説明

高炉セメントを用いたコンクリート組成物

【課題】二酸化炭素の排出量を抑制しつつ、調製したコンクリート組成物の経時的な流動性の低下や空気量の低下を抑えて良好な施工性を確保することができ、また得られる硬化体の乾燥収縮を抑制することができ、更に得られる硬化体に必要な強度を発現させることができるコンクリート組成物を提供する。
【解決手段】少なくとも、セメント、水、細骨材、粗骨材及び混和材を含有して成るコンクリート組成物であって、セメントとして下記の高炉セメントを用い、且つ水/該高炉セメント比を20〜60%に調製し、また該高炉セメント100質量部当たり、混和材の少なくとも一部として特定のセメント分散剤、乾燥収縮低減剤及び凝結促進剤を所定量含有させた。
高炉セメント:粉末度が3000〜13000cm/gの高炉スラグ微粉末とポルトランドセメントとからなり、且つ該高炉スラグ微粉末を60〜80質量%及びポルトランドセメントを20〜40質量%(合計100質量%)の割合で含有する高炉セメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高炉セメントを用いたコンクリート組成物に関する。近年、二酸化炭素の排出量の削減やエネルギー消費効率の改善についての要求が益々強くなっている。かかる事情に鑑み、コンクリート組成物の分野においても、製鉄所から副産する高炉水砕スラグが、高炉スラグ微粉末の形で高炉セメントの原料として有効利用されている。一般にコンクリート組成物に使用されている高炉セメントは、普通ポルトランドセメントに高炉スラグ微粉末を混合して造られ、JIS−R5211の規格では、高炉スラグ微粉末の分量によって、A種(5%超〜30%)、B種(30%超〜60%)及びC種(60%超〜70%)の3種類に分けられている。かかる高炉セメントは、水和熱が低い、長期強度の伸びが大きい、水密性が大きい、硫酸塩に対する化学的侵食に対して抵抗性が大きい、アルカリ骨材反応の抑制効果がある等の有利な点を有しているが、乾燥収縮がポルトランドセメントに比べて大きく、高炉セメントを用いたコンクリート組成物から得られる硬化体は収縮ひび割れが発生し易いという問題や、ポルトランドセメントに比べて中性化による劣化が速いという不利な点も有している。このような理由から、高炉セメントとしては、性能バランスの良い高炉セメントB種に限られて使用されているのが実情であるが、高炉セメントB種はコンクリート1m中に250〜450kgの割合で混入するのが一般的であり、高炉セメントB種1トンを工場で製造するために約400kgの二酸化炭素を排出しているので、高炉セメントB種を用いてコンクリート組成物1mを調製するためには、施工機械の運転や材料の運搬等により発生する二酸化炭素の排出を除き、100〜180kgの二酸化炭素を排出していることになる。そのため、コンクリート工事においては、施工性を確保しつつ、得られる硬化体が必要な強度を有することを前提として、高炉セメントB種よりも高炉スラグ微粉末の分量が多い高炉セメントを使用することにより二酸化炭素の発生を抑制する技術の出現が要求されている。本発明はかかる要求に応える高炉セメントを用いたコンクリート組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、用いる高炉スラグ微粉末の粉末度や置換率がコンクリート組成物に及ぼす影響について報告されている(例えば、非特許文献1参照)。ここでは、普通ポルトランドセメントに対する高炉スラグ微粉末の使用量が多くなると、普通ポルトランドセメント単独使用に比べて、初期強度が低下し、中性化が早くなり、乾燥収縮が大きくなる等、コンクリート物性のマイナス傾向が顕著になることが報告されている。別に、かかる高炉スラグ微粉末等に加えて各種の混和材を用いたいくつかの提案も報告されている(例えば、特許文献1〜11参照)。しかし、これらの従来提案には実際のところ、高炉セメントB種よりも高炉スラグ微粉末の分量が多い高炉セメントを使用すると、1)良好な施工性を確保できない、2)硬化体の乾燥収縮率を抑えることが難しい、3)硬化体の圧縮強度の低下が大きい等、何らかの点で重大な支障をきたすという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62−158146号公報
【特許文献2】特開昭63−2842号公報
【特許文献3】特開平1−167267号公報
【特許文献4】特開平5−155648号公報
【特許文献5】特開平10−114555号公報
【特許文献6】特開2000−143326号公報
【特許文献7】特開2002−321949号公報
【特許文献8】特開2003−306359号公報
【特許文献9】特開2005−281123号公報
【特許文献10】特開2007−217197号公報
【特許文献11】特開2007−297226号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「高炉スラグ微粉末を用いたコンクリートの技術の現状」、日本建築学会編、1992年、3頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、高炉セメントB種よりも高炉スラグ微粉末の分量が多い高炉セメントを使用することにより二酸化炭素の排出量を抑制しつつ、1)調製したAEコンクリートの経時的な流動性の低下や空気量の低下を抑えて良好な施工性を確保すること、2)得られる硬化体の乾燥収縮率が高炉セメントB種を用いた場合に比べて大きくならないようにすること、3)得られる硬化体が必要な強度を発現すること、以上の1)〜3)の基本的な諸性能を同時に発現できるコンクリート組成物を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
しかして本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、結合材として高炉スラグ微粉末を高い割合で含有する特定の高炉セメントを用い、またこれと共に特定の混和材を所定割合で用いたコンクリート組成物が正しく好適であることを見出した。
【0007】
すなわち本発明は、少なくとも、セメント、水、細骨材、粗骨材及び混和材を含有して成るコンクリート組成物であって、セメントとして下記の高炉セメントを用い、且つ水/該高炉セメント比を20〜60%に調製し、また該高炉セメント100質量部当たり、混和材の少なくとも一部として下記のA成分を0.1〜1.5質量部、下記のB成分を0.2〜4.0質量部及び下記のC成分を0.1〜5.0質量部の割合で含有して成ることを特徴とする高炉セメントを用いたコンクリート組成物に係る。
【0008】
高炉セメント:粉末度が3000〜13000cm/gの高炉スラグ微粉末とポルトランドセメントとからなり、且つ該高炉スラグ微粉末を60〜80質量%及びポルトランドセメントを20〜40質量%(合計100質量%)の割合で含有する高炉セメント。
【0009】
A成分:下記の水溶性ビニル共重合体P及び下記の水溶性ビニル共重合体Qから選ばれる一つ又は二つ以上の水溶性ビニル共重合体からなるセメント分散剤。
水溶性ビニル共重合体P:分子中に下記の構成単位Xを45〜85モル%、下記の構成単位Yを15〜55モル%及び下記の構成単位Zを0〜10モル%(合計100モル%)の割合で有する質量平均分子量2000〜80000の水溶性ビニル共重合体。
構成単位X:メタクリル酸から形成された構成単位及びメタクリル酸塩から形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上
構成単位Y:分子中に5〜150個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するメトキシポリエチレングリコールメタクリレートから形成された構成単位
構成単位Z:(メタ)アリルスルホン酸塩から形成された構成単位及びメチルアクリレートから形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上
【0010】
水溶性ビニル共重合体Q:分子中に下記の構成単位Lを40〜60モル%及び下記の構成単位Mを60〜40モル%(合計100モル%)の割合で有する質量平均分子量2000〜50000の水溶性ビニル共重合体。
構成単位L:マレイン酸から形成された構成単位及びマレイン酸塩からから形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上
構成単位M:分子中に5〜100個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するα−アリル−ω−メチル−ポリオキシエチレンから形成された構成単位及び分子中に5〜100個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するα−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレンから形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上
【0011】
B成分:乾燥収縮低減剤
C成分:凝結促進剤
【0012】
本発明に係る高炉セメントを用いたコンクリート組成物(以下、本発明のコンクリート組成物という)は、少なくとも結合材、水、細骨材、粗骨材及び混和材を用い、結合材として特定の高炉セメントを含有し、また特定の混和剤を所定割合で含有して成るものである。かかる高炉セメントは、粉末度が3000〜13000cm/gの高炉スラグ微粉末を60〜80質量%及びポルトランドセメントを20〜40質量%(合計100質量%)の割合で含有するものである。
【0013】
前記の高炉スラグ微粉末は、粉末度が3000〜13000cm/gのものを使用するが、好ましくは3000〜8000cm/gのものを使用し、より好ましくは3500〜6500cm/gのものを使用する。粉末度が3000〜13000cm/gの範囲を外れたものを使用すると、調製したコンクリート組成物の流動性が悪くなったり、得られる硬化体の強度発現が低下したりする。尚、本発明において粉末度はブレーン法による比表面積で表したものである。
【0014】
また前記のポルトランドセメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント等が挙げられるが、汎用の普通ポルトランドセメントが好ましい。
【0015】
本発明のコンクリート組成物において、結合材として用いる高炉セメントは、前記の高炉スラグ微粉末を60〜80質量%及びポルトランドセメントを20〜40質量%(合計100質量%)の割合で含有するものであるが、前記の高炉スラグ微粉末を64〜76質量%及びポルトランドセメントを24〜36質量%(合計100質量%)の割合で含有するものが好ましい。したがって本発明のコンクリート組成物において結合材として用いる高炉セメントには、JIS−R5211の規格に適合する高炉セメントC種が含まれる。
【0016】
本発明のコンクリート組成物において、水としては水道水を使用でき、また細骨材としては、公知の川砂、砕砂、山砂等を使用でき、更に粗骨材としては、公知の川砂利、砕石、軽量骨材等を使用できる。
【0017】
本発明のコンクリート組成物は、水/高炉セメントの質量比を20〜60%に調製したものであるが、好ましくは25〜50%に調製したものとする。かかる質量比が60%より大きいと、得られる硬化体の乾燥収縮が大きくなり過ぎたり、強度の低下が著しくなる。逆にかかる質量比が20%より小さいと、調製したコンクリート組成物の流動性や空気量の経時的な低下が大きくなり、施工性が低下する。尚、本発明において水/高炉セメントの質量比は、(用いた水の質量/用いた高炉セメントの質量)×100で求められるものである。
【0018】
本発明のコンクリート組成物は、混和材として、A成分のセメント分散剤、B成分の乾燥収縮低減剤及びC成分の凝結促進剤を含有して成るものである。
【0019】
A成分のセメント分散剤は、水溶性ビニル共重合体P及び水溶性ビニル共重合体Qから選ばれる一つ又は二つ以上の水溶性ビニル共重合体からなるものである。ここで水溶性ビニル共重合体Pは、分子中に下記の構成単位Xを45〜85モル%、下記の構成単位Yを15〜55モル%及び下記の構成単位Zを0〜10モル%(合計100モル%)の割合で有する質量平均分子量2000〜80000(GPC法、プルラン換算、以下同じ)の水溶性ビニル共重合体である。
【0020】
構成単位X:メタクリル酸から形成された構成単位及びメタクリル酸塩から形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上
構成単位Y:分子中に5〜150個、好ましくは7〜90個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するメトキシポリエチレングリコールメタクリレートから形成された構成単位
構成単位Z:(メタ)アリルスルホン酸塩から形成された構成単位及びメチルアクリレートから形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上
【0021】
A成分のセメント分散剤として用いる前記の水溶性ビニル共重合体Pそれ自体は公知の方法で合成できる。例えば特開昭58−74552号公報、特開平1−226757号公報等に記載されている方法で合成できる。かかる水溶性ビニル共重合体Pからなるセメント分散剤の使用量は、高炉セメント100質量部当たり、0.1〜1.5質量部、好ましくは0.2〜1.0質量部の割合とする。
【0022】
また水溶性ビニル共重合体Qは、分子中に下記の構成単位Lを40〜60モル%及び下記の構成単位Mを40〜60モル%(合計100モル%)の割合で有する質量平均分子量2000〜50000の水溶性ビニル共重合体である。
【0023】
構成単位L:マレイン酸から形成された構成単位及びマレイン酸塩からから形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上
構成単位M:分子中に5〜100個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するα−アリル−ω−メチル−ポリオキシエチレンから形成された構成単位及び分子中に5〜100個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するα−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレンから形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上
【0024】
A成分のセメント分散剤として用いる前記の水溶性ビニル共重合体Qそれ自体は公知の方法で合成できる。例えば特開昭57−118058号公報、特開2005−132955号公報、特開2008−273766号公報等に記載されている方法で合成できる。かかる水溶性ビニル共重合体Qからなるセメント分散剤の使用量は、高炉セメント100質量部当たり、0.1〜1.5質量部、好ましくは0.2〜1.0質量部の割合とする。
【0025】
B成分の乾燥収縮低減剤としては、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルからなるものが好ましく、なかでもジエチレングリコールモノブチルエーテル及びジプロピレングリコールジエチレングリコールモノブチルエーテルから選ばれる一つ又は二つ以上がより好ましい。かかる乾燥収縮低減剤の使用量は、高炉セメント100質量部当たり、0.2〜4.0質量部、好ましくは0.6〜3.5質量部の割合とする。
【0026】
C成分の凝結促進剤としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム等の炭酸塩の他に、塩化カルシウム、亜硝酸塩、チオシアン酸塩、硫酸塩等が挙げられるが、なかでも、初期強度の増進効果において炭酸塩及び塩化カルシウムが好ましく、炭酸ナトリウムがより好ましい。かかる凝結促進剤の使用量は、高炉セメント100質量部当たり、0.1〜5.0質量部、好ましくは0.3〜3.0質量部の割合とする。
【0027】
本発明のコンクリート組成物では、これを通常は3〜6容量%の空気を連行するAEコンクリートとする場合、空気連行(AE)剤を使用できる。空気連行剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルベンゼンスルホン酸塩、ロジン石けん、高級脂肪酸石けん、アルキルリン酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステル塩等、公知のものを使用できる。逆にコンクリート組成物を練り混ぜて調製する際に空気量過多となる場合には、消泡剤を単独使用するか又は消泡剤を前記の空気連行剤と併用することができる。かかる消泡剤としては、ポリオキシアルキレングリコールエーテル誘導体、変性ポリジメチルシロキサン、リン酸トリアルキル等が挙げられ、その使用量は、高炉セメント100質量部当たり、0.001〜0.01質量部の割合とするのが好ましい。
【0028】
本発明のコンクリート組成物は、以上説明した高炉セメント、水、細骨材、粗骨材、粗骨材及びA〜Cの各成分の混和材をコンクリートミキサーを用いて練り混ぜて調製することができる。練り混ぜ手順は特に制限されないが、高炉セメント、水、細骨材及び粗骨材をコンクリートミキサーで先練りする一方で、A〜Cの各成分の混和材を練り混ぜ水で希釈しておき、しかる後に双方を練り混ぜる方法が好ましい。これらの練り混ぜに際しては、本発明の効果を損なわない範囲内で、必要に応じて、硬化促進剤、凝結遅延剤、防錆剤、防水剤、防腐剤等の添加剤を併用することができる。
【0029】
かくして調製される本発明のコンクリート組成物からは乾燥収縮率が800×10−6以下となる硬化体を得ることができ、高炉セメントB種を用いたコンクリート組成物の場合と同等以上の品質の良い硬化体が得られる。また本発明のコンクリートは、建設現場で打設されるコンクリート組成物としてだけでなく、コンクリート製品工場で加工される二次製品用のコンクリート組成物としても適用できる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によると、コンクリート組成物を調製するに当たり二酸化炭素の排出量を抑制することができ、また調製したコンクリート組成物の経時的な流動性の低下や空気量の低下を抑えて良好な施工性を確保することができ、更に得られる硬化体の乾燥収縮を抑制することができ、そして得られる硬化体に必要な強度を発現させることができるという効果がある。
【0031】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明が該実施例に限定されるというものではない。なお、以下の実施例等において、別に記載しない限り、%は質量%を、また部は質量部を意味する。
【実施例】
【0032】
試験区分1(A成分のセメント分散剤としての水溶性ビニル共重合体の合成)
・水溶性ビニル共重合体(ap−1)の合成
メタクリル酸60g、メトキシポリ(オキシエチレン単位数が23個、以下n=23とする)エチレングリコールメタクリレート300g、メタリルスルホン酸ナトリウム5g、3−メルカプトプロピオン酸6g及び水490gを反応容器に仕込んだ後、48%水酸化ナトリウム水溶液58gを加え、攪拌しながら部分中和して均一に溶解した。反応容器内の雰囲気を窒素置換した後、反応系の温度を温水浴にて60℃に保ち、過硫酸ナトリウムの20%水溶液25gを加えてラジカル重合反応を開始し、5時間反応を継続して反応を終了した。その後、48%水酸化ナトリウム水溶液24gを加えて反応物を完全中和し、水溶性ビニル共重合体(ap−1)の40%水溶液を得た。水溶性ビニル共重合体(ap−1)を分析したところ、メタクリル酸ナトリウムから形成された構成単位/メトキシポリ(n=23)エチレングリコールメタクリレートから形成された構成単位/メタリルスルホン酸ナトリウムから形成された構成単位=70/27/3(モル%)の割合で有する質量平均分子量が31700の水溶性ビニル共重合体であった。
【0033】
・水溶性ビニル共重合体(ap−2)〜(ap−4)及び(apr−1)〜(apr−4)の合成
水溶性ビニル共重合体(ap−1)の合成と同様にして、水溶性ビニル共重合体(ap−2)〜(ap−4)及び(apr−1)〜(apr−4)を合成した。以上で合成した各水溶性ビニル共重合体の内容を表1にまとめて示した。
【0034】
【表1】

【0035】
表1において、
構成単位X〜Z:各構成単位を形成することとなる単量体で表示した。
X−1:メタクリル酸ナトリウム
X−2:メタクリル酸
Y−1:メトキシポリ(n=23)エチレングリコールメタクリレート
Y−2:メトキシポリ(n=68)エチレングリコールメタクリレート
Y−3:メトキシポリ(n=9)エチレングリコールメタクリレート
Z−1:メタリルスルホン酸ナトリウム
Z−2:アリルスルホン酸ナトリウム
Z−3:メチルアクリレート
【0036】
・水溶性ビニル共重合体(aq−1)の合成
無水マレイン酸98g及びα−アリル−ω−メチル−ポリオキシエチレン(n=33)512gを反応容器に仕込み、攪拌しながら均一に溶解した後、反応容器内の雰囲気を窒素置換した。反応系の温度を温水中にて80℃に保ち、アゾビスイソブチロニトリル3gを投入してラジカル重合反応を開始した。更にアゾビスイソブチロニトリル5gを分割投入し、ラジカル重合反応を4時間継続して反応を完結した。得られた共重合体に水を加えて加水分解して水溶性ビニル共重合体(aq−1)の40%水溶液を得た。水溶性ビニル共重合体(aq−1)を分析したところ、マレイン酸から形成された構成単位/α−アリル−ω−メチル−ポリオキシエチレン(n=33)から形成された構成単位=50/50(モル比)の割合で有する質量平均分子量23000の水溶性ビニル共重合体であった。
【0037】
・水溶性ビニル共重合体(aq−2)〜(aq−4)及び(aqr−1)〜(aqr−4)の合成
水溶性ビニル共重合体(aq−1)の合成と同様にして、水溶性ビニル共重合体(aq−2)〜(aq−4)及び(aqr−1)〜(aqr−4)を合成した。以上で合成した各水溶性ビニル共重合体の内容を表2にまとめて示した。
【0038】
【表2】

【0039】
表2において、
構成単位L及びM:各構成単位を形成することとなる単量体で表示した。
L−1:マレイン酸
L−2:マレイン酸ナトリウム
M−1:α−アリル−ω−メチル−ポリオキシエチレン(n=33)
M−2:α−アリル−ω−メチル−ポリオキシエチレン(n=68)
M−3:α−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレン(n=33)
M−4:α−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレン(n=23)
【0040】
試験区分2(コンクリート組成物の調製)
実施例1〜23
表3に記載の配合番号の条件で、50リットルのパン型強制練りミキサーに、練混ぜ水(水道水)、高炉スラグ微粉末を65%及び普通ポルトランドセメントを35%(合計100%)の割合で含有する高炉セメント(密度=2.99g/cm、粉末度4020cm/g)、細骨材(大井川水系産川砂、密度=2.58g/cm)、A成分のセメント分散剤として水溶性ビニル共重合体(ap−1)、B成分の乾燥収縮低減剤としてジエチレングリコールモノブチルエーテル(b−1)、C成分の凝結促進剤として炭酸ナトリウム(c−1)の各所定量を順次投入し、更に空気量調節剤(竹本油脂社製のAE剤で、商品名AE−300)を投入して、次に粗骨材(岡崎産砕石、密度=2.68g/cm)を投入して60秒間練り混ぜ、目標スランプが18±1cm、目標空気量が4.5±1%とした実施例1の水/高炉セメントの質量比が50%のコンクリート組成物を調製した。同様の方法で、実施例2〜23の水/高炉セメントの質量比が30〜50%のコンクリート組成物を調製した。
【0041】
比較例1〜23
実施例1と同様の方法で比較例1〜23の水/高炉セメントの質量比が45〜50%のコンクリート組成物を調製した。実施例も含め、以上の各例で調製したコンクリート組成物の内容を表4にまとめて示した。






【0042】
【表3】

【0043】
表3において、
s−1:高炉スラグ微粉末を65%及び普通ポルトランドセメントを35%(合計100%)の割合で含有する高炉セメント(密度=2.99g/cm、粉末度4020cm/g)
s−2:高炉スラグ微粉末を70%及び普通ポルトランドセメントを30%(合計100%)の割合で含有する高炉セメント(密度=2.98g/cm、粉末度4040cm/g)
s−3:高炉スラグ微粉末を75質量%及び普通ポルトランドセメントを25質量%(合計100%)の割合で含有する高炉セメント(密度=2.96g/cm、粉末度4050cm/g)
sr−1:高炉セメントB種(密度=3.04g/cm、粉末度3850cm/g)


























【0044】
【表4】

【0045】
表4において、
添加量:高炉セメント100質量部当たりの固形分質量部
*1:リグニンスルホン酸塩を主成分とするセメント分散剤(竹本油脂社製の商品名チューポールEX20)
*2:ナフタレンスルホン酸ホルマリン高縮合物塩を主成分とするセメント分散剤(竹本油脂社製の商品名ポールファイン510AN)
*3:メラミンスルホン酸ホルマリン高縮合物塩を主成分とするセメント分散剤(竹本油脂社製の商品名ポールファインMF)
ap−1〜ap−4及びapr−1〜apr−4:表1に記載したセメント分散剤としての水溶性ビニル共重合体
aq−1〜aq−4及びaqr−1〜aqr−4:表2に示したセメント分散剤としての水溶性ビニル共重合体
b−1:ジエチレングリコールモノブチルエーテル
b−2:ジプロピレングリコールジエチレングリコールモノブチルエーテル
c−1:炭酸ナトリウム
c−2:炭酸カリウム
c−3:塩化カルシウム
【0046】
試験区分3(調製したコンクリート組成物の評価)
調製した各例のコンクリート組成物について、空気量、スランプ、スランプ残存率を下記のように求めた。また各例のコンクリート組成物から得た硬化体について、乾燥収縮率及び圧縮強度を下記のように求めた。
【0047】
・空気量(容量%):練り混ぜ直後のコンクリート組成物及び更に60分間静置後のAEコンクリートについて、JIS−A1128に準拠して測定した。
・スランプ(cm):空気量の測定と同時に、JIS−A1101に準拠して測定した。
・スランプ残存率(%):(60分間静置後のスランプ/練り混ぜ直後のスランプ)×100で求めた。
・乾燥収縮率:JIS−A1129に準拠し、各例のコンクリート組成物を20℃×60%RHの条件下で保存した材齢26週の供試体についてコンパレータ法により乾燥収縮ひずみを測定し、乾燥収縮率を求めた。この数値は小さいほど、乾燥収縮が小さいことを示す。
・圧縮強度(N/mm):各例のコンクリート組成物について、JIS−A1108に準拠し、材齢7日及び材齢28日で測定した。
・二酸化炭素排出量:コンクリート組成物1mを製造する場合の二酸化炭素の排出量(kg)。但し、ポルトランドセメントの使用量から計算した値。
【0048】
結果を表5及び表6にまとめて示した。各実施例のコンクリート組成物は、結合材として高炉セメントB種を用いた比較例23に比べて、高炉スラグ微粉末の使用量が多い分だけコンクリート組成物1mを製造するための二酸化炭素の排出量が少なく、また調整したコンクリート組成物の経時的な流動性に優れ、更に得られる硬化体の乾燥収縮率が800×10−6よりも小さく、必要とされる充分な圧縮強度が得られている。












【0049】
【表5】























【0050】
【表6】

【0051】
表6において、
比較例4、14〜16及び18〜20:目標とする流動性(スランプ値)が得られなかったので測定しなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、セメント、水、細骨材、粗骨材及び混和材を含有して成るコンクリート組成物であって、セメントとして下記の高炉セメントを用い、且つ水/該高炉セメントの質量比を20〜60%に調製し、また該高炉セメント100質量部当たり、混和材の少なくとも一部として下記のA成分を0.1〜1.5質量部、下記のB成分を0.2〜4.0質量部及び下記のC成分を0.1〜5.0質量部の割合で含有して成ることを特徴とする高炉セメントを用いたコンクリート組成物。
高炉セメント:粉末度が3000〜13000cm/gの高炉スラグ微粉末とポルトランドセメントとから成り、且つ該高炉スラグ微粉末を60〜80質量%及びポルトランドセメントを20〜40質量%(合計100質量%)の割合で含有する高炉セメント。
A成分:下記の水溶性ビニル共重合体P及び下記の水溶性ビニル共重合体Qから選ばれる一つ又は二つ以上の水溶性ビニル共重合体からなるセメント分散剤。
水溶性ビニル共重合体P:分子中に下記の構成単位Xを45〜85モル%、下記の構成単位Yを15〜55モル%及び下記の構成単位Zを0〜10モル%(合計100モル%)の割合で有する質量平均分子量2000〜80000の水溶性ビニル共重合体。
構成単位X:メタクリル酸から形成された構成単位及びメタクリル酸塩から形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上
構成単位Y:分子中に5〜150個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するメトキシポリエチレングリコールメタクリレートから形成された構成単位
構成単位Z:(メタ)アリルスルホン酸塩から形成された構成単位及びメチルアクリレートから形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上
水溶性ビニル共重合体Q:分子中に下記の構成単位Lを40〜60モル%及び下記の構成単位Mを60〜40モル%(合計100モル%)の割合で有する質量平均分子量2000〜50000の水溶性ビニル共重合体。
構成単位L:マレイン酸から形成された構成単位及びマレイン酸塩からから形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上
構成単位M:分子中に5〜100個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するα−アリル−ω−メチル−ポリオキシエチレンから形成された構成単位及び分子中に5〜100個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するα−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレンから形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上
B成分:乾燥収縮低減剤
C成分:凝結促進剤
【請求項2】
高炉スラグ微粉末が、その粉末度が3500〜6500cm/gのものであり、またポルトランドセメントが普通ポルトランドセメントである請求項1記載の高炉セメントを用いたコンクリート組成物。
【請求項3】
高炉セメントが、高炉スラグ微粉末を64〜76質量%及びポルトランドセメントを24〜36質量%(合計100質量%)の割合で含有するものである請求項1又は2記載の高炉セメントを用いたコンクリート組成物。
【請求項4】
B成分の乾燥収縮低減剤が、ジエチレングリコールモノブチルエーテル及びジプロピレングリコールジエチレングリコールモノブチルエーテルから選ばれる一つ又は二つ以上である請求項1〜3のいずれか一つの項記載の高炉セメントを用いたコンクリート組成物。
【請求項5】
C成分の凝結促進剤が、炭酸塩及び塩化カルシウムから選ばれる一つ又は二つ以上である請求項1〜4のいずれか一つの項記載の高炉セメントを用いたコンクリート組成物。
【請求項6】
C成分の凝結促進剤が、炭酸ナトリウムである請求項1〜5のいずれか一つの項記載の高炉セメントを用いたコンクリート組成物。
【請求項7】
得られる硬化体の乾燥収縮率が800×10−6以下となるものである請求項1〜6のいずれか一つの項記載の高炉セメントを用いたコンクリート組成物。

【公開番号】特開2010−285292(P2010−285292A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−137979(P2009−137979)
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「エネルギー使用合理化技術戦略的開発/エネルギー有効利用基盤技術先導研究開発/エネルギー・CO2ミニマム(ECM)セメント・コンクリートシステムの研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【出願人】(000210654)竹本油脂株式会社 (138)
【Fターム(参考)】