説明

高純度2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンおよびその製造方法

【課題】 高純度の新規な2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンの提供、およびそれを粉体として効率良く簡便に製造する方法を提供することである。
【解決手段】 水の存在下にアセトンとアニリン塩酸塩を縮合させた後、アルカリ処理して得られる反応液から、1)未反応のアセトン、抽出溶媒およびアニリンを主とする2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンよりも低沸点成分を留去する工程と、2)芳香族炭化水素系溶媒を添加して加熱溶解後、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンを冷却晶析させる工程からなる2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンの製造方法を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンを粉体として効率良く簡便に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンは、ポリウレタンの製造に使用されるイソシアネートの原料(例えば、特許文献1参照)として、またはポリアミドイミドなどの高分子材料(例えば、特許文献2参照)や電子材料(例えば、特許文献3参照)用途、さらにはエポキシ樹脂の硬化剤(例えば、特許文献4参照)として有用であることが知られているが、これまでに高純度品を簡便に効率よく製造する方法はなかった。2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンの公知の製造方法としては、例えば、オートクレーブ中でアニリンとアセトンとを、鉱酸存在下もしくはアニリン塩酸塩を用いて縮合させた後、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンを減圧蒸留により製造する方法が知られている(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】英国特許787592号
【特許文献2】特許第2994373号公報
【特許文献3】特許第3854452号公報
【特許文献4】特開昭60−155223号公報
【特許文献5】特開昭59−27855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンを製造する方法においては、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンを減圧蒸留する工程の条件が、183〜184℃/0.5ミリバールと工業的に実施するには非常に過酷であり、かつ融点が132℃であるため、蒸留中の閉塞またはこれを避けるための保温設備などが必要となることに加え、純度は97%程度と低いものしか得られないという問題がある。また、蒸留品は直ちに固化して塊状物となるため取り扱いにくく、粉体として取得するにはさらに晶析などの別の操作が必要となるため、収率低下の要因となり、経済性または作業性の観点から工業的に利用することが困難であった。従って、有用な2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンを高純度で、かつ粉体として効率良く簡便に製造する方法が求められていた。このような状況下、本発明の目的は、高純度の2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンを粉体として効率良く簡便に製造する方法を提供することである。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンの品質(純度、形状)、収率が改善でき、工業スケールでの実施を可能とする製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の事情に鑑み、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンを製造する方法について鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は[1]を提供するものである。
[1]純度99%以上の高純度2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン。
【0007】
また、本発明は、前記[1]に係わる好適な実施態様として、[2]を提供するものである。
[2]前記2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンが粉体である。
【0008】
また、本発明は2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンの製造方法として、[3]を提供するものである。
[3]水の存在下にアセトンとアニリン塩酸塩を縮合させた後、アルカリ処理して得られる反応液から、1)未反応のアセトン、抽出溶媒およびアニリンを主とする2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンよりも低沸点成分を留去する工程と、2)芳香族炭化水素系溶媒を添加して加熱溶解後、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンを冷却晶析させる工程からなることを特徴とする高純度2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンの製造方法。
【0009】
さらに、本発明は、前記[3]に係わる好適な実施態様として、下記の[4]〜[6]を提供するものである。
[4]留去する工程において、留去後の釜残混合物が100〜180℃の温度範囲で溶液状態であることを特徴とする2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンの製造方法。
[5]100〜180℃の温度範囲で溶液状態である留去後の釜残混合物に、芳香族炭化水素系溶媒を徐々に添加して、70〜150℃の均一溶液を調製した後、冷却晶析することを特徴とする2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンの製造方法。
[6]芳香族炭化水素系溶媒が、トルエン、キシレン、およびメシチレンから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンの製造方法。
【0010】
以下、本発明に関し詳細に説明する。
【0011】
本発明における高純度2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンとは、ガスクロマトグラフィー分析による2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンの面積%が99%以上のものである。但し、分析の際に使用する溶媒の面積は除く。
【0012】
本発明における粉体とは、粉状であればよく、粉末、粉末性結晶なども含む。但し、塊状物などはこの限りではない。
【0013】
前述のように、本発明の2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンの製造方法は、水の存在下にアセトンとアニリン塩酸塩を縮合させた後、アルカリ処理して得られる反応液から、1)未反応のアセトン、抽出溶媒およびアニリンを主とする2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンよりも低沸点成分を留去する工程と、2)芳香族炭化水素系溶媒を添加して加熱溶解後、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンを冷却晶析させる工程からなることを特徴とするものである。
【0014】
以下に、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンを得るための反応方法、反応条件、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンよりも低沸点成分を留去する工程、芳香族炭化水素系溶媒を添加して加熱溶解後に、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンを冷却晶析させる工程について順次説明する。
【0015】
本発明の2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンを得るための反応方法としては、耐圧容器中、混合攪拌しながらアセトンとアニリン塩酸塩を原料に縮合反応させればよく、特に水溶媒存在下で加熱反応させることが収率および副生物の低減の観点から好ましい。アニリン塩酸塩は、反応前にアニリンと塩酸水溶液から調製したものを使用してもよい。仕込みの順序は特に限定されないが、好ましくはアニリン塩酸塩の水溶液にアセトンを添加する方法である。また、昇温前に一括で原料を添加しても、所定反応温度でアセトンを加圧滴下してもよい。
【0016】
本発明の2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンを得るための反応条件について説明する。縮合段階におけるアニリン塩酸塩対アセトンのモル比は、2:1〜13:1であり、アニリン塩酸塩対アセトンのモル比が大きいほど、副生物の生成量は低減し、小さいほど増加する傾向がある。より好ましくは2.5:1〜9:1である。アニリンと塩酸からアニリン塩酸塩を調製する際のアニリン対塩酸のモル比は、2:1〜1:1が好ましい。添加する水溶媒量に関しては、水対アニリン塩酸塩のモル比が1:1〜15:1であり、好ましくは2:1〜5:1である。
【0017】
反応は耐圧容器中で攪拌下に行われる。耐圧容器の材質は、アニリン塩酸塩に対して耐食性を示すものであれば特に限定されないが、ほうろう内張り、ガラスライニング、テフロン(登録商標)コーティングまたはテフロン(登録商標)内筒、耐圧ガラス容器などが挙げられる。反応温度は130〜200℃の範囲であり、より好ましくは140〜180℃である。縮合反応の際の圧力は、系の固有圧力でよく、一般には1〜20kgf/cmである。反応時間は一般に6〜24時間である。本反応で得られる2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンは、塩酸塩として存在しているため水溶液となる。これを苛性水溶液にてpH8〜11のアルカリ性にすることで、フリーの2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンとなる。この際、抽出溶媒を使用することが回収率(効率)の観点から好ましい。一般に、反応成分に対し不活性で抽出効率が高く、留去容易なものがよく、例えばトルエン、キシレン、酢酸エチルなどを例示することができる。
【0018】
本発明の2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンよりも低沸点成分を留去する工程は、未反応のアセトン、抽出溶媒、アニリン、その他2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンよりも低沸点成分を減圧下に留去するものであり、一般的な蒸留設備を使用することができる。次工程の晶析回収率向上の観点から、アニリンの残存率は極力低い方が好ましく、20%以下である。より好ましくは5%以下である。一方、沸点がアニリンよりも高いものは必ずしも完全に留去する必要はない。蒸留釜の温度は30〜180℃の範囲であるが、留去する上記成分に応じて徐々に昇温することが好ましく、液状成分の留去に伴い系が固化しない温度範囲で行なうことがより好ましい。従って、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン単品の融点が約130℃であるため、最終的な釜残混合物の温度としては100〜180℃の範囲であることが好ましい。減圧度は760〜0.1Torrの範囲で留出速度に応じて操作されるが、好ましくは50〜2Torrである。
【0019】
本発明の2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンを晶析させる工程としては、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンよりも低沸点成分を留去した釜残混合物に、芳香族炭化水素系溶媒を添加して加熱溶解後、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンを冷却晶析させる工程からなることを特徴とするものである。芳香族炭化水素系溶媒の添加のタイミングは、低沸点成分留去後に行う。但し、留去後の釜残混合物の温度が100〜180℃の範囲であるため、使用する炭化水素系溶媒の沸点付近まで温度を下げ、少しずつ添加することが好ましい。
【0020】
炭化水素系溶媒の具体例としては、特に限定されないが、ベンゼン、トルエン、オルト−キシレン、メタ−キシレン、パラ−キシレン、キシレン(オルト、メタ、パラ混合物)、メシチレンなどが挙げられる。経済性、および晶析後の2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンの乾燥の容易さから、より好ましくはトルエンである。
【0021】
本発明における炭化水素系溶媒の添加量としては、留去後の釜残混合物中の2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンの含有量に対して1〜10重量倍である。回収率および得られる純度の観点から、より好ましくは2〜5重量倍である。
【0022】
炭化水素系溶媒の添加後、必要であれば加熱しながら、70〜150℃の範囲で完全溶解させ、その後、0〜30℃の範囲まで冷却し晶析させる。冷却速度は特に限定されないが、ゆっくり晶析させる方がより好ましい。析出した粉体は、一般的なろ過操作により分離され、減圧乾燥により得ることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明による2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンは、純度99%以上と高純度であり、粉体として効率良く簡便に製造することができるため、工業的に極めて有用である。
【実施例】
【0024】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、本実施例で用いた分析機器を以下に示す。
【0025】
[ガスクロマトグラフィー分析]
ガスクロマトグラフィー分析装置:島津製作所製 GC−2014
合成例1
<2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンの合成>
1Lオートクレーブ中に、アニリン塩酸塩500g、水199g、アセトン80gを加えた後、攪拌下、160℃に昇温して18時間反応させた。放冷後、3Lの分液ロートに移液し、酢酸エチル1600g、水200gを加えて希釈した。次に、48重量%水酸化ナトリウム水溶液356gを加えアルカリ処理し、分液して得られた有機層を水745gで洗浄した。この有機層をノルマル−ヘキサデカンを内部標準とするガスクロマトグラフィー分析により定量した結果、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンが249g(収率80%−アセトン仕込みモル基準)生成していた。
【0026】
実施例1
合成例1で得られた2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンを含む有機層の1/3量を使用して精製を行った。未反応のアセトン、抽出溶媒の酢酸エチルおよびアニリンを、釜温度が室温〜130℃の範囲で、かつ30〜2Torrの減圧下で留去した後、さらに温度を150℃まで上げて、5〜2Torrで2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンよりも低沸点成分を留去した。その後、110℃まで温度を下げ、窒素で減圧を解除した。釜残をガスクロマトグラフィー分析により分析した結果、アニリンは検出限界以下であった。次に、トルエンを2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンの仕込み純分に対して3重量倍添加し、加熱して90℃の均一溶液を調製した。その後、温度を20〜30℃までゆっくり下げて、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンを晶析させた。得られた晶析体は減圧ろ過により取得でき、60℃で真空乾燥して目的の2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンを純度99.5%の白色〜微黄色の粉体として76g得た(精製収率92%、単離収率74%)。
【0027】
比較例1
合成例1で得られた2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンを含む有機層の1/3量を使用して精製を行った。まずエバポレーターにより未反応のアセトンおよび抽出溶媒の酢酸エチルを留去し、アニリンと2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンを含む溶液を得た。次に、トルエンを2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンの仕込み純分に対して3重量倍添加し、加熱して90℃の均一溶液を調製した。その後、温度を20〜30℃までゆっくり下げて2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンを晶析させた。得られた晶析体は減圧ろ過により取得でき、60℃で真空乾燥して目的の2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンを純度98.1%の黄色粉体として38g得た(精製収率39%、単離収率27%)。
【0028】
比較例2
合成例1で得られた2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンを含む有機層の1/3量を使用して精製を行った。未反応のアセトン、抽出溶媒の酢酸エチルおよびアニリンを、釜温度が室温〜130℃の範囲で、かつ30〜2Torrの減圧下で留去した後、さらに温度を200〜250℃まで上げ、3.5〜0.5Torrで2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンを留去した(トップ温度185〜195℃)。その際、蒸留塔および留出部をリボンヒーターで150℃以上に保温しながら行った。留出した2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンは130℃以下に冷えると直ぐに固化し、淡黄色の塊状物となった。得られた塊状物の純度は85.8%であった(蒸留収率70%、単離収率56%)。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンは、高純度であるため、ポリウレタン製造に使用されるイソシアネート原料や電子材料の用途に広範に利用できる。また、本発明の2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンの製造方法により、効率的に高純度な2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンを製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
純度99%以上の高純度2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン。
【請求項2】
粉体であることを特徴とする請求項1に記載の2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン。
【請求項3】
水の存在下にアセトンとアニリン塩酸塩を縮合させた後、アルカリ処理して得られる反応液から、1)未反応のアセトン、抽出溶媒およびアニリンを主とする2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンよりも低沸点成分を留去する工程と、2)芳香族炭化水素系溶媒を添加して加熱溶解後、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンを冷却晶析させる工程からなることを特徴とする請求項1または2に記載の高純度2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンの製造方法。
【請求項4】
留去する工程において、留去後の釜残混合物が100〜180℃の温度範囲で溶液状態であることを特徴とする請求項3に記載の2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンの製造方法。
【請求項5】
100〜180℃の温度範囲で溶液状態である留去後の釜残混合物に、芳香族炭化水素系溶媒を徐々に添加して、70〜150℃の均一溶液を調製した後、冷却晶析することを特徴とする請求項4に記載の2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンの製造方法。
【請求項6】
芳香族炭化水素系溶媒が、トルエン、キシレン、およびメシチレンから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載の2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンの製造方法。

【公開番号】特開2012−140345(P2012−140345A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292586(P2010−292586)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】