説明

高性能セラミックアノード及びその製造方法

本発明は一般に、固体酸化物燃料電池において使用するための高性能アノードに関し、本アノードは主にセラミック材料で構成される。炭素質堆積物がアノード材料表面に形成されるように、1個を超える炭素原子を有する炭化水素を用いてアノードを前処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、固体酸化物燃料電池(SOFC)及びその製造方法に関する。特に、本発明は、高性能セラミックアノード及びその製造方法であって、これによってセラミックアノードは、燃料電池の電気伝導率及び燃料効率を改良すると考えられている炭化水素の堆積物を含む方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物燃料電池は、実行可能な高温燃料電池技術として認識されて成長してきた。液体電解質が存在せず、このことは、典型的に液体電解質の使用に関連する金属腐食及び電解質管理の問題を無くす。むしろ、電池の電解質は主に、典型的に固体酸化物燃料電池の動作の最中に生じる高温環境を生き延びることができる固体セラミック材料から製造される。約600℃を超える動作温度は内部改質を可能にし、貴重ではない材料を用いる迅速な反応速度論を促進し、コジェネレーションのためまたはボトミングサイクルにおいて使用するための高品質副産熱を生成する。しかしながら、固体酸化物燃料電池の高温は、適切な製造材料の利用可能性を制限してしまう。従来の固体酸化物燃料電池の高い動作温度(約600〜1000℃)が理由となって、それぞれの電池構成要素を製造するために使用する材料は、酸化及び還元環境中での化学的安定性、接触材料の化学的安定性、伝導率、及び熱機械適合性によって制限される。
【0003】
固体酸化物燃料電池のための最も一般的なアノード材料は、NiO及びイットリア安定化済みジルコニア(YSZ)粉末の高温か焼によって製造されるニッケル(Ni)−サーメットである。高温か焼は通常、YSZ中の必要なイオン伝導率を得るために不可欠であるとみなされている。こうしたNi−サーメットは、水素(H)燃料の場合に申し分なく機能し、アノードへの供給物中に十分な水が存在する場合に炭化水素の内部水蒸気改質を可能にする。Niは無水メタン中でグラファイト繊維の形成を触媒するので、1を超える水蒸気/メタン比でニッケルを使用して製造したアノードを動作させることが必要である。水蒸気改質の必要無しに高級炭化水素の直接酸化が可能であり、とりわけ米国特許出願公開第20010029231号、及び同第20010053471号において説明されており、この各々の開示を、本明細書において、参考のためにそれらの全体を引用する。
【0004】
Niは黒鉛の形成を触媒し、水蒸気改質が必要なことが周知なので、上述の高い水蒸気/メタン比が必要無い幾つかのアノードが製造されてきており、これによって完全に異なるタイプのアノードが使用され、これは、ドープしたセリアに基づく(Eguchi, K, et al., Solid State Ionics, 52,165 (1992); Mogensen, G., Journal of the Electrochemical Society, 141, 2122 (1994); and Putna, E. S., et al., Langmuir, 11 4832 (1995))か、ペロブスカイト(Baker, R. T., et al., Solid State Ionics, 72, 328 (1994); Asano, K., et al., Journal of the Electrochemical Society, 142, 3241 (1995); and
Hiei, Y., et al., Solid State Ionics, 86-88, 1267 (1996))か、LaCrO及びSrTiO(Doshi, R., et al., J. Catal. 140, 557 (1993); Sfeir, J., et al., J. Eur. Ceram. Cos., 19, 897 (1999); Weston, M., et al., Solid State Ionics, 113-115, 247 (1998); and Liu, J., et al., Electrochem. & Solid-State Lett., 5, A122 (2002))か、または銅に基づくアノード(米国特許出願公開第20010029231号、及び同第20010053471号であり、この開示を本明細書において、参考のためにそれらの全体を引用する。)である。Co(Sammnes, N. M., et al., Journal of Materials Science, 31, 6060 (1996))、Fe(Bartholomew, C. H., CATALYSIS REVIEW-Scientific Engineering, 24, 67 (1982))、AgまたはMn(Kawada, T., et al., Solid State lonics, 53-56,418 (1992))を含む他の金属をNiで置き換えることも検討されてきた。
【0005】
アノードにおいて使用される可能性がある様々な電子導体の触媒特性に基づいて、Cuに基づくアノードがSOFCにおいて使用するために開発されてきた(S. Park, et al.,
Nature, 404, 265 (2000); R. J. Gorte, et al., Adv. Materials, 12, 1465 (2000); S. Park, et al., J. Electrochem. Soc., 146, 3603 (1999); S. Park, et al., J. Electrochem. Soc., 148, A443 (2001); and H. Kim, et al., J. Am. Ceram. Soc., 85, 1473 (2002))。Niと比較して、CuはC−C結合の形成にとって触媒的に活性ではない。その融解温度(1083℃)はNiのもの(1453℃)と比較して低い;しかしながら、低温動作の場合(例えば、<800℃)、Cuは十分に安定であると思われる。
【0006】
CuO及びCuOは、それぞれ1235及び1326℃(YSZ電解質の緻密化のために必要な温度未満の温度)で融解するので、Ni−YSZサーメットを製造するための第1の工程として通常使用されるものに類似した方法であるCu−YSZサーメットをCuO及びYSZの混合粉末の高温か焼によって製造することは可能ではない。従って、Cu−YSZサーメットの他の製造方法が開発され、ここで、多孔質YSZマトリックスをまず製造し、続いて、それに続く処理工程においてCu及び酸化触媒を加えた(R. J. Gorte, et al., Adv. Materials, 12, 1465 (2000); S. Park, et al., J. Electrochem. Soc., 148, A443 (2001))。最終サーメット中のCu相は、高度に接続されていなければならないので、高い金属負荷が必要であり;その場合でさえも、アノード構造における全てのCu粒子同士の間の接続性は確実ではない。
【0007】
他の発表において開示されている様々な特徴、具体例、方法、及び装置の利益並びに不利益に関する本明細書における説明は、決して本発明を限定することを意図したものではない。実際に、本発明の特定の特徴は特定の不利益を解決でき、同時になお本明細書中に開示される特徴、具体例、方法、及び装置の幾つかまたは全てを保持する可能性がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
高い燃料効率、電気伝導率、高出力を有し、炭化水素を直接に酸化することができる固体酸化物燃料電池を提供することは望ましいと思われる。また、アノード材料、及び固体酸化物燃料電池において使用するためのアノード材料の製造方法であって、これによって材料は炭化水素を直接酸化することができ、より低い温度で製造されることができる方法を提供することは望ましいと思われる。従って、本発明の具体例の特徴は、高い燃料効率、電気伝導率、高出力を有し、炭化水素を直接に酸化することができる固体酸化物燃料電池を提供することにある。本発明の具体例のさらなる特徴は、アノード材料、アノード材料の製造方法、及び固体酸化物燃料電池の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の様々な具体例の上述した特徴及び他の特徴によれば、多孔質セラミック材料、多孔質セラミック材料と同一かまたは異なってよい少なくとも追加のセラミック材料、金属、または両方、及び1個を超える炭素原子を有する炭化水素にアノード材料をさらすことによって形成される少なくとも1種の炭素質化合物を含むアノードが得られる。
【0010】
本発明の具体例のさらなる特徴によれば、アノードの製造方法であって、多孔質セラミック材料を形成することと、多孔質セラミック材料と同一かまたは異なってよい少なくとも追加のセラミック材料、金属、または両方を多孔質セラミック材料に加えることと、アノード材料表面に炭素質堆積物を形成するのに十分な時間、得られた混合物を1個を超える炭素原子を有する炭化水素と接触させることと、を含む方法が得られる。
【0011】
本発明の具体例の別の特徴によれば、固体電解質、カソード材料、並びに多孔質セラミ
ック材料、多孔質セラミック材料と同一かまたは異なってよい少なくとも追加のセラミック材料、金属、または両方、及び1個を超える炭素原子を有する炭化水素にアノードをさらすことによって形成される少なくとも1種の炭素質化合物を含むアノードを含む固体酸化物燃料電池が得られる。
【0012】
本発明の具体例のさらに別の特徴によれば、固体酸化物燃料電池の製造方法であって、少なくとも2つの対向する表面を有する多孔質セラミック材料を形成することと、表面のうちの1つをカソード材料と接触させることと、対向する表面をアノード材料と接触させることとを含む方法が得られる。アノード材料は、多孔質セラミック材料と同一かまたは異なってよい少なくとも追加のセラミック材料、金属、または両方を含む。従って、アノード表面に炭素質堆積物を形成するのに十分な時間、接触部分を1個を超える炭素原子を有する炭化水素にさらした後に、アノード材料が形成される。
【0013】
好適な具体例の上述した特徴及び他の特徴並びに上述した利益及び多の利益は、好適な具体例の詳細な説明を添付図面と共に読むことでより容易に明白になろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本明細書において使用する用語は、特定の具体例を説明するためのみのものであり、本発明の範囲を限定することを意図したものではない。本開示の全体にわたって使用する単数形は、文脈が明らかに他の指示をしない限り、複数の指示物を含む。従って、例えば、“固体酸化物燃料電池”に対する言及は、積み重ねた複数のこのような燃料電池、並びに単一の電池を含み、“アノード”に対する言及は、1つ以上のアノード及び当業者には周知であるかまたは後に発見される等のその同等物に対する言及を含む。
【0015】
特に断らない限り、本明細書において使用する全ての専門用語及び科学的用語は、本発明が属する技術の当業者によって一般に理解されているものと同じ意味を有する。本明細書において説明するものと同様のまたは同等の任意の方法及び材料を、本発明の実施または試験において使用できるが、好ましい方法、装置、及び材料をここから説明する。本明細書において言及する全ての発表を、発表において報告され、本発明に関連して使用されることがあり得る様々なアノード、電解質、カソード、及び他の燃料電池構成要素を説明し、開示するために引用する。本明細書においては、いかなるものも、前の発明によるこのような開示に先行する権利が本発明に無いと認めるものと解釈すべきではない。
【0016】
一般に、SOFCは、空気極(カソード)、燃料極(アノード)、及びこうした2つの電極の間に提供される固体酸化物電解質を含む。SOFCにおいては、電解質は固体形態である。典型的に、電解質は、非金属セラミックの例えば高密度イットリア安定化済みジルコニア(YSZ)セラミック、すなわち、有用な仕事をするために電子が外部回路を通過しなければならないことを確実にする電子の不導体で製造される。従って、電解質は電解質の向かい合う面の表面の電圧上昇を提供し、同時に燃料及び酸化剤ガスを互いから単離する。アノード及びカソードは一般に多孔質であり、カソードはしばしば、ドープしたランタンマンガナイトで製造される。固体酸化物燃料電池においては、水素または炭化水素は燃料として一般に使用され、酸素または空気は酸化剤として使用される。
【0017】
本発明のSOFCは、従来技術において開示されている技術を使用して製造された任意の固体電解質及び任意のカソードを含むことができる。本発明は、電解質またはカソードのために使用する任意の特定の材料に限定されるものではないし、特にそれらのそれぞれの製造方法に限定されるものでもない。本発明は、必要な電源を提供する任意の仕方で配置された任意の特定の数の燃料電池に限定されるものではない。
【0018】
同様に、本発明は、SOFCの任意の設計に特に限定されるというわけではない。固体
酸化物燃料電池のための幾つかの異なる設計が開発されており、例えば、支持型管状設計、直列セグメント化電池設計、モノリシック設計、及び平板設計である。こうした設計の全ては、文献中に記録に残されており、例えば、Minh, "High-Temperature Fuel Cells Part 2: The Solid Oxide Cell," Chemtech., 21: 120-126 (1991)において説明されているものである。
【0019】
管状設計は通常、電極及び電解質層で外側をコーティングした閉端多孔質ジルコニア管を含む。この設計の性能は、多孔質管を通して酸化剤を拡散させる必要によって、ある程度制限される。ウェスティングハウス(Westinghouse)は、ジルコニア電解質膜及びジルコニア電解質の厚みを横切るランタンクロメート相互接続を有する多孔質ジルコニアまたはランタンストロンチウムマンガナイトカソード支持管を有する燃料電池要素を説明している多数の米国特許を有する。アノードを電解質の上にコーティングして、多孔質ジルコニア支持体表面の一体型多孔質カソード支持体または多孔質カソードの上に電解質膜を含む作用燃料電池三層を形成する。1960年代初期以来提案されたセグメント化設計(Minh et al., Science and Technology of Ceramic Fuel cells, Elsevier, p. 255 (1995))は、支持体表面の薄い縞状構造中に配置されたか、または差込み継手設計(bell-and-spigot design)におけるように自己支持構造として配置された電池からなる。
【0020】
自立形電解質膜を利用する多数の平面設計が説明された。電池は典型的に、単一の電極を電解質シートの各面に施用して、電極−電解質−電極積層物を提供することによって形成される。典型的に、こうした単一の電池を次に積み重ね、直列に接続して、電圧を上昇させる。特徴的に多重電池または“ハニカム”タイプの構造を有するモノリシック設計は、高い電池密度及び高い酸素伝導率の利益を提供する。電池は、様々な電極、伝導性相互接続、及び電解質層を取り入れた波形板並びに平板の組合せによって定義され、ガス供給チャネルのための典型的な電池間隔は1〜2mmである。
【0021】
米国特許第5,273,837号は、耐熱衝撃性燃料電池のための薄いシート形態の焼結電解質組成物を説明している。可撓性電解質構造の製造方法は、粉末状セラミック及びバインダーを含む前駆体シートを予備焼結して、薄い可撓性の焼結多結晶性電解質シートを提供することを含む。燃料電池回路の追加の構成要素は、また米国特許第5,089,455号においても説明されているように、シートに直接に接合した金属、セラミック、またはサーメット電流導体を含む予備焼結シートの上に接合される。米国特許第5,273,837号は、電解質の隣接するシートのカソード及びアノードは互いに対向し、燃料電池マニホルドの高温の帯域において電池を厚い相互接続/セパレーターと接続しない設計を説明している。こうした薄い可撓性の焼結電解質含有装置は、薄い電解質を通じて低い抵抗損並びに焼結した状態でのそれらの可撓性及び強健性が理由となって優れている。
【0022】
電気化学的電池の構成のための別のアプローチは、Kendallの米国特許第5,190,834号において開示されている。この特許における電極−電解質アセンブリは、電解質材料の平行な縞と接合した相互接続材料の平行な条線または縞で形成された複合体電解質膜表面に配置された電極を含む。イットリア安定化済み電解質と接合したランタンコバルテートまたはランタンクロマイトの相互接続が提案されている。本発明のSOFCを、上記に説明した技術のいずれでも使用して製造して、管状電池、モノリシック電池、平板電池、及びその他同様なものであろうと所望の設計を提供してよい。本明細書において提供する指針を使用して、当業者であれば、任意の所望の設計形状を有する本発明のアノードを含むSOFCを製造することができよう。
【0023】
本発明は好ましくは、アノード、アノードの製造方法、及びアノードを含む固体酸化物燃料電池を含む。本発明のアノードは、多孔質セラミック材料、多孔質セラミック材料と同一または異なってよい少なくとも追加のセラミック材料、金属、または両方、及び1個
を超える炭素原子を有する炭化水素にアノード材料をさらすことによって形成される少なくとも1種の炭素質化合物を含む。金属をアノードにおいて用いる場合、アノードの総重量を基準として、20重量%未満の量、より好ましくは約18%未満、さらに好ましくは約15%未満、さらに好ましくは約10%未満、最も好ましくは約8重量%未満用いることが好ましい。
【0024】
本発明のアノード材料は、金属元素を含まなくてもよい。この点では、アノードは好ましくは別のセラミックを含浸させた安定化済みYSZで構成される。本発明において使用するための好ましいセラミックスとしては、セリア、ドープしたセリアの例えばGdまたはSm−ドープしたセリア、LaCrO、SrTiO、Y−ドープしたSrTiO、Sr−ドープしたLaCrO、及びこれらの混合物が挙げられるがこれらに限定されるものではない。本発明はこうした特定のセラミック材料に限定されるものではないし、他のセラミック材料をアノード単独においてまたは前述のセラミック材料と一緒に使用してよいことは理解されよう。加えて、安定化済みYSZ以外の材料を多孔質セラミック材料として使用してよく、これは、Gc−及びSm−ドープしたセリア(10〜100重量%)、Sc−ドープしたZrO(最高100重量%まで)、ドープしたLaGaMnO、及び他の電解質材料を含む。
【0025】
本願発明者らはまた、セリアをアノードに加えることは性能を改良することを見い出した。しかしながら、アノード製造において利用される高温か焼は、典型的にセリアにYSZと反応させ、この結果として、性能は、セリア−ジルコニアの形成が起きなかった場合に可能かもしれない程度までは向上しない。図7は、空気中で様々な温度に加熱したセリア−YSZアノードにCuを加えることによって製造されたCu−セリア−YSZアノードに、か焼温度が及ぼし得る影響を示す。図7に示すように、より高いか焼温度はアノードの性能を低下させた。従って、本発明においてはアノードを従来のか焼温度よりも低い温度で製造することが好ましい。
【0026】
SOFCのアノードはまた、1個を超える炭素原子を有する炭化水素にアノードをさらすことによって形成された炭素質堆積物を含む。好ましくは、アノードをブタンにさらし、これは、メタンにさらすことと比較して優れた向上を提供する。アノード材料を、好ましくは約500〜約900℃の範囲内、より好ましくは約600〜約800℃、最も好ましくは約700℃の温度で炭化水素にさらす。炭化水素にさらすことは、約1分間〜24時間、好ましくは、約5分間〜約3時間、最も好ましくは約10分間〜約1時間、30分間続けることができる。アノード材料は、1回、または多数回炭化水素にさらすことができる。
【0027】
本願発明者らは驚くべきことに、アノード表面に形成された炭素の量は平衡に達し、従って、形成された炭素はアノードを完全にコーティングせず、これを無効にしないことを発見した。いかなる理論によっても束縛されることを意図するものではないが、本願発明者らは、少量の炭化水素残留分は、アノードの表面に堆積し、金属または伝導性酸化物がアノード組成物中に含まれる場合に電子−伝導粒子間のギャップを充填するか、またはこうした他の構成要素が無い状態では伝導性フィルムを提供すると考えている。図1に示すように、低下した伝導率を生じる伝導性粒子及びアノードの表面の間のギャップが存在するかもしれない。1個を超える炭素を有する炭化水素、例えば、ブタンを用いた処理の後に、形成された炭化水素残留分がギャップを充填し、伝導率を改良して、アノードの表面から伝導性粒子への電子の流れを可能にする。
【0028】
この驚くべき発見及び向上した性能は、アノード材料において用いる伝導性粒子の量が、アノードの重量を基準として約20重量%未満である場合により顕著である。量が約20%を超える場合、アノードの表面は伝導性粒子で十分に“コーティングされる”と思わ
れる。量が約20%未満である場合、図1の上部に示すように、伝導性粒子の幾らかは最初に外部回路と接触しないかもしれず、従って、3相境界(例えば、安定化済みYSZ、セリア、及び金属の例えば銅)から電子を伝導することができない。従って、本発明のアノードは、好ましくは約20重量%未満、より好ましくは約15%未満の金属または他の伝導性成分を含む。
【0029】
本発明の具体例のうちの1つは、アノード表面に炭素質堆積物を形成するのに十分な時間、1個を超える炭素原子を有する炭化水素と高温で接触させることによって、アノード材料を前処理することである。形成された炭素質材料のタイプは、SOFCの伝導率に影響を及ぼすことがある。例えば、本願発明者らは、メタンを用いて処理した同じSOFC電池と比較した場合、ブタンを用いて800℃で処理した場合にSOFC電池の性能が改良されることを見い出した。性能曲線を図4に示す。
【0030】
従って、形成された炭素化合物のタイプを決定するために、本願発明者らは銅めっきされたステンレス鋼基板を700℃で24時間n−ブタンにさらして、炭素質堆積物を形成した。こうした堆積物はトルエン中に可溶なので、ガスクロマトグラフィーを使用して分析できることが見い出された。結果を図2に示す。図2に示すように、形成された炭素材料は多芳香族化合物(polyaromatic compound)、好ましくは一緒になって縮合した2〜6個のいずれかの数のベンゼン環を含む縮合ベンゼン環である。こうした多芳香族化合物は、アノードにおいてNi、Co、及びFeを使用する場合に典型的に形成される炭素繊維とは異なる(Toebes, M. L., et al., Catalysis Today, 2002)。多芳香族化合物は、700℃で、低いが有限の蒸気圧を有する。
【0031】
より多くの伝導性成分の例えば金属(例えば、Cu)を加えることは同様の向上をもたらすという観測に部分的には基づいて、アノードを炭化水素燃料にさらした時に本発明に従って観察される性能向上は、電子伝導相中の改良された接続性が理由であると考えられている。図1は、本願発明者らが、金属(例えば、Cu)に基づくアノードを炭化水素にさらした時に3相境界(TPB)付近の領域で起きると考えているものの略図である。より低い金属含量の場合、金属粒子の幾らかは最初に外部回路と接触せず、従って、TPBから電子を伝導することができない(図1の上部を参照されたい)。炭化水素“残留分”を加えることは、金属粒子同士の間のギャップを充填すると思われ、電子の流れを可能にするのに十分な伝導率を提供する(図1の下部を参照されたい)。
【0032】
驚くべきことは、少量の炭化水素残留分は、伝導率を実質的に増大させるのに十分であるようであることである。本願発明者らは、残留分の化学的形態かもしれないものを正確に承知してはいないが、性能をかなり向上するために必要な量は、約10重量%以下、好ましくは約5重量%以下、最も好ましくは約2重量%以下に相当するようである。残留分の密度を炭化水素に典型的な値である約1g/cmと仮定した場合、この残留分の体積分率は、アノードの体積を基準として5%未満である。残留分の密度を黒鉛のものにより近いと仮定した場合、残留分によって占められる体積はさらに低いと思われる。
【0033】
比較として、金属含有サーメットアノードの最小金属含量は約30体積%であると報告されている(Dees, D. W., et al., J. Electrochem. Soc., 134, 2141 (1987))。本発明のアノードにおいて使用される金属含量は、はるかに低い。30重量%のCuのみを含む試料でさえも、Cuの体積分率約19%を有する。追加の5体積%の炭素を加えることは、性能のこのような大きな差を生じるのに十分な割合の電子−伝導性相を増大させるのに十分とは思われないだろう。予想外の挙動の部分的説明は、試料アノードの構造に見い出されるかもしれない。本発明の好適な具体例においては、細孔構造が確立した後にCuを多孔質YSZ材料に加えるので、アノード構造は、より従来の方法によって製造されたサーメットよりもはるかにランダムではないと思われる。従って、堆積物は細孔の壁を単
にコーティングし、電子−伝導性相をランダムに加えるよりもはるかに有効に伝導率を向上することができる。
【0034】
本願発明者らはまた本明細書において、アノード堆積物は黒鉛質ではなく“タール様”であることを示した。図2のクロマトグラフの結果に加えて、本願発明者らは、純YSZ表面、並びにCu及びセリアを加えたYSZ表面に堆積した量の、顕著な差を観測しておらず、こうした堆積物は、任意の表面触媒プロセスによるのではなく、フリーラジカル分解によって形成されたように思われる。昇温酸化(temperature-programmed oxidation)(TPO)の結果に基づくと、多芳香族堆積物(polyaromatic deposit)は、黒鉛よりもはるかに反応性がある。炭化水素は、高度共役オレフィン系または芳香族基を含む場合にのみ電子導体であるであり、従ってこうした化合物の多芳香族の性質は本発明にとって有益であると考えられている。
【0035】
本発明の様々な具体例の特徴は、低い金属含量(例えば、約20重量%未満の金属から金属無しまでの全範囲内)を有する直接酸化燃料電池を動作させ、依然として妥当な性能を得ることが可能であるというものである。低い金属含量では、金属(例えば、Cu)の再酸化は電池を破壊しない。加えて、Cuの低い融解温度が理由となって、より高い温度で動作するためには問題であると思われるCu焼結の影響を打ち消すことが可能なはずである。
【0036】
本発明の具体例の別の特徴は、空気極(カソード)、燃料極(アノード)、及びこうした2つの電極の間に少なくとも部分的に配置される固体酸化物電解質を含むSOFCである。SOFCにおいては、電解質は固体形態である。現在周知のまたは後に発見される任意の材料を、カソード材料及び電解質材料として使用できる。典型的に、電解質は、非金属セラミックの例えば高密度イットリア安定化済みジルコニア(YSZ)セラミックで製造され、カソードはドープしたランタンマンガナイトで構成される。固体酸化物燃料電池においては、水素または炭化水素は燃料として一般に使用され、酸素または空気は酸化剤として使用される。本発明において有用な他の電解質材料は、Sc−ドープしたZrO、Gd−及びSm−ドープしたCeO、並びにLaGaMnOを含む。本発明において有用なカソード材料は、Sr−ドープしたLaMnO、LaFeO、及びLaCoO、または金属の例えばAgを有する複合体を含む。
【0037】
本発明の具体例の別の特徴は、上記に説明したアノードの製造方法を含む。本方法によれば、まずイットリア安定化済みジルコニア(YSZ)の粉末を形成し、次に粉末をテープ成形してYSZの2層グリーンテープ(アノードのための1層及び電解質のための他の層)を形成することが好ましい。次に、2層グリーンテープを、好ましくは約1,200〜約1,800℃の範囲内、好ましくは約1,350〜約1,650℃、最も好ましくは約1,500〜約1,550℃の温度で焼結して、多孔質YSZ材料を形成する。多孔質材料の多孔性は、水取込み測定(water-uptake measurement)(Kim, H., et al., J. Am. Ceram. Soc., 85,1473 (2002))によって、好ましくは約45%〜約90%の範囲内、より好ましくは約50%〜約80%の範囲内、最も好ましくは約70%である。2層テープをこのようにして焼結して、厚さ約400〜約800μm、より好ましくは厚さ約600μmの多孔質層によって支持される厚さ約40〜約80μm、より好ましくは厚さ約60μmの高密度面を有するYSZウェーハを好ましくは生じる。
【0038】
カソードは、カソード組成物(例えば、YSZ及びLa0.8Sr0.2MnOの混合物)をペーストとしてウェーハの高密度面の上に施用し、次にカソードを約1,000〜約1,300℃の範囲内、より好ましくは約1,100〜約1,200℃の範囲内、最も好ましくは約1,130℃の温度でか焼することによって形成できる。
【0039】
アノードは好ましくは、ウェーハの多孔質YSZ部分に、多孔質セラミック材料と同一かまたは異なってよく、所望により金属としてよい追加のセラミック材料を含む水溶液(または他の溶液の例えば溶媒含有溶液)を含浸させることによって形成される。例えば、多孔質YSZ部分にCe(NO・6HOの水溶液を含浸させ、次に硝酸イオンを分解するのに十分な温度でか焼することができる。好ましくは、か焼を約300〜約700℃の範囲内、より好ましくは約400〜約600℃、最も好ましくは約450℃の温度で実行する。次に金属(例えば、Cu(NO・3HO)を含む水溶液を多孔質層に施用し、同じ温度でまたはほぼ同じ温度でか焼してよい。
【0040】
多孔質セラミック材料と同一かまたは異なってよいアノードにおいて用いる追加のセラミック材料の量は、アノードの総重量を基準として、好ましくは約5〜約30重量%、より好ましくは約7〜約25%、最も好ましくは約10〜約15重量%の範囲にわたる。
【0041】
本発明をここから以下の非限定例に関連して説明する。
【実施例】
【0042】
SOFCの製造
Cu−サーメットアノードを含む固体酸化物燃料電池を製造し、試験するために使用する方法は、Gorte, R. J., et al., Adv. Materials, 12, 1465 (2000), and Park, S., et al., J. Electrochem. Soc., 148, A443 (2001)において説明されているものと同じである。Cuの酸化物は、酸化物成分の焼結にとって必要な温度よりも低い温度で融解するので、製造手順は、多孔質YSZ材料を製造し、この多孔質材料にCu塩を含浸させ、最後に塩を金属Cuに還元することを含んだ。
【0043】
第1の工程においては、高密度電解質層及び多孔質YSZ材料をテープ成形方法によって同時に製造した。YSZの2層グリーンテープ(イットリア安定化済みジルコニア、トーソー(Tosoh)、8モル%のY、TZ−84)は、増孔剤(pore former)無しのグリーンテープの上に、黒鉛及びポリメタクリル酸メチル(PMMA)増孔剤を用いてテープ成形することによって製造した。2層テープを1800Kに焼成することで、厚さ600μmの多孔質層によって支持される厚さ60μmの高密度面を有するYSZウェーハを生じた。多孔質層の多孔性は、水取込み測定(Kim, H., et al., J. Am. Ceram. Soc., 85, 1473 (2002))によって約70%であると決定された。次に、YSZ及びLSM(La0.8Sr02MnO、プレクシエア・サーフェス・テクノロジーズ(Praxair Surface Technologies))の50:50混合物粉末をペーストとしてウェーハの高密度面の上に施用し、次いで1400Kにか焼して、カソードを形成した。第3に、多孔質YSZ層にCe(NO6HOの水溶液を含浸させ、723Kにか焼して、硝酸イオンを分解し、CeOを形成した。多孔質層に次にCu(NO3HOの水溶液を含浸させ、再度空気中で723Kに加熱して、ナイトレートを分解した。こうした実施例において使用した電池の全てが10重量%のCeOを含み、Cu含量は0重量%〜30重量%の間で変化した。
【0044】
電子的接触を、カソードでPtメッシュ及びPtペーストを使用し、アノードでAuメッシュ及びAuペーストを使用して形成した。カソード面積0.45cmを有する各電池を、Auペースト及びジルコニアに基づく接着剤(アレムコ、ウルトラ−テンプ516(Aremco, Ultra-Temp 516))を使用して1.0cmアルミナ管の上にシールした。
【0045】
SOFC並びに本発明のアノード及び比較アノードの試験
上記に製造した全固体酸化物燃料電池を炉内部に置き、2K/分で流れるH中で973Kに加熱した。水素(H)、CH、プロパン、及びn−ブタンを希釈せずに電池に供給し、一方、トルエン及びデカンをNとの75モル%の混合物として供給した。Kim,
H., et al., J. Electrochem. Soc., 148, A693 (2001)において説明されているように、室温で液体であるものを含む全ての炭化水素を、改質せずに直接にアノードに供給した。
【0046】
各電池につき973Kでの性能を、n−ブタン及びH燃料の場合にV−I曲線によって測定し、インピーダンススペクトルは選択した試料に関する追加の情報を提供した。カソード及び電解質は全ての場合に同様に製造されたので、燃料電池性能及びインピーダンススペクトルの変化は、アノードの変化に帰することができる。燃料流量は室温で常に1cm/sを超えるので、炭化水素燃料の転換は常に1%未満であり、電気化学的酸化反応によって生じた水は無視できた。開路電圧(OCV)近くで定電位モードで、ガムリー・インスツルメンツ、モデルEIS300(Gamry Instruments, Model EIS300)を使用して、インピーダンススペクトルを得た。
【0047】
SOFCアノード中に存在する炭素の量も、n−ブタン中での処理の後に測定した。これを成し遂げるために、アノードサーメット試料を、石英流通反応器中、973Kで様々な時間、流れるn−ブタンにさらした。試料の重量または流れるOにさらした時に形成されたCO及びCOの量を次に測定した。重量測定において、流れるHe中で試料温度を973Kにランプさせ、限定された時間、流れるn−ブタンにさらし、次に流れるHe中で冷却した。より長くさらした後に、冷却する前に試料を流れるHe中で973Kで24時間フラッシングした。
【0048】
アノード中の炭素含量を測定する第2の方法において、試料を、流通反応器中、973Kでn−ブタンにさらし、Heを用いてフラッシングした。試料を次に15%O−85%He混合物からなる流れるガスにさらし、同時に反応器流出液を質量分析計を用いて監視した。試料中の炭素の量を、反応器から出るCO及びCOの量から決定した。形成された炭素のタイプはまた同様に昇温酸化(TPO)でキャラクタリゼーションした。こうした測定において、サーメット試料を、973Kで30分、流れるn−ブタンにさらした。反応器を流れるHe中で298Kに冷却し、10K/分の速度で15%O−85%Heの流れるガス混合物中で再度973Kにランプさせた。
【0049】
原理上は、検出器として炭素対水素の比の計算を可能にすると思われる質量分析計を用いて実行したTPO実験は、堆積物中の水素の量を決定できるはずである;しかしながら、本願発明者らの真空系中の水のバックグラウンド信号は高過ぎて、この量の正確な測定を可能にしなかった。比較のために、0.03gの黒鉛粉末(アルファ・アエサル(Alpha
Aesar)、伝導等級99.995%)の試料を同一の反応器中に置き、15%O−85%He流れ中10K/分で加熱した。黒鉛試料のSEM測定は、粒子は、厚さ10μm未満のプレートレット(platelet)として成形されたことを示唆した。
【0050】
初期試験の結果
Cu−サーメットアノードを、炭化水素燃料中、973Kで処理した影響を実験によって証明し、ここで、燃料をHからn−ブタンに変更し、Hに戻す間に出力密度を時間の関数として測定した。燃料電池を0.5Vで維持し、燃料電池は20重量%のCuを有するアノードを含んだ。アノードを最初に数時間Hにさらし、電池は出力密度わずか0.065W/cmを示した。供給物を純n−ブタンに変更すると、出力密度は短い過渡期の後に0.135W/cmの値に増大した。電池をn−ブタン中で20分動作させた後に、供給物を純Hに切り換え、出力密度は0.21W/cmに増大し、アノードをn−ブタンにさらす前に観測された出力密度よりもファクターで3.2大きかった。
【0051】
n−ブタンにさらした後の電池性能のこの向上は、アノードの再酸化時に完全に可逆的であることが見い出された。電池が純H中で動作するための様々な前処理を燃料電池に
施し、アノードは10重量%のCeO及び15重量%のCuを含んだ。H中でのアノードの初期還元の後に、アノードを60分間純n−ブタンにさらした後に、次にこれを30分間He中の15%Oにさらした後に、最後にさらに60分間n−ブタンにさらした後に、電池に関してデータを取った。酸化サイクルの後に、データを記録する前にアノードをH中に30分間保持した。最初に、H中の最大出力密度は0.045W/cmだった。これは、1時間n−ブタンにさらした後に0.16W/cmに増大し、このことは、20重量%のCuアノードに関して上記に得られた結果と同様だった。15%O中での酸化及びH中での還元の後に、性能曲線はその初期値に戻った。最後に、もう一度電池をn−ブタンにさらして、性能曲線をそのより高い値に増大させた。
【0052】
n−ブタンにさらした時の向上した性能及び再酸化時の可逆性は全電池抵抗から観測され、n−ブタン中で処理する前に約6Ωcmであり、n−ブタン中での処理の後に1.4Ωcmだった。さらに興味深いのは、電池のオーム抵抗(R)を実軸との高周波切片によって測定して、n−ブタン処理後に約2.9Ωcmから約0.6Ωcmに低下した点である。通常、RΩは電解質の伝導率に関連する。混合伝導アノード及びカソード中の帯電種の移動は、界面抵抗(R)を生じ、これは、実軸との高及び低周数切片の間の差として測定された。Rも、n−ブタン中での処理の後に3Ωcmから約1Ωcmに低下した。
【0053】
アノード中の金属粒子同士の間の最初の不満足な接続性は、高い初期オーム抵抗に基づくと考えられている。RΩは、SOFC電池の場合、YSZの伝導率の973Kでの文献値及び電解質の厚さに基づいて1Ωcm未満であるはずである。RΩが最初にこれよりもはるかに大きいという事実は、オーム抵抗の一部分はアノード中に存在しなければならないことを意味する。
【0054】
上記の結論の明白な意味は、増大した含量は初期性能を改良し、多分炭化水素燃料中での処理に関して観察される向上を低下させるはずである。このことは実際に起きた。5%、10%、20%、及び30%の銅を含む電池に関して、30分間n−ブタンにさらす前及び後に、V−I曲線を確立した。セリア含量及びYSZ構造は、全ての電池で同一だった。低いCu含量を有する電池の初期性能は不満足であるが、n−ブタンにさらした時に劇的に増大する。5%及び10%の銅を含む2つの場合で、最大出力密度はファクターで3.5増大した。20%の銅を有する電池のデータは、より適度の改良、すなわち、n−ブタンを用いた処理の後に最大出力密度はファクターで2.5のみの増大を示した。最後に、30%の銅を有する電池のデータは、n−ブタンにさらした後に性能曲線の小さな変化のみを示した。従って、こうしたデータは、アノード中の金属の量がより低い場合、1個を超える炭素原子を有する炭化水素を用いてアノードを処理することによって実現する向上はより大きいが、初期性能はより大きいことを示し、これは予想されると思われる通りである。
【0055】
上記に説明したように、OCVでH中で測定したインピーダンススペクトルを同じ電池に関して取った。n−ブタンを用いた処理の前には、Cu含量が増大するにつれてRΩ及びRの両方に一定の低下が存在する。こうした値の変化は、10重量%のCuから20重量%のCuになる場合に特に大きい。n−ブタンを用いた処理の後でさえも、RΩは一定して低下し、約1.0Ωcmから約0.5Ωcmになる。従って、RΩの変化は、アノード中の電子導体の接続性はCuを加えること及びn−ブタン処理の両方によって増大するが、Cuを加えることの方がより有効であることを示唆すると思われる。しかしながら、30重量%のCu電池中のRがn−ブタン中での処理の後に比較的に大きなままであることに注目するのは興味深い。実際に、n−ブタン中での処理の後に、30重量%のCu電池は調べた4つの電池全ての中で最大のRを有した。
【0056】
向上したアノード伝導率は、アノード中の炭化水素の堆積が理由となっていると仮定して、様々な試料の質量の増大を、流れるn−ブタン中で973Kで管型反応器中で加熱した後に測定した。まず、材料を加えない多孔質YSZ材料の場合に質量変化の有意な差は無く、20重量%のCu及び10重量%のCeOを加えた多孔質YSZ材料の場合には観測された。Cuサーメットの場合、重量変化は10分後に1.3%であり、30分後に2.1%であり、24時間後に4.5%だった。15%O−85%He混合物との反応によって形成されたCO及びCOの生成に基づく炭素含量は、10分後に2.1%、20分後に4.0%だったが、この数字は反応器壁表面に形成された任意の炭素も含んだ。n−ブタン中での処理後の性能の増大は、10分よりはるかに短時間に起き、流れるHにさらした時に失われたので、こうした測定において観測された小さな炭素含量は、アノード中の接続性を増大するためには少量の炭化水素が必要であることを示唆した。これは、同じ接続性を実現するために比較的に多量のCuを加える必要があることを考えると特に興味深い。
【0057】
n−ブタン以外の炭化水素がどのようにアノードに影響するかを決定するために、20重量%のCu及び10重量%のCeOを用いて製造した電池の性能を、H中973Kでメタン、プロパン、n−デカン、及びトルエンにさらした後に調べた。測定同士の間に、電池を10%O−90%N流れにさらして、前の燃料によって引き起こされたいかなる向上も逆転させた。n−デカン及びトルエンの場合、燃料をアノードにさらした後にほぼ即座に向上した性能が観測され;n−ブタン、n−デカン、及びトルエンの場合、性能向上は区別できなかった。プロパンの場合、同様の向上が再度観測されたが、向上ははるかに漸進的に起きた。最大出力密度を実現するには、電池をプロパンに10分を超えてさらすことが必要だった。しかしながら、メタンの場合、数時間後でさえも向上は観測されなかった。メタンは、調べた他の炭化水素と比較してフリーラジカル反応を行うはるかに低い傾向を示し、プロパンは次に最も反応性が低かったので、こうした結果は、アノード中で炭化水素を形成する任意の燃料が同様の性能向上をもたらすはずであることを示す。
【0058】
アノード堆積物の性質を、He−O混合物で実行するTPOを使用して調べた。TPO曲線からのCO(m/e=44)及びO(m/e=32)信号を示すデータを得、これは、上記に説明したように20%のCu及び10%のCeOを含浸させたYSZサーメットを、流れるHe中で室温に冷却する前に、30分間973Kでn−ブタンにさらしたものに関する。結果は、温度の狭い範囲(約623〜723K)でCOが形成され、Oが消費されることを示す。バルクCuの再酸化が理由となっているかもしれない追加のO消費ピークが773Kで観測されるが、より低いピークで消費されたOの幾らかも、Cu酸化に相当すると思われる。水形成は観測されなかったが、CO生成及びCu酸化によって説明できるものよりも多くのOが消費された。追加のO消費は恐らく水形成が理由となっているが、定量化するのが困難である。水の形成が起きているらしいことは、堆積物が低温で反応するという事実と一緒に、アノード表面の炭素質堆積物は黒鉛質ではないということを強く示唆する。同じ実験条件を使用した黒鉛粉末試料の場合のTPO曲線は、CO生成は973Kを超えるまで起きず、値は、Wang, P., et al., Appl. Catal. A, 231, 35 (2002)によって報告されているものと同様であることを明らかにしている。黒鉛とアノード堆積物との間の差の幾らかは、表面積効果及びアノード中のセリアの存在が理由となって可能性がある;しかしながら、触媒の存在も増大した表面積も300度を超える温度上昇を与えることはないと予想されよう。
【0059】
最後に、電解質を通る酸素−イオン流束がアノードを“清浄化する”可能性があるかどうか決定するために、OCV条件下、973Kで100%の流れるn−ブタンの存在下で電池を調べた。n−ブタンを燃料として使用して、20重量%のCuを有する電池に関してV−I曲線を得た。結果は、24時間さらした後に最大出力密度のわずかな低下が存在
するようだが、差は有意ではないことを明らかにしている。
【0060】
この実験の間、OCV測定は興味深い傾向を示した。最初にn−ブタン中でのOCVは1.0Vを超えるが、急速に0.85Vの値に低下した。約4時間後に、電池を簡単に短絡させ、次にOCVを測定した。再度、OCVは1.0Vよりも上から出発し、急速に0.85Vに低下した。
【0061】
こうした実験は、直接酸化実験において3相境界で炭化水素層が存在することを示唆する(図1を参照されたい)。燃料としてHを用いたこうした電池の場合のOCVは1.1Vだったので、漏出が定常状態でのn−ブタン中の低いOCVを説明できることはありそうもないと思われる。また、n−ブタンからCO及びHOへの完全燃焼の場合の理論的OCVは、標準条件及び973Kで1.12Vである。炭素及び大部分の炭化水素の酸化は1Vを超えるOCVを与えるはずであるが、部分酸化反応はより低い標準電位を生じると思われる。例えば、n−ブタンからn−ブタナールへの酸化の標準電位は、973Kで0.87Vである。他の酸化還元対、例えばCeの酸化は、OCVが0.85Vであることを説明できない。従って、こうした実施例において説明されているOCVデータの最も可能性の高い説明は、部分酸化反応によって平衡が確立しているというものである。OCV中の過度現象は恐らく、アノード表面または内部の炭素質層の化学構造のゆっくりした変化が理由となっている。
【0062】
本発明のセラミックアノード及びSOFCの製造及び試験
Cu−サーメットアノードを含む固体酸化物燃料電池を製造し、試験するために使用する方法は、Gorte, R. J., et al., Adv. Materials, 12, 1465 (2000), and Park, S., et al., J. Electrochem. Soc., 148, A443 (2001)において説明されているものと同じである。第1の工程においては、高密度電解質層、多孔質YSZ材料、及び高密度電解質層表面に形成されたカソードを、上記に説明したものと同じようにして製造した。次に、多孔質YSZ層にCe(NO6HOの水溶液を含浸させ、723Kにか焼して、硝酸イオンを分解し、CeOを形成した。この実施例において使用したSOFC電池は、10重量%のCeOを含み、金属を含まなかった。
【0063】
電子的接触を、カソードでPtメッシュ及びPtペーストを使用し、アノードでAuメッシュ及びAuペーストを使用して形成した。カソード面積0.45cmを有する各電池を、Auペースト及びジルコニアに基づく接着剤(アレムコ、ウルトラ−テンプ516)を使用して1.0cmアルミナ管の上にシールした。
【0064】
上記に製造したSOFCの各々を、炭化水素と接触させる前及び後の両方でH燃料中の性能に関して上記に説明したように試験した。結果を図3〜6に示す。図3は、Cuが存在しないセリア/YSZアノードの場合に非常に大きな向上を得ることができることを示す。この電池の性能は、Cuを用いて製造した電池のものと同程度に高くはないが、性能はかなり良好である。この電池はまた、図4に示すように800℃で申し分なく機能した。
【0065】
向上のための機構を、図2に示す結果によって説明できる。ステンレス鋼プレートを銅でコーティングし、次に表面を700℃で24時間流れるn−ブタンと接触させた。接触は、タール様炭素質残留分を表面に生成した。この残留分はトルエン中に可溶であり、それに続いてGC−質量分析計で分析した。図2に示すように、炭素質タールは、2〜6個のいずれかの数の縮合芳香環を有するポリアロマティクス(polyaromatics)を含む。こうしたポリアロマティクスは高度に伝導性であると予想されよう。本願発明者らは驚くべきことに、形成された炭素質タールの量は自己制限的なので、アノードの表面は毒作用を受けないことを見い出した。
【0066】
上記に説明したものと同様にセラミックアノードを含む追加のSOFCを製造した。多孔質YSZにセリア溶液を含浸させることによってアノードを製造する代わりに、増孔剤を用いたテープ成形YST(Y−ドープしたSrTiO)によってアノードを製造し、次に多孔質YSTにセリアを含浸させて10重量%のレベルにした。電解質はYSZ(60ミクロン)であり、カソードはLSM−YSZ複合体であり、上記に説明したように製造した。このSOFCを、上記に説明したようにn−ブタンにさらす前及び後に流れるH中で試験し、結果を図5に示す。図5に示すように、セラミックアノードをブタンと接触させ、従ってアノード表面に炭素質堆積物を形成することによって、優れた性能が実現した。
【0067】
別のSOFCは、多孔質YSZにSr−ドープしたLaCrOを含浸させることによって製造され、電解質及びカソードは上記に説明したものと同じように製造された。SOFCを、上記に説明したようにn−ブタンにさらす前及び後に流れるH中で試験し、結果を図6に示す。図6に示すように、セラミックアノードをブタンと接触させ、従ってアノード表面に炭素質堆積物を形成することによって、優れた性能が実現した。
【0068】
本発明の他の具体例、使用、及び利益は、本明細書の検討及び本明細書において開示する本発明の実施から当業者には明白であろう。本明細書は模範例としてのみみなすべきであり、従って本発明の範囲は請求の範囲によってのみ限定されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】(a)n−ブタンにさらす前及び(b)n−ブタンにさらした後の、本発明のアノードの3相境界の変化を示す略図である。
【図2】n−ブタンにさらした後に、Cu−めっきされたステンレス鋼表面に形成された炭素質堆積物から得たガスクロマトグラムの記録である。
【図3】ブタンにさらす前及び後の、主にセリアを含むアノードの性能を示すグラフである。
【図4】様々な燃料中での図3の同じアノードの性能を示すグラフである。
【図5】ブタンにさらす前及び後の、Y−ドープしたSrTiO−セリアアノードの性能を示すグラフである。
【図6】ブタンにさらす前及び後の、Sr−ドープしたLaCrOアノードの性能を示すグラフである。
【図7】セリアのか焼温度がアノード性能に及ぼす影響を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質セラミック材料と;
該多孔質セラミック材料と同一かまたは異なってよい少なくとも追加のセラミック材料、金属、または両方と;
1個を超える炭素原子を有する炭化水素にアノード材料をさらすことによって形成される少なくとも1種の炭素質化合物;
を含むアノード。
【請求項2】
前記多孔質セラミック材料は、YSZ、Gc−及びSm−ドープしたセリア(10〜100重量%)、Sc−ドープしたZrO(最高100重量%まで)、ドープしたLaGaMnO、並びにこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載のアノード。
【請求項3】
前記多孔質セラミック材料はYSZである、請求項2に記載のアノード。
【請求項4】
前記アノードは、アノードの総重量を基準として約20重量%未満の量で金属を含む、請求項1に記載のアノード。
【請求項5】
前記金属の量は、アノードの総重量を基準として約15重量%未満である、請求項4に記載のアノード。
【請求項6】
前記金属の量は、アノードの総重量を基準として約10重量%未満である、請求項4に記載のアノード。
【請求項7】
前記アノードは金属を実質的に含まない、請求項1に記載のアノード。
【請求項8】
前記追加のセラミック材料は、セリア、ドープしたセリアの例えばGdまたはSm−ドープしたセリア、LaCrO、SrTiO、Y−ドープしたSrTiO、Sr−ドープしたLaCrO、及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載のアノード。
【請求項9】
前記追加のセラミック材料はセリアである、請求項8に記載のアノード。
【請求項10】
前記少なくとも1種の炭素質化合物は多芳香族化合物である、請求項1に記載のアノード。
【請求項11】
アノードの製造方法であって:
多孔質セラミック材料を形成することと;
前記多孔質セラミック材料と同一かまたは異なってよい少なくとも追加のセラミック材料、金属、または両方を前記多孔質セラミック材料に加えることと;
前記アノード表面または内部に炭素質堆積物を形成するのに十分な時間、得られた混合物を1個を超える炭素原子を有する炭化水素と接触させることと;
を含む方法。
【請求項12】
前記多孔質セラミック材料及び前記少なくとも追加のセラミック材料、金属または両方の混合物は、前記炭化水素と接触する前に、約300〜約700℃の範囲内の温度にて加熱される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記多孔質セラミック材料は:
YSZを含む2層グリーンテープを形成することと;
該グリーンテープを約1,350〜約1,650℃の範囲内の温度で焼結することと;
によって製造される、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
多孔質セラミック材料及び前記少なくとも追加のセラミック材料、金属または両方の混合物を1個を超える炭素原子を有する炭化水素と接触させることは、前記混合物を約600〜約800℃で約1分間〜約24時間n−ブタンと接触させることを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
請求項1に記載のアノードと;
カソードと;
少なくとも部分的に該カソードと前記アノードとの間に配置された電解質と;
を含む固体酸化物燃料電池。
【請求項16】
前記カソードは、Sr−ドープしたLaMnO、LaFeO、LaCoO、Fe及びAgから選択される金属、並びにこれらの混合物からなる群から選択される材料で構成される、請求項15に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項17】
前記電解質は、YSZ、Sc−ドープしたZrO、Gd−及びSm−ドープしたCeO、LaGaMnO、及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項15に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項18】
前記アノードの多孔質セラミック材料は、YSZ、Gc−及びSm−ドープしたセリア(10〜100重量%)、Sc−ドープしたZrO(最高100重量%まで)、ドープしたLaGaMnO、並びにこれらの混合物からなる群から選択される、請求項15に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項19】
前記多孔質セラミック材料はYSZである、請求項18に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項20】
前記アノードは、アノードの総重量を基準として約10重量%未満の量で金属を含む、請求項15に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項21】
前記アノードは金属を実質的に含まない、請求項15に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項22】
前記アノード中の追加のセラミック材料は、セリア、ドープしたセリアの例えばGdまたはSm−ドープしたセリア、LaCrO、SrTiO、Y−ドープしたSrTiO、Sr−ドープしたLaCrO、及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項15に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項23】
前記追加のセラミック材料はセリアである、請求項22に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項24】
前記アノード中の少なくとも1種の炭素質化合物は多芳香族化合物である、請求項23に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項25】
固体酸化物燃料電池の製造方法であって:
電解質材料を含む2層グリーンテープを形成することと;
該グリーンテープを約1,350〜約1,650℃の範囲内の温度で焼結して、高密度面及び多孔質面を有する電解質材料の多孔質材料を形成することと;
カソード組成物を前記高密度面に施用し、か焼することによって、前記電解質材料の前記高密度面表面にカソードを形成することと;
前記電解質材料の多孔質材料の前記多孔質面にセラミック材料、金属、または両方を含浸させることによって、アノードを形成することと;
マトリックス表面に炭素質堆積物を形成するのに十分な時間、得られたアノードを1個を超える炭素原子を有する炭化水素と接触させることと;
を含む方法。
【請求項26】
カソード材料のか焼は、約1,000〜約1,300℃の範囲内の温度で起きる、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記アノードを形成することは、多孔質電解質材料及び前記少なくともセラミック材料、金属または両方の混合物を約300〜約700℃の範囲内の温度にて加熱することをさらに含む、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記グリーンテープは、約1,500〜約1,550℃の範囲内の温度で焼結される、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
多孔質電解質材料及び前記少なくともセラミック材料、金属または両方の混合物を1個を超える炭素原子を有する炭化水素と接触させることは、前記混合物を約600〜約800℃で約1分間〜約24時間n−ブタンと接触させることを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項30】
前記電解質材料はYSZである、請求項25に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2006−510189(P2006−510189A)
【公表日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−565531(P2004−565531)
【出願日】平成15年12月16日(2003.12.16)
【国際出願番号】PCT/US2003/039931
【国際公開番号】WO2004/062006
【国際公開日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(500429103)ザ・トラスティーズ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・ペンシルバニア (102)
【Fターム(参考)】