説明

高温ナフテン酸腐食防止のための非ポリマー性かつ非汚損性添加剤及びその使用方法

本発明は、高温ナフテン酸腐食を防止するための非ポリマー性かつ非汚損性の効果的添加剤であり、第二のリン酸エステルの効果的腐食防止量を含み、前記第二のリン酸エステルが、第一のリン酸エステルと、ブチレンオキシド、エチレンオキシド、プリピレンオキシドを含む群から選択されるオキシラン又は全ての他のオキシラン化合物又はそれらの組み合わせ、好ましくはブチレンオキシドとの反応により、構造A又はBを持つ前記第二のリン酸エステルを生成させ、
【化10】


(ここで、R及びRはそれぞれ独立して、炭素数1から20を持つ基であり、R及びRはお互いに同じであってよく又は異なっていてもよく、XはH、CH又はCであり;nは1から20である)、
前記第一のリン酸エステルが構造I又はIIをもち、
【化11】


(ここで、R及びRはそれぞれ独立して炭素数1から20を持つ基であり、R及びRはお互いに同じであってよく又は異なっていてもよい)、前記第一のリン酸エステルがアルコールと五酸化リンとの反応により得られる、効果的添加剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性高温炭化水素中での金属腐食の防止、特に前記酸性がナフテン酸の存在から由来する場合の金属腐食の防止、特に高温酸性炭化水素中の鉄含有金属の腐食防止に関する。さらに具体的には効果的な腐食防止のための非ポリマー性かつ非汚損性添加剤及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原油及びその種々の分留物の処理がナフテン酸腐食によるパイプ系及び関連設備に損傷を与えることは、当技術分野において広く知られている。これらは、原油の蒸留、抽出、輸送及び処理のために使用される装置への腐食である。一般的にいえば、ナフテン酸腐食は、処理される原油が中和値又は全酸値(TAN)が、1グラムのサンプル中の前記酸を中和するために必要な水酸化カリウムのミリグラム数で表現して、0.2を超える値の場合に生じる。また、ナフテン酸含有炭化水素は、約200℃及び400℃の間の温度(約400°F及び750°F)であり、流速が高く、液体が処理装置表面(例えば輸送ライン、戻り曲がり部及び流れ制限部)に衝突する。
【0003】
ナフテン酸組成物及び原油中の硫黄成分に伴う石油精製操作での腐食問題は長年にわたって意識されてきた。かかる腐食は特に大気及び真空蒸留ユニットで温度が400°F及び750°Fの間で深刻であった。ナフテン酸を含む原油の腐食による他のファクタには存在するナフテン酸の量、硫黄成分濃度及び前記ユニットの位置(例えば液/ガス境界)などである。
【0004】
通常ナフテン酸とは種々の原油に存在するある範囲の有機酸の集合的名称である。他の有機酸も存在するけれど、ナフテン系原油中の酸の主なものはナフテン酸の特徴を持つ。即ち飽和環状構造である、次の式で表される。
【0005】
【化1】

ナフテン酸の分子量は大きな範囲で変化し得る。原油からのナフテン酸の大部分はガス油及び軽潤滑油で見出される。かかるナフテン酸を含む炭化水素が鉄含有金属に、特に高温で接触すると、深刻な腐食の問題が生じる。
【0006】
ナフテン酸腐食は精製工業を長年悩ませてきた。この腐食物質は主に単環又は二環カルボン酸で、沸点が350から650°Fの間のものである。これらの酸は原油蒸留の際により重留分に濃縮されやすい。従って、ファーネスチューブ、輸送ライン、分留塔内部、及びカラムのフィード及び還流部分、熱交換装置、トレイ底及びコンデンサーなどの位置がナフテン酸の最初の攻撃する場所となる。さらに、高濃度にナフテン酸を含む原油ストックが処理される場合、炭素鋼又はフェライト鋼ファーネスチューブ及び塔底部に深刻な腐食が生じ得る。最近中国、インド、アフリカ及びヨーロッパなどからの原油内のナフテン酸存在による炭化水素処理ユニットでのこのタイプの腐食が増加していることが多くに関心を集めている。
【0007】
原油は、広い範囲の分子構造を持ち、従って物理的性質を持つ炭化水素の集合体である。炭化水素混合物中に含まれるナフテン酸の物理的性質は、前記酸を含む原油の由来と同様にまた、分子量により変化する。従って、これらの酸の特徴づけ及び振る舞いはよく理解されていない。原油中の酸濃度を「定量」するために使用されるよく知られた方法は、前記原油をKOH滴定することである。原油は強塩基であるKOHで終点まで滴定され、サンプル中の全酸が中和されたことを確認する。この滴定の単位はサンプル1グラム当たりのKOHのミリグラム数であり、「全酸値」(TAN)又は中和値として参照されている。これらの用語は共に本出願中では交換可能に使用されている。
【0008】
TANの単位が通常使用される。というのは油中の酸のモル数での酸性度又は酸含有量の通常の分析用語で計算することができないからである。石油精製業者はTANをナフテン酸腐食を予想するためのガイドラインとして用いる。例えば、多くの石油精製業者は自分たちの原油をTAN=0.5となるようにブレンドする。というのはこの濃度ではナフテン酸腐食は生じないであろうと考えているからである。しかし、この目安はナフテン酸による腐食防止としてはうまくいっていない。
【0009】
ナフテン酸腐食は非常に温度依存性である。この腐食が生じる温度として一般的に認められているのは、205℃及び400℃(400°Fと750°F)の間である。250℃未満でのこれらの酸の腐食攻撃は刊行文献には報告されていない。上限として、データが示唆するのは、約600°Fから700°Fで腐食速度が最大となり、その後は減少するというものである。
【0010】
酸/油混合物の濃度及び速度がまた重要なファクタであり、ナフテン酸腐食に影響する。このことはナフテン酸腐食により影響された表面に見掛けにより明らかである。腐食様式は腐食された表面のパターン及び色変化から導ける。ある条件では金属表面は均一に薄くなる。薄くなる領域はまた濃縮された酸が容器の壁を流下する際に生じる。又は、ナフテン酸の存在下でパイプ部分又は溶接部分にピットが生じる。通常前記ピットの外側の金属は重い黒い膜でカバーされており、一方ピットの表面は明るい金属又はわずかに薄い灰色から黒色の膜がカバーしている。
【0011】
さらに、腐食の他のパターンは侵食腐食であり、これは鋭い縁を持つ谷形状パターンが特徴である。表面は清浄に見え副生成物は見えない。金属腐食のパターンはシステム中での液体流を示すものである。というのは、表面により接触することでより多くの腐食が発生するからである。従って、腐食パターンは、生じる腐食の程度に関しての情報を提供する。又腐食がより複雑になるほど(即ち均一なピット生成から侵食腐食への複雑性の増加)、その振る舞いを引き起こすTANは低くなる。
【0012】
腐食パターンにより与えられる情報は、ナフテン酸が腐食剤かどうか又はむしろ腐食のプロセスが硫黄による攻撃に結果なのかどうかを示す。ほとんどの原油は硫化水素を含み、従って容易に鉄硫化物膜を炭素鋼上に形成する。実験室及び現場で観察される多くの場合において、金属表面はある種の膜でカバーされている。硫化水素の存在下では、前記膜は鉄硫化物である。硫黄の存在しない条件でのいくつかの場合には、金属は鉄酸化物でカバーされる。というのは金属片上に薄膜を生じるために十分な水又は酸層間層が常に存在するからである。
【0013】
腐食の程度を決めるために使用される試験はまた、特定の炭化水素処理ユニット内で生じる腐食のタイプを示すものである。金属片がその中に挿入され得る。それらが腐食される場合その材料は減る。この重量損はmg/cm単位で記録され得る。従って腐食速度が重量減から決定される。従って腐食速度と腐食生成物の比率(mpy/mg/cm)が計算される。これはまたさらに、生じている腐食プロセスのタイプを示すものであり、例えば、この比率が10未満であれば腐食へのナフテン酸の寄与はわずかであるかほとんどないことが見出されている。しかし、前記比が10を超える場合には、ナフテン酸が腐食プロセスに大きく寄与していることとなる。
【0014】
硫化物化攻撃とナフテン酸により生じる腐食との区別は重要である。というのは、腐食剤に依存して対処が異なるからである。通常高温での硫黄化合物による腐食の防止は、炭化水素処理ユニットで使用される合金中のクロム含有量を増加することで対応できる。合金の範囲は、1.25%Crから12%Cr又はそれより多く適用され得る。不幸にも、これらの対処はナフテン酸へはほとんど効果がない。硫黄及びナフテン酸の腐食効果を相殺するためには、少なくとも2.5%モリブデンを含むオーステナイト鋼を使用しなければならない。腐食問題は高温(高温は油の精製及びクラッキングに必要な温度)でさらに悪化し、油の酸性度により主に高いレベルで原油に含まれるナフテン酸により引き起こされる。ナフテン酸は約175℃から420℃の範囲で腐食性となる。より高温ではナフテン酸は蒸気相であり、より低い温度では腐食速度がそれほど深刻ではない。ナフテン酸の腐食性は硫化物化合物(例えば硫化水素、メルカプタン、元素状硫黄、スルフィド、ジスルフィド、ポリスルフィド及びチオフェノールなど)の存在で例外的に深刻化するように見える。硫黄化合物による腐食は温度が450°F程度の低い温度で重要となる。メルカプタンの熱分解により硫化水素の触媒的生成が硫化物系腐食の原因とされてきた。
【0015】
原油中の硫黄は、高温では硫化水素を生成してこの問題を悪化させる。このタイプの腐食の主な注目すべき温度範囲は、約175℃から約400℃、特に約205℃から約400℃の範囲である。
【0016】
ナフテン酸腐食を制御する種々の方法には、ナフテン酸を処理される原油から除去することが含まれる。これは低酸値油を腐食性の高酸値油と混合して全体として中和値を上げるというものである。または、パイプ系及び関連装置の建設において比較的高価な耐腐食性合金を使用することが含まれる。これらの試みは一般的に有利ではない。というのはこれらは追加のプロセス及び/又は原油処理のために追加の費用を要するからである。又は、種々のアミン及びアミド系腐食防止剤が市販されているが、これらは一般的にナフテン酸腐食の高温環境では有効でないからである。ナフテン酸腐食は、通常の汚損問題、例えばエチレンクラッキングコーキングや石油系フィードストックを用いる他の炭化水素処理反応で生じるポリマー蓄積などとは容易に区別される。ナフテン酸腐食は、前記腐食性流れと接触した金属に特徴的な溝を生成する。一方コーク蓄積は一般的に、炭化、侵食及び金属粉末化などにより腐食性となる。
【0017】
これらの対応方法は完全には満足できるものではないことから、当該工業で受け入れられている対応方法は、蒸留ユニット又はナフテン酸/硫黄腐食に暴露される部分を、高品質ステンレススチール又は高含有量のクロム又はモリブデンを含む合金などの抵抗性金属を用いて建造することである。腐食抵抗性合金を装備することは、304及び316ステンレススチールなどの合金は炭素鋼に比較して数倍の費用がかかる。しかし、そのようには建設されていないユニットでは、このタイプの腐食に対する防止処理が提供される必要がある。ナフテン酸環境に対する従来の腐食防止剤には、窒素系膜形成腐食防止剤が挙げられる。しかし、これらの腐食防止剤はナフテン酸油の高温環境下ではそれほど有効なものではない。
【0018】
種々の従来技術において種々の腐食防止剤が知られているが、すべての具体的な腐食防止剤の効果及び有用性は適用されうる環境に依存する。従って、ある環境の下での効果又は有用性が、しばしば、他の環境下では同様には適用されないということがある。その結果、多くの種類の腐食防止剤が開発され、種々のシステムに適用されている。即ち、処理される媒体、腐食に晒される表面のタイプ、面する腐食のタイプ、及び媒体が暴露される条件などに依存する。例えばU.S.Pat.No.3,909,447に開示される腐食防止剤は、比較的低温で酸素化水系(ウオータフラッド系、冷却塔、ドリルマッド、空気ドリル及び自動車用ラジエータシステム用)で有用である。この特許はまた、非水系及び/又は非酸素系システムで実施され得る多くの腐食防止剤が水系及び/又は酸素化系システムでは性能が劣ることを記載されている。逆もまた同様である。ある腐食防止剤が酸素化水系で有効性を示したという事実だけでは炭化水素系での有効であるということを示唆するものではない。さらに、比較的低い温度で有効であるという事実だけでは、その防止材料は高温でも有効であるとはいえない。事実、比較的低い温度で非常に有効な防止剤が石油精製で使用される175℃から400℃の範囲などの温度で有効でなくなるということはよくあることである。係る温度では腐食は非常に問題となり避けることが困難となる。従って、U.S.特許No.3,909,447には、炭化水素流、特に高温炭化水素流などの非水系システムで効果的であるということは教示も示唆もされていない。さらにU.S.特許No.3,909,447には、ここで開示された化合物がかかる条件下でナフテン酸腐食に対して有効であるということについては何ら示されていない。
【0019】
大気圧及び真空蒸留システムは原油を処理する際にナフテン酸腐食の対象となる。現在使用されている処理はシステム用温度での熱反応である。リン系防止剤の場合には、金属リン酸化物表面膜が形成されると考えられる。前記膜は元の鋼よりもナフテン酸腐食に対しより抵抗性である。これらの防止剤は、比較的揮発性であり、非常に狭い蒸留範囲を示す。これらは温度範囲に依存して腐食位置の上又は底から導入される。ポリスルフィド防止剤は、高度及び低度のポリスルフィド、恐らく元素状硫黄及びメルカプタンへ分解する。従って揮発性及び得られる保護につては予想できないものである。
【0020】
石油精製でのナフテン酸腐食による問題及びこれらの問題に対する従来技術は文献に詳細に記載されている。以下代表的な文献を記載する。
【0021】
KoszmanのU.S.特許No.3,531,394には、リン及び/又はビスマス化合物を、石油スチームファーネスのクラッキングゾーンへ導入して前記ファーネスチューブ壁へのコーキングを防止することが記載されている。
【0022】
ShellらのU.S.特許No.4,024,049には、石油精製耐汚損剤としての化合物を開示する。耐汚損剤として有効である一方で、このタイプの材料はこれまで上で説明されたように腐食防止剤として使用されてこなかった。この文献はチオリン酸エステル(本発明で使用されるチオリン酸エステルなど)を流入フィードへ添加することを教示する。これは前記エステル材料の不揮発性により、塔、ポンプ周りパイプ系又はさらなるプロセスステップへは蒸留されないからである。
【0023】
WeinlandのU.S.特許No.4,105,540は、エチレンクラッキングファーネスへの耐汚損剤としてリン含有化合物の導入を開示する。適用されるリン含有化合物は、モノ及びジリン酸エステル及び亜リン酸エステル化合物であり、少なくとも一つ水素をアミンとの複合体である。
【0024】
U.S.特許No.4,443,609には、酸腐食防止に有効としてテトラヒドロチアゾールホスホン酸及びエステルが開示されている。かかる防止剤は、ある2,5−ジヒドロチアゾールをジアルキル亜リン酸エステルと反応させることで調製され得る。これらテトラヒドロチアゾールホスホン酸及びエステルは酸腐食防止剤として優れた性質を有するが、高温では分解する傾向があり、恐らく悪臭のする有毒な物質を発生する恐れがある。
【0025】
リン含有化合物は原油処理のために使用される種々の触媒の機能を損なうことがまた知られている。例えば固定床ハイドロトリーター及びハイドロクラッキングユニットなどである。原油処理者はしばしば困惑される。というのは亜リン酸エステル安定化剤が使用されない場合に鉄が炭化水素中に10から20ppmまで蓄積し触媒を損なうからである。非リン含有防止剤は市販されているが、それらは一般的にリン含有化合物に比べて効果的ではない。
【0026】
KaplanらのU.S.特許No.4,542,253には、エチレンクラッキングファーネスでの汚損及び腐食を低減する方法であり、少なくとも10ppmの水溶性アミン錯体化リン酸エステル、亜リン酸エステル、チオリン酸エステル又はチオ亜リン酸エステル化合物を含むフィードストックを用いる。ここでアミンは1.0よりも大きい分配係数を持つ(水溶媒及び炭化水素溶媒に同じ溶解度を持つ)。
【0027】
KaplanらのU.S.特許No.4,842,716には、リン系耐汚損化合物及び膜防止剤の10ppmの組み合わせを用いることで汚損及び腐食を低減させる方法が開示されている。リン化合物はリン酸エステル、亜リン酸エステル、チオリン酸エステル又はチオ亜リン酸エステル化合物などである。前記膜形成防止剤はイミダゾール化合物である。
【0028】
ZetmeislらのU.S.特許No.4,941,994には、ジアルキル又はトリアルキル亜リン酸エステルを場合によりチアゾールとの組み合わせて含む、ナフテン酸腐食防止剤が開示されている。
【0029】
U.S. 特許No.4,941,994には高温酸性液体炭化水素での金属腐食が、ジアルキル又はトリアルキル亜リン酸エステルを場合によりチアゾールとの組み合わせて含む、腐食防止剤により防止されることが開示されている。しかしそれにもかかわらず、原油処理で使用される種々の触媒の機能を損なう可能性のあるリン含有化合物の量を減少させつつ腐食防止能力をさらに強化したいという要求が常にあり、また同様にかかる防止剤は、より安価なより入手し易い原料から製造できるという要求が存在する。
【0030】
ナフテン酸腐食を防止する他の方法は、原油と炭化水素処理装置との間にバリアを形成させる化学剤を用いることである。このバリア又は膜は腐食剤が金属鏡面へ到達することを防止するもので一般的には疎水性物質である。Gustavsen らは,NACE Corrosion 89 meeting,aper no. 449,Apr.17−21,1989で、優れた膜形成剤を開示する。 U.S. 特許No. 5,252,254には、そのような膜形成剤、スルホン化アルキル置換フェノールが開示され、ナフテン酸腐食に対し効果的であると主張している。
【0031】
Petersenらの1993年1月26日のU.S.特許No.5,182,013には、原油のナフテン酸腐食を防止する他の方法が開示されており、原油に効果的量のポリスルフィドを導入することである。これは、腐食防止硫黄種類物の他の例である。腐食の原因としての硫化物化については上に詳細に記載されている。このプロセスはよくは理解されていないが、硫黄は少量では効果的な耐腐食剤であり、十分高濃度では腐食発生剤となる、ということが決定されている。
【0032】
有機ポリスルフィド(Babaian−Kibala,U.S.特許No.5,552,085),有機亜リン酸エステル(Zetlmeisl,U.S.特許 No.4,941,994)及びリン酸エステル/亜リン酸エステル(Babaian−Kibala,U.S.Pat.No.5,630,964)は、ナフテン酸腐食に対して炭化水素含有相で効果的であると主張されてきた。しかしこれらの高い油溶解性はリン含有化合物の蒸留側流汚染の可能性を引き起こす。US 特許5,630,964から、未処理リン酸エステルは腐食防止に効果的でないことが分かる(前記特許の表1及び2から)。この特許では、効果的な腐食防止は、ポリスルフィド及び未処理のリン酸エステルとの組み合わせの化合物で達成され得る。
【0033】
リン酸は主に水溶性相で使用され、リン酸エステル/鉄錯体膜を腐食防止又は他の応用のために鋼表面に形成する(Coslett,英国特許8,667,U.S.Pat.Nos.3,132,975,3,460,989及び1,872,091)。高温で非水環境でのリン酸の使用はまた、汚損防止の目的で報告されている(U.S.特許No.3,145,886)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0034】
酸性原油の腐食を安価に防止するための革新的方法の開発が継続して望まれている。これは最近の精製が低利益であること、さらにヨーロッパ、中国、アフリカ及びインドなどからの酸性原油がより利用されるようになってきていることから特にそうである。本発明はこの要求に応じるものである。
【0035】
以上のように、効果的な高温ナフテン酸腐食防止剤を提供するための非汚損性かつ低酸性である他の添加化合物であり、従来技術の化合物の欠点を解消するものに対する要求が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0036】
本発明は、高温ナフテン酸腐食防止のために効果的な、新規非ポリマー性かつ非汚損性添加剤を提供する。前記添加剤は有効量の腐食防止量の第二のリン酸エステルを含み、前記第二のリン酸エステルが、第一のリン酸エステルと、ブチレンオキシド、エチレンオキシド、プロピレンオキシド又は全ての他のオキシラン化合物又はそれらの組み合わせから選択されるオキシラン化合物、特にブチレンオキシドであって、次の構造A又はBを含む前記第二のリン酸エステルを生成することができるオキシラン化合物とを反応させて得られ、
【0037】
【化2】

ここでR及びRはそれぞれ独立して、炭素数1から20を持つ基であり、R及びRはお互いに同じであってよく又は異なっていてもよく、XはH、CH又はCであり;nは1から20であり、前記第一のリン酸エステルが構造I又はIIをもち、
【0038】
【化3】

ここで、R及びRはそれぞれ独立して炭素数1から20を持つ基であり、R及びRはお互いに同じであってよく又は異なっていてもよく、前記第一のリン酸エステルがアルコールと五酸化リンとの反応により得られる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明は高温ナフテン酸腐食を防止するための防止剤として使用される次の反応化合物を用いる。この反応化合物は、アルコールと五酸化リンとの反応、さらに、ブチレンオキシド、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドから選択されるオキシラン化合物及び他のかかる化合物と反応させて得られるものである。
【0040】
とアルコールとの比率は好ましくは1モルのPについて1から10モルのアルコールであり、好ましくはP1モルについて1から7モルのアルコールである。
【0041】
驚くべきことに次のことが本発明の発明者により発見された。即ち、ブチレンオキシドなどのオキシランとリン酸エステルとの反応物は低リン含有量であり、低酸性度でありかつ非汚損性であること、さらに非処理のリン酸エステルと比べてナフテン酸腐食の効果的かつ改良された制御を与えるということである。
【0042】
前記新規な添加剤は2つの基本的なステップで製造される。
1.アルコールと五酸化リンとを反応させる(得られる反応物は市販されている従来技術であるナフテン酸腐食防止剤で使われている添加剤である)。この反応は種々のモル比のアルコールと五酸化リンとの反応により実施され得る。得られる反応物はリン酸エステルである。この反応物は非常に酸性である。
2.ステップ1で得られた反応化合物はさらに、ブチレンオキシドなどのオキシラン化合物と反応させる。又はエチレンオキシド又はプロピレンオキシド又は全てのオキシラン化合物が使用され得る。このステップ2で得られる反応化合物がブチレンオキシド処理リン酸エステルである。
【0043】
リン酸エステルの合成の際に、アルコールと五酸化リンが使用され、得られる化合物はモノ−、ジ−及びトリ−リン酸エステルを含む混合物であり、及び他の多くのリン含有化合物が形成されるということは、留意すべきである。モノ−及びジ−リン酸エステルの通常の構造I及びIIそれぞれが以下に示される。
【0044】
【化4】

ここで、R及びRはそれぞれ独立して、1から20の炭素数を持つ基から選択され、R及びRは同じであってもよく又は異なっていてもよい。
【0045】
この混合物は主にモノ−及びジ−リン酸エステルと他のリン化合物からなり、これは酸性物であり、ブチレンオキシド、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドなどのオキシランと反応してリン酸エステルを生成することが予想される。オキシドとモノ−及びジ−リン酸エステルとの反応で予測できる通常の構造は以下示されるA及びBである。
【0046】
【化5】

ここでRおよびRはそれぞれ独立して、1から20の炭素数を持つ基から選択され、R及びRは同じであっても異なっていてもよく、XはH、CH又はCであり、nは1から20の間である。
【0047】
留意すべきことは、上記のステップは、対応する実施例を参照してより理解され得るということである。
【0048】
本発明は、ナフテン酸を含む原油などの炭化水素及びその分留物を処理する処理装置の金属表面の腐食を防止する方法に関する。本発明は、蒸留ユニットなどの処理装置内で原油を処理する際に使用される以下の方法ステップにつき最も簡単な形で詳細に説明する。類似のステップは異なる処理ユニットでも使用され得る。例えばポンプ周りのパイプ系、熱交換装置及びかかる他の処理ユニットである。
【0049】
この方法ステップは以下説明される:
a)ナフテン酸を含む炭化水素を加熱し炭化水素の一部を蒸発させる:
b)前記炭化水素蒸気を蒸留塔へ上昇させる;
c)前記蒸気を蒸留塔を通じて凝縮させて蒸留物を生成する:
d)前記蒸留物に、例えば1から2000ppmのブチレンオキシド処理リン酸エステル(これが本発明で必要な添加剤である)を添加する;
e)ステップd)の添加剤を含む蒸留物を蒸留ユニットの実質的に全ての金属表面に接触させ、該表面に保護膜を形成させ、それにより該表面が腐食対して防止される。
【0050】
蒸留カラム、トレイ、ポンプ周りパイプ系及び関連する装置をナフテン酸腐食から防止するために処理することが有利である。というのは、蒸留炭化水素流からの凝縮蒸気は200℃、好ましくは400℃を超える温度で金属性装置と接触するからである。添加剤は通常凝縮物へ添加されることから、該凝集物が前記カラムを通過して蒸留容器に流れ落ちる際に、かかる濃縮凝縮物は蒸留カラム、充填物、トレイ、ポンプ周りパイプ系及び関連する装置の金属性表面に、接触することができるからである。該凝集物はまた生成物として回収されてもよい。本発明の腐食防止剤は得られた回収生成物中に残る。
【0051】
商業的な実施においては、本発明の添加剤は、ドロートレイ及びカラム充填物での腐食を制御するためにリターン蒸留物へ添加されてもよく、一方該蒸留ドロートレイ下の塔充填物及びトレイを保護するために該ドロートレイの直ぐ下のスプレー油リターンへ第二の導入が添加されてもよい。本発明の添加剤が添加される場所はそれほど重要ではなく、後に該蒸留容器へ戻るか、又は蒸留カラム、トレイ、ポンプ周りのパイプ系及び関連する装置へ接触する蒸留物へ添加されればよい。
【0052】
本発明の添加剤の高温ナフテン酸腐食の防止を達成するための使用方法は、以下実施例及び表を参考にして説明される。
【0053】
実施例1
オイルバスで30℃で維持した清浄な四ツ口丸底フラスコに、733.5gの2−エチル−ヘキサノールを入れ、窒素ガスパージを開始した。全量266.5gの五酸化リンを6回に分けて該フラスコへ加えた。五酸化リンを加えた後に発熱して反応混合物の温度が99℃に上昇した。この温度を4時間維持した。
【0054】
反応混合物を30〜35℃に冷却し、ろ過し、酸値を分析し、さらに誘導結合プラズマ(ICP)法によりリン含有量を分析した。酸値は280〜330mgKOH/gの範囲であることが見出された。代表的な酸値は308mg/gであった。リン含有量は10〜12%の範囲であった。代表的なリン含有量は11.65%であった。実施例1で得られた反応混合物は、ナフテン酸腐食防止剤としての従来技術の添加剤である。実施例1の結果は表1に与えられている。
【0055】
実施例2
オイルバスで30℃で維持した清浄な四ツ口丸底フラスコに、200gの実施例1の反応混合物を入れた。この反応混合物に150gのブチレンオキシドをゆっくりと添加した。発熱が起こり、150gのブチレンオキシドの全量が添加されるまで温度を40℃に維持した。途中で得られた化学混合物を取り出し酸値を分析した。酸値が10mgKOH/gになるまで反応を継続した。
【0056】
得られた反応混合物はその後60℃に加熱され、この温度で2時間維持された。
【0057】
反応混合物を30〜35℃に冷却し、ろ過し、酸値を分析し、さらにICPによりリン含有量を分析した。
【0058】
酸値は10mgKOH/g未満であることが見出された。代表的な酸値は1mg/gであった。リン含有量は5〜7%の範囲であった。代表的なリン含有量は6.53%であった。実施例2の結果は表1に与えられている。
【0059】
実施例3
オイルバスで30℃で維持した清浄な四ツ口丸底フラスコに、486gの2−エチル−ヘキサノールを入れ、窒素ガスパージを開始した。全量265gの五酸化リンを6回に分けて該フラスコへ加えた。五酸化リンを加えた後に発熱して反応混合物の温度が99℃に上昇した。この温度を4時間維持した。
【0060】
反応混合物を30℃に冷却し、ろ過し、酸値を分析し、さらにICPによりリン含有量を分析した。
【0061】
酸値は320〜350mgKOH/gの範囲であることが見出された。代表的な酸値は331mg/gであった。リン含有量は14〜16%の範囲であった。代表的なリン含有量は15.408%であった。実施例3で得られた反応混合物は、ナフテン酸腐食防止剤としての従来技術の添加剤である。実施例3の結果は表1に与えられている。
【0062】
実施例4
オイルバスで30℃で維持した清浄な四ツ口丸底フラスコに、100gの実施例3の反応混合物を入れた。この反応混合物に88gのブチレンオキシドをゆっくりと添加した。発熱が起こり、88gのブチレンオキシドの全量が添加されるまで温度を40℃に維持した。途中で得られた化学混合物を取り出し酸値を分析した。酸値が10mgKOH/gになるまで反応を継続した。
【0063】
得られた反応混合物を60℃に加熱し、この温度を2時間維持した。
【0064】
反応混合物を30℃に冷却し、ろ過し、酸値を分析し、さらにICPによりリン含有量を分析した。
【0065】
酸値は10mgKOH/g未満であることが見出された。代表的な酸値は6.8mg/gであった。リン含有量は7〜9%の範囲であった。代表的なリン含有量は8.19%であった。実施例4の結果は表1に与えられている。
【0066】
実施例5
高温ナフテン酸腐食試験
この実験では、実施例1から4で調製された添加剤の、高温ナフテン酸含有油中での鋼片への腐食防止効果を、種々の量で試験した。本発明化合物の290℃でのナフテン酸腐食の防止の効果を、重量減片の浸漬試験を用いて評価した。使用された本発明化合物の異なる投与量は表1に示されている。
【0067】
静的試験が添加剤を使用しないで実施された。この試験はブランク試験結果を与えた。
【0068】
反応装置は、水コンデンサ、Nパージチューブ、温度計を入れた温度計ポケット及び攪拌器を備えた1リットル四ツ口丸底フラスコであった。沸点290℃を超える分留分のパラフィン炭化水素油(D−130)600g(約750ml)を前記フラスコに入れた。Nガスパージを100cc/分の流速で開始した。温度を100℃へ昇温し、温度を30分間維持した。
【0069】
異なる実験で、実施例1から4の添加剤をナフテン酸腐食防止効果を試験するために用いた。添加剤を添加後反応混合物を15分間100℃で攪拌した。攪拌器を除き、反応混合物を290℃へ昇温した。その中に重量減鋼片CS1010(寸法、76mmx13mmx1.6mm)を浸漬した。この条件で1〜1.5時間維持した後、31gのナフテン酸(市販グレード、酸値230mgKOFH/g)を反応混合物に添加した。反応混合物の1gを酸値測定のサンプルとして取り、約11.7であることが分かった。この条件を4時間維持した。この手順後、金属片を取り出し、過剰の油をリンスして除き、かつ過剰の腐食生成物を金属表面から除いた。その後金属片を秤量し、腐食速度を、ミリ/年(MPY)として計算した。
【0070】
腐食防止効果の計算
腐食防止効果の計算に使用した方法は以下に与えられている。この計算では、添加剤による腐食防止効果は、ブランク片での重量減(添加剤なし)と添加剤による重量減を比較するものである。
腐食防止効果=((添加剤なしでのブランク片の重量減)−(添加剤ありでのブランク片の重量減))x100/(添加剤なしでのブランク片の重量減)
計算値は表1の該当欄に記載されている。
【0071】
高温ナフテン酸腐食動的試験:
動的試験は、温度制御されたオートクレーブ中で回転手段を用いて、鋼片を用いて実施した。重量減片浸漬動的試験は、本発明化合物についての、動的条件下で260℃でのナフテン酸腐食防止の効果を評価するために使用された。この例では、実施例1から4により調製された添加剤の50%又は100%の添加剤につき種々の量で試験された。添加剤なしで鋼片の動的試験を実施し、これをブランク試験データとした。
【0072】
動的試験には次の試験装置を用いた:
1.温度制御オートクレーブ、
2.寸法76mmx13mmx1.6mmの秤量済み鋼CS1010重量減片、
3.該片の攪拌手段。
【0073】
材料:
1.中和値を約12mg/KOH/gとするようにナフテン酸を外部添加した。
2.蒸気空間への窒素ガス。
【0074】
2つの秤量済み鋼片をオートクレーブの回転手段に挟んで止めた。動的試験は約260℃で約6時間実施された。試験後金属片を取り出し、過剰の油をリンスして除き、かつ過剰の腐食生成物を金属表面から除いた。その後金属片を秤量し、腐食速度を、ミリ/年として計算した。動的試験の結果は表2に示されている。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
実施例7
腐食防止添加剤の汚損傾向
本発明及び従来技術添加剤の汚損傾向を、それぞれの添加剤の油中1%を2時間290℃に加熱して決定した。沈殿生成を観察しその結果を表3にまとめた。
【0078】
【表3】

【0079】
実験結果の詳細な議論:
以下、実施例1から6で記載された表1から3に示される実験結果についての詳細な議論が本発明の添加剤化合物の、高温ナフテン酸腐食防止において高い効果を示すことを説明する。本発明の発明者は驚くべきことに、本発明の添加剤化合物の活性成分を、従来技術の添加剤化合物に比べて低減された量で投与した場合でも高い腐食防止効果が得られることが見出された。
【0080】
表1に与えられている実験結果の詳細な議論
実施例1及び3において、従来技術の添加剤が添加剤化合物の活性投与量100ppm使用されたそれぞれの場合に典型的にはリン含有量がそれぞれ11.65及び15.408であり、パーセント腐食防止効果はそれぞれ86.4及び91.2であった。同じサンプルで、上記の同じリン含有量を持つそれぞれの場合の添加剤の活性投与量50ppmに低減された場合には、対応するパーセント腐食防止効果はそれぞれ47.4及び50.4であった。
【0081】
従来技術添加剤の上記効果についての上記結果を比較して、実施例2及び4から、本発明の添加剤がナフテン酸腐食防止のために使用されて、より高い腐食防止効果がより少なき投与量で得られ、また以下示されるようにより少ないリン含有量を与える、ことが分かる。
【0082】
実施例2では、より少ないリン含有量6.53を与えると共に本発明の添加剤化合物の活性投与量75ppm及び50ppmをそれぞれ使用する場合、共通の防止の対応するパーセント効果はそれぞれ95.8及び85.8であった。
【0083】
実施例4では、より高いリン含有量8.19を与えると共に本発明の添加剤化合物の活性投与量50ppm及び25ppmをそれぞれ使用する場合、共通の防止の対応するパーセント効果はそれぞれ92.7及び68.7であった。
【0084】
表2で与えられる実験結果の詳細な議論
実施例1及び3において、従来技術の添加剤が添加剤化合物の活性投与量500ppm使用されたそれぞれの場合に典型的にはリン含有量がそれぞれ11.65及び15.408であり、パーセント腐食防止効果はそれぞれ86.4及び91.2であった。同じサンプルで、上記の同じリン含有量を持つそれぞれの場合の添加剤の活性投与量50ppmに低減された場合には、対応するパーセント腐食防止効果はそれぞれ76.1及び83.2であった。
【0085】
通常リン含有量11.6%の、500ppmの活性投与量ブチルリン酸エステルの従来技術添加剤を用いることにより、腐食防止パーセント効果はほんの11.7%に過ぎないことが分かる。
【0086】
同様に、通常リン含有量7%の、500ppmの活性投与量トリス2−エチルヘキシルリン酸エステルの従来技術添加剤を用いることにより、腐食防止パーセント効果はほんの5%に過ぎないことが分かる。
【0087】
従来技術添加剤の上記効果についての上記結果を比較して、実施例2及び4から、本発明の添加剤がナフテン酸腐食防止のために同じ活性投与量500ppm使用されて、より高い腐食防止効果がそれぞれ92.8%及び96.7%で得られ、また通常リン含有量それぞれが6.53%及び8.19%であることが分かる。
【0088】
通常リン含有量パーセントが8.19を与えると共に、本発明の添加剤化合物のより少ない投与量250ppmを用いた場合でさえ実施例4の方法を用いることで、対応する腐食防止のパーセント効果が91.5%となる。
【0089】
表3で与えられる実験結果の詳細な議論
表3によれば、実施例2及び4から、本発明の添加剤化合物は非常に僅かな個体を生成することが明らかとなり、又実施例1及び3の場合、従来技術添加剤化合物の使用は重質沈殿物を生成し、装置の大きな汚損を生じることが明らかとなる。トリブチルリン酸エステルの従来技術添加剤の使用もまた完全に溶液が濁る。
【0090】
これらの全ての詳細な議論は、明らかに次の事実を示している。即ち、従来技術添加剤と比較して、本発明の添加剤化合物は低リン含有量パーセント(及び従って低酸値)でありかつより少い添加剤投与量であることから、より優れた腐食防止効果を与えるという事実である。本発明の添加剤化合物はまた、非常に僅かな量の個体のみ生成することから非汚損性でもある。
【0091】
本発明の顕著な性質についての議論
このように、腐食防止に使用される本発明の添加剤化合物は従来技術に比較して以下の重要な顕著な特徴を持つ。
1)広範な実験により、本発明の発明者は驚くべきことに次のことを見出した。即ち、本発明者により使用される添加剤化合物は表1,2に示されるように高温腐食防止に効果的である、ということである。
2)本発明の添加剤化合物の他の特徴は、従来技術の添加剤化合物(例えば従来技術のリン酸エステル)に比較して、非常に低い酸値を持つということである。従来技術のリン酸エステルは低温度でも分解してリン酸を生成する傾向があり、これはさらに炭化水素流に沿って流れ、蒸留カラムの充填物などの装置の金属表面と反応して個体の鉄リン酸塩を生成する、ことが知られていれている。この固体は装置の孔を塞ぎ従って蒸留カラムの汚損を引き起こす(表3を参照)。本発明の添加剤化合物はこの欠陥がない。
3)本発明の化合物は非常に腐食防止において効果的であり、従来技術化合物に比較してずっと低投与量でさえ効果的である。
4)腐食防止効果は、本発明の添加剤により、低リン含有量(従来技術添加剤と比較して)で達成できる。これは非常に有利である。というのはリンは、さらに下流で使用される触媒に性能を損なうからである。
5)本発明の化合物は表3で説明されるように、汚損性は極端に少ない。
6)本発明の添加剤は、トリブチルリン酸エステル、トリス2−エチルヘキシルリン酸エステルなどのトリアルキルリン酸エステルなどの従来技術添加剤と比較してより高い効果を与えることから、より優れた性能であることが示される。
7)本発明の化合物は、従来技術添加剤と比較して低コスト腐食防止添加剤である。
【0092】
本発明の防止剤の効果はナフテン酸含有原油のために試験されたけれども、本発明の防止剤はまたナフテン酸及び硫黄化合物を含む原油についても適当である。
【0093】
上記から本発明は次の事項を含むことが理解されるべきである。
【0094】
事項1: 高温ナフテン酸腐食を防止するための効果的な非ポリマー性かつ非汚損性添加剤であり、第二のリン酸エステルの効果的腐食防止量を含み、前記第二のリン酸エステルが、第一のリン酸エステルと、ブチレンオキシド、エチレンオキシド、プリピレンオキシドを含む群から選択されるオキシラン又は全ての他のオキシラン化合物又はそれらの組み合わせ、好ましくはブチレンオキシドとの反応により、構造A又はBを持つ前記第二のリン酸エステルを生成する。
【0095】
【化6】

ここでR及びRはそれぞれ独立して、炭素数1から20を持つ基であり、R及びRはお互いに同じであってよく又は異なっていてもよく、XはH、CH又はCであり;nは1から20であり、前記第一のリン酸エステルが構造I又はIIをもち、
【0096】
【化7】

ここで、R及びRはそれぞれ独立して炭素数1から20を持つ基であり、R及びRはお互いに同じであってよく又は異なっていてもよく、前記第一のリン酸エステルがアルコールと五酸化リンとの反応により得られる。
【0097】
事項2:事項1に記載の効果的添加剤であり、前記効果的添加剤が酸値が、通常のアルコール性KOHに対してサンプルを滴定して決定される約1mgKOH/gから約20mgKOH/gの範囲である、効果的添加剤。
【0098】
事項3:事項1に記載された効果的添加剤であり、前記効果的添加剤が前記効果的添加剤のリン含有量約0.5%から約9%を含む、効果的添加剤。
【0099】
事項4:事項1に記載の効果的添加剤であり、前記五酸化リンと前記アルコールとのモル比が、好ましくは1から10モルの前記アルコールに対して1モルの五酸化リン、及び好ましくは1から7モルの前記アルコールに対して1モルの五酸化リンであるように、使用される、効果的添加剤。
【0100】
事項5:事項1に記載の効果的添加剤であり、前記添加剤の活性投与量が1から2000ppmである、効果的添加剤。
【0101】
事項6:石油化学プラントの全ての炭化水素処理の金属製表面の高温ナフテン酸腐食防止の方法であり、前記炭化水素処理がナフテン酸を含む流の処理のためであり、前記処理ユニットが蒸留カラム、ストリッパ、トレイ、ポンプ周りパイプ及び関連する装置を含み、かつ前記処理が事項1の前記第二のリン酸エステルを用いるものであり、次のステップを含む:
a. ナフテン酸を含む前記炭化水素を加熱して前記炭化水素の一部を蒸発させる;
b. 前記炭化水素蒸気を凝縮し、前記炭化水素処理ユニットを通過させて凝縮蒸留物を生成させ;
c. 前記凝縮蒸留物が前記炭化水素処理ユニットに戻されるか又は生成物として回収される前に、前記蒸留物に1から2000ppmの事項1の前記第二のリン酸エステルを腐食防止効果的量を添加して反応混合物を形成させ;
d. 前記反応混合物を前記炭化水素処理ユニットの前記金属性表面に接触させて前記表面上に保護膜を形成させて、前記表面を腐食に対して防止し;及び
e. 前記凝縮蒸留物を前記炭化水素処理ユニットに戻すか、又は生成物として回収する。
【0102】
事項7:事項6に記載の処理であり、前記流が原油、フィードストック及び炭化水素流及び/又はそれらのフラクションを含む、処理。
【0103】
本発明はいくつかの好ましい実施態様を参照して記載されてきたが、本発明はこれらの好ましい実施態様に限定されることを意味しない。記載された好ましい実施態様の変更もまた、本発明の本質から離れることなく可能である。しかしながら上記処理及び組成物は例示目的のみであり、本発明の新規な特徴は本発明の範囲から離れることなく他の形においても取り込まれることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温ナフテン酸腐食を防止するための非ポリマー性かつ非汚損性の効果的添加剤であり、
第二のリン酸エステルの効果的腐食防止量を含み、
前記第二のリン酸エステルが、第一のリン酸エステルと、ブチレンオキシド、エチレンオキシド、プリピレンオキシドを含む群から選択されるオキシラン又は全ての他のオキシラン化合物又はそれらの組み合わせ、好ましくはブチレンオキシドとの反応により、構造A又はBを持つ前記第二のリン酸エステルを生成させ、
【化8】

(ここで、R及びRはそれぞれ独立して、炭素数1から20を持つ基であり、R及びRはお互いに同じであってよく又は異なっていてもよく、XはH、CH又はCであり;nは1から20である)、
前記第一のリン酸エステルが構造I又はIIをもち、
【化9】

(ここで、R及びRはそれぞれ独立して炭素数1から20を持つ基であり、R及びRはお互いに同じであってよく又は異なっていてもよい)、
前記第一のリン酸エステルがアルコールと五酸化リンとの反応により得られる、効果的添加剤。
【請求項2】
請求項1に記載の効果的添加剤であり、前記効果的添加剤が酸値が、通常のアルコール性KOHに対してサンプルを滴定して決定される約1mgKOH/gから約20mgKOH/gの範囲である、効果的添加剤。
【請求項3】
請求項1に記載された効果的添加剤であり、前記効果的添加剤が前記効果的添加剤のリン含有量約0.5%から約9%を含む、効果的添加剤。
【請求項4】
請求項1に記載の効果的添加剤であり、前記五酸化リンと前記アルコールとのモル比が、好ましくは1から10モルの前記アルコールに対して1モルの五酸化リン、及び好ましくは1から7モルの前記アルコールに対して1モルの五酸化リンであるように、使用される、効果的添加剤。
【請求項5】
請求項1に記載の効果的添加剤であり、前記添加剤の活性投与量が1から2000ppmである、果的添加剤。
【請求項6】
事項6:石油化学プラントの全ての炭化水素処理の金属製表面の高温ナフテン酸腐食防止の方法であり、前記炭化水素処理がナフテン酸を含む流の処理のためであり、前記処理ユニットが蒸留カラム、ストリッパ、トレイ、ポンプ周りパイプ及び関連する装置を含み、かつ前記処理が事項1の前記第二のリン酸エステルを用いるものであり、次のステップ:
a. ナフテン酸を含む前記炭化水素を加熱して前記炭化水素の一部を蒸発させる;
b. 前記炭化水素蒸気を凝縮し、前記炭化水素処理ユニットを通過させて凝縮蒸留物を生成させ;
c. 前記凝縮蒸留物が前記炭化水素処理ユニットに戻されるか又は生成物として回収される前に、前記蒸留物に1から2000ppmの事項1の前記第二のリン酸エステルを腐食防止効果的量を添加して反応混合物を形成させ;
d. 前記反応混合物を前記炭化水素処理ユニットの前記金属性表面に接触させて前記表面上に保護膜を形成させて、前記表面を腐食に対して防止し;及び
e. 前記凝縮蒸留物を前記炭化水素処理ユニットに戻すか、又は生成物として回収することを含む、方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法であり、前記流が原油、フィードストック及び炭化水素流及び/又はそれらのフラクションを含む、方法。
【請求項8】
実質的にここで記載され実施例で説明された、新規非ポリマー性非汚損性添加剤。
【請求項9】
実質的にここで記載され実施例で説明された、高温ナフテン酸腐食防止の方法。

【公表番号】特表2012−524167(P2012−524167A)
【公表日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−505286(P2012−505286)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際出願番号】PCT/IB2010/051636
【国際公開番号】WO2010/119417
【国際公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(510070120)ドルフ ケタール ケミカルズ(I) プライベート リミテッド (6)
【Fターム(参考)】