説明

高温雰囲気炉内観察装置

【課題】コンパクトな構造でありながら、炉内の粉塵を含むガスが観察装置内に巻き込まれ、レンズや反射板や開口部に疵が生じる等の問題を抑制でき、結露の問題も改善された高温雰囲気炉内観察装置を提供する。
【解決手段】高温雰囲気炉内に挿入された筒状の撮影部により、前記高温雰囲気炉内の状態を撮影する高温雰囲気炉内観察装置において、両端が開口した略管状のカメラハウジングにカメラ本体部を内蔵させ、カメラハウジングの元端側から冷却ガスを供給してカメラ本体部を冷却し、カメラハウジングの先端から冷却ガスを排出すると共に、カメラハウジングの先端近傍にガス逃し口を設け、冷却ガスの一部をカメラハウジングの外に排出し、カメラハウジングの先端から排出された冷却ガスと合流させて前記撮影部の外に放出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温度の雰囲気となるコークス炉や熱風炉、熱処理炉、プラズマ焼却・溶融炉等の内部の耐火壁や炉内の状況を観察する高温炉内の観察装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高温の雰囲気で操業を行うコークス炉や熱風炉、熱処理炉等では、内壁の耐火物の損耗状態や炉内の状況等を把握するために、観察窓を設けた多重管に、金属製の反射板とCCDカメラを内装した観察装置により炉内の状況等を把握することが行われている。しかし、炉内の雰囲気が高温であることから、CCDカメラや反射板等の撮像装置が熱の影響を受けて損傷して寿命が低下したり、粉塵等の存在により、反射板に汚れあるいは疵が生じて観察不能等を招く場合がある。
【0003】
この対策として、特許文献1、特許文献2では、観察窓の耐熱ガラスに外側から高圧気体を吹き付けたり、冷却気体のカーテンを形成して耐熱ガラスを冷却することが提案されているが、観察窓に耐熱ガラスを設置しているため、内管に収納されたCCDカメラ等の撮像装置に供給する冷却気体の通気抵抗が増加し、高温雰囲気に暴露された撮像装置を十分に冷却することができず、寿命が低下したり、粉塵により耐熱ガラスに疵が生じたり、耐熱ガラスの表面に付着するため透視が悪くなるという問題がある。
【0004】
一方、観察窓を開口し、観察装置内側から炉内側へパージガスを流すことにより観察装置内側に粉塵を含む炉内ガスが侵入しない方式としたものも知られており、更に特許文献3では、撮影部に冷却気体を供給すると共に、該冷却気体を観察窓から放出することにより反射板等に塵が付着するのを防止する方式、即ち撮影部に流す冷却気体にパージガスの役割を兼用させる方式が提案されており、この方式は上記特許文献1、特許文献2の方式よりも有効であるが、特許文献3の技術では、観察窓から放出された冷却気体の流れが乱れて負圧域が発生し、炉内の粉塵を含むガスが観察装置内に巻き込まれ、レンズ前方の開口(テーパー)部や反射板に疵が生じたり、粉塵が開口(テーパー)部や反射板の表面、あるいはカメラレンズに付着する場合がある。
【0005】
この問題を解決するために、特許文献4では、多重管を使用し、内管の内部に供給する冷却気体量をその外側に供給する冷却気体量よりも多くし、前記外側に供給する冷却気体量に対する内管に供給する冷却気体量の比を1.2〜2.0にすることにより、内管の冷却気体流とその外管から供給された冷却気体流の干渉を抑制し、負圧領域及び不安定領域の発生を防止して炉内の粉塵が観察装置内に巻き込まれるのを防止する技術が提案されている。
【特許文献1】実開平5−25300号公報
【特許文献2】特開平8−145577号公報
【特許文献3】特開平9−307795号公報
【特許文献4】特開2002−90070号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献4の技術によれば、炉内の粉塵が内管内に巻き込まれ、粉塵が反射板の表面に付着すること等を防止するのに有効である。しかしながら、本発明者の検討によれば、特許文献4は、多重管の使用を必須とし、装置が複雑化・大型化すると共に、冷却気体の供給も2通り必要であって、冷却気体の供給量も多くなり、またその制御に細心の注意を要する等の問題があることが判明した。更に、特許文献3、特許文献4の技術は、冷却気体にパージガスの役割を兼用させるため、いきおい供給する冷却気体の量が多くなり、場合によってはカメラレンズに結露が発生し、鮮明な画像が得られないことがある。
【0007】
更に、上記方式によれば、冷却気体(パージガス)の放出により、炉内の高温ガスが装置内に巻き込まれるのをある程度は防止できるもの、完全に流入を防止するのは困難であり、微量流入した炉内の高温気体に含まれる高温粉塵及びガス物質が冷却雰囲気にある装置内環境により急冷され、カメラレンズやその周辺に凝縮・固化し、カメラの視野を阻害する場合がある。
【0008】
本発明はかかる従来技術の欠点を改善し、コンパクトな構造でありながら、炉内の粉塵を含むガスが観察装置内に巻き込まれ、レンズや反射板や開口(テーパー)部に疵が生じたり、粉塵がレンズや反射板や開口(テーパー)部の表面等に付着(凝縮・固化)することを抑制でき、結露の問題も改善された高温雰囲気炉内観察装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、カメラハウジング内に冷却ガスを供給してカメラ本体部を冷却し、カメラハウジングの先端から冷却ガスを排出する際に、カメラハウジングの構造を工夫し、カメラハウジングの先端近傍にガス逃し口を設けることにより冷却ガスの一部をカメラハウジングの外に排出し、カメラハウジングの先端から排出された冷却ガスと合流させて撮影部の外に放出させる方式によれば、炉内の粉塵が観察装置内に巻き込まれ、レンズや反射板や開口(テーパー)部に疵が生じたり、粉塵がレンズや反射板開口(テーパー)部の表面等に付着(凝縮・固化)することを抑制でき、結露の問題も改善できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち本発明は、高温雰囲気炉内に挿入された筒状の撮影部により、前記高温雰囲気炉内の状態を撮影する高温雰囲気炉内観察装置において、両端が開口した略管状のカメラハウジングにカメラ本体部を内蔵させ、カメラハウジングの元端側から冷却ガスを供給してカメラ本体部を冷却し、カメラハウジングの先端から冷却ガスを排出すると共に、カメラハウジングの先端近傍にガス逃し口を設け、冷却ガスの一部をカメラハウジングの外に排出し、カメラハウジングの先端から排出された冷却ガスと合流させて前記撮影部の外に放出させることを特徴とする高温雰囲気炉内観察装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、コンパクトな構造でありながら、炉内の粉塵が観察装置内に巻き込まれ、レンズやレンズ前方の開口(テーパー)部に疵が生じたり、粉塵がレンズや開口(テーパー)部の表面等に付着(凝縮・固化)することを抑制でき、結露の問題も改善された高温雰囲気炉内観察装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態を説明する。図1は本発明の一実施の形態に係る高温炉内の観察に用いる観察装置の全体断面図である。
【0013】
図1に示すように、撮影部1は、従来技術と同様に高温雰囲気炉内に挿入される筒状体(外筒)から構成される。かかる撮影部1の筒状体中には、カメラ本体部3を内蔵するカメラハウジング2が設置される。
【0014】
撮影部1の先端には遮光レンズ4や耐火物製のテーパー部5が設置され、撮影に際しては、撮影部の先端部の開口(従来技術の観察窓に相当)を介して前記高温雰囲気炉内の状態を撮影することは従来技術と同様である。
【0015】
カメラ本体部3は、炉内の状態を撮影するカメラ6と、カメラへの電源供給ケーブル、カメラ制御ケーブル、カメラからの撮影信号を伝えるビデオケーブル等から構成され、従来技術と同様のものでよく、その構成部材等について特に制限されない。
【0016】
これらを内蔵するカメラハウジング2は、両端が開口した略管状のものであり、カメラハウジングの先端は、カメラレンズとほぼ同径となるように構成されている。また、レンズ前方にはフロントキャップ部7が設けられ、テーパー状に形成された開口部8となっている。このように、開口部8をテーパー状に形成することによりカメラの視野が確保される。また、開口部8をテーパー状にすることにより、渦が発生しやすく、粉塵のレンズ部への侵入防止にも役立っている。テーパーの角度等は特に制限されず、先太状になっていれば問題はない。
【0017】
冷却ガスGは、カメラハウジング2の元端側から供給され、カメラ本体部3を沿うように流れ、これらを冷却した後、カメラ先端のレンズ部4表面をかすめながらカメラハウジング2の先端から排出され、前記撮影部1の外にパージガスとして放出され、炉内の粉塵を含む高温ガスが撮影部内に侵入するのを防止している。
【0018】
しかしながら、単に上記の如く冷却ガスを供給・排出したのでは、特許文献3の如き欠点があり、撮影部先端から放出された冷却気体の流れが乱れて負圧域が発生し、炉内の粉塵を含む高温ガスが観察装置内に巻き込まれるおそれがある。
【0019】
本発明では、かかる事態の発生を防止するために、カメラハウジング2の先端近傍にガス逃し口9を設け、冷却ガスGの一部をカメラハウジング2の外に排出し、カメラハウジングの先端から排出された冷却ガスと合流させて前記撮影部の外に放出させるものである。
【0020】
炉内の粉塵を含む高温ガスの流入は、冷却ガスの放出である程度は防止できるが、完全な流入防止は困難であり、わずかに観察装置内に巻き込まれることがある。観察装置内に巻き込まれた粉塵は、冷却ガスにより再放出されるが、それでも微量の高温粉塵及びガス物質が冷却してカメラポート周辺に付着し、凝縮・固化・成長しカメラの視野を阻害するという問題があった。
【0021】
本発明は、上記構成の採用により、かかる問題を解決し、レンズ前方の開口(テーパー)部等に粉塵に付着することを防止し、あわせて冷却気体によるカメラレンズの結露の問題も改善するものである。
【0022】
ガス逃し口9の設けられるカメラハウジングの先端近傍とは、カメラハウジング2の先端付近で、少なくともカメラ先端のレンズ部4よりもカメラハウジングの元端側であれば良いが、あまりに元端側にあると本発明所期の効果が発現しない。ガス逃し口の設けられる好ましい位置を数値的に示せば、カメラの制御駆動部のうち最も炉内側の位置(実装置ではカメラ絞り部)を原点(0)とし、カメラ先端のレンズ部を100とすると、逃がし口(中心)は30以上で100以下の位置にあるのが好ましく、出来るだけ先端に近い位置(80以上100以下)にあるのが特に好ましい。
【0023】
また、カメラハウジングの先端近傍に設けられるガス逃し口9は、分岐する冷却ガスの比率が供給する冷却ガスの70〜80容量%となるように構成されるものであれば特に制限はなく、例えば略管状のカメラハウジング2の側面に、カメラハウジングの軸方向を鉛直方向したした場合の水平方向に、等間隔で数個の穴を設けることでも達成できるが、以下に述べる構成とすることが、装置のメンテナンス等の点で好ましい。
【0024】
即ち、図2に示すような複数個(例えば9個)の穴10が等間隔に空けられた凸状のリング部材(オス部材)11と、図3に示すような同じく複数個(例えば9個)の穴12が等間隔に空けられた凹状のリング部材(メス部材)13とを、図4に示すように嵌め合わせた部材14を、ガス逃し口用部材とすることが好ましい。
【0025】
かかる嵌め合わせ部材14を用いることにより、オス部材11とメス部材13の穴同士(10、10、……と12、12、……)を正面対向させると逃しガス量は最大となり、嵌め合い部をスライドさせてオス部材とメス部材の穴の対向加減を調節することで、逃しガス量を調節することができる。嵌め合い部をスライドさせても逃しガスの流路を確保するように、オス部材のガス逃し穴が並んでいる外周面は溝切り状に構成される。オス部材のガス逃し穴から抜けてきたガスは、この溝切り部を通じて、メス部材のガス逃し穴へ流れていき、ガスの滞留を防いでいる。
【0026】
また、オス部材とメス部材の穴のいくつかを、オス部材とメス部材の嵌め合いを固定するための固定ネジを挿入するために用いることもできる。また、固定の目的ではなく、逃しガスの流れを調節するために、ネジを挿入することもできる。
【0027】
このように、ガス逃し口9を、カメラハウジングから取り外し可能な嵌め合わせ部材14で構成することは、装置に合わせた逃しガス量の調節が簡単に行え、また万が一ガス逃し口に粉塵等が付着した場合の修理・掃除等の面で有効である。
【0028】
本発明に用いる冷却ガスとしては、炉内の燃焼条件を考慮すると窒素が好ましいが、空気、酸素、ヘリウム等も使用することができる。また、冷却ガスの圧力、流量は特に制限されず、従来技術と同等でよい。
【0029】
また、撮影部1である筒状体(外筒)は、従来技術の如く冷却水により冷却する構造としてもよい。
【0030】
尚、本発明では、上記構成の採用により、レンズやレンズ前方の開口(テーパー)部の表面等に粉塵が付着することを抑制できるので、特に反射板を設けずに、カメラレンズと開口を対向させた形式のよりコンパクトな観察装置とすることができるが、勿論、従来技術の如く、観察窓を装置側面側に設け、カメラレンズに対し45°程度の傾斜角を持つ反射板を介して炉内を観察する形式とすることもできる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明する。
【0032】
高温炉の一例である雰囲気温度が1500℃以上の溶融炉にカメラを挿入して観察を行った。
【0033】
観察装置としては、図1に示す装置において、ガス逃し口用部材として図4に示す嵌め合わせ部材14を取り付けたものを用いた。この嵌め合わせ部材は、それぞれ9個の穴が等間隔に空けられた凸状のリング部材(オス部材)と、凹状のリング部材(メス部材)の穴同士を正面対向させ、等間隔で3個の穴に両者を固定するための固定ネジを挿入したものである。
【0034】
冷却ガスGをカメラハウジング2の元端側から20〜25Nm/hで供給したところ、カメラ本体部3を沿うように流れ、これらを冷却した後、そのうち15〜17.5Nm/hがガス逃し口9からカメラハウジング2の外に排出され、残り5〜7.5Nm/hがカメラ先端のレンズ部4表面をかすめながらカメラハウジング2の先端から排出され、次いで両者は合流させて撮影部の外(炉内)に放出された。
【0035】
この条件で300時間炉内を観察したが、テーパー部への粉塵の付着(凝縮・固化)は認められず、レンズの結露もなく、安定した炉内観察が可能であった。
【0036】
一方、ガス逃し口を設けないこと以外は同様の装置を用い、40時間炉内を観察したところ、テーパー部への付着物(凝縮・固化)が認められた。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施の形態に係る高温炉内の観察に用いる観察装置の全体断面図である。
【図2】ガス逃し口用部材の構成部材である複数個の穴が等間隔に空けられた凸状のリング部材(オス部材)を示す図であり、(a) は上面図、(b) は(a) のA−A線断面図である。
【図3】ガス逃し口用部材の構成部材である複数個の穴が等間隔に空けられた凹状のリング部材(メス部材)を示す図であり、(a) は上面図、(b) は(a) のA−A線断面図である。
【図4】ガス逃し口用部材に用いられるオス部材とメス部材を嵌め合わせ部材を示す図であり、(a) は上面図、(b) は(a) のA−A線断面図である。である。
【符号の説明】
【0038】
1 撮影部
2 カメラハウジング
3 カメラ本体部
4 レンズ
5 テーパー部
6 カメラ
7 フロントキャップ部
8 開口部
9 ガス逃し口
10 穴
11 凸状のリング部材(オス部材)
12 穴
13 凹状のリング部材(メス部材)
14 嵌め合わせ部材
G 冷却ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温雰囲気炉内に挿入された筒状の撮影部により、前記高温雰囲気炉内の状態を撮影する高温雰囲気炉内観察装置において、両端が開口した略管状のカメラハウジングにカメラ本体部を内蔵させ、カメラハウジングの元端側から冷却ガスを供給してカメラ本体部を冷却し、カメラハウジングの先端から冷却ガスを排出すると共に、カメラハウジングの先端近傍にガス逃し口を設け、冷却ガスの一部をカメラハウジングの外に排出し、カメラハウジングの先端から排出された冷却ガスと合流させて前記撮影部の外に放出させることを特徴とする高温雰囲気炉内観察装置。
【請求項2】
カメラハウジングの先端近傍に設けられるガス逃し口により分岐する冷却ガスの比率が、供給する冷却ガスの70〜80容量%である請求項1記載の高温雰囲気炉内観察装置。
【請求項3】
カメラハウジングの先端近傍に設けられるガス逃し口が、複数個の穴が等間隔に空けられた凸状のリング部材(オス部材)と、同じく複数個の穴が等間隔に空けられた凹状のリング部材(メス部材)とを、嵌め合わせた部材により構成される請求項1又は2記載の高温雰囲気炉内観察装置。
【請求項4】
ガス逃し口の開口調整により、分岐する冷却ガスのガス流量を調節可能とした請求項1〜3の何れか1項記載の高温雰囲気炉内観察装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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