説明

高炉主樋カバー移動装置

【課題】互いに隣接する二つの出銑口前の主樋で共用される高炉主樋カバー移動装置において、いずれか一方の出銑口での主樋の点検補修作業者の安全を確保できる高炉主樋カバー移動装置を提供する。
【解決手段】旋回駆動装置10bにより水平方向に回転可能に保持された旋回ポスト9と、昇降駆動装置10aにより上下動可能に支持され、かつ、旋回ポスト側に前記昇降駆動装置の昇降駆動受け部と昇降駆動による上下動を支える支点を備え、旋回ポストとは反対側の端部に前記主樋カバーを吊り上げるための吊り部12を備えたアーム11とを有し、さらに、主樋カバー移動装置の動作範囲を制限するストッパー装置(ストッパー15、油圧シリンダー14および受け16で構成される)を備える高炉主樋カバー移動装置。ストッパー装置は、主樋カバー移動装置内に内蔵されていることが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉の出銑口前の主樋に主樋カバーを取り付け、または取り外すための高炉主樋カバー移動装置に関する。さらに詳しくは、当該装置が互いに隣接する二つの出銑口前の主樋で共用される場合において、一方の出銑口での出銑開孔作業もしくは閉塞作業の実施に伴い、その出銑口前の主樋に取り付けられた主樋カバーを待機位置へ移動させる時に、他方の出銑口での主樋の点検補修作業者の安全確保が簡便にかつ確実に行える高炉主樋カバー移動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉操業プロセスは、製品である銑鉄を溶融状態で生産するプロセスである。同プロセスでは、溶融状態の銑鉄(以下、「溶銑」と記す)および溶融状態のスラグ(以下、「溶滓」と記す)が炉下部の出銑口から排出(以下、「出銑」と記す)される。溶銑および溶滓は「溶銑滓」とも称される。
【0003】
高炉の出銑時には、出銑口から高温(約1500℃)の溶銑滓が主樋を流れるため、周辺の設備及び作業員への高温の溶銑滓の飛散防止や輻射熱に対する防熱対策として、主樋上を覆う主樋カバーが必要不可欠である。この主樋カバーが必要とされる範囲は、出銑口付近(一般に、出銑口から主樋の下流に向けて8m程度)である。主樋カバーが設置される前記出銑口付近の位置を、以下、「出銑口前の主樋位置」、または単に「出銑口前位置」と記す。
【0004】
主樋カバーは、出銑開孔を行う開孔機や出銑閉塞を行うマッドガンなどの鋳床機器の動作範囲内である出銑口前位置に設置されるので、出銑開孔時及び出銑閉塞時には、それら鋳床機器との干渉を回避するために、主樋カバーを所定の待機位置もしくは鋳床機器の出銑口前位置への移動に対し干渉しない退避位置(以下、退避位置も含めて「待機位置」と記す)に移動する必要がある。
【0005】
即ち、非出銑時には主樋カバーは待機位置にあるが、開孔機が出銑開孔のために主樋上の出銑口前位置に移動して出銑口を開孔し、その待機位置に後退した後、主樋カバーは出銑に備えて出銑口前の主樋位置に設置される。出銑中は、主樋カバーは主樋上の出銑口前位置に継続して設置される。出銑閉塞時には、主樋カバーを前記出銑口前位置から待機位置に移動させた後、出銑閉塞のためにマッドガンを主樋上の出銑口前位置に移動し、出銑口を閉塞する。
【0006】
高炉主樋カバーの移動装置では、旋回式や水平移動式などの方式で、10t〜30t級の主樋カバーを主樋上の出銑口前位置と待機位置の間で移動させる機能が必要とされる。
【0007】
このような高炉主樋カバーの移動は、以前は出銑口付近に配置されたジブクレーンやホイストクレーンを用い、人手を介して行われていた。しかし近年では、作業効率や作業環境を改善するために、主樋カバーの移動は遠隔操作により行われ、また自動化が図られている。
【0008】
一方、高炉の出銑口は一つの高炉に対して通常2〜5個設置されており、鋳床のレイアウトによっては、出銑口が近接する配置となるケースもある。このような場合、スペース上の制約やコスト上の有利性から主樋カバーの移動装置を隣接する二つの出銑口で共用する試みがなされている。
【0009】
例えば、特許文献1には、二つの隣り合う出銑口の間に配置され、かつ、水平方向に回転可能に支持された旋回支柱と、旋回支柱に沿って鉛直方向に昇降可能な旋回ブームと、該旋回ブームに搭載され、旋回ブームの長さ方向に移動可能な移動装置と、該移動装置に支持された樋カバー吊り部とを有する高炉出銑樋の孔前樋カバー移動装置が開示されている。この樋カバー移動装置によれば、装置全体のコンパクト化、簡易化が可能となり、出銑口近傍の作業スペースを広くすることが可能となり、作業性が向上し、より安全な作業が可能になるとしている。
【0010】
また、特許文献2には、鋳床作業床上に設けた支柱に旋回フレームを取り付け、該フレームの先端に、大樋カバーを吊り上げる俯仰アームを取り付けた水平回転自在なベースを吊支した大樋カバー着脱装置が記載されている。この装置によれば、大樋カバーを装着位置から待避位置まで自動的に移動でき、省力化と作業環境の大幅な改善が図れるとしている。
【0011】
特許文献3には、溶銑樋用大樋カバーを吊り下げて、溶銑樋上部の設置位置と退避位置の上方を旋回する主フレームと、主フレームの一端に懸吊された大樋カバーの昇降手段を備え、昇降手段を駆動させる加圧気体の圧力を検出して大樋カバーが巻き上げまたは巻き下げ停止位置にあることを安定して検出できる機構を備えたカバークレーンが記載されている。
【0012】
特許文献4には、高炉の出銑樋の近傍に設置された支柱を基準に旋回及び走行させる1点吊りクレーンを使用した主樋カバーの着脱装置が記載されている。この装置によれば、着脱作業を安全性及び経済性並びに省力化の下でより効率的に行うことが可能であるとしている。
【0013】
これら特許文献1〜4に記載の技術によれば、出銑口前の主樋カバーの移動を遠隔操作または自動的に行い、作業の効率化、作業環境の改善、あるいは樋カバー着脱作業の安全性の確保等が可能であるとされている。特に、特許文献1に記載の樋カバー移動装置は、二つの出銑口前の主樋で共用される装置であり、この装置によれば、装置全体のコンパクト化、簡易化、更には、作業性の向上、より安全な作業の実施が可能であると記載されている。
【0014】
しかしながら、これら特許文献において、作業の安全性確保についての具体的な説明はなされていない。高炉の出銑口および主樋では、出銑口前の主樋内に人が入って耐火物の点検や補修作業が定期的に行われる。その場合、樋カバー移動装置の誤操作、誤作動により、点検補修作業者の安全性の確保が必ずしも十分ではない場合が起こり得る。後に詳述するように、特に二つの出銑口前の主樋で共用される樋カバー移動装置においては、点検補修作業者の安全性の確保が必要とされるが、従来、そのような観点から技術的な対策が講じられた例は見あたらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平10−317026号公報
【特許文献2】特開平7−278630号公報
【特許文献3】特開2005−187200号公報
【特許文献4】特開平10―60513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
高炉の出銑口および主樋では、定期的に(1回/日)耐火物の点検作業が必要であり、出銑口では1回/週、主樋では1〜2回/月の補修作業が行われる。このような点検や補修作業を行う場合、出銑口前の主樋内に人が入って作業をする必要がある。
【0017】
一つの出銑口に対して一つの主樋カバー移動機を設置する単独設置型カバー移動装置の場合は、カバー移動装置の動力源(モーター駆動の場合は電源、油圧の場合は油圧ポンプまたは油圧配管のバルブ)を停止または閉止することによって、主樋カバー移動装置の誤操作、誤作動による主樋カバーの出銑口前位置(点検や補修作業を行っている出銑口前位置)への移動を防止することが可能である。
【0018】
しかし、二つの出銑口に対して一つのカバー移動装置を共用する共用設置型カバー移動装置の場合には、一方の出銑口においては、出銑開孔、出銑及び出銑閉塞を繰り返し、他方の出銑口においては、前述の出銑口前の主樋内で耐火物の点検補修作業を行っている場合が発生する。
【0019】
この場合には、一方の出銑口で出銑開孔、出銑閉塞の度に主樋カバーを出銑口前位置から待機位置へ移動させる必要があるので、主樋カバー移動装置の動力源を遮断することができない。このため、従来の共用設置型カバー移動機では、人が操作する場合には、人による目視確認で一方の出銑口の主樋カバーを他方の出銑口(つまり、主樋内で耐火物の点検補修作業を行っている出銑口)へ移動させないようにしている。また、遠隔自動で操作する場合には、リミットスイッチや旋回位置を把握するセンサー(エンコーダー等)による位置情報に基づいて、電気制御により主樋カバーの移動を出銑中の出銑口前の主樋位置と待機位置間に止め、点検補修中の他方の出銑口方向には主樋カバーを移動させないようにしている。
【0020】
しかしながら、人による操作の場合には誤操作の可能性もある。また、遠隔自動操作の場合には、センサーの故障により、主樋カバーが他方の点検補修中の出銑口方向に移動してしまう可能性があり、作業者の安全が必ずしも確保されない。そのため、一方の出銑口で出銑開孔または閉塞のために主樋カバーを移動させる時には、他方の出銑口前位置で点検補修作業を行っている作業者は一時作業を停止して退避せざるを得ず、点検補修作業を効率的に行えないという欠点があった。
【0021】
近年、特に機械設備の安全性が世界的に要求される中で、機械のリスクアセスメントを実施し設備の安全性を検証する手法がISO12001で規定されている。その基本は、リスクの高さに対してリスクを低減する設備対策を講じ、かつ、フェイルセーフを重視する考え方である。
【0022】
上記の二つの高炉主樋間に配置される共用設置型カバー移動装置では、点検補修作業の要員に対するリスクは、下記1)及び2)の点から高リスク(つまり、危険な)状態となる。そのため、この高リスクを低減する設備対策が必要とされる。
1)作業が重量物(樋カバー)の移動装置の近傍で行われること。
2)安全対策がセンサーによるインターロック等の電気制御系による停止(点検補修中の出銑口方向への主樋カバーの移動の停止)の信頼性のみに頼っていること。
【0023】
従来の共用設置型カバー移動装置においては、遠隔操作、自動化、作業の効率化等を優先して、カバーの移動に関する機械構造のみが重視され、点検補修作業者の安全を確保するための設備対策を講じるという考え方がなかった。
【0024】
本発明は、共用設置型カバー移動装置において、一方の出銑口での出銑開孔作業もしくは閉塞作業の実施に伴い、その出銑口前の主樋に取り付けられた主樋カバーを待機位置へ移動させる時に、他方の出銑口での主樋の点検補修作業者の安全を簡素な設備対策により確実に確保できる高炉主樋カバー移動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記の課題を解決するために、本発明者らは、主樋カバーの移動装置にその動作範囲を機械的に制限する安全装置(ストッパー)を取り付けるという発想の下に検討を重ねた。その結果、共用設置型の主樋カバー移動装置の基礎金物に前進または後退するストッパーを取り付け、基礎金物上に回転可能に保持された旋回ポストに「受け(ストッパーの作用を受ける部位)」を設けることにより、旋回ポストの旋回の範囲(言い換えれば、主樋カバー移動装置の動作範囲)を制限できることを確認した。
【0026】
即ち、ストッパー(例えば、旋回ポストの動きを停止させる棒状体)を旋回ポストの旋回軌道上に前進させることにより、ストッパーが旋回ポストに設けた受けに当たり、旋回ポストの動作(主樋カバー移動装置の動作)が制限されるので、受けの設置位置とストッパーの取り付け位置を適正に設定することにより主樋カバー移動装置の動作範囲の調整が可能となる。これにより、主樋内での耐火物の点検補修作業の安全面から危険であると判断される場合等、必要に応じて主樋カバー移動装置の動作範囲を制限することができる。
【0027】
本発明はこのような検討結果に基づきなされたもので、その要旨は、下記の高炉主樋カバー移動装置にある。
【0028】
即ち、高炉の出銑口前の主樋に対して、主樋カバーを取り付けまたは取り外すための装置であり、かつ、互いに隣接する二つの出銑口前の主樋で共用される高炉主樋カバー移動装置であって、主樋カバーを上下動可能な昇降駆動機構を有し、かつ互いに隣接する二つの出銑口前の主樋で水平移動可能な駆動機構を有する主樋カバー移動装置において、その水平移動の動作範囲を制限するストッパー装置を備えることを特徴とする高炉主樋カバー移動装置である。
【0029】
本発明の高炉主樋カバー移動装置において、前記主樋カバーを上下動可能な昇降駆動機構および水平移動可能な駆動機構として、互いに隣接する二つの出銑口の間の鋳床に配置された基礎金物上に、摺動部を介して、旋回駆動装置により水平方向に回転可能に保持された旋回ポストと、旋回ポストの下部に取り付けられた昇降駆動装置により上下動可能に支持され、かつ、旋回ポスト側に前記昇降駆動装置の昇降駆動受け部と昇降駆動による上下動を支える支点を備え、旋回ポストとは反対側の端部に前記主樋カバーを吊り上げるための吊り部を備えたアームとを有し、さらに、前記ストッパー装置として、前記隣接する二つの出銑口のうちの一方の出銑口前の主樋位置と前記隣接する二つの出銑口の間にある主樋カバー待機位置間の動作のみが可能となるように当該主樋カバー移動装置の動作範囲を制限するストッパー装置を備えることとする実施の形態が望ましい。
ここで、「ストッパー装置」とは、ストッパー(例えば、棒状体)及び受けを有し、通常は、更に旋回ポストの動作(ひいては主樋カバー移動装置の動作)を停止させるためにストッパーを旋回ポストの旋回軌道上に前進させ、または旋回軌道上から後退させるための駆動装置を備えるものである。
【0030】
本発明の高炉主樋カバー移動装置において、前記ストッパー装置は、電動または油圧もしくは空気圧によるストッパーの駆動装置を備え、遠隔操作により作動させ得るものであることが望ましい。
【0031】
前記電動または油圧もしくは空気圧による駆動装置を備えるストッパー装置は、主樋カバー移動装置内に内蔵されていることが望ましい。
【0032】
本発明の高炉主樋カバー移動装置において、前記ストッパー装置は、衝撃に対する緩衝機構を備えていることが望ましい。
【発明の効果】
【0033】
本発明の高炉主樋カバー移動装置は、互いに隣接する二つの出銑口前の主樋で共用される装置である。この主樋カバー移動装置によれば、一方の出銑口での出銑開孔もしくは閉塞作業の実施に伴い、その出銑口前の主樋に取り付けられた主樋カバーを待機位置へ移動させる時に、他方の出銑口での主樋の点検補修作業者の安全確保を簡便かつ確実に行うことができる。
【0034】
また、点検補修作業者の安全が確保されるので、主樋カバーの待機位置への移動時に、他方の出銑口前位置で点検補修作業を行っている作業者は作業を停止して退避する必要がなく、点検補修作業を効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の高炉主樋カバー移動装置の外観及びこの装置が配置された高炉出銑口近傍の状態を示す説明図で、(a)は主樋カバーが主樋カバー待機位置に置かれている状態、(b)は主樋カバーが出銑口前の主樋位置に設置されている状態である。
【図2】本発明の高炉主樋カバー移動装置の概略構成例を示す側面図(一部は縦断面で表示)である。
【図3】本発明の高炉主樋カバー移動装置が具備するストッパー装置の一部の外観図で、衝撃吸収機能を備えたストッパー装置を例示する図である。
【図4】本発明の高炉主樋カバー移動装置が具備するストッパー装置の作動と主樋カバー移動装置の動作範囲(一方の主樋方向への動作範囲)を説明する図である。
【図5】本発明の高炉主樋カバー移動装置が具備するストッパー装置の作動と主樋カバー移動装置の動作範囲(他方の主樋方向への動作範囲)を説明する図である。
【図6】本発明の高炉主樋カバー移動装置におけるストッパーの配置を模式的に例示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の高炉主樋カバー移動装置は、前述のとおり、高炉の出銑口前の主樋に対して、主樋カバーを取り付けまたは取り外すための装置であり、互いに隣接する二つの出銑口前の主樋で共用されることを前提としている。この装置は、主樋カバーを上下動可能な昇降駆動機構を有し、かつ互いに隣接する二つの出銑口前の主樋で水平移動可能な駆動機構を有する主樋カバー移動装置において、その水平移動の動作範囲を制限するストッパー装置を備えている。
即ち、本発明の高炉主樋カバー移動装置の最大の特徴は、作業者の安全を簡素な設備対策により確実に確保するという観点から、主樋カバーの移動装置にその動作範囲を機械的に制限する安全装置(ストッパー)を取り付けた点にある。
【0037】
前記主樋カバーを上下動可能な昇降駆動機構および水平移動可能な駆動機構として、互いに隣接する二つの出銑口の間の鋳床に配置された基礎金物上に、摺動部を介して、旋回駆動装置により水平方向に回転可能に保持された旋回ポストと、旋回ポストの下部に取り付けられた昇降駆動装置により上下動可能に支持され、かつ、旋回ポスト側に前記昇降駆動装置の昇降駆動受け部と昇降駆動による上下動を支える支点を備え、旋回ポストとは反対側の端部に前記主樋カバーを吊り上げるための吊り部を備えたアームとを有しており、さらに、前記ストッパー装置として、前記隣接する二つの出銑口のうちの一方の出銑口前の主樋位置と前記隣接する二つの出銑口の間にある主樋カバー待機位置間の動作のみが可能となるように当該主樋カバー移動装置の動作範囲を制限するストッパー装置を備えた装置であれば、一方の出銑口前の主樋に取り付けられた主樋カバーを待機位置へ移動させる時に、他方の出銑口での主樋の点検補修作業者の安全確保を簡素なストッパー装置の取り付けにより確実に行うことができるので、望ましい。
【0038】
図1は、本発明の高炉主樋カバー移動装置の外観及びこの装置が配置された高炉出銑口近傍の状態を示す説明図で、(a)は主樋カバーが主樋カバー待機位置に置かれている状態、(b)は主樋カバーが出銑口前の主樋位置に設置されている状態である。また、図2は、前記望ましい構成を備えた本発明の高炉主樋カバー移動装置の概略構成例を示す側面図(一部は縦断面で表示)である。
【0039】
図1(a)、(b)に示すように、本発明の主樋カバー移動装置1は、高炉炉体2の出銑口3前の主樋4a、4bに対して、主樋カバー5を取り付けまたは取り外すための装置である。この装置は、互いに隣接する二つの出銑口3(但し、主樋4bに対応する出銑口3は図示されていない)の間の鋳床6に配置されており、出銑口3前の主樋4a、4bで共用される。図示した例では、主樋4aで出銑が行われ、主樋4bでは点検補修作業が行われている。
【0040】
高炉主樋カバー移動装置は、図2に示すように、鋳床に配置された基礎金物7上に、摺動部8を介して保持された旋回ポスト9と、旋回ポスト9の下部に取り付けられた昇降駆動装置10aにより上下動可能に支持されたアーム11とを有している。なお、ここで言う「旋回ポスト9」は、旋回駆動装置10bにより水平方向に回転可能な旋回ポスト本体9aに連接され、旋回ポスト本体9aの旋回運動と同一の運動を行う固定部(図2の例では、外套部9b)も含むものとする。
【0041】
昇降駆動装置10a、旋回駆動装置10bとしては、油圧による駆動装置を用いるのが一般的である。
【0042】
摺動部8は、ベアリング形式の軸受け等により、旋回ポスト等の摺動部がスムーズに動作する旋回部を有する装置であり、従来使用されているもので構成すればよい。
【0043】
アーム11は、旋回ポスト9側には前記昇降駆動装置10aの昇降駆動受け部と昇降駆動による上下動を支える支点を備え、他方の端部には高炉主樋カバー5(図1参照)を吊り上げるための吊り部12を備えている。
【0044】
本発明の主樋カバー移動装置は、さらに、隣接する二つの出銑口のうちの一方の出銑口前の主樋位置(即ち、図1(b)に示すように、主樋カバー5を主樋4aに設置した位置)と、前記隣接する二つの出銑口の間にある主樋カバー待機位置13(即ち、図1(a)に示すように、主樋カバー5が置かれている破線で示した位置)の間の動作のみが可能となるように、当該主樋カバー移動装置の動作範囲を制限するストッパー装置を備えている。
【0045】
図2に例示した高炉主樋カバー移動装置のストッパー装置は、基礎金物7に固定された円筒17内を前進または後退するストッパー15と、旋回ポスト9に固設された受け16と、ストッパー15を前進または後退させる駆動源として基礎金物7に固定された油圧シリンダー14とで構成されている。図2において、矢印aを付した側のストッパー装置はストッパー15を矢印aの方向に前進させて円筒17の外周から突出させ、ストッパー15が受け16に当接するようにした状態であり、これにより、旋回ポスト9の旋回が停止される。一方、矢印bを付した側のストッパー装置はストッパー15を矢印bの方向に後退させてストッパー15が受け16に当たらないようにした状態である。
【0046】
なお、図2に例示したストッパー装置は、ストッパー装置が主樋カバー移動装置内に内蔵された例であるが、ストッパー装置を主樋カバー移動装置の外側に設置することも可能である。
【0047】
ストッパー装置は、その設定(ストッパーを前進させるか、または後退させるかの設定)を手動により行うことも可能である。ただし、主樋カバーは10t〜30t程度であり、この重量物がストッパーに当接しても破損しない十分な強度をストッパーに保有させる必要がある。そのため、ストッパーも数10kg以上、場合によっては100kgを超える重量物となる。また、出銑口の切り替え頻度が高い場合もある。これらのことから、ストッパー装置は、手動によるのではなく、電動または油圧もしくは空気圧による駆動装置を備えていることが望ましい。
【0048】
また、ストッパーの設定を行う作業者の安全、出銑口前の主樋近傍での暑熱条件等を考慮すれば、遠隔操作によるストッパーの設定を可能とすることが望ましい。
【0049】
出銑口の周辺は高温かつ粉塵の多い過酷な雰囲気にあり、更には、ストッパー装置自体も、溶銑滓の飛散や輻射熱の影響を受けるので、前記図2に例示したように、ストッパー装置を主樋カバー移動装置内に内蔵することが望ましい。これにより、高温、粉塵雰囲気の直接的な影響を防止することができ、駆動部の焼付き、摩耗、腐食等の問題を低減して、安定的な動作を保証することが可能である。
【0050】
更に、ストッパー装置については、前述のように10t〜30t級の主樋カバーの移動をストッパーと受けとの当接により静止させる必要があるため、衝撃吸収が可能なバッファーを備えたストッパーとすることがより望ましい。
【0051】
図3は、本発明の高炉主樋カバー移動装置が具備するストッパー装置の一部の外観図で、衝撃吸収機能を備えたストッパー装置を例示する図である。この図は、前記図2に示した矢印aを付したストッパー装置を、同図を表す紙面の右側斜め上方から視た外観図である。
【0052】
即ち、ストッパー装置は、前述のように、基礎金物7に固定された円筒17内を油圧シリンダー(図示せず)により前進または後退するストッパー15と、旋回ポスト9に固設された受け16とで構成されているが、この受け16に衝撃吸収のための油圧式アブソーバー18が付設されている。油圧式アブソーバー18は、旋回ポスト9の旋回に伴って受け16が白抜き矢印の方向に移動し、ストッパー15に当たったときに、その衝撃を吸収するバッファーとして作用する。
【0053】
バッファーは、図3に例示した油圧式アブソーバーに限定されない。多少でも衝撃を吸収できる弾力性のあるものであればよく、コイルバネなども適用できる。
【0054】
本発明の高炉主樋カバー移動装置を使用すれば、互いに隣接する二つの出銑口前の主樋で共用するに際し、必要に応じて主樋カバー移動装置の動作範囲を制限することができる。センサーを用いた電気制御系による主樋カバー移動装置の動作範囲の制限(点検補修中の出銑口方向への主樋カバーの移動の停止)のみに頼るのではなく、設備対策を講じて機械的に動作範囲を制限して、二重の安全対策をとることが可能であり、出銑口前位置で点検補修作業を行っている作業者の安全確保を確実に行うことができる。ストッパーと受け、及びストッパーの駆動装置からなる簡素なストッパー装置を取り付けるだけでよいことも大きな利点である。
【実施例】
【0055】
以下に本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
【0056】
前述のストッパー装置を取り付けた本発明の高炉主樋カバー移動装置を互いに隣接する二つの出銑口前の主樋で共用して、主樋カバー移動装置の動作範囲、及び主樋の点検補修作業者の安全確保についての確認を行った。
【0057】
ストッパー装置の駆動源には油圧シリンダーを使用し、主樋カバー移動装置内に内蔵させた。また、旋回ポストに固設された受けに、前記図3に例示した油圧式アブソーバーをバッファーとして付設した。以下に、高炉主樋カバー移動装置及びこの装置が配置された高炉出銑口近傍の状態を模式的に示した図面を参照してストッパー装置の作動と主樋カバー移動装置の動作範囲について説明する。
【0058】
図4は、ストッパー装置の作動と主樋カバー移動装置の動作範囲(一方の主樋方向への動作範囲)を説明する図である。同図では、説明の便宜上、駆動源の油圧シリンダーを主樋カバー移動装置の外側に示している。
【0059】
図4(a)は、主樋カバー5が主樋カバー待機位置13に置かれている状態を表している。高炉炉体2に設けられている互いに隣接する出銑口前の主樋4a、4bの間に本発明の主樋カバー移動装置1が配置されている。主樋カバー移動装置1の旋回ポスト9の2箇所(主樋4a側および主樋4b側)に、衝撃吸収のためのバッファー19a、19bが付設された受けが取り付けられている。
【0060】
図4(b)は、主樋4aが出銑中で、主樋4bが補修中であり、主樋カバー5を主樋カバー移動装置1により待機位置13から主樋4aの出銑口前位置まで移動し、設置した状態を表している。この場合は、主樋カバー5が主樋4aの出銑口前位置に設置された状態でストッパー15aがバッファー19aに当接するように、ストッパー15aが取り付けられ、ストッパー15aを油圧シリンダー14aにより前進させた状態に設定している。そのため、主樋カバー移動装置1の動作範囲(図中に白抜き矢印で示した方向への動作範囲)は、主樋4aの出銑口前位置までに制限される。
【0061】
図4(c)は、主樋4aの出銑が完了して、主樋カバー5を主樋カバー移動装置1により出銑口前の主樋位置から待機位置13まで移動した状態を表している。主樋4bは引き続き補修中である。この場合は、主樋カバー5が待機位置13まで移動された状態で別に取り付けてあるストッパー15bがバッファー19bに当接するように、ストッパー15bが取り付けられ、ストッパー15bを油圧シリンダー14bにより前進させた状態に設定している。そのため、主樋カバー移動装置1の、白抜き矢印で示した方向への動作範囲は、主樋カバー5の待機位置13までに制限される。
【0062】
即ち、ストッパー装置の取り付け位置を、図4(b)に示した位置と、図4(c)に示した位置に定め、主樋カバー移動装置1の動作の方向に対応させて旋回ポスト側の受けが当接するようにストッパー15a、15bを前進させた状態に設定することにより、主樋カバー移動装置1の動作範囲を主樋カバー5の待機位置13から主樋4aの出銑口前位置までの範囲内に制限することができる。これにより、補修中の主樋4bの方向に主樋カバー5が移動することはなく、主樋4bで補修作業中の作業者の安全が確保される。
【0063】
図4では、主樋カバー5を待機位置13と主樋4aの出銑口前位置の間で移動させる場合について説明したが、主樋カバー5を待機位置13と主樋4bの出銑口前位置の間で移動させる場合は、ストッパー15の取り付け位置を別に定めることにより、主樋カバー移動装置1の動作範囲を制限することができる。
【0064】
図5は、ストッパー装置の作動と主樋カバー移動装置の動作範囲(他方の主樋方向への動作範囲)を説明する図である。
【0065】
図5(a)は、図4(b)に示した場合とは逆に、主樋4bが出銑中で、主樋4aが補修中であり、主樋カバー5を主樋カバー移動装置1により待機位置13から主樋4bの出銑口前位置まで移動し、設置した状態を表している。この場合は、主樋カバー5が主樋4bの出銑口前位置に設置された状態でバッファー19bがストッパー15cに当接するように、ストッパー15cが取り付けられている。そのため、主樋カバー移動装置1の動作範囲は、主樋4bの出銑口前位置までに制限される。
【0066】
図5(b)は、主樋4bの出銑が完了して、主樋カバー5を主樋カバー移動装置1により主樋4bの出銑口前位置から待機位置13まで移動した状態を表している。この場合は、主樋カバー5が待機位置13まで移動された状態でバッファー19aがストッパー15dに当接するように、ストッパー15dが取り付けられている。そのため、主樋カバー移動装置1の動作範囲は、主樋カバー5の待機位置13までに制限される。
【0067】
即ち、本発明の高炉主樋カバー移動装置においては、4本のストッパー及び旋回ポスト側の2個の受けを設置しておき、当該移動装置を使用する主樋に応じてストッパー装置の設定(即ち、ストッパーを前進させるか、または後退させるかの設定)をすることにより、主樋カバー移動装置の動作範囲の調整が可能となる。
【0068】
図6は、本発明の高炉主樋カバー移動装置におけるストッパー装置の配置を模式的に例示す図で、前記図4(b)、(c)及び図5(a)、(b)にそれぞれ示したストッパーと油圧シリンダーを併せて示した図である。本発明の高炉主樋カバー移動装置では、これら4本のストッパー15a、15b、15c及び15d、ならびに油圧シリンダー14a、14b、14cおよび14dを取り付けておく。
【0069】
主樋カバー移動装置を主樋4aで使用する場合は、ストッパー15a、15bを油圧シリンダー14a、14bにより前進させた状態に設定し、ストッパー15c、15dを後退させて旋回ポスト側の受けに当たらないようにしておけば、図4(b)、(c)に示したように、主樋カバー移動装置の動作範囲を主樋カバーの待機位置から主樋4aの出銑口前位置までに制限することができる。
【0070】
また、当該移動装置を主樋4bで使用する場合は、ストッパー15c、15dを前進させた状態に設定し、ストッパー15a、15bを後退させておくことにより、図5(a)、(b)に示したように、主樋カバー移動装置の動作範囲を主樋カバーの待機位置から主樋4bの出銑口前位置までに制限することができる。
【0071】
前述の4本のストッパーを取り付けた本発明の高炉主樋カバー移動装置を使用し、ストッパーの設定を適宜行って、当該移動装置に前記図4及び図5で説明した動作を行わせた結果、所定の範囲内で動作し、ストッパー装置が安全装置として機能することが確認できた。
【0072】
ストッパー装置を取り付けるという本発明の高炉主樋カバー移動装置における考え方は、従来の旋回型の共用設置型カバー移動装置の中でクレーンを使用した樋カバー移動装置や水平移動型の主樋カバー移動装置においても、適用可能である。また、この考え方は、どの型式の樋カバー移動装置においても、開孔機やマッドガンなどの鋳床機器との相互干渉を防止するために適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の高炉主樋カバー移動装置は、互いに隣接する二つの出銑口前の主樋で共用される装置である。この装置は、出銑口での主樋の点検補修作業者の安全確保が確実に行える主樋カバー移動装置として、銑鉄を溶融状態で生産するプロセスにおいて有効に利用できる。
【符号の説明】
【0074】
1:主樋カバー移動装置、 2:高炉炉体、 3:出銑口、
4a、4b:主樋(出銑中)、 5:高炉主樋カバー、 6:鋳床
7:基礎金物、 8:摺動部、 9:旋回ポスト、 9a:旋回ポスト本体、
9b:外套部、 10a:昇降駆動装置、 10b:旋回駆動装置、 11:アーム、
12:吊り部、 13:主樋カバー待機位置、 14:油圧シリンダー、
15:ストッパー、 16:受け、 17:円筒、 18:油圧式アブソーバー、
19a、19b:バッファー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉の出銑口前の主樋に対して、主樋カバーを取り付けまたは取り外すための装置であり、かつ、互いに隣接する二つの出銑口前の主樋で共用される高炉主樋カバー移動装置であって、
主樋カバーを上下動可能な昇降駆動機構を有し、かつ互いに隣接する二つの出銑口前の主樋で水平移動可能な駆動機構を有する主樋カバー移動装置において、その水平移動の動作範囲を制限するストッパー装置を備えることを特徴とする高炉主樋カバー移動装置。
【請求項2】
前記主樋カバーを上下動可能な昇降駆動機構および水平移動可能な駆動機構として、
互いに隣接する二つの出銑口の間の鋳床に配置された基礎金物上に、摺動部を介して、旋回駆動装置により水平方向に回転可能に保持された旋回ポストと、
旋回ポストの下部に取り付けられた昇降駆動装置により上下動可能に支持され、かつ、旋回ポスト側に前記昇降駆動装置の昇降駆動受け部と昇降駆動による上下動を支える支点を備え、旋回ポストとは反対側の端部に前記主樋カバーを吊り上げるための吊り部を備えたアームとを有し、
さらに、前記ストッパー装置として、前記隣接する二つの出銑口のうちの一方の出銑口前の主樋位置と前記隣接する二つの出銑口の間にある主樋カバー待機位置間の動作のみが可能となるように当該主樋カバー移動装置の動作範囲を制限するストッパー装置を備えることを特徴とする請求項1に記載の高炉主樋カバー移動装置。
【請求項3】
前記ストッパー装置が、電動または油圧もしくは空気圧による駆動装置を備え、遠隔操作により作動させ得るものであることを特徴とする請求項2に記載の高炉主樋カバー移動装置。
【請求項4】
前記電動または油圧もしくは空気圧による駆動装置を備えるストッパー装置が、主樋カバー移動装置内に内蔵されていることを特徴とする請求項3に記載の高炉主樋カバー移動装置。
【請求項5】
前記ストッパー装置が、衝撃に対する緩衝機構を備えていることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の高炉主樋カバー移動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−188712(P2012−188712A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54309(P2011−54309)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(511065451)タッピング メジャリング テクノロジー ゲーエムベーハー (2)
【氏名又は名称原語表記】TAPPING MEASURING TECHNOLOGY
【住所又は居所原語表記】GERMANY HAGENER STR. 103 D−57072 SIEGEN
【出願人】(511065473)株式会社DANGO & DIENENTHAL JAPAN (2)
【Fターム(参考)】