ20〜50%、ジルコニア5〜21%、アルカリ金属酸化物3〜6%、アルカリ土類金属酸化物1.5〜3.5%を必須成分とし、落球衝撃強度が1.7(m)以上である請求項1に記載の高強度セラミックス。
【請求項3】
焼成温度が1150〜1280℃であって、吸水率が1.5%以下に焼結されたものである請求項1または2に記載の高強度セラミックス。
【請求項4】
熱伝導率が2.00W/mK以上である請求項1、2または3に記載の高強度セラミックス。

【公開番号】特開2008−74673(P2008−74673A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−256609(P2006−256609)
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【出願人】(000107332)ジャニス工業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】