説明

高純度の含フッ素モノマー組成物およびその重合体からなる表面処理剤

【課題】優れた性能を有する表面処理剤を提供する。
【解決手段】(1)含フッ素組成物に対して少なくとも98重量%の、式:

CH2=C(−X)−C(=O)−Y−Z−Rf (1)

[式中、Xは、水素原子、メチル基またはハロゲン基であり;
Yは、−O−または−NH−であり;
Zは、炭素数1〜10の脂肪族基、炭素数6〜18の芳香族基または環状脂肪族基、
-CH2CH2N(R1)SO2−基(但し、R1は炭素数1〜4のアルキル基である。)または
-CH2CH(OZ1) CH2−基(但し、Z1は水素原子またはアセチル基である。)または
-(CH2)m−SO2−(CH2)n−基 または -(CH2)m−S−(CH2)n−基(但し、mは1〜10、nは0〜10、である)、
Rfは、炭素数1〜6の直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキル基である。]
で示される含フッ素化合物、および
(2)含フッ素化合物(1)以外の化合物
を含んでなる含フッ素組成物、およびその重合体からなる表面処理剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素化合物を高純度で含む含フッ素組成物、含フッ素化合物と液状媒体との混合物、および含フッ素化合物を重合させて得られる重合体を含んでなる表面処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素(メタ)アクリレート類を重合させて得られる重合体は繊維用撥水撥油剤などの表面処理剤として使用されている。
一般的に、含フッ素(メタ)アクリレート類はパーフルオロアルキル基を有するポリフルオロアルキルヨウ化物と(メタ)アクリル酸金属塩を反応させる方法やパーフルオロアルキル基を有するポリフルオロアルキルアルコールと(メタ)アクリル酸を反応させる方法などにより製造される。
これらの用途において従来はC8以上のパーフルオロアルキル基(長鎖のRf基)を含むものが一般的であった。
【0003】
最近の研究結果[EPAレポート"PRELIMINARY RISK ASSESSMENT OF THE DEVELOPMENTAL TOXICITY ASSOCIATED WITH EXPOSURE TO PERFLUOROOCTANOIC ACID AND ITS SALTS" (http: //www.epa.gov/opptintr/pfoa/pfoara.pdf) ]などから、長鎖フルオロアルキル化合物の一種であるPFOA(perfluorooctanoic acid)に対する環境への負荷の懸念が明らかとなってきており、2003年4月14日にEPA(米国環境保護庁)がPFOAに対する科学的調査を強化すると発表した。一方、Federal Register(FR Vol.68, No.73/April 16, 2003[FRL-2303-8], http://www.epa.gov/opptintr/pfoa/pfoafr.pdf)やEPA Environmental News FOR RELEASE: MONDAY APRIL 14, 2003 EPA INTENSIFIES SCIENTIFIC INVESTIGATION OF A CHEMICAL PROCESSING AID(http://www.epa.gov/opptintr/pfoa/pfoaprs.pdf)やEPA OPPT FACT SHEET April 14, 2003(http://www.epa.gov/opptintr/pfoa/pfoafacts.pdf)は、長鎖フルオロアルキル基(テロマー)が分解または代謝によりPFOAを生成する可能性があると公表している。
【0004】
近年には環境への負荷を低減する目的で短鎖Rf基含有の重合性単量体を使用する検討も行われている。
例えばWO03/062521においては、耐水性向上を目的に短鎖Rf基含有(メタ)アクリレートと塩化ビニル(VCl)または塩化ビニリデン(VdCl2)との共重合体を含む撥水撥油剤組成物を開示している。
またWO02/083809、WO04/035708においても短鎖Rf基含有の重合性単量体を使用する例が記載されている。
【0005】
またEP-1493761A1に短鎖Rf基含有の(メタ)アクリレート共重合体の分子量を低くすることで性能を向上できると記載されている。
例えばWO2004/096939A1によると短鎖Rf基含有のα置換アクリレート共重合体は撥水撥油性が良好であることが示されている。またWO2005/047416には短鎖Rf基含有のα置換アクリレートと塩化ビニルの共重合体が実施例として例示されおり、撥水撥油性が良好であることが示されている。
【0006】
すなわち、短鎖Rf基含有の(メタ)アクリレートを用いた撥水撥油剤において、環境への負荷を低減したり、撥水撥油性、耐水圧性、低温キュア性、加工安定性、保存安定性などの改良が行われている。
【特許文献1】WO03/062521
【特許文献2】WO02/083809
【特許文献3】WO04/035708
【特許文献4】EP-1493761A1
【特許文献5】WO2004/096939A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、「テロマー」とは異なる化学骨格構造をもつ短鎖Rf基含有の化合物であり、前述の機能を両立した表面処理剤およびそれを製造するための含フッ素モノマー組成物を提供することにある。また含フッ素モノマー組成物の保存安定性の改良も目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
(1)式:
CH2=C(−X)−C(=O)−Y−Z−Rf (1)
[式中、Xは、水素原子、メチル基またはハロゲン基であり;
Yは、−O−または−NH−であり;
Zは、炭素数1〜10の脂肪族基、炭素数6〜18の芳香族基または環状脂肪族基、
-CH2CH2N(R1)SO2−基(但し、R1は炭素数1〜4のアルキル基である。)または
-CH2CH(OZ1) CH2−基(但し、Z1は水素原子またはアセチル基である。)または
-(CH2)m−SO2−(CH2)n−基 または -(CH2)m−S−(CH2)n−基(但し、mは1〜10、nは0〜10、である)、
Rfは、炭素数1〜6の直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキル基である。]
で示される含フッ素化合物、および
(2)含フッ素化合物(1)以外の化合物
を含んでなる含フッ素組成物であって、
化合物(1)の量が含フッ素組成物に対して少なくとも98重量%である含フッ素組成物を提供する。
さらに、本発明は、含フッ素組成物と液状媒体との混合物であって、含フッ素化合物が液状媒体に分散または溶解している含フッ素化合物/液状媒体混合物を提供する。
加えて、本発明は、
(A)含フッ素組成物を重合させて誘導された繰り返し単位、
を有して成る含フッ素重合体を含んでなる表面処理剤を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、「テロマー」とは異なる化学骨格構造をもつ短鎖Rf基含有の化合物で環境への負荷を低減する目的と高度な撥水性と耐水圧性と低温キュア性と加工安定性、保存安定性を両立した表面処理剤を得ることができる。またそれを製造するための含フッ素モノマー組成物の保存安定性も良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
含フッ素組成物
含フッ素組成物は、
(1)含フッ素化合物、および
(2)含フッ素化合物(1)以外の化合物
を含んでなる。
【0011】
含フッ素化合物(1)は、一般式:
CH2=C(−X)−C(=O)−Y−Z−Rf (1)
[式中、Xは、水素原子またはメチル基またはハロゲン基であり;
Yは、−O−または−NH−であり;
Zは、炭素数1〜10の脂肪族基、炭素数6〜18の芳香族基または環状脂肪族基、
-CH2CH2N(R1)SO2−基(但し、R1は炭素数1〜4のアルキル基である。)または
-CH2CH(OZ1) CH2−基(但し、Z1は水素原子またはアセチル基である。)または
-(CH2)m−SO2−(CH2)n−基 または -(CH2)m−S−(CH2)n−基(但し、mは1〜10、nは0〜10、である)、
Rfは、炭素数1〜6の直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキル基である。]
で示される。
【0012】
Z基の好ましい例は、炭素数1〜10のアルキレン基、すなわち、-(CH2)n- (nは、1〜10、好ましくは1〜4)である。
【0013】
上記式(1)において、Rf基が、パーフルオロアルキル基である。Rf基の炭素数は、1〜6、特別には4または6であってよい。Rf基の例は、−CF3、−CF2CF3、−CF2CF2CF3、−CF(CF3) 2、−CF2CF2CF2CF3、−CF2CF(CF3)2、−C(CF)3、−(CF2)4CF3、−(CF2)2CF(CF3)2、−CF2C(CF3)3、−CF(CF3)CF2CF2CF3、−(CF2)5CF3、−(CF2)3CF(CF3)2等である。
【0014】
含フッ素化合物(1)の具体例としては、例えば以下のものを例示できるが、これらに限定されるものではない。
CH2=C(−H)−C(=O)−O−(CH2)2−Rf
CH2=C(−H)−C(=O)−O−C6H4−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)2−Rf
CH2=C(−H)−C(=O)−O−(CH2)2N(−CH3) SO2−Rf
CH2=C(−H)−C(=O)−O−(CH2)2N(−C2H5) SO2−Rf
CH2=C(−H)−C(=O)−O−CH2CH(−OH) CH2−Rf
【0015】
CH2=C(−H)−C(=O)−O−CH2CH(−OCOCH3) CH2−Rf
CH2=C(−H)−C(=O)−O−(CH2)2−S−Rf
CH2=C(−H)−C(=O)−O−(CH2)2−S−(CH2)2−Rf
CH2=C(−H)−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−Rf
CH2=C(−H)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−(CH2)2−Rf
CH2=C(−H)−C(=O)−NH−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CH3)−C(=O)−O−(CH2)2−S−Rf
CH2=C(−CH3)−C(=O)−O−(CH2)2−S−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CH3)−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−Rf
CH2=C(−CH3)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CH3)−C(=O)−NH−(CH2)2−Rf
【0016】
CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)2−S−Rf
CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)2−S−(CH2)2−Rf
CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−Rf
CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−(CH2)2−Rf
CH2=C(−F)−C(=O)−NH−(CH2)2−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)2−S−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)2−S−(CH2)2−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−(CH2)2−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−NH−(CH2)2−Rf
【0017】
CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)3−S−Rf
CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)3−S−(CH2)2−Rf
CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−Rf
CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−(CH2)2−Rf
CH2=C(−F)−C(=O)−NH−(CH2)3−Rf
【0018】
CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)3−S−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)3−S−(CH2)2−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−(CH2)2−Rf
[上記式中、Rfは、炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基である。]
【0019】
含フッ素化合物(1)の他の例は、次のとおりである。
Rf-(CH)10OCOCCH=CH
Rf-(CH)10OCOC(CH)=CH
Rf-CHOCOCH=CH
Rf-CHOCOC(CH)=CH
Rf-(CH)OCOCH=CH
Rf-(CH)OCOC(CH)=CH
Rf-SON(CH)(CH)OCOCH=CH
Rf-SON(C)(CH)OCOCH=CH
Rf-CHCH(OCOCH)CHOCOC(CH)=CH
Rf-CHCH(OH)CHOCOCH=CH
Rf-SO(CH)OCOCH=CH
Rf-SO(CH)3OCOCH=CH
【0020】



【0021】





【0022】


[上記式中、Rfは、炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基である。]
【0023】
化合物(2)は、含フッ素化合物(1)以外の化合物である。
化合物(2)は、一般に、
(i)含フッ素アルコール、
(ii)含フッ素オレフィン、
(iii) 含フッ素化合物と(メタ)アクリル酸との付加体、
(iv) 含フッ素化合物と非フッ素アルコールとの付加体、
(v)(メタ)アクリル酸、
(vi)式(I)においてRfが炭素数8以上である含フッ素化合物、
(vii)パーフルオロオクタン酸(PFOA)、および
(viii)水
からなる群から選択された少なくとも2種以上の物質によって形成される混合物である。
【0024】
含フッ素アルコール(i)は、一般に、式:
Rf−Z−OH
[Rfは、1〜21、特に1〜6のパーフルオロアルキル基、Zは上記と同意義である。]
で示される化合物である。
【0025】
含フッ素オレフィン(ii)は、
一般に、式:
Rf−CH=CH
[Rfは、1〜21、特に1〜6のパーフルオロアルキル基である。]
で示される化合物である。
【0026】
(メタ)アクリル酸付加体(iii)は、含フッ素化合物と(メタ)アクリル酸との付加体である。(メタ)アクリル酸付加体(iii)において、含フッ素化合物は、式(I)で示される化合物である。
(メタ)アクリル酸付加体(iii)の具体例としては、
CH=CXCO−Y−CH−CHXCO−Y−Z−Rf
[式中、X、YおよびZは、上記と同意義である。]
が挙げられる。
【0027】
非フッ素アルコール付加体(iv)は、含フッ素化合物と非フッ素アルコールとの付加体である。非フッ素アルコール付加体(iv)において、含フッ素化合物は、式(I)で示される化合物である。非フッ素アルコールは、R−OH(Rは炭素数1〜10の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基)で示され、具体的にはメタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、n−ヘキサノール、n−オクタノール、t−アミルアルコールなどである。
非フッ素アルコール付加体(iv)の具体例としては、
R−O−CH−CHXCO−Y−Z−Rf
[式中、X、YおよびZは、上記と同意義である。]
が挙げられる。
【0028】
(メタ)アクリル酸(v)は、アクリル酸またはメタクリル酸である。
【0029】
式(I)においてRfが炭素数8以上である含フッ素化合物(vi)は、Rfが炭素数1〜6である含フッ素化合物を製造する際に、副生し得る。含フッ素化合物(vi)の炭素数は、一般に8〜21である。
【0030】
パーフルオロオクタン酸(PFOA)(vii)は、Rfが炭素数1〜6である含フッ素化合物を製造する際に、副生し得る炭素数8の含フッ素化合物が分解されて生成する。
【0031】
水(viii)は、例えば、空気中などから混入するか、あるいは種々の反応(例えば、縮合反応)によって生成する。また精製のために水洗する場合は、その工程で混入する。
【0032】
含フッ素アルコール(i)と含フッ素オレフィン(ii)と(メタ)アクリル酸付加体(iii)と非フッ素アルコール付加体(iv)と(メタ)アクリル酸(v)との合計量が2重量%以下、例えば1.5重量%以下、特に1重量%以下であることが好ましい。
含フッ素C化合物(vi)の量が500ppm以下、例えば100ppm以下、特に50ppm以下であることが好ましい。
パーフルオロオクタン酸(vii)の量が50ppb以下、例えば20ppb以下、特に5ppb以下であることが好ましい。
水分(viii)の量が0.2重量%以下、例えば0.15重量%以下、特に0.1重量%以下であることが好ましい。
【0033】
一般的に、含フッ素(メタ)アクリレート類はパーフルオロアルキル基を有するポリフルオロアルキルヨウ化物と(メタ)アクリル酸金属塩を反応させる方法(参考文献:USP3239557)、パーフルオロアルキル基を有するポリフルオロアルキルヨウ化物をポリフルオロアルキルアルコールに変換し(参考文献:特公昭58−28256)、それと(メタ)アクリル酸を反応させる方法などにより製造可能である。
ポリフルオロアルキルヨウ化物と(メタ)アクリル酸金属塩を反応させる方法においては、反応溶媒、重合禁止剤を使用できる。反応溶媒はR−OH(Rは炭素数1〜10の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基)で示される非フッ素のアルコールであってよく、具体的にはメタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、n−ヘキサノール、n−オクタノール、t−アミルアルコールなどである。重合禁止剤としてはヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、t−ブチルカテコール、フェノチアジンなどが使用できる。
【0034】
反応温度は130〜220℃、例えば140〜190℃であってよい。
反応混合物は含フッ素(メタ)アクリレート類、ヨウ化金属塩、溶媒、未反応物、副生成物等を含むので、ろ過、蒸留、水洗等により精製し、高純度の含フッ素(メタ)アクリレート類を得る。
パーフルオロアルキル基を有するポリフルオロアルキルアルコールと(メタ)アクリル酸を反応させる方法においては反応溶媒、重合禁止剤、触媒を使用できる。反応溶媒としてはOH基、COOH基に対して不活性であるものが使用でき、反応により生成する水を共沸により分離可能な溶媒であってよい。具体的にはトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、n−ヘキサン、シクロヘキサンなどの脂肪族又は脂環式炭化水素、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類などである。重合禁止剤としては前述のものが使用できる。触媒としてはp−トルエンスルホン酸、硫酸などが使用可能である。
反応混合物は含フッ素(メタ)アクリレート類、溶媒、未反応物、副生成物等を含むので、ろ過、蒸留、水洗等により精製し、高純度の含フッ素(メタ)アクリレート類を得る。
【0035】
パーフルオロアルキル基を有するポリフルオロアルキルヨウ化物はパーフルオロエチルアイオダイドとテトラフルオロエチレンのテロメリ化反応によりパーフルオロアルキルアイオダイドを得、その後更にエチレンとの付加反応により製造可能である。
パーフルオロアルキル基の鎖長(炭素数)はパーフルオロアルキルアイオダイドを得る際のテロメリ化反応の条件(例えば、パーフルオロエチルアイオダイドとテトラフルオロエチレンの仕込み比など)により変更可能であるが、一般的には鎖長(炭素数)の異なる化合物の混合物となる。
特定の鎖長(炭素数)のパーフルオロアルキル基を持つ化合物を得るためには、鎖長(炭素数)の異なるパーフルオロアルキルアイオダイドの混合物から蒸留により所望の鎖長(炭素数)のパーフルオロアルキル基を持つパーフルオロアルキルアイオダイドを取り出す方法が一般的である。
【0036】
含フッ素組成物と液状媒体との混合物
本発明の含フッ素組成物は、液状媒体との混合物であってよい。含フッ素化合物/液状媒体混合物において、含フッ素化合物が液状媒体に分散または溶解している。含フッ素化合物/液状媒体混合物は、溶液またはエマルションの形態であってよい。含フッ素化合物/液状媒体混合物はエマルションであることが好ましい。液状媒体の例は、水および有機溶媒である。液状媒体の量は、混合物に対して、1〜99重量%、例えば10〜95重量%、特に40〜90重量%であってよい。
【0037】
有機溶媒は、水溶性または非水溶性のいずれであってもよい。有機溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、低分子量のポリエチレングリコールなどのグリコール類、エチルアルコール、イソプロパノールなどのアルコール類などが挙げられる。水溶性有機溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、エタノールなどが挙げられる。水溶性有機溶媒は、水と共に使用することが好ましく、水100重量部に対して、1〜80重量部、例えば5〜50重量部の範囲で用いてよい。
【0038】
表面処理剤
本発明の表面処理剤は、
(A)含フッ素組成物を重合させて誘導された繰り返し単位、
を有して成る含フッ素重合体を含んでなる。
一般に表面処理剤は、液状媒体をも含んでなる。
表面処理剤は、
(A)含フッ素組成物を重合させて誘導された繰り返し単位、
(B)フッ素原子を含まない非架橋性単量体から誘導された構成単位、および
(C)必要により存在する、架橋性単量体から誘導された構成単位
を有して成る含フッ素重合体を含んでなることが好ましい。
【0039】
繰り返し単位(A)は、一般に、式(I)の含フッ素化合物(含フッ素単量体)によって形成される。
【0040】
繰り返し単位(B)は、フッ素原子を含まない非架橋性単量体から誘導される。
非架橋性単量体は、非親水性単量体および親水性単量体のいずれであってよい。非親水性単量体と親水性単量体の混合物であってもよい。
【0041】
非親水性単量体は、フッ素を含有せず、炭素-炭素二重結合を有する単量体であることが好ましい。非親水性単量体は、フッ素を含有しないビニル性単量体であることが好ましい。非親水性単量体は、一般に、1つの炭素-炭素二重結合を有する化合物である。非親水性単量体としては、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ブタジエン、クロロプレン、グリシジル(メタ)アクリレート、マレイン酸誘導体、塩化ビニルのようなハロゲン化ビニル、エチレン、塩化ビニリデンのようなハロゲン化ビニリデン、ビニルアルキルエーテル、グリセロール(メタ)アクリレート、スチレン、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートのような脂肪族環を持つ(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートのような芳香族環を持つ(メタ)アクリレート、ビニルピロリドンなどが例示されるが、これらに限定されるものでない。
【0042】
非親水性単量体は、アルキル基を含有する(メタ)アクリル酸エステルであってよい。アルキル基の炭素数は、1〜30、例えば、6〜30、例示すれば、10〜30であってよい。例えば、非親水性単量体は一般式:
CH=CACOOA
[式中、Aは水素原子またはメチル基、AはC2n+1(n=1〜30)で示されるアルキル基である。]
で示されるアクリレート類であってよい。
【0043】
親水性単量体は、フッ素原子を含まない。親水性単量体は、親水性基および炭素-炭素二重結合を有する単量体であってよい。
親水性基は、ノニオン性またはイオン性(すなわち、カチオン性またはアニオン性)である。
ノニオン性の親水性基は、水酸基、オキシアルキレン基(アルキレン基の炭素数2〜6)であることが好ましい。
親水性単量体は、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートおよび/またはポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートであってよい。親水性単量体の分子量は、100以上、例えば150以上、特に200以上、特に250〜3000であってよい。
ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートは、一般式(2):
CH2=CX1C(=O)−O−(RO)n−X2 (2)
[式中、
1は、水素原子またはメチル基、
2は、水素原子または炭素数1〜22の不飽和または飽和の炭化水素基
Rは、炭素数2〜6のアルキレン基、
nは、2〜90の整数
である。]
で示されるものであることが好ましい。nは、特に2〜30、例えば2〜20であってよい。
一般式(2)中のRは特にエチレン基であることが好ましい。
一般式(2)中のRは2種類以上のアルキレン基の組み合わせであっても良い。その場合、少なくともRのひとつはエチレン基であることが好ましい。Rの組合せとしては、エチレン基/プロピレン基の組合せ、エチレン基/ブチレン基の組合せが挙げられる。
親水性単量体は2種類以上の混合物であっても良い。その場合は少なくとも親水性単量体のひとつは一般式(2)中のRがエチレン基であることが好ましい。
【0044】
親水性単量体の具体例は、例えば以下のものを例示できるが、これらに限定されるものではない。
CH2=CX1COO-(CH2CH2O)n-H
CH2=CX1-(CH2CH2O)n-CH3
CH2=CX1COO-(CH2CH(CH3)O)n-H
CH2=CX1COO-(CH2CH(CH3)O)n-CH3
CH2=CX1COO-(CH2CH2O)5-(CH2CH(CH3)O)2-H
CH2=CX1COO-(CH2CH2O)5-(CH2CH(CH3)O)3-CH3
CH2=CX1COO-(CH2CH2O)8-(CH2CH(CH3)O)6-CH2CH(C2H5)C4H9
CH2=CX1COO-(CH2CH2O)23-OOC(CH3)C=CH2
CH2=CX1COO-(CH2CH2O)20-(CH2CH(CH3)O)5-CH2-CH=CH2
【0045】
親水性単量体は、イオン性基(すなわち、カチオン性基またはアニオン性基)および炭素-炭素二重結合を有する単量体であってもよい。
イオン性基は、カチオン供与基であることが好ましい。
【0046】
カチオン供与基の例は、三級アミノ基および四級アミノ基である。
三級アミノ基において、窒素原子に結合する2つの基は、同じまたは異なって、炭素数1〜5の脂肪族基(特にアルキル基)、炭素数6〜20の芳香族基(アリール基)または炭素数7〜25の芳香脂肪族基(特にアラルキル基、例えばベンジル基(C6H5-CH2-))であることが好ましい。四級アミノ基において、窒素原子に結合する3つの基は、同じまたは異なって、炭素数1〜5の脂肪族基(特にアルキル基)、炭素数6〜20の芳香族基(アリール基)または炭素数7〜25の芳香脂肪族基(特にアラルキル基、例えばベンジル基(C6H5-CH2-))であることが好ましい。三級アミノ基および四級アミノ基において、窒素原子に結合する残りの1つの基が、炭素―炭素二重結合を有していてよい。
親水性単量体としてはカチオン供与基および炭素―炭素二重結合を有する化合物が挙げられる。
【0047】
含フッ素重合体は、架橋性単量体を含んでもよい。架橋性単量体は、少なくとも2つの反応性基および/または炭素−炭素二重結合を有し、フッ素を含有しない化合物であってよい。架橋性単量体は、少なくとも2つの炭素−炭素二重結合を有する化合物、あるいは少なくとも1つの炭素−炭素二重結合および少なくとも1つの反応性基を有する化合物であってよい。反応性基の例は、ヒドロキシル基、エポキシ基、クロロメチル基、ブロックドイソシアネート、アミノ基、カルボキシル基、などである。
架橋性単量体としては、例えば、ジアセトンアクリルアミド、(メタ)アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、2−イソシアナートエチルメタクリレートのようなイソシアネート基含有(メタ)アクリレートまたはメチルエチルケトオキシム等のブロック化剤でイソシアネート基がブロックされたそれらの(メタ)アクリレート、ブタジエン、クロロプレンなどが例示されるが、これらに限定されるものでない。
【0048】
非架橋性単量体および/または架橋性単量体を共重合させることにより、撥水撥油性や防汚性およびこれらの性能の耐クリーニング性、耐洗濯性、溶剤への溶解性、硬さ、感触などの種々の性質を必要に応じて改善することができる。
【0049】
表面処理剤において、含フッ素組成物100重量部に対して、フッ素原子を含まない非架橋性単量体の量が0.1〜150重量部、例えば1〜100重量部、特に0.1〜50重量部であり、架橋性単量体の量が20重量部以下、例えば0.1〜10重量部であってよい。
【0050】
本発明の含フッ素重合体の重量平均分子量は、1000〜1000000、好ましくは5000〜500000であってよい。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによりポリスチレン換算で求めた値である。
【0051】
含フッ素重合体の製造は、特に限定されず塊状重合、溶液重合、乳化重合、放射線重合などの種々重合方法を選択できる。例えば一般的には有機溶剤を用いた溶液重合や、水または有機溶剤と水を併用する乳化重合が選定される。重合後に水で希釈したり、乳化剤を加えて水に乳化することで処理液に調製される。
有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、低分子量のポリエチレングリコールなどのグリコール類、エチルアルコール、イソプロパノールなどのアルコール類などが挙げられる。
乳化重合や重合後、乳化剤を加えて水に乳化する場合の乳化剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性の一般的な各種乳化剤が使用できる。
【0052】
重合開始剤として、例えば過酸化物、アゾ化合物または過硫酸系の化合物を使用し得る。重合開始剤は、一般に、水溶性および/または油溶性である。
油溶性重合開始剤の具体例としては、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2、4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2、4−ジメチル4−メトキシバレロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、2,2’−アゾビス(2−イソブチロニトリル)、ベンゾイルパーオキシド、ジ−第三級−ブチルパーオキシド、ラウリルパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、t−ブチルパーオキシピバレート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート等が好ましく挙げられる。
【0053】
また、水溶性重合開始剤の具体例としては、2,2’−アゾビスイソブチルアミジン2塩酸塩、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオナミジン)塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]硫酸塩水和物、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]塩酸塩、過硫酸カリウム、過硫酸バリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等が好ましく挙げられる。
重合開始剤は単量体100重量部に対して、0.01〜5重量部の範囲で用いられる。
また、分子量調節を目的として、連鎖移動剤、例えば、メルカプト基含有化合物を使用してもよく、その具体例として2−メルカプトエタノール、チオプロピオン酸、ラウリルメルカプタンやステアリルメルカプタンのようなアルキルメルカプタンなどが挙げられる。メルカプト基含有化合物は単量体100重量部に対して、5重量部以下、0.01〜3重量部の範囲で用いられる。
【0054】
具体的には、含フッ素重合体は、以下のようにして製造できる。
溶液重合では、重合開始剤の存在下で、単量体(すなわち、本発明の含フッ素組成物)を有機溶剤に溶解させ、窒素置換後、例えば50〜120℃の範囲で1〜10時間、加熱撹拌する方法が採用される。重合開始剤は、一般に、油溶性重合開始剤であってよい。有機溶剤としては、単量体に不活性でこれらを溶解するものであり、例えば、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、低分子量のポリエチレングリコールなどのグリコール類、エチルアルコール、イソプロパノールなどのアルコール類などが挙げられる。
有機溶剤は単量体の合計100重量部に対して、50〜1000重量部の範囲で用いられる。
【0055】
乳化重合では、重合開始剤および乳化剤の存在下で、単量体(すなわち、本発明の含フッ素組成物)を水中に乳化させ、窒素置換後、例えば50〜80℃の範囲で1〜10時間、撹拌して共重合させる方法が採用される。重合開始剤は、水溶性重合性開始剤および/または油溶性重合開始剤であってよい。
保存(貯蔵)安定性の優れた共重合体水分散液を得るためには、高圧ホモジナイザーや超音波ホモジナイザーのような強力な破砕エネルギーを付与できる乳化装置を用いて、単量体を水中に微粒子化し、水溶性重合開始剤を用いて重合することが望ましい。乳化剤としては、カチオン性、アニオン性およびノニオン性の各種乳化剤を用いることができ、単量体100重量部に対して、0.5〜20重量部の範囲で用いられる。単量体が完全に相溶しない場合は、これら単量体に充分に相溶させるような相溶化剤、例えば、水溶性有機溶剤や低分子量の単量体を添加することが好ましい。相溶化剤の添加により、乳化性および共重合性を向上させることが可能である。
【0056】
水溶性有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、エタノール、イソプロパノールなどが挙げられ、水100重量部に対して、1〜80重量部、例えば5〜50重量部の範囲で用いてよい。
【0057】
得られた含フッ素重合体は、必要により水や有機溶剤等に希釈または分散された後、乳濁液、有機溶剤溶液、エアゾールなどの任意の形態に調製でき、撥水撥油剤又は汚れ脱離剤とすることが可能である。含フッ素重合体は、撥水撥油剤又は汚れ脱離剤の有効成分(活性成分)として機能する。撥水撥油剤又は汚れ脱離剤は、含フッ素重合体および媒体(特に、液状媒体)(例えば、有機溶媒および/または水)を含んでなる。撥水撥油剤又は汚れ脱離剤において、含フッ素重合体の濃度は、例えば、0.01〜50重量%であってよい。
本発明の撥水撥油剤又は汚れ脱離剤は、含フッ素重合体および水性媒体を含んでなることが好ましい。本明細書において、「水性媒体」とは、水のみからなる媒体、および水に加えて有機溶剤(有機溶剤の量は、水100重量部に対して、80重量部以下、例えば0.1〜50重量部、特に5〜30重量部である。)をも含有する媒体を意味する。
【0058】
本発明の含フッ素重合体は、被処理物品の種類や前記調製形態(乳濁液、有機溶剤溶液、エアゾールなど)などに応じて、任意の方法で撥水撥油剤又は汚れ脱離剤として被処理物品に適応され得る。例えば、水性乳濁液や有機溶剤溶液である場合には、浸漬塗布、スプレー塗布等のような被覆加工の既知の方法により、被処理物の表面に付着させ乾燥する方法が採用され得る。この際、必要ならばキュアリング等の熱処理を行っても良い。
また、必要ならば、他のブレンダーを併用することも可能である。例えば、防シワ剤、防縮剤、難燃剤、架橋剤、帯電防止剤、柔軟剤、ポリエチレングリコールやポリビニルアルコール等の水溶性高分子、ワックスエマルション、抗菌剤、顔料、塗料などである。これらのブレンダーは被処理物、処理時に処理浴に添加して使用しても良いし、あらかじめ、可能なら、本発明の含フッ素重合体と混合して使用しても良い。
【0059】
被処理物品としては、特に限定されないが繊維製品の他、石材、フィルター(例えば、静電フィルター)、防塵マスク、ガラス、紙、木、皮革、毛皮、石綿、レンガ、セメント、金属および酸化物、窯業製品、プラスチック、塗面、およびプラスターなどを挙げることができる。特に繊維製品に対して有用である。繊維製品としては種々の例を挙げることができる。例えば、綿、麻、羊毛、絹などの動植物性天然繊維、ポリアミド、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレンなどの合成繊維、レーヨン、アセテートなどの半合成繊維、ガラス繊維、炭素繊維、アスベスト繊維などの無機繊維、あるいはこれらの混合繊維が挙げられる。繊維製品は、繊維、糸、布等の形態のいずれであってもよい。
【0060】
本発明においては、被処理物品を表面処理剤(特に、撥水撥油剤および汚れ脱離剤)で処理する。「処理」とは、処理剤を、浸漬、噴霧、塗布などにより被処理物に適用することを意味する。処理により、処理剤の有効成分である含フッ素重合体が被処理物の内部に浸透するおよび/または被処理物の表面に付着する。
【実施例】
【0061】
次に、実施例、比較例及び試験例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、これらの説明が本発明を限定するものでない。
以下において、部または%は、特記しない限り、重量部または重量%を表す。
【0062】
<含フッ素テロマーの製造>
参考文献(USP3226449)を参考にして得られたC(CFCFI(nは0〜5の混合物)を蒸留条件を変えて精製し、含フッ素テロマー[A](n=2純度>99.9%、n=3含有量<0.05%)および含フッ素テロマー[B](n=2純度99.5%、n=3含有量0.5%)を得た。
【0063】
<モノマーの合成方法1>
オートクレーブ反応器に含フッ素テロマー[A]240g、t−ブチルパーオキシ 2−エチルヘキサノエート0.24gを仕込み、窒素置換後に減圧にした。撹拌しながら内温80℃まで昇温しエチレン15.1gを加えた。GC分析により原料テロマーが0.1%以下になったことを確認し、冷却し反応を停止した。含フッ素エチレン付加物[A]255gを得た。
続いて、オートクレーブ反応器に得られた含フッ素エチレン付加物[A]255g、アクリル酸カリウム62.2g、t-ブタノール122g、ヒドロキノン0.5gを加えた。混合物を加熱し180℃で4時間反応させた。GC分析により原料エチレン付加物が0.1%以下になったことを確認し、冷却し反応を停止した。反応混合物435gを得た。反応混合物のGC分析の結果、含フッ素化合物中C13CHCHOCOCH=CHは85.1%、C13CH=CH(Rfオレフィン)は9.2%、C13CHCHOH(Rfアルコール)は1.6%、C13CHCHOCOCHCHOCOCH=CH(アクリル酸付加物)は2.4%、C13CHCHOCOCHCHOC(CH(t−ブタノール付加物)は1.0%、不明成分合計0.7%であった。
【0064】
<モノマーの精製>
上記で得られた反応混合物を蒸留により反応溶媒(t-ブタノール)、不純物(Rfオレフィン、Rfアルコール、アクリル酸付加物、t−ブタノール付加物)を除去し、沸点:89℃/2.67kPaの溜分としてC13CHCHOCOCH=CHを得た。モノマー純度は99.5%であった。 得られたモノマーは10%炭酸ナトリウム水溶液で洗浄1回、水洗1回後、モノマー層は加熱減圧下で水分を除去した。
得られた含フッ素モノマー組成物を含フッ素組成物[AA]とする。
含フッ素組成物[AA]のモノマー純度、(i)〜(viii)の含有量は表4の通りであった。
【0065】
<モノマー分析方法>
含フッ素組成物の分析はGC分析により行った。またPFOA量はLC/MS/MS装置を用いて分析し、(メタ)アクリル酸含有量(酸分)は中和滴定法により、水分はカールフィッシャー装置により分析した。分析条件は下記の通りである。
【0066】
GC分析
装置 :GC17A(島津製作所社製)
LC/MS/MS装置:Waters社製
イオン化法:ESI
測定モード:Negative
【0067】
<モノマーの合成方法2>
モノマーの合成方法1においてアクリル酸カリウム62.2gに替えてメタクリル酸カリウム70.5gを使用する以外は同様の方法で反応を行い、蒸留、水洗、脱水で精製を行い、含フッ素組成物[A]を得た。含フッ素組成物[A]のモノマー純度、(i)〜(viii)の含有量は表3の通りであった。
(C13CHCHOCOC(CH)=CHの沸点:99℃/2.67kPa)
【0068】
<モノマーの合成方法3>
モノマーの合成方法1において、含フッ素テロマー[A]に替えて含フッ素テロマー[B]を使用し、アクリル酸カリウム62.2gに替えてメタクリル酸カリウム70.5gを使用する以外は同様の方法で反応を行い、蒸留、水洗、脱水で精製を行い、含フッ素組成物[B]を得た。ただし、蒸留の際に主溜分の得量を増やすため、初溜分、後溜分の除去量を減らした。含フッ素組成物[B]のモノマー純度、(i)〜(viii)の含有量は表3の通りであった。
【0069】
<モノマーの合成方法4>
モノマーの合成方法1において、含フッ素テロマー[A]に替えて含フッ素テロマー[B]を使用する以外は同様の方法で反応を行い、蒸留、水洗、脱水で精製を行い、含フッ素組成物[BB]を得た。ただし、蒸留の際に主溜分の得量を増やすため、初溜分、後溜分の除去量を減らした。含フッ素組成物[BB]のモノマー純度、(i)〜(viii)の含有量は表4の通りであった。
【0070】
<モノマーの合成方法5>
モノマーの合成方法4で得た含フッ素組成物[BB]にアクリル酸0.2%、水0.2%を加え含フッ素組成物[C]を調製した。含フッ素組成物[C]のモノマー純度、(i)〜(viii)の含有量は表4の通りであった。
【0071】
<モノマーの保存安定性>
含フッ素組成物[AA]、含フッ素組成物[BB]、含フッ素組成物[C]を80℃で3ヶ月間保管し、GC分析により各成分の増減を分析した。各成分の内、変化量に違いが見られたC13CHCHOHの含有量を表4に示した。不純物の少ない含フッ素組成物[AA]は保存安定性が良好であった。酸分、水分の多い含フッ素組成物[C]は含フッ素化合物(1)の加水分解が促進されていると考えられる。
【0072】
<重合体の製造例1>
含フッ素組成物[A]67.0g、ステアリルアクリレート(以下StA)10.0 g、グリシジルメタクリレート(以下GMA)2.5g、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート(以下CHPMA)0.5g、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド(カチオン性界面活性剤)0.8g、ソルビタンモノパルミテート(ノニオン性界面活性剤)1.4g、ポリオキシエチレン(50)オレイルエーテル(ノニオン性界面活性剤)1.8g、ポリオキシエチレン(20)ラウリルエーテル(ノニオン性界面活性剤)6.0g、トリプロピレングリコール(以下TPG)25.0g、イオン交換水240g、ラウリルメルカプタン(以下L-SH)0.3gを仕込んだ。60℃に加温し、ホモミキサーで予備分散後、超音波乳化機で10分間乳化した。乳化液の粒子径は175nmであった。
この乳化液を500mlのオートクレーブ(撹拌機、温度計、窒素導入管付き)に移し、窒素置換後、塩化ビニル(以下VCl)26.0gを仕込んだ。重合開始剤アゾビスアミジノプロパン・二塩酸塩0.7 gを添加し、60℃まで加熱し、重合を開始した。
60℃で4時間撹拌後、未反応の塩化ビニルを排出した。GCにて塩化ビニル以外のモノマーの消失を確認し、固形分31%の水性分散体を得た。これをイオン交換水で希釈し、固形分30%の撥水撥油剤組成物[A]とした。塩化ビニルモノマーの反応率は78%であった。重合後の組成物の粒子径は75nmであった。
【0073】
<重合体の製造例2>
含フッ素組成物[A]を含フッ素組成物[B]に替える以外は重合体1の製造方法と同様の方法で固形分30%の撥水撥油剤組成物[B]を得た。乳化後の粒子径は186nm、重合後の粒子径は88nmであった。この製造例では、重合後にオートクレーブの底に少量の凝集物が見られた。
【0074】
<撥水撥油剤組成物の評価>
重合体の製造例1および2で得られた撥水撥油剤組成物[A]および[B]について撥水撥油性および保存安定性を評価した。結果は表3に示した。
撥水撥油剤組成物[A]および[B]共に撥水撥油性は良好であるが、不純物の少ない含フッ素組成物[A]を用いたものの方が保存安定性が良好であった。
【0075】
<撥水撥油性の評価方法>
重合体分散液を固形分濃度が0.5重量%になるよう水で希釈して処理液を調製した。ナイロンタフタ布(ナイロン6、紺色染色布)、ポリエステル布(マイクロファイバーバー、紺色染色布)、および綿布(ツイル、未染色、シルケット加工)を処理液に浸漬し、マングルで絞って、ウェットピックアップ40%(ナイロン)、70%(ポリエステル)、63%(綿)とし、100℃で2分間乾燥し、170℃で1分間熱処理した後に、処理布の撥水撥油性を評価した。
撥水性はJIS−L−1092のスプレー法による撥水性No.(下記表1参照)をもって表す。
撥油性はAATCC−TM118によって下記表2に示す試験溶液を試験布上、2箇所に数滴たらし、30秒後の浸透状態を観察し、浸漬を示さない試験溶液が与える撥油性の最高点を撥油性とする。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
粒子径
乳化後および重合後の分散粒子の粒子径は下記装置を使用し測定した。
機種:Fiber-Optics Particle Analyzer FPAR-1000
メーカー:大塚電子株式会社
【0079】
<保存安定性の評価方法>
沈降安定性
固形分30mass%の撥水撥油剤組成物を40℃で1ヶ月静置し、沈降の発生を観察した。沈降物がないことが好ましい。
○:全く沈降なし
△:わずかに沈降物あり
×:沈降物が多い
【0080】
【表3】

【0081】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の含フッ素組成物は、表面処理剤(特に、撥水撥油剤および汚れ脱離剤)を製造するための単量体組成物として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)式:
CH2=C(−X)−C(=O)−Y−Z−Rf (1)
[式中、Xは、水素原子、メチル基またはハロゲン基であり;
Yは、−O−または−NH−であり;
Zは、炭素数1〜10の脂肪族基、炭素数6〜18の芳香族基または環状脂肪族基、
-CH2CH2N(R1)SO2−基(但し、R1は炭素数1〜4のアルキル基である。)または
-CH2CH(OZ1) CH2−基(但し、Z1は水素原子またはアセチル基である。)または
-(CH2)m−SO2−(CH2)n−基 または -(CH2)m−S−(CH2)n−基(但し、mは1〜10、nは0〜10、である)、
Rfは、炭素数1〜6の直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキル基である。]
で示される含フッ素化合物、および
(2)含フッ素化合物(1)以外の化合物
を含んでなる含フッ素組成物であって、
化合物(1)の量が含フッ素組成物に対して少なくとも98重量%である含フッ素組成物。
【請求項2】
化合物(2)が、(i)含フッ素アルコール、(ii)含フッ素オレフィン、(iii) 含フッ素化合物と(メタ)アクリル酸との付加体、(iv) 含フッ素化合物と非フッ素アルコールとの付加体、(v)(メタ)アクリル酸、(vi)式(I)においてRfが炭素数8以上である含フッ素化合物、(vii)パーフルオロオクタン酸(PFOA)、および(viii)水からなる群から選択された少なくとも2種以上の物質によって形成される混合物である請求項1に記載の含フッ素組成物。
【請求項3】
含フッ素アルコール(i)と含フッ素オレフィン(ii)と(メタ)アクリル酸付加体(iii)と非フッ素アルコール付加体(iv)と(メタ)アクリル酸(v)との合計量が2%以下であり、含フッ素C化合物(vi)の量が500ppm以下であり、パーフルオロオクタン酸(vii)の量が50ppb以下であり、水(viii)の量が0.2%以下である請求項2に記載の含フッ素組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の含フッ素組成物と液状媒体との混合物であって、含フッ素化合物が液状媒体に分散または溶解している含フッ素化合物/液状媒体混合物。
【請求項5】
エマルションである請求項4に記載の含フッ素化合物/液状媒体混合物。
【請求項6】
(A)請求項1記載の含フッ素組成物を重合させて誘導された繰り返し単位、
を有して成る含フッ素重合体を含んでなる表面処理剤。
【請求項7】
(A)請求項1記載の含フッ素組成物を重合させて誘導された繰り返し単位、
(B)フッ素原子を含まない非架橋性単量体から誘導された構成単位、および
(C)必要により存在する、架橋性単量体から誘導された構成単位
を有して成る含フッ素重合体を含んでなる請求項6に記載の表面処理剤。
【請求項8】
表面処理剤において、含フッ素組成物100重量部に対して、フッ素原子を含まない非架橋性単量体の量が0.1〜150重量部であり、架橋性単量体の量が20重量部以下である請求項7に記載の表面処理剤。

【公開番号】特開2009−242679(P2009−242679A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−92917(P2008−92917)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】