説明

高純度芳香族ポリカルボン酸の製造方法

【課題】粗芳香族ポリカルボン酸から、色相が良好で高純度な芳香族ポリカルボン酸を、製造コストが安価で、且つ簡便な構成で工業的に容易に製造する方法を提供する。
【解決手段】脂肪族アミンおよび/または脂環式アミンと、粗芳香族ポリカルボン酸および溶媒を、アミン塩の結晶が析出する条件下で混合することにより、芳香族ポリカルボン酸アミン塩を形成し、該結晶を水に溶解し、アミン塩を分解することにより芳香族ポリカルボン酸を析出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステルやポリアミド、液晶ポリマーの原料として有用な高純度芳香族ポリカルボン酸、特に精製が困難な高純度ナフタレンジカルボン酸や高純度ビフェニルジカルボン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリカルボン酸は、化成品中間体として商業的に重要な品目であり、特に繊維やボトル、フイルム用途に用いられるポリエステルやポリアミドの原料として幅広い需要を持つ。その中でも、2,6−ナフタレンジカルボン酸は、優れた物理的特性と機械的性質を有するポリエチレンナフタレート(PEN)や全芳香族系液晶ポリマーの原料として有用であり、近年急速に需要が拡大している。
【0003】
現在、工業的に幅広い需要を持つ芳香族ポリカルボン酸としてはテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸等が挙げられる。芳香族ポリカルボン酸の製造方法としては、キシレンやジアルキルナフタレン、ジアルキルビフェニル等のポリアルキル芳香族炭化水素を、酢酸溶媒中でCoやMn等の重金属と臭素化合物の存在下に、分子状酸素により高温、高圧で酸化する方法が知られている。この酸化反応により得られる芳香族ジカルボン酸には、酸化反応の中間生成物であるモノカルボン酸類やアルデヒド類、触媒由来の臭素付加物、構造不明の着色成分及び酸化触媒由来のCoやMn等の金属成分が不純物として含まれている。
【0004】
これらの不純物を含む芳香族ポリカルボン酸をアルコール類やアミン類と重合する原料として用いた場合、得られる樹脂は、耐熱性、機械的強度、寸法安定性等の物理的特性や機械的特性が低下するためポリエステルやポリアミドの原料として用いることができない。またジ置換芳香族炭化水素を分子状酸素により酸化して得られる粗芳香族ジカルボンは、一般に黄色または黒色に着色しており、ボトルやフィルム等、特に透明性の要求される用途にはそのまま用いることができない。このため高純度で、且つ色相の改善された芳香族ポリカルボン酸の工業的に有利な製造方法について、長期にわたって研究が続けられている。
【0005】
一般に、有機化合物の精製は、蒸留や晶析、吸着等の操作により、あるいはそれらの方法を組み合わせることにより行われる。しかしながら、芳香族ポリカルボン酸は、沸点よりも自己分解温度の方が低いため、蒸留による精製が不可能である。また芳香族ポリカルボン酸は、通常工業的によく用いられる溶媒に対して溶解度が低いため、晶析による容易な精製も困難である。特にナフタレンジカルボン酸やビフェニルジカルボン酸は、種々の溶媒に対して難溶性であり、工業的に有利な高純度ナフタレンジカルボン酸や高純度ビフェニルジカルボン酸の製造方法は未だ確立されていない。
【0006】
このように芳香族ポリカルボン酸をそのまま晶析により精製する方法は困難なため、芳香族ポリカルボン酸とアミン類を反応させてアミン塩を形成させることにより溶解度を向上させ、晶析や活性炭処理により精製した後に、アミン塩を分解して精製する方法が提案されている。特開昭50−135062号には粗ナフタレンジカルボン酸を脂肪族アミン水溶液に溶解し、冷却あるいは濃縮によりアミン塩を晶析する方法、特開平7−118200号には粗ナフタレンジカルボン酸をアミン類、アルコール類と水との混合溶媒で溶解し、冷却によりアミン塩を晶析する方法、特開平5−294891号には粗ビフェニルジカルボン酸を、アミン類とアルコール類との混合溶媒に溶解し、冷却によりアミン塩を晶析する方法、また米国特許5,565,609号には芳香族ジカルボン酸とアミン類との塩を水に溶解し、活性炭に吸着させて精製した後に水存在下で加熱することによりアミン塩を分解する方法、米国特許5,481,033号には、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジアミンとの塩を水性溶媒中に形成し、晶析により精製する方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭50−135062号公報
【特許文献2】特開平7−118200号公報
【特許文献3】特開平5−294891号公報
【特許文献4】米国特許5,565,609号明細書
【特許文献5】米国特許5,481,033号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上の方法において、晶析を行う場合には、溶解のための加熱と、結晶析出のための冷却操作が必要となるため操作が煩雑であり、且つユーティリティーコストが多大となる。また活性炭処理を行う場合には、主に脱色のために、大量の活性炭が必要となるという欠点がある。従って上記の如きアミン塩を経由した方法を用いて粗芳香族ジカルボン酸の精製を行う場合においても、精製操作の煩雑さや、製造コストの増大は避けられていない。本発明の目的は、粗芳香族ポリカルボン酸から、色相が良好で高純度な芳香族ポリカルボン酸を、製造コストが安価で、且つ簡便な構成で工業的に容易に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の如き課題を有する芳香族ポリカルボン酸の精製方法について鋭意検討を重ねた結果、溶媒存在下、粗芳香族ポリカルボン酸と脂肪族アミンや脂環式アミンとを、アミン塩の結晶が析出する条件下で混合することにより塩を形成させれば、精製された芳香族ポリカルボン酸アミン塩が結晶として析出することを見出し、本発明に到達した。即ち本発明は、脂肪族アミンおよび/または脂環式アミンと、粗芳香族ポリカルボン酸および溶媒を、アミン塩の結晶が析出する条件下で混合することにより、芳香族ポリカルボン酸アミン塩を形成することを特徴とする高純度芳香族ポリカルボン酸の製造方法である。
【0010】
従来の芳香族ポリカルボン酸アミン塩を経由する晶析による精製では、全体を加熱により溶解し、次いで冷却や濃縮することにより精製された芳香族ポリカルボン酸アミン塩の結晶を得ている。これに対して本発明者らは、粗芳香族ポリカルボン酸とアミン類とを、適切な溶媒中で、加熱することなく単に混合するのみで、粗芳香族ポリカルボン酸中に含まれる有機酸分子はすべて塩を形成し、その際当該溶媒に溶解度以上の芳香族ポリカルボン酸アミン塩は精製結晶として析出し、不純物のアミン塩は当該溶媒中に溶解することを見出したものである。従って本発明の方法では、従来の晶析のように溶解状態を経由させることなくアミン塩が精製されるので、高純度芳香族ポリカルボン酸を極めて簡便に得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、粗芳香族ポリカルボン酸とアミン類とを常温常圧で、溶媒中で混合する簡単な操作のみで、精製された芳香族ポリカルボン酸アミン塩を結晶として得ることができ、更に水に溶解し、該アミン塩を分解することにより、高純度で色相の良い芳香族ポリカルボン酸を得ることができる。本発明は、特に溶媒に難溶性である、ナフタレンジカルボン酸や、ビフェニルジカルボン酸に有利に適用される。この方法で高純度芳香族ポリカルボン酸の製造を実施することにより、以下の利点を有する。
・溶媒存在下で粗芳香族ポリカルボン酸とアミン類を攪拌混合するのみで精製された芳香族ポリカルボン酸アミン塩を得ることができる。工業的にも常温、常圧下で行うことができ、簡便な構成で、且つ操作も簡単である。
・塩形成を行う際、溶液状態を経由する必要がないため、回収率のコントロールが自由自在であり、必要であれば95%以上の高回収率も容易に達成できる。
・再結晶や活性炭処理を併用することより、更に精製することが可能である。
・塩形成により精製された芳香族ポリカルボン酸アミン塩を、水存在下で加熱分解することにより、色相や粒径が改善された高純度の芳香族ジカルボン酸を得ることができる。
・アミンや溶媒は全量回収することができ、廃棄物量が削減できる。
従って本発明により、色相が良好で高純度な芳香族ポリカルボン酸を、製造コストが安価で、且つ簡便な構成で製造することができる。本発明の方法は工業的にも極めて優れた方法であることから、本発明の工業的意義は非常に大きい。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明で精製に供される粗芳香族ポリカルボン酸は1個またはそれ以上の芳香環をもつポリカルボン酸であり、例えばベンゼン、ナフタレン、ビフェニル等の芳香族炭化水素に、2個以上のカルボキシル基が結合したものである。本発明の原料となる粗芳香族ポリカルボン酸の製造方法は特に限定されないが、例えばメチル基、エチル基、イソプロピル基等のアルキル基、あるいはホルミル基、アセチル基等、酸化することによりカルボキシル基を形成する置換基を2つ以上持つ前記芳香族炭化水素を酸化原料として、重金属及び臭素等を主とする酸化触媒存在下、分子状酸素により酸化することにより、粗芳香族ポリカルボン酸が得られる。
【0013】
本発明で好適に用いられるナフタレンジカルボン酸の酸化原料となるジ置換ナフタレンとしては、ジメチルナフタレン、ジエチルナフタレン、ジイソプロピルナフタレン、メチルナフトアルデヒド、イソプロピルナフトアルデヒド、ブチリルメチルナフタレン等があり、このうちポリエステルやウレタン、液晶ポリマー等の原料として、特に2,6−置換体、2,7−置換体あるいは1,5−置換体が有用である。特にジアルキルナフタレンをCoやMn等の重金属およびBrからなる酸化触媒存在下、分子状酸素により酸化することにより得られる粗ナフタレンジカルボン酸には、着色成分や酸化触媒金属の他に、酸化反応の中間生成物であるホルミルナフトエ酸、ナフタレン環の分解で生じるトリメリット酸、臭素が付加したナフタレンジカルボン酸ブロマイド、またナフタレントリカルボン酸等の有機不純物が含まれる。
【0014】
またビフェニルジカルボン酸の酸化原料となるジ置換ビフェニルとしては、ジメチルビフェニル、ジエチルビフェニル、ジイソプロピルビフェニル、メチルホルミルビフェニル、エチルホルミルビフェニル等があり、このうちポリエステルやポリアミド、液晶ポリマー等の原料として、特に4,4’−置換体が有用である。ジ置換ビフェニルを酸化触媒触媒下、分子状酸素により酸化することにより得られる粗ビフェニルジカルボン酸には、着色成分や酸化触媒金属の他に、酸化反応の中間生成物であるホルミルビフェニルカルボン酸や、アルキルビフェニルカルボン酸、原料由来のビフェニルモノカルボン酸等の有機不純物が通常含まれる。
【0015】
本発明における粗芳香族ポリカルボン酸の精製は、粗芳香族ポリカルボン酸とアミン類とを溶媒存在下で混合することにより塩を形成させる際に、芳香族ポリカルボン酸アミン塩の結晶を析出させる工程(以下、塩形成工程と称す)と、その析出した芳香族ジカルボン酸アミン塩を分解する工程(以下、塩分解工程と称す)の2工程に分けられる。
【0016】
本発明の塩形成工程で使用される脂肪族アミンおよび脂環式アミン(以下アミン類と称す)には、例えばメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、トリプロピルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、2−エチルエキシルアミン等の脂肪族アミンおよび、ピペリジン、N−メチルピペリジン、ピロリジン、エチレンイミン、ヘキサメチレンイミン等の脂環式アミンが挙げられる。これらのアミン類は単独で用いても、混合物で用いても良い。
【0017】
これらのアミン類の中でも芳香族ジカルボン酸とのアミン塩を分解する際に分解速度が大きく、アミンの回収が容易なトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリイソプロピルアミン等の第三級アミンが好ましく、取り扱いや入手のしやすさからトリエチルアミンまたはトリメチルアミンが更に好ましい。アミン類の使用量は、粗芳香族ジカルボン酸のカルボキシル基の当量あるいはそれ以上である。工業的に実施する経済的な使用量としては、該カルボキシル基に対し1.0〜1.2当量が適当である。
【0018】
粗芳香族ポリカルボン酸は、水、アルコール類、ピリジン類、アミド類、ジメチルスルホキシド等、芳香族ポリカルボン酸アミン塩に対して溶解能をもつ溶媒の存在下においてアミン類と反応することにより、速やかに芳香族ポリカルボン酸アミン塩を形成する。この際、芳香族ポリカルボン酸アミン塩のみが精製結晶として析出し、不純物のアミン塩は溶媒中に溶解させうることを本発明者らが見出したが、溶媒の種類・組成及び量を適切に選択することが必要である。
【0019】
粗芳香族ポリカルボン酸とアミン類との塩形成反応による精製は、水、アルコール類、ピリジン類、アミド類、ジメチルスルホキシド等、芳香族ポリカルボン酸アミン塩に対して溶解能をもつ溶媒で行うことにより可能となる。芳香族ポリカルボン酸アミン塩の水に対する溶解度は一般に高く、例えば、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジトリエチルアミン塩は、25℃においても[100g−アミン塩/100g−水]以上の溶解度をもつ。従って、水のみを溶媒として塩形成を行う場合には、多量のアミン塩が溶解するため、高い回収率を得るためには低温が必要になり、容易ではない。一方、アルコール類、ピリジン類、アミド類、ジメチルスルホキシド等の特定種類の有機溶媒に対するアミン塩の溶解度は一般に水に比べて低いため、それらの溶媒のみを用いて塩形成を行うことにより、工業的に実施可能な回収率で、精製された芳香族ポリカルボン酸アミン塩を得ることができる。またアセトンやアセトニトリル、テトラヒドロフラン等の特定種類の水溶性有機溶媒に対しては、芳香族ポリカルボン酸アミン塩はほとんど溶解性がない。従って、それらの溶媒のみを用いた場合には、アミン塩が全く形成されないため、勿論精製されず、アミン塩が形成される場合においても不純物を含めて析出するため、精製作用を受けることができない。
【0020】
塩形成工程で、水を含まない状態で用いることの可能な有機溶媒は、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、グリセリン等のアルコール類や、ピリジン、α−ピコリン、β−ピコリン、γ−ピコリン、2,4−ルチジン、2,6−ルチジン等のピリジン類、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルプロピオンアミド等のアミド類、その他にジメチルスルホキシド等である。上記に示した有機溶媒のうち、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合溶媒として用いてもよい。このうち、結晶の精製効果や回収率の点から、メタノールやエタノール、プロパノール、イソプロパノール、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール等の炭素数3以下のアルコール類や、α−ピコリン、β−ピコリン、γ−ピコリン等のピコリンとピリジン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類が好適に用いられる。
【0021】
これらのアルコール類、ピリジン類、アミド類、ジメチルスルホキシド等の有機溶媒を用いて精製する方法とは別に、水単独、あるいは水と水溶性有機溶媒からなる混合溶媒を塩形成工程の溶媒として用いることにより、比較的粒径の大きなザラメ状の芳香族ポリカルボン酸アミン塩の結晶が得られ、且つ高い精製効果が得られる。この方法により得られる結晶は、濾過性が優れ、且つリンスによる洗浄効果を受けやすく、結晶自体も高純度な芳香族ポリカルボン酸アミン塩であるため、精製効果が向上する。
【0022】
塩形成工程で水と組み合わせて用いられる水溶性有機溶媒としては、有機酸以外であれば特に制限されないが、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、グリセリン等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ホルムアミド、メチルホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、メチルアセトアミド、ジメチルアセトアミド、メチルプロピオンアミド等のアミド類、ピリジン、α−ピコリン、β−ピコリン、γ−ピコリン、2,4−ルチジン、2,6−ルチジン等のピリジン類、その他にアセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルスルホキシド等である。このうち結晶の精製効果や回収率の点から、アセトンやアセトニトリル、ピリジンおよびピコリン、またメタノールやエタノール、プロパノール、イソプロパノール、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール等の炭素数3以下のアルコール、及びジメチルアセトアミドやジメチルホルムアミドが好適に用いられ、更に好ましくは、アセトン、ピリジン及びピコリンが用いられる。
【0023】
塩形成による精製作用は、従来の有機化合物の通常の精製手段である蒸留や晶析、吸着とは異なる新規な精製現象である。蒸留、晶析、吸着作用では、いずれも系全体が一旦溶液状態を経由する必要がある。塩形成による精製現象は、一度も溶液状態を経由する事なく、常に原料の粗芳香族ポリカルボン酸あるいは塩形成により生成する芳香族ポリカルボン酸アミン塩の固体が存在するスラリー状態で行われる。得られる精製効果は、晶析による効果に類似しているが、常温、常圧下で攪拌混合させることのみで精製効果が得られるため、従来の晶析に比べて優位な点が数多い。
【0024】
塩形成による精製操作では、晶析とは異なり全体を溶解する必要がない。芳香族ポリカルボン酸アミン塩の溶解度は、芳香族ポリカルボン酸やアミンの種類、溶媒の種類や量比、水と水溶性有機溶媒からなる混合溶媒の場合は水の含有量、及び塩形成温度により異なる。塩形成工程における回収率は、原料と溶媒の仕込み量比と、操作温度での当該溶媒に対する芳香族ポリカルボン酸アミン塩の溶解度のみで決まるため、高い回収率が求められる場合においても使用可能な溶媒の種類が非常に多い。また、常温、常圧で単に攪拌する操作のみでも精製することが可能であり、簡単な装置で且つ、簡単な操作で精製できる。一方、晶析で高い回収率を得るためには、大きな溶解度の温度依存性を必要とするため使用可能な溶媒種が限定され、且つ溶解するための加熱と、晶析の為の冷却が必要となり、精製コストが高く、装置面、操作面ともに複雑である。
【0025】
塩形成工程で用いる溶媒の量は、粗芳香族ポリカルボン酸やアミンの種類、溶媒の種類等により変化するが、概ね粗芳香族ポリカルボン酸に対して1〜100重量倍、好ましくは3〜30重量倍の範囲である。溶媒の量が多すぎる場合は、回収率が低下する事となり、少なすぎる場合は精製効果が低下する。また水と水溶性有機溶媒との混合溶媒を用いる場合には、溶媒中の水の含有量は、1重量%〜80重量%の範囲、好ましくは5重量%から50重量%の範囲である。水の含有量が多すぎる場合には、回収率が低下し、少なすぎる場合には、前述の水を使用する場合に期待される精製効果が低下する。従って芳香族ポリカルボン酸に対する溶媒の使用量は、芳香族ポリカルボン酸アミン塩の回収率と精製度、また固液分離時の操作性や溶媒回収も含めた経済性等も勘案して、上記の範囲で任意に選択される。
【0026】
塩形成工程は、回分式でも連続式でも行うことができる。回分式で行う場合には、水あるいは有機溶媒、あるいは水と水溶性有機溶媒からなる混合溶媒に対し、攪拌下、粗芳香族ポリカルボン酸とアミン類をどのような順序で加えてもかまわない。未反応の粗芳香族ジカルボン酸とアミン類とが溶媒中で接することで、速やかに塩形成が進行する。連続式においても同様である。水と水溶性有機溶媒からなる混合溶媒を用いる場合、水が不足している条件下で塩形成を行う場合には、前述の理由で十分な精製効果が得られない。逆に、水の含水率が高い条件下でまず完全に塩形成を行った後、水溶性有機溶媒を添加することにより溶解してしている芳香族ポリカルボン酸アミン塩を析出させ、全体として高い回収率を得ることもできる。
【0027】
塩形成工程の温度と圧力は、溶媒の種類、組成、使用量および目的の回収率により決められる。塩形成工程は、粗芳香族ポリカルボン酸とアミンとの中和熱により若干温度が上昇するため、必要に応じて除熱を行う。また、全体を溶解する必要はないため、特別の場合以外は加熱や加圧等の操作を行う必要はない。塩形成を行う温度は、温度は通常0〜200℃の範囲で、好ましくは0〜70℃であり、工業的には容易に実施される10〜50℃で行うことがより好ましい。圧力は0〜10MPa・Gの範囲であり、好ましくは常圧もしくは1MPa・G以下である。
【0028】
塩形成工程で生成した芳香族ポリカルボン酸アミン塩を含むスラリーは、濾過や遠心分離、デカンテーション等の固液分離操作により、精製された芳香族ポリカルボン酸アミン塩の結晶と不純物の濃縮された母液とに分離する。次いでアミン塩に対する溶解能の低い溶媒で、好ましくは塩形成で用いた有機溶媒を用いてリンスあるいはリスラリー洗浄することにより、結晶に付着した母液を除去する。この際、不純物濃度の高い結晶の外側のみを溶解することにより、結晶純度を向上させることもできる。
【0029】
塩形成工程で得られる母液や結晶洗浄液には、塩形成で用いた溶媒の他に、未回収の芳香族ポリカルボン酸アミン塩や不純物が含まれている。未回収の芳香族ポリカルボン酸アミン塩の溶解量が大きい場合には、一部あるいは全量をアミン塩の溶解度の低い溶媒を添加する方法、あるいは塩形成温度より更に冷却する方法により溶解度を低下させ、析出した結晶を回収することにより、全体の回収率を向上させることができる。また母液あるいはリンス液に含まれるアミン類や有機溶媒は、一部あるいは全量を蒸留や液々分離等の操作により不純物と分離した後に、塩形成工程で循環再使用することもできる。
【0030】
上記の塩形成操作により、粗芳香族ポリカルボン酸に含まれる有機不純物は殆ど除去される。また粗芳香族ポリカルボン酸中の着色成分も十分除去されるため、色相が改善され、高純度の芳香族ポリカルボン酸アミン塩の結晶を得ることができる。
【0031】
色相成分や有機不純物を更に除去したい場合は、固体吸着剤による処理や再結晶等を行ってもよい。固体吸着剤には、活性炭、活性白土、けいそう土、ゼオライト等が用いられるが、脱色や有機不純物の除去効果が大きい活性炭が最も好ましい。粉末活性炭を用いる場合には、塩形成を行う際に同時に添加してもよく、塩形成により得られた芳香族ポリカルボン酸アミン塩を水等の溶媒に溶解した水溶液に作用させてもよい。工業的に大規模に処理する場合には、粒状活性炭を用いた流通式が有利である。塩形成で精製された芳香族ポリカルボン酸アミン塩を水に溶解し、濾過により不溶物を除去した後、粒状活性炭を充填した吸着塔に通液し、色相成分や有機不純物を、吸着除去することができる。吸着処理後、アミン類や、NaOH、KOH、HCl、HNO3等の酸アルカリ液を送液することにより、脱着及び再生を行い、繰り返し再使用する。
【0032】
また、塩形成工程で得た精製された芳香族ポリカルボン酸アミン塩を、再結晶することにより更に精製する事ができる。塩形成で得られたアミン塩を再結晶する方法は、溶媒存在下、加熱により溶解し、冷却や濃縮等の操作により結晶を析出させる方法でもよく、水等のアミン塩の溶解度の高い溶媒にアミン塩を溶解後、アセトンやアルコール等のアミン塩の溶解度の低い溶媒を加えることにより結晶を析出させてもよい。その際に用いる溶媒は、必ずしも塩形成工程で用いた溶媒を用いる必要はないが、工業的には塩形成の際に用いた有機溶媒や、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒を溶媒とする方が有利である。塩形成工程で得られた芳香族ポリカルボン酸アミン塩を、溶媒に溶解し結晶化を行うことにより、著しく色相が改善され、且つ有機不純物が少ない、非常に高度に精製された芳香族ポリカルボン酸アミン塩を得ることが可能となる。
【0033】
上記操作により得た精製された芳香族ポリカルボン酸アミン塩は、水に溶解して水溶液とし、濾過や、遠心分離、デカンテーション等の固液分離により、異物や不溶化した金属不純物等を除去する。芳香族ポリカルボン酸アミン塩の溶解した水溶液から目的の芳香族ポリカルボン酸を得る方法としては、芳香族ポリカルボン酸アミン塩の溶解している水溶液に、酢酸、塩酸等、目的の芳香族ポリカルボン酸よりも酸性度の高い酸成分を加えて芳香族ポリカルボン酸を析出させる方法、水溶液をそのまま加熱して水とアミンを完全に留出除去する方法、また水存在下で加熱することによりアミン塩を分解し、水溶液中に芳香族ポリカルボン酸を析出させる方法などがある。
【0034】
酸を添加することにより芳香族ポリカルボン酸を析出させる方法では、芳香族ポリカルボン酸アミン塩の溶解した水溶液に、酢酸やプロピオン酸等の有機酸や、硫酸や塩酸等の無機酸を添加することにより、芳香族ポリカルボン酸を析出させる。この方法では微細な結晶が析出し易いため、100℃以上、好ましくは150℃の高温下で析出させたり、長い滞留時間を取ることにより、粒径を改善する。析出した結晶は、濾過や遠心分離等の方法で固液分離することにより回収後、得られた結晶を水や使用した有機酸等で洗浄し、更に乾燥することにより、高純度の芳香族ポリカルボン酸が得られる。
【0035】
そのまま加熱して分解する方法では、芳香族ポリカルボン酸アミン塩の溶解した水溶液を攪拌下、加熱することによりアミン塩を分解し、水と同伴してアミンを完全に留去する事により、高純度芳香族ポリカルボン酸を得る。それに対し水存在下で加熱して分解する方法では、芳香族ポリカルボン酸アミン塩の溶解した水溶液を、水存在下で加熱する事によりアミン塩を分解し、水とアミンとを留出させることにより、水溶液中に芳香族ポリカルボン酸を析出させる。この方法では、塩形成工程で除去されなかった微量の有機不純物が、水溶液中にアミン塩のまま溶解残存することにより、更に精製効果を高めることができ、且つこの方法でアミン塩を分解することにより、流動性や濾過性の優れた粒径の大きな芳香族ポリカルボン酸を得ることができるという利点がある。
【0036】
塩の分解を水存在下で行うに際して、分解方法に制限はないが、例えば、塩の分解を行う反応釜に芳香族ポリカルボン酸アミン塩の水溶液を仕込み、アミン塩を分解温度以上に加熱することにより分解し、放出されたアミンを含む留出液を得る。この際、釜中に芳香族ポリカルボン酸が析出するが、同時に釜内に水を供給することにより、釜内に水を一定量以上存在させておくことが好ましい。アミン塩の分解率が一定以上、好ましくは50%以上、更に好ましくは90%以上進行したところで塩の分解を終了する。
【0037】
塩分解の際に用いる水の量は、芳香族ポリカルボン酸やアミン類の種類により異なるが、芳香族ポリカルボン酸アミン塩に対し、0.2〜20重量倍の範囲で、好ましくは0.5〜5重量倍の範囲で行う。また加熱温度は、低すぎるとアミン塩の分解速度が遅くなるため留出量が多くなり、高すぎるとアミンや芳香族ポリカルボン酸が変質したり、着色する場合があるので100〜250℃、好ましくは120〜210℃の範囲で行う。圧力は、その温度での内容物の組成に依存するが、通常−0.1〜5MPa・Gの範囲で、好ましくは0〜2MPa・Gの範囲で行われる。また窒素ガスのような不活性ガスを吹き込みながら、塩分解を行うことにより、供給熱量を少なくすることができる。
【0038】
上記の方法で、芳香族ポリカルボン酸のアミン塩が分解され、発生するアミン類は冷却して捕集することにより、全量回収できる。このアミン類は、必要に応じて精製し、塩形成工程で再使用する。アミン類が留出されると同時に、溶液中には遊離の芳香族ポリカルボン酸が析出する。析出した芳香族ポリカルボン酸は、濾過や遠心分離等の固液分離操作により回収する。また適宜水洗操作を行い、結晶に付着した不純物を除去する操作等を加える。固液分離後の母液や結晶洗浄液は塩形成工程に循環することにより濃縮された不純物を系外に除去することもできる。結晶は、乾燥することにより、高純度の芳香族ポリカルボン酸が得られる。
【0039】
このように水存在下でアミン塩を分解する方法を用いることにより、塩形成工程での除去効果の比較的低い芳香族トリカルボン酸類やBrが付加した芳香族カルボン酸等の有機不純物はほぼ完全に除去される。また色相も改善され、且つ粒径も改善された芳香族ポリカルボン酸を得ることができる。
【実施例】
【0040】
次に実施例及び比較例により本発明の方法を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の実施例及び比較例において、原料及び、芳香族ポリカルボン酸アミン塩、高純度芳香族ポリカルボン酸の結晶中の有機不純物はメチルエステル化後にガスクロマトグラフィーにより分析し、金属不純物成分は湿式分解処理後ICP発光分光分析法により分析した。また色相については、芳香族ポリカルボン酸のサンプル1gを1N水酸化ナトリウム水溶液10mlに溶解し、10mmの石英セルを用いた400nmの吸光度(以下、OD400と略記する)で評価した。アミン塩については、100℃で3hr真空乾燥する事により分解し、上記の方法により色相評価を行った。平均粒径はレーザー回折式粒度分布計で測定した。また回収率は、原料として仕込んだ粗芳香族ポリカルボン酸の量に対する結晶中に含まれる芳香族ポリカルボン酸の量の割合で示した。
【0041】
以下の各実施例、比較例および表中に記した略号は次の通りである。
NDCA ナフタレンジカルボン酸
NA ナフトエ酸
FNA ホルミルナフトエ酸
TMAC トリメリット酸
Br−NDCA ナフタレンジカルボン酸ブロマイド
NTCA ナフタレントリカルボン酸
L.E. 低沸物
H.E. 高沸物
TEA トリエチルアミン
TMA トリメチルアミン
DEA ジエチルアミン
EA エチルアミン
NDCA・TEA ナフタレンジカルボン酸トリエチルアミン塩
NDCA・TMA ナフタレンジカルボン酸トリメチルアミン塩
NDCA・DEA ナフタレンジカルボン酸ジエチルアミン塩
NDCA・EA ナフタレンジカルボン酸エチルアミン塩
BPDA ビフェニルジカルボン酸
BPDA IS ビフェニルジカルボン酸異性体
BPDA・TEA ビフェニルジカルボン酸トリエチルアミン塩
BPMA ビフェニルモノカルボン酸
TA テレフタル酸
【0042】
実施例1
2,6−ジメチルナフタレンを重金属及び臭素化合物を含む酸化触媒の存在下に酸化して得られた生成物を、濾過、洗浄、乾燥し、表1に示す原料の粗2,6−NDCAを得た。この粗NDCAはCo540ppm、Mn2500ppmを含んでいた。還流冷却器、攪拌装置、温度測定管付きの2Lのガラス製3口フラスコに、表1に示した原料の粗2,6−NDCA200gと、10%含水エタノール溶媒500gを仕込んだ。TEA200gを添加し(2,6−NDCAの酸量に対し、1.07当量)、25℃に保って30min攪拌混合し、塩形成操作を行った。精製された2,6−NDCA・TEA結晶を含むスラリーをG2ガラスフィルターで濾過した後、フィルター上の結晶をアセトン200gでリンスして334gの2,6−NDCA・TEA塩結晶を得た(回収率79.5%)。該結晶の組成と色相を表1に示す。
【0043】
実施例2
10%含水エタノール500gの代わりに20%含水アセトン水溶液1000gを用いた以外は、実施例1と同様な方法で塩形成操作、濾過及びリンスを行い、328gの2,6−NDCA・TEA塩結晶を得た(回収率78.0%)。該結晶の組成と色相を表1に示す。
【0044】
実施例3
10%含水エタノール500gの代わりに20%含水アセトニトリル水溶液1000gを用いた以外は、実施例1と同様な方法で塩形成操作、濾過及びリンスを行い、235gの2,6−NDCA・TEA塩結晶を得た(回収率55.9%)。該結晶の組成と色相を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
実施例4
10%含水エタノール500gの代わりに10%含水ピリジン水溶液1000gを用いた以外は実施例1と同じ方法で塩形成操作、濾過及びリンスを行い、372gの2,6−NDCA・TEA塩結晶を得た(回収率88.5%)。該結晶の組成と色相を表2に示す。
【0047】
実施例5
10%含水エタノール500gの代わりに10%含水テトラヒドロフラン1000gを用いた以外は実施例1と同じ方法で塩形成操作、濾過及びリンスを行い、382gの2,6−NDCA・TEA塩結晶を得た(回収率90.9%)。該結晶の組成と色相を表2に示す。
【0048】
実施例6
10%含水エタノール500gの代わりに10%含水ジメチルアセトアミド1000gを用いた以外は実施例1と同じ方法で塩形成操作、濾過及びリンスを行い、356gの2,6−NDCA・TEA塩結晶を得た(回収率84.7%)。結晶の組成と色相を表2に示す。
【0049】
実施例7
10%含水エタノール500gの代わりに20%イソプロパノール500gを用いた以外は実施例1と同じ方法で塩形成操作、濾過及びリンスを行い、355gの2,6−NDCA・TEA塩結晶を得た(回収率84.4%)。結晶の組成と色相を表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
実施例8
還流冷却器、攪拌装置、温度測定管付きの2Lのガラス製3口フラスコに、表1に原料で示した粗2,6−NDCA200gと、エタノール400gを仕込んだ。TEA200gを添加し(2,6−NDCAの酸量に対し、1.07当量)、25℃に保って30min攪拌混合する塩形成操作を行った。2,6−NDCA・TEA結晶を含むスラリーをG2ガラスフィルターで濾過した後、フィルター上の結晶をアセトン200gでリンスした。表3に示す組成と色相の302gの2,6−NDCA・TEA塩結晶が回収率71.8%で得られた。水を含む10wt%エタノール溶媒を塩形成で用いた場合と比較して、得られる結晶の有機物純度や色相がやや低下している。
【0052】
実施例9
エタノール400gを用いる代わりにα−ピコリン500gを用いて実施例8と同様に塩形成操作、濾過及びリンスを行い、340gの2,6−NDCA・TEA結晶を得た(回収率80.9%)。該結晶の組成と色相を表3に示す。
【0053】
実施例10
エタノール400gを用いる代わりにジメチルアセトアミド500gを用いて実施例8と同様に塩形成操作と、濾過及びリンスを行い、355gの2,6−NDCA・TEA結晶を得た(回収率84.4%)。該結晶の組成と色相を表3に示す。
【0054】
実施例11
エタノール400gを用いる代わりにジメチルスルホキシド400gを用いて実施例8と同様に塩形成操作と、濾過及びリンスを行い、328gの2,6−NDCA・TEA結晶を得た(回収率78.0%)。該結晶の組成と色相を表3に示す。
【0055】
実施例12
エタノール400gを用いる代わりに水200gを用い、氷冷下、0℃で塩形成操作、濾過及びリンスを行った以外は実施例8と同じ操作を行い、123gの2,6−NDCA・TEA結晶を得た(回収率29.3%)。該結晶の組成と色相を表3に示す。水のみで塩形成を行う場合には回収率が低下する。
【0056】
【表3】

【0057】
実施例13
還流冷却器、攪拌装置、温度測定管付きの2Lのガラス製3口フラスコに、表1に原料で示した粗2,6−NDCA200gとアセトン1122.8gを仕込んだ。30wt%TMA水溶液401gを添加し(2,6−NDCAの酸量に対し、1.1当量)、25℃に保って30min攪拌混合し、塩形成操作を行った。2,6−NDCA・TMA結晶を含むスラリーをG2ガラスフィルターで濾過した後、フィルター上の結晶をアセトン200gでリンスし228gの2,6−NDCA・TEA結晶を得た(回収率73.7%)。該結晶の組成と色相を表4に示す。
【0058】
実施例14
還流冷却器、攪拌装置、温度測定管付きの2Lのガラス製3口フラスコに、参考例と同じ方法で得られた表1に原料で示した粗2,6−NDCA200gと、20wt%含水アセトン溶媒1000gを仕込んだ。DEAg148.8gを添加し(2,6−NDCAの酸量に対し、1.1当量)、25℃で30min攪拌混合し、塩形成操作を行った。2,6−NDCA・DEA結晶を含むスラリーをG2ガラスフィルターで濾過した後、フィルター上の結晶をアセトン200gでリンスし、256gの2,6−NDCA・TEA結晶を得た(回収率76.3%)。該結晶の組成と色相を表4に示す。
【0059】
実施例15
還流冷却器、攪拌装置、温度測定管付きの2Lのガラス製3口フラスコに、表1に原料で示した粗2,6−NDCA200gとアセトン800gと水161gを仕込んだ。70wt%EA水溶液131.1gを添加し(2,6−NDCAの酸量に対し、1.1当量)、25℃に保って30min攪拌混合し、塩形成操作を行った。2,6−NDCA・EA結晶を含むスラリーをG2ガラスフィルターで濾過した後、フィルター上の結晶をアセトン200gでリンスし、222gの2,6−NDCA・TEA結晶を得た(回収率73.9%)。該結晶の組成と色相を表4に示す。
【0060】
比較例1
攪拌装置、温度測定管、加圧濾過装置、熱媒循環装置付きのSUS製2Lオートクレーブに、実施例1と同じ原料と仕込みで全量を仕込んだ。120℃まで加温して、その温度で30分攪拌し、内容物を完全に溶解した。その際の反応釜の内圧は、0.35MPaだった。ついで25℃まで3hrかけて降温し、30min攪拌した。25℃で加圧濾過を行い、得られた結晶をアセトン200gでリンスし、316gの2,6−NDCA・TEA結晶を得た(回収率75.2%)。該結晶の組成と色相を表4に示す。晶析により粗ナフタレンジカルボン酸は精製されるが、耐圧反応釜の使用が必須であり、且つ加熱溶解と冷却のためのエネルギーを必要とする。また操作が煩雑で、且つ時間がかかる。
【0061】
比較例2
還流冷却器、攪拌装置、温度測定管付きの2Lのガラス製3口フラスコに、表1に原料で示す組成で色相の粗2,6−NDCA200g、水400g、TEA200gを仕込んで攪拌し溶解した。粉末活性炭(和光純薬製)20gを加え、30min攪拌後、G2ガラスフィルターを用いて活性炭を濾過除去した。溶液をエバポレーターで蒸発乾固し、100℃で3hr真空乾燥した。得られた結晶の組成と色相を表4に示す。大量の活性炭の使用にも拘わらず、脱色効果が小さく、また、有機不純物の精製効果も十分ではない。
【0062】
【表4】

【0063】
実施例16
還流冷却器、攪拌装置、温度測定管付きの2Lのガラス製3口フラスコに、表5に示す組成で含水率がそれぞれ4%、10%、30%、60%の水とアセトンからなる混合溶媒と、表1に原料で示す粗2,6−NDCA200gを仕込み、更にTEA200gを添加後、30min攪拌混合する事により塩形成操作を行った。25℃で2,6−NDCA・TEA結晶を含むスラリーをG2ガラスフィルターで濾過した後、フィルター上の結晶を適量のアセトンでリンスした。表5に、仕込み組成、結晶量、回収率と、得られた精製2,6−NDCA・TEAの品質をまとめて示す。含水率が低すぎる場合には、2水和物の塩が形成しにくいため、色相、有機不純物ともに、精製度が低い。また含水率が高すぎる場合には、精製効果は高いが、回収率が低下する。
【0064】
【表5】

【0065】
実施例17
実施例2と同様な仕込みと方法で塩形成操作、濾過及びリンスを行い、精製2,6−NDCA・TEA結晶を得た。2,6−NDCA・TEA結晶200gを200gの水に溶解し、1μmのフィルターで精密濾過して異物と不溶金属を除去した。アミン塩の溶解した水溶液を、コンデンサー、攪拌装置、加圧濾過装置、アルミブロックヒーターを備えた1LのSUS製オートクレーブに仕込み、150℃に加熱して、攪拌下同温度に維持しながら、200g/hrの速度で水を送液し、送液量と同量の留出液を得る塩分解操作を3hr行った。ついで、100℃まで放冷後に加圧濾過し、得られた結晶を水200gで洗浄後、50℃で3hr減圧乾燥した。その結果、表6に示す組成と色相の、91.1gの2,6−NDCAを得た。粒径が大きく、色相、有機不純物ともに十分精製された高純度な2,6−NDCAを得た。
【0066】
実施例18
2,6−NDCA・TEA結晶200gの代わりに実施例13で得た精製された2,6−NDCA・TMA塩200gを用いた以外は、実施例17と同じ操作で、精密濾過と、塩分解及び洗浄操作を行った。その結果、表6に示す組成と色相の110.5gの高純度な2,6−NDCAを得た。
【0067】
実施例19
精製2,6−NDCA・TEA結晶200gの代わりに実施例14で得た精製された2,6−NDCA・DEA塩200gを用いた以外は、実施例17と同じ操作で、精密濾過と、塩分解及び洗浄操作を行った。その結果、表6に示す組成と色相の60.6gの高純度2,6−NDCAを得た。TEAやTMAの塩を用いた場合と比較して、アミン塩の分解速度が遅いため、収量が少ない。また、TEAやTMAを用いた場合と比較して得られる結晶の粒径がやや小さい。
【0068】
実施例20
精製2,6−NDCA・TEA結晶200gの代わりに実施例15で得た精製された2,6−NDCA・EA塩200gを用いた事以外は、実施例17と同じ操作で、精密濾過と、塩分解及び洗浄操作を行った。その結果、表6に示す組成と色相の50.9gの高純度2,6−NDCAを得た。TEAやTMAの塩を用いた場合と比較して、アミン塩の分解速度が遅いため、収量が少ない。またTEAやTMAを用いる場合と比較して得られる結晶の粒径がやや小さい。
【0069】
【表6】

【0070】
実施例21
還流冷却器、攪拌装置、温度測定管付きの2Lのガラス製3口フラスコに、表1に原料で示す粗2,6−NDCA200gと、アセトン160g,H2O120gを仕込み(溶媒含水率42.8%)、TEA200gを加え、25℃に保って30min攪拌混合し、塩形成を行った。次にアセトン644gを添加し、30min攪拌混合し、更に2,6−NDCA・TEA結晶を析出させた。25℃で2,6−NDCA・TEA結晶を含むスラリーをG2ガラスフィルターで濾過した後、フィルター上の結晶をアセトン300gでリンスした。表7に、2,6−NDCA・TEAで示す組成の412gの精製2,6−NDCA・TEA塩の結晶が、回収率98.0%で得られた。高含水率で塩を完全に形成させ、更にアセトンを加えて結晶を析出させる方法により、高い回収率においても色相の良い塩が得られる。精製された2,6−NDCA・TEA塩結晶200gを200gの水に溶解し、1μmのフィルターで濾過して異物及び不溶金属を除去した。アミン塩の溶解した濾液を、コンデンサー、攪拌装置、濾過装置、アルミブロックヒーターを備えた1LのSUS製オートクレーブに仕込み200℃に加熱して、攪拌下同温度に維持しながら、200g/hrの速度で水を送液し、送液量と同量の留出液を得る塩分解操作を3hr行った。次いで100℃まで放冷後に濾過し、結晶を水で洗浄後、減圧乾燥した。その結果、表7に示す組成と色相の、93.3gの高純度な2,6−NDCAを得た。
【0071】
【表7】

【0072】
実施例22
還流冷却器、攪拌装置、温度測定管付きの3Lのガラス製3口フラスコに、表1に原料で示す粗2,6−NDCA250gと、アセトン1800g、H2O200gを仕込み、TEA250gを加えて、30min攪拌混合し塩形成を行った。10℃まで冷却し、2,6−NDCA・TEA結晶を含むスラリーをG2ガラスフィルターで濾過した後、フィルター上の結晶をアセトン400gでリンスした。表8に1st 2,6−NDCA・TEAで示す色相で組成の408gの2,6−NDCA・TEA塩結晶が回収率96.1%で得られた。塩形成で得た2,6−NDCA・TEA塩結晶400gとアセトン800g、水200gを攪拌装置、温度測定管、加圧濾過装置、ジャケット付きのSUS製2Lオートクレーブに仕込んだ。温水を循環し90℃まで加温し、その温度で30分攪拌して内容物を完全に溶解した。その際の内圧は、0.25MPaであった。ついで、25℃まで3hrかけて降温した。25℃で加圧濾過を行い、得られた結晶をアセトン200gでリンスを行った。表8に示す2nd NDCA・TEAで示す組成と色相の312gの2,6−NDCA・TEAの結晶を回収率78.0%で得た。得られた2ndNDCA・TEA200gを原料として、実施例17と同様に、精密濾過後に、塩分解、濾過、リンス操作を行った。その結果、表8に2,6−NDCAで示す組成と色相の高純度の2,6−NDCAを得た。塩形成により得た2,6−NDCA・TEAを、更に再結晶を行った後、塩分解を行うことにより、非常に高純度の2,6−NDCAが得られた。
【0073】
【表8】

【0074】
実施例23
粉末活性炭(和光純薬製)2.0gを加えた以外は、実施例2と同様な仕込みで、同じ方法で塩形成操作、濾過及びリンスを行った。表9に2,6−NDCA・TEA塩で示す組成と色相の328gの2,6−NDCA・TEA塩を回収率78.0%で得た。精製2,6−NDCA・TEA塩を実施例17と同様な方法で、精密濾過操作の後、更に塩分解操作を行った。その結果、表9に2,6−NDCAで示す組成と色相の高純度の2,6−NDCAを得た。塩形成の際、粉末活性炭処理を併用することにより、非常に高純度の2,6−NDCAが得られる。
【0075】
【表9】

【0076】
実施例24
実施例2の10倍スケールで塩形成を行って得た精製2,6−NDCA・TEA2000gを、水2000gに溶解し、1μmのフィルターにより異物や不溶金属を除去した。粒状活性炭(クラレ製)5gをジャケット付き内径13mmのステンレス製反応管に充填し、80℃に加温した後、同温度に維持しながら2,6−NDCA・TEAの溶解した水溶液を、100g/hrの速度で送液した。全量を送液後、1部を減圧乾燥して分析し、表10に2,6−NDCA・TEAで示す組成と色相の水溶液を得た。2,6−NDCA・TEAアミン塩の水溶液400gを、実施例17と同様な方法で塩分解操作を行い、表10で2,6−NDCAで示す組成と色相の高純度な2,6−NDCAを得た。
【0077】
【表10】

【0078】
実施例25
4−エチル−4’−ホルミルビフェニルを重金属及び臭素化合物を含む酸化触媒の存在下に酸化して得られた生成物を濾過、洗浄、乾燥し、表11に原料で示す粗4,4’−BPDAを得た。還流冷却器、攪拌装置、温度測定管付きの2Lのガラス製3口フラスコに、表8に原料で示した粗4,4’−BPDA200gと、5wt%含水アセトン溶媒500gを仕込んだ。TEA220gを添加し(4,4’−BPDAの酸量に対し、1.1当量)、10℃に維持しながら30min攪拌混合し、塩形成操作を行った。4,4’−BPDA・TEA結晶を含むスラリーをG2ガラスフィルターで濾過した後、フィルター上の結晶をアセトン200gでリンスした。表11に示す色相と組成の298gの4,4’−BPDA・TEA塩結晶が回収率78.0%で得られた。
【0079】
実施例26
5wt%含水アセトン溶媒500gの代わりに5wt%含水ピリジン溶媒を用いた以外は、実施例25と同じ方法で塩形成操作と、濾過及びリンスを行った。表11に示す色相で組成の246gの4,4’−BPDA・TEA塩結晶が回収率64.4%で得られた。
【0080】
実施例27
5wt%含水アセトン溶媒500gの代わりにN,N−ジメチルアセトアミド500gを用いて実施例25と同じ方法で塩形成操作と、濾過及びリンスを行った。表11に示す色相で組成の321gの4,4’−BPDA・TEA塩結晶が回収率84.0%で得られた。
【0081】
【表11】

【0082】
実施例28
5wt%含水アセトン溶媒500gの代わりにα−ピコリン400gを用いた以外は、実施例25と同じ方法で塩形成操作、濾過及びリンスを行った。表12に示す色相で組成の245gの4,4’−BPDA・TEA塩結晶が回収率64.1%で得られた。
【0083】
実施例29
塩形成を行う際に、溶媒と同時に粉末活性炭2g(和光純薬製)を添加した以外は、実施例25と同じ方法で塩形成操作と、濾過及びリンスを行った。表12に示す色相で組成の302gの4,4’−BPDA・TEA塩結晶が回収率79.1%で得られた。
【0084】
実施例30
実施例25で得られた精製4,4’−BPDA・TEA結晶200gを200gの水に溶解し、1μmのフィルターで精密濾過して異物と不溶金属を除去した。アミン塩の溶解した水溶液を、コンデンサー、攪拌装置、加圧濾過装置、アルミブロックヒーターを備えた1LのSUS製オートクレーブに仕込み、150℃に加熱して、攪拌下同温度に維持しながら、200g/hrの速度で水を送液し、送液量と同量の留出液を得る塩分解操作を3hr行った。ついで、100℃まで放冷後に加圧濾過し、得られた結晶を水200gで洗浄後、50℃で3hr減圧乾燥した。その結果、表12に示す色相で組成の、100.3gの4,4’−BPDAを得た。粒径が大きく、色相、有機不純物ともに十分精製された高純度4,4’−BPDAが得られた。
【0085】
実施例31
実施例29で得られた精製4,4’−BPDA・TEA結晶200gを原料として、実施例30と同様に、精密濾過操作と、塩分解操作を行った。その結果、表12に示す組成で色相の、98.8gの4,4’−BPDAが得られた。活性炭処理を行うことにより、更に高純度の4,4’−BPDAが得られた。
【0086】
【表12】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族アミンおよび/または脂環式アミンと、粗芳香族ポリカルボン酸および溶媒を、アミン塩の結晶が析出する条件下で混合することにより、芳香族ポリカルボン酸アミン塩を形成することを特徴とする高純度芳香族ポリカルボン酸の製造方法。
【請求項2】
芳香族ポリカルボン酸アミン塩の結晶を水に溶解し、アミン塩を分解することにより芳香族ポリカルボン酸を得る請求項1に記載の高純度芳香族ポリカルボン酸の製造方法。
【請求項3】
水存在下で加熱することにより芳香族ポリカルボン酸アミン塩を分解する請求項2に記載の高純度芳香族ポリカルボン酸の製造方法。
【請求項4】
芳香族ポリカルボン酸が、ナフタレンジカルボン酸またはビフェニルジカルボン酸である請求項1に記載の高純度芳香族ポリカルボン酸の製造方法。
【請求項5】
脂肪族アミンが、第3級アミンである請求項1に記載の高純度芳香族ポリカルボン酸の製造方法。
【請求項6】
第3級アミンが、トリエチルアミンおよび/またはトリメチルアミンである請求項5に記載の高純度芳香族ポリカルボン酸の製造方法。
【請求項7】
芳香族ポリカルボン酸アミン塩を形成する際の溶媒が、水と水溶性有機溶媒からなる混合溶媒である請求項1に記載の高純度芳香族ポリカルボン酸の製造方法。
【請求項8】
水溶性有機溶媒が、アセトン、アセトニトリル、ピリジン類、炭素数3以下のアルコール、ジメチルアセトアミド及びジメチルホルムアミドから選ばれたものである請求項7に記載の高純度芳香族ポリカルボン酸の製造方法。
【請求項9】
水溶性有機溶媒が、アセトン、ピリジン及びピコリンから選ばれたものである請求項8に記載の高純度芳香族ポリカルボン酸の製造方法。
【請求項10】
混合溶媒中の水の含有率が1重量%から80重量%の範囲である請求項7に記載の高純度芳香族ポリカルボン酸の製造方法。
【請求項11】
芳香族ポリカルボン酸アミン塩を形成させる温度が0〜70℃の範囲である請求項1に記載の高純度芳香族ポリカルボン酸の製造方法。
【請求項12】
芳香族ポリカルボン酸アミン塩を形成させる際、同時に活性炭処理を行う請求項1に記載の高純度芳香族ポリカルボン酸の製造方法。
【請求項13】
形成した芳香族ポリカルボン酸アミン塩を溶媒に溶解し、結晶を析出させる請求項1に記載の高純度芳香族ポリカルボン酸の製造方法。
【請求項14】
形成した芳香族ポリカルボン酸アミン塩を水に溶解し、活性炭処理を行う請求項1に記載の高純度芳香族ポリカルボン酸の製造方法。

【公開番号】特開2011−116792(P2011−116792A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61300(P2011−61300)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【分割の表示】特願2000−154794(P2000−154794)の分割
【原出願日】平成12年5月25日(2000.5.25)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】