説明

高性能ガラスのための組成物、高性能ガラス繊維及びその製品

高弾性率、及び高強度ガラス繊維を形成するためのガラスバッチ組成物並びに繊維製品及び強化材として使用するのに適する繊維が開示されている。組成物から形成される繊維は、風車の羽根のような高強度、低質量の用途及び、複合材料において強度及び剛性が必要とされる高強度及び弾性率の用途に使用するのに特に適する。ガラスの組成は、約70.5質量%以下のSiO2、約24.5質量%以下のAl2O3、約22質量%以下のアルカリ土類金属の酸化物であり、少量のアルカリ金属の酸化物及びZrO2を含みうる。風車の羽根のような繊維ガラス強化複合材料製品も開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には高強度の用途並びに高強度ガラス繊維及び製品に使用するための連続したガラス繊維の組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
連続したガラス繊維ストランドを製造するための最も一般的なガラス組成物は“Eガラス”である。Eガラスの液相線温度は約1149℃(2100°F)以下である。Eガラスの利点の一は、その液相線温度が、約1038乃至1316℃(1900乃至2400°F)であるガラス繊維を製造する作業温度を可能にするということである。プリント基板及び航空宇宙用途に使用されるEガラス繊維糸のASTMの分類は、52乃至56質量%のSiO2、16乃至25質量%のCaO、12乃至16質量%のAl2O3、5乃至10質量%のB2O3、0乃至5質量%のMgO、0乃至2質量%のNa2O及びK2O、0乃至0.8質量%のTiO2、0.05乃至0.4質量%のFe2O3及び0乃至1.0質量%のフッ素の組成と定義されている。
ホウ素を含まない繊維は、ADVANTEXという商標名(Owens Corning, Toledo, Ohio, USA) で市販されている。そのすべてが参考として本明細書に導入されている米国特許第5,789,329号に開示されているようなホウ素を含まない繊維は、作業温度においてホウ素を含むEガラスより有意に改良されている。ホウ素を含まないガラス繊維は、一般用途に使用するためのEガラス繊維のASTM定義に該当する。
Sガラスは、主としてマグネシウム、アルミニウム、及び珪素の酸化物からなり、Eガラス繊維より機械的強度の高いガラス繊維を製造する化学的組成を有するガラス群である。Sガラスを形成する組成物には、おおよそ65質量%のSiO2、25質量%のAl2O3、及び10質量%のMgOが含まれる。Sガラスは、もともと弾道防護具のような高強度の用途に使用されるように設計された組成を有する。
【0003】
Rガラスは、主として珪素、アルミニウム、マグネシウム、及びカルシウムの酸化物からなり、Eガラス繊維より機械的強度の高いガラス繊維を製造する化学的組成を有するガラス群である。Rガラスは、おおよそ58乃至約60質量%のSiO2、約23.5乃至約25.5質量%のAl2O3、約14乃至約17質量%のCaO及びMgO、0%のB2O3、0%のF2及び約2質量%未満の種々雑多な成分を含む組成を有する。RガラスはEガラスより多くのアルミナ及びシリカを含み、繊維の形成中により高い溶融及び加工温度を必要とする。典型的には、Rガラスの溶融及び加工温度は、Eガラスのそれより少なくとも約160℃高い。この加工温度の上昇は、費用の高い白金を被覆した溶融装置を必要とする。更に、Rガラスにおいて液相線温度と形成温度が近接近することは、ガラスが、通例約1000P付近で繊維化されるEガラスより低い粘度で繊維化されることを必要とする。通例の1000Pの粘度でRガラスを繊維化すると、ガラスが不透明になり、工程の中断及び生産性の低下を引き起こすであろう。
表1〜5は多くの従来の高強度ガラス組成物の組成を示す。
【0004】
【表1】

【0005】
【表2】

【0006】
【表3】

【0007】
【表4】

【0008】
【表5】

【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
Rガラス及びSガラスは、白金を被覆した溶融器中で組成物の成分を溶融することにより製造される。Rガラス及びSガラス繊維を形成する費用は、そのような溶融装置中で繊維を製造する費用のために、Eガラス繊維より格段に高い。したがって、耐火物を被覆した炉中における直接溶融工程からの高性能のガラス繊維の形成に有用なガラス組成物及びそのような組成物から形成される繊維の必要性が技術的に存在する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、一つには、高強度の用途に使用するのに適する連続したガラス繊維を形成するためのガラス組成物である。本発明の組成物は、ガラス繊維の繊維化温度が比較的低いために安価な費用の耐火物を被覆した炉中における直接溶融を用いて安い費用でガラス繊維に形成されうる。繊維に形成されると、ガラス組成物はSガラスのようなより高価なガラス繊維の強度特性を提供する。本発明の組成物は、約60.5乃至70.5質量%のSiO2、約10.0乃至約24.5質量%のAl2O3、約6.0乃至約20.0質量%のRO(但し、ROはMgO、CaO、SrO及びBaOを合わせたものに等しい)、及び約0.0乃至約3.0質量%のアルカリ金属の酸化物を含む。好ましい実施態様においては、ガラス組成物は、約61乃至約68質量%のSiO2、約15乃至約19質量%のAl2O3、約15乃至約20質量%のRO(但し、ROはMgO、CaO、SrO及びBaOを合わせたものに等しい)、及び約0乃至約3質量%のアルカリ金属の酸化物を含む。組成物は、好ましくは、ZnO、SO3、フッ素、B2O3、TiO2、ZrO2及びFe2O3からなる群から選択される酸化物又はハロゲンを約4質量%以上は含まない。本発明のガラス組成物の所望の性質には、約1454℃(2650°F)未満の繊維化温度及び、好ましくは繊維化温度より約27℃(80°F)以上低い、更に好ましくは約49℃(120°F)以上低い、最も好ましくは約66℃(150°F)以上低い液相線温度が含まれる。
【0011】
本発明のガラス組成物の繊維化の性質には、繊維化温度、液相線、及びΔTが含まれる。繊維化温度は、約1000Pの粘度に対応する温度と定義されている。以下に更に詳細に記載するように、繊維化温度が低下すると繊維の製造費用が低下し、より長いブッシング寿命が可能になり、処理量が増大し、耐火物を被覆した溶融装置中におけるガラスの溶融が可能になり、エネルギーの使用が低下する。例えば、より低い繊維化温度では、ブッシングはより低い温度で作動し、迅速に“撓み(sag)”はしない。撓みは、高温に長時間保持されるブッシング内で起こる現象である。繊維化温度を低下させることにより、ブッシングの撓み速度が低下してブッシング寿命が増大しうる。更に、より低い繊維化温度では、所与のエネルギー入力で所与の期間に溶融しうるガラスがより多くなるので、より多い処理量が可能である。その結果、製造費用が低下する。更に、より低い繊維化温度の場合には、本発明の組成物で形成されるガラスはまた耐火物を被覆した溶融装置中で溶融されうるであろう。というのは、その溶融及び繊維化温度が多くの市販の耐火物の上限使用温度より低いからである。
液相線は、液体ガラス及びその一次結晶相間に平衡が存在する最高の温度と定義されている。液相線より高いすべての温度で、ガラスはその一次相内に結晶を含まない。液相線より低い温度では結晶が形成しうる。
【0012】
もう一つの繊維化の性質はΔTであり、それは繊維化温度と液相線間の差と定義されている。ΔTが大きいと、ガラス繊維の形成中の可撓性度が大きくなり、溶融及び繊維化中のガラスの失透(すなわち、融液内の結晶の形成)の抑制を助ける。ΔTを増大させると、より長いブッシング寿命が可能になり、繊維を形成する工程の時間枠がより広くなるので、ガラス繊維の製造費用も低下する。
本発明のガラスは、ガラス強化材繊維の製造において広く使用されている従来の市販の耐火物を被覆したガラス溶融装置において溶融するのに適する。出発バッチ成分には、典型的にはSiO2(珪砂粉末)、及びAl2O3(焼成アルミナ)、並びにMgCO3(マグネサイト)、CaCO3(石灰石)、SrCO3(ストロンチウム石)、BaCO3(毒重石)、ZrSiO4(ジルコン)、及びNa2CO3(ナトライト)のような原料物質からの連鎖調節剤が含まれる。
ガラスバッチは、好ましくは約60.5乃至約70.5質量%のSiO2、約10.0乃至約24.5質量%のAl2O3、約6.0乃至約20.0質量%のRO(但し、ROはMgO、CaO、及びSrOを合わせたものに等しい)、及び約0.0乃至約3.0質量%のアルカリ金属の酸化物から成る。本発明にしたがって形成される繊維には、典型的には少量のZnO、SO3、フッ素、B2O3、TiO2及びFe2O3が、好ましくは4質量%未満含まれるであろう。更に、本発明にしたがって形成される繊維は、好ましくは約1454℃(2650°F)未満の繊維化温度、約27℃(80°F)以上、好ましくは約49℃(120°F)以上、最も好ましくは約66℃(150°F)以上のΔT、及び約4.10×10-6乃至4.99×10-6cm/cm/℃(2.28×10-6乃至2.77×10-6インチ/インチ/°F)の熱膨張係数(CTE)を有するであろう。更に、本発明のガラスは、好ましくは、4.14GPa(600kpsi)より大きい、好ましくは約4.34GPa(630kpsi)より大きい、最も好ましくは約4.79GPa(695KPsi)より大きい強度を有する。更に、ガラス繊維は、望ましくは、約82.7GPa(12.0Mpsi)より大きい、好ましくは約84.0GPa(12.18MPsi)より大きい、最も好ましくは約86.9GPa(12.6MPsi)より大きい弾性率を有するであろう。説明のある種の詳細は、伝統的及び当業者には十分であるような詳細の見地から提供されない場合もあることは認められよう。
【0013】
本発明はまた、硬化性マトリクス材料と組み合わせた、前述のようなガラス繊維を含む複合材料を含む。複合材料は、高強度及び剛性及び低質量が望ましい用途に特に有用である。そのような用途には、航空機、自動車、及び風力エネルギー(例えば風車の羽根)並びに低質量、剛性及び高強度が望ましいいずれかのその他の用途が含まれる。適する硬化性マトリクス材料には、熱硬化性及び熱可塑性樹脂が含まれる。一例として、適する熱硬化性マトリクス材料には、ビニルエステル、ポリエステル、エポキシ樹脂及びそれらの組合せ又はコポリマーが含まれる。典型的には、風車の羽根は、真空補助装置を使った樹脂注入又は予備含浸した強化材のレイアップのようないずれかの適する複合材料製造技術により形成される。
本発明を一般的に記載したが、説明のためにのみ提供され、特に支持がない限りすべてを含む又は限定することを意図しない以下に示すある種の特定の実施例を参照することにより更なる理解が得られるであろう。
【実施例1】
【0014】
表6〜8に示される実施例におけるガラスは、ガラス及びそれから製造される繊維の機械的性質及び物理的性質を決定するために、白金るつぼ中又は白金を連続的に被覆した溶融装置中で溶融した。物理的性質の測定単位は、粘度(°F)、液相線温度(°F)及びΔT(°F)である。実施例によっては、ガラスを繊維化して、強度(kpsi)、密度(g/cc)、弾性率(Mpsi)、軟化点(°F)及び熱膨張係数(CTE)(in/in(°F))を測定した。
繊維化温度は回転円筒式粘度計を用いて測定した。繊維化粘度は1000Pと定義されている。液相線は、ガラスを入れた白金容器を熱勾配炉中に16時間置くことにより測定した。結晶が存在する最高の温度を液相線温度とした。弾性率は、ガラスの単繊維について音響技術を用いて測定した。引張強さは、自然のままの単繊維について測定した。CTEは25乃至600℃の温度範囲にわたって膨張計を用いて測定した。軟化点温度は、ASTM C338繊維伸長法を用いて測定した。
【0015】
【表6】

【0016】
【表7】

【0017】
【表8】

【0018】
技術的には理解されているように、前述の典型的な本発明の組成物は、統計的慣例(例えば、丸め及び平均)及び組成物によっては表に記載されていない不純物を含むという事実のために表に記載された成分の合計が必ずしも100%ではない。もちろん、不純物を含むすべての成分の実際の量は、組成物において常に合計100%である。更に、例えば約0.05質量%以下のような少量の成分が組成物に明記されている場合には、これらの成分は、意図的に添加されるよりむしろ、原料に存在する微量の不純物の形で存在しうる。
更に、例えば、加工を容易にするために、その後除去されるが、それにより実質的にそのような成分のないガラス組成物を形成する成分がバッチ組成物に添加されうる。したがって、ごく少量のフッ素及び硫酸塩のような成分が、微量の不純物として本発明の工業的実施においてシリカ、カルシア、アルミナ、及びマグネシア成分を提供する原料に存在してもよいし、それらが実質的に製造中に除去される加工助剤でもよい。
前述の実施例から明らかなように、本発明のガラス繊維組成物は、低い繊維化温度及び液相線温度及び繊維化温度間の大きな差異(高いΔT値)のような有利な性質を有する。本発明のその他の利点及び明らかな変更は、前述の記載から、更に本発明の実施により当業者には明らかであろう。本発明の高性能ガラスは比較的低温で溶融して純化され、比較的低い温度の幅広い範囲にわたって実行可能な粘度、及び低い液相線温度範囲を有する。
本出願の発明は、一般的にかつ特定の実施例に関しての両方で記載した。本発明は、好ましい実施態様とされているものにおいて示したけれども、当業者に公知の幅広い種類のそれに代わるものが包括的な開示内で選択されうる。本発明のその他の利点及び明らかな変更は、前述の記載から、更に本発明の実施により当業者には明らかであろう。本発明は前述の特許請求の範囲の列挙以外には限定されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維を形成するためのバッチ組成物であって、
60.5乃至70.5質量%のSiO2
10乃至24.5質量%のAl2O3
6.0乃至20.0質量%のRO(但し、ROは前記バッチ組成物中におけるMgO、CaO、SrO及びBaOを合わせたものに等しい)、及び
0乃至3質量%のアルカリ金属の酸化物、
を含むことを特徴とするバッチ組成物。
【請求項2】
ZnO、SO3、フッ素、B2O3、TiO2、ZrO2及びFe2O3からなる群から選択される化合物を更に約4質量%未満含む請求項1記載のバッチ組成物。
【請求項3】
前記バッチから製造されるガラスが、1454℃(2650°F)未満の繊維化温度、及び27℃(80°F)以上のΔTを有する請求項1記載のバッチ組成物。
【請求項4】
前記バッチから製造されるガラスが、49℃(120°F)以上のΔTを有する請求項3記載のバッチ組成物。
【請求項5】
前記バッチから製造されるガラスが、66℃(150°F)以上のΔTを有する請求項3記載のバッチ組成物。
【請求項6】
前記バッチから製造されるガラスが、963℃(1765°F)の軟化点を有する請求項1記載のバッチ組成物。
【請求項7】
バッチ組成物から形成されるガラス繊維であって、
60.5乃至70.5質量%のSiO2
10乃至24.5質量%のAl2O3
15乃至20質量%のアルカリ土類金属の酸化物、
0乃至3質量%のZrO2、及び
0乃至3質量%のアルカリ金属の酸化物、
を含むことを特徴とするガラス繊維。
【請求項8】
前記ガラスが、1454℃(2650°F)未満の繊維化温度、及び27℃(80°F)以上のΔTを有する請求項7記載のガラス繊維。
【請求項9】
前記ガラスのΔTが49℃(120°F)以上である請求項8記載のガラス繊維。
【請求項10】
前記ガラスのΔTが66℃(150°F)以上である請求項8記載のガラス繊維。
【請求項11】
前記繊維が、4.10×10-6乃至4.99×10-6cm/cm/℃(2.28×10-6乃至2.77×10-6インチ/インチ/°F)の熱膨張係数(CTE)を有する請求項7記載のガラス繊維。
【請求項12】
前記繊維が4.14GPa(600KPSI)より大きい強度を有する請求項7記載のガラス繊維。
【請求項13】
前記繊維が4.34GPa(630KPSI)より大きい強度を有する請求項7記載のガラス繊維。
【請求項14】
前記繊維が4.79GPa(695KPSI)より大きい強度を有する請求項7記載のガラス繊維。
【請求項15】
前記繊維が82.7GPa(12.0MPSI)より大きい弾性率を有する請求項7記載のガラス繊維。
【請求項16】
前記繊維が84.1GPa(12.2MPSI)より大きい弾性率を有する請求項7記載のガラス繊維。
【請求項17】
前記繊維が86.9GPa(12.6MPSI)より大きい弾性率を有する請求項7記載のガラス繊維。
【請求項18】
60.5乃至70.5質量%のSiO2
10乃至24.5質量%のAl2O3
6.0乃至20.0質量%のRO(但し、ROはMgO、CaO、SrO及びBaOを合わせたものに等しい)、
0乃至3質量%のアルカリ金属の酸化物、及び
0乃至3質量%のZrO2
を含むガラス繊維、及び
硬化性マトリクス材料、
を含むことを特徴とする繊維ガラス強化製品。
【請求項19】
前記強化製品が、風車の羽根である請求項18記載の繊維ガラス強化製品。
【請求項20】
前記硬化性マトリクス材料が、ビニルエステル、ポリエステル、エポキシ樹脂及びそれらの組合せ又はコポリマーからなる群から選択される請求項18記載の繊維ガラス強化製品。

【公表番号】特表2009−514773(P2009−514773A)
【公表日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−540053(P2008−540053)
【出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【国際出願番号】PCT/US2006/042437
【国際公開番号】WO2007/055968
【国際公開日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(508076428)オーシーヴィー インテレクチュアル キャピタル リミテッド ライアビリティ カンパニー (43)
【Fターム(参考)】