説明

高強度・高耐蝕性のアルミニウム製熱交換器およびその製造方法

【課題】 フラックスレスで、高強度・高耐蝕性のアルミニウム製熱交換器およびその製造方法の提供。
【解決手段】 炉内に不活性ガスを導入して炉内圧力を真空度10〜3×10Paに維持してろう付けを行なう。そのとき、フィン材にSiを0.1〜1.5%、Znを0.75〜6%含むアルミニウム合金を用いる。それとともに、フィン材中またはチューブのろう材中にMgを0.3〜2%含むアルミニウム合金を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラックを用いず、低真空中でアルミニウム製熱交換器を製造する方法およびその熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に記載の「ろう付け性に優れた低真空ろう付け用Al合金ブレージングシート」は、フラックスレスの低真空下でAl合金ブレージングシートを良好にろう付けでき、Mgによる炉内の汚染や、Mg蒸散による強度低下を未然に防止できる、としている。その条件は、窒素キャリアガスを用いて、10−1Torr(13.3Pa)の真空下で、所定温度で5分間保持してろう付けを行なうと記載されている。窒素キャリアガス導入前の真空引きについては不明であるが、当然にその導入時より一桁高い真空度の1Pa程度まで真空引きした後に、窒素キャリアガスを導入する必要がある。
次に、特許文献2に記載の「ろう付け方法およびろう付け装置」は、フラックスを用いることなくMg含有のろう付け品を良好にろう付けすることを目的とし、炭素質カバーの内部に被ろう付け品を収納した状態で、不活性ガスを導入し、大気圧の103%〜150%の正圧でろう付けすることが提案されている。
このように低真空または大気圧下で、且つ不活性ガスを供給し、フラックスレスろう付けを行なう利点は、材料中のMgの蒸発を防ぎ、それをアルミニウム材中に残存させて、その強度を向上させることにある。
【0003】
なお、従来、多用されている熱交換器の製造方法は、非腐食性フッ化物フラックスを用いて大気圧下で行なう方法(ノコロックろう付け法)と、ろう材に1%程度のMgを含有させ、高真空中にてろう付けする方法(高真空ろう付け法)が主流であった。ノコロックろう付けする場合、そのフラックスとMgが反応してMgFを形成するため、ろう付け中に酸化被膜破壊のためのフラックスが有効に作用しなくなる。そのため、フッ化物フラックスを用いる場合、材料中にMgを添加できず、ろう付け製品を高強度化することができなかった。
また、高真空ろう付け法の場合、ろう材に含有されたMgが蒸発し、酸化被膜を破壊しろう付けを可能とする。しかし、その蒸発したMgが真空炉の内壁を汚染させ、短期間で炉壁の清掃のメンテナンスが必要となっていた。
また、高真空ろう付け法ではZnも蒸発するため、高耐蝕性をもつろう付け品を提供することができなかった。
上記2つの提案は、それらの欠点を防止するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−287669号公報
【特許文献2】特開2007−44713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の低真空ろう付け方法は1Pa程度まで真空引きした後、キャリアガスにて13.3Pa程度まで供給し、そのキャリアガス中でろう付けを行なうものである。しかし、本発明者の実験によれば、この条件の下では、ろう付けが不安定で熱交換器の量産が不可能であることがわかった。特許文献1の明細書には、2つの材料をT字状にろう付け接合したモデル実験が示されているが、実際の熱交換器はフィンとチューブが高密度で並列されるとともに、そのチューブの両端がチューブプレートの孔に挿通されるものである。このような条件下では、前記モデル実験と異なった結果が現われ、熱交換器の各部に部分的にろう付け不良が生じた。
また、13.3Pa程度の炉内真空度では、そこにキャリアガスが存在しても、材料中のMgの蒸発が大きく、それが炉壁に付着して清掃のメンテナンスの周期を短縮化させる。それとともに、その蒸発により材料中に残存するMgが減少して、強度の高い熱交換器とならなかった。さらには、炉内を一旦1Pa程度まで真空引きするための真空ポンプの作動時間が長くなり、ろう付けのサイクルタイムが比較的長い欠点があった。
【0006】
上記特許文献2の場合には、炭素質カバーを必要とし、そのカバー内に被ろう付け品を挿入する必要があり、工程が面倒で実用性に欠ける欠点があった。さらには、真空引きの後、不活性ガスを大気圧以上供給するため、不活性ガスの使用量が多く、製造コストが高くなる。
【0007】
そこで本発明は上記欠点を取除き、量産性に優れた高強度・高耐蝕性のアルミニウム製熱交換器および、その製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の本発明は、チューブにフィンを接触させて、熱交換器のコアを組立て、そのコアを炉内で一体にろう付け固定するアルミニウム製熱交換器の製造方法において、
そのフィンは、重量%でSiが0.1〜1.5%、Znが0.75〜6.0%を含むアルミニウム合金からなり、
チューブは、その表面にろう材が被覆されたクラッド材よりなり、
さらに前記フィンの材料中またはチューブのろう材中にMgを0.3〜2.0%含み、
フラックスを付着させることなく、組み立てた前記コアを炉内に挿入して、
炉内に不活性ガスを導入して、炉内圧力を低真空の真空度102〜3×103Paに維持し、炉内をろう材の溶融温度に維持し、
ろう付け後に、前記フィンの表面の表層より10〜20μmの位置に、Zn:0.75〜3.0%および/またはMg:0.3〜1.3%含む高強度・高耐蝕性のアルミニウム製熱交換器である。
【0009】
請求項2に記載の本発明は、チューブにフィンを接触させて、熱交換器のコアを組立て、そのコアを炉内で一体にろう付け固定するアルミニウム製熱交換器の製造方法において、
そのフィンは、重量%でSiが0.1〜1.5%、Znが0.75〜6.0%を含むアルミニウム合金からなり、
チューブは、その表面にろう材が被覆されたクラッド材よりなり、
さらに前記フィンの材料中またはチューブのろう材中にMgを0.3〜2.0%含み、
フラックスを付着させることなく、組み立てた前記コアを炉内に挿入する工程と、
その炉内を中真空の10Pa〜500Paまで真空引きした後、その炉内に不活性ガスを導入して、炉内圧力を低真空の真空度102〜3×103Paに維持し、炉内をろう材の溶融温度に維持する工程と、
を有することを特徴とする高強度・高耐蝕性のアルミニウム製熱交換器の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のラックスレスのアルミニウム製熱交換器は、炉内を10Pa〜500Paまで真空引きした後に、その炉内に不活性ガスを導入して、炉内圧力を真空度10Pa〜3×10Paに維持し、炉内をろう材の溶融温度に維持するから、ろう付けサイクルタイムを短縮し、量産性の高い製造方法を提供できる。
【0011】
即ち、不活性ガスを導入して真空程度を10Pa〜3×10Paに維持すれば足りるので、迅速にそれらの真空度を獲得することができる。それらは真空ポンプの小型化、稼働時間の減少をもたらし、設備費用およびランニングコストの低減に寄与できる。さらに、ろう付けの際、従来の低真空キャリアガス法では10Pa程度であるのに対し、本発明では真空度が一桁以上低い10〜3×10Paであるため、フィンの材料中またはチューブのろう材中のMgの蒸発量を一桁以上少なくさせることができる。そのため、Mgの炉内汚染を低減し、メンテナンスコストを低下させることができる。そして、MgおよびZnの蒸発量の減少分だけチューブのろう材中またはフィンの材料中にMgを残存させ、フィンおよびそのろう付け部の強度を向上できる。また、Znの存在により、耐食性の高い熱交換器を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施例につき、説明する。
本発明のアルミニウム製熱交換器は、インナーフィンを挿入したチューブ材を多数並列するとともに、各チューブ材間にアウターフィンを配置し、そのチューブの両端をヘッダのチューブ挿通孔に挿通してコアを構成する。そして、コアの両側にコアサポートを配置し、全体を組立てた状態で、一体的にろう付け固定するものである。
インナーフィンおよびアウターフィンに使用される材料の成分比は、一例として、重量%でMn:1.0%、Mg:0.45%、Si:0.9%、Zn:1.5%、In:0.01%、Al:残であり、インナーフィンの板厚は0.07mm〜0.6mm、アウターフィンの板厚は0.05mm〜0.2mmである。
【0013】
チューブ材は、一例として、芯材が、Mn:1.0%、Cu:0.5%、Zr:0.1%、Al:残のものであり、その芯材の表面側および裏面側にA4005にBi:0.07%含有したろう材をブレージングしたものである。そのろう材のクラッド率は8%であり、板厚全体は0.6mmである。
ヘッダは、一例として、A3003の芯材の両面にA4004のろう材をクラッド率5%でブレージングしたものであり、全体の板厚が3mmである。コアサポート材は、一例として、芯材がA3003の一方の面にA4104を、他方の面にA7605を5%のクラッド率で被着し、全体の板厚が2mmのものである。
【0014】
なお、上記フィン材中のSiは、0.1〜1.5%とすることができる。また、そのフィン材中のZnは、0.75%〜6%の範囲とすることができる。
さらに、フィンの材料中またはチューブのろう材中のMgは、0.3%〜2%とすることができる。
【0015】
(成分限定理由)
本発明の成分等の限定理由につき説明する。
フィン材
Si:0.1〜1.5%
このSiは、Al−Mn−Si化合物(共晶)として固溶して強度を向上させるとともに、ろう付け後の時効によりMgSiを形成して強度を向上させる。0.1%未満では、その作用が不十分である。1.5%を超えると融点が低下しすぎるとともに、熱伝導性が低下する。そのため、Siを0.1〜1.5%とする。
Zn:0.75〜6%
これはフィン材の電位を卑にして、犠牲陽極作用を持たせ、チューブ材を保護するものである。0.75%未満ではその作用が不十分であり、6%を超えるとフィン自体の耐食性が低下する。そこで、Znを0.75〜6%に規定する。
フィン材又はチューブ表面のろう材中
Mg:0.3〜2%
これはろう付けの時効により、MgSiを形成して強度を向上させるものである。それが0.3%未満ではその作用が不十分である。また、2%を超えても強度は向上しないので2%で十分である。それとともに、2%未満として、ろう付け中のMgの蒸発を少なくし、炉壁の清掃のメンテナンス期間を長くする必要がある。そこで、Mgは0.3〜2%とする。
【0016】
(炉内条件)
そして、ろう付けの炉内条件は、炉内を不活性ガス導入前に10Pa〜500Paまで真空引きする。これは不活性ガス導入後の真空度を10〜3×10Paに維持することが最適であるので、その準備段階では1桁より真空度の高い値にするものである。そして、不活性ガス導入後の炉内圧力の真空度を10Pa以上としたのは、ろう付け中に材料のMgの蒸発を、従来に比べて大幅に低下させるためである。10Paの上限を超えても、Mgの蒸発はほとんど変わらず、不活性ガスの使用量が増大するので、ろう付け時の炉内真空度を10〜10Paとする。
【0017】
(実施例)
上記の条件で、且つ炉内温度を600℃に保持された炉内に組立てられた熱交換器を導入する。そして、炉の仕切り弁を閉じ、まず真空ポンプで10Pa〜500Paまで排気する。そして1分間あたり炉内容量の1.5%の不活性ガスを導入する。この間、真空ポンプは継続して排気中である。ポンプが継続して排気しているので、不活性ガスの導入により炉内真空度は低下し、102〜3×103で圧力が平衡する。その環境下で、熱交換器自体の温度を575℃以上で5分間保持且つ、熱交換器の到達温度が600℃に達したとき、真空ポンプの排気を停止する。次いで、不活性ガスを導入し、真空容器内を大気圧まで復圧させて、ワークを取り出す。その熱交換器の導入から取出しまで、約20分間で終了する。
【0018】
製造された熱交換器は、ろう付け後にフィン表面の表層より15μmの位置に、Znが0.75%、Mgが0.4%含んでいた。なお、フィンに、ろう付け前にZnを0.75〜6%含ませた場合には、ろう付け後にフィン表面の表層より10〜20μmの位置に、Znが0.75〜3%含む。また、ろう付け前にフィンのろう材中またはチューブのろう材中にMgを0.3〜2%有する場合には、同じ表層中に、Mgが0.3〜1.3%残存する。
そして、製造された熱交換器はフィンとチューブとの接触部分のすべてに渡って、完全なろうフィレットが形成されていた。また、Mg、Siの残存により強度が高くなり、Znの残存により高耐食性の熱交換器となっていた。
【0019】
(作用)
本発明によれば、不活性ガス導入前の炉内の真空引きを10Pa〜500Paとし、比較的低真空で足りるので、真空引きの時間を短時間で行い、ろう付けのサイクルタイムの短縮ができ、量産性の高い熱交換器を提供できる。そして、その後、不活性ガスを導入して真空度を10Pa〜3×10Paに維持してろう付けするので、この真空度も従来の13.3Paに比べて1桁以上高く維持し、アルミニウム材料中のMgの蒸発を大幅に低下させることができる。それにより、Mg及びZnを材料中に残存させ、MgとSiとの時効効果によって高強度となり、Znによる擬制陽極作用によって高い耐食性をもつ熱交換器を提供できる。また、このような条件で、はじめてろう付け不良の起こらないアルミニウム製熱交換器を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チューブにフィンを接触させて、熱交換器のコアを組立て、そのコアを炉内で一体にろう付け固定するアルミニウム製熱交換器の製造方法において、
そのフィンは、重量%でSiが0.1〜1.5%、Znが0.75〜6.0%を含むアルミニウム合金からなり、
チューブは、その表面にろう材が被覆されたクラッド材よりなり、
さらに前記フィンの材料中またはチューブのろう材中にMgを0.3〜2.0%含み、
フラックスを付着させることなく、組み立てた前記コアを炉内に挿入して、
炉内に不活性ガスを導入して、炉内圧力を低真空の真空度102〜3×103Paに維持し、炉内をろう材の溶融温度に維持し、
ろう付け後に、前記フィンの表面の表層より10〜20μmの位置に、Zn:0.75〜3.0%および/またはMg:0.3〜1.3%含む高強度・高耐蝕性のアルミニウム製熱交換器。
【請求項2】
チューブにフィンを接触させて、熱交換器のコアを組立て、そのコアを炉内で一体にろう付け固定するアルミニウム製熱交換器の製造方法において、
そのフィンは、重量%でSiが0.1〜1.5%、Znが0.75〜6.0%を含むアルミニウム合金からなり、
チューブは、その表面にろう材が被覆されたクラッド材よりなり、
さらに前記フィンの材料中またはチューブのろう材中にMgを0.3〜2.0%含み、
フラックスを付着させることなく、組み立てた前記コアを炉内に挿入する工程と、
その炉内を中真空の10Pa〜500Paまで真空引きした後、その炉内に不活性ガスを導入して、炉内圧力を低真空の真空度102〜3×103Paに維持し、炉内をろう材の溶融温度に維持する工程と、
を有することを特徴とする高強度・高耐蝕性のアルミニウム製熱交換器の製造方法。

【公開番号】特開2013−39586(P2013−39586A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176782(P2011−176782)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(000222484)株式会社ティラド (289)