説明

高純度シリカの製造方法

【課題】高純度のシリカを簡易にかつ低コストで製造することのできる方法を提供する。
【解決手段】(A)シリカ鉱物含有岩石とアルカリ水溶液を混合して、pHが11.5以上のアルカリ性スラリーを調製し、該シリカ鉱物含有岩石中のSi、Al、Feを液分中に溶解させた後、該スラリーを固液分離して、Si、Al、Feを含む液分と、固形分を得る工程と、(B)工程(A)で得た液分と酸を混合して、pHを7.0以上、10.3以下に調整し、液分中のSiを析出させた後、固液分離を行い、SiOを含む固形分(高純度シリカ)と、液分を得る工程と、(C)工程(A)と工程(B)の間に設けられる工程であって、前工程で得た液分に対してイオン交換処理及び活性炭処理を行い、不純物を回収する工程、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ鉱物含有岩石を原料とする高純度シリカの製造方法、特に半導体デバイスやシリカガラスの原料等として好適に用いうる高純度シリカの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高純度シリコンは、半導体デバイス、シリカガラス等に用いられている。
高純度シリコンの製造方法として、例えば、金属シリコンから製造された高純度のシリコン塩化物(トリクロロシラン)を原料として用いる方法が提案されている(特許文献1)。
特許文献1に記載の方法によると、非常に高純度のシリコンを得ることができる。しかし、この方法は、工程が煩雑でかつ高コストであるという問題がある。このような事情下において、高純度のシリコンを、低コストかつ大量に製造することのできる技術が望まれている。
これを解決すべく、二酸化ケイ素を含有しかつ多孔質で微細構造を有する原料を精製して高純度シリカを製造し、次いで、この高純度シリカを原料としてシリコンを生成し、得られたシリコンにレーザを照射することなどによって、高純度シリコンを製造する方法が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−001804号公報
【特許文献2】特開2006−188367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2に記載の方法によると、従来技術に比して、低コストでかつ簡易に、半導体デバイス等の材料として好適な純度を有するシリコンを得ることができる。シリコンの原料となる高純度のシリカを、より低コストでかつ簡易に得ることができれば、半導体デバイスの低コスト化等に貢献することができ、好都合である。
そこで、本発明は、高純度のシリカを、簡易にかつ低コストで製造することのできる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、シリカ鉱物含有岩石に対して、特定のpH域におけるpH調整と、イオン交換処理及び活性炭処理を行うことにより、本発明の目的を達成することができることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[8]を提供するものである。
[1] (A)シリカ鉱物含有岩石とアルカリ水溶液を混合して、pHが11.5以上のアルカリ性スラリーを調製し、上記シリカ鉱物含有岩石中のSi、Al、Feを液分中に溶解させた後、上記アルカリ性スラリーを固液分離して、Si、Al、Feを含む液分と、固形分を得るアルカリ溶解工程と、(B)工程(A)で得られた液分と酸を混合して、pHを7.0以上、10.3以下に調整し、液分中のSiを析出させた後、固液分離を行ない、高純度シリカとして回収しうるSiOを含む固形分と、液分を得るシリカ回収工程と、を含み、かつ、(C)工程(A)と工程(B)の間に設けられる工程であって、前工程で得られた液分に対してイオン交換処理及び活性炭処理を行ない、不純物を回収する不純物回収工程、を含むことを特徴とする高純度シリカの製造方法。
[2] 工程(C)において、上記イオン交換処理が、キレート樹脂またはイオン交換樹脂を用いて行なわれ、かつ、上記イオン交換処理で回収される不純物が、ホウ素、リン、アルミニウム、及び鉄からなる群より選ばれる一種以上であり、上記活性炭処理で回収される不純物が、有機物である、前記[1]に記載の高純度シリカの製造方法。
[3] さらに、(D)工程(B)で得られたSiOを含む固形分と酸溶液を混合して、pHが1.5以下の酸性スラリーを調製し、上記固形分中に残存する不純物を溶解させた後、上記酸性スラリーを固液分離して、SiOを含む固形分と、不純物を含む液分を得る酸洗浄工程、を含む、前記[1]又は[2]に記載の高純度シリカの製造方法。
[4] 工程(D)で得られたSiOを含む固形分に対し、さらに、工程(A)〜工程(D)と同じ一連の操作を1回以上繰り返して行なう、前記[3]に記載の高純度シリカの製造方法。
[5] さらに、(B1)工程(A)と工程(B)の間に、工程(A)で得られた液分と酸を混合して、pHを10.3を超え、11.5未満に調整し、液分中の不純物を析出させた後、固液分離を行ない、Siを含む液分と、固形分を得る不純物回収工程、を含む、前記[1]〜[4]のいずれかに記載の高純度シリカの製造方法。
[6] さらに、(A1)工程(A)の前に、シリカ鉱物含有岩石を水洗して、粘土分及び有機物を除去する原料水洗工程、を含む、前記[1]〜[5]のいずれかに記載の高純度シリカの製造方法。
[7] さらに、(A2)工程(A)の前に、シリカ鉱物含有岩石を500〜1100℃で焼成して、有機物を除去する原料焼成工程、を含む、上記[1]〜[6]のいずれかに記載の高純度シリカの製造方法。
[8] さらに、(E)工程(D)で得られたSiOを含む固形分を、100〜1500℃で乾燥または焼成して、非晶質の高純度シリカ、またはクリストバライト化した高純度シリカを得る乾燥/焼成工程、を含む、上記[1]〜[7]のいずれかに記載の高純度シリカの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の高純度シリカの製造方法によると、シリカ鉱物含有岩石を原料として用い、特定のpH域におけるpH調整(具体的には、アルカリ溶解工程、シリカ回収工程)と、イオン交換処理及び活性炭処理を組み合わせるという、簡易でかつ低コストの操作によって、高い純度を有するシリカを得ることができる。
また、上述のとおり操作が簡易であり、処理効率が高いことなどに起因して、従来技術に比して低い製造コストで高純度シリカを得ることができる。
さらに、本発明の製造方法により得られる高純度シリカは、シリカの含有率が高く、また鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)、リン(P)、ニッケル(Ni)、炭素分(C)などの不純物の含有率が低いという特長がある。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の高純度シリカの製造方法の実施形態の一例を示すフロー図である。
【図2】高純度シリカの焼成による回折強度の変化を示すグラフである。
【図3】珪質頁岩についてのCu−Kα線による粉末X線の回折強度を示すグラフである。
【図4】珪質頁岩についてのオパールCTの半値幅を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の高純度シリカの製造方法を詳しく説明する。
[工程(A1);原料水洗工程]
工程(A1)は、シリカ鉱物含有岩石を水洗して、粘土分及び有機物を除去する工程である。水洗後のシリカ鉱物含有岩石は、通常、フィルタープレス等を用いて、さらに乾燥させる。
[工程(A2);原料焼成工程]
工程(A2)は、シリカ鉱物含有岩石を500〜1100℃で焼成して、有機物を除去する工程である。焼成温度は好ましくは600〜1100℃、より好ましくは800〜1100℃である。焼成時間は、特に限定されないが、例えば0.5〜10時間である。
シリカ鉱物含有岩石としては、珪藻土、珪質頁岩等が挙げられる。シリカ鉱物含有岩石は、アルカリに対する溶解性が高いことが望ましい。
ここで、珪藻土とは、珪藻が海底や湖底に沈積し、長い年月の間に体内の原形質その他の有機物が分解し、非晶質シリカを主体とした珪藻殻が集積して堆積したものである。
珪質頁岩とは、珪藻土などの泥質堆積岩中の珪質の生物遺骸等が、時間の経過や温度・圧力の変化などに伴い、続成作用により変質して、硬岩化したものである。なお、珪質堆積物中のシリカは、続成作用によって、非晶質シリカから、結晶化してクリストバライト、トリデイマイトへ、さらに石英へと変化する。
【0009】
珪藻土は、主に非晶質シリカであるオパールAからなる。珪質頁岩は、オパールAより結晶化が進んだオパールCTまたはオパールCを主に含む。オパールCTとは、クリストバライト構造とトリディマイト構造からなるシリカ鉱物である。オパールCとは、クリストバライト構造からなるシリカ鉱物である。このうち、本発明では、オパールCTを主とする珪質頁岩が好ましく用いられる。
さらに、Cu−Kα線による粉末X線回折において、石英の2θ=26.6degのピーク頂部の回折強度に対するオパールCTの2θ=21.5〜21.9degの回折強度は、石英を1とした場合の比率で0.2〜2.0の範囲が好ましく、0.4〜1.8の範囲がより好ましく、0.5〜1.5の範囲が更に好ましい。該値が0.2に満たない場合には、反応性に富むオパールCTの量が少ないため、シリカの収量が低下する。一方、該値が2.0を超える場合には、オパールCTの量が石英よりはるかに多くなり、このような珪質頁岩は資源的に少なく、経済性に劣る。
なお、石英に対するオパールCTの回折強度の比率は、以下の式で求める。
石英に対するオパールCTの回折強度の比率=(26.6degのピーク頂部の回折強度)/(21.5〜21.9degのピーク頂部の回折強度)
また、珪質頁岩のCu−Kα線による粉末X線回折において、オパールCTの2θ=21.5〜21.9degのピークの半値幅は0.5°以上が好ましく、0.75°以上がより好ましく、1.0°以上がさらに好ましい。該値が0.5°未満では、オパールCTの結晶の結合力が増大し、アルカリとの反応性が低下して、シリカの収量が減少する。ここで、半値幅とは、ピーク頂部の回折強度の1/2に位置する回折線の幅をいう。
本発明で用いる珪質頁岩は、シリカ含有率が70質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましい。このような珪質頁岩を用いることにより、より高純度のシリカを低コストで製造することができる。
シリカ鉱物含有岩石は、例えば、珪質頁岩等のシリカ含有鉱物を粉砕装置(例えば、ジョークラッシャー、トップグラインダーミル、クロスビーターミル、ボールミル等)で粉砕することによって得ることができる。
シリカ鉱物含有岩石の粉砕後の粒径は、アルカリとの反応性の観点から、好ましくは4mm以下、より好ましくは2mm以下である。なお、粒度とは、最大寸法(例えば、断面が楕円の場合、長径)をいう。
なお、工程(A1)及び工程(A2)は、不純物が多い場合に前処理工程として付加されるものであって、本発明において必須の構成ではない。
【0010】
[工程(A);アルカリ溶解工程]
工程(A)は、シリカ鉱物含有岩石とアルカリ水溶液を混合して、pHが11.5以上のアルカリ性スラリーを調製し、上記シリカ鉱物含有岩石中のSi、Al、Feを液分中に溶解させた後、上記アルカリ性スラリーを固液分離して、Si、Al、Feを含む液分と、固形分を得る工程である。
シリカ鉱物含有岩石とアルカリ水溶液を混合してなるアルカリ性スラリーのpHは、11.5以上、好ましくは12.5以上、より好ましくは13.0以上となるように調整される。該pHが11.5未満であると、シリカを十分に溶解させることができず、シリカが固形分中に残存してしまうため、得られるシリカの収量が減少する。
pHを上記数値範囲内に調整するためのアルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等が用いられる。
スラリーの固液比(溶液1リットル中のシリカ鉱物含有岩石の質量)は、好ましくは150〜350g/リットル、より好ましくは200〜300g/リットルである。該固液比が150g/リットル未満では、スラリーの固液分離に要する時間が増大するなど、処理効率が低下する。該固液比が350g/リットルを超えると、シリカ等を十分に溶出させることができないことがある。
スラリーは、通常、所定時間(例えば、30〜90分間)攪拌される。
攪拌後のスラリーは、フィルタープレス等の固液分離手段を用いて、固形分と液分に分離される。液分は、Si、Al、Feを含むものであり、後工程で処理される。
なお、本工程においてアルカリ性スラリーを得る際の液温は、35〜100℃に保持されることが好ましく、35〜80℃に保持されることが、エネルギーコストの観点から、より好ましい。液温を上記範囲内とすることにより、処理効率を高めることができる。
【0011】
[工程(B1);不純物回収工程]
本工程は、工程(A)で得られた液分と酸を混合して、pHを10.3を超え、11.5未満に調整し、液分中のSi以外の不純物(例えば、Al及びFe)を析出させた後、固液分離を行ない、Siを含む液分と、固形分を得る工程である。
なお、本工程で回収されずに液分中に残存する不純物は、工程(B)以降の工程で回収される。
本工程において、酸との混合後の液分のpHは、10.3を超え、11.5未満、好ましくは10.4以上、11.0以下、特に好ましくは10.5以上、10.8以下である。該pHが10.3以下であると、不純物(例えば、Al及びFe)と共にSiも析出してしまう。一方、該pHが11.5以上では、十分に析出せずに液分中に残存する不純物(例えば、Al及びFe)の量が多くなる。
pHを上記数値範囲内に調整するための酸としては、硫酸、塩酸、シュウ酸等が用いられる。
pH調整後、フィルタープレス等の固液分離手段を用いて、固形分と液分に分離する。
このうち、固形分(ケーキ)は、不純物(例えば、Al及びFe)を含むものである。
液分は、Siを含むものであり、次の工程(B)で処理される。
なお、本工程においてpH調整を行う際の液温は、35〜100℃に保持されることが好ましく、35〜85℃に保持されることが、エネルギーコストの観点から、より好ましい。液温を上記範囲内とすることにより、処理効率を高めることができる。
【0012】
[工程(B);シリカ回収工程]
工程(B)は、前工程で得られた液分と酸を混合して、pHを7.0以上、10.3以下に調整し、液分中のSiを析出させた後、固液分離を行ない、Si(具体的にはSiO)を含む固形分と、液分を得る工程である。
工程(B)において、液分のpHは、7.0以上、10.3以下、好ましくは9.0以上、10.3以下である。該pHが7.0未満では、シリカの収量は増大せずに、酸の使用量が多くなるため、薬剤コストの観点から好ましくない。一方、該pHが10.3を超えると、十分にシリカが析出せずに液分中に残存するため、得られるシリカの収量が減少する。
pHを上記数値範囲内に調整するための酸としては、硫酸、塩酸等が用いられる。
pH調整後、フィルタープレス等の固液分離手段を用いて、固形分と液分とに分離する。
固形分は、Si(具体的には、SiO)を含むものである。
なお、工程(B)においてpH調整を行う際の液温は、35〜100℃に保持されることが好ましく、35〜80℃に保持されることが、エネルギーコストの観点から、より好ましい。液温を上記範囲内とすることにより、良好な固液分離性を有する固形分が得られ、処理効率を高めることができる。
【0013】
[工程(C);不純物回収工程]
工程(C)は、工程(A)と工程(B)の間に設けられる工程であって、前工程で得られた液分に対してイオン交換処理及び活性炭処理を行ない、不純物を回収する工程である。
工程(C)で回収される不純物は、ホウ素(B)、リン(P)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、及び炭素(C)からなる群より選ばれる一種以上である。
イオン交換処理は、キレート樹脂、イオン交換樹脂等のイオン交換媒体を用いて行なうことができる。
イオン交換媒体の種類は、除去対象元素に対する選択性を考慮して、適宜定めればよい。例えば、ホウ素を除去する場合、グルカミン基を有するキレート樹脂や、N−メチルグルカミン基を有するイオン交換樹脂等を用いることができる。
イオン交換媒体の形態は、特に限定されるものではなく、ビーズ状、繊維状、クロス状等が挙げられる。イオン交換媒体への液分の通液方法もなんら限定されるものではなく、例えばカラムにキレート樹脂またはイオン交換樹脂を充填して連続的に通液する方法などを用いることができる。
イオン交換処理及び活性炭処理を行う際の液温は、処理に用いる材料の耐用温度以下であれば、特に限定されない。
【0014】
[工程(D);酸洗浄工程]
工程(B)で得られたシリカ(SiO)を含む固形分は、Al、Fe、B、P、Ni等の不純物が低減された高純度のシリカである。
この固形分に対して、適宜、以下の(D)酸洗浄工程、を行なうことができる。酸洗浄工程を行うことにより、より高純度のシリカを得ることができる。
工程(D)は、工程(B)で得られたSiOを含む固形分と酸溶液を混合して、pHが1.5以下の酸性スラリーを調製し、上記固形分中に残存する不純物を溶解させた後、上記酸性スラリーを固液分離して、SiOを含む固形分と、不純物を含む液分を得る工程である。
工程(D)における酸性スラリーのpHは、1.5以下、好ましくは1.2以下である。酸性スラリーのpHを上記範囲内に調整して酸洗浄を行うことにより、工程(B)で得られた固形分中にわずかに残存するアルミニウム分、鉄分等の不純物を溶解して液分中へ移行させることができ、固形分中のシリカ含有率を上昇させることができるため、さらに高純度のシリカを得ることができる。
pHを上記数値範囲内に調整するための酸としては、硫酸、塩酸等が用いられる。
pH調整後、フィルタープレス等の固液分離手段を用いて、固形分と液分に分離する。
なお、本工程においてpH調整を行う際の液温は、35〜100℃に保持されることが好ましく、35〜80℃に保持されることが、エネルギーコストの観点から、より好ましい。液温を上記範囲内とすることにより、処理効率を高めることができる。
【0015】
[工程(E);乾燥/焼成工程]
工程(E)は、工程(D)で得られたSiOを含む固形分を、100〜1500℃で乾燥または焼成して、非晶質の高純度シリカ、またはクリストバライト化した高純度シリカを得る工程である。非晶質の高純度シリカを得る場合には、100℃以上、1200℃未満で乾燥または焼成し、クリストバライト化した高純度シリカを得る場合には、1200℃以上、1500℃以下で焼成すれば良い。また、SiOを含む固形分中に、僅かに有機物が残存した場合でも、600℃以上で焼成することにより、有機物の残存量を低減させることができる。
100〜1500℃での乾燥または焼成の時間は、特に限定されないが、例えば1時間〜1日間である。
図2は、高純度シリカを400℃、1000℃、1100℃、1200℃、1300℃の各温度で5時間焼成した場合における、横軸を2θ、縦軸を回折強度としたグラフである。図2から、1200℃以上で焼成すると、クリストバライト化が生じることがわかる。
【0016】
[その他の工程]
工程(D)で得られたシリカ(SiO)を含む固形分に対して、工程(A)〜工程(D)と同じ一連の操作を1回以上(通常は1回)、繰り返し行うことができる。工程(A)〜工程(D)と同じ一連の操作を繰り返すことによって、シリカの純度をより高めることができる。
なお、工程(A)〜工程(D)と同じ一連の操作を繰り返し行う場合、(E)酸洗浄工程は、1回目の処理工程の終了時と2回目の処理工程の終了時の両方あるいはいずれか一方のみに行うことができる。
すなわち、次の(1)〜(3)のいずれのパターンでも行うことができる。
(1) 工程(A)→工程(C)→工程(B)→工程(D)→工程(E)→工程(A)→工程(C)→工程(B)→工程(D)→工程(E)
(2) 工程(A)→工程(C)→工程(B)→工程(D)→工程(A)→工程(C)→工程(B)→工程(D)→工程(E)
(3) 工程(A)→工程(C)→工程(B)→工程(D)→工程(E)→工程(A)→工程(C)→工程(B)→工程(D)
中でも、シリカの純度を高める観点から、上記(1)が好ましい。
【0017】
[高純度シリカの純度]
本発明で得られる高純度シリカは、シリカの含有率が高く、またアルミニウム、鉄、ホウ素、リン、ニッケル等の不純物の含有量が低いものである。
本発明の高純度シリカ中のSiOの含有率は、好ましくは99.0質量%以上である。また、本発明の高純度シリカ中のAl、Fe、B、P、及びNiの含有率は、各々、好ましくは3000ppm以下、500ppm以下、0.1ppm以下、0.4ppm以下、及び0.3ppm以下である。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
珪質頁岩(成分組成;SiO:80質量%、Al:10質量%、Fe:5質量%、B:1000ppm、P:330ppm、Ni:10ppm)を、ボールミルを用いて粉砕し、珪質頁岩粉末(最大粒径:0.5mm)を得た。
原料として使用した珪質頁岩について、Cu−Kα線による粉末X線の回折強度、オパールCTの半値幅を、粉末X線回折装置(株式会社リガク製、RINT2000)を用いて測定した。回折強度を図3に、半値幅を図4にそれぞれ示す。使用した珪質頁岩は、石英の2θ=26.6degのピーク頂部の回折強度に対するオパールCTの2θ=21.5〜21.9degのピーク頂部の回折強度の比率が、0.68であった。また、オパールCTの半値幅は、1.4°であった。
次いで、得られた珪質頁岩粉末250gと、2.5Nの水酸化ナトリウム水溶液1000gを混合して、60分間混合撹拌し、pHが13.5であるスラリーを得た。
このスラリーを減圧下でブフナー漏斗で固液分離し、液分700gを得た。
得られたシリカゾル溶液に対して、キレート樹脂(ピュロライト社製;PUROLITE S−108)を用いてホウ素の除去を行った。
次いで、キレート処理後のシリカゾル溶液に対して、活性炭(関東化学社製、商品名:活性炭素(粉末))を用いて、有機物の除去を行なった。
有機物の除去後の液中のホウ素の濃度をICP発光分析装置を用いて測定した。その結果を表1に示す。
次いで、得られた液分に対して98%硫酸を添加して、pHを10.5に調整した後、減圧下でブフナー漏斗で固液分離し、鉄、アルミニウム等を含む含水固形分10gと、Siを含む液分700gを得た。
次に、得られた液分に対して98%硫酸を添加して、pHを10.3に調整し、ゲルを析出させた。
得られた粗製シリカに対して、98%硫酸溶液を添加し、pHが0.5のスラリーとした。このスラリーを固液分離した後に、蒸留水を用いて水洗した。その後、105℃で1日乾燥させ、精製シリカ70gを得た。
なお、各反応中の液温は、70℃に保持した。
得られた精製シリカは、乾燥後に、SiO:99.9質量%、Al:800ppm、Fe:5ppm、B:0.05ppm未満、P:0.5ppm未満、Ni:0.2ppmの成分組成を有していた。
【0019】
[実施例2]
実施例1と同様にして得られた珪質頁岩の粉状物250gと、2.5N水酸化ナトリウム水溶液1000gを混合して、60分間混合撹拌し、pHが13.5であるスラリーを得た。
このスラリーを減圧下でブフナー漏斗で固液分離し、液分700gを得た。
次いで、得られた液分に対して98%硫酸を添加して、pHを10.5に調整した後、減圧下でブフナー漏斗で固液分離し、鉄、アルミニウム等を含む含水固形分10gと、Siを含む液分700gを得た。
得られたシリカゾル溶液に対して、キレート樹脂(ピュロライト社製 PUROLITE S−108)を用いてホウ素の除去を行った。
次いで、キレート処理後のシリカゾル溶液に対して、活性炭(関東化学社製、商品名:活性炭素(粉末))を用いて、有機物の除去を行なった。
有機物の除去後のシリカゾル液のホウ素の濃度をICP発光分析装置を用いて測定した。その結果を表1に示す。
なお、各反応中の液温は、70℃に保持した。
【0020】
[実施例3]
実施例2と同様にして得られた有機物の除去後のシリカゾル液に対して、98%硫酸を添加して、pHを10.3に調整し、ゲルを析出させた。
得られた粗製シリカに対して、98%硫酸溶液を添加し、pHが0.5のスラリーとした。このスラリーをブフナー漏斗で固液分離した後に、蒸留水を用いて水洗した。その後、105℃で1日乾燥させ、精製シリカ70gを得た。
なお、各反応中の液温は、70℃に保持した。
得られた精製シリカは、乾燥後に、SiO:99.9質量%、Al:800ppm、Fe:5ppm、B:0.5ppm未満、P:0.5ppm未満、Ni:0.2ppmの成分組成を有していた。この精製シリカ及び前記の粗製シリカ中のホウ素の濃度の測定を、ICP発光分析装置を用いて行った。結果を表2に示す。
【0021】
[比較例1]
キレート処理及び活性炭処理を行なわない以外は実施例3と同様にして作製した粗製シリカ及び精製シリカについて、実施例3と同様にして、ホウ素の濃度の測定を行った。結果を表2に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
表1及び表2から、本発明の製造方法(実施例1〜3)によると、シリカの非常に高い含有率、及び、不純物(特に、半導体デバイスに用いた場合に忌避成分となるホウ素)の非常に低い含有率が得られることがわかる。一方、比較例1では、実施例1〜3に比して、ホウ素が高濃度で含まれていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)シリカ鉱物含有岩石とアルカリ水溶液を混合して、pHが11.5以上のアルカリ性スラリーを調製し、上記シリカ鉱物含有岩石中のSi、Al、Feを液分中に溶解させた後、上記アルカリ性スラリーを固液分離して、Si、Al、Feを含む液分と、固形分を得るアルカリ溶解工程と、
(B)工程(A)で得られた液分と酸を混合して、pHを7.0以上、10.3以下に調整し、液分中のSiを析出させた後、固液分離を行ない、高純度シリカとして回収しうるSiOを含む固形分と、液分を得るシリカ回収工程と、を含み、かつ、
(C)工程(A)と工程(B)の間に設けられる工程であって、前工程で得られた液分に対してイオン交換処理及び活性炭処理を行ない、不純物を回収する不純物回収工程、を含むことを特徴とする高純度シリカの製造方法。
【請求項2】
工程(C)において、上記イオン交換処理が、キレート樹脂またはイオン交換樹脂を用いて行なわれ、かつ、上記イオン交換処理で回収される不純物が、ホウ素、リン、アルミニウム、及び鉄からなる群より選ばれる一種以上であり、上記活性炭処理で回収される不純物が、有機物である、請求項1に記載の高純度シリカの製造方法。
【請求項3】
さらに、(D)工程(B)で得られたSiOを含む固形分と酸溶液を混合して、pHが1.5以下の酸性スラリーを調製し、上記固形分中に残存する不純物を溶解させた後、上記酸性スラリーを固液分離して、SiOを含む固形分と、不純物を含む液分を得る酸洗浄工程、を含む請求項1又は2に記載の高純度シリカの製造方法。
【請求項4】
工程(D)で得られたSiOを含む固形分に対し、さらに、工程(A)〜工程(D)と同じ一連の操作を1回以上繰り返して行なう請求項3に記載の高純度シリカの製造方法。
【請求項5】
さらに、(B1)工程(A)と工程(B)の間に、工程(A)で得られた液分と酸を混合して、pHを10.3を超え、11.5未満に調整し、液分中の不純物を析出させた後、固液分離を行ない、Siを含む液分と、固形分を得る不純物回収工程、を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の高純度シリカの製造方法。
【請求項6】
さらに、(A1)工程(A)の前に、シリカ鉱物含有岩石を水洗して、粘土分及び有機物を除去する原料水洗工程、を含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の高純度シリカの製造方法。
【請求項7】
さらに、(A2)工程(A)の前に、シリカ鉱物含有岩石を500〜1100℃で焼成して、有機物を除去する原料焼成工程、を含む請求項1〜6のいずれか1項に記載の高純度シリカの製造方法。
【請求項8】
さらに、(E)工程(D)で得られたSiOを含む固形分を、100〜1500℃で乾燥または焼成して、非晶質の高純度シリカ、またはクリストバライト化した高純度シリカを得る乾燥/焼成工程、を含む請求項1〜7のいずれか1項に記載の高純度シリカの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−153044(P2011−153044A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−15810(P2010−15810)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(310010575)地方独立行政法人北海道立総合研究機構 (51)
【Fターム(参考)】