説明

高感度及び低バイアスに最適化された入力ビーム変調を有する共振器光ジャイロスコープ

【課題】高感度及び低バイアスに最適化された入力ビーム変調を有する共振器光ジャイロスコープを提供する。
【解決手段】高いジャイロ感度及び低いバイアス誤差に入力ビーム変調を最適化するためのシステム及び方法。本発明は、ジャイロ信号対雑音(S/N)感度を最大化する選択された変調周波数(振幅)における最適化された位相変調振幅(周波数)を有する共振器光ジャイロスコープである。位相変調振幅の選択された値について、偏光クロスカップリングが誘発した強度変調をゼロにすることができる。これらのゼロ化点にほぼ近い位相変調振幅(例えば、1次ベッセル関数をゼロにする、すなわちJ(M)=0にするM=3.832ラジアン又は7.016ラジアン)を設定し、次に、変調周波数を最適化することによって、強度変調が誘発したバイアスはゼロに低減され、ジャイロS/N感度は最大化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高感度及び低バイアスに最適化された入力ビーム変調を有する共振器光ジャイロスコープに関する。
【背景技術】
【0002】
共振器光ジャイロスコープは、共振キャビティを含む回転速度検知デバイスである。共振キャビティは、反対方向に伝播する光波(一般性を失うことなく、これらの光波は、以下では、それぞれ時計回り(CW)方向及び反時計回り(CCK)方向と呼ばれる)をサポートする。共振器の法線軸のまわりに非ゼロの回転速度があるとき、CW光波及びCCW光波の有効ラウンドトリップ光路長は異なり、その結果、それらCW光波とCCW光波との間に共振周波数差が生じる。この共振周波数差を測定することによって、回転速度を求めることができる。
【0003】
共振器光ファイバジャイロスコープ(RFOG)は、共振器に光ファイバを使用する特別な種類の共振器ジャイロスコープである。光ファイバは、検知ループのサイズを大幅に増加させることなく、ジャイロの信号対雑音(S/N)感度を増加させる。共振周波数差を測定するために、単色光波が、通常、正弦波位相/周波数変調され、CW方向及びCCW方向でRFOG共振器内へ結合される。共振器の内部を循環する光のわずかな量は、共振器の外部に結合され、光検出器において電子信号に変換される。この電気信号は、対応する変調周波数において復調され、入力光周波数をCWキャビティ及びCCWキャビティの共振周波数にサーボするのに使用される。
【0004】
RFOGの位相変調器の前後の光路に沿って、変調器導波路とそのピグテールファイバ(図示せず)との間の不完全なファイバスプライス又は偏光軸不一致に起因する偏光クロスカップリング点が存在する可能性がある。この場合、位相変調は、変調器の2つの直交偏光路によって形成された2つの光学アームを有するマッハツェンダ干渉計のように振舞う。光出力のほとんどは、偏光状態が変調器の通過軸と位置合わせされている光路内を伝播する。少量の(クロスカップリングされた)光出力が、偏光状態が、変調器の通過軸と直交した光路内を伝播する。(クロスカップリングされた)光出力の少量は、偏光状態が変調器の通過軸と直交している光路内を伝播する。位相変調器の後のクロスカップリング点では、変調器の2つの直交した偏光軸に沿って伝播する光波間の干渉により、位相変調周波数において強度変調が引き起こされ、その結果、速度信号の誤った復調が生じる。誤った復調によって、ジャイロのバイアス誤差が生成される。
【0005】
この変調器が誘発した強度変調を低減する方法は、高い偏光消光比(PER)を有する位相変調器の選択及びジャイロ光路内の偏光クロスカップリングの低減によるものである。これらの方法では、高性能変調器が必要とされ、製造の複雑度及びコストが増加する。この問題を解決する自明ではないが巧みな方法は、位相変調振幅(本発明で詳述される)を適切に選択することである。位相変調振幅の変化は、(回転速度をどれだけ微細に測定できるのかを決定する)ジャイロS/N感度に影響を与えるので、この方法には、注意を払わなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
バイアス誤差の低減及びジャイロS/N感度の最大化を同時に行う方法を見つけることが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、入力ビームの位相変調振幅及び位相変調周波数を最適化することによって高いジャイロ信号対雑音(S/N)感度及び低い強度変調を達成する方法及びシステムを提供する。本発明の一実施形態では、単一の変調振幅/周波数の選択によって、最も高いS/N感度及び変調器が誘発する最も低い強度変調の双方にジャイロを同時に最適化する。さらなる実施形態では、ジャイロS/N感度を最大化する選択された変調周波数(振幅)の位相変調振幅(周波数)を最適化する方法が提供される。
【0008】
より具体的には、位相変調振幅が一定の値にあるとき、偏光クロスカップリングが誘発した強度変調をゼロにすることができる。これらのゼロ点にほぼ近い位相変調振幅、(1次ベッセル関数をゼロにする、すなわちJ(M)=0にする)例えば、M=3.832ラジアン又は7.016ラジアンを最初に設定し、次に変調周波数を最適化することによって、強度変調は、ほぼゼロに低減することができると同時に、それでも、最大のジャイロS/N感度を達成することができる。CW入力光波及びCCW入力光波について異なる(しかし、最適感度にほぼ近い)変調周波数を選択することによって、ジャイロ検知ループ内の後方散乱に起因するバイアス不安定性が回避される。
【0009】
本発明の好ましい実施形態及び代替的な実施形態が、以下の図面を参照して以下で詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に従って形成された共振器光ジャイロスコープの模式図である。
【図2】デチューニングレーザ周波数の関数としての図1のジャイロからの共振信号のプロットを示す図である。
【図3】レーザデチューニング周波数の関数としての図1のジャイロの共振信号に対応する復調された信号のプロットを示す図である。
【図4】いくつかの変調周波数について、ラジアンを単位にした位相変調振幅の関数として図1のジャイロの正規化されたS/N感度をプロットした図である。
【図5】図4の同じ変調周波数について、共振半値全幅(FWHM)を単位にした周波数変調振幅の関数として正規化されたS/N感度をプロットした図である。
【図6】図1のジャイロについて、位相変調振幅の関数として、変調器偏光クロスカップリングが誘発した同相バイアス誤差をプロットした図である。
【図7】図1のジャイロについて、位相変調振幅の関数として、変調器偏光クロスカップリングが誘発した直交バイアス誤差をプロットした図である。
【図8】M=3.83ラジアン及び7.02ラジアンの固定位相変調振幅について、変調周波数の関数として図1のジャイロのS/N感度をプロットした図である。
【図9】ジャイロ性能を最適化するために図1に示すデバイスによって実行される一例の方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ジャイロバイアス誤差を低減し、ジャイロ感度を増加させることは、多くの分野における用途に重要である。本発明は、入力光変調を最適化し、バイアス誤差の低減及び感度の最大化を同時に行う方法及びシステムを提供する。共振器ジャイロは、多くの種類の光コンポーネント(光ファイバ、光導波路、離散光コンポーネント、及び自由空間等を有する光コンポーネントを含む)から構築できることが理解されるべきである。加えて、本発明は、1つ又は複数の光源からのCW方向及びCCW方向の双方の複数の入力光ビームを有するジャイロに適用可能である。
【0012】
図1は、入力光変調、出力信号検出、復調、及びサーボ電子機器のための機能ブロックを有する高感度低バイアス共振器光ジャイロスコープ10(通常は共振器光ファイバジャイロスコープ(RFOG))を示す。RFOG10は、単色光源11、入力偏光クロスカップリング点12、位相変調器13、出力偏光クロスカップリング点14、光アイソレータ15、入力結合器16、出力結合器17、共振器18、他の光コンポーネント19、光検出器20、増幅器21、復調器22、レーザ周波数コントローラ23、正弦波ジェネレータ24、及びドライバ25を含む。簡単にするために、時計回り(CW)の光波にのみ関係したコンポーネントが示されている。反時計回り(CCW)のコンポーネントは省略されているが、それらのCW対応物と実質的に同じであると仮定される。
【0013】
単色光源11からの出力ビームは、位相変調器13によって位相変調され、入力結合器16においてCW方向で共振器18内へ結合される。光アイソレータ15は、結合器16と変調器13との間に配置され、逆伝播するあらゆる光波(図示せず)が単色光源11へ戻ることを防止する。循環するCW光波のわずかな量は、出力結合器17において共振器18の外部に結合され、光検出器20によって検出される。光電流信号又は光電圧信号は、増幅器21によって増幅され、復調及び処理のために復調器22に供給される。位相変調器13を駆動するのに使用される正弦波ジェネレータ24は、基準周波数を復調器22に提供する。復調された信号は、CW共振器18の共振にレーザ周波数をロックするためにサーボ電子機器によって使用される。CW方向とCCW方向(同様に測定される)との間の測定された共振周波数差が回転速度を決定する。
【0014】
図1に示すように、点12及び14は、一般に、変調器導波路とそのピグテールファイバ(図示せず)との間の不完全な位相変調器ファイバスプライス又は偏光軸不一致に起因する位相変調器13の前後の偏光クロスカップリングの点を表す。点12及び14における偏光クロスカップリングは、変調器の2つの直交した偏光軸に沿って伝播する光波間の干渉に起因する位相変調周波数における光強度変調をもたらす。位相変調器13において起こるこの強度変調は、速度信号の誤った復調を引き起こし、ジャイロのバイアス誤差を生成する。
【0015】
入力光変調パラメータに対するRFOG感度及びバイアス誤差の依存関係を見つけるために、図1の通常のRFOGのRFOG変調出力及びRFOG復調出力の数学的解析を以下に提示する。本発明は、入力光変調を最適化することに焦点を当てているので、共振器は、数式の簡単化のために1つの偏光モード及び1つの空間モードのみをサポートすると仮定する。Φ=Msinωtの正弦位相変調及び偏光クロスカップリングを受けた入力光ビームは、
【0016】
【数1】

【0017】
と表される。ここで、この式の右辺の第1項は、偏光クロスカップリングが誘発した場に関係し、第2項は、変調されたメイン光ビームである。Eは、入力光ビーム振幅であり、θ(t)は、時間tにおける光波の初期位相であり、ωは、光波中心角周波数(以下では、すべての角周波数は、簡単にするために周波数と呼ばれる)であり、ωは、位相変調周波数であり、Mは、ラジアンを単位にした位相変調振幅であり、c.c.は、複素共役を表す。k及びkは、それぞれ点12及び14における偏光振幅クロスカップリング係数であり、εは、位相変調器場偏光消光比である。高い偏光消光比及び小さなクロスカップリング振幅を有する位相変調の場合、k、k、及びεは、非常に小さな数となる。一方、高性能ジャイロの場合又はkεが十分小さくないとき(例えば>10−6)、バイアスに対する第1項の影響は無視することができない。この式において、項φ(t)は、クロスカップリング点12と14との間の直交偏光状態を有する2つの光路間の位相差である。この位相差は、時間と共に環境が変化すると変動し、クロスカップリングが存在するときにバイアス不安定の原因となる。
【0018】
変調された光の瞬時周波数は、その位相を時間で微分することによって得られる。この瞬時周波数は、ω(t)=ω+Mωcosωtである。ωの周波数及びMラジアンの振幅を有する正弦波位相変調は、M・fHzの周波数振幅を有する正弦波周波数変調と等価である。そこで、「位相変調」及び「周波数変調」は同じ変調を指している場合があるが、以下の記載では異なる単位で表されることがある。
【0019】
【数2】

【0020】
の関係を使用すると、式(1)は、ベッセル関数Jの点から拡張することができる。
【0021】
【数3】

【0022】
ここで、nは、−∞から+∞に及ぶ整数である。上記式は、変調された光の場が、変調周波数ωの整数倍だけωからシフトされた多くの周波数成分を含むことを示す。これらの周波数成分の大きさは、位相変調振幅M及びベッセル関数によって統制される。この式の第1項によって表される偏光クロスカップリングされた光ビームは、ωの基本周波数成分にのみ寄与し、したがって、その複素数の大きさは、J(M)の代わりにJ(M)+kεeiφ(t)に比例する。
【0023】
光検出器20における光場を計算するには、キャビティのラウンドトリップ回数が異なる複数の光ビームを合計しなければならない。周波数ω+pωにおける総電場Epは、共振器の外部に結合される前に受けるラウンドトリップの回数に依存する光路損失と、共振器ラウンドトリップ場透過係数ρとによって複素振幅が減衰されるすべての場を重ね合わせたものである。
【0024】
【数4】

【0025】
周波数成分ω+pωとω+qω(p,q≠0の場合)との間の全体の場のビートによって、(p−q)ωの周波数において、強度が
【0026】
【数5】

【0027】
に比例する電気信号が生成される。ここで、Δvは、レーザ線幅であり、τは、共振器ラウンドトリップ時間である。基本周波数場を有するビートを伴う信号の場合、式(4)の分子の対応するベッセル関数J(M)は、偏光クロスカップリングからの寄与を考慮するためにJ(M)+kεeiφ(t)に置き換えられる。
【0028】
RFOG共振周波数を測定するには、第1高調波ビート信号が特に対象となる。条件p−q=±1を充足するすべてのp及びqを有するBpqを合計したものは、第1高調波信号の大きさを生成する。この第1高調波信号の大きさは、位相変調振幅M、変調周波数ω、共振器ラウンドトリップ場透過係数ρ、レーザ線幅Δv、及びキャビティラウンドトリップ時間τ等の関数である。変調振幅M及び変調周波数ωに対する復調された第1高調波信号の振幅の依存関係は、高感度及び低バイアス誤差の入力光変調を最適化するのに使用される。
【0029】
偏光クロスカップリング及び関係した変調の不完全さを有しない理想的なRFOGの場合、復調された第1高調波信号は、レーザ周波数がキャビティ共振周波数にチューニングされたときにゼロになる。サーボ電子機器は、この判別特性を使用して、レーザを共振にロックし、回転速度測定のためにCWビームとCCWビームとの間の周波数差を見つける。共振からデチューニングしたレーザ周波数に対する第1高調波信号の傾きは、RFOGの信号対雑音比(S/N)を決定する。共振からの小さな周波数偏位によって、大きな第1高調波信号が生成される可能性があるので、傾きが大きいほど、高いS/Nを与える。光変調振幅及び周波数に対するジャイロのS/N感度の依存関係が解析的に一旦見つけられると、ジャイロのS/N感度を最適化することができる。
【0030】
非ゼロの偏光クロスカップリング、すなわちkε≠0に起因する所望でない電波振幅が存在するとき、共振周波数中心のそれぞれにおいても、復調された第1高調波信号は、非ゼロの値(例えば、光検出器プリアンプ電圧信号が使用される場合には、非ゼロの電圧)を有する。ジャイロサーボ電子機器がそれでもゼロ信号値を使用して、共振周波数を求める場合、バイアス誤差(ゼロ回転速度を有する非ゼロ出力)がジャイロ出力に存在する。解析から、このバイアス誤差の大きさも、位相変調振幅に依存する。一定の変調振幅の場合、偏光クロスカップリングが存在しても、すなわちkε≠0であっても、この誤差をゼロに低減することが可能である。
【0031】
入力光変調に対するRFOGバイアス及び感度性能の依存関係をシミュレーションするために、数学モデルが使用される。この数学モデルは、上述した原理及び式に基づいており、コンピュータプログラムのコードの形態で存在する。一実施形態では、このコンピュータプログラムは、マトラボ(Matlab)プログラミング言語で実施されるが、他の実施形態では、このプログラムは、他の言語で実施することができる。
【0032】
コードは、いくつかのセクションに分割される。第1のコードセクションは、入力データを関係付けるためのものである。一実施形態では、共振器ファイバ長、コイル直径、入出力結合損失、レーザ線幅、レーザ出力、入力光位相変調振幅及び入力光位相変調周波数、並びに偏光クロスカップリングの大きさ等のようなパラメータが、このセクションで指定される。第2のコードセクションは、所与の変調周波数ωにおける復調された信号のシミュレーションされた応答を計算する。式(4)は、周波数成分ω+pωとω+qω(p,q≠0の場合)との間のビートから生成された、(p−q)ωの周波数における信号強度の式である。ωにおける復調された信号を計算するには、条件p−q=±1を充足するすべてのp及びqを有するBpqの合計が必要とされる。基本周波数場(すなわち、p又はq=0)を有するビートを伴う信号の場合、式(4)の分子における対応するベッセル関数J(M)は、偏光クロスカップリングの効果を考慮するために
【0033】
【数6】

【0034】
に置き換えられる。より高次のベッセル項J(M)からの寄与は、nの値の増加と共に減少するので、合計は、有限個の項に限定することができる。第3のコードセクションは、復調された結果の信号を、入力光の変調振幅及び変調周波数等の入力パラメータの関数としてプロットする。数学モデルは、バイアス誤差及びS/N感度の点からのRFOG10の最適設計を見つけるのに必要な時間を低減する。
【0035】
本発明の原理を示すために、ジャイロS/N感度及びバイアス誤差の依存関係が、例示のパラメータを有するRFOGについて検討される。RFOGは、20MHzの共振周波数スペクトル間隔(FSR)及び50ナノ秒のラウンドトリップ時間に対応する15メートルの有効キャビティ長を有するものと仮定される。入力結合器16及び出力結合器17は、キャビティ内光波について95%の強度透過係数を有し、光の5%を共振器内へ又は共振器の外部へ結合するものと仮定される。共振器過剰ラウンドトリップ損失は、結合器によって誘発される入出力結合損失を考慮しない場合には10%である。1550ナノメートルレーザは、50kHzの線幅を有する、共振器コイル直径は、ヘルツの周波数シフトを1時間当たりの度数の回転速度に変換するための4.26deg/hr/Hzのスケールファクタに対応する7.5cmである。
【0036】
図2は、レーザが、約3つの自由スペクトル間隔(FSR)(−1.5FSRから+1.5FSR)の周波数レンジにわたって走査されているときの共振信号を示す。図2に示すように、3つの共振ピーク26が、上記の仮定されたパラメータについて示されている。共振半値全幅(FWHM)線幅27は、自由スペクトル間隔(FSR)28の約3.8%である。FSR28は、26.3の共振器フィネスに対応する、2つの共振ピーク26の周波数分離間隔である。
【0037】
図3に示すように、復調された第1高調波信号30は、いくつかの入力光変調周波数(20kHz、70kHz、及び200kHz)36について、固定された変調振幅で、(FSR、すなわち20MHzを単位にした)共振からデチューニングされたレーザ周波数29の関数として示されている。復調された第1高調波信号30の傾き(すなわち、感度)は、変調周波数が異なれば異なる。以下では、正規化された感度が、共振ピーク26からデチューニングしたレーザ周波数の1MHz当たりの(入力光出力に正規化された)強度変化を単位にして、この復調された第1高調波信号30の傾きとして定義される。
【0038】
図4に示すように、ジャイロ感度32の依存関係は、例えば20kHz、70kHz、200kHz、300kHz、及び400kHzといったいくつかの変調周波数36について、(ラジアンを単位にして)位相変調振幅M 34の関数としてプロットされている。各変調周波数36において、ジャイロ感度32を最大化する変調振幅34が存在する。20kHzの場合、この変調振幅34は13ラジアンにあり、70kHzの場合、この変調振幅34はほぼ4ラジアンであり、200kHz、300kHz、及び400kHzの場合、この変調振幅34はほぼ2ラジアンである。このプロットは、変調周波数36が異なれば、最大達成可能感度38が異なることを示している。
【0039】
図5に示すように、ジャイロ感度32は、ラジアンを単位にした位相変調振幅の代わりに共振FWHM(図2に示す)を単位にした周波数変調振幅(ピーク間周波数可動域(peak-to-peak frequency excursion)の半分)39に対してプロットされている。20kHz及び70kHzの変調周波数の場合、周波数変調振幅39がFWHMの約40%であるときに最大達成可能感度38に達する。一方、変調周波数36が200kHzから300kHz及び400kHzに増加したとき、最適な周波数変調振幅39も、共振FWHMの45%からそれぞれ65%及び100%に増加する。大ざっぱに言えば、(通常、当業者によって使用される)FWHMの50%の最適な変調周波数振幅39は、特に高い変調周波数では最適ではない。本発明の理論的解析は、より広範囲のパラメータにおいて入力ビーム変調を最適化するより正確な方法を提供する。
【0040】
開示したモデルは、ジャイロ感度32を計算することに加えて、偏光クロスカップリングに起因する変調器強度変調により生成される同相バイアス誤差40及び直交バイアス誤差41も予測する。図6及び図7にそれぞれ示すように、同相バイアス誤差40及び直交バイアス誤差41は、M=3.83ラジアン及び7.02ラジアンの位相変調振幅34においてゼロに近づく。実線42は、kε=10−5に対応する−100dBの偏光クロスカップリングされた場についてのものであり、破線44は、kε=10−6に対応する−120dBのクロスカップリングされた場についてのものである。同相バイアス誤差40及び直交バイアス誤差41は、変調周波数36とは独立して、M=3.83ラジアン及び7.02ラジアンの位相変調振幅34においてゼロに近づく。同相バイアス誤差40及び直交バイアス誤差41がゼロに近づくための数学解は、1次のベッセル関数J=0となるゼロ点(M=3.83,7.03,…)である。したがって、たとえkεが有意であっても、変調器強度変調によって引き起こされるバイアス誤差をゼロにするように、バイアスゼロ化点(bias nulling point)46、48における位相変調振幅34を選択することは有利である。バイアス誤差を取り除くことによって、バイアス性能を犠牲にすることなく、低コストの変調器をRFOG10で使用することが可能になる。
【0041】
しかしながら、変調周波数36が任意に選択される場合に、バイアス低減のために、3.83ラジアン及び7.02ラジアン等の特定の値における位相変調振幅34を選択することによって、ジャイロS/N感度32が低下するおそれがある。位相変調振幅34がバイアスゼロ化点46、48の一方に一旦設定されると、ジャイロ感度32を最大にするために、最適な変調周波数36を見つけることが必要である。図8に示すように、2つの位相変調振幅34、すなわちM=3.83及び7.02について、70kHz又は35kHzに近い変調周波数36を設定することが、ジャイロS/N感度32を有効に最大化する。
【0042】
複数の入力ビームを有する共振器ジャイロスコープでは、検知ループ内の後方散乱によって、CW光波及びCCW光波が同じ光検出器に達するおそれがある。この場合、復調された信号は、入力光変調周波数が双方の方向で同じである場合に、後方散乱された光からの雑音を含む。したがって、CWビーム及びCCWビームについて異なる変調周波数を選択することが有利である。復調電子機器が、異なるビーム間のクロストーク効果を回避するには、通常、数kHzの変調周波数分離間隔で十分である。感度ピーク(図8に示す)は比較的広いので、各入力光が図8の最適周波数の数kHz内で変調されるとき、S/N感度に対する妥協は全くない。S/N感度は、したがって、CW光及びCCW光の双方について最大値にほぼ近くすることができる。
【0043】
レーザ11から位相変調器13によって受信された入力ビームの変調の最適な振幅及び周波数を選択することによって、図1のRFOG10の高感度及び低バイアスを達成することが可能である。図9は、最適化プロセスを実行する方法を示す。一例の方法100の第1のブロック101において、キャビティ長、ラウンドトリップ損失、入出力結合比、レーザ出力、及び線幅27等の基本RFOGパラメータが、数学モデルに入力される。数学モデルは、RFOGパラメータの許容可能な組み合わせをジャイロのバイアス及びS/N感度性能に関係付ける上述したコンピュータプログラムである。
【0044】
第2のブロック102において、計算で、通例、最初に最小のMの数から開始して、J(M)=0を充足する位相変調振幅M 34(例えば、3.832)が求められる。上述したように、この振幅34は、偏光クロスカップリングに起因する強度変調によって誘発された同相バイアス誤差40及び直交バイアス誤差41をゼロにする。条件J(M)=0を充足する2つ以上の振幅が存在する可能性があり、したがって、その結果、可能な振幅Mの集合となる。次にブロック103において、ブロック102において計算された振幅の集合から1つの振幅34が選択される。実用的な実施の理由から、低い振幅34が選択される可能性が高い。次にブロック104において、ブロック102の選択された位相変調振幅及びブロック101の数学モデルの選択された入力パラメータ値について(図8に示すような)応答プロットを計算することにより、所望のジャイロS/N感度32を最大化する変調周波数36が求められる。高いS/N感度が一般に望ましいと考えられ、したがって、応答プロットがそのピークに達する周波数を選択することができる。
【0045】
次に、判定ブロック105において、RFOG10のモデル又は実際の測定結果を使用して、一例の方法100は、選択されたRFOGパラメータ、位相変調振幅、及び位相変調周波数が、バイアスの所望の低減及び所望の感度32を達成するか否かを判断する。
【0046】
達成していない場合、次にブロック106において、ジャイロ入力パラメータの少なくとも1つ、例えば入出力結合比が、ブロック101の数学モデルで当初使用された値から変更される。RFOGパラメータをその感度に関係付ける数学モデルは、新しく変更された1つ又は複数の値で再計算される。次に、同じ振幅34又は異なる振幅34のいずれかがブロック103において選択される。実際に実現可能な設計を見つけるために、J(M)=0を充足する異なる位相変調振幅M 34を選ぶことができる。次にブロック104において、所望のRFOGのS/N感度を提供する新しい位相変調周波数を求めることができるように、新しいRFOGパラメータ及び選択された位相変調振幅34に従って応答プロットが更新される。その結果のRFOG設計又は動作がバイアスの所望の低減及び所望のジャイロ感度32を達成するまで、ブロック103から106は、必要に応じて何度も繰り返すことができる。
【0047】
判定ブロック105において、所望のバイアス及び感度に達したことが一旦判断されると、ブロック106において、位相変調振幅値及び位相変調周波数値が、RFOG10の位相変調器13に適用される。
【0048】
本発明で強調した選択及び最適化のプロセスは、決して、RFOG設計プロセス中に行われることに限定されるものでもなければ、モデリングツールを使用して行われることに限定されるものでもないことに留意されたい。入力ビームの変調振幅及び変調周波数の最適化は、ジャイロの実際の動作中に完了させることができる。所望の感度及び最小のバイアス誤差を捜し求めて入力ビームの変調を動的に調整するのに、サーボ電子機器を使用することができる。
【0049】
上で述べたように、本発明の好ましい実施形態を図示して説明してきたが、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく多くの変更を行うことができる。したがって、本発明の範囲は、好ましい実施形態の開示によって限定されるものではない。それどころか、本発明は、続く特許請求の範囲を参照することによって専ら判断されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共振器光ジャイロスコープ(100)において変調器強度変調が誘発するバイアス誤差を低減するための方法であって、
(a)入力光ビームの正弦波位相変調のベッセル関数J(M)がほぼゼロに等しくなる位相変調振幅Mを選択するステップ(102)と、
(b)前記選択された位相変調振幅を前記入力光に適用し、したがって、前記強度変調が誘発したバイアス誤差を低減するステップ(107)と
を含む方法。
【請求項2】
回転速度を検知するためのシステム(10)であって、
少なくとも1つの光源(11)と、
前記光源からの光ビームを受信するように構成され、且つ偏光クロスカップリングに起因する復調された第1高調波信号のバイアスオフセットを最小化する位相変調振幅において動作するように構成される少なくとも1つの位相変調器(13)と、
前記位相変調器(18)から変調された光ビームを受信するように構成された共振器(18)と
を備えるシステム。
【請求項3】
変調器強度変調が誘発したバイアス誤差を低減し且つ共振器光ジャイロスコープの測定感度を増加させるための方法(100)であって、
(a)入力光ビームの正弦波位相変調のベッセル関数J(M)がほぼゼロに等しくなる位相変調振幅Mを選択するステップ(102)と、
(b)共振器パラメータ及びレーザパラメータの少なくとも1つと、前記選択された位相変調振幅とに基づいて、共振器出力光の復調された第1高調波信号から応答を生成するステップ(104)と、
(c)前記生成された応答を最大化する位相変調周波数を求めるステップ(104)と、
(d)前記複数の共振器パラメータ及びレーザパラメータの少なくとも1つを変更するステップ(106)と、
(e)所望に応じて前記(b)、(c)、及び(d)を繰り返すステップであって、前記位相変調周波数をさらに最適化する、ステップ(105)と、
(f)前記選択された位相変調振幅及び位相変調周波数を前記入力光に適用し、したがって、前記変調器強度変調が誘発したバイアス誤差を低減し且つジャイロ測定感度を増加させるステップ(107)と
を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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