説明

高濃度ルチン含有飲料

【課題】高濃度ルチンを含有しつつ、沈殿の発生が抑制された容器詰高濃度ルチン含有飲料を提供することを目的とする。
【解決手段】ルチン濃度が70〜1100 ppmの範囲であり、且つ、(A)ルチンと(B)ケルセチンの重量比率[(A)/(B)]が3.7〜58.0であることを特徴とする、容器詰高濃度ルチン含有飲料を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルチンを高濃度で含む容器詰飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
ルチン(ルトサイド、ケルセチン−3−ルチノシドとも称する)はケルセチンにルチノースが結合した配糖体である。その生理活性には、毛細血管収縮作用、毛細血管の強化作用を含み、脳出血などの予防に効果があると言われている。また、ルチンには抗酸化能があるため、活性酸素を除去し血液を浄化する作用を有する。さらに、ヒスタミンの遊離を抑える抗アレルギー作用があるといわれている。
【0003】
ルチンは天然に広く分布しており、マメ科のエンジュの花蕾、タデ科のソバ等に多く含まれている。従来、ルチンを含む食品としてはソバ茶があり、健康性と嗜好性から幅広く飲用されている(例えば、特許文献1)。このようなルチンの有益な生理効果を発現させるためには、一日当り100mgを摂取することが必要であり(非特許文献1を参照)、ルチンを高濃度配合する技術の開発が望まれていた。
【0004】
一方、従来の市販のソバ茶に含まれるルチンは6 mg/100 g(60 ppm)程度であった。また、高濃度ルチンを配合した飲料は一般的にエグ味が醸し出される。過度のエグ味は一般的嗜好には好まれず、飲料として適さない。
【特許文献1】特開昭60−262585
【非特許文献1】化学大辞典編集委員会編、「化学大辞典9」、共立出版株式会社、昭和59年3月、p. 839-840
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らはルチン強化飲料を製造することを試み、高濃度のソバ抽出液を得たところ、沈殿が生じるという問題が明らかとなった。近年ではペットボトル等の透明な容器が飲料容器として用いられることが多いため、このような沈殿は商品価値を落とすものであり好ましくない。そこで本発明は、高濃度ルチンを含有しつつ、沈殿の発生が抑制された容器詰高濃度ルチン含有飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑み、本発明者らが鋭意研究した結果、飲料中に含まれる原料由来のケルセチンが沈殿の発生に関係していることが見出された。ケルセチンはソバに含まれており、ルチン濃度を高めるためにソバ抽出液の濃度を上昇させた結果、ルチンとともにケルセチンの濃度も上昇し、これによって沈殿が発生したものと考えられた。しかしながら、本発明者らは、高濃度の抽出液であっても、飲料中のルチンとケルセチンとの比率をある範囲に調整することにより、沈殿の発生が抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明によれば、ルチン濃度が70〜1100 ppmの範囲であり、且つ、(A)ルチンと(B)ケルセチンの重量比率[(A)/(B)]が3.7〜58.0であることを特徴とする、容器詰高濃度ルチン含有飲料が提供される。
【0008】
また、本発明の他の側面から、飲料中のルチン濃度を70〜1100 ppmの範囲に調整し、且つ、飲料中の(A)ルチンと(B)ケルセチンの重量比率[(A)/(B)]を3.7〜58.0に調整することによる、容器詰高濃度ルチン含有飲料の製造方法及び沈殿発生の抑制方法が提供される。ここで、前記水溶性ルチンは、好ましくはαグルコシル化ルチンである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ルチンを高濃度で含有しながらも沈殿の発生が抑制され、且つ良好な香味を有する高濃度ルチン含有飲料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の容器詰高濃度ルチン含有飲料は、ルチン濃度が70〜1100 ppmの範囲であり、且つ、成分(A)としてのルチンと、成分(B)としてのケルセチンの重量比率[(A)/(B)]が3.7〜58.0であることを特徴とするものである。
【0011】
上記ルチン濃度及びルチン/ケルセチンの重量比率は、原料物質を抽出して得られた抽出液に、水溶性ルチンを添加することによって達成される。即ち、本発明の飲料におけるルチン濃度とは、原料由来の天然のルチンと、添加された水溶性ルチンを総合したルチン濃度を指す。
【0012】
また或いは、上記ルチン濃度及びルチン/ケルセチンの重量比率は、原料物質を高濃度で抽出して得られる高濃度ルチンを含む抽出物において、例えば原料物質や抽出液に対する加熱度合を調節し、ケルセチン生成を抑制することによっても達成できる。さらに、ルチン分解によるケルセチン生成を抑制することによっても達成できる。ルチン分解酵素の失活は、例えば特許第2766259号に開示されているように、原料を湿熱処理することによって行っても良い。またさらに、上記ルチン濃度及びルチン/ケルセチンの重量比率は、上記高濃度ルチンを含む原料抽出液中のケルセチンを公知の濾過方法により除去することによって達成してもよい。また、上記記載の方法を適宜組み合わせてもよい。
【0013】
ここで「水溶性ルチン」とは、水溶性が増大するよう改変されたルチンを意味する。水溶性ルチンとしては、αグルコシル化ルチンが好適に用いられる。αグルコシル化ルチンとは、酵素の転移作用によりグルコースをルチンにα-グルコシル化させたものである。水溶性ルチンには、例えば、モノグルコシルルチン、ジグルコシルルチン、トリグルコシルルチン、テトラグルコシルルチン等が含まれ、特にモノグルコシルルチンが含まれる。水溶性ルチン(α-グルコシル化ルチン)の市販品としては、例えば、東洋精糖(株)の商品名「αGルチンPS-D」を用いることができる。このα-グルコシル化ルチンは「酵素処理ルチン」とも称されている。
【0014】
「ケルセチン」は、ケッパー、リンゴ、お茶(チャノキ)、タマネギ、ブドウ、ブロッコリー、モロヘイヤ、ラズベリー、コケモモ、クランベリー、オプンティア、その他、葉菜類、柑橘類、蜂蜜等に多く含まれ、ソバにも含まれている。本発明の飲料に含まれるケルセチンは、原料由来のものである。
【0015】
本発明の飲料において、高濃度のルチンを含有するとは、その飲料本来のルチン濃度より高濃度のルチンを含有することを意味する。具体的には、例えばソバ茶では70 ppm以上のルチンを含むことを意図するが、これに限定されない。
【0016】
また、本発明の飲料において、ルチン含有量は、1100 ppm以下であることが好ましい。ルチンの含有量が1100 ppmを上回ると、エグ味が強くなり、香味が悪く飲料として適さない。本発明の飲料におけるルチンの含有量は、70〜1100ppmの範囲であり、80〜1050 ppmがより好ましく、90〜1000 ppmがさらに好ましく、100〜840 ppmが特に好ましい。
【0017】
本発明の飲料において、ルチン/ケルセチン重量比は3.7〜58.0であることが好ましい。重量比が3.7を下回ると、容器詰飲料における沈殿の発生を効果的に抑制できなくなる恐れがある。一方、重量比率が58.0を上回ると、ルチンが高濃度すぎてエグ味が強く香味が悪くなり、飲料としての適性を欠く。ルチン/ケルセチンの重量比率は、好ましくは3.7〜58.0であり、より好ましくは6.3〜55.0であり、さらに好ましくは9.5〜52.0であり、特に好ましくは32.2〜46.7である。
【0018】
本発明の飲料におけるケルセチンの含有量は、特に限定されるものではないが、ルチン含有量とルチン/ケルセチンの含有比率から算出すると1〜297 ppmとなる。ケルセチンの含有量が増大するにつれて、沈殿が発生しやすくなる傾向があると考えられる。
【0019】
本発明において「飲料」とは、原料となる植物を抽出して得た抽出液又は搾汁して得た搾汁液を、加工して調製した飲料用の生産物を意味する。
【0020】
本発明で用いられる原料は、天然にルチンを含有する植物であることが好ましく、特に、ソバの実や全草、又は、茶樹(Camellia sinensis var. sinensisやCamellia sinensis var. assamica、またはこれらの雑種)の葉や茎から製造された茶葉(例えば、煎茶、玉露、かぶせ茶、番茶、釜炒り緑茶等の不発酵茶、ジャスミン茶等の不発酵茶に花の香りを移した花茶、白茶等の弱発酵茶、烏龍茶等の半発酵茶、紅茶等の発酵茶等)、又は、柑橘類などの、ルチン含有量が多い植物であることが好ましく、特にダッタンそばが好ましいが、これらに限定されない。
【0021】
さらにまた、蜂蜜、アズキ、トマト、イチジク、サクランボ、アンズ、アスパラガス、ジャガイモなにもルチンが含まれており、これらを原料に用いることもできる。
【0022】
さらにこの他、玄米、大麦、小麦、ハト麦、とうもろこし、アマランサス、キヌア、ナンバンキビ、モズク、甘草、ハス、シソ、マツ、オオバコ、ローズマリー、桑、ギムネマ、ケツメイシ、大豆、昆布、霊芝、熊笹、柿、ゴマ、紅花、アシタバ、陳皮、グァバ、アロエ、ギムネマ、杜仲、ドクダミ、チコリー、月見草、ビワ等の各種植物の葉、茎、根等を併用してもよい。
【0023】
本発明において「容器詰」とは、金属、ガラス、プラスチック、紙、及び/又は、金属やプラスチックフィルムと複合された紙から作られる容器等に飲料が充填、密封されてなる状態を意味する。上記のようにして調製された飲料を充填、密封するための容器として、透明なガラス瓶、ポリエチレンテレフタレートを主成分とする成形容器(いわゆるPETボトル)、酸素バリヤー層等を設けた多層成形容器等の透明プラスチック容器を使用する場合、外部から内容物である飲料が目視可能であるため、その沈殿の発生を抑制又は防止することは重要である。
【0024】
次に、本発明の容器詰高濃度ルチン含有飲料の製造方法を説明する。本発明の容器高濃度ルチン含有飲料は、原料となる植物から抽出液を得、これに水溶性ルチンを添加することにより製造することができる。抽出液の濃度を上昇させて原料由来のルチン濃度を高めた上で、さらに水溶性ルチンを添加することにより高濃度ルチン含有飲料を製造することが好ましいが、これに限定されず、通常濃度の抽出液に水溶性ルチンを添加することにより、高濃度ルチン含有飲料を製造してもよい。抽出液の濃度は、原料、製造工程、最終的な飲料などの種々の要因を考慮して、当該分野の技術者が適宜選択することができる。
【0025】
まず、原料の抽出又は搾汁を行う。抽出条件は、原料の種類、抽出機の種類、最終製品の形態等により適宜選択されるものである。抽出は、例えば熱水に原料を浸漬して行ってもよく、或いは熱水をスプレーすることにより行っても良い。一方、原料の搾汁は、原料を破砕して搾るか又は裏ごしすることにより行う。搾汁液は、任意にこれを濃縮したもの、又は濃縮したものを希釈して搾汁の状態に戻したものであってよい。
【0026】
以下の説明では、原料を抽出した抽出液を用いた飲料の調製工程について記載するが、搾汁液を用いた飲料の調製も同様に行うことができる。
【0027】
上記で得られた抽出液は、冷却した後、カートリッジフィルター、ネル濾布、濾過板、濾紙、濾過助剤を併用したフィルタープレス等の濾過法や遠心分離法によって固液分離する。
【0028】
なお、公知の沈殿発生を抑制又は防止する方法、例えば、酵素処理により水溶性多糖成分を分解する方法、原因物質や沈殿を限外濾過やケイ藻土濾過によって物理的に取り除く方法等を併用してもよい。
【0029】
次いで、飲料中のルチン濃度が70〜1100 ppmの範囲であり、且つ、飲料中の(A)ルチンと(B)ケルセチンの重量比率[(A)/(B)]が3.7〜58.0の範囲になるように、水溶性ルチンを添加し、調合液を作成する。調合液は、そのまま飲料として提供できる濃度で作成してもよく、或いはさらに希釈して最終的な飲料とするための濃縮液であってもよく、ルチン添加濃度はそれぞれの場合で適宜調節すればよい。
【0030】
上記調合液は、必要に応じて、ビタミンCやアスコルビン酸ナトリウム等、及び、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウムや炭酸カリウム等のpH調整剤によってpHを調整する。また、必要に応じて、アスコルビン酸やアスコルビン酸ナトリウム等の酸化防止剤、香料、乳化剤、保存料、甘味料、着色料、酸味料、増粘安定剤、調味料、強化剤等の添加剤を単独又は組み合わせて配合してもよい。
【0031】
本発明の容器詰飲料は、必要に応じて製造工程のいずれかの段階で殺菌を行う。殺菌の条件は食品衛生法に定められた条件と同等の効果が得られる方法を選択すればよいが、例えば、容器として耐熱容器を使用する場合にはレトルト殺菌を行えばよい。また、容器として非耐熱性容器を用いる場合は、例えば、調合液をプレート式熱交換機等で高温短時間殺菌後、所定温度まで冷却し、ホットパック充填するか冷却後に無菌充填を行う。
【0032】
充填後、飲料中のルチン及びケルセチンの濃度を測定する。ルチン及びケルセチン濃度は、HPLCで定量分析することができる。
【0033】
以上の方法により製造された本発明の容器詰高濃度ルチン含有飲料は、ルチンを高濃度で含有しながらも、沈殿の発生が抑制されており、特に透明容器に充填される場合に有利である。
【0034】
さらに、本発明の他の側面から、飲料中のルチン濃度が70〜1100 ppmの範囲になるように水溶性ルチンを添加し、且つ、飲料中の(A)ルチンと(B)ケルセチンの重量比率[(A)/(B)]を3.7〜58.0に調整することによる、容器詰高濃度ルチン含有飲料の沈殿発生の抑制方法が提供される。
【実施例】
【0035】
以下、実施例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
ソバ茶を用い、ルチン濃度とルチン/ケルセチン重量比を変動させ、沈殿の発生の有無を観察した。
【0036】
試験1〜16のそれぞれについて、殻を取り除いたダッタンそばの実をその10倍程度の95〜98℃の熱水に90分間浸漬し、抽出液を得た。抽出液を25℃以下に冷却した。冷却した抽出液を、9200rpmで6L/分、遠心分離機(ウェストファリア セパレーター株式会社 SA1)により濾過した。その後、住友スリーエム株式会社キュノポリプロクリーン1μカートリッジフィルターにより濾過を行った。各試験例において用いたダッタンそばの実の量は表1に示したとおりである。
【0037】
試験3を除く各試験例について、抽出液に水溶性ルチン(東洋精糖製αGルチンPS−D)を添加した。各試験例における水溶性ルチンの添加量は表1に示したとおりである。αGルチンPS−Dは、50倍程度の水に溶解して添加した。続いて、各試験例にビタミンCを300 ppm添加し、殺菌後のpHが5.7、6.0、又は6.3になるように重炭酸ナトリウムで調整し、定量して調合液を作成した。
【0038】
この調合液を135℃、60秒間加熱して殺菌した。次いで、25℃に冷却し、PETボトルに無菌充填した。得られた充填後の飲料のルチン濃度及びケルセチン濃度を測定した。測定は以下の条件で行った。
【0039】
1.試料
・ルチン標品 和光純薬工業製 『Rutin』
・ケルセチン標品 ナガライテスク製 『Quercetin』
・水溶性ルチン 東洋精糖製 『αGルチンPS−D』
2.試験液調整
・ルチン標準液
和光純薬工業製『Rutin』を適当な濃度になるようメスフラスコに製秤し、99%メタノールで溶解し、ルチン標準液とした。
【0040】
・ケルセチン標準液
ナガライテスク製『Quercetin』を適当な濃度になるようメスフラスコに製秤し、99%メタノールでケルセチン標準液とした。
【0041】
・水溶性ルチン液
東洋製糖製『αGルチンPS−D』を適度な濃度になるようメスフラスコに採取し、99%メタノールで溶解定容してHPLCに供した。
【0042】
・試験液
適度な濃度になるよう99%メタノールで希釈し、0.45μmのメンブランフィルターにてろ過を行い試験液とした。
【0043】
3.HPLC条件
HPLC装置 :Waters社のAQUITY UPLC
カラム :C18 2.1×100mm
カラム温度 :40℃
溶媒 :A液;アセトニトリル:水:ギ酸=5:95:0.1
B液;アセトニトリル:水:ギ酸=95:5:0.1
グラジェント :0-2min A:B=90:10→60:40
2-15min A:B=90:10→60:40
流速 :200μl/min
検出波長 :354nm
なお、試験液は2度測定を行い、平均値を求めて含量とした。
【0044】
4.計算方法
(1)ルチン
試験液中のルチン濃度(ppm)=標準液の濃度×(試験液中のモノグルコシルルチン、ルチンのピーク面積の和/標準液中のルチンのピーク面積)
(2)ケルセチン
試験液中のケルセチンの濃度(ppm)=標準液の濃度×(試験液中のケルセチンのピーク面積/標準液中のケルセチンのピーク面積)
※試験液中のルチン濃度は、試験液中のモノグルコシルルチン、ルチンの面積の和を、標準液のルチンの面積と濃度から求めた。
※標品のルチン、ケルセチン含量を100として計算した。
※水溶性ルチン液を使用し、モノグルコシルルチンのピークの確認を行った。
【0045】
各試験例のルチン濃度及びケルセチン濃度を表1に示した。なお、表1に示したルチン濃度は、水溶性ルチン添加後の濃度である。即ち、原料由来のルチンと添加した水溶性ルチンを含めた濃度である。
充填後の飲料を静置し、沈殿の発生の有無を観察した。また、飲料の香味を調べた。その結果を表1に示す。
【表1】

【0046】
沈殿発生が認められた試験3及び10は、ルチン/ケルセチン比がそれぞれ3.23及び3.66である。これにより、ルチン/ケルセチン比が3.7以上であれば、沈殿が生じない傾向があることが示された。また、試験3、5、6、及び11は、ケルセチン濃度が略同じであるが、ルチン無添加の試験3はルチン/ケルセチン比が3.23であり、沈殿が生じている。一方、ルチン/ケルセチン比がそれぞれ3.83、4.80及び6.23である試験5,6及び11では、沈殿が生じていない。このことからも、ルチンを添加し、ルチン/ケルセチン比を一定値以上に調整することにより、沈殿発生を抑制できることが示された。
【0047】
一方、試験15及び16はルチン/ケルセチン比がそれぞれ58.39、67.28である。これらの飲料は、沈殿は生じないものの、エグ味が強く、香味が不良となる傾向があった。よって、飲料の商品的確性の観点から、ルチン/ケルセチン比は、58.0を超えないことが好ましいことが示された。さらに、表1から、飲料中のルチンの適切な濃度は、70〜1100 ppmであることが示された。
【0048】
以上の結果からは、ケルセチンと比較してルチンが少量の場合に安定性が悪くなる傾向が見られた。ケルセチン同士が結合して凝集することにより沈殿が生じ、これを水溶性ルチンがケルセチン間に入り込むことにより妨げている可能性があると考えられる。
【0049】
以上記載したように、本発明は、ルチン濃度及びルチン・ケルセチン比を調整することにより、沈殿発生が抑制された高濃度ルチン含有飲料を提供することができる。本発明は特に、ルチンと共にケルセチンを含有する植物を原料とした飲料及び該飲料の製造において有利に適用されることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルチン濃度が70〜1100 ppmの範囲であり、且つ、(A)ルチンと(B)ケルセチンの重量比率[(A)/(B)]が3.7〜58.0であることを特徴とする、容器詰高濃度ルチン含有飲料。
【請求項2】
前記飲料が、ソバ抽出液、茶抽出液又は柑橘類果汁を含む、請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
前記飲料がソバ茶である、請求項1に記載の飲料。
【請求項4】
飲料中のルチン濃度を70〜1100 ppmの範囲に調整し、且つ、飲料中の(A)ルチンと(B)ケルセチンの重量比率[(A)/(B)]を3.7〜58.0に調整することによる、容器詰高濃度ルチン含有飲料の製造方法。
【請求項5】
前記水溶性ルチンがαグルコシル化ルチンである、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記飲料が、ソバ抽出液、茶抽出液、又は柑橘類果汁から調製されることを特徴とする、請求項4又は5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記飲料がソバ抽出液から調製されることを特徴とする請求項4又は5に記載の製造方法。
【請求項8】
飲料中のルチン濃度を70〜1100 ppmの範囲に調整し、且つ、飲料中の(A)ルチンと(B)ケルセチンの重量比率[(A)/(B)]を3.7〜58.0に調整することによる、容器詰高濃度ルチン含有飲料の沈殿発生の抑制方法。

【公開番号】特開2010−35474(P2010−35474A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−201486(P2008−201486)
【出願日】平成20年8月5日(2008.8.5)
【特許番号】特許第4340323号(P4340323)
【特許公報発行日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(591014972)株式会社 伊藤園 (213)
【Fターム(参考)】