説明

高純度ゲンチオオリゴ糖類の調製方法、それにより得られる高純度ゲンチオオリゴ糖類、およびその使用

【課題】不必要な副産物を産生することなく、少なくとも90%の純度を有する高純度ゲンチオオリゴ糖類を調製する方法を提供する。
【解決手段】本発明は、高純度ゲンチオオリゴ糖の調製方法、およびこれにより得られた高純度ゲンチオオリゴ糖類そしてその使用に関する。本発明の方法は、液体培地に低純度ゲンチオオリゴ糖を添加するステップと;液体培地に微生物を接種し、その後インキュベーションと発酵を行って、低純度ゲンチオオリゴ糖中に含まれているグルコースを消費するステップと;結果として得られた発酵ブロスを濾過と精製に付すステップを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度ゲンチオオリゴ糖類(gentiooligosaccharides)の調製方法、それによって得られた高純度ゲンチオオリゴ糖類およびその使用に関し、より詳細には、大量のグルコースを含む低純度ゲンチオオリゴ糖類を微生物によって発酵させてそこからグルコースを除去することにより、ココア、チョコレート、コーヒー、ビール、茶、パンまたは菓子製品、飲料などの食品に対する代用品として、およびその主成分として有利に使用することのできる高純度ゲンチオオリゴ糖類を、不要な副産物を生成することなく、調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲンチオオリゴ糖類は、グルコースから酵素によって合成される二糖類であるゲンチオビオースとセロビオースで主として構成された甘味料であり、β−1,6−グルコシド結合を有するオリゴ糖類の総称である。ゲンチオオリゴ糖類は、ゲンチオビオース(gentiobiose)、セロビオース(cellobiose)、ゲンチオトリオース(gentiotriose)、ゲンチオテトラオース(gentiotetraose)などで構成され、その主成分は、強い苦味を有する二糖であるゲンチオビオースである。
【0003】
ゲンチオオリゴ糖類は、植物の根または茎の中および天然蜂蜜の中に見いだされ、原料としてデンプンを用いる酵素反応によって調製される。ゲンチオオリゴ糖類は、ミネラル吸収を助け、腸内微生物叢の改善を補助するためにビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)およびラクトバシラス(Lactobacillus)により選択的に利用され、優れた整腸効果をもつガラクトオリゴ糖のものに類似した整腸効果を有する。
【0004】
ゲンチオオリゴ糖類は、ナリンギン(Naringin)などの苦味を有する物質と比べてより穏やかで新鮮な苦味を有することをその特徴とする。チョコレート、ココア、コーヒー、ビール、茶などのさまざまな食品の苦味と調和して、ゲンチオオリゴ糖類の苦味は、果物および野菜の渋味を減じ、苦味をもつ食品の苦みを穏やかにし、少量の添加で食品に対する嗜好を増大させる。ゲンチオオリゴ糖類は、例えばオレンジジュースおよびパイナップルジュースなどのフルーツジュース、コーヒー、野菜飲料、カボチャ粥などのさまざまな食品に応用可能である。
【0005】
このようなゲンチオオリゴ糖類は、縮合、および真菌β−グルコシダーゼを用いたトランスグルコシル化(transglucosylation)反応によって高濃度のグルコースから工業的に調製可能である([Umino Takehiro: Study of Industrial Production of Gentiooligosaccharide, Journal of Applied Glycoscience (Japan) 42, 83 (1995)]を参照のこと)。現在、45%までの純度を有するゲンチオオリゴ糖類は、酵素合成により生産され、90%以上もの純度を有するゲンチオオリゴ糖類はカチオン交換樹脂を用いることによって生産されている。ここで、ゲンチオオリゴ糖以外の残留構成成分は主としてグルコースであり、例えば、45%の純度を有するゲンチオオリゴ糖類は、糖類構成成分の総重量に基づいて約50〜55重量%のグルコースを含有し、一方90%の純度を有するゲンチオオリゴ糖類は糖類構成成分の総重量に基づき約0.5〜5重量%のグルコースを含有する。
【0006】
グルコースは、スクロースの約60%の甘味を有する。ゲンチオオリゴ糖類内に含まれるグルコースは、甘みを提供する上で役割を果たす場合もあるが、それが応用される対象に応じて苦みの出現を阻害する場合がある。さらに、含有されるグルコースに起因して、対象にゲンチオオリゴ糖類を適用することは困難である。例えばチョコレートの場合、高含有量のグルコースを含むゲンチオオリゴ糖類の添加が、成形上の問題をひき起こすかもしれない。したがって、応用対象に応じて高い純度を有するゲンチオオリゴ糖類を使用する必要性が存在するかもしれない。さらに、オリゴ糖の純度が高くなればなるほど、より少ない量でその効果を得ることができ、それによって少量で同じ効果を達成することが可能になる。したがって、高純度ゲンチオオリゴ糖類の調製が不可欠である。
【0007】
しかしながら、実際には、高純度ゲンチオオリゴ糖類を調製する上で数多くの制限が存在する。これまでに、イオン交換樹脂を用いたカラムにより約90%以上までゲンチオオリゴ糖類の純度を上昇させた事例が報告されている([Umino Takehiro: Study of Industrial Production of Gentiooligosaccharide, Journal of Applied Glycoscience (Japan) 42, 85-91 (1995)])。しかしながら、カラムクロマトグラフィによると、その純度は、高純度ゲンチオオリゴ糖類の調製中の分離度に応じて決定されるが、高い純度を有するゲンチオオリゴ糖類を分離する場合、副産物分画の量が増大し、ゲンチオオリゴ糖類はグルコース分画で溶出され、結果として低い収量をもたらすという欠点がある。さらに、副産物分画を他の用途に使用しようとすることが求められる場合、副産物分画が大量のグルコースと少量のゲンチオオリゴ糖を含有していることから、低濃度の酵素によるゲンチオオリゴ糖類のグルコースへの分解などの再処理をこの副産物分画に施す必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、不必要な副産物を産生することなく、少なくとも90%の純度を有する高純度ゲンチオオリゴ糖類を調製する方法を提供することにある。
【0009】
本発明の別の目的は、上述の方法によって調製される少なくとも90%の純度を有する高純度ゲンチオオリゴ糖類を提供することにある。
【0010】
本発明のさらに別の目的は、少なくとも90%の純度を有する上述の高純度ゲンチオオリゴ糖類を添加することにより、食品の味を改善する方法を提供することにある。
【0011】
本発明のさらに別の目的は、食品または食品添加物に対する代用品として少なくとも90%の純度を有する上述の高純度ゲンチオオリゴ糖類を使用する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の目的を達成するために、高純度ゲンチオオリゴ糖類の調製方法において、液体培地に低純度ゲンチオオリゴ糖を添加するステップと;該液体培地に微生物を接種し、その後インキュベーション(incubation)と発酵を行い該低純度ゲンチオオリゴ糖中に含まれているグルコースを消費するステップと;得られた発酵ブロス(broth)から、例えば濾過および遠心分離によって該微生物を除去するステップと;得られたブロスを精製に付すステップと、を含む方法が提供されている。
【0013】
同様に本発明は、上述の方法によって調製される、少なくとも90%の純度を有する高純度ゲンチオオリゴ糖類を提供する。
【0014】
さらに本発明は、食品に対し少なくとも90%の純度を有する上述の高純度ゲンチオオリゴ糖類を添加することによって、食品の味を改善する方法を提供する。
【0015】
さらに、本発明は、食品または食品添加物の代用品として、少なくとも90%の純度を有する高純度ゲンチオオリゴ糖類を使用する方法を提供している。
【発明の効果】
【0016】
大量のグルコースを含む低純度ゲンチオオリゴ糖類が、炭素源としてのグルコースを消費するもののゲンチオオリゴ糖類は消費しない微生物の接種と発酵に付され、次に得られた発酵ブロスが濾過と精製に付される、本発明の方法によると、少なくとも90%の純度を有する高純度ゲンチオオリゴ糖類が、不必要な副産物を産生することなく調製可能である。同様に、本発明によって得られる少なくとも90%の純度を有する高純度ゲンチオオリゴ糖類は、少量を添加することでココア、チョコレート、コーヒー、ビール、茶、パンまたは菓子製品、飲料などの食品の風味または味を改善することができ、食品またはその主要成分に対する代用品として有益に使用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明による高純度ゲンチオオリゴ糖類の調製方法は、液体培地に低純度ゲンチオオリゴ糖を添加するステップと;該液体培地に微生物を接種し、その後インキュベーションと発酵を行い該低純度ゲンチオオリゴ糖中に含まれているグルコースを消費するステップと;得られた発酵ブロスから該微生物を除去するステップと;該ブロスを精製に付すステップとを含む。
【0018】
原料として本発明において使用される低純度ゲンチオオリゴ糖類は特に限定されず、例えば縮合、および高濃度のグルコースに由来する真菌ベータグルコシダーゼを用いたトランスグルコシル化反応によるゲンチオオリゴ糖を調整する従来の方法([Umino Takehiro: Study of Industrial Production of Gentiooligosaccharide, Journal of Applied Glycoscience (Japan) 42, 83 (1995)]を参照のこと)により得られる任意のゲンチオオリゴ糖類、または従来のゲンチオオリゴ糖調製プロセスにより得られその後純度を高めるため最初にイオン交換樹脂を用いたカラムで精製されたゲンチオオリゴ糖類を使用してよい。本発明において使用される低純度ゲンチオオリゴ糖類は、約15〜65重量%のグルコースを含み、培地の体積に基づいて5〜70%(w/v)の固形分濃度に添加され得る。
【0019】
さらに、本発明の発酵のための培地は、0.1〜1.5%(w/v)の酵母エキス、0.1〜0.5%(w/v)の麦芽エキス、0.1〜0.8%(w/v)のペプトンを培地構成成分として含んでいてよい。
【0020】
上述の培地構成成分のうち、酵母エキス(yeast extract)、麦芽エキス(malt extract)およびペプトン(peptone)などの構成成分は、ゲンチオオリゴ糖類中に含まれたグルコースを除去するための微生物の成長を目的として添加される。このような構成成分は、効率の良い微生物培養のため、上述の範囲内の量で添加することが望ましい。
【0021】
本発明の発酵のための液体培地中に含まれる酵母エキスは、酵母から抽出されるものであり、当該技術分野において周知である、水溶性浸出物である。このエキスは、微生物の成長のためのより優れた刺激であり、ビタミン、窒素、アミノ酸、炭素などを伴うインキュベーション培地を供給する上で1つの役割を果たす。酵母エキスは、培地に基づいて0.1〜1.5%(w/v)の濃度で使用されることが望ましい。
【0022】
麦芽エキスは、酵母およびかびと共に大麦粒を成長させることによって得られる。さらに、麦芽エキスは、高濃度の炭水化物、特にマルトースを含むことから、酵母および真菌などの微生物の培養に適しており、炭素およびタンパク質などの栄養素を伴う培地を供給する上で一定の役割を果たす。麦芽エキスは、培地に基づいて0.1〜0.5%(w/v)の濃度で使用されることが望ましい。
【0023】
ペプトンは、ペプシン、トリプシン、パンクレアチンなどの酵素を用いて、動物の肉やカゼインなどのタンパク質を消化することで得られる、微量のプロテオース(proteose)を含む小分子の黄色粉末であり、培地中で窒素源として使用される。ペプトンは、培地に基づいて0.1〜0.8%(w/v)の濃度で使用されることが望ましい。
【0024】
さらに、本発明の発酵のための液体培地は、ゲンチオオリゴ糖類中に含まれているグルコースを消費するための微生物発酵の間に泡が発生する場合に、培養の効率を良くするため、消泡剤などの追加の構成成分を少量含んでいてよい。
【0025】
本発明による高純度ゲンチオオリゴ糖類を得るための発酵において使用される微生物としては、例えば酵母、細菌およびかびといった発酵真菌など、ゲンチオオリゴ糖類を消費せずに、炭素源としてのグルコースを消費する微生物を使用してよい。微生物の代表的例には、Saccharomyces cerevisiae、Saccharomyces carlsbergensis、Saccharomyces uvarum、Saccharomyces ellipsoideus、Saccharomyces bayanus などのサッカロミセス属(Saccharomyces sp.)に属するものなどの酵母菌株が含まれる。これら以外に、バシラス属(Bacillus sp.)、ラクトバシラス属(Lactobacillus sp.)、カンジダ属(Candida sp.)に属するものも使用されてよい。詳細には、発酵が終結した後に液体培地から容易に分離され除去され得ることから酵母が望ましく、除去された酵母は動物の飼料などの副産物品として販売されてよい。
【0026】
本発明においては、低純度ゲンチオオリゴ糖類中に含まれているグルコースを除去するための発酵に使用される微生物は、培地の量との関係において約10%(v/v)の濃度で添加されることが望ましい。上述の量を超える量で微生物を添加することは、過剰発酵のため効率が低下するという点で問題があり、一方、上述の量未満の量で微生物を使用することは、インキュベーション時間が延びるという点において問題がある。
【0027】
本発明において、発酵は、25℃〜35℃の範囲の温度、0.5〜2v/v/m(通気量/実質容積/分)および200rpm〜500rpmの撹拌速度という条件の下で24時間〜72時間実施されてよい。
【0028】
上述の通り、低純度ゲンチオオリゴ糖類を含む培地を微生物接種、インキュベーションおよび発酵に付した場合、低純度ゲンチオオリゴ糖類中に含まれるグルコースは微生物により消費され、除去され、かくして高純度ゲンチオオリゴ糖類を得ることが可能になる。
【0029】
発酵が終結した後、発酵において使用される微生物は、例えば遠心分離または濾過を使用することにより発酵ブロスから除去されてよく、その後、得られたブロスは、活性炭を用いた脱色、イオン交換樹脂を用いた脱塩を含めた精製プロセスに付され、減圧下で蒸発させられてよく、こうして少なくとも90%の純度を有する高純度ゲンチオオリゴ糖類を得ることが可能となる。
【0030】
本発明の方法によって得られる少なくとも90%の純度を有する高純度ゲンチオオリゴ糖類は、下表1に示す通りの糖組成(残留糖類の総重量に基づく)を有する。
【表1】

【0031】
したがって、本発明の発酵による高純度ゲンチオオリゴ糖類の調製方法によると、ゲンチオオリゴ糖類中のグルコース含有量は0.5重量%まで削減され得て、少なくとも90%の純度を有するゲンチオオリゴ糖類が、不必要な副産物を産生すること無く、容易に得られる。
【0032】
さらに、本発明に係る発酵による高純度ゲンチオオリゴ糖類の調製中、グルコースは、酵母および酵母ミール(yeast meal)などの微生物によって代謝されて、エタノールを生成する。このような発酵プロセスの副産物のなかでも、酵母ミールは、動物の飼料として使用され得、一方エタノールは、新たな未来の燃料であるバイオエタノールとして脚光を浴びるものと期待されている。
【0033】
さらに、本発明にしたがって得られる少なくとも90%の純度を有する高純度ゲンチオオリゴ糖類は、グルコースの物理的特性によってひき起こされる製品の成形または整形における困難性、およびその高いグルコース含有量が甘みに対しもたらす不利な効果に起因してそれらの使用が限定されていた、従来のゲンチオオリゴ糖類に付随する問題を解決することができる。同様に、これらは、少量を添加することにより、チョコレート、ココア、ビール、茶、コーヒーおよび紅参(red ginseng)などのさまざまな食品の風味および味を改善し得る。さらに、これらのゲンチオオリゴ糖類は、食品、例えばココア、コーヒー、チョコレート、茶、パンまたは菓子製品およびその主要成分に対する代用品として有益に使用可能である。
【0034】
例えば、ココア、チョコレート、緑茶などのパン製品を調製するにあたって、パン製品の主要成分である、ココア(例えばSugarless 100%, Cocoa Powder (Valrhona), HERSHEY'S COCOA (HERSHEY)など)、ダークチョコレート(例えばReal Choco Chip Dark (Belcolade), Le Noir 68%, Baking Bar (Valrhona)など)または緑茶粉末などの0.1〜40重量%の代りに、本発明にしたがって得られる少なくとも90%の純度を有する高純度ゲンチオオリゴ糖類を使用することで、ゲンチオオリゴ糖が一切添加されていない従来の製品のものに類似する苦みおよび味を呈示することができる。
【0035】
さらに、ココアおよびダークチョコレートを用いたブラウニー(brownies)の場合、ブラウニーの主要成分である、ココアの0.1〜40重量%、およびダークチョコレートの0.1〜40重量%の代りに、本発明にしたがって得られる少なくとも90%の純度を有する高純度ゲンチオオリゴ糖類を使用することで、同様に、ゲンチオオリゴ糖が一切添加されていない従来の製品のものに類似する苦みおよび味を呈示することができる。
【0036】
紅参飲料については、使用すべき高純度ゲンチオオリゴ糖類の割合が、飲料中に添加すべき紅参の濃度に応じて変動する。1.5〜2重量%の紅参濃縮物を含む紅参飲料の場合、紅参濃縮物の0.1〜40重量%の代りに少なくとも90%の純度を有する高純度ゲンチオオリゴ糖類を使用することで、従来の飲料の苦味と類似の苦味を呈示することができ、一方0.4〜0.5重量%の紅参濃縮物を含む紅参飲料の場合、紅参濃縮物の0.1〜30重量%の代りに少なくとも90%の純度を有する高純度ゲンチオオリゴ糖類を使用することで、ゲンチオオリゴ糖が一切添加されていない従来の飲料のものと類似の苦みおよび味を呈示することができる。また、上述の紅参濃縮物の代りに少なくとも90%の純度を有する高純度ゲンチオオリゴ糖類を使用する場合、高純度ゲンチオオリゴ糖類を置き換えられるべき紅参濃縮物の量の1倍〜10倍だけ加えてもよい。
【0037】
コーヒー飲料については、代用される量がコーヒー豆の特徴、例えばコーヒーの木の原産地などによって変動するものの、コーヒー豆の0.1〜10重量%の代わりに本発明の高純度ゲンチオオリゴ糖類を使用してよい。
【0038】
本発明について、以下で提供される実施例にしたがってさらに説明し例証する。ただし、以下の実施例は、例証を目的として示されているにすぎず、本発明の範囲を限定するように意図されたものではないという点に留意すべきである。
【実施例】
【0039】
実施例1
(1) 種培養の調製
30mLのYMブロス(Difco)に0.5mLの Saccharomyces cerevisiae Y1135 菌種を接種し、その後180rpmで撹拌しながら24時間30℃でインキュベートした。
【0040】
(2) インキュベーション
0.3%(w/v)の酵母エキス(Difco)、0.3%(w/v)の麦芽エキス(Difco)、0.5%(w/v)のペプトン(Difco)および水を含む50mLの培地に対し、培地の体積に基づいてそれぞれ5%(w/v)および10%(w/v)の固形分濃度で、粗製ゲンチオオリゴ糖(純度45%)を添加し、ステップ(1)で得た Saccharomyces cerevisiae Y1135 の種培養1mLを接種し、続いて30℃の培養温度、1.0v/v/mの曝気、および300rpmの撹拌速度という条件下で、インキュベータ内で48時間インキュベートした。
【0041】
高性能液体クロマトグラフィ(HPLC)(Waters,HPX−42Aカラム)とBIO−LC(DIONEX, ICS-5000 Bio-LC Chromatography System、PA検出器、PA−1カラム)を用いて、培養ブロスを分析した。その結果、液体培地の体積に基づき5%(w/v)の固形分濃度で粗製ゲンチオオリゴ糖(純度45%)を添加してインキュベーションを実施した場合、発酵後、残留糖類に基づいて92.8重量%のゲンチオオリゴ糖含有量を有するゲンチオオリゴ糖類が得られ、一方、10%(w/v)の固形分濃度で粗製ゲンチオオリゴ糖(純度45%)を添加してインキュベーションを実施した場合、発酵後、残留糖類に基づいて92.0重量%のゲンチオオリゴ糖含有量を有するゲンチオオリゴ糖類が得られた。
【0042】
実施例2
0.3%(w/v)の酵母エキス(Difco)、0.3%(w/v)の麦芽エキス(Difco)、0.5%(w/v)のペプトン(Difco)、1mLの消泡剤(Dow Corning、LS−300)および水を含む3Lの培地に対し、培地の体積に基づいてそれぞれ30%(w/v)、40%(w/v)および50%(w/v)の固形分濃度で、粗製ゲンチオオリゴ糖(純度45%)を添加し、ステップ(1)で得た Saccharomyces cerevisiae Y1135の種培養300mLを接種し、続いて5L入りインキュベータ内で30℃の培養温度、1.0v/v/mの曝気そして300rpmの撹拌速度という条件下で48時間インキュベートした。インキュベーションの後に得られた培養ブロスを含むゲンチオオリゴ糖は、ゲンチオオリゴ糖類およびグルコース以外に、でんぷんの液化およびグリコシル化の結果として得られるグリセロールおよび単糖類成分(例えばグルコース、フルクトースなど)を含む。培養ブロスを濾過して微生物を除去し、その後活性炭で脱色しイオン交換樹脂で脱塩して、そしてさらに噴霧乾燥機を用いて濃縮してゲンチオオリゴ糖粉末を得た。粉末中の成分の含有量(残留糖類の総重量に基づく)を、実施例1の場合と類似の要領で分析した。結果は、下表2に示されている。
【表2】

【0043】
表2に示されている通り、90%以上の純度を有する高純度ゲンチオオリゴ糖類は、どんな濃度の粗製ゲンチオオリゴ糖類が添加されるかとは無関係に、発酵により得ることができる。
【0044】
実施例3
主要成分としてダークチョコレート(Belcolade(ベルギー)製Real Chocochip Dark、成分:ココア重量45.8%、ココアバター9.9%、糖、レシチン、天然バニラフレーバなど)とココアパウダー(Valrhona(フランス)社製無糖100%ココアバター)を有するブラウニーを調製するにあたり、ダークチョコレートの7.7重量%とココアパウダーの33.3重量%の代りに、実施例2で得られた12gの高純度ゲンチオオリゴ糖(純度95.2%)が使用された実験グループ1; ダークチョコレートの6.1重量%とココアパウダーの33.3重量%の代りに10gの高純度ゲンチオオリゴ糖(純度95.2%)が使用された実験グループ2; あるいは、従来の組合せ比にしたがって構成されている対照グループを利用して、ブラウニーを調製した。実験グループ1と2および対照グループ由来の各試料のそれぞれの組合せ比を、下表3に示した。
【表3】

【0045】
調製された対照グループおよび実験グループ1および2についての苦味、穏やかさおよび嗜好を、官能試験を通して査定し、評価した。
【0046】
官能試験では、1〜9の分類等級を用いて、属性(苦味および穏やかさ)および嗜好を評価する9スケール試験を使用した。苦味の場合、評点が9に近くなればなるほど、苦味がより強くなり、一方穏やかさの場合は、評点が9に近くなればなるほど、穏やかになる。味の嗜好に関しては、評点が9に近くなればなるほど嗜好性が上がる。選択されたパネラーは、年齢が25〜40才の女性6名、男性6名であり、2ヵ月間官能試験について訓練を受けていた。対照グループと実験グループ1および2で作られたブラウニーについての苦味、穏やかさおよび嗜好の平均値は、下表4に示されている。官能試験結果に関する統計的データについては、Systat Software 製の Sigmaplot 11.0 プログラムが使用され、そこでは、0.05の有意性レベルで一元配置法ANOVAにより、平均値との関係において上述の3つのグループの間の統計学的に有意な差異が検討され、グループ間の差異は Tukey Test を用いて統計学的に分析された。
【表4】

【0047】
苦味、穏やかさおよび嗜好についての官能試験の結果として、ダークチョコレートの7.7重量%およびココアパウダーの33.3重量%の代りに高純度ゲンチオオリゴ糖を使用した実験グループ1のブラウニーは、高純度ゲンチオオリゴ糖を一切含まない対照グループのブラウニーに比べて、苦味について統計学的に有意なより高い評点を示したが、穏やかさ、および嗜好については統計学的な差異を示さなかった。さらに、高純度ゲンチオオリゴ糖が、より少ない量で含まれていた、すなわちダークチョコレートの6.1重量%およびココアパウダーの33.3重量%の代りに使用された、実験グループ2のブラウニーは、対照グループのブラウニーと比べた場合、統計学的に有意なより高い嗜好を示す一方で、苦味および穏やかさについての統計学的に有意な差異は示さなかった。
【0048】
すなわち、実験グループ1および2の結果から、ゲンチオオリゴ糖を全く含まない従来のブラウニーに比べて、ブラウニー主要成分、すなわちココアパウダーとダークチョコレートの40重量%以下の代りに、本発明の90%以上の純度を有する高純度ゲンチオオリゴ糖類を使用することで、官能的差異が示されることはなかったものの、全体的な味および嗜好は改善されたという点を確認することができる。
【0049】
実施例4
2重量%(6g)の紅参濃縮物を含む紅参飲料を調製するにあたり、紅参濃縮物の25重量%(1.5g)の代りに実施例2で得た高純度ゲンチオオリゴ糖(純度92.5%)を使用したものの、高純度ゲンチオオリゴ糖は代用されるべき紅参濃縮物の量(1.5g)の3倍の量(4.5g)で添加した。紅参飲料の主要成分および組合せ比を、下表5に示す。
【表5】

【0050】
対照グループと実験グループの紅参飲料を、官能試験により苦味、穏やかさおよび嗜好に関して評価し、結果を下表6に示す。官能試験および統計学的分析を、実施例3に記載のものと同じ要領で実施した。
【表6】

【0051】
結果として、対照グループと実験グループの紅参飲料は、0.05の有意性レベルで統計学的に有意な差異を示さず、苦味、穏やかさおよび嗜好について全体的平均値において大きな差異を示さなかった。したがって、紅参飲料の主要成分である紅参濃縮物の一部分の代りに本発明の高純度ゲンチオオリゴ糖を使用しても、ゲンチオオリゴ糖を一切含まない原初の飲料と比べて、苦味、穏やかさおよび嗜好の官能的差異もたらされる結果にはならなかった。
【0052】
本出願において開示されている実施形態は以下の通りである。
1. 高純度ゲンチオオリゴ糖の調製方法において、
− 液体培地に低純度ゲンチオオリゴ糖を添加するステップと;
− 該液体培地に微生物を接種し、その後インキュベーションと発酵を行って、該低純度ゲンチオオリゴ糖中に含まれているグルコースを消費するステップと;
− 得られた発酵グロスから該微生物を除去するステップと;
− 得られたブロスを精製するステップと;
を含む、方法。
2. 前記低純度ゲンチオオリゴ糖が、15〜65重量%のグルコースと35〜85重量%のゲンチオオリゴ糖とを含む、実施形態1に記載の方法。
3. 前記低純度ゲンチオオリゴ糖が、5〜70%(w/v)の濃度で前記液体培地に添加される、実施形態1に記載の方法。
4. 前記微生物が炭素源としてのグルコースを消費するもののゲンチオオリゴ糖は消費しない、実施形態1に記載の方法。
5. 前記微生物が酵母、細菌またはかびである、実施形態4に記載の方法。
6. 前記微生物が、Saccharomyces sp., Bacillus sp., Lactobacillus sp.およびCandida sp.からなる群から選択される菌株である、実施形態4に記載の方法。
7. 前記精製が、活性炭による脱色、イオン交換樹脂による脱塩および蒸発によって実施される、実施形態1に記載の方法。
8. 前記高純度ゲンチオオリゴ糖が少なくとも90%の純度を有する、実施形態1に記載の方法。
9. 実施形態1〜8のいずれか一項に記載の方法によって得られる、少なくとも90%の純度を有する、高純度ゲンチオオリゴ糖。
10. 実施形態9に記載の、少なくとも90%の純度を有する高純度ゲンチオオリゴ糖を食品に対し添加することによって、食品の風味または味を改善する方法。
11. 実施形態9に記載の少なくとも90%の純度を有する高純度ゲンチオオリゴ糖を、食品またはその主要成分に対する代用品として使用する方法。
12. 前記少なくとも90%の純度を有する高純度ゲンチオオリゴ糖が、前記食品またはその主要成分の0.2〜40重量%の範囲の量で添加される、実施形態11に記載の方法。
13. 前記食品が、ココア、チョコレート、コーヒー、パンまたは菓子製品および飲料の群から選択される一つ以上である、実施形態11に記載の方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高純度ゲンチオオリゴ糖の調製方法において、
− 液体培地に低純度ゲンチオオリゴ糖を添加するステップと;
− 該液体培地に微生物を接種し、その後インキュベーションと発酵を行って、該低純度ゲンチオオリゴ糖中に含まれているグルコースを消費するステップと;
− 得られた発酵ブロスから微生物を除去するステップと;
− 得られたブロスを精製に付すステップと;
を含み、微生物がSaccharomyces sp.、Bacillus sp.、Lactobacillus sp.およびCandida sp.からなる群から選択される菌株であり;かつ
該精製が、活性炭による脱色、イオン交換樹脂による脱塩および蒸発によって実施される、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法によって得られる、少なくとも90%の純度を有する高純度ゲンチオオリゴ糖。
【請求項3】
請求項2に記載の少なくとも90%の純度を有する高純度ゲンチオオリゴ糖を食品に対し添加することによって、食品の風味または味を改善する方法。

【公開番号】特開2013−111082(P2013−111082A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−255851(P2012−255851)
【出願日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【出願人】(512035620)コーンプロダクツ ディベロップメント インコーポレーテッド (6)
【Fターム(参考)】