説明

高栄養価物

【課題】栄養価が高く、重金属及び残留農薬を吸着可能な肥料・飼料・食品を含む高栄養価物を提供する。
【解決手段】食品残渣スラッジから処理対象の水を分離するステップ(ステップS1)と、前記処理対象の水に対して好気性の細菌を投入して曝気するステップ(ステップS2)と、前記曝気後の水から高栄養価物の原水を抽出するステップ(ステップS4)と、前記原水を濃縮するステップ(ステップS5)と、濃縮後の原水に対して重金属吸着物質を混合するステップ(ステップS6)と、今後の原水を攪拌するステップ(ステップS7)とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高栄養価物に関し、特に、肥料、飼料、食品を含む高栄養価物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、点滴灌水により肥料水溶液を培土に供給する植物栽培において、植物の養水分吸収力を高めて、肥料や水分の供給を効率的に行うことを目的とした技術が、特許文献1に開示されている。
【0003】
具体的には、特許文献1には、植物が定植された培土に連続的あるいは断続的に肥料水溶液を供給する栽培法において、植物の定植前及び/又は栽培中に発根促進物質を施用する。発根促進物質は、水溶液または粉体の状態にて定植前の培土または栽培中の培土に施用してもよく、また、定植前の前記植物の根鉢に施用してもよい。発根促進物質としては含硫アミノ酸、オーキシン類、鉄イオンが挙げられる、と開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−009666公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、人間が、野菜などの作物に付着したり土壌に残留したりしている農薬を直接摂取する、或いは、このような作物が飼料とされる家畜を通じて間接摂取することによって、健康被害が生じる場合があることが懸念されている。
【0006】
さらに、作物を育てる土壌内に重金属が含まれていれば、作物自体に重金属が取り込まれ、それを食べた人間が、結果的に、その重金属を摂取することによって、健康被害が生じる場合があることも懸念されている。
【0007】
また、そもそも、土壌内に重金属が含まれていれば、そこでは作物が発育しにくいので、生花などの成長促進は限定的となる。
【0008】
一方、高い栄養価を有しているものであれば、栄養補助食品として人間が直接摂取することもできる。
【0009】
そこで、本発明は、栄養価が高く、重金属及び残留農薬を吸着可能な肥料・飼料・食品を含む高栄養価物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の高栄養価物は、遊離有機酸と重金属吸着物質とを含み、かつ、炭素の含有率と窒素の含有率との比が8以下である。
【0011】
なお、高栄養価物は、ミネラルを含むとよい。
【0012】
また、本発明の高栄養価物の製造方法は、有機酸と重金属吸着物質と微生物とを混合するステップと、その混合物を発酵させるステップとを含む。
【0013】
すなわち、本発明は、遊離アミノ酸などの遊離有機酸と、鉄イオンなどの重金属吸着物質との混合物からなる高栄養価物は、重金属や残留農薬を吸着し、且つ、作物等の栄養状態を促進させる。
【0014】
なお、一例として、遊離有機酸を得るために、あさり、ハマグリ等の貝類を原料とする食品加工工場などで生じるスラッジを用いることが考えられる。これらのスラッジには、粗繊維たんぱく質、遊離アミノ酸、窒素、燐酸などの有機物含量が20〜50%と豊富に含まれていて栄養価が高い。また、スラッジには、ミネラルなども含まれているので、微生物及び酵素の活性化に寄与する。
【0015】
この種のスラッジに対して、2価或いは3価の鉄イオン(キレート水和鉄イオン)、又は、遊離チタンなどの添加物を混合させる。この種の添加物は、残留農薬(有機燐酸系物質)の吸着機能を有するという利点と、作物等の成長を促すという利点とがある。或いは、上記スラッジに対して、微生物を混合して、発酵させることによって遊離有機酸を製造してもよい。
【0016】
このような肥料を土壌に撒けば、仮に、土壌内に残留農薬があっても、当該肥料に含まれる鉄イオン等がこれを吸着する。このため、土壌内の残留農薬削減に寄与する。これは、作物等の成長に有益な微生物の成長の阻害要因、及び、作物等自体の成長の阻害要因をなくすことになる。
【0017】
また、上記添加物は、第一に、たんぱく質との複合体を形成することができ、第二に、作物等に含まれるビタミン及び酵素を吸着することによって作物等との間の酸化還元反応を活発化させることができる。
【0018】
また、遊離有機酸と添加物との混合物に対して、選択的に、米ぬかなどの微生物を混合させてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、例えば、土壌に高栄養価物を施肥した場合には、土壌等に含まれる重金属又は農薬を吸着し、かつ、作物の成長を促進させることができる。また、人間が高栄養価物を摂取した場合には、栄養補給をでき、かつ、体内に蓄積された重金属を吸着して外部に排出することができる。
【発明の実施の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0021】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る高栄養価物の製造工程を示すフローチャートである。
【0022】
分離処理:ステップS1
まず、食品加工工場などから排出される食品残渣スラッジを、調整槽に搬送する。調整槽では、スラッジを、食品屑等と処理対象水とに分離する。食品屑等は、高栄養価物の製造に用いないので廃棄等する。なお、処理対象水内に食品屑が残っていると、各槽をつなぐパイプが詰まる可能性があるので、高精度に分離することが望ましい。
【0023】
この分離処理は、具体的には、上記スラッジを、0.5cm〜1cm程度の目のステンレスメッシュに通すことで、食品屑と処理対象水との分離を行っている。なお、処理対象水中には、食品屑から抽出された遊離アミノ酸等の遊離有機酸が含まれる。
【0024】
曝気処理:ステップS2
つぎに、ステップS1で得られた処理対象水を、曝気槽に搬送する。曝気処理を初めて行う場合には、処理対象水に対して、エアロバクター、アクロモバクター等の好気性の細菌(微生物)を投入する。なお、微生物は、曝気処理を続ける限り、遊離有機酸を栄養素として繁殖していくので、原則的には再投入する必要はない。
【0025】
曝気槽には、微生物が繁殖するために必要な酸素を供給する。微生物は、栄養素である遊離有機物を、有機物とたんぱく質とに分解する。曝気処理を行う時間は、処理対象水の処理量が20トン以下の場合には、約23時間程度となる。もっとも、曝気処理をこれ以上の割合で行っても、製造スループットの低下が生じるももの、処理対象水に対する悪影響は及ばないので、処理対象水の処理量が上記例に対して著しく少なくても、処理時間を少なくする必要はない。
【0026】
第2曝気処理:ステップS3
つづいて、必要に応じて、処理対象水を、処理槽に搬送する。第2曝気処理が必要な条件とは、処理対象水の処理量が、例えば、20トンを越える場合のように、相対的に多い場合である。処理槽では、曝気槽での曝気処理と同様に、処理槽内で、処理対象水を微生物に接触させ、かつ、曝気することによって、遊離有機物を、アミノ酸等とたんぱく質とに分解するという曝気処理を行う。第2曝気処理の処理条件は、ステップS2に示した場合と同じでよい。
【0027】
沈殿処理:ステップS4
その後、処理対象水を、沈殿槽に搬送する。沈殿槽内で、1日〜2日程度、処理対象水を静止状態で放置することによって沈殿処理を行う。沈殿処理の結果、比重の関係で処理対象水が分離する。具体的には、上部に上澄み水と称される水が位置し、下部に高栄養価物の原水と称される水が位置することになる。上澄み水は、本実施形態においては、高栄養価物の製造に用いないので、殺菌処理後に排水される。
【0028】
濃縮処理:ステップS5
つぎに、原水を、凝集沈殿槽に搬送する。凝集沈殿槽では、原水を、水分率が約60%の状態となるまで濃縮することによって、ゾルにするといった濃縮処理を行う。濃縮方法は、濾布処理、加熱処理、凝固剤添加処理など、適宜選択すればよい。なお、濃縮処理の結果生じた水は、殺菌処理後に排水される。本実施形態では、この水と沈殿槽の上澄み水とは、一緒に殺菌してから排水している。
【0029】
混合処理:ステップS6
つづいて、ゾルに対して、鉄イオン・銀イオン・チタンイオン等の中から適宜選択した重金属吸着物質を担持する硫黄錯体を、動噴散布等することによって混合する。この場合、ゾルと硫黄錯体との混合割合は、例えば、ゾル1トンに対して、硫黄錯体を50〜100リットルとするとよい。こうすると、この混合物の水分率は、約60〜70%となり、ゾルが発酵しやすい環境下となる。
【0030】
なお、選択的に、例えば米ぬかをゾルに混合してゾル内の微生物を増加させてもよく、更には、イオン化ミネラルを混合することも可能である。この場合、当該混合物の混合割合は、例えば、ゾル1トンと硫黄錯体50〜100リットルとの混合物に対して、合計100kg程度混合すればよい。また、イオン化ミネラルは、花崗岩又は玄武岩を母材とした堆積岩から、無機酸によって抽出したものが好ましい。これらは、表面積が広く、凝集力が高いからである。
【0031】
実際には、本実施形態では、イオン化ミネラルとして、キレート結合した水和鉄イオン(2価の鉄イオン、3価の鉄イオン)と、硫酸銀(硫酸イオン)又は硫酸根と、沈積した鉄水和酸化物(非結晶物質)とを混合対象としている。
【0032】
また、選択的に、剪定チップをゾルに混合してもよい。こうすると、ゾルと剪定チップとの間に酸素が回りこむ機会を設けることが可能となり、一層、微生物の好気発酵に寄与するからである。
【0033】
攪拌処理:ステップS7
つぎに、既述の混合物を混合したゾルを攪拌する。本実施形態では、ゾルを、数回、攪拌することによって、ゾル内の微生物の好気発酵を促している。一回目の攪拌は、一例として、ゾルに対して微生物を混合してから約3日後に行う。この目安は、既述の混合物によりゾル内の微生物が活性化することによって上昇するゾルの温度が、表面から約50cm程度内側で65℃〜70℃程度に到達したころとすればよい。
【0034】
なお、ゾルは、水分率が65%程度を下回らないように、既述の混合物等を適宜追加して混合するとよい。また、一回目の攪拌を行ってから数日後には、ゾルに、糸状菌である白いカビコウジの発生を確認できる。
【0035】
その後、一回目の攪拌を行ってから例えば7日〜10日後に、二回目の攪拌を行う。以後、例えば7日〜10日毎に、例えば合計6回の攪拌を行う。これにより、ゾル内の微生物は、十分な好気発酵がなされる。
【0036】
ここで、上記攪拌時以外では、ゾルを静止状態で放置しておくことが好ましい。これは、ゾル内の微生物の中には、乳酸菌又は納豆菌などように、嫌気性微生物も存在するので、これらの微生物の嫌気発酵を促すためである。
【0037】
以上の工程を経て作成された物を乾燥機等を用いて乾燥させると、作物の肥料にも、人間の栄養補助食品にも用いることができる高栄養価物が製造される。
【0038】
表1は、図1に示した工程を経て製造した高栄養価物の分析・試験結果を示す表である。なお、当該分析等は、財団法人日本肥糧検定協会に委託して行った。
【0039】
表2は、表1に示す高栄養価物を乾燥処理した後の分析結果を示す表である。当該分析等は、川合肥料株式会社に委託して行った。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
1.本実施形態の高栄養価物(乾燥後)は、肥料の三大要素といわれている、窒素、燐酸、加里が、高栄養価物の全量に対して、それぞれ、約5.8%、3.1%、0.8%含まれている。したがって、本実施形態の高栄養価物は、作物の成長に寄与することができる。なお、燐酸、加里の含有量は必ずしも高いとはいえないが、遊離アミノ酸の含有量が、これを保管するには十分すぎるくらい多いので、作物の成長上の問題はない。事実、後述するように、ガーベラ、たまねぎの成長結果、アミノ酸の含有量を参照すれば、この点は理解されよう。
【0043】
2.本実施形態の高栄養価物は、「C/N比」が5.1とされている。一方、一般的な肥料は、C/N比が10前後である。一般的な肥料は、水分量が相対的に多いため、濃縮しにくいし、脱水効率が低く、腐敗、変質しやすい。既述の製造工程を経て製造された高栄養価物を数10サンプルを対象に炭素と窒素との比率を測定したところ、全て8以下であり、平均的には6前半、もっともよいものでは5以下であった。
【0044】
本実施形態では、高栄養価物のC/N比を約5にまで低下させることができたのは、原料の選定と曝気処理の工夫とにある。原料は、食品加工工場などで生じるスラッジとし、重金属類が含まれていないものを選定した。曝気処理は、微生物を用いて、上記原料に含まれる遊離有機物を有機物とたんぱく質とに分解させるという工夫をした。
【0045】
3.本実施形態の高栄養価物は、銅、亜鉛などのミネラルが豊富に含まれている。銅は、新芽が花や実の付く成熟した株になるために必要な成分であり、亜鉛は、作物の成長速度を高め、鉄及びマンガンは、光合成に必要となる成分である。もっとも、本実施形態では、鉄イオンを混合しているので鉄の含有量が多く、したがって重金属吸着効果が優れているといえる。
【0046】
4.本実施形態の高栄養価物は、各種遊離アミノ酸が豊富に含まれている。イソノイシンは、作物のうま味を向上させる効果、及び、成熟促進効果がある。ロイシンは、作物の旨味を弱い苦味を持った強いものとする効果、及び、着色効果がある。リジンは、作物のうま味を向上させる効果がある。フェニルアラニンは、作物のうま味を柔らかい苦味をもったものとする効果、及び、作物の成長促進効果がある。バリンは、作物の甘み・うま味を向上させる効果、及び、根の成長促進効果がある。アラニンは、作物の甘み、うま味を向上させる効果がある。アスパラギン酸は、作物の酸味とうま味を向上させる効果がある。グルタミン酸は、作物の実と根の成育促進効果、及び、作物の抗菌性、耐寒力を強める効果がある。グリシンは、作物の甘み、うま味を向上させる効果、及び、作物の耐霜・耐寒力を高める効果がある。
【0047】
つぎに、表1に示す成分の高栄養価物を土壌に散布したときに、高栄養価物が肥料としてどのように機能するかという点を説明する。
【0048】
作物は、一般的には、塩分の多い環境下では成長が極めて困難である。したがって、作物をきちんと成長させるためには、土壌中の塩分濃度が高まれば、それを低下させることによって塩害を防止する必要が生じる。数式1は、土壌中の塩分濃度を低下させるメカニズムを説明する式である。
【0049】
2NaCl+SO2−→NaSO+2Cl・・・(1)
ここでは、塩分である「NaCl」に対して、「SO2−」を加えると、塩分が「NaSO」と「Cl」とに分解されることを示している。
【0050】
本実施形態の高栄養価物は、鉄硫黄錯体等が混合されていて、鉄硫黄錯体等には「SO2−」が含まれている。したがって、本実施形態の高栄養価物を、「NaCl」が含まれている土壌に対して撒くと、数式1に示す化学反応が生じ、その結果、「NaCl」が分解され、土壌中の塩分濃度を低下する。
【0051】
また、連鎖による塩害として、土壌内に余剰の「KCl」が生じることもある。「KCl」自体は、肥料の主成分の一つであるので、作物の成長には必要なものであるが、余剰の「KCl」は、反対に食物の成長を妨げることになる。数式2は、土壌内の余剰の「KCl」を排除するメカニズムを説明する式である。
【0052】
Fe2++2KCl→FeCl+2K・・・(2)
【0053】
ここでは、余剰の「KCl」に対して、「Fe2+」を加えることによって、「KCl」を「FeCl」と「K」とに分解する例を示している。
【0054】
本実施形態の高栄養価物は、鉄硫黄錯体等が混合されていて、鉄硫黄錯体等には「Fe2+」が含まれている。したがって、本実施形態の高栄養価物を、「KCl」が含まれている土壌に対して撒くと、数式2に示す化学反応が生じ、その結果、「KCl」が分解され、土壌中の余剰の「KCl」を低下する。なお、「K」は、鉄硫黄錯体等に含まれる「SO2−」と結合することで吸着されることになる。
【0055】
また、作物は、一般的には、土壌が団粒構造を形成できていないと、成長が極めて困難である。団粒構造は、土壌が窒素又は燐酸の余剰により引き起こされる。窒素等も、2価或いは3価の鉄イオン等との結合及び吸着が行われるので、本実施形態の高栄養価物を撒くことによって、土壌の団粒構造が実現される。
【0056】
さらに、土壌は、酸素不足になると、還元反応が生じて、硫化水素が生成される場合がある。団粒構造が破壊されている土壌は、酸素不足に陥りやすいので、硫化水素がすでに生成されている場合もある。本実施形態の高栄養価物は、このような土壌に対して撒いた場合にも効果的である。数式3は、土壌内の硫化水素を低下させるメカニズムを説明する式である。
【0057】
S→2H+S+2e・・・(3)
【0058】
本実施形態の高栄養価物は、鉄硫黄錯体等が混合されていて、鉄硫黄錯体等には鉄たんぱく質等が含まれている。鉄たんぱく質等は、配意環境によって異なる酸化還元電位を有していて、固有の反応を触媒する。このため、数式3に示す化学反応が起き、土壌内の硫化水素は低下する。
【0059】
この化学反応で生じた「H」及び「e」は、数式4、数式5に示す化学反応をもたらす。
【0060】
SO+2H+2e→SO+2HO・・・(4)
SO+4H+4e→S+2HO・・・(5)
【0061】
ここで、数式4は、鉄硫黄錯体に含まれている硫酸と、数式3に示す化学反応で生じた「H」及び「e」との反応を示す。数式5は、鉄硫黄錯体に含まれている硫酸イオンと、数式3に示す化学反応で生じた「H」及び「e」との反応を示す。なお、数式3及び数式5に示す反応で生じた「S」自体は、鉄硫黄錯体に担持されることになり、作物に悪影響を及ぼさなくなる。
【0062】
このように、本実施形態の高栄養価物は、すでに土壌中に硫化水素が生成されていた場合には、これを低下させることが可能となる。
【0063】
また、本実施形態の高栄養価物は、土壌の酸素不足自体を解消することも可能である。土壌の酸素不足が解消されれば、それ以後に硫化水素が生成させることの抑制に繋がる。数式6は、土壌の酸素不足自体を解消するメカニズムを説明する式である。
【0064】
4Fe(OH)+8H→4Fe2++10HO+O・・・(6)
本実施形態の高栄養価物の鉄硫黄錯体に含まれている鉄イオンは、水酸化物とイオン結合することにより、「4Fe(OH)」となる。ここに、嫌気条件下で「8H」が加わると、「Fe2+」と「HO」と「O」が発生するという化学反応、つまり、酸素が発生するという化学反応が生じる。これにより、土壌の酸素不足自体を解消することができる。
【0065】
以上、本実施形態の高栄養価物を土壌に撒いたときに生じる典型的な化学反応をいくつか説明したが、この他にも、本実施形態の高栄養価物は、窒素酸化物と結合してこれを固定したり、鉄硫黄錯体の硫黄によって硫化鉱物として重金属を吸着したりといったことが可能となる。
【0066】
また、鉄イオン等は、負荷の伴わない電子移動が可能になるため、生態細胞間における電子の伝達をスムーズに行うことができる。生態細胞間における電子の伝達は、作物の免疫反応の強化に役立つので、本実施形態の高栄養価物を肥料とした作物は、枯れにくい、病原菌に対して優れた対抗能力を有することになる。
【0067】
表3は、本実施形態の高栄養価物と一般的な肥料とをそれぞれ用いてガーベラを栽培したときの収穫日及び収穫本数を示す表である。ここでは、ガーベラの品種として、ブリトニー、テイム、デンプシーという3つを選択した。なお、高栄養価物及び肥料は、花壇1mあたり元肥で約1kg、追肥で約300g用いた。なお、収穫本数とは、花の直径が6cmほどに到達したガーベラの本数と同義である。
【0068】
【表3】

【0069】
表3に示すように、まず、本実施形態の高栄養価物を用いて栽培したガーベラは、品種にかかわらず、収穫本数の合計が著しく多い。これは、栽培日数あたりの収穫量の増大による。また、見方を変えると、本実施形態の高栄養価物を用いて栽培したガーベラは、成長速度を向上させることができるので、栽培日数の短縮化が実現できていることになる。
【0070】
なお、ブリトニー、テイム、デンプシーの各花の直径平均は、本実施形態の高栄養価物を用いて栽培した場合には、それぞれ、6.85cm、7.4cm、7.61cmであったのに対して、一般的な肥料を用いた場合には、それぞれ、6.28cm、6.8cm、6.78cmであった。これは、本実施形態の高栄養価物を用いて栽培したガーベラは、品種に係わらず、大輪の花となることを意味する。
【0071】
また、このような利点のほかにも、作物自体の成長により、副次的に、作物の耐寒性、耐熱性の強化が認められた。さらには、旺盛な光合成作用の誘導、肥料吸収率の40%以上の向上、農産物の貯蔵性の強化も認められた。このような各利点は、本実施形態の高栄養価物が、豊富な遊離アミノ酸等を含有していることに由来する。
【0072】
表4は、本実施形態の高栄養価物と一般的な肥料とをそれぞれ用いて栽培したたまねぎの成分分析結果を示す表である。
【0073】
【表4】

【0074】
表4に示すように、本実施形態の高栄養価物を用いて栽培したたまねぎと、一般的な肥料を用いて栽培したたまねぎとを対比すると、エネルギー、炭水化物、カリウム、ナトリウムの各量には大差はない。
【0075】
しかし、本実施形態の高栄養価物を用いて栽培したたまねぎは、一般的な肥料を用いて栽培したたまねぎに比して、アミノ酸の含有量が2倍近い。本実施形態の高栄養価物は、アミノ酸が豊富に含まれているため、栄養価が高く、また、うまみ成分が多く含まれていることがわかる。
【0076】
(実施形態2)
つぎに、本発明の実施形態2の高栄養価物について説明する。本実施形態の高栄養価物の製造工程は、実施形態1で説明した高栄養価物の製造工程と略同様であるが、以下の点が相違する。すなわち、
1.実施形態1のステップS4の沈殿処理で生成され、殺菌処理後に排水されていた「上澄み水」を、高栄養価物の前駆体として用いる。
【0077】
2.上記「上澄み水」を、不純物除去をするために、濾過する。当該濾過は、これに限定されるものではないが、目開き30〜100μm程度のメッシュのものを用いるとよい。
【0078】
3.実施形態1のステップS4の混合処理の際に、濾過後の約20リットルの上澄み液に対して、鉄硫黄錯体を約200ミリリットルの割合で混合する。
【0079】
表5は、本実施形態の製造工程を経て製造した高栄養価物の分析・試験結果を示す表である。当該分析等は、川合肥料株式会社に委託して行った。
【0080】
【表5】

【0081】
表5によれば、本実施形態の高栄養価物は、重金属が少ないのみならず、全石灰(T−CaO)が多く含まれていることがわかる。石灰は、植物の細胞膜の生成及び強化に寄与する、有機酸などの有害物質の無害化に寄与する、植物の加里、苦土等の吸収調整に寄与する、植物の葉緑素の生成に寄与する、植物の病害に対する抵抗力強化に寄与するといった利点がある。
【0082】
また、窒素は674.7ppm、すなわち、約0.06%と非常に少なく、炭素は検出限界(0.01ppm)未満であった。したがって、C/N比は6.0未満となることがわかる。さらに、水溶性ホウ素、く溶性ホウ素、亜硝酸性窒素、チタンについても測定してみたところ、これらは、それぞれ、4665ppm、6365ppm、0.1ppm未満、0.05ppmであった。その他の数値については表5を参照されたい。
【0083】
つぎに、本実施形態の高栄養価物を施肥してミニトマト(品種:チカ)を栽培してみた。具体的には、このミニトマトは、2007年8月15日に定植し、2007年12月17日に収穫した。この間に、本実施形態の高栄養価物を水で約100倍に希釈したものを、1反の広さの土地に対して、7日〜10日間隔で、1回あたり約150リットル施肥した。
【0084】
表6は、本実施形態の高栄養価物を水で希釈したものと一般的な肥料とをそれぞれ施肥して栽培したミニトマトの糖度比較結果を示す表である。
【0085】
【表6】

【0086】
表6には、上記ミニトマトの中から無作為に選択した5つのミニトマトの平均糖度を示している。表6に示すように、この平均糖度は7.64%であった。一方、一般的な肥料で施肥して栽培したミニトマトの中から無作為に選択した5つのミニトマトの平均糖度は5.86%であった。
【0087】
この結果からは、本実施形態の高栄養価物を水で希釈したものを施肥して栽培したミニトマトの糖度が、一般的な肥料を施肥して栽培したミニトマトの糖度に比して1.78倍の糖度であることがわかった。
【0088】
また、本実施形態の高栄養価物を水で希釈したものを施肥して栽培したミニトマトを食してみたところ、糖度と酸味とのバランスが良くなったと感じた。さらに、実際に、栽培中のミニトマトを観察したところ、そこに病害虫が殆ど寄りつかないことがわかった。これは、本実施形態の高栄養価物に多く含まれている石灰の働きによって、ミニトマトの免疫力が向上したことに起因すると思われる。
【0089】
また、トマト(品種:ルイ60)を、本実施形態の高栄養価物を水で希釈したものを施肥して栽培してみた。また、比較のために、同種のトマトに対して、一般的な肥料を施肥して栽培してみた。そして、収穫物を相互に比較した。その結果、前者の場合の任意の15個のトマトの重量が約480gであり、後者の場合の任意の15個のトマトの重量が約400gであった。このことから、本実施形態の高栄養価物は、トマトの重量増加に寄与することがわかった。
【0090】
また、栽培中のトマトを比較したところ、本実施形態の高栄養価物を水で希釈したものを施肥した場合には、畝の青枯れが発生せず、また、根の張り具合もよいことがわかった。
【0091】
つぎに、本実施形態の高栄養価物と実施形態1で説明した高栄養価物との双方を施肥してイチゴ(品種:あきひめ)を栽培してみた。まず、2007年9月24日に、実施形態1で説明した高栄養価物を元肥した。
【0092】
それから、元肥をしてから2週間後の2007年10月3日に定植し、2008年1月10日に収穫した。この間に、本実施形態の高栄養価物を水で約100倍に希釈したものを、1反の広さの土地に対して、10日間隔で、1回あたり約150リットル施肥した。
【0093】
表7は、本実施形態の高栄養価物を水で希釈したものと一般的な肥料とをそれぞれ施肥して栽培したイチゴの糖度比較及び比重比較結果を示す表である。
【0094】
【表7】

【0095】
表7には、上記イチゴの中から無作為に選択した5つのイチゴの平均糖度及び平均比重値を示している。表7に示すように、この平均糖度は11.12%であった。一方、一般的な肥料で施肥して栽培したイチゴの中から無作為に選択した5つのイチゴの平均糖度は8.86%であった。
【0096】
この結果からは、本実施形態の高栄養価物を水で希釈したものを施肥したイチゴの糖度が、一般的な肥料で施肥して栽培したイチゴの糖度に比して2.26倍の糖度であることがわかった。
【0097】
また、表7に示すように、上記イチゴの中から無作為に選択した5つのイチゴの平均比重値は25.42gであった。一方、一般的な肥料で施肥して栽培したイチゴの中から無作為に選択した5つのイチゴの平均比重値は23.72gであった。
【0098】
この結果からは、本実施形態の高栄養価物を水で希釈したもので施肥したイチゴの比重が、一般的な肥料で施肥して栽培したイチゴの比重に比して1.7g重いことがわかった。
【0099】
さらに、5つのイチゴの最大重量から最少重量を差し引いた値は、本実施形態の高栄養価物を水で希釈したもので施肥したイチゴの場合には1.8gであり、一般的な肥料で施肥して栽培したイチゴの場合には3.3gであった。これは、本実施形態の高栄養価物によって、均一な重量のイチゴが栽培できることを示している。
【0100】
なお、イチゴは、栽培の後半期(通常、2月〜4月)になると株が老化してくる。このため、イチゴは、生命永続のために、多量の窒素を摂取することになる。イチゴは、窒素を過剰摂取すると、実に苦味が生じることになる。本実施形態の高栄養価物を水で希釈したものを施肥した場合には、この苦味が抑えられ、深い甘みのあるイチゴが収穫できた。
【0101】
さらに、本実施形態の高栄養価物を水で希釈したものを用いて、米の栽培を行なってみた。本実施形態の高栄養価物は、籾蒔き時から定期的(2週間に1回程度)に使用した。その結果、初夏のころの稲の生長は、既存の農法で行なった場合に比して倍近くの丈になり、稲の葉の色も、濃い緑色となった。
【0102】
(実施形態3)
つぎに、本発明の実施形態3の高栄養価物について説明する。本実施形態の高栄養価物は、実施形態1,2で説明した製造工程と同様の製造工程を経てなる高栄養価物を混合して成るものである。
【0103】
具体的には、本実施形態の高栄養価物は、実施形態1で説明した製造工程と同様の製造工程を経てなる高栄養価物と、実施形態2で説明した製造工程と同様の製造工程を経てなる高栄養価物と、竹などの剪定チップ又は米糠とを、たとえば1:1:1という割合で混合し、この混合物を発酵させ、更に、発酵物に実施形態1で説明した高栄養価物を、たとえば1:1という割合で混合することによって製造される。もっとも、上記の混合割合は一例であり、たとえば、10:1〜1:10などの割合とすることもできる。
【0104】
こうして製造された本実施形態の高栄養価物は、保証成分量として、3.5%の窒素全量、2.5%の燐酸全量の存在が認められて、東京都によって肥料取締法第7条の規定による登録を受けた。
【0105】
表8は、本実施形態の高栄養価物の分析・試験結果を示す表である。当該分析等は、川合肥料株式会社に委託して行った。
【0106】
【表8】

【0107】
表8によれば、実施形態1の高栄養価物に比して、窒素の割合が多少減少したものの、他の分析項目については増加していることがわかる。特に、燐酸、石灰、鉄の増加が顕著である。リン酸は、米糠を混合することによって増加した。鉄は、鉄イオン由来の硫黄錯体を混合することによって増加した。なお、C/N比は、6.9%とされている。
【0108】
表9,表10は、本実施形態の高栄養価物の濃度分析結果を示す表である。当該分析は、株式会社環境生物科学研究所に委託して行った。
【0109】
【表9】

【0110】
表9によれば、本実施形態の高栄養価物には、フルボ酸が4.5%、フミン酸が10.0%含まれていることがわかる。フルボ酸は、腐植物資、金属イオンを吸収するので、フルボ酸を含む高栄養価物を施肥すると、植物にこれらが含有されにくくなる。また、フミン酸は、窒素、燐酸、加里を効率よく植物に供給できることになる。
【0111】
【表10】

【0112】
表10によれば、18種の遊離アミノ酸の濃度分析をしたところ、イソノイシン、ロイシンなどを含む半数以上の検査項目につき、本実施形態の高栄養価物100gあたり、数mgの濃度が確認された。
【0113】
実施形態2の高栄養価物と本実施形態の高栄養価物との双方を施肥して春菊を栽培してみた。従前は、春菊を、バスアミド処理をした土地で栽培していたところ、フザリウムの連作障害が生じていた。
【0114】
これに対して、実施形態2の高栄養価物と本実施形態の高栄養価物との双方を施肥して春菊を栽培したところ、フザリウムの連作障害が著しく低減された。このメカニズムを検証するために、平成20年7月に、実施形態2の高栄養価物と本実施形態の高栄養価物との双方を施肥した土地と、従前のバスアミド処理をした土地とを調べてみた。
【0115】
まず、土壌微生物(一般生菌:善玉菌)の数量を分析したところ、前者は7.2×10(720万)であり、後者は5.8×10(580万)であり、その差が1.4×10 (140万)も多いことがわかった。また、大腸菌(悪玉菌)群の数量を比較したところ、前者は陰性(検出限界以下)であったのに対して、後者は100前後の検出であった。
【0116】
このことから、実施形態2の高栄養価物と本実施形態の高栄養価物との双方が施肥されると、善玉菌が増え、善玉菌が活性化したことにより悪玉菌が減少したことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】本発明の実施形態に係る高栄養価物の製造工程を示すフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊離有機酸と重金属吸着物質とを含み、かつ、炭素の含有率と窒素の含有率との比が8以下である高栄養価物。
【請求項2】
さらに、ミネラルを含む、請求項1記載の高栄養価物。
【請求項3】
有機酸と重金属吸着物質と微生物とを混合するステップと、
その混合物を発酵させるステップとを含む、高栄養価物の製造方法。
【請求項4】
前記有機酸は、重金属類が含まれていない食品残渣スラッジである、請求項3記載の高栄養価物の製造方法。
【請求項5】
食品残渣スラッジから処理対象の水を分離するステップと、
前記処理対象の水に対して好気性の細菌を投入して曝気するステップと、
前記曝気後の水から高栄養価物の原水を抽出するステップと、
前記原水に対して重金属吸着物質を混合するステップとを含む、高栄養価物の製造方法。
【請求項6】
食品残渣スラッジから処理対象の水を分離するステップと、
前記処理対象の水に対して好気性の細菌を投入して曝気するステップと、
前記曝気後の水から高栄養価物の前駆体となる上澄み水を抽出するステップと、
前記上澄み水に対して重金属吸着物質を混合するステップとを含む、高栄養価物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−149499(P2009−149499A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−299774(P2008−299774)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【出願人】(507388786)株式会社シイズンドアグリ (1)
【Fターム(参考)】