説明

高強度ポリエチレンフィルムを製造する方法

ほぐされたポリエチレンの量を提供し、このほぐされたポリエチレンの量に対して少なくとも20バールの圧力及びほぐされたポリエチレンのα緩和温度と溶融温度との間の温度TmPEを適用することで、ほぐされたポリエチレンブロックが生じ、ほぐされたポリエチレンのブロックからフィルム又はテープを削り出し、かつ該フィルム又はテープを単段階又は多段階の延伸工程で少なくとも1:20の全延伸比で延伸する工程を含む、高強度ポリエチレンフィルム又はテープを製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度のポリエチレンフィルム、フィラメント又はテープを製造するための方法に関する。
【0002】
近年、高強度のポリエチレンフィルム、フィラメント又はテープは、400000g/モルから数ミリオンg/モルの範囲の分子量を有する、超高分子量ポリエチレン(UHMWPH)から製造されている。
【0003】
市販の超高分子量ポリエチレン(UHMWPH)は、溶剤を使用することなく、高強度のフィルム、フィラメント又はテープに加工(例えば、スリットフィルムから)するのが極めて困難である。加工におけるこの困難性は、極めて長い結晶網目構造中の絡み合い(entanglement)によって生じる。
【0004】
この理由から、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)はしばしば、デカリン及びパラフィン等の適した溶剤中で、この網目構造の絡み合いをほぐす(disentanglement)ために溶解される。しかしながらフィルム、フィラメント又はテープへの加工後に、溶剤を完全に除去しなければならない。これは、極めて困難かつ高価であって、かつ0.1%を下廻る溶剤含量をほぼ達成することはない。
【0005】
例えばNippon Oil、ITS-Tensylon又はDSM(例えば EP 1627719参照)によるいくつかの溶剤不含の方法の開発又は加工経路は、粉末の形でUHMWPEを用いて、高圧の連続的な等圧式スチールベルトプレス上にばらまき、圧縮フィルムを得るものである。このフィルムは、種々の段階で高められた温度で、高強度のフィルム又はテープに延伸することができる。
【0006】
ばらまいた粉末層の厚さ及び均一性、ベルトプレス中の正確な圧力及び温度は、すべて、得られるUHMWPE生成物の強度及び弾性に関する適切な結果を達成するための、重要な要因である。
【0007】
一方、UHMWPEのフィルム加工のための公知方法は、焼結されたシート又は円形のブロックからの薄層のスカイビングである。これらのフィルムは、0.10mm〜4mmの厚さで、スキー又はスノーボードの滑走表面等の付着防止表面又は高耐摩耗性皮膜のために一般的に使用される。これらのUHMWPEフィルムに関して、延伸性又は伸縮性は必要とされない。これらの目的のために、極限引張り強さ及びeモジュラスは望まれる性質ではなく、専ら、平滑性及び耐摩耗性のみが望まれる。
【0008】
これらフィルムのからみあった結晶網目構造が、UHMWPEブロックから切削されることによって、この切削されたフィルム/シートの高い強度のフィルムへの延伸は不可能である。1:10又はそれを上廻る延伸比λは、からみあった結晶網目構造を有するUHMWPEを用いて達成することはできない。しかしながら、高強度の適用は、1:10〜1:100又はさらに1:300までの範囲でのフィルムの延伸比を必要とする。
【0009】
UHMWPEの標準焼結粉末に関する最大可能な延伸比λmaxは、以下の式によって求められる:
λmax=K(Me)1/2
[式中、λmaxは最大延伸比であり、Kは比例定数であり、かつMeは絡み合い中のモル質量である]
絡み合ったUHMWPEに関して、最大延伸比は10を下廻ることが見出された。
【0010】
したがって、本発明の課題は、従来技術における欠点が少なくとも減少されている、高強度のポリエチレンフィルム、フィラメント又はテープを製造するための方法に関する。
【0011】
この課題は、
−ほぐされたポリエチレンの量を提供し、
−このほぐされたポリエチレンの量に対して少なくとも20バールの圧力及びほぐされたポリエチレンのα緩和温度と溶融温度との間の温度TmPEを適用して、ほぐされたポリエチレンのブロックを生じ、
−ほぐされたポリエチレンのブロックからフィルム又はテープを削り出し、かつ、
−前記フィルム又はテープの延伸を、単段階又は多段階で少なくとも1:20の全延伸比で延伸する、
工程を含む、高強度のポリエチレンフィルム又はテープを製造するための方法によって解決された。
【0012】
高強度のポリエチレンフィルム又はテープは、好ましくは、少なくとも1200MPaの引張り強度及び少なくとも40GPaの引張り弾性を示す。
【0013】
好ましくは、本発明による方法において使用されたポリエチレンは、少なくとも100.000g/モル、より好ましくは500.000g/モル及び最も好ましくは少なくとも1.000.000g/モルを有する。さらにポリエチレンは、異なる分子量のポリエチレンの混合物、例えば2種の異なる分子量のポリエチレンを含む双峰型ポリエチレンであってもよい。
【0014】
ほぐされたポリエチレンの量は、好ましくは粉末の形である。好ましくは、本発明による方法の温度は、α緩和温度とTmPE−10℃との間であり、より好ましくは100℃と130℃との間の温度である。
【0015】
好ましくは、適用された圧力は少なくとも50バール、より好ましくは少なくとも100バール、最も好ましくは少なくとも200バール又はそれどころか500バールである。
【0016】
ブロックは、規則的な形状、例えばディスク形状で、好ましくは少なくとも5mmの厚さを有する粉末の圧縮物である。
【0017】
得られたブロックは、溶融温度を下廻るプレスを介してさえも成形可能である。溶融温度を下廻ってプレスされた絡み合ったポリエチレン粉末から成るブロックは、その脆性により後続の工程において切削することはできなかった。
【0018】
ブロックから切削されたフィルム又はテープは、好ましくは0.1mm〜10mmの厚さ、より好ましくは1mm〜3mmの厚さである。本発明による方法によって得られた最終生成物は、1000μm未満の厚さ、好ましくは100μm未満の厚さ、より好ましくは30μm未満の厚さを示すものであってもよい。
【0019】
フィルム又はテープの全延伸比は、少なくとも1:50、より好ましくは少なくとも1:100、最も好ましくは1:150である。
【0020】
近年、10〜10g/モルの分子量を有するポリエチレンを含む、絡み合いのない又はほぐされたポリエチレン粉末の製造が可能な方法が開発された。この方法は、ポリエチレン粉末の重合中に、適切な重合温度及び圧力に加えて、特別な高性能のシングルサイト触媒を使用するものである。
【0021】
いわゆるほぐされたポリエチレン又は未完成(nascent)ポリエチレンは、個々の鎖の絡み合いはほとんどないか又は全くなく、したがって、結晶は、材料をα緩和温度80〜90℃を上廻って延伸することによって簡単に解くことができる。
【0022】
UHMWPE粉末の連続的なスチールベルト上への極めて正確なばらまきよりもむしろ、本発明は、ほぐされたポリエチレン粉末を、現在においてスキー/スノーボード表面に使用されるような厚いブロックに、しかしながら標準的な温度がしばしば150℃を上廻り、しばしばそれどころか180℃又はそれ以上であるのに代えて、通常よりもより低い温度、すなわち、80〜130℃の温度でプレスすることを組合せることによって、高度に延伸可能なフィルムを達成するための代替的経路である。本発明による方法において、粉末は溶融しないが、しかしながら高められた温度で十分な圧力下で圧縮され、これによって、溶融及び焼結中で通常生じる鎖の絡み合いを回避する。その後に、製造されたブロックは、高強度、高弾性のフィルム又はテープに延伸又は超延伸することができる薄いフィルム又はテープに削り出すことができる。
【0023】
本発明による方法はより簡単であり、したがって、溶剤又はダブルベルトプレスを使用する近年の方法よりもより費用対効果が高い。ダブルベルトプレスは、極めて正確な工程条件を必要とする。
【0024】
本発明によって製造された切削されたが、依然としてほぐされたままのポリエチレンフィルムは、好ましくは、多段階の延伸工程で、すなわち、種々の連続的な延伸工程及び温度で、延伸することができる。良好な結果は、たとえば以下の工程により達成される:
1段階延伸λ=6、温度136〜140℃;
2段階延伸λ=4、温度144〜146℃;
3段階延伸λ=3、温度148〜150℃;
4段階延伸λ=1.8、温度150〜153℃。
【0025】
この特定の設定の全延伸比は、本発明により製造される本来の等方性のほぐされたポリエチレンフィルムの130倍であり、ここれは、2.5mmの厚さのフィルムとして、ブロックから切削される。圧縮条件は以下のとおりである:金型中の圧力、120℃で10時間に亘って180バール。
【0026】
第1段階は、延伸工程のみではなくむしろ、カレンダプレスロール及びその後ろの延伸ゴデットを用いる組み合わされた工程であってもよい。この方法は、全くフィルムの損失の幅がないか又は極めて小さい幅であり、最終的には、正確な延伸温度に設定するのをさらに容易にするより薄いフィルムを生じる。
【0027】
さらなる延伸段階、種々の延伸比及び温度は、全体的な延伸を達成するために使用することができる。最初の延伸は、90℃程度の低い温度で開始することができる。
【0028】
1650MPaを上廻るこの超延伸フィルムの引張り強度及び95GPaを上廻る引張り弾性を達成することができる。
【0029】
本発明による方法において製造されたフィルム又はテープは、対弾道材用途及び複合材用途において、単独でかまたは他の材料と組合せて使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高強度ポリエチレンフィルム又はテープを製造する方法において、
該方法が、ほぐされたポリエチレンの量を提供し、このほぐされたポリエチレンの量に対して少なくとも20バールの圧力及び解きほぐされたポリエチレンのα緩和温度と溶融温度との間の温度TmpEを適用することで、ほぐされたポリエチレンブロックを生じ、ほぐされたポリエチレンブロックからフィルム又はテープを削り出し、かつ、前記フィルム又はテープを単段階又は多段階の延伸工程において、少なくとも1:20の全延伸比で延伸する、ことを含む、前記方法。
【請求項2】
ほぐされたポリエチレンブロックを形成するための温度が、α緩和温度とTmPE−10℃との間である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ほぐされたポリエチレンブロックを形成するための温度が100℃〜130℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
高強度ポリエチレンフィルム又はテープが、少なくとも1200MPsの引張り強度及び少なくとも40GPaの引張り弾性を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
対弾道材用途における、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法において製造されたフィルム又はテープの使用。
【請求項6】
複合材用途における、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法において製造されたフィルム又はテープの使用。

【公表番号】特表2011−518933(P2011−518933A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−506656(P2011−506656)
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【国際出願番号】PCT/EP2009/054726
【国際公開番号】WO2009/132990
【国際公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(507335414)ノファメーア ベスローテン フェンノートシャップ (7)
【氏名又は名称原語表記】Novameer B.V.
【住所又は居所原語表記】Kennedeylaan 10, NL−5466 AA Veghel, Netherlands
【Fターム(参考)】