説明

高炉下部通気性評価方法及び高炉操業方法

【課題】高炉炉壁部の実際のガス流速を測定可能とし、これにより高炉下部の通気性を正確に評価可能な、高炉下部通気性評価方法を提供すること。また、上記の高炉下部通気性評価方法を用いた高炉操業方法を提供すること。
【解決手段】高炉の送風羽口より吹込まれたトレーサーガスを前記送風羽口上部位置で検出し、前記トレーサーガスの吹込みから検出までの時間に基づき炉内ガス流速を測定することを特徴とするガス流速の測定方法を用いる。トレーサーガスの検出を高炉の炉腹以下の位置で行なうこと、ガス流速の測定方法を用いて測定した炉内ガス流速と、高炉の炉体に設置した圧力計により測定した送風羽口とトレーサーガス検出位置との圧力差を用いて高炉下部の通気性を評価すること、高炉下部通気性評価方法を用いて操業条件を変更することが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高炉下部の通気性評価方法と、これを用いた高炉操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉における生産性向上は、コスト削減だけでなく二酸化炭素削減からも重要な課題である。図3に高炉の断面の概略図を示す。図3(a)において、高炉10の上部は鉱石1とコークス2との交互装入により形成された塊状帯3であり、下部はコークス充填層4からなる鉱石の融液が滴下する滴下帯5である。6は融着層である。また図3(b)は図1(a)の羽口7とレースウェイ8付近の拡大図である。高炉10は巨大な向流充填層反応容器であり、反応効率の面からは全断面積で均一な反応が望ましい。しかし、コークス充填層4が容器内を降下する場合、炉壁による整列効果により炉壁部には空隙率が大きくガスが流れやすい空隙大部分9が形成され、さらに高炉10は反応ガスである熱風を炉外周部から羽口7を通じて吹き込む構造となっているため、炉壁部をガスが選択的に流れやすい特性(炉壁流化)がある。
【0003】
上記の炉壁流化は、鉄鉱石が溶け落ちる以前の領域である塊状帯3では、鉱石1とコークス2の層厚比や鉱石粒径分布などを半径方向で制御(装入物分布制御)することによりある程度の補正が可能であるが、コークスしか存在しない下部の領域である滴下帯5での炉壁流化は不可避である。そこで送風ガス速度(羽口前ガス速度)を上昇させ(国内高炉では通常150〜250m/s)コークスの存在しない領域であるレースウェイ8を介して炉中心部方向に極力ガスを押し込む構造としている。十分な送風機能力と熱風炉耐圧があれば羽口7の径を絞ることにより羽口前速度の上昇は理論上可能であるが、その場合はレースウェイ8内を旋回するコークスの粉化が増大してしまい、滴下帯5の通気悪化による炉壁流化や生産減が発生する。そのため高強度コークスの使用と高羽口ガス速度上昇の併用が高生産性には不可欠である。
【0004】
コークス強度は事前に測定可能であり、冷間強度や反応後強度を指標とした操業も行なわれている。しかし高炉内におけるコークス粉化機構は複雑であることから炉下部通気性をこれらの強度のみに基づいて制御することは困難であり、コークス強度の下限を設定して操業しても、高炉下部滴下帯5の通気性悪化とそれに伴う炉壁流化を完全に回避することは不可能である。滴下帯5の通気性が突然悪化すると、圧力損失によるコークスと溶融滴下物の吹き上げを引き起こし操業不調の原因となるため、滴下帯5の通気性は常時監視する必要がある。
【0005】
炉下部通気性を評価する方法として、炉下部の圧力測定結果を用いる手法が知られており、炉下部の通気性が悪化したと思われる場合には一時的な減産(送風量減)を行うことで操業不調の発生を回避することができる。また、通気性の悪化が頻発する場合は、コークス強度下限値の引き上げをおこなうことで対応できるが、この場合にはコストの上昇となる(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2003−306708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、炉下部の圧力測定結果を用いる手法では、炉下部の通気性の正確な評価が困難であるという問題がある。電気抵抗値算出には電圧と電流値の測定が必要であるように、正確な通気抵抗測定にはガス流速と圧力損失(圧力差)の両方の測定値が必要である。従来技術では炉壁部圧力損失のみ実測値を用い、炉壁部のガス流速については送風量からの推定値を用いていた。しかしレースウェイからのガスの分配は不均一かつ不安定であるうえ、ガス温度についても推定値を用いざるを得ないため、炉壁部の実際のガス流速は推定値とは異なるものであると考えられる。
【0007】
したがって本発明の目的は、このような従来技術の課題を解決し、高炉炉壁部の実際のガス流速を測定可能とし、これにより高炉下部の通気性を正確に評価可能な、高炉下部通気性評価方法を提供することにある。
【0008】
また本発明の他の目的は、上記の高炉下部通気性評価方法を用いた高炉操業方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を解決するための本発明の特徴は以下の通りである。
(1)、高炉の送風羽口より吹込まれたトレーサーガスを前記送風羽口上部位置で検出し、前記トレーサーガスの吹込みから検出までの時間に基づき炉内ガス流速を測定することを特徴とするガス流速の測定方法。
(2)、トレーサーガスの検出を高炉の炉腹以下の位置で行なうことを特徴とする(1)に記載のガス流速の測定方法。
(3)、(1)または(2)に記載のガス流速の測定方法を用いて測定した炉内ガス流速と、高炉の炉体に設置した圧力計により測定した送風羽口とトレーサーガス検出位置との圧力差を用いて高炉下部の通気性を評価することを特徴とする高炉下部通気性評価方法。
(4)、(3)に記載の高炉下部通気性評価方法を用いて操業条件を変更することを特徴とする高炉操業方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、炉下部の通気性悪化を正確に検知可能となり、通気性悪化に起因する操業不調をほぼ確実に回避可能となる。また、高強度を有する過剰に高品質のコークスを使用する必要がなくなり溶銑コスト削減が可能となる。さらに増産期には炉下部通気性に余裕がある時点で生産量を増加させる操業が可能となり、トラブルの発生無く高炉の生産性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明者らは高炉下部の通気性を正確に評価するためには、炉壁部分のガス流速の実測が不可欠であると考えた。そして、羽口からトレーサーガスを吹き込み、ガス吹込み位置よりも上部でそのガスを検出し、吹込みガスを検出するまでに要する時間(採取した時間遅れ)から炉壁ガス流速を測定可能であることを見出し、また、測定した炉壁ガス流速を用いて炉下部通気性を示す通気性指数を計算し、計算の結果に基づいて、高炉に装入する原料の品質や高炉操業条件を操作する高炉操業方法を見出して、本発明を完成した。本発明は、高炉の送風羽口より吹込まれたトレーサーガスを前記送風羽口上部位置で検出し、前記トレーサーガスの吹込みから検出までの時間に基づき炉内ガス流速を測定することを特徴とするガス流速の測定方法である。トレーサーガスの検出を高炉の炉腹以下の位置で行なうことが好ましい。また、上記のガス流速の測定方法を用いて測定した炉内ガス流速と、高炉の炉体に設置した圧力計により測定した送風羽口とトレーサーガス検出位置との圧力差を用いて高炉下部の通気性を評価することを特徴とする高炉下部通気性評価方法である。さらに、前記の高炉下部通気性評価方法を用いて操業条件を変更することを特徴とする高炉操業方法である。
【0012】
図面を用いて本発明を説明する。図1は高炉の断面の概略図であり、図1に示すように、炉内ガスをガス採取管11で採取してガス採取管11に接続したガス分析器12によりモニターしながら、トレーサーガス13を羽口7から吹き込み、吹込まれたガスがガス採取管11で採取されるまでの時間(時間遅れ)を測定する。そして、羽口とガス採取管11までの距離と、時間遅れとから炉内ガス流速を計算する。ガス採取管11は高炉の滴下帯5に対応する、高炉の炉腹または朝顔位置に設置することが望ましい。また羽口7とガス採取管11位置との圧力差は、羽口7での圧力損失やレースウェイ8内コークス燃焼による圧力変動が大きいので、送風圧ではなく炉体に圧力計14を設置して、測定した値を使用することが望ましい。トレーサーガス13としては、不活性ガスを用いることが好ましく、ヘリウムガス、アルゴンガス等を用いることが好ましい。また、トレーサーガスは間欠的に吹込むことが好ましい。
【0013】
炉内の通気性を示す通気性指数をガス流速と圧力損失から算出する。通気性指数の算出方法は任意であるが、算出方法は簡便な程望ましく、たとえば、ΔPを圧力差(差圧)、vをガス流速として、従来用いられているK値を改良した、下記式(A)を用いることができる。
【0014】
K’=ΔP/v1.7(kg/cm2)/(m/s)1.7・・・(A)
通気性指数を用いて高炉下部の通気性を評価する。本発明のガス流速の測定方法を用いて算出された通気性指数を用いることで、高炉下部の通気性を正確に評価することができる。
【0015】
本発明の高炉下部通気性評価方法を用いれば、高炉下部の通気性を正確に評価することができるので、得られた通気性指数に基づいて操業条件を変更して高炉操業を行なうことで、通気性悪化に起因する操業不調をほぼ確実に回避することが可能となる。
【実施例1】
【0016】
内容積4000m3級の高炉において、図1と同様の設備を設置して、通気性の評価を行なった。
【0017】
当該高炉は通常、コークス比は360kg/t、微粉炭吹き込み量は140kg/t、還元材比は500kg/tで操業を行なうものであり、コークス冷間強度指数は84を下限値として管理しており、炉下部の通気性は炉壁部圧力損失のみを測定して算出したK値を用いてモニターし、K値が上昇した場合は減産を行ない、8700t/dの維持を生産目標としているものであった(従来K値判定)。
【0018】
上記の従来K値判定による操業を6ヶ月行ない、6ヶ月目以降、炉内のガス流速を測定して上記の式(A)を用いたK’による炉下部の通気性判定に切り替えた。高炉操業に使用した冷間コークスの強度指数と、生産量の変化を図2に示す。K’の値から通気性の余力を判定して、通気性を維持しながら積極的に生産量をふやすことにより約300t/dの増産が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態を説明する高炉の断面の概略図。
【図2】高炉操業に使用した冷間コークスの強度指数と、生産量の変化を示すグラフ。
【図3】高炉の断面の概略図。
【符号の説明】
【0020】
1 鉱石
2 コークス
3 塊状帯
4 コークス充填層
5 滴下帯
6 融着層
7 羽口
8 レースウェイ
9 空隙大部分
10 高炉
11 ガス採取管
12 ガス分析器
13 トレーサーガス
14 圧力計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉の送風羽口より吹込まれたトレーサーガスを前記送風羽口上部位置で検出し、前記トレーサーガスの吹込みから検出までの時間に基づき炉内ガス流速を測定することを特徴とするガス流速の測定方法。
【請求項2】
トレーサーガスの検出を高炉の炉腹以下の位置で行なうことを特徴とする請求項1に記載のガス流速の測定方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のガス流速の測定方法を用いて測定した炉内ガス流速と、高炉の炉体に設置した圧力計により測定した送風羽口とトレーサーガス検出位置との圧力差を用いて高炉下部の通気性を評価することを特徴とする高炉下部通気性評価方法。
【請求項4】
請求項3に記載の高炉下部通気性評価方法を用いて操業条件を変更することを特徴とする高炉操業方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−342382(P2006−342382A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−167833(P2005−167833)
【出願日】平成17年6月8日(2005.6.8)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】