説明

高所用酸素吸入装置及び炭酸ガス吸着剤再生機構

【課題】酸素消費量の少ない高所用酸素吸入装置を提供する。
【解決手段】高所用酸素吸入装置20は、吸入マスク16から排出された呼気が一時的に貯蔵される呼気貯蔵タンク22を備えている。この呼気貯蔵タンク22と吸入マスク16とはホース24で接続されている。呼気貯蔵タンク22の容量は、高所用酸素吸入装置20の使用者の肺活量よりも小さい。しかし、肺活量には個人差があるので、呼気貯蔵タンク22の容量としては、吸入マスク16から一回に排出された呼気の量の2分の1以下3分の1以上の容量にしておく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素が貯蔵された酸素ボンベからレギュレータを経由して吸入マスクによって酸素を吸入する高所用酸素吸入装置、及びこれに使用される炭酸ガス吸着剤再生機構に関する。
【背景技術】
【0002】
図5を参照して、従来の高所用酸素吸入装置を説明する。図5は、従来の高所用酸素吸入装置の概略構成を示す斜視図である。
【0003】
従来の高所用酸素吸入装置10は、酸素が貯蔵された酸素ボンベ12と、この酸素ボンベ12から排出される酸素の量を調整するレギュレータ14と、酸素ボンベ12から排出されてレギュレータ14を通過した酸素を肺に吸入するための吸入マスク16等とからなる。レギュレータ14から吸入マスク16までは、酸素を通すホース18で接続されている(つながれている)。吸入マスク16を装着した使用者は、酸素ボンベ12からレギュレータ14とホース18を通ってきた空気を吸い、呼気(肺から排出された気体)は全て大気中に放出されることとなる。
【0004】
上記した高所用酸素吸入装置10では、酸素分圧が平地と同じ約200ヘクトパスカルになるようにレギュレータ14を調整した場合、呼気に含まれる酸素分圧は150ヘクトパスカル程度になることが知られている。この150ヘクトパスカルという酸素分圧は、標高が約2500mの高原における酸素分圧と同じである。この酸素分圧(150ヘクトパスカル程度)を有する空気は、酸素吸入を必要とする標高4000m以上の高所における大気に比べてはるかに濃い酸素を含んだ空気である。このため、この酸素分圧(150ヘクトパスカル)を有する呼気を全て大気中に放出することは必要以上に酸素ボンベ12内の酸素を消費することとなる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように従来の高所用酸素吸入装置10では大気中に放出する呼気に、再使用できる酸素が含まれている。このような再使用可能な酸素も大気中に放出するので、必要以上の酸素を高所に運ぶこととなり、装備の重量増を招き、体力の消耗に伴う行動時間の遅れの原因となっている。このため、より多くの酸素が必要になるという悪循環を生じている。さらに、必要以上の装備を持ち上げることに起因する空ボンベ放置等の自然破壊や、酸素不足による遭難の危険も高くなる。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑み、酸素消費量の少ない高所用酸素吸入装置、及びこれに使用される炭酸ガス吸着剤再生機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の第1の高所用酸素吸入装置は、酸素が貯蔵された酸素ボンベと、該酸素ボンベから排出される酸素の量を調整するレギュレータと、前記酸素ボンベから排出されて該レギュレータを通過した酸素を吸入するための吸入マスクとを備えた高所用酸素吸入装置において、
(1)前記吸入マスクにその一端部が接続されたホースと、
(2)前記吸入マスクから排出されて前記ホースを通過した呼気が一時的に貯蔵される、前記ホースの他端部が接続された呼気貯蔵タンクとを備えたことを特徴とするものである。
【0008】
ここで、
(3)前記呼気貯蔵タンクは、前記吸入マスクを通して一回に排出された呼気の量の2分の1以下3分の1以上の容量をもつようにしてもよい。
【0009】
さらに、
(4)前記呼気貯蔵タンクは、前記ホースの前記他端部が接続された部分とは異なる部分に、大気に連通した大気連通口が形成されたものであってもよい。
【0010】
さらにまた、
(5)前記ホースの途中部分に取り付けられた、炭酸ガスを吸着する炭酸ガス吸着剤を備え、前記呼気貯蔵タンクは、前記吸入マスクを通して一回に排出された呼気の量以下であって該呼気の量の2分の1以上の容量をもつようにしてもよい。
【0011】
また、上記目的を達成するための本発明の第2の高所用酸素吸入装置は、酸素が貯蔵された酸素ボンベと、該酸素ボンベから排出される酸素の量を調整するレギュレータと、前記酸素ボンベから排出されて該レギュレータを通過した酸素を吸入するための吸入マスクとを備えた高所用酸素吸入装置において、
(6)前記吸入マスクにその一端部が接続されたホースと、
(7)該ホースの他端部に接続された、炭酸ガスを吸着する炭酸ガス吸着剤と、
(8)前記吸入マスクを通して排出されて前記ホース及び前記炭酸ガス吸着剤を通過した呼気が一時的に貯蔵される第1の部屋、並びに、前記炭酸ガス吸着剤を通過した大気が一時的に貯蔵される第2の部屋が形成された呼気貯蔵タンクとを備えたことを特徴とするものである。
【0012】
ここで、
(9)前記第1の部屋と前記第2の部屋とを仕切る、圧力の差に応じて移動する仕切壁を備えてもよい。
【0013】
さらに、
(10)前記第1の部屋に一時的に貯蔵された呼気を、前記炭酸ガス吸着剤を通過させずに前記マスクに到達させるバイパスホースを備えてもよい。
【0014】
さらにまた、
(11)その一端部が前記炭酸ガス吸着剤に接続されると共にその他端部が前記第2の部屋に接続されると共に、前記炭酸ガス吸着剤を通過した大気が前記一端部から導入される再生ホースを備えてもよい。
【0015】
また、上記目的を達成するための本発明の炭酸ガス吸着剤再生機構は、
(12)炭酸ガスを吸着する炭酸ガス吸着剤と、
(13)前記炭酸ガス吸着剤を通過することにより含有成分中の炭酸ガスが吸着された気体が一時的に貯蔵される第1の部屋、並びに、前記炭酸ガス吸着剤を通過することにより含有成分中の炭酸ガスが増量した気体が一時的に貯蔵される第2の部屋が形成された呼気貯蔵タンクと、
(14)前記第1の部屋と前記第2の部屋とを仕切る、圧力の差に応じて移動する仕切壁と、
(15)前記第1の部屋に一時的に貯蔵された気体を、前記炭酸ガス吸着剤を通過させずに排出させるバイパスホースと、
(16)その一端部が前記炭酸ガス吸着剤に接続されると共にその他端部が前記第2の部屋に接続されると共に、前記炭酸ガス吸着剤を通過した大気が前記一端部から導入される再生ホースを備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、肺から吸入マスクを通して排出されてホースを通過した呼気が呼気貯蔵タンクに一時的に貯蔵される。この呼気貯蔵タンクに貯蔵された呼気はホースを経由して吸入マスクに導かれる。吸入マスクに導かれた呼気と、酸素ボンベから排出されてレギュレータを通ってきた酸素とを、吸入マスクから吸入することにより、吸入マスクに導かれた呼気に含まれている酸素の分だけ、酸素ボンベからの酸素を消費せずに済む。従って、この分に相当する酸素の量を節約できることとなり、酸素消費量の少ない高所用酸素吸入装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、酸素が貯蔵された酸素ボンベからレギュレータを経由して吸入マスクによって酸素を吸入する高所用酸素吸入装置に実現された。
【実施例1】
【0018】
図1を参照して、本発明の実施例1を説明する。
【0019】
図1は、実施例1の高所用酸素吸入装置の概略構成を示す斜視図である。図1では、図5に示す構成要素と同じ構成要素には同じ符号が付されている。
【0020】
実施例1の高所用酸素吸入装置20は、酸素が貯蔵された酸素ボンベ12と、この酸素ボンベ12から排出される酸素の量を調整するレギュレータ14と、酸素ボンベ12から排出されてレギュレータ14を通過した酸素を肺に吸入するための吸入マスク16等とからなる。レギュレータ14から吸入マスク16までは、酸素を通すホース18で接続されている(つながれている)。これらの構成の点では、高所用酸素吸入装置20は、従来の高所用酸素吸入装置10(図5参照)と同じである。
【0021】
高所用酸素吸入装置20の特徴は、吸入マスク16を通して排出された呼気(正確には、高所用酸素吸入装置20の使用者の肺から排出された呼気)が一時的に貯蔵される呼気貯蔵タンク22を備えた点にある。この呼気貯蔵タンク22と吸入マスク16とはホース24で接続されている。ホース24の一端部24aは吸入マスク16に接続されており、他端部24bは呼気貯蔵タンク22に接続されている。
【0022】
呼気貯蔵タンク22の容量は、高所用酸素吸入装置20の使用者の肺活量よりも小さい。しかし、肺活量には個人差があるので、呼気貯蔵タンク22の容量としては、吸入マスク16から一回に排出される呼気の量の2分の1以下3分の1以上の容量にしておく。従って、呼気貯蔵タンク22の容量は、通常人の肺活量の2分の1以下3分の1以上の容量にすればよい。また、呼気貯蔵タンク22のうち、ホース24の他端部24bが接続された部分とは異なる部分には、大気に連通した大気連通口22aが形成されている。呼気貯蔵タンク22に貯蔵された呼気がホース24と吸入マスク16を通って使用者に吸い込まれるときに、大気連通口22aからは大気(外気)が呼気貯蔵タンク22に吸引される(導かれる)。
【0023】
高所用酸素吸入装置20の使用に際しては、最初(酸素吸引の一回目)は、酸素ボンベ12からの酸素と大気を吸い込むこととなる。このようにして最初に酸素ボンベ12から使用者の肺に吸い込まれた酸素は排出されて呼気となり、この呼気の大部分が吸入マスク16とホース24を経由して呼気貯蔵タンク22に導かれる。呼気貯蔵タンク22の容量は、上述したように、一回に排出された呼気の量の2分の1以下3分の1以上の容量であるので、余分な呼気は大気連通口22aからの大気に放出される。この結果、呼気貯蔵タンク22は呼気で満たされる。二回目の酸素吸引では、使用者が吸入マスク16から吸引することにより、呼気貯蔵タンク22内の呼気と大気連通口22aからの大気とが呼気貯蔵タンク22内や吸入マスク16内で混合された気体(以下、再生空気という。)が使用者の肺に吸引されると共に、酸素ボンベ12内の酸素も吸引マスク16を通って使用者の肺に吸引される。即ち、酸素ボンベ12からの酸素を再生空気に補充させた気体を使用者は吸うこととなる。
【0024】
酸素吸引の一回目において、酸素ボンベ12からの酸素と大気を吸い込むときの酸素分圧を、平地と同じ200ヘクトパスカル(hPa)になるようにレギュレータ14を調整した場合、呼気の酸素分圧はおよそ160hPaとなる。ところで、気圧が平地の約半分となる標高5500mの高地では、大気の酸素分圧も平地の約半分の100hPaしかないので、呼気の酸素濃度(160hPaの酸素分圧)のほうがはるかに高い。従って、新しい空気(全てが外気)に酸素ボンベ12からの酸素を補充して酸素分圧を平地並みにするためには、酸素分圧の追加分は200−100=100hPaとなる。しかし、新しい空気と呼気を例えば同量だけ混合したもの(上記した再生空気の一例)に酸素ボンベ12からの酸素を補充して酸素分圧を平地並みにするためには、200−(160+100)/2=70hPaの酸素分圧に相当する酸素を酸素ボンベ12から補充すればよい。即ち、酸素ボンベ12から補充する酸素の量(補充酸素量)を約30%節約できることとなり、酸素消費量の少ない高所用酸素吸入装置20を得ることができる。大気の酸素分圧がさらに低くなる5500mを超える高所ではこの効果がさらに大きくなることは明らかである。
【0025】
なお、呼気貯蔵タンク22の容量は、上述したように、高所用酸素吸入装置20の使用者の肺活量の1/2以下が望ましい。酸素補充量を少なくするために(節約するために)、呼気貯蔵タンク22の容量を大きくして呼気の回収量を増加させた場合、呼気混合気中の炭酸ガスの濃度が40hPaを超えることがあるので、炭酸ガスナルコーシス等の危険が増える。但し、呼気貯蔵タンク22の容量を小さくし過ぎた(3分の1未満)ときは上記の効果がなくなるので、呼気貯蔵タンク22の容量は、通常人の肺活量の2分の1以下3分の1以上の容量にすればよい。
【実施例2】
【0026】
図2を参照して、本発明の実施例2を説明する。
【0027】
図2は、実施例2の高所用酸素吸入装置の概略構成を示す斜視図である。図2では、図1に示す構成要素と同じ構成要素には同じ符号が付されている。
【0028】
実施例2の高所用酸素吸入装置30は、酸素が貯蔵された酸素ボンベ12、この酸素ボンベ12から排出される酸素の量を調整するレギュレータ14、酸素ボンベ12から排出されてレギュレータ14を通過した酸素を肺に吸入するための吸入マスク16、呼気が一時的に貯蔵される呼気貯蔵タンク22、及びホース24を備えている。これらの構成の点では、実施例2の高所用酸素吸入装置30は、実施例1の高所用酸素吸入装置20(図1参照)と同じである。
【0029】
高所用酸素吸入装置30の特徴は、炭酸ガスを吸着する炭酸ガス吸着剤32を備えた点にある。炭酸ガス吸着剤32は容器に収容されている。この容器はホース24の途中部分(図2では、ホース24の他端部24bの近傍部分)に取り付けられており、ホース24を通る気体は炭酸ガス吸着剤32を通過して、この気体に含まれる炭酸ガス(少なくとも一部)が除去される。
【0030】
このように炭酸ガス吸着剤32を備えることにより、呼気貯蔵タンク22内の回収呼気の炭酸ガス分圧を炭酸ガス吸着前の呼気より低くできるので、実施例1よりも多くの呼気を回収しても、呼気混合気中の炭酸ガスの濃度が40hPaを超えることがない。すなわち、呼気貯蔵タンク22の容量を肺活量の2分の1以上とすることができる。
【0031】
また、ホース24のうち、炭酸ガス吸着剤32が収容された容器とホース24の一端部分24aとの間の部分(分岐点)24cではホース24が分岐しており、分岐点24cと呼気貯蔵タンク22とは分岐ホース34で接続されている。この分岐点24cには弁(図示せず)が配置されている。この弁は、吸入マスク16から呼気貯蔵タンク22へ向けて気体が流れるときは、炭酸ガス吸着剤32を通って気体が流れる(気体が分岐ホース34を流れない)ように開閉し、一方、呼気貯蔵タンク22から吸入マスク16へ向けて気体が流れるときは、分岐ホース34を通って気体が流れる(気体が炭酸ガス吸着剤32を流れない)ように開閉する。この理由は、吸入マスク16から呼気貯蔵タンク22へ向けて気体が流れるときは、炭酸ガス吸着剤32が炭酸ガスを吸着し、この逆に、呼気貯蔵タンク22から炭酸ガス吸着剤32を経由して吸入マスク16へ気体が流れてしまうと、炭酸ガス吸着剤32が炭酸ガスを放出するからである。このように炭酸ガス吸着剤32を取り付けた場合は、炭酸ガス吸着剤32から炭酸ガスを放出させる動作が適宜に必要となる。
【0032】
炭酸ガス吸着剤32としては、例えばゼオライトが使用される。ゼオライト(zeolite)とは、結晶中に微細孔を持つアルミノ珪酸塩の総称である。日本名は沸石(ふっせき)という。もとは天然に産出する鉱物であり、内部に水が含まれているため加熱すると沸騰しているように見えることから、ギリシャ語のzeo(沸騰する)とlithos(石)を合わせてzeoliteと名付けられた。分子ふるい、イオン交換材、触媒、吸着材として利用されている。現在ではさまざまな性質を持つゼオライトが人工的に合成されており、工業的にも重要な物質となっている。
【0033】
上記の構成によっても酸素消費量の少ない高所用酸素吸入装置30を得ることができる。
【実施例3】
【0034】
図3と図4を参照して、本発明の実施例3を説明する。
【0035】
図3は、実施例3の高所用酸素吸入装置の概略構成を示す斜視図である。図4は、図3の高所用酸素吸入装置の一部の内部構成を示す模式図であり、(a)は、呼気貯蔵タンク内の呼気を吸引している状態を示し、(b)は、呼気貯蔵タンク内に呼気を排出している状態を示す。これらの図では、図2に示す構成要素と同じ構成要素には同じ符号が付されている。
【0036】
実施例3の高所用酸素吸入装置40の特徴は、呼吸を一回するごとに、炭酸ガス吸着剤に吸着されている炭酸ガスを放出させるように構成して、手間をかけなくても炭酸ガス吸着剤を長期間にわたって利用できるようにした点にある。高所用酸素吸入装置40は、酸素が貯蔵された酸素ボンベ12、この酸素ボンベ12から排出される酸素の量を調整するレギュレータ14、酸素ボンベ12から排出されてレギュレータ14を通過した酸素を肺に吸入するための吸入マスク16、呼気が一時的に貯蔵される呼気貯蔵タンク60、及びホース42を備えている。これらの構成の点では、実施例2の高所用酸素吸入装置30は、実施例1の高所用酸素吸入装置20(図1参照)と同じであるが、ホース42と呼気貯蔵タンク60との接続系統や呼気貯蔵タンク60の構造などは、実施例2のホース24や呼気貯蔵タンク22とは相違する。これらの相違点について説明する。
【0037】
呼気貯蔵タンク60には、肺から吸入マスク16を通して排出されてホース42及び炭酸ガス吸着剤32通過した呼気が一時的に貯蔵される第1の部屋61、並びに、炭酸ガス吸着剤32を通過した大気が一時的に貯蔵される第2の部屋62が形成されている。第1の部屋61と第2の部屋62とは仕切壁64で仕切られており、この仕切壁64は気体を通過させない。仕切壁64は、第1の部屋61と第2の部屋62との圧力差に応じて、図4に示すように移動する。第1の部屋61の圧力が第2の部屋62の圧力よりも高くなるときは、第1の部屋61の容積(容量)が第2の部屋62の容積よりも大きくなるように仕切壁64が移動し(図4(b)の状態)、この逆に、第2の部屋62の圧力が第1の部屋61の圧力よりも高くなるときは、第2の部屋62の容積が第1の部屋61の容積よりも大きくなるように仕切壁64が移動する(図4(a)の状態)。
【0038】
ホース42の一端部42aは吸入マスク16に接続されており、他端部42bは第1の部屋61に接続されている。ホース42の他端部42bよりも少しだけ一端部42aの側の部分には炭酸ガス吸着剤32が取り付けられている。ホース42は、炭酸ガス吸着剤32を再生させる(炭酸ガス吸着剤32が吸着している炭酸ガスを放出させて長期間にわたって炭酸ガス吸着剤32を使用できるようにする)ために幾つかの箇所で分岐されている。この点について説明する。ホース42のうち、炭酸ガス吸着剤32よりも一端部42aの側の部分は分岐しており、この分岐点44aと第1の部屋61とはバイパスホース44で接続されている。第1の部屋61とバイパスホース44の接続部分には一方向弁70が取り付けられている。この一方向弁70は、第1の部屋61から分岐点44aに向かって気体が流れるときには開き、この逆に、分岐点44aから第1の部屋61に向かって気体が流れようとするときには閉じる。従って、高所用酸素吸入装置40の使用者が排出した呼気は、吸入マスク16からバイパスホース44を通らずに、炭酸ガス吸着剤32を通って第1の部屋61に導入される。この逆に、第1の部屋61に貯蔵されている呼気を再利用して吸引するときは、この呼気は炭酸ガス吸着剤32を通らずにバイパスホース44を通って吸入マスク16に到達する。
【0039】
また、ホース42のうち、分岐点44aと炭酸ガス吸着剤32との間の部分も分岐している。この分岐点46aと第2の部屋62は再生ホース46で接続されている。分岐点46aには一方向弁72が取り付けられている。この一方向弁72は、分岐点44aから再生ホース46に向かって気体が流れようとするときにはこの流れを阻止するように閉じる。このため、分岐点44aから分岐点46aを経由して再生ホース46に向かって気体が流れることはなく、分岐点44aから再生ホース46に向かおうとする気体は、炭酸ガス吸着剤32を経由して第1の部屋61に導かれる。一方、第1の部屋61からバイパスホース44を経由して分岐点44aへ向けて気体が流れようとするときには、外気を再生ホース46に導くように一方向弁72が作動する。即ち、炭酸ガス吸着剤32を通って分岐点46aへ向かう気体は、分岐点44aには導かれずに再生ホース46に導かれる。
【0040】
ホース42のうち他端部42bと炭酸ガス吸着剤32との間の部分には、リリーフバルブ74が取り付けられている。即ち、第1の部屋61と炭酸ガス吸着剤32との間にはリリーフバルブ74が配置されている。このリリーフバルブ74は、ホース42のうち2つの分岐点44a,46aの間の部分の圧力が、第1の部屋61の圧力よりも高いとき(上流側の圧力が高いとき)に開いて、この逆のときは閉じるように構成されている。このような圧力は圧力伝達部材74aによってリリーフバルブ74に伝達され、これに基づいてリリーフバルブ74が作動する。
【0041】
炭酸ガス吸着剤32が収容された容器と大気(外気)との境界には、一方向弁76が取り付けられている。容器の外部の空気が炭酸ガス吸着剤32に導かれるときには一方向弁76は開く。また、分岐点46aから炭酸ガス吸着剤32を通って第1の部屋61に気体が流れるときは一方向弁76は閉じる。
【0042】
呼気貯蔵タンク22のうち第1の部屋61と外気との境界部分には、絞り弁78が取り付けられている。絞り弁78は非常に細い筒状のものである。呼気が第1の部屋61に導入されるときに、呼気の容量のうち第1の部屋61の容量を超える分は絞り弁78を通って外気に排出される。また、第1の部屋61に貯蔵された呼気がバイパスホース44を通って吸引されるときには、絞り弁78を通って僅かな外気が第1の部屋61に導入される。
【0043】
呼気貯蔵タンク22のうち第2の部屋62と外気との境界部分には、一方向弁80が取り付けられている。第1の部屋61からバイパスホース44を通って呼気が吸引されるとき(一方向弁76が開いて容器の外部の空気が炭酸ガス吸着剤32に導かれるとき)には、一方向弁80は閉じている。一方、分岐点44aと炭酸ガス吸着剤32を通って呼気が第1の部屋61に導かれるとき(一方向弁76が閉じているとき)には、一方向弁80は開いている。
【0044】
高所用酸素吸入装置40の使用に際しては、最初(酸素吸引の一回目)は、酸素ボンベ12からの酸素と大気を吸い込むこととなる。このようにして最初に酸素ボンベ12から使用者の肺に吸い込まれた酸素は排出されて呼気となり、この呼気の大部分が吸入マスク16と炭酸ガス吸着剤32を経由して呼気貯蔵タンク60の第1の部屋61に導かれる。この場合、呼気中の炭酸ガスが炭酸ガス吸着剤32に吸着される(全てではないが)ので、第1の部屋61に導かれた呼気の炭酸ガスの分圧は下がる。炭酸ガス吸着剤32としてゼオライトを用いた場合、炭酸ガスの分圧が80hPaの呼気から半分の炭酸ガスを吸着するときは、呼気(肺活量)が4リットルとすると、炭酸ガス吸着量は約0.3g程度であり、1回の呼吸分の炭酸ガス吸着には10g程度のゼオライトで十分である。
【0045】
第1の部屋61の容量は、一回に排出された呼気の量以下であってこの量の2分の1以上の容量であるので、余分な呼気は絞り弁78からの大気に放出される。この結果、第1の部屋61は呼気で満たされる。二回目の酸素吸引では、使用者が吸入マスク16から吸引することにより、第1の部屋61内の呼気が使用者の肺に吸引されると共に、酸素ボンベ12内の酸素も吸引マスク16を通って使用者の肺に吸引される。即ち、酸素ボンベ12からの酸素を呼気に補充させた気体を使用者は吸うこととなる。
【0046】
上記のように、第1の部屋61の呼気に酸素ボンベ12からの酸素を補充させた気体を使用者は吸う場合、第1の部屋61の容積は小さくなって圧力が低下し、仕切壁64が、図4(b)の状態から(a)の状態になるように移動する。このため第2の部屋62の容積が大きくなり、これに伴い、リリーフバルブ74が閉じて一方向弁76が開くので、外気が一方向弁76を通って炭酸ガス吸着剤32に導入される。これにより、炭酸ガス吸着剤32が吸着している炭酸ガスは除去されて再生ホース46を通って第2の部屋62に導かれる。
【0047】
これに続いて、呼気が炭酸ガス吸着剤32を通って第1の部屋61に導かれる。この後は、上記と同様の動作が繰り返されるので、炭酸ガス吸着剤32は再生されながら使用されることとなり、その交換などは不要となる。また、炭酸ガス吸着剤32を使用することにより、呼気における炭酸ガスの濃度を減少できるので、より多くの呼気を再利用できる。例えば、呼気混合気中に含まれる炭酸ガスの量の半分を炭酸ガス吸着剤32で吸着することにより、呼気を80%再利用しても、呼気の炭酸ガスの濃度は30hPaを超えることはなく、炭酸ガスによる人体の悪影響はない。この場合、気圧が平地の約半分となる標高5500mの高地では、呼気と大気との混合気の酸素分圧は160×0.8+100×0.2=148hPaまで増えるので、酸素補充量は200−148=52hPaとなり、従来の高所用酸素吸入装置のおよそ半分で済む。
【0048】
以上説明したように、本発明の高所用酸素吸入装置20、30、40では、簡単軽量な呼気貯蔵タンク22、60の追加等で、高所における酸素吸入装置の酸素消費量を節減できるので、高所登山等に必要な装備を大幅に軽減できるとともに、酸素不足に伴う高山病等の危険を大幅に減少できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】実施例1の高所用酸素吸入装置の概略構成を示す斜視図である。
【図2】実施例2の高所用酸素吸入装置の概略構成を示す斜視図である。
【図3】実施例3の高所用酸素吸入装置の概略構成を示す斜視図である。
【図4】図3の高所用酸素吸入装置の一部の内部構成を示す模式図であり、(a)は、呼気貯蔵タンク内の呼気を吸引している状態を示し、(b)は、呼気貯蔵タンク内に呼気を排出している状態を示す。
【図5】従来の高所用酸素吸入装置の概略構成を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0050】
12 酸素ボンベ
14 レギュレータ
16 吸入マスク
20,30,40 高所用酸素吸入装置
22,60 呼気貯蔵タンク
32 炭酸ガス吸着剤
44 バイパスホース
46 再生ホース
61 第1の部屋
62 第2の部屋
64 仕切壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素が貯蔵された酸素ボンベと、該酸素ボンベから排出される酸素の量を調整するレギュレータと、前記酸素ボンベから排出されて該レギュレータを通過した酸素を吸入するための吸入マスクとを備えた高所用酸素吸入装置において、
前記吸入マスクにその一端部が接続されたホースと、
前記吸入マスクから排出されて前記ホースを通過した呼気が一時的に貯蔵される、前記ホースの他端部が接続された呼気貯蔵タンクとを備えたことを特徴とする高所用酸素吸入装置。
【請求項2】
前記呼気貯蔵タンクは、前記吸入マスクを通して一回に排出された呼気の量の2分の1以下3分の1以上の容量をもつことを特徴とする請求項1に記載の高所用酸素吸入装置。
【請求項3】
前記呼気貯蔵タンクは、前記ホースの前記他端部が接続された部分とは異なる部分に、大気に連通した大気連通口が形成されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の高所用酸素吸入装置。
【請求項4】
前記ホースの途中部分に取り付けられた、炭酸ガスを吸着する炭酸ガス吸着剤を備え、
前記呼気貯蔵タンクは、前記吸入マスクを通して一回に排出された呼気の量以下であって該呼気の量の2分の1以上の容量をもつことを特徴とする請求項1又は3に記載の高所用酸素吸入装置。
【請求項5】
酸素が貯蔵された酸素ボンベと、該酸素ボンベから排出される酸素の量を調整するレギュレータと、前記酸素ボンベから排出されて該レギュレータを通過した酸素を吸入するための吸入マスクとを備えた高所用酸素吸入装置において、
前記吸入マスクにその一端部が接続されたホースと、
該ホースの他端部に接続された、炭酸ガスを吸着する炭酸ガス吸着剤と、
前記吸入マスクを通して排出されて前記ホース及び前記炭酸ガス吸着剤を通過した呼気が一時的に貯蔵される第1の部屋、並びに、前記炭酸ガス吸着剤を通過した大気が一時的に貯蔵される第2の部屋が形成された呼気貯蔵タンクとを備えたことを特徴とする高所用酸素吸入装置。
【請求項6】
前記第1の部屋と前記第2の部屋とを仕切る、圧力の差に応じて移動する仕切壁を備えたことを特徴とする請求項5に記載の高所用酸素吸入装置。
【請求項7】
前記第1の部屋に一時的に貯蔵された呼気を、前記炭酸ガス吸着剤を通過させずに前記マスクに到達させるバイパスホースを備えたことを特徴とする請求項5又は6に記載の高所用酸素吸入装置。
【請求項8】
その一端部が前記炭酸ガス吸着剤に接続されると共にその他端部が前記第2の部屋に接続されると共に、前記炭酸ガス吸着剤を通過した大気が前記一端部から導入される再生ホースを備えたことを特徴とする請求項5、6、又は7に記載の高所用酸素吸入装置。
【請求項9】
炭酸ガスを吸着する炭酸ガス吸着剤と、
前記炭酸ガス吸着剤を通過することにより含有成分中の炭酸ガスが吸着された気体が一時的に貯蔵される第1の部屋、並びに、前記炭酸ガス吸着剤を通過することにより含有成分中の炭酸ガスが増量した気体が一時的に貯蔵される第2の部屋が形成された呼気貯蔵タンクと、
前記第1の部屋と前記第2の部屋とを仕切る、圧力の差に応じて移動する仕切壁と、
前記第1の部屋に一時的に貯蔵された気体を、前記炭酸ガス吸着剤を通過させずに排出させるバイパスホースと、
その一端部が前記炭酸ガス吸着剤に接続されると共にその他端部が前記第2の部屋に接続されると共に、前記炭酸ガス吸着剤を通過した大気が前記一端部から導入される再生ホースを備えたことを特徴とする炭酸ガス吸着剤再生機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−34442(P2009−34442A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−203397(P2007−203397)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(390001579)プレス工業株式会社 (173)
【Fターム(参考)】