説明

高性能レーザー装置に用いられる超低損失ミラーの再生方法

【構成】処理チェンバー1内に被処理ミラー7を配置し、該ミラーの表面にはRFプラズマ発生管3中のラジカルを照射する高性能レーザー装置に用いられる超低損失ミラーの再生方法。
【効果】プラズマ内の高エネルギー粒子による損傷が少ない状態で、プラズマ中で発生するラジカルを劣化した高性能レーザー用ミラー表面に照射することができるので、ミラー表層に堆積或は注入された原子・分子を除去して、従来不可能であった100ppm程度の超低損失領域においてもミラーの劣化を回復させることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、高性能レーザー装置に用いられる損失が例えば100ppm以下の超低損失ミラーの再生方法に関するものであり、更に詳しくはこれら超低損失ミラーの表面劣化によって起こる損失の増加をRF(高周波)プラズマを用いて低減して初期の性能を回復させるための方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】自由電子レーザー、レーザージャイロ、重力波レーザー干渉計などの高性能レーザー装置では共振器やエタロンの他に、光偏向用としても100ppm〜数ppm 程度の超低損失ミラーが用いられている。
【0003】このような超低損失ミラーはその表面の僅かな変化により損失が増加し、レーザーの性能が著しく損なわれる。
【0004】中でも自由電子レーザーにおいてはミラー劣化が激しく、実験的には40ppm 程度の損失が10時間程度の使用で1000ppm 程度まで増加することが観測されている。
【0005】超低損失ミラーにおいて損失増加を引き起こす要因は、ミラー表面への特に炭素などの各種ガス原子・分子の付着・堆積、更にそれらのミラー表層部への注入によるが、このようなミラー表面の変化は非常に微小であり、これらによる損失の増加は通常レベルでは全く問題とならない。
【0006】しかし、上述のように高性能レーザー装置に用いられる損失が100ppm以下の超低損失ミラーにおいては、この程度の損失増加でもレーザー性能が著しく損なわれるので、無視できなくなる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】このような超低損失領域では、従来ミラー劣化が起こっても、それを回復させる技術が全く存在せず、損失がある程度以上大きくなった時点でミラー交換を行うことで対処していた。
【0008】しかし、頻繁なミラー交換はコストと時間を要すると共に、装置の安定性を著しく損なう原因となり、したがって劣化した超低損失ミラーの速やかな再生技術の開発が重要な課題である。
【0009】
【課題を解決するための手段】以上の課題を解決するため、この発明では処理チェンバー内に被処理ミラーを配置し、該ミラーの表面にRFプラズマ中で発生するラジカルを照射する高性能レーザー装置に用いられる超低損失ミラーの再生方法を提案するものである。
【0010】
【作用】即ち、この発明では被処理ミラー表面にRFプラズマ中で発生するラジカルを照射することにより、ミラー表層に付着・堆積更に注入された原子・分子(特に炭素)が除去され、100ppm程度の超低損失領域においてもミラー損失を低減して、ミラーを再使用可能なレベルまで再生することが可能となるのである。
【0011】なお、劣化したミラーを再生するためプラズマ照射すると、プラズマ内の高エネルギーの荷電粒子が被処理ミラーの表面に衝突することによりミラー表面が損傷を受け、却ってミラー損失が増加することが予測されるが、この発明では処理チェンバー内に配置した被処理ミラーにRFプラズマ中で発生するラジカルを照射させるため、ラジカルの発生量、プラズマと被処理ミラーとの距離等のパラメータの制御が容易で、予測されるプラズマ内の高エネルギー粒子によるミラー表面の損傷を最小限に抑えながら、ミラー表面にラジカルを照射させることができる。
【0012】また、この発明で使用するプラズマ発生用ガスとしては酸素ガスの他、水素ガス、アルゴンガスなど励起状態で容易にラジカルを発生するガスを使用することが可能と考えられる。
【0013】
【実施例】以下、図示の実施例に基づいてこの発明を詳細に説明すると、1は処理チェンバー、2は真空排気装置、3はプラズマ発生用石英管、4はRFプラズマ発生用コイル(水冷、2ターン)、5はRF電源(13.56MHz1kW) 、6はプラズマ発生用ガス供給装置、7は処理チェンバー1内に配置された被処理ミラーを示す。
【0014】先ず処理チェンバー1内を真空排気装置2にて10-5Torr程度以下の圧力まで排気した後、被処理ミラー7の上部よりプラズマ発生用ガス(ここではO2 )を50SCCMの流量で供給しながらRF電源5及びプラズマ発生用コイル4を用いて石英管3内にプラズマを発生させる。
【0015】このプラズマ内では各種の励起された粒子が発生するが、このうち高エネルギーの荷電粒子は被処理ミラーの表面に衝突することによって損傷を与え、却ってミラー損失を増加させるため、被処理ミラー7とプラズマ間距離を適切に配置し(ここでは被処理ミラーとプラズマ中心との距離は20cm) 、また処理チェンバー1内のガス圧力を制御する(ここでは2Torr)ことによって、主に励起状態の中性原子(ここでは原子状酸素ラジカル)のみが被処理ミラー面に到達するように設定した。
【0016】このような実験配置で、RF電源5の入力電力450Wにおいて1時間程度被処理ミラー1の表面処理を行うことによって、1000ppm 程度のミラー損失が100ppm程度まで低減できることが実験的に確認された。
【0017】更に処理条件の最適化を進めることによって、ミラー劣化の一層の回復が期待できる。
【0018】またプラズマ処理を、ミラーをレーザー装置に取り付けたままで行うことにより(その場処理)、ミラーの着脱・調整も不要となり、レーザー装置の高安定化の実現が可能となる。
【0019】
【発明の効果】以上要するに、この発明によればプラズマ内の高エネルギー粒子による損傷が少ない状態で、プラズマ中で発生するラジカルを劣化した高性能レーザー用ミラー表面に照射することができるので、ミラー表層に堆積或は注入された原子・分子を除去して、従来不可能であった100ppm程度の超低損失領域においてもミラーの劣化を回復させることが可能となる。
【0020】したがって、この発明によれば自由電子レーザー、レーザージャイロ、重力波レーザー干渉計をはじめ、各種高性能レーザー装置の長寿命・高安定動作化を実現でき、これらを用いた物理学の基礎研究や各種研究や各種応用研究の進展が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明の一実施例を示す模式図。
【符号の説明】
1は処理チャンバ
2は真空排気装置
3はプラズマ発生用石英管
4はRFプラズマ発生用コイル
5はRF電源
6はプラズマ発生用ガス供給装置
7は被処理ミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】 処理チェンバー内に被処理ミラーを配置し、該ミラーの表面にはRFプラズマ中で発生するラジカルを照射することを特徴とする高性能レーザー装置に用いられる超低損失ミラーの再生方法。

【図1】
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【公開番号】特開平7−174912
【公開日】平成7年(1995)7月14日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−344945
【出願日】平成5年(1993)12月20日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1993年9月27日〜9月30日 主催の「1993年(平成5年)秋季 第54回応用物理学会学術講演会」において文書をもって発表
【出願人】(000001144)工業技術院長 (75)
【指定代理人】
【氏名又は名称】工業技術院電子技術総合研究所長