説明

高機能命綱支持装置

【課題】危険箇所における作業者の安全を確保するための命綱を確実に支持でき、また作業性にも優れている高機能命綱支持装置を提供する。
【解決手段】通路の進行方向に沿って設けた手摺30の外周面をチャックして、この手摺上を自在に移動する命綱支持装置であって、上端に命綱34の先端のフック35を係止するリング部2が設けられた支持部材1の下方部に、前記手摺30をチャック可能な一対の湾曲状アーム部材3、3の先端を開閉自在に軸支した。このアーム部材3には手摺30の外周面上を長手方向に沿って回転する車輪4を装着した。また、前記支持部材1の上方部にはアーム部材3を閉じた時にその状態を保持するロック機構6を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、危険箇所における作業者の安全を確保するための命綱を確実に支持でき、また作業性にも優れている高機能命綱支持装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、電柱等の高所作業所や橋梁の監視員通路のような危険な作業箇所においては、作業者の安全を確保する目的で作業者と支持装置との間をワイヤロープ等の命綱で連結することが行われている。
【0003】
このような支持装置としては、例えば特許文献1や特許文献2に示されるように、命綱の先端にフックを設けこのフックを固定物に引っ掛けるだけの単純なものが一般に用いられている。また、橋梁や高速道路やトンネル内等の監視員通路のような作業箇所においては、特別な支持装置がないため手摺や欄干等を支持具として利用しており、命綱の一方を作業者に、また、他方のフックを手摺等に掛けて両者を連結していた。
【0004】
しかしながら、橋梁や高速道路やトンネル内等の監視員通路のような作業箇所では作業者が通路に沿いつつ作業場を移動して行くため、手摺の支柱等があると、そこでフックが止められてそれ以上は摺動移動できなくなるという問題があった。そこで、作業者はその都度フックを手摺から外して支柱等を跨いだうえ再び手摺にフックを掛け直す必要があった。この結果、作業が頻繁に中断されて作業性に劣るという問題点や、フックの掛け直しの際に瞬間的に連結状態が開放されるので危険性が増すという問題点があった。
【0005】
また、トンネル内には幅1m程度の監査廊が設けられているのが普通であるが、柵や手摺がない所もあり歩行時に走行車両の風圧により作業者がバランスを崩したり、点検作業で脇見をしてつまずいたりして危険であるため、命綱の使用が検討されており、トンネル内にも適用できるような作業性に優れ、かつ安全性の高い命綱支持装置の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−299153号公報
【特許文献2】特開2003−135613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記のような問題点を解決して、作業の移動途中において命綱の先端にあるフックを手摺に掛け直す手間がなく優れた作業性を発揮することができ、また命綱の連結状態が常に確保されていて優れた安全性を確保することができる高機能命綱支持装置を提供することを目的として完成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明の高機能命綱支持装置は、通路の進行方向に沿って設けた手摺の外周面をチャックして、この手摺上を自在に移動する高機能命綱支持装置であって、上端に命綱係止用のリング部が設けられた支持部材の下方部に、前記手摺をチャック可能な一対の湾曲状アーム部材を閉じた時に先端部間に隙間ができるよう開閉自在に軸支するとともに、このアーム部材には手摺の外周面上を長手方向に沿って回転する車輪を装着し、また前記支持部材の上方部にはアーム部材を閉じた時にその状態を保持するロック機構を設けたことを特徴とするものである。
【0009】
また、前記車輪が手摺の外周を4等分するように各アーム部材に2段に装着されているものが好ましく、これを請求項2に係る発明とする。
【0010】
前記ロック機構は、支持部材とこの支持部材を挟むように配置したアーム部材の上方部を重ね合わせて形成される柱状部を、摺動自在なスリーブで覆うことによりロック状態を保持するよう構成されていることが好ましく、これを請求項3に係る発明とする。
【0011】
また、支持部材の下方部には弾性部材の弾発により先端を外側に向け突出させた突出ピンが設けられ、一方、スリーブの内周面には前記突出ピンが係合される溝部が設けられて、この突出ピンと溝部との係合によりロック状態が保持されるものであることが好ましく、これを請求項4に係る発明とする。
【0012】
更に、手摺の外周面には車輪の回り止め部が形成されていることが好ましく、これを請求項5に係る発明とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明では、手摺をチャック可能な一対の湾曲状アーム部材を閉じた時に先端部間に隙間ができるよう開閉自在に軸支したので、アーム部材により手摺を確実にチャックすることができるとともに、前記隙間により手摺の支柱等の影響を受けることなくその箇所を通過できるので、命綱のフックの付け替えを行う必要がなくなる。また、ロック機構によりアーム部材を閉じた状態を保持するので安全性も確保することができる。
【0014】
また、請求項2に係る発明では、車輪は、手摺の外周を4等分するように各アーム部材に2段に装着されているものとしたので、手摺を四方から支えて命綱支持装置が手摺上を滑らかに移動できるようにしている。
【0015】
また、請求項3に係る発明では、ロック機構は、支持部材とこの支持部材を挟むように配置したアーム部材の上方部を重ね合わせて形成される柱状部を、摺動自在なスリーブで覆うことによりロック状態を保持するよう構成されているものとしたので、スリーブの昇降動のみでロック状態の確保を簡単かつ確実に行うことができる。
【0016】
また、請求項4に係る発明では、支持部材の下方部には弾性部材の弾発により先端を外側に向け突出させた突出ピンが設けられ、一方、スリーブの内周面には前記突出ピンが係合される溝部が設けられて、この突出ピンと溝部との係合によりロック状態が保持されるものとしたので、ロック状態が確実となってより安全性を高めることができる。
【0017】
また、請求項5に係る発明では、手摺の外周面には車輪の回り止め部が形成されているものとしたので、命綱支持装置が手摺上で回転することがなく安全であり、また使い勝手も優れたものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態を示す斜視図である。
【図2】アーム部材を開いた状態を示す正面図である。
【図3】アーム部材を閉じた状態を示す正面図である。
【図4】図3の斜視図である。
【図5】本発明の使用状態を示す説明図である。
【図6】(a)アンロック状態、(b)ロック状態を示す説明図である。
【図7】その他の実施の形態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、図面を参照しつつ本発明の好ましい実施の形態を示す。
図1は本発明の命綱支持装置の一例を示す斜視図、図2〜図3はこの装置を手摺に装着する前後の状態を示す正面図、図4は図3の斜視図、図5は本発明の使用状態を示す説明図である。
図において、30は高速道路等の監視員通路のような危険な作業箇所において通路の進行方向に沿って設けられた丸パイプ状の手摺、31はこの手摺30を固定するための支柱、32は手摺30と支柱31の連結部である。そして、図5に示されるように、作業者は命綱34の先端にあるフック35を本発明の命綱支持装置に連結して使用する。
【0020】
本発明の命綱支持装置は、通路の進行方向に沿って設けた前記手摺30の外周面をチャックした常態のまま、この手摺30上を自在に移動して作業者の安全を確保するものである。
板状の支持部材1の上端には前記命綱34を係止するためのリング部2が設けられている。また、下方部には前記手摺30をチャック可能な一対の湾曲状アーム部材3、3がその先端部を開閉して手摺30をチャックするよう開閉自在に軸支されている。更に、アーム部材3は閉じた時に先端部間に隙間ができるよう構成されている。なお、1aは支持部材1にアーム部材3を軸支している枢着部である。
この結果、アーム部材3により手摺30を簡単にチャックすることができ、またアーム部材3の先端部間に隙間を設けたことにより連結部32があっても何ら影響されることなく手摺上を移動することができることとなる。
【0021】
また、前記アーム部材3には手摺30の外周面上を長手方向に沿って回転する車輪4が装着されており、この車輪4が手摺30の外周面上を転がることにより命綱支持装置の移動を円滑なものとしている。
前記車輪4は、手摺の外周を4等分するように各アーム部材3に2段に装着されており、手摺30を四方から均等に支えて命綱支持装置の滑らかな移動を可能にしている。なお、図示のものでは、各段には車輪支持板5が設けられ、この車輪支持板5の各々に前後2個ずつの車輪4、4が装着されており、より円滑で安定した移動を可能にしている。
なお、この車輪の個数については設計条件に応じて任意に設定することができる。
【0022】
更に、前記支持部材1の上方部にはアーム部材3、3を閉じた時にその状態を保持するためのロック機構6が設けられている。このロック機構6は、前記支持部材1とこの支持部材1を挟むように配置した2つのアーム部材3、3の上方部を重ね合わせて形成される柱状部を、上下に摺動自在なスリーブ7で覆うことによりロック状態を保持するよう構成されている。
即ち、図示のものでは、アーム部材3、3を閉じた状態となるように、支持部材1と2つのアーム部材3、3の上方部を重ね合わせた場合に円柱体が形成され、この円柱体を下方側へスライド移動させた筒状のスリーブ7で覆うことにより、円柱体が分解しないようその状態を固定・保持するのである。
更に、図6に示すように、前記支持部材1の下方部にはつるまきバネ7のような弾性部材9の弾発により先端を外側に向け突出させた突出ピン8が設けられ、一方、スリーブ7の内周面には前記突出ピン8が係合される溝部7aが設けられて、この突出ピン8と溝部7aとの係合によりロック状態が保持されるよう構成されている。
なお、図示のものでは、円柱体が形成される場合について説明したが、支持部材1と2つのアーム部材3、3の上方部を重ね合わせた場合に形成される形状、およびこれを覆うスリーブ7の形状は、図示のものの他、例えば楕円形や四角形等のいずれであってもよいことは勿論である。
【0023】
図6はロック機構6の作動の説明図であり、(a)はアンロック状態、(b)はロック状態を示すものである。即ち、図6(a)に示すように、アンロック状態では筒状のスリーブ7が上方側に位置し、アーム部材3、3が開いた状態となっている。一方、図6(b)に示すように、ロック状態ではスリーブ7が下方側にスライド移動されて、前記支持部材1とこの支持部材1を挟むように配置した2つのアーム部材3、3の上方部を重ね合わせて形成した柱状部を覆い、その重ね合わせ状態を固定・保持している。この時、前記突出ピン8は弾性部材9の弾発により先端を外側に向け突出させて溝部7a内に係合されているので、ロック状態はより確実に保持されることとなる。
【0024】
以上の説明では、手摺30の形状が円筒形である場合について説明したが、手摺30の外周面に車輪の回り止め部30aが形成されたものとすることもできる。
図7はその一例を示すものであり、板状体を折り曲げ成形した回り止め部30aを手摺30の外周面に接着したものとなっている。この場合は、回り止め部30aの折り曲げ面に2個の車輪4が密接することにより命綱支持装置が回動しないように規制されることになる。なお、回り止め部30aとして、その他の任意の形状にすることや、手摺30に一体的に成形すること等、自由に設計することも可能である。
【0025】
このように構成された本発明の高機能命綱支持装置では、図5に示されるように、命綱34の先端にあるフック35をリング部2に連結して使用に供されるが、従来は手摺30の外周にフック35を直接引っ掛けていたので、支柱31や連結部32があるとそれ以上は摺動移動できなくなり、作業者はその都度フック35を手摺等から外し、支柱31を跨いで再び手摺30にフック35を掛け直す必要があったのに対し、本発明ではアーム部材3の先端部間に隙間を形成してこの隙間を連結部32が通過するようにしたので、従来のようにフック35を掛け直す作業がなく作業効率を大幅に向上させることができる。また、命綱の連結状態も常に確保されるので安全性も高く、更には、車輪が装着されているため移動も円滑に行えて優れた作業性を発揮することができることとなる。
【符号の説明】
【0026】
1 支持部材
1a 数着部
2 リング部
3 アーム部材
4 車輪
5 車輪支持板
6 ロック機構
7 スリーブ
7a 溝部
8 突出ピン
9 弾性部材
30 手摺
30a回り止め部
31 支柱
32 連結部
34 命綱
35 フック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通路の進行方向に沿って設けた手摺の外周面をチャックして、この手摺上を自在に移動する高機能命綱支持装置であって、上端に命綱係止用のリング部が設けられた支持部材の下方部に、前記手摺をチャック可能な一対の湾曲状アーム部材を閉じた時に先端部間に隙間ができるよう開閉自在に軸支するとともに、このアーム部材には手摺の外周面上を長手方向に沿って回転する車輪を装着し、また前記支持部材の上方部にはアーム部材を閉じた時にその状態を保持するロック機構を設けたことを特徴とする高機能命綱支持装置。
【請求項2】
車輪が、手摺の外周を4等分するように各アーム部材に2段に装着されている請求項1に記載の高機能命綱支持装置。
【請求項3】
ロック機構は、支持部材とこの支持部材を挟むように配置したアーム部材の上方部を重ね合わせて形成される柱状部を、摺動自在なスリーブで覆うことによりロック状態を保持するよう構成されている請求項1または2に記載の高機能命綱支持装置。
【請求項4】
支持部材の下方部には弾性部材の弾発により先端を外側に向け突出させた突出ピンが設けられ、一方、スリーブの内周面には前記突出ピンが係合される溝部が設けられて、この突出ピンと溝部との係合によりロック状態が保持されている請求項3に記載の高機能命綱支持装置。
【請求項5】
手摺の外周面には車輪の回り止め部が形成されている請求項1〜4のいずれかに記載の高機能命綱支持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−240327(P2010−240327A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−95439(P2009−95439)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(391007460)中日本ハイウェイ・エンジニアリング名古屋株式会社 (47)
【出願人】(391013106)株式会社パーカーコーポレーション (27)
【出願人】(591091135)株式会社日本パーカーライジング広島工場 (8)
【出願人】(592260572)日新鋼管株式会社 (26)
【出願人】(502020939)三井住建道路株式会社 (3)
【出願人】(501140603)大成エンジニアリング株式会社 (2)
【Fターム(参考)】